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1954-03-29 第19回国会 参議院 厚生委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月二十九日(月曜日)    午後一時二十二分開会   —————————————    委員長     上條 愛一君    理事            大谷 瑩潤君            常岡 一郎君            藤原 道子君    委員            中山 壽彦君            西岡 ハル君            谷口弥三郎君            廣瀬 久忠君            湯山  勇君            堂森 芳夫君            有馬 英二君   国務大臣    厚 生 大 臣 草葉 隆圓君   政府委員    厚生省公衆衛生   局環境衛生部長  楠本 正康君   事務局側    常任委員会専門    員       草間 弘司君    常任委員会専門    員       多田 仁己君   参考人    東京大学教授  北本  治君    日本動物愛護協    会理事長    齋藤 弘吉君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○狂犬病予防法の一部を改正する法律  案(内閣提出衆議院送付) ○母子福祉資金貸付等に関する法律  の一部を改正する法律案内閣提  出、衆議院送付)   —————————————
  2. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 只今から厚生委員会を開きます。  狂犬病予防法の一部を改正する法律案を議題といたします。本日は本案審査上の参考に資するため、伝染病研究所附属病院長東京大学教授北本治君、社団法人日本動物愛護協会理事長齋藤弘吉君のお二人に参考人として御出席願つて意見を拝聴いたすこととなつております。  参考人方々にはお忙しいところを御出席願いまして誠に有難うございました。この機会に厚生委員会を代表いたしまして厚く御礼を申上げます。何とぞ先に文書を以てお願いいたしましたように、それぞれの角度から御高見の発表をお願いいたします。  なお各委員方々に申上げますが、時間の都合上、参考人方々意見発表終つてから委員方々の御質疑をお願いいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。それでは北本さんから御意見の御発表をお願いいたします。
  4. 北本治

    参考人北本治君) 私北本でございます。私まだ不慣れでございまして、余り勝手をよく存じないのでございます。それで実は何か御質問が出まして、それについてまあお答えをするということのように予期して参りましたので、まとまつたことを申上げます準備が十分でございませんので、その点悪しからず御了承お願い申上げます。私に与えられております題の狂犬病ワクチン製造方法、その効果及び副作用についてということでございますので、順を逐いまして極く概括的に申上げさして頂くことにいたしたいと思います。  狂犬病ワクチン製造方法でありますが、これは歴史的には皆様も広く御存じの通りに、フランスのパストウール研究所の祖であるパストウールが一八八四年にやり出しましたわけでありまして、その後逐次改良が行われて今日に至つておるという状況でございます。もともとはこのパストウール動物実験をいたしまして、動物実験でまあワクチンが有効であるということを確かめました上で人間使つたのでございますが、そのワクチンと申しますのは、動物にわざと狂犬病にならせまして、その動物脳脊髄乾燥減毒いたしたものでございます。つまり苛性加里があります瓶の中に暫く吊して置く、或いは苛性加里の上に乗せて置くというようなことをいたしまして、狂犬病にかかつた動物脳脊髄を要するに乾燥いたしまして、減毒いたしまして、そうしてそれを人間に刺す、こういうわけでございまして、勿論非常に強い毒でありますというと、人間にそれが発病してしまうわけでありますが、医者のほうで申します街上毒というものをだんだんと動物にかけて、それを繰返して参りますというと、いわゆる固定毒と申しまして、毒力が非常に減りまして、併しこの免疫性を附与する力は十分に保たれる。而もそれが早く現われて来るというような性質を持つて参るのでありますが、そういう固定毒を用いましてまあそういうことをやるわけであります。そういうワクチンが連綿と長い間続けて行われておつたのであります。伝染病研究所におきましても、永年の間そのワクチン製造いたしましたり、使用いたしましたりしておつたわけであります。  これが一番最初の製造方法のあらましでありますが、その後こういつた乾燥によつて減毒したワクチンが、効力において不安な点が多少あるというようなことが言われるようになつて参つたわけであります。で、諸家の発病報告等を見ましても、まあパーセントは低いのでありますけれども、大体〇・五%前後の発病者があるというようなこと、殊にこの頭でありますとか顔、頸或いは耳というようなところを噛まれました場合には、非常に毒の脳に達することが早く且つ強くありまして、ワクチン治療いたしましても助からない場合がままあるわけであります。殊に目の玉なんかを噛まれますというと、目の玉の神経を伝わつて脳に入りますせいか、殆んど助からないというような状況でございます。終戦後狂犬が多くなりました際に、折角ワクチンをうちましても、犠牲になる人が相当に出たわけであります。東京都におきましては私どもの承知いたしております一、二の事例といたしましては、杉並区でたしか一個所で五人が一度に咬まれまして、それでその五人が旧来ワクチンを射したのでありますが、そのうち三人が発病して死亡したというような例が終戰後つたわけであります。それでは折角ワクチンに上る治療効果が薄いのでありますので、これでは改良の必要があるということになりまして、伝染病研究所におきまして諸方面のそのような御努力と一緒になりましてやつたのが、不活化ワクチン応用でございます。で不活化ワクチンと申しますのは、これは先ほどの乾燥によつて減毒をするというのから一歩進みまして、この固定毒に対しまして薬品を加えまして、ホルマリンでありますとか、或いはマーゾニンでありますとか、石炭酸でありますとか、いろいろな薬物を作用させまして、病毒を不活化させるという方法であります。でありますからして、この場合におきましてはこの原始的なワクチンに比べますというと、なお一層強力で、而もまあ副作用が少くなるのではなかろうかという見込みで、いろいろ行われたわけであります。ところがこの狂犬病治療実験と申しますものは、なかなか人体の場合と動物の場合とが必ずしも一致いたしませんで、動物実験成績人間応用というわけには参らないのでありますので、旧来ワクチンを使いながらそれにそういう不活化ワクチンを併用いたしますという方法をとつたのであります。これは実は私の前の、前院長の頃にそういうことが大分行われたのでありまして、私はそれをデータの上でお伝え申上げるわけでありますが、そういたしますと、頭を咬まれたり、首を咬まれたりいたしました従来ならばワクチンがしばしば無効に終つたような例にも有効でありまして、犠牲をなくすということに成功したわけであります。  ところが一方におきまして効果が挙りましたと同時に、まあ副作用が今度は目につくというような傾向が現われて参りまして、この副作用と申しますのは、実は統計がなかなかとりにくいのでございます。それで従来のものに比較してどうということはなかなかむずかしい場合が多いのでありますが、どうも副作用が多いようであるというようなデータが出ましたので、その後この副作用を除くためにワクチン改良をしなくちやならないというふうになつて参つたのであります。でそれにつきまして我々どもがやつておりますのが、紫外線による不活化でありまして、従来化学薬品によつて化学的に不活化しておりましたのを、今度は物理的に不活化させるという方法移つて参つたのであります。つまり紫外線一定の時間かけまして、そういたしましてそれによつて病毒を不活化したものを射す、こういうことになつて参つたのであります。でありますので、乾燥減毒ワクチンから化学的薬品による不活化ワクチン物理的操作による不活化ワクチンというふうに移行して参りまして、現在行われておりますのは、伝染病研究所においては紫外線照射ワクチン紫外線による不活化ワクチン一本に現在なつているわけでありますが、その他の製造所において作つておりますのは、石炭酸活化ワクチンであります。でありますから日本全国として見ますと、石炭酸活化ワクチン紫外線照射ワクチンとが並んで行われておりますのが現状であるというふうに申上げられるのであります。  で、非常に細かい製造方法につきましては省略をいたしまして、次にその効果ということでございますが、先ほどもちよつと申上げましたように、旧来ワクチンの場合には首や頭その他を咬まれますと、今日の毎日新聞にも引用されておつたようでありますが、大体一〇・八%の発症率があつたのであります。で上肢を咬まれました場合には、三・五%、下肢を咬まれました場合には三%というような率におきまして、折角ワクチン治療をいたしましても発病を防ぎ得ないという状況であつたのでありますが、その後化学的物質による不活化ワクチン、それを併用するようになりましてからは、発症率はゼロになつたのであります。で頭部顔面を咬まれました九十七名の中からも一人も出ておりませんし、上肢を咬まれた五百二十五名も一人も発症いたしておりません。下肢の二百六十二名の中からも一人も発症していないと、こういうような状況なつておりまして、効果が優れて参つている。  次には紫外線照射ワクチンでありますが、紫外線照射ワクチンも非常に効果はいいようでありまして、頭部顔面を咬まれました者は、その後狂犬病が減りましたので十五名が統計に出ておりますが、それも発病は全然ゼロでありまして、上肢を咬まれました二百十七名同じくゼロ、下肢の百五名同じくゼロ、こういうふうなことになつております。これに関する印刷物がございますから、委員長先生方にお配りして頂きましよう。
  5. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 有難うございます。
  6. 北本治

    参考人北本治君) そんなわけでありまして、カルボール・ワクチン或いは紫外線照射ワクチンになりましてから、効果におきまして先ず不安がなくなつたのであります。極端な場合はどうか存じませんが、先ず大体において、顔面頭部を咬まれても心配ないというような効果なつて参りました。  次には副作用の点でありますが、只今副作用調査と申しますのは、なかなか実際問題といたしますと困難な点が多々ございますが、私のほうでは医局の大谷君その他がいろいろと努力をいたしまして定期的に調査書を送りましてその返答を求めましたり、或いは訪ねてみまして、実際にその患者を検査するというような比較的刻明調査をいたしましてそのデータを出しているわけであります。で、副作用にはまあ私どもの考えではおおよそ二つタイプがございまして、早期に出て来ますところのタイプと少し遅れて出て参りますタイプとございます。勿論その移行型も多少はございますが、およそそういう二つタイプがありまして、予防注射を始めましてから二週間前後に始まつて参りますところの早期副作用、これは概して脊髄性に来ると申しますか、脳には余り影響が少うございまして、手足がしびれたり、或いはその運動が障害されたり、こういうようなことがときどきある。で、その前後に少し熱が出ましたり、食欲がなくなりましたり、嘔吐を催したりというような附帯の現象もあるのでありますが、主たる症状はそういう脊髄性麻痺症状を呈するものが一つタイプで、それからもう一つタイプ注射後大体六十日或いはそれ以上経ちまして現れて参りますタイプでありまして、この場合には先ほどの脊髄性に比べまして、どちらかと申せば脳性のニユアンスが多くなつて参りまして、性格が変りまして、いらいらしたり、怒りぽくなつたり、昂奮しやすくなるというような症状が現われて参りまして、多くの場合はそれが数週或いは数ヵ月の経過で自然に軽快をいたしまして治るのでありますが、中にはその後引続きまして性格異常、ときには精神の異常を来たすという場合がまま見られる、こういうような状況なつております。それが副作用の大体の症状でありますが、その率は、これが昨今いろいろ注目されておるようでありますが、最近のワクチンにおいては、そういうものは非常に少いと私ども思つております。従来からの副作用データは先ほどお出しいたしました印刷物にも出ておるのでありますが、パストウール法におきましては合計六千三百六十七名のうちで三十六名、こういうような数になつておるのであります。でありますからしてこの場合におきましても大体〇・五、六%というような数字になるわけであります。この場合に注目されますことは、十四歳以下の者と十五歳以上の者とで格段の違いがありまして、十四歳以下の者の場合には普通は先ず副作用は現われることはございませんで、この六千三百六十七名のうちの十四歳以下の者は二千八百三十五名におきまして副作用発現はゼロであります。十五歳以上の三千五百三十二名の中から三十六名出ておるわけであります。これは外国の文献などによりますと、極めてまれには十一歳ぐらいで出た例がないことはありませんが、殆んど例外的なものと申すことができます。  次には併用法を行なつた場合の成績でありますが、マーゾニンの不活化ワクチンにおきましては十四歳以下の者にはゼロ、十五歳以上の者三百九十一名中八名、合計いたしまして七百五十七名のうち八名ということになつておるわけであります。ホルマリンワクチンの場合は十四歳以下はゼロ、十五歳以上五百六名のうち七名、全年齢を通じ九百四十六名のうち七名というような数になつておるわけであります。紫外線照射ワクチンの場合には十四歳以下は三百三十八名のうちゼロ、十五歳以上五百名のうちに二名、合計九百四十六名のうちに二名、こういうような数になつておるのであります。  大体を総括して申上げますというと、十五歳以上のいわゆる後麻痺というような副作用が発現する年齢層のものにつきましてだけ申しましてパストウールワクチン、古いワクチンでありますが、これが一%、これは十五歳以上だけでありますから十四歳以下をまぜると半分ぐらいになるわけであります。併用法では二%、紫外線活化ワクチンでは〇・四%というふうに大体四分になつておるわけであります。これは非常に広い意味副作用を集計いたしました数でありまして、例えば少し熱が出てしびれるような気がするというような程度のものから含んでおるのでありまして、只今申上げました数のおよそ三分の一が少し脳症状を示すというように思われる。その又大体四分の一ぐらいが性格異常、比較的強い性格異常を来たすということになりますので、大体副作用があると見ました数の中の大体十二分の一前後がまあ精神的に性格異常乃至は精神異常を来たすということになるわけでありまして、その率は低いものであるというふうに私どもは思つております。従来日本におきますいろいろな副作用症例報告が大体二百何十例かあります中で精神異常と申していいようなものは二十例前後でありまして、そういう方面から見ましても、おおよそその数が当つておるというように思われるのであります。最近におきましてはこの副作用も強力なビタミンB1の注射でありますとか、コーチゾンの注射或いは服用等によりまして、時期が早い場合には、相当な治療効果を収めることができるように今なつて参りましたので、全部をなおし得るとは言い切れないかも知れませんが、かなり処置がしやすくなつておるようなわけであります。不幸にして診断がつきませんであちこちを転々といたしまして時期が遅れるというようなことになりますと、比較的永続性な故障を残す、こういうようなことになるようであります。  なお、世界的な状況ではどういうことであるかということに一言触れますると、余り詳しいことを申上げる資料はございませんが、狂犬病ワクチンをやり出しましたパストウール研究所におきましてでは、一九五二年の三月末日までは旧来ワクチンをやつておりまして、一九五〇年から五一年にかけて私どもあちらへ行つてみました頃には旧来ワクチンを使つておりました。その後五二年四月から石炭酸ワクチンに切替えて、アメリカ方面におきましては石炭酸ワクチン紫外線照射ワクチンとが数社から出ておりまして両方やつておるのじやないかと思われますが、傾向としましては紫外線照射ワクチン製造のほうが盛んになつて来ているように私どもは感ずるのであります。  誠に概略でありますが、又後ほど補足さして頂くことにいたしまして一応これで終りたいと思います。
  7. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは齋藤さん。
  8. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 私日本動物愛護協会理事長をしておりますが、この犬の問題につきましてはほかに東京都の狂犬病予防審議会委員を二十四年九月からずつといたしておりまして、この問題には約六ヶ年間取組んでおります。そのほか日本哺乳動物学会などいろいろ動物に関した面約十の会の役員をしておりますので、動物愛護協会の立場だけでなくて、広くこの狂犬病予防法の今度の改正問題について意見ちよつと申上げたいと思います。  動物愛護協会と申しますと、外国のほうの名前で申しますと、動物虐待防止会でございまして、ことごとくこういう狂犬病予防法のようなことに反対する会のように世の中で非常に誤解されておりますが、決して私たちの会はそういうものでございませんで、英、米、日の役員によつて組織されておりますが、その事業を逐つて申上げますと、狂犬病にむしろ非常に協力しておりまして、何年か前も英国が島国であつて日本と非常に環境が似ておるのに、狂犬病国内から絶滅いたしまして、最近約三十六年間は一頭も出ておりません。それでその特色を一つ真似たらいいだろうというので、丁度今の会長が前の英国大使夫人だものですから、英国政府に交渉してもらいまして、英国内における今日までの狂犬病に関した法律を全部取り寄せましてその原文と日本訳とを厚生省並び東京都の衛生局に参考までに提出いたしましたことがございました。又現在でも私たち協会では病院を持つておりますので、これは日本で一番設備の完備した、又立派な家畜病院でありますが、そこで浮浪犬飼主のない犬、或いは必要のない犬などを全部収容いたしまして、そうして或る程度飼つておきまして、欲しい人がありますときにはそれを全部狂犬予防注射をうちまして、そうしてその上に雑種は繁殖されては困るものですから、雄は去勢、雌は避妊手術をいたしました上に欲しい人に上げております。そういう人をしよつ中新聞の広告で欲しい人がないかと募集しております。それから要らない犬は、残りました犬は大体英国がとりました電気による安楽死、一遍ですぐ死ぬ、或いは硝酸ストリキニーネの心臓における注射安楽死をさしております。これで安楽死をさしています犬が今丁度統計を持つておりませんが、年に三千頭以上に上つております。それからなお政府のほうに今交渉しておりますが、英国関係省から英国国内における狂犬病撲滅についての一番権威者日本に呼びまして、日本の状態を見せまして、これについてはどういう施設が一番よろしいかという意見を聞いたらどうだろうということをロンドンにおりましたこちらの会長に私が照会しましたら、向うに、ロンドンにおりますうちに向う関係省のほうに内意を打診をいたしまして、これは日本政府からそういう要望があつたときには派遣し得る確信を得て、会長は一昨日の土曜日の晩に日本に飛行機で飛んで来て現在おります。本日も実は傍聴したいと言つておりましたが、外人が傍聴すると、何か日本内政介入みたいで悪いから行かないと言つておりました。  なお、私たちの会はそういう虐待を防止するとありまするが、日本狂犬病予防の仕事が非常に今日まで研究が不足だということを痛感いたしまして、協会理事会の下に諮問機関を作りまして、これは狂犬病の対策の諮問機関でございまして、動物をつかまえますのに最も国内で経験のある例えば上野動物園の園長の古賀君、或いは飼育主任の林君、これは一昨年アフリカのナイロビに猛獣の捕獲見学実習に約一年おりました。或いは狂犬病予防法のことを警視庁でやつておりましたときから約三十年以上この事業に主任として携わりました荒木技師、或いは大澤技師、この方は日本における狂犬病の最も長い経験者でありますが、それらの人々及び私の病院院長など約十名ばかりでこの委員会を作りまして、現在どうしたら野犬の捕獲ができるか、どうしたら狂犬病撲滅ができるかという実際的な具体的な案を持つております。この案によりまして私のほうでいろいろなことを実際に実験してみよう。一部薬品を今実は実験中で、それをつかまえる方法も近く実験してみるつもりであります。そういう工合で、決して私のほうは狂犬病予防法案反対の会ではございませんので、その点を前以て御了解願いたいと思います。今度の改正法案を拝見いたしまして、逐条的にちよつとした意見を申上げますが、この中で、一頁第五条の「予防員は、犬の所有者からその犬の引取を求められたときは、これを引き取つて処分しなければならない。この場合において、予防員は、その犬を引き取るべき場所を指定することができる。」これは捨てるのを捨てさせない一つの大変いいことなんでありまするが、処分をするということがはつきりどういう意味でありますか、旧来狂犬病予防法によりますと、殺すことができるということと又違つた意味で処分という言葉を使つておりますが、それは生きたままで大学とか何とかの実験に供するために犬を売るというようなことを言つておるのじやないかと思いますが、この処分しなければならないということの解釈をもつとはつきりきめて頂いたほうがいいのじやないか、こういうふうに考えております。又同時に引取るべき場所を指定することが、これが非常に疑問なんでございまして、例えて申上げますと東京都でそういう設備のありますのは、三河島の野犬収容所及び世田谷の野犬収容所でございますが、いずれも非常に辺鄙な交通の不便な所であります。こういう事態が出ますというと、そういう引取るべき場所、指定された場所というのが割合に交通の便利な所であつて而一定設備を有しなくちやならない、こういうことであります。現在の保健所及び警察署にあります設備と申しますのは、犬の輸送箱のような小さい真暗な箱だけでありまして、あれでは誰も持つて来るものはないのじやないか。又私たち協会でもやつておりますが、外国でも皆やつておりますように、持つて来られました犬や猫は飼つておきまして、五日なり一週間なり、そうしてその中の健康なものは欲しい人に新らしい飼主を世話してやる。いわゆる生きる可能性を与えてやるということで、残つて欲しい人のないものは殺すという、生きる可能性を与えないと、持つて来る人か日本では非常に少い、持つて行けば殺されるということになりますと非常に少いのじやないか、これは私ども協会病院でもそうなんですが、持つて来てそれを五日なり一週間なり飼つて新らしい飼主、これを希望する人のないときには殺せますよというと、又持つて帰ろうかとか何とか言つて非常に悩むのです。持つて来るものを殺すということになると持つて来る人が少いのじやないか。そういう生きる途、希望を一部に与えて、そうしてそれを裏書きする一つの犬舎なり何なりを保健所ごとに作る、こういう設備が要るのじやないか、こう思うのです。  それから次のページの第六条の第六項でございますが、これに「「三日以内」を「一日以内」に改め」、これは現在までの東京都の統計を見てみますと、大体捕まつた犬を受取りに来ますのが三日以内だそうでございます。三日以内と申しますのは、持主のわかつている犬は内容証明便で持主に通知いたしますし、捕まつても持主のわからない犬は区役所で二日間繋留いたしますので、抑留の三日と併せて五日間であります。五日間のうちに三日以内に大体受取りに来るから、あとの二日を除いてもいいじやないかということから一日以内に改めたのでございましようが、これをできれば一日を二日ぐらいにしたほうが安全じやないか、こういうふうに考えております。  その次の第十条、「「その発生地を中心とした半径五キロメートル以内における」を削る。」これは狂犬病が発生しましたときに従来繋留令、縛つておく或いは口輪をかけるという都道府県知事の発令の権限が、狂犬病の起つた土地から半径五キロメートル以内でできるという制限があつたのでございますが、今度この制限を除いたのでございます。この改正法案で五キロメートルといいますのは、大体これは英国法律に合つておるのでございまして、英国法律で言いますと周囲十五マイル乃至二十マイルとなつております。で十五マイルと申しますのが半径五キロメートルなんで、二十マイルとなりますと半径が六キロ半ぐらいになります。でほぼ合つているのでございますが、日本狂犬病に罹つた犬がどれくらいその狂犬病にかかつてから走つているかということを調べて見ましたら、二十年ぐらいに一、二例しかないのでございますが、七里乃至八里近く走つている例があるのでございます。それでまあそういう例があるところを見ますと半径五キロメートルという制限を全部とつてしまうということも無理もないことと思いますが、これが第十八条の二の薬殺する問題と関連いたしますと、殆んどこれは無制限のようになるのでございまして、十条の改正だけは何ともないと思いますが、十八条と連関いたしますとこれは非常な権限になるのじやないか、そういうように考えております。と申しますのは従来は狂犬病が出た半径五キロメートルまで繋留令が出る、繋留令の出たところの犬は十八条の二の新らしい条文によりますと薬殺することができる、そうしますために五キロメートル以外の土地の犬は殺せなかつたのでございますが、今度制限を除きましたから、例えて申しますと一つの県の或る端に狂犬病が発生した。そういうときに県知事の権限ですから、その県全体に繋留令が施行し得るわけなんであります、制限がありませんから……。繋留令が全県に施行された場合に繋留しない犬は薬殺することができる。そうするとずつと反対側の端でもこれは殺されてしまうわけなんです。然るにこの制限の撤廃ということが第十八条の二の薬殺と関連しますと非常な大きな力をもつて来ますので、この点の実施の如何ということが大変問題になるのじやないか、そういうように考えております。第十八条の二は「都道府県は、狂犬病のまん延の防止及び撲滅のため緊急の必要がある場合において、前条第一項の規定による抑留を行うについて著しく困難な事情があると認めるときは、区域及び期間を定めて、予防員をして第十条の規定によるけい留の命令が発せられているにかかわらずけい留されていない犬を薬殺させることができる。」で、著しく困難な事情というのがどういうふうに判断いたしますか、今までの私の見ました例で申し上げますと、私どもの眼からは何もそんなに困難じやないと思われる状態なのに毒薬を用いておりました。すでに御承知のように狂犬予防法においては、第二章の通常措置においては、狂犬病が出なくても届出とか何とかしない犬は捕えまして抑留しなければならない、第三章ですね、それから第三章におきましては狂犬病が発生したときは、狂犬病にかかつた犬とか、かかつた疑いのある犬とか、又はそれらの犬に咬まれた犬については、人命に危険があつて緊急止むを得ないときは殺すことを妨げない、こういうときには殺すことを妨げない、前のときには抑留することができる、捕えて抑留することができるという一つの限定された法律でございましたが、こういう限定された法律がありますにかかわらず実際においては毒薬を散布するのであります。  去年の八月に目黒区清水町一帯におきまして五十個の硝酸ストリキニーネの毒だんごを散布しまして、犬が一頭猫が二頭死にました。今年の十一月三十日に東京都の真中の日比谷公園におきまして麹町保健所が二十五箇の硝酸ストリキニーネの毒だんごを散布して犬八頭、猫一頭、外人の飼つている犬が二頭死んでおります。そういうことは今の予防法では許可していないのです。許可してないのですが、これを又罰する、或いはそういうことは、毒薬撒いちやいけないということも又ないのです。それで東京都の責任庁の局長はこれは法の盲点である。私にこう言いました。それは法律の盲点である、法律の盲点ですからやつても差支えない、こう言つた。私はこれは国会を軽視するものである、我々の代表の代議士諸氏がきめました国会できめました法律でこういう場合はできる、こういう場合は差支えないと限定しているのに、その範囲を逸脱して、そういうはげしいことをしているのは、私は法の限界を逸脱しているのじやないかというような意見を申上げましたが、これはなかなかそのどちらが正しいかということは、公務員法や何かじやわからないということを言われました。これは恐らく真接被害をこうむりました人間が民法上の裁判に訴えまして最後まで行かなくちやわからんじやないか、こう思つております。そういうふうに、それらのときが、必ずしも著しく困難な事情があるとは私は思われないのであります。それから今までそれについての周知徹底せしめる方法が必ずしも万全を尽していない。例えば日比谷公園なんかは外人の非常に出入りする公園でありますが、それに対しまして日本語で書いたものを紙に貼つて或いはプラカードを以て示しているだけで、外国語で周知徹底せしめる方法については手を打つていない。こういうことが私は日本東京都というものが国際的な都市として外来者に対して非常に親切を欠く一つの措置である、私はこう申上げたのであります。これは或いは国法によりまして日本語だけの掲示でいいかも知れませんが、親切を欠くものである、こういうふうな状態でございますので、この法を直ちに活かす或いは実行するとなりますと、いろいろな実際の法文が或る程度結構なものでありましても、実際に行うことについては、いろいろな障害が、或いは副作用が出て来るのじやないか。で、若しもこれをどうしてもおきめになられるようでございましたら、私はむしろこの「著しく困難な事情」というものを、条項を、薬品使用以外の方法を以てしては捕獲することが不可能な場合とはつきり言つたほうがいいんじやないか。それから「区域及び期間」これは場所及び日時を限定し、区域というのは一つの区、東京都で言うと一つの区のような地域を指すように解釈されておりますので、場所及び日時を限定しと言つたほうがいいんじやないか。それから「けい留されていない犬を薬殺させることができる。」という言葉を、けい留されていない犬を激烈に作用せぬ薬品を用いて捕獲させることができると、こういうふうに言つたらどうかと、自分の私案でございますが、そういうふうに考えております。従つて最後に、「その近傍の住民に対して、けい留されていない犬を薬殺する旨を周知させなければならない。」というのも、「薬殺」を、薬品を用いて捕獲する旨をと、捕獲という言葉が必ずしも生きたままつかまえるだけでなくて、狩猟法なんかによりますと、これを殺してつかまえるということもすべて捕獲なつておりますので、その狩猟法の捕獲の言葉を使いましても、この捕獲の文句はかまわないのじやないかと思うのであります。これは私は法律は余り存じませんが、そういうふうに解釈しております。  それでこの法案が通つたとなれば、そういうように一つの極めて限定されたもので通して頂ければ、まだいいんじやないかと思いますが、それではお前は本当はどういうものを希望しているのかと聞かれましたならば、次の国会まで延ばして頂くほうがいいんじやないか、こう考えております、正直に申上げますと……。その理由は、まだ研究が足りない。第一番に狩猟法ですね、ハンティング・ロー、私も狩猟法による東京都の狩猟監視員をいたしておりますが、例えば狩猟法の第十五条に「鳥獣ヲ捕獲スルコトヲ得ス」という中に、劇薬、毒薬が入つております。鳥獣に劇薬や毒薬を用いて、鳥獣を捕獲することができない。第十五条ですね。そうして施行規則に鳥獣、いわゆる狩獲の対象になりますものには野猫、野犬があるんです。これにつきまして、私は農林省の林野庁のほうの意向を聞きましたら、昭和二十四年でしたか静岡県の県庁のほうから問合せがありまして、林野庁のほうは鉄砲で撃つ狩猟法のほうは、山にいる犬、山にいる猫と、野犬、野猫をそう解釈しておる。街のものを、それを野猫、野犬とは解釈しない。だからこれは差支えないと、自分のほうの狩猟法の範囲には入らないのだというふうに回答をしております。そうしますと、今度逆になりますと、実際に山におります、二十頭、十頭と群をなして山にいるものを、その野犬、野猫は、毒薬、劇薬を用いて捕獲することができなくて街の中のものはこれは捕獲することができるというふうになつちやうのです。でこれは狩猟法との関係がどうなつておりますか、これはもうやはり御研究を要する問題じやないかと思います。  それから次に、これは厚生省管轄になつておりますが、厚生省は、現在乳肉衛生課で、お乳と食用の肉をつかさどる課でつかさどつておりますが、課長一名に課員二名ですか、ほかに兼務の方六名ぐらいいらつしやいますが、これが殆んど犬とか狂犬病とかいうものに余り経験のない方です。又地方自治団体においても、私が委員をしております東京都におきましても、今まで捕獲について試みましたものは、ただ投繩、或いは投縄に代るべき針金で作つたわなであつて、犬を追駆けてひつかけるだけなんです。これは犬と人間との、捕獲人夫との間が約四尺ぐらいに近付かなくちやこれはつかまらないのです。その長さだけしか繩も針金も、その長さだけしかないものですから、つかまらないのです。この方法だけで捕えるのはとても困難だからと言つて、従来はよく薬品を使用しておつた。これはもつとそのほかの方法を研究した上で、初めて著しく困難だという場合が出て来るのじやないかと私は思つております。  それで前の警視庁時代はどんなことをやつておつたかと調べてみますというと、現在よりは進んでいるのであります。現在むしろ狂犬予防のやり方は後退しているのじやないかと思うのでありますが、前には警官が戸別訪問いたしまして、犬のことを調べまして、それから犬の捕獲人夫と共に、警官が附添いまして、これをつかまえておりましたために、現在の予防員よりは権威があつたということが一つ、それから現在いたしておりませんが、昔は牝犬が出産したときには全部警察に届けさせました。で、届けさせましたから、その牝犬がどこに行つたかという質問が又出るわけでありまして、二月、三月経ちますと、なぜ届出ないかという、届出の対象になつたのです。それから警視庁時代には、去勢を無料でいたしておりました。このために街に警視庁から獣医さんを派遣いたしまして、無料で雑種犬の去勢をしておりました。現在こういうことをちつともしておりません。それから又牝犬の避妊手術が、当時四円五十銭だつたそうですが、その三分の一の一円五十銭を、手術した獣医に警視庁から補助金を出した。それで一円五十銭所有者が出しまして、残りの一円五十銭は獣医がこれを負担する。いわゆる手術した獣医と警視庁と所有者と、三人が三分の一づつ出し合つたというような、一つの去勢の奨励方法を講じております。それから薬品を撒布いたしますにつきましても、その撒布いたしますところの住民と、警官と、予防員と、三者が協議の上で、どの場所薬品を置いたらいいかという協議をしておりました。そうしてきまりましたらその略図を書きまして、それを隣組に、旧隣組に全部廻しまして、危険防止をした。又畜犬届の出ています家庭には、はがきを以て、前以てここの場所薬品を置くということを予告しております。そうして而もその薬品は白い紙の上に載せまして、あとで回収が便利なようにしております。犬は白い紙に載ろうが、黒い紙に載ろうが、そんなことは考えませんから、人間が発見しやすいように、白い紙に載せております。そういうように、警視庁時代は、この一応の手を打つて、そうして薬品を出しておりますが、現在はそういうことは全然ございません。  又これは申上げていいかどうか知りませんが、登録料、犬は税金が取られていますが、そのほかに登録料というのを取られておりまして、これは年に三百円、この登録料はこの狂犬予防法によりまして、狂犬予防以外の金に使つちやいけないという金だつたのです。然るにこれが本当にそれが実行されているかどうか、私はいろいろな評判を聞きますと、すでに狂犬病の現在ない県、或いは自治体におきましては、この金は使い途がないものですから、金は出て来るものですから、これをほかに転用してるのじやないかということが出ておりますので、皆さんがお調べになればはつきりするのじやないか。  それからもう一つ細かいことを申上げますと、狂犬予防の、犬に射ちます注射液でありますが、これが東京都にしましても、自治体にいたしましても、製造の北里研究所その他から直接購入しておりません。私の調べによりますと、必ず中間に商人が入つております。それで商人のネツトと、この原価をずつと上廻るもので、これを入札に付して各官庁が入手しております。これらも自治体の官庁がそういう製造所と直接ワクチンの取引をなさればずつともつと安く行くのではないか。事実安く行くのです。それらの都民の負担なり、或いは狂犬予防費のために出しておる登録料なりがもつと有効に使われるのではないか。これらの点がまだまだ研究の余地がある。そのほか私が見ますのに、去勢とか、避妊とか、そういうことの手術の励行、行使をしなければ野犬は撲滅はできません。  それから監視員制度、これは狩猟法では各県毎に監視員を作りまして、狩猟法違反を注意したり摘発したりしておりますが、私も東京都の監視員をいたしておりまして、丁度警察手帳みたいな入物を渡されまして、ここの中に証明書がつきましてそういう狩猟の違反に一々文句をいつております。こういう制度を役員及び民間の人間東京都では約二百名であります、これに委託いたしますれば、無届畜犬、注射をしない犬なんかはどんどん注意を与えることができる。こう思うのであります。  それからもう一つは、小学校で子供に犬を飼つたならば必ず届出て注射をせよという知識を普及することであります。なぜならば無届畜犬の九九%は子供が野原から拾つて来る犬であります。これは飼うつもりはないけれども、子供がかわいがるから仕方なしに残飯を与える。それらが皆無届畜犬になる。それらが大きくなると皆野犬になつております。これは児童教育に徹底を図ることによつて、殆んど全部の犬が届出ができる、こう思うのであります。  それから先ほど申しましたように、要らない犬を持つて来る人に、不安を与えない設備と組織が必要だ。それから浮浪犬の収容につきましても、一個所だけでなくて、ほうぼうに収容所を作つてやること、それから犬とか猫とか人間の助力によらなくちや生きることができない家畜、いわゆる野獣、野鳥、これは離せば自由になりますが……、山羊とか、豚とか、牛とば、馬とかありますが、牛、山羊、馬は捨てる人はありませんけれども人間によらなくちや生活できない家畜を捨てることを禁止する、或いは罰する、こういう一つの制度が必要なんじやないか。こういうふうに考えています。  それから捕獲方法につきましても、私どもの諮問委員会でこの間ありましたときには、一案はドツク・キヤツチヤーが行きますと、犬が逃げてしまう。においで逃げてしまう。もつと近付く方法はないか。一種の媚薬みたいなものでありますが、旧日本陸軍がアメリカの飛行基地に犬がいて入れなかつたものですから、どうして犬をごまかして入ろうかというときに作つたものがありますので、それらの研究、それから投繩などにしましても、針金では緊つて非常に痛い。柔らかなロープでは長い年月訓練しないとかけきれない。ところが革にしますと一定の強さをしますと、それを割合にかけることができる。それで今まで日本で使いました繩若しくは針金を革にかえる。これは野獣なんかをつかまえる方法ですが、そういう硬さを持つていれば、非常に便利につかまえられる。或いは箱に餌を置いてつかまえる。檻の前に獣が来ますと自分の体重で扉が自然にあきます、中に入るとしまつて出られない、こういうように一つの檻の方法、これらはすべてアフリカあたりで使つておりまする野獣をつかまえる方法であります。或いは電気であります。或る所に餌を置いて、餌を食べたところをこちらから見ていてスイツチを入れると引つくり返える、二分ぐらいは殆んど起きられませんからそれをつかまえる。これはアフリカあたりで猿をつかまえる方法であります。こういうふうにもつと考えればまだいろいろ出ると思いますが、今までのような方法だけではなく、いろいろな方法を考えて適当なる施設をすれば、やはりつかまらない浮浪犬というものはないと思います。私は動物が好きで今までやつておりますが、とにかく食欲と性欲を持つております動物人間の知識に対抗してつかまらないということはない。犬科動物、犬のような種類の中で一番利好なものは狼ですが、この狼さえつかまる。まして都会の浮浪犬やなんかが人智に対抗してつかまらない、そんなばかなことはない、もつとつかまえる方法を研究する余地が十分あるのじやないか。  その次には国内に対する影響でありますが、毒薬を使つてもいいじやないかということが新聞に出て来ましてから、各地方に現在民間でそういうことをやる人間が出て来たのです。ついこの間も今年の三月になつてからの例だけをあげますと、三月の二十五日に港区麻布新龍土町においてアメリカのミセス・パロツト、ニユーヨーク・タイムスの支社長の奥さんですが、そのうちの愛犬が庭で遊んでいてぱつたり死んでしまつた。私のほうの病院長が行きまして薬殺の疑いがあるというので解剖をしたら、胃の中に立派に硝酸ストリキニーネの反応が出たのであります。それから私たちの会の理事をしておりました者もやかましくいつて調べさせましたところ、三月五日、十五日、二十一日、二十二日、二十四日、二十五日の六日間に毎日一頭乃至五頭これはみんな薬殺です。家の中、庭の中に繋いであつた犬まで薬を投下されて殺されております。こういう予防法改正によつて、薬品で殺すことが許可されるならば、あれはうるさいからやつてもいいだろうということで僅かの区域の目黒区中根町、自由ヶ丘、柿ノ木坂町で三月五日、十五、二十一、二十二、二十四、二十五の六日間に合計十六頭が殺されております。そういう社会的な影響もよほど考えなくちやならんものだ。こう思うのであります。  次に、これは撒きます毒薬でありますが、そういう薬を撒きますと、殊に北海道なんかの例では、雪が積ります。これは一晩で積りますから今度は回収することができない。雪がとけた頃に犬が行つて食べてしまう。とつくに制限期間は過ぎておりますから、飼主が安心しているうちに食べてしまう。これは北海道大学の動物学助教授の市川助教授の飼犬にそういう例があるのであります。それからこれは私確認しておりませんが、何か殺鼠剤を拾いまして、そうして近所の犬がうるさいというので塀越しに投げている。こういうような劇薬、毒薬は非常に危険なことでございまして、殊に日時と場所とを指定して撒くのですから、他人が拾つたり、悪用したりすることは簡単であります。医者でなければ手に入らない毒薬、劇薬も拾えば簡単であります。今までは番人もついておりませんから、簡単である。犯罪予防上も考えなくちやならない問題であるというふうに考えております。  国内だけでなく国外への影響でありますが、大体外国においてはそういうことをしないのであります。なぜかといいますと、動物虐待を防止するということは、人間の残虐性を除くというように解釈しているのであります。アメリカなんかの例を見ますと、ヒユーマン・ソサイテーや、ヒユーマン・エデケイシヨン・ソサイテーの事業動物が対象なんです。それでものを言えない動物に残虐なことをしないということが人道の基礎であつて、それが人類の平和の基礎となる。こういう教育を基本にしていますから、無駄な虐待はしないのであります。殊にその会の、そういう全世界の会の連盟がへーグにありまして、これはオランダの主宰になつております。動物の保護連盟、これは現在全世界五十八の団体が参加して、私たちも参加しておりますが、これらが一昨年でしたか、世界共通の動物保護法という虐待防止の法律……、法律がないのは日本だけですが、世界共通の動物保護法の案を寄せて来ました。それによりますというと、毒を与える、或いは与えるためにおいた、或いはおかしめたというようなことに対しては非常な厳罰、最高の厳罰に処しております。それで英国なんかも勿論そうでございまして、英国法律で許可されておりますのは鼠と二十日鼠、その他小さい動物の害獣を除くために毒物を置いたときは、ほかの動物がその場所に立入らないだけの設備をしなくちやならない。その設備というものは事件の弁護の一つの理由になる、このくらいにしか解釈していません。  それから狂犬病予防をどういうふうにやつているかと申上げますと、英国の一番古い狂犬病予防法は一八七一年、今から八十年ぐらい前に出ておりますが、大体口輪であります。で、口輪をかけさせるのでありますが、その口輪は私最初反対したのであります。かけますと、夏にはああ言つて犬はいけないものでありますから、犬は汗線がありませんから口を空いて体力を調節いたしますので、口が空かないと非常に困るだろうと、口輪を反対したのでありますが、最近は英国では頭まですつぽり被る、頭部を被う一つの輪がありまして、それでやつておるそうでありますが、これは非常に高いものであつて日本では一般には無理だろう、ガス・コイン夫人から実は昨日聞いたばかりなんですが、そう言つておりました。それから英国は大体口輪には住所氏名を書かせる。日本は昔はあつたのが今それがないようですが、警視庁時代は口輪に飼主の住所氏名を書かせたものですが、今はそれがありません。英国はそれをやらせまして、狂犬病が出たときには十五マイル乃至二十マイルの地区は口輪をかけさせる、こういうやり方で以て畑部絶滅しまして、一八五五年のときには一ヵ年間に狂犬病発生数が六百七十二であつたものが、一九〇二年から一九一八年まで十六年間というものは、国内に一頭の狂犬病もないぐらいになつた。ところが一九一八年の九月に或る一人の復員の兵隊が一匹の犬を検疫を免れて密輸した。それがたまたま狂犬でありましたために、南部のイングランドとか、南部ウエールス地方に三百十九件狂犬病が発生した。それが先ほど申上げました口輪で以て三カ年間で一九二一年に絶滅いたしまして、それから今日まで三十三カ年間というものは、狂犬病英国じや一頭も出ておりません。ただ出ましたのは、海外から来ました犬は六ヵ月間飛行場又は港で以て抑留されるのでありますが、これは国王の犬でも六ヵ月抑留されます。抑留されますその中で今日まで二十三頭の狂犬が出ております。国外から輸入されましたために、六カ月間の抑留期間に出ましたのが二十三件、それで一九三八年に最後の狂犬病予防法が出ておりますが、一番最近のものが出ておりますが、それは狂犬病に侵された犬又は侵されたと疑われる犬或いはそれらに咬まれたと思われる犬猫、これらが、検査官がそういうものだと十分認められた犬は強制的に殺される、屠殺される。それから次は狂犬病に侵された犬又は侵されたと疑われる犬、或いはそれに咬まれたと思われる犬猫、或いはそれらの犬猫に触れたことのあつたと思われる犬猫は隔離しなくちやならない。ほかと全然別個にしなくちやならないというふうにこの二カ条になつております。それしかないのですが、それが随分過去において英国狂犬病を最初に撲滅する、いわゆる一八七一年から一九〇二年に至る間には非常なむごいことを毒薬や何かをどんどん撒いたのじやないかという説が日本で最近唱えられましたが、ガス・コイン夫人に聞きましたら、自分の生れる前のことは知らんけれども、ひよつとしたらそういうときには鉄砲を使つたかも知れない。そういう薬品を使つたことは今まで聞いたことがない、こう言つておりました。それからアメリカなんですが、アメリカの例を申上げますと、アメリカは皆州法ですから国法がないのですが、ニユーヨーク市だけで畜犬が約三十万頭以上、東京都の十四万頭の約倍です。で、そこでは人間を咬んだ犬は衛生局の役人が犬を調査することができる。人の顔面を咬んだ犬、顔を咬んだ犬はニユーヨークの動物虐待防止会の犬舎に十日間抑留しなくちやならない。こういうふうになつておる。  それから非常に注目すべきは町の浮浪犬というものは全部役人が野犬狩をしませんで、ニューヨークの動物虐待防止会がやつている。毎日トラックで町中歩きまして浮浪犬を集めまして、そうして先ほど申上げましたように、健康な犬は新らしい飼主を求めてやり、不健康で飼主の希望のないものは二日間抑留の上に処分をしている。殺しております。で、捨てる必要のない犬が生れましても、捨てる必要がないようにそこへ持つて行けば、或いは廻つて来たトラックに頼めば、ちやんと持つて行つてくれる。而も新らしい飼主に飼わせてくれるというような設備をしております。狂犬病の最も多いのはアメリカで、シカゴなんですが、これが約畜犬が三十五万頭あります。それで昨年の一九五三年の犬に咬まれた人の数は千五百五十人、最も激しいときは二十四時間内に八十八名咬まれております。それで町でも非常に驚きまして、全アメリカ合衆国の衛生中央研究所の所長のジユームス・スチール博士をわざわざシカゴ市に呼びましてその対策を練つたのでありますが、浮浪犬は毎日約百頭つかまえておりまするが、咬まれましたために狂犬病なつ人間が出て来ましたので、非常な問題になつたのでございますが、結局これはやはり薬品を、毒薬、劇薬を使わないで処理しております。又テキサス州のフーストンという町においては、二百五十頭の犬を検査して八十三頭の狂犬病菌を持つている犬を発見しております。これもやはり毒薬を使つておりません。  それでアメリカで一体狂犬病による死亡者はどのくらいあるかと申しますと、一九五三年度は全アメリカにおいて十三名死んでおります。日本においては三名ですね。それから過去十二年間のアメリカの平均の死亡者は一カ年間二十六名であります。全米の畜犬数は二千二百万頭、これが日本と比較いたしまして、日本は全国の畜犬数が約二百万頭だからアメリカの一割です。それから咬まれて狂犬病なつた犬は、昨年度は日本全国におきまして百七十八頭、それから狂犬に咬まれました人間が全日本で三百二十一人、こうなつております。それで死亡が三人、東京都におきましては昨年度が、狂犬に咬まれた人間が百五十九人、それから狂犬病でない犬に咬まれた人が六千六百五十四人、アメリカのほうが約十倍畜犬数が多くて、そういう狂犬発生率及び咬まれた人の数が非常に多いにかかわらず、アメリカはやはり人道協会動物虐待防止会などの意見を聞きまして毒殺、薬殺をいたしておりません。シカゴあたりでは放し飼いの犬を非常にやかましく厳禁しておりまして、犬を放している者は見つかり次第に二十五ドル乃至百ドルの罰金に処しております。これは昨年度シカゴがきめました最近の法律であります。  インドはこれ又ひどい所でありますが、南インドのクーノール市のパストウール研究所が扱いましたのは、一九〇八年から一九四八年、約四十年間に二十六万三千七百三十六名の患者を扱つております。それでそういう狂犬病にかかつて人を咬んだもの、動物が又インドですから多くて、三十二種類の動物を挙げております。犬、ジャッカル、狼、狐、猫、豹、いろいろなものです。それで死亡は、そのために死んだ者は、犬に咬まれて死にましたのが一千四十四名、ジャッカルに咬まれまして死んだ者八十六名、狐に咬まれて死んだ者十名、これは狂犬病ですが、野犬に咬まれまして死んだ者が三名、猫に咬まれて死にました者が一名、豹に咬まれて死んだ者が三名、山羊、羊に咬まれまして死んだ者が一名、こういうふうになつおります。それで一九四八年は犬とジャッカルに咬まれた者のみが死亡しておりまして、又アドラスというインドの州では一九一三年から一九四八年までに死亡した者が一万九千三百八十名、こういうような一つの野犬の被害がありまするが、インドでもそういう薬殺はいたしておりません。又オーストラリアでもいたしておりませんが、最近オーストラリアではそこにおりますデンゴー、これは本当の野犬で猛獣の犬でありますが、これが牧場を襲うので、牧場の保護のために硝酸ストリキニーネを使いまして、それが昨年度の世界動物保護連盟の議題に上りまして、これは反対抗議が世界連盟から出まして、恐らく本年からは中止するだろうと思います。  これらが各国の狂犬予防の現状でありまするが、このたびの一月二十日の日比谷公園の毒殺及びこの狂犬予防法ができましてからこれらのことが各国に伝えられましたために、私のほうの協会では英国のロイヤル・ソサイエテイ、これは王室の動物虐待防止会でエリザベス女王が会長なつておりますが、直ちに抗議が来まして、どうしてもそういうことがないように闘つてもらいたい、それからアメリカの北米合衆国の動物虐待防止会、これからは長い手紙が朝日新聞社長の村山さんに来まして、これが朝日イブニング・ニュースに来ております。それでいろいろな予防のための方法を建議しております。私が驚きましたのはカリフオルニアのパロアルトという名前の小さい町なんでありますが、そこの動物福祉協会理事長のミセス・バルバラ・ダーニールという人から手紙が来まして、自分の田舎の新聞で日本はこういう法律が下院、衆議院を通つたということを聞いたが、これに対してはどこまでも反対してもらいたいという手紙が来ております。だからそんなカリフォルニアの小さい町の地方新聞にまで日本のこの狂犬予防法の改正案というものの話が伝わつている、そしてこれらが皆反対している。最も驚きますことは、三月十三日付のニューヨーク・タイムズの社説にこれが出ております。ニューヨーク・タイムズが日本のことを社説に取上げて云々するということはこれは殆んどないことだと思いますが、これを取り上げまして、この外国人が日本のことにそういう容喙をする権限はない、これは国内的な問題であるけれども、こういうことは実にいけないことだから何とかしてもらいたい、最後にこの法案は非人道的な毒殺方法日本の輿論が看過するならば、他の国の人々は決して褒めはしないであろう、参議院は必ずやこの法案を否決し、他の方法による情けある決定がなされるだろうと、こちらの参議院のことも申しております。衆議院が通つたことを説いておりますし、これがニューヨーク・タイムズがこういうことを書いたということは私は実に驚いたのですが、昨日ですか、ニユーヨーク・タイムズ東京支局長リンゼー・パロツト氏が見えましたが、ニューヨーク・タイムズ社長はこの問題はどこまでも日本の問題だけれども、自分たちは人道上無視できないからどこまでも闘う、こういうふうに社長は言つておりました。ニューヨーク・タイムズ社長はどこまでも闘う、そして日本で反対の立場の人々をどこまでも援助する、こういう手紙が私宛、理事長宛に来ておりました。そういうことを言つておりますが、そのほかにさつき申上げました世界連盟、それからアメリカ全部の連盟、それから英国王室の協会、これらが全部日本の内閣に出先の大使を通じまして抗議文を出す、こう言つておりますから、恐らくもう着くのじやないかと思います。これらのことが対外的に非常に日本人が誤解される、残虐な国民だといつて誤解される面が非常に多いのじやないか。これは私たちの会も戦争中に日本人が捕虜を非常に虐待したということからこの会ができたのでございまして、日本人の捕虜のインテリを印度で集めまして、いろいろなテストをしました結果、動物に対しては非常に残酷なことを平気でやる、丁度日本の子供にしますならば、とんぼをつかまえて揚子を付けたり、蝉の羽を取りましたり、そういうことで日本人が平生は非常におとなしいが、何かの機会があつたときは、非常に残虐なことをする、これは平和になつたら日本でも外国と同じような動物虐待防止会を設けて、日本人にそういう残酷性をなくしてもらわなければ安心してつき合えないというので、それでマツカーサー夫人が会長になられまして、それでこれはお前は日本人の代表だからというので選挙をされまして、それを何とか残虐性を取つてもらいたい、そういう懸念なしにつき合えるような民族にしてもらいたい、こう言われたのであります。で、この会ができたわけでありますが、そういうように世界の各国の民族が非常にこの大戦によつて日本人を残虐性のある民族だと考えているときに、又誤解の種を播くようなことはよほど注意しなければならない。そのほかに方法が全然なくて仕方がないのならともかくも、方法があるならやらないほうがいいのじやないか。殊に観光にもこれが大きく宣伝されますと非常に差支えるのじやないかというふうに思つております。  そう言いますと、お前は人間が大切か、犬が大切かとすぐ言われますが、犬というものは動物の中で一番人間とのいき合の歴史が最も古いものでございまして、そうして最も愛情に富んでいて、人間のえらい人が失脚したときには、友だちも、周囲も寄りつく人がなくなるのに、犬だけはその飼主が乞食になつても、愛情に変りがない。墓に入つても、犬がお墓の側に付いていて十何年離れなかつたという例があるくらいなのであります。届出ないとか、注射をしないというのは飼つている人間が悪くて、犬自身にはちつとも罪がないのに、狂犬病予防のために捕えられて殺されるということにつきましては、できるだけその犬自身の苦痛の少くなるような方法をとるのが、これは我々人類の責任じやないか、そういう一つの責任を持つて行つてこそ初めて人類というものが平和に到達できるのであつて、人類の利益のためには如何なる方法を以てしてもこれを虐殺をしてもかまわんということは、これは最も私は人間の文明の後退じやないか、こう考えております。  それで先ほど申上げましたように、この法案につきましては、これの研究がまだ不十分である、国内の影響も相当悪い影響がある、海外の影響はまだまだ悪いということから、相当期間をおきまして、これを審議しまして、或いは英国から一人の責任のある権威者を派遣してもらいまして、それらの意見を聞いて撲滅の方法を考えた上で、この法律の国会をパスして施行してもいいのじやないか、そういうふうに考えております。大変長い間どうも有難うございました。
  9. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは今のお話につきまして御質疑を願います。
  10. 有馬英二

    ○有馬英二君 狂犬病予防ワクチンのことで参考人北本さんにお伺いいたしたいのですが、時間がなかつたので、十分にお述べにならなかつたのではないかと思うのですが、又余り専門的なことをここで長いことお話を承わつても時間がありませんから、そういう意味であつたのかも知れませんが、先ほどお触れになつたので、石炭酸とそれから紫外線方法という二つ方法が今でも両方併用して行われておる。どうして片一方にならないのですか。その紫外線のほうがあとから研究されて、そのほうが完全のようでありますが、どういうわけでこの両方とも今でも行われておるのか。又それが併用されるほうがいいのでありますか。どういうわけなんでしようか。そいつを一つもう一度お伺いしたいと思います。
  11. 北本治

    参考人北本治君) 只今の有馬博士からの御質問、私の先ほどの説明が少し足りなかつたかと思いますが、併用と申しましたのは、同じ人間に両方使うというのではございませんで、日本国内状況を申上げましたときに、例えば東京で私どもの伝研へいらつしやる方は、紫外線照射ワクチン一本でやつております。ところが大阪なり九州なりへ参りますと、紫外線ワクチンをやつていないところが多うございますから、それでカルボール・ワクチンでやつておる、日本国内として見ました場合に紫外線照射ワクチンも行われておるし、石炭酸ワクチンも併せて行われておる。そういう、つまり場所を異にし、人を異にして行われておる意味の併用でございます。同じ人に両方のワクチンを使つておるという意味で申上げたのではなかつたのでございます。そういうわけでございます。
  12. 有馬英二

    ○有馬英二君 それは両方ともが学問的に殆んど同じ効果があるという意味でありますか。或いは製造方法に優劣がないということに帰するのでしようか。学問的に統一するという必要はないのでありますか。それを一つお伺いしたいと思います。
  13. 北本治

    参考人北本治君) 大変大事な御質問でございまして、学問的な現在の段階といたしまして私どもが申上げてよろしいと思いますことは、紫外線照射ワクチンにおいては、少くともここに上げましたような何千人という数を扱つて非常に効力もよく、副作用も少いというかなり確かなデータがあるという点であります。そのほかのワクチンにつきましては少数例のデータはあるようでありますが、まあ何千人というような非常にたくさんな数を正確に集計したデータが乏しいのでございます。そういう点から申しますというと、確かなデータに基いて只今処置を講ずるという点から申しますと、紫外線照射ワクチンのほうがいいというふうに考えるのであります。ただ、紫外線照射ワクチンが現在直面しております一つの大きな問題は、ワクチンの保存性の問題でございます。学問的に申しますというと、その点だけが残つておるのであります。製造いたしましてから、石炭酸ワクチンの場合は大体半年有効期間ということを認めておるわけでございますけれども紫外線照射ワクチン只今のところでは液状のままにいたしました場合が大体一、二ヵ月というところがまあいいところでありまして、そのために東京におきましては新らしいワクチンを次から次へ応用することができますので、地方にもそういうセンターができまして、新らしいワクチンを次々作ることができるようになれば、紫外線照射ワクチンに全部切替えるということがやはり望ましいのじやないかと思うのでありますが、実際問題といたしましては現在東京だけしかそういうことが実行できないものですから、全国的に見ました場合にはまだ少しこの間に幾つかの段階を要する、こういうふうに考えるわけです。なお、紫外線照射ワクチン乾燥凍結いたしまして、いわゆる乾燥ワクチンにいたしますというと、保存性が長くなると思われますので、そういう研究もやつておるわけでありますけれども、それは現在研究途上にありまして、まだ結果として申上げる段階に至つておりません。でありますから、紫外線照射ワクチン石炭酸ワクチンは同じかということになりますと、片一方にはデータがあつて、片一方には十分のデータが少し足りないように私は感ずるのであります。正確な意味の比較はできないのでありますが、データのあるものについて見ました場合には、紫外線照射ワクチンのほうは一応優れておるというふうに推定されるわけであります。
  14. 有馬英二

    ○有馬英二君 北本参考人にもう少し伺いたいのですが、ワクチンの効力についてお答えでありましたが、副作用についてワクチン製造方法の差異による何と言いますか、差異というようなものがないわけですか。
  15. 北本治

    参考人北本治君) 先ほど印刷物をお配りいたしましたが、有馬先生のところに行つておりますか、まだ行つておりませんか……。副作用につきまして、この紫外線照射ワクチンの場合は非常に少いということがわかつております。石炭酸ワクチンの場合はまだ余り数が多くないのでありますが、最近の市販のワクチンについてわかつております一、二の例を申上げますと、百二十二名のうちで五名、約五%に後麻痺が出ておるような、そういう数字がございまして、この数字は数がまだ百台の数字でございますから余り断定的なことを申上げるのは無理のように思うのでありますが、紫外線照射ワクチンの場合に八百三十八名のうち二名というのに対しまして、一般石炭酸ワクチン百二十二名中五名というような数字がございます。この場合数が一方は少いものですから、私どもの感想といたしましては、石炭酸ワクチンによる副作用が一体どのぐらいあるかということを早急にデータとして集める必要があるというふうに考えております。そのデータがございませんために紫外線ワクチン石炭酸ワクチンとの厳密な意味の比較というものはまだできないわけでございます。
  16. 有馬英二

    ○有馬英二君 新聞に書かれておるのですから、これはどうも本当に学問的に言うべきことではないと思うのですが、それが併し非常に誤解されておるのは、ワクチン副作用として、先ほどお話になつた精神障害と申しましようか、或いは性格の異常というようなことが起される。それがワクチン注射によつて脳の中に穴があく。そうしてそれはレントゲンで写せば写るとか、或いは見えるとかいうようなことが非常に誇張されておるのじやないかと私思うのですが、そういうことの発表が、何らか普通の人に正しく理解されるように学者の発表があつて欲しいように思うのですが、実際においてどんなものでしようか。
  17. 北本治

    参考人北本治君) 只今の御説の通りでありまして、非常にセンセーショナルに扱われ過ぎた嫌いが、私どもの目からいたしましても十分にあるように思われるのであります。あの御研究は非常に独創的なところがありまして、従来ああいうことに余り及びもつかなかつた点に注目をされたという点で、世界的な意味でも非常に興味のある学問的には貴重な御研究でありますけれども、その発生率というものは、先ほど申上げましたように、軽い副作用を全部とりまぜました数の大体十分の一から十二分の一くらいに相当する少数でありますし、レントゲンでわかるほどの穴が脳にあいてしまうというようなことは、もう極めてその中でも又少数でありまして、その本体は、医学的に申しますと脱髄性脳脊髄炎と称される形でございますことは有馬博士も御承知の通りでありまして、大体脳の組織の中に脱髄現象が起りまして、健康の組織のときと違つたこういう病変が起るのでありますが、それは極めて稀なものであります。ただ稀であるからいいんだというのではございませんで、我々研究者としては、如何に稀であろうとも、尊い一命に関することでありますので、絶無にしたいというのが願いでありますけれども、現在の段階においてはまだそこまでは行つていない。併し非常に恐れて、そのために肝心の狂犬病を多数発生させるようなことになつては、これは本末填倒であるということが真相であると思うのであります。   —————————————
  18. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  19. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 速記を始めて。それでは齋藤さん、北本さん甚だ恐れ入りますが。只今から母子福祉資金貸付等に関する法律の一部を改正する法律案の提案理由の説明を願います。
  20. 草葉隆圓

    ○国務大臣(草葉隆圓君) 只今議題となりました母子福祉資金貸付等に関する法律の一部を改正する法律案につきまして、その提案の理由を御説明申し上げます。  改正の第一点は、修学資金及び修業資金を父母のない児童に対しても貸し付けることにいたした点であります。母子福祉資金貸付等に関する法律は、母子家庭の福祉の増進のため極めて有効な働きを示しておるのでありますが、父母のない児童に対しましては、社会的或いは経済的条件におきまして、母子家庭の子女よりも一般的に低いものがあるにもかかわらず、修学資金又は修業資金の貸付を受けること  ができなかつたのであります。これは公平の見地から見ましても問題でありますが、最近では、一定の知識とか技能を身につけないと一人で生活して行くのは容易ではないのでありまして、この父母のない児童の不利な条件を除去又は緩和するために父母のない児童に対しましても修学資金又は修業資金を貸付け、将来独立して自活することのできる能力を得る機会を与えることにいたしたわけであります。  改正の第二点は、特別会計の歳出に貸付に関する事務に要する費用を加え、その限度を規制することにいたした点であります。母子福祉資金の貸付業務は、都道府県の事務として実施されておるのでありますが、貸付を行うに当つての調査、指導とか償還とかに関する事務は貸付制度の運用について欠くことのできないものであるにもかかわらず、地方財政の逼迫している現在、都道府県が事務費の必要額を十分に確保することが困難なのであります。従いまして事務費を一般会計からの繰入金のほか、償還金の利子、違約金等を財源として支出することができるようにいたしたわけであります。  以上が改正案の大要でありますが、何とぞ御審議の上、速かに可決せられんことをお願い申上げます。
  21. 上條愛一

    委員長上條愛一君) この詳細な点についての政府委員からの説明は次回に譲りまして、本日は本案はこの程度にいたしたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  22. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 異議ないと認めます。   —————————————
  23. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは先ほどの参考人に対する御質疑を継続して頂きます。
  24. 湯山勇

    ○湯山勇君 北本さんにお尋ねいたしたいと思うのでありますが、犬に予防接種した場合に、予防接種の効果が現われるのはどれくらいの期間たつてからか。その免疫の有効期間でありますね。それは大体現在のところどれくらいになつておりますか。
  25. 北本治

    参考人北本治君) 犬でございますね。犬の場合は大体二週間ぐらいから、或いは早いのは一週間、これは細かい数字を私ちよつと持合しておりませんか、大体十日前後から始まつて参りまして、半年から一年は大体続くわけでございます。隙間ができませんように、或る程度間隔をせばめて注射を実施するということが望ましいわけでございます。
  26. 有馬英二

    ○有馬英二君 齋藤さんにお伺いをいたしたいのでありますが、外国においてはどういう薬を用いておりましようか。
  27. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 外国では、狂犬病予防のために薬殺しておるということは知りません。薬を使つていないと思います。ただ特定の犬を、捕獲した犬を殺すときには、獣医が犬の心臓に硝酸ストリキニーネの薬物を注射いたしましてねむらせることはいたしますけれども、薬を日本みたいに撒布してそれを食べさして殺すということはどこも聞いておりません。
  28. 有馬英二

    ○有馬英二君 それでは睡眠剤或いは麻酔剤のようなものを使つて眠らして捕獲するというようなことはやつておりましようか。
  29. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) そういうこともほかの国でやつておりません。私のほうの協会で、そんなに日本捕獲に困るものならば、毒殺というふうに新聞で伝えたものでありますから、若しも毒殺するんだつたら、麻酔薬のほうがいいんじやないか。それでこちらのほうでも実験して見ましたが、御存じの通り、体重一キロについて〇・一でしたかを食べさせました。こちらがやつたのではなく、病院長がやつたのですが、胃の中に物がありますときとないときで大分違いまして、あるときは三時間乃至四時間経つてから八時間乃至九時間眠りまして大体死にます。それでこの間なんか十一時間眠つて、眠つたまま死んでしまいました。ああいうばら撒かれたときには、一つの定量を食べるから殆んど全部が死ぬのではないかと思います。それからもう一つは、有馬さんは御専門だろうと思いますが、本当に飼われている犬が若しも間違つて食べましたときは、それが家に帰つて、そうしてすぐ眠り始めた、それで早期に発見したときは、これはすぐ手当をすれば生きるのじやないかという希望を持つておりまして、それで若しも薬を使うならば、麻酔薬がどうだろうということを内閣総理大臣宛に陳情したのであります。その使いました薬はフエノバルビチル、これは人間の手術のときの麻酔薬で、これを体重一キロにつき〇・一グラム内服させる、こういうことになつております。それからこのことも東京都の衛生局なんかの意見を聞いたのでありますが、高いものでは困る、ストリキニーネが一番安い、一つで何百というものが死にますから、これも大体中型の犬の致死量が約百三十くらい、そうしますと今までの例が毒団子が五十個から二十五個でありますから、五十個を最高量といたしますと千五百円くらいの費用でできる。そうすると各府県の予算内でも十分できるんじやないか、こういうふうに考えまして陳情書を出したわけであります。
  30. 有馬英二

    ○有馬英二君 なおほかにフエノバルビチルばかりでなしに、有効な薬というようなものは御実験になりましたかどうか。
  31. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 私のほうではしておりませんが、最近厚生省の乳肉衛生課でそういう薬品実験をしているということを聞きましたので、私のほうの病院のドクターを派遣して立会せまして、それは鼠を獲る殺鼠剤プラトールだつたそうでありますが、これは詳しく聞いておりませんが、食べさせたのと、皮下注射、血液注射、三通り三匹の犬に実験いたしましたそうでございますが、最初は夕方になつてもぴんぴんしておるので工合が悪かつたが、一日か二日経つてから死にました。これは恐らく前に長野県で殺鼠剤を農林省が配付しました、アメリカのプラトールか何か忘れましたが、畑に撒きました。そのために犬が何百頭ですか、何千頭ですか被害をこうむりまして、林野庁で統計をとりまして、林野庁で同じ農林省に抗議を申込んだことを知つておりますが、同じような殺鼠剤ではないかと思つております。ほかの薬を又実験するように申付けてありますが、まだ報告がございません。ほかの薬は高いので、できるだけ安いのしか駄目だろうというので一番安いのを実験したわけであります。
  32. 谷口弥三郎

    谷口弥三郎君 齋藤さんにちよつとお伺いしたいと思いますが、この狂犬はまあ地方的に、例えば九州のごときは殆んど狂犬なんというものはいないように聞いております。この表によりますと、二十三年に人間狂犬病が一人だけ出ているというのでありますが、大体東京附近に非常に多くて、そうして九州方面に非常に少いというのは、何か地方的に特に多い、又地方的に少いというのはどういう理由であるかというようなことは何らわかつているようなことはありませんですか。
  33. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 私は東京都の狂犬予防審議会の委員を四年間やつておりますが、やはり都会は人口が稠密しておりまして、そうしてそういう犬を無届で飼つたり、半ば飼い、半ば野犬のようにしておつても世間に目立たない。田舎でございますと、すぐあそこの家で犬を飼つているけれども届けていないとか、注射済みのメタルをつけていないというようなことがすぐわかるのでありまして、その点非常に取締りが簡単ではないか。都会はそういうことは非常にむずかしくて、大取りが行きましても、長屋の者がお互いに隠し合つてかくまつたりしてしまうので、そんなことがありますので、民衆の協力を得ることが少い、又民衆の協力を得るような方法をとることが非常に少いために、そういう都会の犬には注射を受けない犬が多い。東京におきましては届出ましたのは今日聞きましたが、昨年十四万何千頭か届出ておりますが、約十万頭は届出のない犬、或いは浮浪犬があるのではないかと思いますが、本当の野犬というものは先ずないのではないか、これは山か何かに本当に野生している犬でありまして、これらは夜くらいしか活躍できません。東京都の野犬といいますのは、先ず無届畜犬と浮浪犬であります。
  34. 谷口弥三郎

    谷口弥三郎君 一つついでにお伺いいたしますが、犬の狂犬病という数は全国でどのくらいであるか、おわかりになりませんか。
  35. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 全国での狂犬病発生数でございます。これは各県別になつておりますが、大体東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、茨城、栃木、福岡、岡山でございまして、昨年度十二ヵ月の全部の数を合計しましたものは百七十八頭であります。そのうち東京が一番多くて百二十八頭、神奈川が十七頭、それから次に多いのが栃木の十頭、あとは大体七頭、三頭、二頭というような状況であります。
  36. 谷口弥三郎

    谷口弥三郎君 北本さんに一つお伺いしたいと思います。最近はパストウールワクチンから石炭酸ワクチン、又フオルマリンのことがお話に出ましたが、フォルマリンとか紫外線でやるというふうな方法をとつておられるそうでありますが、フォルマリンは如何でございますか。フォルマリンは石炭酸と変りないのでございますか、それとも紫外線と同じくらいの効力でございますか。
  37. 北本治

    参考人北本治君) これは伝研のほうでやりました成績は、フォルマリン・ワクチン単独というのは極く少数でございますけれども、併用いたしましたこれの成績では、大体マーゾニンワクチン、カルボールワクチン、その辺が大体相似寄つておりまして、カルボール・ワクチンとの非常に正確な比較は、ちよつと手許にないのでございますが、非常に近いものでございます。
  38. 谷口弥三郎

    谷口弥三郎君 いま一つ伺います。先刻のお話にも、又実際にこの狂犬病ワクチンをやつたあとで、新聞に出ておるような一%も脳に空洞ができるというのは、これは絶対にないものだというふうに考えるのですが、実験的に犬か予防的に狂犬病ワクチンをされて、そのあとで脳の状況とか或いはレントゲンで撮つたあとというような御経験がございますか。
  39. 北本治

    参考人北本治君) これは狂犬病の研究班のような研究グループがございまして、そこの中で、まあ私どもの教室の大谷君というのが関係いたしておりまして、主として東大の脳研のメンバーでございます。犬を何匹か実験したのがございますのですが、それで見ますというと、どうも人間ほど大きな病巣はできないのでございます。小さい病巣が稿のようにぽつぽつと散在してできるのが実際に証明されておるのであります。
  40. 谷口弥三郎

    谷口弥三郎君 小さい病巣でも、それがどのくらいの率に出ておるということはわからないのですか。
  41. 北本治

    参考人北本治君) 率は、何分にも非常に研究費が足りませんので、何匹も使つてやるということがございませんのと、それからそういうときには成るべくそういう病変が余計出ますようにアビアナイズドと申しまして、ほかのそういうものを促進するような物質を加えて実験することが多いものですから、率はわかつておりません。
  42. 谷口弥三郎

    谷口弥三郎君 少しくどいようでございますが、北本さんにお伺いしますが、新聞で全体に狂犬病ワクチンに対する恐怖心が非常に出ておると思います。従つてそれを何とかして取除くために、もつとそういうふうな実験を少し金が要つてもおやりになろうという何かないのですか、そういうような御計画はありませんか。
  43. 北本治

    参考人北本治君) 勿論あれでは非常に誤解を招きますし、実際狂犬病という恐るべき病気に対する処置が非常に不利になるのじやないかと思いますので、各方面からいろいろな研究をやりたいと思つて皆でやつておるわけでございます。只今のような実験的な方面からどうしてそういう病変が起るかということについては勿論やつております、それは現在では大体脳物質のアレルギ一説というのが一番有力な説でございまして、ワクチンの中に含まれておる動物の脳物質か、人間の脳とアレルギー反応を起して、そうしてそのためにそういう変化が起る、こういう考えか有力なものでございますから、そういう方面から考えますというと、脳物質を成るべく取除いたほうが副作用が少いんじやないかというわけで、現在では脳物質を殆んど含まないようなワクチン、いわゆるヴィールスだけを使うようなワクチンができればなおいいんじやないかというので、いろいろな超遠心法を用いましたり、最近におきましてはメタノール沈澱法というのと、それから超遠心分離機を使います超遠心法と、この二つ々両方併用いたしましたようなワクチンも試作しておりますし、そういうのが現在のところでは実験室的にはまあ一番いい段階まで行つておるわけでございます。それをだんだん人間に移したいというのが我々の願いであります。なお、少し余談になるかも知れませんが、狂犬病は御承知のようにヴィールスの病気で、ヴィールスが大体百から百五十、一・二五ミクロンと言われておりますが、何かこういうヴィールスに効くような抗生物質なり、或いは科学療法剤が発見できれば一挙に解決されてしまうのであります。ですからそういう方面の科学療法則、或いは抗生物質の方面からもつと狂犬病治療というものを一方に睨みながら、それが実験するまでの間今のようなワクチンによる治療というものを如何に副作用を少くし、救助率を高めるかというようなことで、今両面からやつておるわけでありますが、ただ何せいろいろな動物が非常にたくさん要る実験が多いものですから、只今現にやつております後麻痺のいろいろな実験にいたしましても、動物の数が非常に少いのであります。それでそういう点がもう少し自由になれば、もう少しいろいろなことがわかるというふうに思つております。
  44. 湯山勇

    ○湯山勇君 齋藤さんにちよつとお尋ねいたしたいのですが、さつきの狩猟法の場合ですね、次のものは云々という種類の中に、野兎というのがありますが、野犬、野猫というのもありますが、これはただいる場所によつて野猫とか野兎、野犬と、そういうふうに言つたというように先ほどおつしやいましたが、それは農林省の見解でございますか、静岡県のほうのことでございますか。
  45. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 静岡県から林野庁の猟政調査課のほうに問合せがあつた。それは昭和二十四年でございましたか、狂犬予防法が関係しておる毒薬を撒布するためだろうと思いますが、撒布するにつきましては、狩猟法にこれは禁じられているんじやないかというようなことからの質問と思いますが、林野庁のほうでは、狩猟法による対象は、山にいる野猫、野犬であつて、人間の住んでいる町中にいる犬猫はまあ狩猟法による野犬、野猫とは認めない、こういう回答をしております。
  46. 湯山勇

    ○湯山勇君 これは相当学問的な、分類学的な立場から言うと、野犬とか野猫というものは、野原にいるから野犬であり野猫であるとするならば、山にいるなら山猫とか山犬と、こう言わなくちやならん。ところが山犬と今の犬とは全然種類が違うわけです。それから又山猫というのも、山にいるというので山猫だとすれば、これは千島にいる山猫それだけしかないわけで、この表現というものは極めてあいまいなものだと思いますが、これは動物界に関係していらつしやる方の御意見としてはどういうふうにお感じでございましようか。
  47. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 私が動物学会のほうの何をしておりますが、私の専門をやりましたのは犬科でございます。犬科動物で、これは化石、亜化石から出ておりますが、これは日本では今おつしやつたように、千島以外には本当の野生の猫はおりません。本州、九州、四国、北海道には野生の猫というものは石器時代からずつとおりません。それから犬でございますが、本当のクオン・アルピナスとか或いはカニスルプスというような犬科動物日本には一匹もおりません。これは亜化石時代から、すべているのは日本狼だけてございましたが、これは明治三十八年に絶滅いたしましてから今日まで生きているという確実な資料は全然ありません。従つて現在山におります猫、或いは山におります犬は、家猫又は家犬が野生化したものだけであります。
  48. 湯山勇

    ○湯山勇君 そこで今のうしろのほうにある種類でございますね、これは普通のやはり今の犬でしたらカメリヤ種でございますか、それだけでございますね、ですから犬もそういうふうに野犬とか野猫という表現自体に非常にあいまいな問題かあるわけでございましよう。その点については別段学会としては注意とか何らか御意見をお述べになつたことはございませんか。
  49. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) ございません。この狩猟法の名前が直ちに学名のように厳密なものというようにとつておらないものですから、つい今まで申上げてございません。
  50. 藤原道子

    ○藤原道子君 今の湯山さんのあれに関連するのですが、狂犬の場合には、結局山へ逃げ込んだ。それがたまたま禁猟地区の山であつたというような場合には、これを毒殺、劇薬等を使えばこれに対しては罰則が、一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処すという、ことに厳重な罰則ができておるのですね。これらについてもこれは何とか考えなければならないことになるのじやありませんか、厳密に言つて……、罰則が付いているのですよ。五万円以下の罰金、一年以下の懲役というふうになつているのです。これなんかは全然問題にならなかつたのですか。
  51. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) さつき申上げましたように、現在の厚生省の狂犬病予防法改正案と狩猟法との関係かどうもはつきりしていない。相衝突するものがそのままなつていると私申上げたのでありますが、今おつしやいましたのにちよつとお答えいたしますが、狂犬病にかかつた犬は物を食べないのでございます。食欲が全然ございません。物を食べられません。水も飲みません。そのために必ず何か狂犬病にかかつたけれども、半年も一年も生きておつたということは全然ございません。これは必ず死にまず、物を食べられないのが原因ですから……。ですから先ほどの十八条の二も、薬殺というのも狂犬病にかかつた犬は駄目です。移るかも知れないという周囲の犬を殺すだけしか役立ちません。
  52. 湯山勇

    ○湯山勇君 そこで山に近いところで、今の狂犬の犬に咬まれた犬が逃げて山に入つた場合には、薬殺すれば狩猟法違反になるのでしよう。
  53. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 現在ではなります。
  54. 西岡ハル

    ○西岡ハル君 北本先生にお尋ねいたしますが、今月になりまして、ちよつと何新聞か今失念いたしておりますけれども狂犬病の犬に八歳くらいの子供さんが十六名咬まれたという記事が出ておりました。その結果どういうようなことになつたか、私ひそかに心配いたしておりましたが、おわかりでございましようか。
  55. 北本治

    参考人北本治君) 何区の何でございましたか。
  56. 西岡ハル

    ○西岡ハル君 ちよつとよくわかりませんが、丁度この委員会でこの問題があつたものですから、私非常に心配いたしておりまして、あんな記事が出ましたことは今お話があつた、非常に皆さん恐怖心を起しておりますわけですから、十六名もの集団的な子供さんが咬まれた。その結果はどうなつたということを一応私は発表されて、皆さん安心かできるようにして頂きたい。
  57. 北本治

    参考人北本治君) 先ほど申上げましたように、最近の紫外線照射ワクチンでございましたら、先ず一命はみんなとりとめられます。その点は安心して頂いてよろしいのです。狂犬は一匹出ますと、先ず十名くらいは咬みます。ですから一匹出ますと、立ちどころに十名くらいやられます。昨年私のほうに一人狂犬病で死くなつた方がありますが、それは咬まれましたのに、御両親が忙しかつたとおつしやつておりましたが、予防注射を怠つて全然注射をなさらなかつた。それで発病しまして、二日目くらいに亡くなりました。発病しますというと、御承知の通り百パーセント駄目なんですが、成るべく早くワクチンを射しておけばいいわけです。
  58. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 先ほどちよつとお答えしたのに不備な点がありましたので……。狂犬病に咬まれた犬が山に逃げ込みましたときに、ただ毒薬か劇薬を用いて、或いは罠とか何か十五条の禁止の据銃、危険なる罠、陥穽などを使用すれば罰せられますけれども、そのときは知事の権限で、害獣駆除の許可を受ければ罰せられません。  それからちよつと北本さんのお答えになつたことで、私から申上げますが、一匹の狂犬が出ると約十人ぐらい咬まれると言いますが、都会なんかで十人ぐらい咬まれることがございますが、実際の厚生省の統計ですが、昨年は百七十八頭の狂犬が発生しまして、それによつて咬まれた人の数は三百二十人です。そうしてなおそれによつて死にましたのは全国で三人でございます。これは東京一名、神奈川一名、千葉一名、こうなつています。
  59. 有馬英二

    ○有馬英二君 齋藤さんにお伺いいたしたいのでありますが、先ほど犬の断種法ですか、或いは避妊法ですか。如何でしようか。これでそれを一つ実行して野犬浮浪犬の繁殖々防ぐという可能性が十分ありましようか。
  60. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 従来は御承知の通り牡の手術は極く簡単でございまして、去勢は二時間ぐらいで、終えるとそのまま離してもいいのでございます。ところが牝は約三日間ぐらい入院しないと卵巣割去で従来むずかしかつたのでございます。ところが最近私のほうの院長の長倉、これは東大の講師をしたり、獣医大学の講師をしたり、慶応家畜病院長をしたりしている人ですが、これは外科が得意なのです。非常に簡便な方法を発見しまして、私は医者のことはよく知りませんが、ちよつとした穴を開けまして、そうしてやりますとすぐできるのです。それで長倉病院長が発見しまして、この間も全九州の獣医師大会にそれを発表しましたが、そのことを実験しまして講習会を開いて皆伝授しまして、全国的に拡めております。それは府県によつては非常によろしいということになつて、大阪府などは牝の避妊手術を約八百円ぐらいと見て、半分以上の金を府の獣医師に補助するとか、或いは愛媛県なんかは、そういう避妊手術をしたものは畜犬税を免除するとか、そういう議が今地方的に上つております。東京都にも私が知事、局長によく話したのですが、何分東京都は衛生局と財務局と又違うものですから、まだそれが実行されておりません。非常に簡便な方法が現在では発明されております。
  61. 藤原道子

    ○藤原道子君 八百円ぐらい……。
  62. 齋藤弘吉

    参考人齋藤弘吉君) 八百円くらいと大阪では聞いております。三分の二から半分以上府が獣医師に補助金を出す。そうすると残つたものだけを犬の所有者が分担するというような方法なつております。何らかの奨励法を講ずれば、非常にいいのではないか。それから私のほうで雑種犬を飼つている人が病院に来ますが、それを薦めますと殆んど希望しまして、去勢若しくは避妊をしております。
  63. 藤原道子

    ○藤原道子君 北本先生にお伺いしたいのですが、この間の新聞紙上で、非常に不安を持つているのです。それで私はあれは何万人かに一人か二人の問題ですから、これはあつてもしなければならない。しなければ死んでしまうのですから……。だけれどもやはり不安を与えるので、学界でこの問題に対する何らかの御発表をなさるとかいうような御意思はお持ちでございましようか。
  64. 北本治

    参考人北本治君) 勿論そういう心組みでおるのでありまして、差当つては何とか応急にそういう処置をとつたほうがいいだろうということで、先週の金曜日でございましたか、NHKから、私と辰野教授と二人が喋りまして放送をいたしました。これは都民の時間というのでありましたので、大体東京都内の方が主としてお聞きになつ程度で、全国的なものではなかつたと思いますが、そういうことをいたしました。それからその後毎日新聞があれをとり上げまして、今朝のような記事になつて出たわけでありますが、学問的には従来から学会の発表としては正しい数字が出て正しい認識を持つように従来もなつておりますし、むしろ学会から民衆に対して呼びかける方法があれば、そういうことをするのが一番必要なのかもわかりませんが、そういうこともだんだんと申しますか、機会あるごとにやりたいとは思つておりますが……。
  65. 藤原道子

    ○藤原道子君 是非それを一日も早くやはり発表して、我々が言つても素人ですから、学会から権威ある発表をされるということが一番大事だと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。
  66. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは本案に対する質疑はこの程度にいたして打切りたいと思いますが御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  67. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。  参考人北本さん並びに齋藤さんには長い間貴重な御意見発表して頂きまして誠に有難うございました。厚くお礼を申上げます。  それでは本日はこれにて散会いたします。    午後三時四十一分散会