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1954-03-30 第19回国会 参議院 厚生・外務・文部・水産連合委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月三十日(火曜日)    午後一時四十一分開会   ―――――――――――――  委員氏名   厚生委員    委員長     上條 愛一君    理事      大谷 瑩潤君    理事      常岡 一郎君    理事      藤原 道子君            高野 一夫君            谷口弥三郎君            中山 壽彦君            西岡 ハル君            横山 フク君            宇垣 一成君            廣瀬 久忠君            竹中 勝男君            湯山  勇君            堂森 芳夫君            有馬 英二君   外務委員    委員長     佐藤 尚武君    理事      團  伊能君    理事      佐多 忠隆君    理事      曾祢  益君            鹿島守之助君            草葉 隆圓君            古池 信三君            西郷吉之助君            杉原 荒太君            梶原 茂嘉君            高良 とみ君            中田 吉雄君            羽生 三七君            加藤シヅエ君            鶴見 祐輔君   文部委員    委員長     川村 松助君    理事      剱木 亨弘君    理事      加賀山之雄君    理事      荒木正三郎君    理事      相馬 助治君            雨森 常夫君            木村 守江君            田中 啓一君            中川 幸平君            吉田 萬次君            横川 信夫君            杉山 昌作君            高橋 道男君            安部キミ子君            高田なほ子君            永井純一郎君            石川 清一君            長谷部ひろ君            野本 品吉君            須藤 五郎君   水産委員    委員長     森崎  隆君    理事      秋山俊一郎君    理事      千田  正君            青山 正一君            平井 太郎君            野田 俊作君            森 八三一君            木下 源吾君            片岡 文重君            菊田 七平君   ―――――――――――――  出席者は左の通り。   厚生委員    委員長     上條 愛一君    理事            大谷 瑩潤君            藤原 道子君    委員            高野 一夫君            中山 壽彦君            横山 フク君            湯山  勇君            堂森 芳夫君            有馬 英二君   外務委員    委員長     佐藤 尚武君    理事            團  伊能君            佐多 忠隆君    委員            梶原 茂嘉君            高良 とみ君            西郷吉之助君            鹿島守之助君   文部委員    委員長     川村 松助君    理事            剱木 亨弘君            加賀山之雄君            荒木正三郎君            相馬 助治君    委員            木村 守江君            横川 信夫君            田中 啓一君            雨森 常夫君            高橋 道男君            安部キミ子君            高田なほ子君            永井純一郎君            須藤 五郎君            野本 品吉君   水産委員    委員長     森崎  隆君    理事            秋山俊一郎君            千田  正君    委員      町田 俊作君   国務大臣    文 部 大 臣 大達 茂雄君    厚 生 大 臣 草葉 隆圓君   政府委員    外務政務次官  小滝  彬君    外務省アジア局    長       中川  融君    文部省大学学術    局       稻田 清助君    厚生省公衆衛生   局環境衛生部長  楠本 正康君    水産庁長官   清井  正君   事務局側    常任委員会専門    員       草間 弘司君    常任委員会専門    員       多田 仁己君    常任委員会専門    員       神田襄太郎君    常任委員会専門    員       竹内 敏夫君    常任委員会専門    員       工樂 英司君    常任委員会専門    員       岡  尊信君    常任委員会専門    員       林  達磨君   参考人    東京教育大学理    学部教授    朝永振一郎君    立教大学理学部    教授      竹谷 三男君    東京大学医学部    教授      中泉 正徳君   ―――――――――――――   本日の会議に付した事件社会保障制度に関する調査の件  (ビキニ被爆事件に関する件)   ―――――――――――――    〔厚生委員長上條愛一君委員長 席に着く〕
  2. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 只今から厚生外務文部水産連合委員会を開きます。  皆さんの御了承を得まして、私が委員長の席に就くことをお許し願いたいと存じます。よろしくお願いいたします。  只今から社会保障制度に関する調査の一環として、ビキニ被爆事件に関する調査を議題といたします。  本日はこの調査事件に関して、関係の各大臣の出席及び学術医療の各権威者の御出席を願つております。先ず参考人の方に御意見を拝聴いたしたいと存じますが、一言御挨拶を申上げたいと存じます。  御承知のごとく、ビキニ被爆事件は我が国のみでなく、世界の注目を集めておりまして、我が国民の生命と生活に重大なる関係を有する問題でありまして、この調査については今回関係厚生外務文部水産等の各委員会が連合いたしましてこれを調査することになつたのでありまして、今日その第一回の委員会を開き、原爆研究についての学術的立場からする御意見、及び医療立場からの御意見を拝聴いたしたいと思いまして、お願いいたしましたところ、参考人の各位には、極めて御繁忙の折にもかかわらず、曲げて御出席を頂きまして誠に有難うございました。厚く感謝申上げます。(拍手)  あらかじめ文書でお願いいたしておきました通り、それぞれの立場から、何とぞ十分に御意見発表を願いまして、本連合委員会調査上の参考に資さして頂ければ幸いと存じている次第でございます。  では、これより参考人方々から御発言を願うのでありまするが、時間の関係上、参考人全部の方々から御意見発表が済みました後に、各委員の御質疑を願うことにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。それでは最初に東京教育大学理学部教授朝永博士からお願いいたします。
  4. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) 私今日参考人としてこちらへお招き頂いたのでございますけれども、率直に申しまして私は甚だ適任でないかと存じます。と申しますのは、私は原子物理学専門にしておりますけれども、この原子物理学もいろいろございまして、原子力、或いは原子爆弾の問題と非常に遠い……、私の専門は非常に遠いほうなんでございます。それでこの…、今お聞こえにならなかつたかも知れませんが、今申上げましたことは、私の専門がこの同じ原子物理学と申しましても、原子力の方面とは余り関係のない分野でございますので、今日こちらへお招き頂きましても、余り皆様の御参考になるような意見を述べることができないのではないかと思うのでございます。つまりこの普通の常識的な考え方より以外に、余り権威のあるようなことは何も私持つておりませんです。で、ただこの原子力、或いはこの原子爆弾というようなものが如何に大きなエネルギーを出し、如何に危険なものであるかということを皆さんお話する以外のことは何もできないと存じます。  で、この原子爆弾と申しますのは、只今までのところ、ウラニウム或いはプルトニウムを使いましたこの広島長崎の型のものと、それから今回の実験はそういうのでなくて、水素爆弾であろう、そういう想像がされますのですが、その二種類爆弾についてちよつと簡単に御説明したいと存じます。  でこのウラニウム、或いはプルトニウムを使いました爆弾、これはこの皆さん方原子物理学の講義をするつもりはございませんですが、この原子のまん中にありますものを、原子の核とまあ言われる種のような、核と言われるものから出るエネルギーを、原子兵器はいずれも使つているのでございますけれども、この広島長崎型のものは、この原子の核と申しますのはいろいろの種類原子がございます。水素から始まりまして、ウラニウム、或いは更に最近まで一番軽い水素原子から、一番重いウラニウムプルトニウムというほうの原子、いろいろな種類がございますが、その極端に重いほうのウラニウムプルトニウム、そういう原子原子核は非常にたくさんのエネルギーを自分自身持つております。でエネルギーを自分自身持つているということは、それが壊れまして、ほかの原子核に変化することができる。そうしてそのときにエネルギーが外へ出て来る。そういう意味でございます。でこれに対しまして、軽いほうの水素原子核は、それ自身はもうそれ以上壊れてエネルギーを出すということはできないのでありますけれども、今度これがヘリウムという原子核に、幾つかの水素原子原子核と、それからそのほかに中性子というものがくつ付き合いますとヘリウムに変る。そのときにエネルギーが出て来る。  これは普通のこの我々が日常知つておりますエネルギーのやり取りの類推、アナロジーで参りますと、普通のエネルギーの源として用いられるのは、物を燃やすとかいろいろそういう化学変化を利用するのでありますが、これはこのやはり二種類の違いがございます。一つはこのエネルギーを、たくさん持つております原子が分解いたしまして、その分解するときに外へエネルギーが出て来る。これは通常の火薬爆発のような場合がそうであります。火薬分子は相当複雑な分子で牛ありますが、これが壊れまして、壊れるときに大量のエネルギーが出て来る。これはつまり分解によるエネルギーであります。それからもう一つは、化合によるエネルギー分解と逆に簡単な分子がより複雑な分子に化合するときにエネルギーが出て来る。でこれは普通の燃焼のような場合、例えば炭素酸素と化合して、炭酸ガスになる。そういうときに出て来るエネルギー、これが石炭を燃やすというようなときに得られるエネルギーでありまして、この類推で参りますと、このウラニウムプルトニウム型のは、複雑なものが、より簡単なものに分解するときに出るエネルギーを使う。それから水素爆弾のほうは簡単なものが複雑なものに結合するときに出るエネルギーを使う。そういう違いがあるわけでございます。  で、それではこの水素爆弾がなぜこのウラニウムプルトニウム爆弾よりも威力が大きいかということを簡単に御説明いたしますと、このウラニウムの二百三十五という、通常言われますウラニウム原子核、及びプルトニウム原子核は、これは別にそのまま放つておきましても、これに宇宙線の中にあります中性子がぶつかりますと、そうすると壊れるのであります。で壊れるのでありますけれども、これはただ原子核が一個だけ壊れたのでは、大したエネルギーが得られませんです。でウラニウム塊まりを持つて参りますと、そこにある塊まりが全部壊れますと、それが非常な莫大なエネルギーになります。でこの自然にプルトニウム、或いはウラニウム二百三十五を置いておきまして、それが全部、原子核一つや、二つでなく、全部壊れるということのためには、或る最小の量のウラニウム、或いはプルトニウムが必要であります。大体これはこの量ははつきりわかつておりませんけれども、十数キログラムですか、十数キログラムの塊まりがありますと、それ以下の塊まりでは、幾ら置いても爆発は起りませんね。ところが十数キログラムより大きくなりますと、これは自然に爆発する。そういう性質を持つております。でこれを利用しまして、このウラニウムと、プルトニウム型の爆弾では、その十数キログラム、これを限界の大きさと申しますが、その限界よりも小さい大きさの塊まり二つ、或いは何個か知りませんけれども、離して置きます。するとその各々が、その限界の大きさよりも小さいのですから、そのままでは爆発が起りませんです。ところがそれを、こう離したものをぱつとくつ付ける。そうしますと、この全体の塊まりが大きくなつて、その限界の大きさ以上になりますから、そこで爆発が起る。そういう原理を利用いたしましたのです。こういう原理を使いますというと、或る大きさ以上の爆弾を作ることは非常に困難になつて参ります。例えば、つまり初めはその十数キログラムよりも小さな塊りに分けておかなくちやいけない。それを非常に短い時間の間にぱつとくつつけなくちやいけないそういうことができますのに、その塊まりを、そう二十も三十も塊まりを瞬間にくつつけるということはできませんですから、せいぜい……、これは技術的な問題でよくわかりませんですけれども、せいぜい数箇の塊りをくつつけることしかできないわけでありますからその大きさがおのずから制限されて参ります。ところがこの水素爆弾のほうはどういう原理でできておるかと申しますと、これは普通の水素ではございませんで、重水素或いは二重水素三重水素という水素を使うわけでございますが、これを非常な高い温度にいたしますと、この先ほど申しました、それがヘリウム原子にくつつくというそういう現象が起る。それを利用したわけでございます。でこの重水素、或いは三重水素の混ぜたもの、これを常温にしておいたのでは、幾ら多量にあつても決してそういう反応は起りませんです。これを非常に高い温度……、非常に高い温度と申しますのは、数千万度ですか、数億度、数億度という温度にいたしますと、初めてそういうそれらの核がくつついてヘリウムになる。いわば炭素酸素がくつついて炭酸ガスになると同じような現象がその原子核で起るわけでございます。これは普通の温度では幾ら多量にあつてもいいわけなんでありますから、原理的に申せば幾ら大きいのもできる。このときにそれでは数億度にこれを熱するのにはどうするかと申しますと、つまりマツチ石炭に火をつける。そのマツチの役をするのに何を使うかと申しますと、それがそのマツチとしてプルトニウム、或いはウラニウムを使う。で先ほど申しました広島長崎型の爆弾爆発しますときに非常に莫大なエネルギーが出て参りますが、それが熱のエネルギーとして外に出て、多くの部分は熱のエネルギーとして外に出て参りますので、その熱を使いましてその水素、二重水素三重水素の混合したものに火をつけることができるわけでございます。で水素爆弾におきましては、広島長崎型の爆弾がつまりマツチの役目をする、その廻りに、非常に多量の水素、二重水素三重水素混合物廻りにつけておきますと、そのマツチによつてそれに点火する、こういう原理によるものであります。で先ほどから申しましたように、これは、このマツチは余り大きなマツチにすることはできない。先ほども申しましたことによつて不可能でありますけれども、その廻りにつけます水素は、原理的には幾らでも大きくできる。そういうわけで、これには原理的な大きさの制限はございません。ただこれを持運ぶためにどうするか。それからこの十素とか、二重水素というのは、いずれもガス状態では駄目なのでありまして、非常に圧縮した状態、つまり液体の状態にしなければならない。そういう点でなかなかむずかしいことがございます。併しこれは原子核物理の問題じやなくて、むしろそういう技術的な問題が主な制限になつているわけでございます。  で今度のビキニ実験に使いましたものが何であるかということは勿論わからない。水素爆弾であろうと想像されているわけでありますが、その想像の根拠は、これの強さが広島長崎型の五、六百倍というような点から見まして、そのようなことはウラニウムプルトニウムだけでは到底できそうもない、そういうのでございます。で最近又何か広島長崎の二千倍ぐらいの威力のある実験をやるという話でございますが、これなどやはり水爆ではなかろうかと思います。  ここで一つ問題がございますのは、今申しましたように水素爆弾でございますと、ガス状態のものを使うことができない、ここでその困難さに対して登場して来てよく言われておりますのがリチユウム爆弾というものでございます。このリチユウム爆弾というようなことが可能であるかどうか、まだ我々にはわからないのであります。武谷さんはその点或る程度研究されたようでありますが、この重水素三重水素の代りにリチユウムを使う、リチユウム及び水素です。或いはリチユウム重水素かも知れません。リチユウムは固体でありますから、そうしてそう稀にあるものでなくて、多量に安く手に入るのでありますから、これが可能でありますると、リチユウム爆弾というのは非常に容易に、若し原子核物理学的に可能ならば、他の技術的な面ではより容易に作り得るのではないかと思われます。  こういうふうに水素爆弾が、つまりウラニユウム、プラトニユウム型でない爆弾が可能であるということになりますと、これはどこまで大きくなるかということが殆んど想像が付かないような状態でございます。従つてこういうものがどんどん造られ、勿論戦争に使われたら大変なことなんでありますけれども、実験されるようでありますと、これは相当な問題であると私どもは考えておるわけでございます。どうもこういう私のお話が何か御参考なつたかどうかわかりませんですけれども、先ず一般論のようなつもりで、こういう御説明をいたしましたわけでございます。
  5. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは次に立教大学理学部教授武谷さんにお願いいたします。
  6. 竹谷三男

    参考人竹谷三男君) この第五福竜丸の話について何か御参考になるお話というふうに書いてございますので、何か私として物理学立場からお話ししなければならないわけでございますが、私も朝永さんも実は原子力よりももつと先のことを、そういう仕事をしている人間でございます。原子力というのはもうオツペンハイマーが言いましたように、一九三九年までに実つたりんごの木をゆすつたら、りんごが落ちて来たというふうに言つておりますように、もう我々の問題としては勿論現在もそういう問題は非常に多いのでございますが、一応過去の問題に近付いている。勿論原子核内部構造というのも、まだ大分わかつていない点もありますので、いろいろ研究しておりますが、我々はもつと先の素粒子の問題でありまして、その原子核物理学ウラニユウムが核分裂をいたします。今朝永さんがお話になりましたように、そういう場合には大体アインシユタイン理論質量エネルギーに変る、質量エネルギーと同じものだ、そういうような理論でありますが、このアインシユタイン理論のこの質量エネルギーに変る場合に、大体質量の千分の一くらいがエネルギーに変つて行く、ところが我々が扱つております素粒子では、しよつちゆうその質量の全部がエネルギーに変つているという現象を我々はいつも相手にしているのであります。そこにいろいろな問題が出ております。朝永理論というようなものもそういうところから出て来ているわけでございますが、まだ解決が付いておりません。併しながら我々といたしまして、原子力の問題というのは、非常に物理学者として、物理学者が大体そういうことを一番知つている問題でありますので、責任がございますので、いろいろとそういうことを解説をして、そして多くの人にわかつて頂きたいというふうに考えております。併しそれがただ一般論的にそれだけではございませんので、実は今日私がここで呼出されましてお話できるということは私としまして非常に嬉しいことでございますのは、どういうことが一つございますかと申しますと、私は戦時中に仁科研究室でやはり原子爆弾研究朝永さんの下におりましてやらされておりました。そのとき勿論日本では原子爆弾はできないと思いましたけれども、これがいつ頃一体アメリカの力ではできるだろうかという予測を私はしたいというふうに考えたのでございます。でその場合に、どうも近いうちにアメリカ原子爆弾を作るのではないか、我々計算いたしますと、丁度一つの都市が飛んでしまうというくらいのエネルギーに勿論なつてしまうわけなんでございます。併しそういう話をしても、戦時中勿論大つぴらには話はできませんが、どうも非常に心配でございましたので、いろいろそういう話をまあしていたのでございます。併しながら大抵その話を聞いた人は、まあそれはすごいぐらいで、お茶のみ話ぐらいのところで済んでしまつたわけでございます。  ところが広島長崎の多くの人がそのためになくなつてしまつたわけでございますが、その場合に私考えましたのは、どうもその日本人の誰一人もそういうことを知らないでおいて、そうして広島長崎の人が死んだというのなら、あきらめるよりしようがないのですけれども、少数の人でもそういうことを知つていて、それでそういうことになつてしまつたのは、非常にあきらめられないような気持がするので、それで私は戰後いろいろ原子力原子爆弾に対してのいろいろの紹介をできるだけいたそう。それでそういうことを知つて頂きたい、でこの原子兵器についてのいろいろの効果はここに私たちが訳しました原子兵器効果という本があります。この本にいろいろ放射能を受けた場合の措置とかいろいろ詳しく書かれております。で、実は今度のが水素爆弾であるという予想、これはだろうという以外には何もわかりませんのですが、でそういう予想はこれ爆発力とか、いろいろなエネルギーのほうから大体見当を付けております。それでそういう場合に、やはり私として非常に感じましたことは、これがアメリカでもそう言われておりますが、予想より以上のエネルギーである、で、我々が水素爆弾の話を一般の人にいたしますと、これは余りに話が大き過ぎて、それでそんなことがあるのかというふうにして、余り相手にされないのでございます。それで私は実にそういうふうな水素爆弾威力について、こういうふうな本なども書いておいたのですが、ところが今度の事件が起つて見ますと、我々が予想したことも、これは大分過小評価であつたというふうな気がするのであります。それで過小評価とか、過大評価とか、いろいろ評価にはありますが、予測である以上、それは外れるのが当然でございます。学問的な性質から申しますと、大体九五%ぐらい当ればよろしいと言つてもいいのじやないかと思うのですが、それは九五%ぐらいは当るかも知れませんが、あとの五%の中にいろいろな予測外のことありまして、その五%が人類にとつて非常に恐るべきものであるかも知れません。だけど科学の全体としての評価としては、九五%当つているということで平気な顔もできるかも知れませんが、併しながらあとの五%が外ずれたために、これがとんでもない災害を及ぼすということもあるわけだし、それから五%の中に新らしい発見とか、新らしい原理がひそんでいるということも考えなければならないことであります。それで実はその広島型の原子爆弾というのが一キログラムのウラニユームが完全にはじけてしまつた。勿論そのためにはさつき朝永さんがおつしやいましたように、もつとウラニユウムが必要なのでございますが、それで二万トンの高性能火薬のT・N・T値に相当したエネルギーを出すわけでございますが、その場合に水素爆弾となりますと、今朝永さんがおつしやいましたように、千倍ということも可能だし、もつと大きいのも可能でございます。これが十の三乗という数字、千倍と見ていた程度でございます。で今までわかつているのは広島長崎型の原子爆弾広島長崎での災害とアメリカが数多くの広島型乃至はそれより大きな原子爆弾実験をやりまして、そういうことについてはいろいろわかつております。広島型についてはその後の原子爆弾爆発も加えまして、この本ができておりますので、大体原子爆弾に関しては予測できるという自信はあるだろうと思います。併しながら三桁も違いますと、大分予測外のことになるのではないかということになるわけでございます。何を聞かれても結局何もわからないということになつてしまうかも知れませんが、それは大きな爆発力と、大きな放射能と、それから大きな熱輻射が存在するということ、それからそれが、大体計算してこの程度であるということが言えるだけでございましてそれ以上のことは何とも申されない。そこでアメリカとしましても、恐らくあの危険区域、海域というのはあれだけ拡げてしまつたということになるのではないかと思います。科学というのはそういうものだ。物理学というと非常に何だか緻密のもののように一般に考えられておりますけれども、実はそれくらいに緻密であると同時に、緻密にやつても大ざつぱなというところがあるのでございまして、その点どうも非常に問題であります。  今度の問題で大体灰が非常にたくさん降つて来たということから推しますれば、それは地上爆発だつた。地上爆発で一九五二年の暮にやりましたやはり水素原子核反応の実験というものが相当のエネルギー爆発しまして、そのときに新聞記事によりますと、これは何も我々専門的な知識でも何でもない、皆さんと同じ知識しかないのでございますが、その場合には直径が一マイルで、深さが百七十五フイートの噴火口状の穴があいたということが数日前の新聞に書かれております。これは数字がどの程度正しいか私は知りません。要するにそういう穴があいたというのは、それだけの泥が上に飛んだ。珊瑚礁の上で行われたのですから、珊瑚礁がこなごなになつて上空に飛んだことになるわけでございます。その上空に飛んだものは上空の風に乗りましていろいろとあちこち行つた。こういうことになると、気象学者の範囲でございまして、我々よりも気象学者にお尋ねになつたほうが……、どつちへ灰がどれだけ流れるかという点では気象学の専門の問題でございます。ただ我々が一般人の常識と同じ程度に知つていることは、大体水爆のエネルギーというのは、火山の爆発乃至は台風のエネルギーと大体同じ程度のエネルギーでございますから、それで火山の爆発エネルギーエネルギーを地下へ持つてつて爆発するから、もつと大きな灰が飛ぶわけでございますが、併し大体エネルギーとしては同じでございます。桜島の噴火のときに日本全国に灰が降つたとか、クラカツトアの爆発のときに世界中に灰がばらまかれたというようなことから推しましたならば、それに類したようなことが起るのは当然であります。その灰は今度は火山と違いまして、放射能を帯びているということが違つているわけでございます。そういうふうなことが起る。それがどつちへ流れるかということは気象学者の問題で、そのエネルギー爆発が起つた場合にどの程度、どうなるかということはちよつと予測できない。それほどには予測できないことになるのではないかと思います。  大体そういうふうなことが考えられるのでありますが、この灰の危険性につきましてはこれは中泉先生の御専門でございますが、要するに灰について放射能というものはどういう性質のものかと申しますと、水素爆弾爆発しますと、猛烈な爆風が一つ、それから強烈な熱線、これは原子爆弾よりもつと強烈な熱線が出ます。それから放射線といたしましては、そのときにその爆弾自身から直接に中性子水素爆弾のときには、猛烈な中性子が出るということになるはずでございます。中性子とそれからガンマー線とが爆発した瞬間に出て来る。その中性子は地上にあるものに誘導放射能を与えるのでございます。これも広島で経験されたことでありますが、今度の場場合にはそれがもつと強烈であるということが考えられます。それから原子核爆発しますので、核分裂によつて大量の核分裂の産物ができます。これは大変な放射能を持つているのでございます。東大で非常に早く非常に熱心に分析が遂行されて、我々非常に敬意を表しているのでございますが、そういう分析の結果から見まして、やはり核分裂のものがいろいろ検出されております。そういうものは非常な放射能を帯びている。そういうものが広島長崎では主に上空爆発でございましたので、上空に上つてつてしまつた。併しながら今度は恐らく地上爆発であつたせいでしようが、地上のものを吹飛ばすと同時にそれに食つついて上空に舞い上り、それが下に落ちて来るということになるわけであります。誘導放射能を与えたのと、それから灰自身の核分裂の産物がついたということで両方の放射能があると思いますが、まだ誘導放射能の部分は検出されていないようであります。これにはいろいろなことも考えられます。  それからもう一つ考えなければならないことは、広島型の原子爆弾に比べまして……、広島型というのは基準型という意味で、エネルギーの意味でちよつと申しておりますが、やはり広島で使つたと同じようなああいう原子爆弾は去年のアイゼンハワーの話では、二十五倍にエネルギーが殖えているということでございますので、それは結局二十五キログラムがはじけたということになる。従つて核分裂でできました産物の放射線の物質は、広島型の二十五倍くらいにその場合には殖えている。水素爆弾の場合にはできるだけ中心の点火用の爆発温度等を上げなければなりませんので、恐らく非常にエネルギーの大きな原子爆弾を使つたのではないか。そういたしますと、やはり核分裂の産物も大変多量にできていたのではないかと思います。そういうことで灰に非常に大きな放射能があることも肯けるのではないか。まあ大体そんなふうなことが考えられるのであります。あとは何か御質問がございましたら……。
  7. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは次に東京大学医学部教授の中泉博士にお願いいたします。
  8. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) 第五福竜丸事件をきつかけといたしまして、医学的に見て多少御参考になるかと思うことをお話しようと思います。  広島長崎の被爆者に起りました傷害というのは、みんな原子爆弾から一時的に出ました熱線だとか、放射線だとかそれから爆風、こういつたようなもので傷害を受けております。  それで今度問題になつております灰は、あのときにはまあ医学的には殆んど問題にならなかつた。で広島では、広島市の郊外の己斐という所に灰が落ちたということを聞いております。それから長崎では、長崎のこれはちよつと郊外の、町続きというよりも郊外でありますが、西山という所にこれは確かに灰が落ちた。西山から島原半島のほうへ向つて灰が落ちた。この西山の辺は、長崎は地勢が凸凹しておりまして、第一次のエネルギーは蔭になつていて来なかつた所であつて、ただ灰だけが影響をした、こういう場所であります。で広島のほうの己斐は……、広島市は平でありますので、第一次の勢力と、その灰との影響が両方重なり合つてつたので、灰だけの影響というものは殆んどわからなかつたわけであります。長崎のほうの西山地区には、灰だけが降つて、第一次の勢力は影響なかつたわけですが、この地方では私どもの予想に反しまして、白血球が却つて一時的に殖えて来たという現象を見られたのであります。で現在では無論正常に復しております。今回の第五福竜丸の船員が受けた災害は、この第一次の勢力は殆んどないのではないかと思うわけであります。で専ら灰によつて傷害を受けたのではないかと思われる。でこの点が非常に違うのでありまして、広島長崎のときには、広島市及び長崎市のほんの街はずれという所に灰が落ちたのであろうけれども、殆んど傷害として大したことはなかつたのでありますけれども、今度はビキニから八十カイリも離れた所にいました船に、御承知のような大きな傷害を起す灰が降つたという点が一番大きな問題だと思います。  それでお話は、患者自体の治療の問題、つまり医療立場から見ましたお話と、それからやはり医学の立場から言うとお話しなきやなりませんので、船を一つの住宅環境と見ますと、環境衛生の立場からのお話と、それから第五福竜丸が積んで来ました魚の汚染の程度の問題、つまり食品衛生の問題と、この三つの立場から順々にお話して行くのがいいであろうと思います。  患者の問題でありますが、今申上げました通り爆弾の第一次の勢力によつては殆んど傷害を受けていないと思います。でただ灰によつて傷害を受けた。で灰は爆発しましてから数時間後に船に降り始めまして、五、六時間続いて灰が降つておつたらしいです。そうして甲板などでは、人の足跡があとでわかるくらいに降つたらしいです。でそれがその着物に無論ひつつきますし、船中に降つてしまつたのでありまして、粒が細かいやつは、船室や、中にも舞込んだらしいのであります。こういう環境に、船員たちは恐ろしいものだとは知らずに二週間くらいして焼津に辿り着いたわけであります。従つてその週間にまぐろも、ほかに食べるものがないから食べておつたに違いない。それからして灰で以て汚れた手でたばこも飲んでおつたに違いない。つまり消化管を通して、灰が体内に入つておるに違いない。それからして船室など狭い所で灰が舞上つておりますところで呼吸しておりますからして、やはり呼吸器の中からして灰が体内に入つたに違いない。それから皮膚に灰が、殊にこの頭の毛の間に灰がこびりついておりますからして、そういうところから皮膚を通して放射性物質が体内に吸収されたに違いない。でこういうふうにしまして、放射性物質が体の中へ入つて、そうして中からというか、中で放射線を出して船員を傷めておるという点が、広島長崎の場合とはもうまるで違う点であります。で患者を御覧になりますと、皮膚にところどころに火傷がありますけれども、あれも第一次の勢力ではないのであつて、皆灰がたまりやすいところに火傷が起つております。でつまり頭の毛の中には灰が長いこと溜つておりますからして、頭の毛のあるところに火傷を起したり、或いは脱毛したりしております。そのほか灰が溜るようなところ、腰紐をしめておる上のところとか、或いは耳の穴の中だとか、そういうようなところに灰が長時間たくさん溜つておつたために、やはり火傷を起しております。  で患者に対する手当の根本問題といたしましては、やつぱりこの体内にあるであろうところの灰を、一日も早く外へ出してやるということが先決問題であるのであります。でそれならば一体放射性物質としてどういうものが、どういう元素があつて、それが体へ入つてしまつたのであろうかということが先決問題であるので、十六日の日に増田さんという患者さんが初めて東京大学へ入院されて、そのときに灰を少し持つて来なすつたのですが、それを直ちに理学部の木村教授のところへお届けして、そうして即刻分析にかかつて頂きまして、新聞で御承知のような結果が出て来たわけであります。他方医学部におきましては、灰を第五福竜丸から採集して参りまして、患者の体内には今さつき申上げましたように灰が入つておるに違いないが、どういう臓器に一体放射性物質が沈着しておるだろうかということを見なければ、それを追出す手段が考えつきませんので鼠を使いまして、鼠に灰を食べさしたり、或いは注射をいたしましたりして、そうしてその鼠を十二時間、二十四時間、三十六時間、四十八時間とだんだんに殺しましてそうしていろいろな臓器について放射性物質がどのくらい沈着しておるかということを先ず……、定量的にはまだできてはおりませんが、定性的にやつております。その結果を申上げますというと、一番多く沈着しておるのが骨であります。骨というのは骨髄が真中にありまして、一番放射線に対して弱い組織であります。一番弱いところに一番たくさん残念ながら溜つておるのであります。そのほかには肝臓であるとか、或いは腎臓等に溜つております。その放射性の灰を入れました動物からどういう経路でそれが又体外に自然に排泄されるかということも試しておるのでありますが、大体尿のうち、及び糞便のうちに排泄されて行くということもわかりました。それで今骨が一番問題なのでありますが、まだ骨にどういう元素が沈潜しておるのであるかという個々の元素についての結果はまだ出ておりません。総体として骨に一番放射性元素が余計沈着しておるということだけがわかつております。理学部の分析結果も新聞で御承知の通りでありますが、あれも皆まだ定性分析の域を脱しないのであつて、定量分析は今実行中であると思います。追つて定量分析が明らかになつて来れば、患者の治療対策にも非常に益するところがあると思います。更に一歩進めば骨にどういう元素が沈着しておるのであるかということを、やはり化学的に分析の手段で突きとめることができれば、なお更結構だと思われる。併し大体において放射性同位元素の実験研究が世界中で行われておりますので、どういう元素は骨に特に沈着しやすいというようなことはわかつております。で御承知の通り骨は大部分がカルシユームであつて、カルシユームは勿論骨に沈着するのであります。従つてカルシユームと同じような化学的性質を持つているものは、やはり骨に沈潜する性質を持つております。従つて分析の結果発見されましたいろいろな元素のうち、カルシユームと同じような化学的性質を持つたものが骨に沈潜しておるであろうということは推定されるのであります。で、こういうものをその骨から追い出さなければならんのでありますけれども、こういうものを追い出そうとするともともと骨にあつたカルシユームがやはり一緒に追い出されてしまう危険があるのであります。もともとあつた放射性でないカルシユームは追い出さないで、放射性であるカルシユームに似た化学的性質を持つたものだけを追い出そうというところに非常に困難がある。で、私どもは勿論こういう患者を一度も取扱つたことはないので、誠にどうも泥縄的の研究をやつて、何とかして追い出す方法を発見しようという手順を進めておるのであります。勿論アメリカはこの方面では世界のまあ一番先頭に立つておるので、こういつた研究もあるかも知れませんので、実際日本ではもうそういう病人を持つておるのでありますからして、アメリカ側にも私は公開の会議の席上、若しくは私的の面会などに治療方を教えてもらうよう質問をしております。それで今後動物実験を続けまして、何とかして無害有効の方法を発見して、それを患者に応用して行くというのがまあ根本的の問題ではありますけれども、これが果してうまく見つかるかどうか勿論わからないのであります。広島長崎の時の被爆者の治療でありましても、あの当時は非常に混乱しておりましたので、測ることもできなかつたのでありますけれども、放射線があのときは外からだけ来たと、今回は中から主として来ているというだけの違いであつて、体に起つておる変化自体は共に白血球の減少であります。従つてその対策等にも白血球減少というその兆候に対する対症療法としては差はないのであります。ただ放射性物質を追い出さなければならんということが今回違つておるのであります。その対症療法といたしましては、これもなかなか実はむずかしいのでありまして、私ども放射線を職業的に扱つている者は多少とも白血球が減少しておるのでありまして、私ども自分自身の問題でありながら的確な方法は発見されないのであります。殊に広島長崎の原爆以来世界的に白血球減少症に対する対策を世界中の学者が研究しておりますけれども、まだ的確な方法というものはない。ただ普通の対症療法といたしまして輸血を一番先に数えなければなりません。それからそのほかにやはり安静ということが非常に大切であります。広島長崎の時にも不幸にして足に骨折でもありまして、動くことができなかつたためにおとなしくしていた人は助かつておるのであります。で、骨折も何もなくて、ああいう場合でありますからして、一生懸命働いて過労に陥つた人が死んでおります。それで現在第五福竜丸の患者さんたちは、外見上非常に元気でありまして、食欲も旺盛であります。それでもやはり安静ということは非常に大切なのであつて、輸血と安静ということが根本的の治療方針であります。そのほかビタミンをやるとか、栄養をつけるとかいうことも考えられる。それから白血球がずつと減つて参りますというと、どうしても細菌に対する、黴菌ですね、黴菌に対する体の抵抗力が減つて来ますからして、やはり抗生物質などを使うということも忘れてはならないのであります。  こういつたような方針で今仕事を続けておるのでありますが、患者の容体は外見上極く軽微な火傷が所々にあります。併しみんな至つて元気でありまして、食欲も旺盛である。で只今聞いて来たのでありますが、国立第一病院に入院した患者などは、国立第一病院で提供いたします御飯ではとても足りないそうでありまして、ああいう舟乗りでありますと一日に五合くらい飯を食べる。御飯のお代りがたくさんあつたそうです。それくらい非常に見たところ元気であります。併し白血球は多くの人が大体五、六千極度に減少しております。普通の正常時は七、八千でありますけれども、五、六千程度に減少しております。東京大学病院のほうには比較的重い人が初めに二人、それからこの間の日曜日に五人入院いたしましたのですが、これらの人は多少重態なのでありますが、重態と申しましてもただ白血球が少いのですが、まあ白血球の数が三千前後、三千、四千という程度に減つておるのであります。ただ広島長崎のときに三千、四千くらいに減つた人は恐らく全部助かつております。それは外からだけ放射線を受けたからであります。私なども職業的に放射線を受けておりまして、一番低いときには二千七百まで私自身減つております。それでもこうやつてぴんぴんしておるのでありますが、今度の場合には放射物質が身体の中へ入つております。でありますから非常に心配しておるわけであつて、決して警戒は解けないような状態にあります。普通放射線を受けますというと、白血球が減りきるまでに成る一定の期間を要するのであつて、大体患者に治療の目的で放射線、X線をかけました場合に、白血球が一番底をついて減りきりますのが四、五週間のところであるのでありまして、今度の場合には放射線のかかり方が違いますから何とも言えませんけれども、今丁度四、五週間にさしかかつておりまして、恐らく今の患者の白血球の減少が底をつくのはもう少しあとであろうと思います。現に第五福竜丸の患者の白血球の状態は十四日に入港したとき以来極く少しずつでありますけれども減少のほうへ向つております。尿の検査を精密にするということが大変に大切なのであります。昨日の新聞に灰の中の一京分の一の原子を分析で出すのだとこういうふうに木村教授発表しておられる。一兆の一万倍だそうです。日本の予算の一万倍のお金の中から一円札を一枚取り出す方法だと、こういうふうに木村教授が説明しておられますけれども、それは灰の分析のときにそういう程度なんであつて、尿の分析だとそれよりももつと薄いことになると思います。非常に困難な仕事だろうと思いますが、やはり木村教授を煩わしましてそういつたことを進めて行こうと今準備をしておる次第であります。こういう基礎的の根本的の治療が、果して患者に実行できるように進んで行くかどうか請け合えないのでありますが、オーソドツクスの仕事としてはやはり輸血と安静ということが非常に大切であります。  患者のほうは大体そのくらいにいたしまして、次に船を一つの住宅と見た環境衛生の見地から今度の第五福竜丸事件のことを考えてみますと、私が初めて第五福音丸に入りましたのは、この十七日の日であります。測定の機械を持つて船に近寄りますというと、もう船に入る前からしてがあがあ、があがあ鳴り出しますです。それで船へ入つて測定をして見ますというと、針がぷんと動いてしまいますので、船に乗込んで又船から出て来てゴム長にはき替えまして、そうして着物を着替えて船へ入つたわけであります。船の外側は一番灰を余計受けたのではありましようけれども、やつぱり雨に打たれたり洗つたりしたせいで、割合に中より少いのであります。中の船室の比較的灰がこもつているというようなところが一番強い。その一番こもつた強いところの放射能が十七日の測定では百十ミリレントゲンという単位で数えられたのであります。これはちよつと御説明申上げないとおわかりにならんと思いますが、この放射線は一体人間はどのくらいまで受けても無害であろうかということを世界中でいろいろ調べまして、そうして国際的に一つの推奨案というのが我のほうの学界でできておるのであります。それによりますというと、一週間に三百ミリレントゲンまで受けても差支えない。これが基本の数字であります。一週間に三百ミリレントゲン、これだけならば何週間続けて受けても少しも心配がないという数であります。一週間に三百ミリレントゲンでありますからして、これを職場の場合に当てはめてみますというと、勤務時間が一週間四十八時間でありますからして、四十八分の三百ミリレントゲンであつて、丁度一時間に六・二五ミリレントゲンとなります。これが職場における放射能の恕限度であります。六・二五ミリレントゲン、これが職場における放射能の恕限度であります。それから住宅になりますとやつぱり一週間に三百ミリレントゲンでありますからして住宅の一週間は百六十八時間でありますから百六十八分の三百ミリレントゲンであつて一時間に換算しますと一・八ミリレントゲンであります。で船室は従つて一・八ミリレントゲンでなければならんのに、十七日に測つた値いが一番強いところは百十ミリレントゲンであります。それがだんだんと今減少しつつあるのでありますからして、三月十七日より前のほうへ遡つてみたらどんなに強かつたか恐ろしいくらいであります。まあそういうふうに船は非常に汚染されて入つて来たのであります。直ちに船は、もう無用の者は入つちやいけないだろうということを申上げまして、そういう措置がすぐとられてあるのであります。こういうことは今後入つて来る船に対しても非常に参考になるだろうと思います。で私どもはその船がどの程度の時日で自然に放射能が減衰していくであろうかということを経験して行くのが参考になるだろうというふうに考えております。ほかの船の処置等についても非常に参考になるだろうと思う。それから又船の一部分を何らかの手段で清潔に洗うことができれば、どういうふうに洗えばどのくらいの早さに清潔になるかというようなことも経験することができるだろうと考えておる次第であります。それから衣服なども測つて見ましたが、繊維製品のようなものが一番灰が余計残つておる。のつぺりしました雨合羽のようなものは余り残つておらない。いずれその繊維製品でも船員の中には石鹸で以て家庭でよく洗つちやつた人もあるのでございますけれども、洗いますというと非常に少くなつております。  これがまあ大体環境衛生の問題でありますが、その次に今度は食品衛生のほうでありますが、つまりさめと、まぐろを第五福竜丸が積んで来たのであります。十六日の日に私は築地に第五福竜丸の魚が着いたから見に来てくれということで見に行きました。そうしますというとさめとまぐろでありましたけれども、さめの表面が非常に放射能が強い。併し、さめ、まぐろ共はらわたは出しておるのであります。その腹の中を測定して見ますというと放射能は殆んどない。つまり表面に灰が落ちているだけらしいのです。それから、さめは安いものですから、ぞんざいにしてあるらしいのでして、まぐろのほうは商品価値があるというので、一つ一つ何か船じやハトロン紙なんかに包むのだそうでありますが、そういうせいか、まぐろのほうは非常に表面に放射能が少かつたのです。でありますけれども、やはりまぐろもさめも、程度の差こそあれ放射能は確かにありましたので、やはり廃棄処分になつたような次第であります。  で、この食品を廃棄処分にするかしないかという食品としての恕限度のきめ方というのが、これが非常に大きな問題であろうと私は思います。この第五福竜丸事件につきましては、日本もそうでありますけれども、アメリカも、恐らく世界中或る程度やはりめくらへびだと言う人があると同時に、被害妄想にかかつている人もあるのです。それでまぐろが売れなくなつたりするのですけれども、私はしよつちゆうまぐろを食べておるようなわけであつて、やはり被害妄想と言つて悪口を言いますけれども、これはやはり社会の実相であつて、これはやはり無視することはできない問題であろうと考えます。輸出等にからみまして非常に重要な問題だと思います。で、悪く言うと被害妄想でありますけれども、そういつたような観点から見た恕限度というと甚だ変ですけれども、標準が一つ考えられます。  それからその次には、やはり行政措置として、このまぐろをOKというわけで出した以上は、そのまぐろの、非常に非常識なことになりますけれども、よく洗わないで、皮だけを食べるなんということがあつても差支えないというように考えないと心配だというような考え方も一つ立つと思います。やはり行政処分としては、行政官はそういうことも御心配になるだろうと私は思います。これが第二の考え方です。  それから第三番目には、これは全く何と言いますか実際問題として考えまして、お互いにまぐろのさしみは一日に一度ぐらいしか食べないのでありますからして、一日に一度一人前のまぐろを食べるとして、このまぐろを食べたならば、放射性元素がどのくらい体内に入るだろうかという本当の実際問題を標準とした正しい恕限度、こういうものと三つどうしても考えられるのであつて、それを実際問題として、どういう場合、どういう恕限度を適用するかというような問題も起つて来る。それから現在では非常に厄介なことに、放射性元素の体内に入れ得る恕限度というものが、世界的にまだ相談が整つておらないのであります。放射能については、一週間に三百ミリレントゲンというのは国際的に学会でちやんときめておりますけれども、放射性物質、それ自体の恕限度というものはまだ決定されておらない。で、アメリカで数種類の元素について大体このくらいであろうということを発表しておる程度でありますし、まあ日本といたしましては、それを参考といたしまして、そうして何とか考えてみなければならんと思います。  それから放射性元素の恕限度が何ミリ・キユリーとか、何マイクロ・キユリーとかきまりましても、それをさめだの、まぐろだのの恰好になつているときの測定で、量をきめるという測定技術の問題が非常にむづかしいと思います。各三崎だの、焼津だの、そういつた港の出先で実行できるような方法できめなければならんので、そういう点も大いに研究を要する問題だと思うのであります。  で、これで大体食品衛生の問題も終つたわけでありますが、私、これで大体話は具体的にに済んだわけでありまして、総括的に申しますと、この原子力の平和的な応用ということは、非常に望ましいことであつて、大いにやらなければならんことだと思います。戦争にばかり使うということは、実に馬鹿々々しいことだと感ずるのでありますが、アメリカにおきましても、原子力研究の間に思わざる椿事が起りまして、その周囲におりました職員が相当数非常な傷害を受けたという報告が、ちやんと出ております。で、日本で今後原子力研究が始まり、盛んに実験が行われるような暁になれば、やはり何か椿事が起つて、そうして職員が、或いはその周囲の第三者まで、不慮の傷害をこうむることが起らないとは限らないと思います。で、私ども医療に携わつております者は、第五福竜丸は誠に寝耳に水でありまして、全く正直のところ泥繩で仕事をやつてるような次第あります。で、やはり原子力の平和的応用ということを始める以上は、やはりその原子力に対するこういつた方面の準備も、少なくとも竝行的に、若しくは進んで先に手を付けなければならないと、まあ少し我田引水のようでありますけれども、今度誠に寝耳に水で、泥繩的になつてしまいまして、余り御期待に副い得ないのじやないかという心配が非常にありますので、この席で私のお願いのようなことを申上げます。  大体そんなものでございます。
  9. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは三教授に対する御質疑がありましたら、お願いします
  10. 高野一夫

    高野一夫君 ちよつと私、朝永先生と、武谷先生にお伺いしたいのですが、我々こういうような問題については、全く素人で、お尋ねすることが極めて幼稚なんですが、この原子核の分裂というものを、何かこう例え話かなんかにして頂いて、もつと我々素人がわかるようなふうの解説をして頂けないものですか。それでよく原子力原子力といいますが、その原子力ということの本体は、この核の分裂によるそのまあ発散するいろいろな力、それをまあ利用すると、こういう意味ですか。それが一つ。  それから原子爆弾とよく言いますが、その爆弾なるものは、例えばウラニウムならウラニウムを使うとすれば、それはすべてがウラニウムなのか。或いは純粋のウラニウムか、或いは鉱石なのか、それとも或いは普通の爆弾の中に、ちよつぴりその原子核の分裂をやるものが入つているのかどうか。これは水素爆弾の場合についても同様の疑問を持つわけでありますが、そういうふうな点について、大体構造上の問題について、御想像ができるようならば、それも一つ伺いたい。  それからもう一つ、この核分裂をする原子というものが、大体利用し得るものとすれば、どれくらいの種類のものがあるのでしようか。  それから先ほど武谷先生のお話もございましたが、まあいろいろな意味の原爆を落す場合に、空中で爆発する、或いは地上でやる、或いは海中に落すというようなことが随時、爆弾の操縦者の手加減によつて随時できるものとまあ考えられますけれども、そういうふうに行くものかどうか。それらの点について我々素人がわかるように教えて頂きたいと思います
  11. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) 原子核分裂を何か例え話でというお話ですが……。
  12. 高野一夫

    高野一夫君 でなくても結構です
  13. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) この原子と申しますのは、先ほど申しましたように非常に小さなものなんでありますけど、これが決して……、つまり構造のないものではないのでございます。すべての原子核は二種類の基本的な粒子からできています。その一つは陽子という粒子、もう一つ中性子という粒子、この二種類のものがくつついてできた固まりのようなものであります。それが水素のようなものはただ陽子だけで一番簡単なものであります。ウラニウムのようなものになりますと、陽子と中性子が非常にたくさん、二百幾つかくつついてできたものであります。そういうたくさんくつつきますとこれはまとまりが悪くなりましてちよつとした衝撃でこれが壊れる。二つに割れたり、ときには三つに割れることもありますけれども、大体二つに割れます。その割れるときにただ割れるのではなくて割れたものが非常に両方がはね飛ぶ、そういう割れ方をいたします。ちよつとした衝撃というのは何かと申しますと、先ほど申しましたように宇宙線の中に中性子がしよつちゆう上から降つて来ております。それがぽんと当りますとそれが割れる。そういう性質ウラニウムとかプルトニウムは持つておるわけであります。ところで割れたときに両方が跳飛ぶわけでございますが、その跳飛ぶエネルギーが外へ出て来るわけであります。それじやなぜウラニウム或いはプルトニウムしか使えないか、ほかのものは使えないか、つまりウラニウムプルトニウム以外にも相当大きなたくさんの粒からできている周りはほかにもあるのですけれども、ウラニウムとかプルトニウム以外のものは余り使われていない。その理由はそれが非常に大きな衝撃を与えますとやはりウラニウムプルトニウム以外のものでも壊れて跳飛ぶ、そういうことはございますが、それにはほかのものであります最初の衝撃が相当大きなものでなくちやいけない。つまりこのウラニウムプルトニウムとは特に不安定で壊れやすい性質を持つております。で第一の御質問はそれでよろしゆうございますか。
  14. 高野一夫

    高野一夫君 はあ。(笑声)その次のをお願いします
  15. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) それからその次の、今の跳飛ぶとき、これをもうちよつと補足させて頂きます。中性子が降つて参りますと、これが割れますわけですが、それが一回きりでおしまいになつたのでは大したエネルギーにはならない。割れますときに二つに割れるだけじやなくて、そこから又中性子が幾つか出て参ります。その中性子が更にその近くにあります。ウラニウムを割る。そういうふうにして次から次へ反応が何と申しますか伝染して参りまして、そうしてそこにある一塊りのウラニウムが全部壊れてしまう。それが非常に大きな、全体として非常に大きなエネルギーになる。そういうわけでございます。今申しましたが、ウラニウムとプラトニウムは非常に弱い衝撃で壊れるということを申しましたが、実はウラニウム、同じウラニウムと申しましてもいろいろ種類がございます。その種類と申しますのは塊まりが幾つからできているか。ウラニウムは二百三十七とか二百三十五とかよく申しますが、それは塊まりの数でございます。で二百三十七、二百三十五いろいろあるのでございますけれども、そのうちの天然に産出されますウラニウムはそういういろんな種類ウラニウムが混合したものであります。特にそのうちで小さな衝撃で壊れるものは二百三十五のほうでございます。でありますから、爆弾のようなものに使おうといたしますと天然のウラニウムの中から百三十五だけを分けて採らなくちやならん。それが非常にまあむずかしい仕事でございます。それからプルトニウムというのは天然には産出されないで、これは人工的にウラニウムから作るものでございます。で先ほど鉱石を利用するのか、何を使うのかというお話でございましたが、そういうふうに非常に壊れやすい、ちよつとした衝撃で壊れるようなものだけを純粋に集める必要がございます。ですからこれは金属の形で用います。但しこれは爆弾の話でありまして、平和的な利用のほうでありますと、そう急激にエネルギーが一遍にたくさん出る必要はないので、この場合にはそういう純粋に壊れやすいものだけを集める必要はないのであります。  それから御質問がたくさんありましたのですが……。
  16. 高野一夫

    高野一夫君 もう一つは、核分裂による力を実際的に活用し得るような原子というものはどういうようなものが……、そういうものはたくさんもつとあるものかどうか。
  17. 朝永振一郎

    参考人朝永永振一郎君) それでウラニウムのほかに使えそうなものといたしまして、トリウムがございます。但しこれはウラニウムほどちよつとした衝撃では壊れませんで、これは爆弾のほうには使えない。併し平和的なエネルギー源としてなら使う可能性はある。併しまだトリウムを使つて実際やつたということは私ども存じませんです。それから今までの御質問で……
  18. 高野一夫

    高野一夫君 それからもう一つは、その原爆というものは随時いろいろの場所において爆発させることが自由にできるかどうか、できるものだろうかということです。空中の例えば高い所とか、中間であるとか、地上とか、海中とか随時に爆発させようと思う人の任意に時と場所を選んで爆発させることができるだろうかどうか
  19. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) 私はよく存じないのでございますので…
  20. 竹谷三男

    参考人竹谷三男君) そのあとの続きを……。爆弾の構造の御質問からいろいろありましたが、さつきも朝永さんがお話になりましたように、原子爆弾の場合には限界量に、核分裂性のものが限界量に集まるまでは爆発しない。限界量以上超しますと爆発が行われる。そこで限界量以下の部分的に分けておきますとこれは爆発しない。これはもうマツチの火をつけても鉄槌でぶん殴つて爆発しない。ところがこういうものを急激に一緒にします。そうすると限界量を超えますので爆発が行われる。どうして急激にかと申しますと、徐々に近付けて行きますと、両方の塊まりの全体がその範囲に入らないうちに、こつちの一部分とこつちの一部分だけが連鎖反能が起つてしまいます。或る温度になれば飛び散つてしまう。それで爆発が十分起らなくなつてしまう。起ることは起るけれども普通の火薬をそんなに違わないというようなことになる。それを非常に急激にぶつけます。そうして連鎖反能をやらせるわけであります。その場合でも温度が上りますので、温度が上つて或る程度で飛んでしまいます。そこでこれをできるだけの間ぎゆつとしておかないと連鎖反能が完全に行われない。広島爆発を起しました原子爆弾では、どうも爆発したウラニウムの量が、さつき朝永さんもおつしやつた限界量が十数キログラムで、爆発した部分が一キログラムですからその程度しか爆発しなかつたわけであります。ですからその程度の部分的爆発でありましても廻りからぎゆつと抑えておかなければならない。そこで抑える時間が千万分の一秒余計抑えるか、少く抑えるかで二十トンの火薬に相当するか、二万トンの火薬に相当するかの違いが出て来るわけであります。そこで十分に千万分の一秒抑えなければ役に立たないわけであります。そこでそれを短波というものでございますが、この短波で、広島型では初期でございましたので非常に皆苦労したものでしようが、非常にプリミテイブな方法で廻りにできるだけ重いものを一緒にくつつけて、爆発しようとするのを質量の作用で飛び散らないように抑えたらしい。それであの原子爆弾が相当重いもをになつたわけでございます。廻りの短波で、まあ重いもので抑えつける必要から、本当はウラニウムは重いですから、一キログラムで、よくいわれておりますマツチの箱一つぐらい、それよりももつと小さいかも知れませんが、その程度のものでございます。で本当の爆発する量はそれですが、爆発を保障するためにはそれの十数倍のものが付け加わつておる。而もその爆発をぐつと抑えつけておくために大変重いものが要る。その短波という抑えつけの方法がいろいろ研究されまして、いわれておりますことによりますれば、一九四七年前後にその研究が非常に進んだ、そこで非常に小さな大砲で打てるような原爆もできましたし、それから又もつとこの爆発威力を増して、一キログラムの爆発でなしに、二十五キログラムのウラニウムが核分裂を起すような装置もできるようになつたということが行われて来たわけです。それはもつぱらどうしてくつつけるか、どうして部分的に安全量に分けておいて、それを寄せ集めるか、そうしてどうしてそれを抑えつけて、できるだけ長い時間飛び散らないようにしておくかという研究が進んだためなのであります。でそれから先ほどの御質問で原子爆弾を落すという場合には、これはただ分けたものを爆発させようとする瞬間に、これをくつつけるということをやらすんですから、それはそういう機械的な作用で、まあ最初の原子爆弾ですと、何かこつち側に安全量を置いておいて、こつち側にそれに追加する分量を置いて、これは非常に速さを得るためにロケツトかなんかで飛ばして来てここへぶち込むという方法をとつたらしいのであります。これはただいろいろの専門の雑誌でなしにアメリカのいろいろな通俗雑誌に出ておりましたのではそういうふうに書かれております。ですからこれをこつち側に飛ばすという作用、これはなんででもできるわけです。広島型の原子爆弾ですと、爆弾を投下したときから地上六百メートルに達するまでの落下時間で規制して、そうしてこれをぶつつけるようにしたのだろうと思います。それから地上の真上ほんの近くで爆発させようと思えば、その信管といたしましては、例えば近接信管というようなレーダ装置の近接信管を使えばそういうことは可能だろうと思います。水爆になりますと、これは爆発力が大きいものですから……。ああいうふうに広島型ですと、相当上空を飛んで参りまして落して六百メートルに達するまで相当時間がかかります、その間に飛行機が待避できるわけでも。ところが水爆は大変な、例えば水爆が東京の上空で一発爆発しますと、理論的な計算では熱海附近の人たちが皮膚のやけどを負うというような、関東一円の人が皮膚のやけどを負うくらいの強い熱線を出しますわけでございますので、うつかり逃げ遅れておりますと飛行機が燃えてしまいます。それでいろいろ苦心があるだろうと思うんです。而も水爆をできるだけ広い範囲に爆風と熱線の影響を与えようと思えばできるだけ高く、例えば十キロメートル上空とか二十キロメートル上空で爆発させるほうがエフイシエンシイ、能率が大きいということになりますので、そうすると落してから逃げる時間がありません。何か適当な方法、例えば爆撃機に積んで行つて、そうしてそれをロケツト装置のある無線操縦の戦闘機のようなものに乗つけて、飛ばして行つて投下するというようなことをやつたり、又は落下傘にくつつけて落すというようなこともやるかも知れません。まあそんなふうにすればどういう場所でも爆発さすことができるのは普通の爆弾と同じことでございます
  21. 高野一夫

    高野一夫君 どうも有難うございました。  もう一つ中泉教授にお伺いしたいんですが、先ほどまぐろの放射能検査のところでお話があつたんですがはらわたが取つてつて、はらわたのほうはなんともなかつたというようなお話で、皮のほうにいろいろ反応がある、そうするとそれが皮を通して肉にどれくらい達するものか、或いは皮を取つてしまえば肉のほうは差支えないものか。それならばまぐろを全部廃棄しなくても、肉だけを食うわけですから助かりはしないか。それとも皮に受ける放射能のミリ数がどの程度ならば肉のほうに通るが、どの程度ならば肉のほうに通つていないということもあるというのかどうかですね。おわかりなればちよつと教えて頂きたい
  22. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) あのときは皮の表面をミリ・レントゲン・メータで測定いたしまして、それから河岸に上つておりまするさめやまぐろはもう沖ではらわたは取つて捨ててあるらしいんですね、そのはらわたの取つてあるからつぽのおなかの中を測定いたしました。そういたしましたら放射能は殆んどなかつた、こういうことを申上げたのでありまして、その皮と腹との途中がどの程度に放射能で汚染されていたかということは、あのときには測定はしなかつたのです。測定結果としては申上げることはできないわけです
  23. 高野一夫

    高野一夫君 築地で大量のまぐろを処分して埋蔵してしまつたんですが、あのときは厚生関係の検査官はまぐろの上の皮けを測定して、肉は測定しなかつたのですか。
  24. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) 腹の中だけです。    〔委員長退席、外務委員佐藤尚武君着席〕
  25. 高野一夫

    高野一夫君 そうすると肉は何ともなかつたかも知れませんね。これは非常に大きい問題ですね。何千万とか何億のまぐろをみな廃棄しているわけですから、この肉について検査をしないで、そうしてそれをただ単に廃棄処分にするということは、これは若しその中に放射能が出て来れば別ですが、何ともなかつたということになれば、これは大変な問題だろうと思うんですが……。
  26. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) つまり私正直に申上げますと、まぐろの市場における廃棄処分の徹底方法ですね。これにつきましては確かに今後大いに研究して方策を立てる必要があると思います。これは厚生当局を今すぐ責めるのは無理だと思います。というのは、そういう基準をきめますミリ・レントゲン・メーターというものは今日本に三台しかありませんです。東京大学に一台、それから東京の科学研究所に一台、それから京都大学に一台しかないのです。それで河岸に船が着くたびに私のところに電話がかかりまして、夜でも行つてくれということで頼まれたことがあるくらいで、先ほども申上げました通り、私も寝耳に水で泥繩をやりました通り厚生当局も全く寝耳に水で泥縄の状態であると思います。で、ひどく厚生当局をここで責めるというのも、私は実際無理だと思います。  それでそういうまぐろの処分についてどういう測定方法をしたらいいかというようなことは、実際非常にむずかしい問題でありまして、これからよくみんなで適当な方法を話合つてきめて案出する必要があると思います。で、この点につきましては、私アメリカの人にも相談してみましたけれども、非常に困難な事柄であるという返事を得ております
  27. 佐藤尚武

    委員長代理(佐藤尚武君) 厚生委員長は本会議に出られましたので、暫らくの間私が代理をいたします。千田委員どうぞ。
  28. 千田正

    千田正君 先ほど私遅れて参りましたので、どの先生にお伺いするのが適当かということはわかりませんけれども、中泉先生お話だけ聞いておりましたので、中泉先生にお伺いするのですが、放射能の滲透度ですね。この間の灰の程度であつた場合に、例えば遮蔽物である漁船でありますると、木造船或いは鉄船、或いはその表面に塗料を塗つておつた場合とか、塗つておらなかつた場合、そういうときにおけるところの放射能の滲透度がおわかりにならなかつたでしようか。それは非常に最近又アメリカ側から禁止区域を拡大されまして、この六月三十日までは非常に大きい範囲の禁止区域が通告されてあるのです。で、漁船が今後出漁しましても、そういう面も一つの知識として漁民が或る程度考えて出漁しないというと、又再び同じような、例えば灰のような非常な微弱なものであつたとしましても、国民に与える恐怖であるとか、そういう面が非常に大きいので、まあ私どもは水産委員立場から漁民の諸君に会してそういう点で或る程度話合わなくちやならないと思いますので、どの程度の、一体遮蔽物の如何によつては或る程度そういう被害もこうむらずに食糧が運べるかどうかという点をお聞きしたいと思います。滲透度を……、木船であるか……、まあ第五福竜丸は私は木船であるか鉄船であるかわかりませんけれども、その辺がわかりましたら、お答え願いたいと思います
  29. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) あの第五福竜丸というのは九十九トンの木船であります。それであの灰が持つております放射線というものは、ベーター線とガンマー線でありまして、ベーター線というのは非常に滲透力の弱い放射線、微粒子線ですが、ガンマー線というやつは非常に物をよく通す性質がありますので、ちよつと漁船をガンマー線に対して予防防禦するだけの遮蔽物を船の体につけるということは相当困難であろう、こういうふうに感ぜられますが、このガンマー線の滲透力がどういう程度の遮蔽物でどの程度に遮蔽されるかということは、医学よりも物理学の問題なので、ここの両君が御返事になるほうが正しく行くであろうと思つてお答えを譲りたいと思います
  30. 竹谷三男

    参考人竹谷三男君) では補足的に申上げます。ベーター線は今おつしやられましたが、ガンマー線は大体重い元素ほど遮蔽がいいのでございます。ですから鉄とか、一番ガンマー線が通りにくいのは鉛、鉛だとほんの薄くてもかなりガンマー線が通らない。今の御質問は大分そのお話とは違うようでございますので、例えば外側から甲板に灰が降りまして、それからガンマ線がどんどん出ます。そうしますと中のまぐろはどうなるかという問題でございましたら、それはガンマー線がまぐろの中を幾らつても、幾らつて、余り多く通れば又問題は違いますが、あの程度通つても先ずまぐろは安全でございます。ですからまぐろを安全にしておこうと思えばそれはまぐろを積んでいるところを完全に遮蔽して、空気を遮蔽する、外界の空気を遮蔽するということです。そうすれば大丈夫でございます。ただ灰がいつ降つたかこれはわかりません。ああいうふうに大きな灰が降つて来ればこれはわかりますけれども、もつと微粒子が降ることだつてございますので、そういう場合には船に測定装置を置いておかなければならん。測定装置を置いておいて、放射能が大分上つて来たというようなことがわかつた瞬間にそのまぐろを完全に遮蔽して、而も急いで帰つて来なければならない。そうすることが必要です。ですから一番必要なことはやはり船に測定装置を常に乗つけて置くことが必要、そうして危いと思つたら逃げ出す。逃げ出すとき、まぐろを大事にしようと思えば、まぐろの部屋を外界の空気と完全に遮断するようによく包むこと。それから人員の被害に対しましては、これは急にどかつと来られては、もう手を挙げるより方法はありません。けれどもまあ適当に、体は大丈夫だという程度でも、少し放射能が上つたという程度ならば全速力で逃げて来るということですね。で、そのときに、よく船を洗つたりいろいろするということを伴つて、安全量がよくわかつておれば安全量よりちよつと殖えそうになつたら逃げて来るというような処置をする。要するに測定装置が一番重要だと思います。で、空気が汚染されるんですから、船を幾らそういうガンマー線が通らないものでかこんでもこれは駄目なんでございます。つまり船室にどんどん外界の空気が入つて来る。空気にいろいろな放射線を帯びた細かい粒子があるんでございますから、それを又船員が呼吸するんです。それでそういうふうに乗つかつてつて来るんですから、それから船に完全な、外界と遮断して空気清浄装置でも付けておけば、これはまあ安全でございますけれども、そうでない限り安全ということは保証できないわけでございます
  31. 高田なほ子

    高田なほ子君 お尋ねいたします。私、学理的な問題とは別にちよつと伺いたいんですが、原子力の平和利用ということは常識的にわかるのですがそういう名目でも今実に恐ろしい爆発物の実験がされて、今のお話によりますともつともつと恐ろしい爆弾実験されるように聞いております。この場合ですね、御三者のお話を総合しますと、目にも見えないようなたくさんの微粒子が気流の中に撒布される、或いは灰のような形になつて出るかも知れない。こうなつて参りますれば、それが戦争に使われないにしても、科学の発達の過程で、この目に見えない放射線のために受ける人類の影響というものははかり知ることができないのではないかと思います。これに対する科学者としてのお答えを、朝永さんでも武谷さんでもお答えを頂きたいのが一つ。  もう一つは、この放射能が人類に及ぼす影響について中泉先生にお伺いしたいのですが、染色体の分裂の場合に、これは遺伝の問題になると思いますが、この場合に中性子の及ぼす影響というものによつて突然変異による畸型児の発生ということは、我々科学を知らないものの常識としても考えられると思う。こういうふうに到る所で、勝手な所でどんどんと恐しい爆発物の実験が今後行われるようになるとすると、世界中の到る所の人間が、この目に見えない放射線の、陰に陽に影響のために染色体の分裂によるところの畸型児というものが世界中到る所に出て来るのじやないか。ましてこのビキニ島の危険区域を若干西のほうに移行するという噂も聞いている。この場合気象学者のお話も伺わなければわかりませんが、ジエツト・ストリウムに乗つた死の灰、いわゆる放射能が日本全土に降つた場合に、我々親という立場に立つた場合に、その影響を受けて日本全国の人間が畸型児をどんどん生むということになつて来たら、世界はどうなるかという誠に恐るべき私は科学の発達を、ここで医学的の立場から中泉先生に解明して頂きたいと思う。どうぞお願いいたします
  32. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) 只今の御心配、まあ非常に御尤もな点があるのでありますが、放射線の国際的推奨案というものができております。根本は今お話の突然変異がどのくらいの線量でできるかということが根本になつております。それでこの生物に突然変異ができて来るということは人間は万物の霊長であつて偉いものだと、こういうふうに思つてはおりますけれども人間ができ始める初めは卵と精子なんであります。それで下等動物と全くその一番初めは同じであります。(笑声)従つて、これは笑いごとじやないのでありまして、私冗談言つているのじやない。遺伝学会でちやんとそういうことを言うておるのであります。それで下等動物に適用される遺伝の法則はやはり人類にも適用されるべきはずであると、こういうふうに言うのであります。それで放射線によつて突然変異ができるということを発見されたのは、極く下等の生物についてであります。併しこの突然変異ができるというような遺伝の法則は、生物の上等、下等には関係がないというので、人間にもやはり同じようなことが起つて来るであろうという推定の下に考えておるのであります。それで現在三百ミリレントゲン一週間という数字は、猩猩蝿の突然変異を、この程度ならば決して起さないという数字が根底になつておるのであります。現在の実験研究立場から言えば、一週間に三百ミリレントゲン以下であれば妙な子供は生れないと、こういうふうに思つているより仕方がないのであります。それで結局住宅といたしましては一・八ミリレントゲン毎時という線量よりも低くないというと人間にも片輪が生れる危険がある、こういうように考えるより仕方がないのであります。  それでこの突然変異が放射線によつてつて来るかどうかという実験的の研究でありますがそれは初めは昆虫くらいまで発見されておつたのでありますけれども、つい数年前に至りまして、もう哺乳動物にも発見されております。哺乳動物と申しましても、我々人間とは相当緑が遠いのでありますけれども、二十日鼠に発見されております。人間にはまだ放射線によつて起つた突然変異というようなものははつきり発見はされていないのです。で、人間は一つの世代がやはり大体三十年くらいでありますからして、そう二十日鼠のように次から次へと子供を生みませんので、そういう世代を重ねての実験研究というようなことは到底できませんので、人間におきましてはそういうことは発見はされておりませんけれども、遺伝学の根本法則といたしましては、生物の上下にかかわらず遺伝の法則は一様に適用されるべきものであるという見地からして、猩猩蝿の突然変異は三百ミリレントゲン一週間以上でないと起らないという事実からそれがきまつているのです。ですからして一・八ミリレントゲン毎時というよりも、一週間三百ミリレントゲンと言つたほうが正しいのですけれども、そのリミットを超しさえしなければまあ我も片輪を生まないだろうと、こういうふうに思つているより仕方がないのです。
  33. 高田なほ子

    高田なほ子君 それについてもうちよつと突込んで伺いたいのですが、そういたしますと、先ほどお話のように第五福竜丸の船内を実験された場合に、百十ミリレントゲンを発見することができた。こういうことになつて参りますと、第五福竜丸のそれだけの強い放射能のある中に、若し仮に私が何らかの都合でそこに入つておつた場合、これはやはり染色体の分裂の際に卵子が二十四、二十四というふうに分裂ができずに、そのとき不幸にして妊娠したとすると、目玉のない子供が生れるやら、手のない子供が生れるやら、それは想像ができないのではないかと思うし、人体による実験が今日できないのでありますから、中泉先生は哺乳類のいわゆる動物実験によつて、あのビキニにおける今度の爆発実験は人類の社会に畸型児を生む可能性を持つているということは、やはり確認おできになるのじやないかと思いますけれども如何でございましようか。
  34. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) つまりその一週間に三百ミリレントゲン以上の放射線を生物が受ければ、非常に多数の中に例外的に突然変異が起り得るであろうということは、私ばかりでなく、世界中の放射線生物学者は肯定しておりますのです。
  35. 佐藤尚武

    委員長代理(佐藤尚武君) 高田さんの第一問のほうがまだ残つておるようですが……。
  36. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) 只今の御質問、十分御質問の御趣旨を了解したかどうか、ちよつとはつきりしないのでございますけれども、この科学の進歩がああいう恐しいことになつてこの人類を不幸に陥れるというようなことがあるかも知れないという、そういう状態において科学者はどう考えるかそういう御質問でございますか。    〔委員長代理佐藤尚武君退席、委員長着席〕  で、これは勿論科学者といたしまして、自分の作りました或いは自分の研究いたしました結果が、これは人類の幸福のためというつもりでやつているにもかかわらず、人類を不幸に陥れるということは、非常に遺憾なことでございます。それで科学者といたしまして、この研究を進めるときに、これはどうしても人類を不幸に陥れるときまつているとすれば、これはもうやらないに越したことはない。やるべからざることだと思いますが、科学というものは、元来幸福のためにも使えるし、不幸のためにも使える。大体においてそういう二つの面を持つておるものが多いのであります。それでこの人類を不幸にするかも知れないからといつて研究をやめてしまうのがいいかどうか、これは非常に重大な問題だと思う。私どもとしましては、何とかしてその害悪を除くような措置が必ず考え出され得るものだという、これはそういう信念を持つているからやつておられるわけなんです。科学の結果がなぜ人類に不幸をもたらすのであろうかというと、まあいろいろな考え方があると思うのでございますが、これは非常に常識的な、誰でも言つていること以上のことは私申上げられないのでありますけれども、要するに科学の進歩が、非常に何と申しますか、或る科学が非常に進んだのに対して、ほかの方面の科学が進んでいない。科学というのは自然科学だけでございませんのです。例えば日本の道徳というようなもの或いは政治とか、そういうふうなものすべてが調和していないというところにあるのじやないかと思うのです。で、併し昔のいろいろ古い歴史を考えで見ますと、そういう方面でも人類が進歩していることは確かだと、まあ私は考えたいと思つています。つまりいろいろ昔の暗黒時代、やたらに人を殺したり、殺されたりした時代と比べますと、現在はなおまだ戦争というようなものの危険があるにもかかわらず、明るくなつた面が非常にあると思う。私ども今日ここに出て参りましたのも、皆様方にいろいろお話をさせて頂き、それから皆様方のいろいろお話を伺いたいと思いまして、出て参りましたのは、こういう問題につきましては、これは科学者だけの力ではどうにもならない面が非常に多いのでありまして、政治に関係しておられる皆様のお力にどうしてもすがらなくちやならない。私はそういうふうに考えております。只今の御質問のお答えになつているかどうかわからないのですが……。
  37. 高田なほ子

    高田なほ子君 もう一つそれに続いてお伺いいたしたいのですが、お気持は非常によくわかるわけです。それでお尋ねしたいことは、水爆の実験なり或いはコバルトの実験なり、それは実験実験として結構だと思いますけれども、それと同時に今中泉さんに御質問申上げたような事態が、何にも罪のないような、何にも知らないような人類の上に影響を及ぼすようなことが、その実験の途中に起つて来ておるわけですね。放射能による影響とか或いはその近くの及びもつかないようなところで人が死んでいるとこういうような、人を殺す、如何にしたら多量に殺せるかというような実験と同時に、如何にしたらこの災害を受けるであろう人類に対して、どういう方法によつてこれを防止する、又救済して行くかというような面も、私は同時に究研されなければ、そういう恐ろしい爆発物の研究なんというものはすべきものじやない、そういうことは私は人類の進歩ではなくて、人類の破壊じやないか、破壊の目的をする実験をするならば、それを防止し得るための積極的な実験が科学者陣営によつて強く主張されなければならない。これがやられていないところに、泥棒をつかまえて縄をなうというような医者側の御苦心を述べていらつしやいますが、世界の科学者は、破壊と同時にその破壊によつて及ぼす人類の不幸を最大限に防ぎ得るような研究が今具体的にされておるのかどうか。日本の科学者はその陣列の中にどういう形で加わつているのかどうか。そういう具体的なことについてお答えを項きたいと思います。
  38. 竹谷三男

    参考人竹谷三男君) では先ほど朝永さんの御説明に補足いたしまして、又只今の御質問でもつとはつきりした面についてもお答えできればと思つてお話を申上げます。  原子力は、平和的に利用するという場合には、これは原子炉でゆつくりとした連鎖反能を起させ、爆発的ばかりやじございませんで、その廻りに安全かどうかを知るための、放射能が漏れているかどうかということを知るための万全の措置をするということによつて、現在各国において解決されております。それでもその途次において、アメリカなどで失敗して、実験室にいた人が傷害を受けた。さつき中泉先生のおつしやつたような、そういう例もございますので、できるだけこういうことは、原子力研究を初めると共に、先ほど中泉先生のお話のあつた通りに、万全の措置を講じなければならない。むしろそつちのほうを先にやるくらいにしなければおつつかないのじやないかということは誠にその通りでございます。で、それから今度は、平和的利用のほうは、それで万全の措置をして解決できますが、水爆の実験とかいうようなことになりますと、これは全く保障いたしかねるのではないかと私は考えるのです。  さつきコバルトというようなお話もありました。コバルト爆弾というものはどういうものかと申しますと、水素爆弾というものは、中性子が非常に大量にできるものでございますので、その廻りを何か物質で囲みまして、例えばコバルトというもので囲みます。そうしますと、それが爆発しますと、中性子がコバルトに当ります。で、誘導放射能を大量に起す。そのコバルトという原子はやはり放射能を起します。半減期が五年ぐらいでありますので、五カ年問の間に除々にずつと放射能が出る。五年間で半分になつて、又どんどん放射能を出して行く。こういうふうなものが世界中にばらまかれるわけであります。その水爆を、例えば水爆一トンの、重い水素で以て広島型の一千倍の爆発をやらしたと仮定いたします。その場合には、四百発あれば世界中の全人類を殺すことができるという計算がなされ、又一発で以て四百トンの重い水素を使えば、一発で、廻りにコバルトを大量においておけば、世界中の、畸型児を生むだけじやなしに、全人類を殺してしまうことができるという計算を、アメリカの人たちがやつております。又これが、水爆というものが、一つの人類の破壊の限界を示す意味で、そういうことが言われておる。果してコバルト爆弾というのは、実際にどういうふうに使うのか、私にはよくわかりません。そういうものは、相手の国で爆発したら、自分のほうで被害を受けますし、相手の国が長年汚染されて、占領もできないということになりますので、どういうふうに使うか、私にはわからない問題があります。ただよく言われております戦争の方法といたしましては、水爆の廻りに数日間の半減期を持つたものが、誘導放射能でできるものを取巻いておきまして、そこで相手国の西側で爆発させますと、それが上空に向つて相手国を全部西側の風で地球上を吹いております西風が相手国を全部吹いて、そして相手国の人を全部殺すことができるということがよく言われていることでございます。これも恐らくそうだろうと思つていたのが、今度のビキニの水爆の実験で実際実証された形になつたわけであります。ですから今度のビキニの水爆は、まあ意識してそんなことをやつたとは私は思いませんが、結果としては日本の漁船がその放射線戦争の実験材料に、結果としてですね。これは誤解のないように願いたいのですが、結果としては実験材料になつたことは誰しも否めないことだと思います。それでその材料を知れば、これは放射線戦争というものを考える場合にいい材料になる。ですから放射線戦争をやりたいという国の人は恐らくその材料を知りたいのじやないかというふうに私は考えて言うのでございますが、まあこんなふうに破壊の限界、人類の破壊の限界、そして水爆ですと、幾らでも大きなものが原理的には考えられる、ただ運ぶということに困難がありますが、原理的に可能でございますから…。で、そういうふうなものができるわけでございますが、こういうものは先ほどの御質問にもありましたように、実際戦争でどんどん使う場合でなくても、実験としてもちよつとこういうふうな爆発現象になりますと制御しかねることになるのではないか、たとえそういうもので囲まないにしても例えば空気中に誘導放射能を与えるということもありますので、そういう実験を何度もやつておるうちにだんだん空気が汚染されてどういうふうな結果になるか、私は保障は余りできないのじやないかという気もします。で、ましてや戦争になりますと、例えば、まあこんなことはただ想像だけでございますが、満州爆撃とか中国の爆撃とか言われておりますが、そういう場合に満州や中国がその水爆で爆撃された場合のことを考えてみますと、勿論中国の黄塵が日本に飛んで来ておりますので、それは当然日本に灰をかぶるということはある。で、陸地がその灰で汚染されますと、第五福竜丸の場合よりはこわい現象が起るのではないかということは当然考えられる。第五福竜丸ですと海の水がございますので、そこで稀薄されましてその水は比較的安全だ、この水でどんどん甲板をふいたり体を洗つたりすればなんですが、陸地ですと、この陸地という甲板を洗うわけには行かないのでありますので、国の廻りが全部汚染されることになるわけです。ですからそういう危険が非常にあるわけです。ですから科学者はこういう限界の破壊力を作り上げてしまつたということになるわけです。これは何も科学者がそういうものを作るつもりでなくて作り上げたのだろうと思いますが、これは世界の科学者の連帯の責任感という種類のものだと思うわけです。私たちもそういう責任感がありますので、こういうところへ、私は何も原爆を作つておるわけじやないのに、呼び出されれば勿論喜んで進んで出て来て御説明をして、できるだけわかつて頂きたい、又それだけの努力をする責任があるのじやないかというふうに科学者としては考えております。
  39. 永井純一郎

    永井純一郎君 非常に貴重なお話を伺つたわけでありますが、私は少し俗つぽい質問になるかも知れません。ただ、中泉先生にお伺いしたいと思うんですが、先ほどお話の中に、この原爆症の治療に当りまして、いろいろな資料を米側に提供する、或いはわかつておることを教えるようにというので、先生からお申込があつたということを聞いて、その点については一体米国側はどういう態度で先生方に出ておるのか、この点をお伺いしたいことが一つ。  それからもう一つは、これは新聞で見て、ここに文部省の稲田局長も見えておりますが、この前からいろいろ相談しておつたんですが、研究費が……、この世界に例のない重要な資料を持つてつて、学者の方々研究を真剣にやろうとしておられる。ところがその研究費が非常に不足をしておられまして、その点で学者の皆さん方が非常な苦心をされておるということを私ども新聞で見て非常に心配しておりますが、私どもは十分な研究費を使つて頂いて、この世界に立派な日本の学者の手によつて研究をして頂きたい。こう思つておるわけですから、その研究には一体どれくらい今要求されておるのか、その点を知つておきたいと思います。  それからこれは占領中のことですが、広島長崎の原爆症の重要な研究された資料を、米国側が占領下であつたために、全部これを横取りして持つて行つたということが伝えられておる。これはありそうなことだと思う。で、これは一体当時の研究資料というものは、全部米国側に提供させられて、その結果はどういう研究が米国側ででき上つておるのか、又そういうことが事実あつたのかどうか、これは私ども心配するのは、原爆症に対するいろいろな被害を、私どもの考えでは非常に過小評価せんとする傾向がアメリカ側にあるように、私どもは国会の中で感じる。その点は先ほど武谷先生がおつしやつたが、これはみんなが知らなければいけない原爆のことを、そういう考え方と非常に反するようなことが、往々にしてこれはアメリカの私は学者の人たちじやないと思うんですが、併しその他の政治家等の中にそういうものがあるかに思われるふしがありますので、実際資料を持つてつてしまつたのか、それでその後その資料でどういう研究が行われておるというようなことを、これはありのままに教えて頂きたいと思います。  それから第四番目にお伺いしたいのは、前年でありましたか、イタリーで国際的な医学者の方の集りがありましたが、日本からは慶応大学かどこかの先生がこれに出席をされまして、原爆症に対する偽らざる一切の研究された、或いはその被害の凄惨さを発表するということでお出かけになつたんだが、それがどういう理由かで日本の学者によるその発表が出されないようなことになつたということを、これは新聞で私どもは伺つたのでありまするが、それはなぜ、どういう理由で原爆症に対する日本の学者の方の研究が国際の医学会議のようなところで発表されないことになつたのか、これは若し御承知でありましたならば教えて頂きたいと思います。  それからもう一つは、焼津からこの被爆者が東京に来られまして、今治療をしておられますが、その中に非常に重症の方がおるということを新聞で伺つた。この方は、この被害によつて生命をなくされるような危険が今あるのかどうかという点をお聞きしたいと、こう思います。非常に俗つぽいお尋ねばかりいたしましたが、お差支えない程度で教えて頂きたいと思います。
  40. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) 御質問が五つあるんですが、第一の、現在のアメリカ側の態度はどうかというような御質問。これは私は一番初めに、四月の十八日に東京都の衛生局が催しました委員会に、アメリカ側の人も出ておりまして、その席で質問をいたしたのであります。それが第一回目の患者の治療法に対してのですね。それからして船の汚染に関する質問、それから十八日のときにまだ灰の分析がちよつと手がついただけでありましたが、それは一日も早く知ることが患者の治療の出発点でありますので、灰の成分についても聞かしてもらいたいという質問をしたのであります。それは私的の面会じやないので、公式の委員会の席上で私が発言したのです。それが一回、それから第二回目は外務省で催されました会合のときにやはり同じ質問をやりました。まあ公式の席では僅か二回であります。それから私的の席ではまあアメリカのそういうえらい人に会いますれば、しよつちゆう聞いておる。私は患者を扱つているのですから、患者を一日も早く助けようと思つていますからして、しよつちゆう質問をいたしております。でありますけれどもどうも私、こう聞いてその人のまあ様子を見ておりますというと、本当にはつきり知つているのを答えないのじやないように感じられます正直の話……。で本国へ問合せられればわかつているのかも知れませんが、少くとも私が質問を向けた人は、その場で答えられるほどは御存じないようなふうに見てとれます。ですから余り私が聞いた人が不誠意であるというふうには私は感じておらんのです。で或いは場合によつたら、つまり一番むずかしい問題は骨に沈着してしまいました放射性物質を体外に取出す方法なんですね。それは先ほども申上げました通り骨にはカルシユームがつくわけでございます。カルシユームと同じような化学的性質を持つたものが骨に沈着するわけですね。でカルシユームと同じような化学的性質を持つた放射性物質を出そうと思うと、前から骨にあつた日本人の体のカルシユームがやはり出ざるを得ないわけです。そういうわけでこの質問はなかなかむずかしい質問なんです。それでアメリカなどはもう何十回と実験をやつておるのですから、私は多分動物実験などもやつておられて、もうこういう研究も済んでいるのじやないかと思つて聞いているのでありますけれども、ひよつとすると灰が身体に入るところまではやつていないのかも知れません。その辺の実情はちよつと窺い知ることはできないのですね。それが私の質問に対する態度なんですね。それからそのほか、アメリカ側の態度としましては今武谷さんがおつしやつた通り、結果としてやはり、その不幸にして日本人がああいつた傷害を受けてしまつたので、その様子をアメリカ側は知りたいであろうというふうに思えるふしもなきにしもあらずであります。併し又他面日本の被爆者を何とかして一日も早く治療に協力して快方に向わせようという努力も確かに見えております。で、それは私の東京大学のアイソトープ研究室ヘアイゼンバツトさんも来まして、そうして尿の中の放射能などをガイガー・ミユーラーの計数管で我々と一緒に測定いたしまして、思つたより放射能が少いといつて非常に安心して見ておられるような態度は確かに見受けられます。それからして尿の検査などにも非常によく好意を以て協力しておるという点は確かにございます。まあ今回の事件に対するアメリカ側の態度、それからまだありますね、オーソドツクスの治療といたしましては、輸血と安静が大切である。それからもう一つ白血球が大変に減少して来るというと、細菌伝染に対する抵抗力が弱くなる。そういう場合には抗生物質を使うということが問題になるのでありますけれども、日本はぺニシリンこそたくさんありますけれども、ほかの抗生物質はそう十分すぐ手に入るというわけにいかない。そういう日本では比較的ペニシリンに比較して手に入りにくいような抗生物質などは、必要であろうから言うてくれれば幾らでも取寄せるというようなことは、ちやんと私に言うております。それからやけどの膏薬を届けてもらつたのですね。あれはやけどの膏薬であつたのですが、やけどというもの自体はそう大した問題では実はない。骨から出すことが大切なんでありますね。骨から出す名案を教えてもらいたいのですけれども、今申上げたような事情であります。  それから研究費はどのくらいかとおつしやいましたが、今回の事件に対する研究費の意味でございますね。今申上げたようなわけでありまして、こういつた患者を取扱いますのは、日本は初めて、恐らく世界でも初めてじやないかと思います。今回のことでマーシヤル群島の士民がやはり被害を受けたということが新聞に出ておりますけれども、あれは第一次のエネルギーで被害を受けたのやら、灰を受けたのやら私よく存じません。まあ灰は恐らく初めてじやないかと思いますですね。それで患者の直接の入院費といいますか、治療費といいますか、それよりも研究費がこの間都築さんは十倍かかると言いましたけれども、十倍どころじやないと思います。非常にお金がかかると思います。それでまあ泥縄的に研究の道具建てからお願いをしたようなわけでありまして、研究費は二十八年度の分から何がしか頂きました。それからして二十九年度の分は現在請求中であります。でよろしくお願いいたしますわけですが、その額は私ども学者で金に縁がないのでありまして、よく空で憶えておりませんが、ここに文部省のお役人がちらほらおられるのでありますが、憶えていらしたらそちらから御返事を願いたい。やはりたしかどのくらいでありましたかちよつとあとでお調べを願います。  それから広島長崎のときにどうであつたかという御質問でありますが、広島長崎の時は現在とよほど国際情勢は違つていたと思います。広島長崎のときに確かに私どもが大事にしておつた材料を向うへ持つてつてしまいまして、そうして、それが行方知れずになつてしまつたのも相当にあるのであります。それが材料になつて研究ができたのもありましようし、中にはそれを骨董品のように大事にしている人もあるかと思いますね。その辺の事情はよくわかりませんですが、確かに我々の大切にしているものを持つて行かれてしまつたということはあつたのです。で今回こそは私どもの手で自主的に患者の治療を行う、いわゆる自主的の学問をして行きたい、こういうふうに念願しております。(「絶対離さないように」と呼ぶ者あり)  それからその次は国際学会で発表なつた……、イタリアで国際学会があろうとして、あれは学会がなくなつたのだと思います。そうですね。どなたか憶えていますか。(「そうです」と呼ぶ者あり)そうですね。学会自体がなくなつたのです。それは誰がどうしてなくなしたのだか私はよく知りませんが、学会がなくなつたのです。日本人の行くのをとめたのじやないのです。学会がなくなつた。それでこの四月には赤十字社が主催になりまして、ジユネーブで以て言目兵器の禁止に関する相談をすることになつております。つまりめくら滅法界に、戦闘員と非戦闘員とを区別なしに殺す兵器を禁止する相談ですね。その相談を、ジユネーヴでこの四月、赤十字の主催で開くことになつております。それに日本からは都築博士が出席されるわけです。で今回のビキニの問題も非常に大きなお土産になることと思います。で都築さんには十分な材料を持つてつてもらいたい。  それから焼津の重症患者ですね。この問題は、この中に恐らく新聞記者もおると思います。それで医者というものは、患者の将来の病状については或る程度嘘をつくというのは常識でありまして、あそこにも有馬さんがおられますが、有馬さんもずつと嘘をついていらした。(有馬英二君、「とんでもないことです、私は……」と述ぶ、笑声)で余り具体的に本当のことを申上げるのは患者のためでないかと思いますので、お許しを願いたい。先ほども申しました通り、今回の被爆者の白血球の数、これは先ほど数で大体のところを申上げました。そのときに広島長崎でこの程度の白血球減少症の人ならばさらに心配はない。私もそれより少いと、こういうふうに申上げたのでありますが、今回の被爆者の場合には、放射性物質が一番大切な骨髄の中に入つておるからして、その点が非常に心配であると、こういうふうに申上げたのです。でこれでお答えとして頂きたいと思います。
  41. 藤原道子

    藤原道子君 議事進行。ちよつと当連合委員会は、非常に重大だから各大臣の出席を求めるということに相成つていたのでございますが、見渡すところ大臣は一人も来ていないようでございますが、これでは大切な質問ができないのでございます。大臣が出られなかつた理由をお聞かせ願いたい。それから現在政府からは誰と誰と誰が来ておるか、そのこともこの際お示しを願いたいと思います。(「政府委員は誠に不熱心だ」と呼ぶ者あり)
  42. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは今の藤原委員の御質問に対してお答え申上げます。当連合委員会として出席を求めておりました大臣は、緒方国務大臣、岡崎外務大臣、大連文部大臣、草場厚生大臣、保利農林大臣、以上であります。ところが緒方国務大臣は、参議院の予算委員会出席中であるので出られないということであります。それから岡崎外務大臣は、参議院の予算委員会と衆議院の本会議に出席中で出られないということであります。それから保利農林大臣も出られない。それで出席すると回答のあつたのは大達文部大臣と、草葉厚生大臣であります。そのほか政府委員として出席せられておるのは、文部省の稲田学術局長と、外務省の中川アジア局長、水産庁長官、以上であります。
  43. 藤原道子

    藤原道子君 大達さんと草葉さんが出席されると言いながらもうすでに四時十五分過ぎておるのです。この委員会は何時までおやりになるのですか。出席しても閉会後に来てもらつては何にもならないので至急に督促をして頂きたい。とにかく私たちは今まで政府の弱腰にぎりぎりしております。ところがこれも最近初めて胸のすくのは、学者の皆さんが非常に困難な中に打堪えて、毅然とした態度でこの大切な問題と取組んで頂いておる。この学者の皆様には私は心から敬意を表しておるのでございますが、それに引替えて、政府当局から責任者が一人も来てないということを、私はどうしても納得ができませんので至急にお手配をお願いいたします。(「その通り」と呼ぶ者あり)
  44. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 至急手続をいたします。    〔須藤五郎君、発言の許可を求む〕
  45. 上條愛一

    委員長上條愛一君) ちよつと須藤さん、有馬さんが前から言つていますから、この次にお譲りを願いたいと思います。
  46. 有馬英二

    有馬英二君 先ほどからいろいろの方から御質問がありましたけれども、高田委員からも、戦争ばかりでなしに、平和的にこれを取扱うというようなことについてちよつと御貿問がありましたが、具体的に私はこういうことを御質問申上げたいのですが、御承知のようにこの予算の修正の際に、改進党が二億六千万円の金をこの原子炉の設定ですか……、のために措置をした。然るに御承知のように、その当時まあ朝永博士も御反対になつたように、私は新聞で拝見したのですが、特に学術会議の茅君が非常な反対をして、政治家はどうも何も知らないというようなことで以て、どうも改進党は非常に悪口を言われたように私は思つたのです。これは併し御承知のように、その当時特に二、三の人がアメリカ、或いはイギリスあたりに行きまして、そして平和的にこの原子力の応用をもうすでに始めておるということから始まつたことは、新聞の報道された通りでありますが、二億何千万円くらいの金では到底できないというようなお話でありましたが、この席で一つ私どもにこう合点の行くように、それを一つ御説明を願いたい。どういうわけでその原子炉の製造というものができないのか。準備はできる、或いは原子核研究にそれを使つたらいいというようなお話があつたように私は思うのですが、もう少し具体的に、どういうところがいけないのか、どういう工合にすべきであるかというようなことをもう少し詳しく承わりたいと思います。  それから患者が焼津からも、又最近に更に東大へも入院したそうでありますが、特にそのうちに前からの患者でありましたか、非常に重態であるという報道がせられておるのでありますが、それは一般症状が極めて重態であるのか、或いは白血球の程度の上において重態であるというような判定でありますか。それからその治療の方針ですね。どういう治療をしておられるのか。新らしい何か治療法があるのかというようなことを一つお伺いしたいと思います。
  47. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) 只今の第一の御質問にお答えいたします。この原子炉の建設、或いはもう少し一般的に申しまして原子力の平和的利用というものをやらねばならん。我々もやらなければならないという点では、私ども決してそれ自体に反対するわけではございません。この点誤解しておられる方はないと存じますけれども、先ずはつきりしたいと存じます。ただ、原子炉を作ると申しますことは、それほど簡単に行くものではございませんで、お金の面から申しましても、二億で原子炉が作れるわけではない。それのみならず、金額の問題だけでなくて、これはいろいろな非常に大きな問題がございます。たとえアメリカで初めてできましたような小さな玩具のような原子炉を作るにいたしましても、いろいろな問題がございます。これは物理学だけの問題でもないし、ウラニウムさえあればできるという問題でもない。あらゆる科学を総合して、それから経済的な面もございますし、いろいろ法律その他の面もございます。それから研究の態勢、これはあらゆる方面の学者の共同、あらゆる学者の衆智を集めて初めてできるものでありますので、その研究上の態勢をどうするか、そういうふうな問題がたくさんございます。それから又平和的利用に限るのにはどうしたらよろしいか、悪い方面に使われないようにするのにはどうしたらよろしいか、そういうふうな問題もございます。こういうふうな問題がたくさんございますので、これは学術会議のほうでも前々から、つまり講和条約ができますまでは、この研究は我々できないことになつておりましたのですが、講和ができましてからこの研究に対する制限が何もない。そういうことがわかりましたので、学術会議あたりでもやるのがよろしいか、やるとすればどういうふうにやるのがよろしいかという、いろいろ調査のようなことを始めていたのでございます。あのときに一部の学者の間に反対があつたと申しますけれども、それはこういう研究を絶対にやるなという意味の反対ではなかつたので、それをやります順序、道行きをどうするか、手続をどうするか、どういう順序で始めるか、どういう形で始めるかということについていろいろ問題があつた、その点についていろいろ意見があつたわけでございます。最近は、今年になりましてから学術会議側もかなり歩を進めて、先ずものを始めるのは調査から始めまして研究に移り、それから実際の利用に入るというのが順序でございますので、特にこういう大きな問題は調査の段階が非常に必要なんであります。そういう調査の段階を一歩進めるという、そういう動きにあつたわけであります。  それからもう一歩は、原子核研究でございます。原子力の問題は先ほどから申しましたように、物理学、殊に原子核物理学だけの問題ではございませんけれども、やはり原子核物理一つの応用でありますからして、原子核物理の素地ができていなければ、原子力研究も健全な発達はしない。それで学術会議で一方におきましてそういういろいろな原子力の平和的利用に関してどういう態勢で行くべきかということの調査をやつておりますが、その調査の結果を待たずとも原子核研究は大いに推進しておこう、そうすればどちらに転びましても、原子核研究と申しますのは、必ずしも原子力だけでなくて、もつと広い基礎的な研究でありますから、将来どういうふうに発展するか、これはつまり未知の領域の研究でありますので、例えば原子炉を実際作るという時期がいつになろうとも、これは原子核研究をやつておいて一向差支えない。それから原子炉を実際作るという時期が来ましても、必ず原子核研究をやつておいたということが役に立つ。そういう意味で原子核研究はあらゆる面を睨んで、一石そこに石を置いておくということは必要なことである。そういうわけで原子核研究を多いに高めようということに学術会議できめたわけでございます。それでこの間ラジオの放送で改進党の中曽根さんと茅さんが話をされたのを聞いたのでありますが、日本は原子核は相当進んでいる。でありますから、もうそういつまで原子核をこれ以上やらないで、原子炉のほうをそろそろ始めなければいけないのだというふうに言つておられたように記憶いたしますが、日本の原子核物理は決して進んでおりません。これは湯川先生のような方がおられます点、それから昨年国際理論物理学会がありましたような点から、日本の原子核物理が非常に進んでいるというような印象を皆さんお持ちだと思います。或る意味においては本当でございます。或る意味においてと申しましたのは、純理論的な研究、紙と鉛筆だけの研究であります。これは確かに進んでおります。併し紙と鉛筆の研究原子力の利用との間には一つの大きなギヤツプがございます。それは実験的な原子核物理学の研究であります。この実験的な原子核物理学の研究は、日本は現在のところ殆ど潰滅の状態でございます。これは御承知だと思いますが、戦前に作りましたサイクロトロンが戦後すつかり破壊されてしまつた、そういうふうなこと、それから原子核研究は非常に金がかかるということ、日本の経済的事情で非常に研究費が不足して参ります。そういうようなことから原子核実験研究は、戦前のサイクロトロンをまだ作らない前の状態に逆転してしまつた、そういう状態であります。それで優れた物理学者は、そういう実験の装置も何もないようなところで原子核研究をやろうというようなことは非常に少くなつて、みな理論的な研究のほうに行つてしまつた。これは非常に理論研究が進んだのは結構でありますけれども、これは余り健全な形ではないのであります。この原子核研究を少くとももう少しレベルを上げて行く。そうすればそれはそれ自身の発展として意味があるのみならず、将来原子炉を作るときには、必ず打つておいた石に丁度うまく原子炉がつながつて来る。そういう含みを持つたものでありましたのです。ところが原子核研究所の請求いたします予算が殆んど削られまして、それから一方学術会議では先ほど申上げましたような調査活動を盛んにしようというわけで、調査費を請求していましたのですが、それがすつかり削られました。すつかりではございませんが、非常に削られたようでございます。そういうときにぽかつと原子炉の予算が出て参りました。で、原子炉を作るということに反対するという意味ではなくして、折角我々々が石を置こうと思つていて、将来の手順まいろいろ考えまして石を置こうと思つていたところが、その石は置くことができなくて、そうして我々としてはまだあとで置こうと思つたところへ石が置かれた。そういうわけなのでございます。まあ私ども反対したと申しますのはそういう意味なんでございます。で、これは只今御質問で世界いろいろな国で原子炉をたくさん作つているのに、日本だけ作らないのは非常に残念だというお話がございましたが、それは確かに我々も同感でございます。併し世界四十幾つかの国で原子炉を作つたような国は、やはり皆原子核研究を相当程度持つている国が多いのでございます。サイクロトロンなしに原子炉を作つたというようなことはこれはできないことはないかと存じますけれども、健全な姿ではない。つまり極くきまり切つた型の原子爐を一つ作る。ただ作るというだけでしたら、できるでありましようけれども、それを作つて、さてそれからどう行くのか、これをどんどん改良し進歩させ、本当に役に立つものにするというためには、やはり基礎的な研究がなければならない。基礎的な研究を申しましたのは、原子核研究のみならずいろいろな面でございます。ウラニウムの問題、いろいろな資材の問題、それからいろいろ技術的な問題、それから国の経済に及ぼす問題、とにかくこの研究は一旦始めましたら、相当経費を注ぎ込まなければ本当のものにはならない。そういう点で経済的な問題、それから研究の態勢の問題、特に原子力研究の場合には、悪くいたしますと、非常に悪用される心配がございますので、そして却つて人類の幸福のためにと思つたことが、先ほど御質問にありましたように人類の不幸の因になる。そういうことがございます。それを如何にして防ぐか。それでこの研究の態勢の問題にいたしましても、先ほどから申しましたように、あらゆる分野の専門家が、研究家が衆智を集めてやつて行かなければならない。そういうふうな場合にいろいろ秘密上研究発表制限されたり或いは研究に能力のある人が自由に参加できなくなつたりするような態勢ではいけない。それをどういうふうにうまく作つて行くか、そういうようないろいろな問題がございます。そのほか危険防止、実際この危険がアメリカでもアクシデントがあつたという先ほどお話がございましたが、アメリカだけではございません。ほかのカナダなんかでも原子炉が一つ爆発したというほどではないのでありますけれども、一部が溶けてしまつた。で、日本などは地震があるので、地震のあるときに原子炉を出して逃げ出せばいいが、七輪の火でも消して逃げないと大変なことになるのでありますが、原子炉をうつかりそのままにして逃げることもできない。そういう日本に特殊な問題もございますし、こういうふうなことを十分考えた上に、お金を出して頂くなら非常に有難いのでございますけれども、これから考えようとしている最中に、さあ原子炉を作れと言つてお金を出して頂いても、果して有効に使えるかどうか、まあ非常に心配であつて、そういうので茅さんが、私も余り賛成しなかつたのでありますけれども、ああいう意見を述べられましたのでございます。そのほかどうすればよいかという御質問でございましたが、やはりこれは先ほどから何遍も申しますように、あらゆる人たちが衆智を集めて作るべきものでありますので、これはやはりそういう研究者の集りであるところの学術会議が重要な役目をすべきだと私は考えるのであります。勿論原子力の平和的利用の問題は、単なる研究じやなくて、実際の産業その他の問題も含んでおりますので、勿論学術会議だけでというわけには参りませんですけれども、少くとも初めの暫らくの間は、やはり研究者の問題が一番中心になると思うのであります。一番中心と申しますと、多少語弊がございます。例えば原子力研究を平和的方面に限るというようなこと、悪いほうに使わないようにするというようなことは、これは或いは研究者の問題ではないのかも知れませんけれども、それにしても研究者は非常にそういう点につきましても関心を持つているわけでございます。  なお、武谷さんから何か補足さして頂きます。
  48. 竹谷三男

    参考人竹谷三男君) 私も原子核特別委員会朝永委員長委員会委員として討論をいたしました。で、今のお話に多少補足いたしたいと思います。それは大変原子力というものが緊急のように世界中湧き立つているような印象をお受けになつている方もおいでになると思います。その責任の一半は私自身にあるので、戦後原子力は非常に利用されるべきであり、近いうちに利用されるであろうということをさんざん私があちこちに書き廻つた、最も余計に書き廻つた人間の一人でございますので大変責任を感じております。ところが現在世界中のことを見てみますと、放射性のアイソトープはこれは実際にどんどん使われております。併し原子力の動力とか発電とかに利用されているという例は、これは勿論小規模の発電はやられております。併しそれはいわば泰山鳴動してねずみ一匹という発電でございます。それで実際この動力、原子力発電で一番進んでいるものを持つておりますのは英国だと言われております。この英国は五年後に最初の原子発電の専用原子炉が完成されるということになつておるのでございます。三年後に完成されますのは、原子爆弾用のプルトニウムを作りながら、そのわきで発電もやるという両用原子炉でございます。このプルトニウムを作りながらやるという場合には、これは発電のほうは採算を無視してよろしい。専用原子炉になりますと、この発電の採算も問題になつて来るわけです。それで英国は非常に計画的にやつたのでそういうふうにそこまで整つている形だが、アメリカはいろいろ軍事的な問題にデイスターブされた問題が非常にあるというように言われております。  それで結局いろいろのこれまでの原子力の進行と睨合してみましたならば、英国でこの原子力発電が重要なユニツトをなして来るのは、恐らく十年後ぐらいじやないかと想像できると思うのです。そういたしますと日本も原子力発電ということは非常に重要なことだと思いますが、そして是非やらなければならんと思いますけれども、これには恐らく十年という歳月を念頭に置きながら、而も厖大な金がかかる問題で、最初はエコノミカルに行くかどうかわかりません。それで相当の緻密な計画といいますか、見通しのある計画を立てて行かなければならない。実験原子炉ならすぐできるのでございますが、一体何の実験のために原子炉を造るのか。これは何も日本でやらなくてもどこかで、例えばノルウエーに公開の原子炉がございますから、それをすぐ見に行けばいい。それをどういう将来の日本の原子力研究のために実験原子炉を造るかということがなければ駄目なんで、そのためには衆智を集めていろいろと考えて将来の方針を十分立てて、そして十分の調査をやつて、そしてでき上るものだろうと思います。勿論今度原子炉予算と言われておりますのは、調査に使うというふうになつたようでございますが、それは大変結構でございますが、併し学術会議は先に朝永さんがおつしやいましたように二千万円の調査費を要求したのだそうですが、それが向でも削られてしまつたという話でございます。私は学術会議の会員ではございませんので、そこのところはよく知りませんが、そういう話でございますので、それで又今原子核研究所の話もございますので、そちらのほうにそういう金があつたならばそつちを削る理由はないのではないか。むしろそつちを削らずにそつちを活かしておかれたほうが将来性がある。あわててそういう予算をお出しになるよりは、ちやんと学術会議が要求したようなものをお出しになつて頂けば最もその線に沿つて、而も進歩も早いということになるのではないかというふうに私は考えております。
  49. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) 有馬さんの御質問にお答えいたします。御質問は患者が重症だというが、一般症状はどうか、こういう御質問でありますが、新聞等に重症という字が使つてありますけれども、私の感じでは世の中で慣用されておる意味において重症だというほどのこともないと思つております。重症という字が新聞に使われたのは、東京第一病院に収容された患者に比較すると、東京大学病院に来たほうがより重症であるという意味に使われたと了解するのが当つているだろうと、こういうふうに思います。一般症状でありますが、先ほども申上げた通り食欲は非常に旺盛でありまして、国立第一病院で賄いの出します食事では到底足りませんのです。お代りをして食べておられるそうであります。それから睡眠も無論良好でありまして、むしろ安静を守つてもらうのを迷惑に感じておられる方々がある、こういうふうに思つております。それじや大変無駄なようなふうにお聞き取りの方もあろうと思いますが、決してそうでないのでありまして、白血球の数は大体多くの方は五、六千、それから比較的重症の方は三千内外というところで、広島長崎でこの程度の人は何とも心配はなかつたけれども、骨髄の中に放射性物質が含まれておるという可能性が十分考えられるので、今後まだ白血球が減つて来るということで、非常に警戒をし、油断をしないようにしております。有馬さんの御質問にもう少し医学に立ち入りまして具体的に御説明申上げますと、白血球の数が三千内外のものが数名ございます。これらの人々のうちに極く少数でありますけれども、骨髄細胞が二万程度に減つているのがあります。これは有馬さんにはよくおわかりと思いますが、相当私どもはこれを重要視しておるのであります。で、そんなことで私どもは油断はしない、警戒は解いておりません。今世の中で慣用されているような意味において重症だというほどのことはないと思います。一般症状は良好であります。外から見たところは、食慾もあるし、睡眠もいいし、一般症状は良好であります。  それからその次に何か特別の治療法を実施しているか、こういう御質問でございます。特別の治療法という意味を、今度の被爆者だけに特にきく治療法、ほかの病人には一般には使われないような治療法というふうに考えてお答えしますと、EDTAという試薬でありますが、これを患者の皮膚に付いております放射性物質を洗い落すために使つております。或る程度これは効果をおさめていると思つております。併しこのEDTAを内用するということは非常にむずかしいので、現在まだ実際にやつておりません。EDTAを内用しますと、骨に沈着しておりますカルシユームに似たような原素が少しは出るでありましようけれども、もともと体にあつたカルシユームも共に出てしまう危険がありますので、相当慎重を要するので、EDTAの内用はまだやつておりません。そうすると体の中のものに対しては何んら特別の手当をしておらんかというと、そうでもない。それは骨に沈着している放射性原素はカルシユームと同じような化学的性質のものである、こういうわけで今回の患者には入院当初からカルシユームを非常に多量に与えております。こういうふうにいたしまして、もう過剰のカルシユームを体内に注入いたしまして、そうしてカルシユームと同じような化学的性質を持つている放射性物資をそれで薄めて、そうして自然の経路で洗い出させてしまうことを期待しつつやつております。そこらは特別の治療法であります。そのほか一般的の治療法としてはさつき申上げました通り、輸血であるとか、或いは抗生物質であるとか、ビタミン剤であるとか、そういうことは手落ちなく無論やつております。
  50. 須藤五郎

    須藤五郎君 先ほど朝永武谷教授から自分たちは別に科学者として人類の幸福のためにこの研究を続けるということをおつしやつた、それは正しいことだと思います。私は芸術家でありますが、芸術家も同じように人類の幸福のためにやつているのでありますが、一つの例を申上げますとこれは架空の例であるかと思いますが、私がハンガリーに参りましたときに、その当時暗い日曜日という流行歌がはやつたのであります。ところがこの歌が作られたために、ドナウ河に投身自殺をする青年たちが殖えたということで、その歌を歌うことをハンガリーの政府が禁止をしたということが伝わつた。これはそういうことを流布したのは楽譜を売る楽譜屋の宣伝であつたと思いますが、音楽の場合はそういうことで済むかもわからないと思いますが、本当に人類のためと考えてこの研究を進めて行くその先生方の意思と反して、これが人類を破滅に導く危険が私は併行して存していると思うわけです。そこで先日藤岡教授が見えましてこの問題で少し話を伺つたのでありますが、これが人類の不幸のために、破滅のために使われるということは、先生たちもそういう可能性があるということを予測していらつしやると思うのですが、それに対して科学者としてどういうふうな心がまえを持つていらつしやるかという点も、ここを一つ伺いたいと思う。藤岡先生は、そういう場合は全く困るから国会において立法措置して、日本の原子力が戦争に使われないような立法措置をして頂いたらどうだろうというお話つたのです。それも一つの方法かとも思いますが、今の日本の置かれている国際的な立場、それから今の政治の方向、いろいろなことを考慮した場合、憲法すらも改正をされようとか何とかいうことが今論議に上つておるとき、その立法措置をたとえしましても、その法律が絶対的な永久性と力を持つかどうかということも、私たちは非常に疑念を持つわけなんです。ですから単に立法措置だけでそれが守られるものではないではないか、こういうことを考えるのですが、そういうことに関しまして、科学者の皆さんは自分のやつて行く仕事に対してどれだけの責任を感じておられるか。私は決してこの原子力研究が無駄だとは絶対申しません。私もこの原子力が平和的に使われ、そうして私たちの希望する社会主義社会、共産主義社会の来ることを私も希望する一人であります。併しその研究が果して今日の日本の置かれている国際的な環境の中で、そして日本の政治のあり方の中で時を得たものであるかどうかということに、私は大きな疑問を持つわけなんです。そういうことに関しまして、学術会議でいろいろ論議されたと思うのでありますが、その点学術会議が今度原子核研究費用として文部省に対して予算を請求なすつたそのときの学術会議の意見、それから学術会議でいろいろ闘わされた御意見なりをこの際伺えたら大変幸いだと思うのです。大体大きい問題はその問題であります。なお、それからこの灰が海水の中にたくさん沈んだと思うのですが、そのために海水が汚される。そういうことはないか。あれば、その海水の中に放射能が残る期間はどれくらいの期間放射能が残るのか、そしてその海水の中に泳いでおるところの魚はそれからの影響を受けないのか。若しもその影響を受けるとするならば、その海水によつて影響を受けた魚を我々が食べた場合に危険はないのか、あるのか。それが一点。  それからこの放射能の治療ですね。受けた治療に対しまして中泉先生はアメリカが一番進んでおるんだというお考えだつたと思いますが、或いはそうかもわかりませんが、英国なりソビエトはやはりこの研究を進めていると思うのです。それでこの際世界に向つて日本の被災者を救うために、その助言を求めるということを日本の学会からソビエト、英国、あらゆる方向になさる御意思があるかどうか、そういう点を伺つておきたいと思います。
  51. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) 原子力研究がこの悪いほうの目的に使われないために我々はどういう考えでいるか、そういう御質問だつたのですか……。これは私ども非常に苦しい気持でおりますのです。勿論悪いほうに使われるよりほかに使い手のないようなものでございましたら、これはもう簡単明瞭に、やらないと結論ははつきりしているのであります。ところが一方原子エネルギーというものは、使いようによつては非常に人類に福祉をもたらすものであるが、特に我が国のような人間が多くつてエネルギーの源の少いところでは、この原子力を利用するということも大いに考えなくちやいけない。これをやらずに、いつまでもやらずにおりまして、ほかの国から非常に遅れてしまうというようなことが、我が国の将来について、非常にますます貧困をもたらす、そういうことになりますと、なぜ研究をやらなかつたかというサボタージユの罪を研究者が負わなければいけない。ところが一方悪用されればこれ又恐しいことになる。で、そういう点でこの研究を始めるべきか始めないか。或いはいずれは始めるにしても、今がいい状態であるか。それから悪い点を除く、避けるような手段が何かあるかどうか。そういう点が非常に問題になつたわけでございます。学術会議あたり結論がなかなか出ませんでしたのも、やはりそういういろいろなことを科学者の責任という点から考えますと、そう簡単におつ始めることができない、こういうことがあつたからだと思うのであります。学術会議でどういう議論があつたかということは、先日の文部委員会でお話があつたのでございますか。……これはやはり今藤岡先生……藤岡先生は学術会議のその原子力の問題をいろいろ考える委員会委員長をしておられますので、私からちよつとお話する筋ではないと思うのですけれども、大体そういう議論がございまして、今始めるのは早いというような意見の方もありましたし、それから、併し早いと言つていつまでも何もしないでおるわけには行かない。従つてこの調査、やるやらないはきめないとして、いろいろな調査、データを集めるということは始めるべきである。それから或いは先ほど申しました原子核研究、これは直ちに悪用される慮れはない。将来原子力をいつになつたら、やるやらないにかかわらず、これはやつておけば、それはそれとして新らしい未知の領域を研究して、そこから又何か人類を幸福にするような糸口が得られるかも知れない。そういう意味で非常にいいことであるし、それから原子力をやるとすれば、これが又是非必要な一つの石になる。そういうわけで原子核研究はもう始めるべきである。そういうようないろいろな議論が出まして、そうして落ちつきましたところが、先ほど私が申上げましたような調査活動をもつと活發にやる、それから原子核研究所を是非作る、そういうふうなところが大体学術会議における結論なんでございます。では、将来原子力をやるとして、そういう悪い、悪用されないのには、どういう手があるであろうかということが、これはいろいろこれから検討されなければいけないことだと思うのでありますが、これもいろいろな考えの方がございます。先ほど申しましたように、何か法的措置を作つて、日本の原子力研究は平和的な利用にだけ限る、そういう法律を作る。それからその平和的な利用に限るというようなことだけでは、まだ言葉だけに終る虞れがあるので、いろいろそれに附随してその研究のデータをすべて公開する。すべて公開するということは、公開されたものは余り悪用できないので、誰でも知つておるようなことはそう悪いことに使えないと、こういう狙いもございます。そのほかに研究を進めるという上から言いましても、公開ということは絶対に必要な条件です。これはアメリカの有名な原子物理学者のオツペンハイマーなんかが、いつも、何度も主張しておることですが、アメリカ原子力研究は秘密という制限のために非常に阻害されておる、秘密という制限がなければ原子力研究は早く進んだだろう。特に平和的な面における研究は秘密という条項によつて非常に阻害されておる。これはこのデータを常に誰でもが知つておるということによつて、誰でもが常に自分の智慧を貸すことができるというそういう措置が必要である。そのほかいろいろなことがございますのです、例えば能力のある人は誰でも研究に参加できるというような…。我々研究者といたしまして考えられますのは、そんなことで、それ以上にいろいろ経済的なことや何かございますけれども、そういうことは余り物理学者は得意ではございません。ただ平和的利用に限るというだけでは弱いかも知れませんが、そういう、いろいろ悪用できないような形に、或る程度法的措置を作る。これは勿論法律を作つても、それが守られなければ何にもならないのでありますけれども、そうかと言つて、こういうものを作らなければなお悪くなる。やはり法的措置だけでなしに、科学者のいろいろな良心と申しますか、責任感というものが、やはり非常に重要なものだと思うのでございます。こういうふうにあらゆる面から悪用を避けるような方法を考えることは是非必要だと思つております。法律を作つても何にもならないと立法府の方がおつしやつては、甚だ私どもまどうわけなんでございます。(笑声)ただお前たちの良心だけに委せようと立法府の方がおつしやいますと、私どもどうしていいか途方にくれますので、こちらのほうでは、そこを、非常に私どもの気持をお酌み下すつて、私どもが良心の圧迫を受けずに、本当に心から将来の日本の国民、或いは延いては……余り大言壮語をしたくないのですが、延いては人類の幸福のために喜んで協力できるような、そういう態勢を是非作つて頂きたいと思うのでございます。私今日ここへ出て参りましたのも、実はそういうことをお願いしたいという気持が非常にありましたので、爆弾のほうは余り得意でないのでございますけれども……(笑声)今日現われましたのも、そういう下心もありましたので……(「了解々々」と呼ぶ者あり)
  52. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 何か補足がありますか。それでは海水のことと治療のことを……。
  53. 竹谷三男

    参考人竹谷三男君) 海水だけ私が…。只今朝永さんのは、我々として原子核特別委員会のすべてがそういう結論に達して、又多くの学者が皆その秘密という点については全く一致した態度をとつております、私の知つている限り……。ですから、是非その点は秘密という点がないようにお願いしたいということは言えると思います。これは補足になりますが、ノルウエーの原子炉をやつておりますランダースという人は、ノルウエーの原子炉には秘密はないし、どこの国の人が来てやつてもいい、こういうことによつてのみ小国は協力してアメリカやイギリスと原子力の利用につい対抗できるということを宣言しております。こういうことを是非念頭に置いて頂きたいと思います。  それからその他の点については、朝永さんのおつしやつたように、物理学者でない人の集まつた学術会議の意見を尊重して頂きたいというのが学者としての切なる願いでございます。  それから海水の件を申上げますと、海水はやはり汚されます。まあ爆発地点に近いところは猛烈に汚されるだろうと思います。そこでは恐らく魚も非常な影響を受けると思います。魚の点については中泉先生にお願いしたいと思いますが、離れた所、つまり第五福竜丸が被爆したあたりですね、あの辺では灰が降つても、海水というものは大変大量でございますから、そこへ落ちれば非常に稀薄されまして、水というものの中には放射能が小さな、非常に小量になります。ビキニで最初に水中爆発をやつた、原子爆弾の水中爆発実験をやつたことがございます。そのときにはビキニの礁湖の中でやつたわけです。その礁湖が猛烈に汚染されました。そういうことが書かれております。その汚染したものを食べた魚が猛烈な放射能を持つていたということが書いてあります。あとは、離れた所では、汚染されてもそれが稀薄される。あとは水産の先生にどなたかお聞きに仰れば明瞭なお答えが得られるのじやないか。それから又海洋の点については、海洋学者にお聞きになればおわかりになると思います。
  54. 中泉正徳

    参考人(中泉正徳君) 汚染された魚を食べる心配があろうかというようなお話つたのですが、その魚の汚染され方が、その爆弾の第一次放射能で放射性になる場合もございましようし、それからして第五福竜丸のように灰で汚染される場合もありましようし、それからして放射線で汚染されたそのしらすぼしとか何とかいう小さな魚をまぐろや何かが食べまして汚染される場合もあるそうであります。そういうものがあの南の危険な海域からどういう海流に乗つて近海に迫るものか、そういうようなことを、まあ私医学でありましてよくわからないのでありますが、そういうことがどの程度危険があるかどうかということは、まあ海流だの水産だのの御専門の方ならはつきりすると思います。どのみち魚が汚染されておるかどうかということを確かめた上で食べるというのが一番確かでありましてそれには魚を食べていいと判定するか或いは廃棄処分にするかということを判定する恕限度をきつちりきめまして、それから実際実行できるような物的並びに人的の準備を整えるということが非常に大切のように思います。現在誠に日本の魚市場の辺では、この辺の検査が物的にも人的にも非常に不十分のように思います。先ほども申しました通り、恕限度は三通りに考えることができるのでありますけれども、それをどういうふうに取扱うのが一番妥当であるかというようなことを衆智を集めまして考えて、そしてそれを実行に移すことを早急に考えるべきだと、こういうふうに私は考えております。  それから外国に問合わせる点、これは先ほど有馬さんの御質問で何か特別の治療法を持つておるかということで、まあ特別の治療法と言えそうなことを二つばかり御返事いたしましたけれども、私ども顧みて甚だ不満足に感じております。もつともつと有効適切な特別な方法があれば実施したいという気分で一ぱいであります。でありますからして、アメリカが教えてくれても、ロシアが教えてくれても、誰が教えてくれてもかまいません。一日も早く教えてくれるのが肝心なのであります。でそういう方法をとることができれば非常に仕合せだと思います。私は外国へやつて頂きましたが、ドイツに主におりましたのでドイツの学者たちにこの点については問合せようというふうに数日前から思つております。今朝現に医者ではないのでありますけれども、放射線関係のドイツ人に面会いたしまして、この話はちやんといたしておきましたが、ドイツだけは近いうちに私は私的に手紙を書いて問合せようと思つております。誠に同感でありますです。
  55. 須藤五郎

    須藤五郎君 朝永博士から立法府にある者がそういうことを言つてもらつては困るというお叱りなんですが、それは確かなんですが、立法府におる者だけに、法の弱さというものも私たちは知つているわけなんで、そういう立法をしたからといつて、それが絶対的に守り得ないということを私は感じているものですからその心配を申上げるわけなんです。それともう一点伺いますが、今日本で原子核研究をやる、それから今度先生たちが原子核研究だけの費用を要求したのに対して、改進党のほうから出たようでありますが、これは恐らく改進党、自由党皆御相談の上でやられたのだと思いますけれども、原子炉の費用が三カ年計画、七億円というような予算で原子炉を作るというふうになつた。そういう方向に対して国民は一つの不安を持つているわけなんですね。日本が原子戦の中に捲き込まれて行くのじやないかという心配を持つているのであります。それでまあ私は御質問申上げようと思うのですが、日本にはその研究の資材が足りない、ないだろうと思うのです。とにかくウラニウムもまだ発見されてないような状態ですから、そういう資材を外国からとにかくもらうということによつて、その或る特定的な外国と特定的な結付きができて、そうして皆さん研究が特定的な国にのみ利用されるというような将来危険が起りはしないかという点です。それからMSAの条項の中にも学問的な援助を受けるというような意味の条項がありますから、そういう方面で皆さん研究の中に或る特定国家、まあアメリカ言つても差支えないのですが、そこから積極的に援助の名によつて手を差延べられて、そうして皆さんの尊い研究アメリカに利用されるというような危険が将来ないかということ、若しもそういう危険が起つた場合は、皆さんはどういう態度でそれに臨まれるかということを私はまあお聞きしたいのです。
  56. 朝永振一郎

    参考人朝永振一郎君) 只今御質問になりましたような点につきまして私ども全く同じような心配を持つておりますです。それでこの外国からの情報をもらう場合に、すでに公開されて誰でも知つておるようなこと、特別にもらわなくてももう発表されて本になつてどんどん来ておる、そういうようなものなら、これは幾ら使つてもかまわないと思うのであります。それからそういう発表されたものでなくても、やがて公開されるときまつておるようなものは、これは我々当然使つて差支えないと思います。そういうものまで使えないというのは、これは学問にやたらに国境を設けることで健全な発達にはならない。併しこの秘密のデーターをもらうということは、非常に気を付けなくちやいけないのではないか。と申しますのは、紐が付くというようなこともあるかも知れませんが、そういう虞れはなくても、秘密の提供によつてなされた研究の結果は、やはり秘密を要求されるだろうと思うのであります。そういたしますとこれは日本の原子力研究、本当に日本に根を下した研究ということにならずに、或る閉じたサークルの研究ということになる。で、そういうのでは研究の大成は期しがたいのではないか。一時はそれによつて研究が促進されるかも知れませんです。向うでよくわかつておるものをもらつて機械を造つてしまえばその機械はすぐできるでありましようけれども、それが本当の日本人の頭脳の中に染込めないで、極く限られたサークルの中だけの問題になつて、日本人の研究者の頭の中に染込めないとすれば、それから更に行われる進歩に日本という国が貢献することにはならない。ですからそこは非常にそういう秘密のデータを使うということはやりたくない、そういうふうに考えております。で今のMSAとか何とかいうことになりますと我々よくわかりませんので、あれ読んで見ましても非常に廻りくどい言葉が書いてございますので(笑声)なかなかわかりませんです。これはただいろいろ心配なこともあるかも知れない。特に只今のような御意見を伺いますと、そういう感じを深くいたしますが、それで学術会議のほうに原子力の問題をいろいろ検討する委員会がございます。そこには法律の方もおられますし、経済の方、あらゆる専門の方もおられますのでそこで十分にそういうことを考えて頂きたいと、そういうことを希望しておるわけでございます。
  57. 高野一夫

    高野一夫君 議事進行……。三教授からいろいろ有益な御意見伺いました。まだ伺いたいし、質問されたい方もたくさんあるでしようが、やがてもうあと十分で四時間になります。さぞお疲れだろうと思いますし、三教授から御意見を伺うことはこの辺でお終いにしたら如何なものでしようか。委員長御相談を願いたいと思います。
  58. 上條愛一

    委員長上條愛一君) お諮りをいたしますが、只今高野委員から議事進行についての御提案がありましたが、三教授に対する御質問はまだたくさんおありだと思いますけれども、大分時間も過ぎておりまするし、三教授も御多忙の際だと思いまするので、この辺で御質疑は打切りたいと思いますが御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  59. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。  大変長い間貴重な有意義なお話を承わりまして厚くお礼を申上げます。なお私ども御意見参考といたしまして、本件に対する今後の対策について万全を期して参りたいと思いますから、今後もよろしくお願いいたします。(拍手)  それでは本日は関係各大臣からビキニ被爆事件に関して、政府側の現在までの経過と今後の対策について御説明を願うことといたしておりましたが、先ほど御報告申上げた通り、緒方国務大臣と岡崎外務大臣、保利農林大臣は御出席は御出席が困難である。岡崎外務大臣は只今予算委員会の質問が終り次第参るという報告がありました。大達文部大臣と草葉厚生大臣だけがお見えになつておりまするが、大変時間も過ぎて参りましたので、この関係者大臣に対する御説明を願い、又それに対する質疑は適当な機会に譲つて今日はこれで終りにいたしたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  60. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それではさよう取計らいたいと思います。  それではなお、この連合委員会を継続するかどうかというようなことにつきましては、各委員会委員長に御一任を願いたいと思いますが御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  61. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それではさよう取計らうことにいたしまして本日はこれで散会いたします。    午後五時二十分散会