○重政
庸徳君 只今議題となりました愛媛県における台風十五号による
被害状況及び地盤沈下の
実情に関する現地
調査の結果についてその概要を御
報告申上げます。
私と森
委員長とは安楽城専門員を帯同して本月三日東京を出発、途中、江田
委員の御勧奨もありましたので、この
機会に国営児島湾干拓地の第六区における台風の
被害状況を
調査し、更に帰途を利用して香川県における台風の
被害状況及び老朽溜池の現況を
調査して六日帰京することにいたしたのであります。極めて短期間のうちに主目的である愛媛県における
調査は勿論、そのほかにも能う限り広く
実情を
調査し、併せて被災者の慰問、激励に努めることにいたした次第であります。
日程は、四日に岡山駅長室において岡山県当局から児島湾干拓地台風
被害の一般
状況の
説明を聞き、直ちに児島湾干拓第六区及び第七区に赴き、台風十二号及び十五号の
被害状況の現地
調査を行い、五日は愛媛県庁において県当局から
調査事項に関する一般情勢を聴取した後、道後地帯を経て田野村及び丹原町に至り、周桑郡を中心としていわゆる道前穀倉地帯の台風
被害状況、続いて西条市禎瑞の地盤沈下
状況、更に新居浜市及び土居町における堤防決壊による稲作
被害及び地盤沈下の
状況等を視察し、六日は香川県庁において県当局から台風十二号及び十五号の
被害の一般
状況の
説明を聞き、直ちに平池の老朽溜池の
状況を視察したのであります。
先ず台風の
被害について申上げますと、愛媛県等におきましては、六、七月の豪雨及び台風五号等の
被害も少くはないようでありますが、併し特に問題とな
つておりますのは、九月十三、四日の台風十二号と、九月二十六日の台風十五号による
被害でありまして、地域によ
つて趣きを異にしてはおりますが、台風十二号によ
つて相当荒されたところに、台風十五号によ
つて災害に
決定的、致命的なものとなされたといわれるようであります。
愛媛県におきましては、
昭和二十九年、
災害被害として六、七月豪雨による人的
被害、死亡一名、重傷二名、家屋
被害四千二百九十戸、物的
被害十三億九千三百万円、台風五号による人的
被害死亡五名、重傷一名、軽傷九名、家屋
被害六千九十四戸、物的
被害十億一千四百万円、台風十二号によるもの、人的
被害死亡一名、行方不明三名、重傷十一名、軽傷六十四名、家屋
被害四万三千七百七十一戸、物的
被害八十億円余、台風十五号による人的
被害死亡八名、行方不明五名、重傷六十名、軽傷二百八十七名、家屋
被害四万三百戸物的
被害八十五億二千五百万円、そのうち土木工作物十二億余円、耕地
関係約二億二千万円、林務
関係三千万円、農作物
関係約三十四億円、畜産
関係一千六百万円余、蚕糸
関係約一千二百万円、水産
関係約七億円、一般建築物約二十九億三千万円と
報告されております。
香川県におきましては、台風十二号及び十五号について、水稲の減収約十九万八千石、約十九億三千万円、その他果樹約一億五千万円、特用作物約一億二千万円、蔬菜約三千三百万円の
被害と伝えられております。又児島湾干拓三地区における台風
被害は、岡山県の
報告によれば、台風十一号によるもの家庭の
被害住宅半壊十二戸、
作業場全壊一戸、納屋の全壊、半壊、大破、計十戸、
金額四十五万一千円、水稲の
被害一万七千三百九十九石の減収、台風十五号によるもの家屋の
被害、住宅全壊、半壊、計二十四戸、納屋全壊、半壊、計二十七戸、畜舎倉庫全壊十一戸、全額約九百七十万円余、水稲の
被害二千九百万石と見込まれております。
以上の
被害に関して、これを水稲について見ますと、水稲の品種別作付面積は、各地を通じて晩稲が大部分でありまして、総面積の九〇%、或いはそれ以上を占め、台風十二号のときは、晩稲はあたかも出穂開花の時期に当り、ために穂ズレの結果白穂を生じ、続いて台風十五号によ
つて倒伏を招きあまつさえ「うんか」の発生を伴い、更にフエン現象、潮風、高潮、これは地盤沈下によ
つて促進された傾向が多いようでございます。或いは堤防の決壊による海水の侵入等、いろいろな
災害が、或いは単独に、或いは重なり合
つて起り、誠に殴る蹴るの
災害を受け、
被害は以外に重大なものと
なつたと言われております。かような
災害に対処して、各地におきましては、これが救済及び復旧のため速かに適切な対策が確立されることが強く要望され、いろいろな
事項について熱心な陳情が行われたのでございます。
而してこれら対策として陳情せられた
事項は、去る十月二十二日当
委員会から
政府に中入れられました申入
事項におおむね包括されているようでありますので、ここにこれを重複するの煩を避け、ひたすらこれら申入
事項の貫徹を希う次第でありますが、今回現地において見聞する間に特に注意を引きました二、三の問題について感想を簡単に申上げたいと存じます。
第一は、本年度稲作に対する病害虫の防除に関する問題であります。今年の稲作は当初の天候が不順で、病害虫の異常な発生の兆が濃厚でありましたために、先に当
委員会におきましても、これが防除対策の確立を
政府に迫り、過般の閣議
決定のような
措置が講ぜられるに至
つたのであります。然るに本年の稲作の病害虫の防除に対する
農家の関心と努力は大いに高ま
つて、愛媛県においても少くも三回は農薬の撒布が実行され、顕著な成果があげられ、更に今回の
災害に当
つて重ねて薬剤の撒布が行われたと言われております。そうだといたしますと、先般
政府がと
つた措置による農薬に対する補助は、かかる
農家の犠牲と努力に比べますと甚だ軽少なものでありまして、補助率などはぐつと下ることになるのであります。従いまして、病害虫の防除に対する国の補助は、先般の
措置を以て事終れりとされることは許されないのでありまして、今回の台風の
災害に対処して新らしい
検討が加えられるべきであると
考えられます。更に病害虫防除に対して、かような努力と犠牲が払われたこと、そしてかかる丹精の下に育成せられた稲が無残な
災害を受けたことは、差当
つては今回の
災害対策として、進んでは今後の農業対策として、或いは米価対策として十分な考慮が払われなければならないと思うのであります。
第二は、
災害復旧に対する国の補助についてであります。この問題については、すでにいろいろな問題が提供され、いろいろな批判が行われているのでありまして、これらの批判に対しては当局は十分に耳を傾け、是正すべきは率直に且つ速かにこれを是正しなければならないと
考えられるのでありますが、特に復旧工事に当
つて、徒らに原形復旧にとらわれることなく、補強改良工事について進歩的な
考え方が持たるべきであると
考えられるのであります。過去において構築せられた施設が
災害を受け、これを単に原形に復旧せしめるだけでは、それは重ねて
災害が約束されているようようなものであります。そこで最新の科学技術に照らして最も効果的な工事が施されることが必要であり、且つ望まれるところであります。然るに徒らに
現行規定を盾にとり、或いは工事に素人である例えば財務当局のごときものの干渉や容喙によ
つて、いわゆる原形復旧に固執し、補強改良工事が軽視或いは抑制せられるがようなことについては大いに汚職を要することと
考えられます。かような苦情はしばしば耳にすることでありまして、
災害復旧工事の実施
方法については十分な
検討を加え、その改善を図り、速かにこれを最も妥当にして且つ効率的たらしめることの必要が痛感せられるのであります。これはあとに述べる地盤沈下の対応工事についても同様であると
考えられます。
第三は、本年産米の品質とその規格についてであります。今回視察いたしました地方は、農林十八号のような晩生種の栽培地帯でありまして、かかる地帯では水稲の出穂開花期に台風十二号の厄を受け、開花を終
つた頃台風十五号による風速三十五メートルを超える暴風によ
つて倒伏を来たし、毛状の見ばえ、特にホリドールを撒いたところは草出来が見事で毛状がよく見られるのでありますが、その見ばえにかかわらず、鎌入れを行い調製をいたしますと、死米や青米が多く、米の品質が甚だしく劣
つているようでありまして、そもそもの不作によ
つて減収である上に品質の低下によ
つて合格米は更に一層減収するであろうと言われております。
私
どもの視察いたしました愛媛県の田野村は道前穀倉地帯に位し、この地帯の米はか
つては周米として声価が高か
つたのでありますが、そこの一
農家について見ますと、昨年の反収二石六斗に対し、本年は一石一斗二升三合で、このうち現在の規格による合格米は一石に満たないこととなるであろうと言われおります。籾摺歩合も平年は五五%くらいであるが、本年は四二%以下であると言
つておりました。愛媛県では、出向いた当時未だ供出割当が下までおりておらなか
つたのでありますが、供出割当の
決定に当
つて、かような品質の低下による減収が適正に見込まれていないならば、その割当は不可能を強いることになります。そこで供出割当に当
つては、今までの行きがかりにとらわれることなく、かような
実情に即応して十分な考慮を払
つて、その適正が期せられなければならないのであります。そして
政府が供出のどれだけでも多いことを望むならば、
政府は
実情に即してみずから進んで六等級を設け、これを買上の対象としなければならないと思うのでございます。只今農村から六等級の設定が要請されているゆえんは、供出にできるだけ協力しようとする
農家の悲願に由来するものであるというべきであることを当局は銘記して善処すべきであると
考えられます。
第四は、救農土木
事業についてでありますが、愛媛県において述べられたところによりますと、
政府においては救農土木
事業の対象地帯を北海道と東北地方のみに限定するように
考えられていると仄聞いたしておるのでありますが、これはこれらの地方のみに限定せず、本県にも及ぼしてもらいたい。今回の
政府の
災害対策は冷害対策に片寄り過ぎておるように見受けられるが、台風対策についても遺憾なきを期してもらいたいと要望せられていたことを申上げておきます。
第五は、児島湾干拓地に見ました被災開拓者の救済についてでありますが、この地方に参りまして、古い昔の干拓地の稲のできばえを見ますと、現在営々の努力が払われております今の干拓地も、やがてはこれら昔の干拓地に見るような豊かな稔りを収めることができるであろうことが現実を以て立証されているのであります。従
つて今の干拓地開拓の育成に払われる努力の成果は確実に期待することができるものと
考えられるのでございます。ところが今度の台風による干拓地の
被害は予想外に甚大であると言われ、入植以来五カ年に亘りあらゆる悪条件を克服し、漸く本年の稲作に大きな期待が寄せられていた際でありますので、誠に遺憾に存ぜられます。先に当
委員会におきましては、開拓地の復旧及び救済に対しては特に手厚い
措置を講ずるように
政府に対して申入れてあるのでありまして、その実現を期待しているわけでありますが、当面する問題は、被災者に対して食糧の補給を図り、且つ開拓地においては
農業災害補償制度が適用せられていない
現状においては、これに代るべき
措置として、差当
つては営農資金を特別緊急に融通すると共に、被災者に対して、昨年の
災害の例になら
つて、種子代、肥料代等の営農費に対して、できるだけ高率な国庫補助が要望せられ、又すでに借入れてあります開拓者営農資金についても、
災害営農資金に準じてその償還期限の延長が要請せられております。更に開拓地について強く要請せられておりましたところは、海岸堤防の即時復旧及び補強と堤防管理の徹底についてであります。児島湾干拓地の海岸堤防の管理については、現在国の管理におかれているのではありますが、併し何らの予算的
措置が講ぜられていないそうでありまして、然りとせば甚だしい手抜かりであると言わなければならないと
考えます。
次に、地盤沈下について申上げます。地盤沈下の問題のいきさつにつきましては、各位のすでに御
承知のことと存じますから、ここでその重複を避けることにいたしますが、その後この問題の推移は、これを愛媛県について見ますと、対策
事業費として総額約十億五千万円を必要とするのに対して、
昭和二十八年度までに施行済の
事業費は約三億三千万円余でありまして、未だ約七億二千万円が未着工のまま残されているのであります。又これを香川県について見ますと、総
事業費約四億二千万円余を必要とするそうでありまして、そのうち、
昭和二十九年度までに完了或いは完了見込のもの約一億円、残り三億円が未着手のまま残され、そのうち緊急施行を要するものが約二億八千万円に達すると言われております。かような状態でありまして、これがため、毎年農作の不能或いは減収に伴う国の損失は、けだし少からざるものがあると
考えられます。特に毎年台風時において異常な高潮の
災害に脅かされておるのであります。かような事情に鑑みまして、これが改良工事の速かなる施行が切望せられております。
次に、この
機会に老朽溜池のことについて一言申上げておきたいと存じます。この問題につきましては、過般の
委員会におきまして、先に
異常災害による稲作作況等の問題について、兵庫県に出張せられました佐藤、江田及び岸、お三人の
委員からも
報告せられたのでありますが、香川県におきましても、灌漑面積の七一%が溜池に依存しており、溜池の数は約一万九千カ所に達し、これら溜池は古くは数百年以前の築造にかかり、堤体が老朽し、漏水が甚だしく、決壊寸前にあるものが相当数に上
つている
状況であります。若し万が一にもこれが決壊するようなことがあれば、美田は一朝にして荒野に変ずるばかりでなく、これが附近に居住する人畜に及ぼす危険を思うとき、実に心胆を寒からしめるものがありまして、これが改良のため速かに確固たる
措置が確立されることが切に要望されているのであります。
最後に、
災害地の除塩
作業について申上げます。昨二十八年の大
災害においては、御
承知の
通り、
政府は
災害復旧の一部として除塩
作業を認め、主として近畿地方に施行いたしましたが、聞くところによれば、大蔵省は近畿地方を視察して、本年度、中、四国の
災害についてはその必要を認めないとか聞き及びましたが、これは全く誤まれるも甚だしいもので、近畿地方は昨年は
災害後たまたま降雨の連続でありまして、降雨のため除塩を或いは必要としない地区があ
つたかも知れません。併し瀬戸内海沿岸は日本で最も降雨量の少い地帯で、塩田の盛んなる状態を見ても了解でき得るところでございます。瀬戸内海沿岸
災害地に除塩
作業を認めないということは、全く素人の見解で、私
どもはこれを是認することはできません。大蔵省は速かに過ちを改むべきであると強く要望せられております。
以上
調査の概要を述べまして御
報告といたします。なお、現地において提供を受けました
資料は、別に取りまとめて回覧に付し、御高覧に供することにいたしましたから御覧をお願い申上げます。