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1954-04-27 第19回国会 参議院 厚生委員会 第33号 公式Web版

  1. 会議録情報

    公 聴 会   ————————————— 昭和二十九年四月二十七日(火曜日)    午前十時三十四分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     上條 愛一君    理事            大谷 瑩潤君            竹中 勝男君    委員            榊原  亨君            谷口弥三郎君            西岡 ハル君            横山 フク君            安部キミ子君            藤原 道子君            堂森 芳夫君            有馬 英二君   政府委員    厚生省保険局長 久下 勝次君   事務局側    常任委員会専門    員       草間 弘司君    常任委員会専門    員       多田 仁己君   公述人    湯浅蓄電池製造    株式会社社長  湯淺 佑一君    日本炭坑労働組   合福祉対策部長  十二村吉辰君    読売新聞社論説    委員      喜多村 浩君    全国繊維産業労    働組合同盟法規    部長      間宮重一郎君    全日本海員組合    保健部長    西巻 敏雄君    日本鉱業協会総    務部長     北里 忠雄君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○厚生年金保険法案内閣提出、衆議  院送付)   —————————————
  2. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 只今から公聴会を開会いたします。  本日は厚生年金保険法案に関して公述人各位の御出席をお願いして、同法案に対する各界の貴重なる御意見を拝聴いたしたいと存じます。  この際、一言御挨拶を申上げます。公述人各位にはお忙しいところ特に御出席をお煩わしまして、誠に有難うござまいした。本日お願いいたしまする点は、今回政府提案となつております厚生年金保険法案につきまして、それぞれの立場から御意見を拝聴いたしたいと存じまして、先に御依頼申上げておきました通りでございますが、時間の関係もありまするので、御一人二十分程度で御意見発表して頂きたいと存じますので、十分に意を尽して頂くことが困難かとも存じますが、できまするならば時間の範囲内で重点的に御意見の御発表をお願いいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。  次に、委員のかたにお諮りいたしますが、議事の都合上、それぞれ公述人の御意見発表が全部すみましてから御質疑をお願いしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。  それではこれから公述人のかたから御意見を漸次発表を願いたいと存じます。最初に湯浅蓄電池製造株式会社社長湯淺佑一さんからお願いいたします。
  4. 湯淺佑一

    公述人湯淺佑一君) 厚生年金保険法案に対する公述を申上げたいと存じます。  全国民を対象とした最低生活保障ということが、社会保障の理想であるとしますると、年金制度はその総合的な社会保障制度一環として初めて存立する意義もあるし、効果もあると存ずるのであります。然るに今回の厚年法改正法案は、第一これを単独に改正するということ自体が変態であると同時に、今年特例として実施期に入りまする少数の坑内夫年金改正が動機となりまして、一般事業の被用者の実施期が十年後にもかかわらず、それをも含めて急に一挙に大幅にこれを改正しようとすることは、日本現状としては甚だ早計ではないかと存ずるのであります。従いまして、この際は、坑内夫のみの暫定的な改正を行うべきでございまするが、即ちそれは政府が現に保有しておる八百億円という厖大厚生積立金運用利息というものを財源として臨時的な措置を以て解決すればよいと考えるのでございますが、仮に若し根本改正を今やるといたしましても、それは社会保険統合を妨げない方針に基いて、且つ又我が国経済の実態に即したものでなければならないと思うのであります。この年金制度は、根本的に非常に重要な問題でございまして、社会通念として、その制度確立が是認されることは申すまでもないのであります。又国際条約、例えばILO社会保障最低基準に関する条約といつた面からの要請もございまして、必要であるといたしましても、国家経済財政は容易に社会保障制度の安易な拡充というものを許容し得ない現状にあるのでございまするから、施策が効果を挙げまするためには、総花的に堕することなく、生産力の増強と、経済組織維持発展に直接関連があるものを重点的に充実することが肝要かと思うのであります。例えば労災保険とか或いは失業保険とか或いは健康保険といつたような諸制度がございます。先ずそれを合理化し、併せて内容の充実を急ぐべきでございましようし、又失業対策或いは公共事業投資等と併行して生活保護の適正なる運営を図るといつた日本現実を鋭く反映すべき経済政策或いは社会政策観点から総合的に判断をして、何が優先的なものであり、何が重点的でなければならないかということを決定する必要があると思うのであります。養老制度を完全にするということも勿論必要だとは存じまするが、現実的にこの国民生活に脅威を与える経済不安或いは社会不安というものを除去し、或いはそれを予防するということが先決問題ではないかと思うのであります。で、厚生年金に対しましては、こういうような総合的な考え方においての財政的、経済的な検討が果して十分なされての政府原案であるかどうかという点を甚だ疑問とするのでございます。  そこで坑内夫年金に対する暫定的な措置によらないで、根本改正を試みようとする政府改正案が甚だ日本現状として早計であり、妥当でないという点を少し掘り下げて要点だけを申上げてみたいと存ずるのでございます。  今、日本経済自立を達成するために国際的競争力の獲得が緊急の要務であるわけでありまして、社会保障制度に対する重点を労働力経済組織保全伸張において、その限度を超えた非生産的な有効需要造出というものをもたらすような措置は避けなければならないのでございまして、常に我が国経済力に相応した社会保障制定運営にはどういう内容を備え、又どういうような程度費用を投ずるのが妥当であるかということを判定する必要があろうと思うのでございます。  現に社会保障制度財源としましては、直接国民負担する掛金保険料等のほかに租税収入に基く国庫負担によつておるのであります。そうでございまするから、社会保障制度拡充ということは、当然国民負担又は国庫負担のどちらか、或いは又双方増加にまたなければなりません。然るに社会保険に対する労使負担を中心とする国民社会保障費用支出というものは、すでに限界近くに達しておるのでございます。経済白書によりますと、一人当りの実質国民所得戦前、即ち昭和九年から十一年の平均でございまするが、それに対しまして九八、六%でございまして、又消費水準は都市においては戦前の八〇%、昭和二十八年度では九四%に過ぎません。且つ日本エンゲル係数は諸外国に比べまして、極めて高いことは周知の事実でございます。こういうふうにいたしまして国民所得、それから消費水準並びに企業現状を考えまするとき、これ以上の国民負担増加は望むことができません。又諸外国負担率と比べてみても実質的に相当に高率となつております。従いまして、この社会保障制度拡充に伴う増加費用というものは、その財源をすべて国庫負担に求めざるを得ないという状況でございます。而も他の財政支出削減が不可能なる場合には、結局累進課税強化或いは資本課税引上げ等へしわ寄せされることは必至でございます。然るに日本国民貯蓄増加額は、白書によりますると、戦前の約八〇%に過ぎません。又企業資金調達状況を見ますると、株式によるものが戦前の四三%に対して九%、それから金融機関によるものが戦前が一〇%のものが五八%、又内部資金によるものが戦前が四六%であつたものが二一%というふうになつておるのでございまするが、こういう累進課税並びに資本課税強化は、さなきだに資本蓄積の低率とコスト高の悪条件の下で、いよいよ熾烈化する国際競争に対処せざるを得ない我が国経済要請と全く背反する結果を招来する虞れがあるのでございます。特に最近の情勢では、貿易規模戦前水準への復帰どころか、却つて縮小化傾向を見せておるのでございます。三億一千万ドルというような厖大な入超、そうした貿易悪化状態を示しておるのでございます。そういうときに直接にも間接にも企業負担増大せしめ或いは資本の効率と経済合理化を阻害するがごとき、限度を超えた社会保障制度拡充は厳に警戒せねばならないと思うのであります。  又社会保障制度の持つ所得分配機能の点から見ましても、戦前と違い、或いは又先進国と違い、所得階層がおおむね低位に平均化しており、なお、さしたる回復を見ない状況にあるのでございます。而も常にインフレ化の要因を潜在せしめておるのでございまして、消費のみ増大せしめても、生産増加がこれに伴わず、経済機能を撹乱し易い弱点を持つておることに注目すべきでございます。従いまして国民負担国庫負担とを合計した社会保障制度の総費用国民所得の六%というような教字を超えるような状態では、これは経済規模が更に拡大し或いは国民所得が大幅に増加する可能性が存在するときにのみ考慮さるべきであろうと思うのであります。  更にこの社会保障費用財政上過重な負担となることは避くべきでございまして、その限度を一〇%程度軍人恩給等を含めましても一五%程度に限定すべきである、限局すべきであると思うのであります。二十八年度においては財政支出において一一・五%、二十九年度において一五%に達しております。歳出の総計は国民所得の約一七・五%を占めておりまして、その減少が要望されておるにもかかわらず、漸増化傾向をむしろ見始めております。財政支出内容については、我が国経済資本蓄積高度化自立達成を目標とする限り、国家消費を極力節減すると共に、資本活動効果的に促進せしめるような運営を図ることが望ましいのでありまするが、財政を支えている徴税の現実は、幾たびか減税を行なつたといえ、なお、国税、地方税の合計は国民所得の約二〇%に及んでおります。租税負担率国際比較では、アメリカ、イギリスが三〇%近い率を示しておりますが、国民所得消費水準エンゲル係数などを考慮に入れますと、我が国の場合、実質的に過重負担でございます。こういう現状では、増税を図ることなどはおよそ不可能であると考えるのでございます。従つて、今後たとえ財政需要増大いたしましようとも、国家財政規模が現在程度、即ち国民所得の約一七%を超えることは避けなければなりません。それでございますから、国庫社会保障費負担についても、当然生産増大即ち国民所得増加に伴う財政規模に適合した増額或いは他の国家支出削減による振替えという方法以外に、その所要増加財源を求めるのは現実的に困難だと思うのであります。例えば社会保険事務費が四十七億七千八百万円というような今年度の予算要求になつておりますが、こういうような点につきましても、或いは行政事務簡素化その他合理化によつて、半分ぐらいはそうした事務費を節約されるのではないか。その振替えた財源を以て充当するというふうな考え方でございます。年々の国民所得資本形成或いは国家支出及び個人消費のいずれかに帰属して行くものである限り、現状では資本形成を阻害すると予想されるような社会保障費の過度の増額は許されないと思うのであります。経済審議庁の調査によりますると、民間資本形成は前年に比べて一一・二%減、海外の統投資は二〇・九%滅、それに対して政府支出は二二・五%増、個人消費支出は一八・五%増加しておる実情でございます。以上の諸点を勘案すれば、社会保障費用国家負担限度はせいぜい歳出総額の一〇%が限度であつて、遺家族或いは旧軍人等恩給費を含めても一五%を上廻ることは避けなければならない、こういうふうに考えております。  要するに社会保障と申しましても、日本としての経済的、財政的の限界点があるという点を強調したいのでございます。従いまして、今回の厚生年金保険法改正につきまして申上げたいことは、坑内夫年金を暫定的に解決しておいて、将来五年先乃至十年先以内に日本経済が完全に復興し、自立態勢確立したときに、総合的な社会保障制度一環として全面的に年金制度への改正を行うべきであると、かように考えております。これが第一の主張でございます。  第二の主張といたしまして、若し止むを得ずこの改正案のような原案を採択されるものといたしますれば、次善的に、即ち第二義的に次のような大修正を要望いたしたいと思うのであります。それを要点だけ重点的に申上げたい。  第一点は改正原案では標準報酬最高額が八千円から一万八千円に引上げられた点でございまして、保険料率は来通従り三%に据置かれたとはいえ、約二倍弱の労使負担増加になつております。業種によつてそれぞれ違いまするが、大体七割乃至十一割というふうに考えております、それだけが増加する。この急激なる企業負担増大は、少くともデフレ政策に協力して、コスト引下努力をする企業の企図に逆行する結果となるというふうに考えております。そこであとで申上げまするが、給付年金定額制ということを前提としまする以上、標準報酬最高額をできるだけ低いところへ持つて来る必要があるのでございます。併し若し改正案をどうしても通さなければならないとするならば、保険料率とのかね合いにおいて、現状よりも著るしく負担増加を来たさない範囲で若干の引上、例えば最大限度二割以内の負担増加を認めるとして、最高額を一万二千円に引上げて三%、又は一万八千円とするも、八千円までは現行通り三%の率を適用して、八千円以上の新規引上部分については、二乃至三段階に分けて料率を逓減するという方法を用いて、急激な負担増を避けることが必要かと思うのであります。  それから第二点は、老齢年金給付について、月千五百円というこの定額部分のほかに、賃金に応じた報酬比例部分をプラスした改正案に対しましては、報酬比例加算を認めないところの月額二千円程度定額制主張するものでございます。勿論この定額制には二十年以上の超過年数についての加算をするという点、或いは原案通り配偶者又は子についてのいわゆる扶養加算制というものは、その点はこれは認めて行くという、こういう建前でございます。なせ定額制主張するかと申しますと、これは我が国に特有な退職金制度というものがございます。その退職金との調整が必要であるという点と、それから日本経済特殊性として多くの中小企業負担し得るところの程度を考える、そういう観点からいわゆるフロアー・プロテクシヨンとしての定額制、而もその定額制は適正なる定額制として大体二千円のベースを強調いたしたいのであります。又報酬比例加算するということは、事務的にも非常に煩雑でございまして、事務簡素化による行政管理費用の節約から申しましても、定額制を採用せらるべきであるというふうに考えております。  それから第三点は、保険料積立方法でございまして、改正案は実質的には現行完全積立方式でございます。賦課式のみを採用することは勿論問題がございまするが、賦課方式を主として積立方式を従とする修正賦課方式とすべきでございまして、その方式をとれば現行制度十分収支が賄える計算が立つのでございます。現に厚生積立金は八百億円ございまして、これが改正案によりまするというと、年々三百三十三億円ずつ毎年積立てられて行つて、五年後には三千億近くになり、その後は三百七十五億円ずつ保険料が徴収せられて行つて、積立てられて行つて、今から十年後には五千億円以上という厖大金額を突破する政府積立金が発生するのでございまして、その発生を避けるために必要なのが修正賦課方式でございます。この改正案によるような過大な政府資金の集積は、これは民間資金の円滑なる運営を阻害する虞れがございまするから、この方法はとるべきではないというふうに考えております。  それから第四点は、厚生保険積立金運用の点でございまして、これは厚生保険預託金として資金運用部資金に繰入れられておるのでございますが、その運用使途に関しては全く当局の恣意的判断に任せられておる結果、それが非生産的経費に流れて行く危険があるのであります。現に例えばこれが地方財政に投入されて地方財政の放漫なる予算、或いは地方財政不健全化となつて、これが現れておることは緊縮財政方針に逆行するものではないかと考えております。言うまでもなく、厚生積立金はこの資金を以て生産と雇用との増加のための産業投資に充当することが望ましいのでございまして、従いまして、この預託金運営管理については、別個に予算を編成するか、或いは特殊の運営機関を設置して、労使双方の納得し得る運用措置が講じらるべきではないかと存ずるのでございます。又積立金運用について、その予定利率国債並に五分五厘まで引上げるべきであり、現行の三分五厘を五分五厘まで引上げることが可能であると思うのであります。又この五分五厘が確保されていない限りは、それはこの改正原案構成そのものが成立たないのではないかというふうに存じております。要するにこの積立金が民主的効率的に運用管理されて、生産方面に有効に還元されない限り、年金制度は結局は生産性経済性失つて、いよいよ社会保障亡国へ転落する危険を持つておるものと言わなければなりません。  第五点は、国庫負担の件でございますが、社会保険統合、或いは積立金合理的運用、或いは給付報酬比例性廃止等によるところの行政事務簡素化等によつて国庫経費負担を相当節約し得るのでございまして、それを財源として社会保障費国庫負担増額することは可能であると考えております。厚生年金保険給付による国庫負担を、そういう意味において現行の一割を二割に増額すべきである。又二割の国庫負担がなくては改正案は成立たないと思うのであります。併しながら行政事務も節約せず、役人の数が殖え、事務費のかかる改正原案をそのままにしておくならば、それは仕事が殖え、繩張りが拡大すればするほど、能吏であると言われる独善的官僚主義を露呈したものでございまして、難局に立つ国民経済現実と睨み合して、一国の社会保障の体系をどういうふうに立てるのかといつた重大な根本的な問題を総合的には何ら考慮が払われていないと言わなければなりません。従いましてかような官僚主義によつてこの厚生年金保険改正が強行されることになりますならば、将来に重大な禍根を残すものであることを強くこの機会に警告いたしたいと思うのであります。  以上重要な各観点から考えまして重大なる欠陥と危険性を包蔵しておる政府改正原案に対しては、改正案修正を要望するというよりも、むしろ強く改正に反対すると同時に坑内夫年金の処理だけを暫定的に行うということが妥当であるということを繰返し強く主張いたしたいと存ずるのであります。  以上であります。   —————————————
  5. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは次に日本炭坑労働組合福祉対策部長であります十二村吉辰さんにお願いいたします。
  6. 十二村吉辰

    公述人(十二村吉辰君) 私は社会保障制度確立に対する政府の極めて熱意の乏しいことに対して甚だ不満を持つものでございます。  先ず厚生年金が、民間労働者窮乏より救済することを基本的精神とするならば、なせ民間労働者のこの厚生年金が本年一月から支給を開始されるにもかかわらず、今日まで放置した政府の責任を徹底的に糾弾したいのであります。旧憲法によるところの約束によつた軍人恩給は、戦前においてこれが設定されるのは妥当でありましようが、新憲法による何らの国家との約束のない旧軍人に対しては率直に、大将が一万三千円、二等兵が二千円の恩給法が、何ら国民関心もないうちにお手盛り式にこれが実施されております。我々厚生年金の被保険者強制保険であつて、自分の意思如何によつてこれを回避することができない。この一点は民主的な、日本の政治が本当に民間労働者にとつて何ら誠意も又重大な関心も払われておらないところのまさに証左でございます。更に恩給法至つては、やはりこれも窮乏より救済するを目的とするならば、なせ我々の年金だけがこのように一方的に論議が集中され、そうして現在の国家経済から我々の要求が許容し得ないものとするならば、なせ軍人官公職員恩給が簡単にこれが決定されておるのか。この点に対して私は非常に不満とするものであります。  我々厚生年金に対する基本的な態度は、飽くまで旧軍人以前に我々が解決されなければならんことは、昭和十六年のこの法施行のときにすでに我々には国家保障があります。而も戦前戦後を通じて産業再建に対して、国家経済自立に対して、積極的に我々はこれに協力し、而も零細なる賃金の中から我々は保険金を、これを投入し、而も現在八百億円になんなんとするこの尨大なる積立金も、国家財政の面に十分に我々はこの面からも寄与しておるのでございます。而も現在の改正法案は、何ら資金的にも政府に対する財源的にも関与をしておらない生活保護法扶助年金法よりも高率的なものが保障されておる。この比較検討が我々民間労働者に十分に理解されるならば、強制保険に対する反対運動が澎湃として起るのではないかということすら我々は憂慮いたします。  以上の観点に立つて我々被保険者の基本的な態度は、憲法二十五条の精神社会保障制度勧告並びILO社会保障最低基準条約並びに生活保護法のこの扶助以上のものを我々は要求したいのであります。  以上の基本的な観点に立つて、具体的に現在の政府改正案に対して被保険者の要望を申上げたいと思います。  先ず第一点に標準報酬でございますが、改正案によりますれば最高が一万八千円になつております。これは少くとも現在の我々民間保険者と同じレベルにある船員保険が三万六千円でございますので、我々の政府案が一万八千円ということは如何なる根拠に基くものであり、この労働力喪失後に対する恩給法にこのよらなハンデイキヤツプがあることは全く不満とするものでございますので、少くとも標準報酬船員保険の三万六千円以上を要望いたします。  次に給付でございます。給付は飽くまで現在の厚生年金制度確立されるまでは小くとも定額制を加味したものを要望いたします。理由といたしましては、現在の我々の生活は、定額一本であるならば、完全なる社会保障制度確立されるまでは、少くとも零細なる我々の積立金が相当高額なものとして現在大蔵省の預金部資金運用されておる限りは、現行賦課方式でない限り、完全積立方式をとる限り、我々のこの積立金に対して寄与しておるこの努力に対するそういう一つの所得分配の見地からいつて報酬比例制を加味したものを要望いたします。  次に三点目としましては老齢年金についてでございますが、少くともこの点が我々の労働力喪失後の窮乏を救済するとするならば、ILOの四〇%を下廻らない、これ以上のものでなくては現在の物価高からいつて到底我々の生活保障されるものではございません。最前申上げた生活保護法扶助よりも下廻るようなこのような金額であつては、少つくとも強制保険として、任意加入でない限り、この被保険者保険に対する積極的な加入を忌避する面からいつても、厚生年金の根幹をなす老齢年金給付現行のような非常に低額なものであつては、我々として全く不満とするものでございますので、少くともILOの四〇%以上を下廻らない程度を要望いたします。  次に障害年金についてでございます。この障害年金は、完全に何ら身体に障害を残さずしてそうして停年によつて老齢年金を頂く者よりは、障害によるこの労働力喪失は、再び軽労働にも復職できないところの、例えば足を一本失い手を失つた方、この方も当然家族の生活を見なければならない。又日常生活は、片手を失つた者、自分の身体が年齢により労働力の低下を伴つたとは言いながら完全な軽労働に就労できる、この老齢年金給付者と障害年金給付者はこの意味において十分の考慮を払つて頂きまして、少くとも老齢年金以上のこの障害年金に対しては特例を考慮して頂きたいと思います。  次に第五点日は、遺族年金でございますが、改正案によりますと、生活保護法の二級地の場合よりも下廻つております。この点も最前申上げた通り生活保護法の何ら国との約束のないものよりもこの遺族年金給付が下廻つておることは誠に不満でございますので、生活保護法の二級地以上のこの措置を講じて頂きたいと思います。  次に脱退手当金でございますが、一応は尊重すると言つておりますが、仄聞するところによりますと、これが改悪されようとしておるやに聞いておりますので、この点も特に女子労働者にとつては、日本の産業構造からいつて、再度職場に復帰する、そういう公算が極めて乏しいのでございますので、これはまさに過去の統計が立派にこれを実証しておりますので、この点は是非とも存続して行きたいと思います。  以上要点だけを申上げまして、最終的なお願いといたしましては、厚生年金積立金のこの管理でございますが、現在の日本財政政策からいつて、我々の要望するこの給付引上げが到底可能性がないように我々は聞いておりますが、少くとも八百億円になんなんとするところのこの積立金運用が短期の場合は三分五厘において政府の預託銀行において十分にこれが利用されておるように聞いております。たとえ短期間といえど、この厚生年金が存続する限りコンスタントに三分五厘のこの低率なる利息が一方的に、我々被保険者には何ら考慮を払わず、政府がいろいろの面においてこれが使用されておることを全く不満とするものでございます。平たく申上げるならば、少くとも被保険者はこの積立金に対して重役の立場にあるものでございます。この重役の立場にある勤労者が、還元融資として勤労者住宅資金としてお借りすときは六分五厘でございます。重役に対しては六分五厘であつて、縁のない赤の他人の人は、政府が三カ月三分五厘でコンスタントに使つていることは、組合保険の存続する限りは恒久的な三分五厘でございます。このような運用は全く我々の不満とするものでございます。而もその他最前公述人の方から申された通り、この使途においても特定の企業家に、開発銀行の資金になり、或いはその他我々の労働条件の維持改善とか、社会保障制度確立の面には何ら縁遠いところの特定産業資本或いは金融資本家に活用されている面がございます。国家は又一部経営者は、現在の日本経済機構、或いは経済自立の見地からいつて社会保障制度財政負担の捻出は何ら方途がないと言つておりながら、例えば製糖工業会に投資された金は開発銀行から流れておるように聞いております。現在砂糖に例を取つたならば、年間八十万トンの需給計画に対して三百三十万トンの生産設備があるやに聞いております。この生産設備に対しては過剰投資は絶対やらないと言つておりながら、尨大なるところの財政投資がなされておるやにも聞いております。このような資金がどこから流れておるか。厚生年金の八百億或いは失業保険積立金の二百五十億円、民間産業の被保険者が零細なる賃金から差引かれたところの保険金が、各界の民間保険積立金政府の三分五厘或いは五分の低額利息を以て高度に活用され、而も過剰投資をやる。このようなでたらめな財政投資がされて、そのしわ寄せば高率なる生産コストとなつて現われ、そうして我々の日常生活を圧迫し、国民生活をますます窮乏に落し込んでいるのが政府財政政策でございます。  更に貿易政策に至つては、なけなしの外貨の四分の一が自由貿易の枠においてこれが割当てられまして、日本経済の積極的な確立とはおよそほど遠いところのバナナを買つたり、砂糖を買つたり、完全に食つてしまうところの消費財を買つて来るのが現状でございます。このようにして日本の国際収支はますます破綻のどん底に落し込まれ、而もオープン・アカウントにおけるインドネシアに対しては尨大な貸越残高があるやにも聞いております。果してこのような財政政策によつて日本産業再建ができるかどうか。我々が営々として職場に働きながら零細なる賃金から割愛されたところの賃金が、そのようなでたらめな財政政策によつて、ますます日本経済自立を憂慮すべき段階に追い詰めつつある。この政治の貧困からもたらされて、零細なる我々の窮乏しつつあることにすら財源がないということに対しては、私は全く不満とするところでございます。できることならば十分に貿易政策、物価政策、資金政策に対して良心的な、もつと愛すべき、労働者に対する理解ある政策をとつて頂きたい。あの汚職、あの一点すらからいつても賜源がないということは、被保険者としては全く了解に苦しむものでございます。  このような見地から財政政策の面において、いつまでも民間保険であるところの厚生年金積立金のみが大蔵省の預金部資金として、お手盛り式にこのような財政政策の中に悪用されることを一日も早く政策としてこれを解決して頂きまして、我々のささやかな要望に是非とも応えて頂くことをにお願い申上げまして私の公述を終りたいと存じます。   —————————————
  7. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは次に読売新聞社の論説委員の喜多村浩さんにお願いいたします。
  8. 喜多村浩

    公述人(喜多村浩君) 私は社会保障の専門家ではございませんけれども、国民の一人として、又日本経済の将来というものに非常な関心を持つております経済学者の一人として、本日求められました厚生年金保険法改正法案につきまして若干の意見を述べさして頂きたいと思うのであります。  先ず最初にこの問題に取組むべき基本的な構想と申しますか、基本的な観点の問題でございますが、これは私は飽くまで長期的な社会保障計画というものが必要であるという前提の下から出発したい。これは言葉ではよく言われておりますけれども、その意味が果してあらゆる国民の部分に理解されているかどうかと申しますと、甚だ疑問としなければならない。長期的な社会保障計画が何故に日本において必要とされるか。その意味は、従来の日本の社会というものが非常に遅れた前近代的な部分を持つていたために、経済の問題、先ほどから非常に強調されております生産性の問題、そういうことが常に前近代的な構造にしわ寄せされて解決されていた。ところが新らしく日本は近代社会として発足したわけであります。今や昔の家族制度というようなものにあらゆる社会的な矛盾の負担をかけるわけには行かなくなつて来た。従つて私どもは今日合理化とか生産性の向上とかいうことを考えます場合に、先ずその基盤となつておる社会的な構造から考えまして、この長期的な社会保障計画が絶対に必要である。これがなくては健全な社会というものが存立し得ないのだという認識から出発したいのであります。  言うまでもなく、短期の景気の見通し、そういうようなことから考えますならば、日本経済が非常な困難にぶつかつている。これはよくわかるのでありますけれども、こういう短期的な困難の前に長期的な大きな見通しというものを一時たりとも忘れてはならないのだろうと、こういうふうに考えますので、先ほどの経営者のお立場には、これはその点がはつきりと十分には理解されていなかつたように思うのであります。つまり社会的な平和、本当に健全な社会を作つて行くために、もはや昔の社会的な、何と申しますか、背骨がないわけでありますから、従つて新らしい背骨を中に入れて行かなければならない。従つてこの場合には若干の負担増加は、これは国民の誰もが受入れなければならないことじやないかと、而もその可能性は十分に残されていると考えるのであります。  日本の社会、現在の経済が如何なる任務を負うか。軍備の問題も出て参りますし、そのほか経済の内部構造を変える大きな費用も出て参りますけれども、それらを負担する能力がある限り、一方の極には必ずや社会保障的な安全のための費用、これを負担する能力はあると考えるのであります。まさに経済状態の悪化が憂えられれば憂えられるほどその他方の極には社会保障が生きて行かなければならん。そういう立場からこれは今日の経済状態日本経済力と申しますか、そういうものを前提といたしましても、日本経済はそれだけの社会保障に進むべきカを持つているというふうに考えるのであります。  従つてこの問題に現在取組みます根本的な立場といたしまして、単に戦後のインフレによつて従来の体系が崩れた、それを暫定的にギヤツプを埋めるというだけにとどまつてはならない。これは暫定的な措置であつてはならないのでありまして、必ずや長期的な計画を目指すものでなければならないと、こういうふうに考えるのであります。但しその長期的な目標を持つということと、それから現在から長期的な目標に参ります道程をどういうふうに考えるかということは、これは別問題である。私は今回の改正案が必ずしもとの長期的に望ましい社会保障の目標といたしまして十分なものであるとは決して考えないのであります。  ILO最低基準は未熟練工の賃金の四割ということになつておることは御承知の通りでありますが、今日未熟練工を日本の場合にどこに求めるか甚だ問題があります。やはりニコヨンというような者をとつてみますならば、七千円なり八千円なりというものが月の収入になりますでしよう。そうしますと、その四割といたしましてどうしても三千円というものが最低にならなければならない。そういう意味で今回の改正案が十分な要請を充たしていないということは明らかでございます。従つて若し今回の改正案がそのまま採択されるといたしましても、その裏にはやがて望ましい形の社会保障計画に近付いて行く用意がなければならないのではないか。その場合に、現在まだ十分に整えられていないと考えるのでありますけれども、もつと綿密な統計的な準備が必要であろう。例えば特殊な雇用部門における労働者の、つまり特殊な職業別の余命年数の統計でありますとか、或いは階層別、雇用別の傷害率というような、そういう統計をこれから十分に事務当局においてもお揃えになりまして、その上に立つて長期的な計画を是非お立て願いたい。これが根本的なこの問題に対する態度であります。  次に老齢年金につきまして問題になつております重要な一点は、給付の基本原則でございますが、それが定額制であるべきか、或いは報酬比例制であるべきかという問題であります。社会保障の立場から申しまして、従来のような報酬比例制一本でいけないことは、これは明らかであります。又報酬比例給付に対しまして国の補助があるということは、これは取りも直さず公平の原則にも反くことになります。従つてこの報酬比例制一本で行くということには勿論問題があつたわけでありますが、逆に定額制一本でよろしいかと申しますと、この点も現在の段階ではまだ疑問であるのではないか。勿論社会保障の理想から申しまするならば、定額によつて最低の生活保障するというのが正しいのでありましようが、一足飛びにその段階にまで参り得る日本の社会ではないと思います。と申しますのは、日本の社会におきましては所得分配が非常にかけ離れている。若干の西欧諸国、例えばスイスとか、スウエーデンという国々のように均等化されてはいないのです。その場合に固定額の料金を徴収いたすということになりますと、年金制度が多くの国民にどりまして実質的な意味を失つてしまう。で、単に救貧法と申しますか、プーア・ロウという色彩を持つようになるのではないか。これは一応理論的には合理化できることでありますけれども、私が虞れるのは、そういう仕方でこの年金保険というものが国民にとつて意味のないものになるということが一番恐ろしいことである。これを何とかして避けなければならない、こういうふうに思いますので、現在の段階におきましては報酬比例額をやはり加える。それはつまり保険という意味を十分に生かすことであります。そういうことによつて年金制度国民的な関心の下に生きたものとして育てて行くことを考えなければならないのじやないか。この定額制という問題につきましては、これを保険料負担を現在よりも切下げる、而も非常に低い定額にするというような考え方は、この場合には絶対的に廃止したい。併しながら問題は年金給付額の絶対額なんでありますが、これは私は飽くまで生活保護法生活扶助額を下廻るようなことのないように、先ほど申しましたILO最低基準に十分に合致するほどのものにして行きたい。従つて若し定額制と比例報酬制とを併せ用いるといたしましても、定額制改正案に盛られておりますこの一万八千円よりも更に上廻ることが絶対に必要であろう、できるならば定額が三万六千円程度のものが望ましいと考えるのであります。併しながら、そこまで一足飛びに行けない場合には、暫時これを中間的に上げて行くことが絶対に必要であろう。この定額制が非常に低い、或いは年金給付額が低くてよろしいという議論が理由として持出します一つの事情に、退職金制度というものがございますけれども、退職金というものは、これは各企業中心に考えまして恩恵的な性格を持つものである。従つてこれに重点を置くのではなしに、むしろ反対に、社会的な、社会の負担、社会の責任としての社会保障生活保障考え方のほうに重点を置くべきであります。従つて退職金は、むしろ国民的な年金制度の附属物というふうに考えて行かなければならない。若しこの退職金制度というものがあるからと申しまして年金額を小さくいたしますならば、これはむしろ低額所得者が非常に多い中小企業負担が過大になる虞れがある。これは社会的に大きな問題だと考えるのであります。  次に、老齢年金の開始年齢の問題でございますけれども、これは大体外国の例を見ましても、その国民の平均寿命よりも非常に下廻る。例えば十年近くも下廻るような、そういう若い時から年金をもらつて隠居するという制度はどこの国でもございません。それはつまり働く国民を作る、これがこれからの日本の済済にとりましても最も大事な観点であります。五十五歳においてすでに隠居するというそういう社会ではなくなつている。従つて今回の改正案に盛られております七十歳まで延ばしたという点は、私は根本的に賛成なのであります。日本の人口もこれも自然的に西欧型の人口構成に移りつつあるところでございます。従つて将来もう十年先には日本の人口構成ががらつと変つて参りまして、何と申しますか、子供の割合が少くなり生産年齢が多くなる。やがてもう少しいたしますと、今度はこの老齢人口の割合が非常に大きくなる予想が立てられるわけであります。従つてそういう場合に、飽くまで五十五歳で年金を受取るという建前を持ち続けることは、国民経済的に大きな損失、これこそ正に国民の働ける能力を浪費することになるわけでありますから、これは避けなければならない。但し現在の社会におきまして、いわゆる停年制というものがまだ五十五歳にきめられているところが非常に多いわけでありますから、それを六十歳まで持つて行くという場合には、相当慎重な考慮が必要であろう。それはやはり段階的に或る一定の期間を置いて考えるという改正案の含みは妥当であろうと考えるのであります。  又資格期間でありますが、これは或いは二十年ということではなしに十五年に短縮することも考えてもいいのじやないか。これは社会が進むに連れまして、長期的な傾向といたしまして労働が強化されて来る。従つてこの二十年という期間を置くことは必ずしも必要ではない。而も経済的な影響は比較的に小さくて済む問題であろうと思うのであります。標準報酬につきましても、或いは改正案の一万八千円よりもまだ引上げる余地があるように考えられるのでありまして、一見無理のように見えながら、例えば簡易保険が立派に成立していることを考えますならば、標準報酬を上げるというほうの努力を続けてもよろしいように考えられるのであります。これは非常に大きな問題でありますが、長期的な社会保障計画に参ります前提といたしましては、日本経済特殊性からいたしましても、従業員五人以下の事業者或いは自営業者というものこそ社会保障の対象にしなけりやならない、社会保障の網の中に組入れられなければならない第一の階層なのです。これは日本経済が特殊な構造を持つているということから出て参りますが、従つてその方向に一歩でも近附けるような考慮を是非改正案の中に入れて頂きたい。そしてやがては国民の誰もが、例えば農業であれ、林業であれ、任意に、例えば郵便局などで加入できるような任意保険をも併設すべきではないか。そして何よりも先ず大事なことは、国民がこの年金保険を自分たちの問題だというふうに考えられるように仕向けて行くことである、そうでない限りはこれが如何に立派な言葉を持つておりましても、国民制度といたしましては死んで参ります。そういう点から申しましても、この保険という要素を現在の段階ではまだ強く生かして行くことが必要であるし、従つてこの脱退手当の問題、これも改正案では取入れられるようになつたのでありますが、これを存続することは極めて妥当であり、教育的な効果が非常に大きいと、こういうふうに考えるのであります。  最後に、積立金方式、或いは賦課方式、或いは修正賦課方式という問題でございますが、明らかにインフレーシヨンという状態になりますと、積立金制度はこれは全く無力であります。併しこれはあらゆる保険につきまとつている危険でありまして、これは避けることはできさない、こういうふに考えます。何よりも日本のインフレーシヨンの危険というものが資本の蓄積の不足に基因している限り、そこに私どもは今回の現在の段階の国民経済の立場から考えまして、改めて積立金制度の一つの長所を考えるべきではないか、つまりアメリカとか、イギリスとかいうような進んだ資本主義国、いわゆる成熟経済というところにおきましては貯蓄が過剰の傾向がございます。従つてそういうところにおきましては、純粋の賦課方式というものが意味を持ち得るのでありますが、つまりそれによつて消費性向の低い層から高い唐に国民所得に再分配が行われる。併しながら資本の不足に悩んでおります日本のような国におきましては、まさにこういう積立金制度こそ資本形成の非常に大きなチヤネルであると、道である、こういうふうに考えるので、問題はこの資本蓄積民間資本蓄積と競合するかどうか、この点でありまして、これはそのやり方によつては十分に調整できるというふうに私は考え、むしろこの積立金を三十年くらいの間に全部食いつぶしてしまうというような見通しで立てられます賦課方式によりますならば、これは現在の段階では社会保障そのものの経済的な裏付を危うくするものと言わなければならない。従つて問題は積立金運用にあるわけでありまして、この点につきましては、先ほどからいろいろ御意見がありましたように、出資者の意見が十分に反映するというような制度運用されなければならないことは明らかでありまして、従つてこの場合に審議会の勧告にありましたような特殊法人に管理を任すことも一つの方法でありましようし、又先ほどの御意見にもありましたように、国民経済的な利益のために還元する。これは直接に被保険者の福利施設に還元するだけでなくてよろしいと思う。むしろ広い立場からした国民経済的な課題のためにこの資金を利用するという方法を講ずべきではないかと思うのであります。  最後に、一番重要なのは生産性の問題で、日本経済が現在のような場合には、社会保障負担を耐え得ないという議論があるわけであります。又社会保障制度というものは生産性を阻害するという御意見もあつたわけでございますけれども、これは或る段階まではむしろ社会保障によつて労働の生産性が高まるという可能性が十分にあることを忘れてはならん。つまり現在日本合理化をして行こうという場合に、真先に失業の問題が出て来るわけであります。真先に合理化の前提としてそういう社会保障制度が絶対に要求されておるのではないか、こういうふうに考えるのであります。  総括的に申しますならば、この改正案には非常に多くの健全な考え方現実に即した形で盛られておると考えます。従つて先に述べました若干の批判点を留保いたしまして、私は厚生年金改正法案を支持したいと考えるのであります。但しこれは本当に合理的な長期的な計画の体制にはなつておらないのであります。従つて飽くまでも過渡的な、一つの段階的な長期的な目標に進む一つのステツプとして考えて行きたい、そういう意味で弾力性を持たしたものにしなければならないのではないか、これが私の今日申上げたい意見でございます。  これで終ります。   —————————————
  9. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは只今までの公述に対して質疑をお願いいたします。
  10. 有馬英二

    ○有馬英二君 私は湯淺さんに伺いたいと思います。定額制を御推奨のようでありましたが、定額制は勿論結構でありますが、報酬比例を加味するということに結局反対されるということでありましようか、そうして結局今度の改正案には賛成できないというように伺つたのでありますが、その点如何ですか。
  11. 湯淺佑一

    公述人湯淺佑一君) 実は今回の改正原案内容に対しましては、今御指摘になりましたような定額制プラス報酬比例制度という非常に重大な問題を含んでおるのでございまして、この点につきましては、私どもの意見定額制一本ということを原則とするのであります。報酬比例制というのは、現在の日本現状として退職金というのがすでにいわゆる報酬比例退職金制度であるというふうに考えておりますので、これを調整して行かなければならない。つまり退職金制度を全廃してしまつて、そうしてこの厚生年金一本で行くということができますれば問題は別でございますが、私どもの見通しでは、今後少くとも二十年、三十年間というものは、日本現状として退職金というものをいろいろ労資の関係から考えましても、これを廃止するということはできない、こういうような観点からおのおのの企業の実情に従つて定額制の上に積重ねて行く、こういう考え方でありますので、報酬比例制というものを加えるということには全面的にこれには反対なのであります。定額制一本で行くということでありますので、そこに重大なつまり欠陥を持つておる。この改正案に重大な欠陥がある、そういう点を実は強調したわけであります。そういう意味ではこの改正原案には根本的に反対である。併し仮にこの改正案を採択されるならば、それに副つて最大限度までこれを修正を加えて行くならば、どこまで是認して行けるかというふうな可能性について第二の主張としまして、先ほど実は申上げた通りなんでございます。
  12. 上條愛一

    委員長上條愛一君) ちよつと湯淺さんに関連質問としてお伺いしたいのですが、今の退職金制度というものは、これはまあ大工場であるとか、大資本を持つておる会社等にはありますが、日本のこの中小企業と申しますか、数から言つて相当多いのですね、中小工場にも退職金制度というものは行渡つておりましようか、どうなんでしようか。
  13. 湯淺佑一

    公述人湯淺佑一君) この中小企業退職金問題につきましては、そうした厳密な統計は実はないのであります。併しながら特に私、大阪のほうにおりまして、大阪方面に非常に中小企業が多い実態をいつも見ておるのでありまするが、漸次現在の社会通念としまして、中小企業としても、まあ先ほど功労報償、いわゆる功労金であるとかいうふうな御意見もございましたが、同時にやはり老後の生活保障というような意味も加味したいわゆる退職金という制度中小企業といえども漸時採用して来ておるというのが現状ではないか、併しながら、その退職金程度はこれはもう大企業と比較いたしますると問題にならないほど低い程度である。まあ仮に十五年勤続なら十五年勤続の従業員が退職した場合に、上は二百万円ぐらいも出す企業もあるし、又下のほうでは十万円そこそこも出せないというような非常に幅の広いのが実情ではないか、従いまして、その程度の差はございまするが、退職金制度というものは漸次普遍化されておるということ、同時にその中小企業というものの負担能力というもの、勢い大企業とこれは非常に違うのでございまして、そういう観点から、この中小企業負担し得るところの定額制というのが私の主張要点でございます。従いまして大企業観点から考えた月額三千円とか、四千円とか、つまり報酬のILOの基準の四〇%というのは大企業には適用することが可能であつても、むしろ逆に中小企業がそういうような基準を実行するということはこれは非常にむずかしい、そういう意味において実は先ほど月額二千円程度というベースを実は申上げたような次第でございます。
  14. 上條愛一

    委員長上條愛一君) まあ年金定額一本で行くということを、これはまあ国民年金とするようになつて国民全体が年金制度の恩典に浴するという場合には、これはまあ定額一本ということが妥当になると思いまするが、今一つ現状において定額一本ということが多少無理ではないかと思われる点は、保険料がやはり報酬の何%と、こいううことになつておりますから、そこで労働者側も経営者側もそうだと思いますが、負担は自分の報酬に比例しておるのに、もらう場合には何人もこれは一定に受けるという点に多少私どもは無理があるのではないかというふうに思われるんですが、これはまあ定額制一本ということになれば、保険料の問題と関連して来ると思いますが、この点はどうでありましようか。
  15. 湯淺佑一

    公述人湯淺佑一君) その点は仰せのように非常な問題点だと思いますが、結局先ほども申しましたように、その場合のつまり標準報酬最高限度最高額、これをできるだけ低く持つて行くということが実は条件なのであります。そうして勿論定額制一本でございますが、まあ先ほど私は二十年と申しましたが、これは十五年ということを申しても差支えないと思いますが、十五年以上なら十五年以上、或いは二十年勤続以上なら二十年勤続以上の分に対してのいわゆる年数加算、それから扶養加算というようなものを勘案して参りました場合に、私はその点については、多少そうした今おつしやいましたような非常に幅の狭い報酬比例と申しますか、というものの負担がそこに加わりましても、そこにその矛盾はそう感じないのじやないか、まあそうした定額一本と申しましても、今の年数加算、それから扶養加算というものを勘案すればやはりそこに多少の幅を、若干の幅をやはり認めておかなければ、それだけの余裕が出て来ないのしやないか、こういうふうな考え方でございまして、勿論原則は定額で支給する以上は、給付する以上は定額保険料を徴収しろというのは、これは全く理窟としてはおつしやる通りだと思います。併し実情としまして、今私が申しましたようなやはり事情を勘案しなければならんというふうに考えまして、実は今の幅をできるだけ低くする。従つて最高限度を先ほど私が申しましたが、八千円から一万八千円に引上げ原案に対しては、最高限度一万二千円くらいでそれをとどめてもらいたい。こういうふうに実は先ほど申したような次第であります。
  16. 上條愛一

    委員長上條愛一君) かように、この点についてはそういうことになると、国家負担を増すか、税率を上げるかというようないろいろな問題が起つて来るのでありますが、この点はそれとして、いま一つ喜多村さんにお尋ねしたいのは、開始年齢の問題でありまして、おつしやるように日本国民のこの年齢というのは漸次長くなつて来るという実情にもありまして、現在の五十五歳を六十歳に上げて行くということもそういう論拠にあると思いますが、ただ一つ現状で例の停年制の問題が五十五歳と、こう日本ではなつておるわけなんですね。それで一方五十五歳で停年になつて職場をやめる。そうすると、年金は六十歳でなければもらえない、こういうことになるというと、その五年間の生活をどうするかということであります。併し実際としては五十五歳でやめても他の仕事について六十歳までの生活の途を講じ得る、こういう意見も実はあるわけであります。但し一面、日本の実情として考えなければなりません問題は、八千五百万というまあ人口が日本にあつて、それで失業者が相当今後は殖えると見なければならん、そこで他の五十五歳で職場を停制年によつてやめて、その後に主として自分の生活を求め得るような職業が見つかるか、見つからんかという問題が相当問題になつて来るのじやないか、そこで現状においては停年制という関連もあつて、五十五歳を今直ちに六十歳に引上げるということの無理があるのじやないかというふうな論議もありますので、こういう点についての御意見は如何でしようか。
  17. 喜多村浩

    公述人(喜多村浩君) ここにやはりこの現状と、望ましい長期の目標との間のギヤツプが出て来ておると考えます。で、私はやはり停年制、原則といたしましては停年制が一般に六十歳に延びたというときに、開始年齢、老齢年金の開始年齢も六十才に現実に延びるというような調整された実行方法が考えられ得るのじやないか、割合に楽観的に考えておるのであります。現在直ちに六十才で実施するということには、これは大きな問題があると思います。今委員長の言われましたような、そういう考慮から私は必ずしも現在すぐ六十才にするということには賛成しないのであります。但しほかの仕事と申しますが、現状をよく見ますと、殊に官吏の恩給でございますが、これは非常に困つた現象が方々にあると思うのでありまして、恩給制度は御承知のように他に仕事があるなしにかかわらずもらえるような仕組になつております。非常に多くのケースにおいて、片方では十分な仕事を持ちながら恩給として毎月二万円程度のものをもらつているというかたが非常に多いのじやないか。これは私は将来社会保障制度が総合的な社会保障制度統合されて行く過程において整理されて行かなければならないことだと考えるのでありますけれども、できるだけそういう矛盾のないような実行方法を加味することができるのではないか、これはむしろ行政面のことになるかと思うのでありますけれども、成るべくそういうふうな重複を避けて、片方では今問題になつておりますような定年制で退職したときと、それから老齢年金をもらえる時期との間のギヤツプがないようにしなければならん。先ほど問題になつております退職金でこの間を埋めるという考え方もございますと思いますけれども、それは飽くまで副次的に考えて行かなければならん。そして老齢年金現実的な開始をやはり停年制が社会的な通念として伸びて行く速度に従つて調整して行くという含みをお願いしたいのであります。お答えになりましたかどうかわかりませんが、それだけで……。
  18. 安部キミ子

    安部キミ子君 私は十二村さんにお尋ねいたしますが、先ほど定額制の問題と、只今停年制の二つの問題が出ましてお二人の御意見が出ましたが、その場合にあなたは実際に労働組合のほうから出ておいでになるようでございますが、お二方の意見を実際に当てた場合に、労働組合の中のいわゆる労働者でございますね。炭鉱坑夫たちはどういう現象になるのでございましようか、このことをちよつと詳しくお話聞かして頂きたい。
  19. 十二村吉辰

    公述人(十二村吉辰君) 定額制の問題でございますが、この点は現状においては定額制一本が理想としては正しいかもわかりませんが、我々被保険者の立場から申上げますと、保険金は比例によつてかけるので、やはりこれは定額一本であるということは、少くとも最低賃金法が確立され、或いは保険法がもつとアメリカの場合のように十分にとにかく考慮の払われた拡充強化されたところのそういう制度が設けられるまでは、更に日本のような経済機構が、もらつて来たトマトの苗のように非常に根の浅い機構の中においては、やはり報酬比例制と二本を加味して行かなければならんと考えます。更に開始年齢の問題と退職金との兼合でございますが、退職金は成るほど我々の離職後の生活保障の一つの要素にはなつておりますが、我々の理解する範囲内においては、これは賃金の後払いであつて御苦労さん手当である、期末手当のようなそういう一つの性格を持つている。申上げたい点は、例えばまだ完全に一〇〇%の労働力を発揮し得る三十才から四十才くらいの場合でも、大体三年母上は退職金制度がそれぞれ大企業の中には全部協約に結ばれております。三年から十年くらい、例えば二十才で就労した場合に二十年たつてもまだ四十才である。このかたはまだ完全にともかくも労働力が保持されておるので、十分に生活保障される。ところが年金の場合は、飽くまで労働力喪失者に対する窮乏を救済する意味からいつては、やはり根本的に精神が違いますので、退職金年金とが加味することは現状においては理論上においてもこれは妥当性がないのでないかと思います。そういう観点からいつて我々は飽くまで開始年齢は五十五才、六十才が、どうしても我々の停年制とこれが比較された場合、現状においてはむしろ経営者のほうは十分な労働力の再生産要求される場合から、五十五才ですらも、ともかくも現在雇用を忌避しておる観点からいつて、非常に六十才にこれが延ばされることは、却つて我々の停年制が法的に保障されない限り、ますます産業予備軍が増大する危険性もございますので、開始年齢はでき得る限り短かいほうがよろしいように考えております。以上であります。
  20. 藤原道子

    ○藤原道子君 私喜多村さんにお伺いしたいのですが、先ほど来の老齢年金の開始年齢でございますけれどもあなたの先ほどの御意見から参りますと、外国でも云々というお言葉があつたわけなんでございます。私外国人と日本人との体力と申しましようか、そういうものの相違も一つ考えられる。いま一つは平均寿命が延びましたことは、乳幼児の死亡率が非常に激減して来たということ、それからいま一つは青年期における結核死亡者が非常に減つて来たというようなことから、平均年齢としては延びておりますけれども、実際労働寿命と平均寿命とは違うと思うのでございます。果して日本人の場合六十まで働けるかどうか、労働力は年をとると急激に消耗しかけて来るということが先ず一つ考えられなければならない。いま一つは停年制が五十五才でございますけれども、五十一才でやめるところも相当ある。女の場合などは四十才くらいになりますと、殆んど最近は強制的に退職を強要されておるという例は多々あるのでございますが、そうした場合に、この間五十年なり十年なりの開きの生活というものは非常に深刻なものがあろうと思うのでございます。あなたは先ほど、現実にはそうだから段階的にそういうふうに行政的にというお話もあつたかと思うのでございますけれども、そういうことはこの法律ができれば不可能だろうと思います。やはり六十なら六十ということにきめられてしまうわけでございますが、これに対してどうお考えになりましようか。
  21. 喜多村浩

    公述人(喜多村浩君) 外国との比較の問題でございますけれども、私は最近の日本人の身体というものを考えまして、そう目立つて見劣りがしておるようには考えておらないのですが、これは専門的な医者の見地からやはり考慮しなければならない点でありまして、社会科学者が決定的な発言をすることは恐らくできないように考えます。業種によりまして勿論五十五才で労働力がなくなるというものが多々考えられると思うのであります。それはそれ相応に取扱わなければならないのでありますが、一般的な場合といたしまして、私のこれは素人考えでございますが、どうも五十五才はまだ働き盛りという感じが非常にしておりますので、それを停年制でやめさして社会の負担にする、その残つておる労働力を使わないというのは誠に勿体ない。まあ人口過剰の日本ではございますけれども、本当はやはり人口こそが日本経済の資源でありますから、これを本当に政策的に使う方策を考えるのが国家の立場ではないか。勿論婦人の場合にはこれは特別の事情があると思いますので、これもやはり特例で考えなければならない。それから現在この法律ができましたならば、すぐ六十歳ということになるということでありますと、これはやはり問題でございますから、その条項だけは、例えば十年なら十年、二十年なら二十年のあとに実施するというような、そういう含みを持たせるべきではないか、法案の中に十分にそれは書入れることができるんじやないか、こういうふうに考えております。例えば五年たつたときに五十五歳が五十六歳になる、十年たつたら五十七歳になる、そういうような段階的な処置が可能ではないかと考えております。
  22. 藤原道子

    ○藤原道子君 そういうことができれび私も又考えようがあるのでございますが、先ほど喜多村さんは、この法案には賛成であるというようなことをおつしやいました。この法案が通過すれば、すぐ施行になるわけでございますので、この間非常に我々労働者の立場から行けば重大な問題でございますので、御意見を伺つたわけでございます。  十二村さんにお伺いたしたい。今のようなまあ開始時期の問題が重大に考えられておるのでございますが、炭鉱の場合に停年で首になつたような場合に、労働力がまだ残つておるとお考えになるかどうか。
  23. 十二村吉辰

    公述人(十二村吉辰君) 炭坑だけでなくて、地上労務者いわゆる事務労働者以外の筋肉労働者は四十歳以降非常にとにかくもう月収が減つて来ます。というのは、現在は能率賃金でございますので、特に炭鉱の場合は地下産業として特殊な職場環境にございますので、特に労働力喪失が激しいために報酬が減るんでしようが、これは何も炭鉱だけでなくて、強弱の度合はございますが、筋肉労働者の一般的傾向としまして、非常に四十歳以降もう急激にあれが減つて来ます。その結果年金をもらう場合或いは労災の業務上の補償をされる場合でも、四十歳以降の業務上の補償は極めて低額でございます。というのは、補償事由の発生した前三カ月でございますから、四十歳以前の業務上の補償と四十歳以降のあれは極端なアンバランスがございます。それでございますから、開始年齢が延びるということは重労働者にとつては非常にまあ重大な問題であるので、我我は五十五歳ですら不満足であります、五十歳くらい。特定の高熱労働者、地下産業の場合。船員保険の場合も漁船の場合は十年でございます。これは非常に労働年限が極めて短かい結果、このような制度が設けられたことは極めて妥当であろうと思います。更に申上げたいことは、余命年数でございますが、日本の就労の状態からいつて、炭鉱なら炭鉱にずつと十年、二十年といつたような長期の就労の統計は、非常に統計の示すところでは少いように聞いております。外国の場合であれば、コツクになればコツク長になるまで、飽くまでも十年も二十年も、又一代、二代、三代と永続的に或る一定職場に就いておりますが、日本の場合は二年間は炭鉱、三年間は農業といつたように交流が極めて激しいのでございます。更に日本の労働衛生に対する研究調査、これに対しては非常にまあ学界にも、資本主義社会においては労働衛生などとは却つて労働条件を確立して業務上のメリツト負担増額させる危険性があるから、余り研究しないほうがよろしいのだというお話があると僕は聞いております。そういう見地から行きましても、完全な筋肉労働者の余命年数が全国民の余命年数の中で統計が示されるとしておるならば、この産業構造の実態からいつて妥当なる統計ではないように考えております、非常に産業交流が甚だしいので……。以上であります。
  24. 藤原道子

    ○藤原道子君 湯淺さんにお伺いしたいのですが、私も開始年齢の問題は非常に重大だと思つておるわけです。今、喜多村さんは五十五歳ではまだ働けるのに、これを仕事を与えないということは非常に労働経済の上からいつて経済だからというような御意見があつたのでございますが、現実には五十五歳の停年制が殆んど布かれておる。あなたは資本家側の立場から行きまして、この停年を五十五歳にしなきやならないという理由ですね。開始年齢は七十ということにあなた方は賛成なんでしよう。だからこの間の五年間はどうして生活するか。ほかに仕事を求めればいいと言つたつて、どこだつて年寄は使いたくないわけなんですね。首になつた人が再び仕事を得るということは非常に困難でございますが、それらについてはどういうように、お考えになつているわけでございますか。
  25. 湯淺佑一

    公述人湯淺佑一君) 只今の御質問でございますが、実は経営者の立場を率直に申しますというと、やはり企業の経営管理と能率管理と、こういつたような観点を常に考えるわけなんでありまして、これは率直な考え方なんですが、余り停年制として年齢が六十にも六十五にもなるということには、これは不賛成なんです。まあ大体従来の五十五、又非常に激しい労働に関連してまあ五十歳というようなところが大体妥当な停年制であるとして、大体皆それを心得ておるわけなんでございますが、併し最近の傾向といたしましては、先ほどからも御意見があつたかと思うのですが、漸次肉体的な生理的な条件というものは非常に向上して参りまして、五十歳や五十五歳でも非常に肉体的にも或いは精神的にもいよいよ健康になる、非常に健全であるというふうな傾向が相当顕著に見えて来たわけなんです。従いまして仮に五十五歳を六十歳という停年に引上げられましても、我々社会通念としまして、又社会医学的な観念から私はそれは止むを得ないだろう、こういうふうにまあ覚悟はしておるわけでございます。ただ、今のどういうふうにして生活保障して行くかという問題なんでございますが、これはまあ大体各企業におきましては、退職金で以てそれを調整して行こうというふうな考え方なんでございます。従いまして、大体今度の厚生省のこの原案に対しましては、開始年齢その他これに対する経過的な措置、そういう点については大体賛成なんであります。その意見としましては……。それだけをとつてみますと……。全体としては一番最初申しましたように根本的に反対なんでございますが、その項目だけをとつて考えますれば、大体私は原案を支持しておるわけであります。
  26. 藤原道子

    ○藤原道子君 これは大企業でしたら、先ほどから出ているように、退職金でそれは三年や五年食べられるかもわからないけれども、十万円ぐらいしか出ないというところが随分ある。十万円も出ない企業もたくさんございますよ。社会保障的のものから行けば、中小企業の零細企業に働いている人たちこそ重点的に考えなければならないわけです。その人たちには殆んど退職金というようなものは極く零細なんです。そういうところの人こそ、又ほかの仕事を探すのはむずかしいでしよう。ほかの仕事を探せということになると、その間の生活はどうするか、問題は具体的でなければならないでしよう。
  27. 湯淺佑一

    公述人湯淺佑一君) それは私は一番最初に申したかと思うのでございますが、実はそれを厚生年金だけで解決しようということに私は反対なんでございまして、総合的に考えて、これを失業保険を充実するとか、或いは日本にはほかの国にないようなこの生活保護法といつたような、立派なむしろ考え方によると行過ぎたくらいの賛沢な制度があるわけでありまして、そういうような他の政策を以てこれを補充して行くと、こういうようにも私は考えておるわけでございます。従つてこれを厚生年金法というだけのそういう狭い視野からこれを見ておるだけでないので、総合的な観点から一つ判断して頂きたい、こういうふうに考えておるわけで玄
  28. 藤原道子

    ○藤原道子君 そこまで行くと全然考えが違つて、何おか言わんやであります。労働者は老後の生活保障のために僅かな賃金から天引して掛けておるのですよ。今賛択な生活保護法云々というような考え方ですと、甚だ以て言うべき言葉がなくなつてしまうのですが、この法案社会保障の中核をなす法案でございますから、私どもはその人の老後の保障ということを真剣に考えなければならないのであります。まあこれは意見の相異でございますから……。
  29. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 午後も又公述人のかたの御意見を伺うことになつておりますから、如何でしよう。お三人に対する御質疑はこの程度にしたいと思いますが、御異議ありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  30. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。それでは午前中はこれにて休憩いたしまして、午後は一時二十分に始めたいと思います。公述人のかたはお忙しいところ貴重な御意見を承わりまして有難うございました。深く御礼申上げます。それでは休憩いたします。    午後零時二十四分休憩    —————・—————    午後一時五十二分開会
  31. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは只今から公聴会を再開いたします。午後も午前に引続き厚生年金保険法案に関して、公述人各位の御出席を願いまして、同法案に対する各界の貴重なる御意見を拝聴いたしたいと存じます。この際一言御挨拶を申上げます。公述人各位には、お忙しいところ特に御出席を願いまして、誠に有難うございました。  本日お願いいたしまする点は、今回政府提案になつておりまする厚生年金保険法案につきまして、それぞれの立場から御意見を拝聴いたしたいと存じまして、先に御依頼申上げておきました通りでございますが、時間の関係もありますので、お一人二十分程度に御意見発表して頂きたいと存じます。従つて十分に意を尽して頂くことが困難かとも存じますが、できまするならば時間の範囲内で重点的に御意見発表をお願いいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願いいたします。  次に、委員のかたにお諮りいたしますが、議事の都合上それぞれ公述人の御意見発表が全部済んでから御質疑を願いたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  32. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。  それではこれより公述人のかたから御意見発表をお願いいたします。  先ず、全国繊維産業労働組合同盟法規部長間宮重一郎さんからお願いいたします。
  33. 間宮重一郎

    公述人間宮重一郎君) それでは今回の厚生年金保険法改正案につきまして、私の意見を申上げたいと思います。  先ず第一に申上げたいことは、今回の改正案は、いわゆる中途半端なものである、こういうふうに思うのであります。本来厚生年金保険法と申しますものは、言うまでもなく社会保障制度の重要な一環をなしているものでございます。従つて仮に今回厚生年金保険法改正しようといたしますならば、社会保障制度全般の立場から総合的にこれを取上げて行かなければいけないと思うのであります。ところがそれが実はできていないのであります。なお、このことにつきましては、内閣の諮問機関である社会保障制度審議会におきましては、再三に亘りましてこの趣旨の勧告をして参つた事実があるのでありますが、当局は一向にこれを取上げようとしないのであります。勿論このことは厚生省当局だけの問題ではなくて、吉田政府全体の責任であるとは思いますが、実は今回の厚生年金保険法改正を見まして、この点が非常に遺憾であると考えております。従いまして今回の改正案に目を通して見ますならば、いわゆる筋が通つていない、こういうふうに考えるのであります。そこで実は今回の改正につきましては、結論といたしまして実はこれに賛成の意を表することができないのであります。勿論その内容におきまして、或る程度進歩的なところも見られます。その代りに何といいますか、逆に退歩したというところも見られるのでございます。そこで、そんならばこの改正案につきまして、実は全面的にこれを一つ練り直す、こういうふうに言いますのにはいろいろ問題があるわけでありまして、仮に今ここでこの点を一つ直してもらいたいという点を根本的な点から申上げましても、恐らく技術的にも困難な点が多々起つて来るのではなかろうか、このように思うのであります。そうして然らばこの法律が今改正するほうがいいのか悪いのか、こういうことを考えてみますならば即ちこれは悪いから一つ練り直してもらいたい、こういうことを申上げていいかどうかということになりますと、実はいろいろ問題がございまして、例えば今差当りこの法律の適用を受けて養老年金をもらうことになつておる炭鉱労働者、このものにつきましては、今の法律のままでは、御承知のように年間千に二百円程度年金でございますので、これでは到底我慢できませんから、やはり何とかしてこの際に改正案をやはり何らかの形において通してもらいたい、こういうようなことになつて来るわけでございます。そこで私はこのような立場から言いまして、できるならば一つ一条でもよきほうに改正して頂きたい、こういうふうに思うのであります。そこでできますれば私の申上げるようなふうに一つ御修正が当院においてして頂ければ幸いかと存ずる次第でございます。それでは時間の関係もございますので、極く重点的に主要な点につきまして申し上げたいと思います。  先ず標準報酬の月額を現行の三千円から七千円というやつを、三千円から一万八千円まで引上げることにつきましては、この際一応これでいいのではないか、このように考えております。ただこれにつきまして、経過措置の問題でもあるわけでございますが、今までの三千円以下のものをすべて三千円にする、こういうことにつきましては少し私は腑に落ちないところがあるわけでございます。御承知のように、戦争前からこの法律が適用されておるのでありますからして、実は三千円に満たない、標準報酬以下の時代が相当あつたわけでございます。これを一律に三千円にして、そうしてこれを抑えるということについては、実はこの際何とか考えて頂きたい、このように考えるわけでございます。これは改正案の附則の第八条に関係することでございますが、従つて基本年金の計算基礎となる場合におきましては、この年金法の発足当時の一番低い標準報酬を三千円のところに一つ基準を置いて、その後におけるいろいろの情勢の変化によつて、貨幣価値の変化もありましたでありましようし、そういうものを考えまして適当に一つランクをつけてこれを織込んでもらいたい、このように思うのであります。  結論といたしまして、要はインフレの責任を個々の労働者に転嫁するようなことは、これは何とかして避けて頂きたい。当然これは国が責任を持つべきものではなかろうかと思うのでございます。  そこでこれは今後の問題もございますが、今後の年金保険運用につきまして、貨幣価値の変動がありまして保険料給付との間に相違ができて来ましたならば、その価値に相違ができて来ましたならば、適当にスライドしてもらいたいとのいうふうにも考えておるのでございます。  その次に老令年金の受給資格の問題でございますが、現行法による五十五歳を六十歳にしようということであります。このことには実は反対でざいまして、現行通りに五十五歳にして頂きたい、このように思うのであります。それから坑内夫の特例を廃止することでありますが、これも実は反対でございます。これにつきましては、よく当局では外国の例をとられるのでありますが、これは相当認識を誤まつておると思うのであります。イギリスやアメリカのように幾らでも雇われる機会のある、雇用の機会に恵まれている国と、我が国のように働く場所のない日本とを同列に考えて行くことは間違いではなかろうかと思うのであります。日本におきましては、現在完全失業者の数が一月現在におきましても、失業保険の対象になる者だけで四十一万人あるわけでございまして、御承知のように失業保険の対象にならない、まだ一回も就職した経験のないいわゆる完全失業者につきましては、どれだけになるか私は十分数字は検討してりませんが、相当の数になるだろうと、このように考えております。従つて不完全失業者というものの数に至りましては八百万乃至一千万になるのではないかと考えます。このような状態におきまして一体五十五歳から六十歳までの間をどうして生活するかということでございます。大概の会社は現在御承知のように五十五歳が停年になつております。それで一体五十五歳になつて職を失つてそのあと一体仕事ができるであろうかどうか。それは一つ失業対策の問題で労働省の所管だと、こういうことになりますと、私は厚生省当局にそんな責任逃れのことを言つてもらいたくない、こういうふうに考えるわけでございます。そこで何といたしましてもこの五十五歳を六十歳にすることは一つ考え直してもらいたい。それから坑内夫の問題でございますが、御承知のように坑内夫は非常に健康を害しております。まして金属鉱山等に働く坑内夫につきましては、いわゆる職業病でありますところのけい肺病になる場合が非常に多くございまして、従いまして坑内夫につきましては特殊の取扱が必要かと存じます。成るほど現在におきましても、会社におきましても五カ年間の差は認めておりますけれども、やはりこれは今までの特例法通りつて頂くのが至当ではないかというように考えておるのでございます。これは余命の問題もございまして是非ともこの点御考慮が願いたいと考えておるわけでございます。  次に、老齢年金の額でございますが、この問題につきまして、現在定額制報酬比例制とを併せた制度としたいということでございます。これにつきましては、現在の段階において私は止むを得ないのではないか。従つて私はその意味においてこれに賛成でございます。併し将来社会保障制度が統合整理された場合におきまして、やはりいろいろ考え方が変つて来るのではないか、このように思つておりますが、何といたしましても現在の段階におきましてはこれで止むを得ないのではないか、このように考えておるわけでございます。そこでその次に改正案によりますところの支給額でありますが、当局の原案が一万八千円で、衆議院で二万四千円に修正されたように聞いておりますが、いずれにいたしましても低きに失すると思うのであります。当局の一カ月一千五百円ということになりますが、これでは丁度当局みずからの説明によりましても生活扶助法に見合う程度だと、こういうように聞いておるのでございます。一万八千円で行きますと大体月類二千円そこそこになるのではないかというように考えておりますが、これでは二十年も保険料を掛けてなお且つ生活扶助法に見合うという程度では、私たちはこれは認めることができないと思うのでございます。而も生活扶助法のいわゆるエンゲル系数の算定基礎は六六%程度だと聞いておりますが、それと一般労働者の場合は四四%くらいと記憶しておりますが、とにかく生活扶助法と同じように生活をしろ、而も二十年保険料を払つたものがそれで我慢しろということでは賛成できないのでございまして、さような意味から言いまして、私はこの際に衆議院の二万四千円のほかに今少し上げてもらつて三万六千円の定額にしてもらいたい、このように望んでおります。なお報酬比例制の案につきましては、当局の案で結構と存じております。それは理由といたしましては、何といたしましても老齢年金というものは少くとも生活の最低保障をして頂かなければならない。このような意味から言いまして、今一つは恩給法だとか或いは公務員の共済組合法、こういうようなものとの均衡も一つ考えて頂きたい。さような意味から言いまして、年金額三万六千円は決して高くはない、このように考えておるのでございます。  その次に、老齢年金を受ける場合におきます加給金でございますが、これは私非常に結構だと考えております。併しこの中にもありますようにこの場合に十六歳未満ということになつておりますが、これはたしか衆議院でも修正されたように聞いておりますが、それならば構結でありますが、十八歳に是非して頂きたいと考えております。この理由といたしましては、これも恩給法或いはその他の法律の関係から考えまして、日本の実情におきましては十八歳というところに置くのが至当ではないか、このように考えたのでございます。  次に、障害手当金と障害年金のことでございますが、先ず障害給付につきまして、現在その種類が二級に分かれておりますが、今度三級にしようということでございます。三級になるそのこと自体には反対でございません。併し当局の案を見てみますと、一級のものが二級になり、二級のものが三級になつているように私理解しておるのでありますが、私は何といたしましても、今回級を殖やすということにつきましては、今まで救済すべきものが割合に軽いという意味で求めておつたので、こういうものを三級にするということには賛成でございますが、一級のものを二級に落し二級のものを三級に落すという意味の三級にするということは反対でありまして、さような意味においては御修正を願えないかと考えておる次第でございます。  次に、遺族年金でございますが、遺族年金を統一しようとするそれ自体には私は反対じやございません。併しその給付の対象を縮小しようということ反対でございまして、そこで遺族年金の支給対象といたしまして、改正案について申上げますと、つまり妻については条件を付けずに一つ支給してもらいたい。今のところではいろいろ条件が付いておりますけれども、この条件を付けずに一つ支給してもらいたい。即ちこれは改正案の五十九条第一項第一号を削除しようということになるわけでございます。勿論再婚したという場合は、これは別に考えて頂いていいと思うのでありますが、それからこの場合におきましても当局の原案によりますと、この場合も十六歳となつておりますが、これはやはり十八歳に修正を願いたい。これは衆議院で修正されておれば幸いでございますが、かように考えております。それからこの場合に関連いたしまして、改正案の六十五条でありますが、妻の場合に、或る年齢まで達しないとその間は払わないという停止制度でございますが、これは一つ削除してもらいたいと思うのであります。以上のこの遺族年金についてどういう理由からそういうことを言いますかというと、先ずその配偶者、特に妻の場合でございますが、これに制限を付けることは日本の社会情勢から言いまして無理である、かように思うのでありまして、当局の言い分によりますと、子がなくて若いものは女であつても働かなくてはならない、こういうことになつております。それは私は当然だと思うのでありますが、それはそこまで行きますと、一体厚生省は女の人は夫に死別されてすぐに就職でも斡旋してくれるかということになりますと、これはとても厚生省はできないでありましようし、それならば労働者の失業対策だというので考えておるか、今一人前の男でも就職するのは困難でありますのにかかわらず、女が中途で生計の途を絶たれて、それで職を求めたつて到底できるものではありません。そうなりますと社会的にいろいろ秩序も乱れることでありましようし、私はこの点につきましては、一つ妻についてはそういうような意味合いにおきましても、これの条件を付けるということはしてもらいたくないと思うのでございます。  次に、脱退手当金の問題でございますが、最初当局の腹案によりますと、脱退手当金制度を全面的に廃止しよう、こういうことでございましたが、私どもは女子につきましては特別一時金制度を残したい、こういう意向でございましたにもかかわらず、今回脱退不当金制度を残す、こういうことにされましたことにつきましては、私は敬意を払います。併しその支給額については是非一つ、もう一つ聞いて頂きたいと思うのでございます。現行法によります場合、特に女子の場合でございますが、被保険者であつた期間がニカ年の者が脱退した、こういうように仮定してみまして、その場合に平均標準報酬月額が四千円といたしますならば、大体六千六百六十七円というのが今までの脱退手当金になるわけでございますが、今回の改正案によりますと、僅かに二千四百円ということになるわけでございます。これでは実は余りひどいと思うのでございます。いろいろ理由はあると思うのでございますが、余りひどいと思うのでございます。今仮に被保険者が最初から引続いて同じ報酬月額であると仮定いたしましたならば、本年から支払つております保険料が一千四百四十円になるわけでございます。御承知のように保険料というものは、労使がそれぞれ同額ずつ払うことになつております。そうしますと使用者から払われた分はそつくりどこかへ行つてしまつておる、こういう形になるわけでございます。申すまでもなく使用者はよその者のために保険料をかけておるのではございません。その被保険者のために、自分の労務者のためにかけておるのでございますが、それが実はどこかへ行つてしまう、こういうことになるのでございます。そこで何と言いましてもさような意味合いからいたしまして、私は脱退手当金につきましては、現行通りにしてもらいたい。成るほど女子につきましては今までは結婚、分娩という条件が付いておりましたが、今度はこれは付かないことになつております。併し女子は結婚、分娩は通常これはつきものでございまして、必ずこの機会が来るのでございまして、それを条件がなくなつたということは、これは理由にならないと思うのでございます。従いまして私はこの脱退手当金制度は是非とも現在のままの支給額にして頂きたい、このように申上げたいと思うのでございます。そこで脱退手当金につきましては、これは当局の説明によりますと、変則だと言つておられます。確かに変則だと思うのであります。そこでそれならばどうすればよいかということでございますが、私はこれは社会保険制度が統一整備されたときに、そうして例えば被用者が被用者でなくなつた場合にはすぐに例えば国民年金制度に一つ切替えるという、こういうことができましたならば、もはや脱退手当金制度も要りませんし、脱退そのものもなくなるのではないか、そういうような時期になりましたならば、これは当然脱退手当金制度は廃止すべきである、かように考えておるのであります。  そこで最後に、是非申上げておきたいことがあるのでございます。只今私が言いましたようなことを実際やつてみます場合におきましては、いわゆる保険財政そのものが、何と言いますか赤字になるわけでございます。これは勿論来年の予算に赤字になるというわけではございませんが、財源計算が成り立たない、こういうことになると思うのでございます。恐らく当局におきましてはその点を特に力説されるだろうと思うのでありますが、私はその点についてかように思うのでございます。成るほどその通りでございまして、少くとも保険制度を考える場合におきまして、財源計算のできないような保険制度というものはおよそ考えられないことでございます。併し少くとも先ほど言いましたように、これをどのよに考えるかということでございますが、今のような中途半端な出考え方をするからして非常にむずかしい、従つて保険制度を統一整備したときにこの財源計算ももう一回やり直す、そうしてその場合におきましては国庫負担も或いは現在の一割五分或いは二割というものを引上げて三割程度に上げて頂くということも一つの方法でございましようし、なお且つそれでもできない場合におきましては、当然保険料というものについても考慮をしなければならない、このように考えるのでございまして、その期間は少くとも私は三年ぐらいの間に社会保険の統一を一つ考えて頂きますれば、そうして財源計算も確立いたしまして国家百年の大計をその際に立てて頂いても遅くはなかろうか、又今までかような方法をとつて来られた経験もあるわけでございます。例えば脱退手当金制度等は顕著な例でございまして、今それができないとうこいとは私はないのではないか、とのように思うのでございますで、そのような意味から言いまして、実は今申上げたようなことは決して何といいますか、そう無理なことを申上げておるのじやない、こういうように考えております。なお財政が赤字になると言いましても、ここ一年間に炭鉱の実は養老年金の該当者が約三千人ほどかと聞いておりますが、七百億乃至それ以上ある積立金があるのでございますから、差当り来年や再来年に破綻が来るということは当然これは考えられないことでございます。このように思うのでありますが、そこで私はその際に一つ是非ともお願いしておきたいことは、先ほども言いましたように、社会保険の統一ということをこの際是非一つ当院の権限において何とか一つ政府に責任を持たすようにして頂きたい。少くとも三万年以内ぐらいには日本社会保障制度、而もこの社会保険制度を一つ統一いたしまして、被用者のうちの公務員であろうと或いは一般民間産業の労働者であろうと、一つどこにおつてもこの制度の恩典に浴せる而も均衡のとれた制度とする、こういうふうなように一つ考えて頂きたいと思うのであります。その際には先ほど言いました財源計算もしつかりして、そうして国家百年の大計を立てて頂きたい。  それからいま一つは、この積立金運用でございますが、現在大蔵省のほうで思うようにこれをなぶつておるような状態でございますが、是非これにつきましては特別な金庫制度でも一つ設置して頂きまして、そうして被保険者みずからが積んだこの金につきましては、被保険者のための厚生、福祉或いはその他の資金の還元融資というような制度を設けて頂きまして、そうして今のような政府の一方的な専断を許さないように一つして頂きたい。是非ともこの二つをこの法律改正に附随いたしまして、当院の権限において何とか御善処が願えないか、かように思う次第でございます。   —————————————
  34. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは次に、日本海員組合福祉対策部長西巻敏雄さんにお願いいたします。
  35. 西巻敏雄

    公述人(西巻敏雄君) 今日の公聴会厚生年金改正に関する公聴会でございますが、私は厚生年金法を基礎といたしまして存在しておる船員保険法の改正問題について若干の意見を述べたいと思います。但し、船員保険法のほうは原生年金法と違いまして総合保険であり、健康保険並びに厚生年金更には失業保険労災保険といういろいろな保険制度を総合したものでございますので、私の意見は若干厚生年金保険法以外の問題についても触れることがあろうかと思いますが、御了承を賜わりたいと考えます。  今回の改正の中心は、何と言いましても老齢年金制度に関する問題でございますので、先ず老齢年金につきまして若干の意見を申上げたいと考えます。  第一に年金の額の問題でございます。昭和二十五年の十月に社会保障制度審議会が吉田内閣に対していわゆる第一次勧告をしたのでありますが、その当時年願二万四千円程度、月額二千円程度老齢年金額がどうしても必要があるという意味の勧告をしたわけでございます。当時の物価に比べますると、今日の状態からいうと、現行では大体月額三千円年願三万六千円というのが今日の年金最低額というふうにこの勧告の線からは出されて来るわけであります。今度の改正案につきまして、社会保障制度審議会が諮問を受けましたその答申にも、大体において三万六千円程度のものを保障する必要ありという勧告を、答申をいたしました精神は、やはりその面に立脚をいたしておると思うのであります。ところが今度の改正案によりますると、年金額はどの辺になるかと言いますと、先ほど関宮氏が申上げましたごとく、定額制報酬比例制を加味したという構想につきましては、私は社会保障制度審議会の定額制一本、それに比較いたしますると、遥かに現在の労働者の気持にマツチしたものであろうと思いまして、この点は賛成するわけであります。併しながら現実にフラツト制一万八千円にプラスーカ年百分の五を加えるという政府原案が、一体我々労働者に対して現実にどのくらいのものを約束するかということになりますると、若干私は疑義があるのであります。政府が参考資料として示されたものによりますると、平均標準報酬が一万円の者が大体年額三万円、一万五千円の者が三万六千円ということに相成るのであります。併しながら実際にその船員の部面におきまして、平均標準報酬が一万五千円になるような人々があるのかどうかということになりますると、これは一応夢のような世界の問題であるわけであります。と言いまするのは、少し細かくなりまするが、船員保険法ができたのは昭和十五年、十五年から二十年までは、最低十五円から最高百五十円、二十年から二十一年までは最低二十円から最高二百五十円、二十一年から二十二年までは、最低三十円から最高七百五十円、ことごとくこされは非常に低いのであります。更は二十二年から二十四年の間は五百円から八千円、二十四年から二十七年までは二千円から二方四千円、二十七年から現在までは大体最高三万六千円というのが標準報酬であります。従いまして、これらのランクの中で最高の者、つまり昭和十五年以降二十年まで、最高百五十円の標準報酬を納めていたクラスは、これは言うまでもなくその当時の船長であり、或いは機関長というような、最高のランクの人々であります。その後又最高二百五十円から七百五十円というような、今から考えますと、非常に低いような標準報酬でありまするが、その当時の最高標準報酬を納めていた人々は、悉く船長或いは機関長クラスであります。そういう人たちが全部最高のところだけを辿つて来たというようなときに、初めて一万五千円という平均標準報酬が考えられるのであります。併しながら現実にそういう人々は、今日戦争の犠牲になりまして、殆んどいないのであります。それならば、而もその一万五千円という平均標準報酬が一体どうして出るかというと、今度の政府改正原案にありまするように、四千円以下の人人をことごとく四千円として見る、そういうときに初めて一五千円という数字が出る。そういたしますと、曽つて百五十円、二百五十円、七百五十円という、今から考えると低いような標準報酬でありましたが、その標準報酬を払つていたいわゆる船長クラス、機関長クラス、それは今日三万六千円のクラスなんです。それをことごとく四千円にしようというのが現在の改正原案であります。このことが如何に不合理であるかということは、これは申すまでもないと思うのであります。然らばその四千円という、四千円以下のものを四千円として計算するという制度が、これは一面において甚だ特典のように考えられておりまするが、実はこれは特典ではないことは今申上げた通りであります。実際にこれだけの人々が、船長なり或いは機関長なりという人々が、当時において七百五十円納めていた、或いは二百五十円納めていたということは、当然今の経済事情、社会事情から言うと、三万六千円として計上するのが私どもは至当だと考える。それをことごとく四千円として計算するというところに、平均標準報酬というものを非常に圧迫をしてしまつて、非常に低く計算せざるを得ないという弊害が出て参るわけであります。今申上げましたように、それほど低いところのランクの人々を、四千円として計上するということは、今日完全積立金方式をとつておる長期給付の計算方式から行きますると、結局曽つて百五十円納めていた者が、今日四千円として計上される、当然そこには積立金の上においては厖大な赤字が予想されるのであります。一体これは何人が負担するのであるか。国庫負担するのなら、私どもはこれは非常に結構だと思うわけであります。併しながら、その点甚だ明確を欠いてるのであります。これが今後被保険者がかぶるといたしますると、それは非常にその不合理を生ずるものと考えます。私どもはそれには絶対反対なのであります。  それをらもう一つは、定額制とフラツト制という、定額制と標準報酬比例制というものを加味した今度の年金制であるということは、先ほど申上げた通り、私どもは賛成なのであります。そうなつて来ますと、これは当然料率に影響が来るんではないか、今までのように報酬比例オンリーの年金制であるならば、標準報酬に対して特定の、一定の料率を付けるだけで以て事足りると私は考えるのです。併しながら年金額そのものに定額制があり、それにプラス報酬比例であるという場合においては、定額制にマツチするところの標準報酬部分については、或る程度高い料率というものが課せられていいのではないか。その上に、今度は報酬比例の分については、これは成る程度低いものに課せられるべきではないか。一方において受けるべき年金額が定額制報酬比例という二つの要素を加味しながら、標準報酬に対する保険料率という面については、全然考慮が払われていない、一本であるという姿は私ども納得ができないのであります。  それから次に経過措置の問題でございます。今度の年金法改正につきましては、受給年齢の引上げを行なつております。五歳引上げを行なつております。船員保険で言いますと、従来五十才で受けられた者が、五十五才にならねければ受けられない。但し経過措置において、約二十年に亘つて漸次被保険者の利益を害さないように修正するという措置が講せられておる。これは間宮さんの申上げましたように、今日五十歳を五十五歳に上げる、或いは厚生年金保険において五十五歳を六十歳に上げるということは、これはいわゆる平均年齢が伸びたということが基本的な理由であるように考えるのです。併しながらそういう平均年齢が伸びたということと、労働年齢が伸びたということは全く違つた問題で、今日労働年齢といいますか、我々被保険者にとつては、最も重要な問題であろうと思う。而も日本における労働年齢というものは、一方においては労働力が過剰であるという絶対的な不利な条件下に労働者が置かれておる。一面において、停年制というような問題によつて、いわゆる使用者側の選択の自由という問題から、そこにやはり大きな重圧を課せられているわけです。而もこの過剰労働力という問題につきましては、今後近い将来において解決の見込はございません。むしろこれはますます我々労働階級の生活を圧迫する要素となるという可能性こそあつても、それが緩和される可能性は毫末も見出されないのです。而も経済の再建といい、企業の再整備というような形におきまして、給料の高い高年齢の者が、給料の低い低年齢の者に置き替えられて行くという趨勢は、これは我々が幾ら反対しても、反対の力というものは、それをチエツクするほどに強まるとは考えられてないのです。そういたしますると、労働の年齢というものはますます低くなる危険性こそあつても、決して高くはならん。一方においてそれでは使用者側が停年制をもつと引上げるという約束をするかと言いますと、如何なる使用者といえども、停年制の引上げというようなことには、それほど勇敢な態度を示さないのが現状であります。そういう実情からいつて、労働年齢というものはますます我々に対して不利な条件になつて来る。而もその問題を見ずして、単に一般の平均年齢が高まつただけで、引上げるということは、我々としては納得いたしかねるのです。そこで経過措置につきましては、その意味から言うと、絶対反対でありますが、仮に百歩譲りまして、こういうような経過措置がどうしても講せられるような条件が生み出されるということになるならば、結局船員保険で言うと、五十五歳において云々という基準よりも、五十五歳という一つの目標は目標として定める、併し五十歳というものについて若年支給の方法を講じて、五十歳において若年支給で以て受け得る老齢年金額というものを、極めで合理的なものにし、労働者の利益にマツチするようにする、そういう方法を講ずることがむしろ妥当ではないかと考えるのであります。  それから船員保険厚生年金保険法との、この老齢年金部門における関係を若干申上げたいのであります。船員保険法のほうは、被保険者総数といたしましても僅かに十二、三万であります。従つて、陸上の厚生年金保険法に比べますると、その組織の範囲というものは非常に狭いのであります。そのことがともすると軽く見られる、或いは言葉を換えて言えば継子扱いにされるという傾向がないとは言いかねるのであります。今日の厚生年金法の根本的な改正につきましては、これは御存じの通り、陸上の坑内夫の諸君の中に約三千名の受給資格者ができたために、どうしても改正を必要とすることになつたというのであります。併しながら、厚生年金保険法といい、或いは又船員保険法の中の長期部門のいわゆる老齢年金にマツチする部面におきましては、これは根本的に考え方は一つであり、一つの基礎の上に立つておるわけであります。今日坑内夫老齢年金の受給者ができたからと言つて根本的な改正をするという考え方に私は反対ではないのでありまするが、それならばなぜ昭和二十六年に船員の中にすでに老齢年金を受ける資格者が出たときに、厚生年金保険法と関連して根本的改正を考えなかつたかという問題なのであります。今日まで約三年の間は船員の中でできた老齢年金の受給者は二万四千円という低額を支給されまして、これを以て暫定的措置を講ぜられて来たのであります。これはともすると厚生年金保険法船員保険の中の老齢年金部門の措置とは一致したものであるということが論せられるのでありますが、それならばなぜそのときに一緒にやらなかつたかという点に私どもは非常な不満足さを感じておるのであります。  この不満足さは、今回の改正につきまして、厚生年金とは若干異りまするが、船員保険法の中で健康保険に関する部面の一給付といたしまして分娩給付が創設されたのであります。これは今日まで船員保険法にその種の給付がなかつたことは甚だ片手落ちであつて、今回創設されたことにつきまして、私ども非常な賛意を表するのであります。併しながら陸上の健康保険法におきましても、分娩給付のいわゆる保育手当或いは家族の分娩費というものが非常に低くて、現状にマツチしていないということについては、厚生当局も十分御存じのはずなのであります。今回船員保険に分娩給付が創設されるという機会においてこそこの矛盾を解決して、むしろ分娩給付は現物給付を中心とする、或いは今日の保育手当のごときは一カ月二百円というような、これはお話にもならんような低額を、むしろ二倍、三倍に引上げるという措置を講ずるのが当然なのであります。ところが、これ又船員保険法というものの持つ範囲、或いは組織の範囲というものが非常に狭い、非常に軽く見るという結果から、健康保険法で改正をするまでは、矛盾は知りながらも船員保険法の中でそのまま持つて来ておる。船員保険法の改正に当つて分娩給付を創設するならば、健康保険法の改正に相通ずるような改正をなぜこの分娩給付にしないか。私どもはこの面におきましてもやはり船員保険法というものがともすると非常に軽く扱われているという点に不満の意を表せざるを得ないのであります。  それから更に問題は、船員保険法の中の問題ではありまするが、厚生年金と異つた失業保険の問題に若干触れたいのであります。今度の改正におきまして、船員の失業保険に関する料率、これは或る程度の引下げを見たのであります。私どもは引下げをすることが少くとも海運界における現状にマツチすると考えて、引下げに賛成したのであります。併しながら、この引下げというものは、何も船員保険において引下げたのではなくて、すでに陸上の失業保険において料率の引下げが断行されていたために、それにならつて右えならえという形で引下げが行われたのであります。併しながら、今日の日本経済事情を見まするとき、今後ますます失業者は増加する一方であります。失業保険に関する積立金が或る程度確保されていて、初めて今後予想される大量の失業者に対する給付保障されると私どもは考えるのであります。そういう際になせ引下げを断行して積立金を減らすことを考えるのかという点に不満を感じておるのであります。  更に又、今日日本の失業者の一番困つておる問題は、失業中に傷病に罹つて保険給付を受けたいと思いましても、全然その法的根拠がない。失業中は、医者にかかつたら自費であります。社会保険審議会におきまして船員保険改正問題を論じましたときに、失業保険の部面におきましては、失業中に起つた失業者の医療給付という問題を取上げまして、できるだけ早くこれを具体化するように政府要請することに、労使といわず、公益委員、満場一致を以て決定いたしたのであります。こういうような料率を引下げるというような余裕が考え得るならば、この中で当然この種の医療給付というものが考えられて然るべきものであると私どもは考えるのであります。この点は厚生年金保険法改正を取扱つておる厚生委員会の分担事項ではないかもわかりませんが、そういう意味の決議を然るべき委員会に御回付あらんことを私は切望するのであります。私の船員保険に関する公述はこれで終りたいと思います。   —————————————
  36. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは次に、日本鉱業協会の総務部長の北里忠雄さんにお願いいたします。
  37. 北里忠雄

    公述人(北里忠雄君) 私は一昨年以来社会保険審議会におきまする改正審議に関与いたしました者として、この法案を拝見いたしまして感じますことは、当局のこの改正に対する態度は、余りにも非民主的であり、独善的であると言わざるを得ないのであります。これについてはいろいろ申上げたいことがございますが、すでに過ぎ去つたことでもございますし、時間の関係もありますので、本日はお耳を汚すことを差控えたいと思いますが、ただ一言申上げたいのは、先に厚生大臣から諮問されました改正原案とここに上程されております改正法案とは、その大綱において殆んど大差がないと思われるのであります。特に私どもが強く要望し主張して参りました重要な諸点につきましては、たまたま内閣の制度審議会の答申と同一の線であり、且つ又世論もこれを支持しておるのにかかわらず、全くこれらが無視されておりまして、依然として原案が固守されておることであります。私は決して厚生年金改正に反対しておるものではございません。世上往々私どもの態度に対しまして、原生年金の否定論者であるとか、或いは社会保障の不能論者であるといつたような曲解なり誤解をされておる向きもあるようでありますので、あえて申上げたいのでありますけれども、我々といたしましては、むしろ積極的に現機構下におきまする社会保障制度の前進確立を要望いたしておるのでありまして、ただ漸進的に被用者に対する社会保険制度統合調整することこそ、刻下の急務であると信じておるのであります。これは過去数年来に亘りまして、経営者側が表明して参りました態度並びに見解等を通じて明らかなところであると存じております。殊に社会保険統合の問題につきましては、昨年九月たまたま政府の行政機構の整理改革の進行の途上におきまして、具体的方策を政府並びに関係方面に建議をいたしまして、御考慮を煩わしましたことも御承知の通りでございます。申上げるまでもなく、これは現行社会保険制度の不合理、不均衡、非能率等の諸欠陥を速かに是正をして、これによつて生じます冗費を給付の充実に向け、公平且つ適正な社会保険制度たらしめることが、労働者はもとより国民の期待に副うゆえんであり、今日はその最もいい時期であると確信をいたしておつたからでありますが、今日もなおその急速なる実現を切望して、望んでやまないのでございます。而も厚生年金は言うまでもなく、社会保険制度における根本的な地位にあるものでありまして、長期社会保険という性格から申しましても、これが根本的、全面的な改正経済的に又社会的に与える影響が至大でございますので、できるならば社会保険統合の際に、厚生年金の根本的な改正が行われることが望ましいということを主張し続けて参つたのでございますけれども、急速に実現せられない現在、私どもといたしましてはこの影響を最小限度に食いとめるほかはないのでございまして、これがためには従来養老年金以外の各種の年金に対して、応急的措置が変則ではございますが行われましたように、今回は坑内夫の養老年金に対する応急暫定的な措置が講ぜられることがこの場合は適当である。そして根本的、全面的な大改正は、前に述べましたように統合の時期までに十分の準備を整え、研究を遂げた上で実施すべきであると考えておるのでありまして、これは間宮公述人からも先ほどお話になつたと同一の考え方であると思います。併しながら四囲の情勢から本法案に見られますように全面的改正をどうしても強行されようとするならば、私どもといたしましては甚だ不本意ではございますけれども、少くとも今申述べました社会保険統合化に目標を置いてこれを妨げない方針の下に、言い換えれば、目標と繋がる線上において改正されるということが、将来厚生年金が総合的な社会保障制度に発展し、又これに通ずる道であるというふうに確信をいたしておるのであります。  然るに改正法案は、第四十三条に養老年金の構成について、定額制報酬比例制との二本建を規定をしております。遺憾ながら労働者側とこの私においては意見が一致しないのでありますが、私どもといたしましてはこの方式は只今申上げました方向に逆行することを、あえて採用されておるということを甚だ遺憾に思うわけでありまして、必ずこれが将来に禍根を残すものと思うのであります。この報酬比例制の加味は、社会保険審議会の答申にも私ども主張が縷々掲げられておりますので、あえてここで重複して申上げる必要はございませんけれども、その要点をかいつまんで申上げますならば、二十年、三十年の長期間に互つて過去の報酬を記録し、その平均値を求めてみましても、一旦インフレが起りまして貨幣価値が下落をいたしますというと、全く無意味になつて年金支給の趣旨に反すると思うからであります。  第二の点は、このような記録事務が如何に事務を複雑化し、そのために整理をするだけでも三千人の人を新たに雇い入れるようなことが予想されることを考えますと、徒らにこういう事務のために冗費を使うというふうな結果にも相成りまして、事務の簡素化の趣旨に反すること夥しいと思うのであります。又国庫負担の関係から申しましても、報酬比例によつて高額者に厚く国庫負担が行き、低額者に薄いということは、社会保障制度の趣旨にももとると思うのであります。これに対して定額制社会保障制度が最低限度生活保障するという目的に照してみましても、その趣旨に合致するものでありますし、又事務の簡素化にもなるのであります。更には企業におきましては大多数が今日退職金制度を多かれ少なかれ持つておるのでありまして、この退職金制度報酬比例という形で普遍的に行われております日本の実情から申しますと、あえて養老年金報酬比例をとり入れるという必要はないかと思います。これに対しましては当局として従来の建て方が報酬比例であつたのを一挙に定額制に変更することは実情に合わない。又労働者の感情に反するといつたような理由が挙げられておりますけれども、決して我々はこのようなことを無視するものではございませんけれども、もつと広い視野に立つてこの問題を考えて頂きたいと存ずるのでございます。このことは今次の内閣の社会保障制度審議会の答申にもやはり労使公益の意見として答申されておるところによりましても、我々のこの考え方が独断ではないということがおわかりになつて頂けると思います。従つてこの給付は現在の生活保護法の意味合から申しまして、大体二千五百円程度定額として日本の実情に合うものであり、これも将来の経済の変動によりましてはスライドすることにすれば、社会保障の目的にも合致することになるというふうに思うのでございます。  ところで今回の養老年金の支給が開始せられます坑内夫に対しまして厚生省の推算では、約三千二百乃至三百、こういうことになつておりまして、勿論逐年増加はいたしますけれども、この数字の根拠について我々は甚だ疑問を持つておるのでございます。昨年御承知のように炭鉱におきましては企業の大整理を行いました。停年者或いは高齢者を相当多数整理いたしたのでありますが、この三千何がしの数字は一年前の推算でございまして、今日これを根拠にして坑内夫に対する養老年金の支給予想額が立てられておることは甚だ不可解に存ずるのであります。恐らく今日では著しくこの数字を下廻つたものが出ておると私は想像しておるのでございますが、今ここでこれを反証する資料を持合しておりませんので、どうかこの委員会におかれましてもこのような点について十分の御調査を頂きますならば、大変仕合せに存じております。  このことを申上げますのは、今日この僅かな受給資格者である坑内夫の養老年金が発動されたということによつて、何故にこれほど保険料の増徴をしなければならないかということであります。で、仮に坑内夫が三千人の受給資格者であるといたしましても、これに対する養老年金の支払総額は、推定によりますというと、二十八年度たかだか一億を上らないのであります。これに対して七百五十億に余る積立金の利子は十五億くらいと計算するのでございまして、この利子だけでも十分初年度の養老年金は賄い得るということは明らかであります。これはほんの一例でございますけれども、その他年を逐つて考えてみましても、そう最近のうちに保険財政の破綻を来すような結果になるとは私どもは考られません。そこで、私どもは標準報酬の一万八千円の枠の引上げにつきましては、諸般の事情から止むを得ないことと思つておりますけれども、これによりまして企業負担が約五、六割も増額され、又企業により零しては約倍額に上るような負担を新たにかけられるということに対しましては、御承知の通り現在コストの引下げに企業があらゆる努力を払つております際、又資本蓄積が今日ほど必要である時期はないと痛感されております現状におきまして、どうしても納得のできないところであります。政府は、この法案の理由にも謳われておりますように、長期保険である以上は、健全な財政計画を将来に向つて確立するという必要があるということでありますけれども、先に社会保険審議会に持ち出された原案の根抵に横たわつております計算上の数字をお聞きいたしますというと、二十五年後には一兆三千億の積立をするという構想なのでございます。誠に空恐ろしい感じがいたすのでありますが、私どものほうの専門家が試みに別の方式を使つて計算をいたしてみますというと、予定利率五分五厘で国庫負担給付費の二割、まあ現在は一割五分になりましたけれども、二割と一応見込み、八千円に標準報酬現状通り据え置いて、十年間は二%、料率が二%、十年後に三%、現状の料率にしてさえも、保険収支の均衡がマイナスになりますのは、十九年後の昭和四十八年度でありまして、そこにおきましても積立金は四千五百五十一億円になり、その利息収入で収十又の不足額を賄つてなお残額を生ずることになります。従いまして積立金はそれ以後増大をいたしまして実施後二十三年目、即ち昭和五十二年度において初めてピークになり、積立金は五千三十六億というふうに勘定されるのでございます。このように二十年、三十年の先の百年の大計と申しますか、これを今から憂慮して立てることは決して悪いことではないとは思いますけれども、我が国経済の不安定な状態では、こういう長期保険を今から健全に立てるということ自体が甚だおかしなことであり又危険でもあります。保険数理の幻影といつたようなことが言われているのも無理からんこであると思います。この点は法案の八十一条の四項には少くとも五年ごとに数理の再計算を行うということになつておりますので、只今申上げました積立方式修正賦課式か或いは修正積立式と申しますか、そういうものに改められたように感ぜられるのでありますが、それならば今日負担の軽減措置を講じても、その収支のバランスは将来の計算によつて十分調整されるはずでありますし、財政の破綻を来すというふうな虞れはないと考えられます。  それでこのような見地からも八千円以上の者に対しては例えば二%の料率を適用するというふうに逓減の率を以てこれに対処して頂き、高額所得者に対して給付定額制とする関係から申しましても、このような方法を講ずることが適当ではないかと思うのでございます。これは一応面倒のように考えられますけれども、税金の早見表のように一表にまとめて見れば極めて簡単であります。このような方法を特に御再考を頂きたいと考えるのであります。  終りに、今回給付費に対する国庫負担が一般の被保険者に対して五分ほど増加されたのでありますけれども、これはよく考えて見ますというと、労使が醵出いたしました保険料積立金の大蔵省における余剰利息が国庫に繰入れられておりますので、これが還元されたようなものでありまして、当然であるというふうに私どもは考えられるのであります。先ほどもお話がありましたように、この際大蔵省の資金運用部の積立金運用方法を民主的、効率的に改めるという時期であると考えますがゆえに、この委員会におかれましても特段の御配慮を頂きたいと特に切望いたす次第であります。同時に、現在におきましても莫大な積立金を擁しておりまするので、これが関係者の福祉増進施設への利用還元といつたようなことに対しましてし、御善処を頂きますように御配慮を煩わしたいと考えるのであります。  以上基本的な態度、或いは法案の特に要望したい点について申上げたのでございますが、その他法案についていろいろな点、若干の意見を持つておりますけれども、時間の制限がございますから、本日はこの程度公述を終らして頂きたいと思います。   —————————————
  38. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは只今までの三人の公述人に対する御質疑を願います。
  39. 藤原道子

    ○藤原道子君 ちよつと速記をやめて。
  40. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  41. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 速記を始めて。  それじや私から、ほかにないようですから、ちよつと間宮さんにお伺いしたいのですが、午前中にちよつとそういう問題に触れたのでありますが、例の五人以下の事業場、との本改正案にも除外されておるのでありまするが、これは労働者方面としては五人以下の事業場を本案に含めるというような点についてはどういう御意見でありますか。
  42. 間宮重一郎

    公述人間宮重一郎君) 五人以下の事業場にも拡張して欲しいということは、これは先ほどの公述で言い落しましたけれども、私ら切望しておつたところなのであります。ただ若干心配申上げるのは、今それだけの、何と言いますか、準備が当局にできておるかどうかということを実は心配しておるのであります。それができましたならば、是非今回の改正の中へ一つ入れてもらいたい、かように存じます。
  43. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それから北里さんにお伺いしたいのは、五人以下の事業場にも厚生年金法が適用される、こういうことになりますというと、これはどうしても五人以下の職場というものは賃金も安いし、経営もなかなか困難だと、こういう立場にありまするので、第一問題になると思われる点は、これは労使保険料負担がなかなか困難だと考えられるので、これをそういう事業場にまで適用するということになれば、どうしても国庫負担増額するということが重要な課題になつて来ると思いまするが、この辺の事情はどうでございましようか。
  44. 北里忠雄

    公述人(北里忠雄君) お答え申上げます。私どもといたしましても、社会保障の趣旨から申しまして、むしろ五人以下のような低賃金者の生活の救済ということが大切であろうと思います。併し今委員長からお話のように、日本の実情では零細企業に属しますので、これらの人の労使負担ということを差当り考えますると、所期のようには行かないのではないか。殊にその徴収に至りましては、現在のところでは殆んど不可能に近いことではなかろうかというふうに考えられますので、この法案の趣旨もその辺の実情を考えられて、一応の限界というものが切られておるというふうに察するのでございますが、然らばそれらをいつまでも放つておいていいかというと決してそうではないのでありまして、やはりこれは今お話のように国家の補助を仰いで、これらを一日も早く救済するような途る講ずることが必要であろうと存じております。
  45. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それから西巻さんにちよつとお伺いしたいのでありますが、船員保険は船員全体でございますか。一人洩れなく包含しておるのですか。
  46. 西巻敏雄

    公述人(西巻敏雄君) どうもそういう御質問をされると甚だ答えにくいのですが、法律の建前から言うと、船員法の適用を受けておる船員は全部強制適用です。併しながら現実に船員法の適用を受けておるのは約十四万か、十五万あると考えます。併しながら船員保険現実の被保険者になつておるのは十二、三万じやないか、約一万くらいの開きがあるのじやないかと考えられます。併し建前は全員強制保険の被保険者ということになつております。
  47. 上條愛一

    委員長上條愛一君) そうすると、実際としては船員であつて船員保険法の適用から洩れておるものは、実在は一万か二万あると、こういうわけですね。
  48. 西巻敏雄

    公述人(西巻敏雄君) そのくらいはあると思います。
  49. 竹中勝男

    ○竹中勝男君 ちよつとそれに関連してでございますけれども、西巻さん、船員保険の対象となる雇用関係といいますか、五人未満というふうなことがあるのですか。全員ということは、そういうことがないということなんでしようけれども、事実上は五人未満を雇用しているというふうな、そういう関係がございますか。
  50. 西巻敏雄

    公述人(西巻敏雄君) 実例といたしましては、船員法の適用を受ける船舶といいましても、非常に小さいものもありますが、大体トン数を五トンに切つております。従つてそのボーダーラインに属するところに行きますと、或いは五人以下というところも若干あるのです。
  51. 竹中勝男

    ○竹中勝男君 ああそうですが。私は午前中止むを得ないことがあつて、丁度質問のときに出ておつたものですからあれですけれども、多少関連することがあるのです。今度は北里さんにちよつとお伺いしたいのでありますが、午前中に湯淺さんにもお伺いしたいと思つたのですが、同じ資本を代表する方としてお尋ねしたいのですけれども、現在コストを引下げなければならない時であるし、資本蓄積をしなければならない日本経済の重要な時に、この厚生年金保険法を今度のように改正する場合に、資本家の負担というものはどれくらい増加になると先ず見られておりますか。
  52. 北里忠雄

    公述人(北里忠雄君) 只今の御質問にお答えを申上げます。現在大体厚正年金の二十八年度におきます保険料の総額が百九十二億ございまして、二十九年度が三百三十三億ということになつております。それで基本のこの保険料の只今申しました数字の差額の中に、新規の増加或いは適用範囲の今回の拡大によつて五十六億増加するということでございまして、結局標報の引上げによる増加分が約八十五億ということに相成ります。これは労使の両方の保険料でございますので、企業負担いたしますのはその半額、四十二億五千万円でございますか、これだけのものが新たに今回の改正によつて増加する分でございます。
  53. 竹中勝男

    ○竹中勝男君 まあ一面から言えば、これは確かに資本負担になつて来るわけですけれども、日本経済国民経済の上から考えれば、やはりこれが労働者に年金保険の形で入つて行くという、給付の形で入つて行くというときには、それがやはり一つの有効需要を作つて行くために、資本主義そのもの、日本資本主義というより日本経済そのものにやはりプラスになるという考ふ方はされませんですか。
  54. 北里忠雄

    公述人(北里忠雄君) お答え申上げます。只今の御質問ちよつと私趣旨がわからないのでございますけれども、今度の引上げの理由の一つに、インフレの抑制だ、強制貯蓄をすることによつてインフレを抑制するんだということが言われておりますが、こういう観点からいたしますとむしろ購買力を減退させるということになるのじやないかと思いますが、今の御質問は私はそういうふうに理解いたしております。
  55. 竹中勝男

    ○竹中勝男君 インフレが進行しておるときには、確かに購買力を制限するというデフレ政策に役立つと思いますけれども、併しそれは、殊に購買力が水準以下の人たちですね、そのいわゆる貧窮層の……貧窮層という言葉は工合が悪いですけれども、下のほうに購買力が廻うて行くということは、何もインフレを促進しない、むしろ健全な有効需要を作つて行くというふうに解釈して行けば、社会不安というものを除去して行く、即ち現在の経済が成り立つておる労働力を破壊せずにそれをまあ温存しておいて、或いはプールしておいて、又資本がそれを使うことができるわけで、そういう意味において現在の国民経済を再生産して行く上の機構だというふうに社会保障制度を解釈して行けば、一方に資本蓄積が、それが制限されるという考え方も成り立つと思うのですけれども、他方にはやはり今日の資本をそういう意味で強化して行くというふうにも考えられると私は思うのですけれども……。
  56. 北里忠雄

    公述人(北里忠雄君) 只今のようなお話御尤もでございますが、現在の厚生年金制度におきましては、私は実はさように考えていないのでございます。と申しますのはこれは七百三十万或いは一千万に上る勤労者に対して養老年金が発動されるその大部分がそういう年金の恩典に浴しておるということでありますならば、そういつたようなことも或いは言えるかもわかりません。併しながら現在では先ほど申上げましたように大部分の勤労者に対する養老年金は九年後のことでございまして、目下のところはほんの九牛の一毛に過ぎないような人員にだけこの養老年金が支給される、而もその徴収されるところの保険料というものは、今申上げたように相当多額の金が徴収されております。で撒布される金というものはその中の極く僅かなものでございますから、その関係から申しますと、私は逆ではなかろうかと存じておるのでございます。
  57. 竹中勝男

    ○竹中勝男君 もう一つ伺います。実、は今度新規に八十五億ほど大蔵省の資金運用部には入つて来るわけですね。又これは資金運用部を通して労使に直接関係のある産業に、産業資金として或いは金融の資金として金融面で又資本家にこれは還つて行くのじやないですか、そういう意味でもそれが絶対的に資本にマイナスになるとは私は考えられないと思うのですが、どうですか。
  58. 北里忠雄

    公述人(北里忠雄君) そういうふうな関係から申しますと、一部は確かにそうであるかもわかりません。ただ、只今大蔵省の資金運用部に入ります厚生年金積立金を初めその他の積立金が一括保管されておるわけでありますが、それが果してどういうところに投資されておるかということが問題だろうかと思います。でその内容については私は詳細を存じませんけれども、国債であるとか、或いは公債であるとか、そういう面に主としてこれが投資せられておるのではなかろうかというふうなことも伺つておりますので、そういうことが廻り廻つて民間資本に潤おうということでありますならば、お説の通りだろうと思います。
  59. 藤原道子

    ○藤原道子君 私は間宮さんにお伺いしたいのですが、脱退金の点でございますが、今度改正されますと、女子従業者に対しても不利になつて来るということになると思うのです。そうすると特に女子労働者の多いのは全繊ですね、全繊あたりではどういうふうにこれに対してお考えですか。
  60. 間宮重一郎

    公述人間宮重一郎君) 全繊同盟では今御指摘のように六、七割が女子なんです。この点につきまして非常に重大な関心を持つておるわけです。でこれにつきましてはこの審議の過程におきまして、いろいろ当局の考え方、それから労使考え方に開きがございます。使用者のほうは特に任意加入制度にしたらどうか、こういう意見も出ました。任意加入制度だと労働者が入りたくないと言えば入らなくてもいい。従つて保険料をかける必要もない、こういうことになるわけでございます。そうしますと、これは私どもの考え方では、使用者が保険料半額負担でございますから、これは恐らく何らかの形において入らないように、入らないようにということになるのじやないか。折角の厚生年金保険法が女子は全部抜けてしまうという形になるのじやないか、こういうふうに思つております。これは反対である。又当局の案によりますと、女子特別一時金支給制度を残すということにつきましては、一応女子だけについて考えるならば、それでもいいわけであります。問題はいわゆる支給金額が非常に低額になつております。こういうものにつきましては私ども非常に反対をしております。何としてもやはり今の支給金額をそのままにして頂きたい。それで先ほど言いましたように、金額的に言いまして今度は自分がかける保険金に若干の利息がつく程度になりました。これだけ使用者のほうで積んでおるものは一体どこに行くか。これは成るほど保険制度でありますから危険の何と言いますか、分散ということによつて、大体が長期保険のものを途中でやめて行つた場合、何がしかの不利益があつてもいたし方がないという考え方もございます。併し女子は私どもの計算ではとにかく三年以上勤める者は殆んどないくらいであります。全部が辞めてしまう。而も受入態勢が整えられておらない、これが公務員になれば勿論変ります。大低家庭の人となれば、厚生年金保険がございませんから全部外れてしまう。そうなりますと、殆んど養老年金をもらう対象にならない人が同じ保険料を取られてしまつて、あとはお前は適格でないからそれでおしまいだということでは困る。だからそういう面を一つ考えてもらえば、成るほど前の制度で行きますと非常に有利です。逆にいうと、どつちかと言えば、私率直に申しますと、十分な脱退手当制度だと思いますが、一面これは非常に矛盾があり、不合理があるということがわかりますが、併しそれならば今までの既得権をそれほどに侵さずに一つ均衡のとれるように引上げて均衡をとつて頂きたい。お前が多いから減らすというの、ではどうも今までの政策に対して矛盾があるのではないか、この責任は是非とも政府自体がとつてもらわないと、今までつけたのはこれは間違つておりましたから、これを少し低くするということでは、これはちよつと労働者としては困る、こういうのが全繊同盟の考え方で、結論としては脱退手当金の金額はそのままにして頂きたい。先ほど言つておりましたように、今度は結婚、分娩という条件をやめた、これは何どきやめても同じことになるのでありますが、大低就職する者は新制中学を卒業して出るのですが、必ず結婚、分娩の経過を通ります。だから条件を抜いたといいますのは法律上の字句だけを喧伝されても、これは少し条件をとるのもとらないのも結論的には同じだと考えております。
  61. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それから北里さんと間宮さんにちよつとお伺いしたいのですが、保険料の問題ですが、経営者が負担するという保険料、これの考え方ですが、一面の考え方としてはやはり保険料健康保険もあり、失業保険もあり、いろいろありますが、これはやはり一つの経営者として支出し、又労働者としてこれを考えれば、広い意味で考えれば賃金給与の一部分である、こういう考え方であれば、当然その女子の脱退手当金というような場合に、単に自分の掛けたのだけに利子がつくくらいの給付では賃金給付の一部分である経営者の負担というものは全然考慮されておらない。こういうところにどうも納得の行かない点がある、こういうふうに考えられますので、こういう点について両氏の考え方厚生年金保険料というものをどういうふうに考えられておるかという問題です。
  62. 間宮重一郎

    公述人間宮重一郎君) その点につきまして私は賃金だとはちよつと考えられないと思うのであります。ですけれども使用者がなせ保険料をかけておるか、何がためにかけておるかということを考えたら、やはり自分の雇い入れている労働者に対する責任上労働者のためにかけておるということだけは、これは絶対に動かない事実と思います。国のためにかけておるのじやない、使つている労働者のために払つている。老年、年寄つてから以後の、或いは障害を受けたときどのように保障してやろうかということについてかけておることは、これは間違いないことであつて、それについて殆んどが他の方面に流れているということであつては、私たちちよつと了解ができない。そこでまあ賃金だとはちよつと考えられないわけですが、併し少くとも労働者が労働を提供して、それから生れて来る反対給付とでも考えるべき内容を含んでおる関係上、賃金と言い切れなくても、賃金に準ずるような性格のものではないか。要は労働者のために出した、こういうことが言えるのじやないか、こう思います。
  63. 北里忠雄

    公述人(北里忠雄君) 只今のお話のように、私も確かにこれは労働者のためにかけておるものだということは疑いないと思いますが、私どものやはりこれは所得税と同じような目的税のようなものではないかと思うのでございます。それで日本の実情、これは先生方に申上げるまでもないのでありますが、やはり福利厚生施設において特殊な性格を持つております。殊に炭坑等におきましては法定福祉以外の福利厚生費でありますとか、法定外福利費、或いは退職金積立金であるとか、そういうものに非常に多額の金をかけているわけであります。そういうものがありますために、つまり本来ならばそういうものを全部廃止をいたしまして、社会保険的なものに改まるということが近代的な姿であると思いますけれども、なかなか現状はそう簡単にそういうものが改まらない。今日におきましては、やはり全部の企業における総支出というものを考えて行かなければならないと思うのでありまして、御承知の通り中には保険料企業が全部負担するところが少くないのであります。法律上は折半になつておりますけれども、これを企業の肩替りでやつているところも少くないのであります。そういうふうなことで今日のような労使関係にあります場合に、保険料が上ることが今度の労働組合の主張にも現われておりますように、上つた分は全部企業がこれを負担すべきであるというような考え方を進めて行きますと、企業負担の加重というものはますます大きくなつて来る。一方退職金制度といつたようなこれに非常によく似た制度があるのでございますが、これも逐年上昇をしておるような現状でありますので、それぞれの点を併せて総合的に考えて行かなければならん問題であるというふうに我々は考えておるのであります。御質問の趣旨に或いは副わなかつたかも知れませんが、賃金と私は考えておりませんことをお答え申上げておきます。
  64. 藤原道子

    ○藤原道子君 ではちよつと資本家側と労働者側と両方に伺いたいのですが、御承知の通り積立金が八百億からあるのですね。これは一方的に運営されている。この間の本会議で、運営方法に関して問題がある、これは当然受益者のために福利厚生に廻すべきじやないかということが一点、それから運営委員会の中に労働者代表が入つていないのはおかしいじやないか、これを入れる意思があるかどうかということを聞いたのです。そうしますと、今までは運営委員でこれをやられておりましたが、事実言われますように労働者の代表は入つておりませんので、そういう御意見が出ましたので、将来は考えてみたい、こういうふうな大蔵大臣の答弁だつたのですが、それが今まで労働者側で、労働者委員が入るべきだということを主張しておいでになつたのですか、これはどうなのでしようか。一方的に任したままで来たのかどうか、将来この運営を改めて行かなければならない、それにはどうするのが一番適当であるとお考えになつておられるかという点をお伺いしたいと思います。  それから資本家側としては、いろいろな人が入つておるでしようけれども、これらの委員の中にどういう人が入つておられるか、資本家側としても労働者代表がこの運営委員の中へ入るのを妥当とお考えになられておると思うのですが、その点はどうだかということをちよつと……。
  65. 間宮重一郎

    公述人間宮重一郎君) その点につきましては、従来はその運営の中へ労働者側委員を入れるとか入れないとかは、余り何といいますか、そこまで考えが及ばなかつた従つて入るということをことさらに日本の労働者団体が主張したことも実はないわけであります。どつちがよいかということは、これは今から言えば当然入つておるべきものだ、こう思うのでありますけれども、そこで併し今のように大蔵省が一方的にこれを運用しておることにつきましては、これはもう相当大きな批判を持つておるわけであります。そこで私たちは先ほどちよつと言いましたように、将来どうしてこれを運用して行くかということでございますが、今のままで大蔵省に握られてしまつて、中へ労働者側委員が入ろうが、使用者側委員が入つておられようとも、これは民主的な運営はできないと思うのです。これは政府の政策によつて動かされる面が大きいし、今の運営委員会の権限がどのくらいのものか知りませんけれども、恐らく諮問委員会の程度のものではないかと思います。御承知のようにこの頃行政委員会の諮問委員会的なものの権限といいますが、これはもう殆んど紙に書いただけでありまして、殆んど効果はない。こういうようなことでは私は将来大蔵省の資金運用部といいますか、そこの資金運用に何がしかの労働者側委員を送り込んだつて、それはもう恐らくミイラ取りがミイラになるに過ぎない。そこで私たちは今後この運用につきましては、別個の特別金庫でも設置してそうして別個の関係に、例えば今の共済組合制度の下における運用でございますね、あのような運用をすべきではないか。そこで労使或いは公益、当局ですね、こういうような委員が本当に、勿論その制限につきましては、そのむやみやたらにどこへ使つてもいいということもできませんので、これは法律で制限を設ければいいので、その範囲内においてその委員会で任意に一つ運用できるようにしたほうがいいのじやないか。その場合におきまして先ほど私は福利厚生施設に還元融資と言いましたが、私この場合もう少し範囲を拡げて、例えば中小企業のこういうような何といいますか、経営が非常に危殆に瀕したときには、私は企業者のほうへも融資をできる途を何がしかの条件をつけて開いてもいいのしやないか。今のようにこの資金は今経営者側の委員の言われるように、殆んど政府最高政策といいますか、例えば軍需工業だとか或いは国債買う或いは公債買うといつた殆んどそのほうへ流れておるわけでありますが、こういう方面に使わずに、本当に労働者が安心して仕事のできるような職場を維持するためなら、私は企業のほうへ融資をする途を開いてもいいのじやないか。そうしますれば今の中小企業の何といいますか、非常に困つておることを救う一つの遂になるのじやないか。恐らくこのことについては使用者のほうでも特に中小企業者の方は御賛成は願えるのじやないかというふうに考えております。私は今後のこの資金運用については以上のような考え方をしております。これは私個人の考え方ではなしに、恐らく労働者全般の支持を得られるであろうと、このように考えております。
  66. 北里忠雄

    公述人(北里忠雄君) 只今間宮さんからお話になつたことと大同小異だと思いますけれども、私どももやはり現在の大蔵省の運用に対しては先ほど申上げたように非常に不合理だと思つております。これついては一昨年社会保険審議会の三者一致の意見で大蔵省に建議をしたことがございます。又経営者側といたしましても大蔵省に折衝を重ねまして、こういう方向に進むように努力をいたして参りました。遺憾ながら今日まで実現しないような状況でございますが私どもが聞き及んでおるところによりますというと、これは厚生年金だけではなくて、資金運用部にあります運用委員会というのが内部にあるようでございます。それは大体各官庁の次官級の方が主な構成でありまして、そのほかに財界からたしか三名くらい銀行の総裁であるとかそういつたような方々が入つておられる。併しこれはただ形式的な運営委員会であつて、我々が期待しておるような委員会ではないようでございます。従いまして私は最終的にはやはり今のようにこれを切り離してやはり別個に現業機関として設け、そこで保険積立金に対する運営もやり又現業も取扱うということが望ましいわけでありますが、一挙に仮に行かないといたしますならば、少くとも現在大蔵省にあるその運営委員会の中から厚生年金積立金に関するものは別の委員会を設けて、そこで労使或い官庁側から同数の者が出席してそうして適正な運営を図つて行く、まあこういうことが最小限度望ましいのじやないかというふうに考えておる次第であります。
  67. 藤原道子

    ○藤原道子君 そこで委員長に私お願いしておきたいことがあるのですが、この間この積立金運営状況をこれがどういう企業にどういうふうに流れておるか、それの回収の状況、その利子、今までどのくらい入つておるか、それから運営委員の実態、これの参考資料をよこせということを大蔵大臣に要求しておつたのでございますが、それはまだ来ておりませんので、督促して頂きたい。
  68. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それじや至急にそのように取計います。  それでは本日の公述人の方に対して質疑をこの程度で打切りたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  69. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。それでは甚だ公述人の方には御多忙中、有意義な御意見をお聞かせ願いまして感謝いたします。私ども本案の審議の上に十分御意見を参考として討議を進めて参りたいと存じます。いろいろ有難うごいました。  それでは本日はこれにて散会いたします。    午後三時三十八分散会