運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1954-12-18 第21回国会 参議院 外務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年十二月十八日(土曜日)    午前十時二十八分開会   —————————————   委員の異動 十二月十七日委員大屋晋三君辞任につ き、その補欠として川村松助君を議長 において指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     石黒 忠篤君    理事            小滝  彬君            羽生 三七君            曾祢  益君    委員            大谷 贇雄君            岡田 信次君            川村 松助君            佐藤 尚武君            高橋 道男君            岡田 宗司君            佐多 忠隆君            天田 勝正君            杉原 荒太君            大山 郁夫君   国務大臣    外 務 大 臣 重光  葵君    大 蔵 大 臣 一萬田尚登君   政府委員    外務政務次官  床次 徳二君    外務省条約局長 下田 武三君   事務局側    常任委員会専門    員       神田襄太郎君   説明員    外務省アジア局    長       中川  融君    外務省経済局長 朝海浩一郎君    大蔵省主計局次    長       正示啓次郎君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○日本国ビルマ連邦との間の平和条  約の批准について承認を求めるの件  (内閣衆議院送付) ○日本国ビルマ連邦との間の賠償及  び経済協力に関する協定締結につ  いて承認を求めるの件(内閣提出、  衆議院送付)   —————————————
  2. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) それでは只今から外務委員会を開会いたします。  日本国ビルマ連邦との間の平和条約批准について承認を求めるの件、日本国ビルマ連邦との間の賠償及び経済協力に関する協定締結について承認を求めるの件、以上を一括して議題に供します。昨日に引続いて質疑を続行いたしたいと存じます。
  3. 小滝彬

    小滝彬君 今度外交界の長老であつて多年の外交に関する経験、優れた識見を特たれた重光先輩外務大臣になられたということは、これは民主党内閣の大きなヒツト、或いは唯一のヒツトであるかとも存じまして、非常に欣快至極に思うものであります。私後輩として十分新大臣の力量を期待しているわけでございますから、是非その期待に副うように御活躍あらんことをお祈りするわけであります。で、今度はビルマとの条約を早く上げたいというお考えようでありますし、我々も全幅的に賛成でありますから、長い質問などはいたしません。殊に来春早々大臣経験をつぶさにお述べになるであろうと思いますから、これまで断片的に発表せられたものをとらえてとやかく申上げるようなことはいたさないつもりであります。特に賠償についての点でもお伺いしたいと思いますが、それに先立ちまして昨日我が党の大谷君も指摘ておりましたように、このラジオ放送における鳩山さんの中国に関する見解だけにとどまらず、今度の内閣が成立しまして以来、総理或いは大蔵大臣或は経審長官対外関係のことをいろいろ述べております。或いは新聞で誤つて伝えられた点もあるかも知れませんが、非常に掛声が簡単で大きく響く、それに対してだんだんあと経験ある外務大臣説明されますというと、その内容は、詳細に説明が加えられますというと、結局これまでの内閣がやつていたところと殆んど変りがない、表現が少し違つているに過ぎないということがわかるのであります。勿論今度の内閣選挙管理内閣という気持で、そうやるのじやないのだから、選挙対策を第一に考えるという考えでこういうことがしやべられるとすれば、或いは一つ考え方でありましよう、対内的には非常にうまい手かも知れませんが併し外交政策選挙対策のために利用されるということになりますと、私から重光大臣に申上げますことは、釈迦に説法でありますけれども対外的には非常に面白くない影響を及ぼしはしないか。鳩山首相は、今まで改進党もそうでありましたが、吉田の外交秘密外交であるというようなことを言つておられたのだが、どうもその場あたりのいろいろ思い付を言うのが公開外交だということに誤解されていやしないかという点さえ疑わさるを得ないのであります。で、幸いにして大臣は副総理の地位にいらつしやることでありますから、この思想統一と申しますか、多元的な外交に見えるのを、何とかして統一してもらいたい。それには、昨日も鳩山総理言つたのは雑談的な意味つたというような言葉もお使いになつたと思いますが、速記録を見ればわかりますが、併し一国の総理が言われることでありますし、何か一つ大臣書き物なんかも非常にお早くてお上手なんでありますから、もう少し大臣が指導されまして、思想統一でもされて書き物でも鳩山さんに渡しておくというような措置でもとられましたならば……、今後この通りに進んで行つたならばどんな発言が行われるかわからない、それは国歌のために憂うべきことであると考えますので、もう少し具体的に、昨日も閣議で自分も話したとおつしやつたのでありますが、この思想統一と申しますか、選挙対策的な、非常に抽象的な、中共貿易を大いにやるのだと、あとで聞いてみると自由国家群との協力を継続して行くのだと言われるのだが、もう少し具体的に大臣考えておられる閣内における対外問題に関する発言についての取締と言えば誤解があるかも知れませんが、これを統一するような施作をざつくばらんにお話を願いたいと思います。
  4. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私に対する劈頭の御親切なお言事に対しては厚く感謝の意を表します。誠に有難うございます。併し私はもう大分外務省の実務には長く離れておつたので、甚だ不案内なことばかりでございまして、のみならずその上に非常に私の不敏な点がありますので、どうか前回にも申上げました通りに、この委員会皆さんの御意見を伺い、すべて大きく日本国家的に考えるところが対外にすべて反映するわけでありますから、而も又私の答弁もすべて世界に向つてつておるわけでありますから、どうか一つ私の不敏を補う意味においてもよろしくお願いいたしたいと考えます。その意味におきましても今お話のありました内閣外交問題に対する言い方を一つ統一しなければならんじやないかということはお話通りでございます。これは私も非常にその点を心配をいたして今日までいろいろと手段をとつておるわけでございます。併し思想上においては完全に統一しておるとこう私は申上げ得ると思います。但しこれを表示する方法において今御指摘のような点が私はなかつたとは申上げません。そこでお話のような方向に向かつて一層努力をいたしたいと考えております。そうして昨日もそういう問題について特に総理とはよく相談をしたわけでございまして、今後もその方針で参ります。
  5. 小滝彬

    小滝彬君 どういう方法でそういうことのないようにするかという具体的なお話を伺うことができなかつたことは甚だ遺憾でありまするけれども、これは私以上に大臣がよく御承知のことでありまするから、この点を更に突つ込んでお尋ねしようとはいたしません、是非そうした点について努力をお願いしてやまないのであります。ただ併し大臣のおつしやることでも、昨日の質疑応答を通じて了解いたしました私の気特から申しますならば、例えばソ連との問題についても結局日本が承諾し得る条件なら同調するし、而もそれじやモロトフ声明があつたからそれに対してどうしようかということになるというと、いま暫く警戒的に出なければならないというようなお話でありまするから、これも先ほど申しましたように、結局自由党内閣でもやつていた点を、多少表現を変えられて、先ほどおつしやいますように表示の問題だとおつしやいますが、まあ表示の点が多少変つたに過ぎないのであつて重光大臣外交継続性ということもよくおつしやいますが、結局実質的には自由党内閣と煎じつめれば、よくさぐつてみるというと、昨日の質疑でもわかつたように、今までの内閣方針と同じことをおやりになる御意向と私は承知いたしまするが、この私の考え方と申しまするか、了解して差支えないものかどうか一つもう一度大臣にお尋ねいたします。
  6. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 前の内閣と同じことをやるかと、こういう御質疑でありますが、前の内閣とは違うのでる。併しだ、私はですな、たとえ党派違つた内閣ができても、日本対外政策外交というものは、これは外部から見て急に動揺がある、変りがあるということになつたら、これは大変だと私は思つております。外交国家的のものであつて、これをその国家的見地においてどの党派も統一しなきやならんということは、こういうことは外交の通念であるし、それは又そうしなければならんと私は思つております。私ども在野時代において、前内閣やり方について批判をいたしました。それは事実であります。併しそれは批判すべき立場にあり、且つ又批判すべき材料があつたから批判しておるのであります。それは当然のことだと思います。そこで私どもになりましては、無論この我々の考え考え方によつて外交を改善し、且つ又必要な変更を加えて行きたい、こう思うことは当然のことであります。併し今私がこの席で前内閣のことに、これこれのなにがあるということを在野時代と同じような言葉で以て今批判することは、私は時期を得ていないとこう考えております。私は、今は、対外的には日本のはつきりした行く途を、党派の如何にかかわらず、私の考えでありますけれども、行くべき途をはつきりと説明をして、それは今後において継続性のあるようにして行くことがいいと考えておる。その見地から私の言うことが時としては前内閣のそのままを言つておるようなふうに響くことがあると思います。併し私ども気持は、これは私ども在野当時批判しておつた通り外交は飽くまでも自主的にやつて行く、そうして一般の了解を得つつ進んで行くようなやり方をしたいというふうに考えて進んでおるのであります。  それから又内容でありますが、これはまあ毎日動いておる、社会の情勢は動いておる、その動いておるのに従つてども考え方を出して行く、こう思つております。今御指摘ソヴイエト関係についてもこれは今動いておることは御承知通り、併し今それだからモロトフ発言に対してその真相その他を究明せずして、それならばいいことだからソ連との国交回復を今すぐやるのだということを、私はそういうふうに進むのだということを申上げるのはどうかと思います。併し大体のなにとして、どの国とも戦争状態などは早くこれは終結するという大体のことは、日本としてはどうしてもやらなければならんことだと私は思つている。ただそれをするのにもモロトフ発言によつてわかるように、ソヴイエト気持が一歩進んだということは、これは私はいいことだと考える。但し従来の関係は、これは非常に複雑でありますから、十分にその真相を極めて、それから又将来のことをも相当見極めをつけた上でなければ、実際の交渉に着手するというわけには私はいかんと思う。その点を申上げる。
  7. 小滝彬

    小滝彬君 大臣少し誤解されたかと思いますが、私モロトフ声明に対して、すぐどういうゼスチユアをなさるのがいいというのじやなしに、結局現実政治に携われば、外交に携わつてみれば、軽々に措置はとれない。それは我々も経験して来たところであり、私はそれに対して敬意を表するものでありまして、それを結論的に言えば、今までと同じような、少くとも政策面では同じような線が辿られるものであろうと私想像しておるのであります。まあこの委員におります曾祢君などとも議論したことがございますが、どうか須磨さんあたりの話を聞いても、いろいろおつしやいますけれども、おつしやる点は、成るほど岡崎外交取扱いぶりの下手な点があつたかも知れない。テクニツクの問題を言われるのであつて政策面においては少くとも保守政権としては同じような道を辿られるだろうということにおいて、私は大いに重光外交を支持したい気持でおるわけであります。勿論表現方法は、選挙関係でと言えば余りに失礼かも知れませんが、いろいろ違えておられるけれども、根本には余り違いがない。ただ例えばここに坐つております下田局長ども、知恵の限りをしぼつて鳩山首相の尻拭いをしたようでありますが、あれも対外的に見まするというと、果していい影響があつたかということを私は疑わざるを得ない。私の申上げるのはこういうような関係であります。であるから大体の筋というものは同じものだ、或いは今まで秘密外交とか、いろいろ取扱についておつしやいましたが、大体の線というものは同じ方向を辿られるものとして、その意味において私はむしろ意を強くしているということを申上げたかつたのであります。  ところで多数の意見を聞いてやりたい、超党派的にやりたいというような御発言も先ほどあつたかに思いますが、これは総理も前に言われた、在野中にもおつしやつてつたようでありますが、超党派的な外交取扱ということについて、これも対外関係があるから言えないと、或いは大臣おつしやるかもしれない、然りとすれば、今までの大臣言つたと同じような結果になるんで、大いに秘密外交は排除するとおつしやるんですから、対外関係もありましようが、一つできるだけざつくばらんに、或いは必要があるならばこれを秘密会にいたしてもよろしい、それを委員長に諮つてもよろしいかと思いまするが、この超党派的な、成るべく多数の意見を聞いてやろうという考えについて、如何なる程度の具体的な構想を持つていらつしやるか、在野中いろいろお考えなつたんだと思いますが、その点が私聞けたら幸いだと思います。私自身といたしましては、社会党左派のごときは無防備で、そうして第三勢力になるんだというようなことを言つておるが、そういう人と相談してうまく相談がつくかどうか、或いは社会党左派とは相談しないんだというようなお考えかも知れんが、その点について一つできるだけ具体的なお話を承われれば幸いだと存じます。
  8. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私は超党派という言葉を使つたかどうか知りませんけれども気持はそれなんです。併しその具体案をどうしてやるのかと、こう今お話がありましたが、私は特にどういうふうな具体案を持つておるということを申上げるところまで行つておりません。例えば従来あつた外交調査会のようなものを作つたらいいじやないかというような議論もあることでありましよう。併し私の今日の気持は、実は議会を通じてできるだけ一般に周知せしめる本法をとりたい、こう考えておるのであります。従いまして私はたびたび……たびたびと申しますのはなんですが、前回にもその気特のことを申上げたと思いますが、この委員会における御発言並びに私の御説明、こういうことは最もそういう気分によつてやらなければならんと思つております。それで外交問題について御意見をお持ちのかたがた、いろんな御意見があるわけですが、どうか十分に御発表を願つて、私ども啓発もして頂かなければならん。そしてそのなにを十分に伺つて、そうして進んで行くことがこれ又一つの大きな今の気持を進めるゆえんじやないか、こう考えておるのであります。これは参議院においてもこういう委員会があり、又衆議院においてもある。これは最も外交上有用な機関だと、私はこう考えております。
  9. 小滝彬

    小滝彬君 議会を通じて国民の意見を聞くというならば議会政治において当然内閣がやるべき措置であつて、何ら目新らしいものがあるというわけではないので、その点だけでしたら実は私自身としてはいささかこれまでの声明と比べると非常に懸隔があるという感じを持たざるを得ないのであります。が併し先ほど申しましたように早く質問を打切りたいのでありまするから、これ以上突込んだことを申しましてもお話し願えなければしようがないですから、賠償問題について一言承わりたいと存じます。  賠償解決して東南アジア諸国との国交を図るということは、内閣成立のときにも発表せられたように記憶いたしておりまするが、賠償は、勿論現実外交経験に長い大臣はまあ御承知通りであります、これについてもいろいろこれまでのやり方に御批判があつたと思います。そこで一体どういうようにしておやりになるのか。これも対外関係があると私は承知しながら質問いたしておきまするが、併しこれまでも少くとも積み重ね方式によつたほうがいい、或いはもつと関係各国とのラウンド・テーブル・コンフエレンス方式によつたほうがいい、或いは国家の負担は多くなるけれども最大限度まで出して、出せるものは吐き出して、そうして一日も早くやらなければならん。年限をどうしたらいいとかいろいろこの議会においても論ぜられたのでありまするから、この議会の声を聞くとおつしやる大臣には、大体の構想としてどうしたら片付くか、勿論人の問題もありましようし、取扱の細かな問題もありますが、大体の方針についてお考えになつている点を差支えない限りできるだけ具体的にお話し願えれば幸いと存じます。
  10. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 賠償問題について少しでも早く解決をして前進しなければならんという全体のお考えのようでありますが、只今それは私も全然同感であります。その方針で行かなければならんと思います。そうして着々実は今その準備を進めつつあります。併しそのことをどう進めつつあるかということを、その手のうちをここで示せと言われるのですか。そんなことはできるわけがないじやないですか。それでそういうことは私はここでできません。併しどうしたらよかろうかという何か御意見であるならばこれは喜んで伺います。併し私は今どうして進めて、どういう具合な内容で行くのだということをここで申すことは、これはその自由はないと私は考えます。
  11. 小滝彬

    小滝彬君 私は大体の方針としてこういう方回へ引つ張つて行くのだということのお考えを承わつておきたいのですが、それもできないということになりますればこれもやむを得ません。ただ、今具体的に申しましてビルマのほうへ稲垣使節も行つております。これは具体的な問題についての準備をせられる使節のように考えておりまするが、この稲垣使節永野代表というような方についても今までいろいろ考えられておつたようなふうですが、こういう所に行かれた方というものについては大体直ぐにはもう変更はないものと了解して差支えないものでございますか。
  12. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今前内閣のやつた仕事の中で、ビルマとの平和条約、これはできてしまつたことで、できてしまつたこの内容については私は今過去に遡つてこの席であれこれ申すことは一切やりません、併しとにかくこの賠償問題がまとまつた従つてビルマとの間に国交の開けるようになつたということは、私は前回も申した通りに前内閣の貴重なこれは遺産だと私は思います。直ぐにこれは国家的に利用しなければならん、一日も早く批准をして、先に進んで行く、それが賠償の問題を将来次々に解決して行く一つの助けになることは、これは争われないことであります。それをやつて頂きたい。ビルマ賠償問題に関係して前内閣から派遣されたミツシヨンをどうするか、それから又フイリツピンの賠償問題についてどういうことをするか、前内閣でこういう人をきめておるがこれはどうするかということは、今慎重に次のステツプを踏み出すために考究中であります。まだ決定いたしておりません。
  13. 小滝彬

    小滝彬君 私の持時間はもうなくなつたようでありますから、私まだいろいろ質問したい点もありますが、私の質問はこれで打切ります。
  14. 佐藤尚武

    佐藤尚武君 私は新大臣がこの参議院委員会に来られましたこの機会に、極めて概括的に賠償関係の問題について御意見を伺いたいと思うのでありますが、これは前内閣当時岡崎外務大臣が出席されたときにも申したことでありますが、どうも日本の今までの政府努力にかかわらず、賠償問題が非常に長く延び延びになつておる解決が延び延びになつて来たということを私は非常に憂えておつた者であります。終戦以来すでに十年にもなりまするし、平和条約ができてからも三年にもなるというような今日、日本立場からいいまして、この重大問題をできるだけ早く解決しないということには日本の将来にとりまして非常な不利益をもたらすのではないかと考えております者であります。幸いにして前内閣当時岡崎外相の非常な努力以てこビルマとの条約ができたということは、これは誠に慶賀すべき、ことであつて、私も岡崎外相の苦心、努力に対しましては深甚なる謝意を表する者でありますが、併し今までの日本政府やり方を見ておるというと、余りにも数字にこだわりすぎてはいないかということを私は当時の岡崎外務大臣にも申上げたのでありまするが、それは成るはど日本立場から言えば賠償額の成るべく少いことがいいことはわかりきつた話でありまするけれども、併し相手の国々に対して与えた甚大な損害を考えまするときに、余りに数字にこだわつて、そして卑近な言葉でありまするけれども、値切るだけ値切るというような考え方は、私は余り賛成できないのであります。一億や二億のことは大ざつぱに申上げて譲れるものなら譲る。そしてできるだけ早く相手の国と外交関係を復活して、そして通商を始める。そういう方針に出なければ私は間違いだと思うのであります。出すときには成るほど一億、二億という金でも随分現在の日本財政状態からいいまするというと困難ではありまするけれども、併し相手国との間に貿易が促進されることになりまするならば、それによつて日本はそれだけ利益を受けることになるのでありまして、余計出したように見えた賠償額も長くかかればその通商上の利益によつてカバーされるということも考えられる。そつちのほうから私は考えて行かなければならないと思うのであります。余りにそろばん勘定ばかしで行くということであれば話は長くなるばかしである。そして賠償問題の解決を遅延させるということが決して日本利益にならないと思うのでありまするが、と申しますることは、通商方面におきまして西欧諸国はもはやとつくの前からそれらのそれぞれの国と交渉を持つて来ておるのでありまして、通称問題においてもできるだけ商権を伸ばそうとして努力しておることはこれはまあ当然の話であります。そうなつてみまするというと、日本賠償問題にこだわつて、そして国交回復も遅れ、通商関係の設定も遅延するということであればあるほど、その国における商権というものは、もはや日本あとから入る余地がなくなるという心配が多分にあると思うのでありまするからして、繰返すようでありますけれども、余りにそろばんをはじかないで、そして成るべく早く賠償問題を片付け、国交回復する、そういう方向に向わなければならないと思うのであります。まあ幸いにしてビルマとは今度できましたが、フイリピン乃至はインドネシアとはどうなさるつもりでおられるのか、これは解散も間近なことであり、解散後の内閣において初めて決定的な方針を立てられて、そしてそれぞれの相手国交渉されるべきものであろうと思いまするけれども、そういう点に関しましての新外務大臣のお考えをこの際として承わつておくということは非常に私は有意義なことであろうと思いまするがゆえに、あえて御質問申上げるのであります。フイリピンには一度前内閣当時話が始まつて、そうしてこれは失敗に終つた。再度又交渉の端緒が開かれているかのように見えまするが、果して鳩山内閣においてはそのあとを受継いで、そうしてそのまま交渉を進めて行かれるという御方針であるのかどうか。又インドネシアとの関係は、どうもほかの諸国に比べてみると一番立遅れているように見受けられます。これはインドネシア側の注文があまりに大きかつたというようなことがその交渉の進展を阻害した大きな理由であるかと思いますが、ビルマとの問題が解決した今日でありますがゆえに、日本にとりましてあらゆる意味において極めて重要な地位にあるインドネシアとの関係も、この際できるだけ早く促進されるということが必要でないかと思うのであります。その辺に対する外務大臣のお考え方、そういうことについてあらましのことで結構でありますから、御説明を承りたい。
  15. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今縷々お示しの御趣旨は、全面的に私どものやはり考えるところでございまして、一つこういうものを早く解決しなければならんと思います。まあサンフランシスコ条約で重要な民主自由陣営の諸国とは国交回復したのでありますが、その後アジア方面においては共産国でない国、新らしく国を建てた特に我々の身近く感ずるこれらの国々の立派に建設されるということは、これは大きな意味において日本のためにどれだけ有益であるかわからないわけであります。通商貿易の問題の物質的の方面を取上げて言つても、これは急がなければならん。そこで、ビルマ関係がはつきり設定されて行くということは確かに前進でございます。更に次は従来の関係をもやはり追わなければなりません。そういたしてみますというと、フイリピンの問題などがすぐ取上げられるということになります。今差当つてその準備を急いでいる次第でございます。一般的に申上げて、賠償問題を急ぐということについては、これは政府は無論のことでありますが、これは前内閣以来どなたも異存ないと思います。急がなければならないということだけは言える、そうしてそれを早く結未をつけるためには、やはり賠償の問題でありますから、そろばん勘定が当然入るわけであります。そろばん勘定だけにとらわれることのよくないことも無論これはあるのであります。併しそういうことになりますので、私はそれを急ぐために賠償関係を持つ二、三の他の閣僚と特に賠償関係を審議するような仕組を今いたしまして、特に大蔵大臣とか、審議庁長官とか、通産大臣とかいう人々と密接に連絡は無論のことですが、閣議を開いて、そしてその一般方針の下に実際的の方向を、交渉と並んで一つ突き進めて行く、こういうことを閣議に諮つてその賛成を得ておるわけであります。さような方法で進んで行きたいと、こう思つております。フイリピンの問題は差当つて、いろいろ従来からのいきさつもございます。これをどこまで利用することが将来これを妥結する上においていいかということを今腹案をこしらえてこれからそういう閣僚とも相談をいたしましてこれで一つ乗出して行こうと、こう考えております。  そこでこういう問題は、今お話選挙の問題、選挙があつてからすべてはやるのだと、無論選挙によつて国民の総意を聞き、又信頼がどこにあるかということを質さなければなりません。若しその信頼が我々になければ、我々は当然これは引つ込まなければならない。併し賠償の問題とか、かような国家的の重要な問題、特に対外的の問題は、これはそういうことに私はあんまりこだわつてつたらばこれは非常な不利益だと思うのです。そこで賠償の問題のごときも、さような国家的見地に立つて、できるだけ進めて行く努力をすべきだとこう考えて、今さような方法をとつているわけでございます。フイリピンのほかにインドネシアもあると聞いております。私は実はインドネシア賠償の問題について詳しくは、まだそこまで頭を使う余裕はないのでございます。インドネシアのほかに仏印三国の問題もございます。これらはとくと一つ審議をして遅延なく着着進めて行きたいとこう考えております。そして総選挙によつて我々が若し国民の信頼を得る場合においては、それを更に活用して先に進めて行くことは我々の手でできますし、そうでなくても、万が一そうでなくても、少しも国家のために不利益でないようなやり方をし、仕事をして行きたいと、こう考えてこの問題については先に閣内においても了解を得て進んでいるわけであります。一々の方針内容については、実はまだ私も十分にここではつきりと皆さんに申上げる準備がございませんが、併しそれらについて差支えない限りは事務当局からでも御説明を申上げる次第であります。
  16. 佐藤尚武

    佐藤尚武君 新大臣が、まだ御就任早々で、各方面との交渉の計画乃至はこれから先とるべき方針についてまだ十分に御検討の時間、余裕がおありにならなかつたということ、これは当然のことだと思います。併し今お話になりましたところから見ましても、私は大変に喜ぶべきことだと思いまするのは、この大きな賠償問題を早急に片付けるという御方針のようであつて、そしてそのためには大蔵大臣初め、直接関係のある数人の大臣との間に密接な連絡をとられて、そして賠償方針を立てるというお言葉のようでありまするが、これはまさにそういうふうになさるべきものであろうと思いまするし、新内閣の新らしく就任されたそれらの大臣、今までとは又別個の見地からいろいろ検討討されることもございましようし、とにかくそういうような仕組で以てこ賠償問題を進めて頂く、少なくとも国内的に進めて頂くということ、これは是非やつて頂かなければならんことと思うのであります。そこで私が重ねてしつこく申上げるようでありまするけれども、とにかく内地の諸官庁、特に諸官庁の事務当局におきましては、必要な金でも出し渋るというような傾向が多分にあるように感じられるのでありまして、殊に賠償問題のような大きな問題に関しましては責任をとるということがなかなか困難でありまするが故に、一層出し渋る傾向があつたのではないかというように思うのであります。  そこで私は先ほども申上げましたように、この問題は、今日若しくは明日の問題ではなくて、長い間に瓦る問題であるということを考えて、今は成るほど数億の金を余分に出すというようなことにはなるかも知れないけれども、長い間にはそれを通商上の利益によつて取返して来るというような、そういう見地から問題を解決しないことには、私はただ自分の手許を引締めるというような考え方だけでは、問題の解決はおぼつかないというように思うのであります。どうぞ重光大臣におかれましては、そういうような見地で十分に御検討下さいまして、そして新らしい見地からしてこの賠償問題の促進ということを一つ十分に努力して頂きたいと思うのであります。インドネシアの問題につきましては、これは同国の国内事情もなかなか複雑なようでありまして、日本との諸般の交渉につきましても、日本側で希望するごとく、簡単には進んで行かないように見受けられるのでありまするが、併しながらビルマとの関係においてこの賠償問題の上で一つ大きな先例ができたのでありまするからして、インドネシア側におきましても、これにヒントを得て、或いは刺激されて、そして話を進めるというような機運がもつと濃厚に動いて来るのではなかろうかと思いまするし、又日本側からのインドネシアとの関係におきましては、是非早急にこの重要な問題を進めて行かなければならんと私は痛感しておるのでありますが、それにつきましては、最近、いやこれまでにも、インドネシア側から随分たくさんの大勢の要人の人たちが日本を訪問しまして、そして日本の産業の状態や何かも詳しく見て行つた模様でありまするので、一日その要人の一人と私は話しているうちに、成るほどこれではいけないというように感じた点があります。これは外務当局に対しましては非常な苦言になりますかも知れませんけれども、こういうことを聞いたのであります、最近ソヴイエトからインドネシアに対して通商代表部を送つて来たそうであります。大勢の人が来たそうでありまするが、その中に、インドネシア語を流暢に話す人たちがかなり多数混ざつておる、而もその人たちは今まで一度もインドネシア行つたことのない人たちで、モスコーで勉強して、そうしてなお且つ流暢なインドネシア語を操つて来ておる。その人たちはインドネシアに着くとすぐさまインドネシア人の家庭を訪問し、インドネシア人と個人的な交渉を持つということに非常な努力をしておるのであつて、そうして自由に土地の言葉を使い得るが故に非常な便宜を持つて、家庭にまで彼らの活動が及んで来ておる。それに引替えて日本の代表部にはインドネシア語を使い得る人が甚だ少い。そうしてインドネシア人と家庭的の附合をするということも、少くとも自分の承知しておる限り余りない。これをソヴイエトやり方に比べてみるというと格段の違いがあつて、これでは日本のために自分たちは非常に惜むのだと言つてインドネシア側から私は注意を受けたというようなこともありました。インドネシアに現にどういう外務省関係のかたがたが行つておられるか、それは私は存じませんが、併しインドネシア人の側から見てそういうことであるとするならば、これは外務省としても十分にお考えにならなければならんことじやないかと思うのでございまして、由来言葉の点におきましては日本は損をしがちでありまするが、努力次第によつてはその損も取返しのつかん問題ではなし、或いは人操りの如何によつてはもつともつと能率を発揮させるというようなこともできない相談ではないかのように思うので、そういう点につきましても新らしい大臣におかれて十分に一つ検討を加えられて、そうして国際的な競争において人後に落ちないように適当な手段をとつて頂きたいと思うのでございます。
  17. 重光葵

    国務大臣重光葵君) いろいろお示しになつたことは、私も全然そういうことについてはその通りだと思いますし、できるだけ一つ今の大局上、将来長い間の見地で、余り目前の金の多寡などにかかわらず、一つ賠償問題は進めたらいいじやないか、更に又インドネシア方面について十分言葉の達者な人間を余計配置したらいいじやないか、こういうような点は全くその通りだと思います。できるだけ努力をいたしたいと考えております。
  18. 佐藤尚武

    佐藤尚武君 極く簡単に事務当局のかたに伺いたいと思うのでありますが、このビルマとの平和条約、乃至は賠償協定というものはいずれの国の言葉が成文になつておるのでありまするか、このテキストを見まするというと、本書を二通を作るということだけであつて日本語の成文とするとか或いはどこ語を成文とするとかいうような規定がないように思いまするが、そういう点はどうお考えになつておりますか、ちよつと事務当局のほうから……。
  19. 下田武三

    政府委員下田武三君) その点につきましてはこの条約は本文は英語だけでございます。それで従来の慣例によりまして二カ国で作ります場合には何語と何語で本書を二通ということになりますが、一カ国語だけで作ります場合には何語でということは明記いたさない慣例になつておりまするので、従いまして今回の英語だけのテキストにおきましても何語でということは書かなかつた次第でございます。
  20. 佐藤尚武

    佐藤尚武君 そうしますると日本語のこれらの文書というものの訳文ということにならなければならんと思うのでありまするが、その訳文という字がどこにもないようでありまするが、それでよろしうございますか。
  21. 下田武三

    政府委員下田武三君) 実は国会に条約の提出をいたしまして御承認を求めるようになりましてから、訳文という字をつけない慣例になりまして、昔枢密院に提出しておりました時代には訳文ということを書く慣習であつたのでありますが、国会になりましてからは訳文ということを書かないようになつております。本条約もその例にならつたのであります。
  22. 佐藤尚武

    佐藤尚武君 そうしますと国会に関する限り日本語が成文であるか英語が成文であるかということはわからないわけでございまして、我々に関する限りは日本語が成文であるかのように見えるのでありまするけれども、その点もよろしうございますか。
  23. 下田武三

    政府委員下田武三君) その点は確かに問題があるのでございますが、国会の審議の対象として選ぶ文書を外国語本位というわけにも参りませんので、国会はやはり日本の国会であるから日本文で御審議するということから、やはり実際の御審議は日本語を対象としておりまするが、条約そのものの本文は何かということになりますと、これは御承知のように相手国が英語国或いはフランス語国である場合に、英語又はフランス語を使うならば対等の関係から日本日本語を使う。併し相手国が英語、フランス語以外の国、第三国語が使われております国でありますならば英語、フランス語自体が第三国語になるわけでありまするから、対等の問題を生じませんので、今回もビルマとの関係において英国だけにいたしたわけであります。
  24. 佐藤尚武

    佐藤尚武君 わかりました。私の質問はこれで終ります。
  25. 岡田宗司

    岡田宗司君 前の吉田内閣は極めてアメリカの世界政策、特にアメリカの対共産圏政策に対して協力的であり、というよりもむしろそれに忠実に従つてつたと思うのであります。そこで今度の内閣がこの点についてどうお考えになるかを先ずお伺いしたいのでありますが、吉田内閣は、例えば大いに独立国になつたんだから自主的な外交をやる、こういうふうに言つておりました。ところが、サンフランシスコの平和条約において中国が招聘されなかつた。それでその中国に日本との講和の問題につきましては、日本が独立した後において、日本の自発的な立場で、台湾にある蒋介石の政府を選ぶか、或いは北京の政府を選ぶか、それを任せる、そういうようなことになつてつたと思います。ところがその後ダレス長官が参りまして、押付けられて台湾政府と講和条約を結んだ、私どもはこれに反対したのですが、そういうような事態が起つておる。これなぞは、明らかにアメリカに積極的に協力をしたというよりも、むしろアメリカに押付けられて、その通りつたということの証左であろうと思うのであります。又いわゆる自衛隊の増強の問題にいたしましても、これは今までの警察予備隊が保安隊になり、又保安隊から自衛隊になり、七万五千が十一万、それが十三万になつた過程を見ましても、常にアメリカ側のほうから押付けられて、これを日本側で承諾して、それを殖して行つたというような形があるのであります。又吉田内閣は、特に吉田首相は、中ソとの関係の改善につきまして、常に否定的な立場をとつてつた、これはもう紛れもない事実であります。こういうようなこともアメリカの意向を非常に考慮してやつてつたことのように思う。まあ私どもは吉田内閣外交はどうもアメリカの世界政策の片棒をかついでいる、いわゆる自由主義の陣営に属していながらでも、この点は自由主義の陣営に属しておつても、私はまだまだやり得る余地があつたと思うのでありますが、全く世界中で一番アメリカの言いなり放題になる外交方針をとつていたように思うのであります。で、このたび鳩山内閣ができましてから、鳩山首相並びに重光外務大臣のいろいろな言明等から推しますというと、例えば中ソとの国交回復と申しますか、戦争の終結について一歩進めたいというようなこと、或いはアメリカのほうでいやがつておる中国との貿易関係の改善というようなことについて、前の内閣とは違つて、かなり積極的な意図を示されておる、これはアメリカのほうの関係は今まで通りにしておいて、そうしてこれだけ進めて行くということは、どうも今までのアメリカの対日政策等から見ても、又、日本とアメリカの今までの関係から見ても、このままでは行われない、こう私どもには考えられる。そうするとこのことを言明されておるということは、日本とアメリカとの関係について、何らかの変化を求めるということを考えておられるんじやないかと思うのですが、このアメリカに対する政策、これはどういうふうにお考えになるか、先ほど小瀧委員のほうから外交継続性ということを言われておつたし、又鳩山首相も或いは重光外相も、日本が自由主義陣営に属しておつて、これから離れるものではないというような線は明らかにされておるのでありますが、併し日本の対米外交に対して何らかの別な角度からの行動をおとりになるように思われるんですが、その点について先ずお伺いしたいと思います。
  26. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今のお話は相当根本的のお話のように伺いました。私は過去において吉田内閣か他国の意向のみに支配されたというふうにも実は思つておりませんし、又そうであつたかどうかということを今批判をいたすことは私は避けますが、併し日本としてどういうふうな心構えをしなければならんかと申しますというと、これはやはり日本日本として自主的にどこに日本利益があるかということから判断をしなければならんと思います。そこでその判断は、日本の国際間に置かれた地位から出発しなければならんと思います。その根本の地位を変更するような時期は今日まだ来ておらんと、こう思います。そこでこれは前にも申上げたと思いますが、日本の今置かれている地位はどこにあるか、世界が民主陣営と共産陣営と争つている、日本ははつきりと平和条約によりその他の条約によつて民主自由陣営に置かれているというこの地位は、私ははつきりしていると思うんです。併しそれならば、民主陣営におるから、民主陣営の強力な国の従属的のものであるべきであるかということになりますと、私はそうじやないと思う。やはり日本自身立場というものがある。利益というものがあるので、それを如何に進めるかということが外交の心構えとしては当然それはなければならんと、こう思うので、その意味において私は自主外交をやるということは、日本の置かれた地位を無視して、すべて従来のことを無視し、若しくは清算して出発するという意味の自主外交を唱えたことはないのでございます。これはまあ御質問の点も、そういうことをしろというお話じやないと私は思います。そこで日本の置かれている地位を十分に尊重するということが、又非常に大きな日本利益に合することでもありますし、そこでその日本の置かれた地位から出発して、そうして自主的に自分の利益がどこに向いているかということをよく考えて進めて行くことが適当であろうと、こう考えております。従いまして私はその意味から申しまして、アメリカとの基本的な関係を今日変更するということは少しも考えておりません。のみならず、それを変更すべき時期であるということを考えておりません。むしろ私はその点は十分了解を更に一層進めて行つて、そうして日本の自主的な立場をも更にアメリカ側にも了解せしめるという手段を尽すべき余地はまだあると思います。併しそれは全局を変えずしてさようなことについて私は努力をして行きたいと考えております。併しながら実はサンフランシスコ条約において御承知通りにあのときにソ連なり共産同がサンフランシスコ条約の調印に参加してくれたとしたならば、共産国との戦争関係をもここに法的に終熄させることができたわけであります。併し向うが調印を拒絶をした。そこで法的に言つて戦争関係が今日まで続いている、これは私ほ不幸なことだと思う。そこで世界の全局の平和増進の見地からしても日本自身立場からしても、少しでもさような非常に不都合な関係はなくするように一つ一つ努力をしなければならん、こういうふうに考えているので、それに対して私ほイデオロギーの差を以てこれを別個に考えるということの必要はないように考えるのであります。従いましてでき得る実際の方法を選んで着々と進めて行くのが当然のことだと、こう考えております。併しそういうようなことは、何も根本的に対米関係を変えなければできないというふうには私は考えておりません。のみならず、却つて反対に、ますますアメリカとの関係を密接にして、そういうことについて十分の理解をせしめるという努力もそこにいたさなければならん、私はこれは両立し得るものと考えている次第でざいます。
  27. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 大体あと一分で十一時四十五分でありますが、この区切りで外務大臣に対する御質問は一応お控えを願いたいと思います。なお外省務の関係当局はお残り頂くことができると思いますから、そのほうに関連した御質問があればやつて頂くと議事進行の上に都合がよろしいのでございますが……。  ちよつと速記を止めて。
  28. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 速記を始めて。  それでは外務当局のほうに対する御質問をお願いいたします。
  29. 岡田宗司

    岡田宗司君 お伺いいたします。今度のビルマに対する賠償計画、それから経済協力、この計画ですが、これはビルマ政府のいわゆるビダウダ計画との関連があるということはこれはウ・チヨウ・ニエン氏がこちちに来たときからもしばしば言明されているところでありまス。で、我々はまあビダウダ計画についてはビルマ側のほうで立てた計画として知つております。併しこの賠償並びに経済協力のことが実現されて参りますと、それとの関連が生じて来る。その関連、これはどういうふうになつておるのか、これはもうすでにビルマ政府で或る程度明らかにしていると思うのですが、その点について、当局で御承知の点を御伺いしたい。
  30. 中川融

    説明員(中川融君) 御指摘通りビルマではビダウダ計画或いは福祉国家計画というものを立案いたしまして、大体八年計画、いろいろ改訂はございますが、最近では確か十五億米ドルに相当する資金を入れまして、国内の開発に充てるという計画があるわけでございます。今回の賠償並びに経済協力併せまして十年間に二億五千万米ドルに相当する役務及び生産物が日本からビルマに提供されるわけでございます。これは先方の考えはビダウダ計画の実施にこれを役立たせたいということになつておる模様でございます。なお十五億米ドルに相当する資金がビダウダ計画には要るわけでございますが、そのうち外貨による投資というものは約三分の一程度であるということでございますので、大体五億米ドル程度の外貨を予定している。それから申しますと、日本から行きます二億五千万米ドルというものはその大体半分くらいになるのではないかと思います。この計画に如何に的確に当てはまるかということにつきましては、いろいろ日ビ両政府間において、毎年賠償並びに経済協力に関する計画の協議をいたしまして、その際に的確なことがきまつて行くのでございます。その協議のやり方はこの協定にも出て参りますが、合同委員会というものを作りまして、双方の政府の代表者がこれに出まして、そこで協議の上、賠償及び経済協力の具体的な内容を作ることになつておりますが、その際に、結局如何にビダウダ計画に当てはめてこれを役立てるかということがきまつて来る段階になるのであります。  なお只今稻垣平太郎氏を団長といたしました現地事情調査団が行つておりますので、その調査団が現地におきましてビダウダ計画の計画を聞きますと同時に、それが立地条件その他も見ることになつております。この調査団が本年末或いは来年早々帰りましたら、日本側としてもおおよそビルマの計画というものが判明して来るのではないか、かように考えております。
  31. 岡田宗司

    岡田宗司君 今の稲垣使節団がその点を明らかにするであろうということを言われたのですが、これについて何か中間の報告等でわかつたことはないのでしようか。
  32. 中川融

    説明員(中川融君) 稲垣調査団は今月の初めに向うに参つておるのであります。確か五日に参つておると思います。約三週間滞在の予定でございます。その間最初の一週間ぐらいの間に各地を旅行いたしまして、各地の状況を見、更に引続いてビルマ側との折衝と申しますか、説明を聞く段階になるわけでございます。その入りました情報では大体二十日頃にビルマ側から案が出るということだそうでございます。従つてまだ具体的な成果等につきましては何ら報告に接していない状況でございます。
  33. 羽生三七

    ○羽生三七君 関連して……。今の稲垣ミツシヨンの問題で、何か先方では前吉田内閣の時代のミツシヨンであるが、今度内閣が変つて一体どういう資格を持つておるかということを言つておると外電か何かであつたように記憶しておるのですが、その点は基本的には前内閣方針を受継いで行くのだから変りはないという、そういう常識的な解釈でいいのでありますか、その辺どういうふうになつておりますか。
  34. 中川融

    説明員(中川融君) 稲垣使節団が参りますに当りましては、先方でもウ・チヨウ・ニエン工業大臣を長といたしますやはりそれに対応するチームを作りまして、それと折衝したり説明に当るということになつておりまして、各省からそれぞれ代表者が出てやつて参るようでございます。稲垣ミツシヨンが今度の内閣の更迭と共に何らか向うで疑惑を持ち、或いは疑念を持つということについては、我々は何ら報道に接しておりません。そのようなことはないものと考えております。順調に話合は進む模様であります。
  35. 羽生三七

    ○羽生三七君 もう一つそれに関連してちよつとお伺いしたいことは、つい二、三日前でありましたか、カンボデイアが賠償請権を放棄したように伝えられておつて、それは関係国としては最初の例のように言つておりましたが、その内容で若しわかつたことがあつたら、どういうことで請求権を放棄するようになつたのか又そういうような意図を持つておる国がほかにもありそうなのか、その辺の事情を若しおわかりでしたら説明を願いたい。
  36. 中川融

    説明員(中川融君) 賠償要求国といたしましてはビルマフイリピンインドネシアのほかにインドシナの三国があるわけでございます。そのうちヴエトナムにつきましては沈船引揚げ中間協定、大体二百五十万米ドルに相当するものについての話合が殆どできたのであります。現地における政治情勢、治安情勢等の関係からと思いますが、まだ調印の運びに至つていないのでございます。又カンボデイアにつきましては賠償に関連して或る話合が日本の公使と先方の政府との間に行われておるのでありますが、その経過につきましてはカンボデイア政府側の希望によりまして暫らくこれを公にしないでもらいたいということになつております。これは向うの国内上の見地からのようでございます。従つて新聞等に報道はいろいろ出ておりますが、政府としては先方との信義上、先方がその時期が来たというまでは、これについての発表は差控えたいと思つておりますので、御了承願いたいと存じます。ラオスにつきましては賠償権はあるのでございますが、何ら具体的に意思表示は未だないのでございます。果してラオスが本当に賠償を要求するかどうかという点についてはまだ確たる判断を下し得ない状況でございます。
  37. 岡田宗司

    岡田宗司君 次いでお伺いしますが、もう賠償並びに経済協力について、賠償のほうは二億ドル十年、それから経済協力のほうは五千万ドル十年間ということになつておりますが、条約の文面に年平均ということが書いてあります、いずれにも。この年平均ということは年々二千万ドルということでなくて、初めは少くて、中頃に多くて、終りになつて又少なくなる。何かそういうような関係であるのか。又そういうことについて大体初年度には幾ら、二年度には幾ら、五年度には幾ら、十年度に幾らというようなことの金の出し方の申合せができているのかどうか、その点はどうなつておりますか。
  38. 中川融

    説明員(中川融君) 賠償の払い方でございますが、年平均二千万ドルというふうに書いてあるのは、御指摘通り的確に二千万ドルということはいろいろの事情からむずかしいことが出て参ると考えられますので、大体二千万ドル平均ということで規定ができているのでございます。併し十年間かかりまして平均二千万米ドルでありますから、十年間を通産すれば結局二億米ドルになるという規定になつております。なお具体的に各年度の割振りをどうするかということにつきましては、今後ビルマ側と合同委員会等を通じまして折衝して、具体的な計画を立てる際に結局きまつて行くのでございますが、何と申しましても初年度におきましては準備その他の関係上どうしてもこれは少し少なくなるのではないか。最初の一、二年度はやは少なくなるのではないかというふうに大体考えられます。そうなれば三年度以降においてそれを補うために二千万米ドルよりも若干上廻るというようなことが出て来るかと思います。いずれにせよ個々の具体的な折衝において進めて行くことになつております。
  39. 岡田宗司

    岡田宗司君 この賠償償及び経済協力に関する協定の付属書を見ますというと、十九の項目が出ている。ところがこれにはビルマにおける石油の開発という点はないわけであります。ところが最近あの帝国石油の社長であります鮎川義介氏が、ビルマにおける石油の開発について技術協力をしたいという意向のようで、人を派遣するというようなことが新聞紙上伝えられている。これについて外務省は承知しておられるかどうか。それから第二に、これが賠償又は経済協力とどういう関係に立つか、この点についてお伺いしたい。
  40. 中川融

    説明員(中川融君) ビルマは石油を相当産するのでありまして、現在同国にはイギリスとビルマとの合弁事業になりますバーマ・オイル・コーポレーシヨンというものがございまして、これが殆んど一手に石油の開発をやつております。併し現在開発しておりますもの以外に、新らしい油田等がいろいろ見つかる可能性もあるようでございます。そのような油田の開発についての話合のために帝国石油から人が行つているのではないかと思いますが、外務省としては特にこの点について報告なり相談を受けていないのでございます。  なお石油の開発が合弁事業としてできるかどうか。付属書には成るほど石油の開発ということはないのでありますから、第十九番目のところに「両政府間で合意される他の生産物及び役務の提供」という項目がございまして、それに先立ちましての十八の項目に書いてないものでありましても、両国政府でこれが適当であると合意すれば賠償或いは合弁事業というものに繰入れることができるのでございまして、必要が起りました際は、この第十九番目の項目によつて石油の開発をやろうということは、日本側としてもこの協定に則り、生産地への提供として行うことができるようになろうかと考えます。
  41. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 今賠償並びに経済協力の対象に列挙されている付属書の問題が問題になりましたが、ここで一つお聞きしておきたいのは、これは両方の対象でありますが、そのおのおののうち、賠償には大体主として、どれが充てられ、経済協力についてはどれが充てられるというような見当をつけておられるか、その点を一つ説明願いたいと思います。
  42. 中川融

    説明員(中川融君) 付属書に掲げてございます十九の項目は賠償経済協力の双方にこれが適用されるわけでございまして、大きく申しましてビルマ側の考え方はこれを実施いたしまして利益の上る性質の事業、利益が上らないけれども、国の経済開発に是非とも基礎条件として必要な事業、このニつに分けまして、利益の上る事業は合弁事業の形でできるだけ両者の間と中しますか、うまみを利用したいという考えのようでございます。それに反しまして、基礎的に必変なものであるけれども利益は当分見込みがないという性質の事業につきましては、むしろビルマ政府の直営事業といたしまして、従つてそれにはむしろ日本側からの賠償をこれに充てて使いたいというふうに考えておるようでございます。具体的の項目についてごらんになりますと、たとえば1、2、3、水力発電所の建設でありますとか、製鉄所の建設でありますとか、港湾施設の復旧でありますとか、更に病院でありますとか、このようなものは、結局利益は当分予期できない、従つて賠償を大体これに充てる考えのようでございます。それに比べましていろいろの工場の建設という項目がございます。肥料工場、砂糖工場、化学工場、これらは比較的早く利益が上る見込みがあるという項目でございまして、従つてこれらは主として経済協力の対象として考えておるようでございます。
  43. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そうすると今の原則から言うと、例えば鉄道の復旧であるとか、或いは河川運送施設の復旧であるとか、それから5、6の技術者の訓練、或いは教育、そういうものも大体賠償で行きます。
  44. 中川融

    説明員(中川融君) 御説の通り大体そのような項目は、賠償として実施されるのではないかと考えております。
  45. 岡田宗司

    岡田宗司君 この平和条約が結ばれまして、ビルマとの復興が回復される、こういうことになるというと、通商の問題についても、勿論最恵国待遇の問題は直ちに解決はできませんけれども、併し昨日の説明によりますというと、これはまあ実質的には何とかなるというようなお話でありまして、この結果、ビルマとの貿易ですね、貿易がどのくらいの程度増加して行くというふうにお見込みですか。
  46. 朝海浩一郎

    説明員(朝海浩一郎君) どの程度に貿易が増加いたしますか、という見通しにつきましては、これは非常にむずかしい。今ここで申上げかねるのでありますが、ただ我が国とビルマとの貿易関係を見ますというと、これは特に昨年十二月に御承知通り日緬貿易取極めができましてから、それ以来非常に……それまでは貿易数量が非常に少なかつたのでありますが、飛躍的に増進いたしまして、最近の数字を見ますというと昨年は輸出が三千二百万ドル、輸入が四千八百万ドルという、非常に大きな貿易数字を示しておることは御存じの通りでございます。この原因を見ますというと、これは今申上げましたように、日緬貿易取極めができましたと同時に、ビルマが御承知のように昨年十二月に英連邦との特恵関税を廃止いたしまして、単一関税制度にいたしましたことによりまして、日本が今までの何と申しますかハンデイキヤツプが取れまして、非常に対等の立場で各国と競争ができるというそういう関係に至りましたので、この貿易協定と相待ちまして、数量が増進をいたしたわけでございます。的確な見通しはいたしかねますが、こういう状况からいたしまして、今後日本ビルマ貿易関係は相当進んで参るということ申上げることができるのではなかろうかと思います。
  47. 曾禰益

    ○曾祢益君 それに関連しまして外務省に伺いたいのですが、御承知のようにビルマ米の買付けの問題なんですが、協定によると二十万トン乃至三十万トン買うということになつているようですが、まあ昨年は特別な日本の事情があつたので、まあマキシマムに買つたようです。今年の問題としてはなかなか政府としても世界的にもバイヤース・マーケツトになつている関係もあるんでしようが、二十万トンはまあ協定だから買う。併しそれ以上に約束することを躊躇せられる事情もあるやに聞いておるんですが、一応ビルマの側から見れば成るべくたくさん買つてもらいたい。又そうでないとやはり外国為替が十分でないから、結局日本から買いたい品物も買えない。こういうような主張もしているようです。そこで実はすでに御承知のことであるけれども日本に現在来ております向うの復興大臣兼何と言うんですかステート・セントラル・ストアース・ボノード、要するに政府の買付に関しては全権限を持つているボー・ミンゴン大臣が来ているのですが、この人から私の所属政党に対しても協力方を申入れて、これは政府の問題でありますので早速外務大臣若しくは適当な人に、新政府にその陳情をするように取計うようにいたしたわけであります。これらの点についてどの程度まで先方の希望を容れてやれるものであるかどうか、この際伺うことができれば幸いだと思う。
  48. 朝海浩一郎

    説明員(朝海浩一郎君) これは実は只今交渉中の問題でございまして、現に本日もこれから午後交渉いたさなければなりません問題でございまして、その交渉の二つの眼目は数量の問題とかそれから価格の問題でございます。只今質問かございましたか、交渉中でもございますので、これだけくらいは実は買えるんだが、というふうなこともお答えいたしかねるわけでありますが、概括的に申しまして勿論御指摘のようにビルマから日本が米を買わなければ、ビルマに購買力を持たせられない。従つて日本の輸出にも関係があるということは、私ども承知いたしておるのであります。  ただ何分にも只今指摘になりました米の輸入の数量でございますが、これほ昨年と違いましてビルマ以上に日本に対して米の供給国であるタイに対しましても、なかなかタイが希望するだけの数量は買いきれなかつたという事情もございますので、私どもといたしましては非常な努力をいたしまして、こういう九十万トン程度しか今年は輸入ができないというふうな状況におきましても、ビルマに対する約束は何とかして最低限度の約束二十万トンまで確保したいという強い気持交渉しておりますので、この数量の増加につきましては、これは非常に私ども現在交渉いたしておる者といたしまして、日本の経済関係から見て困難であるというふうに考えております。  それからビルマとの輸出入の関係でございますが、日本が仮に米を二十万トン買つた場合におきましても日本のほうがビルマに対しては輸入超過である、ビルマからたくさん物を買つて来るという状況になるということをこの際附言しておきたいと思うのであります。  それからその次の質問外務大臣に御会見等のことにつきましては私もそのことを承知いたしまして、上に通じてございますが、外務大臣も多忙でございますので、どういうふうにお取計い願えるか、その点はまだ承知いたしておりません。
  49. 岡田宗司

    岡田宗司君 もう一点伺います。日本のほうで以て輸出が三千二百万ドル、輸入が四千八百万ドルだつたというのは、日本のほうには非常に不利なんですが、これは来年度において何かバーターでとんとんにして行くというような話合を今しているのですか。
  50. 朝海浩一郎

    説明員(朝海浩一郎君) これをバーターにいたしましてとんとんにするということはそのときの経済状況もございましようし、米の値段等の関係があると思いますので、必ずしもこれをとんとんにして行かなきやならないというふうには私どもは少くとも考えておりません。或いは多少ビルマのほうからの米の値段或いは米の数量等につきまして、日本が輸入を超過しても、この是正にできるだけ努めはいたしますけれども、必ずしも正確にバーター式にバランスがとれなければ工合が悪いというふうな、窮屈にも私ども考えておらない次第であります。
  51. 岡田宗司

    岡田宗司君 この日本の三千二百万ドルを増加さして行くということについて、これはまあ努力しておられると思うのですが、ビルマのほうにも輸入計画があるだろうと思うのですが、この両者のバランスをできるだけ差を少なくして行くということは、来年度において可能なのでしようか。
  52. 朝海浩一郎

    説明員(朝海浩一郎君) これは米の価格のこともございますので、私どもは可能だと考えております。この数字は米の値段の相当高かつたときでございますので、今年あたりは米の値段も数量も減つて参りますので、只今説明申上げましたようなこういう大きな開きは出て来ないというふうに考え且つ希望いたしている次第でございます。
  53. 岡田宗司

    岡田宗司君 じやこれで……。
  54. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) それでは午後は一時三十分から大蔵大臣が三十分間出席されますので一時三十分から開くことにいたしてよろしうございましようか。
  55. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) ではそういうことにいたします。  休憩いたします。    午後零時十五分休憩    —————・—————    午後一時四十一分開会
  56. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) それではこれより午前に引続いて外務委員会を開きます。
  57. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) ちよつと御挨拶を一言さして頂きます。私、このたび図らずも大蔵大臣に就くことになりまし。つきましては、今後特別にお教えを頂かなくてはなりません。この機会にお願いかたがた御挨拶させて頂きます。
  58. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 岡田君御質問中でありましたが……。
  59. 岡田宗司

    岡田宗司君 佐多委員のほうから大蔵大臣に対する御質問がありますから。
  60. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 今度のビルマとの賠償及び経済協力協定によりますと、大体御承知のように賠償二千万ドル、経済協力五百万ドル、日本円にして七十二億或いは十八億というような負担を負わされることになつたのでありますが、これは現在の日本の財政力から見れば非常に大きな負担になるという感じがいたすわけであります。そこでそれに関連をして、更に引続きフイリピンであるとかインドネシアであるとかいうようなところの負担も加わるとすれば、その負担はいよいよ以て大きなものになる。現在日本の経済力なり財政力はそう大きくはないし、特に現在の財政方針或いは財政政策から見れば、これらの負担が殖えることは、その他の面において非常な圧力になる。そういうことを考えるとなかなか容易でない問題だと思うのです。  そこで大蔵大臣に先ず第一にお尋ねをいたしたいのは、一体この額をおきめになるときに或いはビルマフイリピンその他とお話合いになるときに、一体日本賠償能力はどれくらいだというふうな見当をお持ちの上にそういう交渉をおやりになつたのか、或いは今後おやりになるつもりか、その辺のことを先ず第一に御説明願いたい。
  61. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 日本賠償能力ということは、甚だこれは御承知のように困難である。まだ日本の経済自体の自立を達成しておりません。極く端的にお考え下さつて日本の経済の力というものを端的に現しておると思うのは、これは国際収支の面から見まして、特需というようなもの六億ドル見当を基礎にして初めてバランスがとれるとか、やつて行かれるという、こういうところはやはり日本の経済力が集約されておる現状を一応示しておる一つの地図というふうに考えております。従いまして賠償能力について、非常に賠償ということは困難であるというお説については私も全く同感であります。が併し一日も早く、これはサンフランシスコの条約にもこの賠償義務が規定されておりますし、又特に東南アジア諸国とは一日も早く国交回復して、そうしてこの経済関係を緊密にして、相互繁栄を図つて行くということが要請されている。従つて日本としてはできるだけ賠償について払う努力、これも当然考えなければならん。そこでそういうような見地から具体的の場合において日本の経済その他のことも総合的に考えて、まあよかろうというところで定められている、我々はこういうふうに考えております。
  62. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 基本的な態度、方針は今お話のことでよくわかるのですが、私が特に大蔵大臣にお尋ねをしたいのは、そういう基本的な態度からして、日本賠償能力というのは一体どれくらいにお考えになつているのか、これは国民所得との関連或いは今お話の国際収支との関連、或いは財政支出との関連、そういういろいろな関連からおのずから大蔵大臣としては何らかの一応の見当がなければならんと思うんです。例えば以前に伝えられるところによると、大蔵省では賠償フイリピンインドネシアビルマをおのおの四対二対一というような比率で大体賠償を支払う、従つてそこいらから望むらくは例えばフイリピンには二億五千万ドル、インドネシア一億二千五百万ドル、ビルマには四千三百万ドルという程度のことならば、賠償予定額として財政計画その他に予定ができるというようなおつもりだつたというようなことも新聞その他では報ぜられている。その辺のことをどういうふうにお考えになつているか、初めはそういうふうに御出発になつたにかかわらず、今までいろいろ折衝の結果、フイリピンとの間には四億ドルであるとか、或いはビルマとの間には初め五、六千万ドルというところから出発をして一億ドルに上り、一億五千万ドルに上り、或いは一億七千万ドルに上り、最近のように二億ドルというくらいまで上つて来ている。これはビルマその他の戦災その他を補償する点から見れば必要なことは事実であるし、私たちもその程度の額は少なくともビルマに対しては止むを得ないのじやないかとは思いますが、それならばそれに関連をして、一体賠償能力としてはどれくらいのことをお考えになつておるか。こういうふうな金額を許すとすれば、それに関連をしてアメリカとの関係の対米債務或いはアメリカに対する分担金の問題等は相当大巾に削減をすることなしには、そういう負担に堪えない。我々はそういうことを前提にして初めてこの金額が呑めるというような感じなり、態度を持つておるのですが、そういう見地からもう少し具体的に日本賠償能力はどういうふうにお考えになつており、どういうふうな測定をしておられるか。その辺を御説明願いたい。
  63. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 具体的に賠償能力がどうであるというような、そういうことは、只今お話がありましたが、大蔵省にも私はないと思います。私自身は今回就任して間もないのですが、そういうことを引継いでもおりませんし、当局から話も聞いておりません。が併しお説の点は非常に御尤もで、私も前からそういうふうなことは当然考えるべきだという考えを持つておりますが、なかなか困難だと私は思う。容易なことではありませんが、併しやはりおよそのものはあるに違いないという見地から、これは速やかに作業を、そういうことを検討さしてみようと思つておりますが、これ以上今具体的にその点について申上げる資料を持つておりません。
  64. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 問題は今から作業を開始して事態を究明する問題ではなくて、すでに今までにそういうものは予備的になされていなければならないことだし、そういうものを基礎にして二億なら二億は非常にむずかしいし、これをやるためにはどういう支障も来ないとも限らんのだけれども、併しこれならば日本の負担力として可能なんだというような納得の行く御説明がなければならない。これからの問題じやなくて、すでにそれは一応結論を持つておられなければならんはずだ。今後初めて御出発になり、今後交渉を始められようというのならば、今の御答弁で結構だと思いますが、すでに回答は一つ具体的に数字になつて出ておる。これに関連をしてその他の国々の問題も数字的に出さなければならん。そのときに今のような御答弁では納得が行きかねる。その点をもう少しはつきりして頂きたいと思います。
  65. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 或いは私の言葉が不十分であつたかと思いますが、やはりその問題は具体的という具体的の程度の問題であるので、ただこの日本賠償能力が、只今何億ドルであると、そういうようなものはなかなかこれは出しがたいと私は思つております。併し政府がああいう賠償締結する以上、その他の関連も考えまして、まあこの程度ならその他のことも将来考えても払つて行けるという程度の具体性はまあ考えられる。こういうふうなことが一つ。なお、更にそれを刻々変化する日本のこの経済情勢を取入れつつ、賠償能力が或いは増加し、或いは減るでありましようが、それはそれで十分に私は考える。問題は具体性というものが統計的なものなりや否やというようなところにあろうかと思います。これは佐多さんあたりそういう方面のエキスパートで、実際は御承知下さると思うのですが、なかなかそれの算出というものはむずかしいと私は思つております。
  66. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 なかなか測定はむずかしいという点はよくわかります。併し測定がむずかしいということは、一本の数字なら数字でこれ以上であつてはならないし、これ以下であつてはならない、これでもう確固不動なものなんだというような答弁を求めるならば、それはむずかしいから答弁はできないということで御答弁になるかも知れませんが、そういう意味での答弁を求めておるんではない。併し大よそ大体どの程度ぐらいが最大限だし、望むらくはこの点ぐらいでとめることが最も希望的なんだとか、理想的なんだとかいうような御検討はおのずからあつて、それを基礎にして折衝をしておられると思うのです。すでに二十九年度の予算でも百五十億の平和回復善後処理費、これはいろいろな雑なものもありましようが、大部分は賠償に充てる、或いは対米債務も引つくるめて賠償に充てる金額として御予定になつたはずだと思うのでありますが、そのときあたりからすでにそういう何らかの一応の目途はついているはずです。その辺をもう少し具体的に御説明願いたい。
  67. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) これは繰返して申上げて甚だ恐縮なんでありますが、なかなか具体的と申しましても容易でない。そうして日本の経済力からいえば、先ほどのお話のように本当に困つている経済でありますから、なかなか自力で今賠償を思うようにとか、或いはこれだけ払えるというほどの力も私は本当を言えばないんじやないか。従つて賠償はなるべく一つ我慢をして、と言つては悪うございますが、小さなほうにお願いをしなければならない。が併し同時に他方に東南アジアその他の、賠償をしなくてはならん相手国には、いろいろともう迷惑をかけておると私は思います。それでこの御迷惑について、我々が賠償義務を誠意を以て果さしてもらう。更に又積極的にはこれらの国々と提携をして、そして国際関係を更に緊密にし、平和も確立をして行かなければならん、まあそういうふうに考える。で、なるべく我慢をしてもらわなければならんが、同時にお払いもしなくてはならん、こういうところが今日のまあ実情でございます。
  68. 岡田宗司

    岡田宗司君 只今の佐多委員に対する大蔵大臣の御答弁は極めて抽象的でありまして、まあ趣旨はわかるのでありますけれども、はつきりしたことを私どもは理解できない。そこでもう少し具体的にお伺いしたいのですが、この平和条約並びにこの賠償協力協定が効力を発生いたしますというと、直ちにこの賠償の金額等は予算に計上しなければならん。そういたしますと、三十年度の予算には当然現れて来るものと思う。で、この三十年度の予算に現われるものはビルマに年に七十二億円平均払うことになつておりますが、その七十二億円だけを予定するのか、或いは又前の平利回復善後処理費というようなことで百五十億ほど計上してありましたが、これはまあ漠然と賠償をも含むものとされておつたようでありますが、それを他の国々との間、例えばフイリピンや或いはインドネシアとの間に今後賠償条約が成立するというような場合のものを予想して、もつと大きなものを組み込むのか、その辺は三十年度の予算についてどういう御方針をおとりになるか、これをお聞かせ願いたい。
  69. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) そういう点につきましては丁度今事務当局とも話をして考えている途中にあるわけでありますが、それで私の考えを一応申上げれば、今度きまりましたビルマ以外の国につきましても或る程度の想定をして見たいと思つております。おりますが、これは併しそういう想定をしたからといいまして、それが日本賠償能力ではないのです。ただそういうふうな或る程度のものを実際の運用のために一応計上して置く、こういうことに相成ると私は考えております。
  70. 岡田宗司

    岡田宗司君 そこで或る程度というが、これはどのくらいかということを、もう一つ突つこんでお伺いしたい。
  71. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 今それを事務当局と私は検討をしておるわけなんであります。
  72. 岡田宗司

    岡田宗司君 この賠償の問題は先ほど佐多委員指摘されましたように、他の対外債務と言いますか、それの支払とも関係を持つわけです。そこで問題になりますのは例のガリオア等のアメリカに対するいわゆる債務の問題ですが、これは前の内閣におきましてこれを債務と認めてですね、そうしてまあ二十億ドルをどれくらい減らしますか、或いは七億ドルにするか、六億ドルにするか、まだはつきりしたものがきまつておらんように思いますが、これを債務と認めて支払うという問題とも関連して来るわけですが、大蔵大臣はやはり前内閣と同じ方針をおとりになつて、このガリオアの借金に対しましてお払いになる、返済をすると、そうしてこれについてその支払をどのくらいにするか、或いは又それと賠償問題をどういうふうにに関連……、まあ関連があると思いますが、その支払についてどうお考えになるか、そこを私は一つお伺いしたい。
  73. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) その御質問の点は恐らく外務大臣が御答弁なさる……、そういうことを言うと又叱られるかも知れませんが、外務大臣のところだろうと思います。外務大臣でそういうお取極めをすればまあ大蔵省としても考えなければなりません。
  74. 岡田宗司

    岡田宗司君 この問題についての交渉外務大臣になるかも知れんが、前は実質的には大蔵大臣が向うへ行つてお話になつてつたようだし、又例の池田・ロバートソン会談のときにもそういう所が話されておつたので、むしろ実質的には外務大臣でなくて大蔵大臣がいろいろとおやりになつたように私は思いますので、そこで大蔵大臣にお伺いしたいのであります。で、大蔵大臣に重ねてお伺いしますが、この点についての大蔵大臣の御見解を伺いたい。
  75. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 外務大臣もかわりましたから、新らしい外務大臣一つ相談をして見ましよう。
  76. 羽生三七

    ○羽生三七君 只今の御両君の質問に関連したことなのですが、仮にビルマとのこの条約が成立して正規の支払がきまつて来る、続いてインドネシアフイリピン等も追い追いきまつて来る、その場合にまあ先のことを申上げるようですが、前の内閣は一兆円以内の予算を言われ、それからあなたは九千億台という表現をされておりますが、そういう場合にこの種の賠償に必要な予算を一兆とか、或いは九千億の枠内にとどめるという場合に、内政費を食い込んで行くのか、或いは内政費は今まで通りとして、新たにそういうものはその枠外で予算編成を考えるのか、これは一般的な御質問ですから或る程度お答え願えると思うのでありますが、この種の、つまり対外的な賠償関係等の諸経費は、あなたが言われておる九千億台の枠内か、或いは内政費を食つて枠内にとどめるか、或いは場合によつてはその枠の外に出して内政費に影響のない形で編成をするのか、ビルマのことだけでしたら或る程度の予測はつきますが、一般的にはどういうふうにお考えになつておりますか、その辺をちよつとお伺いしておきます。
  77. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) それを今研究して苦労をしておる最中でありますから、いずれ成案ができますれば適当な機会に御審議を願うことと思います。
  78. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 どうもいろいろお聞きしてもはつきりしないのですが、もう少し具体的に……、ビルマ賠償経済協力の実施はきまつておる。そこで一体それではその実施に伴つて財政的な措置はどういうふうにしようとしておられるのか、金額の問題、或いは機構の問題、いろいろあると思うのですが、そういう点を大蔵大臣としてはどういう準備をしておられるのか、その点を先ず御説明願いたい。
  79. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) ビルマ賠償に関する限りにおきましてはこの条約義務を完全に果す、それが予算に関係する限り予算措置をとるつもりにしております。
  80. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 いや、その程度のことならばわかるのですが、もう少しそれではお尋ねしますが、問題は七十二億の賠償を出される場合には勿論平和回復善後処理費というようなものから出されるのでしようが、それは二十九年度予算からすでに実施をされるお見込なのか、更に三十年度予算からそれをおやりになるつもりなのか、そういう予算の関係はどういうふうにお考えになつておりますかということが一点と、もう一つは五百万ドルのうちの二百ドル、即ち七億二千万円、これは円貨貸付になると思うのですが、これらは財政措置としてどういうふうに処置しようとしておられるか、更にそのほかの三百万ドルですか、約十億程度のもの、これは直接投資なり何なりの形になると思いますが、これも財政的な投融資の関係でおやりになるのか、或いは民間の投融資というような形になるのか、その辺を大蔵大臣の財政的な措置としてはどういうふうにお考えになつておるのか御説明を願いたい。
  81. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 問題は三十年度の予算と、こういうことになると思いますが、今どういうふうな、例えば投融資などについてはどういう形でやるか、これは今のところまだきまつておりません。従つて御答弁申しかねます。
  82. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 すでに協定は成立したのだし、実施も間近に迫つておるので、そういうものを一応ラフにでもお知らせを願わなければこの協定なり、条約の審議にはならないと思うのですが、従つてそういう点をもう少しこれからやるのだというのじやなくて、大体の方針なり、構想はおありのはずですから御説明を願いたい。
  83. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) いや、決して作業していないとかというわけではありません。これは事務当局としてはいろいろやつておりますが、まあ御承知のように私もまだ一週間しか大蔵大臣をやつておらないのであります。従いましてそういうことは又新内閣としていろいろ検討も加え、関係閣僚とも相談をする、閣議にもということでありますから、ここで私は申上げかねる、申上げる段階でないというだけで、勉強していないというわけでは決してないのであります。
  84. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そうすると、その実施のために、例えば場合によつては、賠償処理の特別会計を作るとか、或いは実施の機関として一元的な総合的な、而も能率的なものという意味で、賠償庁というような特別な機関を必要とするというような問題も出て来ると思いますが、それらについては大蔵大臣としてはどういうふうなお考えですか。
  85. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) そういう点は十分考えますが、若しもいいお考えがありますればどうぞ一つお教えを願いたい。
  86. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 大蔵大臣の御出席の三十分というものはやや過ぎたのですが……、お尋ねがなければ、それではいずれ又おいでを願うことにいたします。
  87. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 どうも大蔵大臣に聞いてもはつきりしませんので、事務当局にお尋ねしますが、平利回復善後処理費を三十九年度予算を百五十億と見積もられたときのいろいろな想定なり、いろいろな予測はどういうふうにお考えになつておられますか。
  88. 正示啓次郎

    説明員(正示啓次郎君) お答え申上げます。当初の百五十億の平和回復善後処理費の見積りでございますが、この点につきましては、当時予算委員会その他におきまして、いろいろ御説明申上げましたのでありますが、これは佐多先生非常によく御承知通り、従来大体きまつておりました沈船引揚とかというふうな、まあ確定的な要素、これを主にいたしまして、そのほかに先ほど大蔵大臣も言われましたように、或る程度万一の場合に備えるというふうな考え方を入れまして、積算をいたしたのであります。その詳細の資料は当時お手許に差上げたかと思うのでありますが、大体沈船引揚その他におきまして、本日までに判明をいたしましたものが百五十億、積算の当時に比較いたしまして、まあ御承知のようにフイリピン賠償等の関係が遅れましたために、相当程度今までまだ未支出ということに相成つておるのであります。この点につきましては、当時の積算の資料は差上げましたのでありますが、従いまして或る程度変つておるというふうに御了解を願いたいと思います。
  89. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その沈船引揚その他のいろいろな予側は大体わかるのですが、そうでなくて、百五十億をきめられる場合にはそれだけでなくて、もつと各国に対する賠償も若干は目鼻がつくと、そういうものも入れて百五十億ということなんだというような御説明のように伺つてつたのですが、従つて百五十億おきめになる場合には、そういう賠償の、少くとも二十九年度に出て来ると想定をされるものは若干入つていたのであります。その若干を入れられる前提には一体賠償を年間どれぐらいと見て、これなら財政負担に堪えるというような判断があつたと思いますが、そういうものをどういうふうにお考えになつていたのか、その点の御説明を願いたいと思います。
  90. 正示啓次郎

    説明員(正示啓次郎君) お答え申上げます。賠償の能力という点につきましては、これは先はど大蔵大臣がお述べになりました通り非常にこれはむずかしい問題でありますが、差詰め昭和二十九年度の予算においてどういう見積りであつたかということでございますが、この点につきましては佐多先生がおつしやいました通りに或る程度の万一、例えばフイリピン、或いはビルマ等に対しまして早期に話合いがついた場合に備えるということは、確かに当初において見積つてつたわけでございます。まあ不確定な要素でございまして、この点は平和回復善後処理費の性格から、そういう種類の経費を或る程度見積つたと、国会においても大体御了承を得ておつたと思うのであります。大体この百五十億のうちで賠償というべきもの、先ほど申上げました沈船引揚等も含めまして大体百七、八億というくらいのものを最初に確かに見積つてつたのでありますが、このうち三、四十億は大体沈船引揚というふうなルーテイン的な賠償に充てる。そのほか若し話合いがつきましたらというような考え方で当時積算をいたしまして、予算委員会その他でも御説明申上げたように存じております。
  91. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その七十億程度の賠償予定をしておられるのですが、そういう七十億とか百億とかいうようなものを出される場合に、その基礎になる一体年間の賠償能力、財政的な見地から見る賠償能力というようなものはどういうふうにお考えになつたのか、或いはそのときまでそれほど確定的でなかつたとすれば、その後相当碓定的な数字があちらこちらで固まりかけて来ているので、それらを勘案して特に三十年度予算編成においてそういうものをどのくらいと想定しておられるのか、その辺の御説明を願いたい。
  92. 正示啓次郎

    説明員(正示啓次郎君) 賠償の支払能力を合理的に算定をして予算を組むという考え方は誠にその通りであるべきであると存じます。ただ御承知のように今日の財政は極めて難局にあるわけでございまして、特に昭和二十九年度におきましては海外のインフレ的な財政が急激にデフレ的に切替えられたというようなこと等もございまして、非常にこの点は苦労いたしたのでございます。併し一方先ほど大蔵大臣お話になりました通り東南アジアとの経済協力というふうなことの極めて重要なことに鑑みまして、先ほど申上げました通りに大体百七、八億というふうなものを一応の備えとして予定をいたしたのであります。幸い不幸か財政の立場から申しますと、或いはどうであつたか存じませんが、フイリピンのほうは御承知のように一応できかけておりましたのが、話が潰れるというような事態に立ち至つたのでありまして、これらの関係におきまして、今申上げたような始末に一応なつておるのであります。仰せの通り財政計画を作りまして、年々の大体の対外債務支弁力、或いは支弁能力というものを考えるべきであるという御議論は誠に傾聴に値し、又我々もしかあるべきであると考えるのでありますが、これは単に財政の立場、即ち歳入と歳出との関係のみならず、対外支払能力の問題にも関連をいたすことは申上げるまでもありません。そこでそれらの非常に複雑な問題にも関連いたしますために、私どもといたしましては、誠にこのむずかしい問題であり、結局におきましてはこの国会、或いは内閣政治的な御判断によつて最後におきめを頂く。併しながら、例えばビルマの場合を例にとつて申上げますならば、年々の払額をどうするかというふうな点につきましては、御承知通り、或る程度初年度、或いは次年度、三年度あたりはどうするかというふうな余地は、なお折衝として残つておるようにも処置をいたしておるのであります。財政の立場からも、できる限りそれらの点につきましては外務当局とも十分御連絡申上げまして、ここ当分日本の国民経済の再建という極めて重大なときでございまするので、そういう基本的な要請とも調和を図つて参りまして、適切な額に定められることを期待いたしておるような次第でございます。
  93. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 適切な額に定められることが非常に重要なことであり、又それを今もう少し具体的にせられなければならない時期じやないかと思うのです。で私たちがビルマその他の諸国から聞いたところによると、非常にこの日本側は、出すことを出し渋つておられるけれども、なぜそれ以上は出せないんだというようなことが、納得の行くような説明がどうも自分たちには聞かれないのが残念なんだということを繰返し言つておりました。そういう意味で、この相手方に対して何ら説得力がないんじやないか。私たち自身が国内において、私たち自身がどうもなぜその金額でいいと、或いはこれだけはできるのだというような決定をされたか、そこらが私たち自身にも納得ができないのだから、外国人にはもつと納得ができないだろう。今大蔵大臣は、何かまあやらにやならんのだけれども、困難だから適当なところで折合つてくれというようなことだと言つておられるけれども、子供に小遣いをやるときだつたつて、もう少し具体的な説得なり、話はするはずです。それがないからなかなか折衝がうまく行かないし、或いはずるずるになつてしまう。まだビルマのこの程度のものならばいいですが、今後フイリツピン、或いはインドネシア、これを納得せしめるには、相当いろいろなそういう問題が折衝されなければならない。特に私はこの基準でそのほかのものがどういう……、結果、比率的なものになつてきまるか知りませんが、これを土台にしてきまるとすれば、相当大きな賠償負担になると思うのです。それだけの賠償負担を負担するためには、他方においては、先も申しましたが、対米債務なり何なりは勇敢に削減してしまうというくらいの決意をお持ちにならなければ、我々日本国民は十年間に亙つて、或いは二十年間に亙つて非常に大きな負担を固定をされてしまうという結果になると思う。従つてそれらのことを考えますと、もう少しその点を具体的に事務当局としても作業をされるし、私たちが又そういうことを具体的に判断をする……、政治的に判断しろとおつしやるが、政治的判断をする前提条件なり、前提の資料をもう少しお整えにならなければ、私たちはそういう政治的な判断ができないというような状態じやないかと思います。そういう意味において、もう少しそれらの点を、今はもう間に合わないかも知れませんが、国会明けには早急に一つ、そういう作業も併せ行なつて、三十年度の予算の事務なり、何なりをされるように、この際厳重に要求をしておきます。外務大臣が見えましたから、私の質問は一応これで……。
  94. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 外務大臣がお約束下すつた時間よりも、五分、早目にお出でになりました。どうぞ。
  95. 岡田宗司

    岡田宗司君 先ほどの質問を続けます。  先ほど重光外務大臣には私がアメリカとの関係についてお伺いしたのに対しまして、アメリカとの協力関係について、何ら基本的に変るところはない。そしてこのソ連、中国等との戦争終結の状態をもたらす問題、或いはそれらの国との貿易の問題は、これはアメリカと話合えばわかることだ、こういう考えも当然あつたのであります。併し私はこれは相当重要な問題であると思います。なかなかそう簡単に行く問題だとは思わない。なぜなれば、アメリカが今までとつて参りました政策から見ても、ジユネーヴ会議以降におきまして、いわゆる平和共存というふうな問題が強く正面に出て参りましたにかかわりませず、東洋におきましては台湾問題というような大きな問題があるのであります。従つてアメリカの態度がそう簡単に変るとも思われません。従つて若し重光外相が今まで言明されたこの中ソとの戦争終結の問題、或いは通商の問題を強く実現されようとするならば、相当強い態度でアメリカへ臨まなければならんと思うのですが、その御決意があるかどうか、これを一つお伺いしたい。
  96. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私はそれらのことについては一つ十分自主的に外交を進めて行きたい、こう思つております。
  97. 岡田宗司

    岡田宗司君 次にお伺いしたいのは、昨年の秋、池田・ロバートソン公談が行われました。これが果してどれくらい政府を拘束する力を持つたかどうかということは疑問なのでありますが、とにかくその後のいろいろな経過を見ておりますというと、池田・ロバートソン会談によつて何か了解されたことが着々と行われているように思われます。特にいわゆる日本の自衛力増強の問題につきましては、あの後保安隊が一層軍隊化して、自衛隊というものになり、又その人員も殖えて参つたのであります。これが果して池田・ロバートソン会談の直接の結果であるかどうかということは、はつきり政府のほうでは言明しておりません。併し私どもはそう推定しておるのでございますが、この池田・ロバートソン会談によつて、伝えられるところによるというと、日本は陸上兵力を三十二万五千特たなければならないということが、向うに要求されるというようなことも、伝えられておるのでありますが、重光外相はやはり今後アメリカとの関係につきまして、この自衛力の増強の問題について、池田・ロバートソン会談の結果、吉田内閣がまあ了承してやり出したこの自衛力の増強の計画を、そのままお引継ぎになつてつて行くつもりか、或いは改めてアメリカとこの問題について何か話をされるつもりか、その点お伺いしたいと思います。
  98. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 池田・ロバートソン会談がどういう内容を持つてつたかということについては、私は十分にその引継ぎを受けておりません。恐らく引継ぐことは必要がなかつたのじやないかと思います。それが前内閣の自衛力増強にどれだけの影響を特つてつたかということも、私としては存じません。併しこれは将来のアメリカ関係において、いろいろ必要なことになるだろうと思いますからして、十分その点を調査する必要があると思つております。それから自衛力の点につきましてはこれはアメリカ関係というよりも私は在野時代から自衛の軍備というものは必要であるという議論、又考え方に立つております。日本が独立国である以上は自衛の権利もあり、又或る意味において義務もあると、こう思つております。そこで自衛力は、自衛の必要な軍備というものはアメリカ関係でなくして、日本自身として整えなければならない問題だと、こう考えております。併しその軍備というものは厳重に自衛の範囲に限られておるものでなければならん、いやしくもその範囲を越すものであつてはならんということも常に唱えておつたところであります。さようなわけでありますから、今日整えられておる自衛軍備がそれで十分であるか、或いは又行過ぎておるのじやないかということは、とくと日本の経済力その他から考慮してこれは定むべき、自主的に定むべきものである、こう考えております。
  99. 岡田宗司

    岡田宗司君 只今の外務大はの自衛力に関する御意見は、これはまあ在野時代からお唱えになつてつたところでありますが、これを具体的、現実的な問題、そういう具体的な過程として考えて見ますというと、あなたの言われておるような御意見でずつと日本の自衛が行われているのじやない。これが日米安全保障条約の前文に基いておるように思あれるし、又その後ダレス長官と吉田首相、岡崎外相との話合いに基いて進められておる、こういうことでもあるし、又MSAの授助、これがはつきり日本の自衛力の漸増と申しますか、防衛力の漸増を要求しておるものである、こういうような具体的な過程でできておる。従つてこの日本の今の自衛隊の問題については、依然としてアメリカとの関係というものは深い。私どもはそういう現実の問題から考えて、この問題について重光外相がどういうふうにお考えになつておるかということをお伺いした。そこでもう一つ具体的にこの問題についてお伺いいたしますと、本年の春の国会におきまして自衛隊の増強の問題が出まして、私は当時内閣委員でこの問題についてまあ論議をしたものの一人でございますが、その際にまあ日本の自衛力が増強されれば、アメリカはそれに見合うだけだんだん減らして行くのだ、こういうことを言われておつたのであります。又アメリカ側もそれをにおわせるようなことも言つておりました。又日本の自衛隊が増強されて北海道に一管区殖えましたときには、北侮道におるアメリカの陸上兵力が、それに応じてあたかも撤退するかのごとき印象を国民に与えた。実際は日本から撤退したのでなくて、ただその駐留地を東北に変えただけのことです。こういうような関係にあるのですが、重光外相はこの点について、例えば日本の自衛力の増強は同時にアメリカの陸上兵力或いは海上、空事、そういうものの日本からの漸次的撤退ということと関連があり、又日本側において自衛力を増強というような立場をとるときには、それを撤退せしめる交渉をすべきである、そういうふうにお考えになつておりますか、この点をお伺いいたします。
  100. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 誠にお話御尤ものように伺いました。私の今申上げたことは、何というか根本の気がまえのことを申上げたのであつて、或いは御質問の趣旨に十分副わなかつたかと思われます。無論この問題については、MSAの問題等がございまして、アメリカとの関係、それは安保条約から来る、つまりアメリカとの共同の安全保障というような点から来るわけでございまして、無論アメリカの関係かございます。そこでいろいろ交渉が続いて来たかと思われますが、アメリカとの関係はこれは十分に維持し、又交渉しつつ進まなければならんことも、これは言うを待たんことでございます。併し私は根本の問題として、自衛軍備は、日本の自衛のために必要なものは日本が特つべきである。併し共同の安全保障から言えば、国防等は無論国際的に考えなければならんところが多分にある。そこで自分の義務を果すと同時に、直接日本に共同の安全保障上必要として常駐されている他国の軍隊は、できるだけ早く引揚げてもいいような態勢をとらなければならんと、こう思つております。併しこれは国際関係の大局に直接結び付くことでございまして、ヨーロツパ方面においても御承知通りに、他国の軍隊を自国に駐屯せしめるということは、普通の例になつております。従いまして、それを特に情勢の許さぬにもかかわらず、それのみを取上げるということは、果して日本の国防上どうかと考えます。そこでそういうようなことは、一般国際情勢に照し合せて見て、できるだけ自国の防衛について、他国の力を借りることの少いように努めて行く。こういう大体の考え方によつて進むのが一番適当であろうと、こう考えております。
  101. 岡田宗司

    岡田宗司君 吉田内閣の下において、これは吉田首相も、又木村防衛庁長官も内閣委員会において、今後増強計画をやるときには、それに見合うだけのアメリカ軍の撤退を交渉をするつもりであるということを言つておるのであります。私ほしつこく、それじや一体三十年度において更に増強計画があるということだが、それが実現されるようなときには、交渉するのかと言つたら、三十年度の五月頃に交渉するというようなことを、はつきり木村防衛庁長官は言つておる。これは速記録に載つております。吉田内閣でさえそういうふうな態度を或る程度示しておるのであります。重光外相が、いわゆる在野時代から御主張になつておりますところの本当の自衛軍を持つということになつて参りますれば、その増強をこの内閣がやるということは、同時にアメリカに対して具体的に、それに見合うだけの軍隊の撤退ということを要求するということはあり得ることだし、又なさなければならんことになるのじやないかと思うのです。この点若し今のようなお答えだとすれば、これは吉田内閣のときに議会で言明されたことより、更に後退しているように私には思われるのですが、その点如何でしよう。
  102. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 果たしてそういう具体的の問題について今交渉を開始するということを今私ははつきり申上げても実ほそれは少し言い過ぎることになると思います。私の今申上げたのは、さような全般の国防、即ち安全保障の問題についてとくと審議をして、そうして自分の国の安全保障と申しますか、国防と申しますか、それについては十分自衛の準備を整えて、それと同時に、余り他国に世話にならんようにするという、こういう一般的の考え方ははつきり申しております。従つて将来日本の自衛力が更に増強されるというようなことがあつたならば、無論私は米国の関係をも考慮して交渉するという段取りにも行き得ることだろうと考えております。又それを希望するわけであります。それを今、それでは来年度どうするかと言われるというと、これは私が今そのことをはつきりお答えする、交渉するというふうにお答えするという用意がないと申上げても、これはお怒りになることはなかろうと私は考えます。今お話がありましたがこのアメリカの軍隊の撤退のこれまでの交渉のごときは、日本側から要請するというよりも、アメリカ側が情勢を見て早く撤退したい希望によつて行われておるものであるという実情であるそうです。これを附加えておきます。
  103. 岡田宗司

    岡田宗司君 アメリカ側の希望云々ということは別問題として、こつち側でやつぱり成るたけ早く独立を回復するためには、撤退させるという態度をとることが必要なんじやないかということで、まあ私が質問したわけなんですが、まあこれはこれくらいにいたしまして、次にもう一つお伺いしたい点は、台湾政府との関係の問題であります。これは御承知のように、アメリカは中国の正当の政府として台湾の蒋介石政府承認し、これを支持しております。そしてこれと相互防衛条約を結んでおる、こういう関係であります。今日台湾の解放の問題につきまして中国がなかなかきつい態度をとつておる。従つて台湾問題は、朝鮮それからインドシナの休戦後において最も危険な問題と言うことができる。而も我々の極めて身近にある問題なんである。台湾の問題につきまして、この間から鳩山首相なり重光外相なりの中ソとの戦争終結の問題、或いは中国との貿易の拡張等の問題について台湾政府は非常に神経過敏である。これはもう争えない事実であります。これを進めて行けば台湾政府との今までの関係というものはまずくなる、これは当然だろうと思う。恐らく台湾のほうの側で今度の鳩山内閣やり方に対して今までと違つた見方を持つて来るだろう。そうして台湾政府との関係というものもおのずから変らざるを得ないのですが、この点について若し中ソとの戦争終結、或いは中ソとの貿易の拡大というような方法をとつて行つた場合に、台湾政府との関係はどういうふうにされるつもりか、これをお伺いしたいと思うのであります。
  104. 重光葵

    国務大臣重光葵君) この問題は実に重大な問題であるということは誠にお話通りだろうと思います。台湾は元日本の領土で、それが今一つの独立政府の殆んど唯一の領土となつているような状況でありますから、この台湾の問題は東亜方面における大きな問題となることは当然でございます。併しその台湾政府日本との関係は今日すでにはつきりときまつておることは御承知通りであります。台湾政府は、日本政府か中華民国の政府としてこれを認めておる。そうしてその状態は、国際連合に加入している大部分の国も同様な態度をとつて、その重要な国にアメリカがあることも御承知通りであります。そこで日本は国連との関係を非常に考慮しなければならん、又国連に成るたけ早くから早く加入したいという希望も従来たびたび表明して、特に国連最も有力なアメリカとの関係ということは考慮しなければならん、その米国は台湾政府、即ち中華民国政府との間に、政治上のみならず軍事上、殆んど何と申しますか、一つの体になつているというような状態であることも御承知通りであります。併し台湾政府の問題は、何びともこれは知つている通りに、世界に亙る共産陣営と民主陣営との争い、即ち冷い戦争の一つの大きな見本的の争いになつているわけでありまして、それがために中国が事実上台湾と大陸とに分かれております。さような大きな世界情勢と密接な関係を持ち、更に又国際連合、日本と米国との関係等に密接にこれは繋がつている問題であるのであります。そこで台湾との関係を処理するのには、どうしてもこういう全局の国際的の現状を見て処理する以外に方法はないと思います。ところが世界のこういう大きな形勢はどうかというと、私ども見るところでは、少しずつ変りつつあるように思われます。その変りつつある結果がどこに落ちつくかということは、それは別といたしまして、将来非常に変るということの何があればこの日本の今日持つておる台湾との関係も変らなければならない、こう思うのであります。そこでそういう世界形勢に反し、若しくはそれと全然離れて、台湾政府との関係日本自身が離れて一人で処理するということは果してどうであろうか。暫らく一般形勢の推移を見守りつつ進んで行かなければならんのじやないかと、こういうふうに考えておるのであります。のみならず、台湾政府関係を今すぐ変える方針をとる場合において、さような大きな方面、国際連合とかアメリカ方面とかの重大な、日本の根本的に考えて非常に重要視しなければならん外交関係に打撃を与えるということだけじやなくして、今まで中華民国政府として承認しておるものを、これに対する態度を変えるということは非常に大きな結果をもたらす、ただ台湾政府に対するのみならず全般的にこれは打撃を受けることであります。併しまあ打撃を受けて他の得る利益がそれだけ大きければそれでいいというようなものでありますが、併しかようなことは今内閣変つたからすぐどうするというようなことを声明し、若しくは決定すべきものではないし、慎重にこれは考究をして進んで行かなければならん問題だと、こういうふうに考えております。
  105. 岡田宗司

    岡田宗司君 台湾の問題について非常に慎重な御発言でございますが、先に言明されました中ソとの戦争終結の方向への努力、或いは又中国との貿易の拡大ということになりますれば、これはこちらが非常に慎重であつても台湾政府自体の日本に対する態度が変つて来るというところから問題が変化して来ると思うのでございますが、その際に台湾政府日本に対する態度が変る、又日本と台湾の関係が冷却してもこれは世界情勢の変化、或いは日本の今日の外交上の必要というところからこういうような若干の変化は冒して、冒してというか、止むを得ないことであるという態度でお進みになる。この点は、吉田内閣と違う点だというふうに理解してよろしうございますか。
  106. 重光葵

    国務大臣重光葵君) そういうふうにお考えになるのも私は止むを得んと思います。併し私は実はそういうふうには考えてはおらないのでございます。それはどういうことかというと、これはこの前も御説明をいたしたと思いますが、台湾との関係でこれは今申す通りに現状はきまつたものがある、併し支那大陸において、中共の権力の下に支那大陸の大きな地域、支那大陸殆どにおいては中共という権力者の下に置かれておるというこの現実は争うことはできません。そうしてその状態は、台湾政府日本国政府承認をいたしましたとき以来その形勢はますます進んで来たわけでありまして、これは大きな変化であります。その現実は台湾政府といえども、これは敵味方の関係にはなつておりますが、併しそれと同時に敵見方の関係になつておるくらいにその何は認められておるわけであります。そこでその中共の地域と日本との経済的に有無相通ずるという方法が少しでも行くということは、日本利益でありとすれば、それはいいことだと考えております。これも仰せの通りであります。そこで台湾政府としても実際手の届かんところにそういう大きな権力地域がある、たとえ敵味方の関係になつてつても他国が条約義務の範囲内においてやるということについては、或る程度まではこれは私は了解をしてもらわなければならんことだと……尤もそれが進むに従つて台湾政府としてはそれを好まないでありましよう。今日においてもそういう貿易を決して喜ばないで妨げるというようなこともあることを私は聞いております。十分にはまだ承知しておりませんが、聞いております、ただあるだろうと思う。併しこれは支那には従来ともずつとあつたことです。かような大げさなものでなかつたかも知れんけれども、従来支那には各地域で権力者が分れておつて、満州は満州、福州は福州というように、或いは地方の省は省に分れておる。そうして始んどこれが敵味方の関係、内乱関係にあつて、そのときに外国はどうしたか、日本はどうしたかというと、やはり両方に、商売は無論のことであります、実際上の政府として実際的に取扱うということは従来例があるのでありますから、これはそう私は台湾政府との関係を根本的にそれがために変えなければいかんとか、それを傷付けるものであるとかというふうには考えておりません。それは十分に調節ができるとも私は言う自信がないのでございますけれども、十分そういう点は理屈もあることでありますから、了解さして進める方法もあり得るんじやないかと、こういうふうに考えております。
  107. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 岡田委員あと二分……。
  108. 岡田宗司

    岡田宗司君 そういたしますと、日本と台湾政府との間に結んだ平和条約は、その台湾政府の領土と申しますか、その領域を現在の政権の力の及ぶ範囲に限つて、それ以外はまあ日本側としては台湾政府の領域と認めてない。で現在外相お話ですと、日本承認してないけれども、事実上の政府ということは……中華人民共和国は事実上の国である、こういうふうに認めておられる。アメリカもこれはジユネーヴ会議等において事実上そうせざるを得なかつた。こういうようなことからまあ台湾政府は中国全体を支配する政府でなくて、現在の台湾政府の及ぶ地域内を支配する政府である。又他はこれは日本承認していないけれども、中国の大部分を支配する政府である、そういうような地域である。従つてこことその関係を調整し、或いは貿易を発展させるということは何ら矛盾するものでない、こういうふうにお考えになつておると解してよろしうございますか。
  109. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 大体そういうふうに考えておると申上げて差支えないようでございます。念のために私の意見は私の言葉説明したと、こう御了解を願いたいと思います。
  110. 岡田宗司

    岡田宗司君 次にもう一点。これは例のSEATOに関する問題でございますが、SEATOができまして、アメリカは恐らくきつい軍事同盟にするつもりだつたでありましよう。併しイギリス等の反対によりましてSEATOはその点で余りきついものではなくなつた。併しながらアメリカはやはり東洋におけるアメリカの軍事的地位強化のためにこれを更に強化する方針をとるだろう。又このSEATOの範囲に含まれない国、例えば台湾とか日本と韓国とかいうものに対しても軍事的な関係の強化を図る、こういうことは予想されるわけです。すでに台湾との関係は強化されておる。又韓国との関係も強化されておる。日本に対しましてやはり韓国或いは台湾との関係のようなきつい相互防衛条約を求めて来やしないかということが私どもには懸念されるのであります。日米安全保障条約が結ばれておりますけれども、これはまだアメリカから見れば極めて弱いものである。日本の自衛力の増強と同時に更に強い相互防衛援助条約を要求して来るのではないかということが予想されるのですが、これに対して外相は如何なる御見解を有するか。
  111. 重光葵

    国務大臣重光葵君) SEATOは、これは御承知通りに、アメリカの東洋における集団安全保障、それは共産陣営に対抗する意味を持つものであるということは、これは言うまでもございません。アメリカとして共産党の進出を防ぐためにはかような考案をするということもよくわかるのであります。而して又日本が東亜の地域において有する地位、特にアメリカとの安全保障の共通点を認めておる地位からこれにも重大な関係を特つことは、これは争われんことだと思います。併しながら日本が現在アメリカと共通に持つておる責任、これ以上な責任若しくは、或いは強さの度合いにおいて以上と言わなくても広さにおいて或いは以上になるかも知れない、そういう責任を具体的に負うということを決定するのは、私はこれ又安全保障の全局から見、国の進むべき根本方針から考えて見てよほど慎重にこれは考慮しなければならない。又相手国の要求をも考慮して進まなければならないので、今一律にこれに対する結論を申上げることは無論できない話です。よほどそういう全局面から見た考慮を尽して行かなければならん、こう思うのであります。ただ私は、SEATOもいろいろありましようし、考案を十分検討も何もしないで、私の自信を以てどういう考案があるかというその内容についてまで考慮するところまでまだ行つておりませんけれども、SEATOの中には、多分に、共産党の進出を防ぐためには、ただ軍事的方面だけではいかん、アジアの社会、民生の安定、生活程度の引上げというような大きなことも、大きなことと申しますか、軍事以外のこともこれに含めて処理して行くのであるというようなことを聞いておるのでありますが、若し果してそれが事実であれば、私はそういう方面のことは非常に結構なことだと思つているのです。そういう方面の東亜の貧弱なる民生の向上を将来図つて行く。これは私は、どうしても日本としても余力があればできるだけそういう方面に力を尽して行くべきである。こういうふうに考えておるので、若しSEATOの、そういうような部面は私は実はまだ何も慎重に考慮したわけではございませんけれども、大変結構なことだと考えておるのでございます。今私の申上げたのは、マニラでこしらえられた条約の第三条にはつきりあるのは御存じの通りでございます。そういう方面のことは、私は大変結構だと思いますが、併しこれは軍事方面のことがあるのだろうと思いますが、無論そういう軍事方面のことに関係を持つ以上は慎重に考慮しなければならない、こう先ほど申上げたようなことを繰返したいと思います。
  112. 岡田宗司

    岡田宗司君 もう一点だけ。SEATOほ今の加盟国を殖やすか殖やさんかということは日本関係するわけでありますが、日本がSEATOに直接関係するかしないかの問題でなくして、先ほど私後段でお伺いしたいのほ、韓国、或いは台湾と同じように、もつと高度の、或いは強い相互防衛援助条約というようなものを日本に要求して来た場合にどうするか。外相は、現在のところ日米安全保障条約以上の軍事的義務を負うものを作ることを欲せられない、これは現在必要ないとお考えになるかどうか、こういう点を一点お伺したいと思います。
  113. 重光葵

    国務大臣重光葵君) その点についても、今のところ私の態度は、そういう問題があつたときに慎重に各方面の材料を集めて考慮しようというふうに態度をとるべきだと実ほ考えております。甚だ御貿問には直接に御満足の行くようなお答えでないと思いますが、私ほとくと考えたいと思います。
  114. 曾禰益

    ○曾祢益君 私は重光外務大臣御就任の早々のことでもありますから、本来ならば休会明の劈頭に行われるであろう外交方針演説を承わりましてから、十分に御意見を伺い、又御質問申上げたいと考えておつたのでありますが、今日かような機会が与えられましたので、若干の外交方針について御教示を願いたいと存ずるのであります。  第一に、実は今朝ほど同僚の委員の諸君の質疑応答に当りまして、特に小瀧委員の御質疑に当りましては、今までの自由党吉田外交と新らしい重光外交との異同についての一般的、やや抽象的な御議論があつたと思うのですけれども、この点については私は確かに新内閣鳩山総理及び重光外務大臣のとらんとしておられる態度、それが公表された分が多いのですが、これらの点から考えて、少くとも外交を処理するに当つての心がまえというものは非常に私は違つておるのではないか。例えば自主独立という点を強調されておる。更には国民の納得による外交、こういう点を言つておられます。又私は恐らく今までのその都度外交ではなくて、やはり外交には調査と企画性がなくちやならないということは、重光大先輩のかねての御主張でもあろうと思います。私はそういう程度の違いというものは、これは自由党の諸君を前において確かに気がまえにおいて国民にアツピールするものが私はある。例えば鳩山さんが大衆の中に溶け込んで、或いは法律的に見ると言い過ぎかも知れないけれども、中国との問題において、それは独立国でありますと言い切つたところなんかも、態度としてはいいと思います。又重光大臣が本委員会におきまして、外交に対する問題の国民に対する徹底は、国会を通じてやる、今日の貿疑に対する応答振りを見ましても、極めて誠心誠意、且つ親切に御答弁になつておられると思うのであります。そういう点は十分に私たちもこれを評価して行くべきだと思います。ただ併し問題は気がまえだけではなくて、現実に具体的にどれほど今までの吉田外交と違うのか、ここにやはり大きな問題がかかつておると思うのであります。そこで我々が得た印象からいいますと、例えば鳩山総理の言われたことをあと重光大臣がそれを訂正されておるというような問題も起つておる。更には又これも衆議院では言い尽されたことだと思いまするが、やはり私は国民に納得を求めるという場合に、この前これは新聞の取上げ方の問題でありましようが、大臣が御就任早々、外交四原則と、そう四原則と言つて説明されたかどうか知りませんが、極めて簡単ではあるが、外交に関する四つばかりの方針を示された。併しその原則の示し方だけでは極めて抽象的であつてはつきりわからない。ところが一方においては外国通信社に対しては、かなりそれらの点について詳しい意見が示されておる。而も詳しいだけでなくて、見方によつては、これが非常に意味が違うのではないかと思われるようなふしすらある。こういうふうにまあ我々は考え、又有力な新聞もそういう点を指摘しておるようなわけであります。まあそれらの内容について一々申上げませんが、いわゆる内外使い分けというようなことであつたならば、本当にやはり国民の納得の下における外交ということには私はならないのじやないか。これは組閣早々の際でもあつたので、かようなことが起つたと思うのですが、今後はかようなことなく、やはりすでに国会における貿疑も始まつておりますが、今後の行き方としては外交の基本方針は国会を通じて発表して頂く。それの外国向けの説明については、これは外国向けの説明の仕方もありましようけれども、重要な点において、例えば共産圏に対する非常な警戒的態度が外国には示されておるけれども、国内においてはまあ鳩山総理の持つているようなまるみだけでやはり共産国ともただ仲よくして行くのだというようなことは、これは非常にミス・リーデイングであり、又一面から行くと如何にも無責任な実際は政局担当の、この外交の重要な任務に当るのは選挙後である、選挙前には成るべく都合のいいやわらかい線だけを出しておくというような非難をこうむつたのでは、これは今朝ほど小瀧君も言われましたが、これは申上げるまでもなく、外交の重要性から見て適当でない、かような意味におきまして、この内外に対する説明の一致という点について如何にお考えになるか、この点をお示し願いたいのであります。
  115. 重光葵

    国務大臣重光葵君) この点については随分衆議院委員会でも、本会議でもやかましく私言われた点でございます。併し新内閣方針として発表したものは一つでございます。それはここにあります。これは新聞に全文出ております。併しその前後に私は民主党が若し政権をとればどんなことになるのかと、非常に外国においてそれに対する危惧の念があつたことは恐らく御承知通りだろうと思います。私はかような国内の政変のある場合に、国の対外方針について不当な誤解を外国に生むということは非常に不利益だと、私が外務大臣として責任を持つ持たんは何もきまつておらなくても、民主党の首脳部として、民主党が政権をとる場合にはこれこれのものであるということを十分にこれは説明をしなければ、とんでもないことになりやせんかということを恐れて、のみならずそれは私の気持だけでなくして、外国の新聞記者ほ頻りにそれを恐れて私に聞きに参つたのであります。聞きに参つたその外国の通信員に対しては、私の考えをいろいろな問題について十分に説明をいたしたのであります。その説明を一括したものがそのときにあつたのであります。併しその説明を一括したものからそのエツセンスをとつて、実は内閣声明としてこれを発表したことになつておるのであります。そこで、それじや外国人に対しては詳しい説明をして、新内閣方針としては簡潔なものを出した、これは不都合だと言われるかも知れませんが、併し私はさような趣旨で、不当な誤解を外国人に与えないがために丁寧懇切に私の考えを申述べるということは私は適当であつたろうと思う。その結果はどうであるかというと非常に誤解を招いておつたことも漸次氷解をしたような効果は確かにあつたのでございます。  それから又更に申上げますが、この日本の側に対する説明は、新聞記者各個に説明をしておるのは、これは外国の新聞記者に説明をしておる分量と少しも違いはございません。若しくはそれ以上に説明をしておるのでございます。併し政府の、新内閣外交方針として声明したものは極めて簡潔になつております。それでその簡潔になつておるやつをそれ以上に新聞記者に説明をしたのは不都合であると、こういうお咎めもないでもないだろうかと考えます。私はこれは実はいろいろた場合において国家利益のために不当な誤解を与えしめないように努力することが、責任の地位にたくつても、党人としても私は適当なことであると信じてそれをやつたわけであります。それは決して内外に対して使い分けをしておるのでも何でもございません。これをよく御覧になれば、今私の説明したことはよく私は十分御了解を得ると思います。この通りに……、私は実はこ委員会でも説明をしておるのは殆んどこの趣旨に副うておる。それから又言葉も副うておる。その通りにやつておるのであります。さようなわけで、内に対しても、外に対しても何ら異なつておるところはない。若しそれが異なつたとすると、こういう効果的でない説明の仕振りはないのであります。外交のなには横文字で言おうが、縱文字で言おうが、それはすぐわかることであつて、内外これはもう同じ言葉を使わなければこれはいかんことは当然のことであると思います。併しそれを、そういう危険を冒して私はそういうことをやる意思は少しもございません。のみならず、国内において了解させることは、外国においてよく了解することであつて、それはもう内外少しの区別もない。区別してはいかないのであります。併したがらその質問の提起の仕方その他によつて、おのずから又外国の新聞記者の質問の提起の仕振りと国内の新聞記者の提起の仕振りとは違います。違いますから、従つて説明の仕振りも或いは詳しかつたり、或いは短かつたりします。併しそれは説明の技術であつて、本質的の問題でないと私は信じます。私は内閣声明として十二月十一日にいたしたのがこれが唯一の声明であります。あと説明をいたしたのであります。それを集めて外務省では文書、刷り物にしてあることもこれも事実でございます。併しそれは私の見るところでは、何もこれに対して矛盾性は少しもないと、こう考えております。
  116. 曾禰益

    ○曾祢益君 それは御説明の趣旨でわかる点も多いのですが、要点は、外国に対する完全な理解を求める説明の必要をないと言つておるのではなくて、まあ私の見るところでは、これは新聞の取上げ方にも問題があつたでしようが、併し一時的にもせよ、外国に対する説明は、主として英米向けの説明であり、国内のほうは必ずしもそれとは調子が違つた自主独立の外交、それから共産圏に対する一つの何と言いますか、オーヴアチユアと言つては語弊があるかも知れないが、何らか共産圏とも仲よくして行くのだ、これは鳩山さんの言葉ですが、そこに感覚のズレがあつて、一時そこに少くともズレを生じた感じがあります。従つてその後の国会における外務大臣の答弁によつて大体今はバラソスがとれて来たように思います。従いまして今後、特に外務大臣もみずから言つておられるように、民意の尊重の見地から説明振りについても内外同時且つ平等の取扱をやつて頂ければなおいいのではないか。これは希望として申上げておきたいと思います。  そこでさような問題は別といたしまして、実際的な問題であります。これもすでに衆議院においても、なお本院におきましても、昨日から同僚各委員の御貿問等によつておおむね明らかにされた点も多いのでありますが、重複することがあつてもお許しを願いたい、重要な問題でありますので。そこで先ず共産圏との関係なんでありますが、共産圏との関係において二つの私は考え方がある。一つソ連との関係から戦争終結、平和国交回復のほうをやつたほうがやりよいのか、或いは中国——中共でありますが、この場合は中共ということになりましようが、中共との関係からやつたほうがよいのか、これはなかなか情勢の変化、推移等も考えなければいけませんが、なぜ私がそういうことを申上げるかは大臣も御承知通り。つまり台湾問題等の関係がありまして、非常に法的に、条約的にむずかしい面も中国側はある。併し国と又国民という立場からすると中国のほうが近いような感じがするというようなことが考えられる、極めて抽象的ですが。そこでその点はどういうふうにお考えになりますか。ソ連との関係のほうが或いは平和国交回復或いは戦争終結の手として早いのか、或いは中共のほうが手取り早いのか、この点はどういうふうにお考えになりますか。
  117. 重光葵

    国務大臣重光葵君) お話通りに中共との関係は先ず台湾問題というややこしいことがあつて、いろいろやはり複雑な検討をしなければならんということがあることは、それは事実私もそう恐思います。ソ連との関係はそういうものはない。そういうものはないけれどもソ連との間においては、又御承知通りに領土の問題すら十分な双方にこれまで理解し得る状態に達しておるとはまだ言えんのじやないかと思います。それから又抑留者の問題もまだ少しも解決をしておらん。随分それも故障があると思います。併し中共もソ連も共産国として最も有力なものであつて、民主陣営と共産陣営とが今の軋轢と申しますか、冷い戦争と言われておる、この世界中をゆすぶつておるこの関係が漸次これは将来は私は改善される方向に向くべきものだと、こう考えております。果してそうなりますかどうか。併し私はそういうふうに向くことがいいんだ。それがどういうテンポで進むかということは、これは日本の力としては何もこれに貢献することが少くとも非常に少いものである。その世界の動きに従つてソ連との関係、中共との関係というものは支配されるのであつて、これはどちらが取扱がいいかということは、私今日としても殆ど見当がつきません。
  118. 曾禰益

    ○曾祢益君 確かになかなか両方ともむずかしい点もありますし、これは本当に共産国との間にも、吉田外交みたいに、共産主義国だからお付合いしないというような単純な考え、或いは懸案を全部解決してから来いとか、中ソ友好同盟条約を破棄してから来いとか、そういうかたくなな態度をとらないで行くのが方針であるとするならば、それぞれの機会を捉えて、やはり日本の自主的な立場からの国交調整の努力をしなければならないことは、これは大臣も御同感であろうと思うのであります。そこで取りあえずソ連モロトフ声明と言いますか、あの前からも観測気球が上げられておつたわけですが、ああいう問題に対して私たちが大臣のその慎重な態度で、領土問題もあるのだ、いきなり領土問題もあるのだぞと言えば、これは話をぶち壊すようなものだ、又向うの意思もはつきりと、然らばサンフランシスコ講和条約はどう考えるか、日米安保条約ほどう考えるか、或いは日本の自衛或いは安全保障の体系について話を始めてから難問題を起されては困る、いろいろな考慮があるべきことは認めますが、併し、やはりこれが今大臣が希望されておるように、世界の緊張が緩和の方向に向うと、それにはソ連の意思というよりも、いろいろ置かれた国際情勢、国内の困難等もありましようが、或いは東で軟く、西で強くというような方針もありましようが、とにかく向うの出した手に対して、ただやはり慎重にかまえるというのでは、実質的に今までの吉田外交と変らなくなるのではないか。であるから、日本から適当な方法で、例えばこういう然らば条件ならどうか、一部の国論の中にもありますように、これは素人議論でありましようが、少くとも領土問題に触れたら話はなかなか困難だ、平和条約ということになればサンフランシスコ条約なのか、それともサンフランシスコ条約をぶち壊す内容なのか、或いは我々が唱えているように、日本とインドの間のような条約なら差支えなかろうとか、或いはそこまで行かないにしても、じや、ソ連に対しては取りあえずお前のほうで戦争終結宣言をやつてくれるかというような行き方もあるのじやないか。要はモロトフ声明大臣も言つておられますように、一つの進歩である、それならそれにインカレツジして、而も自主的な方向に持つて行くような対案と言つては言い過ぎかも知れませんが、一つ方向をヒントするようなことまで踏み込んで行くところで初めて私は鳩山総理、或いは重光大臣が言われる、又国民の圧倒的な多数が期待している吉田外交の相違が現実化して行く、又それなくしては小瀧君的な表現をすれば、これは何ら自由党外交と気がまえは違つても、内容は違わないじやないかという非難をこうむるのじやないかとも、かように考えますので、非常に前置きが長くなつて恐縮ですが、このモロトフ声明に具体的に応えるような手をお打ちになるお考えはないか、この点をお伺いしたい。
  119. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私は手を打つておると思つておるのであります。併しそれは例えば私が今までの何より一歩前進したのであるという意思表示をすること、それ自身も相当大きな反響があると思つております。併し今お話のようにそんならすぐ交渉に入る……、今のお話を煎じ詰めればすぐ交渉に入つたらいいじやないか、こういうことに帰着するのじやないかと思いますが、これはいろいろその前の準備というものがなければならんと思います。私は一つの前進と思つて考えていることであつて、それ以上にそれに対してどういうふうに、今こちらからでも具体案を聞くとか、こつちから出すとかいうようなことをするというようなことを申上げるわけには参りません。それだけ申上げておきます。
  120. 曾禰益

    ○曾祢益君 私はこの点はもう詳しく申上げることによつて、折角重大なときですから、手を縛るような結果になつちやいかんと思いますから申上げませんが、私は交渉に入るということを申上げたのでありません。何らかのやはりトライアル・バルーンをもつと積極的に上げることもありはせんかということを申上げたつもりです。  次に中国関係でございますが、これは私はやはりこの前、三年前のクリスマスのときに、吉田さんがダレス長官に与えた一つの約束というものが、これが又条約の形で日華平和条約になつている。このことがやはり非常に大きな一つの公的な既成事実であるので、如何なる政府といえどもいきなり条約を無視するというようなことは許されませんので、まあ一つの大きな沢庵石になつていると考えるのでありますが、併し基本的な考えは、外務大臣は特に中国と永遠の友好と平和ということについては、これは身を以て体験もされ、非常な熱意を持つているかただと思いまするから、私は申上げるのであります。でありますからやはり中国との関係は、やはり中国の本当の主人、現実の主人というものとの関係を重心に置いてものを考えて行かなくちやならん、かように私は大臣もお考えのことだと思うわけです。その場合に、その既成事実というものがどの程度の邪魔になるか、更に国際関係日本と中国だけの関係なんかあり得ない、日本とアメリカの関係等も勿論考慮に入ることは当然であります。基本的には今までのダレス・吉田書簡の中の、例えば懸案を解決して来なければ駄目だとか、日本を敵国扱いにしているから駄目だ、共産主義国だから条約締結せん、そういうものにとらわれるのじやなくて、まあ吉田書簡でも第一項国に言つているような中国との永遠の関係考えて行く、この基本線で考えて行くというのが、基本的なお考えではないかと思いますが、その点をたびたび申上げて恐縮でありますが、もう一度伺いたいと思います。
  121. 重光葵

    国務大臣重光葵君) これは中国との関係、その中国が何を指すかということは暫らく第二の問題として、中国との関係、特にこの支那民族との関係、これはもう私は日本としては切つても切れぬ関係であつて、支那民族と日本民族との関係係を融和することにすべて努めなければならん。どうしてもこれは十分の考慮をこれに払わなければならんというその根本の問題については、全くお話通り、多分そういう御趣旨であつたと思う。私はこれはもう最も重要な面として、外交関係においても考慮しなければならんことだと、こう思うのであります。そこで実は非常に困るのは、中国の今の内乱とは申しませんが、理論から言えば、従来もう中国の内乱に悩み抜いたその経験を活かしてですな、実はこれにはもうできるだけ中国人によつて解決してもらうよりほかに途はないと思うのです。併し今日までその内乱の、内乱ではございませんが、中国自身から見ると、過去の内乱のなにを、これをそのまま移して考えてみてその経過の上で今後どうなるかわかりません、そのほうの関係がどうなるかわかりませんが、併しながらその経過の途上において日本は台湾政府承認して、まあお話通りの吉田書簡まで出ておるわけであります。そうであるとすれば、この書簡の趣旨も十分に考慮に入れなければならんということは、これは私は当然のことであると思う。その書簡のうちには「日本政府は究極において、日本の隣邦である中国との間に全面的な政治的平和および通商関係を樹立することを希望するものである。」というのが一番先に書いてあります。この中国というのは、まあ私支那民族全体のことであろうと考えます。それは私はこの趣旨は非常に結構な趣旨、こうでなければならんと思います。いろいろなにはありますが、「従つて正常な関係を再開する条約締結する用意がある」として、この条約が台湾政府との間に結ばれたのでございます。併し最後には「わたくしは、日本政府が中国の共産政権と2国間条約締結する意図を有しないことを確信することができる。」と、こういうふうにあるので、その当時の情勢を反映したものであつて、その後の形勢の変化には何ら拘束されないのであると、こういう議論も立ちましようが、まあこういう書簡がある以上は、一応この趣旨は十分に尊重するということが、国際信義の上において当然のことであろうと、こう考えるのでございます。併しこの根本の趣旨として「究極において、日本の隣邦である中国との間に全面的な政治的平和および通商関係を樹立することを希望するものである。」というこの根本の意図は、これは正しいことだと私は考えております。
  122. 曾禰益

    ○曾祢益君 私らも当時から言つていたのですが、第一項だけが本当の外交政策方針であるべきであつて、第二項、第三項はこれは当時としても少し長い、文法を知つた人から言えば行過ぎではないか、こういう議論もあつたわけです。第一項が基本方針で、第二項以降は、これは情勢に伴つて変り得るものだと我々も考えておるわけですが、そこで又鳩山さんと重光大臣との政治論と法律論の違いのようでありまして、議論を繰返して恐縮ですが、私はやはりその中国が本当に二つの国なのか、それともただ今大臣が恐らくヒントされておると思われるように、そうではなくて中国には台湾にある国民政府あり、本土には人民共和国政府があり、人民政府がある、二つの政府と見るべきか、これは私は非常に基本的な問題だと思う。私の考えを先に言うならば、中国が二つの国家だということは、これは非常に中国の歴史にも反することであるし、又両政椎とも断じて受入れない私は見方ではなかろうか。従つて何も鳩山総理の言質を取消せとか何とかというのでなくて、基本的な考えでそこは明らかにしてもらいたい。いやしくも中国に台湾国あり、中国本土国ありなんかというあいまいなことば、非常にこれは私は大きな日本の対中国政策及び対世界政策の大きな私はマイナスだと思う。それをはつきりと訂正して、これは言わんとするところのものは、或る程度の領域を持つておる二つの政府が争つておる一つの中国である、こういうふうに断定すべきだと思いますが、外務大臣のお考えを伺いたいと思います。
  123. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 中国が一つであるということは、これは概念として特に法的概念としては私はそうだと思います。従つて中国政府として台湾政府承認しておるという日本政府立場は、さような立場に立つていると思います。そうして日本政府だけでなくて、国際連合においても中国の政府の代表として台湾から代表を出しておるというような状態であることは繰返すまでもございません。併しその概念とは別に実際の問題として中国において共産政権の下に広大な地域が支配されておるというこの事実を無視するわけには行きません。その事実に基いて実際的の措置を講ずるということは、従来特に支那においてはその側向があつた、これは何も私は不都合のないことだ、こう考えております。
  124. 曾禰益

    ○曾祢益君 ただ単に概念的に中国が一つでなければならぬということでなくて、或る国際的の動きの一つとして新聞の伝うるところによれば、それは台湾を独立国にしてしまつて、そうして実際上そこで手を結ぶようなことはどうだというようなことがイギリスあたり考えられておるとやらの報道もあるわけであります。そういう考え方には、これはよほど警戒を要するのではないか。やはり中国の中に二つの政権があつてつているけれども、而もそれは国内問題であると共に、両政府ともこれを認めないかも知れないが、やはり重大なる国際問題である。従つてその国際的解決という面がどうしても国内的問題のほかにある。その国際的解決一つ方法として、じや台湾だけを独立国にしてしまつて、単なる政府でなく、領土的にブツ切るというような解決策もあるやに伝えられておるので、若しそういう意味に仮に鳩山さんの独立国と言つたことがとられるならば、これは非常に大きな私は問題であろうと思うから、そういう意味ではないのだ、中国本土という国の独立国と台湾国という独立国が二つ、民族的には中国人であろうけれども、これを同時に並存させて行くというような台湾問題と言いますか、中国問題の解決策は意味しない、そういう意味じやなくて、重光大臣が言われたように現実には二つの領域に実権を持つた政府、而もそれがいずれも全中国の支配者を標榜している二つの政府があるのだから、この事実を言つただけなんだ、こういう意味に了解したほうがいいのじやないか、この点を申上げておるわけであります。
  125. 重光葵

    国務大臣重光葵君) わかりました。実は私はそういうふうに支那を処理して行こうという考え方が他国にあるということを実ははつきり承知をいたしませんが、いろいろな考え方があるに違いないと思います。例えば台湾を委任統治の下に置けとかという議論もあることは知つております。台湾を本土から切離して一つの独立国として、これを立てて行こうという考え方があるとしても、それがどれだけの重みを持つておるかということについては、今申すことしか私知りません。けれども、私の今の考え方は今のお話の後段の考え方でございます。それから二つの独立国で、二つ切離して二つの独立国を立てるのだというような意味鳩山総理言つたのでないということは、これははつきり申上げることができます。それは私聞いてみた、誤解を与えたのは……、どういう意味でありますか、いやそれはあすこにあることは事実じやないかという、その国際法的なむずかしい考え方を少しも念頭に置いておらん話なんですが、そこで問題は要するに独立国としてこれをやるんだとか、法的に承認するんだとかいう意味ではなくして、そこにある事実を認めて、これにいろいろ現実措置を講じて行つたらいいじやないか、例えば通商の問題。そこで政府声明については、ついでに申上げますが、共産国との関係については、ただこういうことが、又共産諸国との貿易も国際信義に反しない限りできるだけ拡大すべきものであります、こう言つておるのはさような意味で、実際的に取扱つてその結果私は決して国際関係を緊張に導くというふうにはならんと思つて、少しでも緩和するほうに行く手段であろうと思つて、そういう方針を決定して発表しておるわけであります。
  126. 曾禰益

    ○曾祢益君 その点ははつきりわかつております。要するに二つの独立国並存主義でない。併し二つの政府がある、そこでこの二つの政府日本との関係において、台湾を国民政府として、つまり中国全体の政府のような取扱をしておるのが今の条約上の行きがかりになつておる。そういたしますると、広い中国本土との間に、これを一つのデフアクトの政府として、或いは何と言いますか、交戦団体というような承認の仕方も国際法上にあるようですが、如何なる資格においてこれを認めるか、曾つて中国においては外務大臣が御承知のように、地方政権でも国際条約的なものを作つた例すらあるようなことでありますし、今度のはそれ以上に今や両方とも地方政権を以て満足しないわけです。当然そういうことであります。いずれも全中国の支配者たることを標榜しておるわけです。而も実力は中共のほうが断然強い、而も日本のほうは台湾との間に既成事実としては、これが中国全体であるかのごとき感を与えておる。ところが本当に共産主義国との間の国交調整をするということならば、どうしても中共に対して何らかの資格を与え、認め、相当明確な資絡を認めなければこれは国交の調整にはならない。その点までははつきり考えておらない、ただ当面は経済問題、文化問題等だけを考えておるというお考えであるか、それとも基本方針としては、先ほどのあれに返りまするが、中国との永遠な関係、中国全土との永遠な関係考え意味において、今直ちに日本としてはいろいろできがたい国際上の約束、アメリカとの関係等々があるけれども、基本的な考えは無理をしない限りこの一つ政府の中でやつぱり実力的な政府のほうにウエイトを置いて行く。その方向において日本と中国との関係、それが共産国であつて国交調整までをやはり念頭に置いて、まあ取りあえずの措置としての経済問題から始めて行くお考えであるか、そこら辺がやはり重要な問題であるので、なかなか機微です。機微ですけれども、なかなか重要であるから、基本的な御構想と当面の措置とにできるだけ分けてでも御説明願えるならば結構です。
  127. 重光葵

    国務大臣重光葵君) その点について先ほどからの私の説明を繰返して申上げる以外にちよつと私の頭に浮かばないのですが、概括的にこの文書にいつてあるその中国とは、まあ私の言葉で言えば、支那民族というような全体的の関係については、飽くまで何というか、善隣友好と申しますか、それで行かなければならん、こう思うのでありますが、これは不幸にして今分れておる、敵味方の関係になつておる、敵味方の関係は単に軍事的だけでなく、非常に深刻な状態であるということも認めなければならん。併し今のお話だというと、その概括的に見る中国を、中共即ち共産中国と見るべしという御意向のようにも見える……そうでもないでしよう。併しいずれにしても台湾国民政府、これが台湾に無論権力を持つておることは事実である。併しそれ以上に相当大きな勢力を台湾以外にも持つておるという、支那民族に対して勢力を持つておるということも事実であります。概括的に中国との間に友好関係を結びたいと、こういうところから見て、すぐこの日本のこれまで承認しておる国民政府を全然無視するということもその趣旨にはまらんわけですな。だからそれは私は繰返して申上げますが、暫らく時日をかし、将来の形勢の変化、大勢の趣くところをよく見てそのときに考慮すべきだと私は考えておるのです。それは今日それをどつちにどうするかというようなふうなことをはつきり申すのは、私は時期尚早だと思う。世界の大きな動きと繋がつておるのでありますから、将来はだんだんこれははつきりして来るだろうと、こう考えておるのであります。
  128. 曾禰益

    ○曾祢益君 そうなりますると、結局共産国ともまあ平和関係がないのは、法的な平和関係がないのは困る、仲よくして行きたい、それを二つにはつきり分けて、中国のほうは国民政府との間にもう法的には平和を克復しておるのだから、ノー・タツチして、それだつた内閣のいつておられることはソ連との関係だけをお考えになつておるのか。若し両方にかけて、やはり共産国といつたら、これはいいか悪いか別にして、ソ連もあるし、中国において中共もある、その関係においても、できるだけ平和関係を克復し国交調整して、それでその線に沿うてやはり経済の線も延ばして行きたい、こういうとが普通我々が受ける印象です。勿論その場合に両政府とも中国全体の政権であることを標榜しておりますけれども、非常にむずかしい問題があるから、いきなり台湾を拒否するわけに行かない。併しやり方によつては国を分けるのじやないけれども、両政府並存的に取扱うということも国際的にも中国においても例がある。それくらいのことは考えて、やはり中共との間にも、ただ単に貿易の振興のみならず、やはり日本との国に平和関係、友好関係を樹立して行くというところまで踏み込むお考えがあるかないか、この点をお伺いしたい。
  129. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私は今経済関係を進めて行きたい、こういうふうに考えます。
  130. 曾禰益

    ○曾祢益君 そういたしますると、やはり共産国との間の平和関係を克服して、いわゆる仲好くやつて行きたい、通俗に……。これはもう今のところは中共に関しては適用ない、従つてその点はむしろソ連との関係である、これが内閣のお考えであつて、中共に関しては台湾との関係もあるから、国際情勢を見合せて、見守つて、無理ない恰好で、当面できることはその実力者との関に貿易関係等の、政府承認とか何とかを起さない範囲においてのみやる、これが新内閣方針であるかどうかということについてはつきり確認して頂きたいですが。
  131. 重光葵

    国務大臣重光葵君) いや、それはたびたび繰返して申上げておる通りに、これは遠き、遠きと言いますか、見通しはどこに目途を置くかというと、国際関係を緩和して、そして平和の増進に貢献したいという見通しでやるわけなんです。併しその見通しの今日の出発点は、いずれも一つ通商貿易関係をできるだけ故障のないように進めて行つて、これを拡大して行つて徐々にそれに積み上げて行きたい、こういうろ見通しを持つてつております。
  132. 曾禰益

    ○曾祢益君 そういたしますると、余り我々が、これはまあ立場の相違もありましよう、意見の相違もありましようが、期待しているほどの共産国に対する現実的な、而も自主的な、べたぼれでないけれども現実的な国交調整というような線は余り出て来ない。実際は構想にはあつても政策として出て来るものは、まあまあ経済関係、或いは人的交流、或いは文化関係というようなことからやつてつて、まあ政治問題はあと廻しだということになるのではないか、そうすれば余り吉田内閣方針と、方針は仮に違つてつても、心がまえは違つてつても政策上は余り大差ないのじやないかと思いますが、そち考えては如何でしようか。
  133. 重光葵

    国務大臣重光葵君) それは御批評は、これはもう私は少しも制肘しません。どうとでも……。併しその将来の見通しをどこに置いて、どういうつもりでやつておるかというこの何は、今後の何で見て頂くよりほかに仕様がない。今すぐそれじや国交を新たにどういう工合に設定するかということを実は言う時期に達しておらんと思うから、今は通商方面に専ら実際的に力を注ぎ、それが将来積立てられて行く、将来の考え方については、私は非常に新なた気持を特つてやらなければならん、こう思つておるわけです。
  134. 曾禰益

    ○曾祢益君 別の言葉で言いますと、これはまあ素人議論みたいになりまするから、御批判を仰ぎたいのですが、例えばソ連について言えば、先ほど申したように、具体的な戦争終結宣言を先ず向うからやるということを言つても、一向にこれは日本として困ることは一つもない、それから中共問題は史にデリケートであるけれども、仮に二つの政府の言うことを考えても、我々から考えるならば、これも又サンフランシスコ条約を壊さない、お互いに現状を認めて、お互いの安全保障の方式をやかましく言つたのじや話になりませんから、中ソ友好同盟条約も、或いはこれに対抗する日米安保条約も、そのよしあしは別として、それはそれとしておいて、取りあえず簡単な平和国交条約を結んでもいいのではないか、こういつたような一応の構想があるわけなんです。その点まで来ると、これは危険地帯だから、そこまではやらないということになると、まあ経済問題のことに限られるという、そうすると、余り変りがないのではないかと思うのですが、そういつたよう構想は如何ですか。
  135. 重光葵

    国務大臣重光葵君) それは確かに私はそういうことが考えられると思います。併しそれは主として先方の措置にならなければならんのであつて、先方がそういう措置をとるかどうかということを考えるのも一つ方法だろうと思います。まあ一つそのくらいで……、もう尽きたようだが……。
  136. 曾禰益

    ○曾祢益君 委員長、時間はあとどのくらいありますか。
  137. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) あと三十分あります。
  138. 曾禰益

    ○曾祢益君 それではもう少し、もう一、二点だけお伺いいたしまして、あとは事務局のほうに質問をしたいと思います。  そこでこれ又どうも唐突なような話で恐縮ですが、まあ私及び私の党の見解を申述べて御意見をお伺いしたい。やはりこの共産主義国との国交調整を考える場合に忘れてならない点は、この両国との間に丁度存在している国が朝鮮、従つてその朝鮮の問題というものは、これは行き方によつては二つのブロツクの争いの材料になる爆弾でもあるわけです。又行き方によれば、要するに朝鮮の平和的統一ということがスムーズに行くならば、そして朝鮮が本当に民主的な、ということは、私は共産主義的だと思つておりません、本当に民主的な独立国になつてくれるならば、それこそこれは中共及びソ連という大陸の強大な共産主義国と、日本或いは日米という海洋国との間の非常にいいバツフアーになつて、そのことが緊張緩和になるし、又そのことによつて日ソ、日中というバイラテラルな関係から出て来ない、よそからこね廻して来る緊張緩和になりはせんか、こういう感じがする。これは多少理想論であつて、私は曾つてインドのネールさんに話したところが、それはパイアス・ホープだと言つて笑われましたが、併しパイアス・ホープといつても、いい方向だと思うのです。そういうような観点から、今直ちに取上げる問題でないでしようが、台湾の問題もやはり一つの大きな国際問中国側から言えば国内問題だけれども、国際問題の面がある、ということは、いずれかのうちに国際的な話合によつて解決されることがありとすれば、そういう機会においても、日本の意思としては、やはり両陣営共一応は言つております両鮮を通ずる自由選挙、これは当然に国際的な管理の下に行われなければなりません。そういう自由選挙を通じて両鮮の統一、この線を強く出すことによつて、やはり東北アジアの緊張緩和、やはりこれによつて日本と共産国とのモーダス・ヴアイヴエンデイを作り出すお考えがあるかどうか、この点をお伺いしたい。
  139. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今のお話でちよつと私お聞きしたいのは、南鮮に民主主義の、南鮮というか、仮に韓国を民主主義の国として育てあげることが、バツフアー・ステートになるとお考えですか、又自由選挙というのは南鮮、北鮮を通じて自由選挙をやつて、これをまあ民主主義国にしてバツフアーにするようにすべきだという御意見ですか。それから又台湾を民主主義の国としてバツフアーにするのがいいと、つまり切り離してこれは二つの独立国としてやるほうがいいと、こういうお考えのようにも伺つたのでずが、実はいずれの場合においても私はまだそこまで十分考えておりません。おりませんが、国際連合としては、無論南北の朝鮮を自由選挙によつて民主主義の朝鮮としておきたいという考え方を進めておることは私は当然であるし、又そうやつておると思います。併しそれに対して日本がどこまで貢献し得るかということは、まだそこまで日本の国際連合なり何なりに対する地位は突込んでおらんように思うので、実は考えておらないわけであります。
  140. 曾禰益

    ○曾祢益君 こういう意味でございます。これは唐突の際ですから、これ以上御答弁を求めませんが、誤解を避ける意味で申します。私たちは南も北もこれは全体主義政権だと思つております。南も北も……。それで本当に民意に即した政府が自由選挙を通じてできるのだ。当然に南北共に自由選挙をやつて……。
  141. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 朝鮮ですか。
  142. 曾禰益

    ○曾祢益君 朝鮮です。その上に立つた政府ができる。そうなれば左翼的独裁政権でもない、又右翼的独裁政権でもないものができる。又それを作るだけの朝鮮国民に能力ありと私は考える。そういうものを作つて、南はアメリカとの地域集団保障、北は共産国との地域集団保障で、三十八度線で対立しているような状態を解消して、両陣営とも、お互いに危険はあるけれども、どつちにもつかない、一種の武装中立の地帯を作るのが、これがいいではないか、こういう考えでございます。台湾につきましては、これは非常に問題がございますが、少くとも我々は武力解決は反対、解決されたあとでも非武裝化することが当然現国際情勢においては必要であろう、かように考えておりますし、台湾の帰属ということは、少くとも中国から切離すという方式は反対である、こういう考えであります。併しここは非常にむずかしい問題であります。そういう考えであります。そこで最後にもう一つ質問を許して頂きたいのですが、それは東南アジアの問題です。この点は、殊に東南アジアの自由独立等については非常に理解を持つておられる外務大臣のことですから、これは政府ではないかも知れないけれども外務大臣の四原則にも特に謳つておられたのですが、そこでどうしても東南アジアに対しては、一方においては経済開発を国際的な努力によつてつて行かなければならない。他方においては東南アジアの自由なアジアを本当に自由にするためには、やはりまだ民族主義の問題が残つておる、逆に言うなら植民地主義の問題が残つておる、従つて日本が東南アジアと本当に仲好くして行くというためには、やはり政府の基本方針日本の国策としては、植民地主義に反対だ、まだ独立せざる諸国に対して本当に同情し、そのことを強く主張することによつて、いま一つの独裁的な方向である共産陣営に対する誘惑を断つて行かなければならない。更にそれの裏付けである経済援助というものを国際的な規模においてやつて行くことが絶対必要だと思う。かような意味から、一方においては日本賠償解決、東南アジアとの経済及び政治的な友好関係の樹立に努力すると共に、先ほどもSEATOの問題に関連してちよつと大臣が言われた東南アジアの問題は、これはSEATOの中にも書いてありますが、やはり独立援助、それから経済社会の建直し、開発、これが非常に大きな問題として取上げられなければならない。而もその方式が重要だと思うので、今日までやつて来たようなポイント・フオア或いはコロンボ計画というような、いわば大きなアメリカとか、イギリスとかの国からの、何と言いますか、バイラテユラルに国の紐付きという感じを与える方式は大体において行詰りに来るのじやないか。だから新らしい構想としては、東南アジアの自由な諸国の人が大きく希望している線は、これは国際連合を利用している。国際連合で御承知のようにサンフエツドができるというような決議をしている。つまり国際連合というものを濾過して、国対国、紐付きという関係を断つて、而もすべての国が、たかんずくアメリカ及び西欧の先進国ですが、理想的に言えばソ連もこれに加わる、こういつた形において、そして大規模の援助をやつてその中に日本の自活の途も発見する、こういつた構想考えられると思うのですが、それらの点についてはどつお考えになりますか。
  143. 重光葵

    国務大臣重光葵君) アジア政策、特に東南アジアに対する政策の根本に関するお話でございます。私は今お話の点が、具体的に、結論的にどうなるか、それはわかりません。わかりませんが、お話の趣旨のことは全然私は同様に考えてります。これは私が外務大臣になつてのちの考え方ではなくして、私はそう行かなければならんものだと思います。これはまあ戦争時代のみならず、戦争前から私はそういうことを主張しておる。そしてアメリカなどが支配政策でも何でも根本的に強かつたのは、そして日本が根本的に弱かつたのはその点であつて、各民族の民族精神というものを尊重するかしないかという点にかかつている。そしてアメリカが東南アジアの問題に対しても常に民族精神を尊重するという立場で、これはまあアメリカの独立精神から来るのでしようが、それに加うるに経済的の援助を以てそれをやるというところにアメリカの強みがある。イギリスもそれに非常に躊躇はいたしましたが、或いはインタイムに印度の独立やビルマの独立までしたという大きな政治力を発揮したこともこれは私ども大きな点だと思います。日本は口には民族の精神を尊重すると言いながら、実際において戦争中などは甚だそれに反した行動があつたことは非常に遺憾な点であることは御承知通りであり、又私もそれは本当に残念に思つておる点でございます。そこで将来それじやそういうアジア諸国の地域に対して、つまりいわゆる後進国に対してどうするかというと、どうしてもその民族精神というものを尊重するという、この立場に立たなければ、日本が例えば人種が近いとか、いや善隣友好といつてもそれは聞きません。その精神は政策の根本において常に持つていなければならんと思う。これはまあ朝鮮に対しても私は支那に対しても無論同様であり、東南アジアについてはそうなければならんと思います。ただ経済援助については不幸にして日本はそれだけの力を持つておらん点が残念であります。残念でありますが、国内の経済力というものを培つて行くと同時に、少しでもそういう考え方を以て経済的にも、或いは技術の方面もありましようし、それに国際的に参加して他を排斥することなく、そして平等の立場に立つて各民族精神を尊重しての根本方針を常に体して行く、それには日本人はやはり近い人権の関係がありまして相当私は便宜を持つていると思う。それを一つそういうふうに進めて行くことによつて日本の東南アジア、東洋政策というものが私は生きて来るように考えます。これはまあ是非私はそういう精神で進めて行きたいと思いますが、それは根本のいわば気がまえと申しますか、根本なんだ。併しそれは重大なことであつて、常にそういう方向にその政策も向け、又発表と言いますか、宣伝と申しますか、よくわかるようにそれを進めて行かなければならん、こういうふうに思うのでございます。併し具体的になつて来るというと、すぐ例えば合弁事業とか、それから又この具体問題の一番大きなものは賠償問題でございます。そういう問題が引つかかつてつて、徒らに民族精神の尊重と言つてみてもたかなか通じない、そこでこの席でいろいろ御発言があつたような、非常に大局を見た政策を以て解決するよう進めて行かなければならない、こうも考えておるのであります。御趣旨のあるところが若しそうであるならば、私はそういう方向に進んで行きたいと思つております。
  144. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 大体いろいろの問題で質疑応答があつたようであつて、非常に短かい、二日か三日のことでは尽せないようにも考えられるのですが、併しまだなかなかたくさん残つておるようにも考えられるわけであります。それで私のお尋ねしたいのは、重光外務大臣は日ソ通商或いは文化交流の問題だとか、日中経済交流、文化交流の問題、これらは勿論その解決が大事だが、併し国際情勢の動きにいつも睨み合せてそれを解決して行かなければならないというような趣意のことも言つておられたように思うのです。それから又自由世界ですか、自由世界との関係のあの枠の中で解決して行かなければならないというようなことも言われたと思う。自由世界ということは何を言つておいでになるのか、私には実はわからないので、アメリカあたりが非常に自由の国であるということは前から言われ、私たちも青年時代からそういうことを盛んに聞かされて、私たちの青年時代は、多分重光外務大臣も同時代の人だから同じような本を読んだと思うのですが、例えば昔のフランスのトクヴイルという人のアメリカの状態を書いたもの、オストロゴースキー、ジエームス・ブライスというような人のものは日本で古典のごとく非常に大事にされ、如何にアメリカ自体が自由な国であるかということを、そういうものを通じて教えられたようなわけです。私も長くそういうことを考えておつたのだが、私一九三二年頃からアメリカにおりましたが、その体験と、それから日本に帰つてからあのマツカーサーの支配下にあつての総司令部と私との関係、最後には私の逮捕まで発展したのですが、そういうような状態を通じてその方面のイリユージヨンというものがすつかり壊されてしまつたわけです。初めて一九三二年に私アメリカへ行きましたときには、アメリカのほうで、日本の軍部に反対しておることがわかつてつたので非常に彼らが私を歓迎してくれたので、本当に自由の国だと思つたが、併しそれは間違いだつたので、やはり日本の軍部は独占資本のお先棒のような形だつた。アメリカの独占資本は日本の独占資本と争覇戦に乗出しておつたようなときに、アメリカのことがわかつてつたというので、私を非常に優遇してくれたわけだが、私はアメリカに十五、六年もおりましたが、日本の帝国主義政策に反対したと同じ態度でアメリカの帝国主義政策にも反対したので、最後は敵国外人としていろいろの苦しい中に追いやられ、或いは誘惑を以て迫られ、亡命政府を作れとか、それから日本に無条件降伏の放送をしろとかいつて、殆んど私をアメリカの独占資本の道具にしたようなことがありましたが、それと私は戦つたので、日本に帰つてもその戦いを続けて行こうとして、軍事裁判にかけられようとするところまで来たのでありましたが、そういうことから自由世界なんというような、こういう幻想はすつかり破れてしまつたのでありますが、併し自由世界というような言葉重光大臣が使つておられる気持はわかる、アイゼンハワー、チヤーチルイギリス首相などが同じ意味で使つておるので、多分国際連合においてアメリカ並びにアメリカに追随してそうして世界政策を行なつておる国々、言換えれば資本主義世界の国々、こういう意味に理解されるのじやないかというふうに考えられるのであります。併しそれはどうでもいいことでありますが、その自由主義の国々との関係の変化に従つて日本の重大な問題を解決する態度を変えて行くというような意味に私は了解したわけでありますが、併しただその自由世界の内部、外部の動きで日本の政策を変えて行かなければならないということになつたならば、もう日本の政策はしよつちう変つていて、動きのとれないことになつてしまいはしないか、やはりそういうような外部の世界の動きというものを見るということは非常に大切であるけれども、併し日本としてはもつと日本の対内政策、対外政策解決する基調の動かない根本方針を持つていなければならないのじやないか、そうして今日の日本対外政策の根本方針というものは勿論世界平和に対する日本の根本政策でなければならないのであるが、同時に又日本がしつかりした対アジア政策をとらなければならないのじやないか、対アジア政策の根本をどこに置くか、これはいろいろさまざまな点から考慮を進めて行かなくちやならないと思うのでありますが、今月日本においてアジア諸国民との連帯感情が非常に強まりつつあるということは、私たちがしよつちう見ている事実なんです。私は日本のすべての大衆と接触していると言うことはできませんけれども、大衆との接触の範囲というものは相当に広いと思つている。北は北海道、南は九州までの大衆にしよつちう面接して、全部の日本の国民と接触しておるとそういうことを言う勇気はないけれども、併し大衆との接触面は相当に広いということは正直に言うことができると思うのでありますが、その中で私が非常に注意したことは、アジア人としての日本人の意識が非常に強まりつつある、最近において殊に強まりつつある、これはどこから来ているかということは非常に大きな問題でありますが、併しアジア人との、アジア諸国民との連帯感情ということの根本はどこにあるのか、しばしばアジア人種というものがあるということが言われておりますが、そんなことは滑稽でとるに足らないことで、アジアには同じ人種でないいろいろな人種が、我々が人種というので、アリアン人とか、セミテイツク、ハミテイツクというようなことを教えられましたが、そういう人種はアジアにはすつかりあるのであつて、同一というものがアジアの連帯性の根拠となつておるのではないので、それはどこからかということについては、そういうものがあるということは事実昔もあつたけれども、今日において非常にそれが強くなりつつある。併し日本にそういう一つの力を、刺戟を外部から与えたということも私は知つておる。例えばインドのネール、あのサンフランシスコ平和会議が行われたときに、それに参加しなかつた一つの理由として、彼はこういうことを言つておりました。アジアの悩みというものは、いわゆる植民地支配、コロニアリテイ、これ続く限りはこれはアジアの苦しみ、悩みというものは永久に去らないということを言つてつた。そのほかの理由もありましたが、アメリカが日本に占領軍置いておき、その下において日本人に自由に意思を発表しろと言つたつて、それは無理だ、日本国民が本当の自由意思から承認するような平和条約というものはそ中から生れない、そういうことも言つてつたと思うのですが、同じもとからそれが来ておると思うのでありますが、先ずアジアの諸国民は、あの国ほ最近百年或いは最近数百年間、皆ヨーロツパ、アメリカの帝国主義の支配の下にあつたので、それから解放されようというのがアジア人の大きな希望で、すでにその方面において成功している国がある。中華人民共和国、あの五年前の中国の人民解放軍がとうとう国民政府を台湾へ押しやつて、あの本土の上に本当の民族的の基礎の上に人民民主主義の国家を築き上げた、これが又アジア諸国民から非常に仰ぎ見られておる。日本は長い間近隣に対して侵略主義をとつてつた、それは事実でありまして、そこでアジア人の憎悪の的にはなつておるけれども、それにもかかわらずアジア諸国民が日本が偉いというようなことを言つてつた一つの原因は、外国の帝国主義に対して日本は立派に肩を並べて対抗しておつた日本から言えば自慢にもならないことだけれども、アジア人がそういうことで日本人を憎みながらも、日本人は偉大だということを言つてつたその心持は我々にはよくわかる気がするのでありますが、殆んどもうアジア全体、インド或いはインドネシア、そういうふうな国々は言うに及ばず、あの国際連合におけるいろいろな動きを見ておるというと、このアジア、アラブ十数カ国の人々もこの点は少しも異論はないのである、この点がアジア人を支配しておる大きな気持である。帝国主義の支配から解放されよう、日本も曾つては帝国主義の国でよその国を植民地化しておつた国だが、併しあの大戦に負けてからこのかたというものは、やはり帝国主義の支配の下に来ておる、率直に言えばアメリカの植民地のような状態の下に日本はやつて来ておる、そしてアジアの諸国民と全然同じ境遇に立つておる、これが一つの現在のアジアの連帯性の基礎になつておるものであるというふうに我々は考えるので、これは今後日本の問題を解決する上において非常に大きな問題であります。この間衆議院においてそげ光外務大臣社会党左派の細泊兼光君の質問に答えられて、私新聞で見たのでありますが、あの中に平和の五原則に関する質問が出た、それに対して平和の五原則は理諭としては非常に立派だということを言われたというふうに新聞で見たのでありますが、運用の面においていろいろ難点があるけれども、即論としては非常に立派なものであるということを言われたのだが、あの平和五原則というものはやはりアジアの連帯性の上に立つておる。第一に領土主権の尊重、相互不可侵、内政不干渉、内政に干渉しないようにしよう、それから平等互恵、平和的共存という五つの項目が並べられておるのであるが、併し全体をまとめて我々は平和的共存と言うことができると思うのでありますが、これはもう勿論この平和的五原則ができたのはやはりヨーロツパの帝国主義の支配に対して、それからの解放ということが基本になつておる、こう思うのであります。それでさつきから頻りにSEATOの問題とか、台湾の問題がここで論じられておつたのでありますが、あのSEATOの問題にしてもやはり平和五原則の適用である。インドシナの休戦のあのいろいろな要綱がそうであつた。あのインドシナ三カ国のどこにも外国の軍事基地を設けない、又外国の軍隊を駐留せしめない、或いは又ヴイエトナムのあの将来の自由選挙に関して国民の意思を完全に発表させた上で投票せしめて政権の帰趨を定めさせるというような、全く平和五原則、言換えれば平和的共存の理論の適用であつたと我々は言うことができると思うのでありますが、SEATOの問題に関しましても、今、重光外務大臣がいろいろの説明をしておいでになつたのだが、併し私は一つ欠けておる点があるのではないかと考えるが、やはりあの平和五原則については、殊に平和的共存の理論の適用であるというのは何であるかと申しますれば、あのアジアの諸国において、殊にSEATOというものが、これほアメリカ帝国主義を中心に一つのアジアに関する分裂政策だというふうに考えられておる、アジアの本当の安全保障というものは全アジアの安全保障でなければならない、今日ヨーロツパで同じようなことをベルリン会議以来言われておるが、周恩来総理が去る六月の下旬に、ニユーデリーでインドのネール首相と会う前に、ジユネーヴ会議で発言したのにやはりそういうことが言われておつたというようなことを書いてあつたと記憶しております。即ちアジアの集団安全保障というものは全アジア集団安全保障でなければならないが、あのSEATOというのはアジアの一部の国々に対して他のアジアに当らせようとしておるが、集団安全保障どころか、アジアの危険を保障しておるというような、言葉は違いますが、そういう言葉で言つてつたが、そういうことを言つた後にニユーデリーへ来て、そうしてネール首相とあの共同声明を出した。そういうことにおいてもSEATOというものをどういうふうに見ておるかということを我々は考えざるを得ないのであります。それからアジアから見れば東南アジアの集団安全保障といつておるが、一体あの東南アジアの集団安全保障に参加しておる国はどれだけかと言えば、七カ国と言つておるが、その中で本当に東南アジアの国と言われるのは二カ国ではないか、アメリカの属国のようなフイリピンとタイであつて、パキスタンというのは、成るほどパキスタンは飛地があつて一部は東南アジアのほうに来ておるけれども、パキスタンのメイン・パートはむしろ西アジアのほうに片寄つておる、東南アジアの安全保障の体制と言つておるが、あとは皆イギリス、フランス、アメリカ、ニユージーランド、オーストラリアといつたような、殆んどアジアの国とは言えない国で、そのほうがいわゆるプレドミネートしておるようなわけなんで、東南アジアの国といつたら、厳絡に言えば二カ国パキスタンはちよつとばかりが東南アジアにかかつておるというような状態で、おまけに今日民族の自主性ということが言われておるようなときにおいてもアジアの防衛というものは先ずアジア人が中心にならなければならないということは言うまでもないことだが、これはアメリカのほうが音頭をとつてそれが中心になつておるのだから、これはアジアの集団安全保障というものは本当の名前に相当していないものであるということができると、こう考えておるのであります。そうして又アジアの諸国民は、あのSEATOというものは結局反共、共産主義の進出ということを表面の名としておるが、本当に東南アジアにおける民族運動が将来起つて来るのを、これを圧服しようとしておるものであると、こういうふうに考えられておることも、これも否むことができない事実なんであります。又それは決して根拠のないことでないのでありまして、あのジユネーヴ会議においてインドシナの休戦を盛んに論じておつたときに、アメリカのほうでは東南アジア介入をしよう、殆んどその議論が相当の力を得ておつたようなわけであつて、私たちの聞いたところによるというと、あれが実現しなかつたのはやはり……、一体アメリカ帝国主義はアジア人をしてアジア人と戦わしめるという立場に立つておるのだが、事実においてはあすこではアジア人同士戦わないというようなほうへすべての機運が向かつてつた。それからアメリカの一部のほうではアメリカの飛行機で以て爆撃する、原爆まで落すというような、けれども併し又一方のほうではアジア人を使わなかつたら、結局は最後はアメリカの歩兵でやつて行かなければならないが、併しアメリカにはそれだけの歩兵部隊がないわけなんです。そういうような議論をやつてつた一人としては、日本に曾つて来ておつたリツジウエイもそういう立場をとつたということを言われておるが、そういうようなこと、それから当時のあの東南アジアの民衆の解放戦の場合にあつても、丁度曾つての朝鮮の人民の解放戦の場合と同じように、あのアジアの独立運動というものはすつかり侵略とか、反抗とかいうふうに呼ばれて、そしてしべリヨン、反乱、そうしてそれで戦かつておる人間はレベルス、私たちはそういうようなあの従軍記事を読むたびにアジア人としての私たちの血管の血が湧いた。あなた方はどういうようなお立場をおとりになつたか知らないが、私たちはそうであつたのでありますが、そういうことを考えるときに、やはりあのSEATOの性質というものが、むしろアメリカがあれが集団安全保障だとか何とか言つているが、じやなくて、やはりこの東南アジアにおける民族運動を鎮圧しようというような、そういうことから来ているということを言つて決して間違いないというふうに私は考えておるわけなんでありますが、併しそれは又私の考えだから、お前の考えが間違つていると言われたらこれも仕方のない話でありますが、このアジアの諸国民はこれをどういうふうに理解しておるか。コロンボ会議に参加しておつた五カ国というものは、パキスタンを除いてはみんなそれを否認しておるのであります。アメリカのことであるから、東南アジアの防衛体制というのだから、どうしてもやはりセイロンにも、インドにも、インドネシアにも入つてもらいたかつたには違いないのだが、併し本当にアジアにおいて幾らかでも自由ということを制度の上に現わしておる国においてはそれに背中を向けた。それは殊にビルマは今賠償問題で我々の討議の対象になつておるのだが、ビルマはそれに入つておらないのでありますが、ビルマはどういう考えでいたかということは勿論私としてはそれを知る材料を持つておらないが、併しインドで周総理がネール首相とあの平和五原則の共同宣言をしましたが、やがてそのネール総理ビルマへ行きまして、やはりビルマ首相のウー・スーと同じ意味のあの共同宣言を出しておるのであるから、大体ビルマがどういう態度をとつてつたかということはわかるし、そしてその後ネールは北京へ行つて毛沢東と会つて、もつと堂々としたこの共同宣言を出していたようなわけだが、これはウー・ヌービルマ首相も又やはりインドに行つて同じような意味で毛沢東或いは周恩来総理と会見をし、又いろいろの協定をして来ておるのでありますから、だから大体ビルマという国がどういう態度をSEATOに対してとつておるかということがわかる。それから又ビルマインドネシア、インドと一緒にSEATOというものを蹴つておるということは、これは確固とした歴史的事実なんです。これはもう疑うことはできないのでありますが、日本が本当に世界平和に対する日本の政策をきめようとすると平和五原則から離れることができない。少くとも日本はアメリカについてしまつてアジアに背中を向けて、アジアに対して戦うという立場をとるならば格別だが、今日アジアにおいて滔々として西から東まで起つておるあのアジア各国民の連帯性というものにしつかりと足を踏みしめようとするならば、あの平和五原則、殊に平和的共存の理論というものから離れるわけに行かない。そういうようになつて初めて我々は中国に対してどういう態度をとるべきか、又東南アジアに対してとういう態度をとるべきかというようなことに対して、おのずからもう自然に来る結論を得ることができると思うのでありますが、殊に日本がSEATOに対して今後どういう態度をとろうとしておるのか。吉田前内閣首相は、飽くまでも政治的に日本は東南アジアでなくして、むしろ東北のアジアだから、その中に入らないならば、アメリカはSEATOでなくNEATOという言葉をこしらえて、そういうことを準備しておるのだが、とにかく日本はそういうことを離れて、やはり政治的に経済的にそのSEATOと協力をする用意があるということを言われておるのだが、併し私は本当にアジア各国民との連帯性を考え日本国民の意思ではない、それから非常に離れておるものだと思うのでありますが、今の民主党、日本民主党内閣は果してこれに対してどういう態度をとろうとしておるのでありますか。中国に対しても同じことでありますが、要するに私が初めから言おうとしたのは、重光外相日本の今後のいろいろの政策を世界の動きつつある情勢と睨み合せて調節して行くというのは、これは御尤も千万だが、併ししつかりした根本的の政策を持つている必要があるのではないか、そうして対アジアの根本政策を持とうとするならば、アジア各国民間に今盛んに起りつつある、当然起つているところのこのアジア各国民間の連帯性の上に足がしつかり踏みしめられておらなければならないのじやないか。そうすると、SEATOに対する態度、中国に対する態度、台湾に対する態度というものは、同じようなふうにわかる。台湾の解放ということを周恩来が叫んでおるが、これもやはり平和五原則の適用なんだ、本当に生きた適用であると思う。アメリカに対する内政不干渉を叫んでいる、領土を尊重しろ、カイロ宣言を尊重しろ、すべて尤も千万なことで、そうしてこれは明らかに平和五原則の適用なんです。我我が平和五原則というものを非常に尊重する限りは、この台湾の解放の宣言もやはり同じように尊重しなければならないと思う。こういういろいろの問題があるのだが、非常に混乱した質問でありましたけれども、つまり対アジアの根本政策を特たなければならないのじやないかという点と、それから出発してあのSEATOに対してどういう態度をとろうとしておいでになるか、あの周総理が世界に投げかけた台湾解放の宣言、それに対してどういうような態度を以て臨まれるのであるか。これは日本の国民のアジア連帯性の意識と、それから祖国の独立を守る意識と非常に深い繋がりがあるので、これに対する回答を先ず求めたいと、こう思うのであります。
  145. 重光葵

    国務大臣重光葵君) いろいろ政策の根本と申しますか、大分深いところにお話がありましたから、私も努めてそれに適応いたしますために、その複雑な問題を明確にすることに努めつつお答えをいたしたいと思います。  第一に、お話がありました自由世界の動きによつてそれを見極めつつ進まなければならんと言うが、一体自由世界といつてもアメリカなどには、自由がないのだ、とんでもないことだというような意味お話がございました。私は自由世界とは実は言わないのであります。私は自由世界という言葉を努めてこれまで避けて、私は民主陣営と言うのでありますし民主、デモクラシーの人間、大山先生は或いはソ連圏には自由があり、又それがデモクラシーと言われるのかもわかりませんが、私は自分の経験から言い、又自分の研究から言つて、そちらのほうには自由もなければ、デモクラシーもないと考えておる。デモクラシーの陣営と共産陣営とが今世界で争つている、こういうふうに考えておるのであります。そうしてそのデモクラシーの陣営に日本はおるのであつて、その政策は私は決して外部の状況に常に左右さるべきであると言つたことは一つもございません。私は自主的に自分の日本の国の立場から進んで政策をきめて行かなければならんということを繰返し繰返し力説しておるわけであります。併し自分の国の利益にどうこれが政策を合致せしめるかということは、それは日本の属しておる民主陣営の動き、ソ連盟の動きを篤と研究もし、又考慮しつつ進まなければいかんのであつて日本がそれでは自分の目先に、自分の国の利益がこうである、ただ目前のことだけを見てそれで進んで行くわけにいかん、こういうことで中共の承認問題その他について議論を、考え方を申上げたわけなんであります。その点は私は自由世界云々で、そして又アメリカに自由があるとか、ないとかいう、そういうことについては、私はこれは長い間の蘊蓄を持つておられる大山先生の議論をどうとも私は申しません。けれども米国の対外政策上、過去においてその独立精神から来る民族主義の尊重ということは、従来対支問題においても、その他のアジア政策においても、随分長い間実際政策としてこれがあつたということを私は申上げるのに何らはばかりません。それが支那において日本などが非常にその点において遅れておつたがために、非常に対支政策を誤まつたと私は考えておる、併し何も私はそういうことについてアメリカを礼讃するという意味で申上げるのではなくして、過去の私の経験を交えた政策について私の観測を用いたにとどまるのであります。それから更に進んでアジア人の共通観念、日本の国内においても、非常に共通なアジア的の感情がだんだん湧いて来ておる、それはそうでございましよう。又連帯の感情があつたということはこれは事実であります。事実でありますが、併しそれは何も今言われる周恩来の平和原則から来たわけでも何でもない。今お話を伺うと、何もかも周恩来の平和原則から今の国際関係が動いておるように言うが、これは私は非常な誤まりだと思う。アジア人の全体感情というのは、周恩来が五原則を唱える限りは、これは極く最近の話で、今頃周恩来が領土尊重とか、何とか五原則を唱えておるが、これはとんでもないことであつて、アジア全体の感情というものは相当古く、いわば昔からある感情で、我々は常にアジア人のアジアとか、アジア人の共通の考え方を持つて対支政策などを動かさなければならんと言つて、我々の時代でもそういうことを言つておる。その前にもアジアの共通の感情ということは私はあると思う。それがヨーロツパ方面の植民政策に非常に刺戟されたということは、これは歴史が証明しておる、それはその点はその通りであります。併しそのうちでも最もそういう方面について早く目醒めた国は米国である、米国の外交政策もあるということも又争われない事実だ。私は周恩来が五原則を唱えた、その前に日本ですら、私はあえて日本ですらと言うが、日本ですら領土尊重とか、内政不干渉、不侵略とかいうようなことは随分古くから言つておることであつて、そういうことほ世界の対外政策上少しも新らしいことではない、周恩来がなぜ今頃五原則を事新らしく持出して来たかということについて、その動きが何であつたかということは、これは大山先生はよく御存じのことで、知り尽されておることだと思うのです。それは俗に言う平和攻勢の重要なる武器として出されたことは、これは言うを待たんことです。そこで周恩来はそれに加うるに、今お話通りに、アジア人の安全保障、今民主陣営では、どうして共産陣営の侵路的な政策に対抗するかということに一生懸命になつておる、それはまあ私が申上げるまでもなく、ヨーロツパではNATOの問題などは、御承知通りヨーロツパでそれがバランスが回復されて漸くできておる。東洋でも何とかしなければ、共産主義の侵略は表面からだけ来るのではなく、裏面から来る、どうかしてこいつを防ぎたい、こういう立場に立つてSEATOが、これは民族主義を圧迫するためにSEATOをこしらえたと言われる、私は何もSEATOを弁護しようとは思いません。今日の日本には何の関係もないことです。併しながら民族主義を圧迫するのではない、民族主義を助けて行つて、そうして満足を与えて、共産主義の侵入ということを防ごうという趣旨にできていることも、これ又争われないことである。併しさようにして行くよりも、これに対する武器としては、アジアの安全保障である、丁度ヨーロツパにおいて、ソ連がヨーロツパの安全保障を提唱しておる、これと同じことで、つまりヨーロツパにおいては、そういうヨーロツパの安全保障ということを提唱して、フランスの行動を制肘したり、それから又特に西ドイツの連合ということを妨害しようとする、これは定評のあることです。周恩来氏のアジア安全保障ということは、これと同工異曲のことであつて、そしてはつきりとアジア人をまとめて、そしていわゆる植民地主義だと言つて反対せしめようという一つの大きな、何というか、外交攻勢と申しますか、平和攻勢と申しますか、それであることは、これはもう少しくその全体について考えを向けて見ると明らかなことです。そこで私はアジア人の共通の観念から、共通の考え方から、アジア人の民族主義的の考え方に飽くまで同調して行かなければならん、この根本問題については私は全くそう考えておるので、これは前に申上げた通りで、併し私はこの或る意図のために動いておる周恩来氏の平和五原則は、あたかも世界に向つて発せられた教書のごとく言われるけれども、私はそんなことは少しも考えておらん、それは古い考え方を、或る一種の目的のために皆並べて、そして更に進んで行つて、而もこれにアジア人の共同安全保障というようなことまでも結びつけて、非常な大きな武器にしておると私には見えます。併しその言つておることは、理論上これは少しも不賛成を要することではない、こういうことはいいことであると思つておりますが、あえてそのいいことを更に悪く言う必要は少しもございません。併しすべて周恩来の五原則から政策は出発しなければならん、そうすれば台湾の解放も中共の承認もすぐ解決する、こう言われるが、それはとんでもないことだと私は考えておる。台湾の解放のことは、成るほど中共から見れば台湾の解放であるし、台湾の国民政府から見るというと反対のことであろうと、こう考えます。これらは若しそれが五原則から出ておるならば、とんでもないそこに矛盾があると見なければならん。併し私はあえてそういうような根本の考え方について特に議論をする意向は少しも持つておりません。併し今実際政策として、それならばSEATOにすぐ加入するか、これは先ほど申上げました通りに、これは十分な各方面の慎重なる考慮を経なければ、何とも結論は、するともしないとも言うわけには行かん。ただSEATOの企図しておるアジア人の向上、発展ということを援助する、これはアジアの民主主義にも民族主義にも適合することであつて、私としては非常にいいことだと、こう考えておるということを申上げたのでございます。それから又それがアジア人を戦争に駈り立てて使うためにやつて、独立運動をする者を反乱と称してやるということはあるが、これはどうもさような時代もあつたが、併しこういうような点はよほど実際についてこれを究めなければならんのであつて、私はさようには一概に考えておらんのでございます。そこで日本はこの五原則からすべて出発しよう、私は理論上五原則は立派な原則であると申上げて少しも差支えないが、併し実際政策上、この原則を受入れて、そして周恩来氏の企図しておる政策に乗り出す、同調して踊つて行くということは、これはできることでないということははつきり申上げておきたいのでございます。
  146. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 先刻私が提出した問題、かなり大きな問題で、まだすつかり私の意図した御返答を得たように思いませんが、併しともかくこういう意味を持つておる者があるということを心にしめておいて頂きたいと思うのでありますが、併しただ一つ、さつきあつたこと、私の言い方が悪かつたから多分誤解されたのだと思うのでありますが、私は周恩来首相が提出したあの平和五原則からアジア諸国民の連帯性が出たのだということは一言も言つた覚えはないので、この連帯性の意識は昔からあつたが、最近特に強くなつたということを言つたのです。五原則を言つたのは去る六月の話で、これは言う必要もないことであると思うのであります。それからさつきのアジアの諸民族の、殊にヴイエトナムの独立運動をレベリヨンなんということを言つたのは、折々言つたのではなくて、私はあの方面の記事は非常によく注意しておりましたので、ずつと出ておつたというので、これは私がでたらめを言つたのではないという点も御了承願いたい。それからもう一つは、日本の政策というのは昔から非侵略であるとか、他国の領土を尊重するとか、内政干渉をしないとか、それから平等互恵、こういうことをずつと言つて来たとおつしやつたのか、やつて来たとおつしやつたのか、よく知らないけれども、併し私の過去の三十何年間の闘いというものは、日本国家はそれをやらなかつただけなんで、そうしてそういうことを言つてつておるときに、彼らは殆ど生命を奪わんばかりの弾圧をしたんだが、若しやつてつたのならば、弾圧どころか、一諸に私と強調しただろうと思う。私たちは反対のために反対しておつたのではなくして、日本の独立とか、それから平和に対する貢献とういう立場からやつてつたのであるから、だから反対のための反対でない以上、そういう態度でやつてつたのだから、本当にそういう侵略を排する、或いは大東亜共栄圏なんというようなものは、よその国の領土を尊重している、よその国の内政には干渉しない、そうしてすべての国と平等互恵の上に立とうとして、こう上に立つてつたと、こう言われるなら、私たちの過去でやつてつたということはまるで夢の中であばれておつたようなことにしかならないわけであります。併し私の経験から、そういうことはないと思う。それから又同じような領土尊重とか、不侵略、内政不干渉、平等互恵、長く言いならわされて来た言葉であるが、併し新たに意味を帯びておるというよう点について、もつともつと私の考えを聞いて頂きたいと、こう思うのでありますが、時間の都合で勿論これははしよりますが、併しさつき申しました論点から突き進めて、なおお聞きしたいのは、一体民主自由とおつしやつたのか、そういう圏内における動きをじつと見ながら政策をうまく調節して行こうというようなお考えなんだろうと思うのでありますが、自由世界の中の動きというのも相当に複雑で、殊に社会主義の世界或いは資本主義の世界との間の関連なんて一層非常に複雑で、ちよつと聞けば甚だよく話がわかるようだが、よく考えてみると甚だわからないようなこともあるのであつて、例えば自由主義世界、こういうことはできるだけ使わないようにするとおつしやつたのでありますが、どうも私の頭の動きから、そういうことも出て来て仕方がないのだが、又そういう自由主義世界においても非常に刻々情勢が変りつつある。一体どのところまでなのか。例えばイギリス、アメリカ、フランスとか、西ヨーロツパの諸国或いは北大西洋同盟を形作つてつた諸国が非常に協調をしたような時代もあつたし、その前の第二次大戦のときに遡つて考えるというともつと情勢が複雑で、あのとき戦争をしておつた二つの勢力、一方においては社会主義の国ソヴイエト、それから資本主義の国イギリス、アメリカ、フランス、そのほかが一団となつて、その間には平和的共存どころか、平和的協力までやつてそうして戦争をしておつた。片方には資本主義を擁護しようというヒツトラーのドイツ、ムツソリーニのイタリー、軍部の日本と、こう非常に関係が複雜であつたわけであります。併しあの第二次大戦の経験は、資本主義の国と社会主義の国との間に平和的共存どころか、平和的協力さえできるということを証明したその記憶が残つていて、今新たに平和的共存の理論が非常に力強く持上り、インドで周恩来総理、それからネール総理が会つたので、インドは資本主義でやつて行こうとしておる国であるし、中国は将来の社会主義建設を目指して今人民の国に立つて行こうとしておる国で、違つた制度を支持しておるけれども、その間で平和的共存ができるという、彼らはそういうところへ意見が合致したのであるが、一つのそういうことを彼らをして考えせしめたのは、やはり第二次大戦中に、あの一方において社会主義の国ソヴイエト、資本主義の国アメリカ、イギリス、フランス、そのほかの国々が一国となつて戦争はしておるが、仲間では平和的共存であり、それどころか平和的協力であつた、こういう記憶があつたから、一層あの平和的共存ということを二人が共同声明の中に確信を持つて書くことができたという前のことを考えても、こう複雑であるが、あの戦争の済んでからすつかりこの関係が破れ、そうしてマーシヤル・プランを通して資本主義諸国の間の国々の協調というものが非常に完全であつた時代があるが、だんだんあの共産圏内の国々に対する態度について意見が分れて来て、イギリスが中国を認めているのにアメリカは飽くまで中国人民共和国を認めないというような、そういう相違が生じて来ると、それがゼネバ会議のときにそれが極端まで行つて、いわゆるアメリカの国家というものが極端まで行つたことを示しておるので、それらの資本主義陣営内の内部対立と言われておるが、社会主義の世界と資本主義の世界との間の対立は極めて根本的の対立であるが、併しその深さから言えば資本主義陣営内の内部的対立が深い場合もあるので、あの周総理がネール首相と会見して、そうして共同声明を出すときに、他方においてワシントンではイギリスのチヤーチル首相或いはイーデン外相がアイゼンハワー、ジヨン・フオスター・ダレスと会つて相談しておつた。一方のニユーデリーの会合は意見が完全に合つて、そうして一緒に平和的共存でやつて行こうという肝胆相照らすような歴史的場面があつたのだが、他方においては共産圏の国々と我々は平和的共存をしなければならないということが、始んどSEATOの精神というものを全然滅却しておることをいつてつたので、マーシヤル・プランができたときの状態と比べると殆んどもう千里もただならざる相違がそこに起つて来るので、一体どこを基準につかまえて行こうとしておるのか。今日又資本主義の世界における内部的対立ということが非常に激化して、それだけではなくて、アメリカのあの今日の支配階級の中にも内部的対立というものは以前以上に激化しておるということは公知の事実になつておる。日本の人民にさえも知られておることであると思うのであります。あのインドシナに対してアメリカの一部の人々が介入しようとしたときに他の一部の人々が介入させなかつた。勿論平和的勢力のほうの意見があつたのだが、併し支配階級の内部的対立ということが到頭アメリカをしてインドシナに介入せしめなくて、やつと世界が第三次大戦に入つて行くのを免れたような状態を新聞社が伝えております。人の名前までも伝えておる。あのときは飽くまでインドシナへ介入して、あそこへ原爆でも使おうというようなことを考えたのは、統合参謀本部のラドフオード、とか、国務省内においてはあの池田勇人氏の会つたロバートソンだとか、国会においてはノーランドとか、ワイリーとか、そういつたようないわゆるチヤイナ・ロビーの集団に属する人々だつてその対立関係が今非常に強くなりつつある。曾つてあのソヴイエト或いは中国とすぐに戦争でもするのがいいと言いかねまじかつたあのジヨージ・ケナン、即ちソヴイエト同盟というものを封じ込めてしまおうというような政策を立てておる当の主人であるジヨージ・ケナンとか、或いは帝国主義の急先鋒のスポークスマンとまで考えれておるハンソン・ボールドウインというような人までもこの頃非常に対立して、そういう中国、ソヴイエトというものを敵とすべきでないというようなことを言いかけて、それがアイゼンハワー大統領の頭をだんだんと支配するようになつて来ると、それから同じ統合参謀本部の曾つて日本に来たところのリツジウエイというような人がやはり中国へ手を出すべきでない、こういう立場をとつて、そうして今日アイゼンハワーが急に戦争に乗り出すようなことを躊躇しておるというようなことも盛んに唱えておる。殊にこれは、原爆、水爆というあの威力がすつかり全世界に知れ渡るようになつてからアイゼンハワーの考え変りかけた。併し彼らは平和的共存と言わない。アメリカの態度は、この頃アメリカから来る電報を見るというと、競争的共存というような言葉で表明されておる。本当に平和ということを尊重してそれをすべての行動の、政策の中心におくというところまで彼らは達しておらない。平和的共存といういい言葉があるのを、それを使わないでコンテンシヨナル・エグジステンスと申しましようか、競争的共存ということを言つておる。要するに現在の状態においては原子力、殊に水爆というものは現在では戦争をすれば自他共に傷つける。それまでのときには敵を殺して味方を生かすことができたのだが、水爆ということになつて来ると、例のこの頃盛んに言われておるレデイオロジカル・ハザーヅと言いましようか、レデイオロジカル・サイドエフエクトといういうな言葉が盛んに彼らの頭を支配する。少くともすぐに戦争をおつ始めるのではなくて、ともかく戦争ができるときまでは戦争は待とうというような、平和を尊重するという意味ではないでありましようが、今すぐ戦争に乗出すようなことはしない。だから平和的共存といういうな世界的に大手を振つて通るこの言葉があるにかかわらず、これを使わないで、競争的共存という言葉のほうに赴くようになつて来るのであろうと思うのです。要するにこういうことは非常にこれはアメリカの支配階級の中に内部的対立が起りつつある。非常に世界は動きつつあるのであつて、そうしてそれが今後平和的共在であれ、競争的共存であれ、それは戦争の状況を多少緩和するようになると、日本はこれまでどこまでも平和的共存は不可能だ、資本主義と社会主義とは相互いに両立しないというような立場をとつてつたような政策がすつかり崩れることになるわけだが、今私の中心点におかんとする点は、一体隣国内部の動きに従つていろいろと行動を、或いは政策をきめて行こうというのは、どういう意味でどういうところをつかまえて言うのか。そういう意味で自由主義の民主的陣営の中の、いわゆる民主主義的陣営の中の情勢というものは、こういうふうにどんどん動きつつあるのだが、それと睨み合わして政策をきめて行くということはどういうことを意味するのか、これはちよつと聞くほどわかりやすい言葉ではないように思うのでありますが、これについてどういうふうな考えを持つておいでになるのかということを承わりたいと思うのであります。
  147. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今のお話について、どうお答えしたならばいいかちよつと私もわかりませんが、資本主義内部の対立があり、指導者内部の抗争があるというような点からの御観察もあつたようでありますが、それは私はその資本主義と申しましようか、民主主義陣営の中のこれは民主主義でありますから、抗争もありましよう、議論もありましよう、指導者の内部のいろいろな勢力争いもありましよう。それは共産陣営のようにすべてを統制していないから、それはそういうことはあるだろうと思います。併しその間に私は主義の問題でなくして、私はイデオロギーの問題を暫らく別にして、国家国家との関係において国際関係を実はみたいと思う。今お話通りに、一体最近出て来ておる共存、要するにコーエグジステンスという問題を持出されて来ましたが、これは又それにとらわれるわけにはいかんのであつて、つい最近までは共産党の理念としてはコーエグジスデントすることはできんが、食うか食われるか、どつちかでなければならんということは、公然と最高の指導者からすべてのことにそうなつてしまつておる。宣伝方針もそうであつた、ところがいつかそれが変つて来て、今度コーエグジステンスという、私はそういうことにとらわれておつたら国際関係の処理はできんと思う。私はむしろイデオロギーにかかわらず、どこの国とも一つできるだけ実際にこの抗争のない、フリクシヨンのないように努めて行くことが現実外交であると、こう思つておるのであります。そこで日本は民主陣営の中に置かれておる。従つて国際連合も民主主義陣営の中で動いておるわけであります。そういう方両のこと、民主陣営の中にはいろいろ何もありましようが、アメリカの動きもありますし、イギリスの動きもありますし、更にヨーロツパの方面の動きもありましよう。併し日本影響する大きな動きについて絶えずこれに慎重な考慮を払つて、そして進んで行くことが私は国家国家との間の処理を考え意味から、外交上当然やらなけりやならんことと、こう考えておるのであります。決してアメリカのペンタゴンの一部が中共に爆弾を落した、それは結構だといつてすぐ日本が取りつこうというようなことは少しも考えておらんのであります。私の言う意沫は、その大勢の動くところに従つて、よくそれを考慮に入れて日本の自主的に行く途を考えて行こうと、こういうことでありますから、その点については私は誤解のないようにお願いしたいと、こう思うのであります。
  148. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 それでその話はそのくらいにしておきまして、その次に共産主義の世界と民主主義の世界との対立と、その中にある日本は何とかしなければならないが、日本の貢献し得る範囲というものは非常に狭いというふうに言われておるように私は了解したのであります。私が誤解だつたらその誤解を解いて頂きたいと思いますが、勿論共産主義と民主主義との対立しておるということは、私どものような物の考え方に慣れておるものには了解できないので、民主主義に対立しておるものは私は専制主義であり、君主主義であつて、共産主義とか、社会主義に対立するものは資本主義であつて、民主主義と共産主義とが対立しておるというのはちよつと観念の錯覚のように考えられるのでありますが、併しこれもそんなに追求する必要はないとまあ思いますから、それだけにしておきますが、対立しておると言つておるが、併し私は片一方の世界のほうは、社会主義の側のほうは理論上から言つても戦争ということによつて養われておるのじやない。現在本当に戦争というものを政策の根本に置いておるのは独占資本であり、今日社会理論家がみんな言つておるように、独占資本に最高利潤を与えるのは、これは戦争なんだから、社会主義は逆に理論的には平和というほうに来ておる。そしてそういう意味から言つて、平和的共存といちうことを言つておるのは、これはもう社会主義理論にもくつ付いておるものだというように考えるのです。実験から言つてもそうなんで、さつき社会主義の連中だつて昔はコーエグジステンスと言つておらなかつたが、今言いかけたというお話つたが、私の理解しておるのはそれと違つておるのであります。一九一七年にロシア革命があつて、社会主義がソ同盟に起つてあときにトロツキー一派は世界全体が社会主義の仲間にならなければ一国で社会主義ができない、つまり資本主義と社会主義というものとは両立できない、平和的に共存ができないと、こういう立場をとつてつたものであつけれども、その反対に、レーニンたちは一国社会主義というものが可能だと、即ち資本主義と社会主義というものは両立し得る、資本主義の世界の中に取りかこまれながら社会主義の建設というものができるということを言つたので、初めからピースフル・コーエグジステンス、一国の社会主義の可能ということを言つておる。もはや社会主義と資本主義というものが両立し得るという立場に立つておるし、歴史から言つてもそうであるし、昔から曾つて奴隷社会と封建社会とが共存した時代があつたし、資本主義と社会主義とが両立しておつた時代が非常に長かつた。やはり今後だつて資本主義の世界の中に社会主義というものが存立し得る、こういうことを初めから言われておつたので、昔はコーエグジステンスと言わなかつたが、今になつてから言いかけたと言うのは、これは歴史を偽造するものであると私は考えておるのであります。併しそれはどつちでもいいんでありますが、日本が、この二つの世界が対立して、そしてその間に冷い戦争があり、熱い戦争があるというような非常に物騒な中で、何とかそういう間で国際緊張を緩和せしめるということは必要だが、その点について日本がなし得る範囲というものは非常に狭い、貢献はそうたくさんできないということを頭からきめてかかつておいでになるように私は聞いたのでありますが、そうでなかつたと言えばそれまでだが、若しそう言われたならば、何故であるか、国が小さいから、或いは国力が弱いから、そういう二つの世界の対立から生ずる緊張緩和の貢献は余りたくさんできないということは言えないのです。これについては私は非常に大きな経験を持つております。丁度昨年私はブタペストで開かれた世界評議会第三回総会に出席しておりました。あのときにこの国際緊張の緩和ということが非常に叫ばれ、そうしてあそこで世界平和は話合でというような意味を持つたスローガンが計画されたわけなんでありますが、この国際間の紛争というものを戦争で解決するのではなくて、平和的な手段で解決しようというようなことが非常に明確なスローガンとなつて現われたのは私はあれが初めてではないか、その前のウイーンにおける世界平和大会においてもそのことが言われておつたが、あのときにあの世界平和は話合でというスローガンが打立てられた。併しそれに対して非常に最も大きな貢献をしたのは私は朝鮮の民衆ではないかと考えたわけであります。なぜならば、丁度あのとき朝鮮の休戦が成立とうとしておつた、丁度六月の十五日から三十日までの大会であつたので、本当の朝鮮の休戦か調印されたのは、その翌月の七月二十七日であつたというように私は記憶しているのでありますが、こういう朝鮮の休戦が目の前に迫つたということが考えられておつたのでありまして、そのときに世界の人々が驚いたのです。あの平和会議に集まつた人々も一層驚いておりました。朝鮮という国は非常に狭い国で、そうして一九十五〇年の六月二十五日の国連の安全保障理事会において、北鮮が侵略したと言つた事実は、その話は長くなりますから申上げませんが、そうしてとにかく朝鮮を一週間か、二周間の間に屈服せしめるという意気込みで戦つたが、朝鮮の民衆は屈服しなかつた、三年間英雄的に戦つた。勿論中国の中国人民解放軍がそれを援助したという関係もあつたが、非常に輝かしい勝利を収めたわけで、アメリカとしてはもつともつとあの戦争を延したかつたのですが、併しあの国連軍に参加している十六カ国の兵隊がもう戦う勇気さへもなかつたので、あのときは早く休戦をしろというようなことを促しておつたのは、むしろそういう十六カ国の兵隊から成り立つてつた国連軍の将兵であつたと思いますが、ともかく非常に不思議なことで、世界が不思議だと思つたと同時に、平和会議に集まつた人々も不思議だと思つたが、それは事実だ、もう朝鮮の休戦は目睫の間に迫つているのは事実であつたので、それはそこへ世界から集まつた代表たちに朝鮮が非常に大きな歴史的の教訓を与えた、その歴史的な教訓は何であるかと言えば、今日のような情勢の下において或る国民が民族の独立を目指して立ち上つた以上は、アメリカのような世界最大の帝国主義の国が持ち得るあらゆる武器と戦力とを以てしても、これを屈服せめしることはできない、即ち今日においてはもはや戦争では何物をも解決することができなくなつた、若し国際間の問題を解決し得るものがありとすれば、それは平和的な話合だ、朝鮮の国民はこれを教えた、これは大きな教訓であつて、少なくともあのブタペストの平和大会に出席した人たちはその点を非常に深く考えたので、朝鮮のような小さな国でも世界に対して大きな教訓を与えた、昨年のあの国際問題に関して最も大きな光を投げたのは臥鮮の民衆ではなかつたか。小さな国だつて決して世界を導くということができないわけではない。そして又今年のインドシナの休戦はその継続であり、一層その点がはつきりしたので、平和運動に従事しておる人たちは、国際間の紛争というものは、戦争によらずして平和的の手段によつて解決し得られるものであるということを、これをはつきり知るようなことになつて来たのでありますが、日本なんかも勿論小さな国ではある、国力が非常に微弱な国だが、併し貢献ができないというようなはずはないのだし、特に貢献し得べき基礎というものは非常にたくさんある。あのビキニの水爆の直後に、国会では水爆の実験を禁止しろというような意味を含んで決議が出された。そうして現在において日本はこの問題において世界を指導しつつあるような関係にあるし、又アメリカに対しては、アメリカがあの水爆実験などということを公然とやつて、そして公海の自由を妨げるようなことをやつているのは勿論国際法の上からいろいろと非難すべき余地があるし、殊にアメリカは、国連のあの第十二条に規定している国際信託統治を行なつておる国では、信託統治の条約からいつてもあんなことはできない。当時あの決議があつたときに、私は丁度僅かばかりの時間で演説をしましたが、その点にも触れておいたのだが、そういう点においては日本は全世界を導くこともできる。SEATOの問題にしても非常に世界を導くいい地位に日本が立つていると思われるのであります。殊にアメリカがアジアにおいてアジア人をして戦わしめよというような政策をとつて、そしてアジア大陸に対して切つても切れない関係を持つている、文化的に通商の上からいつても非常に密接な関係を持つている日本はアジアの一部なんで、非常に隔たつたアメリカと日本がくつつく前に、アジア大陸とはもう殆ど地続きのようになつている国であり、そこに文化的に、社会的に、歴史的に、地理的にいろいろなきずなが結ばれている。そりを引離してしまうということは非常に無理だ。その無理をアメリカが例の日本安保条約とか、日米行政協定でやろうとしているし、又MSA協定もそういう意味を持つている。そういうことに対してアメリカを啓発し得るということにおいても日本は非常にいい地位にあるので、歴史的使命を世界に対して果し得る本当に好適な地位に立つているので、決して日本がそういう点において指導的地位に立ち得ない状況ではないと、こういう工合に特に考えられる。それからもう一つソヴイエト日本との関係で、領土問題がじやまになつておるとか、或いは中ソの友好同盟条約がじやまになつておるというようことを言われたのでありますが、領土の問題について、決してあの問題は解決のできない問題ではないということを私は自分の経験からそれを考えさせられた。というのは、簡単に申上げますが、私は昨年の四月二十三日にモスコーのソヴイエトの外務省でモロトフに会見いたしました。その会見するに、私はあらかじめ答案を用意してもらおうと思つて一つの覚書を渡して、その中に五つ六つ質問を書いておいたのであります。私と会う前に答案を用意しておいてくれたならば非常に時間の節約になると思つてそういうことをしておいたのですが、その中に私はこういうことを書いた。今、日本ソヴイエトとの間においてたくさんいろいろな問題があつて、この点は而も今日は外交関係が異常である。正常化されてない。決して放つておけない問題があるのではないか、少くも今日……。それからもう一つは、今日の異常な外交関係の下においても解決し得る問題もあり得るように思われるがというような前直きをして、そうして今日日本ソヴイエトとの間に横たわつておるところの非常なたくさん難問題のうちの五つ六つの問題を並べて、率直にものを言うほうがいいという考えから問題を出しました。その真先に書いたのはさつきのあなたのおつしやつた領土問題であつたのであります。あの千島列島をヤルタ協定によつてソヴイエトの占領に帰着しておるのである。勿論あのときの事情からアメリカやイギリスあたりが皆承認してやつたので、ソヴイエトにひとり責任があるわけじやないから、だからそれをどうこう言うわけではないし、そんなことを言つても始まらない話であるけれども、併し日本の国民感情から言つたら、あれは当然重大な問題になつておる。勿論我々は今日日本の国土の上にアメリカの軍事基地が八百近くもできておる。それからアメリカの駐留軍が日本に駐在しておつて、いつもそこからソヴイエトを圧迫しているときに、あの千島列島を日本に返して下さいといつてもこれは無理でしよう。そんなことを言うのは気違いだと思う人もあるから、そんなことを言うわけではないが、併し仮にこのアメリカの軍事基地が日本から撤回され、又アメリカのあの駐留軍というものが一人もいなくなつたような、もはや日本ソヴイエトに対すアメリカの侵略の基地などという汚名が全然なくなつたようなときには、こういう領土の問題は解決ができるのじやないでしようか。それから領土主権の問題も戦犯の問題も、戦犯の問題に関してはソヴイエトは私に約束してくれたのでありますが、そのほかいろいろの問題もあつたが、その領土の問題もそれにすつかり入れてモロトフ外相に先に覚書を出しておいた。初めて七月二十二日に私はモロトフ外相に会つた。そうして非常に友誼を尽した会合を開いてくれましたが、そのときに真先にモロトフ外相言つたのは、日本ソヴイエトの間にある問題は、どんな難問題でも話合によつて解決できない問題はない。勿論戦犯問題に関することも言つてくれたし、そのほか文化、貿易の問題、いろいろなことを言つてくれたのでありますが、やはり領土の問題を私は先に言つて、そうしてそれに対する概括的の答弁をほしいと言つたら、それに対して、日本ソヴイエトの間において話合によつて解決できない問題はない、こういうようなことを言つたのです。これは非常に含蓄の多い言葉で、領土の問題でも、今までは解決がつくもつかないも、日本ソヴイエトや中国なんかを侵略する基地になつてつたときに返して下さいと言つたつて、これは無理なことはわかつている。併しそういう問題が片付いてしまつて、本当の平和の世界が来たときには、もう向うのほうから、そういう千島列島なんかどうでも日本に持つて帰れというようなことを言うかも知れないというふうに、モロトフに会つて会談しておるときにそれを感じたのです。併しほかの問題は非常に実際的に言つたら何ですが、併しそういういい感じを受けたのであります。事実そうであると思います。それからこのほかの問題にも言うことがありますが、ともかく向うのほうでは日本ソヴイエトの間において解決ができない問題は一つもない、実際の場合はどうなるかわかりませんが、そういう態度で領土権の問題、戦犯の問題、いろいろの問題でもできるだけのことは解決するという約束をしてくれたのでありますから、その問題はそれほどのむずかしい問題だと思うほどの問題ではないと思うのであるし、それから中ソ友好同盟条約のごときは日本で……。
  149. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 大山委員に申上げますが、一時間のあれが過ぎましたから……。
  150. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 ではもう少し済みませんが、実際的な問題が……。それで日本が貢献し得る余地がたくさんあるという私は考えを持つているということを言つたことが一つと、それからビルマのことについても尋ねたいことがたくさんあるのでありますが、そのうちのただ一つ、あのビルマへの賠償を二億と算定したのはどこから来ておるか。あの条約によると、ビルマに対する、ビルマが受けた苦痛と損害に対して日本賠償をするといつておるのですが、そういうことは金で賠償ができるような問題ではない。けれども併し私はあの二億にした金の高が足りない、多過ぎるとかいうことを問題にしているのじやなく、どのくらい出しても金では解決ができない。丁度水爆の実験の問題と同じようで、頻りに賠償賠償ということを言われている。まあ被害者に賠償するということは非常に大切なことであり、少しでもたくさんの賠償額がやられるということは結構なことだと思うのですが、あれは水爆実験禁止ということが中心問題なので、賠償問題よりももつとそのほうが大事なのです。ビルマにおいてもやはりそうなので、あのビルマが受けた損害と苦痛というものはどれだけの金を以てしても到底賠償ができるものではない。もつと必要なことは、日本が再びビルマを侵略するようなことをしないという保障を与えること、又保障を与えるに等しい状態を作ること、これにあると思うのであります。そうすると、やはり日本の再軍備なんということが問題になつて、一体再軍備に対して、再軍備の直接問題の費用は一体どれくらいになるかわかりませんが、ちよつと私の計算によると、アメリカの金に直して六億ドルということになつてつたと思う。一年に五千万ドルだから、到底そういうようなことから言つたら、あの賠償の額なんか低過ぎるとも思いますが、高いとか低いとかいう問題じやなくて、さつきからいろいろお話があつたような、日本の支払能力という問題にもなるし、それから将来インドネシアとか、ヴイエトナムとか、フイリピンとか、そういうところから、重光外務大臣が言つておる通りに、将来中国と非常に親善関係を結ぶようになると、当然中国への賠償問題が出て来るに違いない、私自身は中国と日本と親善関係を結ぶというようなことから、日本と中国と親善関係を結ぶじやまになるようなことは向うは言わないと私は思うのであります。又そういう確信があるということは、中国の政治家、ソ連政治家も、私接触して得た感じから、こういうようなことは言い出さないと思うが、だから曾つて中国を敵国として、今日でも敵国として台湾を承認しているような政策をとつておるようなことから言つたら、この問題は考えなければならないと思うのであつて、やはりそういう意味でこの賠償額というものが問題となると思うのであります。それで初め私たちはあの問題が起つたときに聞いておつたのは、日本政府のほうじや大体賠償額を一億ドルほどにするというような、こういう決定をしておいでになつてつたということを聞いておつたが、いつの間にか二億ドルということになつてつたので、そうして一億ドルが二億ドルに殖えた基礎が何かということは少しも示されておらない。ところがいわゆる巷間伝うるところによるというと、ジヨン・フオスター・ダレスがフイリピンで九月の初めにあの東南アジア防衛条約を結んで、それが済んでから日本にちよつと立寄りましたあのときに、岡崎外相に会つて強圧を加えた。そのことはあのウー・チヨウ・ニエンも知つてつたから、初めから二億ドルをかち得るという確信を持つてつて来たということを、そういうことが伝えられておるのであるが、こういうようなことがあつたかなかつたか、多分ないという御返事が来るのだろうと思うけれども、併しそういう噂というものをやはり相当に我々は顧みなければならないのじやないか。それで二億ドルが多過ぎるということは毛頭思わない、日本の支払能力ということもあるので、二億ドルに限つたというのは止むを得ないことかも知れないが、そうしてその二億ドルを賠償することによつてビルマの人たちが非常に日本の誠意を汲んでくれて、あの曾つて侵略した罪を日本が悔いておるというような、こういうふうに受取つてくれたら、今後日本ビルマの友好関係の前途の上から言つても非常に喜ぶべぎことであると、こう考えておるのでありますが、如何にして二億になつたかというこの問題は非常に大事なんで、殊によるとアメリカ帝国主義のアジア政策の中へビルマを追い込もうとして、そうしてビルマにはそういうふうに二億ドルを取つてやる。日本へは二億ドル払わせるというような、こういうやり方をしたのかも知れない。そうすると、非常に問題が重大だと思うのでありますが、それで初めに政府が一億ドルぐらいなところに目安を置いておいでになつたということは本当か、それから又若しその一億ドルのところに目安を置いておつたのに二億ドルになつたのはどういうわけであるか、ジヨン・フオスター・ダレスのあの強圧というようなことは本当に噂に過ぎないか、こういう問題が起つているので、これに対する外務大臣の御答弁をお願いしたいと思います。  それからもう一つ……。
  151. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) もう大分過ぎておりますから……。
  152. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今一億ドルが二億ドルになつたのはどういうわけかというお話でありましたが、実はこの交渉は前内閣がやりまして、私のやつた交渉じやございません。そこで的確なことを申上げるということは不可能でございます。私今取調べなければわかりません。併し私の承知しているところでは、ダレスの圧迫によつて一億ドルが二億ドルになつたというわけじやありません。これはひとえにこのビマルとの国交回復を急いで、そうして賠償問題は早く片付けて、できるだけ今お話のように、いろいろなビルマに対して損害も与えているものですから、それは早く解決したいと、双方の合意によつてこれができたと、こう承知をいたして、私もそれを喜んでいるわけであります。
  153. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) それでは外務大臣もセイロンの総理とお会いになります時間があるようでありますので、本日はこれで散会したいと思いますが、明日は十時から始めて、午後も続けて、明日中に委員会の採決をいたしたいと思います。どうぞ御協力を願いたいと思います。  本日で各会派が一巡して質問をいたしました。残質問時間は合計で二百三十九分でございます。明日は大谷委員六十分、高橋委員三十分、羽生委員六十分、天田委員十分、佐多委員六十分、曾祢委員が事務当局に対する質問として十九分残つているのでございます。で、大体そういう順で参りたいと思います。そのほかに三輪議員から委員外の質問のお申込がございましたが、理事会では各委員質問が終つたのちに時間があつたらばということにきめております。できればこれは十番目の佐多委員の御質問の中に入れて頂くことに願いたいと思います。各会派のうちで、社会党左派が百二十分という多一い時間を占めているようでありますから、そういうふうに一つ願いたいと思います。尤も岡田委員質問時間にほかの左社のかたの委員の御質問が入りましたから、それは適宜羽生さんの質疑の時間又は佐多さんの質疑の時間に入れて頂きたいと思います。
  154. 岡田宗司

    岡田宗司君 議事進行について……。私の会派の者とも相談いたしましたし、又曾称君とも相談いたしまして、明日は我々も時間を短縮することに協力いたします。今日かなり質疑をいたしましたので、そうしたいと思いますので、大体私は明日は午後一時から夕方までの間に上げられ得るという見込が立つのじやないかと思います。正一時に開いて頂いて、そうして夕方までに上げるということでやつて行きたいと思いますが、一時から開催することをお諮り下さるようお願いいたします。
  155. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 私も早く済めば結構だと思いますが、大臣の出席の要求は如何でございますか、大蔵大臣の御要求はもう本日でよろしうございますか……。そうすると、あと外務大臣だけでございますね、外務大臣、明日の御都合如何でございましようか、一時から……。そうすると、外務大臣の都合はそれでもよろしいようです。午後でもよろしいようです。そうすると、午前は開かないことにいたします。
  156. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) それでは一時から併しこの質問の時間を……。
  157. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 私もあと五、六分頂きたいと思います。
  158. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) 大山委員のは本日もちよつと超過をいたしておりますので……。
  159. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 五分で済むと思うのですが。
  160. 高橋道男

    ○高橋道男君 夕方までに上げられることは結構ですけれども、五時でも夕方だし、六時でも夕方なんです。大体その見込みを……。
  161. 岡田宗司

    岡田宗司君 五時乃至六時頃終ることにしましよう。
  162. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) それではそういうことにいたしまして、三輸さんのほうへの御了解は一つ……。
  163. 岡田宗司

    岡田宗司君 我々のほうでやりますから。
  164. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) それではそういうことで、若し六時までの間に上げるようにするということでありますれば、大山委員に最後に……。
  165. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 どうぞもう十分ほど願えませんか。
  166. 石黒忠篤

    委員長石黒忠篤君) それではそういうことにいたしまして本日はこれで散会いたします。    午後五時五十一分散会