○猪俣
委員 この手紙によりますと、十六日の日は、彼は警備の当番であ
つたが、五時半過ぎにそれを発見するとともに憲兵隊に連れて行かれて、その翌日の十七日の四時までその黒んぼの准尉とやらに
調べられた、それから家へ帰されましたが、ただちに十二時からまた
調べられて、午後の七時まで
調べられたというような猛烈な
調べを十七、十八、十九とや
つておりまして、そこで自分の身はどうなるのであるかというようなことから、私には二十二日にこの手紙を出しておるのであります。ところが二十三日か四日、私の留守のときに事務室へ参りまして、私の秘書にうそ発見器にかけられて、もうほとんど心身衰弱の極に達しておるということを訴えて帰りました。それ以来私のところへ出入りいたしません。あなたから聞くと、二十四日にそういう表明をするようにな
つたというのであるがどうも私は妙な予感がするのであります。
何か
警察が私のところに来たようなことを察知されて、何かの手を打たれたのじやないか。場合によ
つては何か強制的にそんなふうなことを言わせて調書をおとりにな
つたのじやなかろうか。そうすると彼がそんな、あなたが言うように、
警察の
調査に感謝するようなことと――この手紙をひとつお読みなさい。言々句々涙の手紙であります。もしこれが真実だとすれば、彼はま
つたくの二重人格で、私もあきれ返らざるを得ないのでありますが、私の三十年の弁護士生活の経験からいいますと、おそらくあなた方が都合のいいように本人に自白せしめたという公算がはなはだ大であります。ですから二十四日にうそ発見器にかけて締め上げたあと、彼をしてすでに抵抗力を失わしめた上で
警察に感謝せしめたのだろうと思う。それをあなたはもう少しお
調べなさらぬと、それをも
つて得意にな
つておられると困る。それ以来私のところに大体来ないのです。何かそこにあ
つたと私は考えまするが、事実無根のことであるならば、まことにおめでたいことでありますけれ
ども、これはよく御
調査願いたい。また
人権擁護局長がおいでにな
つておりますが、
人権擁護局としてもお
調べ願いたい。詳しいこの手紙を局長に差上げますから、
警察とは別に
調べてください。
警察の言うことには相当かけひきがあるので、私は今までの長い経験から信用できない。ま
つたく
警察に感謝しているというのに、こういう手紙で見ず知らずの私のところに訴えて来る道理がありません。鹿地亘の
事件におきましても、向うの
報告によれば、彼は身の危険を感じてアメリカの友人に保護を頼んだのだ、こういうようなことを発表しております。
警察もそういうふうにおとりにな
つて、その発表を支持しておられたように私は記憶するが、内容はま
つたく違
つてお
つた。沖繩まで軍用機で運ばれておる、こういうような始末なんです。沖繩の友人をたよ
つて彼は爆撃機に乗せられて行く道理がない。そんなことで身の安全をはか
つたなんということは荒唐無稽の話でありますが、由来どうも
警察の発表するものはちつとそういう
傾向があるのであ
つて、江口さんは正直な方であるから、その部下の言うことを真に受けて喜んでいらつしやるかもしれぬが、もつとそれは
調査していただきたい。おそらくこの手紙は二十二日に出ておる。二十四日に
警察にそういうことを言
つて、ぴたつと私のところに来ません。どうもその間に何かの工作が行われている。まさか殺したのではなかろうけれ
ども、何か工作が行われているのではないか。これを御
調査願いたいと思います。
人権擁護局にもお願いしておきます。この問題はまだ捜査中であると存じますので、私はそれ以上は追究いたしません。
今度は、
公安調査庁の
高橋さんがおいでにな
つておりますが、これは実はあなたに私が人名を申し上げると、はつきりした御答弁が願えるのでありますけれ
ども、どうも人名を申し上げることは、まだ二十四、五才の大学卒業し立ての純良な青年でありますために、そしてまた今の青年は相当
公安調査庁を恐れています、赤でもない、何でもない人間が恐れている。
警察も恐れています。何で因縁つけられるかわからぬということで、名前は出したくないと言うのであります。ちよつと上の方の方々はただきれいなことだけをごらんにな
つているのかもしれませんが、ひとつお含み願いたいことは、事ははなはだ小さいことでありまするけれ
ども、現在の反動的な空気の中にありまして、
公安調査庁全体の職責というものから考慮いたしますと、こういうことが
全国的に行われておるのではないかという心配があるのであります。たまたまこの事実が特殊の
関係から私の耳に入
つたので、一応お聞き願いたい。ちようど
警察のお歴々もおいでにな
つて便利だと思う。
それは古い話なんです。
昭和二十八年三月八日の話。この男は、大和証券の名古屋支店に勧めてお
つた大学出のインテリであります。そこへある日三十数才のふちなしめがね、合オーバーを着た一見サラリーマン風の男がたずねて来て、この勤め人を呼び出して、株の取引をするがごときことを、言うて、その日はそれで帰
つたそうですが、翌日また現われて、その会社の近所のすし屋に呼び出して、きようは折り入
つてあなたにお願いがあるんだ。あなたは一体だれだ。それは聞かんでくれ、あなたが私に協力すると言えば自分の職能を明らかにする。何だと言うと、とにかく
組合の内部や共産党の内部なんかについてあなたが知
つていることがあ
つたら通報してくれぬか。そこでそんなスパイのようなことは私はいやだと言
つたところが、がらりと態度がかわ
つて、お前は赤だ、お前のことは全部役所で
調べが済んでいる、お前は全学連の
委員をや
つていたじやないか、そういう前歴をお前は全部隠してこの会社に入
つた、協力しなければ、ただちにこの旨を会社の経営者におれは告げる、お前はただちに首になるだろう、これでお前とは二度と会わぬ、お前が協力してくれれば、物質的には決して困らせない、こういうことを言い置いて別れたそうであります。その後約十日た値ちますと、その十日間に、あとの
調べでわか
つたが、この大和証券で彼の母校である名古屋大学の法学部に対して彼の在学時代の
活動を
調査したらしい。そこで当時名古屋の支店長中島氏に呼び出されて、君は共産党ではないのかという
質問をせられた。とともに、君はもうすぐ首にしたいと思うけれ
ども、しかし今まで非常にまじめによく仕事をしたから、まあ首はつないでおくがというようなことです。その後何か身体検査を会社の医者にさした。ところが結核のきみがあるというので、休養を命ぜられた。三箇月た
つて行
つてみると、まだだめだという。また三箇月の休養を命ぜられた。六箇月目に完全になお
つたからとい
つて、復職を願
つたところが、いやお前はもう六箇月病気で休養して休んだから、社内の規定に
従つて半年以上欠勤した者は退社することにな
つておるから、退社だということで、首にな
つてしま
つた。
労働組合はあるけれ
ども、御用
組合だから、そんなものはてんで取上げてくれぬ。そこで彼は失職してしま
つたのであります。そこで彼の母親と私の家内が学校の同級生であ
つたために、就職
運動のために私の家内のところへお母さんに連れられて来た。そのときの雑談にこれが出て来た。それを私に訴えて来たんではありません。そこで私は本人に会
つてそれを話しく確かめましたところが、以上の事実がわかりました。
一体この三十幾つのふちなしめがねの合オーバーの男は何人であるか。おそらく
公安調査庁の
調べ人に違いない。それでなければ、彼の身の上をすつかり知
つてお
つたそうですから、知
つている道理はございません。また生活に困らせないというふうなことを言う道理はない。何の
関係もなしにこんな男をたずねて行
つてスパイになれと言う道理はない。おそらくかようなことを
公安調査庁では――あるいは
警察かもしれない、こういう特高的な、東条内閣時代のような、また平清盛が放
つたという三百の地頭と同じようなスパイを市中に放つのではないか、いや現に放
つておるのではなかろうか。私は実に慨嘆にたえません。かようなやり方は絶対したことはないのか、あるいはこういうふうに何人かに口をつけて、それを
公安調査庁が共産党の秘密を探るとかあるいは
労働組合内部を探るとかいうことに御使用にな
つておるかどうか。私はある
程度は必要だと思う。皆さんはそういう危険なる思想の持主、破壊
活動をやらんとする者を
取調べるのが目的であるとするならば、スパイ
政策も必要であると思いますけれ
ども、こんな善良に、平安に勤めておりまする二十四、五歳の若い社員に対し、かような脅迫をし、加うるに利をも
つて誘導し、彼をして最も卑劣なるスパイ行為をさせるがごときことは容易ならざることだと思う。これは大きなる
人権侵害であります。かようなことを
調査庁は過去においてや
つたことがあるかないか、現在や
つておるかないか、や
つてお
つたとすれば、将来これを根絶する意思があるかないか、これを御答弁願いたい。