○林(信)
委員 私も、
委員長より与えられた
違憲訴訟制度の
改正主要問題点の記載の順序に
従つて意見を申し上げます。
第一、「
最高裁の
違憲審査権について」でありますが、これをわけて一、二とな
つております。一は「
広義の
違憲審査権を有するものとするか。」二は、「いわゆる
狭義の
違憲審査権を有するものとするか。」この問題はこの
委員会の
審査事項のうち、最も重要な問題であると信じます。従いまして深い考慮もいたしてみましたが、
結論は一をとることは適当でないと存じます。二、いわゆる
狭義の
違憲審査権を有するものとすることが正しいものだと信ずる。すなわちいわゆる
広義の
違憲審査権を有するものとする場合におきましては、
憲法が国憲の作用として
三権分立主義をとり、
国会が国権の
最高機関である建前よりいたしまして、
司法権が
立法権を侵犯する場合を生じまするし、かくして理論的に採用しにくいということは要約して申し上げ得ると思う。もちろん実際的な面におきましてはきわめて重大な不都合が予想せらるると存じます。詳論は避けまするが、ことにこの場合に
違憲審査の
内容が事国家的な大問題である
ような場合は侵犯の結果に
反対いたしまする大多数の
国民の中には、当該問題は問題といたしまして、その以外の面におきまして、ひいて
一般法令審査の結果に対して不信の声を放つものの生ずることを保し得ないとするのです。かくては伝統ある
司法の威信を傷つくることの大なるものがあろうかと憂えているからであります。
第一を要約いたしましてその
程度にとどめまして、第二、
上訴制度についてでありますが、一より五までの項目が示されているのでありますが、その一「
上告理由を
現行刑訴の型にするか」二「
上告理由を
現行民訴の型にするか」これはひつくるめましてすべて
現行民訴の型に
統一することが適当であると
考えているものであります。「三、
簡易裁判所事件の
上告審を高裁とするか、
最高裁とするか」という点につきましては
最高裁説をとるものであります。このことは申すまでもなく、
上告審は
当該事件の
審査とともに
法令解釈の
統一を使命とすべきである
関係から、
上告審は単一としてこれを
最高裁とすることが適当であると
考えるのであります。もつとも私は後に述べるところでありますが、
最高裁の
下級裁判所として新たに
東京に
一般上告事件を取扱う
上告裁判所の新設を適当と信じますので、その
事件の性質の
範囲におきましては、
上告審の
最終審は
上告裁判所である場合、いなそれが大
部分であることになるものと信じております。但しこの項において付言いたしておきたいと存じますことは、簡裁の
上告審は
最高裁または
上告裁判所であるといたしましても、
控訴審は
地方裁判所とすることが実際問題、なかんづく
地理的交通関係等よりいたしまして、適当であると信じているものであります。
次に「四、
刑事上訴を
継続審とするか」。これは私はこの項の
言葉に対照いたしますれば
積極説であります。
継続審とすべきものであり、現在の事後審的な
制度は改
むべきものであると
考えているものであります。その
理由は省略いたしまするが、この場合
継続審はこれを
控訴審までとすることが適当であると
考える。申すまでもないことでありまするが、
上告審にまで
継続審的性格を持たせることは不適当であると一応信じております。
次は五であります。「
上告事件につき原最
判所に
適法要件の
審査権を認めるか」これはこの示された
言葉、
適法要件の意義の
内容をいま少しく検討しなければただちに簡明な答申は困難の
ように存じまするが、おおむね不服を申し立てたる
判決をなしたる
裁判所においてかれこれの事後の
審判をするということは、それ
自体適当でないと信じますので、きわめて限られた明らかなる点以外は
原裁判所にその
ような
審査権を認めるべきではない、こう申し上げておきます。
次は第三であります。「
狭義の
違憲審査権を有するものとし且つ
上告理由を
現行民訴の型に
統一した物合に
一、
最高裁の
裁判の
能率化をはかり且つ
国民の
権益を擁護する
具体策」として掲げられまするイないしヘのこの点の問題であります。及び続いて二、三、四の問題であります。いわゆる
最高裁判所の
機構の問題でありますが、この点につきましては、私は
最高裁のほかに
普通事件を
審判する
上告裁判所を新設することを適当と信じておりまするので、
従つてこの項の
意見はいわば
次善策であるのであります。しかし一応その
次善策の
内容はどうあるべきかを述べてみます。
そこでイの
裁判官の
増員数でありますが、私は十五名を適当とするものであります。次はロの「
増員装判官は
認証官とするか」。これはもちろん新たに
増員せられ
たる者の資格を別に
認むべきではないのでありますから、当然
認証官たるべきものであると存じます。次はハの「
調査官、
秘書官を整理するか」。これは
判事数がふえるのだから一層数をふやさなければならぬという
考えもあるいは起り得るかと存じますが、実際問題としてはこれは
裁判官の手が増加いたしたのでありますから、これらの
裁判官が現在の
調査官等の職務を大いに補い得るわけでありますから、ここに数を言明いたしませんが、
裁判官の
増員上大いに減員さるべきであり、しなければならないと
考えます。次に「大
法廷、小
法廷の
構成」でありますが、大
法廷は一個を適当と信じます。そうしてその
構成メンバーは十五名、小
法廷は総員の比率よりいたしましてこれを六つにわかち、
概成メンバーを五名とするのであります。次に「大
法廷、小
法廷の外に
特別法廷を置くか。その
構成及び
権限」というのでありますが、私はその必要は目下のところ認めません。
次に二であります。「
違憲事件の
移送を認めること」、「三、
移送の外に、
最高裁が、
下級審係属事件につき、
憲法解釈の点だけ取上げ
審判することを認めるか」。これはいずれも
積極説であります。その
手続法等についてはもちろんいろいろ必要がありまし
ようが、
結論についてはいずれもこれを認めるものであります。
「四、
最高裁の
違憲判決の
効力につき
規定を設けるか」というのでありますが、私は
消極説であります。なるほど重要な問題でありますから、これを
法律によ
つて明確にすることも必要であるかの
ようにも
考えられますが、同じく
裁判所のなした
判決について、特に
憲法事件なるがゆえにその
規定を設けるということは、現在の私の
考えておりますところではいかがなものであろうか、またこれを設けなくてもおのずからなる対策はおちつくところにおつちくであろう、いなおちついているやに存じているからであります。
第四に移ります。すなわち「
訴訟促進及び
国民の
権益擁護策としての
第一線強化について」であります。
その一は、「陪審
制度をどうするか」というのでありますが、私は陪審
制度そのものには
反対するものではありません。しかしながら、諸般の事情よりいたしまして、この
制度は現在ありまする陪審法の停止の姿、その停止の趣旨をここしばらく尊重いたしたいと
考えておるものであります。
「一、いわゆる
参審員制度をとり入れるか」というのでありますが、この
制度はおそらく
裁判官たる資格を有せざる者を
裁判所のある
程度の
構成員とし
裁判に関与せしめる
制度であると解しまするならば、にわかに賛成し得ないのであります。いな現在においてはさ
ような
制度を必要としないばかりでなく、その弊害をただちに感じ得るのでありまして、私はこれには
反対であります。ただ、その趣旨においてはく
むべきものがあると存じますので、やや趣を異にいたしまするが、後に述べたいと存じまする
裁判諮問
委員制度といつた
ようなものを新設してはどうかと
考えておる次第でありまして、このことについては
最後に付言いたしたいと存じます。
「三、
第一線裁判の
補給源及び養成並びに待避をどうするか」という問題、これはこのこと
自体において非常に重要なことであることはもちろんでありまするが、具体的な案についてはなかなか詳論することがただちには困難の
ように存じますので、項目的に申し上げまするならば、
法曹一元化と言われておりまする
制度を早急に検討いたしまして適当なる
制度としたい、及び
司法研修所の
強化拡充をはかるという
ようなことは抽象的に言い得る次第であります。
なお、
待遇の問題、これも古い問題でありまして、
裁判官を優遇するということであ
つてよろしいと思うのであります。それはただに俸給という金銭上の給付だけにとどまりませず、その他の諸官庁と比較いたしまして見るべきもののない諸般の福利施設といつた
ようなものが十分
考えられていいと思うのであります。たとえば交通上の乗物の問題、あるいは住居の問題、あるいは研究その他に対しまする図書、あるいは保健のための適当な施設、この保健はもちろん健康保持の意味の保健でありますが、こういう
ようなことがこの際新しく取上げられて検討されてしかるべきだと信ずるのであります。
次に第五「
司法行政権及び
規則制定権行使の
方法について」でありますがその一「常置
委員会の
ような会議体に委ねること」このことは、
司法行政権及び規則
制定権はあげて
最高裁の
裁判の特権とすべきものであると存じております。従いまして、
認証官たる
最高裁判所の
裁判官はその責任においてその権能の全きを期さなければならぬと存じますが、実際的には
増員論をも
つていたしますればあまりにも多数の
裁判官と相なりますので、この場合は常任
委員会的なものをつく
つて、常務と見られる
ようなもの、こういう一般的なものについてはそれらの
委員に一任すべきではないかと存じております。もつとも私の持論でありまする
最高裁判所の
裁判官を減員すること、それは一般
普通事件を
上告裁判所にわかつということになりますれば、
裁判官は大いに減員されて参りますので、これらの場合は、私の案では七名でありますが、もはやその中に常任
委員会的なものをつくるの要はないと
考えておるのであります。
その二「記録調製整備の最終責任者及びその
権限を明かにすること」これもなかなかむずかしい問題でありまして、
結論だけを申し上げますが、私は異説ではあるかもしれませんが、
裁判所書記官の最終責任としてその
権限を
制度上明らかにすべきであると
考えます。これが実際問題は少くとも便宜である。ただ責任者の
性格について軽重の論が出て来るかと存じまするが、一応私はこの
ように
考えておる次第であります。
なお別に示されました
最高裁の
裁判官の
任命にあた
つて諮問機関を設けることのいかんの問題でありますが、これは適当な
諮問機関を設くべきであると信じております。
そこで前に付言することを述べておきました
上告裁判所の新設の問題と、
裁判諮問
委員制度新設の問題であります。まず
上告裁判所の新設について一言いたします。その
考え方の趣旨は、
最高裁の
下級裁判所として
上告事件審判のための
上告裁判所を新たに
東京に設置して、
高等裁判所あるいは
地方裁判所が第二審として
審判した
事件のうち、
最高裁に
違憲訟訴
事件を
移送する
方法でわかち、その他の一般
訴訟事件に関するもののみを担任
審判し、その終審
裁判所とする、いわゆる旧制大審院的
性格を有するもので中二階説と言われるものであります。この場合
最高裁の
裁判宜の数を七名に減員し、小
法廷をつくらない。なお減員となるはずの
裁判官は任意の依願退職を慫慂し、不可能の場合は官制変更の一時的臨時立法により全員退職の措置をと
つて、あらためて内閣総理大臣において
任命するのほかはないものと存じております。
二、
機構の点であります。
裁判官の数を全員三十名とし、大
法廷一と小
法廷六といたします。大
法廷の
構成員は十一名、その
構成方法は小
法廷よりその都度互選して二名ずつの代表者を選ぶことといたします。この場合
長官の所属する小
法廷は
長官一名をも
つてし、他を選ばないとします。互選の
方法は必ずしも限定いたしませんが、いわゆる順位をあらかじめ定めておく、あるいはその都度その
事件の堪能なるものと信ずる者の希望を入れ、あるいは順位等による場合にも、その人の手持ち
事件の過多であるとかあるいは過少であるとか、その数の多少の
関係等も
考えて、いろいろに互選
方法は定められてよろしいかと存じております。次にその所管でありますが、これは判例変更を要する
事件のみであります。次いで小
法廷に移りますが、小
法廷の
構成員を五名といたします。その所管は大
法廷以外の
事件であります。
三、
上告裁判所の
裁判官は
認証官とし、
秘書官を必要としないが、全体的調査補助者として三名ないし五名
程度の
調査官を置くことが適当であり、必要であると存じております。
井伊氏の所論にありました
ような
調査部という
ようなものは、実際においては形としてできて来るものであろうと
考えております。
四、もちろん
機構ことに
民事、
刑事、
行政事件の分担上
事件の分配またはその比率は、
事件の
性格的なものあるいは数等々の詳細につきましては、
裁判官会議に基いて万全の規則を定
むべきであると
考えております。
この際やや異説であるかの
ような
上告裁判所新設についての私の
考え方を一言いたしますれば、第一は
上告事件の
審判上
裁判官の
増員を必要とする点は、単なる
増員論の基礎的
考え方と別にかわりないと存じますが、
最高裁の
憲法上の特殊地位を明確にするためには、別のものとしての
上告審判
裁判所をつくることはやむを得ないであろうと
考えたからであります。そうして従来
最高裁判所の持
つておりまする
司法行政上の責任者である立場を思いまするとき、あまりに
最高裁判所の
裁判官を多数にすることは、この点について煩にたえないのではないか、これらの点を避ける
理由も
考え合せてのものであります。
第二、これは
法律理論上の問題ではなくて、むしろ政治的な
考え方でありますが、
最高裁の現在の
機構改革の
反対論者に対しましても、単なる
増員論よりは、この種の
裁判所の新設の方が、精神的といいますか、感情的と申しますか、少くともこの間の
考え方について一部緩和し得るのではないかという
ようなことも、大きな
理由ではありませんが、
考え合せたのであります。
第三に、同じく中二階説といわれる
東京高裁に
上告部を設ける施策よりも、私は新たに
上告裁判所を新設することの方がすつきりしたものになると存じております。もちろん高裁に、
東京高裁とその他の高裁とに差等を認めてはいかぬという
ような
反対論等もありますが、これらの議論は新たに
上告裁判所を設けることによ
つておのずから終息するところであります。さらにまた一面
上告事件の
最高の
裁判所、一般
訴訟事件の
最高の
裁判所たる
上告裁判所をつくることにおいて、人事の面において
裁判官の登竜門たる
性格を明確にする便宜があると信じます。
第四に、四審
制度となるとの反論がある点は、私もかなり
考えてみたのであります。もつとも四審
制度がそれ
自体悪いというものではないと存じますけれども、少くとも各国の
構成、日本における長い三審
制度からいたしますれば急変革であり、異例の
制度となると言われても、これは一応甘受しなければならないと存じますが、しかし私の言う
上告裁判所は、重ねて申し上げるまでもなく、所管
事件の
最終審であり、あくまで三審
制度であると言い得ると思うのであります。もつとも
上告裁判所の
裁判になお
憲法違反があるとの
理由で
最高裁に上訴することを拒むことはなし得ないと存じますが、しかしながらこれは実際問題として
考えますと、ほとんど言うに足らざる、数にも当らない稀有な事例ではないかと想像します。従いましてか
ような稀有な事例によ
つて四
審判度を現わすという
ようなことによ
つて、大きな
制度そのものを
考える場合について特にこれを取上げる必要はないのではないか、
制度そのものを左右するほどの
理由にはならないものだろうと
考えた次第であります。
最後に
裁判諮問
委員制度新設案の自説の要綱を申し上げます。第一は、
民事、
刑事、
行政訴訟事件の第一審、第二審
裁判の
促進と、正確を期するため
地方裁判所及び同支部単位に若干名の諮問
委員を選任する。第二、
委員は常置
委員として、あらかじめその必要を予定せられる専門的知識を有する学識経験者中より、毎年所属
裁判所長官においてその承諾を得て選任するほか、場合により随時その都度残任期間中を選任することができる。第三
委員の任期は一年とし、再選任することを妨げない。第四、
裁判官は必要に応じ適当な
方法で一名または数人の
委員の
意見を求めることができるが、特に重要
事件については必ず
意見を求むることが望ましい。
第五、
裁判官は
委員の
意見に拘束せらるるものではない。
第六、
委員は善意の協力と良心的行動以外に何らその義務を強制せらるることがない。
第七、
委員はすべて無報酬である。
以上をもちまして私見を終ります。