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公述人(
岡野保次郎君) 私
只今委員長さんから御紹介に与りました三菱重
工業の代表清算人の
岡野保次郎でございます。戦後御承知の力もあるかと思いますが、過去九年間三菱重
工業の社長をやりました。昭和二十五年の一月に引退をいたしました。新
会社を三つ作りましたが、今は実はその古い
会社の残りの財産の清算事務に携わ
つておるわけでありまして、いわば隠居役と申しますか、ただ殆んどそのほうの仕事は一日四時間か四時間半という
関係上、いわゆる経団連とか
日本経営者連盟とか、そういう方面の世話をいろいろしております。いわゆるパブリック・サービス・ボーイのような、同時に又従いまして三菱というようなふうな色はできるだけ付けないような心がまえですべてを現在や
つておるつもりであります。本日もそういう
意味合いを以ちまして、まあ主として経済的観点からというようなお話に了解いたしましたのでありますが、むしろ一市民といたしまして、
日本の現在及び将来を考慮して、公平に私の経験を基礎にいたしまして
意見を述べさして頂きたいと存ずる次第であります。
初めに主として経済的と申しますか、私は終始現在まで三十五年間
日本の
産業に携わ
つて参りましたので、
産業的見地を主にいたしまして、それに三十五年前に第一回、十七年前に第二回、一昨々年国際労働
会議に使用者代表としてジユネーブに一カ月ばかりおりました
あと、ヨーロッパ各国を廻りまして、それから
アメリカに約一カ月ばかりおりまして帰りましたような観点から、本日の話題になります
MSAに
関係のございますような、私が各国を見て来た、或いは聞いて来た点を五分なり十分なり附加えて、御指定の約三十分というようなことにやりたいと考えておる次第であります。お含み置きを願いたいと存じのよす。
端的に結論から申上げますと、私は今回提案されました
MSA関係の四
協定、これに賛成をいたします。いろいろの議論はありますことと存じますが、普通の常識から、私どもの常識から考えまして、それも
只今申しましたような国際
関係も相当程度考慮に入れました、素人ではありますがそういう
意味の常識から考えまして、今日の
日本が
アメリカを中心とする世界の自由諸
国家から孤立したと申しますか、国際情勢がかくのごとく対立しておる時代に、どうしても孤立して生活を、生存をするということを考えるということは、私は現実に処して考えれば、そういうふうに考えられておる方が本当に心の底からあるであろうかというふうに考えるものの一人であります。で又、従いましてそういうふうに考えている人は、各国とも議論の相当ある点ではありますから、このいわゆる
防衛力というような問題につきましては、そう多くはあるまいというふうにまで考えておるのであります。今回の
協定はその前文にも謳
つてありますように、飽くまでも国際の平和及び安全保障を育成するための相互の
援助を
目的とするということは、あの
協定の内部にも謳
つてありますようであります。これによ
つて日本の独立と安全を危うくされるということは考えられないと思うのであります。現に私の了解した範囲だけでも、米国との間にこれと同様の
協定を結んでおる国は英国、フランス、その他世界に、三十余ヵ国を超えている
状況であるように思いますが、これらの諸
国家がそのために、これのために独立を危うくされているというようには了解しないのであります。特に以下述べますように
日本の経済面の、経済的プラスの面の大きいことを考えますと、
日本は世界の多数の自由諸
国家に伍しまして、大威張りで今回の
MSA援助を受入れるべきであると信ずるのであります。以下私は
MSA受入れによりまして生ずる
我が国経済への利点の二、三について申述べさして頂きたいと思います。
その第一は、米国からのいわゆる域外調達によるドルの獲得でございます。巷間ではしばしば
MSA援助は大部分が完成
兵器の供与を中心とする軍事
援助であ
つて、
経済援助ではないというような単純な形式的
論議が行われているように見受けますのでありますが、成るほど形式は軍事
援助でありましても、その軍事
援助として
我が国に供与される需品なり或いは
装備なりは、必ずしも
アメリカ製のものに限られるのではなくて、特に先だ
つてスタツセン氏或いは国務次官補のセルゼツトと言いましたか、あの人あたりにもお会いいたしたのでありますが、その節にも
我が国にその意思と能力さえあれば、
アメリカは
日本でできるものはできるだけ
日本国内で調進したい、又調達することを約束してもよるしいというようなふうに言われたように了解しているのであります。而もこの域外調達は単に
我が国の自衛隊に供与されるものばかりではなくて、これに四倍か五倍かする、例えば今度の五千万ドルについても一千万ドル以外の四千万ドルは、いわゆる東洋、南方諸国の
MSA供与金額を取れるだけ取
つてよろしい。だからして一千万ドルは少いというようなふうな話をスタツセン氏にもしましたところが、お前は一千万ドルと考えているけれども、これは五千万ドル、今年のものだけでも五千万ドルと考えてよるしいのだ、南方諸国に
日本のもので間に合うものがあり、それでいいというものがあればどんどんや
つてもらいたいということを希望し、期待しているのだ、従いまして
日本国自体に対する
MSA援助に何倍かするアジア自由
国家群の
装備の
不足分も、
日本において
アメリカは調産しようとしているし又してもらいたいと思
つているように見受けられるのであります。
この六月末までに、御承知の
通り我が国に対するこの
兵器類の域外調遠は、その当時我々は九千万ドルと了解してお
つたのでありますが、あのときに一億ドルを超える額が期待され、予定されておるとのことであります。そのうち少くとも七千五百万ドルはドルによる発注であると聞いておるのでありますが、これが現在
日本国の現状を考えますと、
輸出の不振に悩んでおる今日の
我が国国際収支の上に持つ比重は、これは決してこの比重は軽視されては断じてならないと思うのであります。もとよりこの
兵器産業が不当に民需を圧迫し、
我が国の正常な経済的均衡を破壊するような規模にまで拡大するということは、厳に避けなければならないのでありますが、又避け得られるようにあの
協定の
内容はな
つておるように拝見したのでありますが、昭和二十九年度の
日本の
工業輸出額が推定で大体五千六百億円、およそ十五億ドルと見まして、あるといたしますと、先に申上げました一億ドル、三百六十億円の
兵器生産は極めて比較的には小さい。この
意味からも
MSA受入れが
産業構造を変えてしまうとか、
兵器生産への傾斜が生ずるとかというようなことは、私は杞憂に過ぎないのじやないか、いわゆる
戦前の軍国時代の、羹に懲りて膾を吹く類いの、少し言い過ぎかも知れませんが、被害妄想と言
つてもいいんじやないか、こういうことを信ずるのであります。
MSAの
日本経済にと
つての利点の第二は、これが
我が国の
工業技術水準の向上に深い
関係を有するということであります。申上げるまでもないことと存じますが、
兵器工業というものは近代科学の粋を集めまして、いずれの国においてもその
工業技術の最先端を行くものが多いのでありますから、これを
我が国において再建、発展せしむるということは、広汎な国連
産業の進歩発展を促す直接の契機となるばかりでなく、一般の
産業技術水準のレベルを向上して、いわゆる民需を中心としたほかの大部分の
産業全体の質の向上
に寄与するものであるということは、これは現在の幾多の例証が示すところであると言うても過言ではないと思うのであります。特にこの戦後の
日本は、七、八年のいわゆる空白時代を
技術的その他において過しまして、これを世界的レベルに持
つて行きますということは、貧困にな
つた経済の
日本のカだけでは、莫大なる
研究費その他を要する点を考慮いたしますと、
日本の力だけではなかなか困難な点があると思うのでありますが、こういう点につきましては、今日の午前中の他の方が恐らく述べられたことと思いますから、詳しくはこの点は申上げませんが、先ほども申上げましたスタツセン、或いはセルゼツトばかりでなく、
アメリカの大多数の、私の数多くある友だちあたりからの発言を総合しますと、
アメリカは
日本の
工業技術能力に大きな信頼と期待とを寄せておりまして、言わばよく言うことですが、
日本を東洋の
技術的中枢、或いは東洋における
工場というような言葉も使
つておるようでありますが、それたらしめようとの期待の下に、今回の
協定締結を機会といたしまして、各種の
技術的
援助を提供しようとしておる。或いはほかの反対の言葉から申しますと、これなしには経済的
援助は勿論、
技術的
援助の提供というようなことも望みにくいんではないか、期待し得ないんではないか、こういうように申してもよろしいかと思うのであります。御承知の
通りに、
協定の
附属書にもこのことが明記されておりまして、即ち「
日本国の
防衛生産の諸
工業に情報を提供し、及びその諸
工業の
技術者の訓練を促進することを、」……「考慮する」とあるのがそれであります。ここには
防衛生産の諸
工業とありますが、これが他の一般の
産業の
技術水準向上に直ちに関連するものでありますことは前に述べた
通りであります。
このほかにもいろいろ述べれば利点が多々あるのでありますが、ただ
一つここに申上げておきたい点は、
MSA関係協定の
一つとして、
投資保証協定があることであります。この
協定は今後
日本国内の経済情勢に重大な変動があ
つた場合に初めて発動されるというものでありますから、当面直接の
効果は期待されないかも知れませんが、
間接的にこれによ
つて対日民間
投資を促進するという
効果が期待されると思うのでありまして、私は実はこれは今度の
協定のうちの思わん拾い物をしたと申しても過言ではないと考えておるくらいなのであります。
日本の経済その他将来のために、先ほど
ちよつと申上げました、今度の
MSA協定に関連する
防衛力というようなものに
関係を持ちます点につきまして、私が欧米を廻
つて参りまして、聞いた点を附加えたいと存じます。これは先ほども
ちよつとこの
協定をや
つておる国は三十カ国くらい現にある、若干の些細な点に相違はありましても、ほぼ同巧異曲とこういうことになりますれば、これはこの
協定にお互いに何らかの利点を考えて
協定したものである、私は政治或いは外交に対しては極めて門外漢ではありますが、常識的にそういうふうに考えますのであります。
それから
防衛力の問題でありますが、特に
一つの国を、極端な国を例証として挙げますと、私が一昨年国際労働会式の帰りにスウエーデンに参りました。あそこは御承知の
通り人口七百五十万、非常に生活の安定しておる代表的と思
つてもいいくらいの国であります。これが直ちに常備軍或いは予備軍が直ちに兵力になります数が七十万と、これは間違いないと思います。私の友達が言
つてくれたのであります。それから喧嘩のできる飛行機が一千機、それでソビエト・ロシアはフインランドまで来ましたけれども、あそこを虎視眈々として狙
つておるのだそうであります。これはあの国の人に聞いたのであります。ところが来るなら来てみたまえということで、あれは鉄、木材、その他非常に資源の大きな国でありますから、どうしてもあそこは未だに……、尤もこれは半面にいわゆるグスタフ・アドルフという王様、これはその当時明治大帝に比較される、或いはこれ以上と言われた名君と言われた人であります。この施政
そのものが非常によか
つたというふうな点もあるでありましよう。あの
国民は実に生活を楽しむ、ソシアルの、いわゆる社会保障制度、厚生問題、こういう問題は羨ましいほどの国で、私が参りまして実は二回目であります。前に
行つたときはまだ若いときであります。国内の事情もそれほどわからなか
つたのであります。今度いろいろ調べてみますと、その生活の豊富であり、安定しておる点は羨ましいと思われるような国であります。絶対に外を侵すことはいたしません。これはしないということをあそこの国是としておるのであります。但しよその国からも侵されない、これは
国民的信念と申しますか、そういうふうに会う人ごとに私は印象付けられたのでありますが、それがそういう
状態にな
つておるという事実をここに申上げたいと思うのであります。
それからゼネラルマツカーサーが戦後
日本は東洋のスイツアーランド、スイス国になる、これはどういう気持で言うたかわかりません。私は今度行きます場合には、あそこは自分の住家にまで
鉄砲とか、そんなものを持たしておる、相当そういう方面は
注意してや
つておるというようなおぼろげな知識を持
つて行つたのであります。向うに参りましてこれは本当に心から自分の認識が狭まか
つたということで驚いたのは、あそこは御承知の
通り人口四百五十万であります。常備軍十五万、予備軍三十五万、直ちに五十万の兵隊ができるのであります。
国民皆兵式であります。五十歳でも毎年何回かの軍事訓練をや
つておるのであります。これは御承知の
通り、永世中立国であります。それでヒツトラーが、あの国の人に聞いたのでありますが、ヒツトラーがイタリーに行くに近道としてあそこを通ることをまさに計画して実行に移さんとしたのであります。この永世中立国のスイスは通るなら通
つてみろ、ただは通さんぞ、
鉄砲をヒツトラーのほうに向けてや
つたために、ここを通ることを変更してフランス側から入
つたんであるということを、これは得意がましくスイス人から伺
つた実話でございます。勿論あそこには天険というような利点もございますのでありますが、とにかくそういう用意をしておるのが現実の姿であります。
それでこれは若干素人論の、まあ経済人の言うことではないかと思いますが、それらの詳しい点は実は私印象記を帰りまして頼まれるまま三十七回、丁度東
ドイツのほうには私は
日本人が入
つた三人目であります。非常に今から考えると乱暴なやり方ではあ
つたのであります。ソビエト領のベルリンに
日本人で三人目に入りました。向うの姿もその当時現実に見ました。その当時
アメリカ側は殆んど絶対に入れない、私し多数の人
たちが向うの情報を聞きたが
つたのでありますが、それから詳しいことはここでは短時間に申上げにくいのであります。若しもら
つて頂ければというふうに考えまして、今
佐藤委員長さんに「羽田から羽田に」という印象記をお渡し願
つたのでありますが、世界の対立というものが若し存在するならば、これはいわゆるユートピアであ
つて、極楽境、こういうようなことであるならば何おか言わんやでありますが、今の現実の姿はそうではない、国際的にも対立をしておる。対立をしておれば自然嫉妬も各国ごとにあり、或いは対立もお互いにあるでしようし、それから憎悪心も出て来ますし、これは現実の姿として或る利度ネグレクトして考えずにおくということはできないのじやないか。
少し例証が適当でないかも知れませんけれども、我々私生活におきましても、これはそのまま国際的に当てはまるかどうか知りませんが、門をや
つている。鍵をかけている、そうして夜寝ます。これはやはり平和を害する者が入
つて来るのを予期しているのでありませんか、万一そういうことがあ
つた場合には入りずらいようにしている。入
つて来たらば、無抵抗主義のガンジーのごとく何らもう抵抗をしないで、泥棒に人のものを理由なしに持
つて行かす。自分の家庭内の平和を荒すというようなものには、こちらが泥棒になるということの考えは毛頭ないとしましても、これをできるだけ取りずらくする。或いは頭の
一つくらいは
防衛のために叩く。甚だ卑近な例証でありますが、
日本の現存する
憲法上からこの
協定が如何ようにあるかという問題は私は政治家でもないし、学者でもありませんから、その理論はわかりませんと言
つたほうがいいか、或いはそれは触れないはうがよろしいかと存じますが、併し世界各国を見て歩いて、その現実の姿は今申上げたようであります。極端な例がこれか
イギリス或いはフランス、イタリー程度のものでありまして、これはみな
協定を結んでおります。その中に反対論者も相当あ
つたことと思います。又そういうふうに聞いております。併しとにかく結果は結んでおります。この政治家は先の見えない、或いは馬鹿の政治家であるとばかりは私は考えられないのであります。
そういう
意味において第一番目の発端に参りますが、この四
協定に対しましては賛成の意を表する次第であります。終ります。