○
斎藤(三)
政府委員 刑法の一部を
改正する
法律案並びに
執行猶予者保護観察法案の
逐条にわたりまして、御
説明を申し上げ、あわせて昨年十二月一日から二度目の
執行猶予に伴う
保護観察が実施に相なりましたので、その結果等について、御報告申し上げて御参考に供したいと
考えます。
刑法の一部を
改正する
法律案でございますが、「第一条第二項中「
日本船舶」の下に「又
ハ日本航空機」を加える。」この点でございます。
現行刑法によりますと、
国外にある
日本航空機内で
外国人が
犯罪を犯した場合には、内乱、外患及びある種の
偽造罪等を除いてはこれを罰し得ないこととな
つており、また
日本人が罪を犯した場合にも、暴行、脅迫、略取、誘拐、賭博、阿片、麻薬に関する
罪等は処罰ができないことと相な
つております。しかるに先般
日本航空が
国外航空を開始いたしましたので、
日本の
航空機を
日本の
船舶と同様に
取扱つて、以上のような不
都合を避けようとするのがこの
改正の
目的でございます。この
改正は
属地主義の
原則によ
つた改正でございまして、
日本の
船舶を
日本の
領土の
延長と
考えておりまする
現行の
建前と同じ観点から、
日本の
航空機を
日本領土の
延長と見て、
日本航空機内の行為について全面的に
わが国の
刑罰法規を適用するものといたしておるのでございます。
わが国におきましては、
刑法改正予備草案及び
刑法改正仮案がすでに
刑法の第一条第二項に「
航空機」を追加すべきものといたしており、
外国の立法の中にも同様の
明文規定を置いておるものが少くなく、この
改正は
国際刑法の
原則に反するものではないと存じております。「
日本航空機」と申しておりますのは、
航空法によりまして
わが国で登録された
航空機をさしておるのでございまして、
航空機の機長であるとかあるいは
乗組員等の国籍とは
関係がないと
考えております。この
改正に伴いまして
附則の第三項で、この
改正によりまする
日本航空機内の
犯罪についての
土地管轄についても、
日本船舶の場合と同様の特例を設けることとして
刑事訴訟法の一部
改正案が出されておるのでございます。
次に第二十五条以下の点でございますが、これは初度目の
執行猶予者にも必要のある場合、
裁判所が
保護観察をつけることができるようにしようという
考えによる一連の
改正でございます。まず第二十五条第二項但書中「第二十五条ノ
二ノ保護観察二
付セラレ」とございますのを「第二十五条ノ二第一項ノ
規定ニ依
リ保護観察二
付セラレ」に改める点でございますが、今回の
改正案では第二十五条ノニに第二項及び第三項として
保護観察の仮
解除に関する
規定が設けられておりますので、
条文の
体裁、
整理上かような
改正を
考えたのでございます。
次に第二十五条ノ三、すなわち「
前条第一項ノ場合
ニ於テハ猶予ノ
期間中
保護観察ニ付スルコトヲ得前条第二項ノ場合
ニ於テハ猶予ノ
期間中
保護観察ニ付ス」とございます。本項は第十六
国会に提案いたしました
政府原案と形式上はまつたく同一でございます。すなわち、本項の前段を追加し、初度目の
執行猶予についても
裁判所の裁量により
保護観察を付し得るものとしようとしているのでございます。しかしながら後に述べますように、
保護観察の
内容、その
遵守事項及びその違背を理由とする
執行猶予の
取消し等についていろいろな
改正を加えているほか、
観察の仮
解除の
制度を導入いたしまして、実質的には第十六
国会の
政府原案とまつたく面目を異にしていると
考えております。なお第十六
国会で問題になりました「
保護観察ニ付テハ別ニ法律ヲ
以テ之ヲ定ム」という
規定は、今回
単行法で
執行猶予者の
保護観察を提案いたしておりますので、これは剛
つております。
次に「
保護観察ハ行政官庁ノ処分ヲ
以テ之ヲ仮二
解除スルコトヲ得」というのが第二項に明らかにな
つております。これは前回非常に貴重な御意見を伺いまして、いろいろと研究いたしました結果、
保護観察の性格からいいまして、
保護観察に付された後、
保護観察を行う必要がないと認められるような状況に
なつた場合は、この仮
解除を行い得るようにするのが妥当である、こういうふうに
考えましたので、新たにこれを入れた次第でございます。
保護観察の仮
解除は、あたかも仮出獄の場合に刑の執行をとめるのと同様に、
保護観察におきまする
指導監督、補導援護の措置を行わないということにするものでございまして、
保護観察に付するという
裁判所の言い渡しの効果を消減させようとするのではありません。従いまして仮
解除を仮出獄と同じように
行政官庁の処分によるものということにいたした次第でございます。
行政官庁といたしましては、地方更生保護
委員会が現在仮出獄の権限を持
つております。しかも地方更生保護
委員会が実際に
保護観察を担当する
保護観察所を監督いたしまする
立場にございますので、地方更生保護
委員会が最も適当である、かように
考えて、後に述べます
執行猶予者保護観察法案において、このことを明らかにいたしておるのでございます。
次に第三項でございますが、
保護観察をかりに
解除された場合の効果を
規定いたしております。
保護観察の仮
解除は、
保護観察の実際の実施面をかりに
解除するのでございますが、
観察におきまする
指導監督及び補導援護の措置を行わない以上、その
期間中に犯した行為につきまして、現に
保護観察の措置を受けておる者と不利益の点を同様にすることは妥当でない、かように
考えまして、かような不利益を除去しようとしたわけでございます。この項の
規定の結果、
保護観察の仮
解除を受けました者は、その仮
解除の処分を受けた日から仮
解除の取消しの処分があるまで、処分がなくして
執行猶予期間が終れば、これはすでに
執行猶予の
期間が経過いたしまして、まつたくこの判決を受けなかつたと同様のことになることは申すまでもございませんが、その
期間中は再犯を犯しましても重ねて
執行猶予を受けることが可能になります。またその
期間中
遵守事項に違背いたしましても、その
遵守事項に違背のゆえをも
つて執行猶予は取消すことができないという結果に、なります。なおこの
規定を置きますると、現在の二度目の
執行猶予に伴いまして必要的保護観審を受けられる者も同様の
規定になりまするので、現在二度目の
執行猶予に伴
つて保護観察を受けている人々の成績が良好でありまして、その必要がなくな
つて本法の適用を受けますと、三度目の
執行猶予も可能だ、かような結果に相なるものと
考えております。
次は第二十六条ノ二第二号でございますが、これは「第二十五条ノ二第一項ノ
規定二依リ」すなわち
執行猶予に伴
つて保護観察に付せられている者が、
遵守事項の違背による取消しになる場合、
現行法では「
遵守事項ヲ遵守セザリシトキ」と相な
つておりますものに附加いたしまして「其情状重キトキ」ということにいたしまして、片々たる形式的な違背では
法律上も適用できない、かようにいたした次第であります。なお
遵守事項につきましては
執行猶予保護観察法案について申し上げたいと存じます。
次は
附則でございまするが、
附則の第一項は施行期日に関する
規定でございまして、
保護観察に関する
改正規定の施行につきましては若干の準備を要しまするので、八月三十一日までの間に実施をするということにいたし、
航空機内の
犯罪の処罰に関しましては公布の日から施行する、かようにいたしたのでございます。
次に第二項は、
執行猶予に
保護観察を結びつけることは、刑の変更ではなくて
執行猶予の態様に変更を加えるものにすぎないのでありまして、このような
規定がありませんと、本法施行後に犯された罪につきましては、初度目の場合の
執行猶予についても
保護観察を付し得ることに相なります。
保護観察は
本人の更正をはかるのが
目的でございますが、部分的には
本人の自由を制限する場合がございますので、この
規定を置きまして、そして本法施行前は初度目の場合は
保護観察を付し得ないということにいたし、なお例外といたしまして、この
法律の施行前と施行後とに罪を犯し、併合罪として一個の刑で処断される場合は、刑の分割ができませんので、この場合には
保護観察を付し得る、かように例外
規定を置いたわけであります。
次は、
刑事訴訟法の
改正点でありますが、先ほど申しましたように、これは
日本航空機内の
犯罪についての特例を設けた次第であります。
次に、
執行猶予者保護観察法案について申し上げます。この
法案につきましては、
犯罪者予防変更等法施行の際の御
議論も拝聴いたしておりますし、また第十六
国会の御
議論も拝聴いたしておりますので、十分と検討いたしまして立案をいたしたつもりでございます。
第一条におきましてはこの
法律の
目的と
趣旨を明らかにし、この
法律が
刑法第二十五条の二の第一項によ
つて保護観察に付せられるその
保護観察の
内容を
規定する
法律であるということと、この
保護観察の
目的が決して懲罰的に
本人の自由を制限するものではなくして、
本人の更生を助長するためのものであるということを明らかにいたした次第であります。
第二条は、
保護観察の方法と運用の基準でございまして、
犯罪者予防更生法におきましてもほぼ同種の
規定がございますが、この
条文におきましては、
執行猶予に伴う
保護観察の
対象者は、すでに矯正施設に収容された仮出獄者や問題少年と違うものであ
つて、多くの場合、一家の経済的な支柱とな
つて社会的生活を営む者が多いと
考えられますので、職業等についても十分留意をして、みだりにその社会的活動を制肘することのないようなふうに附加いたしてあります。
第三条は
保護観察をつかさどる機関でございまして、各府県に設けられておる
保護観察所所在地に住んでおる人はその
観察所の管轄下にある、こういう管轄に関する
規定であります。
次に第四条は、
保護観察開始前の環境調整に関する件でございまして、昨年十二月以来二度目の
執行猶予に伴う
保護観察の実施の
経験に徴しましても、
保護観察に付する言い渡しがございまして、ただちに身柄が釈放になりますが、しかしながら確定までに相当
期間がございますので、その間ほんとうに行きどころのないという人は、
保護観察の
対象にもなりませんし、
保護観察が円滑に行われないというような事例もございますので、その間
本人の申出があつた場合には、
保護観察所において所要の環境調整をはかり得る、こういう
規定でございます。結局未確定のブランクの間を埋めたい、かような
考えであります。
次に第五条でありまして、これは
保護観察の目標となるような
遵守事項を
規定いたした点でございます。この
遵守事項につきましては、現在の
犯罪者予防更生法によりまする二度目の
執行猶予の場合と同じように、一般的な法定
遵守事項だけに限りまして、特別な
遵守事項は定めないということにいたしてございます。これは特別な
遵守事項は
裁判所が定めるということが
考えられておりますが、
現行の
刑事訴訟法の手続のもとにおいては種々の困難が予想されますのと、従来の
保護観察の
経験からいたしまして、
保護観察を行う者の
指導監督の
やり方によりましては、さような一般的
遵守事項だけでも効果を収め得るではない、かように
考えた次第であります。その
内容につきましては、これまでいろいろと御覧を拝聴いたした点も考慮いたしまして、またその他いろいろな点を考慮たしまして、現在の二度目の場合と相当変更いたしております。大体
考えましたのは、
保護観察を実施するためにどうしてもはからなければならない
本人と
観察を行うものの機関の連絡を断たないようにするという点が一点、それから
本人が更生に向
つて進むために目標を与えるという点で、善行を保持するという点に限
つて、従来ありました生業に従事すること、あるいは
犯罪性がある者または素行不良の者と交際しないことという点を廃止いたし、なお住居を移転し、または長期の旅行をするときはあらかじめ許可を得ることにな
つておりましたが、その点を改めまして、長期の旅行という漠然としたことを廃止いたしまして、一箇月以上の旅行というふうに、
期間を明確にし、従来のあらかじめ許可を得ることとな
つておりましたのを、届け出ることに改めたのでございます。
犯罪性のある者または素行不良の者と交際しないということにつきましては、仮出獄者の場合、あるいは問題少年の場合、元の不良仲間あるいは刑務所で一緒に
なつた者と交際しないということを
遵守事項につけることが必要であると存じまして、
犯罪者予防更生法の方は
改正いたしませんで、この
法案だけにおいてかような
改正をいたした次第でございます。
次に、補導援護に関する第六条の
規定でございます。保観
観察の
目的は、
本人の更生をはかることにあるのでありまして、決して警察監視であ
つてはならないと存じております。保観
観察を大別いたしますと、消極面と積極面との両面が
考えられます。消極面といたしましては、
本人が自分の自由を無分別に用いて
犯罪に陥るということを防ぐというふうな制限的な
手段でありますが、保観
観察の本来の
目的は、さような消極面でなくして、積極面において
本人に必要な補導と援護を与え、そして
本人の更正をはかるということが重点であろうと存じまして、第六条においてそれについての
規定を書いた次第でございます。その
内容といたしましては、
本人の置かれている条件によりましていろいろと違うことは当然でございますが、主として
考えられてます点を例示としてあげまして、就職を援助すること、職業を補導すること、医療、宿所等を得ることを援助すること、還境を調整すること、その他所要の助言、連絡を
規定いたした次第でございます。そしてその方法としては、まず第一段階においては、生活保護法あるいは職業安定法等がございまして、国民が無産別平等にかような社会保障の恩恵を受ける
建前にな
つておりますので、
対象者の同様に、まずさような方面の援助を得るということに、
保護観察をつかさどる者が行うように努力する、それから第二項において、さような公共の衛生福祉施設で援助が得られない、しかも
本人の置かれている
立場が悪いために
本人のが生更妨げられる、あるいは再犯を犯すおそれがある場合には、
観察所がみずからの
予算において
保護観察盲あるいは保護司をも
つて、
本人の日用品あるいは着物を与える、あるいは食事を与える、あるいは医者にかける、こういうことを第二項において
規定いたしているのでございます。これは
犯罪者予防更生法の第四十条の第一項、第二項とほぼ同様の
規定でございます。
第七条は
指導監督でありまして、
保護観察におきます消極面を第七条において
規定しているのであります。しかしながらこの消極面でございまするが、官憲の一方的な監視というのとはまつたく異なりまして、
保護観察を行う者と
保護観察を受ける者、
本人との相互間の人的
信頼の
関係に成り立つものであるということを
規定して、さような
考え方からこの
規定ができておるのでございます。この第七条においては、
本人にまず真人間にな
つて更生しようという
気持を起させる、それを高めるということに努める、そうして
本人とよく話し合
つて、
本人が善行を保持するという
遵守事項のわくの中で、その性格なり環境なり、あるいは問題と
なつた
犯罪の原因、動機等から見て、違反のおそれが最も多いということを
観察を行う者はよく選び出して、そしてこれを
本人に納得させ、
本人に自覚させて、そして
本人もそれを守るという
気持にさせて、その
気持からはずれることのないように適切な指示を与える、こういうことにいたすべきであると
考えまして、かような
規定を置いた次第であります。なおその指示事項はもちろん
遵守事項でございませんので、その指示事項に反したからとい
つて執行猶予を取消されることはないわけであります。
第八条は
保護観察の仮
解除であります。仮
解除につきましては、先ほど申し上げましたように、
刑法の一部を
改正する
法律案におきまして、
行政官庁がするものであるということ、それからその仮
解除に
なつた場合の
法律上の効果等の最も重要な点を
刑法において
規定し、本条においてはその行う
期間や手続を時らかにした次第であります。なおこの仮
解除を取消すというような決定に対しましては、
関係者から不服のある場合には、中央更生保護審査会に審査を請求することができる、かような
規定を設けまして、この慎重を期しておる次第でございます。
第九条は、
遵守事項違反による取消しの場合に検察官に
観察所長が申し出る、その申出に基いて検察官から
裁判所に請求するという
現行の
犯罪者予防更生法の四十六条の
規定をこちらに移した次第であります。
第十条は呼出、引致に関する
規定でありまして、これも
現行法の
規定の
趣旨によ
つてつくられておるのであります。
第十一条は留置の
規定でありまして、これも
現行法において
遵守事項違反による取消しの場合には、身柄が社会にありますので、身柄を拘束する必要がある場合もございますので、それについての
規定がございます。それをこちらに移した次第であります。
第十二条は、先ほど申し上げましたような
保護観察の仮
解除の取消しということについて不服のある者が中央更生保護審査会に審査を請求する、それについての
規定でございます。
第十三条はその他の権限でございまして、第一項は地方
委員会、
保護観察所がこの
保護観察を行うについてのいろいろな手続上、
犯罪者予防更生法と同じような権限を行う必要がある場合がございますので、それらについてその権限を与えようとしたものでございます。第二項は、これは再度の呼び出しに正当な理由がなくて応じない場合、そういう場合に過料に処せられる
規定でございます。それから六十条の費用徴収に関する
現行規定をここに移した次第でございます。第三項は審査会、地方
委員会、
保護観察所の
職員または
職員たりし者が、この
保護観察に関する
法律によ
つて職務を
行つて他人の秘密を知つた、その秘密の保持についての
規定でございます。
附則の第一項は施行の期日でございまして、
刑法の
保護観察に関する
規定の施行の期日と同じ日から施行するというふうにいたしております。第二項は経過
規定でございまして、現在二度目の
執行猶予は
犯罪者予防更生法によ
つて昨年十二月一日から
保護観察を受けておりますが、この
法律が施行に相なりますと、この
法律によ
つて保護観察を受けることになりますので、元の
法律よ
つてなされたいろいろの手続、処分等それぞれこの
法律の相当
規定によ
つて行われたものとみなす必要がございますので、かような
規定を置いた次第でございます。第三項は
犯罪者予防更生法の
改正点でございまして、以上のような手続上所要の
改正をいたそうとするものでございます。次に第四項は更生緊急保護法の
改正でございまして、更生緊急保護法は、
保護観察の
対象にならないような満期で釈放に
なつた人、あるいは無条件の
執行猶予で釈放された人、これが他の刑事上の手続で身柄を拘束されてお
つて、釈放された直後
本人からの申出があれば、国がその更生について保護を与えることができる
法律でございまして、実際満期で出た人が
観察所に参りまして、それで行くところがなければ保護会にこれを収容してやるとか、あるいは帰る汽車賃がない場合には帰りの汽車賃を与えるとか、こういうことをいたしておりますが、その更生緊急保護法を
改正して、そうして
執行猶予の言い渡しを受けて、確定前の人についてさような保護を与えるようなことのできるような
改正をいたそうとするものでございます。第五項、刑事補償法の
規定も、この
法律案によ
つて身柄の拘束を受けた者に対して、
現行法と同じように刑事補償の請求ができるようにいたそうとするものでございます。
以上、はなはだ簡単でございましたが、両
法案についての
逐条の
説明をいたした次第でございます。
なお昨年十二月一日から二度目の
執行猶予に伴う
保護観察を実施いたしておりますが、その結果を概略御報告申し上げます。十二月中に二度目の
執行猶予になり、
保護観察に付されたものが五十四件ございます。罪名は窃盗が一番多くて四十一件、詐欺罪が二件、横領が四件、傷害が一件、臓物罪が三件、覚せい剤取締法違反が一件、麻薬取締法違反が一件、その他一件、かようにな
つております。一月はお手元に差上げました資料が
ちよつと誤りがあるようでございまして、百三十一件とな
つておりますが、百二十九件が正しい思います。これは先ほど原本が参
つて見まして気がつきましたのですが、
ちよつと間違
つておりました。もし差上げてないとすればさつそく差上げます。一月が百二十九件、二月が昨日
事務の間で一応できたようでありまして百五十件ぐらいで、だんだんふえて参
つております。なお私
どもこの
法案の立案につきましても責任がございますので、実は各庁から毎月事件についての報告を聴取いたしておりまして、その点どういうふうに行われておるか、二、三御報告を申し上げたいと存じます。
この報告は当初
保護観察の開始が円滑に行われたかどうか、すなわちそのために
裁判所との打合せで、
裁判所から言い渡しがありますとすぐに通知をいただくことにしております。それから確定をいたしますると、検察庁から確定の通知をいただくことにいたしております。なお最高
裁判所の
規則等におきまして、
裁判所が言い渡しをする際には
保護観察の
趣旨等について説示をいたしていただくことにしております。さらにこちら側からは、裁判官から御要求があれば
保護観察の成績について報告を差上げるということにいたしておりまするが、さような
裁判所からの通知なり検察庁からの確定の通知なり、あるいは
裁判所の説示がどのように行われておるかというような点、それから
保護観察を開始するについて
観察所がどういうふうな注意をいたしたかというような点について、各事件について報告を求めております。この通知や説示等については
裁判所もいろいろと御苦心くださいまして、各ブロックごとに会同を開いて、そうして中央から出かけて今度の新しい
制度の
趣旨についていろいろと御
説明を願い、また全
国会同においては私
どもも席にまかり出まして御説を
伺つておるのでありますが、何しろ各簡易
裁判所まで行われるのでありまして、必ずしも通知や説示等が当初は十分でなかつた点もございますが、各
観察所におきましては、つとめて
裁判所、検察庁とこの事件の取扱いについて
事務連絡会を開きまして漸次改善されております。この報告はさような点について報告を徴しておるのでございますが、
観察所におきましてさらにつつ込んだ詳細な報告を寄せておりますので、私
どもこの機会に、御報告をさせていただきたい数件を申し上げて御参考に供したいと思います。
第一の例は、これは本年の一月東京の簡易
裁判所の事件でございまして、二十五才の男でございます。氏名は省略させていただきます。窃盗罪で懲役一年、
執行猶予五年の言い渡しを受けて、そうして確定後ただちに両親が付添いで
観察所に出頭をいたしました。
観察官が
本人なり両親と会
つていろいろ
事情を聴取いたしてみますると、相当の家庭でございまして
本人も法政大学まで入
つたのでございますが、戦時中、学徒動員で工場に
行つている際に爆風のために転倒いたしまして、その後酒を飲むと手近なものを何でもとるというようなことが起
つて二度
犯罪を犯した。そうして二度目に
保護観察に付されて
観察所に参つた、こういうことがわかりましたので、
観察所においては千葉県国府台にありまする国立の精神衛生研究所と緊密な連絡をと
つておりますので、そこに依頼をして現在診断を受けておる次第であります。
第二の例は静岡県の清水の簡易
裁判所の事件でございまして、本年一月十二日に二十一才の男の工員でございますが、窃盗一年、四年間刑の
執行猶予でございます。確定の前の日に母親と一緒に
観察所に出頭いたしております。そうしてその取調べの
事情調査の結果は、母親は助産婦さんでいられまして、実兄三人は生業について、それぞれの職についておりました。弟一人も中学一年生でございまして、生活は富裕というほどではございませんが、生活の保護を受けるということはございませんでしたと言うておるのでございます。いろいろ
事情を聞いてみますると、
本人はもともと非常に温良な青年であ
つたのでありますし、母親も正しい人でありまして保護能力においても欠けるところはないと思われますが、昨年の九月窃盗罪で執行予猶の判決を受けて、その二箇月後にさらに窃盗罪を犯した、そうして今度の二度目の
執行猶予にあつた、こういう事案でありまして、だんだん聞いてみまするとヒロポンを好んで打
つておる、その
関係で悪友もあり、仲間もあ
つて、そうしてかような
犯罪を犯したということがわかりましたので、その近隣のしつかりした保護司さんを指名いたしまして、そうして母親とよく話し合
つて一緒にその青年を善導しようということにして、
本人にもヒロポンを中止させ、それからその仲間と接触を避けるように話をして、
本人もそれを承諾して現在就職をあつせん中で、これもうまく行くのではないか、こういうふうに思
つております。
第三の例は宇都宮の簡易
裁判所で窃盗一年、
執行猶予四年の二十六歳の保険外交員の事件でございます。検察庁からの確定通知が遅れまして一月九日に確定いたしたのでございますが、一月二十六日母親と一緒に宇都宮の
保護観察所に出頭いたしました。
事情を聞いてみますと、父親は古物商のかたわら保険会社に出ておる。おそらくこれは保険の代理店をいたしておるのではないかと思いますというようなことでございますが、資産は数百万円あり、経済的には不自由はない。
犯罪は二度とも、今回の二度目の
執行猶予も最初の
執行猶予もやはり酒を飲んで酩酊の上や
つたのだということであります。
裁判所からも参考意見として酒を飲まないように指導してくれということでございました。
本人にも母親にもよく
事情を話し、そうして適当な保護司をつけてその方向に指導しておる、こういう問題でございます。
最後の例は非常に詳細な報告でございまして、一月六日に京都の簡易
裁判所で確定した事件でありましたが、確定前に
裁判所から通知がございましたので、適当と思われる保護司をあらかじめ指定しておきましたので、確定の日の午前十一時ごろに、保護司と一緒に参つたそうでございます。やせ型の、風采も粗野な人で、最初伺つたときは非常に警戒的な面持であつた。それから所長が、そういう
趣旨のものではないということをよく話し、さらに別室で保護司と
本人と
観察官といろいろと
事情を聞いたり話をしたりしているうちに一
本人もだんだんと安心をしてやわらぎが見られ、先生々々、こういうようなことを言うように
なつた。保護司もこれなら自分も保護しがいがいがあるということで、保護司がその後非常に熱心にや
つたのでございます。その最初の調査によりまして、
本人は本来ガラスふきの職工なんでございますが、前回
執行猶予に
なつたために職を失い、それから
本人も友だちもたくさんあ
つたのだけれ
ども、非常に萎縮しちやいまして、友だちともつき合わないということで経済的にも因
つておる。それから奥さんが肋膜で弱
つておる。子供は四人ある。それで急いで適当な援護をやる必要があるというので、保護司とよく打合せて
保護観察を開始いたしましたのでございます。保護司がその翌日参
つてみますると、倉庫の一部分を仕切つた、火の気のない寒々としたところに、病人の奥さんと子供四人おつたということで、いろいろ話をし、
保護観察が決して
本人の不ためのものでないということをこんくとよく話をしたところ、奥さんが自分は実は先夫が戦争のために死んで、そうして子供一人残された。そのため連れ子をして現在の夫のところに来た。現在の夫と二人子供ができたのであるが、最近主人が酒を飲んで酔つぱらうと、かわいい四つになる子供の首を締めるというようなこともあ
つて、自分もほんとうにこれではからだもよくならないし、いつそのこともう別れようか、四人の子供を二人ずつわけて別れようかと思うけれ
ども、保護司の先生どうしたらようかろうかと相談をして来た。それで保護司は自分はこのうちを建て直するという
仕事でも
つて来ている、あなたがそういう思い切つたことをしても、結果は決してよくならないのではないか、むしろあなたがいて、一緒にな
つて主人を助けてくれて初めて主人も更生できるのじやないか、ひとつ思い返してくれ。それから主人に対しても、見ず知らずの人の前で奥さんがああ言うのだから、おそらくはんどうでしよう、あなたもひとつ酒をあまり飲まないようにして、まじめにひとつ職についてくれということで、村役場の厚生課の主任に生活扶助の手続をと
つてもらうようにいたしまして、幸いにその後一万二千円くらいの、ガラス工場で収入を得るようにな
つて、どうにかこの事件も片づきそうだ、こういうような御報告をいたして参りました。その他報告はまだ詳細な点はございますが、開始以来まだ三箇月でございまして、的確な結果は申し上げることはできませんが、できるだけ所期の
目的に沿うように努力して行くという
気持でおります。