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1954-11-17 第19回国会 衆議院 労働委員会 第44号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年十一月十七日(水曜日)     午前十時四十分開議  出席委員    委員長 赤松  勇君    理事 池田  清君 理事 大橋 武夫君    理事 鈴木 正文君 理事 持永 義夫君    理事 稻葉  修君 理事 多賀谷真稔君    理事 日野 吉夫君       木村 文男君    三浦寅之助君       川崎 秀二君    並木 芳雄君       黒澤 幸一君    島上善五郎君       大西 正道君    辻  文雄君       中村 高一君    中原 健次君  委員外出席者         労働事務官         (労政局長)  中西  實君         参  考  人         (都立大学教         授)      沼田稻次郎君         参  考  人         (東京大学教         授)      有泉  亨君         参  考  人         (国学院大学教         授)      北岡 壽逸君         参  考  人         (日本労働組合         総評議会事務局         長)      高野  實君         参  考  人         (全日本労働組         合会議書記長) 和田 春生君         参  考  人         (東宝映画株式         会社取締役)  馬淵 威雄君         参  考  人         (旭加工株式会         社社長)    三段崎俊吾君         参  考  人         (東京証券取引         所労働組合委員         長)      細谷 節也君         参  考  人         (同法規対策部         長)      鈴木 正一君         参  考  人         (同渉外部員) 野手  豊君         参  考  人         (同渉外部員) 後藤 安明君         参  考  人         (警視総監)  江口見登留君         参  考  人 牛島 壽子君         参  考  人         (全駐留軍労働         組合東京地区成         増支部書記長) 田村 英郎君         参  考  人         (熊本県中小企         業協同組合理         事)      富家  一君         専  門  員 濱口金一郎君     ————————————— 十一月十七日  委員荒木萬壽夫君辞任につき、その補欠として  川崎秀二君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  参考人招致に関する件  失業対策労使関係及び労働基準に関する件     —————————————
  2. 赤松勇

    赤松委員長 これより会議を開きます。  失業対策労使関係及び労働基準に関する件を議題にいたします。  本日は、去る十一月六日、労働次官より各県知事あてに出された「労働関係における不法な実力行使の防止について」という通達に関し、参考人として学識経験者及び利害関係の御出席を求めておるので、これより順次参考人方々の御意見を拝聴いたします。発言の順序等につきましては、委員長に御一任願いたいと思います。  それでは高野實君の御意見を拝聴いたします。
  3. 高野實

    高野参考人 最近の労働争議は、いずれも相当はげしいものを感じます。先ごろの近江絹糸争議にいたしましても、東証ストライキにいたしましても、日鋼室蘭争議にしましても、いまだかつて見なかつたようなはげしい部面がございます。たとえば近江絹糸争議の場合にも、数名の発狂者が出ましたり、自殺者が出たりしております。日鋼室蘭争議の場合にも、一名の自殺者と一名の発狂者が出ております。このようなことは、戦後のはげしい労働運動の中でも、見たことがありませんでした。このことは、労使関係がたいへんに双方威圧的な関係を示しておると思われる一つ事象です。このようなはげしい労使対決が現われて参りました背後には、やはり日本経済がたいへんに悪くなつた、その関係で特に労働者失業に追いやられている、その追いやられている失業に対して労働者がはげしく自己防衛をしている姿だと思います。このようなはげしい自己防衛を余儀なくされているという必要の中からは、むろん労働者の賃金の引上げや労働条件の悪化が伴つておることは申すまでもありません。中小炭鉱労働者が、山の廃休山によつて、すでに失業保険の期限も切れまして、それぞれ自由労働者になつたり、あるいはさまよう労働者になつております。雑誌や新聞でも、娘を売るという時代は過ぎて、妻を売るという問題が新たに取上げられておるほど、それほどの事態炭鉱労働者の間に起つておりますが、同様なことが多かれ少かれ、他の産業の間にも及んでおります。このことが、労働争議をはげしくしているのであります。  私どもは、こういう時期に、吉田政府がこのはげしくなつている労働争議背後にある根本の問題について触れようともしないで、いたずらに法規を改悪しようとする。たとえば労働組合法の示されているもろもろの労働者活動の自由と保護について、その基本的な権利を奪つてしまう、労働組合法公企労法公務員法とをつきまぜて法制を一本化しようという意向をしばしば示している。またストライキそのもの暴力と見る考え方を宣伝をしている。さき労働大臣の談話のごときも、労働組合組織を認めるかわりに、労働者個人々々の権利を認めようとする考え方を主張し、労働組合組織そのもの団結権団体交渉権スト権を否認しようとしている。またはげしい労働運動の中で、しばしば第二組合が発生するのであるが、そのときに第二組合を保護する考え方、第二組合正当性を主張する事業者活動を優位ならしめようとする思想を流布しておるように思われる。われわれはこのような労働大臣見解に、反対をして来ました。特に今度のピケツト・ラインに対する労働省側見解については、全面的にこれに反対せざるを得ない。  私どもは、このピケツト・ラインに対する労働省側見解は、特定目的のもとに特定見解を明らかにして、労働運動圧迫し、経営者に有利な条件を与えようとする意図にほかならないと思う。特に、この労働省見解次官通達の形で発表した意図は、このような労働次官通牒という形で既成事実をつくり上げようとする、直接の効果を上げようとする、その上に法規の改悪をねらう。この通牒をもつて労働組合活動を衰退させたり、組織を破壊させたりする意図を含んでおるように思われる。国会の審議を経ないで、このような見解を公表して労働運動の制限を行い、組織を破壊し、経営者に有利ならしめようとする意図を含んでおるように思われる。われわれは、そういう意味ではげしくこの労働大臣見解に批判を加え、反対をするものです。  また、この通牒の発せられた直接の動機は、全駐労の朝霞ピケツト・ラインに関する事件をめぐつて、第八軍から日本政府ピケツト・ラインに対する見解をただされたと言われている。さらに日本経済をゆるがす東京証券ストライキにあたつて周章狼狽し、労働大臣ピケツト・ラインに対する見解を発表せざるを得なかつたとも聞いている。われわれはこのような労働省のやり方に、強く反対意思を表明する。また近江絹糸争議にあたつても、朝霞ストライキにしても、日鋼室蘭争議にしても、東証の二十四時間ストライキに際しても、直接国家権力介入したのではないかと思われる数々の事件が起つている。そうして今度の次官通牒背後には、これらの既成事実の上に立つて、幾つかの見解が明らかにされたと思われる節々がある。われわれはこれらの争議の中に起つた官憲干渉に対して、それを違法とし、これを糾弾しないわけには行かない。  たとえば朝霞事件にしても、明らかに午後四時ごろ、兵隊が運転した軍用トラツク日本人を乗せて除行して来た。このときに、説得隊は軍の除行停止を求めるとともに、積極的に集団的な説得を試みたが、境界線内に立つていたMPは、境界線を乗り越えて道路の中央まで突進し、説得隊員に対して手にしていたこん棒を振つてなぐる、突くの暴挙に出た。事件はこのようにしてピケツト隊集団的な説得最中に、奧山、関根両氏を頭部に負傷させ、女子を含めて数名の負傷者を出すという事件が起つた。このようなピケツト・ラインに対する軍の暴力に対し、われわれは承服することができない。このような暴力を事実上承認させよう、これを合法化そうとすることが、この次官通牒の中によく現われている。  日鋼室蘭ストライキにあつても、会社側の半製品搬出を申し出たその前後に、すでに六百名に余る官憲工場内に潜入し、製品搬出を手伝うという有様だつた。この数百名に上る武装警官に包囲されたまま、争議団は五日五晩波止場にがんばらなければならなかつた。その間にいわゆる第二組合青色集団が発生したのです。われはこのような官憲干渉に対して反対をする。その後も引続いて、しばしば第二組合工場内への潜入の際に、武装警官ピケツト・ラインの突破のために使われた。このようにしてピケツト・ラインが事実上国家権力介入によつて破壊されている。もしこのような官権の干渉がなければ、このピケツト・ラインは、実に静粛な堂々たるものであつたろうが、これがしばしば官憲介入によつて破壊され、そこに紛事が起きた。ピケツト・ラインそのものが、暴力的なあるいは破壊的なものではなくて、官憲介入によつて修羅場が現出したのだ。われわれはこういう事象を是認するような労働次官通牒の精神に反対をする。  東証ストの場合にも、同様に、腕を組んだピケツト・ラインは、何ら暴力的な態度をとつたものではなかつた。しかし、官憲は棒を振い、棒をつつ込み、暴力をもつてピケツト・ラインを襲つた東証従業員ピケツト・ラインは、むろん腕を組んだまま何らの暴力を振わなわつた、この事象を見ても、ピケツト・ラインが、あたかも暴力の根源であるごとく主張しているが、われわれは、暴力を振つたのは官憲であつて争議団員ではなかつた、このことを強く主張したい。  近江絹糸の場合にも、官憲は半製品搬出について、しばしば経営者側のお手伝いをした。たとえば彦根工場でも、夜半十数人の警察官が製品搬出にお手伝いをした事実があるが、このような事件をめぐつて、初めて血なまぐさい事件が起つている。これを見ても、今度の次官通牒の中で、ピケツト・ラインそのもの暴力的な性格を持つているように主張しているのは誤りである。  大体、ストライキが起つて争議団が必要とあれば、スクラムを組み、集団的な自衛の道を講ずることは当然である。われわれは労働組合法によつて団結権を認められ、争議団そのもの集団性があつて集団的な行為の上に、初めて労働条件維持改善を期することができるのだから、ピケツト・ラインをしくという場合に、これが集団行為となる。そこで、まあ大衆的な威力が多かれ少かれ発揮されて、初めて効果がある。われわれが平和的説得を主張するにしても、それは当然集団的な平和説得であつて、一人々々裏切者や、いわゆる第三者と称する者が逐次殺到するものではなくて、組織された第三者集団が襲つて来ることが多いのだ。それならば、われわれはピケツト・ラインをしいて、集団的な説得をしないわけには行かない。この行為は当然の行為として認めらるべきものだ。特に先刻申し上げた朝霞事件のように、米軍集団的に襲つて来る、あるいは横浜港湾第二の事件のように、しばしば暴力団を雇つて襲いかかつて来る、こういう場合にも、緊急避難的な性格を帯びたピケツト・ライン対決が起ることは当然である。われわれは、こういうピケツト・ラインの持つている性格からかんがみて、当然なすべき労働組合活動を行つて来たのであつて、決して暴力的な、あるいは威迫的な活動を試みたものではなかつた。しかし労働次官通牒に見れば、ピケツト・ラインそのものが、多かれ少かれ破壊的な、暴力的なものと認定する危険があるし、これを口実にして官憲介入合法化そうとする意図が明らかである。  ピケ闘争体形は、当然事業者側の出方によつて対応性を持つているはずだ。だから、この対応性は、結局官憲介入という事態の中では、もつとはげしいものになるだろう。これもまたやむを得ない事柄であると考えなければならない。われわれは、労使対決の下で、官憲介入をすれば、それだけ争議事態はよくなるのではなくて、悪化するものと考えざるを得ない。こういう事実にかんがみて、労働次官通牒官憲介入合法化しようとする内容があるので、これには承服できない。  通牒の中では、しばしば第三者という言葉使つて第三者が当然業務執行について権利があるように主張しているが、われわれは広い意味ストライキ関係のない第三者一つもないと考える。さき三越デパートストライキの場合などでは、しばしば第三者の入場を阻止するピケツト・ラインに対して、官憲干渉が行われた。しかし、この場合に第三者と呼ばれるものは、問屋の職人はりつぱに商品を扱う能力を持ち、従業者と何のかわりがないとすれば、この第三者を防禦しようとするピケツト・ラインは、労働運動における正当な行為考えないわけには行かない。もしこれをしないならば、この争議団は当然敗れてしまうからだ。東証ストの場合にも、多数の第三者が押しかけたが、そのうちどの人が実際に第三者の地位を持つているかは明らかでなかつた。その明らかでないものを判別するためには、全部を入場させないようにする以外には方法がなかつた。われわれのピケツト・ラインが、そういう意味で、がんこにいわゆる第三者であろうともこれを拒否したのだ。これが正当な労働行為争議と称されなければならない。しかし労働次官通牒では、このような意味第三者を一人々々判別し、第三者の入ることを許容するようにと主張しているが、そのような操作は、とうてい集団的なピケツト・ラインと、集団的な第三者との間で行われるものではない。われわれはストライキ目的を達成するために、集団的なピケツト・ラインをしき、集団的な平和的説得をする以外に方法がない。  業務妨害についてしばしば主張しているが、東証の場合を見ても、ピケツト・ライン張つていたときに、場内で何か業務をしていたか、そんなことはない。それならば、業務妨害はなかつたではないか。われわれは業務妨害が起つている事実についてこれを知らない。ストライキというものは、多かれ少かれ業務が休止されることをねらつてストライキを企図しているのだ。そういう意味ストライキが法律で認められているのだから、東証ストの場合にも、ピケツト・ライン張つて第三者を入れない。このことが場内で何事も業務を行つていなかつたという事実とあわせて、業務妨害となるわけはない。  次官通牒の中には、しばしばこのようなピケツト・ライン活動が、外部から指導されているのではないかという考え方が含まつているように思われる。しかし東証ストの二十四時間のピケツト・ラインの場合にも、この長い時間を、争議団員の合意があればこそピケツト・ラインが張られたので、特定の誘発や扇動によつて行われたものでないことは明らかだ。日鋼室蘭ストライキの場合にも、百五十日にわたる頑強なストライキの中で、家族を含めて三千人、五千人、一万人に達する強大なピケツト・ラインが、特定意図を持つた特定の人々によつて誘発されたり、扇動されているわけはない。われわれのピケツト・ラインは、法にいうところの組合活動の自由の中で、十分に組織さるべきものと思つているし、さようなピケツト・ラインが実際に行われていいものだと思う。もしこのピケツト・ラインが、暴力的な違法的な性格を持つているのではないかという疑いを受ける節々があるとすれば、それはいつでも官憲介入を見たときである。  特に、日本労働組合組織は、企業別労働組合である。企業別労働組合である以上は、多くの熟練工の裏切り団が可能な条件を持つている。特に厖大な飢えたる無数の失業者をかかえてストライキをやるという現状からすれば、ストライキの場合にピケツト・ラインがんこにしかざるを得ない。もし日本労働組合が、ヨーロツパの労働組合のように、文字通りの産業別労働組合組織され、労働市場が独占されるという状態になれば、今日のようなピケツト・ラインは多分しかないだろう。三十五年にワグナー法がしかれ、これによつて労働組合が急速に発展したあとでは、ほとんどピケツト・ラインの必要がなかつた。イギリスの労働運動においても、フランスの労働運動においても、ドイツの労働運動においても、必ずしも日本におけるようにピケツト・ラインが必要でなかつた。またはげしく労使対立をやつたところで、ピケツト・ラインをしかれた場合にも、日本のような激突が起つたことが少いようである。日本労働組合の発達のこの段階では、ピケツト・ラインは自由に組織されなければならないし、それから起る多くの紛争も、この社会条件の当然の事柄として承認をされなければならない。しかるに、ピケツト・ラインめぐつてしばしば検束者を見、取調べを受けている者が相当数に上つている。その取調べにおいてしばしば特高的な取調べを受け、思想調査を受けているのではないかという疑いがある。このような事件もまた労働組合組織そのものを否認し、労働組合法その他多くの労働法を否認し、労働組合活動圧迫するものだと考えないわけに行かないが、このような圧迫が今度の労働次官通牒めぐつてますますはげしくなる傾向にあるのではないかと思う。われわれはそういう意味で今度の労働次官通牒には反対する、これが実際上地方々々において一つ一つ争議団において逐次既成事実として取締られるということがあるならば、われわれは一つ一つこれに対してはげしく反対をするだろう。またこの労働委員会においても、また来るべき国会においても、この労働次官通牒に対して、総力をあげて反対をしたいと思う。  以上、見解を披瀝いたしました。
  4. 赤松勇

    赤松委員長 高野参考人に対する質疑を許します。質疑はありませんか。
  5. 大橋武夫

    大橋(武)委員 ただいま高野参考人の御意見はよくわかりましたが、その中で一つだけ伺つておきたいと思うことは、高野さんから仰せられたお言葉の中で、次官通達が、ピケラインそのもの暴力的なものであるように述べておるが、この点は誤りではないか、こういうお言葉ちよつと伺つたように思うのでございますが、それは通牒のどの点であつたか、御指摘をいただければ仕合せでございます。
  6. 高野實

    高野参考人 この通牒の全文は、断定的な言葉を避けております。全体として、平和的説得を必要とするピケツト・ラインを認めながら、現実には、ピケツト・ラインの敷かれた場合に、官憲介入をする。こういう中で、事実上このピケツト・ライン暴力的なピケツト・ラインに転化しておる、こういうように立証しようとする意図が含まれておると主張したのです。
  7. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、この通牒そのもの動機あるいは意図についてのお考えで、通牒の中の文句、ここがそれに該当するというわけではないということですね。
  8. 赤松勇

    赤松委員長 ほかに御質疑はありませんか。——なければ、参考人はみなお忙しゆうございますから、一人々々に質疑をしていただきます。高野さん御苦労様でございました。  次は北岡参考人にお願いいたします。
  9. 馬淵威雄

    馬淵参考人 ちよつと委員長に申し上げます。私使用者側馬淵ですが、時間の関係で、もしも北岡さんにお時間を繰合せていただければ……。
  10. 赤松勇

    赤松委員長 それでは北岡さんよろしゆうございますか。——では、お忙しいようですから、先に馬淵参考人東宝映画株式会社取締役です。
  11. 馬淵威雄

    馬淵参考人 それでは私のかつてなことで、時間を早めていただきまして……。
  12. 赤松勇

    赤松委員長 ちよつと待つてください。実は委員の中から参考人に対する質疑と同時に、政府当局に対する質疑もあるというので、政府出席を求められておるわけです。それで労働大臣は、皆さんや私の了解を得まして、本日は他の方の会合に出席させてもらいたいということで、委員会は了承を与えて労働大臣の欠席を認めたわけですが、労働大臣出席しませんと、当然政務次官が来なければならぬ。政務次官も来ていない、それから労政局長も来ていない。これは非常な怠慢だと思う。先ほど来しばしばあれしたのですけれども法規課長がここに来ておる。これは労働省自身が、この問題につきまして非常に軽く扱おうとしているか、あるいは委員会で問題になろうとすることを恐れているのか、そういう印象を受けているわけです。委員会としましては、今日は特に各方面の御出席を求めまして貴重なる御意見を拝聴するのでございますから、当然行政府といたしましても、その各界の意見を十分お聞きして、そうして今後の行政の資料にして行くということが私は礼儀だと思う。しかるに、法規課長一人出席させておいて、政務次官労政局長出席しないということは、委員会を侮辱するものだと思う。また参考人に対するところの礼を欠くものだと思います。何度も私が要求しているのだが、すぐ中西君に出席するようにしてください。どうしても出席しなければ、委員会としましては別に考えがございますから、出席できない理由——、先ほどは五分以内に出席する、こういうことだつた。もう三十分以上たつておる。政府の都合で委員会を三十分も遅らせておる。  それではどうぞ。
  13. 馬淵威雄

    馬淵参考人 それでは私から、参考人といたしまして、今回の次官通牒に関しまして意見を申し上げます。  わが国の労働運動が、終戦後急激に発達いたしまして、また労使間の争議に対するルールというようなものが確定いたしておりませんために、ともすれば、争議が非常に暴力的な個人の自由を束縛し、あるいはまたそれに暴行、危害あるいは騒擾、破壊を加えるというような傾向が発生しがちでございます。このことは、もうすでに申し上げるまでもなく、随所に起つておる事実でございます。  かつて私が経験いたしました一つの例を申し上げましても、私は東宝一役員でございますが、昭和二十三年の争議、あるいはまた二十五年の争議におきまして、われわれが受けました労働組合側からの暴行は、当時すでにいろいろと批判されましたが、相当なものがあつたのであります。たとえば、私が一人で、こちら側が団体交渉をいたします場合に、数十名あるいは百名にも上るような大勢の方々と、一つの部屋でお話をいたしますが、それはすでに団体交渉の形を越えて、あらゆる罵詈讒謗を加える。そうして、私の意思をひん曲げて、できるだけ組合側の有利な方へ持つて行こうというふうな束縛や圧迫を加えて来たということがございました。あるいはまた、仮処分が決定いたしましても、それに対して執行吏執行実力をもつて妨害するというふうなこともしばしばあつたのであります。  それで、最近になりまして、さらに組合側ピケツテイングの手段によりまして、一定の限界を越えたピケを張ることによりまして、非常な実力行使を行うというふうなことが、最近しばしば起つております。たとえば、私の経験いたしました、あるいは関係いたしましたことの中でも、三越争議あるいは最近の東証争議におきましても、そういう事例が起つております。三越の場合におきましては、組合側ピケ張つて、そのために出入り商人が入つて来られない、あるいはまた、たとえば、きようは結婚のための品物をとりに来なければならぬというふうなお客があつたり、あるいはまた、どうしてもそこで必要なものを買いととのえなければならぬ、あるいはまた受取りに来なければならぬというふうなことがあつたにもかかわらず、全部それを阻止して、何にも争議関係のない第三者が非常な迷惑をこうむられたというふうなことが出て来ております。これはわれわれから見まして、非常なピケの限界を越えたものであるとわれわれは認定したのでありますが、当時地方裁判所におきましても、それに対してピケの行き過ぎを是正するというふうな法的な判決が出ております。  また伺いますれば、日鋼の室蘭の争議におきましても、多数の使用者側方々はもちろんのこと、その家族、あるいはまたその争議反対する側の従業員に対して、非常な暴行圧迫が加えられておるということを、新聞その他で見聞いたしまするが、これらはすべて一定の争議行為のルールを逸脱したものとわれわれは解釈せざるを得ないのであります。と申しますのは、私どもは法律家でございませんから、法理論は詳しくは存じませんが、争議行為というものは、本来労働者が持つておる労働の提供を拒否しまして、自由に自分の労働を市場に売り買いできるにかかわらず、その労働を拒否いたしまして、そのことによつて労働を買おうとする使用者側に苦痛を与える、そしてその苦痛によつて取引をして行くうというのが、争議行為の本来の目的であろうと思うのであります。この争議行為を完全ならしめるために、第三者あるいはまた使用者に対して必要以上の圧迫を加える、あるいはまた自由を制限するということのためにピケを張るということは、これはどう考えても、われわれとしましては行き過ぎであるというふうに考えざるを得ないのであります。  詳しいことは存じませんが、諸外国の例を見ましても、ピケの限界は、裏切り者を出さないように、あるいはまた団結権を保持するために必要な程度の平和的な説得、あるいはプラカードをさげてその争議の必然性、正当性を主張する、それもできる限り平和なうちにそれを行うということが、ピケの限界であるというふうに伺つております。あるいはまたアメリカにおきましては、説得する方法にしても、三人以上が寄つてたかつて一人の人間に対して労働の拒否を説得する、しかしながら相手方がどうしてもそれに応じない場合には、それ以上の圧迫を加えたりあるいは暴行を加えたりすることは争議の行き過ぎである、あるいはピケの行き過ぎであるというふうに解釈せられておるように聞いております。これは申すまでもなく、民主主義の立場が各人の自由を尊重し、個人の自由の尊厳の上に民主主義が組み立てられておるということから見まして、争議あるいは労働問題も、すべてこういう民主主義の立場の上に立つておる以上は、相手がどうしてもいやだというものを暴力で押えつけたり、これに対して必要以上の圧迫を加えて、むりやりにその人間の意思をひん曲げるというふうなことが、民主主義のルールに沿わないことは確かであろうと私は信ずるのであります。  ところが、わが国の労働組合法の第一条第二項にいわゆる刑法の免責規定がありまして、刑法第三十五条を適用するということになつておりまするために、何らか労働争議というものをやつた場合に、争議行為の中に刑事上の広汎な免責規定があるかのごとく考えられて、人を一人ぐらいなぐつても、あるいはまた個人の自由な意思を束縛しても、それは刑法上罪にならないのだ、しかしてそれは憲法に認められた団結権を守るためには正当であるのだというような考え方が出て来るのかと思いますけれども、この刑法の免責規定というのは、申すまでもなく社会通念上なされる行為が免責になるという意味合いであろうと私は考えます。たとえば、団体交渉をするという場合に、集団でもつて、あるいは数人でもつて経営者側と話をしようといつてつて来るということは、免責規定がなければ、あるいは面会強要というようなことになりかねないところを、これは団結権に基くところの団体交渉権であるから刑法上の免責をするのであるというふうな程度でありまして、それ以上の暴行暴力を加えて団体交渉をするというようなことまでこの中に含まれておるとは、どうしても解釈されないのであります。従つて、その但書のところにも、暴力をもつてすることは云々とありまして、暴力行為を否定するように労働組合法の第一条にも書いてある通りでございます。  なぜこのように事柄がはつきりしておるにかかわらず、労働争議に関し、あるいは争議行為に関してのみ暴行がある意味で許されるようになつて来たかということを考えてみますと、これは一つは、法の不備があつたと思います。それから労使がお互いの立場を尊重し合つて一定の取引をして行こうという争議のルールが、慣行的に確立しておらないということが第二番目、第三番目には、先ほど来高野さんの御意見を拝聴しておりましても、ともすれば団結権があるのじやないか、あるいはわれわれには争議権があるじやないかというような団結権の議論から出発されまして、これがすべてのものに優越する、すべてのものに先がけて主張されるものであるというふうなお考えから出発されまして、わが国の持つておる法体系に占める市民法的な立場、あるいは財産権の保護あるいは個人の言論の自由、そういつたような市民法的な解釈が少しもなされないで、団結権のみが優先しておるというふうな感じを受けるのであります。たとえば罷業権にいたしましても、なるほど、これは先ほど申しましたように、労働者が自分の労働を拒否する、その事柄によつて相手に打撃を与えるのでありますが、その場合、たとえば使用者はそれで黙つていなければならないかといえば、使用者としてはあくまでも営業を続ける、あるいは自己の信ずる範囲内において業務執行して行くということは使用者の自由でありまして、これをしも使用者は業務をしてはならない、あるいはまた市場との取引をなしてはならないというような結論は絶対に出て来ない。ところが、それを一方の理論から申しますと、団結権の侵害になるからしてやめてくれろ、こういうことになるのかと思いますけれども、そこまで団結権がこの法体系の中で大きな幅を占めているものとは、われわれは考えられないのでございます。従つてピケを張りまして、使用者が自分の管理しておる自分の事業場に入ることができない、あるいは必要欠くべからざる、ストライキが行われておる間の当然の社会に対する義務を果すべく執行しなければならない業務まで、ピケによつて、あるいはピケ暴力性によつて遂行できないというようなことまで是認することは、われわれとしましては承服しかねるのでございます。  ところが、先ほど来伺つておりましても、なるほど諸外国においてはそういうことが守られるかもしれないけれども、わが国においては労使対等の立場がないからそういうことができないのである。諸外国のような労使対等の力が労働側にあるならば、ピケも静かになるでしようというお話がございましたけれども、それを詳しく申しますと、日本組合は企業別組合であつて、クラフト・ユニオンができ上つておらない、あるいはまた第二組合の発生がありがちであるというふうなことから、あるいはまた使用者側がそれを広汎な失業市場から、いわゆる労務の代替員を呼んで来て作業させるというふうなことがありがちであるから、どうしてもピケ暴力化せざをを得ない。従つて暴力とは申されませんでしたが、強いピケツト・ラインの存在が、団結権を守る上において必要なんだというふうなお話がございました。あるいはそういうことがあるかもしれませんけれども、その理由のゆえをもつてピケツト・ライン暴力を伴つてよろしいのであるというふうな解釈は、われわれとしては承認しかねるのでございます。われわれはあくまでも労使関係における暴力は否定して、そうして一定のルールに立つた争議行為によつて一つの解決を得て行きたいというふうに考えておるのでございます。  それから、先ほど、こういうピケツト・ラインを張らなければ、労働組合は負けるじやないかというふうなお話がございましたけれども争議をかけられて苦痛を感ずるのは、まつた経営者側でございまして、やはり労働側の方が強いのが普通でございます。決して経営者側が有利でもなんでもないのであります。たとえば、第三者と申しますか、争議団以外の人を雇い入れて操業を続けるというようなことが、簡単にできるじやないかというふうに仰せられるかもしれませんけれども、実際問題として、そんなに熟練工がたくさんおるわけでもございませんし、また、たとい熟練工がおつたといたしましても、なれない場所へ急にやつて来て仕事をさせるというふうな場合に、それが普通の状況においてやつたと同じような効果は絶対に発揮できない。非常な事務の停滞あるいはまた生産の停滞が起ることは確実でございまして、必ずしも第三者を雇い入れたために、普通の状態がすぐに現出するというふうには考えられないのであります。かりにそういう状態ができ得るとしましても、労働協約によつて、そういう第三者の雇入れをしないというふうにきめていない以上、経営者側が任意な意思によりましてそういうことをやるということは、いたし方のないことではないかとわれわれは考えております。その場合に、それを第三者が自分が働こうと思つておるものを、暴力でもつてピケを強化してそれを追い出してしまうというふうなところまでピケの力を認めるかどうかということについて、われわれは非常に大きな疑問を持つておるのでございます。  ところで、そういうふうな観点から、今度の労働次官通牒を拝見いたしますと、われわれといたしましては、この程度の見解だけでは、まだまだ不十分なものが感ぜられるのであります。たとえば次官通牒の第八というところに「相手方の違法行為等に対する対抗的行為」というところがございまして、使用者側が「協約等の違反行為をなす場合、例えば、代替行員雇入禁止条項違反、争議不参加要員協定違反等の場合には、それに対応する必要最小限度において対抗的手段を講ずることが正当化される場合がある。」というふうなことが書いてございまして、どういうことを意味されるのか、われわれにはわからないのであります。片方が違反したならば、片方も多少は違反してもいいのだというふうなことがうかがわれるような文句がございます。もつとも、そのうしろの方で、それにしても暴力はいかぬとは書いてございますけれども、何か違反に報いるに違反をもつてしてもいいのだというふうな印象は、われわれとしてはいささかどうかと思うのであります。もちろん、使用者側がこういうふうな協定違反を犯すというふうなことは、まことによくないことでありまして、厳にわれわれは慎んで行きますけれども、たといこういう場合が起りましても、これは他の法律をもつて対抗すべきであつて、違反があつたから違反をしてもいいのだというふうな意味にこれが解されることは、われわれとしては賛成いたしかねるのであります。  また次官通牒全体を拝見いたしますと、しきりに使用者であるとか、あるいは第三者であるとか、あるいはまた作業をとつてかわるいわゆる代替要員であるとかいうふうに区別して、いろいろとそれに対して軽い重いをつけておられるような印象を受けますが、われわれの考え方からしますと、ピケそのものは、使用者に対するとか、あるいは第三者に対するとかいうふうな、相手方によつて軽重がきめられるのじやなくして、ピケツトというものは、要するに先ほど申しましたように、平和的な説得をする、そして争議破りが出て参りましたときに、これに対してできるだけ平和のうちに話をするというだけのことであつて、相手方が経営者の場合にはこの程度のことをしてもいいのだ、あるいは代替要員の場合、つまりスト破りのときにはある程度ひどいことをやつてもいいのだ、あるいはこの場合にはこうだといつたような軽重があるべきものであろうかという点につきましては、これは私個人見解でございますけれども、必ずしも賛成をいたしかねるのであります。その理由は、先ほど来申しておりましたように、われわれが持つておる民主的な法体系全体のバランスから見て、そういうことが言えるのじやないかというふうに考えております。  はなはだ簡単でございますけれども参考人としましての所見の一端を申し上げて、御参考に供した次第であります。
  14. 赤松勇

    赤松委員長 馬淵参考人に対する御質問はございませんか。
  15. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 参考人意見から、二、三点事実についてお伺いいたします。  まず三越争議の場合に、あのピケは行き過ぎであつたというような東京地方裁判所の判決があつたやに聞くわけですが、そういうことは事実でごさいまましようか。私の知るところによりますと、あれは検察庁でも起訴猶予をしております。それで裁判所にそのこと自体はかかつていないと思いますが、その点についての見解をお述べ願います。  それからもう一つ、事実関係についてでありますが、結婚衣裳をとりに行つて拒否されて、もらえなかつた、こういうことを聞いたわけです。あるいは間違いかもしれませんが、私が聞いたところによりますと、その結婚衣裳等のものは、中に入れて渡したということですが、その点について、事実関係ですから、はつきりしてもらいたいと思います。
  16. 馬淵威雄

    馬淵参考人 第一の、三越の地方裁判所の判決というものは、日にちは忘れましたが、これは確かに出ております。  それから、結婚の衣裳がとれなかつたというふうに申した覚えはないので、そういう結婚の衣裳をとらなければならぬのでお客が非常に困つたとか、あるいはまた、その日あそこの中に場所を借りまして、何でございましたかわりませんでしたが、何とかの会というのを開催するはずのものが、入れなかつたために、会がとうとう開催できなかつたとかいうふうな事例のあつたことは事実でございます。あるいは、今御質問のように、結婚の衣裳はとれたかもしれませんが、非常に困られたという話は、私は確かに聞きましたから、その点だけを申し上げておきます。
  17. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 先ほどの高野参考人意見に対する反駁として——反駁とも言い得ないのですが、高野さんは、日本組合は企業別組合であり、産業組合でないので、労働市場の独占という点を行つてないのが一つの原因である、こういうようににおつしやつた。このことに対して、現在の経営者の方は、むしろ企業別組合を主張して、産業組合集団交渉というのを拒否する態度に出ておる。また、かつて産業別の労働組合集団交渉が慣行として樹立されておつたところも、最近は企業別組合の個々の交渉にゆだねんとしておる。こういうことでも、相当の大きな波瀾を見ておるわけですが、これに対する参考人意見を承りたいと思います。
  18. 馬淵威雄

    馬淵参考人 これは私別に用意して来ておりませんので、組合そのものの労働組織が、企業別がいいのか、あるいは産業別がいいのかということにつきましては、私個人としては多少の意見は持つておりますけれども——ここでそれを申し上げなければならぬのですか。
  19. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 あなたの意見を聞きたい。申されなければ、申されなくてもけつこうです。
  20. 馬淵威雄

    馬淵参考人 長い将来から言えば、やはりドイツあたりのような、ああいう産業組織がしつかりできておりますし、あるいは英米のクラフト・ユニオンのしつかりしたものができておりますので、まことにけつこうだと思いますが、今の日本の現状から見まして、向うの組合がすべてトレード・ユニオン、あるいは一つ経済団体としてその範囲の中で動いておるのに反して、日本労働組合運動が一般的に非常に政治的要素を帯びておりまして、経済要求の裏に常に政治的要求というものがひそんでおる場合に、ただちに産業別、あるいは積み重ねられた組織の上位団体と絶えず経営者対決して行くことがいいかどうかということにつきましては、私は現在では非常な疑問を感じております。これは私の個人意見でございます。
  21. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 今の点について、さらにお聞きしたいのですが、あまりお答えしたくないような意向でありますので、この点についてはやめますけれども、実は同じピケの問題でも、なぜそういうことが起きたかという点が、われわれとして聞きたいのです。高野さんの方からは、やはりあなたと同じように、外国ではこういうはげしいピケはあまり見られないというお話で、こういう意見につきましては両者同じであります。そうしますと、どうしてこういうような強いピケツトというもの、またそれに伴う紛糾が起きておるのか、こういう点をわれわれとしては究明したい。それがためには、高野参考人の方から、一つの事例として、実は日本のは企業別組合であつて産業組合でない、こういうところに大きな原因があるということを指摘されたものですから、私としても、ぜひその点について経営者の意向を承りたいと考えたわけでございます。今の労働組合には政治的要素があるからということでありましたが、私はそういうこととは関係がなく、むしろ現在の経営者は、産業別労働組合をきらつて企業別労働組合に移そうとしておる。比較的労働条件が似通い、経営が似通いました例の電気産業の形態におきましても、やはり、九分割されたために、全部交渉を別々にしたい、こういうところであの長い争議が起きたわけであります。今また炭労でも、産業別労働組合の交渉団体を拒否して争議が行われておる。こういうことで、これも現在の労使対立一つの大きな課題になつておるわけですのでお聞きしたわけですが、あまり答えたくないようでありますので、あえてお聞きいたしません。
  22. 島上善五郎

    ○島上委員 それでは簡単にお伺いいたしますが、次官通牒に対する質問は別といたしまして、私どもも、もちろんピケツト・ライン暴力があつてもいいということを肯定しておるわけではない。しかしながら、ピケツト・ラインは、単に平和的に説得するというだけではなしに、団結の威力を誇示するという要素を持つておる。その団結の威力を誇示するために、スクラムを組むということが必要な場合が往々にしてあるわけです。私どもは、スクラムを組んでおるということ——あるいは次官通牒では、厳重なスクラムはいかぬ、こういうふうに言つて、ゆるやかなスクラムがいいということになると思うのですが、その解釈は、厳重であるかゆるやかであるかは別として、私どもはスクラムを組む必要がある場合がしばしばあると思う。それからまた、これは個々のケースによつて定まるのですけれども集団的な説得をしなければならぬという場合も、しばしばあると思います。あなたは、集団的な説得をするということ、あるいはスクラムを組むということを否定なさるかどうか、あるいはそういうこと自体と暴力というふうにみなしておるかどうか。私はそうではないと思いますけれども、最近、たとえば東証争議でも、あるいは日鋼室蘭争議でも暴力化した、こう言つておりますけれどもストライキ団がスクラムを組んでおること自体は、何も暴力ではない。むしろこれに対して警察官が暴力的に襲いかかつて、スクラムを組んである争議団員を負傷させておるのです。私はむしろ、あれを暴力だと言うならば、警察官こそが暴力行使したのであつて、あるいはそれによつて多少のトラブルも発生したかもしれなませんけれども、その挑発、あるいは原因というものは、むしろ警察官側にあると、こう見なけれどならぬのではないかと思うのす。東証あるいは日鋼室蘭のそういうような組合が、平和的にスクラムを組んでおつた事実、あるいる集団的な説得をしようとした態勢、そういうものをあなたは否定されておるかどうか、あるいはそういうものを暴力というふうに御解釈なされてるかどうかという点を、ひとつ承りたいと思います。
  23. 馬淵威雄

    馬淵参考人 今島上先生のお話でございますが、大体最近の傾向で、私どもが存じておりますのは、大体争議になると、まずはち巻をする、そうしてピケツト・ラインをつくる。そうしてスクラムを組む、インターナシヨナルを高唱するというふうなことになつておるようでございますが、これはどういうことを意味されておやりになるのかは別としまして、これが少しでも行き過ぎると、明らかに経営者の方に非常な脅迫あるいは威嚇の念を催させる。あるいはそばへ近寄つてつた何も争議関係のない第三者、あるいは取引先あるいはまたお客様というふうなものが、そのために個人の自由の意思が直接間接に圧迫されて用が足せないというふうなことが出て参ります。これはもしもそういうことを目的におやりになるんだということであれば、そこに多少の、私はやはり行過ぎがあるんじやないかというふうに考えますが、それは労働省側はどういうふうにお考えになつておるかわかりません。私個人としては、争議が始まつたら、すぐ白はち巻をする必要もなければ、あるいは団結権の誇示をするために、スクラムを組んでインターナシヨナルを人前でわいわい歌つておれる必要もないだろうというふうに思います。しかしながら、今の日本労働運動の現状から見て、そうでもしていなければ組合員の団結が乱れる、だから、絶えずそういうふうな緊張した団結の中に組合員を入れて、そうして歌を歌い、あるいははち巻をするというふうなことで、力をつけ合つて団結を守つて行こうということが、どうしても現状必要だというようなことは、あるいはそうであるかもしれません。しかしながら、それが一歩進むと、やはりそこにいろいろな伏在した問題が出て来るのじやないかと私は考えます。しかしそれ以上の法解釈は、私にはわかりません。
  24. 赤松勇

    赤松委員長 ちよつと参考人、失礼ですが、島上君はそういうことを聞いているのではなくて、スクラムを組むことが暴力であるのかないのか、あなたの見解はどうか。それからスクラムを組むときに、警察官が往々暴力的な行動に出る、それに対しては参考人としてどういうお考えを持つておられますか、こういう御質問なんです。その点触れておられませんので、重ねて……、
  25. 馬淵威雄

    馬淵参考人 これはここに次官通牒が出ておりまして、その点について私は触れなかつたのですが、おおむね次官通牒に書いてある程度でいいんじやないかと思うのです。
  26. 島上善五郎

    ○島上委員 それでは、私の最初の質問に対する答弁はそれでいいとして、今の御答弁の中で、驚くべき御意見を拝聴したわけです。最近の争議が、すぐはち巻をしたり、スクラムを組んだり、歌を歌つたり、こういうことが直接間接に経営者、使用者並びに第三者圧迫を加え、あるいは脅威を加える、それが行過ぎの原因になつておるというような御意見でした。使用者側にとつては、お気に召さぬかもしれませんけれども、これはストライキになるということ自体が、すでに労使の正密な状態ではないのですから、はち巻をし、スクラムを組み、インターを歌うということは、労働組合が必要であつて自主的にやることでありまして、そういうこと自体が、お気に召さぬからといつて、間接に脅威を加え、圧迫を加えるから、それが行過ぎの原因である、あるいはそれ自体が行き過ぎであるという御意見は、これは、質問ではありませんが、少くとも今の労働組合の実態に対しては、はなはだ即しない使用者側の一方的な御意見ではないか、私は非常に遺憾に思います。これは別に御答弁はいりません。
  27. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 島上委員の御質問に関連するのですが、労働組合ストライキを行うことは、申し上げるまでもなく、業務の正常な運営を阻害するためにやる行為であります。そのためにピケ・ラインを張りまして、正常な業務を行おうとする者の出入を阻止する、そのために団結の威力、集団の威力によつて説得するということは、これは法律上さしつかえないと思うのでありますが、その点どういうふうにお考えになりますか。
  28. 馬淵威雄

    馬淵参考人 ピケ張つて、できる限り説得をして、そうして外に協力を求めるということは、ピケ本来の趣旨でありましようから、それはいいと思います。ただ、暴力が伴つて暴力を用いてまで説得に応じない者の出入を拒否するというふうなことは、これは次官通牒にもありますように、行き過ぎであろうかと私は思います。
  29. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 ピケ・ラインを張りまして、お互いにスクラムを組み、歌を歌う、そうした集団的な威力を示すことは、これは何らさしつかえないと思うのでありますが、法律上どういうふうにお考えになりますか。
  30. 馬淵威雄

    馬淵参考人 それは相手を必要以上に威嚇したり、あるいは説得の域を脱しておるというふうになつて来れば、やはりそこに若干の違法性があるだろうと思います。しかし、私は法律家ではありませんから、これは私の個人意見であります。
  31. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 あなた個人の常識的な考えでは、どうも御答弁をいただいたことにならないのでありますが、この次官通牒にうたつてありますように、ストライキをやり、ピケ・ラインを張つている場合に、使用者あるいは第三者の出入もさしつかえない、あるいはまた第二組合の出入も結局さしつかえない、あるいはスキヤツプもさしつかえない。そういうことになりますと、結局ピケ・ラインの効力もなくなり、ひいては争議権そのものも否認してしまうような結果になるとわれわれは考えているのであります。こういういろいろな制約をされました上に行われるピケ・ラインあるいはストライキが、どういう効力があるか。それについて、どういうふうにお考えになりますか。
  32. 馬淵威雄

    馬淵参考人 私はさつきから申し上げておりますように、私個人考え方は、争議行為は、労働者が本来持つている労働の権利を、一時自分の自由の意思で拒否して、そうして、それが労働組合全体の労働拒否でございますので、そのことで使用者に打撃を与えるということが、争議行為の本来の趣旨だと存じます。それを達成するための補助的な手段として、ピケツト戦術が用いられるだろうと思いますが、その場合に、そのピケツトにもかかわらず、どうしても使用者側はもちろんのこと、それから争議関係のない第三者が出入すること、これらはすべてこの争議行為とは無関係——関係とは申しませんが、その争議団がそれを強制することはいけないだろうと私は思います。また労働協約のない場合に、使用者側が操業を維持しようとしまして、あるいは人を雇い入れる場合があるかもしれませんが、その人たちが平和な説得によつて阻止されるものであれば、それはけつこうだと思いますが、阻止できない場合に、暴力をもつてそれを阻止することは、ピケツトとしては私は違法性を帯びて来るというふうに、りくつとしては考えるのであります。実情は、いろいろな場合があると思いますが、本来の趣旨はそういうことだろうと思います。それからスクラムを組むということは、スクラムを組んで、集団的に実力でそういう第三者、使用者その他を阻止することの具体的な表現だろうと思いますので、本来はそれは差控えるのがピケとしては当然だろうと私は思います。
  33. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 ただいま私がお尋ねしているのとは、御答弁が違つているようでありますが、この次官通達のようないろいろな制約をされる場合におきましては、ピケ・ラインの効力がなくなつてしまうのではないか、ひいては争議行為そのものの否認、禁止になるのではないか。その点に対して、どういうふうにお考えになつているかをお尋ねしたいのです。
  34. 馬淵威雄

    馬淵参考人 そんなこと、私は絶対にないと思います。労働を拒否して、何千人という従業員がストライキをやつているという場合に、たといピケを張らなくても、そのためにもう使用者側は非常な打撃を受けるのが通例だと思います。極端な、ただ例外的な場合のみをあげて来ると、どういうことになるか存じませんが、一般の通則としては、そういう争議行為によつて、十分使用者側は重大な打撃を受けるのが私は普通だろうと思いますので、決して争議行為が、そのために全然無価値になるというふうには、私にはどうしても考えられません。
  35. 日野吉夫

    ○日野委員 馬淵参考人ちよつと伺いますが、次官通牒の対抗行為に、大分不服の意を漏らしておられるようでありますが、社会通念上妥当とされる最小限度のものでなければならないという規定に対して、これでもいけない、こういう意味に伺いますと、あなたの主張される市民的権利に基いて使用者側が何をやろうと、無抵抗でなければならないというふうにお考えになられますかどうか。そう考えてよろしいのか。もしあなたが使用者の立場において、無制限にそういうことがやれないとするならば、どういう制約規定を設ければよろしいと考えておられるか。その点ちよつと……。
  36. 馬淵威雄

    馬淵参考人 次官通牒に「相手方の違法行為等に対する対抗的行為」という中に書いてございますが、その中に、私が述べました意見の趣旨は、相手が違法をやつたからこつちも違法で対抗するか、逆に言いますと、労働側が違法行為をやつたから、経営者側も違法でむくいても何ら法の処罰がないのだということになつて来たのでは、これは争議のルールというか、法治国としての立場がなくなるのじやないか。だから、かりに経営者側に違法があれば、他の救済手段があるべきものでありまして、あるいは労働協約違反の訴えをなさるもよかろうし、あるいはその他諸種の法的手段によつて組合側が救済を受けられるだろうと思います。また労働組合の方に違反行為があるならば、経営者側がそれを他の法的手段によりまして救済を受けるということは当然だと思います。ただその間に、労使が、相手が違反したからといつて、お互いに争議行為の名において違反を繰返して行く、そしてその間にお互いに実力行使をして行くということを認めることはあり得ないのじやないか。しかしてこの第八の場合は、読んでよくわかるのでありますけれどもちよつと私の癇にさわつたところでは、相手が違反行為をするならば、違反行為をしてもやむを得ないというようなふうに表現がとれる。これは私はよくわかりません、あとで労政局長等の御意見等も拝聴しなければならぬと思いますが、相手方が相手方が協約違反をした場合には——労働組合使用者側の間にだけなされた協約違反行為使用者側にあるならば、労働者側も協約違反行為ぐらいのことがあつてもしかたがないんじやないかという意味で書かれているのだろうと思いますが、しかしそういうことも、思想としては賛成しかねるというように私は考えて申し上げたのであります。
  37. 日野吉夫

    ○日野委員 違反を犯した場合は、両方に法律の制裁はありますけれども、多くの場合、これは緊急にして法律的な処置をとるいとまもない場合のことが想定されているのであろうと思うのです。協約違反であるとか刑法違反であるとか労働法違反であるとかいうふうなものは、当然取上げ得るが、そうした時間的の余裕も持たない場合、それならばそれをいかにして押えるか。何かあなたに名案があればと思つてつたのです。暴力で来た場合は暴力でやつてよろしいということは、これはもう当然問題にならないのであつて、その場合の苦しい、これは書き方だろうと思うのです。この緊急性に対して、緊急避難あるいは正当防衛、こういう建前から出ているであろうと思うのですが、一方はそういうことを禁止しておいて、あとで文句があるならば、法律でやつて来いということであるならば、およそこの問題は成り立たないと思う。何か緊急の場合に、これを阻止する、制約を加え得る一つの手段方法ありや。何かあなたの腹案なり御意見なりあれば、ちよつと伺います。
  38. 馬淵威雄

    馬淵参考人 遺憾ながらございません。
  39. 赤松勇

    赤松委員長 この際ちつと私から政府にお尋ねしておきますが、ただいま黒澤君から、暴力の伴うピケツテイング、このピケを張るということは争議行為の一手段ではないか、これは別に違法性を伴つていないじやないか、こういう質問に対して、馬淵参考人から、その場合でも違法性を帯びると考える、こういう重大発言があつたわけです。それで労働省としては、これに対してどうお考えですか。
  40. 中西實

    中西説明員 単にピケを張るということだけで違法になると言われたのですか——ピケは、委員長がおつしやるように、ストライキに伴う補助的な手段として、それがただちに違法になるという見解は持つておりません。
  41. 赤松勇

    赤松委員長 わかりました。
  42. 並木芳雄

    ○並木委員 その点ですが、確かに第八は、馬淵さんがおつしやる通りわかりにくいのです。政府はどういうふうに考えているのですか。刑法でいう正当防衛の観念に基いて、相手の違法行為に対する対抗手段が合法化される、こういうつもりで書いておられるのですか、それとも別の、何か労働関係の法律規則に基いてこれが出ているのか、これが一番の大事なところなんです。さつきから聞いていると、高野さんでも馬淵さんでも、いたちごつこになつて、相手が悪いからこつちもやる。そうすると、労働争議はいつまでたつても円満な妥結がはかられないで、馬淵さんもはつきり聞きたいと言われたくらいですから、この際明確に答弁しておいていただきたい。
  43. 中西實

    中西説明員 最後に書きました第八の項目、これでございますが、ここにも例が引いてございますように、「例えば、代替要員雇入禁止条項違反、争議不参加要員協定違反等の場合には、それに対応する必要最小限度において対抗的手段を講ずることが正当化される場合がある。」つまり代替要員は入れないという禁止条項があるにもかかわらず入れた、そういう場合には、組合側も、争議不参加要員の協定があつても、それを破つて不参加要員を引揚げる、ストにやはり参加させる、こういう対抗はもとより正当化されるであろう。しかしながら、暴力に対して暴力、これは結局法治国としまして、また民主社会におきまして、法のうち外で争そうということになりますので許されない。ただしかしながら、その場合におきましても、正当防衛、緊急避難、この理論は、やはりこのピケの場合にもあり得ると思います。しかしながら、いかなる程度が正当防衛か、あるいは緊急避難の場合に当るか、これは個々の場合、きわめて認定困難でありますが、考え方としましては、正当防衛、緊急避難というものが、争議の間におきましてもあるということは考えて、ここに書いたわけでございます。
  44. 並木芳雄

    ○並木委員 これはなかなか将来にまだ問題を残すと思うのです。今、たとえばと局長は言われたけれども、こういう問題がもし許されるとすれば、たとえばでなくて、左の場合に限り云々というふうに限定しておかないと、必ず論争が起ることになると思います。これは将来の問題として考究の余地があると思います。  それに関連して、馬淵さんにちよつとお伺いしたいのですが、先ほど法の不備があるということを指摘されました。労使関係がうまく行かない理由として、三つあげられて、第一が法の不備、第二が互いに尊重するルールがまだできていないということ、第三が団結権争議権がすべてに優先するという考え方、この三つをあげられたのですが、法の不備ということを言われますと、われわれ立法府の者は、ぜひ聞いておかなければなりませんので、特におもだつた点だけでもけつこうですから、こういうところを経営者資本家の立場からこうしてほしいということを具体的にあげてほしい。
  45. 馬淵威雄

    馬淵参考人 一点だけ申し上げますと、先ほど申し上げましたように、組合法第一条第二項の刑法第三十五条の免責規定、これなどは、憲法で労働者団結権を認め、また労働組合法で諸般の事項をきめておる今日、わざわざ刑法第三十五条の免責規定というものをそこに載せる必要があるかどうかということ、こういうことから、いろいろな解釈の幅が出て参りまして、一つ争議行為をやれば、何をやつても、ある程度の暴行——暴行と申しますか、実力行使が認められるんだ、免責なんだというふうなことが考えられまして、すべてが法律学者ではないのでありましようから、こういう規定は、この際労働組合法からはとつておく方がいいんじやないか。特にピケツトの問題が問題になつているので、それに関係した条文としては、この辺がやはり問題になるんじやないかというふうに私は考えます。
  46. 並木芳雄

    ○並木委員 それではもう一点だけ。馬淵さんとしては、この次官通牒にはどういうふうなお考えでしようか。条件付賛成とか反対とか、これについてわれわれは今検討しているのですが、概念的にどういうふうなお考えですか。
  47. 馬淵威雄

    馬淵参考人 私は私の経験から言うと、こういうのがもつと早く示さるべきであつたと思います。私は事実経験した私の会社の争議経験からいたしても、こういうものが出るのが、むしろおそ過ぎるくらいではなかつたかと思つております。
  48. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 先ほど例をおあげになりました立法に対する意見でございますが、たとえば刑法第三十五条は適用しない、こういうふうなことは、本来憲法にすでに団結権団体交渉権、行動権は規定してあるので、特別にそういう免責規定を設ける必要はないのではないか、すなわち労働組合法に与えられておるのではなくて、憲法でそういう権利を与えられているのだから、あるいは刑事上の免責規定や民事上の免責規定をことさらに書く必要はない、こういう御意見と承つてよろしゆうございましようか。
  49. 馬淵威雄

    馬淵参考人 今のところ、憲法を改正しない以上、書いてあるのですから、私としては組合法に刑法三十五条というようなものは必要ないと申し上げたのでございますが、たとい憲法に書いてなくても、組合法というものが現存し、労働組合団結権がその法律によつて保障されるということになつて来れば、当然たとえば刑法三十五条に書いてあるように、医者の場合は手術とかあるいは営業上の目的でもつて人のからだにメスを入れるというようなことが当然のようにになつておる。その程度のことは当然のことなんですから、必ずしも組合法の一条にまでうたうほどの必要はないのじやないかということを申し上げておるのであります。だから、今は憲法に書いてあるからというので、憲法に書いてなくても——日本は憲法に書いてございますが、これは法律として労働組合法があれば、その法律の中でわざわざああいうことを書く必要があるだろうかということを申し上げたのであります。
  50. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 念のために申しておきたいと思いますが、そういたしますと、憲法の規定で当然団結権団体交渉権その他で保障が与えられている、何も組合法によつて、ことさらできたものじやないから、刑事上の免責、またお触れになりませんでしたが、民事上の免責等も書く必要はない、かえつて誤解を招く規定である、こういうふうに承つてよいわけですね。
  51. 馬淵威雄

    馬淵参考人 その通りでございます。
  52. 赤松勇

    赤松委員長 どうもたいへんお忙がしいところを貴重なる御意見をいただきまして、ありがとうございました。  高野参考人に対し質問が残つておりますから、お続けください。
  53. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 時間がございませんから、簡単に三点ばかり高野さんにお伺いしたいと思います。  先ほどのお話になりました、通牒には第三者ということが書いてあるけれども、純然たる第三者というものは、争議の実際においてはないのだ、こういう趣旨でございました。そこで、これに関連してお尋ねいたしたいと思いますが、職務をかわつてやるといつてピケ破りに来るわけですが、あなたの経験では、実際職務をかわつてやるというよりも、ピケラインを破る、こういう点が主目的ではないか。この点について、実際タツチされてどういうようにお感じであるか、それが一点。  第二点は、ピケが破られますと、実際問題として、争議にどういうような影響があるか。もうピケが破られたからこれは負けだといつて、すぐ解決する、妥協する、こういう点が今までの経験では見られなかつたかどうかという点であります。  第三は、スキヤツプでやつて来る組合員以外の人が、はたして説得程度で聞くだろうか。すでにピケツトを破るという使命を持つて来ておるような人が、普通の言葉で丁寧に説得をしたくらいで、実際問題として価値があるとお考えになるかどうか。この三点についてお尋ねいたしたいと思います。
  54. 高野實

    高野参考人 お説の通り、ピケツトを破ることが目的で、当人たちは業務執行することが目的ではない、こういうことがほとんど大部分です。現に日鋼室蘭争議団ピケを破る場合にも、ピケを破つて第二組合を入れる場合に、その構成団体のほとんど八〇%九〇%が事務所の人たちです。こういう事務所系の人々が巡査に守られてピケツトを破る。これは実際に作業をやるために入るわけではないのです。これはどの争議団の場合にも、たいていこのような事実があります。  第二に、ピケツトを破るということは、これは使用者側ではたいへんに重要視するのです。すなわち、争議団側に重大な打撃がある、士気の上に大きな打撃を加える、これを目的にして使用者側がしばしば官憲を利用してピケツトを破る、こういう計画をするものです。東証ストの場合にも、理事長がみずから出向いて官憲の出動を要請したという事実が、みずからの口で明らかにされております。それはすなわち、ピケを破るということが、争議団の士気を沮喪させて争議団に不利を与える、これを目的にしておるのです。  第三に、このような計画的な裏切り団あるいは暴力団が配置されるわけですから、そういう人々に対して、いわゆる平和的な説得というもので容易に目的を達するとは思つておりません。しかしわれわれは、だから襲つて来た者に対して暴力を振うであろうか。決してそういうふうにしてはならない。むしろ忍耐をして、多少ぶたれたり、けられたりしても、忍耐をしてスクラムを組み、あくまで平和的説得目的を達しようと努力をしております。もちろんこのピケツト・ラインを破るために夏川社長のように、警察署長のところに行つて、実はピケツト・ラインを破ろうと思うのだが、ブルドツグを使うのだがよろしいか。それはもうたいへんなことだと言われると、それでは土佐犬ではどうだろうかと言つたのですが、そういう方もございます。また著名な大工場の労務課長さんの得意見で、あるところではいよいよ争議になつた場合には有段者を二百名くらい集めると主張されましたが、このような考え方があります以上は、なかなかいわゆる平和的に済まされるものではないのではないか、しばしば衝突が起るのではないかということを心配しておりますが、しかし、組合側の態度としては、あくまで平和的説得を旨として行きたいと考えております。
  55. 赤松勇

    赤松委員長 よろしゆうございますね。それではどうも御苦労様でした。  次は都立大学教授の沼田教授の御意見を伺いたいと思います。
  56. 沼田稻次郎

    ○沼田参考人 この通牒は、その出し方が、あるいはその書き方が、事務的であるというよりは、非常に政治的であるということは、申すまでもなかろうかと思うのであります。出された時期にしても、あるいはもつと早く、ちようど近江絹糸の時期に出されておれば、おそらくあまり政治的な効果はなかつたかもわからないと思われるのです。これに皆さんの論ぜられたところと存じます。  そこで、まずこの通牒は、知事に対する労働次官通牒でございますけれども労使に対する警告という形をとつておるのであります。しかし、労使と申しましても、使用者に対する警告は、どつちかというと、つけたりみたいなもので使用者の方に違法があつても、組合側で自救行為をやれないということが基調になつているように読みとれる。だから、知事あての通牒というよりも組合あての、いわば挑戦状みたいな響きをもつて、私たち読まざるを得なかつたのであります。しかし、この通牒は、確かに現在のわが国の労働組合の弱点を、かなり鋭くつかれたと思われます。その弱点をついて、そして労働組合の弱点を克服して行くための自主的な活動を縛りつけるといつたような構想をとつております。だから、それ自身として、作文は一応何かまとまつた印象を与える、そして部分的には賛成したいところもあります。それからまた、これは知らず知らずのうちに、わが国の労働組合の特殊性というものを政府御自身が実は認めて、そしてそれに即応しておられるのかなと思われる感じのする部分もかなり多いのであります。  それからさらに、平和的説得という言葉で表わされているものも、かなり幅のあるもので、政府御自身がその客体によつてピケツトの限界というもの、つまり平和的説得の限界というものに非常に区別をされておる。しかしその区別をされる論拠いかんということになると、何も書かれていない。つまり実態を見てその区別をされておるのだと思う。ところが、その実態を見られるならば、なぜもつと実態に即して、その中で自主的な労働運動の発達ということをお考えにならなかつたのであろうかということを、私一番初めに感じたのであります。  それで、これは皆さんもお読みになり、先ほどからの御議論を聞いても、使用者が違法な行動をやつた場合に、それに対してリアクシヨンとしてどういうようなことができるかというようなことは少しも言わない。つまり使用者が違法なことをやる、これはけしからぬ。たとえば、ピケ破りなどをやつてはいけないということで、大いに戒めておられるのですけれども、その戒めを破つて使用者がスト破りを使つたり、おどり込んだり、暴力団を使つたりした場合に、それに対して労働組合がどうできるのか、労働組合がこれに対抗できる行為というものが当然出て来るのがあたりまえだということについては言われない。その点で、何か組合としては非常に受取りにくいんじやなかろうかと思うのであります。  それからさらに、ご承知のように正当でないという表現が幾つも出ておるのであります。しかし、正当でないというのはどういう意味なのか、これがさつぱりわからない。というのは、刑事上違法だとおつしやるのか、民事上不法行為なりとおつしやるのか、あるいはまた、それを理由にして解雇をしても不当労働行為にはならない、つまり七条にいう正当な組合活動、その正当性を否定した意味で正当でないとおつしやるのか、その辺非常に不明瞭でわからない。もし、かりに刑事上正当でない、違法だということをおつしやつておるなら、これは一体労働省が解釈されることなのかどうか、私よくわからない。これによつて、警察が出て来る限界をもし正当でないという言葉でおつしやるのだとするならば、使用者がスト破りをして来た場合には、スト破りを押えるために警察権を発動するのが当然のように受取れるのであります。これはあとで倫理的に考えてみても、もしこの正当でないということが、警察官が出得るということについての一つの標準であるとおつしやるのならば、まさに使用者が団結権を侵害しておるときにこそ、ほんとうは警察権が出てもよい、あるいは場合によつては、これが仮処分を通して、国家権力が裁判を通して発動するということが、その段階にまず行われてよい、行われなければならない。東証ストライキのように、もし組合ピケツトを張つておるときに警察官がこれを破つたというような形で、警察官が出るものであるとするならば、団結権をスト破りが破ろうとしておるときに現実の危険があるのだから、そのときには、警察官がスト破りを解散させるような行動をやるべきではなかろうかというように考えられるのであります。この通牒全部を読んでみても、正当という意味がよくわからないものですから、どういうつもりで、どこで警察を出そうとするのか、私にはよくわからない。しかも警察に関係がない、ただ一つの解釈なんです。これが解釈だとするならば、裁判所は裁判所独自の解釈を持つておるはずであります。知事にこの解釈をもつて何か事務をやれとおつしやるのか、知事はこれに基いてどんなことをやれるのだろうか、どんなふうな指導をされるのだろうか、私はよくわからないのであります。  この一々について検討を加えるということは、今、私自身の都合もございまして、そこまでの余裕もございませんが、ただ一番初めこういう点から考えて行きたいと思うのであります。というのは、憲法二十八条が団結権を保障しておる。これは憲法があるとないとを問わず、今日の世界的な一つの原則とでもいいますか、世界的なものとして団結権というのは保障せられております。わけてもわが国は、憲法までこれを勤労者の基本権というふうにうたつております。勤労者の基本権ということは、申すまでもなく、勤労者が特定関係で恩恵的に与えられる権利であるという意味ではないのであつて、あくまでも、労働者というものが社会的経済的な立場から行わざるを得ない活動を認めるという意味において、初めて基本権、すなわち根源的な権利として認めておる意味であります。だから、労働者が社会的経済的な立場から行わざるを得ない集団的な活動というものを基本権として承認しておるのが、憲法二十八条だろうというふうに考えざるを得ない。そうしますと、まず第一に、それは団結統制ということを承認する。つまり、労働者労働者のモラルに従つて行動するという事柄を、全体として権利として保障しておるという意味を含まなければならないと思うのであります。  そういうふうにして考えますと、組合を脱退するという自由はあるにしても、その自由はみずから約した組合規約に従つて当然拘束を受けるというのがあたりまえであります。そうしますと、最も統制の強化されなければならない争議中に、そもそも一方的な宣言で組合を脱落するといふこと自体が、実は労働者のモラルからこれは否定せられることであつて、これはまたわが国みたいに、争議があるたびに第二組合が出るというのは、世界のどこにもないと言つてよい。つまりそれほど、労働組合のモラルに反する行動が行われておる。これをもし法的に考えるとするならば、少くも規約に基く脱退手続がとられておらない限りは、これは脱退権の濫用であつて、いまだ脱退ということが法的に公認せられていないといわざるを得ないのであります。従つて、そのような第二組合に対しては、依然として第一組合の統制権が及んでおるということをまず頭に置かなければなるまいと思う。  それからまた憲法二十八条が労働者の基本権として団結権を保障するということは、団結権一つの法益を確認したということであります。そういたしますと、これに対して、国家といわず、私自身でもこれを侵害する、しかもその侵害の仕方というのは、何ら正当ではなくて、少くも今日の世界常識から見れば、あるいは人類不変の原理から見ればむちやだと思われる仕方でこの団結権という法益を侵害する行為がなされたとするならば、これはやはり一つの違法な行動、正当でないということになる。その点ではまさにこの通牒のおつしやつておる通りなのであつて、たとえばピケ破りについて「ピケツトに対して暴力を振い、或は平和的説得をするものを実力をもつて排除し、ピケラインを突破する如きは、固より正当でない。特に使用者において暴力団等を使つてピケ破りを行う如き行為は論外である。」それから、第二組合をつくるのを使用者が強制するがごときは、不当労働行為になり、もちろん正当でないというふうな通牒の指摘の通り、まさにこれは違法な行動であるといわざるを得ないのであります。それで、そういう違法な法益侵害が行われておる、あるいは行つて来たということになりますと、これに抵抗する行動というものは、その性格から見れば、少くとも一般的に正当防衛的な性格を持つということは、否定できないだろうと思うのであります。しかも多くの場合、これは窮迫した状態において行われるであろうということも、これまた想像せざるを得ないのであります。  そこで、むしろそれより先に、国家権力の発動を要請して、そういう違法なピケ破りを排除し得る道があるのかどうか、今まで実は事例がないのであります。今度日鋼室蘭争議において、ストライキ派である第一組合側から、第二組合の就業禁止の仮処分申請という珍しい事件が出されております。これは、もちろんまだ判決は出ておりませんが、こういう考え方であつたろうと思います。申請の趣旨は、やはり団結権争議権というものは、憲法二十八条の保障する法益であつて、これを使用者が不当に、何ら成算の意思を持たないで、ただこわすだけの目的をもつて第二組合をつくらせ、そうしてその第二組合を職場につけるということは、これは権利濫用である。権利濫用に基いて団結権という法益を侵害するのであるから、こうした行動はとりのけてもらいたい、第二組合就業を禁止されてもらいたいということで、第一組合が会社と第二組合を相手方にして就業禁止の仮処分申請事件を起しております。どういう判決が出るか、非常に興味ある問題でございますが、しかし私はこのような仮処分はできると思う。私はそれを肯定したいように思つておるわけであります。当然そうであつて、初めてわが国の憲法二十八条というものが生きて来るのだろうと思うのです。  そういう団結権を、いわば一般の労働常識から見て不当と思われる排発行為だとか、あるいは切りくずし行為だとかによつてこれを妨害する活動が使用者によつて行われようが、あるいは第二組合によつて行われようが、あるいは暴力団によつて行われようが、それに対して抵抗するという活動は、これはいわば一つの正当防衛的な行動であるというふうに考え得るのではなかろうか。たとえば嘉穂炭鉱の事件についても、そういう考え方が出ておるのでありまして、これは福岡自体の考え方としまして、ピケツトを張つておるのは合法な状態だ。これに対して何ら就業意思を持たないで、そのピケ・ラインを突破するだけのために対して、これをスクラムを組んで守るというのは、当然合法的なことで正当であるというので、そういうスクラムを指導した炭労の指導者に対する業務執行妨害罪を無罪としておるのであります。そういう考え方は、私は正しいのではなかろうかと思うのです。だから、たとえば通牒の第一の基本的考え方の五の中に「使用者の右の如き態度は、必ずしも労働側の暴力その他の行き過ぎの行為を正当化するものではない。」こういうふうな表現は、非常にまぎらわしい。そういう違法な行動に対して受けとめて立つという場合は、初めから暴力ではない。暴力というのは違法な実力である。この場合は、違法な実力ではなくて、違法から権利を守る実力でありまして、こうした場合は、暴力とはとうてい言えない。それは何もあらかじめストライキ破りを入れないとか、あるいはいろいろの争議協定に違反をした使用者の行為であるといなとを問わず、一般的にそういう協定がなくても、使用者のそのような形をもつてストライキをやるということになりますれば、これに対する抵抗は何ら不法ではない、暴力ではないというふうに考えられるので、このような通牒の出され方は、何かストライカーが実力をもつて行う行為は、すべて暴力であるという前提であるかのように私には感ぜられるのであります。だれが使つたつて暴力暴力、使用者がやつたつて暴力暴力、そのような暴力の行われようとしたときに、これに防衛する行為は、普通の場合暴力とは言わないのであります。団結権を侵害する行動、その侵害は、実力をもつて、いわば切りくずしという行動をもつてやる、あるいは半ば脅迫という形をもつてやる、あるいは買収という形をもつてやる——買収というのは、なるほど金ですから、そのものとしては暴力とは言えないのですけれども一つ経済的な優越性を利用した社会的な力であることは明らかである。そうして収賄罪、贈賄罪によつて見られますように、金力による買収というものが不当な目的で行われる場合は、それは一つの非難すべき社会悪であると考えられておるのが今日の常識である。そういう形での団結権侵害は、少くとも暴力に準じたものであり、これを受けとめて阻止しようという実力行使発動は、暴力のカテゴリーで考えられるべきではないというふうに考えられるのであります。  今申しましたように、ストを打破るというだけの意図、あるいは団結を打破るというだけの意図をもつてなされました。ピケツト・ラインの突破というのは、実は不幸にしてわが国の一般的現象であります。わが国のストライキから見ますと、外から就業意思を持つたストライキ破りを連れて来て、そうしてストライカーのストライキによつて穴の明いた労働力を埋めよう、そうして生産をしようという形でのストライキ破りは、事実上皆無といつても過言ではないのであります。ほとんどすべてが、まずストライキを破つてから、そこで初めて話をつけて生産再開をするのでありまして、ストライキ破りを就業させて、つまりストライカーはストライキをやりたければかつてにやれ、おれはほかから労働者を連れて来て生産をしてみせるといつて、わきから労働者を連れて来るというような形のストライキ破りというものは、ほとんどない。まずほとんどピケを破る、ストライキを破る、ここから始まつておるのであります。そういうふうな場合のストライキ破りは違法である。従つて、これに対抗する組合ピケツトとか、またピケツトでとうてい不可能であるば、すわり込みというようなことが行われる。それで足りなければ人がきをつくるというような形での防衛は、労働法上の正当防衛として考えるべきことではなかろうか。もし国家権力が発動するとなれば、むしろスト破りは抑止すべきであると考えております。  今、これから申し上げますことは、実はわが国においては事実上ほとんど行われておらないところの、つまりどこかから就業意思を持つた労働者を雇つて来て就業させようとする場合に、労働組合はどのような活動ができるものなのか、ピケツト・ラインはどの程度に強化してよいだろうかという点を中心に、私の考えを申し述べたいと思います。わが国の実際に即してみる場合には、現在のようなやり方でほぼよい。むしろ国家権力を発動するならば、なぜ早く二葉のうちにこの暴力行為の因となるような第二組合の結成のためのいろいろな違法な動きを、押えてしまわないかと言いたいのであります。その方が、全体としての秩序の安定を来すことができるというふうに思うのです。  そこで日本の現実に行われているピケツトというものを頭に置くわけでありますが、ピケツトというものを、大体二つの面からわが国の場合考えておかなければなるまいと思うのです。一つは、ストライキの本質というようなものから見たピケツトの考え方であります。もちろんピケツトという行動は、必ずしもストライキにのみ付随する行動ではございません。たとえば対立的な集団的行動においては、一般にしばしば見られることです。たとえば団体交渉の場合だつてピケツトを立てておかなければならぬ必要のある場合には、ピケツトを立てるわけであります。それからデモンストレーシヨンの場合でも、場合によつてピケツトを立てるし、組合大会をやつているという場合でも、必要な場合にはピケツトを立てるのであります。だから、ピケツトは必ずしもストライキの場合のみとは限らないのでありますけれどもストライキのときに典型的に現われることも否定しがたいことであります。  そこで、ストライキというものから考えてみますが、この際どうしても考慮しなければならないのは、労使対等という労働法の基本原則であります。遺憾ながらこの通牒には、いつも言われる労働対等の原則ということが、この際一言も触れられておらないのであります。労使対等というこの原則を考えずしては、ほんとうのピケツトの法律論というものは出て来ないと考えております。労使の対等といいますのは、申すまでもなく、単に権利上の対等、法律上における対等というようなものだけではございません。それならば、市民法においてすでに対等であります。いずれも権利能力者としての自由意思主体でありまして、対等な立場であります。いかに大金持の大資本家といえども、陋巷のこじきとまつたく同一の人格者であり、同一の権利の保有者であるということが近代法の原則であります。しかしながら、いかに近代法がそのような人格者としての対等ということを確立しておりましても、現実の社会関係というものの中では不平等を免れない。一人としての労働者は、大資本家の前に行けば、まつたく微力で無力に近い。従つて、一方の使用者側の要求を全面的にのまなければならない。一人としてはあまりにも弱い労働者が、対等の立場に立ち得るためには、どうしても集団的な活動をやらざるを得ないということを法みずからが確認したのが、まさに基本権としての結団権であります。それを確認したという論拠は憲法第二十八条であります。そうして、労使が対等の立場で交渉する。そうしてその交渉が成り立たないでストライキに入るという場合に、労使の対等はどうして保障されるのかと申しますと、使用者は、その間操業ができないことによつて、いわば利潤を喪失する。しかしながらそのかわりストライカーの方は、その間自分らが就業できないことによつて、賃金を喪失するという形で対等するのであります。つまり労働者側からいえば、資本家側に、お前さんたちだけで利潤を上げるなら上げてごらんなさい、労働力というものなしに資本はいかに無力かということを見せつけるところに、団結の威力があるわけです。資本家はまた、お前さんたちが資本家の賃金をもらわずに食つて行けるなら食つてみろというところにあるわけであります。賃金をかけるか、利潤をかけるかというところに、労資対等ということが出て来るのであります。  ところが、ストライカーが賃金をかけてストライキをやつておる——もちろんあとでストライキ中の賃金をとるかとらぬか、あるいはストライキ中のいろいろな費用について幾らか使用者側が負担するかというような問題は、これは争議解決条項できめることで、ストライキ中は賃金を払わない、これはあたりまえでございます。そうしますと、賃金をとらないで労働者ストライキをやつておる。それにもかかわらず、今度は使用者の方がどこかから労働者を連れて来て、そうして操業をやる、利潤を上げるというような事情が出て参りますと、労資の対等は、その瞬間からくずれるということは明らかであります。つまり、使用者としては少しも痛痒を感じない。ほかから労働者を連れて来てみせる、それによつて操業しておるということになると、もちろんその百パーセント操業ができないにしても、そのことによつて労資の対等は非常につり合いを失するのであります。もちろん労資の対立した状態ですから、一方が他の方に対して優越的な立場に立とうとして努力するのは当然でありまして、ストライキ破りを連れて来て操業させること自体は、使用者として当然自由であります。しかしながら、これをまた阻止しようとする労働者側の行動も当然出て来ることで、これをむげに押えつけ得るものでもないのじやなかろうかと思われます。もとより正攻法で考えますと、言うまでもなく、これは労働組合組織を広げて、そうしてストライキ破りをでかせないようにするのが望ましい。イギリスなどは、ほぼそういうところへ来ておるといつてよかろうかと思います。今日イギリスでは、ピケツト・ラインであまり問題は起らない。アメリカでも、ワグナー法以来非常に組織が発達しておりますので、よくアメリカをごらんになつて来た方はおわかりでしようが。労働者はプラカードを持つて、使用者は非常にアンフエアな状態でけしからぬというようなことを言う。プラカードを持つたやつがぶらぶら歩いているだけだ、日本ピケツトは張り過ぎるとおつしやるのですが、そういうことができるというためには、労働市場労働組合がコントロールして来たということであります。たとえば東京証券ストにいたしましても、東京証券、大阪証券、京都証券などの証券取引所の従業員が一本となり、のみならず山一とか、野村とか、大和とかいう各証券業者の労働者諸君も、それも一緒になつて証券業労働組合とでも申しますか、トレード・ユニオンをつくつたといたしますと、そういうトレード・ユニオンをつくつて、それが確立された統制のもとに行動いたすとすれば、東証ストはあのようなピケ・ラインは全然いらない。ストライカーはストライキ中は、のんびりと、はぜでもつりに行つてよかろうかと思う。ストライキピケツト・ラインを破るようなのを、どこかから探し出して来たつて、それをながめておればよい。ああいう、ことに熟練を要するような仕事には、とうていそんなところからかり集めて来た日雇い労働者で間に合うものではございません。とすると、証券業者のところで働いておる労働者を連れて来ようとする。ところが、そうは行かない。これも同じ一本の組合の指令のもとで活動するということになれば、同じ組合員がストライキをやつておるのに、われわれがストライキを破れるかということで、だれも参加しない。そうなれば、そこへ取引に来た人が何をやつているかわからなくて困るだろう。そこで、プラカードでも持つて、われわれは今ストライキ中ということを言つておればよいのである。それはもちろん正政法であります。ただ遺憾ながらわが国の現状を見ますと、そのような状態にはるかに遠い。そこで、そういう遠いという実態の中で労使対等というものをもう少し好意的に考えるべきではないか、つまり、労使対等の原則というものも、生ける実態の中で確立せられて来るのでなかつたならば、ほんとうに法が生きて妥当しないというものではなかろうか、こういうふうに私たちは考えます。  そういうふうな観点で参りますと、わが国のスクラムを組んで守るという事柄は、一つは、組合員自身の中から破れて行くことを守ることでもあると考えます。つまり、これは御承知のように、企業が一括加入で出発した組合でございますので、昔の弾圧時代でありますればおそらく組合などには見向きもしなかつた人たちが、みんな含まれておる組合なのであります。     〔委員長退席、日野委員長代理着席〕 今のユニオン・リーダーたち、おそらく昔ならば辛うじて平組員であつたといつてよかろう。今の平組合員の多くの人たちは、断圧時代ならば、労働組合などというものへは寄りつきさえもしなかつたような人たちさえも入つておるのであります。多くの、いわば労働者的な連帯性意識が低い人たちを含んでおる組合なのであります。このような実態から、法の期待するところの自主的な組合というものに成長させて行くためには、私はどうしてもこうした争議中にスクラムを組む、そこで彼らが初めて労働者の意識を持つておるというこの行動を公認するのでなければ、とうていそうような方向へ、法の期待するような自主的な労働組合の発展は望みがたいのではないかと思うのであります。  それからまた、労働者のモラルとして、今日発達した組合において確立されて来ておりますのに、ほかの労働者ストライキを破つてまで自分たちの就労の自由を主張すべきではない、ストライカーのピケ・ラインをみだりに破るべきではないというような、いわば労働者のモラル、こうしたモラルというものも、この際やはり尊重して行かなければならないのではないか。ということは、そのモラルに反して就労しようとする人たち、つまりストライキ破り、こういう人たちというものは、いわば就労の自由を濫用しておると考えるべきではなかろうか。そういう就労の自由を濫用しておる者に対して、一般にこれを阻止する——暴力的ではなく、単にスクラムを組んで阻止する、自分たちの団結の威力を示すという形において阻止するということまで否定し得るかどうか。そこまでは認めざるを得ないのではなかろうか。  実は通牒を見ますと、この通牒御自身も、たとえばピケ破りのところで、平和的説得をする者を実力をもつて排除してはいかぬということを書かれておる。ということは、やはり平和的な説得というものを聞かなければいけないということをここで打出されておるのであります。平和的説得は聞かなければいけない、こうおつしやると見てよかろうと思う。つまり、平和的説得を聞きもしないでどんどんピケツト・ラインを破つてはいけない、それは悪いことだ、正当でない、こうおつしやつておる。私はこの考え方は賛成であります。  しかし、ただそこで私は、平和的説得を聞くべきであるということは、一体市民法的な論理から出て来るかということであります。ストライキ破りが就業しに来たという場合に、ストライカーが平和的説得をやる。その場合、ストライキ破りは、その平和的説得を聞かなければならない理由は一体どこから出て来るか。市民的な理由からいえば、何も聞く必要はない、平和的説得を聞かなくても、どんどん入つてつてよろしいはずだ。ところが、ここに通牒が、平和的説得を聞かなければならないという考え方を持たれておるということは、これはやはり、労働者労働者のモラルに従つてしか彼らの自由を行使し得ないということを、ここで認められておるということにほかならないわけであります。私はそれには賛成であります。  それでは、そういうふうな平和的説得を聞くべきであるとまで労働者のモラルを法の中に取入れられておる、労働法の解釈の中の一環として労働者のモラルというものの尊重ということを取入れられておる。それなら、なぜにもう一歩進められて——そこまで取入れられる根拠は、やはり労働者というものは、労働者のモラルに従つた、そうした社会集団の中において生きるのだということを公認せられたはずであります。それを認められておるというならば、就労の自由もまた、労働者のモラルに従つて行うべきである。労働者のモラルはピケを破るべきではない。そうすれば、これを破つて就労しようとすることは、就労権の濫用だという論理がそこから導き出されて何らさしつかえないのではなかろうか。ここで労働者のモラルを認められながら、しかも、かつ全面的に労働者のモラルに従う行動を、自由な庶民の名をもつてこれを押えつけるという感じを受けるのは、非常に論理の一貫性を欠くものではないかと思います。  有泉先生がここに見えておられまして、早く打切れという通知がございましたので、まだたくさん申し上げたいことがございますけれども、この辺で私の話をやめさしていただきたいと思いますが、ただ初めにも申しましたように、とにかく正当とおつしやつておられる、この正当の意味が、非常に漠然としておりましてさつぱりわからない。そうして平和的説得にも非常に幅がある。この幅を置かれる根拠というものをどこに見出されておるかということ、これは主体、客体というものの特殊性というものを考えられており、そうしてまた、たとえば応援ピケというものが、固有のストライカーよりもやはりおとなしい程度でピケを張れ、こう言つておられる。こういうことは、わが国の組合というものの特殊性を認められておるということです。昔通の場合ならば——普通の場合といいますか、企業を越えた横断的組合でありますならば、これは初めからある会社のストライキという場合には、その組合に所属しておる広い線、広い組織がそこへ応援に行くのは当然なことでありまして、それが一般的な事象であります。これが組合ストライキというものであります。そういう観点から見て参りますと、応援ピケというものと、そこに働いておる職場の組合員とを区別するものは、企業を越えた横断組合のような場合には出て来ない。たとえば、外国の組合のような場合には、出て来ない。ところがこの通牒を見ると、応援ピケはストライカーよりもはげしくなつてはいけないということをおつしやつておられる。これはわが国の企業の特殊性を認められておるわけです。そうしてその中で自主的な発展を認められておるのが、法の建前であります。そういう観点から見るならば、わが国の企業の組合に対して、もう少し親切にすべきだ。事実使用者の切りくずしというようなものも、他の横断的組合、外国の会社における組合に対するような切りくずしよりも、日常の職制と結びついて、はるかに団結権を侵害しているのである。このような実態を明らかにながめて、そうして労働法の妥当性を期待するというふうな態度がとられてよかつたのではないか。だから通牒は、私は中途半端であると思う。中途半端が出て来るという根拠はどこにあるかというと、現実の組合をどうしても法律論理をもつて見ざるを得ないという、そこに私は問題があると思う。そうするならば、その現実の中で労働法の原理を促進する方向に行かなければならない。労使対等の原則といい、あるいは労働組合の自主性の原則といい、こうした原則を促進する方向に行くところに妥当性を見出して行くというような、もつと親切な通牒が出されてしかるべきではないか。これでは私は論理的にも感心しがたいし、また政治的な意味においてもフエアーであつたかどうかということは考えざるを得ないのであります。  以上をもつて、私の陳述を終らしていただきます。
  57. 日野吉夫

    ○日野委員長代理 それでは質疑を許します。時間が大分たつておりますので、簡単にひとつ……。
  58. 大橋武夫

    大橋(武)委員 ただいま沼田さんの貴重な御意見を承つて、感謝いたしますが、本日の御意見の御発表の中で、特に確かめさせていただきたいと思うのは、沼田さんのお話の中で、特に争議中におきまして第二組合を結成する、従つてそのために第一組合から労働者が脱落をする、これは労働組合組合員の脱退権の濫用ではないかという点を伺つたのであります。これはあくまでも労働組合団結権というものを保護して行こうという趣旨を強く主張すれば、お説のような結論も出るかもしれませんが、現在の労働組合法が、はたして脱退権について成法上それだけの制限を設けておると解釈しなければならぬかどうか、私は非常に疑問に思つておるのでありまして、この点についても、特にそういう成法上の制限があるといら解釈であるかどうか、あるいはこれは将来労働組合法がそうあるべきではなかろうかというふうな立法論であるのかどうか、そこをひとつ承りたいと思います。  それからピケ破りの、いわゆる就労の自由について、労働者のモラルの上からいつて濫用と認められるのではなかろうかということについても、お話がございましたが、私非常に参考になつたのであります。これについても、現在成法上の解釈論として成り立つのかどうか、それとも将来のための立法論であるかどうか、それを承りたいと思います。
  59. 沼田稻次郎

    ○沼田参考人 お答えいたします。今の御質問は、実は非常に団結権というものについての根本的な問題に触れられておる学問的な質問でございます。私は、実は団結権の内容というものはどんなものかというと、結局こういうふうに考えてよかろうと思います。というのは、団結権とはこういうものであるという、これも成法上のあれではないのでありまして、ただ、組合とはこういうものであるという定義でしかないのでありますが、そうすると結局非常に広く解釈の方にゆだねられておると思われる。そこで、団結権というものは、先ほども申しましたように、基本的人権なのであります。基本的人権というとらえ方は、これはやはり労働者が社会的な存在、社会人として根源的に持たざるを得ない権利、そういたしますと、根源的に持つ権利として社会的、経済的な位置から必然的に行わざるを得ない集団的な活動というものを認めたのがいわば憲法二十八条であります。そうしますと、憲法の二十八条というのは、労働者が自分の所属する社会的な集団のモラルに従つて行動する集団的な行動そのものをまず認める、これを憲法では保障しておる。従つて、その中の自主的な秩序というふうなものには、かなり広い自己執行力と申しますか、そういうものを認めておる。そうすると、規約にきめられておらないような形で、かつてに一方的に脱退するといつたつて、これはもう実定法の法的性格を認めるという建前で行くとすれば、やはり濫用である。少くとも効力はない。それから、たとい規約の手続が簡単で、それをとつた場合においても、自分できめたストライキ、自分でも参加してきめた行動に対して、ストライキの攻勢の最も強いときに、あるいはその手続をふんだにしても、一方的にこれをやるというのは権利の濫用であるという考え方、この考え方は、これは大体皆さんも御承知のように、実定法上でいえば民法一条しかありません。つまり、これは憲法の一般条項に属しております。そこで、この一般条項の基準をどこに置くかというと、やはり団結権なり何かのとらえ方自体によつて、その基準を見出さなければならない。私は以上のような考え方からとらえて行く。つまり、労働者の個々の権利を認めるということは、労働者がそのモラルに従つて活動するということを認める、そしてそれを認めるのが団結権であるというふうな考え方をとるのであります。その考え方は、通牒自身も多少とられておるのではないかと考えておりますが、通牒自身もこういう考え方をとられておるのならば、なぜもう少し徹底しないかというような考え方であります。
  60. 大橋武夫

    大橋(武)委員 通牒にそういう点が出ておることについて根本的に疑問を持つて、あなたと逆な立場から疑問を持つているわけなんですが、御趣旨を承りますと、労働組合というものができて来る。そうすれば、その組合組合員を統制するのは、すなわち憲法にいう結社というものを尊重する意味ではないか、こういうふうな御趣旨だと思うのですが、労働者の基本権として労働組合組織する権利は、憲法上認められているが、これに入つた労働者が自由意思によつてその組合から脱退することを制限まですることを、はたして憲法が含めて意味しているかどうか。これは一つの問題だと思うが、それについてのお考えを伺いたい。
  61. 沼田稻次郎

    ○沼田参考人 全面的に一ぺん入つたら絶対出さないというのは、やくざか何かの不法団体としての組織であります。労働組合はもちろんそういうものではない。だから、出る意思は認める。しかしながら、たとえばユニオン・シヨツプというものが認められている。労働者のモラルに反した形で、しやにむに出て行くということになると、つまり制限を受ける。その制限は、必ず第一次的には、自分のきめた規約に従つて行動する、規約に反した行動は制限を受けるということが言える。規約に盛り込まれた労働者のモラルに従つて進退すべきであつて、それを無視したような行動で、むしろ他の労働者に不利益をもたらす仕方においてしやにむに出るということは、やはり濫用ではないか、その辺までの制限はしていいと思う。だから、一ぺん入つたらもう出さないというのは、これは新宿かどこかのあれだと思いますが、労働組合はそうじやないと思います。
  62. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そこで問題は、その脱退あるいはピケ破りに雇われて行つて就労することが、権利の濫用になるかどうかということになると、沼田さんの理論的な根拠は、結局勤労者のモラルというものに照して判断しよう、こういう御趣旨だと思うのです。それでは現在の日本の各種の争議等において認められる勤労者のモラルというものの段階が、現状で、はたしてあなたの期待されておるような程度になつておるのかどうか。そしてもう一つは、一つのモラルというものによつて判断する場合、それはそういう現状のモラルがどうかというものでなくて、それは一つの客観的な価値なんです。その価値に照して見る、こういうお考えであるか。おそらく後のお考えかと思うのでありますが、そうした考えは現在社会的に認められておるかどうか。その点についても、もう少し詳しく御説明いただきたい。
  63. 沼田稻次郎

    ○沼田参考人 私の今研究している研究テーマそのものを質問されておるのです。実際存在する意識、規範意識と申しますのは、実際前期的な要素を非常に含んでいる。ところが全体としての組織労働者が企業内組合、単位組合において意識するものと、ここに高野さんがいらつしやいますが、総評あるいは単産の中で意識するものは非常に違つている。総じて企業内において意識するものは、非常に前期的なものが残つておりますし、従つて、契約意識も貧弱で、非常に欠陥が多いのでありますが、しかしながら、これがストライキの状態に入つてスクラムを組んでしまうときには、ずつと高い意識になつてしまうということは争えない。だから私は、単にあるべき意識、モラルに従つてという意味ではございません。あるべきものは、もちろんある意識と一応並行線だというような考えを持つておれば別でありますが、ある意識とあるべき意識とは、もつと密接な関係にあるべきだと思つております。ある意識の中にも、すでにあるべき意識がある、論理的にはそういう考え方であります。
  64. 日野吉夫

    ○日野委員長代理 ほかにございませんか。  なければ次に東京大学教授有泉亨君にお伺いいたします。
  65. 有泉亨

    ○有泉参考人 お招きいただいて出て来たのですが、私は一研究室の四角の窓から外を見ておるので、世の中の実情には非常にうといのです。従つて、これから述べます意見も、次官通牒を見た所見、それについての感想程度を出ないわけで、現実の問題をあまり深く知つておりません。それから今お帰りになりました沼田さんが、るるそのお考えを述べられたのですが、私の考えは、沼田さんとかなり近い。日ごろからそういうことを相互に了解し合つておりますので、従つて重複になりそうな部分は飛ばしまして、少し各論的なお話してみたいと思います。  しかし、とにかくこの通牒一般についての感想を先に述べさせていただきますと、これにも若干問題があるように思うのです。というのは、労働省というところは非常に通牒をたくさん出しておるところだと思うのです。それは必要やむを得ない面があるのでありまして、たとえば労働基準法を運用する場合、あるいは失業保険法を運用するというようなときに、一体どういう場合に失業と認定するかというようなことは、全国的に一応統一して扱わなければならぬ。そして現に失業保険の手当を払わなければならぬ、こういうような関係からすれば、その行政解釈によつて取扱いを統一する必要上、通牒をたくさん出すということもまたやむを得ないものだと思うのです。これを、法の解釈であるから裁判がきまるまではどうもできないというようなわけには行かない面があるわけです。  ところが、この争議に関する問題については、とにかくそういう行政上の取扱いの必要というふうなものはないわけでありまして、これは今日おいおい判例が現われて、およその線が明らかにされて行きつつある時期でありまして、失業保険や基準法などを運用すると同じような意味での行政解釈の必要というものではないのではないか。これはやはり裁判所の判例が、労働組合法で正当な行為といつておるその正当な内容を入れて行くのを待つていらつしつてもよいのじややないか。もつとも、私は実情にうといので、労働省ピケ正当性の範囲について、そういう通牒を出さなるればならないというような差迫つた必要があつたのかどうかという点になりますと、これは若干政治問題でもありますし、私の批評し得る範囲を出るわけです。しかしせいぜい新聞などで知つている範囲ですが、そんなところから判断すると、一体そういう必要があつたのかということについても強い疑問を持つのです。  そこで第二には、とにかく通牒が出ますと、これによつて一応いろいろのことがとりはからわれるわけです。ところが、裁判所にだんだん事件が現われて来て、裁判所の判断というものもきまりましよう。これはすべてが最高裁判所まで行くとは限りませんが、とにかく相当の数の下級審の裁判というものが出されますと、そこである線が明らかになる。そこでまだきまらないのは最高裁まで行つて、最高裁で大体一定の線が出ると思うのです。ところが、今度の通牒が、最高裁の出す線とぴたつとしてくれれば、これは内容的には不平を言うべき筋合いはないのかもしれませんが、しかし、これは必ずしもそういうことは望めない。もしこれが、先ほどもちよつと御質問があつたように、通牒の線はまだ少しゆる過ぎるという見解どもありますし、それからまた沼田さんはもちろんこれはきつ過ぎると言われたわけですが、どつちにきまりましても、判例というものがどつかに確定をしたときに、通牒はそれとずれるわけです。そうすると、もしゆる過ぎるということであれば、これは通牒の線は、使用者側権利を侵害しているわけです。もしこれがきつ過ぎるということになれば、これは労働者の基本権を侵害しているということになるわけです。判例が出す線とぴたつと一致するのでなければ、今度出した通牒はどつちかに損害を与えていることになる。そういう問題は、むろん失業保険などについても起きるわけですが、しかしそれは一応やむを得ない措置でして、失業保険の保険金の支払いについて争いがあつて、最高裁である線が出ますと、一斉に取扱いをかえて、またその線に沿つて行くよりほかはないのですが、これはどうもやむを得ないのですけれども、そういう意味でのやむを得なさというものが、一体争議ピケツトの正当性などに関係してもあるのかどうか、こういうことが非常に強い疑問を持たされる点です。これは私のような一学徒が、自分個人意見を出すというのは、それが裁判所の判決とうまく合わなくつたつて、私の意見が裁判所でいれられなかつただけの話ですが、とにかく労働省というお役所ですから、そのお役所側がある見解を出すということは、そう軽々しいものではない。いや間違つた、改正するというように、そう簡単に行くものじやない。それによつて労使関係がとにかく規律され指導されるという意味合いを持つていると思うのです。ですから、もつと慎重であつてほしいという感じがいたします。沼田さんも言われましたが、通牒はそういう意味では判例などをよく勉強して書いているのではないかと思われる節も多々あるのですが、それならもう少し慎重に行動されたらよかつたのではないかという気がいたします。  それから、これがこういう時期に出された、ある一定の問題が提起されている時期に出された、こういう意味についても、その見地からも一体どうだろうという感じを持たされます。  通牒を丁寧に読みますと、沼田さんも言つているように、いいことも言つているように思うのですが、しかしこれはこの通りに商業紙の上に載らないのでありまして、これは一部分が、それぞれの新聞が自分で理解した線で載り、それが一般に流れるわけです。そうすると、何かちよつと乱暴なピケは、もういけないのだというようなことが流れやすい。これは、私今度の事件通牒に関連して経験したことですが、ある新聞社の方が見えて意見を聞かれたのです。それで一応の見解を述べたのですが、それが要約されて載つているのが、まるで私の意図と違つた支離滅裂なものになつている、そういうものになつて伝わります。マス・コミユニケーシヨンの制約、そういうものがあるわけです。そういうことを考えると、よけいこれはもう少し慎重にしていただいた方がよかつたのではないか、こういうことを考えます。  これが通牒という形でそういう意見が出された一般的な問題ですが、次に通牒の内容について少し考えてみたいのです。これは先ほど沼田さんがちよつと言つておられましたけれども通牒はかなり勉強されているのです。しかし、まだ非常に統一のない判例を、あれこれ読んで書いているものですから、そこに出て来る概念が非常にあいまいです。大体見出しからして、「労働関係における不法な実力行使の防止について」——何が不法かということこそが、まさに問題ですが、その「不法な」という言葉を使われている。それも総論的なところで不法なと言つて、あとの各論的なところで、かなり詳しいことが出て来て、一々これがはつきりされているならば、問題ないわけですけれども、各論のところへ行つても、実力で排除するとか、行き過ぎの行為だとか、厳重なスクラムだとか、はなはだしいいやがらせだとか、これは何がはなはだしいいやがらせか、また解釈しなければならない、そういう言葉が繰返し繰返し出て参ります。そういう意味ちよつと概念があいまいです。  さらに、沼田さんが指摘したように。違法という概念も非常にいろいろの言葉が使われています。許されないとか、正当でないとか、できないとか、正当であると解することはむずかしいとか、何かそんなようないろいろの言葉が使われております。これは結局文章の続きぐあいでそういうことになつたという点もあるかもしれませんけれども、やはり何かしつかりしたものが一本通つていない。沼田さんも指摘されたように、一体違法だということは、刑事上の免責を受けられないというのか、民事上の免責を受けられないというのか、それとも指導者なり責任者が解雇されても、不当労働行為で救済を求めることができないというのか、それぞれのことが明確でないのです。もつとも、これを書かれた人の気持の上では、あるいは違法であるということは、労働者の保護を与えない、こういう意味のつもりで一貫しておられるのかもしれませんが、もしそうだとすれば、これはまた私は異議があるのでして、刑事免責を与えるかどうかの正当性の限界と、指導者を解雇しても不当労働行為になるかならないかということの正当性の限界というものは、必ずしも同じでないと思うのです。たとえば三越事件でも、三越ストライキをやりピケをやつた責任者は遂に解雇されて、そして裁判所も二審まで行きましたが、とにかく争議は違法である、従つてその責任を負つて解雇されてもやむを得ないという判断に行つたのですが、しかし刑事上の問題としては、これはたしか起訴猶予でしようか、検察関係では問題としては取上げない、こう言つておられるのです。今の例が適切かどうかわかりませんが、違法だと、こう言つた場合の効果は、ずいぶん違うわけですから、従つて、また何が違法かということの決定も、それぞれの効果をにらみ合せてきめられることです。通牒には、遂にその三つの点の効果について何にも触れておられない。そして何となく違法だ違法だということになると、これは実際にやつている人たちは、これをやつたら不退去罪でやられるだろうか、これをやつたら首切られるだろうかと、全部一緒くたにびくびくせざるを得ない、こういうことになる心配が非常にある。  それから、通牒の全体を通じて感じたもう一つの総論的な点は、労使を対等に扱つているということです。これは先ほど沼田さんは、労使対等ということは一つも出て来ない、こう言われましたけれども、それと私の言つていることとは矛盾しているわけではありません。労使の実質的な対等をつくり出すために、法律的な面では対等でなく扱つているわけでして、憲法自身がすでに勤労者の争議権というものを大体認めたと言つてもいいでしよう。二十八条は、団体行動権を認めているのです。それに対して、憲法二十九条は財産権を保障していますが、しかし、それは何も争議権を保障しているということではない。ストライキは、いつでもできますが、ロツク・アウトはいつでもできるというわけではない。そのことは、通牒も、ロツク・アウトは防禦的でなければならないというふうな気分を見せておりますけれども、しかし全体を通じて労使を法律の面でもまつたく対等のように受取れそうな書き方をしております。ロツク・アウトに現われたところが一つですが、同時にこの八というところで「相手方の違法行為等に対する対抗的行為」、こうなりますと、ここでは両当事者がまつたく平等に取扱われている。そういう考え方自体が、やはり検討を要する点ではないかと、こう思うわけです。  そこでなお各論を少しやりますと、第二にこのピケツトについていろいろのことを言つていられるようですけれどもピケツトの考え方の基本を、この通牒では、平和的説得の範囲にとどまらなくてはいかぬ、こういうふうにはつきり出しまして、それに少しあとで説明を加えているのですが、しかし「平和的説得の範囲」というのは、これはこの通牒全体を流れている考え方を私が感じたところが正しいとすれば、どうも言論の自由という程度にとどまつているように見えるのです。もつとも、厳重なスクラムでなければ、ゆるやかなスクラムならばよろしいというような点などがちらちら見えまして、それで徹底しているというふうには思いませんが、しかし一般の基調としては、どうも言論の自由ということでとどまつているように考えられます。言論の自由をピケツトの根拠にするのは、アメリカ流の考え方ですが、しかしアメリカにおいても、実は言論の自由ということにピケツトの根拠を求めるのは、必ずしも正しくないという見解が出ております。それはなぜかといいますと、たとえば私宅をピケツトするということはいかぬ、しかし工場の入口ならいい、こういうのがわれわれの常識で、アメリカでも常識なんでしよう。ところが言論の自由ならば、何も私宅の前でやつて悪いということはない。そうすると、やはり工場の前でピケツトするのは、言論の自由を越えるものがあるのではないかということが疑問を持たれているのです。そこで何かこの言論の自由を越えるもの——むろん日本の憲法二十八条、それから労組法の規定など読み合せると、言論の自由以上のものがあることは明瞭のように考えるわけです。     〔日野委員長代理退席、委員長着席〕  ただ、もう一つ向うに限界があることは確かでして、争議だからといつて、どんなことでもできる、こういうわけではもちろんない。その限界の一つは、労働組合法の一条二項の但書が出しているような暴力行使ですが、これは明瞭に一つの限界です。それからもう一つは、財産権の侵害で、これももう一つの限界だと思います。それは憲法二十九条で、財産権はこれを保障するというように保障しております。ただその財産の侵害というところは、少し註釈を要するのでして、ここで私が言つている財産権というのは、労働力を結びついて出て来る財産権ではなくて、労働力の結合とまつたく無関係に存在する権利——機械なら機械というものは、労働力と無関係にやはり一つの価値を持つわけです。しかし、それが運転をすると、そこで企業、営業としての価値を生み出すわけです。それで営業譲渡ということも考えられる。その意味で、労働力と結びついて出て来る財産権というものは、今言つた限界に入らない。ですから、争議だからといつて工場をこわしたり機械をこわしたりということはできないという意味での限界があるわけです。その暴力と財産権の侵害と、それからこつちの言論の自由、その中間に広い幅があるように思うのです。通牒ピケツトについての初めのところで「平和的説得」と言つているのが、どうもこつちの言論の自由の方に非常に近い考え方で書かれている、こういうように思うのです。そしてそこへ続けて「例えば」というふうに出て来まして、「例えば」として二つのことをあげております。その一つは「工場、事業場に正当に出入しようとする者に対して、暴行、脅迫にわたることはもとより、一般にバリケード、厳重なスクラムや坐り込み等により、物理的に出入口を閉塞したり」——「この物理的な閉塞」ということです。バリケードでどうしても入れないという点は、これは物理的でしようが「厳重なスクラムや坐り込み」——「坐り込み」の方には「厳重な」という形容詞はかかつていないと思うのですけれども、そうすると、すわり込みはもう物理的閉塞になる。すわり込んでいても、その上を歩いて行けば中に入れるじやないかという気がするわけで、物理的閉塞の例として、一体それが適当かどうか、こういうことが一つ問題だと思います。それからもう一つは、「説得又は団結力の誇示の範囲を越えた」——説得または団結力の範囲はいい。しかしそれを越えた「多衆の威嚇や甚だしい嫌がらせ」これがいかぬというのです。これはこの草案を書かれた人は、おそらく前の方は物理的な障害で、あとの方は精神的な障害によつて入らせない、こういうつもりなのかもしれませんが、この書き方は非常にあぶないところでして、「甚だしい嫌がらせ」なんというのは、一体どこまでがはなはだしいいやがらせなのか、これは解釈の幅の非常に広いところでして、これはちよつと困るところですね。  そこで通牒は、一般的にはそういうことを言つていますが、しかしもう一ついいことを言つているのです。まあ、いいことと言つていいでしようね。それは、「ピケツトの方法、態様はその対象なり、状況なりによつて、若干の差異があろう」と、こう言つておりまして、そしてその対象を基準にして、ここに五つの段階を認めておることであります。それはまず使用者、その他利益代表者、それから第三者、それから組合員以外の労働者、それから争議を機会に結局組合から脱落した従業員、それから第五番目が組合員または現に組合員である者、この五つの段階を認めておりまして、そしてそれぞれについてピケの張れる範囲に標準をつけておられる。第一の使用者、利益代表者には、ピケツトはできない。第三者に対しては、これは通牒言葉を書き抜いてみたのですが、穏和に要請できる。それから組合員以外の労働者に対しては、理解と協力を要請し、就業を阻止すべく要請できる。それから争議から脱退した従業員に対しては、極力説得に努める。それから第五番目の組合員に対しては、これは相当長いのです。除名その他の組合規約で罰するぞと、その反省を求め、統制に服すべきことを要求し、情理を尽して説得に努める。これは説得のねばり強さの標準を示しているのじやないかと思います。ですから、組合員が来たときには、あれも言い、これも言い、いろいろのことを言つて、そしてここでとめられる。ところが、第三者が来たときには、穏和に要請することしかできないというふうな、そういう順序を言つているように思えるのです。そしてそれぞれ段階を認めたということは、日本労働組合のでき方や何かについての実情というようなものも、ある程度取入れられておるように思うのです。  しかし、これとスクラムと結びつけて考えますと、スクラムは、初めの総論のところで、とにかく厳重なスクラムは初めからいかぬということになつてしまいますから、スクラムを組んでいないと、さつさと間を通り抜けて入られる。組合員に対しても、こんなに組合の規約で処罰するぞと、その反省を求め、統制に服すべきことを要求し、情理を尽して説得に努めるなんてことをやつていると、その間に入つてしまう、そういうことになるのであります。そこで、むしろスクラムそのものに段階が認められるのじやないか。それは現在の労働者の、沼田さんが言われているモラルといいますか、そういうところから一定の標準がつけられるのじやないかと考えているのです。  まず、ゆるやかなスクラムを組んでいること自体は、通牒もこれがいかぬとは言つておられない。そこへ使用者がやつて来る。そうすると、使用者は説得してみても、きき目がないでしよう。たとえば個人経営の使用者だつたとすると、その人がやつて来たときに説得してもきき目がないのでしようから、どうでも入るといえば、あけてやる。しかし利益代表者となるると、これは同じ労働者で、労政課からどつかへかわればたちまち組合員になる、そういうものから、まず説得の機会はあるのではないか、あつてもいいのではないか、まずそういうふうに思います。ですから、はいはいと言つてスクラムを解かないでも違法にはならない。第三者並に、あるいは組合員以外の労働者並に扱つてもいいのではないかと思います。  それから第三者が、たとえば三越ピケで、中で買物をしなければならぬ、あしたの結婚式の式服をとらなければならぬ、こう言つて来たときに、一応きようはストライキ中だと言つて、しかしどうでも入らなければならぬと言つたら、あけてやらなければならぬ。これはわれわれが三越事件があつたあとで、あるいは判例などが出たあとで話し合つた場合でも、大部分の労働学者が、やはりそういう場合には、どうだといつて入れなければならないということになつた。ところが、ほかの労働者が来たときですね。そこからデリケートになるのですが、ほかの労働者が来たときには、もしそこに労働者のモラルというものが、沼田さんが言つたように非常に強い意味でみなぎつておるとすれば、同じ仲間ではないか、それでもわれわれの職場にかわつて入るのか、それならばわれわれを乗り越えて入れ、そういうことを言つてもいいのではないか。たとえばすわり込んでおる場合、どうでも入るならばその上をずかずか歩いて入つてくれ……。しかし今の点は、脱落した組合員が来たときには、もつと強い意味でそれが言えるのではないか。現にまだ組合にとどまつておる人が来たならば、これは通牒によつても、とにかく相当長い時間説得をやれるわけですから、これはそう簡単にはスクラムを解かない。これはなぐつたらいけないわけですが、スクラムをちやんと組んでおれば、なぐれないわけです。まあ押し合いへし合いをやるというところまで行つても、ただちに違法とは言えない。そういうことをやれば、これは初めの総論のところまで厳重なスクラムという中に入つてしまつて、もうだめだ、私はこうは考えないのです。  時間があまりありませんので、少し飛ばしながら行きますから、そこで団体交渉というようなところは飛ばしまして、通牒で言うと四に「工場占拠、生産管理、強行就業等」という部分があります。工場占拠は一般にいかぬ、すわり込みはいかぬと、ここではつきり言つておりますが、しかし、日本労働組合のでき方というのは、周知の通り、企業別、工場単位でできておりまして、そうしてそこの工場労働者は、大体そこで一生を送るつもりでおる。ですから、労働時間が過ぎれば家には帰るけれども、しかし、とにかく一日二十四時間のうち八時間は眠つておる。自分のことをやつたり、家庭の自分の時間というものが八時間、あとの八時間は工場におる。つまりその工場は自分の工場、うちの会社だと思つておる。そういう意識が強いわけで、そこで首切られれば、すぐよその職場に行く、会社でレイ・アウトすれば組合が引取つてくれて、またどつかほかの工場に世話してくれるという事情のない場合なわけでありまして、従つてストライキになつてそこにすわり込むというのは、自分が、自分の一生の重要な部分をいるべき場所にすわり込む、こういう意識が非常に強いと思う。非常に極端な例を言うと、借家人が、借りたうちですけれども、しかしてそこに住んでいる、これは自分のうちだと思つて住んでおります。そうすると、借家の期限が切れると明けなければならないわけですが、それはすぐ明けなくても、たちまち不退去罪にならないと同じような、それにかなり近い意味で、むろん乱暴したり機械をこわしたりはいけませんが、その職場に静かにすわり込んでいるという場合に、これがすぐに不退去罪になるかどうか。こうなると、私の知つている範囲内では、東京の労働法学者が大勢集まつて労働法懇談会というところで議論をしたことがありますけれども、それがすぐ不退去罪になると言つた学者は、ほとんど一人もありませんでした。そういうふうな考え方からすると、すぐすわり込みはいかぬ、こういうふうに書かれているこの内容には、必ずしも賛成できない。  ことに、通牒は若干ここでもまたあいまいな言葉使つておられるのです。「有効にロツク・アウトが行われている場合」という言葉使つております。有効にロツク・アウトが行われているというのは、実はロツク・アウトはどうすれば有効に行われてるかという問題をすつ飛ばしているわけでありまして、ロツク・アウトは宣言だけでいいか、それともやはりちやんと工場を閉鎖しなければいかぬかというのは、学者の間に議論があるところです。それをすつ飛ばして「有効にロツク・アウトが行われている場合」こう言つておられる。どうもこの書き方の中には、ロツク・アウトは宣言だけでよろしいというふうな気分が少しある。そうすると、ロツク・アウトが宣言されたら、たちまちぞろぞろと工場から出て行かなけければならないという結果になるわけですが、この通牒はその点には触れないで、ロツク・アウトが行われているのに「使用者の意思に反して工場、事業場に侵入し」と、そつちの方だけを取上げておりますけれども、それでは、ロツク・アウトを宣言して、しかしすわり込んだらどうか、それは前の方のすわり込みはいかぬというところで押さえるつもりなんでしようか。そうなると、この有効にロツク・アウトが行われた場合という点も、ただちに賛成することはできないのです。  それから第五というところでは、ロツク・アウトについて労働省考え方が書かれているわけですが、その初めの方に、使用者は、一般に、争議行為が現に行われているか、または行われようとするおそれが明白かつ逼迫して存する場合には、ロツク・アウトができる、労働協約でロツク・アウトできないと書いてあれば別だが、そうでなければロツク・アウトができる、こういうふのに言つているのです。しかし、これはある意味でロツク・アウトの防禦的性格というものを肯定しているわけでして、その意味では原則としては正しいと思いますが、しかしここに争議行為を単に言つておりまして、いかなる争議行為でもただちにロツク・アウトができるようにこれは読めるわけです。たとえば、リボン戦術とというのを、全銀連か何か銀行でとつたことがある。そうすると、リボン戦術というのは争議行為かどうかということが問題になるのですが、リボン戦術というのは、人によつてはあんなものは企業の正常な運営に支障を来さないから争議行為じやない、こう言うでしようが、使用者の方では、いや、そんなものをやるとお客さんに悪い感じを与えて預金が減つてしまう、こういうことを言つて争議行為だとも言いがちなことです。ところが、リボン戦術をやつて、もしそれが争議行為だということになると、ロツク・アウトができるという結論にならざるを得ない。争議行為は何もここで制限がく、いきなりぱんと出された概念ですから、そうすると、これはどうも承服ができないことなんです。というのは、これはことしの秋ですが、もう二、三週間前に、関西で、日本労働法学会の総会がありまして、そこで大阪の色川さんという方が、争議権と補充の原則とか、何かそういう問題について報告をされましたが、その要旨はこういうことです。労働者争議権の方は、これは権利としてそもそも認められておることだから、権利の濫用となれば、争議権についても濫用行為は来るが、しかし、たとえば、ごくささいな要求で、使用者に大きな損害を加えるというようなときに、補充の原則で、両方の得る利益と相手に加える損失というものがつり合つていなくちやいかぬ、こういうようなことが、判例の中でもちよつと出ているけれども、それは間違いだ。労働者の基本権というものは保障されているわけで、正面から争議権の濫用ということにならない限りは、補充の原則というものはとらない。ですから、三越事件のときは、何人かの組合の幹部が解雇された。それは法廷でも争つていたわけですが、実力で撤回させようというわけでストライキに入つて、そうして会社には何億かの損害を加えた。こういうものは補充の原則からいつてもいかぬというような議論が行われがちですけれども、それは労働者の基本権からいえば間違いだ、こう言われたわけです。色川さんという人は、現に使用者側の弁護を多くやられている方ですけれども労働法学者としてはそう考えるというふうに言われました。その裏には、今度は、使用者側争議権というものは憲法に保障してありませんし、労働立法を探してみても、定義だけは工業閉鎖というものがありますけれども工場閉鎖権を認めたとはだれも言つていない。通説はそうは言つていません。そこで、そういう労働者争議行為に対抗して認められる使用者のロツク・アウトというものは、ここには補充の原則が来る。だから、ほんの少しばかしの争議行為に対して、ただちにロツク・アウトができるということにはならないと思うのです。これはかなり広く承認される主張だと思うのです。ところが、この書き方は、その主張を排斥している。争議行為がとにかく行われようとしている。行われておれば、あるいは行われる可能性があれば、これはロツク・アウトができる。その争議行為がどんなものであつても、それを問わないというように読めるわけですが、この点は承服できない点です。  それから六の公務執行妨害というのは、これは飛ばします。これは裁判所が一度出て来ますと、法律上の問題としては、その裁判所の命令に違反してもよろしいというような一般論はとうてい展開できないことでして、問題はあまりないのです。  それから七番目に応援団その他の問題が出ている。この通牒は、本来、そこの、争議が行われている工場の従業員が行う争議行為と、応援団がやる場合とでは、ある程度違う、こういうことが言われておる。一般論としては、日本労働組合の出来方が、企業別にできていて、必ずしも横断的な組織がない、こういうことで応援団を考えれば、一般論としてはそうでしよう。ですから、そこの従業員だつたらすわり込んでも、私の見解によればおとなしくすわり込んでいる限り、すぐに不退去罪ということにならない。しかし、その工場と縁のない、それからそこでやつている組合組織上の関係のない応援団、こういうものが中にすわり込めば、これはやはり排除されてもやむを得ないことでしよう。ただ今日、日本労働組合というのは、だんだんと大きく組織化されつつありまして、上位団体などがやつて来て——これもここでいう応援団に入るかどうかそういうことが明確でないのです。一体通牒では、そういう上位団体、組織のつながりを持つているものがやつて来たときもひつくるめて応援団と言つているのかどうか。そうだとすれば大いに疑問がある、こういうように考えるわけです。  それから最後に、相手方の違法行為等に対する対抗的行為、この問題をここで取上げているのは、これは考え方として正しいと思います。とかく争議というのは両方でやつているのに、裁判所などはレンズを組合の方にだけ焦点を合せる。そうすると、しきりに乱暴をやつているわけですね。ところが使用者側の方へ焦点を合せてみると、こつちも乱暴をやつているので、こつちだけに焦点を合せて、少し乱暴で行き過ぎだという判断をされては困る。そういう双方のこと考えなくちやいかぬ、そういう前提に立つて議論をされている、それは正しいと思います。ことに労働争議というのは、ある瞬間ぱつと起きてぱつと片づくものではなくて、それぞれの原因があつて、それが次第に積み重なつてある争議に行くわけで、不当解雇があると、撤回しろというようなことを言つた。なかなかがんこで、少しやると、また使用者が切つて来た。あとは何かそういうよらな積み上つたところで出て来る。その点をもあわせて考慮に入れてもらつたら、もつとよかつたというふうに思うのです。そうやつて、相手のあることだから、相手が行き過ぎて来ると、ついこつちも行き過ぎる。こういうことは一応念頭に置いて、正当性の限界を考えなければならぬ。  そこまではいいのですが、ところがそれから先が少し不満があるのです。というのは、ここでも刑事責任、民事責任その他のことについて一緒くたに議論をされている。たとえば緊急避難という行為についても、刑法の規定と不法行為に関する民法の規定とでは書き方が違います。そういうようなものを全然念頭になく、これは労働法的な立場で一括して言われておるのかもしれませんが、そういう差別を無視して、そして必要やむを得ない場合というふうに、やり得る手段というものを限つて行きまして、そして最後に「特に暴力行使又は脅迫等の行為は、如何なる場合においても許されない。」とういうふうに締めくくつているのですけれども、その締めくくりについても、実は問題があるので、先ほど沼田さんもその点触れられたような気もしますが、正当防衛ということも起り得るわけで、正当防衛の場合であれば、暴力行使または脅迫等の行為は、いかなる場合においても許されないというのは強過ぎるのでして、正当防衛なら暴力行使も脅迫もできるのじやないか。正当防衛ということをここで落しておられる。緊急避難的な考えで問題を処理されている、こういうふうに思います。  大体与えられた時間が詰まつて参りましたが、最後に少し感想と言いますか、通牒と少し離れはしますが、きようの話題の中には、警察権の介入というようなものが問題になつているようですが、具体的な問題は最初にお断りしたように私にはわかりません。しかし警察権がどういうときに出て来べきかということ、これは一般論としては言えるわけで、大体私の権利と私の権利とが衝突をしているところでは、警察権というものはそう簡単には出て来ない。これは私自身の乏しい経験ですが、隣の家と土地の争いが起りまして、私に言わせると相手が確かに不法なんで、私の土地へ物をどんどん積み上げる。それを片づけようとすると、妨害する。それから警察の相談部に持ち込みまして、どうだどうだとやつておりました。ところが相手が一言、これは私法上の争いなんで訴訟になるという問題なんです。こう言いましたら、おまわりさんがさつと引上げて行きました。なるほど、そのときには物足らなく思いましたけれども、警察というものはそういうものだろう、私の権利の争いであれば、これはやはり裁判をしてやるほかはない、こういうことをさとりまして、結局訴訟をして勝つたわけでありますが、警察権というものはそういう私の権利には出て来ない。しかし、私の権利の侵害が、公の秩序に関係して来るようなときに初めて出て来る、こういうようなものである。ところで労働争議というものは、本来私のものなんです。公に非常に影響のある争議どもありますが、本来私のもので、そして一方は労働者の基本権、争議権というものをたてにとつて行く、一方は所有権を理由に攻撃を排除しよう、こうやつてつて行く。そうしてその争いには——これはアメリカの人が日本に来て日本組合を指導するときに、組合運動は、まず官憲からの自由、使用者からの自由、政党からの自由——この政党からの自由というのは問題がありますが、アメリカ流の考え方ではそうです。そう言つて指導したそうですが、そういう国家権力からの自由を組合が与えられておる。また与えられなければ、労使の対等が実現しない、そういう考え労働関係というものは律せられているのですから、そこへ警察権力というもうが出て来てピケ破りをする、そういうふうに見える行動をされることは、厳に慎まなければならないのであります。だから、人をなぐつていたら、その人はひつぱつて行かなければならないでしよう。物をこわしている人がいたら、それは連れて行かなければならないでしようが、しかし、それはその個々の問題で、その犯罪を犯していると思われるその人をひつぱつて行けばよいので、工場にスキヤツプを入れるために道を開いてやるというのは、警察権としては行き過ぎではないかという印象を持つわけです。新聞に伝えておることがどの程度正しいかは、確かめて参りませんとわかりませんが……。  最後にもう一つ。大体労働争議行為も、最初から言いましたように、どこまで行つてもいいということではない、どこかで限界があるわけでして、その限界の出て来たときに二つのものが出て来る。同じようではありますけれども、出て来るものが違う。それは一つは警察だと思いますが、もう一つは裁判所です。イギリスなどの場合では、おまわりさんがこん棒を持つて出て来て、そうして乱暴をしている人は連れて行くということで、争議に裁判所が出て来ない。ところが、アメリカの場合は裁判所が出て来て、そうしてインジヤンクシヨンを出したのですが、それでどつちがいいか。これときようのあれとは、あまり関係ないかもしれませんが、私は裁判所が出て来る方がこわいような、そういう気がいたします。そこで警察権の行使に強い制約を加えた上で、もし乱暴があれば、その乱暴をしているその人、違法な行為をしているその人に警察権というものは向けらるべきものであろう。これはいらないことかもしれませんけれども通牒を読んで、あるいは最近の新聞を読んでの感想をつけ加えたわけです。時間を少しお約束を超過いたしましたがこれくらいです。
  66. 赤松勇

    赤松委員長 どうも御苦労さんでした。  有泉教授に対する御質問ございませんね——。  それでは次に旭加工株式会社社長三段崎参考人にお願いいたします。
  67. 三段崎俊吾

    ○三段崎参考人 私は旭加工株式会社というごく小さな町工場を経営している者でございますが、終戦以来、労働委員会関係した時間が長く、ややこういつたような問題に知識があろうというのでここにひつぱり出されたわけでございましようが、私は実際家でございまして、法律学者ではございませんから、今まで陳述された方々のような、そういう堂々たる法律論をここで述べる、こういうわけには参りません。いろいろ見聞きし、体験した実際問題から、きようの問題に対処して参りたいと思います。しかしながらまつたく法律論を言わないのも、こういう席上に来て妙なものでございましようか、若干非常に未熟な見解を申し述べてみたいと思います。  実を言いますと、ここに参りますのに、次官通牒を中心として考えて来いということではなくて、最近起つて参りますピケ問題をめぐつていろいろ意見を述べろというような話を受けて来たものですから、この次官通牒についての一々の見解を申し述べることはできないかと思いますが、御承知おきを願いたいと思います。  まずストライキというのは、労働者がその労働力の提供を拒否することによつて経営者に打撃を与え、それによつて要求目的の達成をはかろうとする実力行為である、こういうように承知いたしております。いわば消極的に自分の労働力を売りどめするという不作為の争議行為でありまして、その目標はもつぱら使用者に対してのみ指向されておる、こういうふうに考えております。ところが、ピケツテイングと申しますと、これは新法律学辞典というのからひつぱつてつたのでございますが、通常ストライキを実効あらしめるために労働者のなす争議行為の一種であつて、使用者の工場、事業場、売店等の入口に見張りについて、仲間にはストライキヘの参加を勧誘し、また新しい労働者あるいはスト破りに対してはストライキの存在を知らしめ、その就業を見合わさす、または一般公衆に対しては、ストライキの中の労働者への同情を喚起させようとするものである、そうして暴力行使にならなければ正当な争議行為である、こういうふうに書いてございます。この項目は東大の石川吉右衞門君が書いたと言つておりましたが、私は大体においてこれに賛成をいたしております。  そこで大体ストライキというものは、不作為を中心として使用者のみに向けられておる、その補助的行為としてピケが存在しておるということでございますが、このピケというものが最近非常に問題になつて来た。先ほど申しましたように、ストライキが、ただ消極的に自分の労働力の売りどめをするという不作為の効果をねらつて、かつ、その目標がもつぱら使用者に対してのみ指向されておるのに対しまして、ピケツテイングは、ある程度積極的な作為、しかも集団的な作為によつて、使用者のみならず、広く争議当事者外の就労希望者や一般社会人にまで働きかけて来る、こういう点において特異な性格を持つておる。すなわちピケストライキの補助的手段と言われながら、それ自身きわめて積極的な争議手段としての性格を持つておりまして、従つて、ともすれば適法のわくを踏みはずす傾向を多分にそれ自身持つておる。最近においては、労働争議におけるピケの重点的な機能は、組合組織の防衛というよりも、むしろ使用者の操業阻止の点にあることを強調するに至つてさえおるのでございます。たとえて申しますと、先ほどから何べんも例に出ております三越ピケツト・ラインにおきまして、大体ピケを組んでいた労働組合の主張によりますと、つまりストライキというものが、自分の労働力を売りどめすることによつて経営者に打撃を与え、それによつて問題を解決しようという観点からややはずれて参りまして、つまりピケツテイングを張つてお客さんの出入をとめなければ、ストライキとしての効果がないのだ。使用者はちつとも困りはしない。どんどんお客さんが入つて行く、アルバイトや取引先の人たちで商売がされる。百貨店のような組合では、ピケツテイングを張つてそういうものを阻止しなければ、ストライキとしての効果がない、経営者はちつとも困らない。経営者に打撃を与えることができないのだというような主張を繰返し繰返しておつたのでございます。  しかしながら、これはわれわれが考えますと、アルバイトや取引先の人で商売ができるとはいいますものの、それでは何のために日ごろから相当の俸給を出して従業員を雇つておるのかということになるわけでございまして、やはり会計は会計、品物を包む者は品物を包む者というふうに、それぞれその店に長くいた人が商売を進めて行くのと、アルバイトや取引先の者などで仕事をするのとでは、よほど差異があろうと思われるのでございまして、そこらに、百貨店のストライキにおいても、ピケ張つて外部との交通を遮断しなければ、とうてい使用者に対して打撃を与えることができないというようなことはなかろうかと思うのでございますが、そんな点は、つまりピケによつて、それが自分たちの組織の防衛ということよりも、経営者に打撃を与えるということにのみ非常に重点が移つてつた証拠であろう、こういうふうに思われるのでございます。  三越ストライキピケツテイング、その後の経過におきまして、ストライキが起きるとピケツテイングが必ず張られるというようなことが、非常に多くなつてつたのでございまして、最近におきましてはことさらのことでございまして、争議といえば、必ず白はち巻をして赤旗を振つて、そしてインターナシヨナルを歌つて、そして外部の人ともみ合つている新聞の写真が常に出て来る、こういうような様相になつて参りました。最近におきまして近江絹糸日鋼室蘭、地方銀行ことに最近におきましては山梨中央銀行のストライキ、そういうようなもの、また東京証券取引所のストライキというようなものが、すべてピケを含んでいて相当荒仕事である、こういう印象を深く世人に与えるのでございまして、合法の見解を踏み込えた越軌的な争議行為であることは、ここで私が喋々するまでもないと存ずるのでございます。  元来ストライキといい、その補助的手段として用いられるピケツト・ラインといい、他人の権利を尊重しつつ自己の権利を主張するために、静々粛々と行わるべきものでございましようが、わが国におきましては、最近特に越軌的になるのはどうしたことでございましようか。ここに全労書記長がおられますが、けさ朝日新聞の論壇というところでございましようか、インフレ型の労働運動からデフレ型の労働運動に転換するすべを知らない——。私は電車の中で一回すらりと読んだだけでございまして、私の見解がどうであるか、はつきりここで申し上げるわけに行きませんが、私自身の見解から申し上げますと、日本労働運動というのは、戦後非常に急激に膨脹いたしまして、ときあたかもインフレ時代、そういうインフレ時代の好調に乗つて労働運動が伸びて来た。それがデフレ型になつて来た、そういう時代になつても、相かわらずインフレ型の労働運動を押し進める以外に転換のすべを知らないというのが、現在の労働運動の実情ではないかというふうに考えておるのでございます。  私は経営者でございますから、労働組合の方にはいろいろとお聞き苦しい点があるいはあるかと思うのでございますが、どういうものですか、ストライキに入らなければ組織が持てない、何かやつていなければ組織が持てないというような実情がありはしないか。春季労働攻勢といい、秋季労働攻勢といい、どうも賃上げというものは、一定の時期にみんな重なつて来なければいけないというような印象があるように思われるのでございまして、その結果として、何かやつていなければいかぬというようなことで、無理にストライキに入るというケースが非常に多いのでございます。たとえば、三越のことを申しましようか。三越では、お中元のころ給与問題でいろいろな紛争が起きまして、東京都の労働委員会に調停の申請がなされた。その結果、調停案を双方のむということによつて解決した。ところが、その調停案の作成の途次において行われたいろいろな争議行為と申しますか、それに伴つて組合の幹部が処分されたということで、労働委員会なり地裁の方に提訴が行われた。それがもう間もなく判決が出るというやさきに、実力行動をもつてストライキに入つた、こういうことでございます。今考えてみますと、大体年内に地裁の判決が出るというやさき、十二月十八日、十九日にストライキに入り、あれだけの大騒ぎをする理由がどこにあつたかとも考えられる。またあれをやつたことによつて、先ほどから話題に出ましたように、大きな組合の分裂を来し、かつまた相当多くの犠牲者を出したという結果になるのでございまして、あのストライキをしなければ、おそらく第二組合というような組合の分裂も起きなかつたでございましようし、多くの犠牲者も出るようなことはなかつたろう、こういうふうに想像されるのでございます。東証のことにつきましては、最近の事例でもございますし、ここで私は申し上げることを遠慮さしていただきたいと思います。  それから、大体の傾向として、ストに入ると、何かお祭り騒ぎのようなことをしなければ、その間が持てないというような感じが非常にするのでございます。  もう一つ組合に自主性がない。外部団体に引きずりまわされる場合が非常に多いということは、われわれ経験によつてつておる事実でございます。  それから、こういうような問題は、必ず第二組合員の発生というようなこととうらはらになつて行われておる。これはストライキに入ること、その争議行為そのものが非常に熾烈なために、内部的批判が起きるのか、組合の統制力が足りないのか、事実としては第二組合の発生を必ず伴つておるというようなケースが非常に多いと考えられるのでございます。  もう一つ、ある種の政治的意図に利用されておるという実情が非常に多い、こういうことが感じとして深いのでございます。昨年でございましたか、東京機械製作所というところで、非常に熾烈な争議が行われたのでございますが、その間におきまして、違法とかなんとかいうことは考えなくてもいいのだ、こういうことを繰返し繰返し続けて行つて、これを一つの慣習につくり上げつつ、次第に権利としてかちとつて行くのだといつたような考え方も、非常に多かつたように考えられるのでございます。ストに入りますと、組織の問題、経済的の問題から、短期決戦への道をひたすらにたどるということにななる。そこで使用者、第三者権利を無視して越軌的な行動に走つて行く傾向がございます。最近の山梨銀行の事例その他いろいろな事例をしさいに御検討になれば、これは非常に明らかなことと思うのでございます。あるいはピケ・ラインを張ることによつて食糧の搬入までこれを阻止しようとする。伊予銀行でございましたか、中に入つている人たちに弁当を持つて来る、それを阻止するというようなことで、何でも姙婦が亭主に弁当を持つて来る、それを組合へ連れて行つてつるし上げをした。その結果非常な早産、結果は死産というようなことであつたというようなことまで聞いておるのでございますが、最近のそういうストライキ、それに伴うピケ、そのピケが非常に熾烈になつて参りまして、幾多のそういう問題が社会問題としてわき上つておるということなのでございます。これは当然輿論の批判を受けるでありましよう。組合の分裂をも促進させるよすがともなるでございましよう。ひいては組合の崩壊を来した事例すらある。また企業そのものを崩壊へ導いて行く、これは尼崎製鋼、組合の崩壊は日産自動車会社というような、こういうふうな経過をたどりまして、結局何のために争議を行つたのかわけがわからなくなつてしまうというような事例が多々あるのであります。  そこで、前にもどりまして、東京地裁の三越ピケツテイングに対する判決の中に、ピケの限界というようなものが載つておるのでございますが、試みにそれを読んでみますと「思うに労働組合ストライキを行う場合、できる限り他の労働者の就労するのを防いでストライキの実効を上げようとすることは組合として当然の要求であつてピケツテイングの手段がこのために認められていることは言うまでもない。しかしながら使用者がストライキによる損害から企業を守るために、組合外の労働者を雇い入れ、就労させることはこれを禁止する何らの法規もなく、法律は一般に使用者並びに当該労働者の自由にまかせられていると解釈するほかはないから、組合がこれを阻止するために用いられる手段もまたおのずから限度のあることはやむを得ない。すなわち組合員が結束して就労しようとするものを見張り、言論によつて説得しあるいは団結による示威などの手段によつて就労希望者の意思に働きかけ、就労を思いとどまらせようとすることはもとより違法ではないが、暴行、脅迫その他有形力を用い、あるいは企業施設を外部より閉鎖遮断するなどして、就労者の行動をその意に反してまで拘束することは許されないといわなければならない。しかるに本件争議においてはなはだしく多数の組合員等が各入口に密集し、幾重にも厳重なスクラムを組み、旗ざお、トラツク等の資材を用いて完全に店舗を外部から遮断し、ために組合員ばかりでなく、非組合——アルバイト学生、取引先等の就労希望者から一般顧客に至るまで、店内への出入りが不可能となり」中間略します。「かような行為は明らかに前示のピケツテイングの正当な範囲を逸脱したものといわなければならない。」こういうような判決が下されておりまして、先ほど有泉さんからもお話がございましたように、これはまあ最高裁まで行つたわけではございませんが、やや確定した判決であろうと思われるのでございまして、その他幾多のピケツテイングその他のものに対する判例があるのでございます。  なぜこういうような判例を読み上げましたかと申しますと、もしもこういうような事態組合がよく認識いたしまして、おのずから良識によつてピケツテイングの限界というものを知つてつたならば、今まで起きた幾多の不幸な事件が起きなかつたであろう、こういうことが確実に言えるのではないかと思うのでございます。ここにおきまして、私は労働省ちようちんを持つ意思ちよつともございませんが、こういうような意味合いにおきまして、各労働組合に対し、各方面に対し、ここらの限界、あるべき姿というものを見解として発表されたということについては、私は時宜に適したものであろう、こういうふうに考えるのでございます。ただその内容につきましては、私としてもどうもなまぬる過ぎるじやないかというような感じは持つておるわけでありますが、ここで一々それを申し上げることは省略いたしたいと思います。     〔委員長退席、日野委員長代理着席〕  そこで、私自身都の労働委員会におきまして、いろいろな事件を取扱つておりますと、問題はむしろ中小企業にあるというふうに考えるのでございます。一例を申しますと、昨年非常に熾烈に闘われました中等教育研究所という、これは教科書を出版しているごく小さな企業でございますが、非常な行き過ぎのピケツテイング、暴行というようなぐあいにストライキがなされまして、そうしてとうとうその企業は、もう自分はこの企業を続けて行く意思はないということで、放棄されてしまつたというような事実もあるのでございまして、大企業におきましては、いろいろ官憲の出て来るというような余地もあるでございますが、中小企業に至りましては、そういうような事柄も除外されておりまして、企業をつぶしてしまわなければならないような事態が非常に多いのでございます。これはまことに憂うべき事柄で、これらの幾多の事実を見聞きして参りますと、労働省がこの見解を発表したのはおそきに失する、むしろ私は労働省の怠慢を責めたいような気持になつておるのでございます。労働次官通牒は、従来の経緯及び特に最近起りつつある越軌的な争議にかんがみて、労使双方のあり方に対する見解を発表したものでございまして、あたりまえのことを言つたまでで、これが少しでも今後の労使関係に役立つならば、まことに僥倖であろう、こういうふうに思うものでございます。今ごろそのような発表をしたことは、むしろおそきに失するのであつて、あたりまえのこととはいいながら、もつと以前に発表されたならば多くの不幸な事態を救つていたであろう、こういうふうに考えるのでございます。その労働大臣の所見の発表が、ちようど東証争議における官憲介入の時期に発表されたがために、官憲介入を促進させたのではないかというような、その発表の時期についていろいろの憶側が行われておるのでございますが、私は東京証券取引所に直接あつせん員として携わつたものでございまして、深くその点は申し上げたくないと思うのでございますが、あのピケにつきましては、ある人から三越の事例もよく研究された上でやられたらよかろうというようなアドヴアイスも、人を通じて与えております。三越の場合におきまして、ああいう労働大臣談話というようなものはございませんでしたが、本店におきまして第一日目は四時三十分にピケが開かれております。第二日目には十二時三十分にピケが開かれております。銀座におきましては第一日目に三時五十分にピケが開かれ、新宿においては二時四十分にピケが開かれておる。こういう事実からいたしまして、大体ああいう様相のピケ三越の前例に徴しますと、夕方ごろピケが開かれたということは、これは警察の介入がよかつたとか悪かつたとかいうことは別といたしまして、労働大臣の所見というものが直接に影響したのではない、私はこういうふうな考え方を持つております。ああいうような問題につきまして警察が介入するとすれば、大体そういうような時間に入つて行くという順序になろうと思うのでありまして、労相の談話の発表があつた、そのためにその時期が促進されたんだというようなことはなかろうかと思つておるのでございます。  私の陳述は非常に粗雑でございますが、経験者としての自分の所見を述べて責をふせぎたいと思います。
  68. 日野吉夫

    ○日野委員長代理 質疑を許します。質問ございませんか。——なければ次に移ります。  次に全日本労働組合会議書記長和田春生君。
  69. 和田春生

    ○和田参考人 全労会議の和田でございますが、今回の次官通牒に関しまして意見を述べたいと思います。  先ほど来、多くの学者の方々から、法律的な見解等も披瀝をされております。私自身といたしましても、この次官通牒に関しまして、法律的な点でいろいろな意見は持つておりますが、本日ここに招かれた立場というものから考えまして、実際に労働組合運動に従事をいたしております実際的な立場から、この労働次官通牒というものが、どういう役割をし、どういう意味を持つておるかという点に重点を置いて意見を述べてみたい、このように考えるわけでございます。  この次官通牒を一見いたしまして、まつ先に感ぜられ、一番私たちに強い印象を与えますのは、現在の法治国家におきまして、民主主義というものを前提とする限り、何人も反対できないような暴力行為を取締る、暴力はいけないということを表看板にいたしまして、労働組合争議行為に、不当に干渉しようという底意が、ありありと現われておるということでございます。こういうふうに申し上げますと、それはお前は労働組合の立場からだから、そういうふうに見るんだろう、こういうふうな反論もあるいは使用者側の方等からあるかもしれませんが、その点も全般にわたつて指摘するわけには参りませんけれども、若干の点にわたつて指摘してみたいと考えるわけであります。  まず第一に、この次官通牒は、非常に文章のうまい人が書きまして、労働組合側の不当行為というものが、至るところで浮きぼりになつて来て、焦点が労働組合行為に合せられておるわけでございます。その反面、使用者側の不等な行為というものに対しましては、非常に記述が甘い、あるいは曖昧模糊として、その不当行為を見のがすという立場をとつておりまして、労使関係が、お互い相手のある関係であるということを忘れておるのではないか、こういうふうに考えられるわけであります。  まず第一番に、基本的考え方というのがここに出ておりますが、ここにおいて言つておりますことは「人の身体又は行動の自由や住居、私生活の不可侵は、最も尊重されるべき権利であつて労働組合の団結に基く統制や、労働契約に基く使用者の指揮、管理によつても、これを全く否定したり、その意に反して不当に拘束又は侵犯することは許されない。」こういうふうなことが書いてございますし、さらに「暴行脅迫その他不法な実力行使により他人の行動、意思に強制を加えることは、団結権、団体行動権を保障した法の限界を逸脱するものである。」、こういうふうにも書いて、これは使用者の行為ではなくして、労働組合側組合員を統制することに対して向けられておるわけでございます。  ところが、実際の争議の場面において一体私たちはどういうことにぶつかるかということを、実例をもつてお話をしてみたいと思うのであります。  先ほど来、経営者方々から、しばしば三越争議東証争議あるいは近江絹糸争議が実例として引例をされました。ここでは一体どういうことが行われておるかというと、三越争議の場合におきましても、この争議破りにスキヤツプとして使われたのは、出入り問屋の店員であります。この問屋の店員の方々には、争議をやつておる現場につつ込んで行つてそういう仕事をやりたいとは、決して思わなかつたと私は思うのであります。それにもかかわらず、これらの問屋の店員の人たちが三越争議現場にやつて来て、ピケツトを張つている労働者と対立をして、スキヤツプにわたる行為をあえてしなければならなかつたというその背後に何があつたかという問題であります。三越というところに出入りしている問屋は、三越という資本によつて大きく圧力を受けておる。その言うことを聞かないと、出入をとめられる。そういう条件のもとにおいて、問屋の主人が、お前三越へ行つてストライキがあるからそれを突破して中に入つて働いて来いという命令を出せば、店員としてはこれを拒否できない。もし、わしはいやだと言えば、そんなことをすれば、おれのところはあしたから三越では働けなくなるから、お前はおれの言うことを聞かなければ困るではないか、おれの言うことを聞かなければ首にするぞ、こういうような脅迫がそこでは行われる。そういうような形で出て来る場合が、非常に多いわけであります。こういうふうな形において行われるとすると、なるほど直接的に暴力を振つての脅迫等は行われておりませんが、これらのスキヤツプに来る人たちには、経済的な理由といいますか、根拠をもとにして、使用者側からそういう行為を強制するということが裏に行われておるわけであります。そういうような点を十分に見ずして、この労働関係やあるいは争議破り、ピケツテイングの問題等を論ずるわけには行かないと思うわけであります。  この点に関して、一体労働省はどういうふうにお考えになつておるのか。この場合に平和な説得の範囲でなければいけないというようなことをピケツトについて言つておりましても、説得ということは、最終的に説得に応ずるか応じないかということは別問題でございますが、少くとも説得に耳を傾けるという前提があつて説得説得であり得るわけであります。  外国の例がよく出されますが、ピケツトのときにプラカードをかついでまわつておるだけであり、平和に呼びかけるだけである。使用者がよそで労働者を雇つて来て争議破りに使おうとする。ところが、その雇われた労働者はその実情をよく知らない。そこで争議団労働者が、おれたちは今こういう争議行為をやつてつておるのだから、諸君ここに入つてくれるな、待つてくれ、お互いに労働者として争議破りになるようなことはやらないようにしようではないかというように呼びかける。こういうことになれば、もちろん平和説得ということも役に立つわけでありますけれども、十分知らずに来た人ならば、ああそうか、そういう争議をやつておるならば、おれたちはちよつと考え直そう、争議破りはやめようではないかという問題も起り得る。  ところが日本の場合には、争議をやつている労働者の諸君よりも、むしろ使用者からの命令で争議破りに来る連中あるいは第三者という仮面をかぶつて争議を破りに来るような諸君の方が、自分たちの行為が何を意味しておるかということを百も承知の上で臨んで来ておるというのか、おおむねの場合であります。そういう場合に、いくら平和な手段で説得をしろと言つたつて、相手は耳をかすはずがないのであります。絶対に耳をかさないという前提があるときに、平和な説得でなければならぬと言つておることは、結局これはピケツト・ラインの無力化を意味する以外の何ものでもない、こういうふうに、私ども日本に実際に行われておる争議の実態から見て考えるわけであります。  なおまた、最近の著しい事例といたしましては、近江絹糸争議がございます。労働委員会方々においては、十分御承知と思いますが、一体そこでは何が行われたかということであります。ここにはピケツトの問題、ロツク・アウトの問題等がございますが、私は現場をまわつて現実を見て来た実例を参考にしてお話をしたいと考えるわけであります。これは警察の話等も出て来ますので、具体的なことは言わない方がいいと思いますが、ある大きな工場でございます、ここで警察官がピケツテイングに突入した事件がございました。私はたまたまそのとき現地に行つてつたわけであります。ところがこのピケツトは、この通牒によるならば、明らかに違法とされるような形をとつておりました。厳重なスクラムを組んでおりました。バリケードとまでは行きませんが、それに近いようなものも行われておりました。これを現象的に次官通牒をものさしにしてみますと、これは明らかに違法行為である。ところが、それだけでははかれない実情が裏にあるわけであります。そこのいわゆる運送業、土建業をやつておる暴力団があるわけでございますが、これが会社の命令を受けまして、トラツクを持つて来ましてピケツト・ラインを強行突破するということが計画されておりました。そこの工場長は、ピケツトをやつておる労働者の前において、次のような放言をしておるわけであります。人間の一人や二人殺したつて、あくまで出荷を強行する。それから暴力団の方では、くりからもんもんのものすごいのが来て、足の一本や二本たたき折つてもやれ、こういうことを言つておるわけであります。こういうときに、こんな手合いに説得などと言つたつて、これはもう問題にならない。かといつて、自分たちがピケツト・ラインを解いてしまつてつておれば、会社側のかつて行為というものがそこに許されるわけであります。  しかも、それが単に会社の製品の出荷だけを強行的にとめるということになるならば、これはまた違法等の問題が起きますが、裏に重大なもう一つ条件がある。どういうことかといいますと、これは新聞紙上にも報ぜられたわけでございますが、会社側は寄宿舎から全部ほうり出してしまつて、飯を食わせないというようなことを、労働者に対して一方においてやつておるわけであります。その場合に、全繊同盟が給食をしなければ、住むところがなく、食うこともできない労働者というものは、それぞれ遠く北海道あるいは東北、九州等からも来ておる人もおるのですが、路頭に迷う以外に方法がない、こういう非人道的なことがあえて行われておる。これに対して、何とかしろということを交渉しても、会社側は一向に応じようとしない。こういう条件も、片方においては控えておるという状態の中であります。そこで、警察がピケツト・ライン介入するようなことをしたわけでございます。私はそこの警察に行きまして警察署長に面会をいたしまして、約一時間にわたつて話をしました。そのときに警察署長が言つたのは、ピケツト・ラインは平和な説得の範囲内は合法だが、その限界を越えるのは違法だということを強調しておりました。いろいろ論議が行われましたが、結局これは自分の見解ではなくして、上から来ておる指示の範囲内において言つておるので、この見解は曲げられぬ、こういうことであります。そこで私は警察署長に逆問いたしました。あなたはそういうふうに言われるが、あなたも耳に入つておられるように、ここの工場長は、死人の一人や二人出してもピケツト・ラインヘつつ込むということを放言をしておるし、その何々組と称するところは、足の一本や二本たたき折つたつてやるのだといきまいている。もし、そういう諸君がピケツト・ラインの前面に立ちはだかつたときに、労働者諸君がスクラムを組み、まくら木を持つて来てそこに防衛線をしいているところで相対峙したときに、警官隊がこのピケツトは違法であるということで、ピケツト・ラインにつつ込んだ場合に、客観的にはどういう事実が成り立つかといえば、警察は暴力団と協力をしてピケット・ラインを突破したという現実がそこに出て来るではないか、そういうふうになつた場合に、あなたはどういうふうにされるのかということを聞いたときに、その署長は、実はそういうふうになることが、まつたくわれわれとしては困るのだ。夏川というのは、わけのわからぬことをやるので、警察でも実はほとほと手を焼いている、こういうことを率直に告白されておりました。これは現実に私がなまなましくあつた実例であります。  さらにもう一つの実例を申し上げますと、これはロツク・アウトの方と関係して来るわけでございますが、ある工場におきまして、会社は工場に、鉄条網を張りめぐらしておりますが、入口の門にも鉄条網を張りめぐらしまして、トラツクをそこにすえつけて出入口を全部閉鎖してしまう、そうして中には会社が大阪あたりでかり集めて来た暴力団というよりも、遊んでいる者を集めて参りまして、工場内の清掃作業とかなんとかいう名目で連れて来ておる、それがいるわけであります。そのときに、一体工場労働者はどういう状態に置かれておつたかといいますと、寄宿舎に監禁同様であります。これはロツク・アウトじやなくて——私はロツク・アウトということは聞いたことがあるが、ロツク・インという戦術は、近江絹糸をもつて初めてお目にかかつたということを、そのとき言つたわけでありますが、中に労働者はとじ込められておる。そうして給食を満足にしない、こういう監禁状態にあるわけであります。そこで、こちらから行つた諸君が、警察もそこに来ておつたわけでございますけれども、もしそういうことをやつて、火事でも起きた場合に、一体どうするのだ、消防車もそこに入れないではないか、逃げようといつたつて逃げられないではないか、そういうことで死人や、けが人が出たならば、一体どういうことになるかということを難詰いたしました。あの門を開いてくれ。ところが警察のそのときの態度は、ああやつて門を閉鎖し、鉄条網をやつているけれども、あそこにいきなり警察が行つて門を開くというわけには行かない、こういうことを言つておるわけであります。そこで、それならば中の者を救い出すために、おれたちの手で門をたたき破るがいいかということを念を押したところ、現場に来ている指揮官は、やむを得ぬからおやりなさい、私たちは黙つております、こういうことであります。そこで、それならばやろということで、つつ込んで行つて門を開いて、その際暴力団との乱闘事件等が発生をしたという事例がございます。  こういう場合に、労働次官通牒を出した労働省は、一体どういうふうに考えるか。その場合に、先ほど有泉さんや沼田さんからもお話がございましたけれども、警察官を積極的に会社のバリケードを取り除き門を開くということに向けてくれるのかどうか。もし、それが不可能であるとするならば、やはり労働者労働争議を遂行するという上において、こういう場合も必要になつて来る。これが先ほどからもしばしば論点になつておりました相手方の違法行為等に対する対抗的行為、この中でやはり論ぜらるべきではないかというふうに考えるわけであります。ところが、この点に関しまして労働省次官通牒は、最後において、しかもこの通牒の結びというところにおいて、「特に、暴力行使又は脅迫等の行為は、如何なる場合においても許されない。」ということを言い切つておるわけであります。一体これは具体的にどういうことになるか。暴力というのは、先ほども指摘をされておりましたが、不法な、違法な実力行使暴力である。相手の暴力に対抗するものは、これは暴力という概念に実は入らないと思います。これは現在の法体系においてもその形をとつておる。突然暴漢に襲いかかられた場合に、われわれが何か武器をとつてそれを撃退することは、決して暴力ではなくて正当防衛ということであつて、免れるわけであります。そこで使用者側のそういう暴力的な、違法な実力行使を、積極的に国家権力が排除するという保障が、あらゆる場合にとられるということになるならば、次官通牒のこの八の結びとも生きて参りますが、その保障のない、また実際の争議においてそういうことが行われないときに、こういう通牒というものは、一方的に労働者行為のみを縛るということになるわけであります。  さらにまた、先ほども問題になつておりましたが、ピケツトの中におきまして、非常にわかりにくい、それに対してまた説明を要するような文句がたくさん使つてあります。これは私どもは実際の争議行為において非常に問題になると思います。その問題になる点は、あとにおいてもさらに指摘をいたしたいと思いますが、これによりますと、こういうようなことが書いてあります。「厳重なスクラムや坐り込み等により、物理的に出入口を閉塞したり、」——スクラムやすわり込みが物理的に出入り口を閉鎖することになるのかどうか、これは問題があろうかと思いますが、それ以前に、すでにこの「厳重なスクラム」というところに問題がある。ゆるやかなスクラムならいい。そこで、これを判定する場合に、厳重なスクラムであるかスクラムでないかを、だれがどのようなものさしで判断するかということになつて参ります。おててつないでいる程度ならばこれはゆるやかなスクラムだが、腕を組んでおつたらこれは厳重なスクラムだ。あるいはすわつておるくらいならすわり込みでないが、おしりを土についておつたら、すわり込みということになるのかどうか、こういつた問題が、実際の争議の現場では幾らでも起つて参ります。さらに「説得又は団結力の誇示の範囲を越えた多衆の威嚇や甚だしい嫌がらせ等によつてこれを阻止する如きピケツトは、正当でない。」——ここでも「説得または団結力の誇示の範囲を越えた多衆の威嚇」「甚だしい嫌がらせ」ということが書いてありますが、これは受取る人の心理状態によつてたいへん違うのではないかと思います。私たちのように、戦後相当長期間争議をやつて来ました者は、共産党の諸君なんかからもさんざん痛めつけられて、何百人かによつてつるし上げを受けたことがある。私どもは、争議の現場に行きますれば、千人でも二千人でもスクラムを組んで脅かされようと、そういうことは別に威嚇ともなんとも感じない、平気であります。しかし、そういう経験を持たない人が取巻かれると、十人ぐらいでわあつと取巻かれただけでも、びつくりしてしまう。一体多衆の威嚇ということは、何十人ならば、どういう状態ならば多衆の威嚇になるか。はなはだしいいやがらせというのも、たとえばからだに手を触れてはいけないというので百メートルぐらいにわたつて人一人通り抜けるくらいの道をあけてずつと並んでおる、その中を通り抜けなければ工場に行けないというときに、私どもならばそういう点は別に平気で入つて行きます。しかしらがら、ごく臆病な人だつたら、その中を通るだけでも何かすくんでしまつて通れない。これは一体多衆の威嚇になるかどうか。そうすると、その人の感受性ということ、臆病であるか臆病でないかということで、威嚇がどの程度かということが争議の現場では起つて来るわけであります。  ところが、実際の面においてどうなるか、だれがこれを判断するかということになりますと、これは言うまでもなく幾多の例が示しておるように、警察官が判断する。ところが、その警察官の頭というものは、はなはだ失礼な言い分かもしれませんけれども労働法やその他に対しても、十分な理解を持つたレベルの高い警察官ばかりとは言えないわけであります。そこで結局行われるのは、警察の指揮者、警察官の主観によつて、この次官通牒を土台にして違法か合法かということが判断される、こういう危険が非常に多く出て来ると私は考えますし、私が考えるのみならず、これは事実問題としてそういうことが起きて来るわけであります。  そこで、この次官通牒という意味を、いろいろ具体的に私たちが考えた場合に、どういうことになるかといいますと、この次官通牒なるものは、法的に言つては何ら意味がない、ナンセンスだ、このことははつきり言えると思うのであります。先ほども指摘されましたが、裁判所の判決が、この次官通牒に書いてあるのと食い違つた場合には、こんなものはくその役にも立たない。従つて、法律的な解釈の基準としては、こういうものは何らの役に立たないものでございまして、裁判の場合に、これは裁判官の下す判決というものによつて、違法であつたか合法であつたかということがきめられるわけであります。その場合に、この次官通牒によれば違法であるとされたことでも、裁判所において合法であるというふうに認められたならば、それは決して何らの処罰を受けるものでもなければ、取締まらるべき対象でもなかつたということになるわけであります。そうなつて来ると、これは具体的にどういう場合に意味があるかということになると、争議行為の第一線に出て来るところの官憲争議行為に対する介入ということにおいてのみ、具体的な意味を持つて来る、こういう事実が生れて来るわけであります。従来警察官は、労働争議に対しまして、労働法の見地から、へたな行き過ぎをやつて非難を招いたり、あるいは裁判の場合に、そういう点警察の行為というものが問題にされるとぐあいが悪いというところから、できるだけこれには介入しないという態度がとられておつたと私は思います。最近におきまして警察官の介入等が云々されるのでありますけれども、まだその介入程度は、全般的に見た場合には、やはり相当そういう点に慎重な考慮が払われておつたという部面は幾らもあります。その点、全面的に警察が労働争議の断圧に乗り出しておるという立場には、私は賛成はしませんけれども、こういうものが出たならばどうなるか。労働行政の担当機関である労働省から、通牒としてこういうものが出ているので、明らかに今度はこれをものさしにいたしまして、警察官が堂々と争議の現場に乗り出して来る、こういう事態が起きて来るわけであります。そこで、この次官通牒が持つ労働争議の実際的意味というものは、警察が取締りのものさしとしてこれは非常に役に立つ、しかもその取締りは不法である、不当である、許さるべきでないという言葉がついておりますから、全部個人の主観にまつような判断が多いのであつて、何が不法であるかという理由をさらに解釈をする、その解釈は取締るものの主観にゆだねられる。さつき言つた厳重なスクラム、すわり込み、この二つの例をとつてみてもはつきりしている。どこまでが厳重で、どこまでが厳重でないかということは主観で判断する。そうすると、こん棒を持つた警官が争議現場に出ておりまして、手をつないでいる間はじつとしているが、腕を組んだとたんにピケ・ラインの中に襲いかかつて来るという事態が今後予想されるのではないか。そういう点から見ますと、これは検察庁かどこかからこういう通牒が出されておつて労働省が、そういうことを出してもらつては、これは労働問題は一律一体に行かないむずかしい問題であるから、十分運用に注意をしてもらいたいということを申し込んだというならば、これは労働省の存在意義がございますけれども労働省次官通牒で、こういうものを府県知事あてに出したということになると、一体その意図は那辺にあるかということに私はなつて来ると思います。  この次官通牒も、府県知事に対する通牒という形で出されている。では府県知事なり、府県の労働行政の係官が、争議をやつている現場にやつて来て、まあこれこれこういうことをしてはいけない、そこまでは違法で、ここから先は合法だということを一体指導するのか。そういうことはできつこない、やはり前面に出て来るのは、警察官がこれを使うということになる。しかもこの非常に厖大な長い内容の通牒というものは、一般の労働者はなかなか読めない。これを読ませようと思うと、われわれはこれ刷り直すなり何なりして、下部に流さなければならないということになつて来る。出たときに、すぐ私どもの方から労働省に電話をかけて、これを一般に手取り早く知らせる都合があるから刷つたものはないかというと、ないと言う。やろうと思えば何十円か出して週間ものでもたくさん買いとるか、刷らなければならないという立場になつて参ります。かりにこれをずつと地方に流しましても、全部に行きわたつて十分にこれを見てやるというのはなかなかむずかしい。しかも、この中に書いてあることは、さつき言つたように幾多の解釈上の疑義と問題点を残している通牒である、こういうことになるわけであります。  そこで私どもは、この通牒は警察官の取締りのものさしとして有効に役立たせることと、さらに一つは、この通牒の内容なり具体的意味というものが十分徹底せずに、組合に与える印象というものは、あれも違法、これも違法、これも困るということで、十分な認識のない限り、非常に萎縮的なといいますか、争議の上において消極的な形が生れて来るということであります。何も積極的な暴力を奨励するわけではありませんが、争議のときにおいても消極的な形が生れて来、しかも労働者が萎縮をするということは、争議の勢いというものに非常に重大な支障を与えるような影響があります。とすると、この次官通牒というものは、まさに経営者の番犬的な存在になる。これは具体的には何らの意味がない、法的に見ればナンセンスの通牒であるが、経営者側の番犬的役割を果す。そこにじつと犬がいるだけでも、気の弱い人は門の中に入つて行けない。同じように、この次官通牒があるときは、当然労働者が自分の権利を守るためにやつてもいいことを手控えるということが、この次官通牒にねらわれているのではないか、私はその点を特に指摘しなければならないと思うのであります。  もちろん、こういうふうに申したからといつても、私どもはあえて不法な暴力行為を認めるものではない。他人の身体に傷害を与える、不法に監禁する、器物をこわす、こういうような行為があるならば、何もこの次官通牒がなくても、現在の刑法においても、十分にそういうものは取締りの対象になります。労働組合法の一条の第二項においても、明らかにそのことは書いてある。これで私は十分だと思う。それ以上にあえて次官通牒を出さなければならなかつたというところに、次官通牒の非常な争議行為に対して、これを抑圧しようとする政治的な意図が含まれているのではないか、こういうふうに考えざるを得ないわけであります。  労働組合行為というものは、私が申し上げるまでもなく、争議のいろいろの態様によつて、いろいろな形をとるわけでございます。しかも日本におきましては、戦後労働組合ができてからわずか九年間、きわめて経験が浅いわけであります。さらにまた、判例等においても非常に少い。従つて労働慣行というのが確立をされておりません。そこから来る労働組合の行き過ぎというようなものもあろうと思いますが、この労働組合の行き過ぎというものは、決して一本の次官通牒において取締ることによつて、直すことができるものではないのでありまして、正しい労働運動が発展するような労働政策全体のあり方というものが、非常に問題になつて参ります。この点から考えた場合に、先ほど来経営者方々は、労働組合側の不当な行き過ぎというものを、非常に強調されておりました。私どもが強調したいのは、労働組合側の行き過ぎ行為はなるほど現在あります。私たちはそのことを率直に認めますが、あえて次官通牒を必要とするほどのものではない。ごく一部に見られるものでございまして、ある程度の時間が過ぎれば、それは反省の材料となつて、そこから組合運動の刷新が行われて来ておるというのが現実であります。しかしながら、労働組合側の行き過ぎよりも、現在日本において最も憂うべきは、経営者側の労働問題に対する無理解、頑迷さであります。夏川主義者があまりにも多いということであります。すでに今日、戦後九年もたつておりながら、なおかつ労働組合をつくることが、不当な主人に対する反抗であり、労働争議をやることは暴動である。争議に対する応援団は暴徒のたぐいであるというような見方をしておる経営者というものが非常に多い。こういう経営者が、そのような考え方から、労働組合に対して不当に干渉をし、労働組合争議行為に対抗意識を燃やして、けんかを買つて出る、売つて出るというようなやり方が、労働組合が、やらなくてもいい行き過ぎ行為というものを挑発をするということにもなるわけであります。この点は、次官通牒においても触れられておりますので、労働省としても目をつぶつておるわけではございませんが、これがむしろ重要なことでありまして、政府の労働政策というものが正しく運営をされ、経営者が十分に反省をいたしまして、労働争議が行われても、お互いにフエア・プレーに終るというような形が確立されますならば、行き過ぎに行為というようなものは、自然に減少をして来るわけであります。その場合に、経営者側も、そういう点に関してはほんの申訳的につけ足りに触れるだけであつて労働組合行為のみを全面的についておるという次官通牒は、私たちから言えば、はなはだ片手落ちである。この際特に、先ほど三段崎さんが言われましたが、デフレ下に入つて、デフレ下の労働運動労働組合は、防衛の立場に立たなければならないときに至つております。三段崎さんは電車の中で読んだそうでありますから、読み違えたのだと思いますけれども、私の書いておることは、ああいつた意味で言つたのではない。これから労働組合運動は防衛の運動をやつておる。防衛の運動ということは、経営者側が攻勢の立場に立つて、いわゆる資本攻勢というものが行われておるときに、労働省通牒として出すべきことは、経営者側は断じて行き過ぎた対労働組合攻勢をとるべきではない、労使関係について正しく対処すべきであるし、そうして不当労働行為にわたるようなことはしてはならない、そういうことを厳重に警告を発しまして、公正な労使関係が確立をされるというふうにすることこそ、この通牒の前文にうたつておる労働教育を主要な任務とする労働行政としての責任の果し方であろう。このことを最後に申し上げまして私の意見を終りたいと思います。
  70. 日野吉夫

    ○日野委員長代理 質疑はありませんか。
  71. 辻文雄

    ○辻(文)委員 非常に和田参考人の論旨はけつこうだと思いますが、今次官通牒について、労働省通牒が全般的な労働運動に対して、消極的になる役に立つであろう、こういうふうなことだけをおつしやつたようで、積極性が欠けるようになるのではないかというお話でしたが、あなたは長年の経験者でありますから、私どもの立場からちよつとお伺いしたいのは、私自体は学究者の今日の参考人としてのお話を承つても、またそれ以前にも、非常にこの通牒に対して疑問を持つてつたことは、たとえば水準が低い人へのこの意味の正しい本質的な浸潤と、それからそうさせるには、あなたがおつしやつたように非常な努力がいる。しかしながら、一般的に日は浅いといつても、終戦後に育成された労働運動に対する本質意識というものは、指導者間にあつては私は急速な進歩と確立性を持つて来たと考えなければならぬ。その間から、もし申し上げるならば、あなたのようにりつぱな指導者がおつて組合を健全化するために、いかなる指導をするかというこの本質を守つて行かれる方ならばけつこう、そうでない場合には、この通牒の陰に隠れておる、いわゆるお互いが心配をしておるようなことがさらに拡大して解釈をされた場合に、これを応用されるということになると、積極どころではない、もし言つていいならば、暴力革命に対するプラスになるのではないか、むしろ私はそういう害のことが現われて来るような気がするのですが、実際の体験者としての和田参考人のお考えはどうあられるかということを一つだけお聞きしておきたいと思います。
  72. 和田春生

    ○和田参考人 ただいまの御質問に対しましては、私言葉が多少足りなかつたと思うのですが、先ほど申し上げたのは、次官通牒のねらいが、先ほど言つたようなこれによつて心理的な弾圧作用を考えて、一般の末端労働者が、争議行為において消極的になることを意図しているのではないかということを申し上げたわけでございますし、また実際にそういう部面も出て来るのであろう、この点はわれわれの手によつて克服をしなければならぬというふうに考えております。  もう一つの今の御質問の点でございますが、確かに、こういう問題が出て参りますと、あさはかな警察官、あるいはどつかからの意図を受けて現場に臨んで来たような場合に、労働争議が不当な干渉抑圧というものが行われる。     〔日野委員長代理退席、委員長着席〕  そうなりますと、やはり争議をやつているときには、平常よりも気が立れているというのが常でございますから、ここではげしい反抗心というものが燃え上る、こういうことになることは、御質問の通り否定できないと思います。そうなつて参りますと、これは暴力革命を意図する者がおるならば、もつけの幸いでございまして、単に権力闘争に動員をするためには、むしろこの次官通牒を有力な武器として便う、こういうことは私たちとしても十分予想される、こういうふうに考えます。
  73. 赤松勇

    赤松委員長 他に御質疑ございませんか。なければ、和田参考人どうもありがとうございました。  それでは次に国学院大学の北岡教授にお願いしたいと思います。北岡参考人
  74. 北岡壽逸

    北岡参考人 本日は労働争議に関連して行われます実力行使と合法性の限界というような問題につきまして、意見を徴されたと思う。具体的には、過般出ました次官通牒に関する私の意見を徴せられたものと思いますが、この問題に関しましては、私は文明国の中に、おのずからちやんと社会通念がきまつておると思う。それを一言にして言いますれば、労働争議に関して、暴力行為は許されないという一言に尽きると思う。しかるに、わが国におきましては、まことに遺憾なことでございますが、労働争議に関しまして、非常に暴力的な行為が多い、もしくは暴力行為一歩手前という行為が非常に多い。これはいろいろな事情もございますが、いかなる事情がございましても、暴力行為もしくは暴力行為一歩手前といつたような現象が、労働争議に非常に多いということは、われわれは非常に遺憾としなければならぬと思うのであります。  そこで、どうしてこういうようなことがあるかということにつきまして、経済的、社会的に申し述べますれば長くなります、そんな必要もないと思いますが、ここで一言私見を申し上げますと、一つ日本労働組合というものが、発達後なお日が浅い。労働組合の発達というものを、日本は、かりに大正元年鈴木文治さんが友愛会をつくつてからとしましても、四十五年になりますが、イギリスが三百年というものを持つておるに比べますれば、非常に短かいし、かつまた、戦後日本がアメリカさんの指導のもとに、非常に強力な労働組合保護の規定をつくつて、そうしてアメリカさんの進駐軍が率先して労働組合を指導、奨励、扇動してまわつたときからしますと、九年でございます。要するに日が浅い。その日が浅いせいもございましようが、日本労働組合というものは、実はほんとうの健全な形はなしていないと思う。たびたびここで申されましたように、外国の労働組合は、当該事業もしくは当該の職業のものはすべて労働組合をつくつておる。そてでピケツトの必要というものはない。日本のは、どうも大部分のものが企業別組合でございまして、その同業の間の連帯がない。連帯がございますれば、それは総評とか全労とかいつたようなものでございまして、労働組合それ自身じやない。  そこでちよつと字句に走りますが、労働組合と申しますれば、英国にあるトレード・ユニオンでございまして、当該の職業もしくは産業が団結せるものが労働組合——日本のは当該企業本位のものでありまして、トレード・ユニオンでない。文明的にピケなしに労働争議効果を発揮するためには、このトレード・ユニオン、同業者もしくは産業を結合したものでなければできない。しかるに、日本はそういうものでなくて、企業別の、いわば御用組合ではございませんが、会社組合なんだ。そういうものが労働組合効果を発揮しようとする、乱暴な言葉を使いますれば、労働組合にあらざるものが、労働組合と同じだけの効果を上げようとする、ここに無理があるのではないかというのが私の考えです。  そこでこの通牒は、なるほど労働組合といたしましては打撃かもしれませんが、これに対しまして、この通牒はけしからぬ、通牒ピケを無力化するからけしからぬというようなことをおつしやる前に、労働組合方々は、日本にはほんとうの労働組合はないんだから、これはけしからぬということで、産業全体を総合したところのほんとうの労働組合の結成に当らなければならぬのではないかと思うのであります。  もう一つ日本労働運動暴力もしくは暴力一歩手前の行為が多いのは、労働組合法の第一条第二項というものが、妙な規定ございまして、世界のどこの国におきましても、こういう規定はない。私寡聞でありまして、もしございますれば、教えていただければありがたいと思いますが、私の知つておる範囲においては、労働組合法第一条第二項のようなものは、世界のいずれの国にもない。こんなものはなくても、社会通念上、当然正当なことは刑法の三十五条の適用を受けまして、違法にはならないし、普通のものならば刑法上の犯罪になるけれども労働組合だから犯罪にならない、そんな妙なことはない。ところが、わが国一般に、何か普通の場合においては犯罪になるようなことが、労働組合に関連してやれば、犯罪にならないというような妙な考えを持ち、また官憲も裁判官も、こういうふうな考えを持ちまして、労働組合は一種の——これも言葉が過ぎるかもしれぬが、暴力に近いものを自由に振りまわしてもいいというような考えを持つて、近ごろの判例を見ましても、どうも暴力是認の判例がぼつぽつ出ている。私の知つている限りにおきましては、まだ最高裁で判決の確定しましたものはないようでございますが、下級の裁判所のうちには、何だかこういう事態のもとにおきましては、期待不可能といつたような——期待不可能というのは、普通の言葉でいいますれば無理もないという言葉でございましようが、それで暴力を是認したり、あるいはこれから問題になりますピケの問題につきましても、去年の年末でございますが、ピケ・ラインを突破する者に対して、ピケ・ラインをしく権利行使する、もしくは平和的に説得する機会を与えるためにする——これは少しおかしいと思うのでありますが、そういう理由のもとに暴力を加える、これが無罪であるといつたような暴力是認の判決がある。私は、これはまことに苦々しいことと思う。こういう暴力行為を一般に裁判所も官憲も見のがしたものですから、近時わが国の労働争議におきましては、バリケードを築きましたり、次官通牒の対象になりますような正当ならざるピケが非常に横行、闊歩している。私どもニュース映画で見る限りにおきましても、日鋼のストとか、近江絹糸のストとか、また山梨銀行のことはニユースでは見ませんが、雑誌で詳しく見ますると、どうもこれは暴力もしくは暴力一歩手前にありまして、これは文明国としましてはまことにはずかしい次第である。  ことに、もう一つこれにからみますことは、いわゆる応援団なるものが参りまして、これが指揮をしている。しかもその応援団のやり方を見ますと、どうもこれは共産党がかつているのでありまして、普通の経済上の取引がございまするストが、どうもこのごろ共産党の暴力革命の手段ではないかという感じさえもするのであります。こういう際におきまして、労働省がこの次官通牒を出されたことは、私は大体において機宜を得ていると思うのであります。この骨子は、暴力及び暴力一歩手前の不法なる実力を防止したいという労働省考えでございまして、私は、これは何人かがしやべられましたように、おそきに失する、もつと早く出すべきものであるものを、おそきに失しまするが、出さざるにまさるのでありまして、大体において賛成であります。  この通牒に関しまして意見を述べますれば、ずいぶん多岐にわたります。何分にも厖大な長い通牒でありまして、しかも非常に字句は洗練された、用意周到な字句をしきりに使われておるものですから、なかなかこれに対してこちらも少しも負けないような論陣を張るということはよほど困難だと思う。私は、それほどの必要もございませんし、ここに多くの人が論ぜられましたが、この通牒に関連しまして総評並びにただいま和田さんが話されました全労、右社などの反対声明を見まして、この通牒の中心は、ピケツトの可否という点にあると思いまするから、この一点について私の所見を申し上げてみたいと思うのであります。  この通牒には、工場占拠とか強行就業とか、生産管理とかということの否認もございます。しかしこういう問題につきましては、少数の学説のうちには反対論もございまするが、大体判例におきましても、一般社会通念におきましても、そういうものが違法であるということは認められておりますので、今日の中心は、ピケの合法性の限界であろうと思うので、この問題につきましてお話したいと思うのであります。  私見を述べたいと思うのでありますが、私がけさから聞いておりましてちよつと異様な感じがしましたのは、高野さんが長々とお話なさいまして、それに対して大橋委員が、一体この通牒ピケを不法視したのかどうかという質問をされたときに、高野さんは、そういうことは法文にはないが、全体の構成がどうもピケを否認するにあるようだ。また別の機会に中西労政局長は、ピケは違法ではありませんとあつさり答えられた。そうかと申しますると、ここに全労や社会党の右派のようなきわめて穏健な方々の声明なんかを見ましても、これはピケを無力化するものである、そして労働組合を無力化するものであるというようなことを言つておる。私は、ここにこの通牒の非常に重要な意義、かつまた日本の現在の社会の、非常に強い言葉で言いますれば、病的な現状があると思う。中西さんが、ピケは違法ではありませんとあつさり答えられたこのピケというものは、いわゆる平和的説得ピケである。ところが、今、日本で私どもがニユース映画で見ますところのいわゆるピケというものは、そんななまやさしいものではない。白はち巻をして、スクラムを組んで、赤旗を立てて——赤旗といえば、労働組合の旗だそうでございますけれども、一般の人にはあれは共産党がかつた人の旗だと思える。それがインターナシヨナルだとか言つておる。これはいわゆる暴力そのものではありますまいが、暴力一歩手前というものではなかろうかと思う。これを否認したのがこの労働省通牒のエツセンスだろうと思う。  労働省通牒は、頭のいい役人が非常にこまかく書いたものですから、一、二、三、四と詳しくいろいろなことが書いてございますけれども、エツセンスはこのピケツトの総論にあると思う。ここで厳重なスクラムだとか、いやがらせだとか、ごちやごちやと、悪く言えば逃げ口上、よく言えば頭のいいところを示しておりますけれども、このエッセンスは、スクラムを組んで——これはバリケードは、だれもいいとは言わないから、問題はございませんが、問題は、スクラムを組んで「嫌がらせ等によつてこれを阻止する」とあるのですが、これというのは、正当な出入りを阻止するごときピケツトと私は思う。要するに、スクラムを組んだり、それからその他の行動で——一番いい例はスクラムでございますが、スクラムを組んで正当な出入りを阻止するというのはそれは正当ではないということが、私はこの長い通牒のエツセンスだろうと思う。  これがいいか悪いかという問題、これがどういう効果を持つかという問題だろうと思うのですが、私はこれはいいと思う。こういう実力をもつて出入を阻止するということは、いけないことだと思う。これがどういう効果を持つかと申しますれば、非常にこの効果は大きい。すなわち、もし裁判所がこれを認めますれば、刑法上は業務妨害ということで、これによつて処罰されましようし、また正当ならざる行為でございますから、労働組合法第八条の免責がなくなりまして、損害賠償を訴えられる。これは実際上は損害賠償なんかとれぬと思いますけれども、理論上はそうなる。それからまた労働組合法第七条第一項の不当労働行為の保護を失いまして、解雇されても文句が言えない。それからさらに、ただいま和田さんから長々とお話がございましたように、警察官がこれに対しまして干渉する一つの基礎ができるので、これはまことに重大なことを行政官庁が指示したものであると思うのであります。  しからば、これによつてどんな弊害があるかと申しますれば、ただいま和田さんはいろいろな場合をあげられました。和田さんが今あげられましたような近江絹糸のような場合につきましては、もし和田さんの言葉通り、正しければ、私はどつちかといえば、その場合におきましては、労働組合の方がもつともであつて、その程度の緊急行為はやむを得なかつたかと思うのであります。しかしその場合にも、お話を承つておりますと、警察官さえもバリケードをぶちこわしてよろしいと言つておるのでございますから、日本の警察官はその程度のものはわかるので、この通牒を見て、そう警察官は濫用するものではなかろうと思う。物理的に出入口を閉塞するとか、出入を阻止するとかいうことは、常識的にわかることなんでございますから、この通牒を誤解して、警察官が不当に争議に関与することはなかろうと私は思う。もしそういう弊害がございますれば、労働省はまた第二、第三の通牒を出して、不当な警察官の干渉をおとめになれば、それこそ労働者に対するサービス機関としての労働省の役目がまた果せるだろうと思います。現在のところにおきましては、そういうおそれはございませんから、現在わが国の最も嘆かわしい病根でございます暴力を伴つたピケというものを防止するために、労働省がこういう通牒を出されることは、非常にいいことと思う。  なお私は、こういうような違法な、文明国らしくないピケを制止することは、これはもとより日本産業日本の社会のためにも必要でございますが、同時に、日本労働組合の健全なる発達をはかるためにも必要でございまして、こういう暴力類似のことをやつて労働組合がその目的を達するということでは、労働組合の健全な発達はないだろうと思う。ですから、労働省はそういうふうな日本の社会経済労働組合の発達、すべての点を総合しまして、勇敢にこの通牒を施行せられんことを希望するのであります。  なお一言、私は労働省が今回、当然ではございまするが、今日の日本におきましては相当の勇気がいることと思うのでありますが、この通牒を出された。この同じ精神を延長せられまして——現在私が非常に苦々しく思つておりますことは、官公労ですか、われわれの古い言葉で申しますれば官吏でありますが、昔は官吏というものは、国民の儀表たるべしという訓練をわれわれは受けております。今日の官吏は国民の公僕でありますが、公僕であろうと国民の儀表であろうと、とにかく官公吏、もしくは官公吏に準ずべきところの公共企業の職員が、法規に反して実力行使をするということを大規模にやつておる。私は、労働省はこれをとめるように努力せられたいと思う。もし労働省がその勇気がなければ、本労働委員会労働省を鞭撻して、かかる法律蹂躙の行為を阻止するように措置せられたいということを、最後に意見を述べまして、私の陳述を終ります。
  75. 赤松勇

    赤松委員長 どうも御苦労さんでございました。  御質疑がありますか。——警視総監がお見えになりましたから、簡単に願います。多賀谷君。
  76. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 北岡参考人にお尋ねいたしたいと思います。  まず第一に、日本労働組合の特色ともいうべき点をあげられたと思います。われわれはこれを非常に重大に傾聴したわけでございます。そこで私はお尋ねいたしたいのですが、参考人が希望されておるように、今の日本労働組合は、企業別の労働組合からさらに産業別労働組合に移行するように、組合自体は考えておりますけれども経営者の方が考えていない、むしろ労働運動の趨勢は逆の方向に行きつつある。運動そのものは行きつつはございませんけれども、実態はそういう方向に行きつつある、こういうことを非常に遺憾に考えるわけであります。ことに、すでに産業組合として確立し、産業組合の交渉をやつておりました電気産業労働組合が、御存じのように企業がわかれたということで集団交渉が拒否されて、そうしてその交渉の確立のために長い間の争議が行われたことは、御存じの通りであります。われわれから見ますと、電気産業というような産業は、他の産業に比べまして、経理内容が比較的はつきりしており、かつ電気料金というものは、通産省の認定を得るものである。こういうものこそが、私はやはり産業別労働組合として、資本家の方でも受入れてやるべき最もいい条件にあるものであろうと考えるわけですが、そういう問題がきわめて強硬に、がんこに拒否され、御存じのように分断の労働組合ができた、こういう事情もございます。また今現に争議をしております炭労におきましても、これは対角線交渉と称しておりますが、要するに集団交渉を申し入れておりますが、これが頑強にけられておる。こういう事情でありまして、私は遺憾ながら今の実態はお話のようにはなつていないと思うのです。あなたは学者として、この実態を見てどのようにお考えであるか。やはり経営者はこの際反省をして、産業別労働組合組織することに、援助とは申しませんけれども、若干の寛容さを示すべきであるというようにお考えであるかどうか、この点をお伺いいたします。
  77. 北岡壽逸

    北岡参考人 私は今申しましたように、労働組合は全職種もしくは全産業を網羅した一個の団体でなければならぬと思います。これが今日むしろ逆方向に向つてるということは、まことに遺憾であると思つております。この点におきまして、あなたと同意見でありますが、どちらに責任があるかという問題になりますと、私は必ずしも雇い主のみに責任があるとは言いかねると思います。と申しますのは、例にあげられました電産にしましても、炭労にしましても、どうも少し無理があるのじやないか。私は電産の労働組合をよく知りませんが、断片的に申しましても、たとえば労働時間は、世界の労働時間は、ああいう継続産業につきましては一週五十六時間になつておる。日本はそれが、前は三十八時間でしたか、今度かえられて四十二時間、世界の標準よりずつと少い時間でやつて行こうというのです。それから賃金とか退職手当等にしましても、どうも退職手当なんかは、日本の一般の企業よりは非常に高い。そういうものを、あの強い組織力を利用して強引に押して行こう。そしてそれがために、最近スト規制法で規制せられましたけれども、停電といつたような、文明国のいずれにもないような、一般の国民に犠牲を与えるような方法でもつてこれを強行したということは、私はやはり無理があるのではないかと思います。炭労にしましても、日本の石炭というものは、これは基本産業で、かなりコストを下げて炭価を安くしなければならぬということは、もう日本産業のためには必要であるにかかわらず、どうもそういう方面で炭労が協力しなかつたというような労働組合側の無理も、それだけとは申しませんが、責任もあるのじやないか。労働組合の発達というものは、そう一朝一夕にできないので、これは相当多年の信用と実力によつてのみ達し得るものであります。こういう国民経済の根幹に触れるような労働組合が、従来、やや日本経済を無視したようなことをやつたことについて、せつかくできましたこの産業別の労働組合が、むしろ逆転しておるような責任の一半をわかたなければならぬのではないかと思います。
  78. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 組合自体のあり方といいますか、考え方あるいは運動の仕方ということに対する御批判もありましたが、これは識者の間、あるいはまた従来長い間の、内務省が社会局の時代、あるいは農商務省あたりの古い労働組合の試案におきましても、やはりこういう点が見られておる。これは大正年間でありますが、要するに従業員でない労働組合員を認めないというような案するやはり昔出て来ておる。これはもちろん法律として出て来たわけではありませんが、そういう案が何度も考えられておる。また基準法の関係にいたしましても、最近はそういう時間外協定なんかを一律に法規で規定しないで、その企業の労働組合が承認すればいいじやないかという考えが出て来ておる。むしろ政府当局として、そういう企業別組合を奨励したような考え方が、従来日本の労働政策にあるのではなかろうか、こういう点を考えるわけです。それがやはりこういう産業別労働組合が育たないゆえんでもあるし、またそれが非常に障害になつておる、こういう点を考えるのですが、学者として、またあなたはかつてそういう関係にもおられた方ですから、一応お伺いしたいと思います。
  79. 北岡壽逸

    北岡参考人 私はいまだかつてこの企業別組合もしくは従業員本位の組合がいいと考えたこともないし、社会局におきましても、そういうことを奨励したこともないと思います。労働組合は、常に同業もしくは全産業を網羅したものであつてほしいという考えを持つてつたと思います。かりに、そんな考えがありましても——それは農商務省がそんな考えを持つたということは、今から四十年も前ですから、そんなものは今日の労働組合のいかなる部分におきましても影響はないので、今日の労働組合が企業別になるといたしますれば、それは全然他の影響であると思います。
  80. 赤松勇

    赤松委員長 どうも御苦労さまでした。     —————————————
  81. 赤松勇

    赤松委員長 なおこの際委員の皆さんにお諮りしたいことがございます。それは昨日来本委員会におきまして問題になつておりました、例のハウス・メイドの不当解雇の問題でございますが、ただいま外務省の方から回答がありました。一応正式に委員長あてに回答が参つておりますから、この回答文を御紹介申し上げまして、そしてこの取扱い方につきまして皆さんの御意見をいただきたいというふうに思います。    「ワシントンハイツ」に於けるメイド不当解雇に関する件  一、本件に関する八日付新聞記事に鑑み安川国際協力局第三課長から十日付公文で日米合同委員会米側タラント大佐に対し真相を問い合せ十三日までに回答を要求した。  二、その後度々米軍係官に対し回答を督促したが目下調査中との由であつたので十七日午前再びタラント大佐に照会した処同大佐は問題は極東軍労働課長アイリツクに委牒したので同課長から聞かれたい旨回答あり、仍つてアイリツク課長に照会した処AFFE(米陸軍)J5のイングル氏に更に委牒した旨回答あり。  三、仍つてAFFEのイングルに照会した処安川課長の照会文は本十七日午前中に受理したのみなので回答は一週間以内に公式に行う旨答えた。    外務省係官から本件に関する衆議院労働委員会の決議を紹介し至急回答方要望しておいた。以上のような回答が参つておるのでありますが、これに関しまして、どのように扱うか、御意見がありましたらどうぞ。  それでは、私先ほど各派の理事の皆さんの御了承を得たわけでございますが、この外務省の誠意を信じて回答を待つ、回答が参りましたならば、ただちに委員会を招集する。その委員会の招集につきましては、私に御一任を願う、かように決定してよろしゆうございますか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  82. 赤松勇

    赤松委員長 では、さよう決定いたします。     —————————————
  83. 赤松勇

    赤松委員長 それでは東証争議に関する警察官の不当介入事件につきまして、これを議題といたします。  まず最初に東京証券取引所の労働組合側参考人から御発言をお願いしたいと思いますが、細谷君にお尋ねいたしますが、発言される方はどなたでございますか。それから順序もおつしやつてください。
  84. 細谷節也

    ○細谷参考人 一応事件の事実の大要を私から述べさしていただきたいと思います。その次に直接当日警察の方と交渉に当つた鈴木法規対策並びに野手渉外部員から、その趣旨を申し上げたいと思います。さらに実際にピケに入つておりまして、検挙の寸前まで追い込まれた渉外部の後藤に、その事実を述べさせようと思つております。
  85. 赤松勇

    赤松委員長 それでは細谷参考人
  86. 細谷節也

    ○細谷参考人 まず二十六日の二十四時間ストについてその経過を述べさしていただきたい。われわれ東京証券取引所の労働組合は、二十五日の十一時四十分に団体交渉が決裂しまして、五十五分に理事長にスト通告を行いました。二十六日の午前零時からストライキに入つたのであります。一時半ごろ、経営者側鈴木萬造からロツク・アウトの通知を受けました。三時を期してロツク・アウトを行う、こういうような通告があつたわけです。しかしながら、その後何のこともなく、八時半ごろ市場館の方で多少のもみ合いがあつたという報告を受けております。さらに十二時二十分ごろ、日本橋警察に副委員長の竹村と法規対策の鈴木が行つて、津田警部と交渉した報告を受けております。さらに十一時三十分ごろ取引所本館の前のラサ商事という建物に、警察署並びに警官隊の本部が置かれているということを聞き、ここに組合の代表をよこしてほしいということがあつたので、ここにおります野手並びに鈴木と、それから参議院の亀田代議士、衆議院の猪俣代議士に同行していただきまして参りました。その前に経営者側で仮処分の申請がしてあつたと見えて、三時ごろ裁判官が見えました。それで私はその席上に立ち会つているときに、三時半ごろ経営者側に買収された——これはわれわれが調査した範囲では、日当として千円あるいは五百円ずつ二、三回受けていると申し立てておりますが、買収された場立の人たちがピケ破りに参りました。これを整理するという名目のもとに、一千名の警官隊が中に入りまして道をあけたわけです。ところが警官隊は、裁判官の仮処分の判決が下る前に、ただちに実力行使に入りまして、ピケ隊をくずした。ピケを破つたのです。さらに四時四十五分、五時から実力行使を行う、こういうふうな通告を行つて来たのです。その際われわれとしましては、マイクを通じて、まだ仮処分の判決が下つていないのだから、警官隊はどういうような理由でわれわれの争議妨害するのだ、そういうような放送を何度も行つておりますが、警官隊はそれにもかかわらず、われわれの争議介入して参りました。  その際私が本館三階の第三会議室で裁判官と会談中、ここにおります鈴木法規対策部長がいきなり飛び込んで来まして、警官隊が暴動化して来た、建物をぶちこわしておるがどうするかと言いに来ました。私はただちに飛んで行きまして見ましたが、本館南側の日興証券寄りの窓ガラスを、制帽をかぶつた警官がこん棒をさか手に持つて窓ガラスをぶち破つておるのを見ております。そのようにして警官隊は不当に入つて来て、われわれの建物を破壊しようとしたのです。  そこでわれわれの組合は、まず第一に職場を明るくするために結成されたのです。われわれの働く職場がこのように警官隊の暴力によつて破壊されることは忍びない、われわれの職場を守らなければならない、建物を守らなければならないという見解に基いて、自主的にピケを解いたのです。それが二十六日の争議の経過の大要です。  それでは、警官が何ゆえにこのようにわれわれの争議介入して来たかということについて、その後われわれ組合が証券会社の、われわれに同情を寄せてくれる人たちを通じて集めた情報によりますと、すでに二十二日、金曜日、われわれがストライキに入る四日前に、日東証券の土屋陽三郎が、これは社長ですが、社長室にスキヤツプとなるべき人たちを集めて、もし取引所がストライキに入つて場合には、警官隊が来るから、その指示に従え、こうはつきり言つております。それから山一証券におきましては、そのスキヤツプを屋上に集めまして、取締役がそういう注意を与えております。さらに、これは争議の後ですが、日本橋警察の私服が各証券会社に参りまして、答申書をつくれというように強要したそうです。これはいわゆるスキヤツプ——これは各証券会社の場立といつて取引所の市場に入つて直接売買に当る者ですが、そのスキヤツプが正当な権利行使について自発的に行つたのだという意味を書いた書面に署名捺印しろ、さらにボタンがとれておつたとか、時計が落ちたとか、そういうことがあつたら克明にこれを書けといつて日本橋警察の私服の者がまわつたそうです。これは実栄証券、玉塚証券、丸萬証券、そういうところの者が実際にわれわれに証言しております。  さらに、これは私個人非常に納得の行かないことですが、争議後十一月一日に、青年行動隊の幹部三名並びにその他の者に対して、日本橋警察から任意出頭書が来たのですが、これを持つて来た磯貝警部は、役員室から電話をかけて、ちよつと話したいことがあるから役員室へ来てくれ、こう言つたのです。ところがわれわれはそのとき闘争委員会を開いておりまして、今行けないからと言つたら、組合本部の前に来て任意出頭書を渡したのです。その後さらに委員長としての私と、副委員長茂木、竹村の三名に対して任意出頭状が参りました。私は十一日に警視庁へ行つたのですが、そのときには、被疑者として取調べをするといつて、十一時ごろから六時ごろまで取調べられたのですが、最後に、ストについて何か感想があるか、こう聞かれたときに、私にはどうしてもわからないことがあると申しましたら、それは何だ。これは調べたのは櫻井警部ですが、そう申しますから、われわれは六百五十六名で、しかもできてわずか三箇月しか過ぎない、それの経済闘争に対して、なぜ一千名の警官隊が出動したのですか、その理由を聞かしてくれと言つたら、その理由はいずれ公判廷できまるだろう、こうはつきり申しております。それで私は、警官隊は理由なくして出動しておいて、あとでその理由を公判廷できめるのか、こう言つたら、そういうことは一切君たちに言う必要はない、こうはつきり明言しております。  そういうことを勘案すれば、さらに先ほど申しましたように、二十二日にすでに、取引所がストライキに入つたときには、警官隊が来るからその指示に従えと、スキヤツプに各証券会社の社長が話しておつたという事実を考えれば、理事者側は最初から警官隊と連絡をとつて、われわれの争議に関して何の理由もなく警官隊を出動さしてわれわれの争議を弾圧しようという魂胆があつた、ということをはつきり申し上げられると思うのです。  その際に、それではそのような証人があるかどうかというようにお考えになると思うのですが、これは兜町という特殊な社会の事情をこまかく話さなければわからぬと思うのですが、それはいずれ明日労使関係についてということがありますから、そのときに詳細に申しますが、何しろわれわれがデモ行進を行つた際に、これは金十という証券会社の人ですが、デモ行進とはいいものだな、われわれも一ぺんやつてみたいと言つたら、ただちに取締役に聞かれて、即日三名が解雇になつております。そういうことですから、われわれにこういう情報を教えてくれた本人に、それでは君たちも参考人として出てくれぬかと言つたのですが、労働委員会としてわれわれの証言したことを保障してくれれば、どんどん行つてその事実を述べる、そういうふうに申しているのです。  非常にまとまらないですが、大体当時の経過と、それから警官隊の不当介入に関するわれわれの得た情報は、以上のようなものでございます。
  87. 赤松勇

  88. 鈴木正一

    鈴木参考人 二十六日の午前零時にストライキに入りましたが、青行隊長の指令に基いて、全組合員は一応朝からのスクラムを組む部署につけという指令がありまして、全組合員はただちにその部署についたわけです。  そのときに、労働歌を高唱したわけでありますが、そうすると、ただちに日本橋の警察署から十名内外の警官、私服が来ておりまして、そのときには日本橋署長もおられました。それで私は組合の本部の方におりましたが、そのときに警官隊とピケ隊がもみ合つたという知らせがありましたのでただちに行きますと、組合員は夜半であるから、シヤツターをおろして中へ入ろうとした。そして責任者を出せというので、私はここにおります野手君と警官の前に出たわけなんです。そうしたら、車へ乗せられて日本橋の警察署に連れて行かれました。それから日本橋署長と公安主任の方から、夜間に騒音を立てるのは軽犯罪法の現行犯だということで、きわめてきびしい御忠告を受けたわけなのです。そうして、その忠告が一時間半ほど続いて、午前二時三十分ごろ本部へ帰つて来たわけです。そうしますと、理事者側からロツク・アウトの通告書が出されていたわけです。それで組合としては、そのロツク・アウトは、ただ宣言だけでは成立しない。およそ争議行為というものは、事実行為でありまして、たとえば明日からストに入りますといくら言つても、その当日になつてストライキに入らないで仕事に従事していたのであれば、これは争議行為と言うことはできないわけであります。そうしてそのロツク・アウトも、当然そういつた事実行為でありまして、たとえば従業員が家庭に帰つている留守に、よろい戸を締め、あるいはバリケードを築いて、朝行つてみたらもう職場に入ることができないというような状態がロツク・アウトである。こういうようにわれわれは解しまして、これは野手君が江口警視総監に会われたときに、やはり同じような趣旨の見解を持つておられるということを開きました。従つてその通告書はロツク・アウトとしては意味がない、こういう結論に達しましたので、われわれはあくまでもその正当なルールに従つてピケ張つて朝になつたわけなんです。  それから二十六日の十二時三十分ごろだつたと思いますが、私と副委員長の竹村は日本橋局に、警視庁の津田警部、三浦警部補が来られて呼ばれていたので、行きました。そうしたら、そのときは、もちろん警官隊は坂本公園のところに全部出動していたわけですが、警視庁の見解としては、よろい戸をおろしているのは違法であると言われました。しかしわれわれは、よろい戸を全部おろしていたのではなく、ちやんと一箇所開けまして、そこでピケ協定を結んで、各証券会社とか健康保険とか実営証券とか、そういつたものとの間にピケ協定を結んで、自由に通行できるようなピケ張つていたわけです。そうしてピケの一番初めには、受付所を設けて、そこで通行証を発行して自由に通過していただいたのです。そしてそのほか、たとえば二時半ごろ裁判所が仮処分の申請に基いて当所へ参られたのですが、そのときも自由に通られた。決してわれわれは第三者、使用者にかかわらず防止した事実は、一つもないのであります。  それから一時ごろ——これは一時から取引所で後場が開くわけでありますが、やはり協和会員が多数押しかけて来て、ピケ隊を破ろうというふうな形に出たわけです。そこで説得ピケ隊は努めていたわけですが、そのときに日本橋署はラサ商事株式会社の一室を本部として、そこでわれわれの東証労組の責任者に来てくれ、こういうことを言つてつたわけであります。このときに野手君とそれから鈴木弁護士その他がラサ商事株式会社の事務室へ行つて、その経過はいずれ野手君から説明があると思います。しかし警官隊がそのときに協和会員を一応あとへ下がれといつてピケ隊と協和会員との間を故意にさいて、それから警官隊にかかれといつてピケ隊を破ろうとしたわけです。そしてわれわれの方では、破られてはいけないというわけで、全部シヤツターが開いていたのでありますが、半分くらいシャッターをおろしたわけです。そしてそれが終りまして、野手、それから鈴木弁護士等が帰つて来ないので、今度は私とそれから応援にかけつけてくれました猪俣代議士、亀田参議院議員、この二名と一緒に再び日本橋署長に会いに行つたわけであります。  そのときに日本橋署長は、時間がないから少しだけということで十分ほど面会したわけなんですが、私はそこで一つ言いたいことは、亀田参議院議員がそのときに、あとでこれは国会なんかで当然問題になることだ、その場合にだれがどう言つたとか、こう言つたとかはつきりしない場合が非常に多いので、ただ一つだけ私は聞くが、日本橋警察署長は労働争議というものをどういうふうに考えているか、どういうふうな根拠に基いて警官を派遣しようとするのかという二つのことを聞かれました。そのときに日本橋署長は、私は労働法学者じやない、むずかしい労働法のことはわからない、しかし私は経験として感じでもつてやるのだということをはつきり申されました。そういうことで、時間がなかつたので引揚げて来たわけなんですが、その本部へ帰る途中で証券会社の従業員は十名ばかり私のところへやつて来て、おれたちはピケ破りに雇われているのじやない、同じ労働者なんだ——これは私名前も知つておるのですが、ここでは差控えたいのですが、そういうふう言われて、市場で取引するのはおれたちの任務であるけれども、おれたちはピケ破りは絶対やりたくないということを言つて私たちを声援してくれました。  それから三時十分ごろ再び警官隊がピケ隊にぶつかつて来たわけでありますが、そのときに、そのシヤツターのところにいた者が、暴力団が来るという知らせに、あわててシヤツターをおろそうとしたわけです。そうしている間に、もう警官の方の先頭は、ピケ隊に暴行を働きかけていたわけなんですが、とりあえず女子組合員は中へ入つて、男子組合員だけ出ているということで、ピケ隊はそのときに相当圧倒されつつあつたのですが、シヤツターをおろしたわけなんです。そうしてそのときに、一度は警官が引いたのですが、そのあとで、私はちようど南口玄関の横の窓のところにいたわけですが、その窓を日本橋警察署長が打ち破つたわけです。そうして窓をあけようとしたわけなんです。だから私は、今裁判所から仮処分の申請を決定するために来ているのであるけれども、その命令が出るまでは警察官の実力行使はやめてほしいという趣旨のことを申したわけであります。そうして日本橋署長は、それを聞くと、すごすごと引揚げたわけであります。それから少しは静かになつたような形勢が見えたのでありますが、しばらくすると、すぐにまたもみ合いになつて、そこで、そのとき七名の者は検束されて行つたと思います。  私たちは争議行為が全体として業務妨害罪になるというようなことは、少しも考えていたわけではないし、今まで事実争議行為全体として、妨害罪が成立したということは一つも聞いておりませんでした。そこで私たちの争議行為は、労働法に定められた正当な争議行為であると思います。そうしてその争議行為を、業務妨害に名をかりて弾圧して来た警察は、まつたく不当であると思います。  それにもう一つ注意したいことは、組合員の中に非常に暴行されて障害を負つた者があるのです。診断書はたくさん今整つておりますが、公務執行妨害罪というものが一つも伴わなかつた。千名の者がピケ隊を打破ろうとして暴力を振つて実力で弾圧したわけですが、そのときに負傷した者はたくさんあるのですが、公務執行妨害というものが一つもなかつたということも、珍しいことだと思います。  それはストライキの前ですが、総会において協和会——協和会というのは、証券会社の友好団体になつておるのですが、協和会の柔道部の者が二百名ほど先頭に立つてピケ破りに来るといううわさが飛んでいたわけなんです。それがたまたま総会の中で出たときに、取引所職員も協和会の会員になつておりますが、それで協和会の柔道部員になつておる組合員の中に、柔道は暴力ではない。もし柔道で習つたわざを利用して暴力団になるとすれば、それは柔道の精神を体得しないものである。私はもし暴力団が来て暴力を振おうとすれば、歯を食いしばつて耐え忍んで行こうと思う。踏まれても、けられても、歯を食いしばつてそれに耐えて行くだけだ、こういうことを発言した者がいるわけでありますが、組合員全体は、涙するくらいにその発言に感銘を受けたわけであります。そうして、そこでその発言に基いて、若干の討論があつたわけでありますが、つまり柔道の精神は、言葉の世界の外にある崇高なものだ、そして柔道の精神というものは労働者の団結の精神でもある、こういうふうなことを組合員はお互いに誓い合つたわけであります。そして、たとえば応援団体の中で、スクラムを組んでいるときに、暴行して来る警官に対して、税金どろぼうと言つた者がいるのですが、そういつた友好団体のののしりを、よしてくださいといつてとめていたわけであります。そういつたところに、私は法律によつて考えるよりも、まずこうした精神がわれわれの東証争議において組合員が持つていた一貫した精神であつたろうと思うのです。そしてこの精神が、東証のストライを完全に正しいものであると証明する最も力強い証拠であろうと私は思うわけであります。
  89. 赤松勇

  90. 野手豊

    ○野手参考人 私は東証労組の渉外を担当しております野手と申します。本日、生れてまだ三月しかたたない、しかもあのように一千名近い警官隊になぐられ、けられた東証労組員に対して、衆議院の労働委員会が真実の声を聞く機会を設けてくださいまして非常に感謝しております。  私たちは、あのときでも、そしてまた現在でも、私たちのやつた二十六日の二十四時間ストに関しては、労働法に基くところの労働基本権による正当なる争議であると確信しております。警察権の発動は、明白にわれわれ東証労働組合に対する不当なる弾圧であると私は思います。なぜならば、先ほど鈴木君や細谷君から言われたように、あのときロツク・アウトはありましたけれども、午前中の学者先生方の説明でもわかるように、ロツク・アウトというのは、単なる宣言でもつて成立するものではないのであつて、それは当然事実行為を伴わなければロツク・アウトは成立しないと言われておりました。私たちも現在でもあのときでもそのように考えております。なぜならば、ストライキの通告をしても、たとえばわれわれが二十六日にストライキをやるというような通告を三日前に発表したとしても、二十六日になつて現実に労務の提供を拒否し、現実にストライキを行うのでなければ、ストライキというものは成立しないのであつて、当然使用者が行うところの争議行為であるロツク・アウトというのも、われわれがいないときに事業場を閉鎖するなり、あるいは裁判所の仮処分申請の決定があつて後でなければ、ロツク・アウトは成立しないものである、そのように私たちは考えております。このことは、当日私が社会党左派の猪俣先生と亀田参議院議員に同伴されまして、ここにおります江口警視総監をたずねたときに、江口さんもはつきり明言されたことでありまして、あれはロツク・アウトと称するものであるが、ロツク・アウトとは言えないと、江口さんははつきり明言されました。私も江口さんの言にまつたく同感を得ました。ロツク・アウトと称しておるけれども、これはロツク・アウトではないのだという確信を持つておるのであります。  そこで江口さんは、現場にはそういう警官を出すこというようなことをしないで、警官はピケ張つている人たちが挑発されないように、見えないところに置くように注意をしてあると申されました。まことに江口さんの考えは非常にいいと私は思つてつたのです。ところが、現場はどうであるかというと、四列縦隊に組んだ鉄かぶと隊が、まつたく昔の軍隊を思い出すようにかけ足行進をしておつたのであります。これでは最高責任者である江口さんの言と現場の行動とは、まつたく相反するものであつたということが言えるだろうと思います。  その次は、私はああいうふうに警官が出て来ることを非常におそれ、渉外担当でありますので常に日本橋警察とは連絡をとりまして、違法な行為のないように朝から努力を払つておりました。特に道路交通取締法の違反がないように、私たちはわざわざ交通係を設けました。特にこの交通係には、若い人でないところの、いわゆる老練な人たち、組合の中でも権威ある年輩の方たちが交通係となつて、交通係の腕章をして通りに出ないように十分なる注意をしておつたのであります。それにもかかわらず、警官隊はどういう法律的根拠に基いてしたのか、われわれ六百五十六名の組合員に対して、一千名を越える鉄かぶと隊を送り出したのであります。そのことについて、私は黙つていることができませんので、当然——先ほど委員長が申し上げましたように、取引所の前にラサ商事株式会社というのがありますが、そこに警官隊の本部が設けられておりました。私はそこへ行きまして日本橋署長の漆間さんと会いまして、私たちは正当なる労働基本権に基いて、正当な労働争議をやつておるのだから、どういうわけでこういうふうに警察隊が出動するのかということを私は聞きました。もしわれわれの行為が違法であるならば、われわれはそのことをただちに闘争委員会にはかつて、違法な点がないように十分注意しますということを、私ははつきり述べたのです。ですから、日本橋署長の漆間さんに、私たちに対して、どういう点が違法なのか明確に教えていただきたいということを私は述べたのです。ところが漆間さんは、きわめて一方的に、私はそういう労働法というものはあまり知らない。私は経験で、そして私の感じで実力行使するのだというようなことを平然と言つておるのであります。ですから、私は、実力行使する方はそれでもいいかもしれぬけれども、なぐられ、けられするわれわれの立場からすれば、そういうことは断じて見るに忍びないということを私は言つたのです。ですから、どういう法的根拠に基いてやるのか、はつきり言つてもらいたいと言つたら、そのときは竹村君もおつたのですが、一方的に追い出されてしまつたわけであります。しかし、私は、警官が一方的に実力行使するのを見るのに忍びないので、なお食い下りましたが、こんな一メートル近い白い長い棒を待つた警官が、私のうしろへ来て床板をどかどかとたたくのです。まるで出て行かなければ、この棒でなぐらんばかりの勢いで私は脅かされました。私はやむを得ず下つてつたようなわけであります。このように警官の出動の根拠は何ら法律的根拠はないものであると私は現在でも思つております。  このことは、翌日警視庁に抗議に参りました。当然抗議せざるを得ないから、抗議をしたのであります。片岡警備部長と会いまして、そのときに、いろいろ警備部長に抗議をし、七人の検挙者に対して、一日も早く釈放されることを懇願いたしました。そのとき、そこにおられます津田警部さんがはつきり申されましたが、もし理事者が警官隊の出動を要請しないと言うならば、私は組合員の前で理事者と対決してもいいと、はつきり津田さんは申されたのであつて、このことは、警官隊の出動の根拠は、明らかに理事者側が要請したものであるという事実がはつきりいたしております。現在なお告訴状を撤回しない理事者の態度から言うならば、当然そういうことがあつたということがはつきり言えると思います。  このようにして、われわれ六百五十六名の、まだ生れて三月にしかならない東証争議に対して、スト当日には労相談話を発表し、そしてあつせん案の時代には次官通過を出しておる、このような一連の政府の動きに対して、私たちは非常に憤慨しておるのであります。今ここに——いなくなつたのですけれども、石黒法規課長がおられまして、この方は当日ピケの中にはつきり入つて来たのでありまして、私たちは入口を一つつくつておきまして、そのときに組合課長——名前は忘れましたけれども、その二人の方が入つて来たのであります。私たちはそのときの事情を訴えて、協力してくださいということをはつきり述べました。そして石黒さんも、組合課長の方も、私の説得を聞きましてお帰りになつたのです。私が今あの席におるときに、ここから帰られるときに、石黒さんは私のところへ来て、あなたたちは、労働省のことについて非常に憤懣であろうけれども労働省は決してあなたたちの敵ではないのだということをはつきり申されました。あのときのあなたの態度は非常にりつぱだつた、あとで遊びにいらつしやいと申されました。なお御丁寧なことには、石黒さんが行かれたあとに、労働省政府委員の方が参られまして、私に石黒さんの名刺を置いて行つたのです。そしてあとで、組合課長もよろしく言つているから遊びにいらつしやいとそう言われた。そういうわけで、私たちは暴力を振わないし、警官になぐられ、けられても、石黒さんがあなたの態度はりつぱであつたと言つたくらいりつぱな説得をやつたつもりでおります。  次は、警官の暴力行為について述べたいと思います。ここに診断書がありますように、それから先ほど鈴木君が言われましたように、あのとき公務執行妨害で検挙された者は一人もいなかつた、また警官が負傷した事実は、一人もわれわれは今日まで聞いておりません。しかるに、われわれは七名の検挙者を出し、そうして十数名に及ぶ負傷者を出しております。その負傷の事実を申し上げたいと思います。  まず、うちの組合員で吉田さんという方は、警官隊に、貴様らがいるからだといつて上着のえりをひつぱられて、そうしてそのポケツトは破られ、両足を三人の警官によつてひつぱられたそうです。足は二本しかないのだから、二人でひつぱればたくさんだと思うのだけれども、三人でひつぱつたそうです。倒れるところを、くつでけられ、背中をけられ、その結果どうなつたかといいますと、右の足首だつたと思いますが、ここが捻挫しまして、十五日以上もびつこを引いておりますし、現在でもなお痛くてしようがないということを言つておられます。それから舟根さんという人も、頭を前にこんなふうに倒されまして、やはりくつで踏まれ、背中をこん棒でなぐられております。それで歩こうとして立ち上つたところを、またけつ飛ばされたり、なぐられたりしたということをはつきり申し述べております。それから大里さんという人は、右の手首と右の薬指を動かすことができないほどたたかれたそうです。胸もたたかれたそうですけれども、そのとき警棒を縦にしてこんなふうに胸を突いたそうです。まるで銃剣術をやるみたいに警棒で突いて来たそうです。それから杉浦さんという人は、やはり警棒で両足とあごをたたかれまして、あごには十センチ以上も、傷が現在なお残つております。それから松本さんという人も、くつでけられて、左の指が生づめをはがされて、現在まだ困つているような状態です。それから小野塚さんという人も、あとになつて証券会社の人たちから、あなたはあのとき非常になぐられたと言われたそうですけれども、そのようになぐられて、病んで会社へ来られなくて、しばらく会社を休んでいたというような状態です。それから高木さんという人も、やはり足を警官にひつぱられたのです。それで倒れて立ち上ろうとしたときに、五人の警官が、ぐるつとかこんでしまつて、袋だたきにされたというような状態なんです。くつはなくなるし、めがねはふつ飛んで、千六百円であとで買つたというようなことを言つていましたが、そういうふうな被害をこうむつております。このようにしてわれわれは警官の行為に対して指一本さしたこともございませんし、ほんとうに文字通り平和的なピケを張つたつもりでおります。それにもかかわつず警官は、今述べたような暴力行為をあえてしたのであります。それから検挙された大島さんの話を聞きますと、ピケを組んでいたうしろから突き出されたそうです。これは公安係の刑事さんたちが、ピケの中に入つてつたということを聞いております。そういうわけで、うしろから押し出されて、そのときにつかまつたそうです。それで十一日間勾留され、その前に警察へ二日、検察庁へ一日、合計十四日間ですか置かれております。  この釈放のことについても、私が非常に納得が行かないことは、どういうわけか、同じように検挙された人たちが——国鉄の人も検挙された、都の高等学校の職員の方も検挙されたのですけれども、そういう人たちは即日あるいはその次の日に釈放になつておるにもかかわらず、われわれの組合の大島さんという方、あるいは二十人、三十人とかいうような少い人数で組織している組合の方たちは、どういうわけか釈放されておりませんし、まだ二人は現在勾留中であるという事実です。同じことをやつて、どうしてある者は一日で、ある者は二日で釈放され、ある者は現在なお勾留されねばならないのか、非常に疑問を持つております。  それから、先ほどの方も申されましたように、任意出頭のやり方が、私は納得が行かない。というのは、争議中であるにもかかわらず、むやみに任意出頭の通知を出しておるのであります。これでは労働組合活動が非常に制限されて、組合活動それ自体が困るような状態でありまして、三役などが任意出頭で行つたときには、団体交渉が開かれないで非常に困つてしまいました。  それから一番不可思議だと思うのは、十日の日ですか調印をする日に、ちようど私は闘争委員会出席しておつたのですけれども、その日の午後六時ごろ、日本橋の公安主任の磯貝警部補、この人から電話がありまして、きようの調印はどこでなされるのか、また何時ごろなされるのかということを聞いて参りました。それから、ぼくたちの調停案は二七%で妥結したのですけれども、その二七%について、何か問題になつているのですかというようなことを公安主任が聞いて参りましたので、私はふしぎに思いまして、磯貝さん、大分妙な質問をなさいますねと電話で申し上げて、われわれ闘争委員全員が、都の労働委員会に調印に参つたわけでありますが、そのるす中をねらつて三役の任意出頭の通知を持つて来たわけです。あらかじめ電話をかけて、そのるす中に三役の任意出頭の通知を持つて来る、こういう事実は、私は非常に不可思議であると同時に、ストライキの日に労相談話を発表し、あつせん案のときに次官通牒を出して、今度調印の日に、みんな調印に行つたるすをねらつて三役の任意出頭の通知を持つて来るということは、そこに何らか関連性があるのではないかという疑惑を持つわけであります。そうして、行つた者は参考人として呼ばれ、あるいはわれわれの組合員の大島さんを釈放するために呼ぶんだということを申されて、それでは出してもらいたいからというわけで行つたのですけれども、行つて聞かれた内容は、大島さんとはまつたく無関係のことを聞かれておるのであります。労働組合がどういうふうにして結成されたか、結成前の経過をこまごまと聞かれ、そうして結成後どういうふうな過程を経、闘争委員はどうして出したか、評議委員はどうの執行委員はどうの、その会議の内容とか、あるいはストライキの前夜とか、当日の状況というようなことについてまで聞かれ、まつたくわれわれの組合が生れてから現在に至るまでのすべてを聞いておるのであります。これではわれわれの労働法に基いて結成された組合が、いかにも非合法の団体であるかのような感じを受けるのです。そういうつもりでわれわれを任意出頭で呼んで捜査しているんじやないか、こういう疑問を持つのであります。われわれは正当に労働法に基いて労働組合をつくつたのです。それを何も非合法の団体であるかのように、ことに十数日間に及んで調べる必要がどこにあるか、われわれは現在も非常に不満を持つております。  それで、これは新聞で御存じかと思いますが、私たちの組合事務所は家宅捜索を受けました。しかし、ピケの問題について、組合事務所が家宅捜索をけ受た例は、現在までまだ一度も聞いておりません。おそらく労働運動史上に、私ども東証の場合が、その最初じやないかと思うのです。私たちの組合は家宅捜索を受けまして、あらゆる書類、九十種類に及ぶものがすべて持つて行かれまして、その結果、ぼくたちは調印しても、まだその具体的内容もきまつておりませんし、それをきめるための組合運動についても、非常に困つておるのです。  その例を申し上げますならば、団体交渉の記録を持つてつたということであります。団体交渉に関する記録は三冊持つて行きました。組合にとつて団体交渉の記録は非常に重要であります。まだ私たちは労働協約も締結しておりませんし、これから労働協約を締結するのです。それから労働協約については、相当数審議されて了解事項ができておるのです。その団体交渉の記録を見なければ、どういう点で理事者側と了解できたかどうかということも、はつきりわからないのです。そういう重要なる組合の日常活動にさしつかえあるような書類までも、みんな持つてつてしまつたのです。こういう押収捜索のやり方に対しては、私たちは非常に疑問を持つておるわけなんです。  いろいろ述べましたけれども、そういうわけで、私たちの争議に関しては、わずか六百五十六名の、ほんとうに生れて三月しかたたない幼い労働組合に対して、一千名以上の警官を派遣し、このように不当にも弾圧したということです。これに対しては、私は非常に憤懣を持つております。従つて、今日ここで衆議院の労働委員会が私たちの真実の声をこのように聞いてくださつたことに対して、非常に感謝しております。私たちはまだ幾らでも事実は述べますから、いつ何どきでも私たちを呼んで、あのときどつちが正しかつたか、あくまでも衆議院労働委員会はその事実を追究されることを切に希望して、私は終りといたします。
  91. 赤松勇

    赤松委員長 次に後藤参考人
  92. 後藤安明

    ○後藤参考人 渉外部担当の後藤でございます。当日ピケ隊の中におりました関係で、そのことについて御説明申し上げます。  私は、大体十一時ごろから、ピケ隊のあつちこつちの人たちがどういうことをしておるか、見てまわつていたのですが、私もぜひひとつピケ張つている人たちと同じ気持になつて、この争議を闘いとろうという意味で、本館の南側玄関の前に行つたわけです。そうしますと、みな習いたての労働歌を歌つておりました。それを私も一緒に歌い、手を振り、メガホンでその歌を続けて行き、また人とかわつて私がスクラムを組み、その人が歌を歌う、そういうような状態を続けておりますと、大体一時ごろになりまして、どうもスキヤツプが来るらしいというので、皆さん気をつけてくださいと言いました。  前々から闘争指令でもつてスキヤツプが来ても、たとい警官が来ても、絶対に手出しはしない、そういうことが言われておりましたし、なおまた友好団体の方も一緒に来ておられて、私のおりましたピケのところにもおられました。その人たちも、絶対に手を出してはならぬ、手を出したら負けなんだから、手を出してはならぬぞと言われました。それに基きまして、私たちも、どんなことがあつても手を出すまい、また潜在意識のうちにも、それを得るようになりました。そうして幸いなことに、一時から一時半の間にはスキヤツプが参りませんで、ほつとしたわけです。そたで、われわれがピケ張つておる前に一般の方もずいぶんおられましたので、労働歌といいますか、われらの仲間という歌がございますが、それはとても愉快な歌です。それを一度みなで歌いましたところ、ピケを見ておる人たちが笑つて手をたたいた。これは言葉でもつて、われわれが一体何ゆえにこのピケ張つておるかということを説明するよりは、この愉快な歌を歌うことにより、労働運動というものは、どんなにみじめなものであり、悲惨なものであるかということを感じておる人たちに、労働運動というものはとても明るいものであり、われわれは職場を明るくするためにこそやつておるのであるということをわからせるために、そのわれらの仲間という歌を再三歌いました。そうして、笑つていた人がだんだんふえて来ますし、手をたたいてくれる人もだんだんふえて来まして、一緒に歌つてくれる人もおりました。そういうふうにして私の入つておりましたピケ隊は、一般の人と融合されそうになつていたのです。  そうして大体三時ごろになりまして、またスキヤツプが来るから気をつけろということになりまして、歌を歌つておりまして、どんなことがあつてもみな定められたところをしつかり守ろうという意味でスクラムを固めたわけです。そうしますと、三時五分ごろですか、協和会を主軸としましたスキヤツプ——何名だか、私のところはちようど道路のすぐ前が日興証券の工事現場でありますから、全部の人数を確めるすべがないですから、何名ぐらい来たか、実際のところ私どもはわかり何せんが、そのスキヤツプが参りました。それで向うは、何も言わずに、いきなりピケ隊のまつ正面から押して来ただです。私はその中におりましたから、直接からだとからだが触れ合つた。それで押したり押されたり、相当長く続くものだと思つておりました。ところが、私の感じでは五分くらい、もしかしたら三分くらいかもしれませが、そのとたんに鉄でつくた帽子、かしの棒でつくたところのこん棒を持つた多数の集団が、われわれの左の方から、そのスキヤツプとわれわれピケ隊との間に割り込んで来ました。何ゆえ割り込んで来たかというと、前々から言うように、交通整理をするという名目だつたらしいのです。あとで聞きましたところによりますと、スキヤツプとピケツトとの間に紛争が生じて、どうも危険で見ておられないから、それをわけるために来たのだという話でした。ところが、スキヤツプとピケツトのせり合いというか、せり合いよりも、むしろ小学校の運動場でよくやつているところの、みなで押したり何かしているときの運動ですね、あれをものの一、二分とはやつていないわけです。手を出した者もおりませんし、また痛い目にあつた者もいなかつたわけです。そうしたところへ相当数の警官隊が入つて参りまして、一応スキヤツプとピケツトとの間をわけました。わけて何も指示しなかつたのですが、スキヤツプの方は知らないうちにみないなくなつてしまいまして、私どもの前には、日興証券の工事現場のへい、そのすぐ前にずつと警官隊、それ以外何もなかつたわけです。最初は、大体三メートルぐらい離れておりましたが、それがじりじりと来て一メートルぐらいの間隔になつたときに、多分日本橋署長であろうと思いますが、前に来て何か言つていたわけです。私が大体中心におりましたから、私の左一メートルぐらいのところに来たわけですが、そういつたスキヤツプとの押し合い、また警官隊のそういつた乱入ということによつて、われわれは相当大きな声で歌を歌つてつたものですから、日本橋署長と思われる人が何を言つたか全然聞えなかつたわけです。向うも一生懸命何か言つたでしようが、こちらがそれを聞いていながら何もしないと思つたのでしよう、すぐに白い棒を上げてかかれの合図ですか、号令ですか、それをして、それから警官隊がピケツトに肉迫して来ました。  警官隊というのは、こん棒は左手を高く右手を下に低くして胸元にしつかりつけて来るわけです。最初はその通りの形で来たわけですが、私ども押されましたので、それをみなの力で押し返したわけです。これを前後三回ほどやりました。これは地形の関係で、道路とわれわれの立つている歩道の高さが相当つておりますから、押し返すと、そこから落ちて警備隊はずいぶん動きにくかつたらしいのです。二度も三度も押し合いしたものですから、いつもだつたら、そんなに押し返されることなく完全にピケを破るのだそうですが、破れなかつたことについて、相当腹にすえかねたらしくて、狂暴な顔をした人も二、三見えました。今までしつかり胸につけて持つていたこん棒の左手を離して右手だけにして、それこそ協力一致して全員が押して来たわけです。その力たるや、われわれの人数より多いわけですから、推して知るべしだと思います。そこで、ピケの方は、とにかく警官隊に破られてはいかぬというので、一生懸命その力に対抗して押し返そうとしておりました。但し、先ほど申し上げましたように、手をかたくスクラムを組んでおりますから、もちろん手出しはできませんし、闘争指令にも手を出すなと言われておりますから、手を出してはいけないという先入観念があつたために、だれ一人として手を出すことができませんでした。それで警官隊は、ただ押していただけではどうにもならなくなつてしまつたわけなんです。それでピケを張る場合に、ネクタイをはずしておいた方がよろしいという話を聞いていたのに、二、三の人はネクタイをしていたわけなんです。それをいいことに、警官隊は、ある者はネクタイをひつばつて上体をピケ隊より前へ出させよう、また髪の毛をつかんで頭をひつぱつて上体を前へ出させようとした。事実私も髪の毛をひつばられました。一度は髪の毛をひつぱつた手がとれたのでやれうれしやと思つたとたん、第三の手が参りまして、はち巻をし普通、はち巻をしているときは、大体一回ぐるつとまわして簡単に縛つているだけなんですが、私はどういうわけか、はち巻をぎゆつと締めた上に、それをかた結びというのですか、それで結んだわけですから、普通ちよつとやそつとではとれないわけです。それを、髪の毛をひつぱろうとしたのでしようが、私の頭がちようど前にひつぱられたために、前へかしいでいたわけなんです。髪の毛のかわりにはち巻をひつぱつたので、幸いにして二度目には髪の毛はひつぱられなくて痛い思いはしなかつたが、そのかわり、そのはち巻は現に警視庁に証拠品として押収されているわけです。  そういつたことをして、なおかつまだピケが破れないということになりまして、スクラムを組んでいる腕と腕との間に警棒をつつ込みまして、それで右なり、左なりよじつたわけです。かしの棒でできているそうですが、ちよつとでもこすられると痛いわけです。特に離す意味で強引に差込んで、それをねじつた場合には、もつと痛い目にあうわけです。それを現に私もやられまして、それでピケが、ピケというかスクラムがゆるむわけです。ゆるみますと、またえり元をつかむ、首をつかまえて、そうして前へ引きずり出そうとする。ところがわれわれは前へ出ることを拒みますものですから、足が前へだんだん出て来まして、腰だけがうしろに下るわけです。そうしますと、足が相当前へ行つたところで首をつかんだ手を離しまして、二人ないし三人でもつて足をひつぱり出すわけです。それで一人はずされ、二人はずされして行くわけなんですが、その間私どもはひつぱられてはいけないというわけで、うしろの人たちは前の人のズボンのベルトをしつかりと握つたわけです。そうしまして、今度は警官隊もそれを知つたわけです。いくらひつぱつても、どうしてもこつちへ来ないので、どうしたのだと思つてひよつとのぞいたのです。ところが、うしろの人間がベルトをしつかりつかんでおつて離さない。それで業を煮やして、今度はうしろでベルトをつかんでいる人の手と手の間に、やはり先ほど申しましたように警棒をつつ込んで、それをよじつてもぎとつてつたわけです。  現に、私が最初前の方におりましたが、だんだん少しずつ隊形がが乱れて来まして二列目に行つたときに、やはり警棒でもつてこじられたときに、腕にしておりました腕時計のねじを巻くところが完全にとられてしまつたのであります。これはまだ買つて間もない時計でありますから、ちよつとやそつとの人体だけの押し合いだけでは、とれないだろうと思つておりましたが、あとで終つてから時計を見たところが、そのねじ巻きの玉が完全にとれておりまして、時計が三時二十七分でとまつていました。そういうようなことをして逐次第一列、第二列としてつぶして行つたわけです。それで、そのうちに私ども組合に所属しております大島という人がつかまつてしまつたわけです。私も、実は先ほどはち巻がとれそうになつたときに、完全に前の方へ出てしまいまして、危うくひつぱり出されるだけでなく、ひつぱられそうになつたわけですが、うしろにいた人、わきにいた人が一生懸命ひつぱりもどしてくれたわけです。ところが警官隊の方が急に手を離しましたものですから、私のからだが極端にうしろの方へ下り過ぎまして、私のうしろにいた人の一人が前へ飛び出す結果になりまして、その人がかわつて連れて行かれて、七名つかまつたうちの一人になつております。  それから、先ほどちよつと話に出ました高等学校の職員ですか、それがつかまつたときは、この人はからだがとても悪くて、つい最近まで、胸部疾患だそうですが、休んでおられて出て来られたそうです。ピケ隊に入るつもりはなかつたのですが、ちようど来た時期が、スキヤツプが侵入して来る時期と同じであつたわけなんです。それで巻き込まれてしまつたわけなんです。ところがその人は、ほかの何か会合がありまして、そつちへ行かれるあれで、左のわきの下に相当量の書類を持つていたそうです。ところがそのスキヤツプ及び警官隊の実力行使の中に巻き込まれまして、そこから抜け出そうとしておりましたところが、警官隊がそのわきの下にあつた書類をとつてしまおうとしたらしいのです。ところがその書類は相当重要な書類であつたらしくて、とられるのを拒んだために、このやろう、警官のやることに対して妨害しやがつたというような見解でもつて、連れて行かれたらしいのです。それで、完全にピケツトを破られまして、私は一度ほうり出されて、そのほうり出されたときは、け飛ばされまして、倒れたわけなんです。それで倒れまして危うく足げにされるところだつたのですが、幸いに警官隊と民衆の間が、どうしたわけか急に間があいたわけです。それで、あげた足を私の方へ持つて来ないで、そのまま警官隊は依然として張つてあるピケの方へ向つてつたわけです。  私はそういつたことを見まして、とてもしやくにさわつたわけです。今までは、街頭に立つておる交通整理の巡査が、とても親切な人であり、われわれをほんとうに守つてくれる警察官であると解釈していたわけです。それからまた近所の交番にいる人が、にこつとあいさつしてくれれば、こつちも喜んであいさつする、そういつたような気持で警官を見ていたにもかかわらず、そのときに私の目の前にいた警官は、私が考えておりました、ほんとうにわれわれと直結した親しい友だちであつたはずである私の考えを、完全に根底からくつがえしてしまつたわけです。現在でも、私は警察官に会うと、あまりいい感情は抱けません。  そのようにして、そういつた気持をそのときに植えつけられましたものですから、一回ほうり出され、またもぐり込み、またピケを張りました。それでまた引きずり出され、前後二、三回やりまして、結局建物のひつ込んだ場所に押し込められまして、早くそこから出ろと言われて、絶対に出ないというのを引きずり出されそうになつたときに、ちようど私の肩ぐらいの高さのところに人間が三人ぐらい乗れる場所があるわけです。そこにズボンをはいた女の人が、どういうわけか乗つていたわけなんです。それで、その高い場所のまわりには、私と同じようにひつぱり出されることを避けている人及びそこへすわり込んでしまつた人なんかがいたわけなんです。そうしますと、その人たちが現にその高台のすぐ下にいるにかかわらず、その高台にいた女の人におりろおりろと言う。おりろおりろは確かにわかります。みんな早くどかしたいので、そういうことを言うのはわかりますが、これを手や棒を使つてつつきまわすんですね。男だつたら強引に遠いところへ飛んで、だれもいないところに飛び移れたかもしれませんが、女の人の場合、そんな遠いところへ飛べないわけです。おりろおりろと言われておつこちそうになるのですが、女の人としては、そのおりようとする場所に全部人がいる関係で、どうしてもおりられないわけです。つつかれるので、遂に女の人は泣き出しながら、あなたは、こういう場所にいて現に私がおりようと思う、ところが実際問題としておりられない、それを知つて私におりろと言つているのか、そういつたことを言いましたところが、警官はあわててその下を見まして、今度は下の人たちをどかそうとして、どかしながら、結局女の人を突き落す形でおろしてしまつたわけです。  大体、私の見ておりましたのはその程度でありますが、聞きましたところによりますと、やはりピケでもつてズボンを完全に破られてしまつた。それからジヤンパーが縫い目でないところ——縫い目がほどけたくらいなら、糸が弱つて切れたかもしれませんが、縫目でないところが完全にずたずたに破られている。結局被害は組合側にのみ、そういうふうにたくさんあるわけなんです。ところが、新聞やラジオによつて私が知り得た範囲内では、警官隊には一人だに傷害をこうむつた者もなし、また衣類その他物品の損傷をこうむつた者もいないようなんです。これはわれわれがいかに抵抗しなかつたか、また警官隊がいかにその暴力のみをもつてわれわれのピケを破つたかということが如実に証明される一端ではないかと思います。  大体、私が実際に体験しましたことを、簡単に御報告申し上げておきます。
  93. 赤松勇

    赤松委員長 それでは続いて警視総監の参考意見の陳述に移ります。江口警視総監。
  94. 江口見登留

    ○江口参考人 私お尋ねにお答えするつもりで参りましたので、何か私から一言先にしやべれということでございますが、こりまとめたものを持つておりませんので、ただいまいろいろこちらの諸君から聞いた点につきまして、私ども考えている点を一応申し上げまして、さらに御質疑がありますれば、それにお答えしたいと、かように考えます。  東証事件につきまして、非常に警察が弾圧的に出た、必要以上に警察官を派遣したというようなことを盛んに述べられるのでありますが、すべてこういう問題は、立場が違うことによりまして、物の見方も非常にかわるのであります。それらの点を十分お互いに理解しながら物事を判断して行かなければいかぬ、かように考えます。私どもがこの事件について報告を受けておるところによりますならば、二十六日理事者側ないし協和会側が約一千九百名、それから労組側が六百名、ただこれだけの数の比べ合せでは十分ではないのでありまして、そのほかにあの建物の中には二十幾つの会社銀行、組合その他の団体がございまして、そこで働いております者が千人以上おるのであります。従いまして、あの建物に入りたいという意思を持つている者は二千数百人ということになります。それからまた組合側の方では、その応援団体というものがありまして、これがやはり五、六百人、合せますると千数百人、もしこの両者が不幸にして現場において衝突いたしまするならば、どういう惨事が起るかもしれないということを、警察として配慮するのは当然であるといわなければなりません。従いまして、当日の午前中には付近の公園並びに小学校に二個中隊ずつ、つまり三百数十名の予備隊員を派遣して、万一の事態に備えるために待機させたのであります。そのほかには日本橋署員を百名近く出しまして、付近の交通整理あるいはやじうまがまた数千人集まつておりますから、これらの人を整理するために百名ばかりの警察官を派遣したわけであります。しかしながら、その後の両者の交渉経過を見ておりまするのに、話合いであるいは片づくかもしれないというふうに日本橋署長は判定いたしまして、従いまして、四個中隊出しておりました予備隊は、十一時半ごろには、もう待機しておる必要もなかろう、円満に解決するだろうという見通しのもとに、実は隊に帰したのであります。そういうふうに必要のない場合にはもちろん警察官を出す必要はないのであります。必要最小限度の、やじうまと、それから交通整理のために、日本橋署員がしばらくの間当つた。  そころが、午後になりまして、理事者側、協和会側から、どうしても後場を開くのだ、どうしてもこの建物の中に入つて業務執行したいのだという強い申出があつたわけであります、約八百人ぐらいの協和会員が、それでは実力ででも入るという決意を強く持つたのでありまして、従いまし、中に入ろうとする八百人ばかりの協和会員と、ただいま申しました入口にピケと申しますか、囲いをしておりました連中との間に、小ぜり合いが始まつたのであります。  その見方については、それぞれ立場があるので、いろいろなことを言うわけでありますが、日本橋署の判定によリますれば、このまま放置しておくなりば、あるいは流血の惨事が起るかもしれないというふうに判断されたのでありましよう。そこに約二個中隊、ですから、百五十人ぐらい、これだけの書警官が入つて両者をわけた。わけましたところが、協和会員側ではしりぞいた。ところが、その入口を囲つていん連中は、気勢をあげ、旗ざをや棒ざおを両手で振つたり、肩にかついだソ、スクラムを組んで大きな声をあげ、旗を振りながら、非常な勢いを示して、入ろうとするのを、あくまでも入れないという態勢をとつた。これはどう判断してもわれわれの立場から見るならば、威力によつて業務妨害する。つまり、理事者側のみならず、その他二十幾のかの諸団体、諸会社の従業員が中に入つて業務をとろうとするのを妨害しているという事実が、明らかに判定されるのであります。従いまして、これらを威力業務妨害罪と認めまして、その検挙に当つたのでありますが、七名検挙しただけで、あとは逃走したということになつておるわけであります。これらの検挙の数が少くて、組合側としてはまことに不幸中の幸いだと思います。しかもこの七名検挙いたしましたうちの一人だけがこの組合員でありまして、あとは全部応援者であります。この点から考えましても、つまり先ほどから東証組合員は、できるだけ警官隊には抵抗するなということを申し合せたということでありますが、おそらく東証組合員は、著しくおとなしくして抵抗しなかつたのでありましよう。従いまして、ほかの連中がつかまつたというようなことになつております。  そこで公務執行妨害罪として一人もひつぱられなかつたのはおかしいじやないかと、こう言われますが、確かに皆さんの方で抵抗しなかつたから、公務執行妨害罪がないのは当然でありまして、業務妨害という罪がそこに現われた、それによつて検挙したということになるわけであります。  それから、お答えは断片的になるかもしれませんが、書類を強制捜索して数十種類持つてつた。その通りでございますが、その書類のうちに、団体交渉を続けるために必要なる書類があるのに、それを持つてつたということでございますが、この書類の提出にあたりましても、できるだけ団体交渉を続けておる間の妨害をしてはならないということをわれわれは考えまして、その強制捜査をする時間を非常に遅らせたのであります。大体見通しがついてから、それではそれらの書類を提出してもらおう——供述は大体済みましたから、その裏づけと申しますか、証拠資料を集める必要がありますので、それらを提出してもらおうとしたのでありますが、任意提出はしないということでありましたので、やむを得ず最小限度の人数で最小の時間にわたつて強制捜査をしまして、数十種類の書類を持つて参りました。もちろんその中には、先ほどの話にありましたように、今後の団体交渉に必要だからというような書類があつたそうであります。しかし、われわれの目から見ますれば、それは正式の団体交渉の記録と申しますよりも、それに鉛筆書きでいろいろなことが書いてありまして、交渉の経過あるいは今後の決意、あるいは今後こういう方針でやろうということさえ書いてありましたので、これは非常に重要な捜査資料になるのでありますが、返してくれという申出がありますので、一応仮還付をしております。どうしても必要だという書類がありますれば、これは仮還付をしております。  いろいろ断片的にわたりますが、なお御質疑がありますれば、それにお答えをいたしたいと思います。
  95. 赤松勇

    赤松委員長 それではただいま各参考人よりいろいろ参考意見の開陳をお願いした次第ですが、これから参考人に対する質疑を行いたいとこう思います。
  96. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 警察官が出動されたのは、理事者側の告訴によつて行われたものであるかどうか、これをまず第一にお尋ねいたしたいと思います。
  97. 江口見登留

    ○江口参考人 理事者側の要請があつたことは事実でございます。その建物の中に入つて業務を行いたいと考えておる理事者側が、何とかしてくれということを申し出るのは当然なことだと思いますし、われわれといたしましても、先ほど申しましたように、不時の事態が起つては困るという予防的な意味をもちまして、相当数の警察官を派遣いたしましたし、それから実力行使をいたしました場合においては、独自な判断で、ただいま申しましたように、これは確かに威力による業務妨害が行われておるという認定のもとに、二個中隊ばかりの警官隊を使つたわけであります。
  98. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 要請は何時ごろされておりますか。
  99. 江口見登留

    ○江口参考人 詳細な点は資料を持つておりませんが、午後一時過ぎであつたかと思います。
  100. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そういたしますと、組合側の先ほどのお話によりますと、午前一時三十分ごろ会社側ではロツク・アウトを通告した、しかもそれは三時を期してロツク・アウトをやると通告して来た、こういうことを言つて、ロツク・アウトの成立について所見を述べられておりましたけれども、私は会社側が、組合員にすでにロツク・アウトを通告しておつたならば、その日の業務はやらないという考えであつたと思うのですが、あなたの方では業務妨害と言われますが、どういう保護する公益があるのか、これをまずお尋ねいたしたい。
  101. 江口見登留

    ○江口参考人 私は先ほどからピケツトという言葉も使わないようにしておりますし、ロツク・アウトという言葉とか、スキヤツプとかいう言葉が出ておりますが、これはいろいろ既成概念ができておりまして、具体的にこういう日本の事例に当てはまるかどうかということは疑問があるのではないかと思います。これは理事者側でも組合側でも、この場合の使用者側の申出と同じようなものをロツク・アウトと称しております。しかしお話のように、ロツク・アウトとは言つたものの、業務はやるのだということならば、これは私が聞いておりますロツク・アウトではない、こういうように考えております。従つて、ただ使用者側から、ロツク・アウトだ、ロツク・アウトだと申し出たその事柄は、退去してくれ、出てくれということを意味するものではないかと私は解釈しております。従いまして、ロツク・アウトではなかつた言葉ではロツク・アウトと使つておるけれども、実際は出てくれということを言つたにすぎない。午後になつて、実は業務をやるのだということを申し出て来ている以上、ロツク・アウトが行われたものだということは認められませんので、業務をやると言う以上、その業務妨害になる事実があれば、業務妨害罪が成立するというように思つたわけであります。
  102. 赤松勇

    赤松委員長 参考人の方に申し上げますが、質問をするというわけには参りませんけれども、もし委員の審議の上に参考になるような点がありましたならば、委員長の許可を求めて発言していただければよろしいと思います。
  103. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 このロツク・アウトの問題ですが、これは、ドイツ流のロツク・アウトもありますけれども、普通日本使つているロツク・アウト、工場閉鎖ということは、それほど概念の違つたものではなしに、要するに三時を期してロツク・アウトをやるというのは、その日はもう業務をやらないのだという意思表示、すなわち組合ストライキに対してロツク・アウトで応ずる、こういう態勢ではないかと思うのですが、そのことは一時に要請をされて、そして出勤を見るまでに、あなたの方では承知されておつたかどうか、これをお尋ねいたしたい。
  104. 江口見登留

    ○江口参考人 ロツク・アウト、こう理事者側が称しております際に、その日一日業務を休むのだ、たとえば日曜と振りかえるのだというふうにきめた上で、そういう言葉を使つたかどうかということは、それは理事者側の考え方でございますから、私としては承知いたしておりません。ただ私どもも、ロツク・アウト、ロツク・アウトと言いながら、ずつと午前を過しましたので、おそらく業務はやらぬようなことになるのかもしれない。そうなれば別に予備隊を置いておく必要もないから返そうと思つておりましたところが、午後になつて、前場はやめたけれども、後場はどうしてもやるのだ、一時も休むことができない仕事であるから、どうしても業務執行したいということを申し出られたことから考えてみましても、このロツク・アウトという意味が、仕事を休むというような意味のものではなかつたということが、あとからわかるというようなことにもなつたわけであります。
  105. 細谷節也

    ○細谷参考人 ただいまの警視総監の発言の中に、大分事実を歪曲されたかのような発言があつたので、われわれの立場から事実を述べたいと思います。  まず第一に、家宅捜査のときに、団体交渉の議事録を持つて行こうとしたので、それは持つて行かないでくれと申したのであります。ところが、四十名くらいの私服が参りまして、文句なしに持つてつたのです。さらにその際に、われわれは争議のときの写真を全部とつておりまして、これは明日労働委員会の方に提出する資料だから、この写真はやめてほしいと懇請したのですが、君たちはネガがあるのだから、かつてにつくつたらどうかということで、とうとう返してくれない。今受けた報告ですと、きよう返してくれたそうです。きよう返してくれたとすれば、われわれが出て来たあとに返したのではないか。警視庁の方で証拠隠滅のおそれがあるのじやないか、こう考えます。  それから第二に、取引所の建物の中に二十数社の会社があつて、その人たちが入りたいと言つたからというようなことを言われたが、そういう事実はございません。なぜかと言いますと、われわれは二十六日の午前零時からストライキに入つて、ただちに取引所の内部で営業しておる諸会社の代表に電話してもらいまして、八時半ごろ従業員が来るからそれまでに協定を結びたい、こう申して協定を結んでおります。それはなぜなら言いますと、スト前一週間くらい前から、たとえば健康保険組合、日興証券並びに生活消費組合、こういうところでは、申入書というものをつくつてこつちに持つて参りまして、もしストライキに入つた場合には、こういう趣旨でやつてほしいと言つて来たのであります。その申入書に基いて、われわれは取引所の建物の中に入つておる諸会社の従業員は、身分証明書を見せてもらつて、それで入れております。そのときの申合書は、残念ですが警視庁の方に行つて、ただいまのところございませんが、そういうような協定があつたことは事実です。さらに正面入口には受付をつくりまして、そこに健康保険の代表者二名、それから日興証券の代表者二名に出てもらいまして、健康保険の方は、健康保険で通う患者の人を、健康保険の従業員に保証してもらつて入れました。さらに日興証券に関しては、日興証券のお客であるという日興証券の人の証明があれば、通行証を出して通しております。従つて、取引所の建物の中にある諸会社の人が、中に入ろう入ろうとしてもみ合つたという事実はございません。  さらに、先ほど警視総監は、そういうようなもみ合いがあつたからと言われたが、組合員が六百名、応援団体が五、六百名、中に入ろうとした人が千五百名、やじうまがそれくらい、それから警官隊が一千名、そうしますと、約五千人の人数になるのですが、実際にもみ合いのあつたというところは、幅約一間半、長さ百メートルくらいのところでありまして、五千人の人間が事実上入れるはずはありません。従つて、警視総監の言つた事実の中には、かなり疑わしい点があると思います。  さらに、そのようなもみ合いがあつたので、流血の惨事があつてはまずいと思つて警察が中に入つたというように言われますが、警察が入るまでは、流血の惨事は一切起つておりません。警察官が入つてピケ破りをやつたので、流血の惨事が起きたのです。ここにある診断書は、われわれがこれはあまりひどいと思うものだけ集めたのですが、このほかに、向うずねをけられて、いまだに傷あとの残つている者もあります。ただそういうような小さい傷は、もみ合いの際はやむを得ないのではないかと思つて、われわれは用意しなかつたのです。そういうものも入れたら、おそらく一冊の本ができるのではないかと私は申したいのです。  さらに、取引所側で取引をすると言つているのですが、証取法によれば、取引所取引は、買方、売方、すなわち証券会社と取引所員があつてこそ、初めて取引所取引ができるのです。それで、それは四日目取引ということが保証されてこそ、その相場が公定相場として認められるのです。しかしながら取引所職員、組合員がストライキに入つておりまして市場を開いた場合には、業者しかいない。そういつた場合に、はたして取引所取引ができるかどうかということは、非常に疑問だろうと思うのです。この問題は、われわれがスト後経営者側を呼んでこういう点をただしたところ、経営者は自信を持つておりません。一部の経営者は、はつきりそれはできないと言つておる。これは小山理事がはつきりそう申しております。その他の理事は、できるかもしれないということを言つております。そうすると、取引所取引というものは、公定相場を確立するためであり、そうして投資者保護のために取引所取引を行うという点からいえば、できるかもしれないとか、あるいはできるんじやないかというような不安定な言葉で、はたして公定相場が確立できるかどうか非常に問題だろうと思います。先ほども申したように、理事の中には、できないとはつきり言つている者もあるのです。従つて、これは業務妨害にはならないと思うのです。実際にできない業務をやろうという方がむちやか、あるいはやらせないからこれは業務妨害だという方がむちやか、その点証取法をよく研究してもらいたいと思います。  さらに告訴状の件ですが、二十六日に警官隊の出動を理事者側が要請したときに、警察側の方から告訴状を出せと言つたという情報をわれわれは得ております。これは司法関係のさるところから得たのですが、これはただ情報であつて、はつきりそうであると私には証言はできませんが、そういうようなことがございます。さらに経営者側の方に告訴状を撤回せよとわれわれが言つたとき、そういうものを出した覚えはない、われわれは警署官隊に出動をお願いしただけなんだ、こう申しております。それではこの告訴状は一体どこから出たのだと言つたら、わからない。お願いが七つほど出してあるが、わからない、その中にあるかもしれない。こういうようにはつきり言つております。これに本所の鈴木萬造書記長がそう申しております。  さらに警視総監は、二十六日のストに限つてつておるのですが、その前から警官隊が、先ほど申しましたように、われわれの争議に関して相当策動しておりました。二十二日には、すでに各証券会社のスキヤツプの人に、スト入つた場合のスト破りは警官隊の指示に従えと、社長がはつきり言つているように、そのころから計画されたことなんです。  さらに、先ほど申し落したのですが、非常にわれわれ疑問に思う点は、二十五日の晩に、警視庁の津田警部から私に電話がかかつて来ました。話したいことがあるから、付近のそば屋まで来てほしいと言つて来たのです、ところがそのとき総会を開いておりまして組合が非常に激興しておりましたので、行かれない、用があつたらこつちへ来てくれと言いましたら、そつちへ行くのはまずい。話したいことがあるからこつちへ来てくれという要請でありました。結局行きませんでしたが、今考えたら、そのとき行つたらどういう話をしたか、はつきりわかつたと思うのです。  さらに、二十三日の土曜日に、総評で応援隊を動員しているが、君たちのところに関係があるのか、こういう電話がかかつて来ているのです。これは日本橋警察からかかつて来ているのです。警察が、なぜ最初からそういうことを非常に考えていたかというと、われわれがストライキに入つた場合に、これに介入するという意図が最初から警察にあつたということを裏づける以外の何ものでもないと私は考えるのです。  大体以上であります。
  106. 赤松勇

    赤松委員長 なお今細谷参考人の言つた写真というのは、どんな写真ですか。
  107. 細谷節也

    ○細谷参考人 これは最初十二日からのもあつたのですが、おもにストライキの当日ピケ隊の様子、それから警官隊とのもみ合いの様子をとつた写真です。これは九十一点あります。
  108. 赤松勇

    赤松委員長 あす持つて来てください。
  109. 野手豊

    ○野手参考人 先ほどの警視総監の話は、実に事実と違う点があると思います。最小限度の人間と最小限度の時間で捜索したと言われましたけれども、四十名以上の人間が来れば、最小とは見えないでしよう。事務所は小さいのでありまして、あそこに四十人の警官が来て、しかも九一種に及ぶものを持つて行くのに六時三十分から八時三十分まで二時間かかつております。これが最小の人員であり最小の時間であるとは、私たちには納得できない。  それから、逮捕されました大島さんが、いかにも攻撃的な人間であるかのように申されましたけれども、これはとんでもない話であつて、大島さんというのは、実に穏和な人でありまして、このことは検察庁の取調べに当つた吉良検事自身が非常に同情をして、大島さんは気の毒なくらいであると申されておる。こういう事実からしても、検束された大島さんがどんな人間であるかということは、想像できると思います。  それから、流血の惨事を見るに忍びないので警官隊を出したというようなことをおつしやいますけれども、私たちは、そういう流血の惨事を見るに忍びないので、わざわざ東証の前に設けられた警官隊本部にみずから出て行つて日本橋署長と交渉して、こういう労使間の紛争があれば、日本橋署長はあつせんに乗り出すべきで、話合いをするように持つてつたらどうかということを、私は言つたのです。それにもかかわらず、先ほど申しましたように、日本橋署長はきわめて一方的に、私は私の感じでやるのだということをはつきり申されて、そういう努力をなされなかつたのであつて、そういう事実は、警視総監である江口さんは、現場におらなかつたから知らないでしようけれども、もしそうであつたかどうかということについて、江口さん自身が納得行かなければ、ここに日本橋署長を呼んで、私と対決させていただきたいと思います。  それからもう一つは、理事者側が営業をやるというのにやらせないから、威力営業妨害が成立するのだというふうにおつしやいますけれども、会社から出された通告に、はつきり言つておりますように、労働関係調整法第七条による作業所閉鎖を行うということを、はつきり通告書に言つております。そういうわけで、作業所閉鎖ということは——第七条は「この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ行為」と言つておるのでありまして、明らかにぼくたちのところに通告して参つたこの理事者側の通告書、作業所閉鎖というものは、ストライキに対する理事者側の行つた争議行為である。作業所を閉鎖しておるのであるから、すでに業務は行われないのであります。行われない業務の上に、どうして威力業務妨害が存在するか、この点私は納得できません。業務が存在しないのにかかわらず、威力業務妨害が存在するということは、私は論理がおかしいと思うのであります。ですから、理事者側の通告書に見るように、これはやはり第七条に基いた作業所閉鎖であるから、当然威力業務妨害だという告訴状は、ぼくたちは成立しないと、こういうふうに思います。
  110. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 今、組合側参考人からお聞きしたわけですが、私は重ねてお聞きしたい。あなたの方に一時三十分ごろ、作業所閉鎖という言葉を使いましたか、ロツク・アウトという言葉を使いましたか知りませんが、書類で来たのですか、口頭で来たのですか、その文句を今読まれたようですが、もう一度再確認したいと思いますので、ちよつと読んでみてください。
  111. 野手豊

    ○野手参考人 それでは通告書のその部分を読みます。   当所は、産業の平和を速かに恢復し、事態を収拾するため労働関係調整法第七条による作業所閉鎖(ロツクアウト)を行うの已むなきに至つた。仍つて茲に当所は、昭和弐拾九年拾月弐拾六日午前参時より作業所閉鎖をするから此旨を貴組合に通告する。
  112. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そこで警視総監にお尋ねいたしますが、今私が再確認いたしましたように、明らかに書類をもつて作業所閉鎖の通告をして来ておるわけであります。そこで、作業所閉鎖の通告をいたしますと、これは労使関係におきましては、当然作業所閉鎖というものが成立し、その場合に、組合が後になつてストライキを解いて、給料をくれと言いましても、給料はくれない。これは作業所を閉鎖いたしますと、今の労働組合法関係で行きますと、就業を希望いたしましても、当然給料の請求権はなくなる。もつとも、今はストライキと作業所閉鎖が並行しておりますので、そういうことはあり得ないのですが、ストライキを解除しましても、作業所閉鎖をしている間は給料の請求権はない。こういうことになりますと、当然業務は向うの方から停止されている、労働力は締め出されているわけであります。そうしますと、事業場閉鎖をしておるのですから、その日は業務をやらないというのが会社側の腹であろうと思うのですが、その点を十分承知でその申請に応じられたかどうか、この点をお尋ねいたします。
  113. 大橋武夫

    大橋(武)委員 ちよつとそれに関連して。警視総監に、今の多賀谷君の質問に関連してお尋ねしておきたい点は、なるほど、今組合の諸君から言われたように、取引所の取引業務というものを停止されるような意思を、組合に対して理事者側から表示された。それは実際にそういう書面を受取つたことであろうと思います。しかし警視総監が業務妨害が成立つと認定されたのは、必ずしも後場が立つということ自体を業務と見て、その後場の業務妨害するという意味でなく、後場を開き、あるいは翌日の取引業務を開くためには、取引所として理事者が取引所の建物の中に入つて立会いについての諸般の準備行為等もなす必要があるのではないか。そうすれば、やはりその準備行為をなすために入場することが阻止された場合においては立会でなく準備行為それ自体が、すでに取引所の業務なんですから、それが妨害されるというおそれがあつた、こういうふうに見ておられたのではないかとも思うのですが、その辺をひとつはつきりしていただきたいと思います。
  114. 江口見登留

    ○江口参考人 多賀谷さんと大橋さんのお尋ねに、あわせてお答え申し上げます。先ほど多賀谷さんのお話のように、作業所閉鎖の通告があつた。時間ははつきり覚えておりませんが、夜中の三時前だつたのでございましよう、それが出されたことは、こちらで読み上げられた通りでございますが、その後午後一時半ごろ、先ほど申し上げましたが、そのころになつて告訴状が出ております。その告訴状によりますと   本所は法令の命ずるところに依り市場の立会を開始しようとして東証労働組合に対し売買立会会場の開扉を要求したのにもかかわらず同組合員はピケラインを張つてこれを妨害するので本所はその公的使命を果すことができません何卒貴官の御協力に依りこの妨害の除去に当られたくこの段告訴致しますこう書いてあります。  それからもう一つは、東京証券協和会の代表から要請書というのがやはり出ておりまして、   我々協和会員は度々市場入場しようとしましたが東証労組のピケの為入る事は不可能です。市場入場出来る様警察に於いて御手配御願ひ致しますこういうのがその後出ておりますが、新しい方を信頼すべきではないかと考えまするし、ただいま大橋さんのお話にもございました通り、準備行為という点は、これは労働者側の方でお答えいただかぬと、私非常にむずかしくてわかりませんが、理事者側のみならず、ほかの会社、銀行等の団体が二十幾つかありまして、それに千人以上の従業員がおるということを先ほど申し上げました。われわれの報告によりますれば、それらも入つて業務を開始したいという意向を、十分日本橋警察署として認めましたので、理事者に対してのみ業務妨害があるのではなく、それらの人たちの業務妨害されたということが認定されましたので、業務妨害罪が成立した、かように考えておるのであります。
  115. 野手豊

    ○野手参考人 準備行為ということを大橋さんは言われましたが、取引所はさようなものは別に必要はないと思います。準備行為がなくても、取引所はその日にやろうと思えば、やれるのであります。  それから翌日の準備のために云々と言われましたが、ぼくたちが宣言したのは二十四時間ストでありまして、翌日ストをやるということは、一言も言つていないのでありますから、そういう心配は一切ないということが言えると思います。  それから、警視総監が告訴状のことを申されましたけれども、そういうことについて、われわれは理事者側から何らの通告を受けていない。あくまでもこの通告にありますように、作業所閉鎖を労働関係調整法に基いて理事者側の争議行為としてやるのだという通告を受けただけでありますから、警視庁のとつた行為は、われわれは是認することはできません。
  116. 日野吉夫

    ○日野委員 今のお話で、退去依頼状か告訴状かわからぬものですが、それによつて発動したのであるか、先刻警視総監が言われた予防警察の立場から発動したのか、この点は明確にしておかれる必要があると思うのですが、いずれがほんとうですか。
  117. 江口見登留

    ○江口参考人 告訴状が出ますると、これを受付けないというわけには参りませんので、それに基いて調査をする必要がございます。それも一面必要でございまするが、警察の立場といたしまして、ただいま申しました犯罪が成り立つやいなやということは、自分の判断で決定し得るものでありまして、親告罪でございませんから、告訴のあるなしにかかわらず、独自の権限を警視庁としては持つているということを申し上げておきます。
  118. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 総監は先ほど、争議団行為業務妨害が明らかになつたので、警察官の出動をしたのであるとおつしやつたのでありますが、総監もお認めになつておりますように、争議団は非常に整然として、しかも千名の警官を前にいたしましても、何らの不法な行為は行つていない。公務執行妨害などをした者は一人もないということを、総監にもお認めいただいているのでありますが、そういう強硬手段、実力行使をする前に、千名の警官を動員するような重大な問題にお考えになるならば、前もつて争議団に対して、何か実力行使をしないで済むような努力が当然とらるべきじやないか。そういう努力がどういうふうにとられましたか、お伺いいたします。
  119. 江口見登留

    ○江口参考人 ただいまそちらの参考人の方からお話がありまして、その二十六日の前に、すでに警察といろいろ話合いをしておるということは、先ほどお聞きの通りでございます。ただいま御質問の通り、理事者側に対しても、労働組合側に対しても、事前に、警察としても非常な関心を持つておりますので、警察力でもつて干渉するという意味でなしに、やはり説得によつて、たといその争議が行われピケが張られても、不祥事態が起らぬようにということを、お話の通り警察としても考えるのは当然だと思います。しかもそういうことをやつたことは、先ほどのお話でも御承知だと思いますが、しかしとりようによつては、争議の前に事前に干渉するというようなものの言い方もできるわけでありまして、それはそのときの感じた人の気分によつて、いずれにもとれるものではないかと思いまするが、われわれはあらかじめ不祥の事態が起らぬように、日本橋署としても、相当の手は打つておるということを申し上げたいと思います。
  120. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 ただいま総監は、告訴状が提起されたということを述べられましたが、その告訴状が出ましてから警官が出動しました間の時間は、わずかしかないと思うのであります。その間どういう平和な御努力をなさつたか、その点をお聞きしたい。
  121. 江口見登留

    ○江口参考人 告訴状が出たから業務妨害疑いが生じたというわけでもございませんで、先ほども申しましたように、警察署におきまして独自の判断を下し得るわけでございますから、その立場において業務妨害罪が成立したと見たのでございます。そのために、逮捕をする前に事前の措置をとつたかと言われますが、それはたびたび、皆さんの行為はおそらくそういうものに該当するおそれがあるから、できるだけ囲みを解いて、理事者側ないしその他の中に入ろうとする者を入れてあげなさいということを説得いたしたのでございます。その努力は十分いたしたつもりでおりますが、なかなかその囲みが解けませんので、検束するよりいたし方がないという断定を下したわけでございます。
  122. 細谷節也

    ○細谷参考人 ただいま警視総監は、たびたび説得をするように手当をとつたと申されているのですが、私はそういう話合いを受けたことは一度もございません。  それから、先ほど鈴木参考人から申し述べたように、漆間日本橋警察署長は、何らその理由を言わずに、私の長年の経験の勘でやる、こう言つているのです。これがはたしてその話合いの内容で、警視総監が言つている、たびたび説得したということかどうか、私は非常に疑問に思うのであります。
  123. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 ただいま細谷参考人のお話を聞きますと、総監がおつしやつたようには、何ら事前に説得等を受けていないというのでありますが、この点真実をお聞きしたいと思います。
  124. 江口見登留

    ○江口参考人 私の受取つておる報告によりますれば、しばしば指摘して——一例をあげましても、日本橋郵便局で違法の点を指摘して十分反省を促していたということでありますし、あるいはまた広報車をもちまして、その趣旨を十分警告して歩いたということでありまするが、これも聞きよういかんによりまして、非常に大声をあげたり歌を歌つてつたから聞えなかつたとか、あるいは郵便局で話したのは自分でなかつたから、ほかの人に話したのかもしれぬとかいうことになれば別でありますが、われわれは十分手を尽したというふうに考えております。
  125. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 そういう喧噪のうちにその説得をしたというようなことは、われわれは受取れないのであります。総監が、ほんとうに平和に問題を処理しようとしまするならば、そうした相互対立の喧噪にわたるところでやるのではなくして、代表者を選んで話合いをするのが当然じやないかと考えております。そういうことでは、私はほんとうに説得の誠意と努力が足りたかどうかということを疑わないわけには行かないのであります。  時間がありませんから、私は最後にただ一点だけお聞きしておきたいと思うのでありますが、傷害事件と申しますか、そういう暴力行為が現実に行われている場合以外には、ストライキあるいはピケ・ラインが張られているような場合において、警察官がこれに向つて出動されたというようなことは、われわれは寡聞にして聞いていないのであります。しかも争議行為として許されているピケツト、しかもそのピケツトは、総監も認められておりますように、正々堂々と、ほんとうに争議団の諸君が正しくやつているそのことに対して、千名の警官が突入するというようなことは、われわれは信じられないのであります。しかも、先ほどの総監のお話のうちで私が遺憾にたえないのは、事実におきましては、今組合側参考人が申されますように、十数名の負傷者を出しておる。たとい職務の執行でありましても、この争議団に対して、十数名の負傷者を警官の暴行によつて出させたというこの事実に対して、警視総監は遺憾の意ぐらい表わすのが当然じやないかと思いますが、その点どういうお考えをお持ちでありますか。
  126. 江口見登留

    ○江口参考人 十数名の負傷者を出されたということにつきましては、まことに遺憾に存じます。その傷害の程度につきましては、診断書もあるということでございますが、その詳細は日本橋警察署においても承つておりません。また組合側のみに負傷者があつて理事者側、予備隊側に負傷者が一人もいないように言われますが、探せば幾らもございます。われわれの方でも、予備隊員が一人竹ざおでなぐられておりますし、また砂をかけられております。さらに証券業者で暴行を受けた者が六名ありますがその負傷の度合いなども一々申し上げればきりのないことでございます。これらは多数の人がもみ合つたのでありますから、はたして警官によつて傷を受けたものやら、またこちら側のあげられました例によりましても、これも組合側からなぐられてほんとうにけがをしたものやら、自分でころんでけがをしたものやら、お互いのことで、どつちということは、お互いに言うべきことではないと、かように考えております。  ことに警察官が千名突入したということを申されましたが、南口の鉄扉をあけてもらいたいということのために動いた者は百五十名でありまして、そのうちのまたわずかの部分が実力行使に当つたということになるわけであります。千人がいきなり暴力を振つたというわけでは決してございません。むしろわれわれは、この組合はできて新しいがゆえに、できるだけ刺激しないようにというような配慮を十分加えまして、かかれの号令の際に、警棒を手にしておる者に腰にさせと言つて、腰にささせてまで注意をして検束に当つたのであります。従いまして、組合側ではどういう写真をとつておるか知りませんが、翌日十幾つの新聞に当時の写真が全部出ておりますが、どの写真を見ましても、こん棒を振り上げておる写真は一枚もない。その点をひとつ御理解願いたいと思います。
  127. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 本質の問題からはずれて、いろいろ質問をされておるようでありますが、本論に帰りまして、一応もとの作業所閉鎖の問題について、さらにお尋ねをいたしたいと思います。せつかく大橋委員から助け舟が出ましたけれども、実はその準備行為が必要であれば、こういうものは両方とも保安要員といいますか、争議に参加しない協定を結ぶべきが正当であつて、これはせつかくのお知恵でありましたけれども、残念ながらあまり対抗の要件を備えていないようであります。とにかく先ほど、ロツク・アウトということは知つてつた、しかし後になつて告訴状が出た、であるから新らしいものがほんとうであろうと思つた、こう言われますけれども——なるほど新法は旧法に優先するということはありますけれども、この点やはり考えていただかなければならぬ重大な問題がひそんでおると思う。あなたの方は、一方的に労働組合が言つて来たことを全部信じられますか、あるいはまた経営者の方が言つて来たからといつて、そうであるというようにうのみにされますか、ここに問題がある。一方では作業所閉鎖を宣しておる。労使関係というものは、そういう状態の中で行われておる。そうすると、一方ではぜひのけてくれ、おれたちは仕事をするのだ、こういうことで告訴状を出しておる。こういう場合に、警官が入つて来ることにおいて、私は慎重さを欠いておると思う。いやしくも天下周知の中でこの労働争議が行われておる。しかも従来とも警察官は介入し過ぎるというようないろいろな意見がある。そういう中で、今警察官がとにかくピケ隊の中に入つて行こうとするときは、私はきわめて慎重を要すると考えなければならぬと思う。ところがこの労使問題が、しかも事実明白な状態においてあるにもかかわらず、変更になつた考えて、一方的に判断をされて、警察官の出動を見たということは、非常に遺憾であると思いますが、この点どういうように判断をされたか。なるほど作業所閉鎖であつたけれども、その後かわつてつた、こういうように判断をされるのは経営者だけの意見である。その際労働組合の意向を聞かれたかどうか、労使関係はどういうようになつたかということを十分承知であつたかどうか、これをお尋ねいたします。
  128. 江口見登留

    ○江口参考人 先ほどもお答えいたしたと思うのでありますが、労使関係に当初から警察力が介入すべからざることは、申し上げるまでもございません。われわれも、先ほど申しましたように、二十六日の午前中は、あるいは両者の話合いによつて事が円満に収まるかもしれないというふうにさえ考えまして、四百名の予備隊は帰したのであります。ところが、その後理事者側からも、業務は行うのだというはつきりした意思表示がございまするし、またそれに伴つて、ただいま申し上げましたように、二十数団体と申しますか、会社の千人以上の人々も中に入りたい、業務がしたくて外にうろうろしているのだ、それらも入れるならば入りたいという意思表示をして参つておることは事実であります。それらの点を見まして、理事者側に対する業務妨害だけではなく、ほかに仕事をしたい人がまだたくさんあるのだという点を認定いたしまして、やはり業務妨害罪であるとしばしば警告を発しました。けれども、その事態が改善されないので、とうとう、三時過ぎでございましたが、ただいま申しましたような実情に相なつたことは、まことに遺憾でありますけれども、実情はそういう次第でございますから、御了承願います。
  129. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 理事者側だけでなくて、他の証券会社も業務を行うという話がありましたが、私は事実を明確にいたしたいと思いましてお尋ねするわけです。これは組合側にもお尋ねしますけれども、取引所で取引をする業者でなくて、そういう取引所に入る証券会社の労働組会、現在争議中の労働組合の仕事の場所でない会社、たとえば、今、健康保険組合とかあるいは日興証券の話がありましたが、そういう同じ建物の中に別個の会社がある。これは私は、今の話によりますと、協定によつて入れておる、こういうことであろうと思うわけです。そこで二十数社という話は、同じ建物におつて業務をやつておるということでなくて、その取引所の中に来て自分の業務をやつておる、いわば商取引をそこでやつておる、こういうことであろうと思うのですが、その点どうも、とびらをふさいで、同じ建物の中に他の会社があるのに、それも入れなかつたというような誤解を招くような発言がなされておると思うのです。あるいは警視総監の方は、事実を非常に明白に知つておられるので、かえつて私の方がそのように誤解したのかもしれませんが、その点をお尋ねしておきたい。
  130. 江口見登留

    ○江口参考人 先ほど協定によつて入れておるという話があつたようでありますが、それはその中にあります健康保険組合、それから健康保険組合の診療所、この二つは組合としても必要と認めたものでございましよう。協定の中に入れているようでございまして、そのほか日興証券というのがその中で事務をとつておりますが、これも話合いの上、一部入場して仕事をしております。そのほかに、たとえば証券業協会とか、同連合会とか、ニユー東京とか、あるいは外務員協会とか、三井銀行、富士銀行、その他銀行がまだ三つ四つございます。それから、実栄会とか、協和会、投資協会、株式会社懇話会、消費生活協同組合、兜クラブ、日本橋警察署警戒員、こういう団体と申しますか、クラブと申しますか、銀行会社が二十幾つございまして、その従業員は千五人という計になつております。
  131. 細谷節也

    ○細谷参考人 ただいまのことに関しまして申し上げます。健康保険組合、それから日興証券は、その一部が入つているのです。協会、消費生活協同組合、こういうところへは、夜間連絡場所という書類がありまして、そこに非常事態が起きた場合には連絡する人の名前と電話が出ているのです。ですから、われわれ二十六日にトライキに入つたときには、ただちにそこに連絡して責任者に来てもらつて協定しました。その際に連絡できなかつたところが銀行なんですが、これは朝ただちに銀行の本店の方に呼びかけまして、来てほしいと言つたのです。しかしながら銀行は、好意的に、取引所がストライキに入つているのだつたら、開店しても何ら行う仕事はないからといつて、全然入つて来ませんでした。さらに実栄会は、われわれが連絡したのですが、すでに二十日ごろから一初の荷物を持ち出しまして、そこでやる予定で、取引所の一階の北側に入つているのですが、そこには何ら物は置いてありません。しかしながら、午前中に一度実栄会の代表が来まして、金庫が破壊されているかどうか見せてくれと言いましたので、そのときはちやんと見せてやりましたが、金庫が破壊されていないので安心して帰りました。その際に、実栄会が入るならばわれわれと協定を結んでくれと言つたら、その必要はない、われわれは何も置いてないからと言つてつております。そのように、ただいま警視総監が言われた意見の中には、相当事実を歪曲された点があると思うのです。  さらに、これは先ほど警視総監が言われたことですが、警棒はみな腰にしていたというのですが、警棒を振り上げている写真はございます。おそらくこれはきよう返つて来たと思いますから、明日差出します。  さらに、先ほど、理事者側のスキヤツプの中で、傷害を受けた者があるというようなことを言つておるのですが、その前に、取引所の組合が要求を出したときに、会員総会といいまして、これは各証券会社の社長で構成しているのですが、その会員総会の決によつて、もし、たとえば山一証券なら山一証券の従業員が取引所の組合員と連絡をとつたら、山一証券は取引所で取引をさせないというような決を行つております。従業員が取引所の組合と連絡をとつた場合に、その責任は社長にあるのだ、社長をボイコツトするのだという決をとつております。従つて、そういうような決によつて、今度は社長は従業員に相当圧力をかけております。ですから、そういうような環境の中において、十一月一日に私服が各証券会社のスキヤツプに関係した人にまわりまして、答申書を出せ、これは警察に必要だから出せと言つて、強制して出させたものであつて、先ほど警視総監が言つた理事者側の傷害事件というものは、おそらくこれはでつち上げにすぎないと思うのです。また、そのようにして強制的に書かせられたと言つている者もあります。  さらにその際に、警察は争議介入しないと言つておるのですが、すでに二十二日に、先ほども申し上げましたように、警官隊と密接な連絡をとつております。そうして社長がスキヤツプの者を社長室に集めまして、ストライキが起きた場合、君たちは警察の指示に従えとはつきり言つておるのです。それをはつきり言つたのは、日東証券の社長の土屋陽三郎です。これは、スキヤツプを社長室に集めましてそう言つております。その他、山一、山叶、玉塚、そういうところでも、経営者側の者がスキヤツプを集めて、すでに二十二日にそういうように訓示しております。その事実を申し上げます。
  132. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 今、組合参考人からお聞きしましたように、同じ建物の中の他の会社は、三井銀行とか富士銀行というのは、むしろ自発的に向うで来なかつた。その他のものについては、協定によつて入れた、あるいは実栄会のごとく、来る必要がなかつた。ですから、同じ建物の中におつて、このストライキ並びにそこに起りまたピケその他の問題によつて、直接実害をこうむるという会社はないと私は判定する。そこで、他の会社ということになりますと、これは商取引の関係でありますから、炭鉱がストライキをすれば関連産業が困るのはあたりまえで、その日に商売して行けないのはあたりまえで、これは問題にならないと思う。そこで私はお尋ねしたいのですが、作業所閉鎖という関係になつている。しかも告訴状が出ている。こういう場合には、当然あなたの方では、組合の方へ、どういうような実情になつているかということを聞かれるべきが至当であつたと思うのですが、その労使関係について、組合にお尋ねになつたかどうか、これをお聞きしたい。
  133. 江口見登留

    ○江口参考人 先ほどもお話しましたように、午前中郵便局におきまして組合側の話も聞いておりまするし、午前中の状態がもし続きまするならば、ただいま申しましたような犯罪容疑が濃厚になるからというようなことは、しばしば警告も発しております。ただ組合側の意向も聞かずに、一方的に理事者側とだけ連絡をとつて乗り出したのではないかという御疑問のようでございますが、私はそういうことをしたことは決してないと思います。先ほど申しましたように、新しい組合でありまするし、理事者側も組合側も、こういうことはほとんど経験がないのでありまして、むしろわれわれ警察側としても、この新しい東証の労組に対しては、取締りというよりは啓蒙的に行こうとか——そういう言葉が当るかどうかわかりませんが、そういう心持で対処したのでありまして、ことにその実力行使をした際におきまして、東証組合側はきわめて紳士的であつたことを、私も認めまするし、現に極束されておる者が、組合側はたつた一人だという事実は、それを証明しているのであります。特に東証労働組合が、実力行使の意向で臨んだはずは決してないと私は思つております。
  134. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 しからばその保護をされる法益は何ですか。作業所閉鎖をしているのですから、保護される法益がないじやないですか。一体どこに業務妨害があるというのか、何を保護されようとしているのか、これをお尋ねしたい。
  135. 江口見登留

    ○江口参考人 作業所閉鎖があり、さらに立会いを行いたいから入れてもらいたいという申出は、確かに矛盾しておりますが、午後はやりたいという申入れがあつた場合に、証券取引法上の解釈か存じませんが、それに伴つてストライキがあるからきようは行かないといつて、みずから来なかつた者もございましよう。しかし来た者もあるのでありまして、開かれるならば自分らも入るというので、来ておる者もあ、るわけでございますから、千人以上のすべてが全部そこにそろつて入りたい入りたいと言つたとまでは申しませんが、自分らも開かれるなら中に入つて仕事をしたいという者もあつたわけでございます。それらに対する業務妨害が成立しておるという観点のもとに実力行使をいたしました。
  136. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 どうも私はふに落ちない。作業所閉鎖をしているのですから、作業所を閉鎖する意思理事者が持つておるのに場立はやろう、こういうこと自体がこれはきわめておかしい。またその理事者自体が、今度は再開をするからといつて会社に要請をする、あるいは告訴する、こういうことも、きわめて私はふに落ちないのです。私は威力業務妨害罪で逮捕された者があるとか、あるいは警察官が入つて来た、こういうことを見まして——私は九州で新聞を見たのですが、そのときに、ロツク・アウトをしておつて、なぜそういうことが起るだろうか、どうも解釈に苦しみ、現在もわからないのです。この件につきまして、さらに私は質問をいたしたいと思いますけれども、時間がございませんので、きようはこの程度にして次会にいたしたいと思います。
  137. 赤松勇

    赤松委員長 その点警視総監どうですか。
  138. 江口見登留

    ○江口参考人 たいへんふに落ちない点が多いようでありますが、私も非常にふに落ちなかつたのであります。実はなかなかむずかしい点でありまして、私もあるいは中西君に助け舟を出してもらわないと、お答えができないかもしれません。今の状態が続くならばというので話合いになつたのでありますが、ロツク・アウトが、組合側理事者側もなれなかつたのでありまして、理事者側は組合員だけを排除することを目的としてそういう言葉を使つたのじやないか、そういうふうにもとれますし、私が先ほど申し上げたような解釈が成り立つて、そこから実力行使に移つたものだ、こういうような解釈をいたしております。
  139. 日野吉夫

    ○日野委員 この問題はお互いふに落ちるまでには、相当時間がかかると思います。ふに落ちないままですが、時間が経過しておりますので、さらに継続して調査をする、こういうことで今日は散会されんことを希望いたします。
  140. 赤松勇

    赤松委員長 実は私も昼飯を抜きにして両方のを今お聞きしておるのですけれども、こういうことは、前もつて資料でも御提出願つておりますと非常に審議がしやすいのです。ところが資料が出てない。今、警視総監の方へ私から申し入れたのでございますが、明日三時までに資料をそろえて本委員会に提出をいただきたい、こういう申入れをしまして、これは承諾をされました。つきましては、組合側の方においても、そういう資料をそろえていただいて明日出していただく。私が明日と申しますのは、実はこの十九日でもつて委員会を一応閉会しよう、こういう各派の申合せになつておるのであります。ところが、事はきわめて重大でございまして、次官通牒の問題と関連しますが、従いまして今の動議もございますから、明後日これを再び議題にいたしまして各参考人の御出席をお願いしたい。従つて明日三時までに出していただきますならば、明日の夜各委員がこれを審議検討いたしまして、明後日審議の資料にする、こういうことになりますから、ぜひ参考人の方でも御協力をお願いしたいという思います。
  141. 細谷節也

    ○細谷参考人 ちよつとそれに関連して。資料を提出したいと思いますが、押収されてしまつておるものはどうしたらよろしいのですか。
  142. 赤松勇

    赤松委員長 押収の問題につきましては、これは別個に私は警視総監にも折衝したいと思つております。私が今公式に申し上げておりますのは、どうしても資料がなくて提出されないものはやむを得ないと思います。そこは補足説明をしていただく。今までお聞きしたところによれば、あなたたちも記憶力はよい方ですから、相当の資料が出ております。アウト・ラインでもけつこうですから、それは足らない部分は幾らでも補足説明をしていただけばけつこうです。なおあなたたちだけで不十分だということでありますれば、また私の方へ申請していただけば、委員会へはかつて参考人をふやすこともできますから、一応御提出をお願いしたい。その書類の問題につきましては、実は警視総監も元労働省出身ですから、あまりむちやなことは言われない。いわんや団交の重要な記録、それがなければ団交ができない、あるいはそのために団交が著しく不利になるというようなことになりますれば、これはかえつて経営者のために行つた弾圧だということにもなりますから、この点につきましては、おそらく警視庁の方でも十分考えるところがあると思うのであります。これはまた委員会が終りましてから、警視総監と各派の者がよく相談して善処をしたい、こう思つておりますから御了承を願います。
  143. 大橋武夫

    大橋(武)委員 これはこの次お出かけまでに、警視総監の方で御調査願いたいと思います。ロツク・アウトが一方において行われつつあるのに、業務妨害という犯罪が成立する余地があるかどうかということが今非常に問題になつておるので。すなわち、今回の警察官の出動の動機というものが、業務妨害が行われつつあるような状況と判断された、そのために実力行使したのだ、こういうふうな警視総監のお話であつたわけで、今後こうした事件を処理するにあたつて、この問題は非常に重大な問題になると思うのです。そこで、労働省あるいは法務省あたりともひとつよく——これは労働省の方でも御研究いただきまして、刑法上の業務妨害罪というものはロツク・アウトの場合においては成立しないものであるかどうか。それとも作業所の通常の作業はロツク・アウトにおいては停止されておるけれども、しかし経営者なりあるいは事業場の管理者の管理業務というものもあるわけですから、それに対する業務妨害罪というものは成り立つかどうか。この点をひとつ法的にお取調べを願いまして、次の機会にしつかりしたお答えをいただきたいと思います。
  144. 赤松勇

    赤松委員長 ただいま前法務総裁大橋武夫君から強い御希望もございましたから、ひとつそのようにおとりはからいを願います。  なお、ただいまも参考人の方から希望のございました押収書類中——この点は私はあとで非常に問題になると思うのです。どこまでが必要な書類であるかということにつきましては、相当問題になると思いますけれども、ひとつこういう点につきましては、警視総監もぜひ当委員会の気持にも同調していただいて善処してもらうということにつきまして、それをも含めて島上委員からも発言を求められておりますが、この際に自由党の前法務総裁もむろんこれに反対されるわけはない、よくわかつておると思います。そこで私があとでまとめますから、左派社会党からその書類返還に対する要求を出していただきたいと思います。——島上君。
  145. 島上善五郎

    ○島上委員 では私から御要求しておきますが、組合団体交渉に関する記録は、これは団体交渉の進行途上にありますので、それがないということは非常に手違いができて困ると思うのです。そこで団体交渉に関する記録並びに組合のふだんの業務遂行に必要な書類その他があると思いますので、そういう書類はぜひ返してもらいたいと思います。  それから今の日野君の意見には私は賛成しまが、非常に重大な問題ですから、事実があんまり食い違つてつたのでは困るわけであります。先ほど来、当の現場におつて判断をし指揮をした日本橋署長が、こちらにおいでになつておりませんので、これは次会にはぜひ日本橋署長も参考人として追加を願いたい、こういうことを提案しまして、今の意見に賛成します。
  146. 赤松勇

    赤松委員長 この事実の食い違いが一番あるのは、その間にあるようですから、参考人として日本橋署長を追加してもらいたいという御提案ですが、御異議はありませんか。
  147. 日野吉夫

    ○日野委員 賛成です。
  148. 中原健次

    ○中原委員 ただいまの島上君の御提案に全面的に賛成いたします。
  149. 江口見登留

    ○江口参考人 先ほども申しましたように、団体交渉に必要な書類は、できるだけお返しするようにしておりますし、すでに一部はお返ししております。ただ検事勾留が付されておりまして、検事局としても捜査上ぜひ必要であるという書類があると思うのであります。それを私の立場から、それはもう必要ないのだから返してくれということは申されませんし、この点は検事局の意見も尊重しなければならぬ立場にありますので、その点御了解を得ておきたいと思います。
  150. 赤松勇

    赤松委員長 労政局長の方も努力してください。それでよろしゆうございますね。  本日御出席参考人中、富家、細谷両君は、明十八日も午前十時より御出席くださるようお願いいたします。  なお、ただいま調査中の東京証券取引所の争議における警官介入問題は、明後十九日再び調査いたしたいと存じますので、本日御出席参考人中、江口警視総監、細谷、鈴木、野手、後藤の四君の各位には、明後十九日にも、午前十時より御出席くださるようお願いいたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後六時十四分散会