○
小酒井義男君
只今議題となりました
防衛庁設置法案及び
自衛隊法案の
内閣委員会における審査の経過並びに結果を御報告いたします。
本二法案は去る三月十七日、本会議において、政府より本二
法案提出の
趣旨説明があり、翌十八日、これに対する質疑が行われたものであります。本二法案につきましては、今申述べましたように、政府よりすでに
趣旨説明がありましたので御承知のところと存じますが、法案の
重要性に鑑みまして、ここに重ねて二
法案提案の理由として政府の説明するところを御報告いたします。
現在の
保安庁は、昭和二十七年八月、当時の
警察予備隊及び
海上警備隊を統合して創設したものであつて、
我が国の平和と秩序を維持し、
人命財産を保護するため特別の必要ある場合において行動することを任務としたものである。
保安庁は創設以来、
保安庁法の規定するところに
従つてその任務を遂行するため、着々諸般の整備を図り必要なる訓練を行なつて今日に至つている。然るに今般政府においては、現在の国際及び国内諸情勢に鑑み、
我が国の平和と独立を守り国の安全を保つため、この際更に
自衛力を増強することを適当と認めるに
至つた。よつて今回
保安隊及び
警備隊を
陸上自衛隊、
海上自衛隊に改め、
自衛官等の定員を増加すると共に、新たに
航空自衛隊を設けることとし、且つその任務として、外部からの侵略に対する
我が国の防衛を明確に規定する等の目的を以て、
保安庁法を全面的に改正して、
防衛庁設置法及び
自衛隊法を制定せんとするに
至つた次第である。以上が本二
法律案の
提案理由として政府の述べたところであります。
次に、両
法律案の内容の概略について御説明をいたしておきます。
第一に、
防衛庁設置法案について申上げます。
防衛庁は総理府の外局として設置されることになつておりまして、
我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つことを目的とし、
陸上自衛隊、
海上自衛隊及び
航空自衛隊を管理し、運営し、これに関する事務を行うことを任務とするものとなつております。
防衛庁の長は、
従前通り国務大臣を以て充てることとなつておりますが、今回
内部部局に新たに
教育局を加えると共に、
防衛庁の
所掌事務に関する
基本的方針の策定について長官を補佐する参事官の制度を設けることとし、他面、従前ありました
内部部局の課長以上の職に対する
制服職員の
経歴者の
任用制限はこれを設けないこととされております。
次に、
幕僚監部につきましては、
航空自衛隊の新設に伴い、従前の第一
幕僚監部、第二
幕僚監部に相当する
陸上幕僚監部、
海上幕僚監部のほか、
航空自衛隊についての長官の
幕僚機関として、新たに
航空幕僚監部を設けることとし、又
自衛隊の増強に伴い陸上、海上、航空の各
自衛隊を統合した見地からの
防衛計画、
後方補給計画、
訓練計画の方針の作成及び調整や、出動時における
指揮命令の
統合調整等に関して、長官を補佐することを任務とする
統合幕僚会議を新設して、
自衛隊の総合的且つ有効なる運営を図ることを期することとされております。なおこのほか、陸上、海上、航空各
自衛隊の
所要物件、並びに役務の調達の可及的一元化と
能率化を図り、
建設工事等についても、これを統一的且つ経済的に処理せしめるため、新たに
防衛庁の
附属機関として
調達実施本部及び
建設本部を設けることになつております。
国防会議は、国防に関する
重要事項を審議する機関として内閣に置かれることとなつておりまして、国防の
基本方針、
防衛計画の大綱、
防衛計画に関連する
産業等の
調整計画の大綱、
防衛出動の
可否等に関して、
内閣総理大臣の諮問に答え、国防に関する
重要事項につき、必要に応じ
内閣総理大臣に対して意見を述べることを任務とするものであり、
国防会議の構成、
運営等は、別に法律で定めることとなつております。
第二に一
自衛隊法案について御説明いたします。この
法律案は、
自衛隊の部隊の組織及び編成、
自衛隊の
行動及権限、隊員の
身分取扱等に関し、おおむね現在の
保安庁法の内容を基礎として規定したものでありますが、次に述べる任務に即応し、必要な規定の追加、整備を行なつております。先ず
自衛隊の任務としては、
我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び
間接侵略に対して
我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じて公共の秩序の維持に当るものとして、その防衛の任務が規定されております。
次に、
自衛隊の行動につきましては、外部からの
武力攻撃に際して、
我が国を防衛するため必要があるときに、
内閣総理大臣は原則として事前に、特に緊急の必要のある場合には事後、直ちに国会の承認を得て、
自衛隊に対し
防衛出動を命ずることができることとされております。この
防衛出動時における
自衛隊の
武力行使は、国際の法規、慣例を遵守し、且つ事態に応じ合理的に必要な限度にとどまるべきものとし、又この場合には原則として
都道府県知事を通じて、一定の地域において施設の管理、物資の収用、
業務従事命令等を行うことができることとしております。
この
法律案におきましては、このような事態に処して
自衛隊の防衛に当る実力を急速且つ計画的に確保することを目的とし、新たに志願による
予備自衛官制度が規定されております。
予備自衛官は、
防衛出動時に
内閣総理大臣の承認を得て発せられる長官の
防衛招集命令に応じた場合には
自衛官として勤務し、その他の場合においては、所定の期間、
訓練招集に応じて訓練を受ける以外には、勤務することのない隊員であつて、その採用は
自衛官等の
退職者中より志願により、三年を期間として任用することとし、その
手当等について、規定されております。
この
法律案におきましては、前述の
防衛出動のほか、公共の
秩序維持のため、
間接侵略その他の
緊急事態に際して、
一般警察力を以ては治安を維持することができないと認められる場合における
内閣総理大臣の命令による出動、
治安維持上重大な事態につき、
都道府県知事の要請があつた場合における出動、海上における
警備行動、災害時における救援のための
行動等、すべて
現行保安庁法において認めていると同様の規定を設けておりますが、更に外国の
航空機が不法に我が領空に侵入した場合における必要な措置について規定されております。
この
法律案中に規定するその他の事項はおおむね
保安庁法と同様でありますが、この
法律案におきましては、
自衛隊の
指揮監督、
部隊等の組織及び編成の
大綱等を規定し、隊員の服務についてのよるべき明確な規定を設け、罰則を整備し、
関係法律の適用について一層の整備を行う等、必要な整備を行なつております。なおこの法律の施行に伴い、現在の
海上公安局法はこれを廃止することとされております。
なお
防衛庁設置法は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において、政令で定める日から施行し、
自衛隊法は
防衛庁設置法施行の日から施行する。但し
保安隊から
自衛隊に切替えられる職員の服務の
宣誓等に関し、必要な規定は公布の日から施行することとなつておるのであります。以上が本二法案の内容の概略であります。
本二法案は、五月七日、
衆議院本会議において可決せられ、即日、本院に送付せられ、直ちに
内閣委員会に本付託となつたものであります。本
委員会におきましては、当時
行政機関職員定員法の一部を改正する
法律案の審査の途上にあ
つたのでありますが、今申述べましたような本二法案の
重要性に鑑み、一時
定員法改正に関する
法律案の審議を中止いたしまして、直ちに本二法案の審査に入
つたのであります。
内閣委員会におきましては、本二法案の
重要性に鑑み、法案の審査の順序として先ず
政府当局より、二法案につき
提案理由並びにその内容ついて詳細なる説明を聴取し、次いで
総括質疑、
一般質疑及び
逐条質疑の順序によつて周到なる審議の歩を進める方針の下に、先ず五月十九日より四日間に亘り、
吉田内閣総理大臣及び
木村保安庁長官に対し
総括質疑を行い、次いで五月二十四日より
一般質疑に入り、主として
緒方国務大臣、
木村保安庁長官、
岡崎外務大臣、
小笠原大蔵大臣、
愛知通商産業大臣、
大達文部大臣、
加藤法務大臣の
各省大臣その他
政府委員との間に
質疑応答を重ね、次いで両法案の
逐条審議に入り、最後に再び
総括質問を行な
つたのであります。
なおこの間、
法案審査の慎重を期するため、去る五月十八日、
公聴会を開きまして、
中村哲君外五名の
公述人より、二法案に対する賛否の意見を聴取いたしたのであります。
防衛庁設置法案及び
自衛隊法案の両法案は、相互に不可分の関係のあるものでありますため、
委員会における
総括質問、
一般質問の段階においては、終始両法案を一括して審議を進めたのでありますが、今、
法案審議の過程におきまして、問題の中心となりました主なる点につきまして御報告申上げます。
第一は、防衛二法案と憲法との関連の問題、第二は、
国防会議に関する問題、第三は、
最高指揮権の抑制に関する問題、第四は、陸、海、空、三
自衛隊の調整に関する問題、第五は、
防衛計画と
一般産業計画との調整の問題、第六は、
自衛力増強と
国庫負担力の問題、第七は、
防衛庁の機構に関する問題、第八は、
制服職員の
内部部局の幹部への
採用制限の撤廃に関する問題、第九は、隊員の
精神的支柱の問題、第十は、
海外派兵の
問題等であります。
さて第一は、防衛二法案と憲法との関連問題であります。従来
吉田総理は、
自衛権の発動としての
武力行使はできない。武力以外の
外交等の手段によつて自衛すべきであるとし、
自衛権の行使を目的とした
組織制度は認めないと言明し来た
つたのでありますが、今次の防衛二法案に盛られておるところは、「明らかに直接侵略及び
間接侵略に対し、陸、海、空、
三軍方式を確立して
武力行使をするということは、
吉田総理みずからが、過去の言明を無視しており、
吉田内閣は、先に
朝鮮動乱の勃発を契機として、急遽
警察予備隊を作り、次いでこれを
保安隊に改編し、
MSA協定の締結に
伴つて、更に今回これを
自衛隊と称する陸、海、空、
三軍方式による部隊を編成するに至り、外敵の侵略に対抗する
武力抗争を主目的とするに
至つたことは、これは明らかに
憲法違反であると断ぜざるを得ないではないか」という問に対し、
吉田総理は、「
我が国が
独立国家である以上は、外敵に対し
正当防衛の措置を講ずるということは、
独立国として固有の権利であつて、憲法上禁止されておる戦力に達しない程度の
自衛組織を持つことは何ら
憲法違反ではない。新
憲法制定当時は成るほど高遠な理想の下に
戦力放棄の条文ができたのではあるが、その後内外の情勢は、深刻な変化を展開して参つておる。防衛二法案の定めるところによつて、
我が国の平和と独立を護り、国の安全を保つために
日米安全保障条約の範囲内において適当な
自衛措置を講ずるということは、何ら憲法に違反するものではない。
自衛力を漸増すると申しても、無制限に増強し得るものではないので、一に国力と外界の
事情如何によることであつて、今はこの程度が
我が国のなし得る限度であろうと思う」と答えているのであります。なお、「戦力のあるなしはともかくとして、国民の中に、
自衛隊を軍隊と呼ぶ者が多いという点について
吉田総理は、これを如何に考えるか」という問いに対しては、「それは用語の定義の問題であつて、国民が
自衛隊を如何に解釈するかという点にかかる問題であろう。国民の考えが戦力のない
自衛隊のごときものを軍隊と呼ぶべしというのであれば、軍隊と称してもよいであろう」と答え、なお、「
アメリカの
軍事顧問団長ヒギンス少将が、
アメリカ三軍記念日の会合の席上で、我々は日本の
軍事同盟国であると
言つたとのことであるが、
日米安全保障条約は、果して
日米軍事同盟であるか否か」という問いに対し、
吉田総理は、「
安全保障条約の内容が示す通りであつて、その解釈は自由である」と答え、
木村保安庁長官は、「
安保条約を
軍事同盟と言えば
軍事同盟であり、
安保条約は、日本の
安全防衛のみを目標としている点から考えて、純粋な意味での
軍事同盟とは考えられない」と答えているのであります。
次に、憲法第九条第二項において「国の
交戦権は、これを認めない。」と規定しているが、「
外敵侵入に対する
自衛隊の出動は、明らかに
交戦権の発動ではないか」という質問に対しては、
政府当局は、「
自衛権と
交戦権とは不可分のものであつて、
自衛権を行使する範囲内での
武力行使は
交戦権の行使とは言えない」との見解を堅く持しているのであります。(「おかしいぞ」と呼ぶ者あり)
次に、「戦力とは如何なる
判定標準によるのであるか、又軍隊と戦力との関係について、米ソのごとき厖大なる戦力を有する二、三の国を除いては、現在世界の多数の国々が有しておる軍隊を、政府は戦力にあらずと見るのか」という質問に対して、
木村保安庁長官は、「国内の
治安維持を目的とする警察といえども、その装備、機能が著しく厖大化すれば戦力というものにもなり得るであろう。
自衛隊は、
我が国の安全を図るために、外敵の侵入に備えるための部隊ではあるが、
近代戦争を有効的確に遂行し得る程度には遙かに及び得ないものであるから、憲法上で言う戦力とは申されない。諸外国の軍備と比較してといつても、それはその国その国の環境、国情が異なるので、一概に断定するわけには行かない。我が
自衛隊は、客観的に見て憲法の禁止しておる戦力に達しているか否かを判断すべきであると思う。
自衛隊は再々申す通り、
近代戦争を有効的確に遂行し得るほどの戦力には、まだまだほど遠いものである」と答えているのであります。
次に、「緒方副総理が先に、
自衛隊は軍隊と警察との中間の特殊なものであると
言つたが、この特殊なものとは、憲法第九条第二項の「その他の戦力」に当ると思われるが如何」という質問に対し、政府は、「
客観的基準で判定しておるのであつて、その
総合実力が戦力と判定されるに至らない限りは、「その他の戦力」にも当らないという見解を持している」のであります
第二は、
国防会議の問題であります。
国防会議に関する問題は、本二法案を審議する上においては、中心となるべき重要な問題であり、又
国防会議の
構成等については、三
党折衝の経緯などもありますので、これはあとに改めて詳しく御報告することといたします。
第三は、
最高指揮権の抑制の問題であります。「行政の
最高権力者たる
内閣総理大臣が、同時に
自衛隊の
最高指揮官となることは、旧
憲法時代の
統帥権を想起させるものがあり、この点に関し、何らか
内閣総理大臣の
独断専行を抑制する方途を講ずべきではないか」との質問に対し、政府は、「部隊に
指揮官が要るのは当然であり、その
指揮権は三権分立の建前から申して明らかに
行政権であり、
従つて内閣総理大臣が
自衛隊の最高の
指揮監督権者になることは当然であるが、総理の
諮問機関としての
国防会議が設けられ、
総理大臣としての権限が行使される場合は、閣議の決定も経るであろうし、新
憲法下の今日では、旧
憲法時代のごとき
統帥権問題などは起り得ない」と答えているのであります。
第四は、陸、海、空三
自衛隊の調整に関する問題であります。「
自衛隊は今回新たに陸、海、
空三軍方式をとつているのであるが、これは
我が国が独力を以て
国防態勢を確立しようとするためであるか」という質問に対し、
木村保安庁長官は、「今後においても、
アメリカと
協力態勢を堅持して行く方針である。陸、海、空の
バランスは今後の
研究課題であり、現在は
陸上自衛隊に里きを置いているが、
我が国の
地理的条件は
四面海に囲まれ、
海岸線も九千マイルにも及ぶという
特殊事情を考慮し、将来
海上自衛隊の充実の必要があり、
航空自衛隊についても
同様拡充を要するものが多々あるが、今直ちに
バランスのとれた
三軍方式ということは、国費との関係もあつて実現し得ない実情にある」と答えているのであります。
次に、「
三軍方式について、長官の下に陸、海、空の三
自衛隊を統卒する
指揮官を置く必要はないか。
戦前我が国における
陸海軍の
伝統的対立は、国を破局に陥れたという過去の経験に徴しても、新たに国軍の再建を図るに当つては、その点最も注意を要するものと思うが如何」という質問に対し、
木村長官は、「そのために今次の
防衛庁設置法案においては、
統合幕僚会議を設け、
自衛官中の最上位にあるものを専任の議長とし、その下に
陸上幕僚長、
海上幕僚長及び
航空幕僚長を以て会議を組織し、陸、海、
空一体となつて長官を補佐せしめることとしたものであつて、
統合幕僚会議の議長がまさにその役割を果すものと考えられるから、この場合別に陸、海、空を統轄指揮するものは不要であると考えている」との答弁をしておるのであります。
第五は、
防衛計画を
一般産業計画との調整の問題であります。「
国防会議は
防衛計画に関連する
産業等の
調整計画の大綱を審議することになつているが、果して調整のとれた
産業計画を樹立する見込はあるか。政府はここ数年間に如何なる産業を重点的に育成して行くという考えであるか」との質問に対し、
愛知通産大臣は、「
防衛計画は飽くまでも
我が国の
経済力に調整のとれたものであるべきだと思う。現在のところこれに関する
産業計画は立つておらないが、ここ数年の見通しとしては、大体の傾向として、船舶、飛行機、弾薬、
火薬等の製造に向うのではないかと思われる」と答え、又、「
MSA協定締結後は、
我が国の産業に急激な変革が招来されると思われるが、ただ単に
国際収支の点ばかりを重視して、徒らに再軍備の線を強化する政策をとれば、
我が国の
産業構造が
軍需産業を中心に転換して行く危険があると思われる。
我が国を東亜の兵器廠たらしめるというようなことは極めて危険な考え方であり、将来
東南アジア等との貿易の不振を招く結果となる心配はないか」という質問に対し、
愛知通産大臣は、「現在
我が国が持つている既設の設備だけによつても
軍需関係の
域外発注を十分こなしている状態であるから、今後著しく
軍需産業に転換をさせるようなことのない限り、目下のところその心配はないと思われる。なお、
防衛関係の産業の構造については、着実に将来長きに
亘つて経済第一主義を重点として考えるべきものと思つている」という答弁があ
つたのであります。
第六は、
自衛力の増強と
国庫負担力の問題であります。「
我が国の
防衛費として
国民所得の何パーセント程度を出し得ると思つているか、
アメリカの国会内では日本は、日本の
歳出総額の二〇%程度は出せるという意見があるということを聞くが、政府は今後も引続き
防衛力の漸増を継続して行こうとしているのか」との質問に対し、
小笠原大蔵大臣は、「
国民所得に対する
国防費の
割合といつても、富裕な国の
国民所得と
貧乏国の
国民所得とは同一に論じられないと思う。現在の
我が国の場合にあつては、
国民所得の三%以内くらいが穏やかなところであろうと思われる。本年度の
我が国の
国防費は千四百五十三億円であるから、その額は
歳出総額の一割四分強になつているが、只今のところこの程度が適当なところであろうと思われる」と答えているのであります。
次に、「
自衛隊を作ることは、勿論
我が国のためのものではあるが、これは即ち
アメリカのためでもあるから、
ガリオア、
イロア等による債務は棒引されても然るべきだと思うが、政府はこれをどう考えるか」という質問に対し、
小笠原大蔵大臣は、「
独立国として
ガリオア等は一応債務と心得ている。尤も学童の
給食等のごとき分については免除されてもいいのではないかと考えている」という答弁があ
つたのであります。
次に、「
近代国家の国策の中心は財政、外交、国防の三つであるが、
自立経済の確立ということは最も重要なことであり、本年度の一兆円の予算の貫徹はいいが、
国防関係国費の圧縮と、
軟弱外交の排除が大事なのではないか」という質問に対し、
小笠原大蔵大臣は、「
国防費は国力を超えたものであつてはならない。
自衛力の漸増もこの線を逸脱してはならないと思う」と答えているのであります。
次に、「
我が国の国力から見て、本年度の
防衛支出予算は多過ぎるのではないか。国力に応じてという考えなら、昭和二十八年度よりはむしろ減額するべきではないか。
MSA協定に強圧されて国力にふさわしくない支出を強いられているのではないか。元来
軍事費というものは、いずれの国においても累増する傾向を持つているが、
明年度予算においては総額千五百億円程度にとどめることができるか」という質問に対し、
小笠原大蔵大臣は、「未だ何ら成案を持つているわけではないが、
財政計画としては、今年度の額以上を
防衛費に支出することは困難であろうが、それも
国民所得の増加と
国際情勢の
変化等をよく勘案して決定されるべきものと思う。但し一兆円予算から見て、本年度の
防衛費千四百五十三億円は必ずしも過大であるとは考えていない」との答弁がありました。
次に、「
我が国の
自衛力の漸増は、
アメリカの援助によるところが多いが、今後とも引続き
アメリカの援助を受けるつもりか」という質問に対し、
吉田総理は、「
我が国の
自衛力の漸増は、
日米安全保障条約の範囲内において国力の可能な程度以内でやつていることであつて、徒らに
アメリカその他、他国の援助に縋つてやつているものではない」と答え、又「
駐留軍が全部
引揚げた場合、
我が国の防衛に要する兵力はどのくらいのものと考えるか」という問いに対しては、「
駐留軍の実兵力が全く不明であるが、この点は飽くまでも自主的に考慮すべき問題である」と答えているのであります。「
自衛隊の増強と共に
米駐留軍は漸次撤退する建前であるというが、
米駐留軍の
完全撤退の時期はいつ頃の見込みであるか」という問いに対し、政府は、「
我が国の
自衛力が増大するに連れ、
駐留軍の
引揚げることは明らかであるが、
自衛隊の隊員を募集し、採用するに連れてだんだんに
自衛力の増大することは当然であるが、
新規採用の者が一人前の
自衛隊員となるまでには相当の訓練を要するし、
国家財政の上から、にわかに厖大な隊員とその装備、艦船、
航空機等を整備することは困難であるから、
米駐留軍と同程度に達するまでには、なお相当の日時を要するものと思われるので、只今のところ、はつきりした見通しはつけかねる」との答弁でありました。
第七は、
防衛庁の機構の問題であります。「
防衛庁設置法案によれば、
防衛庁の
内部部局は長官官房のほか、新たに設けられた
教育局を加えて五局となつているが、戦前の実績に徴して医務局の設置を必要としないか、軍医学の伝統は一朝一夕にできるものではなく、これを育成して行く必要があると思うが如何」という問いに対し、
木村保安庁長官は、「御尤もな御意見ではあるが、直ちに実現することは困難であり、現在、部隊には衛生官を配置して、その下に医務課長を置き、でき得る限り医療衛生の面について意を用いてはいるが、防衛本庁に医務局を設けることは近き将来に実現したいものと考える」との答弁でありました。
次に、「
保安庁長官のブレーンは参事官であるということであるが、定員人名の参事官のうち六名は
防衛庁内局の官房長及び五局長に補せられ、残る二名は機動的に長官を補佐する役割を持つものであるとすると、参事官は幕僚長に比して一段高い地位にあるごとくに見えるが、この点はどうであるか。政治が軍事に優先することは不可欠の要件であるが、参事官と幕僚長との関係は、一見官僚優先の観があり、長官は参事官と幕僚長とそのいずれに重きを置いて考えているか」という質問に対し、
木村保安庁長官は、「御尤もなお尋ねであるが、参事官も幕僚長も、共に等しく長官の補佐機関として上下はないのであつて、ただ参事官のほうは、専ら
防衛庁の
所掌事務に関する
基本的方針の策定について長官を補佐するものであり、幕僚長のほうは、
幕僚監部の
所掌事務の面から長官を補佐すると共に、長官の命令を配下の部隊に下達し、執行させるという両面の職務権限を有しているものであつて、結局参事官も幕僚長も、共に長官の最高ブレーンであるには何ら変りはない」との答弁がありました。
第八は、
制服職員の
内部部局幹部への
採用制限の撤廃に関する問題であります。「この改正案において何故に従来あつたこの制限を撤廃したのか」という問いに対し、
木村保安庁長官は、「文官優位という言葉は使いたくない。政治が軍事に優先するということは飽くまでこれを堅持すべきであるが、
防衛庁の
内部部局の職員と陸、海、空
自衛隊の隊員との間の融和を図ることが大事であり、一たび
制服職員となつた者は、単に
自衛隊員であつたという経歴のみで、如何に適材の士であつても、これを
内部部局の幹部には絶対任用し得ないという禁札を設けておくことは有害無益であると信ずる。但し、現在部内に、そういう不平不満があるわけではないし、
制服職員を今直ちに
内部部局に採用せんがために、この制限を撤廃するというような考えでは毛頭なくて、それぞれに適材適所、而も渾然一体となつて国の安全を図るという崇高なる使命に徹せしめたいとの念願によるものである」との答弁でありました。
第九は、隊員の
精神的支柱の問題であります。「
自衛隊の隊員の支柱をどこに置くのか」という質問に対し、
木村保安庁長官は、「
自衛隊法案の第五十二条に、服務の本旨として、「隊員は、わが国の平和と独立を守る
自衛隊の使命を自覚し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、強い責任感をもつて専心その職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の、完遂に努め、もつて国民の負託にこたえることを期するものとする」と示してある通り、団結、規律、修養、責任感、挺身の心がまえに尽きていると思う。過去の軍隊教育においてよく見られたような、徒らに身命を軽んずるということは禁物であると考えている」と述べているのであります。
第十は、
海外派兵の問題であります。「国民の間に
防衛力増強に
伴つて、
保安隊が
自衛隊となり、形の上で陸、海、空三軍の復活となり、これに
伴つて海外派兵の噂が高いが、これに対し何らか国民を安心させるため総理の確言を得たい」、こういう質問に対し、
吉田総理は、「
海外派兵はいたしません。今のうちは海外に部隊を派遣するなどということはいたさないほうがよいと思う。国民の好まないことはしない」と答え、又、「外敵の侵略があつた場合、敵の侵略基地に出かけて攻撃をするというようなことはないか」という問いに対し、
木村保安庁長官は、「
自衛隊の出動は、真に止むを得ざる場合にのみ発動する自衛行動であつて、積極的に部隊を海外に派遣するなどということは考えられない」と答えているのであります。
又、これに関連して、「
MSA協定の中には、
海外派兵のことは表面何ら触れていないが、将来東南アジア同盟などに加入するようなことになれば、熱い相互援助の建前から海外に派兵することにもなるのではないか」という質問に対し、
岡崎外務大臣は、「東南アジア同盟の問題については、これまで政府として何ら具体的な申入れを受けていない。
軍事同盟を予想して、
MSA協定を締結したなどということは思いもよらないことで、時間的な関係から見ても、かかることは考えられないことである」と答えているのであります。
なお、これに関連して、「他国と
軍事同盟を結ぶ場合は憲法を改正する必要があると思われるし、国連に加入する場合等も、憲法の改正を要することと思うが如何」という質問に対し、
岡崎外務大臣は、「
軍事同盟を結ぶということは現
憲法下ではできない。又国連に加入する場合も、その条件如何によることであつて出兵の義務などの条件がその中にあれば、
我が国としては当然問題として考慮すべきである」と答えているのであります。
その他
岡崎外務大臣は、
衆議院において、「MSA援助は三年ぐらいは続くであろうと述べたということであるが、真実であるか、来年度の交渉は始めているのか、艦艇貸与協定は当初無償のつもりであつたが、のちに有償となり、更に旅費二億五千万円を要する。文貸与協定第三条によれば、米側の必要によつていつでも
引揚げられるであろうと思われるので、自主性が全くないのではないか」という問いに対し、
岡崎外務大臣は、「MSA援助は三年ぐらいは続くであろうと思つている。来年度分の援助については未だ交渉していない。艦艇貸与は
MSA協定に基く分は贈与であり、その他のものは貸与である。旅費を要するのは、当方の自力で運航して来るための諸経費である。米側が場合によつて自国の防衛上の必要で貸与艦艇を
引揚げる場合がないとは言えないが、かかる場合は止むを得ないことであり、このため我がほうの自衛には別段の支障はないものと考える」との答弁がありました。
日米行政協定第二十四条は「必要な共同措置を執り」云々とあるが、「共同措置とは
自衛隊の出動をも含む意味か」という問いに対し、
木村保安庁長官は、「日米間に緊密な連絡をとつて共同行動をとることにはなるが、
自衛隊を米軍の指揮下に任せるようなことはない。飽くまでも
自衛隊は
自衛隊として自主的に行動をとるものであり、もともと
自衛隊の出動には
自衛隊法第七十六条により国会の承認を要する。
従つて自衛隊の行動については、何ら米軍の
指揮命令を受けるようなことはないのみならず、何らの掣肘も受けない」と答えており、「共同措置をとるための協議」というのは「如何なる機関がこれに当るのか。これは部隊の出動と直ちに関連する重大な問題であるが如何」という質問に対しては、
木村保安庁長官は、「双方から適任者を出して協議する、原則としては両国の政府を代表する者の間に協議を行うこととなる」と答えているのであります。「行政協定第二十四条によれば、
我が国の領域に敵対行為又は敵対行為の急迫した脅威が生じた場合には、日米両国政府は防衛のため必要な共同措置をとり、直ちに協議しなければならないとあるが、この規定にかかわらず、我がほう独自の見解で行動することもあり得るか。又有事の際に日米共同作戦の場合の
指揮権をどうするか」という問いに対し、
木村保安庁長官は、「例えば
我が国の或る地点に突如として外敵の攻撃を受ける場合も起り得ると思われるのであるが、かかる場合米側と協議する時間がないような場合は、勿論自主的に行動する。又有事の際の日米共同作戦を遂行する場合の
指揮権をどうするかということは重大な問題で、日本部隊の中に
アメリカの部隊が入る場合もあり得るし、種々の場合があるものと考えられるから、更に研究したい」との答弁があ
つたのであります。
アメリカの軍事顧問団について、「顧問団は各部隊に配属されて、間接的に部隊を指導するのではないかと思われるが、その職務権限は如何なるものであるか、各部隊或いは各学校等からは
引揚げて、中央だけに駐在する考えであるか」という質問に対し、岡崎外相は、「軍事顧問団の所掌する事務は、日米相互防衛援助協定第七条に明記されている通りで、同協定に基き、
アメリカから、日本政府に供与される装備、資材及び役務に関する
アメリカ政府の責務を遂行し、且つこの協定に基いて、
アメリカ合衆国政府が供与する援助の進捗状況を観察することを任務としているものであつて、直接には勿論、間接にも部隊を指導するとか部隊の行動に干渉するなどということはない。恐らく中央に留つてその職務を行うものと思われる。又
防衛庁の中に事務所を置くなどということはない」と答えているのであります。
次に、「
自衛隊員の採用については、従来通り募集制度をとつているようであるが、最近応募者が激減しているということを聞くが、その実情はどうであるか。又
自衛隊の隊員を漸増する方針だというが、任意募集の制度もその限度があるであろう。今後の見通しについてはどのくらいまでは募集によつて増員することができると思つているか」という問いに対し、
保安庁当局は、「応募者が若干減つて来ていることは事実であるが、その原因はほかにもいろいろあるようであつて、現在のところ、隊員の補充には別に支障はない。比較的少数の応募者の中からでも、質的に優秀な者は得られる状況である」と答えており、
木村保安庁長官は、「募集制で増員のできる限度はおよそ二十二、三万くらいかと思われる」と答えているのであります。「
自衛隊法案の第六十六条中に、
予備自衛官の員数を一万五千人としている根拠は何か。又その任用期間を三年とする理由は如何」という問いに対し、
保安庁当局は、「本年は任期満了の者が約四万五千人あり、そのうち農村、漁村出身者の数を目標として上万五千人としている。又
予備自衛官の任期を三年としたことは隊員として修得した技術の面識を考慮し三二年程度が適当と考える」との答弁があ
つたのであります。
以上、防衛二法案に関する主なる問題点について、
質疑応答の概略を御報告いたした次第であります。
法案審議の最終段階に至りまして、
国防会議の
構成等に関し、緒方副総理より政府の正式見解の説明がありましたので、本
委員会は、
国防会議の
重要性に鑑みまして、特に時間を割いてこれに関する質疑を行な
つたのであります。今簡単に
国防会議の問題につきまして、
委員会における審議の経過を申上げます。
国防会議の問題につきましては、
法案審査の当初におきまして、五月二十日
保安庁より
国防会議の
構成等に関する件、
保安庁において研究中の案(未定稿)なる一資料の配付を受けたのでありますが、これは
保安庁事務当局の一試案に過ぎず、更に五月二十二日、重ねて
木村保安庁長官より保案庁案として
国防会議の
構成等に関する件と題する資料を提出したのであります。本
委員会は、
木村長官より提出された「
国防会議の
構成等に関する件」なる文書といえども、政府の一部局案であつて、政府を代表する正式なものと認めることができないから、防衛二
法案審議の期間中に、政府より
国防会議に関する
法律案を提出すべきであるとし、若し右の
法律案が間に合わない場合には、少くともこれに代るべき政府の確定案を提示されない限り、二法案の審議を進めて行くことができないとして、政府に対し、強くその提出を要望したのであります。その結果五月二十八日夕刻に至り、緒方副総理が本
委員会に出席して、「
国防会議の
構成等に関する件」と題する資料を配付し、これは保守三派の折衝が妥結した結果によるものであつて、未だ正式の閣議の決定を経ておらないが、自分は責任を以てこれを閣議の成案としたいと思うと述べ、その内容を説明されたのであります。本
委員会といたしましては、以上のようないきさつを経て、五月三十一日に至り、改めて緒方副総理の出席を求めまして、この提出された政府案に関し質疑を行な
つたのでありますが、その質疑の概要は、次のごとくであ
つたのであります。
第一点は、「憲法において軍備が否定されている日本においては、仮に
国防会議という大袈裟なものを作るとしても、その内容は軍備を有する諸外国の
国防会議との間にはおのずからはつきりとした区別を付けるべきではないか。例えば軍備を否定する日本としては、規模においてもでき得る限り小規模でなければならん。又武官を多数
国防会議の議員に選ぶことはもとより避けるべきである。又
国防会議の目的も、戦争の準備とか、曾つての戦争指導会議のようなものではなく、如何にして戦争を避けるか。如何にして平和外交を推進するか。如何にして民心を安定させるかということを
国防会議の根本目的とすべきではないか」という質問がありました。これに対して政府側より、「いわゆる軍備という言葉に値する軍備を容易に持ち得ないことは事実であるが、日本を包む今日の国際環境の下において、外国の日本に対する侵略の意思が若しありとすれば、日本としては
防衛力のないとあるとにかかわらず、あらゆる場合に備えて
国防会議の協議する範囲をきめておく必要がある」という答弁でありました。
第二点は、五月二十八日、緒方副総理より提出された政府案が、先に配付された
保安庁案と相違する点の一つは、政府案は、
国防会議の構成員のうちに民間人を参加せしめた点であるが、「如何なる理由で以てかかる変更をしたのであるか。民間人を参加せしむべしとする主張の理由として二つある。その一つは、
総理大臣に極度に集中している権限を抑制するために必要である。例えば
防衛出動の可否のごとき国の運命を左右する重大なる問題を
総理大臣の専断に委ねる危険を防ぐために民間人の参加が必要であるとする主張である。又他の理由として、防衛二法案の内容を見ると、武官が防衛の実権を握る建前であることが明白であつて、この点曾つての軍閥のごとき軍部進出の弊害を除くために民間人を加えることが必要だとする主張があるが、政府はこれらの点を如何に考えておるか。又
国防会議の議員として民間人を参加させる場合、
総理大臣の前歴のある者に限つた理由は何か。
総理大臣必ずしも適任とは限らんではないか」という質問がありました。これに対して政府側からは、「当初民間人は成るべく参加させたくないという考え方であつたが、三
党折衝の結果、
総理大臣の前歴を持つ者の中から若干名を選ぶことに方針を変更したのである。民間人を加えたのは、
総理大臣の権限が強大となつているのを防ぐという考え等からではなく、識見の高い練達の士を選び、このようにして慎重の上にも慎重を重ねて判断の公正を期したいからである。権限が
総理大臣に集中していることは、責任を明確にする上からむしろ当然のことである。
〔議長退席、副議長着席〕
特に
総理大臣の前歴のある者を選んだのは、民主主義の下、国家の重鎮として、国会の同意を得て任命する、識見の高い練達の士こそ最も適任であるという考えに基くものである」という答弁でありました。
第三点は、「
国防会議の構成は、現憲法の規定する内閣責任制を侵害することはないか。即ち
国防会議が
防衛出動の可否と、いう重大な問題を審議し、その決定を左右するということは、行政部の内閣責任制を分散する虞れはないか」という質問がありました。これに対する政府の答弁は、「
国防会議は飽くまで政府の
諮問機関であつて、政府は
国防会議の意見を参考とするに過ぎない。最後の決定は内閣にあるから、内閣責任制に反することはあり得ない」との答弁でありました。
第四点は、「
国防会議に事務局を設け、この方面の専門家やその他の民間人を参画させ、立案に専念させることが、広く国民の意向を反映せしめる上において必要ではないか」という観閲がありました。これに対し政府側より、「
国防会議の庶務は、内閣において掌り、議案の作成等は、
防衛庁の内局が関係各省と協議の上主として所掌することになつている。特に
国防会議の下に厖大なる事務局を設けることは、これらに会議を動かす力を持たせる危険があつて、これは
国防会議の本来の性格を無にするものであるから、かような点からも事務局を設けないほうが望ましい」という答えでありました。なお、緒方副総理より示された
国防会議に関する政府案は、六月一日の閣議において正式に決定されたとのことであります。
次いで
内閣委員会は、六月一日の
委員会に
吉田内閣総理大臣の出席を求め、防衛二法案の審議の締括りとして次のような
総括質疑を行なつて、総理の外遊に先立ち政府の所信を確かめたのであります。
その第一点は、「原水爆に対する政府の防衛政策如何」という質問であります。これに対し、「原、水爆の問題は、全世界に関係のある問題であつて、政府としてもこれに注意を怠らないが、直ちにこれに対する防衛政策を立てることは至難である」との答弁でありました。
その第二点は、「日本は東南アジア条約機構及び太平洋防衛同盟に加入する意思ありや」という質問であります。これに対し、「日本の防衛の問題は、
日米安全保障条約にとどめたいので、東南アジア条約機構や太平洋防衛同盟には加入する考えはない」という答弁でありました。
その第三点は、「
保安庁を将来独立の国防省にする考えありや」という質問であります。これに対し、「
保安庁を独立の国防省にする考えは現在ない」という答弁でありました。
その第四点は、「将来徴兵制を布く考えありや」という質問であります。これに対して、「徴兵制を布く考えはない」という答弁でありました。
第五点は、「
自衛隊増強は、地上部隊を主とするか、三軍均衡方式をとるか」という質問であります。これに対し、「
自衛隊増強については、海、空に力を注ぐ必要があるが、これも財政上の制約を受けざるを得ぬ」旨の答弁があ
つたのであります。
なお右質疑の終了後、
保安庁当局上り、現在の
保安隊、
警備隊の装備等、現有勢力について詳細なる説明がありました。
次いで石原委員より質疑打切りの動議が提出され、植竹委員より賛成の旨、又木村委員より反対の旨の発言がありましたので、右の動議につき採決をいたしましたところ、多数を以て可決せられました。
ここにおいて直ちに本二法案の討論に入
つたのであります。岡田委員は、社会党第四控室を代表して本二法案に反対である旨、その反対の理由は
自衛隊は憲法第九条に違反するものである点、
自衛隊は真に日本の防衛の必要のために生まれ、増強されたものではないという点、その他反対すべき多くの点が挙げられたのであります。
長島委員は、自由党を代表して政府原案に賛成の旨を述べ、賛成の理由並びに要望事項等かずかず用意してはねるが、時間の関係上その全部を本会議に譲る旨の発言がありました。
山下委員は、社会党第二控室を代表して両法案に反対である。本法案は、第一、憲法蹂躪の法案であるという点。第二、平和破壊の法案であるという点。第三、米国従属の
防衛計画案であるという点。第四、
海外派兵が将来不可避となる点。第五、徴兵制度の実施が不可避である点。第六、国力不相応の軍備である点。第七、両法案とも極めて欠陥が多い点等を指摘して、我が党は平和を愛好し、現行憲法を遵守するものであるから両法案に反対する旨発言がありました。
竹下委員は、緑風会を代表して原案に賛成の旨を述べ、近時の
国際情勢は、必ずしも戦争を招来する風潮を見せてはいないが、それが直ちに防衛無用ということにはならない。
我が国は敗れたりとは言え、自主独立の気魄を持つて憲法に背反せざる範囲内で自衛態勢を確立すべきである、但し防衛態勢は飽くまで国力に副うべきであると述べ、なお、政府に対し二、三の要望の点を述べられました。木村委員より、無所属クラブを代表して原案に反対である旨、そして二の反対の理由は、本
法律案は、第一に、米国の権威に隠れた
憲法違反の法案である点、第二に、新設される
自衛隊は日本の自主的なものでない点、第三に、二法案の内容は支離滅裂である点、第四に、
防衛計画の規模が国民生活の負担を重くする点、
〔副議長退席、議長着席〕
第五に、ビキニ水爆の実験以来、武力による防衛は完全に意義を失つた点、第六に、再軍備体制は日本をアジアの孤児たらしめる契機を作る点、第七に、再軍備が米日独占資本の利潤確保の道具であるに過ぎん点を指摘して、両法案に反対する旨の発言があり、堀木委員より、改進党を代表して、原案に賛成である。
自衛権は国民の基本的人権と同様に国家固有の神聖なる権利である。世界に二大勢力の対立する今日、国の平和を希望するだけでは平和を実現することはできない。自衛体制を整えることこそ独立と防衛を確保するゆえんである。
自衛力のない国は外国の侮りを受け、又国民精神の萎靡沈滞を招く、政府のこれまでの再軍備政策は自衛軍備をごまかした欺瞞的なものであつた。併し民主国家にふさわしい民主的自衛軍の創設は、現憲法に何ら違反するものではない旨の発言があり、三浦委員は、純無所属クラブを代表して、
我が国の現在おかれている国際的、
地理的条件から考え、武力を持つ必要があるから、原案に賛成である旨を述べ、更に次のような要望が表明されたのであります。即ち第一に、
三軍方式をとることを明らかにしている点は時宜に適したものであるが、現在の
自衛隊は、必ずしもこの構想がはつきり現われていないから、国力とのかね合いで充実してもらいたい。第二に、武力の行使は
自衛権の範囲内に限りてもらいたい。第三に、文民優位の体制を保持してもらいたい。第四に、徴兵制度を採用せぬことを言明しているが、この言明を守つてもらいたい。第五に、
自衛隊の構成は軍隊と呼ばれても仕方のないあいまいな存在であるから、憲法を改正して真の軍隊を作つてもらいたい。又、長期の国防計画の大綱を一日も早く示してもらいたい旨の要望が述べられました。
以上を以て討論が終了いたしましたので、直ちに原案につき採決いたしましたところ、多数を以て可決すべきものと議決されました。
なお、この際二言御報告いたしたい問題がございます。昨日の
委員会におきまして、参議院議員
鶴見祐輔君ほか八名の発議にかかる「
自衛隊の
海外出動を為さざることに関する
決議案」について、発議者より案の
趣旨説明を聴取いたしたい旨の動議が矢嶋委員より出され、この動議が成立いたしましたので、本二法案の審議の途中、
鶴見祐輔君の出席を煩わしまして右
決議案について説明を求めましたところ、当
委員会は、全会一致を以て右
決議案の趣旨に賛成いたすことになりました。この点を本二法案の審査報告に附加して御報告をいたしておきます。(拍手)