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羽生三七君 私は
日本社会党を代表して、
只今議題となりました
日本国に対する
合衆国艦艇の
貸与に関する
協定の
批准について
承認を求めるの件に反対をいたします。
以下いささか所見を開陳してその趣旨に代えたいと思います。
今度新らしくできる
自衛隊の
艦艇が、その名を自衛艦と呼ぼうと何と呼ぼうと、これは軍艦であることに間違いはありません。このことは
日本の現行憲法に背達することは又余りにも明瞭であります。そこで、国際法上認められた自衛の権利というものが、
独立国家にあるかないかという議論は、ここでしようと思いませんが、当然それはあることは当り前だと思うのであります。この場合に私たち明らかにしておきたいことは、自衛の手段なり方法なりという問題と、その自衛権を行使する方法とが、又おのずから別個の問題であるということでございます。よく我々が軍備に反対すると言うと、
独立国家に軍隊はなくてもよいのか、或いは又無防備無抵抗の
立場をとるのか、そういうことで反論をされるかたがありますが、それはいささか的迷いであります。
如何なる場合の
安全保障といえ
ども、絶対的の
安全保障というものはありません。それは当然相対的なものである。我々はそれを相対的と言う以上は、比較の
立場においてものを
考えるわけでありますが、武力を持たなければ絶対に自国の安全が保持しがたいと思われるような時期もあるかも知れません。併し又同時に、その国の
経済力の安定なり治安については、警察方に待つなり、或いは自主的にして且つ弾力性ある
外交を通じて、そういうものの総合としての国家
安全保障方式のほうが、十万や二十万の軍隊を持つよりもより安全の度合が強いという時期もあるのであります。我々はその時期が現在に相当すると
考えております。直接
侵略の問題がよく言われますが、併し今
世界に問題になる国々庁我々
考えた場合に、これは同一国内に、ことごとく二重政権を持
つておる国であるということは、例えば朝鮮然り、南北に分れておる。
中国然り、本土と台湾に分れておる。インドシナ然り、これはホー・チミンとバオダイに分れておる。或いはドイツは現在問題が起
つておるとは申せませんが、東西両域に分れておる。こういう同一国内に二重政権を持つ国の一方が統一政権を樹立しよう、或いはへグモニーを確立しようとすることによ
つて、そこに直接
戦争なり何なりが起る。この場合に、今
世界では
侵略とか何とかいうことが言われておるのでありますが、これはむしろ、この全面的な国際
戦争を思わせる
侵略とはおよそ異なるのでありまして、同一国内における政権争奪の戦いであると見るべきものがあると
考えるのであります。それを見て我が
日本を見ると、我が国の
吉田内閣は、よかれあしかれ
日本には二軍政権は存在いたしません。そういう場合に、果して海を越して直接
日本を攻撃の
対象とするような、そういり形の
侵略が直ちに想定されるかどうか。若し理由なき帰路が直ちに
日本にありと想定されるたらば、而も近い将来にそういうものがありと想定されるならば、私はこの場合において討論の
内容を変えるでありましよう。又当然変るのは当り前であります。併し私
どもの見通し得る近い将来において、或る天気晴朗なる日、突如として
日本を占領しようというような武力
侵略が起るという想定には我々は立
つておりません。むしろこれよりも、
日本以外の他国からの
紛争に巻き込まれる危険のウエイトのほうが多い。だから我々が
安全保障を
考える場合に、その両方を比較した場合に、私
どもはむしろ、
日本が今ささやかな軍備なんかを持つよりも、むしろ先ほど来申上げた諸
条件に頼ることのほうが自国の
安全保障の度合は強いという
立場に立つわけであります。こういう
立場に立
つて、私
どもは今作られようとする
日本の
海上自衛隊或いはその他一般
防衛方式そのものが決して
日本の安全に役立つものではない。而もそれは現行憲法第九条の
規定に明白に背反し、憲法を空文化せしめるものであるという
立場に立
つて反対するのがその反対の第一点であります。
次は、この
協定は
質疑の
過程においてもすでに明らかにしましたように、十七隻、二万七千トンの
貸与を
規定しておるものでありますが、併し解釈の
如何によりましては、将来更に十七隻以上のものが
国会の
承認を経ることなく、
協定の
附属書に追加することを以て足れりとする形をと
つて、
日本の
海上自衛力の
増強が進められて行く杞憂を孕んでおります。而もこのことは、単にそういう技術的な問題だけではなしに、一体
戦力を我々が
規定する場合の各種の
条件を検討する場合に、
国会の
承認を経ることなく、そういうものが進められて行く場合には、勿論
予算上の
制約があ
つて、
予算の
審議の
過程に若干このことが明らかにされるでありましようけれ
ども、併し
艦艇の
貸与そのものについては、明白に
国会の
承認なくして行われる危険性もありますので、かれこれそれらの点を勘案いたしましても、非常に不十分な点をこの
協定は孕んでおると思うのであります。これが問題の第二点であります。それからら第三点は、
政府はしばしは
独立国家に値する
自衛力の
増強を言いますが、併し
質疑の
過程にすでに明らかなことく、未だ
日本の
自衛力の
目的とするその総体的な力というものは何ら明らかにされておりません。何ら計画は明示されておらない。もとより
日本の国力、
経済力を
考えた場合に、今直ちに確定的に何年の後にはどれだけのトン数、どれだけの空軍力、どれだけの地上軍を持つというような断定的な結論を下しがたい不確定な要素が存在しておることは認めますけれ
ども、併しそれならばそれで、或る一定の
目的を掲げながら、併しそうではあるが財政上の理由で本年度はこの
程度しか実現できないということを立証するに足りる
一つの基準というものが、地上であれ、
海上であれ、なければならんと思うのてあります。そういう基準が何ら示されておらない。全くその都度御都合によ
つて組み立てられておる
自衛力の
増強であります。このことは、
独立国家の
自衛力という名に値しない全く不確定なもので、而もこれは殆んそ他国の援助に待つという形をと
つておる。特に
海上自衛隊におきましては、殆んど大部分が、全部というくらいに
アメリカの
艦艇の
貸与を受けることによ
つて自国の
海上自衛力を
増強しようとしております。こういう自主性のないやり方は、我々としてどうしてもやはり承服し得ざる問題の第三点であります。
それから第四点は、特に我々として
考えなければならないことは、昨今の国際情勢からしまして、この
海上自衛力が将来自国の
防衛よりもむしろ他国の
紛争に利用され、又その
紛争の中に介入せしめられる危険性を有するということであります。特にインドシナの
戦争の発展の
過程において、しばしば言われる自由諸国の統一行動というようなものが、本日の新聞でも明らかなように、東南
アジア防衛機構という形をとるかも知れない情勢に今我々は遭遇しておるわけであります。こういう場合に、私
どもは本当の
意味の自国の
防衛というよりも、むしろ他国の而も
アジアの近隣の諸国の
紛争の中に
日本の作られるであろう
防衛力が介入せしめられる危険を非常に多く持
つておる。こういう危険に使われる可能性が非常に多い今の形の
自衛力増強、特にこの
艦艇貸与については、やはり反対せざるを得ないのであります。
更に問題の第五点は、これも
質疑の
過程において明らかになりましたように、
日本の現在の貧弱な
経済力、特に輸出の不振、貿易のアンバランス、外貨保有の減少、それから更に
アメリカとの債務の問題、或いはフイリツピン、インドネシア等の賠償支払の問題、こういう問題とも合せまして、
日本の今後の経済の展望というものは極めて憂うべきものがあると思うのであります。現在の状態においてすら、
日本が外貨保有の減少を日一日と深刻化しておる今日、若し自国の力で自衛を
増強しようととするならば、これは必ず国民生活の低下を招来する。而もそれは僅かの金でなしに、大規模な金を注ぎ込むことなくしては、相当数の
部隊編成なんというものはできないのでありますから、当然国民生活の安定というものが犠牲になることは当り前であります。だから、そういう国民生活の安定が犠牲になるような場合には、一番問題になる国内治安の維持というものが不可能になるような客観的な情勢すら醸し出されると思うのであります。だから若し
世界にある
紛争という問題を、
一つ一つのケース我々が取上げてみるならば、よく共産諸国の
侵略行為ということが言われますが、それは或る特定の国の中に他の同一思想体系を持つ国の
協力を求めるような要素が成長した場合に、必ず問題が起るのです。何も問題のないところに
中国なり或いは
ソ連が、共産主議諸国が
協力をし、何らかのレヴオリユーシヨンを計画したようなことは、少くとも一九一七年のソヴエト革命以来歴史上全然例はありません。これがある場合は、必ず先ほど申上げましたように、その特定の国の中に非常な経済的な大混乱が起るとか、或いは
戦争の遺産として混乱が起るとか、そういうところに共通の
立場に立つものの援助なり或いは、工作というものが進められるので、ノーマルな状態の下に突如として相呼応する勢力というものが立ち上るということは、歴史上いささかも我々の発見することのできないケースであります。だから、我々が今
日本当に
日本の経済の安定を確立して行き、又それを通じて
日本の治安の確立を期するならば、我々はそれが今の
日本の
立場において最も安全な自国の
防衛方式であるということを固く確信をいたしておるわけであります。若しそうでなしに、自国にはそういう経済能力がないのだから、
アメリカから
艦艇の
貸与を受け、或いは外国の援助を受けて祖国の
防衛に当るのだ、そういう
立場をとるのだということになりますならば、恐らくこれは半永久的に外国依存の軍隊になることは間違いありません。二年や三年で
アメリカの海軍が撤退し得るような
海上自衛力が作り上げられると
考えるようなかたは恐らくないと思う。併し、一国
防衛方式が古いのであるから、集団
防衛方式によ
つて日米が
協力するのに何の不思議があるかと言われるかも知れませんが、これは質問の
過程においても明らかにしましたよりに、自国が確固たる
一つの力を持ち、事のよしあしは別でありますが、自国が確固たる力を持
つて、それにプラスして相手国の力を加え、これによ
つて集団
安全保障というなら話はわかりますが、すべて相手の国を頼り、又それと結ぶ集団
安全保障方式というようなものは、結局において
独立国家が対等の
立場で結ぶ
安全保障方式ではなく、必ず従属的な形になることは火を見るよりも明らかであります。これは諸般の情勢を勘案いたしまして、この
艦艇の
貸与協定は全く
日本の
自衛隊増強の糸口に過ざませんが、これが海軍となりまして、将来我々は本当の
意味の単なる
海上の
警備或いは
商船の
防衛というような本来の任務を逸脱するようなところにまで発展をして行くであろう危険を十分内包しておると
考えるのであります。
日本の将来を我々はかれこれ
考えましたときに、今日この
協定に示された僅か四隻の
艦艇の
貸与というものはささやかなものに見えますけれ
ども、併し
世界の
日本を取巻くところの客観的な諸
条件から
考えまして、この
協定が適当であると
考える結論はどこにも見出すことができないのであります。かかる見地から
日本社会党は本
協定に反対するのであります。
以上を以て討論といたします。