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公述人(
間宮重一郎君) それでは今回の
厚生年金保険法の
改正案につきまして、私の
意見を申上げたいと思います。
先ず第一に申上げたいことは、今回の
改正案は、いわゆる中途半端なものである、こういうふうに思うのであります。本来
厚生年金保険法と申しますものは、言うまでもなく
社会保障制度の重要な
一環をなしているものでございます。
従つて仮に今回
厚生年金保険法を
改正しようといたしますならば、
社会保障制度全般の立場から総合的にこれを取上げて行かなければいけないと思うのであります。ところがそれが実はできていないのであります。なお、このことにつきましては、内閣の諮問機関である
社会保障制度審議会におきましては、再三に亘りましてこの趣旨の勧告をして参
つた事実があるのでありますが、当局は一向にこれを取上げようとしないのであります。勿論このことは厚生省当局だけの問題ではなくて、吉田
政府全体の責任であるとは思いますが、実は今回の
厚生年金保険法の
改正を見まして、この点が非常に遺憾であると考えております。従いまして今回の
改正案に目を通して見ますならば、いわゆる筋が通
つていない、こういうふうに考えるのであります。そこで実は今回の
改正につきましては、結論といたしまして実はこれに賛成の意を表することができないのであります。勿論その
内容におきまして、或る
程度進歩的なところも見られます。その代りに何といいますか、逆に退歩したというところも見られるのでございます。そこで、そんならばこの
改正案につきまして、実は全面的にこれを一つ練り直す、こういうふうに言いますのにはいろいろ問題があるわけでありまして、仮に今ここでこの点を一つ直してもらいたいという点を根本的な点から申上げましても、恐らく技術的にも困難な点が多々起
つて来るのではなかろうか、このように思うのであります。そうして然らばこの法律が今
改正するほうがいいのか悪いのか、こういうことを考えてみますならば即ちこれは悪いから一つ練り直してもらいたい、こういうことを申上げていいかどうかということになりますと、実はいろいろ問題がございまして、例えば今差当りこの法律の適用を受けて養老
年金をもらうことにな
つておる炭鉱労働者、このものにつきましては、今の法律のままでは、御承知のように年間千に二百円
程度の
年金でございますので、これでは到底我慢できませんから、やはり何とかしてこの際に
改正案をやはり何らかの形において通してもらいたい、こういうようなことにな
つて来るわけでございます。そこで私はこのような立場から言いまして、できるならば一つ一条でもよきほうに
改正して頂きたい、こういうふうに思うのであります。そこでできますれば私の申上げるようなふうに一つ御
修正が当院においてして頂ければ幸いかと存ずる次第でございます。それでは時間の関係もございますので、極く重点的に主要な点につきまして申し上げたいと思います。
先ず
標準報酬の月額を
現行の三千円から七千円というやつを、三千円から一万八千円まで
引上げることにつきましては、この際一応これでいいのではないか、このように考えております。ただこれにつきまして、経過
措置の問題でもあるわけでございますが、今までの三千円以下のものをすべて三千円にする、こういうことにつきましては少し私は腑に落ちないところがあるわけでございます。御承知のように、戦争前からこの法律が適用されておるのでありますからして、実は三千円に満たない、
標準報酬以下の時代が相当あ
つたわけでございます。これを一律に三千円にして、そうしてこれを抑えるということについては、実はこの際何とか考えて頂きたい、このように考えるわけでございます。これは
改正案の附則の第八条に関係することでございますが、
従つて基本
年金の計算基礎となる場合におきましては、この
年金法の発足当時の一番低い
標準報酬を三千円のところに一つ基準を置いて、その後におけるいろいろの情勢の変化によ
つて、貨幣価値の変化もありましたでありましようし、そういうものを考えまして適当に一つランクをつけてこれを織込んでもらいたい、このように思うのであります。
結論といたしまして、要はインフレの責任を個々の労働者に転嫁するようなことは、これは何とかして避けて頂きたい。当然これは国が責任を持つべきものではなかろうかと思うのでございます。
そこでこれは今後の問題もございますが、今後の
年金保険の
運用につきまして、貨幣価値の変動がありまして
保険料と
給付との間に相違ができて来ましたならば、その価値に相違ができて来ましたならば、適当にスライドしてもらいたいとのいうふうにも考えておるのでございます。
その次に老令
年金の受給資格の問題でございますが、
現行法による五十五歳を六十歳にしようということであります。このことには実は反対でざいまして、
現行法
通りに五十五歳にして頂きたい、このように思うのであります。それから
坑内夫の特例を廃止することでありますが、これも実は反対でございます。これにつきましては、よく当局では
外国の例をとられるのでありますが、これは相当認識を誤ま
つておると思うのであります。イギリスやアメリカのように幾らでも雇われる機会のある、雇用の機会に恵まれている国と、
我が国のように働く場所のない
日本とを同列に考えて行くことは間違いではなかろうかと思うのであります。
日本におきましては、現在完全失業者の数が一月現在におきましても、
失業保険の対象になる者だけで四十一万人あるわけでございまして、御承知のように
失業保険の対象にならない、まだ一回も就職した経験のないいわゆる完全失業者につきましては、どれだけになるか私は十分数字は検討してりませんが、相当の数になるだろうと、このように考えております。
従つて不完全失業者というものの数に至りましては八百万乃至一千万になるのではないかと考えます。このような
状態におきまして一体五十五歳から六十歳までの間をどうして
生活するかということでございます。大概の会社は現在御承知のように五十五歳が停年にな
つております。それで一体五十五歳にな
つて職を
失つてそのあと一体仕事ができるであろうかどうか。それは一つ
失業対策の問題で労働省の所管だと、こういうことになりますと、私は厚生省当局にそんな責任逃れのことを言
つてもらいたくない、こういうふうに考えるわけでございます。そこで何といたしましてもこの五十五歳を六十歳にすることは一つ考え直してもらいたい。それから
坑内夫の問題でございますが、御承知のように
坑内夫は非常に健康を害しております。まして金属鉱山等に働く
坑内夫につきましては、いわゆる職業病でありますところのけい肺病になる場合が非常に多くございまして、従いまして
坑内夫につきましては特殊の取扱が必要かと存じます。成るほど現在におきましても、会社におきましても五カ年間の差は認めておりますけれども、やはりこれは今までの特例法
通りや
つて頂くのが至当ではないかというように考えておるのでございます。これは余命の問題もございまして是非ともこの点御
考慮が願いたいと考えておるわけでございます。
次に、
老齢年金の額でございますが、この問題につきまして、現在
定額制と
報酬比例制とを併せた
制度としたいということでございます。これにつきましては、現在の段階において私は止むを得ないのではないか。
従つて私はその意味においてこれに賛成でございます。併し将来
社会保障制度が統合整理された場合におきまして、やはりいろいろ
考え方が変
つて来るのではないか、このように思
つておりますが、何といたしましても現在の段階におきましてはこれで止むを得ないのではないか、このように考えておるわけでございます。そこでその次に
改正案によりますところの支給額でありますが、当局の
原案が一万八千円で、衆議院で二万四千円に
修正されたように聞いておりますが、いずれにいたしましても低きに失すると思うのであります。当局の一カ月一千五百円ということになりますが、これでは丁度当局みずからの説明によりましても
生活扶助法に見合う
程度だと、こういうように聞いておるのでございます。一万八千円で行きますと大体月類二千円そこそこになるのではないかというように考えておりますが、これでは二十年も
保険料を掛けてなお且つ
生活扶助法に見合うという
程度では、私たちはこれは認めることができないと思うのでございます。而も
生活扶助法のいわゆるエンゲル系数の算定基礎は六六%
程度だと聞いておりますが、それと一般労働者の場合は四四%くらいと記憶しておりますが、とにかく
生活扶助法と同じように
生活をしろ、而も二十年
保険料を払
つたものがそれで我慢しろということでは賛成できないのでございまして、さような意味から言いまして、私はこの際に衆議院の二万四千円のほかに今少し上げてもら
つて三万六千円の
定額にしてもらいたい、このように望んでおります。なお
報酬比例制の案につきましては、当局の案で結構と存じております。それは理由といたしましては、何といたしましても
老齢年金というものは少くとも
生活の最低
保障をして頂かなければならない。このような意味から言いまして、今一つは
恩給法だとか或いは公務員の共済組合法、こういうようなものとの均衡も一つ考えて頂きたい。さような意味から言いまして、
年金額三万六千円は決して高くはない、このように考えておるのでございます。
その次に、
老齢年金を受ける場合におきます加給金でございますが、これは私非常に結構だと考えております。併しこの中にもありますようにこの場合に十六歳未満ということにな
つておりますが、これはたしか衆議院でも
修正されたように聞いておりますが、それならば構結でありますが、十八歳に是非して頂きたいと考えております。この理由といたしましては、これも
恩給法或いはその他の法律の関係から考えまして、
日本の実情におきましては十八歳というところに置くのが至当ではないか、このように考えたのでございます。
次に、
障害手当金と
障害年金のことでございますが、先ず
障害給付につきまして、現在その種類が二級に分かれておりますが、今度三級にしようということでございます。三級になるそのこと自体には反対でございません。併し当局の案を見てみますと、一級のものが二級になり、二級のものが三級にな
つているように私理解しておるのでありますが、私は何といたしましても、今回級を殖やすということにつきましては、今まで救済すべきものが割合に軽いという意味で求めてお
つたので、こういうものを三級にするということには賛成でございますが、一級のものを二級に落し二級のものを三級に落すという意味の三級にするということは反対でありまして、さような意味においては御
修正を願えないかと考えておる次第でございます。
次に、遺族
年金でございますが、遺族
年金を統一しようとするそれ自体には私は反対じやございません。併しその
給付の対象を縮小しようということ反対でございまして、そこで遺族
年金の支給対象といたしまして、
改正案について申上げますと、つまり妻については条件を付けずに一つ支給してもらいたい。今のところではいろいろ条件が付いておりますけれども、この条件を付けずに一つ支給してもらいたい。即ちこれは
改正案の五十九条第一項第一号を削除しようということになるわけでございます。勿論再婚したという場合は、これは別に考えて頂いていいと思うのでありますが、それからこの場合におきましても当局の
原案によりますと、この場合も十六歳とな
つておりますが、これはやはり十八歳に
修正を願いたい。これは衆議院で
修正されておれば幸いでございますが、かように考えております。それからこの場合に関連いたしまして、
改正案の六十五条でありますが、妻の場合に、或る年齢まで達しないとその間は払わないという停止
制度でございますが、これは一つ削除してもらいたいと思うのであります。以上のこの遺族
年金についてどういう理由からそういうことを言いますかというと、先ずその
配偶者、特に妻の場合でございますが、これに制限を付けることは
日本の社会情勢から言いまして無理である、かように思うのでありまして、当局の言い分によりますと、子がなくて若いものは女であ
つても働かなくてはならない、こういうことにな
つております。それは私は当然だと思うのでありますが、それはそこまで行きますと、一体厚生省は女の人は夫に死別されてすぐに就職でも斡旋してくれるかということになりますと、これはとても厚生省はできないでありましようし、それならば労働者の
失業対策だというので考えておるか、今一人前の男でも就職するのは困難でありますのにかかわらず、女が中途で生計の途を絶たれて、それで職を求めた
つて到底できるものではありません。そうなりますと社会的にいろいろ秩序も乱れることでありましようし、私はこの点につきましては、一つ妻についてはそういうような意味合いにおきましても、これの条件を付けるということはしてもらいたくないと思うのでございます。
次に、脱退手当金の問題でございますが、最初当局の腹案によりますと、脱退手当金
制度を全面的に廃止しよう、こういうことでございましたが、私どもは女子につきましては特別一時金
制度を残したい、こういう意向でございましたにもかかわらず、今回脱退不当金
制度を残す、こういうことにされましたことにつきましては、私は敬意を払います。併しその支給額については是非一つ、もう一つ聞いて頂きたいと思うのでございます。
現行法によります場合、特に女子の場合でございますが、被
保険者であ
つた期間がニカ年の者が脱退した、こういうように仮定してみまして、その場合に平均
標準報酬月額が四千円といたしますならば、大体六千六百六十七円というのが今までの脱退手当金になるわけでございますが、今回の
改正案によりますと、僅かに二千四百円ということになるわけでございます。これでは実は余りひどいと思うのでございます。いろいろ理由はあると思うのでございますが、余りひどいと思うのでございます。今仮に被
保険者が最初から引続いて同じ報酬月額であると仮定いたしましたならば、本年から支払
つております
保険料が一千四百四十円になるわけでございます。御承知のように
保険料というものは、労使がそれぞれ同額ずつ払うことにな
つております。そうしますと使用者から払われた分はそつくりどこかへ
行つてしま
つておる、こういう形になるわけでございます。申すまでもなく使用者はよその者のために
保険料をかけておるのではございません。その被
保険者のために、自分の労務者のためにかけておるのでございますが、それが実はどこかへ
行つてしまう、こういうことになるのでございます。そこで何と言いましてもさような意味合いからいたしまして、私は脱退手当金につきましては、
現行法
通りにしてもらいたい。成るほど女子につきましては今までは結婚、分娩という条件が付いておりましたが、今度はこれは付かないことにな
つております。併し女子は結婚、分娩は通常これはつきものでございまして、必ずこの機会が来るのでございまして、それを条件がなく
なつたということは、これは理由にならないと思うのでございます。従いまして私はこの脱退手当金
制度は是非とも現在のままの支給額にして頂きたい、このように申上げたいと思うのでございます。そこで脱退手当金につきましては、これは当局の説明によりますと、変則だと言
つておられます。確かに変則だと思うのであります。そこでそれならばどうすればよいかということでございますが、私はこれは
社会保険制度が統一整備されたときに、そうして例えば被用者が被用者でなく
なつた場合にはすぐに例えば
国民年金制度に一つ切替えるという、こういうことができましたならば、もはや脱退手当金
制度も要りませんし、脱退そのものもなくなるのではないか、そういうような時期になりましたならば、これは当然脱退手当金
制度は廃止すべきである、かように考えておるのであります。
そこで最後に、是非申上げておきたいことがあるのでございます。只今私が言いましたようなことを実際や
つてみます場合におきましては、いわゆる
保険財政そのものが、何と言いますか赤字になるわけでございます。これは勿論来年の
予算に赤字になるというわけではございませんが、
財源計算が成り立たない、こういうことになると思うのでございます。恐らく当局におきましてはその点を特に力説されるだろうと思うのでありますが、私はその点についてかように思うのでございます。成るほどその
通りでございまして、少くとも
保険制度を考える場合におきまして、
財源計算のできないような
保険制度というものはおよそ考えられないことでございます。併し少くとも先ほど言いましたように、これをどのよに考えるかということでございますが、今のような中途半端な出
考え方をするからして非常にむずかしい、
従つて保険制度を統一整備したときにこの
財源計算ももう一回やり直す、そうしてその場合におきましては
国庫の
負担も或いは現在の一割五分或いは二割というものを
引上げて三割
程度に上げて頂くということも一つの
方法でございましようし、なお且つそれでもできない場合におきましては、当然
保険料というものについても
考慮をしなければならない、このように考えるのでございまして、その期間は少くとも私は三年ぐらいの間に
社会保険の統一を一つ考えて頂きますれば、そうして
財源計算も確立いたしまして
国家百年の大計をその際に立てて頂いても遅くはなかろうか、又今までかような
方法をと
つて来られた経験もあるわけでございます。例えば脱退手当金
制度等は顕著な例でございまして、今それができないとうこいとは私はないのではないか、とのように思うのでございますで、そのような意味から言いまして、実は今申上げたようなことは決して何といいますか、そう無理なことを申上げておるのじやない、こういうように考えております。なお
財政が赤字になると言いましても、ここ一年間に炭鉱の実は養老
年金の該当者が約三千人ほどかと聞いておりますが、七百億乃至それ以上ある
積立金があるのでございますから、差当り来年や再来年に破綻が来るということは当然これは考えられないことでございます。このように思うのでありますが、そこで私はその際に一つ是非ともお願いしておきたいことは、先ほども言いましたように、
社会保険の統一ということをこの際是非一つ当院の権限において何とか一つ
政府に責任を持たすようにして頂きたい。少くとも三万年以内ぐらいには
日本の
社会保障制度、而もこの
社会保険制度を一つ統一いたしまして、被用者のうちの公務員であろうと或いは一般
民間産業の労働者であろうと、一つどこにお
つてもこの
制度の恩典に浴せる而も均衡のとれた
制度とする、こういうふうなように一つ考えて頂きたいと思うのであります。その際には先ほど言いました
財源計算もしつかりして、そうして
国家百年の大計を立てて頂きたい。
それからいま一つは、この
積立金の
運用でございますが、現在大蔵省のほうで思うようにこれをなぶ
つておるような
状態でございますが、是非これにつきましては特別な金庫
制度でも一つ設置して頂きまして、そうして被
保険者みずからが積んだこの金につきましては、被
保険者のための厚生、福祉或いはその他の
資金の還元融資というような
制度を設けて頂きまして、そうして今のような
政府の一方的な専断を許さないように一つして頂きたい。是非ともこの二つをこの法律
改正に附随いたしまして、当院の権限において何とか御善処が願えないか、かように思う次第でございます。
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