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1954-02-19 第19回国会 衆議院 労働委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年二月十九日(金曜日)     午前十時五十七分開議  出席委員    委員長 赤松  勇君    理事 池田  清君 理事 丹羽喬四郎君    理事 持永 義夫君 理事 高橋 禎一君    理事 多賀谷真稔君 理事 井堀 繁雄君       木村 文男君    田中伊三次君       黒澤 幸一君    川島 金次君       大西 正道君    中原 健次君  出席政府委員         労働政務次官  安井  謙君         労働事務官         (労政局長)  中西  実君         労働基準監督官         (労働基準局         長)      亀井  光君         労働事務官         (職業安定局         長)      江下  孝君  委員外出席者         参  考  人         (八幡製鉄現業         労働組合組合         長)      松永 徳夫君         専  門  員 浜口金一郎君     ――――――――――――― 二月十八日  委員高橋禎一君及び日野吉夫辞任につき、そ  の補欠として三浦一雄君及び平岡忠次郎君が議  長の指名委員に選任された。 同日  委員平岡忠次郎辞任につき、その補欠として  日野吉夫君が議長指名委員に選任された。 同月十九日  委員三浦一雄辞任につき、その補欠として高  橋禎一君が議長指名委員に選任された。 同日  高橋禎一君が理事補欠当選した。     ――――――――――――― 同月十七日  日雇労務者資金等に関する陳情書  (第八  二一号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  理事の互選  小委員補欠選任  参考人招致に関する件  労使関係労働基準及び失業対策に関する件     ―――――――――――――
  2. 赤松勇

    赤松委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りいたします。理事高橋禎一君が昨十八日一旦委員辞任されましたので、理事が一名欠員なつております。理事補欠選任を行わねばなりませんが、選挙の手続を省略して委員長より指名いたすに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 赤松勇

    赤松委員長 御異議ないものと認め、それでは高橋禎一君を理事指名いたします。     —————————————
  4. 赤松勇

    赤松委員長 次に小委員補欠選任についてお諮りいたします。高橋禎一君の委員辞任に伴い、港湾労働に関する小委員に一名欠員を生じましたので、これも委員長より指名いたすに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 赤松勇

    赤松委員長 御異議なしと認め、それでは高橋禎一君を港湾労働に関する小委員指名いたします。     —————————————
  6. 赤松勇

    赤松委員長 職業安定法施行規則に関する件について調査を進めます。     —————————————
  7. 赤松勇

    赤松委員長 この際お諮りいたします。ただいまの件に関連いたし、労務供給の問題につきまして、参考人として松永徳夫君より御意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 赤松勇

    赤松委員長 御異議なしと認め、さよう決します。松永参考人
  9. 松永徳夫

    松永参考人 私は参考人として述べますが、昭和二十三年の職安法施行によりまして、八幡製鉄所の中で、私たち政府の方針に基きまして、好むと好まざるとによらず直傭になれということで直傭になりまして、その後職安法につきましてわれわれは忠実に守つて来たはずでございます。  昭和二十五年に、非常にきゆうくつな職安法施行規則の中で、八幡製鉄所名護屋岬貨車おろし——これは内容を申し上げますと、平炉並びに溶鉱炉の廃滓を捨てるのでありますが、日々の貨車の台数が大体百五十から二百台というふうなものを業者請負わせようと計画いたしまして、業者は当時の金で約四百万円に上る厖大機械をもちまして、これの請負をやろうという計画を立てたのでございます。当時私たちは、職安法立場から、県の職安課長らを通じまして、数回にわたつて実地検証をいたしました。実に厖大な、数百人を要するところの実地調査をいたしました結果、とうとう当時はわれわれの勝になつたのでございます。  一応その問題は支持されましたが、その後一昨年でございましたか、二月一日の職安法施行規則改正通牒によりまして、例の名護屋岬の問題も、請負なつておるのでございます。現在では企業合理化というような形で、逐次請負になされつつある。特にはなはだしきものとして、枝光石灰焼成作業というものが非常に問題になつておつたのでございますけれども、本年の一月一日付をもちまして会社の設備建物機械電話一切のものを提供いたしまして請負に出すというような計画をして、現在やつておるのでございます。  私たち昭和二十五年の名護屋岬の当時から、労働省に再三折衝いたしましたし、昭和二十七年二月一日の規則改正に伴いまして二十七年の三月と四月に上京いたしまして、私労働省と折衝したのでございます。その当時、労働省は、君たちの話もわかるから、何とか通牒を出してしかるべく考慮しようというようなことを発言したのでありますが、その通牒たるやまことにあいまいなものでございまして、非常に残念ございましたが、われわれもそのまま放任したのでございます。  昨年の十一月、第十七回国会でございましたか、当時私たち組合を代表し——これはうちの組合だけでなくして、北九州労働組合共願の形で私が請願書を持つて参つたのでございます。その当時江下局長さんともいろいろ折衝いたしましたが、労働省の見解並びにわれわれが要求するところの認定基準、これが非常に問題になつたのでございます。昨年、別の認定基準であつた当時は、われわれでも非常に見やすくあつたのでございます。これが二十七年二月一日付をもちまして廃止になつたので、まことに請負がやりやすくなつた、またやらせよくなつたということで、われわれは作業基準を示してほしい、こういうふうに迫つたのであります。昨年十一月の幾日でございましたか、われわれ院内で江下局長さんとお目にかかりまして、非公式ではありましたが、何とか十一月一ぱいには認定基準を示そうという約束をされたと私は記憶しております。  現在は認定基準というものが何も出ていないということで、非常に問題になつておるのでございまして、たとえば先ほど申しましたような製鉄所内一つ作業が、施設機械電話一切を貸与されまして、これが請負でできるとするならば、おそらくは製鉄所全部を、そういうような形式で請負に出しても出せるのじやないかというような気分を持つのでございます。  以上が今日までの労働省との経過並びにかいつまんでの要点でございます。
  10. 赤松勇

    赤松委員長 ただいまの参考人の発言に何か御質疑ございませんか。
  11. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 参考人お尋ねいたします。参考人組合名称と、八幡製鉄労働組合というのとの関連についてお答え願いたい。
  12. 松永徳夫

    松永参考人 私のところの労働組合名称は、八幡製鉄現業労働組合と申しまして、お尋ね八幡製鉄労働組合とは違うのでございます。御承知のように、八幡製鉄労働組合は約三万五千人の組合員を有しております。私のところは後日にできました関係と、それから内容につきまして、服務規程賃金規定と違うので、おのずから別になつておる、なお具体的に申し上げますと、私の組合では現業員と、その中に現業職——通称日雇いと申しますが、一般通念的に臨時工というようなものを含ませた組織が三千五百になるので、勢い別個の形であるというのでございます。
  13. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 職安法施行によつて、従来労務供給で入れられておつたものが直傭の形、また常傭の形で組合をつくつておるという話ですが、そういつた組合が他の製鉱業あるいはほかのところにもあるかどうか、お尋ねいたしたい。
  14. 松永徳夫

    松永参考人 今お尋ねの点は、全国各所にあると思います。私の知つている範囲では、北海道室蘭製鉄所釜石製鉄所には現在組織はないというように聞いておりましたけれども、多分できておるではないかということ、さらに大阪の方、あるいは神戸製鋼、広畑製鉄所、近くは北九州でも八幡製鉄所並びに旭硝子の中、あるいは三菱化成、安川というふうに、職安法によつて切りかえられた各工場、職場には、それぞれ現業という名称を使つているかどうかは別といたしまして、あることは間違いございません。
  15. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 そういつた組合連合組織といいますか、中央協議会といいますか、そういうものができておるのか、あるいはまたそういうものの結成の動きがあるのかどうか、お尋ねいたしたいと思います。
  16. 松永徳夫

    松永参考人 現在ではまだそういう組織まで行つておりませんが、私のところは幸いにして現在三千五百人の組合員を有しておりまして、かなり活発な活動をしております。それら各所労働組合が活発にやつていないのは、財政の裏づけがないとか、あるいはボスの弾圧というようなことのためであるのは間違いない。現在ではそういう組織は持つておりません。十六日の日でございましたか、北海道室蘭から手紙が参りまして、これではいけない、ひとつ全国的組織を持つてやろうじやないかと尋ねて来ているのであります。並びに第二班といたしまして、室蘭現業の方から釜石並び広畑の方に派遣されており、私の上京と少し時日がずれますけれども、そういうような雲行きの中で、二十一日には北海道現業からこの問題について上京するということが言えると思うのであります。現在全国的な組織を持とうという雲行きが濃厚であるということをつけ加えて申し上げておきます。
  17. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 では具体的にお尋ねいたしますが、名護屋岬の鋼材貨車おろしの問題が従来紛争しておつて請負人といいますか、そういう人が請負わんとしたけれども、反対にあつてできなかつたが、その後施行規則改正によりそれが実施されている。また枝光焼成作業工場施設そのまま請負に出されておる。こういうことをもう少し具体的に説明していただきたいと思います。ことに法律関係でその機械設備、資材がどうなつているのか、あるいは専門的規格とか技術があるのかどうか、あるいは経験があるのかどうか、そういう業者実態もお知らせ願いたいと思います。
  18. 松永徳夫

    松永参考人 名護屋岬の問題は、現在では請負に出されておりますが、作業内容は、先ほど申しました平炉廃滓の捨て場ということで、貨車で運搬してスコツプでおろすというのが内容でございます。それの今度切りかえられましたのは、ただ単に場所をかえて、海の中に桟橋をつくつて、それに線路を引くという名称で、桟橋請負業者がつくつておるということで、現在請負に出されておるのでございます。  なお最も新しい枝光焼成作業具体的内容といたしましては、建物機械設備電話等施設一切を業者貸与いたしまして、なお谷口鉱業というものを——私の知つておる範囲で申し上げますと、谷口鉱業主というのは、かつて清津製鉄所事務員をやつてつたということで、終戦引揚げ参つたのでありますが、これら清津関係の職員には、ほかにも清津組というのを組織いたしまして、鉱滓の作業をやつておるということで、八幡の中にいろいろな関係者がおりまして、解雇をしたけれども何とか食うて行く道は考えなければいけないというようなことじやないかと想像されております。そういうふうで現在やつておりますが、私の知つておる範囲では、化学産業というものの経験があるのかどうかということについて、非常に疑義があるのであります。特に元事務員であつたという関係と、終戦引揚げて来られたことから、そう特に私が取立てて申し上げるほどの化学産業であるかどうかということには疑義がある。もつともその後八幡に帰りまして、製鉄所の中で豆炭工場をやつてつたことは事実でございますが、その技術には疑義を持つものでございます。ただそのことをやるために技術者として新しく学校出を二名入れておるようでございますが、その辺もはたしてどういう人であるかということは私もよく存じません。さらに技術関係におきましては、作業員が満期になりましたので、八幡製鉄所の方から元焼成作業をやつてつた人を五名くらい入れておるということで、十五年から二十八年の経験を持つおるようなことをいろいろ言つておりますが、その辺もまだ私の調査しておる範囲では、はたしてそうであるかどうかということには若干疑義があるのでございます。     〔委員長退席持永委員長代理着席
  19. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 職安局長お尋ねいたしたいと思いますが、まず枝光の消石灰について、労働省としてはどのように把握されておるか、お尋ねいたしたいと思います。
  20. 江下孝

    江下政府委員 お答え申し上げます。枝光石灰焼成作業につきまして、八幡製鉄所谷口鉱業所請負を出したという問題でございます。私どもの調べたところによりますと、去年の九月八日に製鉄所の方から安定所に対し、本作業職業安定法に抵触しないなら請負作業として施行したい、こういう事前の相談があつたそうでございますが、しかしその問題は、その直後さたやみになつたところが、また暮れになりましてこの問題が再燃いたしまして、八幡製鉄においてはこれを請負作業としてやりたいということで、安定所にその話があつたそうでございます。そこで安定所の係官が製鉄所に参りまして、現地製鉄所関係の方方、あるいは組合の方々にも話を聞いたのでございますが、いろいろその問いきさつがございまして、県においても現場を再調査したようでございます。そこで安定所のこれに対する判断といたしましては、なるほど今参考人が言われました通り機械設備等八幡製鉄所から無償貸与を受けておるわけでございますが、いわゆる職安法施行規則第四条第四号にございます「企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験」、この項にこの石灰焼成作業は該当するという認定を下しまして、一応製鉄所の方に指示をしたわけでございます。なおこれにつきましては、本省にも県から伺いがございましたので、私どもの方でも事情を書面、口頭により審査をいたしまして、この作業はいわゆる労働者供給事業に該当する請負ではないという判定を一応いたしたのでございます。一応それだけ申し上げておきます。
  21. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 私はこの問題については、具体的な問題よりも、むしろ根本的な一般的な問題として扱いたいと考えておるわけです。今松永参考人から言われましたが——これは非公式ですけれども、私もたまたま立ち会いまして、それで産業別認定基準というものを早急に出したいということでした。なるほどその後局長努力によりまして、通牒は出ました。出ましたけれども、それは前の通牒を少し補足説明したという程度にすぎないのでありまして、何ら産業別認定基準が出されていない。こういうことはきわめて遺憾に思うわけであります。今度の通牒によりますと、産業別認定基準については非常に出しにくいけれども、統一的な認定基準等は有効なものとして取扱う、こういうことが書いてあるわけです。そこで私が非常に疑問に感じますことは、統一的な認定基準が出されるのに、産業別認定基準が従来あつたわけですから、それを若干修正すれば当然出し得ると思うのです。しかるに産業別認定基準がいまだ出されてないのはどういう理由によるのであるか、これをお尋ねいたしたいと思います。
  22. 江下孝

    江下政府委員 ごもつともな御質問でございます。そこで私といたしましては、昨年の暮れの国会でも、できれば通牒補足程度でない認定基準を出せるならばという気持もございました。しかしながら、現実個々産業に各職種ごとにこの認定基準をつくつて行くということは、実際には非常に困難な作業であるということを実は事後において発見したわけでございます。そこで今までありました認定基準があるのに、今度それができないということはないじやないかというお話でございます。もちろんこれは長い月日をかけまして、具体的に詳細に掘り下げるならばできる問題ではございますけれども、私前に、先国会でも申し上げましたような趣旨施行規則改正いたしました。その精神と申しますのは、要するに従来の規則と全然かわらない、ただ従来あまり厳格過ぎた面を企業運営実態に応じて若干緩和したというこの線でございます。そこで現実の問題といたしましては、典型的ないわゆる労働者供給事業、すなわち肉体的な労働のみに依存する作業、あるいは強制就業ないしは中間搾取のおそれのあるものについては、従来通りこれをやはり厳重に規制して行く、あと個々作業につきましては、現在のところはその精神が相当地方にも浸透いたしておりますし、煩瑣なあれを避けまして、ごく個々の具体的な事件にあたりましてこれを認定して行くという立場をとつた方がいいではないかという結論に達しましたので、一応認定基準はやめまして、お話になりましたような、昨年出しました通牒補足程度通牒にいたしたわけでございます。
  23. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 私は、今初めて産業別認定基準をつくるということであるならば、きわめて困難であろうと思う。しかし、すでに職安法が実施せられて、あるいは港湾荷役における労働者供給事業認定基準とか、電気通信事業における労働者供給事業認定基準とかといつた各種の認定基準が従来あつたわけであります。今度の施行規則改正につきまして、私はあとから意見を申し上げたいと思いますけれども、一応これを是認いたしましても、この範囲でも十分私は認定基準ができ得るものである、かように解するわけであります。しかるに通牒によりますと、統一的な認定基準は有効であるけれども産業別認定基準を廃止する。こういうことは、これは下部において、労務供給業の問題について実際上は職安法を実施しなくてもいいのだ、しようがない、実際具体的にはこういうようにしか受取れない。むしろ職安法施行をサボつておる、こういう行政官庁の態度であると思うのです。その点についてお尋ねいたしたいと思います。
  24. 江下孝

    江下政府委員 職安法を実施いたしましてから現在までの、労働者供給事業認定をした件数でございますが、当初におきましては、お話通り、相当馬力がかかりましたので、数もふえております。二十四年末までで三万八千百九十一という労働者供給事業認定をいたしております。二十五年には六千八百七十七、二十六年には三千八百四十三、二十七年の一月から三月まで、つまり改正のときまでで六十八、合計改正前に四万八千九百七十九件認定をいたしておるのであります。改正後におきまして、昨年の九月までで二百二十七、合計四万九千二百十六件認定をいたしたわけでございます。  そこで私どもといたしましては、過去において相当労働者供給事業排除ということを厳格に実施いたしましたので、ある程度この趣旨はすでに事業主の方にも浸透しておるものだという予想もあり、さらには、正直な話でございますが、最近安定所のいわゆる日雇い問題その他多忙な現業事務のために、この面につきましては、あるいは従来ほどの峻厳な手が及ばなかつたということは、これは正直に認めなければならぬと私も考えております。しかし考え方は、そういうふうに過去において相当排除したから、ある程度実績はもう上つたのじやないかという趣旨であつたのでございます。ところがお話のように、最近またこの問題がぼつぼつ地方でも取上げられて参つておりますし、私としましても、先ほど申し上げましたように、労働者供給事業排除ということは、労働民主化の一番重要な要件でございますので、これを今後放置するというような考えは全然ございません。そこで、乏しいながら安定機関のできるだけの力を結集いたしまして、この労働者供給事業排除努力を続けて参りたい。というふうに考えておるわけでございます。
  25. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 産業別認定基準の新たなる制定ということは、私は非常に困難ではないと思うのです。なぜかと言いますと、この施行規則を表面からだけ見ますと、改正になつたのは「専門的な経験」というのが入つただけです。この改正の最も大きな部分は、みずから提供する機械設備、その他のものを注文主から賃貸あるいは貸与を受ける、これを従来認めなかつたのを、認めるということであろうと思いますけれども、これは施行規則には書いてない。これは通牒で行われているんです。ですから、専門的経験というのがどういう面に入つて来るかということを、今までの産業別認定基準からピック・アップしてみればいいと思う。ですから、私はそう困難でないと思う。これは携わつている人が、従来問題のあつた点をよく見て、そしてこの上に立つて行われれば、私は、ごく簡単とは申しませんけれども、それほど難事ではないと考えるわけであります。しかるにそれが依然として不問に付せられておるということは、どうも納得行かないのであります。  今現地安定所の状態をお話になりましたが、私もまことに同情を禁じ得ないものがあります。ところが施行規則改正になつたら、取扱いがかわりましたから、逆に忙しくなつておる。従来のままで行きますと、請負者の方で、これは出してみても、当然認定にはならないだろうというところから、ひつ込んでおつたであろうものが、どんどん申請して来る、こういう逆の面が出て来るわけであります。炭鉱なんかで、みずから提供する機械設備、その他を注文主から貸与することができるということになれば、これはたいへんなことです。労働者だけ集めれば、この坑口は請負に出せる、こういうことになると思う。現在炭鉱は不況でありますので、私はそういう実態はあまり出てないと思いますが、少し景気が上向いて参りますと、こういうのが続出すると考えるわけであります。ですから私は産業別認定基準をすみやかに設定されんことを、ぜひ要望するものであります。一体やる意思があるのかないのか、お尋ねいたしたい。
  26. 江下孝

    江下政府委員 実は先ほど申し上げましたように、産業別認定基準については、これをつくつたらいいか悪いか、非常にむずかしい問題だと思います。現実の問題として労働者供給事業精神に反するものについては、これは三年、四年実施しておりますから、各地方においても十分その趣旨は納得しているというふうに、私どもは考えておるわけであります。もし現実に問題があれば、安定所においてこれを個々判定するという考え方をとりますれば、支障がないのではないか、つまり統一的なこまかい一つ基準をつくりましても、現実にこれを各一つ一つ事業に当てはめました場合、中央でつくりました基準がそのまますぐぴたつと当てはまるということはなかなかない。各産業別に相当こまかく具体的に検討しないと、この問題はできない。仰せのごとく、つくれと言われれば、これは日にちをかければできないとは申しませんけれども、それよりは、むしろ具体的に個々の問題について、多種多様の形を備えたものについて判定をして行くということの方が、現在の事情に合つているのではないだろうか。ただ、この認定基準の問題につきましては、私も勉強が足りませんので、今後勉強いたしますが、今より具体的、典型的な統一基準というものをつくりまして、安定所の業務がもう少し執行しやすいように考えて行くということなら、これはできると思いますが、具体的にこまかい基準一つ一つのケースにすぐ当てはめるようなことは、実際問題としてはなかなか困難じやないかと思つております。
  27. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 現地職業安定所は、これがないために非常に苦労をしておるわけです。注文主というものは、少くともその周辺におけるきわめて有力な工場であります。それから請負人というのは、あまり極端に言いますと語弊がありますけれども、総じて非常に封建性の強いボスであります。労働者というのは、組合組織することもできないような労働者ですから、声の出しようがない。そういう中で安定所が圧力に抗しながら作業をやつているわけです。ですから、安定所としては、そういう認定基準がなければ——この抽象的な法律解釈で、どちらでも解釈のできるような経験なんという言葉になつて参りますと、どうでもこうでも言い負かされる。こういう状態では、私は職業安定の完全なる遂行はできないと思う。でありますから、われわれが言うよりも、むしろ行政官庁としては、当然下部がやりにくいのですし、単に統一的な認定基準だけでなくて、従来あつたのですから——すでに何箇年か施行されて来たものを廃止するという通牒を出しておる。廃止するといいますと、従来の慣行が行われておるから十分納得しておるだろうというふうには行かない。逆に、廃止したのですから、これは従来の慣行とは違うのだ、こういう認識を持つのは当然であろうと思う。これはいかに行政官庁が言いましても、業者の方はそうは考えない。全然廃止されたのですから、これは相当ゆるくなつたのである、かように考えるのは当然である。でありますから、今職業安定所としましては、いろいろな問題が輻湊している中で、こういう問題が起つて参りますと、ますます現地においては、ことに下部の官僚はとてもやりにくいだろうと思う。でありますから、私は産業別認定基準をつくつてやることが、職業安定をうまく遂行するゆえんである、かように考えるわけです。私はこれは官庁の立場からしても当然そうである、かように考えるのです。これは八幡現業労働組合は、少くとも三千五百の労働組合員を持つて、かなり声としても大きな声を出し、力もある組合ですから、相手も八幡製鉄ですけれども、こういうふうに中央にまで来て陳情ができておるのですが、普通の組合は、陳情どころか安定所にも言つて行けない、こういう状態にあるわけです。でありますから、私は当然産業別認定基準をすみやかにつくつていただきたいと考えるわけであります。  さらに私は具体的に行政解釈通牒についてお尋ねいたしたいと思います。このみずから提供、使用するという中において、機械設備、器材等を別個の双務協定でやればいいのだ、こういう文句が書いてあるが、この別個の双務協定という別個とはどういう双務協定であるのか、これをお尋ねいたしたいと思います。
  28. 江下孝

    江下政府委員 みずから提供する設備機械というものにつきましては、請負います者が、事業請負契約とは一応別に、それについての契約を相手方とあるいは第三者と結ぶ契約、こういうことになつております。
  29. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 今八幡枝光の消石灰の問題は、そういつたものでなくて、むしろ第四号の問題は専門的な技術という点で認定した、こういうことでありますので、これは直接いいか悪いかは別といたしまして、関係はないと思いますけれども、しかしこの問題にいたしましても無償で貸与しているわけです。何も賃貸の契約ではありません、無償貸与であります。それもあくまでもお前に消石灰をやらすからというので貸与した。この消石灰というのは、製鋼作業の一環であつて、全然別個に工場があるわけではない。当然流れ作業として製鋼作業の中の重要なる作業である。それが工場ごと全部請負に出されている。しかも消石灰をつくるというのは、専門的経験、あるいは技術というような問題がありますけれども、これは二、三人の作業員でも、規模さえ小さければ、生石灰、消石灰を焼いている実例はどこでも見受けられる。ですから、私はこういつた請負に出す場合に、自己のみずから提供あるいは使用する機械設備、器材、このものを双務契約によつて、しかも別個の双務契約によればいいのだという、この別個の判定が私はきわめて困難であると思うので、もう一度実際問題としてどういうように判定されるのか、お尋ねいたしたいと思います。
  30. 江下孝

    江下政府委員 この通牒にも、ややこれに触れておきましたように、別個という一つの名前にあまりこだわる必要はないと私は思うのですが、要するにいわゆる事業請負契約とは別にこれについての契約を締結いたしまして、その締結して使用を認められました機械設備につきまして、自己の意思に基いて措置し得る状態であり、またこれを提供、使用するということであるというふうに考えているわけであります。
  31. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 自己の意思に基いて処置し得るというのはどういうことですか。
  32. 江下孝

    江下政府委員 みずからが機械をどういうふうに動かす、あるいはいつごろ機械に物を入れるとかいうようなことは、みなその請負主がきめられる。たとえば機械を使う場合において、会社からこまかいさしずを受けないで、請負主自体がみずから、請負つた仕事について適当な時期にこの機械をこつちに持つて行く、そういうようなことができる状態である。どうも少し専門的でありますが、そういうふうに考えております。
  33. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 今の答弁、どうも承服できないのです。今まで製鉄所でやつてつたと同じような様式で——これは当然条件がついている、動かすこともできません。同じような作業方式でやらなければならないので、自己の意思は入らないと思います。しかしいつ作業をやるのか、何日からつくるのかというようなことは、自己の意思だと言われますけれども製鉄所の正門というのは、何時に入つて何時に出る、日曜日は休む、こういうようになつている。自分の工場は忙しいから自分のところだけは日曜日も働かそうというわけには行かない。これの従業員も製鉄所の正門をそこの従業員と同じように入つてつている。こういう状態であります。けれども、私はここの席で個個の事例について申し上げるのはどうかと思いますので、やめますけれども、このみずから提供し得るところの機械設備、器材が注文主から貸与できる、しかも無償貸与でもいいのだ、こういう解釈をいたされるということは、私は施行規則の第四条の解釈としては、むしろ不当であると考えるのですが、一体どういうようになりますか。
  34. 江下孝

    江下政府委員 微妙な解釈の問題と私も思いますが、私としては、先ほど申し上げましたように、やはり貸与なり、あるいは借り受けました機械設備を、会社側と離れまして自分の意思によつて自由に使用し得る状態にあるということであれば、かりにそれが注文先の機械設備であつても、そうそれを問う必要はないというふうに考えているわけであります。
  35. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 この四号の解釈は、みずから提供する機械設備、器材——一つこれを持つておればいい、それから、もしくは作業に必要な材料、資材を持つていればいい、さらに企画でもいいし、専門的な技術一つでもいいし、専門的な経験一つでもいい、こういう意味ですかどうですか、お尋ねいたしたいと思います。
  36. 江下孝

    江下政府委員 さようでございます。
  37. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 みずから提供する機械設備、器材を、注文主から貸与を受けてもいい——あるいは無償貸与でもいい、賃貸でもいい、こういうことになりますと、みずから提供するというのは、まつたく意味が死ぬと思うのです。この「自ら提供する機械設備、器材)」こういうことを書く必要はないと私は思いますが、一体どういうようにお考えですか。
  38. 江下孝

    江下政府委員 いわゆるボスというおそれのあるものは、技術あるいは機械設備を、自分としては全然持たないかあるいはそういうものについて、注文先の影響を受けて事業を実施するということになりがちでございます。そこでこういう機械設備等も自分の所有であるということが、もちろん好ましいわけでございますけれども、かりに注文先からこれを借り受けましても、実際の問題として正常な相手との契約によつて借り受け、しかもこれを自由に使い得るという形のものでありました場合におきましては、この点についてとやかく言う必要はないではないか。ただ、かりに表向きは別個の双務契約という形で一応正式に借り受けたということになつておつても、現実にはほとんど労務の提供だけであつて機械設備等については注文先の方が大体これを運行して行く、こういう状態はやはり排除されなければいけないというふうに考える次第でございます。
  39. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 運行に非常に技術がいるならば、それは技術に入るのです。ところが、運行その他にはあまり技術がいらない、器材、設備は非常な厖大なるものがいる、こういうことになりますと、それは純然たる肉体労働であると私は思いますが、その場合に、いやこれは労務供給業であるということで、そういうものを現在の注文主から貸与を受けてもいいという解釈のもとで禁止ができますか。私はできないと思うのですが、もう一度お尋ねいたしたい。
  40. 江下孝

    江下政府委員 実は質問の趣旨がわかりにくかつたのですけれども、私の申し上げたいのは、結局機械設備をみずから持つておる請負主が一番正常ないいものである、しかしながら、かりに、技術については非常に高いものを持つておる、スタツフもある、こういう請負主が消石灰なら消石灰の作業を専門的にやれる能力を持つている。たまたま機械設備をその業者としては持たないという場合に、もしこれがその面で八幡製鉄所との話合いで機械設備を自由にその人の意思に基いて使い得るという状態において使わせますならば、これはやはり労働者供給事業というわけには行かないじやないか。ところが現実の問題といたしましては、そういう何もない者が、技術者をほんとうに日雇い的に使う、名目だけ使う、しかも現実に相手方の工場に入り込んで、機械設備その他については何ら企画、技術がないのに会社側の方の指導、指揮に入つてつている、こういう場合を防ぐためにも、この規定は意味があるのではないかと思います。なお、つけ足して申し上げますが、この第四条第四号というものは、現実の問題としては、ばらばらに一つ一つを吟味しておりますと、率直に申し上げまして、非常にむずかしい問題が出て来ると思います。そこで私どもといたしましては、やはり全体としてこの四号の各条件の備えぐあいを総合的に判断して、そうして最後にはこれはいわゆる単なる労働者の搾取ではないという判断を下して行くという考え方をとつております。今のお話の消石灰の問題につきましては、私どもとしては、この点からも形としては一応問題ないと思います。技術の点で相当高いものを必要とする作業である、しかもボス的な要素は認められない、こういう判断からいたしまして、総合的に一応これをボスでないというふうに判断した次第でございます。
  41. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 私は具体的な枝光の問題を聞いておるわけではないのですが、この四号のみずから提供するということ、あるいは必要な材料資材をみずから使用するという、このことについて、これは注文主から無償貸与でもいい、賃貸借でもいい、とにかく借りてもいいんだという解釈をされるならば、従来はこの解釈は、これは脱法行為であるから禁止した、それを今度はそれも認める。今局長お話では、それは、そういう器材、設備があつても、ある程度技術がいるからと、こういうことでしたが、それは技術の面ですから問題ないと思う。ですから、技術もいらないようで、しかも資材、設備その他を借り受けた、こういう純然たる肉体労働の場合において、もしも注文主から貸与を受けてもよいのだという解釈をされるならば、この四号は全部死ぬのです。なくてもよいと思う。私は労務供給業を認めるという意味で言つているのではないのですが、そういう解釈をされるならば、まつたくこれは死んでしまう。ですから私は、四号の解釈としては、そういう解釈をされることはまつたく不当な解釈でもる、こう解するわけであります。この点についてお尋ねいたしたい。
  42. 江下孝

    江下政府委員 私の考えとしては、先ほど申し上げましたように、このみずから提供する機械設備、器材というものはもちろん専門的な経験技術とうらはらの関係なつておると思います。これだけを切り離してむずかしく考えて行きますと、お説のような立論になつて来ると思いますけれども、結局これとの関連において考えて行くということならば、私は今私どものとつておる解釈でさしつかえないではないかというふうに考えます。
  43. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 この労務供給事業の問題、ことに中間搾取の問題は、日本の封建制に対して、基準法がつくつた問題であります。ですから、今基準法の改正がいわれましてもこの点だけはどうしても、改正することはできない。日本の封建的な労働事情によつて立案されたものであるから、これは近代労働関係以前の問題でありますので、改正できないと思うのですが、それに基いた四条の問題であると思うのです。そこでこの問題は、私はきわめて慎重を要すると思うのです。今たまたま八幡の問題が提起されておるわけですが、港湾労働者あたりが来て実情を話しますと、これは多くのきわめて重大な問題を含んでおると思うのです。江下局長は、もう日本の民主主義はうまく行つて逆行することはないのだとお考えならば別ですが、私はまだまだ労働関係には封建的な要素を含んでいると思う。このとき、今まで何年間も実施されて来たこの解釈をここにくつがえして、しかも注文主から貸与を受けることは脱法行為であるからいけないのだと長い間禁止して来たものを、今度それはよいのだというような解釈をされるということでは、まつたくこれは死文化し、労務供給業認定はできないと考えるわけです。この点ぜひひとつこの解釈を改めていただきたい。この解釈がある以上は、この四号の問題については、現地におきましてもちろんですが、なかなか認定をすることは私は困難であろうと思う。ですから、そういうような解釈令規を改める意思はないかどうか、お尋ねいたしたいと思うわけであります。
  44. 江下孝

    江下政府委員 この労働者供給事業の禁止の問題で、特に請負契約で擬装した労働者供給事業であるものを禁止するというのが、この四条の趣旨でございます。その要件といたしましては、多賀谷委員も御承知の通り一号、二号、三号、四号と四つの要件があるわけでございます。そこで私どもといたしましては、もちろんこの四号の要件はどれか一つは必ず備えていなければならないという原則はとつておりますけれども、一号、二号、三号、合せてこれは要件として相当重要な要件であろうと思つております。そこで、以上私が申し上げましたような趣旨によりまして、この労働者供給事業であるかどうかということの判定は、結局あまり個々の字句にとらわれないで、この一号から四号までを私は総合的に判断して、これがボスであるかないかということをやはり言うべきではないか。そこでお尋ねのいわゆる逆行するような解釈を下したと言われる。まさしくその点だけについて申しますと、逆行ということも申し上げられるかもしれませんけれども、一号、二号、三号については、従来通りほとんど解釈はかえてないわけでございます。この点ただ四号だけにつきまして、私どもとしては若干企業運営、日本の資本主義の後進性から見ましてやや要件を緩和して実態に即応さした、こういうのでありますから、私といたしましては一応従来のような考えで、個々の場合に認定をして行くということで、どうにか今後やつて行けるのではないかというふうに考えておりますが、なおお話もございましたので、二、三の問題については十分検討をいたしたいと思います。
  45. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 ぜひ局長に十分検討を煩わしたいと思うのであります。従来四万八千もの供給事業認定があつたと言われますけれども、これはほとんど四号にかかつておると思うのです。ですから、この四号が骨抜きになりますと、四万八千とまでは行きませんけれども、少くとも三万程度は元に復活する憂いがあると私は考えておる。今この解釈、通牒がそういう業者に徹底していない。こう言うと変な話ですけれども、あまり知らない。知らないから、もうあきらめておりますけれども、これが漸次わかつて参りますと、これがまた私はたいへんなことになつて来ると思う。鉄鋼あたりは非常に業者の方も強くそれを要請いたしましたり、強い関心を持つておりましたから、すぐ業者の方でそういう措置に出たと思いますけれども、ほかの方へもこれが浸透いたしますと、たいへんなことになると思うのです。でありますから、この問題につきましては、私は早く産業別認定基準を出していただきたい。さらに今申しましたような点について十分御考慮願いたい、かように考えるわけであります。今申しましたように、なかなかしやくし定規に解釈ができないところに、産業別認定基準の必要性が逆にあると思うのです。ですから、ぜひひとつ御考慮願いたいと思います。  これをもつてこの問題は質問を打切りたいと思います。     —————————————
  46. 持永義夫

    持永委員長代理 それでは次に労使関係に関する件について調査を進めます。丹羽喬四郎君。
  47. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 ただいま行われつつありまする炭鉱の争議につきまして、現在までの経過並びに見通しについて、労政御当局としての御調査の結果並びに見通しについて、現状をお尋ねしたいと思います。
  48. 中西実

    ○中西政府委員 現在行われております炭労の争議の経過は、大体御承知かと思いますけれども、賃金問題につきまして、炭労と連盟との間におきまして、昨年の十月以降の賃金につきましての争いが続けられておるわけであります。  一番最初におきましては、まず交渉方式につきまして争いがあつたのでありますが、交渉方式につきましては、大手八社については連盟と八社との集団の交渉をしよう、それから九州の六社については別個東京で六社と九州の連盟との間で話合いをしよう、それから宇部興産につきましては、これは特に経営事情等も他と差がございますので、これは一つ別個にする、三つのグループにわかれてやつておるのであります。労使の交渉のやりとり、それから組合の闘争は、大体歩調をそろえて、その三つのグループがやつておるようでございます。  現在までの段階におきましては、大手八社と九州六社につきましては、連盟側は特に最近の米価の値上りということがある、しかし反面には税金が安くなるということもある、そういういろいろなフアクターを勘案して、月月二百円のアップを考える。そのほかに一人当りこの際七百円の一時金を出そう、こういう回答が出ました。それに対して中央八社、それから九州の六社ともに、組合は、そんなことじや話にならない、こういうことであります。それから宇部におきましては、坑内直接夫二百二十円、間接夫二百円、坑外夫百八十円、そのほかに一時金として総額五百万円、一人当り四百六十円ばかりになります、これを出そう。しかし、組合はやはりそれに対しては妥結にまで至つておりません。そこで組合は、こういう程度のことでは話にならないというので、運搬部門のスト戦術をとりまして、御承知のように、二日運搬ストをやつて一日休むというのを繰返して三波やりました。さらに昨日、今日第四波の運搬ストをやる。これに対しまして中労委は、事態を放置しておくは非常あとあと解決が困難になるという見解のもとに、月曜日に労使双方を呼んで一応事情を聞いております。それから昨日午後に労使を呼びまして、どうなんだ、このまま行けばなかなか自主的にも解決が困難であるし、さらにあとあとあるいは賃金差引の問題等でもつれるという可能性もある。この際中労委としても早期解決を望むので、意向はどうだということを、双方は別々に事情を聞いたようでございます。これに対してわれわれ聞いておりますところでは、労働側は、とにかく今のところまだ自主的に解決できる余地があるように思う、団体交渉もさらに継続してやれると思うという話であり、経営者側に対しては、組合はそういう意向であるようなのでどうなんだという話が、中山会長からされましたところ、それではひとつ考えてみようというようなことで、昨日今日にわたりまして、連盟側、組合側がそれぞれ相談をいたしました。その結果を、実は聞いておりませんけれども、しかし、一応双方で自主交渉をするということならやつた方がいいということで、中労委としましては、今のところその自主交渉が行われることを期待しておる、大体そういうふうな段階であります。  これが今後どういうふうに発展しますかは、今のところわれわれとしても非常に判断に苦しんでおりますので、見通しにつきましては今のところ何とも言いかねるという状況でございます。
  49. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 ただいま労政局長さんのお話で、組合側も事業者側も、両方で進んで自主的団交その他によつて早期解決をはかるという機運にあることは、まことに国家のために御同慶にたえないところでございます。私ども非常に心配しておりますのは、今日の経済まことに危局の時期におきまして、基幹産業の方面におきまして、労使双方がいたずらに争いを起して、生産量の減退を来し、それがひいて一般物価に悪影響を及ぼすということが非常な問題になる。しかもそれが電気と並んでの一番の基幹産業でありまして、私ども昨年やむを得ずああいつたような争議行為の一部規制法律を制定したような次第でございますが、そういう趣旨からいいましても、非常に憂慮しておる次第であります。それにつきまして、ただいまとられております行為につきましては、私新聞記事のみしか知識がございませんけれども、一部の部分ストである。しかも一部分の者が指名ストをいたしまして、相当大多数の者が就労しておるにもかかわらず、実際におきましては出炭の効果があがつていないという事実を聞いておるわけでございます。また賃金の支払いその他をめぐりまして、事業者側と労働組合側との見解が違つているという話も聞いているわけでございますが、その点につきまして、できるだけ詳細な御説明を願いたいと存じます。
  50. 中西実

    ○中西政府委員 部分ストの影響がどういうふうに具体的に出ておりますか、できるだけの資料を集めることにはいたしておりますが、詳細には実は具体的に入手していないのでございます。連盟の方にも、あるいは組合の方にも、相当個々の山につきましての報告が来ているようでございます。われわれといたしましては、それらを見て一応の様子を知る程度でございますが、おつしやるように、ごく一部の人によりまして出炭がほとんどとまるというような事情にあるように聞いております。最も極端なところはゼロで、まつたく出炭しない。それはどういうのかということを聞いてみますと、どこかの運搬部門の電気のスイッチをオフした、そのために、別にだれもストはしないのだが、全然出炭がないというようなこともあるやに聞いておりますが、とにかく非常に少数の人が要所を休みますために、出炭が阻害されている。大体一番初めの日に出炭をする、それが、運搬しませんので、坑内の貯炭場にたまつてしまうと二日目はほとんどそれ以上につちもさつちも行かない、従つて採掘の作業ができない。三日目に、ストがございませんのでそのたまつたのを出す。その出す場合に、一ぱい入つているのを出しますので、あき車の操作に非常に手間取つたりいたしまして能率が上らないというようなことで、大体、三日目のストをやりません日でも、半分近い出炭しかないようなふうに聞いております。従つて、一日、二日が出ませんで、三日目に相当下つた出炭しかないというふうに聞いております。これは山々によつて非常に事情が違いますが、しかし、運搬ストということで組合が企図いたしております効果は、相当顕著にあがつているというふうに聞いております。
  51. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 ただいまの運搬ストその他の部分ストにつきまして、大多数の者は、ともかくも一応坑内に入つて就業している、ただ一部分の者がこういつたストをするために効果があがらぬということにつきまして、伝えられるところによりますと、ノーワーク・ノーペイというので、出炭量に応じて賃金は支払うというようなことを、事業者側が組合側に通告したというような話も聞いているわけでございますが、その点についての労政局のお考えを承りたい。
  52. 中西実

    ○中西政府委員 組合からそういう指令が出ましたのに対しまして、連盟側から、そういうぐあいに、もしも部分ストによつて出炭が減つた場合には、それに応じて賃金は差引くぞという通告をしております。それに対して組合は、各山元に対しまして、その行為に対しまして、引かれることはないのだ、出ておれば賃金はやはり払うべきだ、従つて、会社がそう言うけれども、その点は大丈夫だと言うというようなふうで、今のところ、おつしやるように双方その点について見解を異にして進んでいるという状況でございます。
  53. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 私は、その点に非常に重大な問題が含まれているのじやないかと思います。これは民法上の問題になるので、あるいは法務省の見解をただすのが至当かとも思いますけれども、やはり一般労働関係労働行政をやつている労政局長の見解を承りたいと存ずる次第でありますが、今回のストというものの形態は、普通一般のストと違いまして、一般の労務者は、組合の指導者が賃金は払つてもらえると言つているし、しかも職場内に出勤をしているというような状態で、賃金は支払つてもらえるという確信のもとに職場まで来ている。一部のストをやつている者だけがもらえない、あとの大多数の者はもらえるという確信を持つている。事業者の方はこれは払えないと言つている。この見解の相違が、最後のどたんばに来まして、このまま法律関係その他明確な認識を持たせないでおきましたならば、えらいことになつてしまう。賃金引上げの問題以上に、えらいことになつて来ます。このままでずるずるに置いておきまして、最後まで行きまして、一般労務者も、万一事業者が言うように、賃金を全然支払ぬということになつて参りますと、自分らの日々の生活費というものがなくなつて来るが、それは絶対に払えないものであるから、その犠牲も覚悟して労働争議をしておるのかどうか、もちろん覚悟をしてやつておるなら別ですけれども、いや、自分らはもらえるのだという確信を持つてその職場へ行つているのだ、こう確信してやつているものであつたら、その終局の場合におきまして非常な混乱を起し、労使双方に思わざる不測の事態を起さぬとも限らない。こういうことを憂慮しておるのでありますが、それにつきましての労働省当局の御見解を承りたい、こう存ずる次第であります。
  54. 中西実

    ○中西政府委員 労使の争議行為におきまして、双方とも常にやはり対抗手段がなければフェアでないと思うのであります。片方がやつた、それに対して何ともしようがないというような行為だとか、あるいは片方は全然損害をこうむらないで、片方にばかり損害が行くというようなことは、これは許されないじやなかろうか。やはり争議行為というものは、労務不提供というのが本質的なものでありますが、そのときには労働者は賃金をもらえない。しかしながら経営者側も労働から得られる収益、成果、生産なり仕事が得られないのだということで、あいこになるわけであります。そこで、部分ストの場合、今の炭労の個々の具体的な場合、どの程度の影響があるかということにつきましては、先ほど申しましたように、詳細われわれとしてもつかんでいないのでありますが、しかし一般論としまして、たとえば部分ストをやりまして、そのために全体的に仕事がとまつてしまう。組合としましても、組合の全機構をあげまして、そういう効果をあげるべく当初から予定してやつておるという場合には、たとい一部のストでありましても、それば結局は全部のストと同じだ。組合の同志的な結合からいいましても、当然一蓮托生で、利益も得れば損失も負うということになるわけであります。従つて、部分ストでありましても、それが全体の機能を減退する意図をもつて行われておるという場合には、やはりこれはノーワーク・ノーペイの原則が働くということは当然ではなかろうか。おつしやるように、今度の争議におきまして、もしもそういうことで賃金カットということを経営者側としては行う、労働者側はそんなことはないのだという確信のもとにやつておるということになりますと、だんだん先へ行けば行くほど雪だるま式にカツトの額もふえて参ります。そのときに、片方はどうしても払えと言い、片方は払わないということになりますと、また賃金争議、ベース争議を離れまして、それだけで大きな争いになる。その点についてわれわれとしても非常に憂慮しておりますが、中労委におきましても、そういう点をやはり非常に心配いたしまして、なるべく早期に、できれば一日も早く解決したいということで、おそらく中労委の会長としましても、労使関係の円満な解決、早期解決のために出ておられるのではなかろうかというふうに考えております。
  55. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 ただいまの労政局長からのお話でございますけれども、まだ私がはつきりしないのは、ノーワーク・ノーペイの原則は、一般の抽象論としては一応納得できるかと存じますけれども個々労働契約をいたしました場合に、必ずしも全部ができ高払いというわけでもございませんし、そういうときに、一部スト行為がはつきりしたものは、これは当然のことでございますけれども、これがほかの一般の職場についた者などには、法律論といたしまして、要するに民事契約としてはつきり一般の者にまでノーワーク・ノーペイの原則が貫き得るものなのかどうか、それの法的根拠並びに確信のほどをお伺いしたいと思います。
  56. 中西実

    ○中西政府委員 賃金給与というものは、結局労働の対価として支払われるということでございますから、争議行為として全部が不提供なら全部がもらえない。これは当然でございますが、一部がやつて、しかしそれが全部に効果が及ぶ、しかもそのことが組合の全体の意思として行われているという場合には、形は出勤しましても、全部が出ないというのと同じでございますので、従つてこれは雇用関係における労務提供、それに対する対価というあの民法の原則から言いましても、当然やはり差引いていいじやなかろうか。その場合に、一体どのところまで差引けるかということは、結局個々の具体的な事例によつて判断しなければいけませんが、まず考えられるのは、やはり一つ組合に入つて、同じ意図をもつて動いているということが一つでございましよう。それからさらにもう一つは、今の職務的に関係があるということがありますれば、はつきりとして来はしないか。結局は、組合というものは同志的な結合でございまして、一つの意思で動いているものであるということでありますので、結果としてこういうことが起るということを期待しつつやつていることにつきましては、やはり全部が協力しているのだというふうに考えていいじやなかろうかと考えております。
  57. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 私は労働法の学者でもございませんし、民法の学者でもございませんから、その法的関係はあまり承知していない次第でございますが、それは有権的解釈とみなしてよろしいで、ございましようか。
  58. 中西実

    ○中西政府委員 法律解釈、行政解釈としましては、それが正しいと信じております。
  59. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 これははなはだ失礼な質問でございますけれども、それは民事局その他とも十分お打合せなさつた結果でございますか。
  60. 中西実

    ○中西政府委員 法務省とは十分打合せの上でございます。
  61. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 そうしますと、今のノーワーク・ノーペイの原則論についての解釈を、労働省といたしまして、組合側に通告なり、あるいは事業者、労使双方に通告なりをすでにもうなさつている次第でございますか。
  62. 中西実

    ○中西政府委員 この点は、われわれとしえて実は法律上当然の解釈ではなかろうかと思つているのであります。そこでこれをはつきりと労使双方に通達の形で出すのがいいか——当然のことでありますので、もちろん出してどうということはございませんけれども、何分にも現在争議が起つておりまして、まさにこれに該当するような事態もあるやに見受けられるので、その際にわざわざそういうものを公文といいますか、そういう通達の形で出すことがいいのかどうか。たまたま参議院で委員から御質問がございまして、それに対して、労働大臣がこの間答えられました。このことは、当然の解釈を、委員から質問があつたのでお答えになつたので、これによつてその間もし誤解があれば、あの答弁ではつきりするのじやなかろうか、そのことによつて大体もうすべてに周知されておるのじやなかろうかというふうに考えております。
  63. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 ただいまの参議院の答弁でそれにかえるというお話でございましたけれども、今日こういうふうな事態におきまして、労使間の利害の相反する点は、お互いがやはり歩み寄りまして、そうしてお互いが話し合つて、円満に、争議が起らないうちに解決するということが、ことに今日の国情におきましては最も望ましいことである、それが常識だとおつしやいましたが、組合側の方におきましては、これは明らかに賃金はとると言つておる、事業者側の方では払わぬと言う、二つの相違つた主張をしているわけでありまして、そういう点で、中労委を通じておやりになるなり、あるいは労働省自体であれをなさるなり、はつきりした態度を示されまして、そうしてその線に沿つて争議行為が正しい線でもつて解決の方向に向つて行くということを、あらかじめやはり注意と申しますか、それをなさることが、私は今一番必要ではないかと思う。先般来労働大臣も、ともかくも労働争議というものをできるだけ防いで、お互いが協調してやつて行きたいということは、再三労働省の指導方針として述べられておる。今回一番の基本産業のこういつたような争議が起こりまして、賃金の支払いということが一番の問題になつておるというときに、これをあらかじめやはり御注意なさることが私は妥当じやないか、こういうふうに存ずる次第でございます。これにつきましては御答弁は要求いたしませんが、私の見解を申し上げておく次第であります。ただ問題は、これは望ましいことではございませんが、ストに入りましたならば、やはり事業者側の対抗手段といたしまして一応ロック・アウトの態度に出る。そういたしますればはつきりいたしまして、そう賃金不払いといつたような問題は起きない。明確な、普通の正常なる労働争議の形態に入ると思うわけでございまして、その点につきましては、二月の十日前後の各新聞の社説におきましても、今度の部分ストというものは、非常に形態の違つた、従いまして非常に不明朗なものであることを指摘しておる次第でございます。しかしながら、聞くところによりますと、このロック・アウトを行いますると、保安要員までも引揚げてしまう。炭労の方では保安要員を出す義務はないということを事業者側に、連盟の方に通達したということでございますが、その点の経緯につきまして、少し御説明願いたいと存ずる次第でございます。
  64. 中西実

    ○中西政府委員 今の点は、昨年法律になりましたいわゆるスト規制法に関係する問題でございますが、組合といたしましては、会社がロック・アウトをした場合には、保安要員の提供も拒否するというような意思を表明されておるわけでございます。これに対して、会社は、そういうことをすることはいわゆるスト規制法の違反だということで、そこで実は連盟の方から私の方に、会社側がロック・アウトをした場合に、保安要員を組合が拒否するということは、いわゆるスト規制法の三条違反じやなかろうかということにつきまして照会がございました。これに対しまして私の方から、保安要員の確保という問題は、労使という関係の上にといいますか、外にあるものであつて、国家の治安の擁護あるいは人命の保護その他公の見地から、保安要員というものはその鉱山を続けております限りはこれはぜひ確保しなければならないものである、それが争議行為に双方に利用されてはならない。従つて、いかに経営者側がロック・アウトをいたしましても、保安要員というものは争議の渦中から離れてぜひ出すべきものだ。従つてロック・アウト中でも保安要員はやはり出すべきだ、この見解をはつきりいたしまして返答しておるのであります。それに対しまして、組合がさらにどう考えておられますか存じませんが、われわれとしましては、この態度ははつきりいたしておる次第でございます。
  65. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 ただいまのその見解は、組合の方にもはつきりと通告しているのでございますか。
  66. 中西実

    ○中西政府委員 連盟に回答いたしまして、それがいろいろな機関誌その他に出てもおりますので、ことさらに組合側に公文でやる必要もなかろう。ただ、その点ははつきりしなければいけないというので、特に炭労の三役を呼びまして、こういう照会が石炭連盟からあつた、ついてはこういう返答を出す、従つてあなた方もその点よく理解してくれということで、書いたものを渡しまして、口頭でよく伝えてございます。
  67. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 私はそこが非常に問題の点ではないかと思うのでございます。これはお互いに好ましくないことでございまして、できるだけ事前に、しかもできなかつたら小規模の争議行為のうちに解決することが、最も望ましいことでございますけれども、一ぺん争議が起りました場合におきまして、労使ともにお互いが許された範囲内でもつて経済闘争をやるということは、今日の法制上やむを得ない点だと思うわけでございますが、しかしながら、その点につきまして、事業者側が対抗手段といたしましてロック・アウトするという場合に、明らかに違法とされているところのものを取出しまして、保安要員を送らぬというようなことを言つて来る。これは明らかに違法を強調いたしまして、そしてロック・アウトさせまいという手段ともとられるわけでございまして、これは少し言い過ぎになるかもわかりませんけれども、一種の犯罪を慫慂すると申しますか、そういつたような行為ととれるわけでございますが、その点についてはいかがお考えでございますか。
  68. 中西実

    ○中西政府委員 そういつた指示が出ましただけで、はたしてスト規制法の三条違反になりますかどうか、今のところ実は研究はしておるのでありますが、ただちにそうなるということは、若干むずかしいようでございます。しかしながら、あの三条違反につきましては、いわゆる正当な争議行為でございませんので、あるいは刑法なり、あるいは鉱山保安法なりの罰則に触れて来るわけでございます。従つて問題は、そういうことを言うことが、それの未遂になるかどうかというような問題になるわけでございますが、この点につきましては、たとえば人を殺すぞということだけを言つて殺人の未遂になるかどうかという問題にもなる、あるいは脅迫になるというようなことも考えられます。この点につきましては、さらに研究いたしたいと思います。
  69. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 その点につきまして、私どもいたずらに事を荒立てるというものではございません。ただ問題は、民主主義法治国家におきまして、すでにはつきりときまつた法制のもとにおきまして悪法であるからというような一方的の観念で、そういうものは守らなくていいというような宣伝をしているというような話を聞いているわけでございますが、そういつたような観念で、今日一部組合の指導者が労働者諸君を指導されるということになりますと、これは民主主義の根本がくつがえるものでございまして、そういう点につきましては、やはり労働省当局は、はつきりした断固たる態度でもつて、そういつた誤りは誤りとして強く指摘されることを、私は要望しておくものでございます。  結論におきまして、私は、ともかくもこういつた経済事情下におきまして、基本産業における労使の紛争というものは、まことに憂慮すべき事態でございますので、これが早期解決につきましては、今までのいわゆる両方の交渉にまつということだけでなく、積極的にあるいは中労委を通じてなりして働きかけていただいて、これの早期解決を強く要望してやまない次第でございます。
  70. 井堀繁雄

    ○井堀委員 ただいまの丹羽委員の質問に対する政府委員の答弁でありますが、その中で賃金の解釈の問題について、ノーワーク・ノーペイに対する労働省の見解はある程度明らかになりました。正常な場合における労使の賃金に対する解釈の問題でありまするならば、政府委員の答弁についてある程度首肯できるが、私のお尋ねいたしたいのは、あらかじめ労使関係が紛争の形になり、あるいは直接行為に訴えなければならぬというような労使関係が荒れている場合における賃金に対する問題に、軽々しく私は結論を下すべきものでないという立場からお尋ねをいたすのであります。お尋ねをいたしたいのは、元来賃金問題は、労働条件の中におきましては、最も基本的なものの一つであります。でありますだけに、慎重でなければならぬのです。ストライキの場合においては、今日においては基準法がありあるいは労働組合法がある。すなわち労働立法としてのきわめて明確な法規があるのでありますが、戦前におけるような、労働法もなければ労働者の団結権も、あるいは労働者労働上の保護立法というものがほとんど皆無であつた時代においても、労使間が紛争になり、たとえば、争議中の賃金という言葉が今使われておりますが、戦前のストライキの解決の際には、争議費用とかあるいは立上り資金とか、争議見舞金とかいうような形において、争議中の賃金に類すべきものを支払つて問題を解決している例がたくさんあるのでございます。ましてや、今日賃金は、広い意味において労働の報酬だと規定されておるのでありますから——それが出来高払いのように一つ幾らであるとか、これだけの生産に対して幾らといつたような賃金のきめ方でありますならば別でありますが、月給であるとか日給であるとかいうきめ方をしておる現状において、それがはたして争議行為による損失によるものであるか、あるいは争議行為それ自身が賃金の代価を消滅するような行為であるかということは、非常にむずかしい問題だと思います。もし前者で、争議行為がどういう行為であろうと、損害を与えるということは必ずしも賃金を意味しない、こういう問題に対する解釈を、ことに労働省立場は法令にもありますように、労働者の権利を守り、労働条件向上のための保護をいたす役所でありますから、そういう立場からいたしましても、このような問題については、法務省などの立場と異なりまして、労働者の権利はいささかもそこなわないような立場において答弁がなさるべきものだと思うのであります。ところが丹羽委員との交換においては、はなはだ不得要領であつたようでありますが、この点はもつと明らかにする必要があると思いますので、以上私の見解が違つておれば正していただきたい。私は労使間の紛争の際における賃金の問題というものは、労使間の争議解決上の内容の問題としてまかすべきものである。もし労働省関係するとするならば、そういう紛争を一日もすみやかに解決するようにあつせんするという以外に、賃金問題に関与すべきものでない、こういう見解を私はとつておりますが、この見解に対する御答弁をお願いします。
  71. 中西実

    ○中西政府委員 私ども立場からいたしますれば、なるべく早期に争議が円満に解決することを望んでいるわけであります。しかしながら、先ほども言いましたように、労使の争いは、やはりフェアでなければならないということと、もう一つ基準法で二十四条等の関係もございましてやはり筋道はきつちりしておく。御指摘のように、よく争議が済む解決の際に、争議中の賃金に相当するような金額を出すという例はございます。しかしそれはまた別でございまして、ノーワーク・ノーペイの原則は、やはりはつきりとしておきませんと、基準法上も困りましようし、また労使のあり方におきましても、非常にあいまいになつて来る。従つて、差引くものは差引く。ただ解決の際に、あるいは一時金を出すというようなことはあり得ると思いますので、それによつて円満に解決するということになれば、また何をか言わんや、ただ今のノーワーク・ノーペイの筋道だけは、やはり法律上の解釈としてはつきりしておきたいというふうに考えます。
  72. 井堀繁雄

    ○井堀委員 ノーワーク・ノーペイの問題は、労使が正常な姿の場合の解釈だというふうにとつてよろしゆうございますか。
  73. 中西実

    ○中西政府委員 争議中争議によつて労務の不提供がございますれば、これは差引くべきだということでございます。
  74. 井堀繁雄

    ○井堀委員 紛争の際の労務の提供の内容なり分量なりというものは、測定が困難だと思う。そういう困難なものに対して、あらかじめノーワーク・ノーペイの原則を持ち込むということは、誤りではないかと思うのですが、この点明確にお願いいたします。
  75. 中西実

    ○中西政府委員 個々の場合、非常に判定のむずかしい場合があることは認めます。ことにスロー・ダウンの場合、どの程度労務の不提供があつたかということの判定は、非常にむずかしい場合があろうかと思います。しかし、はつきりする場合もありますので、抽象的には、正常でない労務の提供という場合には、その限度において賃金は差引かれていいものだというふうに考えます。
  76. 井堀繁雄

    ○井堀委員 このことは重要なことでありますから、はつきり回答を願いたいと思うのです。労使間に賃金問題その他の労働条件を中心にして紛争が起つている。その際にノーワーク・ノーペイとかいうような定義を労働省はお使いになるのかならないのか、このことをはつきりお尋ねいたします。
  77. 中西実

    ○中西政府委員 争議中でも、その点ははつきりとノーワーク・ノーペイでいいと思います。
  78. 井堀繁雄

    ○井堀委員 それではお尋ねいたさなければなりません。争議中、争議が賃金の内容において争いを生じている場合、雇主側の方としては、——賃金の形式はいろいろあります。月給、日給、時間給あるいは出来高払い、あるいはこれを併用した場合等があるわけであります。そういう場合に、ノーワーク・ノーペイとかいつたようなそういう単純な原則をもつて、測定が困難なことを原因にして、法律でいう賃金の額を明示し、支払いの内容を明示せいといつたようなことを中心にして争いが生じている。こういうふうに労使がお互いに納得して結論を出せば、これに越したことはない。元来そうするのが、この種の扱いの正しい行き方だと思う。そういうものに、労働省のような立場のものが、あらかじめノーワーク・ノーペイというような単純なものさしをもつて臨むということは、むしろ労使の一方の立場を圧迫する結果になるのじやないか。それが反対に、労働者を保護するという立場において行き過ぎがあるならば、労働省立場として許されるかもしれませんが、今の場合には、反対になるわけです。ことに賃金問題においては、今日の時代にあつては、説明するまでもありません、雇い主と被雇い人の場合においては、どうしても労働者側は受身になるわけで、それを対等の立場に近づけるために、団体交渉なり団体行動という保護規定によつて均衡をはかつておるわけです。こういう実際の中にあつて、一方で賃金の問題について、そのものさしが部分的に正しくても、今言つたような賃金の内容自身が非常に複雑なものを、単純なものさしを持ち込むということは、均衡を破る結果になるのではないかと思いますが、こういう見解を明らかにされて御主張されるのであるかどうか。
  79. 中西実

    ○中西政府委員 抽象的に、争議中労務不提供に応じて賃金が差引かれる、これは当然のことであると思います。その場合、どの程度差引くかという場合に、請負給あるいは固定給その他いろいろの給与形態がありまして、種々ございますけれども、しかし個々の場合におきましては、大体算定がつくのではなかろうか、つく場合が多いと存ずるのでございます。今労使の均衡というお話がございましたが、われわれとしましても、均衡を考えればこそ、その点が正しいと思つておるのでございます。もしも、組合全体の争議で、たとい一部であろうがストそのものによつて全部が麻痺する、機能が停滞するというような場合に、単に形式上出て来たからといつて、まるまる賃金を払うということでは、これは経営者としましてやりようがなかろうと思うのであります。別に経営者の方の肩を持つわけではございませんけれども、やはりノーワーク・ノーペイの原則でやることが労使の均衡を保つゆえんであり、それが労使のフェアなあり方じやなかろうかというふうに考えております。
  80. 井堀繁雄

    ○井堀委員 はなはだ遺憾な結論を伺つたわけでありますが、これは申すまでもありません、賃金の問題についてそういう定義を下すことになりますと、労使間の話合いにおいて、先ほどもお認めになりましたように、争議中の日給は支払わないのが原則であります。ところが実際問題としては、いろいろな形において支払われておる。これは理論的に言いましても、実際的に見ても、労働というものは部分的なものではないのです。たとえば退職手当の例のごとく、あるいは賞与のごとく、賃金の内容というものはかなり幅のあるものです。だから、出来高払いで契約するのであればこれは別です。出来高払いについても保障給を法律は命じておるわけです。こういう精神からいつても、賃金というものをそうたやすく部分的に決定をするということは許されぬことになつておる。ましてやそのことを中心にして労使関係が紛争を起しておるときには、それは労使間の話合いにまかせることが良策で、そうでない場合は、裁判所の判定を求めるという最後の段階に入る、あるいは労働法はそのために特別の労働委員会といつたような判断をする機関を設定してあるわけであります。行政官庁が、こういうものに対して、そう軽々に判断を与えることは危険であると思うのであります。その点に対して、なおかつ危険でないという御主張をなされるのであるか。もしそういう御主張をされるとするならば、これは問題はおのずから別でありますから、責任ある大臣の答弁を伺つて別に争いたい。それでお答えを願いたいのです。  もう一つ、保安要員を引揚げるという示威的な主張が問題になつたようであります。私どもも、感心したことでないと思う。保安要員を引揚げるというような行為は、いずれの立場からいつても、望ましいことではないのでありましてさつき丹羽委員から雇い主側の立場を威嚇するとか、あるいは立場を圧迫するという要旨の質問がなされておつたようでありますが、私は逆な立場お尋ねをいたしたいと思うのであります。というのは、これはもうスト規制法のときに論議を重ねて来たことで明らかなことでありますが、およそ労使の争いというものは、雇い主側はもう一方的な立場で制度の上において、法律の上において完全に支配的地位を確保しておる、それと対等の力を養い得るものは、完全な団結、すなわち憲法にいう結社の自由の上に立つて労働者が団結したときに、初めて対等の立場になるわけであります。ところが実際問題としては、完全な理想に近い団結というものは困難であります。その困難なことをし遂げて行こうとするためには、いろいろと団体行動、運動が起つて来るわけであります。こういう立場から、ことに労使が団体交渉において決裂したような場合において、あるいは団体交渉の過程において、労働者が団結の威力を相手に示すことによつて要求を通そうとすることは、労働法の精神として保護を規定しているところであるし、憲法のいう団体行動権の保障はここにあるわけであります。そういう場合に、もし保安要員を引揚げるという事態が発生するおそれがあるとするならば、その労使関係というものは、はなはだしく不穏当なものであるか、あるいは力の上においてアンバランスが起つて来る、そのアンバランスは、言うまでもなく労働者側が劣勢な場合において起り得る現象である、こういう労使関係の原則的なものがあるわけであります。そのことを労働者立場から言えば、完全な労働者の団結権が行使できるよう応保護をし、これを援助することを法律は命じておるわけであります。ところが、今具体的に問題になつております炭鉱のストライキの労使関係の現状というものは、経営者側の方は、りつぱな社団法人として秩序ある統制力を持つておる、労働者側の方は二つにもあるいは三つにも割れている姿である。こういう均衡の破れたところに、ややもすれば不祥事が発生する。すなわち、これは説明するまでもなく、労働法の設定は労使関係を平和裏に解決せしめるために、団結の保護法として考えられたわけであります。そういう実際問題を労働省がはつきり見通されて、労働者の団結が容易になるように便宜をはかるような指導をするのが、妥当であろうと考えるのであります。今丹羽委員の質問に対しては労使公平ににらんでというお話がありましたが、公平なということについては、原則において労働者の団結力が完成された場合に対等である。こうアンバランスになつておる場合に、ややもすればそういう不法行為といいますか、好ましからざる手段がとられがちになるのであります。むしろ労働省立場からするならば、力の強い経営者側に対して注意、勧告をして、一日も早く合理的な解決をするように指導されるのが妥当ではないかと思うのです。こういう見解からいたしますならば、たとえばスト規制法の中に、保安要員引揚げ云々という字句があつても、これは経営者側にむしろ注意、勧告するために用うる条項であつて、弱い者のためにそれが逆に作用するような労働省の見解がもしあるとするならば、労使関係はもつとはなはだしい不均衡になつて結果は好ましからざるところの暴力行為のごときものまでが予測できる過去の歴史もあるわけであります。こういう点で、丹羽委員の質問に対する御答弁は、どうも納得が行かぬのでお尋ぬをいたすのであります。この見解に対する労働省の見解を、聞くまでもないと思つたのでありますが、明確にしていただくことによつて、前の答弁が明らかになると思います。
  81. 安井謙

    ○安井政府委員 いろいろと御質問ありましたが、大体労政局長からのお答えの通りであろうと思うのであります。ただいま最後にお話の、労働者の団結権を労働関係法規で擁護すべきではないかという原則論は、ごもつともであろうと存ずるのであります。ただ、これが二つ、三つに割れておるような現状だから、これに対して労働法規の解釈に手心を加えるのがいいのじやないかというふうな意味のお話でありますと、これはただちにはそういうぐあいに行くまいかと思つておる次第でございます。労働大臣からもお話がございました通りに、賃金支払いの問題につきましては、基準法の十一条及び十二条、二十二条、二十四条の解釈につきまして、労働省としては質問にお答えしておるわけでございます。介入するとか、どちらへえこひいきしようというような考えは、毛頭持つておらぬ次第でございます。
  82. 井堀繁雄

    ○井堀委員 議論は好まないのでありますが、労働法をもう一度はつきりさせる必要を痛感するわけであります。私は、今の次官の答弁については、はなはだしく不満の意を感ずるものであります。労働省立場は、労働者の正常な団体の保護を命じておるわけでありますから、そういう点の立場を越えた解釈というものは、他の行政官庁にゆだねるべきものだと私は思います。労働省において、労働者の団体行動やあるいは労働条件の内容について異議が起つた場合、労働法の精神は、特別法として労働委員会という機関が設定されておるわけでありますから、そういうところの判断を求めて、しかる後に見解を新たにすべき内容のものであると私は思うのであります。仮定の事実に基いて軽卒な表現をなすべきではないと考えて、私はお尋ねをしたわけでありますが、多少局長、次官の答弁は問題を急ぎ過ぎて、仮定の事実に基いて答弁が行われておるのじやないか。仮定の事実に基いてそういう答弁を下すことは、決して労使関係の円満な調整を保つ援助にはならない、私はマイナスになると懸念し、心配するのであります。これは見解が違うとするならば、別の立場において争うべきだと思いますが、以上で私は質問を打切りますけれども、こういうことについては今後十分御留意願いたいと思います。
  83. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 実はこれに関連して、質問がありますけれども、昼になつておりますので、休憩後に続いて質問したいと思います。
  84. 丹羽喬四郎

    ○丹羽委員 私先ほどの労働省政府委員からのお話で、一応了解したのでありますが、今井堀委員からのお話もございましたので、誤解を招くといけませんので、もう一ぺん質問をいたします。私ども労働者側が労働組合をつくつて、対等の立場において事業者側と折衝して経済的地位を向上するということは、最も望むところであります。それを抑圧しようとか、そういう意図は全然ございません。ただ問題は、先ほどの保安要員を引揚げるという声明をしたということは、昨年の臨時国会におきまして、争議行為の規制法がすでに成立いたしまして引揚げることは違法であるということがはつきりしておる現在でございます。労使がお互いに争議行為をする場合、違法のことまでも示唆してやるということはフェアでない。その点を政府としても強くはつきりしてもらいたい、こういう私の見解を述べたものであります。これは団結権を脆弱ならしめるということではありませんので、別個のものである、労使双方の争議とは別個のものであるという見解を私とつておりますが、その点について政府の御見解を表明していただきたいと存ずるのであります。
  85. 安井謙

    ○安井政府委員 丹羽委員の御見解の通りでございます。
  86. 持永義夫

    持永委員長代理 これで休憩いたしまして、午後は二時から始めます。     午後零時五十六分休憩      —————・—————     午後三時六分開議
  87. 持永義夫

    持永委員長代理 それでは休憩前に引続きまして会議を開きます。  多賀谷真稔君。
  88. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 炭鉱の部分ストにおける賃金カットの問題について、労働大臣は答弁をされたわけですが、その答弁は前もつて十分用意されて、タイプか何かに打つてあるのを読まれたようであります。私は、労政局長お尋ねいたしたいと思うのですが、この起案に際して、労政局長はタッチされたかどうか、お尋ねいたしたい。
  89. 中西実

    ○中西政府委員 現在炭労の争議は、労働省といたしましても、非常な関心を持つて見ているので、ことに国会開会中でございますので、今問題になつております労組と経営者側の賃金差引の問題が当然に問題になるだろうということで、かねてからこの問題については、基準局を中心といたしまして研究はしておつたのであります。従つてあの当日えらく手ぎわよくとおつしやいますけれども、当然予想される質問でございまして、その時期があのときか、またそのあとになつたかは別といたしまして、必ず出る問題でございます。従つて労働省といたしましてあれを準備いたしましたのは、われわれといたしますれば、当然の準備であつたというふうに考えております。
  90. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 当然の準備かどうかということを聞いているんじやなくて、労政局長はそれにタッチされたかどうかということを、お尋ねしているわけです。
  91. 中西実

    ○中西政府委員 労政局も、炭労の争議の一環として起つている問題でございますので、もちろんタッチいたしております。
  92. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 それではお尋ねいたしたいと思うのですが、この炭労争議の問題を、賃金カットの問題を切り離してはたして解決ができるかどうかということについては、労政局長は中労委の事務局長でもあつたし、その間のいきさつは十分わかり得ると思うのですが、これに対してどういうふうに把握されているか、お尋ねいたしたい。
  93. 中西実

    ○中西政府委員 従来いろいろの争議の場合に、組合も、もちろんこれが争議でありますので、闘い勝つという最終の目的のためには、いろいろと下部を指導されているわけであります。そのために、ときに一般政府機関その他が考えているのと逆な宣伝、教育がされまして、それがあとになりましてしこつて、さらに紛糾が大きくなる、あるいはこじれるという例も、従来多々見て来たのであります。従つて、この賃金差引の問題も、われわれといたしましては、法律解釈上当然だと思いますけれども、しかし双方に疑義もあるというようなことで、もし機会があつて疑義があるので問われれば、これについてはつきりとするということの方が、かえつて問題がこじれずに行くのではないかというふうに、私は確信をいたしております。
  94. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 炭労では、昨日中央労働委員会に呼ばれたわけであります。中山中央労働委員長より、賃金カットの問題についてどういう話があつたか、労政局長は御存じであるかどうか、お尋ねいたします。
  95. 中西実

    ○中西政府委員 あの場にわれわれの方のものが立ち会つておりませんでしたので、賃金カツトの問題について特にどういう話が出たか、実は正直聞いておりません。
  96. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 それはきわめて不勉強であると思う。少くとも公式に中央労働委員会の会長が呼んで労組にいろいろ話をしたのが、どういう内容であつたかということを、いまだに労政局百長が知らぬというのは、残念ながらこの炭労の争議を解決する熱意がないと私は断定せざるを得ないのであります。賃金カツトの問題は、実は中山さんは、次のように言われたそうであります。これは法律問題でなくて、自分としては事実問題として解決する以外に方法はないと思う。であるから、事実問題として私は解決したいということで、労使双方かどうかは知りませんが、労働者側には言われたということを聞いておるのであります。私も、この問題は単に首切りとかそういつた問題でなくて、全般的な労働者に通ずる問題を切り離して、後の訴訟あたりに問題を残して問題を解決するということは、事実問題としてきわめて困難であるから、こういう問題に対して、政府が法律解釈と称してそういう発表をすることは、むしろ争議を延期さすものである、かえつて紛糾さすものであると私は考えるのでありますが、一体どういうようにお考えであるのか、お尋ねいたしたい。
  97. 中西実

    ○中西政府委員 中山会長がどういうふうに言われましたか、今言われました事実問題としてという言葉でありますが、これはどういうふうな意味で言われたか、私も御本人に一ぺん確かめてみてもいいのでありますが、これはいろいろにとれるので、結局まつたくの事実問題という意味か、それとも金額的にという意味、いろいろとれます。しかしこの問題は法律の解釈といたしましてははつきりしている。あとそれを争議解決のためにどういう措置をとるかということは、また別個に考えられるのではないかというふうに考えられます。
  98. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 法律の解釈をはつきりしてということでなくて、事実問題というのは、むしろ法律問題をのけて、事実問題として解釈しよう。これがいいとか悪いとか、法律上どうなるとか、こういうことはやめて、一応こういうふうに解決しようというのが、事実問題としての解決であると思う。これは純然たる民事法と違いまして、生きた法律関係である。であるから、借家法やその他のように、今死んでおる動かないものとは違うのである。この動的な法律関係を律する場合に、いやしくもこれだけの大きな争議に政府が十分なる見通しを全然持たずして発言されるということは、きわめて妥当を欠くと私は考えるわけである。労政局長は、一体この争議が切り離して解決ができるものであると思うか。今まであなたは中央労働委員会の事務局長として、長い間その業務に携わつておられた関係上、十分おわかりになると思うが、一体どういうように解決するか、ひとつ見通しをお話願いたい。
  99. 中西実

    ○中西政府委員 争議行為——それは同盟罷業のことを言うのですが、争議行為の間の賃金は払わない、すなわちノーワーク・ノーペイ、全然労務を提供しない者には賃金を払わないというこの習慣といいますか、この法律解釈は確立しておりまして、おそらく中労委の中山会長といえども、争議中の賃金を払わないということにつきましては、御意見はないと思うのであります。それと同じように、今度の場合も、結局ノーワーク・ノーペイの原則というものは筋としてはつきりすべきだ。この法律の問題と、それから最後に、あるいは一時金をどうするとか、あるいはベースをどうするとかいう問題は、別個に解決し得る問題で、従来中労委で扱つておりましても、法律解釈として争議中の賃金は払わない。争議中の賃金を払いますというようなことを認めたようなあつせん、調停をしたことはございません。その点ははつきりいたしまして、しかし実際問題として最後になりまして、あるいは一時金とか、あるいはベース・アツプをどうするとか、これはまたそういつた解釈と離れまして、当然折衝によつて妥結にも導けるものだというように考えます。
  100. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 ノーワーク・ノーペイというお話でありましたが、ノーワーク・ノーペイが非常に問題であります。では労働省は、働いておれば当然賃金は払うべきである、こういう考え方で今度の通牒を出されたかどうか、お尋ねいたしたい。これは労政局長でなくてもけつこうです。
  101. 亀井光

    ○亀井政府委員 ノーワーク・ノーペイの解釈の問題でお尋ねでございますが、労働基準法で賃金関係の保護をいたしております第三条の規定、あるいはその定義を掲げております十一条、いずれも契約の本旨に従つて労働が提供されているときに、賃金というものはその対償として支払うべきものであるという原則が貫かれておるわけであります。そこでノーワーク・ノーペイというものは、その契約の本旨に反して、労働が提供されなかつたときには、その限度において賃金を払う必要はないというのがこの原則であります。
  102. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 では基準局長お尋ねいたしますが、今度の通牒は、連盟が労働組合に発表した指示と非常に異なつていると考えてよろしいでしようか。
  103. 亀井光

    ○亀井政府委員 連盟のほんとうの趣旨がどういう点にあるか存じませんが、われわれはあくまでも法律の解釈論として申し上げておるのでございます。ただ誤解があるといけませんから申し上げますが、このノーワークという中には、私は労働の量と質の問題があるのではないかと思います。労働の量と質は、労働契約なり就業規則で定められておるのでありまして、その契約なりあるいは就業規則に定められております労働の量と質というものが提供されなかつた場合に、ノーワーク・ノーペイという原則が適用されるというように考えます。
  104. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 連盟がどういうような見解を持つているかわからない、こういうことですが、今度の争議において、労働省では組合側の情報は十分おとりになつている。では経営者が今度の賃金問題で組合側にどういう指示といいますか、申入れをしているか、この点について労政局長はどういうように把握されているか、お尋ねいたしたい。
  105. 中西実

    ○中西政府委員 今持つておりませんけれども、連盟からも、今の部分ストについて賃金を引くという旨の通告を出しておるのは承知いたしております。
  106. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 そういうことであるから、私が尋ねていることに労働省ははつきり答えられないのだと思います。次のような申入れをしているわけです。  次のようなものにのみ賃金を払うということで、それは病院、診療所、保養所、産婆、保健婦、専従栄養士、配給所、日用品修理所、農場、牧場、。ハン工場、精米所、学校、図書館、幼稚園、体育館、劇場、映画館、浴場、寮、合宿所、クラブ、これが一であります。二といたしまして、鉄道、船舶乗務者、三といたしまして技能者養成所、これだけを払つて、他は払わないというわけであります。そういたしますと、今基準局長の説明によりますと、一応量と質の問題であり、従来通りの仕事をしておれば払うのだ、こういうお話でありますが、これとは大分差異があるように感ぜられるわけであります。でありますから、たとえば事務職員その他の坑外の鉱員が平常と同じような作業をしている、こういう場合には、労働省では、当然払うのだという考え方であると承知してよろしいかどうか、お尋ねいたしたい。
  107. 亀井光

    ○亀井政府委員 先ほど申し上げました通りでございまして、ただ今回のような部分ストでその影響を受ける、関係ある全労働者につきましてこの問題が適用されることは、大臣が御説明しました通りでございます。全然これに関係のない者、あるいは全然このストに参加しない者等につきましては、これは従来の原則が当てはめられる。そこで、今石炭連盟の通告の内容につきまして御説明があつたのでございますが、問題は事実の認定の場合にそういうことで解決ができるのかどうか。その範囲の者ははたして賃金を差引かないでいいかどうか、あるいはその他の分についてはどの程度の賃金を差引くべきかどうかということは、結局事実の認定なつて来るのじやないかと思います。そこで事実の認定の際には、われわれとして個々の具体的な問題を検討してその限度をきめて参るわけでございますが、出炭量に従つて賃金を差引くというのは、一つ基準として正しい考え方であろうということを、われわれ見解として持つております。
  108. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 どうも逃げられたはつきりしない答弁です。普通の業務を事務屋がやつておる場合に、あるいは坑外従業員がやつておる場合に、労働省考え方では差引くのかどうか。これは個々具体的にはまた別でしようけれども、一般的にいつてそういう場合は十分予想できる。そのくらいの程度予想しなければ、通牒は出せないと思うがどうかということをお聞きしておるのです。
  109. 亀井光

    ○亀井政府委員 理論的なお話でありますから、理論的なお答弁をいたしたいと思いますが、ストライキに入るという組合の意思決定に、関係ある労働者が全部参加した。組合の意思決定に参加しました以上、その意思決定を忠実に守つて行くことは、組合員としての義務であり責任であろうかと思うのであります。そこで先ほど申しました、定められた契約の本旨に従つた労働の量と質を提供しなければ、賃金というものはまるまる払われるものではないという見地から参りますと、労働の量の方は、これは時間でございますから割合にはかり得る性質のものでございます。労働の質になりますと、いろいろな要素がその中に入つて参りまして、はたして契約の本旨に従つて労働の質の提供がなされておるかどうかという問題は、事実認定の問題になつて来るわけであります。これは個々労働者につきまして認定することは非常にむずかしい。従つてそれを出炭量の基準に従つて考えて行くという考え方も正しいのであるということを私は申し上げておるのであります。
  110. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 事実問題としてきわめて大きな差異がある。差引く考え方というものは、大体二通りあると思う。これは私の考えではないのですが、そ  の考えというのは、一応意思決定をして参加した者は、全部出炭に応じて引くのだという考え方、もう一つ考え方は、実際通常の業務と異なつた、あるいはそういう仕事がなかつた、これらの者については差引くのだという考え方、この考え方を二つチャンポンにしてお話なつておるようであります。労働の量と質というのなら、労働の量と質が同じものであるならば、当然その石炭の業務といいましても、出炭そのものに直結していない業務については払うというのが、労働省の御見解であるように見受けられるのですが、その点について御質問いたしたい。
  111. 亀井光

    ○亀井政府委員 大臣の御答弁の中にもありましたように、関係ある全労働者範囲が、一体どの範囲にまで及ぶか。すなわち、賃金差引きの対象となる労働者範囲、これは個々の具体的な事実の認定として見て行かなければならないということを言われておる、これはその通りだと思うのです。あらかじめどの部門がどうだとか、この部門がどうだとか言うことはできない。これはすべて山の状況によつて違うわけでございまして、その山々の事情によつて事実の認定がなされるというふうにわれわれは解しております。
  112. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 労働省では、なぜもう少しはつきりお話にならないのか。連盟がこういう申入れを出しておるから何か非常に逃げて、連盟と異なつた解釈をすると困るという点で言われておるのか、私は非常に疑問を持つものである。なぜかというならば、従来労働省はこういう問題について——こういう具体的な問題でないにしても、また少しケースが違いましても、大体考え方は出しておる。私はその内容も知つておる。すでに昭和二十三年から、そういう問題についてかなり詳しい検討をされておることも私は知つておる。私は事実そのものを見ました。こういうことを十分承知しておりながら、今度の場合、ばかにぼやかして御答弁なさつておるが、もし鉱業連盟の考え方労働省考え方とが異なるならば、吉田内閣は石炭内閣と言われておるので、それでは非常に困るというお気持で、ぼやかしておられるのかどうか、お尋ねいたしたいと思います。
  113. 安井謙

    ○安井政府委員 決して吉田内閣が石炭内閣であるからぼやかしておるというのではないのでありまして、出炭の量を基準にするという考え方が、結局労働の質と量の問題とマツチするということをここで表明しておるだけのものであります。
  114. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 平素の質と量を提供した場合には当然払われるものである、こういう考え方が、労働省通牒であると考えるのでありますが、違いますか。
  115. 亀井光

    ○亀井政府委員 法律上契約の本旨に従つた労働の質と量が提供されておれば、当然賃金は払われるものというふうにわれわれは解釈しております。ただ今回の場合は、全員が組合の意思決定に参加しておる。それで私が先ほど申しますように、意思決定に参加した以上、その意思決定に忠実なることが組合員としての義務であり、責任であろう、こういうように私は考えます。
  116. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 いつから労働省の方では、労働者に対しても連帯的な責任を持つ、こういうような団体的な責任論の根拠が出て来たか、いつごろそういう考え方を発明されたか。今までそういう考え方は全然労働省の解釈令規には出ていない。それを近ごろになつて、いかなる理由で今度の問題に限つてそういう団体的な責任論を持つて来られたのか、これをお尋ねいたしたい。
  117. 亀井光

    ○亀井政府委員 それは先ほど申しますように、一体どの範囲労働者から賃金を差引くかという問題になりますと、これはやはりそういう問題も検討してなければならぬ。というのは、先ほど申しますように、量の問題は、これは客観的に判断が割合楽であります。しかし質の問題になりますと、そういう意思決定に参加したということが、非常に大きなウエートになつて来るというところに、今度の特殊性があろうかと思います。そういう意味でそう申し上げたわけであります。
  118. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 電気を出すということは、電気産業として最も主なる問題であり、これが最大にして唯一の問題である。そうすると、停電ストをしました場合に、全部賃金を引かれてしかるべきであるか。そういうように従来お考えになつておつたかどうか、お尋ねいたします。
  119. 亀井光

    ○亀井政府委員 電源ストのやり方、方法等がございまして、そういう具体的な停電ストの場合には、意思決定の問題になりましよう。またそれの影響、それに対して意思決定をしながら、労務の契約の本旨に対してどの程度の労務が提供されるかということから、問題の解決が出て来ると思います。
  120. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 今のは全部が意思決定をしたのだから、当然連帯責任だということで、それは出炭量に応じて差引くということですから、何時間なら何時間電源ストをしたら全労働者から差引く、こういう考え方をいつ出されたか、こういうことを聞いておるわけであります。
  121. 亀井光

    ○亀井政府委員 全部の労働者とは私は言つておりません、そのストに関係のある全労働者というわけであります。その範囲の者は当然そういう処置がなされるということは、これは従来もそういう解釈をとつております。
  122. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 ストに関係のあるというのは、どういう範囲ですか。
  123. 亀井光

    ○亀井政府委員 これは結局事実認定の問題でございまして、ここでは抽象的な御答弁よりできません。
  124. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 従来からそういう見解を持つておると言われましたが、私はある事件が訴訟になつていることも知つている。しかし労働省として、たとえば電源ストに参加した者以外の者でも、何パーセントか賃金を差引く、こういう解釈をとられたことは、残念ながら聞いていないのです。従来からそういう考え方を持つてつたと言われますが、具体的な事例をお示し願いたい。
  125. 亀井光

    ○亀井政府委員 先般の関西の電力会社における事務ストの場合に、例が一つつたかと思います。私の記憶に間違いなければ、あの場合に組合がスト指令をいたしまして五〇%の事務のサボをやつた。その場合に、五〇%の賃金差引に対しまして、基準局としてそういう見解を持つておりましたが、問題がすぐ裁判所に上りましたために、それは表に出なかつたが、そういう考え方もわれわれはかつてしたこともございます。
  126. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 それは事務ストで、サボの状態ですから、認定も困難でしようが、一応従来の解釈と違うとは必ずしも言えないのです。今炭労の問題についての考え方の中に、団体的な意思決定によつてつたんだから、参加している者は全部対象になるのだ。この全部というのが、かなり問題であろうと思いますが、考え方としてはそういう考え方が入つている。そこで、電源ストを何時間あるいは何分間かやるということになりますと、電源ストをやつた者だけでなくて、電気産業としては電気を出すというのが根本的なものであるから、連帯責任として、すなわちストの意思決定をした者は全部賃金を何パーセントか差引く、こういうことを労働省としてお考えになつておるということは、私今まで聞いたことがないのです。ところが今度の炭労の考え方は、今の電気産業の場合から類推いたしますと、そういうようになる。その点をどういうふうにお考えであるか、どうもふに落ちない。私は、労働者が量と質を欠いた労務の提供をしておるという場合に賃金を差引くのだという労働省考え方は、一応従来でもあつたと思います。しかしながら、今度の考え方はそうでなくて、一応参加した者が、労務の質と量ともに従来通りつてつても、連帯責任があるのだから差引くのだ、こういう法理は、どうも従来とは異なつておると思うのですが、再度御説明願いたい。
  127. 亀井光

    ○亀井政府委員 私は連帯責任という言葉を使つていませんし、そういう考え方を持つているわけではございません。ただ労働の質が、労働契約なり就業規則に定められておりますところに従つてなされたかどうかということの判定の場合におきまして、その意思決定に参加したということが一つ基準として考えられて行くのではないか、ということを申し上げたのであります。従つて、意思決定に参加した全労働者から賃金を差引いてよろしいと言つているわけではございません。その意思決定に参加して、部分ストに関係ある全労働者——関係あるという言葉で、その点は説明をいたしております。
  128. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 そうしますと、意思決定とは全然関係がないと考えてよろしいでしようか。むしろ労務の提供の側からのみ考えることであつて、意思決定とは全然関係がない、かように承知していいでしようか。
  129. 亀井光

    ○亀井政府委員 意思決定に関係あるなしというか、その意思決定に参加した以上、本人はこのスト自体を知つておりますし、あるいは連盟からの通告によりまして、賃金を差引かれるということを知つておるのであります。それと、私が今一つ基準にはなりますと申しますのは、部分ストに関係のない労働者で、契約の本旨に従つて通常通りの労務の提供をしている者については賃金を差引かないということは、この逆から出て参る当然の解釈であります。
  130. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 そうしますと、今のお説によりますと、連盟の考え方とはかなり隔たつておる、かように解して間違いないと思うのですが、どうですか。
  131. 亀井光

    ○亀井政府委員 先ほど申し上げましたように、連盟の意思はどういう意思でなされたか、文面だけで判断をしますと、われわれの考えているのとそう隔たりはない。というのは、私が申したのは、関係ある全労働者から賃金を差引きなさいと言つているのであつて、連盟の方が賃金を差引かない具体的例をいろいろあげておりますのは、おそらく関係がないと見てあげているのではないかというふうに推察がされているわけであります。
  132. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 労務の提供側から判断をするのと、要するに、参加した者として、責任の限度においてといいますか、そういう考え方とは非常に差がある。具体的問題といたしますと、ものすごく差がある。それは炭鉱ですから、石炭と関係のない業務はほとんどやつていないのでありますが、官庁との仕事、鋳物工場においては、その仕事をしなければならぬ、あるいは発電所においては、保安電力を送らなければならぬから、その仕事をやつている。ところが連盟の方はこれも差引くんだと言つている。だから私は、坑内においても問題があると思いますが、かなり差がある。でありますから、非常にくどいようですけれども、これは非常に重要な問題ですから、もう一度お尋ねしたい。
  133. 亀井光

    ○亀井政府委員 先ほど来申し上げますように、これは考え方があるのでございます。昨日予算委員会において、川崎委員の質問に対して大臣がお答えになり、またそれに川崎委員から質問が出ました際に出たように、いやしくも部分ストであろうと、組合の意思決定に参加した以上賃金を払わないでよろしい、もしそこに何がしかの出炭があつた場合には、それは不当利得として使用者から労働者に返すべしという理論がある。ドイツのある学者がそういう意見を述べておりますが、日本の学者の中にも一部にそういう意見を持つている者がある。そういう考え方もありますが、われわれはそういう考え方をとらない。われわれは、あくまでも現実にのつとつて、契約の本旨に従つて労務の提供がなされたかどうかということが、われわれの解釈の上の大きな柱になる。そうしてその関係ある者としましては、先ほど申しましたように、その部分ストに関連ある全労働者に及ぶということでありまして、連盟がどう考えておるか、いやしくも部分ストであろうと、組合の意思決定に参加した者には全部賃金を払わぬでよろしいという解釈をとつておるかどうか知りません。しかし私ども考え方は、そういう考え方であります。
  134. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 今学説を引かれましたが、ドイツでも、少数意見としてそういうことがあつて、多数意見は反対した。ヘーデマンのように、労働者全体の責任であると言つたことも知つている。また不当利得の話がありましたが、不当利得でも同じ理論です。それはそれだけ普通の業務をしている。出炭とは関係ないけれども、会社としてはそれだけ業務が進んでいる。そういう場合には当然払うべきであるとお考えであるかどうか、お尋ねしているわけです。
  135. 亀井光

    ○亀井政府委員 それは先ほど来申し上げましたように、労働の契約の本旨に従つて労務の提供がなされた限度において賃金を支払うべきである。
  136. 多賀谷真稔

    多賀谷委員 私はこの問題につきましては、根本的に対立した意見を持つているんですが、こういう席ですから、申し上げないで、労働省意見を聞いたわけですが、今私が質問したのに対して、答弁がありました点についてだけ申しましても、実態を十分把握されていない。文書は抽象的でありましても、実態を把握されておるならば、そういう答弁は出ないと思う。実態を把握されないでそういう答弁をなさつておるのか、それとも従来二十二年ごろからすでにこういう問題——必ずしも一致した問題ではありませんでしたけれども、こういうような問題は、基準局ではかなり現地に行つて詳細な調査もしたわけです。われわれも立ち会つたわけです。ですから、どういう職種についてはこうなんだ、こういうことまで十分御承知あつて、しかも今度の場合はどうもぼかされておるような感じを受ける。その理由は、連盟がわずかこれだけの職種しか、純然たる福利厚生の職種しか申入れをしなかつたというところに発しておるように思うのです。ともかく今度の通牒は、非常な政治的な意図のもとに行われておると判断する以外に方法がない。それは今申しましたように、事実問題として解決をしたいと中山さんですら言つておる。労働省がまだ非常に紛糾しておる状態、争議解決の見通しの困難な状態において、しかもこの問題を切り離してはとうてい解決することが事実問題として困難であるということを知つておりながら、こういう言明をされるということは、まつたく遺憾であります。しかしながら、水かけ論になりますので、私はこの項の質問を終りたいと思います。     —————————————
  137. 持永義夫

    持永委員長代理 次に失業対策に関する件について調査を進めます。黒澤君。
  138. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 私はただいま国会に提案されております二十九年度予算のうち、労働省関係の予算につきまして、数点安井政務次官その他政府委員お尋ねいたしたいと思います。  労働大臣は、この前の本委員会におきまして、昭和二十九年度の労働行政一般に対しまして所信の説明をされたのでありますが、そのときに、わが国の完全失業者は昨年の三月には六十一万、八月には四十三万、十一月には三十七万というように、漸減の一途をたどつておると申されたのであります。また委員の質問に対しまして、潜在失業者は二百五十万から三百万であろうという数字も発表されたのであります。しかしさすがの労働大臣も、昭和二十九年度の失業者に対しましては、明年度の超均衡予算の実施に伴い、必ずしも楽観を許さない事情にある、こういうことを述べられておるのであります。このことは、政府の二十九年度の緊縮予算の実施によりまして、失業者が増大するであろうということを、暗に表明されておるものと思うのであります。このことは、私たちも同感でありまして、政府におきましても、国家公務員を六万から整理をする。これに従いまして、地方自治体におきましても、これに相当する人員の整理がされるのではないかと思います。あるいはこの緊縮予算によりまして、中小企業は非常に金融が梗塞されまして、倒産あるいは不振の状態のもとに、私はたくさんの失業者が出て来るのではないかと思います。また公共事業の予算が非常に減らされまして、今日まで公共事業に吸収されておりました労働者が、完全に失業者の状態となつて街頭に現われ乗る。こういういろいろな事情からしまして、予想外の厖大な失業者が、私は二十九年度には出て来るのではないかと思うのでありますが、まず最初に政府におきましては、二十九年度の失業者の数をどういうふうに具体的にお考えになつておるか、その点をお伺いしたいと思います。
  139. 安井謙

    ○安井政府委員 お答え申し上げます。先ほど昨年度の完全失業者の数が上半期には非常に厖大であつて、下半期から下つているという大臣の演説を御指摘になりましたが、これはその通りに相なつておるのでございまして、昨年度中いろいろな炭労の首切りその他もありまして、相当数ふえるのではなかろうかという予想も立てておりましたが、大体昨年来までの実績につきましては、四十万を割るというような非常に下まわりの実績を示して来ております。そこで、現在の実情から推しまして、来年度は緊縮予算でございますから、いろいろなしわ寄せも出て来るであろうということも、相当考慮はいたしている次第でございますが、しかしこれの現われて来ますのは、そのままの形で現われて参りましても、下半期以降の影響であろうというような考え方も成り立つております。あるいはまた出て参ります失業者に対しましては、極力就職あつせんの努力もいたしまして、なるべく完全失業者を出さないような政策も、十分とつて行きたいと考えている次第であります。従つてそういつた観点から、昨年度の実績につきまして、おおむね五%程度失業対策費は増額を見て予算を組んでいるような次第でございます。
  140. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 ただいまの政務次官のお答えによりますと、大体五%程度二十八年度より失業者がふえる、そういうふうに解釈してよろしゆうございますか。
  141. 安井謙

    ○安井政府委員 けつこうであります。
  142. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 あまり私の考え過ぎで、そういう御答弁をされるならば、あえて心配はないと思うのでありますが、一応その点はあとにまわしまして、労働次官は、昨年の十二月十一日の本委員会におきまして、日雇い労務者の賃金につきまして、次のように述べられておるのであります。日雇い労務者の賃金は、去る九月の賃金に比べると、一〇%の値上げになつているが、来年——今年でありますが、来年一月中旬からは、九月の賃金を基礎として一三%増になるよう措置する予定であると述べられているのであります。現在の日雇い労務者の平均賃金額は幾らになつておりますか。まず昨年の九月に比較いたしまして、今、労働次官が言われましたように、一三%の値上げになつておりますかどうか、その点をお聞きしたいと思います。
  143. 安井謙

    ○安井政府委員 ただいまの失業対策事業の平均単価は二百八十二円に相なつておる次第であります。これは昨年の九月十六日に九%の値上げを暫定的にいたしまして、さらに四%弱の値上げを一月十六日から実施いたし、合せて大体において一三%程度の値上げを見ている次第であります。
  144. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 昭和二十九年度の失業対策予算を見ますと、百十一億円になつておりまして、二十八年度の失対事業の予算が百億八千万円でありますから、二十九年度におきましては十億二千万円の増額になつております。私はこの百十一億の失対事業の予算のうち、賃金、事務費、資材費の割合がどういうふうになつているか、お伺いしたいと思います。
  145. 安井謙

    ○安井政府委員 事務的なことの突然の御質問でございますので後刻会計課長から内訳を申し上げます。
  146. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 それではその点後刻御説明を願いたいと思います。  この百十一億円の失対事業の予算でありますが、昨年より十億二千万円の増額につきまして、昭和二十九年度の予算の説明書を見ますと次のように書いてあるのであります。「失業者数の増加をも考慮して、吸収人員を二十八年度前半の実績を基礎とした吸収人員の約五%増、一日平均十六万三千人に引き上げたこと」「二十九年一月以降改訂した賃金を年間に伸ばしたこと」こういうような説明が加えられておるのでありますが、私はこの程度の増額によつて、先ほど申し上げましたようないろいろな悪条件の中において、失対事業が支障もなく遂行できるかどうかということを非常に危ぶんでいるものであります。それで、私はこの数字についてちよつとお伺いしたいのでありますが、一日一人の平均賃金が二百八十二円、そうして毎日十六万三千人を就労させるということを計算してみますと、これはどうも百十一億円を突破するのではないか、私の計算ではそうなるのであります。これは私の計算が間違いかどうかわかりませんが、参考までに申し上げますと、平均賃金一人一日二百八十二円で十六万三千人が一日も休みなく三百六十五日働くことになりますと、これは事務費あるいは資材費を除きましても百六十七億七千七百五十九万というような計算になります。それから一箇月稼働日数平均二十一日といたしまして、十六万三千人働くことになりますと、それだけでも百十五億八千三百四十三万二千円という計算になるのですが、この計算の基礎はどういうものであるか、一応御説明願いたい。
  147. 安井謙

    ○安井政府委員 御存じの通り補助率は二百八十二円の三分の二でございます。それから資材費の方は三分の一になつておるわけでございまして、そういつた計算でこれは出した次第でございます。
  148. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 私の考え違いで計算が間違つたかもしれませんが、いずれにいたしましてもこの程度失業対策費におきまして、いろいろな悪条件のもとに続出する失業者を吸収いたしまして、失対事業が支障のないようにできるかどうか、その点に対する御方針のほどをお伺いしておきたいと思います。
  149. 安井謙

    ○安井政府委員 先ほどもちよつと触れたわけでございますが、本来完全失業者失業対策費で救うということが何常的にあるということはいいことじやないのでございまして、できる限りあらゆる部門に吸収させる努力を今後も格別払つて行きたいと思つている次第であります。そうしてある程度業者群が増大するといたしましても、これがほんとうに必要になつて現われますのは、失業保険費の給付等の関係もありまして、少くとも下半期以降であるというような観点から、これで何とかやつて行けるものと心得ておる次第であります。
  150. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 次に失業保険についてお尋ねしたいのでありますが、大臣の御説明によりますと、二十九年度におきましては失業保険の給付金が二十八年度より一割増になつているということであります。これも私の考え違いかどうか知りませんけれども、失業保険の特別会計の予算を見ますと、二十八年度は二百九十五億一千五百五十一万一千円、二十九年度の予算案に三百二十一億六千四百三十九万八千円、これを見ると約九分になりまして一割になるのでありますが、失業保険の給付金の項目を見ますと、二十八年度は二百六十一億五千四百万円、二十九年度の予算案——予定額でありますが、これは二百七十二億四百万円ということになつているのであります。この保険の給付金については、一割になつていないのじやないかというような計算になるのですが、この点どうでございましよう江下政府委員 お答え申し上げます。お話通り予算の点から見ますとそういうことになります。私ども失業保険特別会計の予算を考えますときに、一体どのくらい失業保険の準備をしたらいいかという点をいろいろな統計で考えて行くわけでございますが、現実の問題としてはなかなか予想が困難でございますので、ある程度ゆとりを持つて考えて行つておるわけでございます。そこで本年度はお話通りの予算でございますが、本年度の実績、つまり昨年の四月から十二月までの平均をとつてみますと、月大体二十億の金を出しておるわけでございます。そこで本年度の予算につきましては、現在のところ若干ゆとりができているというのが実情でございます。来年度の予算を考えましたとき、私どもは昨年の実績が大体月二十億ということでございますので、その一割増しということで二十二億というものを毎月給付できる予算を一応考えたわけでございます。なおこれだけでは心配な点もございますので、特に四億数千万円の予備費というものを別に考えておるわけでございます。
  151. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 二十八年度の何か繰越金でもたくさんあることを見込んでの一割増しということのようでありますが、しかし私は大臣の説明なり、この予算書を見まして、かような予算面に現われていないものを含んで一割増しというようなことは、少しおかしいのではないかと考えております。この予算面から見ますと、大臣は一割増しということを言つておりますが、計算では四分程度の増額ということにしかなつていないのじやないかと私は思うのです。その点どうしてそういうふうな御説明をなさるか、私はもう一度お聞きしたいと思います。
  152. 江下孝

    江下政府委員 この本年度の予算は、実は途中でやや失業情勢が深刻になるおそれがあるというので補正をいたしまして、二百六十一億ということになつておるわけでございます。ところが現実の支給状況を見て参りますと、それだけの支出がないわけでございます。そこで来年度につきましては本年度実績の一割増し、金額的には一応一割増しということで計算したわけでございますが、大臣の説明はそういう趣旨でございまして、ややそれは表現、物の言い方の問題はあつたと思いますが、趣旨はそういうことだつたのでございます。
  153. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 私は、この点は大臣に御提示を願いたいと思うのであります。  失業保険の受給者の数をお聞きしたいと思いますが、二十八年度と二十九年度の受給者の比較をお示し願いたいと思います。
  154. 江下孝

    江下政府委員 毎月平均いたしまして、三十四万五千程度であります。
  155. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 私の今お聞きしたのは、二十八年度と二十九年度の比較、双方の数をお示し願いたいのです。
  156. 江下孝

    江下政府委員 二十九年度につきましては、予算でございます。
  157. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 大体どのくらい見込んでおるか。
  158. 江下孝

    江下政府委員 二十九年度は、三十七万五千人ばかりを見ております。
  159. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 労働省の特別会計の予算のうち、予備費でありますが、二十九年度には三十四億になつておりまして、昨年度よりは十二億円増額になつております。十二億円増額しておる事情をお聞きしたいと思います。
  160. 江下孝

    江下政府委員 特に十二億かつちり機械的に計算して入れたわけではございませんが、将来の失業情勢の見通しから、不測の事態に備えて三十四億の予備費を組んだわけであります。
  161. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 ただいまのお答えによりますと、失業者の増大を見越して増額をされたということでありますと、これは失業対策事業あるいは失業保険、そういう方面でございますか。
  162. 江下孝

    江下政府委員 失業保険の支給の金でございます。
  163. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 日雇い労務者の夏期手当、年末手当の問題でありますが、これは今日ではひとつの慣例となつておると思うのでありますが、これらにつきしまして二十九年度の予算においては、どういう御考慮が払われておるか、お聞きしたいと思います。
  164. 江下孝

    江下政府委員 昨年の当委員会でもお話申し上げました通り失業対策事業に就労します日雇い労働者は、日々雇用いたされます者であり、かつ適職があれば民間に優先的にあつせんされる立場をとつておりますので、制度といたしましてこれに夏期手当とか年末手当は計上いたしておりません。
  165. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 もちろん制度としてこれがないことは、私も万承知しておるのですが、しかし夏期のお盆手当といいますか、暮れのもち代といいますか、いずれにいたしましても、ここやつて参つたのでありまして、こういうことを全然考慮に入れないということは、私はあり得ないと思うのです。制度としてではなく、そういうことを御考慮に入れて二十九年度の予算を編成されたかどうか。またそういうことが、予算面のどこに御考慮をされておるか、その点をお聞きしたいと思います。
  166. 江下孝

    江下政府委員 二十八年度におきましては、夏及び暮れに、それぞれ数日分の賃金増給、就労日数の増加ということを措置したわけでございます。来年度におきましても、予算的には二十八年度と同じように、制度としては認めておりませんが、昨年の実情はさようでございました。
  167. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 昨年のことは私も知つているのですが、今年度もただでは済まないと思うので、そういうことは労働省において今からはつきり言つてしまうとどうかと思うというような御考慮で、はつきり言えないのかもしれませんけれども、これは今までどういう予算から盆の手当なり、もち代というような形で夏期なり歳末に出しておつたのですか、その点お聞きしたい。
  168. 江下孝

    江下政府委員 就労日数の増加ないし賃金増給という形でこれを出しておりますので、当然一般の失業対策費の百賃金の費用から出しているわけでございます。
  169. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 先ほど申し上げましたような失対事業は、失業者の増大につれまして、この程度の予算ではなかなか円滑な運営ができないと思うのでありますが、その上盆の手当あるいは暮れのもち代というような予算までも考慮されているということになると、なお一層予算が苦しくなるのではないかと思うのであります。ただいま局長の御説明によりまして、盆の手当あるいはもち代等については、昨年度程度は御考慮に入れているというふうに了解してよろしゆうございますか。
  170. 江下孝

    江下政府委員 結局予算運営の実際によつて、もしそういう方面に振り向けられるものが出ましたら考える、こういうことでございます。
  171. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 あまりはつきり言つてしまつてはということで、おつしやることが御遠慮なさつているようでありますから、これ以上は申し上げませんが、この失対事業の労務者のベース・アツプの点、あるいは稼働日数の点につきまして、二十九年度におきましてどういう考えを持つているか、一応この機会にお聞きしたいと思います。
  172. 江下孝

    江下政府委員 来年度におきましては、ベース・アップの費用は見込んでおりません。稼働日数は全国平均二十一日ということでございます。
  173. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 それから、ただいま失対事業の労務者につきまして、格付といいますか、仕事によつて賃金の段階があるようになつておりますけれども、こういう段階をつける基礎的な条件、まただれがそういう格付をおきめになりますか、そのことをお聞きしたいと思います。
  174. 江下孝

    江下政府委員 失業対策法にも、賃金は労働大臣が定める建前になつております。そこでこの段階をどういうふうに定めるかということにつきましては、一応失業対策事業種目ごとにこれを考え、あわせて個々労働者作業能率というものを考え、この両者よりして、いわゆる格付の賃金を定めておるわけでございます。
  175. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 このことについては、各方面でいろいろ問題があるよう聞いておるのでありますが、いわゆる現地の担当職員の方が不公平をやる、顔づけをやるというようなことで、労働者の間にいろいろな不平不満が起つておるというようなことを、私は聞いておるのであります。そういう点のないように、ひとつ労働省の方からも御注意を願いたいと思います。  なお一点お聞きしておきたいのでありますが、失対事業の労務者に対する就業規則の問題であります。これはそこに働いております労働者の知らない間に就業規則ができまして、それが上から押しつけられておるというような不平も私は聞いておるのであります。そういうことでありますと、これは労働基準法の精神に反することになるのじやないかと思いますが、そういう事実があるのかどうか。またあつた場合には、労働省としてはどういうお考えであるか、その点をお聞きしておきたいと思います。
  176. 江下孝

    江下政府委員 前段の賃金格付を公正にせよということでございますが、これにつきましてはごもつともでございます。私どもも絶えず現地の方にはその点について厳重に指示をいたしております。今後もさようにいたしたいと思つております。  次に、就業規則の問題でございますが、御承知の通り賃金その他おもな労働条件は、労働大臣が定めることになつておりますので、一方的ということにはこの点はならないのじやないか。すなわち事業主体の方で一応労働省から指示のあつた条件を就業規則として示すわけでございますから、この点については、一方的なということは当らないのじやないかと考えております。
  177. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 これはよく存じていないのですが、労働組合におきましては事業主労働組合、あるいは組合のできていない事業等におきましては、過半数の労働者の意向を聞いておきめになるということになつておるようであります。各事業場におきまして、失対関係におきましても、さような就業規則をおつくりになるということにはなつていないのでございましようか、その点をお聞きしたいと思います。
  178. 江下孝

    江下政府委員 失業対策事業は、事業主体でございます都道府県または市町村が、緊急失業対策法及び労働大臣の定めます手続によつて運営する事業でございます。従つて現場におきまする作業の指導及び遂行、秩序の維持ないしは労務管理といつたものは、一応事業主体の長の責任において行われるものでございまして、労働組合や就労者が自主的に管理を行うという筋合いのものではないと存じております。
  179. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 私は珪肺問題について二、三点お尋ねしたいと思います。二十九年度の予算案を見ますと、十一億円の予算をもつて労災病院の新設がなされるようであります。この労災病院の新設の中には、珪肺労災病院の新設も当然含まれているのじやないかと私は考えるのでありますが、珪肺病院については予算上どういうふうになつておるか、お聞きしたいと思います。
  180. 亀井光

    ○亀井政府委員 珪肺病院、いわゆる珪肺病だけを取扱いまする病院としてま、二十九年度では新設する予定はございませんが、珪肺を主体とする病院としまして今考えておりますものは、北海道の岩見沢、それからまた本年度におきましては、岡山県に珪肺を主体とする珪肺病院を目下建設の準備中でございます。もう一箇所来年度予算で新設する予定にしております長崎県の佐世保地区におきまする病院がございます。これも珪肺を主体とする病院ではございませんが、状況によりましては病棟も考えて参りたい。あるいは熊本県の八代に現在労災病院がございますが、これも九州の南の炭田地区における珪肺患者を収容する珪肺病院というものを考えておる次第であります。
  181. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 二十九年度の予算の中に珪肺巡回検診費として五百十二万七千、昨年度より三百二万八千ほど増額になつておるようであります。またこれに付随しまして珪肺巡回検診の旅費が二百八十七万九千円から計上してあるようでありますが、この珪肺巡回検診は、どういうふうな構想をもつておやりになるか、一応お示し願いたい。
  182. 亀井光

    ○亀井政府委員 巡回検診の要領は、昨年まではもつぱら金属鉱山を主体として検診の計画を立てたのでありますが、本年度からは他産業につきましても、すなわち珪肺の発生しやすいと認められます窯業、あるいは鋳物業あるいは造船業、あるいはセメント業等につきましても、診断を実施しておるわけであります。来年度におきましても、引続きこれらの方針に基きまして、単に金属鉱山のみならず、その他の産業につきましても巡回検診を実施して参りたい。これは計画としましては、一応地元基準局におきまして計画を立てまして、それが本省にまとまつて参りますと、本省でそれの時期、その産業に診断を実施すべき時期を決定いたし、地元の基準局が主体となり、本省の技術者がそこに付随しまして、診断を実施して行くわけであります。
  183. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 珪肺の巡回検診が徹底的に実行されることによりまして、珪肺病患者の実態が把握できると思うのでありますが、しかしながら珪肺患者の実態が把握できましても、現行法令の範囲内におきましては、珪肺の予防、治療あるいは補償というような総合的な対策の確立はむずかしいのじやないか、万全の成果を期待することができないのじやないかと思いますが、その点について労働省のお考えを聞いておきたいと思います。
  184. 亀井光

    ○亀井政府委員 珪肺の予防については、現在の安全衛生規則においても、粉塵の除去のための施設あるいはこれをみずから予防いたしますマスクの使用等、法規があるのでありまして、われわれとしましては、これらの法規を適正に運営することによりまして、現在も相当その効果をあげております。一方金属鉱山におきましては鉱山保安法の施行規則に基きまして、いわゆる湿式鑿岩機が強制されまして、金属鉱山におきましては湿式鑿岩機がほとんど百パーセントに近くまで普及して参つている。こういうふうな面からいたしまして、予防の点は現行の法規におきましても、十分その効果をあげ得るものと考えておるのでございます。  補償の問題になりますと、いろいろ考え方があるわけでございます。珪肺のように、現在の医学におきましては、いわば不治の病とされておるよな病気でございまして、それを三年間の療養期間が経過したとたんにおいて打切りの補償をすることは、少し保護の目的が達成されないではないかという意見もあるわけでございます。現に参議院の労働委員会に議員立法として提案されておりまするけい肺法案の中におきましても、そういうことがうかがわれるのでございます。われわれとしましては労働基準法に基きまする審議会といたしまして、けい肺対策審議会が設置されておるのでございまして目下このけい肺対策審議会にこれらの対策について諮問をいたし、同審議会におきましてはあらゆる部門、すなわち予防部門あるいは厚生対策の部門あるいは診断の部門あるいは恕限度の部門、こういうふうに四つの専門部門をつくりまして、それぞれの検討を今いたしておるところでございます。政府としましてはこれらの検討の結論をまちまして、これに対する対策を考えたいと思つている次第であります。珪肺の特殊性からいたしまして、十分注意し、また十分考慮を払いまして、この問題の処理に当つているような状況であります。
  185. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 ただいまの基準局長のお答えの中にもありましたように、現在の法令だけによつては、予防あるいは治療、補償というような総合的対策の確立がむずかしいんじやないかというふうに私は聞いたのでありますが、そういうことになりますならば、結局現在以上の法的な措置を講じなくちやならないということになると思うのであります。ただいま局長も仰せられましたように、参議院労働委員会におきましては、議員提出といたしましてけい肺法案が継続審議になつております。本委員会におきましても珪肺の小委員会を設けて審議中でありますが、労働省におきましては珪肺法の問題について、どういう調査御研究をなすつておるか。また珪肺法を将来おつくりになるお考えがあるか、その点をお聞きしたいと思います。
  186. 亀井光

    ○亀井政府委員 珪肺法、すなわち単行法をもつて珪肺に対しまする予防から補償まですべて網羅した規定をいたしておりまする法体系を持つておる国と、そうでなく予防その他の方は一般法規に譲り、珪肺の補償だけを規定いたしておる法制を持つております国と、これは世界のどこの国を見ましても、おのおのその考え方を異にいたしておるのでございます。わが国においてどういう制度が適当であるかということになりますと、これはまたおのおのその人によりまして考え方が違うかと思いますが、われわれといたしましては先ほど申しましたけい肺対策審議会の意見というものを一応尊重する趣旨におきまして、その意見の出るのを待つておるような次第でございます。
  187. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 次に珪肺患者の打切り補償の問題であります。珪肺病院に入院いたしまして、三年の入院期間が経過いたしましても、病気の方は全快しないばかりでなく、退院いたしましても普通の仕事につけないで病床にあるというような患者が、現在もたくさんあるのであります。これらの人たちは、三年間の病院生活が終つてしかも著しく健康が回復しないというときは、打切り補償の問題ですが、これは入院当時の賃金を基礎にして打切り補償が計算されるということを聞いております。これにつきましては、私のところへも全国の患者から手紙等で参つておるのですが、何とか打切り補償に対して賃金のスライドをやつてもらいたいという悲痛な要望が強くあるわけであります。この点については、ひとつ労働省におきましても、何とかお考え願いたいと思うのであります。これらの人々が三年の入院期間が過ぎまして、不自由な身をもつて、貧しい自分の家に帰つて、なお病床にあり、結局は血を吐いて苦しんで死んで行くということを考えますと、この打切り補償につきましては、賃金のスライドをしいて、幾分でも自宅療養なり、生活の足しにしてもらうという方法を講じてもらいたいと思うのですが、この点についてのお考えをお聞きしたいと思います。
  188. 亀井光

    ○亀井政府委員 申すまでもなく災害補償は使用者の無過失賠償責任でありまして、その無過失賠償責任の限界をどこに置くかということにつきましては、基準法は三年の療養と三年の療養を経ましてもなおその疾病が治癒しない場合におきましては千二百日分の打切り補償を払つて使用者の賠償責任を解除するという考え方をもつて打ち立てられておるわけであります。スライド制の問題は、これは物価の上昇に伴いまする生活保障的な考え方でございます。そこでこの無過失賠償責任の考え方と生活保障的な考え方とが、基準法においてどう調和されるかという問題は、問題として私はあろうかと思います。しかし、今ただちに基準法が社会保障的な保障をすべきであるというところまで行くには、少し理論的に問題があろうかと思うのであります。と申しますのは、先ほど申しましたように使用者の一方的な無過失賠償責任でございますから、そういう趣旨でこの問題はなお理論的な問題として検討をされなければならない問題でございまして、御意見ではございますが、今すぐにこれに賛成するということにつきましては、もう少し理論的なものを固めて行きたいと考えておる次第であります。
  189. 黒澤幸一

    ○黒澤委員 なお一点だけお聞きしたいと思うのであります。これは前国会におきまして、亀井局長お尋ねしたことを繰返すようになるのですが、昨年中は栃木県の藤原町にあります珪肺労災病院ではベッドが相当数あいておりました。一番多いときには四十近くあいていたのではないかと思うのですが、現在はどういうようになつておりますか、お尋ねしたいと思います。  なお、あの病院におきまして、患者から非常に訴えられますことは、家族の面会所あるいは宿泊所がないということであります。これは人道上の問題でもあるのではないかと私ども考えておりますが、その点どういうふうになつておりますか。  なお、患者の給食費の問題ですが、これは御承知のように、昭和二十四年ごろにおきめになつたのがそのまま引続いておりまして、その後物価の上昇があるにもかかわらず、給食費についてちつとも増額が講ぜられておりませんが、これはどういうわけであるか。以上三点だけ最後にお聞きしたいと思います。
  190. 亀井光

    ○亀井政府委員 面会施設につきましては、今着工いたしておりまして、本年度中には完成いたすつもりであります。病院におけるベッドが十分間に合わないというお話でありますが、現在におきましては大体九十床くらいのまわり方でございます。ただこれは百十床ありながら、まだ二十床ほど埋まらないのは、今お話の面会施設等の不備の点もあろうかと思います。また地理的な問題もあろうかとも思います。地理的な問題は、先ほど御説明申し上げましたように、全国それぞれの要所に割当てまして、珪肺の病院なりあるいは病床なりをつくつて行くということで解決して参りたいと思います。  なお、最後の御質問の食費の問題につきましては、すでに従来の額よりも三十五円値上げをいたしました。一般の労災病院よりもさらに十円高い、特殊な入院者のための食費といたしまして、栄養の補給その他に遺憾のないよう、今はかつておる次第であります。     —————————————
  191. 持永義夫

    持永委員長代理 次に再び労使関係に関する件について調査を進めます。井堀君。
  192. 井堀繁雄

    ○井堀委員 中小企業のもとにおける最近の労使関係の事柄について、一、二お尋ねいたしておきたいと思います。  全国的な最近の傾向として、労働条件の非常に加速度的な切下げが行われて、これに抵抗する労働者の力は、一般の大企業や基本産業に働いている労働者と違いまして強力な労働団体としての機能がほとんど見るべき状態にないと思うのです。こういう点について労働省としてはいろいろ御調査なさつておいでになると思いますが、大体の傾向でよろしゆうございますから、御説明を願いたいと思います。
  193. 中西実

    ○中西政府委員 全般的に詳細な状況といつて、持に調査しておるわけではございませんけれども、たとえば不当労働行為の問題等におきまして、地方労働委員会あるいは中央労働委員会に出て来ますのを見ましても、中小企業のものが非常に多くなつております。これは制度が周知されて来たというせいもございますけれども、やはり中小企業において不当労働行為事件等も起つて来るということは、これは逆に申しますれば、やはりそれだけ経営陣においても理解の点の足らないこともありましようが、組合組織力というような点におきましても欠けておるという証拠になるのではなかろうか。われわれとしましても、中小企業労働者に相当の力をつけたい、これにはどうすべきかということにつきましては、しよつちゆう論議をし、機会があれば考えております。できれば福利共済の関係あたりから強力になればいいというようなことも念願し、中央組合にもその点に力を入れられたらどうかというようなアドヴアィスもしておるのであります。全体の傾向としまして、今言いますように、大企業より非常に恵まれていないということは言えると思います。
  194. 井堀繁雄

    ○井堀委員 労働省設置法にも明らかに書いてありますように、労働条件の向上並びに労働者の保護は、労働省の主要な任務だと思います。ことに今日統計の上から判断いたしましても、昭和二十六年の総理府の事業場統計調査を見ますと、二百人未満の労働者を雇用しておる事業場の数が九九・四%になつております。労働者の数で行きましても、製造業だけでも五百五十万人中三百七十五万人、すなわち六八・二〇%を占めておるわけであります。おおむね二百人以下の事業場は、経営状況も決して芳ばしいもののみとは言いがたい。労働条件の、たとえば賃金較差については、過日労働大臣にお尋ねをいたしましたときに引例をいたしましたように五百人以上の事業場に比べますと、半分ないしは、ひどいのになると三分の一程度の収入です。せつかく尊い勤労を提供しながら、日雇い労働者よりも、あるいは生活保護法の最低生活の保障費よりも低いという事情が顕著になつて来ておるわけであります。これは一つには、労働者組織力がまつた労働条件を守るに足りないということにもなり、また一方には、労働省の活発な行政的活動が見られないということにもなると思います。日本の産業のにない手で、労働人口の半ば以上を占める労働者の生活が、こういうふうに荒れて来ておるということは、これはひとり労働問題としてのみ考えられないと思うのです。こういう問題について、労働省は、その設置法の精神に基いて、日ごろからかかる低悪な労働条件というものを御調査なすつておるはずであるとわれわれは信じておりましたので、二百人以下の事業場の労働者の給与の状況、その他労働時間や各種の労働条件についてお調べになつておると思いますから、その統計資料を御提示願いたい。さらに対策についても案がありますならば、ただいま局長は福利厚生事業と言われましたが、一体どういう福利厚生事業計画されておるか、そういうようなものについて、できるだけ詳しく御提示願いたいと思います。本日出なければ後日でけつこうであります。  そこで一つ、二つ具体的な事例についてお尋ねをいたしたいと思います。これはごく新しいケースでありますが、私のところに訴えて来ておりますものの中から代表的のものを一、二あげてみたいと思います。それは静岡県沼津の工場で、常時百十人ばかりを雇用しておる自動車のボディーをつくつておる工場でありますが、ここは熟練工が大部分を占めております。ここで賃金問題について紛争が起きまして、今ストライキに入つておるのではないかと思うのですが、このストライキの経過を私どもの調べたところによりますと、労働組合の存立をまつたく認めないといつたような、労働法の言葉で言えば、不当労働行為が完全に成立する行為であります。そういう行為が公然と行われて、労働者もふしぎに思わない。たとえば、労働省の出先機関でありまする——出先機関ではないにいたしましても、労働行政の末端を担当しております労政事務所の職員が、こういう事実に対して手をこまねいていなければならぬという事情を私は聞いておるわけであります。これは東京の近くの場所であります。しかも事業も近代的な事業で、沼津市内にあるわけであります。そういうような事柄について御報告を受けたことがあるかどうか。また御報告を受けていないとするならば、私の手元に詳しい資料が出ておりますから、このことについてお尋ねしてみたいと思います。問題は昨年の暮れから発生しておりまする労使間の紛争で、ストライキになつたのはごく最近であります。そういうことについて何か出先から御報告があつたかどうか。
  195. 中西実

    ○中西政府委員 会社の名前は……。
  196. 井堀繁雄

    ○井堀委員 加藤車体株式会社、場所は沼津市内でございます。
  197. 中西実

    ○中西政府委員 ちよつと今記憶にございません。
  198. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私のところに届いている資料で応お尋ねしてもいいと思います。加藤車体株式会社、ここで労働組合組織されたのは、昨年の五月です。ところが、労働組合組織いたしますと、経営者の身内の人を中心にしてK友会という団体を組織して、そのK友会と労働組合を対立させて、そしてK友会に入らない者はやめてもらうか、あるいはやめない者については労働条件に格差をつけて圧迫するということが行われておる。そして就業規則の提示も行つていないので、賃金の支払い方法についてもきわめて不明確な扱い方をしておるわけです。ここにはまつた基準法の保護も受けていないという事実も上つて来ておる。それがたまたま就業規則の提示を相手方に迫りましたことを理由にして役付を格下げをしておる。そこで、その工場労働組合の力だけでは何ともしがたいので、沼津にあります東電の労働組合の応援を求めて団体交渉をやつた。その団体交渉の結果、労働協約の締結を友誼団体から勧められて、その応援のもとにその要求をようやく出した。ところが、その協約に対する回答文がここに出ているが、まつた労働法を無視するというよりは、こういうものについてまつたく無関心で、少しこつけい過ぎるような回答が行われているわけです。しかしそういう事態が発生しても、百人足らずの工場労働者で、しかも一方に御用組合と目されるような団体をつくつてそういう圧力がかけられて来るときには、労働者の団体行動というものが正常なる機能を発揮することができないという事実がここに現われて来ておる。そこで友誼団体の援助のもとに、その最低の労働者の権利を行使しようとする者に対して、さらに経営者側に待遇の改悪ということで圧力をかけて来ておる。こういうことは労政事務所にはもちろん報告がなされておるはずだと思う。  こういう例は決してこの問題に限りません。もう一つは同じ沼津市内の工場で発生しております。これも私のところに資料が来ておりますが、日本名産株式会社という従業員百二十名、製品として菓子をつくつている工場であります。ここの労働条件はまことに低劣で、賃金平均が七千円であります。ここでは社業の不振を理由として退職希望者を募つておるが、その退職希望者を募るのに、男子二十五名、女子五名、計三十名の希望退職者を募つて、その希望退職に対しては、既定の退職手当、すなわち基準法のいう予告手当のほかに四十日分を加算するからという条件で募集をした。ところが希望者が三十人をはるかに越えて四十五人も出て、かえつて会社を面くらわした。ところが会社はその申出を全然受付けないで、反対に退職を希望しない労働組合の執行委員長、書記長、副委員長、執行委員、婦人部長といつたような役付の労働者を常務が呼びつけて退職の強要をしておる。もちろんこれに対して労組側は反対をしております。ところが反対を理由にいたしまして、ここでも今申し上げた工場と同じように御用団体をつくつて、その団体にいろいろと援助を与えて、組合の切りくずしをやつておるわけです。これもここの単独の労働組合はどうにもならないものでありますから、有力な友誼団体の応援を求めて団体交渉を続けておる。その団体交渉についても、経営側者は公正な態度をもつて迎えるというのではなくして、面会を拒否するような態度を繰返している。  そこで、この訴えの中で私が非常に奇異に感じましたのは、当時書記長でありました工員が、会社側からたびたび労働組合よりの脱退を強要され、一方組合員との板ばさみになつて、遺書をつくつて自殺をはかつた。その遺書が私の手元にありますが、幸いにして命には別条がなかつたようです。まつたく想像もつかない悲劇に類するできごとであります。こういう点について、私の持つている資料よりは、直接労働省が出先を通じてお調べになればすぐわかることだと思います。こういうようなことは私どもの耳に入るのはごくまれなものだと思うが、労働省としては、こういうようなことが随所に起つておるはずだから、当然御承知だと思うが、こういうような場合に対して、労働省としてはいかなる態度でお臨みになつておるのか。言うまでもなく労働省設置法の精神に従えば、こういうような、労働者の基本的な人権が蹂躙されたというよりは、まつたくその生存権さえ奪うような露骨な経営者の圧迫が加えられておるという事実であります。今の労働省の予算ではどうにもならぬとおつしやるかもしれないが、こういうようなものに対して、労働省としてのいろいろのお考え輩があると思うので、この機会に伺つておきたいと思います。
  199. 中西実

    ○中西政府委員 先ほども申しましたように、中小企業におきましては、往々にして、経営者側に労働関係についての、極端に申せば知識がないというようなことから、さらにまた日本の中小企業そのものの弱さからいたしまして、不当労働行為的な事案が起つておりますことは、現に労働委員会あたりに持ち出されます例から見ましても、承知いたしておるのであります。このことにつきましては、結局は労使に対する啓蒙ということと、さらに根本的には中小企業の力をつけるということ以外にはなかろうかと存じております。われわれの要望といたしましては、中央的な労働組合、つまり全国的な労働組合が、こういつた面につきましての教育啓蒙に力を入れていただくことを非常に希望しておるわけでございます。われわれとしましても、出先を通じましてできるだけの啓蒙をいたしたい。このことにつきましては、大体地方の労政事務所あたりは、主たる仕事がこの教育宣伝の仕事でございますので、力を入れてやつておるつもりでございます。何分にも、手の足りないこと、費用の足りないことから、十分には行かないと思いますけれども、この点につきましての配慮は常にいたしておるつもりであります。
  200. 井堀繁雄

    ○井堀委員 こういう問題については、労働省としては、まず十分調査をされていなければならぬと私は思うのです。こういう事柄が発生したことがすぐ私のところに入つてから——日本名産株式会社の資料が私のところに入りましてから十日以上たちます。できごとは昭和二十八年の七月でありますが、当時友誼団体が、あまりのことに見るに見かねて、一時は経営者の法律違反あるいは脅迫罪で告発する準備をし、その書類が私のところに来た。告発にはならなかつたようでありますが、そういうふうに友誼団体がたまりかねて刑事上の手続をとつて保護の道を開いてやろうという動きがあつた。その当時資料が私の手元に入つた。ですから、もう去年の七月当時に労使関係が紛争、争議その他の形になつておりますから、当然労働省には報告があつたものと私は思つてお尋ねしたのです。それから加藤車体株式会社の場合は先ほど重ねて私のところに報告があつたのですが、問題の焦点は、賃金が今保障給として出来高払いをやつておりますが、保障給として熟練工の平均一万一千五百円ですか、それを一万二千円に改めてくれという要求が拒絶された。これは経済要求の一番困難なものとされていますが、あとは何も経済要求らしいものは出ておりません。労働協約の中でユニオン・シヨップ制を要求しておるわけですが、これが拒否された。ユニオン・シヨップ制については、かつて労働省が日本の実情に最も適合したものとして、労働省もしくは労働省の外局から出版しておるものにたびたび出ておりますし、労働省労働組合の教育資料として出されておる公の出版物にもユニオン・シヨツプを推奨しておるようでございます。そういうものが、こういうところで敢然と拒否されている。そういうことでストライキに入つた。ストライキに入つたところが、K友会と称する団体がストライキ破りをやつている。そこで、ストライキをやつているものとストライキ破りをやつたものとの間に乱闘が起きて、何人かのけが人が出たという報告を、電話で党の労働部が受けて、今私のところに連絡に来たわけであります。もしそういう事態が事実だとするならば、まつたく不幸なできごとだと思うわけです。こういうことはやはり労働省としては、適切な措置が事前にとられるのが、労働省設置法の精神ではないかと私は思うが、あるいは労働省としては、そういうものは不可抗力として見送られるつもりであるかどうかを、今後のために伺つておきたいと思います。
  201. 安井謙

    ○安井政府委員 中小企業の問題につきまして、いろいろ御懇切なる御指示お御質問があつたわけでございますが、おつしやるまでもなく、中小企業は日本の国民経済にとつて非常に大事なものでありますし、比率から申しましても相当大きなものであるので、われわれも鋭意気をつけておる次第でございます。しかし何分調査の資料が非常に複雑多岐にわたるのでございまして、若干の資料は今まででも整えておりますが、まだ完全というわけには参らぬ次第でございます。おいおい、二十九年度からさらに御趣旨の線にも沿つて十分な資料を整え、またできるものは当委員会にも提出いたしたいと考えております。  さらに、先ほどから二、三の例をおあげになりましたが、一種の不当労働行為というようなことも決して好ましいことではないと十分承知いたしておりますので、今後とも、先ほど労政局長が申し上げましたような啓蒙活動、あるいは労政事務所等との連絡も十分にいたしまして、かかる不祥事を少しでも減らして行くように努力いたしたいと考えておる次第でございます。
  202. 井堀繁雄

    ○井堀委員 中小企業のこういう事態は、今後頻繁に起つて来るものと、私どもは残念ながら予測しなければならぬと思うのであります。でありますから、できるだけ傷の浅いうちに収めるということのためにも、労働省の積極的な調査活動というものを私は期待してやみません。それから、今私の引例いたしました問題については、ぜひひとつ直接お調べになつて、正確な資料を整えていただいて、その上に立つて、こういうような問題をどういうところでどう処置するかというようなことを、ひとつお聞かせ願いたいと思います。ことに今言うように、傷害事件なんかが起きますると、結果においては司直の手を煩わすことになるのであります。こういうようななまなましい事実については、至急に御調査を願つて、結果をお知らせいただきたいと思います。
  203. 持永義夫

    持永委員長代理 次会は公報をもつてお知らせすることにいたしまして、本日はこれにて散会いたします。     午後四時五十九分散会