○
説明員(
下牧武君) それでは私から
逐条の御
説明をいたします。
お手許に
交通事件即決裁判手続法案逐条説明書というものをお配りいたしておきました。これに従
つて簡単に申上げたいと存じます。
この
法律の
立案の
趣旨は、
只今提案理由の
説明で申上げました
通りでございますが、全体の
骨子を御理解頂くために一応現在の
手続を申上げてみたいと存じます。
御存じのこととは存じますが、大体この
交通事件と申しますのは
事件の質といたしましては非常に簡易な
事件であります。
ただ数が非常に多いわけでございます。それで現在は殆んどこれが
略式手続によ
つて処理されておるのでございます。まあその
手続の概略を申上げますと、
最初違反を発見いたします。
スピード違反とか、或いは
信号無税とか、そういう
違反を発見いたしますと、
巡査がその車なら車をとめまして、大体この
交通事件の主体が
自動車による
違反というのが一番大きいものでございまして、又それによる損害も非常に被害が大きいという点から、この
高速度交通機関取締というものに
甫点を置いておるわけでございます。その結果やはり
交通事件の重点というのは、
自動車とか、そういう
高速度交通機関というものに対象が置かれることになります。そういうわけで
違反の
自動東をとめまして、そこでいつ幾日
警察に出るようにというのでこれは紙切れ一枚のようなものを
巡査が渡しまして、それでそのまま一応帰しておきます。そうするとその指定された
日時に
違反者が出て参るわけでございますが、
統計によりますと第一回に出て来るのが約五〇%
程度しか出て参りません。その後二回、三回と
呼出しを重ねまして、その間に
相当の
日時を要するわけでございます。それからその
呼出しをしておいて、
巡査は署に帰りましてから今度現
認報告書というのを
作成いたします。これは
違反の大要を、どういうところで
違反したかというのを現認した事実をそのまま書きまして、そして場合によりましてはそこへ現場の地図のようなものを書きます。例えば
駐車違反につきましては、ここが駐軍の
禁止区域にな
つておる。そうしてここに車がとま
つておつた。そして駐
軍禁止の
区域標はこことここに立
つておるということを、まあ一種の
実況見聞書のようなものでございます。それを加えまして、そして
上司に報告するわけでございます。それで
違反者が出て参ますと、今度はその
上司たる
巡査市長とか、或いは警部補なんかがその
理認報告書に基いてその
違反者に
犯罪事実の
有無を尋ねるわけであります。それで事実が
確定されますと、そこで軽微なものは
悦論処分にいたします。まあそのままにしておく。そして重要なものはこれは
検察庁に送る、いわゆる
事件送致をいたすわけであります。それで
検察庁がその
送致を受けた
事件につきまして今度又
呼出しをかけて参ります。大体その第一回の
呼出しで出て参りますものが六割余り、まあ七割足らずというところが出て参りまして、
あとのものはやはり二回、三回と
呼出しをかけなければいけないというような
状況にございます。
それで
検察庁へ出て参りますと、極
察庁のほうではその
警察の料の
送致記録に基きまして、又
本人に
事情を聞いて、そして
違反の
有無を検断するわけでございます。その中で嫌疑なしで
事件を不
起訴にいたすのもございますし、又たとえ
違反は成立いたしましても情状が軽いというのでいわゆる
起訴猶予処分にいたします。それからその他のものはこれは
起訴いたします。それで
起訴不
起訴をそこで決定するわけでございますが、大体今までの
統計で見ますると六割乃至七割
程度は
起訴されておる。大体その見当にな
つております。
そこでその
起訴いたします場合は、これは
略式手続というのによりまして、
略式手続にいたしますのには、やはり
本人に
同意書なんかを、その
略式式手続によることについて
異議がない旨の
同意書などを取らなければならない。そういう
書類を整えて今度
略式命令の
請求書というものを文書に書きまして、それには
犯罪事実、それから
適用法令というものを計いて、そして
裁判所に
起訴するわけでございます。
裁判所のほうでは一件
記録をずつと見まして、そしてこれは純然たる
書面審理でございます。これは
本人はもうずつと顔を見せずに、
裁判官がその一件
書類を見てその上で今度は
略式命令を出す。その
略式命令を出すにつきましては、やはりまあ
起訴状と同様なことを繰返して、同じような
判決書に
相当する
略式命令を書くわけです。そこにも再数の
作成の上に非常な
手数がかかるんで、むしろ
略式命令の出るのが非常に遅れる
原因はそういう
書類を
作成する面に、非常に手間取るという点に
原因があるわけでございます。まあそういうわけで
略式命令を出しまして、そしてこれを
被告人に
送達いたします。
その
被告人に
送達いたしますそのときになりますと、
相当犯罪其実のときから
日時が経過いたしておりますので、まあ
所在がわからなかつたりなんかして、まあなかなかその
送達に手間取るというような実情がございます。ともかくそれで
送達いたして、それで
送達があ
つてまあ十四日の
期間正式裁判の
請求期間というものをそのまま過ごしますとそれが
確定するわけでございまして、
確定いたしますと
記録が
検察庁に戻
つて参りまして、それでその
確定裁判に基いて
罰金について
執行をいたすわけでございます。それにはやはり
納付命令というようなものを出す。場合によ
つては
呼出して督促するというような面においてこの
執行面において
相当日時が、
手数がかかるというような
状況で、概略申上げますと、そういう経過で
事件が
処理されておるわけでございます。
その結果、まあ
提案理由でも申上げましたように大体の
平均が百九日、一件を片付けるのに
全国平均で百九日を要しておる。まあそういうようなことではとてもこの
交通事件というものは賄い切れないのではないかということで、何とかしてこれを迅速に而も
被告人の権利を侵さない
方法において早くやる
方法を
考えられないだろうとかいうことがそもそもこの
法案を作ります根本の動機でございます。
そこで私ども検討いたしました結果、まあ
三つの大きな
難点があることがあるのではないかという点に着眼いたしたわけでございます。その第一点はこの
捜査の面におきましても、或いは
執行の
段階その面におきましても
本人がなかなか出て来ないので、何とかして
出頭を
確保する
方法を講じられないだろうか、それで
捜査の面なんかにおきまして
出頭を
確保するためには、大体
交通事件なんというものは
現行犯でございますから、
現行犯逮捕をやればいいのでございますが、そういう軽微な
事件についてすぐ
現行犯逮捕をやるという
強制力を用いるということは、やはり
考えものでございます。そこで穏当な形において何か
本人の
出頭確保をできる
方法はないかということで、その
方法はこの
法案の附則にございますように、
道路交通取締法に一カ条加えまして、
免許証を一時預
つておいて、その
代り保管証を出しておいて、
保管証を持
つておれば
運転免許証と同じで
運転には差支えない。併し一週間なら一週間を限りまして指定の
日時に出て来れば
保管証を返して、そうして調べを終えるというようなことにして、特に
強制力を用いるようなことをせずして、
出頭を
確保する
方法を講じたらどうだろうかというのが第一点であります。
それから第二点といたしましては、先ほども申上げましたように、いろいろな
書類が作られて、而もその告知は非常に重複されたような
書類が作られておりますので、その辺の無駄を省いて、而も
手数を省くのに対してどうしたらよかろうか。
書類を極力簡易化いたしますということになりますと、この
事件の今度
処理の面において
被告人に不測の不
利益をこうむらせるということにな
つては困りますので、そこで現在
略式命令が
被告人の顔も見ずにや
つておるというのを、一応
裁判官の
面前に呼び出して、そこで弁解を聞いて、どうだろうかと、
判事又
裁判官が不審と思われる点は
本人に質すというようなことをいたしまして、その
事件の
判断にはこれは特に差支えないようにする
代りに、
書類というものは極力簡易化して、殆んど
裁判書は
規定の
内容を
記録する
程度のものにとどめて、ぐつとその間の無駄を省いてみたらどうかというのが第二点であります。
それから第三点といたしましては、
執行面における非常な無駄と申しますか、煩瑣な
手続が行われる。これもその
本人が出て、
出頭を
確保して、今度は
検察官と
警察官と同じ
場所において、同じ日に調べて、そうして
庁舎の
関係とかいろいろ問題がありますが、でき得べくんば
裁判所と同じ
庁合にお
つて、そうして
庁舎を
流れ作業によ
つて一遍
本人が出て、ずつと
裁判所まで行けるということになれば、その場合に或る
程度の現金を打
つておる、
本人も
裁判に
異議がないということになりますれば、それでその言い渡された
罰金も仮に納めるというような
制度にすれば、
執行の面も一度にできるのじやなかろうかというので、そこで仮
納付の
制度というものを、現在
訴訟法にございます仮
納付の
要件を緩和して、
本人に
異議がなければ大体
相当と認めるときは
裁判所の
上司の
判断によ
つて仮
納付の
裁判を命ずることができる。その仮
納付の
裁判はすぐに
執行ができるというような建て方にいたしたわけであります。それでありますから、飽くまで私どもの
考えは、これは
公判手続を簡易化するという
考えじやなくして、現在
書面審理で行われておるところの
略式命令手続、これに
口頭主義を入れまして、
判事が今まではめくら滅法に出してお
つたのを、直接
本人に当
つてその上で出すという
代りに、
書類でただ今までや
つてお
つたのを
口頭でや
つて納めて行くという形にいたしました。こういうのが大体この
法案の
骨子でございまして、その前提の下に
一つお読みにな
つて頂きたいと思います。
早速
逐条説明のほうに入りますが、第一条、これは
法律の
趣旨と
目的を掲げたもので
只今申上げたような
事情からこの
法案ができたということを書いてございます。
それから第二条でございまするが、これは
交通に関する
刑事事件、言い換えれば、この
法律の
適用する
刑事事件の種類と
範囲をここにおいて限定したわけでございます。一は
道路交通取締法違反の罪、それから二は、
道路交通取締法施行令というのがございます。これの
違反の非、それからもう
一つは、
道路を通行する諸車若しくは
軌道車の構造及び装置の調整又は
警告書の
交付等に関する
命令というのが総理府と
迎輸劣の
共同省令で出ておるのでありますが、これの第七条に掲げる罪という二つの点に限つたわけでございます。そのほかに
通路車両法とか、いろいろ
交通事件の
範囲に属する事項がございますけれども、これは非常に極く僅かでございます。特にこの主たる内応をなす
三つだけについて限定してこの
法律を
適用してみたい、こういう
考えでございます。
それから第三条は、これは
即決裁判のやり方の大本を、これを
略式命令と同じような書き方で、
条文も
刑事訴訟法の四百六十一条の第一項、
略式命令そのままの
文句を借りて参りまして、そうしてただ
略式命令でやるというやつを
即決裁判ということでやるという点を雇えただけで、
あとはその
通りの
略式命令通りの
規定の
内容を借りて来て
規定したわけでございます。この
罰金の
範囲、
最高限、その他全部同じでございます。
それから第二項は、これは現在の
略式命令も、
被疑舌の
異議のある場合にはできないのでございますが、これも同じような
考え方で、
本人が
異議のある場合はこういう簡単な
手続きはできない。
略式命令に
異議があれば
略式ができませんから、これは
通常の
公判手続にのせる、こういう
考え方でできておるわけでございます。
それから第四条も、これは
略式命令の
条文を殆んどそのまま借りて参りまして、第一項はこれは
検察官が市求してやる。これは四百六十二条第一項、これと同じ
用語例にならつたわけでございます。
それから第二項も、前条の第二項によりまして
即決裁判手続というものは、
本人に
異議のある場合はできない。その裏付けといたしまして、
検察官が
即決裁判の
請求をするについては、それはあらかじめ
本人に
即決裁判というものはどういうものであるかを
説明して、そうしてこのほかに
刑事訴訟法の定める
手続、言い換えればこれは普通の
公判手続でもよろしいし、それから
略式手続でもいい。そういうもので
裁判を受けることもできるぞということを告げて、
本人を納得さした上で、
異議がないかどうかを確かめる、こういう
措置を講ずるということにいたしたわけでございます。
略式命令ではこの場合に
本人の
同意書を取るということにな
つておりまするが、今度の場合は
本人が必ず
裁判官の
面前に出て参りまするから、たとえ
同意書のようなものを取
つて本人に
異議のないことを明らかにしておきませんでも、
裁判官の
面前に出て
本人がこの
手続じや困りますと言えばそれでいいことでございまして、特に
同意書を取るという点は、これは
略式手続とは変えて、そういう
措置はとらないということにいたしたわけでございます。
それから第五条は、これはいわゆる
起訴状一本
主義を排斥した
規定でございます。現在の
略式命令の場合においても、
略式命令の
請求がありまするというと、
検察官はやはりその
請求と同時に必要な
書類を、
証拠物を、
費料を
裁判所に差出さなければならないことにな
つております。これは
刑事訴訟規則の二百八十九条に
規定がございます。それと同じ
考え方でいわゆる
起訴状一本
主義、
刑事訴訟法の二百五十六条第六項の
規定を排除する意味におきまして、この
刑事訴訟規則と同じ
文句でその
条文をこちらへ借りて来たわけでございます。勿論これは
即決裁判の
請求と同時に出さなければならない、こう書いてございますが、
あとからいわゆる追送の形で出すということを
規定する
趣旨ではございません。ただ、そういうことにいたしますと、
流れ作業をやるということになりますれば、
あとから追送するということも、実際上は行われないのではないかと存じます。
それから第六条は、これは
即決裁判が、これでや
つては工合が悪いという場合に、これを
通常裁判に引価す場合の
規定でございます。
第一項は
略式命令と同じ
刑事訴訟法の四百六十三条第一項、これと同じ
規定にございます。「
裁判所は、
即決裁判の
請求があつた場合において、その
事件が
即決裁判をすることができないものであり、」このできないものということは、例えばこの
交通事件に関する
刑事事件というものが第二条で限定してございます。それ以外の
事件について若しこの
手続の
請求をしたというような場合には、これは
法律的に到底できない、そういう場合を指すわけでございます。それから「又はこれをすることが
相当でないものであると思料するときは、」
相当でない
事件というのは、その
内容が非常に複雑であ
つて、証拠調べを十分しなければならないとか、或いは途中で
被告人に
異議が起きて来たというような場合は、勿論これはできないことになるかと思いますが、そういう複雑な
事件の場合で、どうもこの
手続でや
つては工合が悪いという場合には、
裁判所が自己の裁量によ
つて通常の
裁判に引直すことができる。そういう場合は「
刑事訴訟法の定める
通常の
規定に従い、審判しなければならない。」こういうわけでございます。これはその
即決裁判手続をいわゆる
正式裁判、
通常の
公判手続に引直すということをここで認めておりますが、簡易
公判手続をすぐ
略式手続に引直すということは許されない、そういう
考え方でございます。
略式と
即決裁判との間の融通はつかない。でございますから、
正式裁判に引直した場合は、初めから今度は
公判廷で、
公判討求があつた場合と同じように取扱うということになるわけでございます。二項は、「
裁判所は前項の
規定により
通常の
規定に従い審判するときは、直ちに、
検察官にその旨を通知しなければならない。」これは現在の
略式手続もございます
規定で、
刑事訴訟法四百六十三条第三項、これと同じ
考えで行
つております。
それから第三項も、
刑事訴訟法の第二百七十一条、この
適用は、いわゆる
起訴状の
送達に関する
規定でございますが、この点は
略式手続と全く同様でございます。ただ、
略式手続の場合には、この二百七十二条の
規定の
適用があるということは、はつきり書いてございませんが、この場合には、二百七十二条と申しますのは、
弁護人の選任の告知の
規定、これも疑問がございますので、
弁護人選任の告知もこの際改めてする必要があるぞということを明示したわけでございます。但し、
通常謄本
送達の期間の起算日、これは、その通達があつた日から二箇月とするというので、これは
略式命令手続と同じような
考え方で、その
通り考えてや
つております。
それから第七条は、「
即決裁判の
請求があつたときは、
裁判所は、前条節一項の場合を除き、即日期日を開いて審判するものとする。」これがいわゆるまあ
流れ作業を予想した
規定でございます。建て前として、
即決裁判の
請求があれば、もうその口に法廷を開いて、期日を開いて審議しなければならん、審判、
裁判の宣告までしなければいかん。ただ、これは「審判するものとする。」とありまして、しなければならないとはつきりいたしませんでしたのは、必ずしも、その口に何かの工合で翌日に廻すというようなことも場合によ
つては
考えられますので、それをとめるというのも非常に窮屈になりまするから、原則としてその日にやるのだぞという気持で、「審判するものとする。」といたしました。でございますから、翌日に廻すというようなことも
法律の上から言えば決して違法にはならないということになります。
それから第八条でございますが、「
即決裁判期日における取調及び
裁判の宣告は、公開の法廷で行う。」それでこの
処理の便宜から
考えまするというと、必ずしもこれは公開の法廷でやらなくてもいいという
考え方も立
つたので、いろいろ我々にも議論いたしましたが、結局余り
手続というものを簡易化いたしまして、又どこでも
裁判できるという形にいたしますると、やはり
裁判の威信というものにも
関係して参ります。そこで最後の担保として、少くともこの取調べというものは法廷で行う。而もそれは公開の法廷で行う。ガラス張りの中でやるという建前は崩したくないという意味で、これを公開の法廷ということにいたしました。この法廷というのはこれは大体
裁判所の構内にございますが、そして特別に
裁判所以外の
場所にそれを開く場合は、これは最高
裁判所の指定を受けなければいけないわけでございます。ところが最高
裁判所としてもめつたやたらに指定はいたしません。我々もその指定をルーズにするという
考え方は持
つておりません。ただほんの特別の
事情によ
つてどうしても
裁判所でやるということが無理だという
状況でも起きますれば、或いは
警察の
庁舎という場合を指定することもあろうかと存じますが、そういう場合の指定があれば、それは法廷ということになりまして、やる
場所は単に
場所的な感覚じやなくて、法廷という
場所でやるということをはつきりさしたわけであります。それでこの法廷につきましては、この
流れ作業をすることを
考えますというと、
裁判所の
庁舎が余裕がありまして、そして一室を明けてそうして法廷のすぐ近所に
警察官及び
検察官が取調べをするような部屋を設けまして、そうしてそこからすぐ法廷に廻られるということにいたしますれば、これは一番理想的に行くわけでございますけれども、現在の実情におきまして全部の
裁判所にすぐそれができるかと申しますと、これは予算その他の制約がございましてちよつと困難かと存じます。その点から行けば、そうむずかしいことを言わずに
警察へでも持
つて行
つて一緒にやつたらいいじやないかということも
考えられますけれども、先ほど申上げたように
裁判の権威その他を
考えまして、この点だけは譲らなかつたということでございます。
それから法廷は
裁判官及び書記官が列席して開くということにいたしまして、
検察官は立会
つても立会わなくてもよろしい、これは自由であるということにいたしました。
それから第九条で、併し
被告人が
出頭しなければ期日を開くことができない、といたしまして、必ず
裁判官の
面前に
本人が来て
裁判官が事実を調べるという、この点は担保しております。
「
被告人が法人であるときは、代理人を
出頭させる」これは
刑事訴訟法の二百三十三条にある
規定でございます。これをそのをまま借りて来たわけであります。
勿論
呼出しを受けた場合に、日分一人じや心許ないから
弁護人と一結に行こうということはこれは当然でございまして、第三項において「
弁護人は、期日に
出頭することができる。」弁護権のほうも担保しておるわけでございます。
それから第十条でございますが、期日における取調べ、これは普通の
公判手続におきますと非常に厳格な方式が定められておりまして、証拠調べの方式にしても非常に厳格に
法律上縛られておるわけであります。ただ、この
種事件の性質から申しまして
事件の
内容が非常に、
スピード違反、何キロで走
つておつたとか、赤信号が出ておつたところを突つ切つたとか、或いは車をとめていかん
場所に車をとどめて賢いたとかいう非常に簡単な
事件でございますから、それほど細かいむずかしい方式に従わなくてもこれをできるだけ
裁判所のやりよいような
方法でその
本人にその事実を確かめることができるようにしよう、こういう
趣旨からその取調べの
方法というものを非常に簡易化いたしました。
第一項は、先ず期日において
裁判長は
被告人に対して被告
事件の要旨及び自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。従
つて検察官が
起訴状を朗読するというような冒頭の
手続も必要じやございません。
裁判官からこういうことで実は
起訴されておる、こういうことであるがどうであるか。それから供述する場合でも、
公判手続におきましてはいわゆる黙秘権ということで非常に丁寧に黙祕権があることを告げておりますが、この場合には、
捜査機関が供述拒否権を告げるという
程度に緩和いたしまして、そうして、その
程度のことを告げるということでとどめたわけでございます。それから
被告人に対して弁解をする機会を与える、それからその場合に若し必要と認めれば、在廷証人でもおれば、その在廷の参考人を調べるとか或いは出されたそのほかの証拠
書類或いは
証拠物がございますれば、それをその場で調べることもできる。そうしてその場合に
検察官、
弁護人が
出席しておれば、これは当然意見を述べる、ことができるこれは当然のことでございます。厳格に
検察官がいわゆる
訴訟法に求められておる論告をするとか、そういう格式張つたことはいたしませんで、言い換えますれば
被告人を目の前においてそうして、本当のくだけた気持で
裁判官が
被告人に聞いて、そうしてその事実を何する。そうしてむずかしい格式張つたことをせずにこの取調べをするというのが、この
規定の
趣旨でございます。これはまあ
裁判のあり方といたしまして民衆との親しみというものを増す上においても、
相当意義のあることじやないかと
考えるわけでございます。こういうやり方も
事件によ
つてはむしろそれのほうがいいというふうに
考えられるわけでございます。
それから第十一条、これは証拠でございますが、この証拠もまあ
只今申上げたような
事情でございまして、
事件も簡単でございますし、そしてこれという証拠調べをしなきやならんようなむずかしい場合は、到底この
即決裁判手続に副わず、これは
通常の
公判、続で行うべきものでございますが、ここでは証拠能力の制限もこれを非常に緩和いたしまして、
裁判所として大体
検察官が出した
書類それから期日において取調をした
書類そういうものを見まして、
証拠物を見まして、そしてそれと
本人の弁解とを合せて聞いて心証を得れば、それで
裁判ができる。こういう仕組にいたしたわけでございます。
そこでここに「
被告人の憲法上の権利を便さない限り」というふうにしぼりをかけましたが、これは甚だ漠然とした表現でございますが、大体強制とか拷問による自白とか、或いは非常に長く抑留される。そういうことはございませんでしようけれども、そういう場合の自白、或いは伝聞証拠につきまして反対尋問の機会を与えないことは、反対尋問をさしてくれと
本人が旨
つているにかかわらず、その機会を与えないということは、やはりこれは憲法上の権利を侵すことになりまするから、反対尋問の機会を与えないような参考人調書といつたようなものもこれはやはり証拠にとれない。でございますから大体
本人に
異議があるような書頻というものは、伝聞
書類というものは、これは証拠にとれないだろう。そういう必要に落ちついて行くだろうという意味で、ここに「憲法上の権利を侵さない限り」とこういたしたのであります。甚だ漠然としているようでございますが、大体
刑事訴訟法の現行法のあの証拠能力の線でこれがとまるのじやなかろうかというわけでございます。ただこう書きましても、飽くまでこの
手続はアレイメント、いわゆるアレイメントを採用したのじやございません。被告の自白一本で以て有罪の認定をしてよろしいという建前はと
つておりませんので、必ず何らかの補強証拠を必要といたします。その補強証拠となるものは、大体の場合は、先ほど最初に申上げました
違反を発見した
警察官の現
認報告書これは必ずつく迎用であろうと思うのであります。少くともそういうものとそれから
本人の自白と合せてそうして有罪を認定するということになるわけでございます。
それから第十二条、これは
裁判の宣告でございまして、これも
略式命令と同じような書き方にいたしました。これは
刑事訴訟法の四百六十四条の
用語例にならつたわけでございます。それでこの中で普通の
通常の
公判手続の場合の判決の言渡しと差ができますところは、いわゆる証拠
説明を必要としない「罪となるべき事実」を認定するに至つたその理由ですね。証拠
説明をしなくてもよろしいということになるわけであります。
略式命令と全く
同一でございます。
それから第二項はこれはいわゆる
裁判書きといつたようなものを
作成するか或いはカード式のようなものにいたしまして、そしてその
裁判官が言い渡した判決の結果というものをカード式のものに記入する。必ずしも
裁判書きというような格式張つたものを作らなくても、とにかく判決の結果だけをはつきりさしておく必要がある。そのはつきりさせ方は恐らくこれは
裁判所のルールで何かできると思いますけれどもその辺も非常に簡易化いたしまして、そしてどういう
裁判があつたかということだけはつきりさしておく。例えばそのほかの参考人を調べるにいたしましても、そういう場合の調書は一切作らない。そうして今度
正式裁判のそれに若し
請求があ
つて、
通常手続に引直されたような場合は、これは
検察官が又改めて証拠を出さなければいけないということで、言い換えれば
公判前に一応ふるいにかけるといつたような形の
考え方で、この
程度にとどめたわけでございます。と申しますのは、
統計によりまするというと、現在の
略式命令を受けた者が不服の申立てをする
事件、それから
略式請求した
事件で、
裁判所が
略式不
相当と思
つて、それを
正式裁判に引直す
事件、言い換えれば
略式裁判から
正式裁判に引直される
事件の率は〇・〇一%、言い換えれば千人に一人、不服ある者は千人に一人というような非常に少い数でございまして、大体は現在のやり方で納ま
つておるわけでございます。そういうわけでございますから、紬かいことは言わずとも、まあ大体の分はその分で
確定するのなら、何もその間のむずかしい証拠を作つたり
書類を作つたりしないでも、判決の結果さえはつきりして、そうして
本人の言い分を聞いて判決を言い渡せばそれで済むんじやないかというので、この
程度にとどめたわけであります。
第十三条は、
正式裁判の
請求、これは
略式手続の四百六十五条第一項、第二項、これをそのまま借りまして、この
規定の第一項から第三項にいたしました。
考え方は
略式手続と同じ
考えでございます。第四項もこの
正式裁判の取上げとかそれから
正式裁判の
請求権者、それから
正式裁判の取下げ権者、
正式裁判の
請求権、こういつたものにつきまして
刑事訴訟法の
規定を、
略式手続の
規定を、借りて来るのが便利でございますから、第四項においてそれをこちらへ準用いたしまして、借りて来た、こういうわけでございます。
それから第十四条は、これも一項、二項とも
略式手続と同じ
規定で現在の
訴訟法の四百六十九条、四百七十条、この二つを一項に二項にそのまま同じ
文句で入れたわけでございます。当然のことと存じます。
それから十五条、これが最初に申上げました仮
納付、現在
刑事訴訟法の三百四十八条、これによ
つて行われております仮
納付の
要件というものを緩和いたしまして、現在は「判決の
確定を待
つてはその
執行をすることができず、又は
執行ずるのに著しい困難を生ずる虞があると認めるとき」というときに限
つて仮
納付の
裁判を言渡すことができることにな
つておりますが、その
要件を緩和いたしまして、
裁判所が
相当と認めるとき、言い換えれば
本人がちやんと金を持
つてお
つて、そうして
裁判に不服ありませんといつたような
状況が窺われる場合にやる、それは
裁判所の認定に委すというわけであります。「附随の処分として、」と書きましたのは、現行法の[刑の言渡と同時に、」ということを言い現すために「附随の処分として」という
文句を出したというわけでございます。
第三項は、現行法の仮
納付について、簡易
即決裁判が
正式裁判に直された場合、そのときに、前に仮
納付があつた、仮
納付と今度の
正式裁判との金額をどう調整するかという問題、第二審で
確定した場合にどういうように調整するか、その
執行はどういうふうにするかという面の
規定で、現行法の
規定をそのままこちらへ援用して来たというだけのことであります。
第十六条は、これは
裁判官の除斥で、現在
刑事訴訟法の第二十条の第七号によりまして
略式命令をした
裁判官は、その
事件について除斥されることにな
つております、それと同じことでございます。
即決裁判の場合にも同様のことをいたしたわけでございます。
それから十七条ですが、こういうふうにして
即決裁判手続を定めましたが、これはいずれも
刑事訴訟法の特例とするという
考え方でできておりますので、そのほかにまあ管轄の問題とかそのほかいろいろ一般的な総則的な
規定、こういうものは全部
刑事訴訟法をかぶるという建前を明かにしたわけであります。ただ、「その性質に反しない限り、」ということで、どういうものが性質に反するかと申しますと、先ほど申しました
検察官の冒頭陳述とか、それから証拠調べの順序
方法なんかを非常に厳格に
規定しております。それから
起訴状に予備的又は択一的に訴因を記載するなんということは、これは到底この
手続きに副わない、この
程度のものじやなかろうかと
考えております。
それから附則でございますが、これは
施行日を「公布の日から起算して六箇月」といたしましたが、これはこれに応ずる
裁判所の規則も作らなければなりませんし、又人員の配置、それから
流れ作業をするために
庁舎の
関係、そういうものにいろいろ準備を必要といたしますので、その間の準備期間を置くという意味で多少の余裕を持たせたわけでございます。
それから第二項の
道路交通取締法の改正は、最初に申上げました
通り、
本人の不
出頭による時間の徒過という点が非常に癌をなしておりますので、この点を何とか改めたいということで、特に
現行犯逮捕とかいう荒い
手続をとる
代りに、一応
免許証を出さして、それで
保管証を渡して、その
保管証を持
つておれば、その
運転中
免許証を携帯しなければいかんという
規定も、或いは
警察官から提示を求められれば
免許証を見せなければならんという
規定の
関係はなくなる。これは
免許証と見てやるのでございますから、その
保管証を持つたままでそれで
運転はできる、そういう仕組みにいたします。そうして
只今のところは一週間ぐらいの期間を限
つておりますが、その
保管証の有効期間内の三日目か四日目に呼び出して、来れば
保管証と引き換えに
免許証を返してやるということで
出頭を
確保する。その点は又問題がある点だと思いますけれども、この
手続をいたしませんというと、どうしても呼び出しそのもののために無用の
手数と費用がかかりますので、而もこういう種類の
事件は、
事件といたしましてはこれは早く
処理いたしませんと、いわゆる行政
目的の
取締りの効果が現われないという性質のものでございますから、できるだけ
本人の迷惑にならないようにしてその
出頭を
確保する
方法を講じたいというのがこの附則の第二項の考うえ方でございます。
簡単でございますがこれを以ちまして……。