○島上善五郎君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま上程になりました
公職選挙法の一部を改正する
法律案に対しまして、
公職選挙法改正
調査に関する特別委員会において修正可決されました案に反対し、
政府原案に賛成の意見を開陳せんとするものであります。(
拍手)
学生の
選挙権行使に関する住所の推定につきましては、在来、一般人と同様に、三箇月以来引続き居住する修学地の寮、下宿にあるものとされまして、その間に何らの矛盾、不都合もなか
つたのであります。しかるところ、昨年六月十八日、自治庁
選挙部長の名によ
つて、学資の
大半を郷里から仕送りを受け、休暇等に帰省する学生の住所は郷里にあるものと認められるとの通達を
全国都道府県
選挙管理委員会あてに発しまして以来、この問題に一大混乱を生じ、
各地の学生諸君の間における猛反対はもとより、言論
機関、学者、識者等の間からも、この通達に対して、学生の政治的人格よりも財産
関係を重く見、旧憲法
時代の家族主義にとらわれた見解であり、現在の学生生活の実態を無視し、学生の
選挙権行使に重大なる制約を加えるものであるとして、こうごうたる非難と反対の声が起
つたのであります。本院の
公職選挙法改正
調査に関する特別委員会においても、この問題を取上げ、
調査検討いたしました結果、昨年九月二十一日の委員会において、自治庁
選挙部長通達はこれを撤回すべしとの
動議を可決いたしたのであります。(
拍手)このような経緯の中に、
政府は
選挙制度
調査会にこの問題につき諮問した結果、先ほど委員長の報告にもありました
通り、昨年末、十二名の出席委員の全会一致の決議をも
つて、現在における学生生活の実態にかんがみ、修学のため寮、寄宿等に居住する学生生徒の住所はその居住地にあるものと推定する、但し郷里を住所として申し出た場合はこの限りでないとの旨を
公職選挙法中に規定し、これらの者の
選挙権行使及び住所の認定を容易ならしめることが適当であると答申したのであります。また最近、水戸、宇都宮両地裁が相次いで、この問題につき、きわめて明快に、
選挙権行使の場合の学生の住所は修学地に認むべきものとの判決を下しておることは、諸君御
承知の
通りであります。(
拍手)
かくして、学生の
選挙権問題に関する輿論はまつたく一致したので、吉田
政府も遂にかぶとを脱ぎ、
選挙制度
調査会の答申の趣旨に基いて、改正
法律案を本国会に提案して参
つたのであります。われわれは、
政府がこのようにその非を認めて参りました以上は、過去のことは深くとがめ立てをせずに、すみやかにこの法律を成立せしめ、一年間にわたる紛糾を解決し、学生
選挙権の所在を明確にせんとしたのであります。しかるに、何たることか、与党として
政府と一心同体であるべき自由党が、
政府提案に反対し、これとは全然逆の修正案を出して参
つたのであります。修正案とは言いまするけれ
ども、これはまつたく正反対であ
つて、白と黒ほど相違する案でございます。(
拍手)この修正案の
提案者は、民法の住所と
選挙法の住所を一致せしめることを表面上の唯一の理由として、輿論の四面楚歌の中に葬り去られた自治庁通達を、おくめんもなく法的に復活せしめんとするものであり、まことに理不尽きわまる横車と言うのほかはありません。(
拍手)
次に、この修正案が理論的にも実際的にもいかに不法不当であるかを明らかにいたしたいと
思います。
まず私が第一に問題としたい点は、
選挙法における住所は
選挙法の
目的に適合するよう解釈さるべきものであるという点であります。言うまでもなく、法律は民衆の利益のために存在すべきものであ
つて、法はそれぞれその
目的に適合するよう、その規定する対象に従い、合理的に解釈されなければなりません。
選挙法の
目的とするところは、憲法に保障された
国民固有の参政権を一人でも多くの
国民に公明かつ適正に行使せしめ、も
つて健全なる民主政治の発達を期するにあり、この
目的に照して
選挙権行使の要件としての住所を
考える場合、第一に、
選挙権を最も有効に行使せしめること、第二に、
選挙権を最も容易に行使せしめること、しかして第三に、住所の認定が最も容易かつ確実になし得ることを
基準とすべきであります。
選挙権を有効に行使するには、候補者の人物や日常の行い、その政党や政見をなるべく多く知ることが必要であります。
選挙権とは、単に一票を投ずるだけではなく、
選挙の運動を受けて、一票を正しく行使する権利であるのであります。(
拍手)もし学生が郷里に帰
つて投票するということになりますれば、この
選挙運動を受ける権利、知る権利を著しく制限され、勢い盲投票とならざるを得ないのであります。また、もし不在者投票ということになりますれば、この弊害はさらに極端であります。第二に、
選挙権を容易に行使するという点になりますれば、問題はさらに重大であります。夏季、冬季のわずかな休暇に帰省する以外、一年の大部分修学地において勉学に励んでいる学生が、大小数多い
選挙の都度一々帰省することが、時間的にも経済的にも許されるかどうかは、議論の余地がないところであります。(
拍手)修学地において投票せしめることこそが最も容易に
選挙権を行使せしめるゆえんであることはきわめて明白であります。しいて郷里において投票せしめようとすることは、大部分の学生に棄権を強要することであり、
選挙権を剥奪するにひとしいことと断ぜざるを得ません。さらに、住所の認定が容易にかつ確実になし得る点から
考えましても、現実に居住している修学地が最も適当であることは言うまでもありません。修正案によるならば、親元との
連絡不十分のために二重に登録される者ができたり、郷里、修学地のどちらにも登録されない者ができたりするであろうことは、自治庁通達以来
全国各地に起りました混乱の事実に徴して明らかであります。(
拍手)しかして、公職
選挙沫二十二条による毎年十一月の基本
選挙人名簿の縦覧、同二十三条の
異議申立ての権利が、学生には事実上与えられないことにもなるのであります。
次に私が言たい点は、修正案
提案者の金科玉条とする民法二十一条の住所の解釈による場合についてであります。この場合の住所すなわち生活の本拠なる解釈も、今日では、旧憲法
時代の
ごとき親元、郷里、本籍地的解釈をとらず、一般生活
関係においてその中心をなす場所、あるいはその者の正常なる社会生活を営む場所と解釈するのが通説とな
つており、従いまして、学生の場合、学資の仕送りを受けていようがいまいが、修学そのものと、それに付随する生活が正常なる社会生活であり、修学地の寮、寄宿舎こそが一般生活
関係において中心をなす場所と解するのが最も妥当であります。(
拍手)
以上によ
つて、自由党の修正案はいかなる角度から見ても、不法不当なものであることが、ほぼ明白に
なつたと
思います。修正案
提案者は、この不法不当を隠蔽せんがため、本人が申し出れば修学地に認めるのだから、結果において
政府原案と大した違いはないと強弁しておりますが、これこそ大きなごまかしであります。一般人の場合、同一市町村の区域に三箇月以上居住することによ
つて生ずる
選挙権を、学生なるがゆえに、何がゆえに
住民登録をして申し出なければならないのか。ここに明らかに一般人と学生との間に不均衡があり、そしてこれは、一般人同様、学生をその財産的、身分的地位においてではなく、完全に独立した政治的人格と見る
公職選挙法の精神に背反するものであります。また、申し出たら必ず修学地に認めるかと言いますと、決してそうではありません。修正案第四項には、申し出た場合必ずそうなる趣旨のものと解釈してはならないとあり、
選挙管理委員会が申出を拒否し得る余地を残しておるのであります。このようにして、修正案によれば、学生の
選挙権は郷里にくぎづけされ、盲投票か、しからずんば棄権を余儀なくされ、実質的には学生の
選挙権を剥奪するにひとしい重大なる結果となることは明らかであり、違憲立法の疑いさえあると言わなければなりません。(
拍手)何がゆえに保守党の諸君は輿論に逆行し、四十万学生諸君の熱烈な要望をしりぞけて、このような横車を押そうとするのか。諸君の中にも、この暴案にまゆをひそめている人が少からずあることを私は知
つております。(
拍手)家に帰つたら、むすこに大反対をされて、私もこの案に反対でありますと、現に自由党の議員が私に述懐しておるのであります。(
拍手)
最後に、私の言いたいことは、この法案に対する
政府の不可解なる態度についてであります。言うまでもなく、
政府は原案
提案者でありまするから、その提案に際しては、与党と十分に
連絡して意見調整をはかり、原案通過に努力しなければならぬことは当然であります。しかるに、
政府は、何らこの努力をすることなく、与党から正反対の修正案を出されて、それに押されて、原案を通過せしめようとする熱意が微塵も見られなか
つたのであります。当の責任者たる自治庁長官の
ごときは、委員会において、
選挙制度
調査会からA案、B案と
二つの答申があ
つたのだから、どちらでもよろしいと、でたらめきわまる
答弁をいたしまして、私に、答申はただ一つであるという事実を追究指摘されまして、
答弁を訂正し、陳謝するというような醜態を演じているのであります。(
拍手)この
政府の態度の底には、輿論に押されて一応修学地とする案を出すには出したが、実際にはその逆のことを
考えてお
つたのではないか、さきの自治庁
選挙部長通達を生かそうとする反動的意図を持つた芝居ではなかつたかと疑われる点が多々あるのであります。私は、この問題は単に学生のみの問題ではないと思う。最も良心的であり、真理と正義に忠実で純真な学生諸君が、都会地で投票すると大部分が革新派に集中する、それを妨げようとする保守党の党利党略から出ているのではないかと思う。(
拍手)学生の参政権を分散せしめ、その行使を制約することは、学生を政治的に去勢することであり、これは
日本の民主政治そのものを去勢し、反動化せしめんとする以外の何ものでもないと断言してさしつかえないと思う。(
拍手)MSAの
援助を受け、再軍備を急ぎ、軍国主義と警察国家を復活せしめようとする反動逆コースと、まさにその軌を同じゆうするものと言わなければなりません。
われわれは、
国民固有の参政権を守り、民主政治の発達を心からこいねがうがゆえに、委員会可決の修正案に絶対反対し、あくまで学生の
選挙権を修学地に認めよと主張してやまないものであります。(
拍手)