○加賀山之雄君 このたび派遣された
調査団の現地
調査の結果について御
報告申上げます。
派遣地は青森県及び茨城県でありまして、派遣期間は二月二十八日から三月四日までの五日間でありました。
派遣議員は木村
委員、高田
委員に加賀山
委員でございまして、高田
委員は病気のため茨城県の
調査には出席不可能となりまして、安部
委員が代
つて出席をいたしました。今回
調査の主要項目である教員の思想
調査のほかに、
学校給食の設備及び運営、教育施設の現状について視察を遂げ、併せて教育財政の現状等につき知事及び教育
委員会の担当者とも懇談し、又青森県では、青森市所在の浪打中
学校、浪打小
学校、長嶋小
学校を視察いたし、茨城県においては水戸市所在の三の丸小
学校及び第二中
学校を視察いたしました。以下順を追
つて教員の思想
調査問題と茨城県における
文部省初等、中等教育
局長通牒に関する問題について
調査の結果を御
報告申上げます。
先ず青森県における事例について御
報告いたします。
第一は東郡蓬田村の事例であります。蓬田駐在所小山内武視巡査は二月八日午後五時頃駐在所で見張り勤務中、顔見知りの蓬田中
学校斎藤英一校長が
通りかか
つたので、休んで行かないかと言葉をかけ、入
つて来た校長に組合
学校の状況について尋ねた。会談一時間くらいの後、今日は遅いから明日
学校に行くからということで、その日は別段のこともなく別れた。小山内巡査は翌二月九日午前九時三十分頃警らの途中蓬田小
学校を訪れ、知り合いであ
つた武田平八校長に対し、前日の組合
学校の状況について尋ねた。小山内巡査はその足で午前十一時頃蓬田中
学校に行きたまたま顔見知りで屋外授業中の久慈教諭に言葉をかけ、組合
学校のことに関して話が及んだが、授業中であ
つたので、久慈教諭の言うままに
職員室へ行
つたら、斎藤校長がおり、そこで組合
学校の話や防犯弁論大会の話を約二十分間して辞去した。その間に斎藤校長は小山内巡査に、上からの指令があ
つたのかと聞くと、小山内巡査は、指令はない、村の状況を知
つておきたいからだと言うので、半けい紙に鉛筆で組合
学校のことについて三項目に亘り書いて手渡したと述べた。これに対して小山内巡査は、斎藤校長からは何も書いてもらはない、校長とは長期欠席や人身売買等の話をして辞去したと述べており、ここに両者の言い分に相違がある。要するに、警官は思相
調査のような感を与えるようなことは極力否定しており、一方校長初め教員側では「しつこく」という言葉で表現しておるが、警官の調べ方が非常に熱心なため、何かあるのではないかというような多少の疑念を持
つたようである。
なお列席した田中教育
委員、森教育長の
意見として、小山内巡査は日頃児童生徒の長期欠席とか、防犯等のことで常に
学校に協力してもら
つており、日頃からよい警察官であると
思つている。今回のことも職務に熱心の余りや
つたことだ。
従つて教育の干渉、或いは思想
調査とは断定できない。併しながら、若しこれが特別の意向に基いて行われたとすれば、それは勿論よくない。又
学校の授業中に
調査に来訪し、又書面が欲しいと言
つたとすれば、それは行き過ぎとも思われ、考慮を要する事柄であると述べた。
第二に上北郡浦野館小
学校の事例であります。沼崎派出所山田寛巡査は二月十日午前十一時二十分頃、かねて同一学区内で同じく教員を勤務して知り合いであ
つた沼崎中
学校宮沢正次教諭に電話をかけ、
法案研究会について尋ねた。その
質問の
内容について県教
職員組合の盛田執行
委員長並びに宮沢教諭は、
法案研究会の会合の場所、人員、
内容及び第三波の見通し如何、左傾的のものはないか等であ
つたと述べた。これに対して山田巡査は、二月七日の毎日新聞青森欄に、二月十日、
法案研究会を開く記事が掲載されていたので、注目し、この記事に関する事項、例えば沼崎方面の教
職員の出席について、又授業について及び闘争に対する臨時救援資金、組合費徴収等についてのみ
質問したのであ
つて、沼崎方面の教
職員組合の動向については全然触れていないと主張して、両者の陳述の
内容は一致を見ない。盛田執行
委員長は、教育への干渉であると述べ、宮沢教諭は、組合長に聞くが、と前提して聞いて来たので、少しおかしいと思
つたと述べた。
他方、松本国警隊長は、山田巡査と宮沢教諭とは以前から知り合いで、以前にも電話で児童の長期欠席等について尋ねたこともあり、新聞紙上に掲載された事項について尋ねることは自然のことであると述べた。
第三は、五所川原中
学校の事例であります。
二月九日、午前十一時頃、五所川原地区署三橋長治巡査が五所川原小
学校職員室を訪れ、かねて知り合いの神教頭から教
職員政治活動禁止
法案の
研究会があることを聞いたので会合の場所、
学校の授業等に関して尋ね、更に釜范校長とも話をして正午頃辞去した。
二月十日午前十時頃、三橋巡査は五所川原中
学校内北津軽郡教組事務所に黒滝興信教組書記長を訪ねて、
法案研究会開催の場所、
出席者の人員、二月十一日
中央で開かれる教育防衛大会の
出席者、更に総評統一デーとの
関係等について尋ねた。その際黒滝教諭は、これは上からの指令に基いて
調査をしたのであろうと聞き質したのに対し、三橋巡査はこれを肯定したと述べたが、当の三橋巡査は、その点について肯定した覚えはないことを強く主張している。この指令の有無の問題については最後まで両者の間に一致をみていないが、黒滝教諭は三橋巡査の訪問を快く
思つていないことは明瞭である。三橋巡査は調べや又いろいろの話で約二時間ぐらいで辞去したとのことであるが、三橋巡査が中
学校を訪れた際、面接した竹林
事務職員は、当時の模様を思想
調査ではないと思う、と述べ、三上五所川原町教育
委員長は思想
調査の感じは受取れませんでしたと述べた。又小田切教育長は新聞記者の訪問
程度と思うが、教
職員政治活動禁止
法案に反対して
先生がたが神経過敏に
なつておる際、巡査が聞き歩くのはへたな方法であると思う、との
意見を述べた。
四番目は北郡中川中
学校の事例であります。二月九日中
川村中川駐在所佐々木金之丞巡査は、旧正月であ
つたので、夕食時幾らかの酒を飲み、午後八時十分頃駐在所を出て警ら中、日教組及び県教組が各新聞共に教
職員の政治活動禁止
法案に反対である記事のあ
つたことを思い出し、以前から知り合いの三上教頭を
学校の教員住宅に訪問し、案内されて面談した。その
内容は、五所川原町で教員の
法案反対の大会に出席する人員の数とか、又沖飯詰小
学校や、田川小
学校からこの大会に何人出席するか等であり、約三十分間雑談して帰
つた。三上教諭は、佐々木巡査は一杯飲んでおるところへ署から電話があ
つたので来たのだと語
つたということを述べているが、これに関しては佐々木巡査は、そんなことは絶対にないと否定している。笠井中
川村教育
委員長及び銭山教育長は、本日までこのことについては何も知らなか
つたが、警官は思想
調査というような
意味で
学校へ行
つたものではなかろうと述ベていた。
第五、上北郡三本木町の事例であります。植田上北郡婦人部長より十日の三本木町で開催された
法案研究会において駐在巡査が調べたと発表されているが、国警においては事例なしとして否定し、又県教
職員組合からも事実なしとの陳述があ
つた。
第六、南郡柏木町の事例であります。柏木中
学校対馬清勝教諭は次のように陳述した。昨年九月二十七、八、九日頃授業中、小使が校長室に来てくれと呼びに来たので行
つてみると三上刑事がいた。刑事は教育
研究大会の
資料を見せてくれと言
つたので、見せたら、刑事はこれを写して行きたいというので、今後の教育の方向を示すもので差支えのないものであり、大部のものであるから写すのも大変と思い、その
資料を与えた。刑事に対してなぜ調べる必要があるかと尋ねたら、刑事は、私はこの方面を担当しておるから勉強したい、と答えたと述べた。更にもう
一つの事例である読書傾向の
調査事実の有無については、対馬教諭は、自分が発表者であるにもかかわらず、明確な事例はないと陳述した。柏木町教育
委員会の栗林副教育
委員長は、柏木中
学校の
先生で刑事の調べを受けたことを聞いているか否かの
質問に対し、そのような人は見当らない、今日初めて聞く話であると述べた。国家警察においては、この柏木町の事例は全然ないと言
つて否定していた。
第七は青森市の事例であります。沢田青森市教
職員組合婦人部長発表として、昨年十二月二十六日国警
職員の名を以て盲ろう
学校、中村妙子教諭を電話で呼出し、県庁前で再度に亘り思想
調査的のことを行
つたと称するのであるが、当の中村妙子教諭の陳述によるも前後の事情に矛盾と不可解の点があ
つて事実が明瞭でない。国警においては全然心当りなく、この事例自体を否定している。
第八、北郡金木中学の事例、金木地区署須藤光雄巡査の陳述によれば、昨年十二月中旬頃、十二月五日付の共産党嘉瀬細胞発刊の嘉瀬民報に、金木中学三年生丸山はなという名で、「朝鮮人の温い心にふれた私」と題する作文が掲載されていたのを見た。その後、金木町に老夫婦殺しの事件が発生し、この捜索の聞込み中、金木中学の女生徒が一人で水田二町歩を耕作した話を聞いたので、かねて嘉瀬民報に掲載された記事を思い出し、そのことを聞くつもりでたまたま
通りがかりの
学校を尋ねた。受持教諭が本人を
職員室へ連れて来た。尋ねた
内容は、
氏名、家の在所、どのくらい田を耕しているか、朝鮮人が何人稲刈りに来たか、等で、極めて短時間であ
つたが、この
質問内容については、これは職務尋問ではないかという
質問に対し、須藤巡査は困
つたような様子で明確な答えはしなか
つた。警官が生徒を調べたことについて宗方謙造教諭は、最初警察がみえたとき、又何か生徒が悪いことをや
つたのではないかと思
つたので生徒を連れて来た。その後他の生徒がこの生徒を白眼視しているような事実はない。又この生徒が欠席するようなこともないか、その後子供が敏感になり、反撥的に
なつて人権蹂躪の抗議文を提出していると述べていた。
金木村の福士教育
委員長は、警官の処置は日頃警官が
学校の教育に協力しておるので、そのために来たものと思う。共産党細胞の機関紙に掲載されたので、警察でもそれについて一応調べたのであろうと思うと述べ、中谷金木村教育長代理は、校長
先生の話でも別に問題はないとのことであると述べた。
第九、十二里中
学校の事例であります。
二月頃、十二里村駐在所若林巡査は、十二里中
学校で生徒の喫煙事件及び少年犯罪事件が発生したので、村元校長を訪問した。話題はたまたま文集に及び、かねて清野利保教諭と受持の三年生の学級グループで機関紙を発行し、学童綴方展示会で優秀な作品があるとの話を聞いていたので、この作品を見せてくれるように校長に話していたら、間もなく校長室に清野教諭が入
つて来て、何のために作品を見なければならないかと言い、その他について二、三の応答が行われた。
以上各事例につきまして、懇談会には青森県教育
委員及び教育長、
地方教育
委員会協議会長、事例に関連を持つ
地方教育
委員会の
関係者、同じく教諭、国警隊長及び各関連せる警察官、青森県教
職員組合執行
委員長等の参集を願いました。
陳述はおのおのの記憶と見解に基いて自由になされたものでありますが、それぞれの立場の相違により、一致点を見出すことが困難な事例が多く、いずれが真実なりやを断定しがたいことを遺憾とするものであります。併しながら、総括的に言い得ることは、青森県の事例はたまたま教研大会、
法案研究会等の開催に際し、これと殆んど時を同じくして、随所に警官の
学校への訪問と
なつて現われたことが教員の疑惑を招く種とな
つたのではないかと思われる点、思想
調査との誤解を招く虞れのあるような
調査の抑制を命じた
中央よりの指令が上部まで徹底していなか
つたように見受けられる点、
従つて調査の時と場所と
内容が必ずしも適切とは言い難く、職務に熱心とは言え多少の行き過ぎと認められるような点のあ
つたこと、今回の問題について教育
委員会、教育長等の側では、さして重大な関心を示していなか
つたこと等は概ね結論し得ることであ
つて、要するに相互の信頼感と協力の観念をもつと強調することによ
つて事態はより簡単に明朗に進展し、
地方的に問題を処理し得る余地が多分にあることを確言し得ると思います。
次に茨城県における教員の思想
調査について御
報告申上げます。
まず友末知事を県庁知事室に訪問した際、知事は思想
調査に関して、その方法如何によ
つては思想
調査になる、警官が
学校へ干渉することはよろしくないと思う。この
意味の発言がありました。引続き懇談会を開きましたが、その懇談会には県教育
委員長を初め教育
委員、
事務局から教育次長及び
関係各課長、教育出張所長全員、県教
職員組合代表者が参集いたしました。教員の思想
調査の有無につきましては、佐藤教育次長が次のように陳述しました。警察官が教育の思相
調査を行
なつたか否かについては、現在までのところ
承知していない。又そのような
報告も現在まで何も聞いていない。又県下の出張所長も全員出席しているが、各
地方でこのことについて聞いたという
報告も全然ない、とのことでありました。次にこのことについて茨城県高等
学校教
職員組合の坂本書記長から、次のような陳述がありました。まず、取手の高等
学校の事例であるが、昨年九月、警官が組合員の
氏名、
学校に
委員がおるか、及びどのように授業をしているかについて尋ねた。これは本人に直接聞いたのではなく、他の人を通じて当人の授業
内容について聞いたというのである。これは思想
調査であると思うという
意見を述べ、又潮来の高等
学校に警官が来て、この
学校に組合員が何人いるか、その
氏名をも尋ねた。これは組合
本部で聞いてくれと言
つて断
つた、という事例である。坂本書記長は、これは思想
調査とまでは言えないと思うが、との
意見があ
つた。以上坂本書記長が述べたこの二つの事例については、佐藤教育次長は、二つとも聞いていない、と言明した。続いて茨城県教
職員組合桜井副
委員長から次のような陳述があ
つた。即ち小、中
学校では新任の
先生が赴任すると、警官が戸口調書ような形でいろいろ尋ねるが、その間にあ
つて果して思想
調査を目的として
調査しているか否か、事実判断がつかないが、
先生の集会があ
つた前後に警察官が戸口
調査的に話を聞いて歩くことは随所に行われている。教
職員組合の
本部にも自治体の警官が来て、会議とか、
出席者の記録をつける。これらは学内の
先生に不安感と動揺とを与えるものである。以上の陳述に対し、出張所長からそれぞれ陳述があ
つた。鹿島出張所根本所長より、不安感は持
つていないと思う、と述べられ、又真壁出張所根本所長より、警察官と教員とは、公的にも私的にも常に顔を合わせている。
学校の盗難の激しい場合、
学校も十分注意してくれというので
学校にも来るし、不安感を持
つていることについては何も聞いていない、との表明があ
つた。結局教員が不安感を持
つていないということは、出張所長全員の一致した結論でありました。併しながらこの不安感については、組合側ではあると主張し、出張所長側では認めていないというので、この点については速かに各
学校の
先生がたの実情を把握し、若し果してありとするならば善処することが望ましいと思いました。
次に
文部省初等中等教育局緒方
局長の通牒について
調査した点を御
報告いたします。佐藤教育次長より次のように
説明を聴取しました。この通牒の件名は、教育の中立性が保持されていない事例の
調査と
なつている。昨年十二月二十三日付で
文部省初等中等教育
局長名で、茨城県の教育長宛に来たものであ
つて、受理したのは十二月二十九日であ
つた。この
内容の要点は、県内の公立
学校において、
一つは特定の立場に偏した
内容による教材
資料を使用している事例、第二特定の政党の政治的主張を、うつして児童生徒の脳裡に印しようとしている事例、第三としては、その他一部の利害
関係や、特定の政治的立場によ
つて教育を利用し、歪曲している事例、これらの事例について
調査報告を願いたいというのであ
つた。これに基いて
事務局では
調査報告を求めた。その方法は二
通りであ
つた。即ち
一つは直轄の高等
学校、盲ろう
学校については一月二十六日の高等
学校長会議開催のとき、口頭で
報告を求めた方法であり、他の
一つの方法は公立の小、中
学校関係は出張所長宛に文書を以て
報告を求めた。出張所においては口頭によ
つてそれぞれ
調査を行
なつたわけである。この
調査の結果については、一、二の未報もあるが、大体
報告済みであり、現在のところ該当事例なしとの結果に
なつていると述べた。次にこの通牒は正式の教育
委員会の決定を経ていない。ただ起案者の名で
調査が行われたことについては、佐藤教育次長は、これは事務
当局の專決処分で行われた。従来の慣例から見ても普通の
調査統計は所管課において代決しており、一々は
委員会にかけない慣例と
なつた。事務的には代決であるが、これは教育長の行
なつたことであり、教育
委員会としてや
つたことになる、との
説明があ
つた。更にこのことに関して、江幡教育
委員長は、教育
委員会においては協議会を持ち、
当局から経過を聞いて
調査するまでの手続については、従来の慣例によ
つて行
なつたものであることを了承した。又その
調査内容等にいても教育次長から聴取した。これは
文部省からの依頼を
調査したということで了承した、ということを
説明した。
次にこの通牒の附記に関しては、「なお
調査の方法については、徒らに無用の刺激を与えざるよう慎重を期せられたい」と明記されており、又
報告上の注意として「更に該当事例がある場合は、貴職の
意見を併せて記載のこと」と附記されている。この通牒に関してはすでに江幡教育
委員長が述べたように、教育
委員会は了承したのであるが、手続きとして、この通牒は正式の教育
委員会に諮
つて決定したほうが望ましいことであ
つたと思いました。
以上御
報告申上げます。