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衆議院議員(
高橋等君) それでは
只今から
恩給法の
改正案に対します
衆議院の
修正点につきましていま一度詳しく御
説明を申上げたいと思います。
この
改正の点は二点あるのでありまして、
一つは
恩給の
裁定を促進するための
措置、いま
一つは
戦犯として
拘禁中
死亡、
刑死した人に
公務扶助料に相当する額の
扶助料を
支給をいたしたい、この二点が
修正の要点でございます。最初申上げました
恩給裁定を促進するための
措置と申しますのは、
援護法の
施行裁定に当りまして、
遺族年金、
弔慰金が出ておりまするが、これは非常に長い年月をかけまして、実はまだ全部の人に亘
つておらない。この点が非常にこれらの
受給者の間でいろいろと不平があり、二百万に及ぶ
遺族の
方々が一日も早くこれが
裁定をしてもらいたいということを念願をいたしております。それならばなぜこの
援護法によりまする
年金、
弔慰金の
裁定が非常に時間がかかつたかと言いますと、その
一つの大きな点は、
公務で
死亡したのであるかどうかということの
認定に非常な努力が払われております。そのためにこれらの
裁定が遅延をいたす大きな
原因を実はなしております。そこで今度昨年八月から
恩給上の
権利を
軍人の遺家族は全部獲得いたしたのでありますが、この
恩給裁定に当りまして、やはり同じようにこの
死亡の
原因を
公務死か否かを詳しくや
つて行きますと、そこにやはり同じように
事務が渋滞をいたしまして、
恩給の
裁定が非常に遅れるということが心配になるのであります。勿論
恩給の
裁定に当りましては、
恩給局としては
現行法のままでありますれば、その死因の
調査は勿論いたさねばなりませんし、又一面この
身分上の
適格者であるかどうかの
調査もいたさなければなりません。
身分上の
適格者であるかどうかという
調査は、
援護法、
恩給法上の
支給範囲も異りますし、又時間的に言えば
死亡者その他も生ずるわけでありますから、これはどうしても
恩給局が戸籍によりまして
調査をいたさなければなりませんが、
戦争に従事をして亡くなられたかたが
公務死であるかどうかという
認定は、
厚生大臣におきまして
援護法の際にすでに
十分調査をいたし
決定をいたしておるわけでございます。それを再び
恩給局が
恩給の
裁定に当
つて繰返す義務を
法律によ
つて解除いたしまして、それによ
つて援護法で
公務死と認めたものは、そのまま
恩給法上の
公務死とみなすという
措置をとる。それによ
つて恩給の
裁定を促進させよう、これが
一つの点でございます。
それからいま
一つは、同じようなことでございますが、
傷痍者の旧
軍人の中で七
項症から四
款症までの人が今度今年の四月一日から
恩給を受ける
権利が発生をいたしております。そこでこの
人々が七
項症に当るのか、或いは何
款症になるのかということにつきまして、一々ここで改めてその病気の
程度によりまして
項症なり
款症なりをきめるという必要が生じて参つたわけであります。併し
ポツダム政令前におきまして、即ち
一般のこうした
戦争に従事してお
つた軍人の
恩給を停止する以前におきまして、すでに
恩給局において、この人は一生の間七
項症として
恩給がもらえるのだ或いは四
款症としての
恩給がもらえるのだということが過去において
決定した人があるのであります。この人は
ポツダム政令なかりせば、やはり引続きずつと傷の
程度には変化はないわけでありますので、ここでこの
人々に新たに
調査の書類を
提出をせしめまして、その傷の
程度をもう一度やり直すということは必要はないのであります。ですからその点につきましては、その人が生きておるということが確認をせられるならば、それによ
つてそのかたの傷の
程度はこの前きめた
程度の
通りにする。こういうことで
事務の
簡素化を図る。これが
恩給裁定を促進するための
措置であります。
そこで
戦犯として
拘禁中
死亡いたしましたものの
公務扶助料に該当する額の
扶助料を
支給するという第二点でございまするが、これは従来
遺族等援護法によりまして、こうした
刑死の
方々に
遺族年金がすでに
支給をせられておるのであります。この
人々の
遺族の方方の生活その他を考え、又
B級C級の主として
戦犯の
方々の非常に同情に値いするものも中に多数含まれておるように考えられます。併し今これを直ちに
公務と踏み切りますためには、まだ幾多の問題があると思いまするから、
公務扶助料に相当いたしまする
金額の
扶助料を
支給しよう、こういうような
法律の立て方をいたしたようなわけでございます。そこで
衆議院におきまして、これにつきましての反対が
両派社会党からも
討論せられております。その
討論せられておりまする
内容は、
東條未亡人については六十数万円の
扶助料が今度出ることになり、而も一兵卒の場合は僅かに、或いは又
一般の
戦死者の場合は僅かに五千円
程度しか出ないというような
討論が行われております。併しこの五千円しか出ないなんというのは、これは数字の誤りでございます。実情を申上げますると、
東條元
内閣総理大臣の場合は五十三万八千五百六十円の
扶助料が出るという建前になります。
一般の
兵長以下の
遺族恩給は、これは二万六千七百六十五円、これが
公務扶助料でございます。そこで
只今問題に
新聞等でな
つておりまする
A級刑死者の
遺族の
扶助料を一応調べましたものを御参考までに読み上げて見たいと思うのでありますが、現在これらの
人々の中で、すでに
恩給がついておりまするから、
一般の
死亡と見なしまして、普通の
扶助料、要するに
公務扶助料でなしに
普通扶助料は受取
つておられるのであります。これらの
人々の
普通扶助料は
東條さんの場合が三十一万六千八百円であります。これは現在受取
つております。そうして
公務扶助料と今度なりますと、五十三万八千五百六十円となります。
松井大将の場合は、現在受取
つておられます
扶助料は十一万八千六百円、
公務扶助料の場合は二十万一千七百十六円、それから
土肥原元
大将の場合は、現在受取
つておる
普通扶助料が十二万八千五百四十四円、
公務扶助料の額は二十一万八千五百二十五円、
板垣さんの場合は、まだこれは
恩給が出ておりませんが、若し
普通扶助料を
裁定をされるものとしますれば、その
金額は二十四万円
程度であります。そうして
公務扶助料が約四十万円になります。
木村兵太郎さんの場合は、これは
普通扶助料が十五万円で、これはまだ
裁定にな
つておりませんが、取るとすれば十五万円、
公務扶助料に
なつた場合は二十五万三千円であります。それから武藤さんの場合は、現在
扶助料といたしまして取り得る
金額は
普通扶助料が八万九千七百円、
公務扶助料で十五万二千四百九十円、こういうことになります。広田さんの場合は、妻及び未成年の子供がありませんから
扶助料の対象にはならないわけであります。
それでどういうわけで
東條、
板垣、
木村さんの
金額が多いかといいますと、
東條さんの場合は
内閣総理大臣の資格における
文官恩給が実は出ることにな
つております。それから
板垣さんは
陸軍大臣、
木村兵太郎さんは
陸軍次官、いずれも
文官として
恩給が出ることにな
つておりますから、この三人が非常にずば抜けて多い。殊に
東條さんの場合がずば抜けて多いのが目立つのであります。その他の
方々は全部
軍人恩給としてしぼられたところの
恩給に値いするものが出るのでありますから、これはさほど目立たない。
金額としましてもそれほど多額なものとは言えないと思います。これ以外にそれでは
BC級の
戦犯のかたはどうか、恐らく
BC級のかたで
文官恩給をもらうかたは殆んどないのであります。
軍人恩給をもらえる
方々が大
部分でございます。とにかく非常に目立つ
東條さんの例を以ちましていろいろと
非難攻撃があるのでございますが、これは極く本当に一人乃至二人というように限られた問題であ
つて、
衆議院におきましては、少くとも
戦犯を遇するにおきましては、やはり
戦犯に甲乙は付けないで、同じような点でや
つて行こうということが、この
修正案を一本にいたした大きな
理由にな
つております。そこでなお昨日の読売新聞の例を挙げてみますと、兵の
遺族は逆に半減すると書いてありますが、これは大きな間違いでございまして、この点につきましては、私から昨日読売新聞社の
社会部のほうへ厳重に抗議を申入れておるような次第でございます。この兵の場合に、兵は今まで放
つておきますと、
恩給の
普通扶助料も何も受けられないのであります。恐らく
恩給が付いた兵で
刑死、
獄死をされた人は先ずないと考えなければならない。そこで兵の場合はどうなるかと言いますと、
遺族等援護法によりまして二万七千六百円というものが
遺族年金として
支給せられるのであります。妻があつた場合にそうなりまして、父親があれば五千円もらえるのであります。それらにつきましては、
本法におきまして今度の
修正案の沖で、これらの
遺族年金については
従前通りこれを
支給するということをはつきりと書いてあるのであります。
従つて従来受取りましたものが、決して
手取りが減るというような
措置はいたしておりません。そこで
公務扶助料になりました場合に、一番問題になるのは
内縁の妻であります。
内縁の妻の場合は、普通の
遺族援護法によれば一万円しかもらえないのであります。ところがこの
遺族援護法の中で
戦犯の
刑死、
獄死の
関係は二万七千六百円出すことに実は書いてあります。その
既得権を尊重いたさねばなりませんので、これらにつきましては
内縁の妻に二万七千六百円を
支給いたします
関係上、それよりも今度
父母に
恩給が行きます場合に
父母へ行く
恩給から、二万七千六百円から普通のこの
内縁の妻が
援護法でもらいます一万円を引いた一万七千六百円を
父母に渡すというような
規定がしてあるだけでございます。結局兵の場合におきましても、
手取りは
一つも変りません。ただ、
兵長以下は変わらないのですが、それ以上になりますると、この
本法施行によりまして、むしろ
遺族の
手取りは殖える、こういうことにな
つておるのでございまして、この
新聞等の記事は非常な錯覚、非常な過ちを実はいたしておるということを私は昨日も指摘いたしましたが、この席でこの点は明らかにいたしておき場たいと考えまして、御
了解を得ておきたいと思うのであります。なお、これは
ちよつと
速記をとめて頂きたいのでございます。