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公述人(大内力君) 私大内です。今日は主として今度の予算が農村にどういう影響を及ぼすかということを中心にして少し申上げてみたいと思うのであります。その問題に入ります前に、予算全体が持
つております問題につきまして、二、三の疑問な点があるのじやないか、こう考えられますので、先ずその点を申上げまして、それから農村との
関係というような問題に移
つて行きたいと思います。
で、予算全体の問題点と申しますと、御承知のように、政府は今度の予算は非常な
緊縮予算である、いわゆるデフレ予算であるとこういうふうに言
つているわけであります。併しこの点に実は疑問があると思うのであります。本当に考えますと、この予算は昨年度に比べますと、或いは二十八年度に比べますと、かなりの
膨脹予算に
なつているのじやないか、こういうふうに考えられるので、あります。で、それは又幾つかの点が問題になるわけでありますが、先ず第一に考えられますことは、成るほど今度の予算は一般会計だけで申しますと、九千九百九十五億ということでありまして、二十八年度の一兆二百七十二億円よりも若干少く
なつている。こう言
つていいわけでありまして、一般会計だけで言えで、一応
緊縮予算のように見えるのでありますが、併し特別会計まで含めまして、いわゆる予算の純計というものを見ますと、二十八年度の
歳出純計は二兆四十億であ
つたのでありまして、二十九年度の
歳出純計は二兆五百三十億になるわけでありますから、約五百億円
膨脹している、こういうことになるわけであります。
それから第二の点でありますが、仮に一般会計だけに問題を限りましても、さつき申しました二十八年度の一兆二百七十二億円、こういうのは実は追加予算まで含めまして、昨年度は二回追加予算があ
つたのでありますが、その二回の追加予算を含めました最終予算の抜字であります。そこで二十八年度の当初予算をとりますとそれは九千六百、五十五億円だ
つたわけでありますが、二十九年度の当初予算よりは三百四十億円少なか
つたと、こういうわけであります。そこで二十九年度の予算が果して緊縮
財政であるかどうかということは、今後追加予算が細まれないかどうか、こういうことにかか
つておるわけでありまして、若し追加予算が組まれるということになれば、二十八年度よりも相当の
膨脹予算になる、こう考えなければならないと思うのであります。
そこで問題は、追加予算が組まれないかどうかと、こういうことでありますが、この点につきましては、私はむしろ見通しは悲観的ではないかというふうに思うのであります。というのは、第一には、終戦以来今日まで、
日本の
財政は追加予算を組まないでやれたことが一度もないのでありまして、いつでも追加予算を組んで来ているわけでありますので、それが今年だけ追加予算を組まないでやれると、こういうことはどう考えても楽観に過ぎやしないか、こういう気がするわけであります。御承知の通り今の
日本の経済は、全体として非常に安定性を欠いているわけでありまして、例えば一度台風でも来れば、すぐにその救済のための支出が必要に
なつて来ます。或いはこの不況が多少でも深刻になれば、それを救済するための手を打たなければならない、こういうことになります。或いは国際政局が働くというようなことによ
つても、非常に
日本の経済は影響を受けるわけでありまして、例えば世界的に平和の傾向が強くなりまして、そして各国の軍備拡張というものがとまるというようなことになりますと、恐らくは相当な不況が
日本に来る。そこで今でさえ困難な
日本の輸出が一層困難になる。こういうような問題も考えられるのでありますが、そうなりますと、例えば輸出奨励費とか、或いは二重価格制度のようなものが
要求されるわけでありまして、そういう点からも又予算が
膨脹する、こういうことも考えておかなければならないと思います。そういういろいろな条件を考えますと、追加予算を組まないでこれからや
つて行けるという見通しはかなり困難ではないか、こういう気がするわけであります。
それからもう
一つの点は、この追加予算を組まないというようなふうに政府が言う場合には、御承知の通り今後において物価が一割乃至二割下るであろう、こういうことを一応の前提として追加予算を組まない、こういうことを言
つていると思うのであります。ところがこの点に関しましても相当問題が残
つているわけでありまして、御承知の通りこの四月から予定通り行けば、運賃や電気料金が上ると言われております。それから例えば輸入規制が強められるということによ
つて砂糖とか或いは木綿とか、或いは羊毛のような輸入品が相当値上りをするということも予想されるのであります。或いは又昨年の不作の影響を受けまして、少くとも闇米は今後相当上るであろうという予想も持たれるわけでありまして、一般的に言えば値上りの傾向というものがかなり強いというふうに考えられるわけであります。それに対して政府は
財政の緊縮、それから金融の引締めによ
つて物価の引下げを図ろうというわけでありますが、
財政の点についても問題が残
つているということはあとで申上げますが、金融の引締めのほうで物価を下げるということは、私は実際問題として非常に困難であろうと思います。金融を引締めて参りまして、そのために多くの企業が破綻を来たす、こういうようなところまで行けば、どうしても金融を緩めざるを得なくなります。こう考えられますし、逆にいろいろな救済貸出というような形で金融が
膨脹するということが考えられる。従
つて金融の引締めによ
つて物価を下げるということは相当困難であろうと、こう思われるのであります。そういうことで、いろいろな条件を考え併せますと、今後の物価の見通しとしては、せいぞれ横這いと考えていいのじやないか、悪くいたしますと、多少値上り傾向が出て来る、こういうふうにも考えられるのであります。いずれにせよ、物価が一、二割下るということを前提とすることは、予算の組み方としては私は相当問題を残すのではないか、こう思うのであります。
それから第三の問題といたしましては、御承知のように今度の予算におきましては、従来平衡
交付金で処理されておりました
地方財政への
交付金というものが特別会計に追出されているわけであります。この特別会計の
地方財政への
交付金は全体として千四百八十七億円でありますが、そのうちで千二百九十五億円だけは一般会計からの繰入れでありますから、これは一応別といたしまして、残りの百九十二億円というものは本来は一般会計に計上さるべきものが特別会計として外に出されている、こういうものに過ぎないのであります。そこでこれを一般会計に合せて考えますと、一般会計の総額は一兆百八十七億円、こういうことになるのでありまして、二十八年度の最終予算に比べましても僅かに八十五億円下廻
つておるに過ぎないと、こういうことになるわけでありまして、決して政府の言うほどの
緊縮予算ではないということがわか
つて来ると思うのであります。そこでむしろこの予算は
膨脹予算だと言
つたほうがいいのでありまして、それを例えば
国民所得との対比という点から考えましても、二十八年度の
一般会計予算というものは、
国民所得に対しまして一七・三%でありますが、政府の予算通りで計算いたしますと、二十九年度は一応一六・七%に下る、こういうことに
なつております。で、併し実際は今申しました
地方財政交付金の分まで合せて考えますと、実際の
国民所得に対する比率というものは一七%になるわけでありまして、昨年度より下
つているとは言えないのであります。更にこれを純計のほうで計算いたしますと、二十八年度が
国民所得の三三・七%であ
つたのが二十九年度は三四・三%というふうに
膨脹をしている。こういうことがわか
つて来るのでありまして、やはり全体としては予算の
規模が相当大きく
なつていると、こう考えていいと思うのであります。ところでこういうふうに全体としてこの予算の
規模が大きく
なつているということはどういう結果を生むかと申しますと、先ず直接的な結果といたしましては
租税負担がそれによ
つて増大するということが考えられるのであります。で、それは特に今度の予算は御承知の通り昨年と違いまして、二十八年度と違いまして公債の発行を殆んど行
なつておりません。又資金運用部やその他の所有公債の売却ということも見込んでいないわけでありますから、従
つて財政の
膨脹はすぐに
租税負担のほうにはね返
つて来る、こういう形に
なつている、こう言
つていいと思うのであります。この
租税負担という点になれば、
国税だけでなくて
地方税も問題になるわけであります。先ず
国税だけを見ますと、二十九年度の
国税は九千二百十五億円、これは専売益金とそれから
入場税を含めてでありますが、それを含めまして九千二百十五億円であります。で、二十八年度の九千七士五億円に比べますと甘四十億円の
膨脹だということになるのであります。又、これを二十八年度の当初予算と比べますと、当初予算では八千五百七十億円だ
つたのでありますから、実に六百四十五億円の
租税の
膨脹に
なつていると、こういうわけであります。
そこで
国民所得との比率から申しましても、二十八年度の当初予算は一四・四%、それから最終予算が一五・三%でありますが、二十九年度の予算は一五・四%になります。当初予算に比べれば無論のことでありますが、最終予算に比べても
国税負担が更に
膨脹しておる、こういうことになるわけであります。更にこれに
地方税を加えますと、
地方税は二十八年度におきましては三千百二億円だ
つたのでありますが、二十九年度は三千四百七十四億円、三百七十二億円増加をする、こういうことに
なつております。そこで
国税と合せて考えますと、
租税負担の総額は五百十二億円殖える、こういうことになるわけでありまして、全体の
租税の
負担率は二〇・五%という二十八年度の牧字から二一・二%というふうに一%くらい増加する、こういうことになるわけであります。これを更に二十八年度の当初予算と比べてみますと、二十八年度の当初予算の
地方税は三千四十八億円であるわけでありますから、二十八年度とこれを比べますとというと二十九年度は一千七十一億円の
租税負担の増大だということになります。
負担率のほうから申しますと一九・六%から二一・二%に殖える、約二%くらい増大する、こういうことになるわけであります。こういうわけで全体としてこの
財政が
膨脹し、そうして
国民の
租税負担が増大する、こういう問題を今度の予算が孕んでおる。こういうことに先ず予算全体の問題として御注意されなければならないのではないか、こう思うわけであります。
さて、次に経費のほうに我々の目を移しまして考えてみますと、この経費の面で御承知の通り今度の予算におきましては、いわゆる国防費
関係の経費というものが相当な
膨脹を遂げておる、こう申していいわけであります。国防費
関係の経費と申しますのは、普通は防衛支出金、それから保安庁経費、それから軍人恩給というものを合せるわけでありますが、それを合せてみますと二千十一億円になるわけであります。二十八年度に比べまして三百二十八億円の脹膨、こういうことになります。そうしてこれを一般会計
歳出全体との比率をとりましても、二十八年度は一六・四%でありましたが、今度は二〇・一%というふうに約四%くらい国防費が
膨脹する、こういうことになります。更にこの狭義の意味の国防費に平和回復善後処理費、それから連合国財産補償費、こういうものを加えまして、それを一般会計
歳出全体から差引きまして、いわゆる固有の意味における内政費というものを計算してみますと、二十八年度の内政費が八千五百五十五億円でありましたのが、二十九年度は七千八百九億円、こういうふうに、内政費は逆に縮小しておる、こういうことがわか
つて来るわけであります。この七千八百九億円という
数字は、二十八年度当初予算と比べましても、その内政費は七千八百六十七億円でありますから、二十八年度の当初予算よりもなお内政費が貧弱に
なつておる、こう言
つていいわけであります。而もこの二十八年度一ぱいで、卸売物価指数を見ますると、卸売物価指数が約四%騰貴しております。従
つて二十九年度の七千八百九億円、この内政費は物価指数で修正をいたしますと、二十八年度に画してみれば約七千五百億円、こういうことになるわけでありますから、全体として政府の
国民に対するサービスというものは、やがて一割くらいは本年度は小さくなる、こういうふうに考えておかなければならないと思うのであります。そこで、そういうふうに内政費が全体として小さく
なつておるわけでありますが、その内政費の小さく
なつたしわがどこに寄
つておるか、こういうことを検討してみますと、先ず口に付くのは公共事業費、それから食糧増産対策費というものが百四十一億円減
つておる。それから出資及び投資金というものが二百三十九億円、それから輸入食糧価格調整補給金が二百十億円減
つております。この
三つが非常に目立つ減少でありますが、更にそれに続きまして、食糧管理費というものが五十六億円減
つております。それから文教施設費というのが十三億円減
つております。こういうような経費が非常に減
つておる。こういうことに我々は非常に注意しておく必要があると思うのであります。
それからもう
一つ、
地方財政との
関係でありますが、
地方財政に対する平衡
交付金は、今度の
入場税の分まで入れますと、一応九十二億円殖えておる、こういう形に
なつております。併し他方におきましては、
地方債の起債の枠というものが二十八年度に比べますと百四十三億円削られております。従
つて地方財政に国から入る金というものは差引きいたしますと五十億円ぐらい減少する。こういう計算に
なつて来るわけでありまして、この点も
一つ注意しておく必要があるわけであります。ところで、以上申しましたような縮小している経費というものは、いずれも農村にとりましては相当重大な
関係を持
つておる経費だと、こう言
つていいと思うわけであります。そこでその点を多少立入
つて考えてみますと、先ず公共事業費がかなり大幅に削られておりますが、公共事業費の中で特に削られておるのは、災害復旧費が百四十三億円削られております。それから冷害救農土木事業
関係というのが約四十億円、これは総額削られておるわけであります。それからそれに対しまして、治山治水と呼ばれるものが三十三億円殖えておる、道路港湾が三億円殖えている、こういう形に
なつております。それから食糧増産対策費のほうは全体として六億円の増加に
なつている、こういう形に
なつております。ところでこの災害復旧が今申しましたように百四十三億円も削られているというわけでありますが、この削られている理由は、この予算の説明を見ますと、昨年は御承知の通り異常な災害の年であ
つた、そのために災害復旧費が特に嵩んだのだから、そこで今年はもつと削ろうと、こういうことらしいのであります。併しこれはかなり疑問でありまして、先ず
昭和二十一年以来
昭和二十七年までの七年間というものの災害がどのくらいに
なつているかということを計算いたしますと、その復旧所要額というものは総額で約六千三百億円ぐらいに
なつている。一年平均にいたしまして約九百十億円というのが災害復旧所要額として出て来るわけであります。これは二十七年の物価水準で計算しておりますから、これを現在の物価水準に直しますと、大体一千億円と大まかには考えていいと思います。そこでこの一千億円の災害復旧所要額のうちの約七割を国が
負担する、こういうふうに考えますと、国の予算の立て方といたしましては、年々七百億円は災害復旧費として恒常的に見込んで行く、こういうことが必要なわけであります。これが過去七年間の実績に照らし合せまして動かすことのできない
数字であると、こう言
つていいと思うのであります。ところがこれまでも災害復旧費が十分に出されていなか
つたのですから、そこでだんだんとこの工事が繰延べされて来ている、こういうふうに
なつておりまして、この繰延額が二十七年度で千七百八十億円に達しております。で、この千七百八十億円の中で国が
負担しなければならない分は千二百九十二億円、こういうわけであります。これに更に二十八年度の災害のまだ工事が片付いていない分というものを合せますと、恐らくは二千億を大分超えるのではないか、こういうふうに考えられるわけであります。そこでこの二千億円の工事繰延べの部分というものを仮に今後五カ年間で片付けるということにいたしますと、どうしても年々四百億円乃至五百億円ぐらいの経費が必要だと、こういうふうになる。そこで災害復旧費が全体としては千二百億円ぐらいの枠を取
つて置かなければならない、こういうことになるのではないか、こう考えるのであります。それに対しまして今度の予算に計上されておりますのは五百二十三億円ですから、大体必要額の半分にも達していない、こういうわけでありまして、これでは如何に公共事業費を効果的に使う、冗費の節約をする、こういうことを考えましても、むしろ国土の荒廃の進むほうが早くて、回復するほうが遥かに遅いのではないか、こういうことが恐れられるわけであります。他方でこの治山治水がさつき申しましたように三十三億円ばかり殖えておりますが、その殖えたごときものは殆んど問題にならないのではないか、こう考えられるわけであります。ところでこういうふうにして公共事業費が減少して、国土の荒廃が進むということは、言うまでもなく農業生産にと
つては非常に重大な悪影響を及ぼすと、こう言
つていいわけですが、更にこの問題は農村にと
つて考えますと、そういう国土が荒廃するという問題だけでなくて、それ以外に更に二つの重要な点があると思います。その第一は、こういうこの国が
負担する公共事業費というものが削減されますと、どうしてもそれだけ、しわが
地方財政のほうに寄
つてくる、こういう問題でありまして、事業をやるために
地方財政がそれだけ
膨脹をせざるを得ない。そのことが今度は
地方税の
負担増加、こういう形で撥ね返
つてくるのではないか、こういう問題が
一つ考えられます。それからもう
一つはこの公共事業費の中の約半分は労務費でありますが、この労務費の又七〇%乃至八〇%は農村の労務者を雇用するために使われていた。こうい
つていいわけであります。そこでこの公共事業費というものは、農村にとりましては相当大きな兼業収入の源泉に
なつていたのでありますが、これが削られるということになりますと、農村の兼業収入は相当な打撃を受けるであろう、こういうことが考えられるわけであります。而も最近の農家経済を御覧になりますと、御承知の通り農業からの収入或いは農業からの所得というものでは、到底家計を維持できないのでありまして大体二町五段くらいまでの農家は農業だけの収入では家計を維持できない。こういう形に
なつているわけであります。そうしてその足りない部分を殆んど労賃収入により兼業収入によ
つて補
つておりますから、この兼業収入が減るということは農家経済にと
つては相当大きな打撃であろう、こう考えられます。これに併せて考えなければならないことは、先ほどちよつと申しました冷害救農土木事業費というものの四十億が全額削られていると、こういうことであります。この冷害救農土木費は昨年の冷害のためでありますから、これを削
つたということは一応わからないではないのでありますが、併しよく考えてみますと、殊に冷害をひどく受けました単作地帯におきましては、実際農家として金が入
つて参りますのは今年の十二月頃、供米が終
つたときに初めて金が入
つて来るわけでありまして、それまでの間はどうしてもほかの現金収入で繋がなければならない。こう言
つていいわけであります。それをこの冷害救農土木費を削りまして三月で支出を終
つてしまう、こういうことになりますと四月以降農家にとりましては現金収入源が絶たれるのでありましてこれが又農家の経済にと
つては相当大きな影響を及ぼすのではないかと、こう考えられます。それから次の問題は増産対策費でありますが、これは先ほど申しましたように一応六億円殖えた、こういう形に
なつております。併し他方では出資及び投資というものが先ほど申しましたように大幅に削られておりましてその中でも農林漁業公庫というものに対する出資及び投資が百十一億円も削減されている、こういうことになるのであります。そこでこの農林漁業公庫の貸出は、二十八年度の二百六十六億円に対しまして二十九年度は二百二十五億円というふうに、四十一億円も減少をする、こういうことになるわけであります。その中の土地改良に対する貸出だけをとりましても、大体七億円減少する、こういう形に
なつております。そこでこの出資、投資まで併せました増産対策費というものを考えますと、これは二十八年度よりも減ることはあ
つても殖えることはない、こう言
つていいわけなんであります。ところでこの増産対策費というのは、昨年のこの
公聴会でも申上げたと思いますが、大体農林省の五カ年計画にこれを突合わして見ますと、昨年度の予算におきましても大体必要額の半分ぐらいしか予算の裏付ができていない、こういう形に
なつていたのであります。今年はそれが更に減るわけでありますから、実は予算の裏付は必要額の半分以下に
なつていると、こう言わなければならないわけであります。こういうこの貧弱な経費では、到底増産効果というものを十分見込むわけには行かないのでありまして、この
程度の費用でありますと、大体は一年間に百万石ぐらいの増産しか見込めないだろう、こう言われております。ところが百万石と申しますのは、他方におきましては耕地が全然潰廃され或いは施設が老朽化する、こういうことによ
つて収穫の減少が見込まれるわけでありましてこの収穫の減少が大体年々百万石だと、こういうふうに言われておりますから、結局はその減少分を埋め合わせる
程度の増産が行われるということに止まるわけであります。ところが他方におきましては
人口の増加によりまして消費量は当然殖えると、こういうことになるわけでありますから、この
程度の増産経費というものでは、
日本の食糧
事情はむしろますます輸入に依存する部分が殖えると、こういうことになるわけでありまして決して食糧自給態勢が
強化されるということにはならない、こう考えられるわけであります。なおこの増産対策費につきましては、先ほどの公共事業と同じように、これは一方におきましては農家の現金収入の源泉にも
なつておるのでありますから、その点からい
つても、これが削られるということは相当大きな問題ではないか、こう思うのであります。
それからその次の出資及び投資金の削減でありますが、この中で農林漁業公庫のことは先ほど申上げましたから、それを除いて考えますと、問題になりますものは石炭とか鉄鋼とか機械とか肥料とか、こういうようないわゆるこの基礎産業に対します開発銀行からの融資というものが、これの削減によ
つて大体百二十五億円ぐらい減少するという形に
なつておるということであります。こういうことは何と申しましても基礎産業の
合理化というものを停滞させる、こういう虞れを持
つておるわけであります。更にこの開発銀行からの融資が減少するだけのものが、普通の銀行からの融資に振替えられる、こういうことも考えられるわけであります。若しそういう
方向に進んで行くということになりますと、当然一方ではこの銀行融資が膨れ上るわけでありまして、それが又日銀の貸出を
膨脹させてインフレを促進する、こういう効果を生むことも恐れられるわけであります。他方では普通銀行の貸出は、どうしてもそれだけ利子が高くなるわけでありますから、従
つて例えば
日本の商品の輸出力の増大というような点から言えば、却
つて悪影響を及ぼすであろう、こう考えられるのであります。又将来の物価の動向から申しましても、物価の引下げをそれだけ困難にする、こういう条件をもたらすのではないか、こう考えられるのであります。更にこういう融資によりまして、普通銀行の金融が困難に
なつて参りますと、そのしわは当然中小企業のほうに寄
つて来る、こういうことになるわけでありますから、仮に今度の予算で中小企業金融公庫の貸出は六十億円ぐらい殖えておりますが、それだけでは到底及ばなくて、中小企業が非常な金詰りに襲われる、こういうことになるのではないか、こう考えられるわけであります。
それから次の問題は食糧輸入補給金の削減、こういうことでありますが、これはさつき申しましたように約二百十億円減少しております。これを減少させた理由というものは、予算の説明によりますと、先ず第一には米の輸入量を二十八年度には百四十六万トンでありましたものを百十五万トンに減らそう、こういうことを前提としているようであります。ところが御承知の通り昨年の産米というものは非常な凶作であ
つたわけでありまして、全体としての生産額は一昨年の産米に比べますと約一千百二十万石減少しております。又供出量のほうから申しましても、現在の供出量は千九百四十万石でありますから、昨年度に比べます。と八戸万石余り減少しておる、こういうことになるわけであります。こういうふうに生産量もそれから供出量も減
つておるにもかかわらず、この食糧の輸入を今申しましたように約三十一万トン減らす、石に直しますと大体二百万石減らす、こういうことになるわけでありますから、全体として米の需給
関係から申しますと約一千万石の穴があく、こういうことになるわけであります。一千万石という大きな穴があけば、これはどうしても米食率を切下げるという以外には方法がない、こういうことになるわけであります。この米食率を切下げるということは、当然米の闇価格を引上げる、こういうことを意味するわけでありまして、これは消費者一般、或いは更に農村におきましても、零細な農家は御承知の通り米を買
つておるわけであります。今年は米を買う農家が非常に殖えておりますが、こういう農家に対しましても非常に大きな打撃になるだろう、こう考えられるわけであります。それからもう
一つこの食糧輸入補給金の削減の理由は、小麦を八十四ドルで輸入する、こういうことを前提としております。そうして八十四ドルで輸入いたしました小麦を九十七ドルで消費者に販売いたしましてそうしてそれによ
つて総額二十七億円の利益を政府が得る。この利益を見込んだために食糧輸入補給金をそれだけ削減することができる、こういう形に
なつておるわけであります。併しこの点も私は問題だと思うのでありまして、若し仮に八十四ドルで小麦を輸入することができるならば、消費者に対しては八十四ドルでそれを配給したらいいのじやないか、こう思うのであります。というのは何故かと申しますと、御承知の通り闇米が上
つたのに引ずられまして、うどんにいたしましてもパンにいたしましても相当の値上りを最近示しているわけであります。このままで参りますと、
国民の食生活というものは非常に脅かされるということに
なつているわけであります。これを防ぎますためのはいろいろな方法が考えられますが、先ず何よりも原麦を安く政府が卸すということが必要なのでありまして、そういう意味で安く輸入したものを高く
国民に売
つて政府が儲けるという計算の仕方は、私はどうしても辻棲が合わないのではないか、こういう感じを持つものであります。
それからこの食糧輸入補給金を関連いたしましてもう
一つ問題になりますのは、先ほど申しました食管経費が五十六億円削減されている、こういう問題であります。この五十六億円は御承知の通り食管経費に穴があきまして、その食管会計の赤字を補填するために支出したものであります。政府の計算によりますと、一応二十九年度におきましては食管会計は赤字が出ない。従
つて一般会計からの繰入は必要ない、こういうふうに計算がされておるわけであります。併しこの食管会計に赤字が出ない、こういう政府の計算は、私の見るところではどうしても不合理だと思うのであります。と申しますのは、この食管経費の計算の基礎に
なつております二十九年産米の予算米価というものを見ますと、それは一石八千七百九十五円、こういう計算をしております。これはちなみに超過供出奨励金とそれから供出完遂奨励金を含んでおりまして、早場米奨励金だけを含まない牧字でありますが、それが八千七百九十五円に
なつているわけであります。ところが昨年の、二十八年の産米で計算いたしますと、平均米価は大体一万二百二十八円ということになります。この一万二百二十八円から早場米の奨励金六百四円というものを差引きまして、それからもう
一つ昨年度の
特殊事情だ
つた減収加算額五百円というものを差引きますと、全体として残りますのは九千百二十四円、こういうことになるわけでありまして二十九年度の予算米価の八千七百九十五円よりも高い水準というものが出て来るわけであります。そうなりますと、この政府の計算の仕方は、結局今年の秋の産米に対しては、生産者価格を切下げるということを前提として予算が組まれている、こういうふうに考えられるわけであります。
ところでほかの物価が一般に下るならば生産者米価が下る、こういうことを前提とすることは差支えないのでありますが、先ほど申上げましたように、ほかの物価が下るという見通しがないのに生産者米価だけを切下げて、而も食管会計は赤字が出ない、こういう計算をするのはどうしても私は不合理じやないか、こう思うのであります。
それからもう
一つ問題になりますのは、御承知の通りこれまで食管会計というものは、年々相当の赤字を出して来ております。それが大体今までは含み
資産の食い潰し、こういう形で埋合せられて来たわけであります。この食管会計の含み
資産は二十七年度の初めにおきましては約四百五十五億円あ
つた、こういうふうに言われております。それが二十八年度の末には大体十億円前後に
なつているわけでありまして、この間二年間で大体四百五十億円近くのものを食い潰した、こういう形に
なつているわけであります。而もこの二十八年度の十億円の含み
資産というものは、今後二十八年産米に対しまして、減収加算額の追加払いをいたしますと、全部なく
なつて、なお赤字が出る。こういうふうに言われておるわけでありまして、この点を考慮に入れますと、いよいよ食管会計がバランスがとれる、こういう議論は私には疑問ではないか、こう思われるわけであります。そうしてこういうふうに、この食管会計の予算が詰
つて参りますと、ここにはいろいろな問題が出て参りますが、
一つは今申しましたように、生産者価格を切下げるということを考えざるを得なく
なつて来る。こういうことにもなりますし、若しそれをやらないとすれば、逆に消費者米価を引上げる、こういうことを考えなければならない。こういうことになるのじやないか、こう思いますが、なおそのほかにこの食管経費におきましては、御承知の通り農産物価格安定法というものによりまして、澱粉、それから切り干甘薯、菜種、こういうものを買入れをして、価格の維持をする、こういうことをや
つております。これが今でさえ予算がないために実は有名無実に終
つておるのでありまして、十分に機能を果していない。食管会計で詰
つて参りますと、いよいよその楽ひどく
なつて来るのではないか、こういうことが心配されるわけであります。
それから
最後に文教施設費が削減されているということを先ほど申したのでありますが、これは直接農業には
関係ないようでありますが、御承知の通り農村の
財政におきましては、
教育費が占むる比率というものは、非常に大きいのであります。そこでこういう文教施設費のようなものが削減されますと、どうしてもそのしわは
地方財政に強く寄る、こういう形になりまして、
地方税の
膨脹を惹起すという、こういう危険性がかなり大きいのであります。殊にさつき申しましたように、国の
地方財政に対する
交付金というものは、
地方債の部分まで含めて考えますとかなり減
つているわけであります。それが減
つたにもかかわらず、
地方財政のほうは
膨脹する勢いが非常に強いわけでありますから、ここに相当大きな矛盾が出て来るのではないか、こう考えられるのであります。ここにも
一つの問題点があるのではないか、こう考えられるのであります。
さて、この経費の問題は、一応農村
関係としてはそういう点に問題があるのではないかと思いますが、
最後に収入の面のほうを簡単に申上げておきたいと思います。収入の面で問題になりますのは言うまでもなく
租税でありますが、その
租税全体は先ほど申しましたように、かなり
膨脹すると」うことを申したのでありますが、今度はその
膨脹する
租税が各
税種に対してどういうふうに割振りされているか、こういうことを見ますと、この
租税負担が増大するという問題は一層重大であるということがわか
つて来るのではないか、こう思うのであります。今度の予算では、政府は税法
改正をするということを前提としておりますが、その税法
改正によ
つて減る税はどういうものであるかと申しますと、
所得税が二百七十五億円、
法人税が十九億円、再
評価税が二十四億円減るわけであります。それに対しまして殖える税はどういう税かと申しますと繊維消費税が八十五億円、それから砂糖消費税が五十七億円、印紙が五十五億円、酒税が三十七億円、揮発油税が三十一億円、物品税が十億円、こういうのであります。そのほかに専売益金でありますが、専売益金は国の収入としては一応二百四億円減るわけでありますが、御承知の通り
地方税として
たばこ消費税ができますので、その分まで併せて考えますと八十八億円増加すると、こういう計算になるわけであります。そこで全体の締折りをいたしますと、直接税は三百二十一億円減るわけでありまして、これに対しまして
間接税と流通税が三百六十五億円殖える、こういう計算になるわけであります。ところでこの直接税、殊にその中の
所得税でありますが、
所得税は御承知の通り今日では最も合理的な税であると言われております。その理由は、
一つは累進課税であるということと、もう
一つは扶養家族とか、或いはその他のいろいろな
個人的な
事情を考慮して課税をすることができる、こういう意味で
所得税が最も合理的な税であるということは一般に広く認められている事実だと思うのでありますが、それが相当減ります。それに対しまして
間接税が殖えるわけでありますが、この
間接税になりますと、この
負担がいわゆる逆進的になり、小所得者に重課される傾向を持
つている、こういうことは申上げるまでもなくアダム・スミス以来言いふるされている事実なのであります。従
つてこういう税法の
改正というものは、結局におきまして小所得者にかなりの
租税の
負担を背負わせる、こういう形になるのではないかと思いますが、この点も相当大きな問題がありはしないか、こう思うのであります。併しもう
一つそれに附加えまして、さつき申しましたように
地方税がかなり殖える、こういう問題が加
つて来るわけであります。而もこの
地方税は政府の計画でもかなり殖えるわけでありますが、さつき申しましたようないろいろな理由から実際は政府の計画以上に
地方税が殖える、こういうことが考えられるのではないか、こう思うのであります。ところでそういうふうに
地方税が殖えるという場合には御承知の通り概して
財政が貧弱な農業県、或いは農村というとこるにおきまして
地方税の増税がより著しく現われる、そうして
租税負担の不均衡を拡大する、こういう形になることは御承知の通りであります。而も今度の
地方税の体系というものを考えますと、特に農村にとりましてはかなりの問題があるというのは、今まで農村のかなり有力な
財源でありました村民締が一部分
県民税に移されるということに
なつて、この収入が減るわけであります。そこでその穴があいた部分は結局
固定資産税の引上げと、それからそれ以外に法定外独立税の設置ということによ
つて埋め合わされる以外には方法がないのではないか、こう考えられます。
固定資産税は法律の上では一応御率は引下げられる、こういうことにた
つておりますが、実際はこの
評価が畑当問題でありまして、これがすでに今でさえかなりアンバランスに
なつている。
財政が窮乏して来れば、農村では
評価額を高めまして、それによ
つて税収入を上げよう、こういうような方法がかなりとられておりますが、こういう傾向いよいよ強められるのではないか、こう考えられるわけであります。そうなりますと、こういう
固定資産税とか或いはそのほかのこまごまといたしました法定外独立税というようなものは中農乃至はそれ以下の農家にとりまして、は相当大きな
負担になるわけであります。その点から育
つてよ
租税負担のしわがそういう属にかなり強く寄るのではないか、こう考えられるのであります。そこに
一つ問題点があるのではないか、こう思うわけであります。
以上いろいろ今度の予算を拝見いたしまして考えられる諸点、殊に農村経済にどういう影響を及ぼすか、こういうようなことを幾つか申上げたのであります。これからの御審議の上に何ほどか御参考になれば、大変幸いだと思うのであります。(拍手)