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1954-03-17 第19回国会 衆議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月十七日(水曜日)     午後二時一分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君    理事 田嶋 好文君 理事 高橋 禎一君    理事 古屋 貞雄君       押谷 富三君    林  信雄君       牧野 寛索君    猪俣 浩三君       神近 市子君    木下  郁君       岡田 春夫君  出席政府委員         検     事         (刑事局長)  井本 臺吉君         法務事務官         (保護局長)  齋藤 三郎君  委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 三月十七日  委員中村梅吉君辞任につき、その補欠として池  田正之輔君が議長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 三月十五日  交通事件即決裁判手続法案内閣提出第二七  号)(参議院送付) 同月十六日  広島法務局谷登記所存置に関する請願(佐竹  新市君紹介)(第三五一五号)  岡山地方法務局加茂出張所存置に関する請願  (大村清一紹介)(第三六二号) の審査を本委員会に付託された。 同月十三日  山口地方法務局奈古出張所存続に関する陳情書  (第  一七〇三号)  広島地方法務局羽和泉出張所存続に関する陳情  書  (第一七〇四号)  高知地方法務局梼原出張所存続に関する陳情書  (第一七〇  五号)  大分地方法務局長洲出張所存続に関する陳情書  (第  一七〇六号) 同月十五日  旭川市所在の司法関係官余総合建設等に関  する陳情書(第一八  二八号)  戦争犯罪人全面的釈放抑留同胞引揚完了  促進に関する陳情書  (  第一九〇四号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  犯罪者予防更生法の一部を改正する法律案(内  閣提出第六三号)  検察行政に関する件     ―――――――――――――
  2. 小林錡

    小林委員長 これより会議を開きます。  犯罪者予防更生法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。質疑の通告がありますからこれを許します。押谷富三君。
  3. 押谷富三

    押谷委員 犯罪者予防更生法の一部を改正する法律案関係で三、三の事実について確かめたいと存じます。  日本独立をいたしましてから相当長い期間を経過いたしておるのでありますが、この独立、自由、平和、こういうような喜びから取残されたものに巣鴨プリズン戦犯者として服役をいたしておる人があるのであります。この受刑者服役者が全面的に釈放されることを望んでおるのは、日本国民のもう心からなる念願である。また受刑者方面からも全面的釈放を一日千秋の思いで待つておるのであります。それが実現しません今日においては、あいはる政治の貧困を嘆き、当局の無力を憤つておる向きもあるぐらいであります。しかも当局は非常に御努力を払われ、いろいろ政治的な折衝を遂げられておつてもまだ全面的釈放が実現しないのは、今日の状況では全面的釈放がほとんど困難ではないかというような見通しが持てるのでありますが、こうなりますと勢い個別的な釈放を望まなければならぬと思うのであります。こういうような方針でやつてもらいたいというのも、巣鴨ブリズン戦犯者の多くの意見のように承つておるのであります。個別的な釈放を求める場合におきましては、それぞれの関係書面で審理をしてもらうだけの資料をそろえて送らなければならぬのでありますが、こうなると非常な努力もいります、いろいろ準備もいります、また今日の態勢でいいか悪いかということも考えなければならぬのでありますが、この準備あるいは態勢ということについての齋藤局長の御意見を伺いたいと思います。
  4. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 ただいまのお話にもございましたように、巣鴨問題が一日も早く全面的に解決することを私どもも心から望んで、できるだけの努力を払つておるのでございます。全面釈放につきましては一昨年二回にわたりましてそれぞれの関係国に要望いたしたのでございますが、その後いろいろと外交機関を通じ、あるいは直接私どもの方から参りました際に向う関係当局の意向を聞いてみますると、アメリカなりその他の国においても、日本との国交を厚くするという意味合いからは一日も早くこの問題を解決したい。しかしながら日本日本国内事情があると同時に、関係国にも関係国事情があるから、できるだけ司法的に、個別的に処理いたしたいということであります。ことに昨年秋この事務中央において取扱つております中央更生保護審査会、これが平和条約の十一条に基く法律第百三号による調査により勧告すべきであるということを決定し、法務大臣を通じて関係各国勧告をいたしておりますが、その審査会土田委員長が濠州以外の各国を何べんもまわりまして折衝いたしました結果、その点ははつきりいたしました。そうしてできるだけそれぞれ国内事情考えて、かりに国内から反対が出てもこれに対して十分の言い訳と申しますか、十分の理由を示すだけの資料を送つてくれ、そうすれば自分たちもできるだけこの問題のすみやかなる処理努力をするということを申しております。さような関係で、土田委員長が帰られましてからすぐ単鴨に在所して盛る人々にもその事情をよく話しましてその調査に協力してもらうことにいたしまして、昨年末から個別的にその家庭事情なり、その他諸般の事情調査して関係国追加情報として目下盛んに出しつつあります。そのためには現在法務局においてその庶務をつかさどり、傘下の全国都道府県にございます観察所職員も動員いたしまして調査をいたしておりますが、やはり審査会委員中心でございますからその委員陣容を強化して、現在三人の委員でございますが、ちようど巣鴨に入つておりまする人々関係国がフランスはわずを二名でございまして、これは遠からずして解決するような見通しを持つております。その他の国を申し上げまするとアメリカが現在二百九十八名、イギリスが九十七名、オランダが二百四名-もつともこの一層四名中、先般新聞にも出ておりましたが、十六名につきまして先週の金曜日に久方ぶりで仮出所許可が参りました。かねての懸案でございましたが、その懸案解決いたしての結果、仮出所が動き出しまして十六名の許可が出て参つておりますので、明日仮出所執行することにいたしておりますから百八十八名というわけであります。それから濠州が百六十八名、この四箇国がほとんど全部でございますので、現在の三名を五名にいたし、一名の委員長は全部を統括する、そうしてその他の委員がそれぞれの関係国を担当してこの追加資料を急速に完了いたしまして、そうして関係国に出して一日も早くこの巣鴨問題の敏速なる処理に寄与いたしたい、かように考えて、今度の改正案を御審議願いますのもさような趣旨でございます。
  5. 押谷富三

    押谷委員 中央更生保護審査会委員長が濠州を除く各国おいでになつたと今承りましたがこの関係国釈放勧告に対して了承、オーケーを与える場合においては、それぞれの国の国民感情などが相当影響するものと考えられるのでありますが、フイリピンのごときは国民感情もいまだ十分回復はされておらないと聞いております。日本との友好関係すべてがアメリカに比べましていまだしの感が深いフィリピンにおきまして、戦犯問題についてはあるいは減刑、あるいは釈放、あるいは本国に送還をするというような好意ある格別の配慮を払つてくれておるのに対しましてそれ以上国民感情が非常にいい、すべての関係がきわめてスムーズに進んでおります日米間において、このアメリカ戦犯の問題に対してはきわめて消極であり、大量的の釈放がされておらない。一体これは、何かよい方法がなければならぬと思うのでありますが、政府におかれては、アメリカに対する関係において何か適切な方法をお考えになつておるようなお気持ちであるのではないかどうか。また特にアメリカに対しては、より以上の期待が持たれなければならぬ関係にあるにかかわらず、大量の釈放が望むことができない実現されておらないというのは、何かそこに理由でもあるのですか。御意見を伺いたいと思います。
  6. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 戦犯関係考えてみますと、中国関係がいち早く全部解決いたしました。次いでフイリピンが全部解決した。東洋でしかもクリスチヤン国でない国が一番早く解決して、そうしてキリスト教国がまだ釈放しないで、たくさん残しておるということは私どもも残念に思います。これについては私ども直接いたす筋合いではございませんがいろいろとそれについても絶えず考慮を払つております。フィリピンの問題につきましては一いろいろローマ法王庁が非常に尽力をされて、またクリスチンのある会がいろいろとこれについて力強い私人としての尽力をされておるということを伺つておりまして、それらの方面とも、役職の立場を離れまして、いろいろ御尽力を願つておるような次第であります。またローマ法王庁に対しましても訪欧の帰途ローマ法王庁に立ち寄りまして、さらに今後の御尽力を願つたような次第であります。ただなぜ連合国中最も友好関係のよいような国が多数巣鴨に問題を持つておるかということについては焦慮いたしておりますが、やはり戦争中に被害を受けた人が相当ある。そうして一挙に、政治的な影響を及ぼすような措置については、相手国の外国の政府としてもこれについては十分の確信を持てないという点がありはしないかということを顧慮いたしております。ことに濠州関係については一いろいろ情報によつて伺つてみますと、この五月ごろに総選挙があるそうでありまして、それまでにやはり国内輿論というか、国民の声というものを考慮して政府としても十分な措置をとりにくい。それであまりやかしましく言われると結局困惑せざるを得ない、むしろ今のうちに用意しておいてもらいたいというような情報も入つております。そういつた微妙な関係がこの問題の解決を遅らしておるのではないか。従つてどもとしては全面釈放をぜひお願いしたいと思つておりますが、相手国政府立場考えまして、最も相手国がとりやすいような方法について現在では十分力をいたしたいと考えておる次第であります。
  7. 押谷富三

    押谷委員 今回の改正の要旨が委員の数を三人を五人にするというのでありますが、五人にして担当国をきめて、円満に適正に迅速にやろうという御意図であることは了承ができるのであります。こういう非常に事務の複雑な、そうして量も非常に多い委員会中心をなす委員を三人から五人とこの二名増加というだけでは私は必ずしも十分ではないのではないかと考えるのでありますが、この提案理由説明を見ますと、これらの事務の適正かつ迅速をはかることを品的とするものである、今日まで適正かつ迅速をはかられておらなかつたというような感がいたしますが、私は非常な努力で迅速かつ適正にやつておられると思いますけれども、二名くらいの増員ではいまだ十分でないのではないか、これを補うものはやはり民間一体の応援であり、有力な民間団体活動援助をまつて、これと政府努力とによつて、両々相まつてその目的が速成されるのではないかと考えるのであります。民間団体援助を受けるためにこれらの団体から適当な委員を派遣をして、各国の了解を求めるというような手を打たれることがあるいは必要ではないか、これが適切な手段ではないかと考えるのでありますが、当局としてこの方面にはどういうような配慮をせられておりますか、お伺いいたします。
  8. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 この問題はただいま仰せの通りでございまして、国民感情ということがやはりこの問題の解決を遅延さしておる大きな理由になつておりますので、さようなことについては私どももまつたく同様の考えを持つております。従来から民間団体、いろいろの方がおいでになる際に、いろいろな資料を差上げまして、できるだけ民間の方と気持の上において手を握り合つて、この問題の解決に尽したい。かように考え努力して参つておる次第であります。
  9. 押谷富三

    押谷委員 話は別でありますが、最近非常に社会問題として報道陣を賑わした問題に再度巣鴨入りをした林鉄夫という人の問題がありますがこれはどういう事情からさような間違いができたか、その間の消息を伺いたいと思います。
  10. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 この巣鴨管理につきましては、矯正局の所管でありますが、私も関係局をあずかつておる関係上、存じておることを申し上げたいと思います。巣鴨執行につきましては、日本関係国裁判の原木がございません。結局巣鴨プリズンを管理しておりました連合国軍から、平和条約発効の際に引継書をもらつております。それによつて現在まで来ておるのであります。ただいま御指摘になりましたオランダ関係林鉄夫という人の問題につきましては、その巣鴨を管理しておりました連合軍からもらいました引継書には減刑になりまして、そうして十年という刑期がはつきり記載してあつたのであります。そこで私どもとしては、本人から聞いたところでは自分無期言い渡しを受けておつた。こういうことを申しておりましたが、こちらとしては関係国原本があるわけでなしに、連合軍から正式に受継いだ引継書には十年と記載しておりましたので――十年といいましても、減刑特典等がありましたと思いますが、十年といたしますと、昨年の六月三日に期間が満了いたしましたので、それで釈放いたしたのであります。そうして林鉄夫釈放については関係法律によつて相手国にこれを通知いたしたのであります。その百後はそれで何でもなかつたのでございますが、オランダ政府から八月二十五日付でもつて日本にありますオランダ大使館を通じて、判決原本無期としてあつて減刑をしていないということを申して参り、こちらとしてはそれだけでは困るということでいろいろと折衝をしておつたのでございます。その間昨年の七月であつたかと存じますが、オランだから初めて十三名の仮出所許可参つたのであります。その仮出所のあつた後にその問題が起つて参りまして、こちらとしてはその引継書に十年とあるから無期ということをにわかに承認しがたいと言うたが、向うでは、何か日本政府がそれを種にし、国際信義に反して州かそれに作為を施して十年として、満期釈放したのではないか、こういうような疑念を持つておりましていろいろと折衝を重ねて参つたのであります。そうして昨年の秋に中央審査会土田委員長関係国をまわられた際に、連合国軍管理責任者が署名をした引継書にこの通り書いてあるのだということを写真にとつて持って参り向こうでいろいろ折衝された結果、向う日本国政府が何か作為を施したのではないということは了解したのでございますが林鉄夫氏が巣鴨に在所中に、管理者に対してうそを言つてそういう書類をつくらせたのではないかということを今度は疑い出した。そこで土田委員長が帰られてすぐに――林氏はその当時巣鴨を出て尼崎市に居住しておりましたので、こちらから人が行つて話をして上京してもらいまして、その間の事情を調べたところ、林氏自身にも何ら作為がない。結局林氏が蘭領インドにおつた当時に、向うチピナン刑務所におつたそうでありますが、その刑務所職員が間違えたのか、あるいは連合国時代間違つたのか、とにかく間違いであるということがわかりまして、その後向うから正式に判決書原本の写しをもつて日本国に、無期なんだから再度執行するようにという書類が、昨年二月二十三日であつたかに来まして、本人にその事情を話をして、そうして巣鴨刑務所に再び入つてもらつたわけであります。その結果向うも、林氏自身作為を施して免れようとしたのでは決してない、日本国政府も誠意を持つてつているのだということを了承して、先週の金曜に、十六名のこれまでたまつてつた出所許可した次第であります。なお林氏自身につきましても、中央審査会において、本人にとつてはまつた自分のとがではなくて、一ぺん釈放されてまた巣鴨に収容されるという気の毒な事情をるる訴えまして赦免の勧告をいたしております。
  11. 押谷富三

    押谷委員 林鉄夫の間違いにつきましては、ただいまの御説明でよくわかりました。そしてまた気の毒にも再度巣鴨入りをした本人に対していろいろ御配慮をいただいていることも感謝いたします。ここで問題になるのは、日本政府戦犯者の刑の執行をする場合において、今御説明のように判決原本日本は持つておりません。ただ引継書による書面だけであるわけでありますが、その書面に記載されている刑の執行義務だけを日本政府が負うのであると考えるべきであると思うのですが、その点についてどうお考えになつておりますか。
  12. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 私が御質問を聞き違いをしたのかもしれませんが、平和条約の十一条によりまして、連合国軍戦争裁判法廷で科した刑の執行をする義務を私どもは負つておるのでありまして、引継書はそれを証明する材料である、かように考えておりますから、引継書によつてその執行をするのではなくて、やはりその科した刑を執行するというふうに考えておりますので、もし引継書に・ほんとうは十年の言い渡しを受けて、それに無期と書いてあるならば逆でございまして、こちらとしては十年ということについていろいろな資料があるならば一それを添えて誤りを正して、正しく言い渡した刑を執行すべきである、こういうふうにいたすべきであると思つております。
  13. 押谷富三

    押谷委員 この機会会地方更生保護委員会について、一、二お尋ねをいたしたいと思います。  執行猶予者保護観察法案の内容を見ますと、保護観察に付せられておる本人保護観察を仮に解除するという制度があつて、これを地方委員会仕事として引受けざるを得ないのでありますが、こういう仕事は、やはり相当たくさん今後もあると思わなければならないが、この仮解除というような仕事を引受ける地方更生保護委員会としては、今日の陣容において、この仕事を引受けて完全になし得ると政府はお考えになつておりますか。
  14. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 現在各高等裁判所所在地ごと地方更生保護委員会というものがおのおのその地方名を冠して設けられております。この地方委員会が、行政官庁として刑法第二十八条にいう仮釈放許可をいたし、また少年院に入つておる少年に対しては、その成績の向上した者について仮退院許可をいたす。保護観察をいたしますのは、各都道府県にあります保護観察所でありまして、現在毎年四万人以上の仮釈放許可いたしております。この執行猶予者保護観察法案並びに刑法の一部を改正する法律案通りまして、そうして保護観察につきまして仮解除制度をどこの官庁がやるのが一番よろしいのであるということを考えておりますが、各都道府県保護観察所が一番実情を承知しておりますから、保護観察所に仮解除をさせることも考えたわけでありますが、各観察所ごとにその取扱いが均衡を失するというようなことがあつてもならないと存じまして、地方委員会がこれを決定いたすこととし、そして実際に保護観察を担当しておる保護観察所の、長の申請によつて事を運ぶということにいたすのがよかろうと存じて、かようにいたしたのであります。現在地方委員会は四十四名の委員全国八箇所にわかれて三人ずつで一つの部を構成して、ちようど地方裁判所と同じように三人の部が法律上の委員会として決定いたしておりまして今後この制度をもちまして実際に非常に陣容が足りないために仮解除について万全でないというような気配が見えますならば、その際十分是正いたしたい。しかし一応現在の件数等から見まして、現在の陣容でやれるのではないかと考えている次第でございます。
  15. 押谷富三

    押谷委員 今日の状況考え、かつ将来これをやつたあかつきにおける実績によつて、あるいは多少の考慮をしようというような趣旨の御意見伺つたのですが、私は今日の地方更生保護委員会仕事があまりに多過ぎて、非常に遅れておるのではないかということをたいへん心配しているのです。これから新しい保護観察の仮解除というような仕事を与えるから、仕事が手に余つて来て、どうしても迅速に、適正に行えないというのではなく、今日の状態において仮解除あるいは仮退院というような事務を扱う更生保護委員会が非常に仕事が多過ぎて、十分仕事ができておらぬといううらみがあると思うのですが、この点はどう考えますか。
  16. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 現在地方委員会は、仮釈放及び少年院からの仮退院を最も大きな仕事として運営しております。そのやり方について若干申し上げますと、大体私ども考え方は、刑務所に入つた人が、将来社会においてりつぱに更生できる、あるいは更生できるだろうという場合には、少くともこれの仮釈放、仮退院を許して、これに対して十分適切な指導と保護を加え、本人更生をはかるべきだ、いたずらに刑務所なり少年院に入れておくということは避けるべきだと考えて、それについていろいろと考慮いたしおります。  従来の仮釈放決定状況は、刑務所申請によつて司法大臣がそれを決定するという建前であつたのでございますが、現在の建前は、刑務所に入りますと、できるだけ早く本人の身の上についてのいろいろな資料――身上調書委員会がとりまして、それを本人の帰るべき地を管轄する保護観察所にまわしまして、その観察所において、本人の言う通り本人が帰つた場合に、今後本人のめんどうを十分見る家庭があるかどうかを調査し、さらにその調査中、本人家庭にいろいろな問題があるという場合には、積極的に進んでその問題を解決してやる。たとえば子供が何べんも親の言うことを聞かないで、遂に刑務所に入つた。親はたいへん怒つてつて子供帰つても受取らぬというような場合がございますが、そういうような場合には、よく親と話をして、本人をあたたかく引受けるように説得し、家庭の環境を調査して、その結果を委員会に報告いたします。結局、従来の仮釈放は、所内、施設内での成績によつて大体処理されている、現在は、帰つて来たあとの問題を十分調べて、またそれについて積極的にその引受先をつくり上げるように努力して、一日も早く出す、こういうふうにしております。その上に、委員がその刑務所なり少年院に出張して直接本人に面接して十分な心証をとり、許可をする、こういう手続をとつております。  その間、その面接等において、現在の委員の数が若干不十分じやないか、またその旅費等が場合によつては足らなくて、十分調査に行けないというようなことがあつて、遅れる場合もあるかと存じております。その救済の方法といたしましては犯罪者予防更生法の中の改正をお願いいたしまして、法務省令によつてその省略をできることが規定いたしてありまして、現在その省令に少しきゆうくつな点があるのではないか、場合によつてはそれに弾力性を持たせるようなものを考慮いたしたい。そして本人施設に入れておく必要がないという場合には、一日も長く入れておくことのないようにいたしたい。多数の事案の中にはそういう場合もあろうかと存じております。それらについては十分調査し、善処いたしたいと存じます。
  17. 押谷富三

    押谷委員 受刑者更生保護のために、一日も早く出してやりたいというこの局長の御意見はよくわかりましたがわれわれの見るところでは、どうも局長意見がすぐには徹底しておらぬようであります。ちようだいいたしました資料によりまして、関東の更生保護委員会の仮出所、仮退院の場合でありますが、少年院あるいは刑務所から出してやつてもらいたいという申請が来てから、出してやるという決定をされるまでに、どのくらいの日時を費したかと見ますと、退院の場合は一・八三箇月、仮出所の場合は一・九五箇月・すなわち大体二箇月・六十日近い月がかかつている。一日も早く出してやりたいという親心があつても、実際に出て行くのに二箇月かかつている。一体これはどこでさような日にちを費すのか。この点について伺いたい。
  18. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 ただいま御指摘の通りでございまして、関東の委員会の昨年一月から三月までの実績で見ますると、仮出獄も仮退院も二箇月足らずの審理期間を要しております。私ども考えとしては、できるだけ短期間にしたいと存じておりますが、この中には施設ではわからないいろいろな事情もあつて、その事情解決しないで、出すということは、かえつて本人が再びあやまちを起すというような場合もございまするから、総括的にはこの期間を短かくするということに私ども努力いたしたいと思いますが、個々の事案については、施設の言う通り、早く出すということが、はたして本人のためにいいかどうか、こういう場合もあろうかと存じます。これは不必要に二箇月近くも日数を要するとすれば、いろいろと研究いたして、一日も早く是正しなければならぬと考えております。
  19. 押谷富三

    押谷委員 私は局長の御答弁では満足できないのであります。かように早く出してやろうという気持を持ちながら、申請から決定までに二箇月もかかるということは今日の制度に大きな欠陥があるのではないかと私は考えるのです。まず関東の委員会の例をもつてしますと、一年間に仮出所あるいは仮退院許可を受けた人の数が大体一万人.近いものではないかと思うのです。たしかちようだいした資料の中ではそういうことになつております。そしてこれらを収容している場所は、関東の委員会だけで、六十ある。三人の人で面接しなければならぬ人が一万人近く、しかも六十箇所にも行くのでなければ会えないという。今日の面接制度はそうなつているのです〇三人の委員が六十箇所にわかれて大勢の人に会いに行くというようなことをやつていますから、とても手がまわりません。これは私が聞いた話で聞違いないことだと思いますが、静岡の刑務所に収容されている受刑者、これが仮出所を受けるために待ちこがれている委員の面接は、一箇月に一ぺんくらい、よくあつて一ぺんなんです。そして来た委員は一ぺんに百人もに面接して、出していいか悪いかをきめなければならぬ。一日のわずかの時間に百人も会つて、それが一間月に一ぺんというようなことでは、これは関東の場合において申請から決定までに三箇月かかるのは無理がないのです。あまりたくさんの仕事を引受け過ぎている。人の数とその場所とそしてわずかに三人の委員、こう考えたときに、この仕事がたいへん多過ぎて手がまわらない、手がまわらないために、早く出してやりたくても出し得ないというのが、この二箇月というような日を要する原因だろうと思うのです。静岡の刑務所に、出さなければならぬために面接に行かなければならぬ、その面接を一箇月に一ぺんしかやつていない。行けば一ぺんに百人くらい会つているのだ、こういう変な事務の扱いが現に行われているということについて、これは事実であるかどうか、もし事実であるとすれば、どうお考えになつているかを伺いたいと思います。
  20. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 先ほど申し上げましたように、地方更生保護委員会委員の数が全国で四十四名でございまして、八箇所にわかれております。その地方委員会ごとの委員の数はそれぞれ施設の数、収容所の数によつて大小がございまして四国のごとき一番小さいところは三人でございますが、一番多い関東は現在定員通り九人、九人の委員が三人ずつの部にわかれまして、それぞれ審査委員として年間九千何百人の仮釈放決定をいたして行くわけでございます。場合によつては一施設に月に一回ということも私はあろうかと存じておりますがその場合でもその付近といいますか、もう近く仮釈放申請していいのではないかというような場合には、正式の申請がなくても施設側と連絡して面接をし、そして次の面接の日までに仮釈放が相当だと思う者はあらかじめ面接をするというようなことも現在可能でございまして、先ほど申し上げましたように、面接を省略する規定の中に、一回会つた者についてあまり期間もたつていないときは、正式の申請を受けた後の面接は省略してもよろしいというような規定を省令で書いてありまして、さようなことにいたしております。ただたくさんな数でございますし、御指摘のように不十分な点がないということは、私も申し上げることはできませんが、今後将来において御指摘のような不都合なことのないように、十分注意をして参りたい、かように考えております。
  21. 押谷富三

    押谷委員 静岡の場合に月一ぺんということはそういうこともあり得るというお話でありますが、月に一ぺんしか委員が面会に行かないということになると、出られるような適状に赴かれた人が悪くすると三十日も事務的な都合で出してもらえないというようなことがあり得るわけでありますから、これは相当重大な問題だと思いますので、特にこの点について御配慮が願いたいと思います。  またついででありますが、省令によつて面接を省略することができるというお話でありますが、面接を省略して仮出所を許したという場合におけるその員数を適当な機会に資料としてご提出を願いたいと思います。  それからいま一つ、ちようだいしました資料によりますと、この仮出所申請があつてこれを許すのと却下するのとがありますが、関東の場合は成人の場合八千三百九十三名の許可をしておる。却下をしたものは二百三名であつて、却下された率が二・四一%というようなきわめて少数の却下でありますが、これに比べて近畿の場合においては、許可したのが四千九十六名に対して、却下したのが八百一名、驚くべき数字に上つておるのです。そうして却下された比率はほとんど二〇%で、二割に近い人が却下されている。全国の各委員会においても近畿だけが飛び抜けて多いのでありますが、こういうような統計が出て来るのは、何かそこに理由でもあるのでありますか。
  22. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 昨年度の統計によりますと、ただいま仰せの通りでございまして、近畿が仮出獄の申請があつて、それをまかりならぬと言うたものが一九%、それから四国が二一%、北海道が一二%、全国平均が六%という数になつておりまして、いささか近畿が他に比べてはるかに多いという関係になつております。これにつきましては、私ども個々の事案をこちらで報告をとつておりませんので、十分なお答えをいたしかねますが、あるいは委員会事件処理方針として、施設から同月何日を希望して仮釈放を相当として申請した場合に、その日までに家庭の方の受入れ態勢ができない、しかし遠からずしてできるだろう、あるいは相当期間つてもう一ぺん手を打てばあるいはできるかもしれぬというような場合が相当多かろうと存じております。さような場合に、委員会によつてそれを何月何日と指定した仮釈放を棄却するところと、それからそれをそのまま留保して、そうして日付を別にして――これは日といいましても、単なる希望でございますから、別個の日を指定して許可するというやり方をしておるところと二つあろうかと存じまして、それを極端に用いて、かような関東と近畿といいますと、これはまた平均よりも非常に低いところと多いところとなつておりまして、格段の差がございますが、さような関係があるのではないか、この点もう少し調査をした上で話しいお答えを申し上げたい、かように存じております。
  23. 押谷富三

    押谷委員 今局長のお話で、近畿が大分多いということは今の御意見のような理由だと考えられているようですが、そうではありません。私がそうでないとここで断言するのは、実はこういう事実に出あつたのです。これがもし参考になるならばたいへん仕合せだと存じます。去年の十二月の十日にある受刑者が非常に成績がいいので出してやつてもらいたいというので大阪の刑務所から保護委員会出所の請求をした、これに対して受入れ態勢家庭事情、身上の調査観察所ですでにでき上つておる、こういうような状況ですし、それが昨年の十二月の十日でありますから、私は更生保護のこの血の通つておる役所の仕事として、正月は外でさせてやる、正月は家庭でさせてやるという思いやりから、どうかして出してやつてもらいたいということを頼んでおつたのですが、これをやつてくれません。遂に十二月二十八日の御用じまいにも出してくれない。一体どうしたんだと私が近畿委員会行つて話をしたときに、そこの職員委員の人の意を受けての話では、われわれは確定裁判を変更する重大な仕事をしておるのであるから、そう簡単には行きません。それでどうしたんだ、なぜ遅れたんだと聞いたところ、原審は尼崎の裁判所であるから、尼崎の簡易裁判所から判決原本を取寄せておるのである、こういう意見であつたのです。私は地方の更生保護委員会仕事がそういうような趣旨でなされておるとすれば、たいへん大きな問題であると思う。行政機関が司法機関の判決に変更を加える仕事をしておるのであるという考え方は、これはたいへんな問題なんです。現に私にそういうことをはつきり言うたのです〇そうして判決を取寄せたのです。その判決の取寄せが、裁判所の方は倉の内から出して来なければならぬのですから、おいそれと、さように間単には行きません。そこで非常に長い期間かかつて出して来る。その期間のために、正月を家でできる人が、裁判所から判決が来ないというので・保護委員会はこれを委員会にかけることができないで、正月ずつと遅れてから出したということになつておるのです〇一体法務省としては、保護委員会仕事にそういうような指導を与えておるのか。私はここで聞かなければならぬことは、保護委員会は、確定判決を変更するのであるという感じを持つて仕事をしている。変更するのであると断言しているのですが、そういう指導をなされているか。また保護委員会決定をする場合において、受刑者の受刑の状況や、あるいは家庭の受入れ状況については十分御判断をされるのはよろしいと思います。調査をせられてしかるべきだと思います。そうしなければならぬと思いますが、判決にまでさかのぼつて判決原本を調べるというようなことは許されることであるかどうか。私は絶対に行き過ぎだと思う。そういうことは許されないと確信をしておるのですが、この点について局長の御意見を伺いたいと思います。
  24. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 ただいまのお話は、私もまことに意外に思つて聞いておつたのでありまして、仮出獄は、判決の内容をかえるというものではございませんので、ただ判決執行の態様をかえるというのでございます。従いまして刑務所からとります書類にも判決原本を必ずつけなければならぬということは、私どもから指示しておりません。ただいろいろな調査資料として、犯罪の内容あるいは特に必要ある場合にそれを見るということはよろしいけれども、何も判決自体を左右するものではございませんので、さようなことは考えておらないのでございます。また仰せのように何かそんなお話も、自分がたいへん偉いものになつたような、いわゆる昔のお役人みたいな気分でおるとすれば、まことに私は心外千万と存じます。私どもは多くの犯罪は、単に刑罰だけではほんとうに目的が達成されない。むしろ病人とかあるいは貧困者と同じように、それに対して救済・社会保障の精神をもつて臨むというのが、私どものこの仕事である、かように存じておるのでありまして、もしさようなことがあつたとすれば、私どもまことに遺憾でありまして、そういうことが今後ないように十分指導いたすつもりでございます。
  25. 押谷富三

    押谷委員 こういうような近畿の委員会のあやまちから、先ほどの統計の数に現われましたように、百人の申請に対して、日本のどこにもないような二十人もの却下者が出て来るというようなことは、こういう観念のあやまちからとんでもない判断をしておるのではないかと私は思います。しかしこれはそれぞれの事案を見なければ断言できませんが、とにかく近畿の委員会がかようなあやまちをやつておるということを私から御忠告申し上げますから、特にこの委員会の指導にあたられましては、どうかかようなことを御注意賜わりますようにお願いいたします。なお資料の御提出をお願いしておきますから、その資料がそろいましてからまた質問することにいたしまして本日はこの程度で私の質問は終ります。
  26. 小林錡

    小林委員長 木下郁君。
  27. 木下郁

    ○木下委員 私は今の押谷委員の質問に関連して一つだけ伺つておきたいと思います。一度釈放された人が判決を言い渡された間に法の手違いで逆もどりをしたということの御質問がありました。これに関連いたしまして、十五国会であつたと思いますがあの平和条約第十一条に基く受刑者釈放に関する問題についての議員立法が通過しております。それは、今まで親子の間の危篤とかいうような場合には、この執行が停止されて見舞に帰られるという制度であつた。ところがそれではあまりにもきゆうくつだ、日本に長く伝わつて来た家族制度、実際の生活の実相に即しないという意味で、議員立法で期間は十五日、但しそれがやむを得ざる事情のあるときは繰返すことができるというふうに改正されたと記憶しております。ところがせつかくできたその法律が、先般巣鴨にある人の話をちよつと耳にしたのですが、実際の運用の面ではそういう改正がされた丹前と何らかわりないということを聞いたのであります。これは日本国内法が改められた。その立法の趣旨は、私がいまさらかれこれ言うわないでも、実際に即するようにする。やむを得ざる事情のある人には、十五日が繰返されても自宅に帰ることができるようにするという趣旨であつた。ところがそれが実質の面ではまつたく役に立つていないという話ですが、さような事実がありましようか。またあの法律改正されて以来は、それが改正趣旨に沿うて運用されておるかどうかということを、今おわかりでしたら承つておきたいと思います。
  28. 齋藤三郎

    齋藤(三)政府委員 改正の点は十五日まで延ばすことができる、こういうことになつております。それから改正されました一つの大きな理由としては、その他特殊の事由という種類を限定しないということになつておりまして、この問題の運用についてはいろいろと苦心をいたしておるのでございます。大体いろいろな理由がございますが、従来からあります親が危篤であるとかあるいは子供が危篤であるとか、あるいは天変地異によつて家が重大な損害を受けて、本人が帰らなければ家族が路頭に迷うというような場合は、何どきでも出すようにいたしておりますし、その他その理由のいかんによつてこの長短なり許可をいたす、こういうことにいたしております。実際に五日以上にわたるという場合も相当多かろうと思いますが、現在その資料を持つておりませんから、まだはつきりしたことは申し上げかねます。
  29. 木下郁

    ○木下委員 それが私が受刑者から聞いた話ではまつたく以前とかわりがないという話なんです。どうもそれは実際らしい、また実際と思われる節もあるわけです。というのは、これは事なかれ主義という意味でやるくせがある。ことにまたそれを外国の方から故障でも言つて来れば実にやつかいだというような考え方が、従来の日本の役所の習わしになつた一つの弊害だと思い捜す。そういう点の非常に臆病さ、それから事なかれ主義でおきたいという気分が濃厚なんです。これは実に否定することはできないと私は考える。さような意味でせつかくこの法律ができる。しかもその法律日本法律なんです。そしてその運用の而では十分考えていただきたいという趣旨で私どもはこれに賛成したわけであります。実際私は受刑者が言う通りじやないかと思います。A級の戦犯というようなものは、過去において非常な権力を持ち、社会的な力を持つておりますから、家族が路頭に迷うようなことはないのです。しかしながらC級の兵隊で罪に問われているような連中というものは非常に困つている者が多い。これは特殊の事情というものを、従来のように単に親が危篤であるとか、子供が危篤であるというような場合だけに限定するのではなくて、特殊な事情があれば  早い話が植付のとき、あるいは取入れのときに手が足りない、それでよそがすべての取入れが済み、あるいは植付が済んだ後に、近所隣りの人が加勢して、遅れるけれども植付を済ますというような実情にあるのはたくさんある。そういうようなものこそ、あの立法の趣旨に即して特殊の事情のあるものとして十分運用して行くべきものである、かように考えております。資料を持つていないそうでありますがその点はひとつお調べになつて資料を出していただきたいということを希望してこの点に関する質疑は終ることにします。
  30. 小林錡

    小林委員長 それでは本件に対する質疑は本日はこの程度にとどめておきます。     ―――――――――――――
  31. 小林錡

    小林委員長 次に検察行政に関する件について調査を進めます。発言の通告がありますからこれを許します。木下郁君。
  32. 木下郁

    ○木下委員 刑事局長にお伺いしたいのですが、まだ御記憶も新たなことと思います。昨年の暮れであつたと思いますが、栗田英男代議士が木村保安庁長官を告発いたしました。これは国会議員という地位にある人が、また国務大臣として、保安庁長官として一国の重責に当つておる人を告発するということになれば相当の覚悟と自信を持つてやられたことであるというふうにわれわれは解釈いたすのであります。またそのことが新聞に伝えられて、木村長官は青森に視察中でありましたが、非常にいたけだかになつて栗田と対決する、許しがたいことだと言つて、きわめて威勢のよい話があつたのであります。ところがそれがしり切れとんぼになつてしかも不起訴になつたということが新聞に出ていたようであります。またその不起訴になつたについて、聞くところによれば栗田君が管発を取下げたということも聞いております。まことに不可解なことであり、また木村長官たるものは自分の地位からしましても、日本の政治の綱紀を維持する上から言いましても、これは当然粟田君に対して名誉毀損とかいうような反撃をもつて国民の疑惑にこたえるべきものであろうと私は信じております。ところがそのこともなし、まことに不明朗なままで今日まで来ているわけでありますが、刑事局長にあの事件の不起訴になつたてんまつ等を伺いたいと思うわけであります。
  33. 井本臺吉

    ○井本政府委員 お答えいたします。最初に告発事件が不起訴になつた場合に誣告罪が成立するかどうかという点を簡単に申し上げます。これは釈迦に説法で詳しく申し上げるまでもないと思いますけれども、虚偽の事実を知りながら人をして刑事または懲戒の処分を受けしめる目的で単に申告したという場合に謹告罪が成立するのでありまして、大多数の告発事件が不起訴になりましても、論告罪の成立事件というのは比較的少いのが実情でございます。  それから本件の不起訴になりました事情を簡単に申し上げます。謹告罪の規定にあるような、虚偽の事実を明らかに知りながら単に懲戒その他の処分をなさしめる目的で虚偽の事実を申告したという点が認められないので、その点が問題にならなかつたと私は考えるのであります。この木村篤太郎氏の事件は、木村篤太郎氏が宗教法人の霊友会会長の小谷喜美氏より、法務総裁の職務に関しまして、いわゆる霊友会事件について昭和二十六、七年ごろに三百数十万円の収賄をした旨、及びこれらの所得について所得税の申告をせず脱税をした旨の告発が、昨年の十月二十一日に栗田英男氏から東京地方検察庁になされましたので、同地方検察庁におきましては告発人から事情を詳細聴取する一方、木村篤太郎氏初め小谷喜美氏ら多数の関係者を取調べました結果、右の告発の事実についてはいずれも犯罪の嫌疑はないという結論に達しまして、昨年十二月三日同地検において不起訴処分にした次第でございます。なおこれより先に本件の告発者の栗田英男氏からも、告発をみずから調査した結果、告発の資料となつた小谷会長反対派の人々の供述は確信しがたい点があるということで、この告発は昨年の十月三十八日に取消しがなされた次第でございます。  なおこの告発事件につきまして、ただいまの程度ではあるいはおわかりにくいと思いますので、いま少しく詳しく申し上げます。告発事実は大体五点ほどございまして、第一が昭和二十五年九月ごろに、小谷可美氏から霊友会事件もみ消しの謝礼として金百万円を受取つたという事実が第一に書いてございます。それから第二には、昭和二十六年十二月末に、法務総裁就任後に同人から二百万円を受取つたという事実が書いてございます。第三といたしましては、昭和二十七年十二月末に、保安庁長官として在任中、三十数万円を収賄したという事実が書いてございます。第四といたしましては、昭和二十五年十月ころから同二十七年十二月ころまでの間に、国務大臣として四回に合計百万円を収賄したという事実が書いてございます。第五に、右受領した金額について、所得税の申告もせずに脱税したということが書いてございます。これらの点につきましては、先ほど申し上げましたように、詳細調べました結果、告発事実の第一につきましては、金を受取つた証拠が全然ない。告発人側の証拠としていましたのは、元霊友会の女中の供述のみでありまして、同人は取調べの結果、小谷会長らが木村氏に百万円くらいの謝礼を贈るべきではないかという相談をしていたのを聞いていただけだというだけの事実で、何らの証拠はないということに帰港したのでございます。それから第二の事実につきましては、これも全然金銭受領の証拠がなかつた次第でございます。その供述が告発の資料となりました元霊友会の女中は、取調べの結果、茶飲み話の放言が重大な結果になつたと言うて謝罪したのであります。それから告発の第三の事実も、全然金銭受領の証拠があがらなかつた次第でございます。これは霊友会の会計帳簿などよりも、当時の会計責任者の供述よりも、全然これも証拠がなかつたのでございます。それから告発事実の第四は、昭和二十六年六月ころに、被告発人が顧問料として二十五万円くらいの金を受取つたということは、大体認められるのでございますが、これは当時被告発人が弁護士をしておりまして、弁護士当時の事柄に属し、何ら犯罪は構成しない、弁護士の報酬であるという結論に達した次第でございます。それから告発事実の第五は、被告発人は弁護士として所得税を申告しておりまして、税務署係員について調査いたしましたが、これも脱税の事実がないという結論に逃した次第でございます。なお昭和二十六年一月に、小谷会長から刀剣一ふりを受けたという点につきましては、被告発人は刀剣愛好家として鑑定のため預かつたものであるというような陳述をいたしまして、その事実について小谷喜美氏は、昭和二十六年及び同二十七年の富裕税の申告のときには、この刀剣について自分の財産の目録のうちに加えて申告しておるというような事情で、これを贈つたというような事実は全然認められないという結論に達した次第でございます。以上の通り事情でございます。
  34. 木下郁

    ○木下委員 その刀剣について、木村氏の名前で公の方に届出をしたというようなことが、当時新聞に出ておりましたが、さようなことがありましたかどうか。ちよつと名義を貸すということは、まあ世間でもあろうことではありますけれども、公の方に名前を出すのに、一国の責任ある地位の人が出す。しかも伝えられるところによれば、刀剣は国宝だということである。さよういたしますると、小谷の言うところが真実か、あるいは社会的に一挙手一投足もゆるがせにしてはならない地位にあり、また信用もある地位の人が公に名前を出したものが信ずべきかということは、これは早く言えば証拠論になりますが、一私署証書の書きものと、公正証書あるいは公の認証のある書類の証拠物と、いずれをまさりとするかというような問題になつて来ると思いますが、何か国宝と言われておる相当のものらしいそういう刀剣について、木村長官が自分の所有物なりとして表示をしたことがありますかどうか、おわかりでしたら承りたい。
  35. 井本臺吉

    ○井本政府委員 お答えいたします。この問題の刀剣は昭和二十六年二月ころに、延吉作の刀剣だそうですが、鑑定のために小谷喜美から預けられたものであります。銃砲刀剣類等所持禁止令によつて、所持の場合も届出を要する関係と、海外に出品するために、被告発人が刀剣の愛好家として知られているので、その名義をもつて出品する便宜上、同年六月ころに名義の書きかえをいたしまして、上野博物館に陳列されていたものであります。これが疑問を受けたのでございますがこれはそれだけのことでございまして、いろいろ関係者をよく調べましたところ、小谷喜美の麻布税務署に対する昭和二十六年度及び昭和二十七年度の富裕税の申告では小谷喜美の所有として延着の刀剣一ふりが掲載されているのでありまして、これは関係者が被告発人に贈つたということは全然申しておらず、被告発人が贈与を受けたという認定をするような証左はなく、また従つて相続税法違反にもならないという結論に取調べの検察官が達しまして、不起訴処分にいたした次第でございます。
  36. 木下郁

    ○木下委員 今初めて伺つたのです。刀剣所持は届出をしなければならぬまた日本の文化的信用を増す意味において、国宝的美術品として刀剣を海外に出すという場合において、一国の国務大臣というような地位の人が、海外を欺き、また国内の刀剣の届出という法律的な義務の履行にあたつて、これをほかの人の名前でやる。よく高利貸なんかが公正証書をつくるときにかれこれのことがあつて、公文書の不実記載というようなことで刑事責任まで問われておる事例もたくさんあることであります。さような意味もありますのでちよつとそういう点を伺いますると、私の考えでは、あの邪教と言つてもよさそうな霊友会の小谷それがし今刑事被告人としてさばきの廷に立つておる人のすることを信ずべきか、また責任ある高い地位に立つている人の言うことを信ずべきかどうかということは公正にものを考える人としては、その間に非常に釈然たらざるものがたくさん残るわけであります。さような点等についてもいろいろの疑問の余地がありまするが、この栗田君の告発の取下げ、これが伝え聞くところによりますと、栗田君は島田それがし等の霊友会関係の人たちから頼まれて、そして自分が君たちのために骨折つてやるということで、栗田君の名義で告発をした、それが昨年の十月二十日であります。しかるに一週間と一日たつた二十八日にはその告発を栗田君が取下げた。島田なんかのようないわゆる実質的な依頼者、その連中が大方毎日のように栗田君に対してその事件のことを問い合せに行き材料を提供しつつあつたのに、そのことを取下げたことも何も貰わない、そのままに捨ておいて、そして世間にそれが発表される前の日あたりに初めてそういううわさを聞いたものだから、びつくりして栗田君のところに行つて尋ねたところが、まあそういうことになつている。その告訴の取下げに対しましても、世間ではいろいろのことが伝えられておることも御承知と思う。その告訴の取下げの不明朗ないきさつ等については、検察側で何かここに捜査をしてもよろしい、またすべきものだというふうにお考えになりましたかどうか。先ほどのお話で虚偽ということを知つてつてつたのなら誣告罪になる、私は誣告罪の成否をかれこれ言つたのではありません。誣告罪の成立には厳格な犯罪の成立要件がありますが、栗田君が善意でやつたとしても、一国の国務大臣を告発する、また国務大臣たるものは国家の法規を保つ意味でて少くとも誣告の責任を問うか、そうでなかつたならば、その軽率なるやり方に対する民事的な責任くらいを問うて天下の疑惑を晴らすべきものだというふうに考えるのであります。そのことをなしたか。このような意味で世間はこの事件の経過を常識的に観察して、その間にちよつと割切れなく感じておる者がたくさんある。それはほんの公正な立場から常識的に見ただけでありますが、なおその後に出て来ておる事実、言いかえれば小名それがしという栗田君のところにしよつちゆう出入りしておつた新聞記者、あるいはまた栗田君の秘書をしておつた――公の秘書であるか、あるいに個人的な秘書であるかは知りませんが、とにかく栗田君の身辺に親しく勤めておつた男、その一人の人が栗田君のやり方にあまりに綱紀を乱る点がある、自分たちとしては憤慨にたえないというような意味で、親しい人を敵にまわすということは忍びないけれども、そんなことにかかわつちやおられないということで、世間にいろいろな発表をして、職を賭してもこの栗田君の告訴を取下げにからむ暗影を明らかにするということを言つております。さようなことも、検察当局には当然耳に入つておることと思いまするが、これだけのことがあれば、検察当局としては捜査権の発動を当然やつてしかるべきものだというふうに私は考えるのであります。その告発の内容については何かお調べになつたことを今伺いましたが、その栗田君の告発の取下げについて天下の疑雲を晴らすために何かの御捜査等をなさいましたか、この点を伺いたいと思います。
  37. 井本臺吉

    ○井本政府委員 法律的な点を申し上げてまことに恐縮でありますが、誣告罪の規定の百七十三条運には、誣告の罪を犯しても、裁判確定前に自白したときはその刑を免除または減軽することを得るというような規定もある次第でありまして、検察庁といたしましては、すでに告発が取下げになつたのでありますから、普通の簡単な事件の場合には、かような事件について捜査をあまりやらないのが慣例でございます。が、本件につきましては特に新聞紙しにも伝えられた次第でありまして、ただいま御報告申し上げたように、詳細に告発取下げ後におきましても捜査を続けて、十二月の初めに結論に逃した次第でございます。その間に栗田氏の側において何か新聞紙上にかわつたことが伝えられておつたのでございますけれども、検察庁といたしましてその事実がいかなる犯罪を構成するのか、犯罪がなければ捜査はできない次第でございまして、私どもには栗田氏につて犯罪として捜査をしたという報告は参つておりません。従つてその点についてどういう見解を持つたかということの御報告が本日できない次第でございます。
  38. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 関連して。今栗田君の問題について、いかなる犯罪が成立するかわからぬような御答弁であつたが、私ども不可解であります。もし新聞に伝えられるごときことが事実であるとするならば、これははなはだ不都合なことであると思うのです。栗田君は国会議員であり、そうしてまた行政監察委員じやないかと思うのです。その栗田君が大臣を告発しておるのです。ただの人聞じやない。またただの人間じやないから、実際の材料は島田とかいう男が持つてつたのでしようが、栗田君に頼んで、栗田君の名においてより効果的に告発の威力を発揮すべく、栗田君に頼んだ違いない。栗田君はそれを引受けて告発した。これはもう国会議員であり、あるいはまたいつでも行政監察委員になり得る地位の者がそういう告発をするということだけのもので相当の威力であります。その人間がどちらからか知らぬが金をもらうことによつて取下げたというような新聞報道の事実があり得るならば、これはぼくは刑法の何らかの法案に触れなければならぬと考える。もしさようなことじやないならば一体恐喝罪というものは何のために存在するか付の犯罪を構成するかわからぬ、刑事局長がそういうことではぼくは不可解です。いやしくも国会議員という地位にある人間が大臣を告発する、金をもらつたらさつとひつ込めてしまう、これは一体恐喝興じやないでしようか、それはもちろん金をもらつたかどうか、私どもは的確に――木下君は知りませんが、的確な材料を持つておるわけじやありませんけれども、新聞に伝えるごときことありとすれば、恐喝の罪だけは出て来ると思う。これは捜査するのが当然であります一またわれわれからするならば・政治道徳上許すべからざることだと考える。しかしこれは皆さんの職責じやない、当法務委員会の職責であるからこの点を言うのじやありませんが、検察当局としてはその間の事情をなぜ捜査しなかつたか、これが新聞に伝えられているにかかわらず誣告罪にもならず、名誉職損罪にもならず、恐喝罪にもならず放任されている、 これは木村氏のために惜しむ一われわれは木村氏に対し多大の疑惑を持つている。ことに木村氏がこの霊友会、われわれから見ればインチキ宗教から先ほど言つた弁護料としておとりになつたその前後じやないかと思うのだが、脱税事件で税務官吏に踏み込まれてえらい大騒ぎを演じたことがある。そのときはどういうわけだか、木村氏の手柄だかなんだかうやむやになつてしまつた。その後木村氏は法務大臣にもなられ、今度は保安庁長官になられたが、昭和二十七年の十二月ごろには日比谷公会堂で行われました霊友会の大会に当時国務大臣として国会開会中にかかわらずみずから出馬して大講演なさつて、こういうふうに霊友会報なる新聞に堂々と写真入りで出られ、国会開会中御多忙の寸暇をさいて御講演くださる木村保安庁長官、これが全国の善男善女あるいは悪男悪女にみな配付されておる。これがために霊友会に対する賽銭は非常にふえたでございましよう。こういう状態に木村氏がおる際に、はなはだ私たちは疑惑を感ずるのであります。あなた方が何ら犯罪の嫌疑がないからほうつておいたということは奇怪だ。そこであなたにお伺いする。国会議員が大臣を告発する、あるいは大臣でなくても相当の名誉を重んじ、信用を生命といたします人を告発し、それが新聞に発表せられ――当時栗田君は非常に大みえを切つたことがある。私はその材料を持つておりませんが、新聞に載つてつたはずである。徹底的にこれをやるのだと、そうしておいていつの間にか取下げてしまう、そうしてその間に金銭の授受が行われたということが仲介した人の名前まで新聞に堂々と発表せられ、栗田氏の秘書及び栗田氏のところにしよつちゆう出入りしておつた新聞記者までが証人として現われて、栗田氏の行動を非難しておる、そういう事情にあるにもかかわらず何の犯罪になるかはまだ捜査しなかつたとは何ごとであるかとこれは恐喝罪になるかならないか、御答弁願います。
  39. 井本臺吉

    ○井本政府委員 冒頭に申し上げました通り、誣告罪の規定にもあります通り、虚偽の事実を虚偽と知りながら申告する、それが刑事の処分または懲戒の処分を受けしめるためであつたということになりますれば、これは犯罪が成立するわけでございます。立証上この点は事件としては非常に困難な事件でありまして、冒頭に申し上げましたように誣告罪で処置された例はあまりないのであります。本件につきましてももちろん検察当局といたしまして、虚偽の事実を知りながら告発したということになりますれば、これは誣告罪が成立することは当然でございます。しかしながら捜査の結果さような犯罪の嫌疑がなかつたという結論に達した次第でございます。誣告に類する告訴をしながら、それを種に金をとつたということがありますならばそれは猪俣先生には釈迦に説法と思いますけれども、これは恐喝罪が成立することは当然であります。ただ本件につきましてはさような事実も調べの経過においてはなかつたという結論に達したので、事件がとれなかつたという次第でございます。
  40. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 先ほど木下君の質問に栗田君は金をもらつたかどうか、どういう事情で取下げたかということに対して、何の犯罪になるかわからぬから捜査しなかつたとおつしやるから、私は申し上げた。何の犯罪になるかわからぬなんて、あなた方専門家がわからぬ事情じやない。誣告罪が成立しないということと恐喝のおそれが出るということはうらはらであります。真にその事実があると信じてやつたから誣告罪にならぬとあなたは答弁になるそれはそうでございましよう。しからばそれを取下げたことに対して――真実なりとして告発したものがそれを取下げることに対しては、恐喝の疑いが濃厚にならなければならぬ。あなた方が誣告罪でないという認定はそれでよろしい、それならなおさら恐喝の疑いというものが濃厚にならなければならぬ、しかるに誣告罪でないという認定をしながら恐喝ということに対してはさつぱり頭を働かせないというところに私ども疑問があるのです。どういう理由で恐喝の疑いがあると認定なさらないのかということでありますが、ただあなたは第一線の検事さんじやない、検事総長でもないのでこれ以上しようがないが、最後のあなたのお言葉をなお確めておきたい。この栗田君の告訴取下げについていかなる事情で取下げたか、新聞に報道せられたことがあつたかなかつたか、すなわちそういうことに対して取調べたかどうか。そうしてさようなことを力説いたしておりまする小名という新聞記者やあるいは栗田君の秘書、こういう者を調べられたかどうか。今あなたは木下氏には、何の犯罪になるかわからぬから放任したような御答弁であり、私のあれに対しては、調べたけれどもそういう事実がないからというような御答弁に承つたのですが、どつちか、そこをはつきりしていただきたい。なお念のために私の質問を要約して習うならば、誣告罪でないならばこの取下げについて恐喝罪に一応の疑いが出る。まさに相手が木村篤太郎という重要なポストにある人なるがゆえに、なおさらこの間に対して捜査権を発動して捜査しなければならぬ事情であろうと考えるが、その捜査を恐喝罪というような観点からしたのであるかしないのであるか、そのしたかしないかはわからぬというのであるか、しないというはつきりした答弁ができるのであるか、そこを御答弁願いたい。
  41. 井本臺吉

    ○井本政府委員 もちろん検事は犯罪があれば捜査しなければならぬのでありまして、犯罪の容疑があれば捜査することは当然でございます。本件についても告発がどういう事情でなされたか、ある程度の取調べをいたしまして、犯罪にならないという結論に達したので事件を立てなかつたということに帰着した次第でございます。ただ具体的に御指摘のようにだれとだれを調べたかということは、ただいまは資料を持つておりませんので御返答ができかねる次第でありますが、結論といたしましては栗田氏につきましても、恐喝もしくは名誉毀損または誣告罪というような犯罪は成立しなかつたという結論に達した次第でございます。
  42. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 なおしからば確かめておきたい。栗田誰についてとにかく名誉毀損、訓告、その点を私は言つているのじやないが、恐喝罪の容疑がありやいなやについて捜査した、捜査したがその容疑がないのでそれは問題にならなかつた、こう承つてよろしいか、それをなお恐喝罪に限つて答弁してください。
  43. 井本臺吉

    ○井本政府委員 少くとも私はその点については恐喝罪が成立しなかつたという報告を受けております。
  44. 木下郁

    ○木下委員 栗田君と親しくして、告発当時から、秘書の若菜が栗田君のところを去るまで一緒におつてしよつちゆう出入りしておつたという小名という新聞記者、それから秘書の若菜という人たちが、はつきり告発の取下げについて取引をしたのだということを述べております。だから私は栗田君の告発事件じやなく、その告発の取下げに関連して起つた新たなる別種数の刑事被疑事件についてお調べになつたかどうかお聞きしたのです。ところが私の小名等から聞いておるところでは、それだけの証拠を責任をもつて言つておる小名あるいは若菜等に対して、検察当局は何らの捜査をしてない、これが私としてはふに落ちない。国会でいろいろのスキャンダル事件が問題になつておりますが、保全経済会についても、当法務委員会は、検察当局の捜査権の発動にわれわれの法務委員会が妨げになるようなことをしてはならぬというので、伊藤等を呼ぶことを差控えて、その点ついては、われわれ委員がその方面では相当経験を持つた人たちが多いので、十分に気を配つてつて来ていることは、御承知の通りと思う。さような意味で、私もすぐ新聞に問題になるようなことを軽々しく取扱うものじやないという意味で、今日までじつと事件の推移を三箇月にわたつてながめて来たのでありまするが、あれだけのことを栗田君の身辺に近い関係の者が言つておるのに、その新たにできた問題について十分の捜査権の発動があつたということを聞いておりません。小名も調べられたことなし、若菜も調べられたことなし、しかも小名、若菜等の伝える人等につきましても、そのもみ消し、言いかえれば、告発の取下げに関連して出て来る人々の名前等がああいう人たちから言われております。中村又一君とか、あるいは改進党の現代議士の藤田義光君というような人々が中に介在して、そういうことになつたのだということを彼ら二人ははつきり申しておるのであります。さような事案について検察当局がよそのことのようなふうにして来るというところに、私どもとしては司法行政の面に欠けておるところがあるのじやないかということの疑いを深くするわけであります。その事件は不起訴になりましたが、その事件関係書類等の取寄せを当法務委員会から願つて、よく事案を、白は白、黒は黒ということを国民の納得するようにしたいというふうに考えておりますが、もちろんこの委員会から要求があれば・当時のお調べになつた書類等は御提出されるものと思いますが、さような御用意はありますかどうか、これを一点伺つておきたいと思います。
  45. 井本臺吉

    ○井本政府委員 釈迦に説法で恐縮ですが、恐喝の被害者となるべきものは、金を出すことによつてある程度利益を受ける。自分の身体、生命、財産等について害を加えられるということで、恐れて金を出すということになれば恐喝罪が成立する次第でありますが、検事の取調べの経過におきまして、被告発人側においてさような脅迫に基いて告発関係者に金を出したという点は、調べの結果認められなかつたという結論に達したので、恐喝事件として事件は何ら立件を見なかつたという結論になる次第でございます。たとえば被告発者が告発されたことに対する何らかの手当をするために金を出したということであれば、これはもちろん検察官といたしましてもほつておく事態ではありません。  なお記録の問題でございますが、これはりくつを言うわけではございませんので、刑事訴訟法の四十七条等の趣旨を御勘案いただきまして、これが前例になりますと別にどうということではございませんが、いろいろ関係事件の捜査処置等について検察当局といたしまして困惑することもあるそうでございまして、起訴についての措置が不当であれば、これは検察審査会審査を受ける次第でありますし、もし御懇願申し上げてごかんべん願えるなら、しばらく御猶予をいただきたい、こう考える次第でございますが、またたつてという御要求であれば、帰りまして関係上司の方と相談いたしたいと考えている次第であります。
  46. 木下郁

    ○木下委員 私がそういうことを申し上げたのは、最初から申し上げているように、実質的には島田それがし等々の頼みによつて栗田君が告発したわけであります。だから表向きの告発人は栗田君である。栗田君が不起訴処分に対して検察審査会審査を求めるというのなら、これはあたりまえであります。筋の通つたことである。さような意味で栗田君が取調べの関係書類を見たいというならば、その点は見せるべきものだと思いますが、この事件は、栗田君がその告発の取下げについてまた新たなる不正があるということが側近者から言われている。それが側近者から言われましたのは、今刑事局長のお話になりました、不起訴の決定があつた後に、不起訴の決定が世間に発表され、それが世間に発表されてから二週間以上たつてからこれが問題になつているのであります。だからその後にそういうことと自分の責任において公然とはつきり言つている人たちを調べなければ――前の告発の被疑事件のお調べのときには、そういうことは問題になつていないのです。栗田君が告発を取下げるために不正なる取引があつたということの問題については、木村氏の被疑事件についてお調べになるときには、新たなる被疑事件についてのことでありますから、全然予感もされていない、まだ未発生のことなんです。今、前の告発事件が白と出たから、その意味でこの問題についても云々というお話がありましたけれども、それは全然筋違いだと思います。さような意味で私は新たなる告発取下げに関連する不正な被疑事件についてお調べになつたかどうかを伺つたわけであります。刑事局長はその点についてはお勘、違いをしているんじやないか。またその点前の段の取調べのときに栗田が告発を取下げたから、多少これはおかしいじやないかということを思つたかもしれませんけれども、そのときには、小名あるいは若菜という連中が、新たなる不正事実についての声明というようなことを何にも育つていないときであります。さような意味で伺つたわけでありますが、取調べに当つた検事総長でもなし、検事正でもないから、これ以上言つたところで始まらぬと思いますので、その点については今後に譲ります。  また記録を出すというようなことも、これが濫用されては云々というようなことを心配されているような御口吻がありましたが、これはその記録の提出を要求する人の人格、その人の社会的な地位というような点を考慮すれば、濫用の点はその点において十分防げると思います。私はそういう点において、一つの例があるからすぐ右へならわなければならぬというようなものの考え方自体が、実際の事案に対するはつきりした解決を与えるのに妨げになる、さような点については毅然たる態度を持つていただきたい。また私し申し上げるようなことが国権の最高機関であるこの国会において、よくよくの必要がなければそういうことを申しません。しかしながら、可決行政の面における一つの納得の行かない曇りというものを明らかに解くためには、それが必要なりと信ずればこそ、われわれは言うのであります。さような場合においてはやはり当然御提出あるべきもの、あらねばならぬということを私は考えております。どうかそういう点につきましても十分検討をしていただきたいということを申し上げておく次第であります。
  47. 田嶋好文

    ○田嶋委員 木下さん、それから猪俣さんの御質問に少し関連してお尋ねいたしますが、この間私質問をするから資料を提出してもらいたいことをお願いいたしました。最近いろいろスキヤンダル事件が新聞に報道されることを中心にいたしまして、いろいろ驚くべきことが新聞記事を通じてわれわれの耳に入つて来るわけでありますが、特に法律解釈として承つておきたいことは、この間大阪検察庁の藤原検事長が東京の会同からお帰りになつて、その翌日、新聞記者の質問に対して、造船汚職はどんどんやるのだ、次は播磨造船に手をつけるのだ、こういうことを堂々と新聞に発表しております。その新聞の発表のあつた後、まことにその通りに播磨造船に捜査の手がつきました。それからそのあと最高検の市島さんですか、刑事部長が神戸に参りまして、もう逮捕状が用意されておるのだ、いよいよ逮捕状が出されるのだ、こういうことが新聞に談話として載つておる。その言葉を裏書するがごとく、二日たちますと、播磨造船その他御承知のような大捜査検挙が行われた。こうした行動があつたかないかは別といたしましてこれは事実と符合している。私は言わぬことを新聞は書きやせぬと思う。その通りに行われた。あつたかないかは私は聞こうとするものではございません。言つたか言わぬかをきようは聞こうとする。これはいずれここで聞きますが、今のは要するに職務的な方々から世間に公表されたとき、これはどういうことになりますか。罪は構成しないのか。秘密を漏らした、そういうことが事実あつたとしたら一体どういう罪になるのか、それは許されるのか。これを承りたい。
  48. 井本臺吉

    ○井本政府委員 官吏が職務上知悉した秘密を漏らせば、懲戒その他刑事上の処分を受ける場合があるのでありまして、もちろんこれは許さるべきことではないと思います。ちようどいい機会でありますので、実はこの前田嶋さんから御要望がございまして、市島部長検事及び大阪検事長が新聞に談話を発表したではないか、調べよということでございましたので、私の力で調査いたしました結果を簡単に御報告いたしたいと思います。  これはごく要約して申し上げますと、市島刑事長は、――直接私が事情を聞いたのでありますが、新聞記事に記載されたような談話を発表したことはない。読売新聞の報道した大阪検事長の談話についても、大阪検事長が直接こちらに当時の事情を詳細に述べて来ておりますが、かような事実はないという結論でございます。たとえばこの市島氏の問題などは、政治家などを調べるのに、金の授受があれば金の使途を調べるというのが、これは犯罪捜査の常道であるということを言うたのが、金の使途が陰の人というように伝えられまして、陰の人を調べるというようなことに談話がなつておるというような点もあるようでございます。要するに結論的に申しまするといずれも新聞に書かれたような談話をしたことはないというのが結論でございます。
  49. 田嶋好文

    ○田嶋委員 それはそのまま聞いておきましよう。そうしますと、言つたこともないことを新聞が誤つて報道する、これが事実に符合するということは、まことに重大なことです。この場合新聞の責任というものは法律的にないわけですか。
  50. 井本臺吉

    ○井本政府委員 仮定の問題でお答えするのははなはだ恐縮でございますが、名誉毀損構成要件はいろいろございまして、公益のためにやつて、しかもなおかつ事実に符合しておるというような場合は犯罪が成立しないというのが普通の実情であります。特殊の場合は犯罪が成立するかもしれませんが、普通公益のためにやつたということが推定され事実が証明されれば犯罪を構成しないというわけでございます。
  51. 田嶋好文

    ○田嶋委員 私の言つておるのは、市島さんは言つていないということが事実としてあるわけでしよう、報告が来ているでしよう。言つていないことを新聞が書いたという事実もここにある。事実のあることです。播磨造船の捜査検挙が行われる事前に発表された、この場合のことを聞いておるわけです。
  52. 井本臺吉

    ○井本政府委員 新聞の責任でございますか。
  53. 田嶋好文

    ○田嶋委員 新聞社の責任です。
  54. 井本臺吉

    ○井本政府委員 仮定の問題ではなはだ恐縮なんですが、新聞社には報道機関として報道しなければならぬ責任がありますが、それを公益のために、しかも事実に即して報道するという場合には犯罪を構成しないと私は考えざるを得ません。
  55. 田嶋好文

    ○田嶋委員 事実に即しなかつたら成立するわけですね。今のは即しておりません。これは時間がないので、もう一つお聞きしますが、最近、かつて私たちの経験しなかつたようなことが新聞に堂々と取上げられておる。それはあのスキャンダル問題が出てから何人かの政治家の名前が新聞に麗々しく報道されておる。新聞が露骨に人の名前を表示して書く、こうした事実に対して犯罪は構成しないでしようか。名誉毀損はどうですか。こういうことが堂々と許されることになると、たいへんなことだ。新聞社の方を前に何ですが、これは問題になつて来る。法律の解釈としてどうですか。
  56. 井本臺吉

    ○井本政府委員 田嶋先生、法律家でよく御承知で、私に聞かれるより、田嶋先生の力が詳しいのじやないかと思います。たびたび判例がでておりまして、条文通りお答えするよういたし方ないのでございます。公益に従つて報道しておること、事実に即しておるということであれば犯罪を構成しない。違つてつて、違つておることを知りながら報道する、そうして人の名誉を毀損する……。
  57. 田嶋好文

    ○田嶋委員 それでは後日にゆだねましよう。
  58. 小林錡

    小林委員長 本日はこの程度にとどめておきます。  明日は午後一時より理事会、午後一時三十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後四時一分散会