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1954-03-09 第19回国会 衆議院 法務委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月九日(火曜日)     午前十一時一分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 佐瀬 昌三君 理事 田嶋 好文君    理事 花村 四郎君 理事 吉田  安君    理事 古屋 貞雄君 理事 井伊 誠一君       林  信雄君    本多 市郎君       猪俣 浩三君    木原津與志君       木下  郁君    岡田 春夫君  出席政府委員         法務政務次官  三浦寅之助君         検     事         (民事局長)  村上 朝一君         法務事務官         (人権擁護局         長)      戸田 正直君  委員外出席者         総理府事務官         (調達庁総務部         長)      山内 隆一君         総理府事務官         (調達庁労務部次         長)      沼尻 元一君         検     事         (刑事局参事         官)      下牧  武君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 三月八日  裁判所法の一部を改正する法律案内閣提出第  七九号)  民事訴訟法等の一部を改正する法律案内閣提  出第八〇号) 同月三日  仙台法務局津谷出張所存置に関する請願(小山  倉之助君紹介)(第二八一一号)  戦犯者釈放に関する請願田中龍夫紹介)(  第二八七六号)  広島法務局中条出張所存置に関する請願(高橋  禎一君紹介)(第二九二七号) 同月五日  高知地方法務局檮原出張所存置に関する請願(  長野長廣紹介)(第三〇一四号)  戦犯者釈放に関する請願淡谷悠藏紹介)(  第三〇一六号)  仙台法務局広瀬出帳所存置に関する請願(庄司  一郎君紹介)(第三〇七七号)  神戸地方法務局家島出張所存置に関する請願(  堀川恭平紹介)(第三〇七八号) の審査を本委員会に付託された。 同月三日  戦争受刑者釈放等に関する陳情書  (第一三六九号)  戦争犯罪人全面的釈放並びに抑留  同胞の引揚完了促進に関する陳情書  (第一三七  〇号)  津地方法務局村主出張所存置に関する陳情書  (第一  三七二号) 同月六日  戦時混乱期における不法利得者に対する臨時措  置法等の立法に関する陳情書  (第一四九九号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  交通事件即決裁判手続法案内閣提出第二七  号)(予)  裁判所法の一部を改正する法律案内閣提出第  七九号)  民事訴訟法等の一部を改正する法律案内閣提  出第八〇号)  人権擁護に関する件     ―――――――――――――
  2. 小林錡

    小林委員長 これより会議を開きます。  裁判所法の一部を改正する法律案及び民事訴訟法等の一部を改正する法律案、以上二案を一括議題とし、それぞれその趣旨説明を聴取することにいたします。三浦法務政務次官
  3. 三浦寅之助

    三浦政府委員 裁判所法の一部を改正する法律案について、提案理由説明いたします。  この法律案改正点の第一は、民事に関する簡易裁判所事物管轄範囲を拡張して、裁判所間の権限の分配の適正化をはかつたことであります。  御承知のとおり、裁判所における民事訴訟の第一審の新受件数は終戦後年年増加の一途をたどつているのでありまして、昨年の全国地方裁判所における総件数について見ますに、戦前十箇年の平均年間件数の三倍以上に達しており、これがため近時地方裁判所は、各地とも著しく事務負担加重を来し、事件の迅速な処理がはばまれる結果となつているのであります。  ところで他面、簡易裁判所における民事訴訟事件負担量を見ますと、昨年の全国簡易裁判所の新受件数は、戦前十箇年の区裁判所平均年間件数の約五分の一にすぎないのでありまして、これを地方裁判所負担量と比較いたしますと、民事訴訟第一審新受件数の比率は、戦前は、区裁判所八割五分、地方裁判所一割五分であつたのに対し、昨年は、地方裁判所七割三分、簡易裁判所二割七分と逆転しており、簡易裁判所は、民事訴訟に関する限りむしろ閑散ともいうべき状態となつているのでありまして、この傾向は今後ますます強くなつて行くものと予想されるのであります。  もとより、裁判所法のもとにおける簡易裁判所は、裁判所構成法のもとにおける区裁判所とは、多少その設置趣旨を異にする点がないわけではありませんが、わが審級制度を大局的に観察するならば、簡易地方の両裁判所間に見られる以上のような不均衡を是正して、民事第一審事件を適切に配分することが、簡易裁判所設置本旨に沿うゆえんであつて、これにより地方裁判所における事件の渋滞を解消することができ、また簡易裁判所事件上告審高等裁判所である関係上、ひいては、最高裁判所負担調整にも寄与することができると考えられますので、これらの目的を達するため、簡易裁判所事物管轄範囲を拡張する必要があると考えるのであります。  しかして、現存簡易裁判所については、昭和二十五年法律第二百八十七号による裁判所法改正の結果、訴訟物の価額が三万円以下の事件につき管轄権を有するものとされておるのでありますが、最近の物価指数は、右改正当時のものと比較して、すでに四割程度の上昇を示しておりますし、また戦前区裁判所が千円以下の事件につき権限を有していたことや、特に最高裁判所における民事上告事件審判特例に関する法律が近く失効するのに伴い、最高裁判所負担が増大することをあわせて考えますと、この際簡易裁判所事件限度額を二十万円程度まで増額することが適当と考えられるのでありまして、この法律案では、裁判所法第三十三条の規定をその趣旨に改めることとした次第であります。  次に、簡易裁判所事物管轄範囲をこのように拡張するとしますと、簡易裁判所裁判官任用資格等につき、当然考慮を払うべき必要が生じて来るわけでありますが、簡易裁判所制度につきましては、右のほか根本的に検討を要する事柄が少くないのでありまして、これらはいずれも裁判所制度改善に関する問題の一環として、さらに慎重に研究いたしました上で、恒久的措置を講ずるのが相当であると考えるのであります。従いまして、それまでの暫定的措置としては、特定の簡易裁判所民事訴訟に関する事務を、その所在地を管轄する地方裁判所の本庁の所在地または支部の所在地にある簡易裁判所移転し、事務移転を受ける裁判所相当数の有能な裁判官を配置することによつて事物管轄の引上げにより生ずる不都合を除くことができるようにするとともに、事務移転される裁判所及び事務移転を受ける裁判所指定は、最高裁判所規則をもつてすることとして、この法律案の附則で以上の趣旨規定し、これに伴う必要な経過的措置を定めた次第であります。  改正点の第二は、家出調査官少年調査官とを統合して家庭裁判所調査官として、家庭裁判所における家事事件及び少年事件の適正迅速な処理をはかつたことであります。  御承知通り家事調査官家事審判法で定める家庭に関する事件審判及び調停に必要な調査をつかさどり、また少年調査官少年法で定める少年保護事件審判に必要な調査その他少年法で定める事務をつかさどるものといたしまして、いずれも家庭裁判所に置かれているのでありますが、この家事調査官少年調査官とはそれぞれ時期を異にしてその制度が設けられ、まつたく別個独立の官職として定められたまま今日に及んでおります。  しかしながら、家事事件少年事件との間には、申し上げるまでもなく、事柄性質上きわめて密接な関連性があるのでありまして、この両種の事件をあわせ取扱うものとして家庭裁判所が特に設けられました根本の意義もここにあるものと考えられるのであります。これまでの実績に徴しましても、少年事件の中に複雑な家庭関係の問題を蔵している事案あるいは逆に家事事件の中に少年保護の問題を伴つている事案がきわめて多数を占めているのであります。しかもこれらの事件調査に従事する家事調査官少年調査官とは、ともに事実の調査に当ることを主たる職務としているのでありまして、その活動が密接に相関連することの多いこの両者を一体化してその調査活動機動性を与えることの必要性が痛感されるに至つたのであります。  そこでこの際、家事調査官及び少年調査官調査事務の有機的総合的な運営を可能にし、その機能を一層十分に発揮させる道を開くことによりまして、家庭裁判所における家事事件及び少年事件のより適正迅速な処理をはかり、家庭裁判所がその本来の使命を十分に果し得るようにするため、裁判所法第六十一条の二以下数条の規定を改め、家事調査官少年調査官とを統合して家庭裁判所調査官とし、家事調査官補少年調査官補とを統合して家庭裁判所調査官補とすることといたした次第であります。  以上がこの法律案を提出いたしました理由であります。何とぞよろしく御審議のほどをお願い申し上げます。  次に民事訴訟法の一部を改正する法律案について提案理由説明いたします。政府は、最高裁判所における民事上告事件審判特例に関する法律臨時特例法として制定された趣旨にかんがみ、かねてから法制審議会に諮問して民事訴訟手続全般特に上訴制度改正について検討を加えて来たのでありますが、上訴制度改正は、裁判所機構とも密接に関連いたしますので、この見地からも問題を検討する必要があるものと認めまして、昨年二月さらに法制審議会に対し裁判所制度改善に関し新たに諮問を発し、民事訴訟法改正と並行して調査研究を進めて参つたのであります。同審議会においては、最高裁判所機構の問題を中心として熱心に審議を重ねたのでありますが、何分にも事柄わが国司法制度の根幹に触れる重大な問題でありますため、今日までのところまだ裁判所機構問題について最終的結論を見るに至らず、今後なお審議を継続するごととなつたのであります。しかしながら最高裁判所における民事上告事件審判特例に関する法律は、御承知通り本年五月末日をもつて失効することとなつておるのでありまして、もしこの際同法の失効に備えるための何らかの善後措置が講じられないといたしますと、最高裁判所負担が著しく増大し、ひいてはわが国裁判制度の運用に重大な支障を来す結果となりますことは明らかでありますので、法制審議会におきましても、右の事態に備えてこの際何らかの善後措置を講ずることの必要を認め、さしあたり民事訴訟法の中で最高裁判所負担調整と直接間接に関連のある規定改正を加えることが最も時宜に適したものであるとの結論に達したのであります。  この法律案は、右に申し述べました法制審議会結論を基礎として立案いたしたものでありまして、この案に盛られております民事訴訟法改正の要点は、次に述べる四点であります。  まず第一は、上告手続合理化をはかつたことであります。現行民事訴訟法第三百九十四条は「上告ハ判決ガ法令ニ違背シタルコトヲ理由トスルトキニ限り之ヲ為スルコトヲ得」と規定して原判決法令違背一般上告理由としているのに対し、改正案は、原判決憲法違背及び判決影響を及ぼすことが明らかな法令違背上告理由とすることに改めるとともに、上告に関する適法要件原裁判所に審査させ、上告適法要件を欠く場合には、原裁判所においてこれを却下することができることとするものであります。御承知通り最高裁判所における民事上告事件審判特例に関する法律のもとにおいては、最高裁判所は、上告理由のすべてについて調査をする必要はなく、上告理由中原判決憲法違反判例牴触及び法令の解釈に関する重要な主張を含むものだけについて調査し判断すれば足りることとされており、従つて最高裁判所に対する上告理由は、形式的にはともかく実質的には制限を受けていたということができるのでありまして、この際この特例法趣旨を恒久化してこれを民事訴訟法中に規定すべしとの有力な意見もあるのでありますが、この改正案においてはかような上告制限を維持することを避けたのであります。ただ現行の第三百九十四条は法令違背一般上告理由といたしております関係上、従来の訴訟の実情におきましては、原判決結論を左右する見込みのないいわば枝葉末節に類する法令違背理由とする上告事件が少くなく、そのため、当該事件終局的解決が不当に引延ばされることはもとより、上告裁判所に無用の負担をかけ、ひいてはこれが全般的な訴訟遅延の一因をなしていたように見受けられるのでありまして、かようなことは上告制度本旨に沿わないものと考えられるのであります。よつてこの改正案では、憲法以外の法令違背についての上告理由刑事訴訟法における控訴理由と同様、判決影響を及ぼすことが明らかなものだけに限定した次第であります。また、上告に関する適法要件原裁判所において審査させることといたしましたのは、過去における上告事件の実際を見ますと、上告期間経過後にされた上告や、上告理由書が所定の期間内に提出されない上告等のほか、上告理由書が提出されても、単に原判決の事実誤認のみを主張して法令違背をまつたく指摘しないものまたは法令違背を主張していても、単純な訓示規定違背等原判決結論に全然影響のない法令違背を主張しているものが少からずありますので、このような上告適法要件を具備しないことの明瞭な上告は、原裁判所においてこれを却下することができることとし、これにより事件解決を促進して正当な権利者に対する保護の万全を期しますとともに、上告裁判所負担調整してその本来の使命遂行に遺憾なからしめようとする趣旨であります。  改正点の第二は、仮差押えまたは仮処分に関してした判決に対しては、いわゆる特別上告のほか、上告を許さないこととしたことであります。申すまでもなく仮差押え仮処分制度は、当事者間の法律上の争訟を終局的に解決することを目的とするものではなく、本案の判決前にされる断定的な処分であり、しかも特に迅速な処理を必要とするものでありますから、かような事件についてまで三審制による上訴手続を認める必要がないと考えられますので、この改正案では、仮差押え仮処分事件については上告制限することとしたのであります。  改正点の第三は、仮執行宣言付判決に対する上告提起の場合における執行停止の、要件を加重したことであります。現行民事訴訟法第五百十二条に関しましては、従来の実務上の取扱いによりますと、仮執行宣言付判決に対し上告提起されました場合、上告人原判決執行停止申立てをして上告裁判所の定めた保証を立てますと、裁判所は、別段の疎明がなくても執行停止の決定をしなければならないこととされているようであります。しかしこの取扱いは、控訴審において勝訴した当事者の満足を不当に遅らせる点からいつて、妥当を欠くものでありますとともに、敗訴当事者執行を遅らせる目的だけで上告提起し、そのため理由のない上告事件増加を招いているような傾向もないとは言いえないのであります。上告審法律審であつて原判決破毀率がきわめて低いことをあわせ考えますと、控訴審判決執行力を強化することは、正しい勝訴者敗訴者の不当な訴訟引延ばし策から守るとともに、上告裁判所負担調整にも役立つわけでありまして、本改正案は、仮執行宣言付判決に対する上告提起の場合における執行停止要件として、執行による償うことのできない損害の発生の疎明を必要とすることとしたのであります。また、これに関連しまして、特別上告または再審訴え提起があつた場合の執行停止要件につきましても、権衡上これを加重するのが適当でありますが、この場合は、性質上むしろ請求異議訴え提起された場合と同様に考えるのが至当でありますので、特別上告及び再審訴え提起の場合に関して規定した第五百条を請求異議訴え提起された場合に関する第五百四十七条にならつて改めることとしたのであります。  改正点の第四は、調書及び判決方式等合理化をはかつたことであります。これは、調書及び判決方式等合理化して裁判所事務をできる限り近代化することにより、最高裁判所を含む各級裁判所裁判官等事務処理上の能率の向上をはかろうとするものであります。元来民事訴訟法調書に関する規定は、大福帳式訴訟記録を前提とするものでありますから、調書形式内容合理化を実現するためには、新たな構想のもとに規定を整備することが必要となつて来るのであります。しかしながら調書に関する事柄は、本来訴訟法のうちでも特に技術的な事項でありまして、裁判官弁護士等実務関係者がその経験と専門的な知識を活用して調査研究したところに基いて最高裁判所がこれを決定することが最も妥当であると思われますし、また性質上も最高裁判所規則制定権範囲に属する事項であると考えられますので、刑事訴訟法におけると同様、法律には、ただ原則的事項のみを規定し、細目最高裁判所規則の定めるところにゆだねることとしたわけであります。また、判決につきましても、右と同様の趣旨から、法律には判決内容として欠くことのできない重要な記載事項について規定を設けるにとどめ、その方式等細目については最高裁判所規則の定めるところにゆだねることにいたしました。  以上がこの法律案における民事訴訟法改正主要点でありまして、この法律案はなおそれ以外に、非訟事件手続法私的独占禁止及び公正取引の確保に関する法律及び中小企業等協同組合法の一部改正をも含んでおりますが、これらはいずれも以上に述べました民事訴訟法改正趣旨沿つて、これらの法律中の関係規定に所要の整理を加えようとするものであります。  以上がこの法律案提案理由の大要であります。何とぞよろしく御審議のほどをお願いいたします。
  4. 小林錡

    小林委員長 これにて趣旨説明は終りました。両案に対する質疑は、これを後日に譲ることといたします。
  5. 小林錡

    小林委員長 次に人権擁護に関する件について調査を進めます。発言の通告がありますから、順次これを許します。林信雄君。
  6. 林信雄

    ○林(信)委員 前回の委員会におきまして、福岡小倉市における駐留軍関係労務者のピストルによる日本人射殺事件について、その調査方を求めておきましたが、その結果が判明いたしておりますならば、この際伺いたいと思います。
  7. 戸田正直

    戸田政府委員 ただいまのお尋ねのことにつきましては、二月六日付の朝日、毎日、西日本新聞記事によりまして情報を認知いたしまして、現地の福岡法務局におきまして調査中でございましたが、先日の林委員からの御質問がございましたので、重ねて調査を指示いたしておりますが、まだ報告が詳細に参つておりませんけれども、二月二十二日に池田豊に対する業務上過失致死事件として、起訴せられたという報告を受けておる次第でございます。
  8. 林信雄

    ○林(信)委員 結果といいましても、これは人権擁護局で取扱われたのではないことはわかるのですが、いずれにしましても検察庁のその処置が判明しておりまする関係から、内容がある程度はおわかりになつておるのだろうと思うのです。ただいまお話の二月六日の朝日新聞記事、これは新聞記事に出ていたことは承知しているのですが、新聞記事そのままに受取つていいものであるかどうかも考えなければなりません。そこで当局の、現在これが真実であるというところはどういう事実であるのか、これをまず伺いたいと思つてお尋ねをしておるのであります。その取扱い結論だけでなく、事実について、おわかりの範囲において御説明してもらいたい。
  9. 戸田正直

    戸田政府委員 新聞記事を見ますと、その要旨小倉小熊野駐留軍山田キヤンプ特別警備員池田豊(当二十七年)が昭和二十九年二月五日午後七時三十分ごろ小倉小熊野駐留軍山田キヤンプ地区内の標柱十二号付近を巡回中、同キヤンプ正門より柵伝い百八十メートル離れた暗がりの柵の外側でしやがみ込んで話し込んでいる二人の男を発見、誰何したところ逃げ出したので、威嚇のために所持していたカービン銃を空に向け三発発射したが、三発目を発射するとき、足をすべらし転倒し、そのため二人のうち一人小倉北方幸鈴木雄方吉田保夫(二十四歳、同キヤンプ電工)にたまが当つて同人は即死したというのが、新聞によりまする事実の要旨でございます。これにつきまして、ただいま福岡法務局調査をいたしておるのでございますが、調査の詳細の報告が参つておりませんが、今までに大体わかりましたところでは、被告人駐留軍警備員である池田豊小倉小熊野駐留軍芦屋航空隊弾薬庫警備員として、同弾薬庫警備に従事しておりましたところ、昭和二十九年二月五日同部隊から貸与されたカービン銃及び実弾十五発を携帯して右弾薬庫北側一の二の受持ち区域山道を勤務中、同日午後七時三十分ごろ付近の一般人の立入り禁止になつている弾薬庫境界線に設けられた柵の外側に二人の者がかがんでいるのを発見したので、これを誰何したところ逃走した。そこでカービン銃威嚇のために発射したのでありますが、三発目に足をすべらして、それが吉田保夫に当つて同人は即死したという、大体新聞記事と同様な事実が判明いたしておる次第であります。
  10. 林信雄

    ○林(信)委員 そうしますと、新聞記事と同じだというその説明によると、本人が足をすべらしたために、威嚇発砲するものが誤つて被害者に当つたということになつておるようですが、それは、事実は小説よりも奇なりで、いろいろな場合が起るとは思うのですが、カービン銃というのは、どんな銃なんですか。
  11. 戸田正直

    戸田政府委員 詳細は、見ておりませんのでわかりませんが、駐留軍の持つておる小銃をカービン銃と言うそうであります。
  12. 林信雄

    ○林(信)委員 そういう弾薬庫警備に当る特別警備員というのは、その使用者はだれになるのですか。たとえば日本政府からもつと肉体的な労務をやります労務者を提供しておるやに承つておりますが、特別警備員というものはやはりそれと同じようなものなんでありましようか。仕事の内容は違うけれども、法律的にいえば同じような、日本から提供する労務者なんでしようか。その労務者が提供せられれば、駐留軍において一切の指揮命令権を有することになるのでありましようか。現在被疑者になつております池田豊労務者としての地位、あるいは労務に服する場合の駐留軍との関係等について御調査になつておりましようか。あるいはこれらのことは、率直に申しまして調達庁のどなたかが詳しいと思うのですが、出席を求めておりますが、まだ来れないので、人権擁護局において関係ありとお考えになつて調査になつておりますならば、御存じの範囲において御説明を願いたいと思います。
  13. 戸田正直

    戸田政府委員 ただいまのお尋ねにつきましては、私としてはまだ十分調査していないのでわかつていませんが、福岡法務局におきましても、この点やはり関連いたしておりますので、調査いたしておると考えております。また調査いたしますように指示いたしたいと考えております。
  14. 林信雄

    ○林(信)委員 これは御調査範囲によつて、その事故の起つた場合の池田豊のとりました措置、具体的に申しますと、現場の状況からして、柵外であるが一定の指定区域というその区域範囲においても池田豊として誤りがなかつたものでありましようか。及び威嚇発砲するということについても、これは適当であつたのでありましようか。私はまつたく知らない立場から伺つて、実は結論に達したい。結論については私はある程度意見の交換もしてみたいと思うのですが、その点いかがでございますか。
  15. 戸田正直

    戸田政府委員 先ほど申しましたように、まだ調査が完了いたしておりませんので、結論はちよつと申し上げかねますが、正当防衛あるいは緊急避難、御承知の刑法三十六条、三十七条以外に武器を使用することは、人権擁護上適切ではないのじやないかという見解をただいまのところ持つておる次第であります。
  16. 林信雄

    ○林(信)委員 刑法三十六条や三十七条にただちに武器携帯の関係はないので、それは、状況によつてつておるものか使用されるかしなかという問題だろうと思うのでありますが、これは前提として持たせられておつたといわれるのですから、一応本人としては、適当に用い得るものだと考えて持つてつたのだろうと思います。これも問題になり得ると思うのですが、持ち得るものは持ち得るとして、その銃を使つて威嚇発砲することがその場合適当であつたかどうか。あるいはその威嚇発砲をする前提となりました、柵外であるけれどもある地域内に入つておつたというその事柄も正しいのであるかどうか。及び誰何して逃走したというのですが、誰何して逃走すればただちに威嚇発砲をしてよろしいということになつてつたのか。あるいはその誰何の程度、相手方の行動についても制約されるものがあつたのじやないか。これは結局、過失によつて死んだというその過失行為とは直接は関係しないかもしれませんが、私は、過失によつて死んだということよりは、その前提であるところに問題があると思つておるのであります。結論の方よりは、その辺が実は私のお尋ねをし、言うべくんば問題になり得るところと考えておるわけであります。従いまして、その事故の起る直前の状況といいますか、その辺が関係事項として調査されておりますならば伺いたい、こういうことであります。
  17. 戸田正直

    戸田政府委員 調査をいたしたと思うのでありますが、まだ詳細の報告は参つておりませんので、お答えとしても勢い仮定論的のものになるのでありまして、それらに対する結論を断定するわけには参らぬのでありますが、もしかりに新聞の報ずるがごとく、単にしやがみ込んで話しておつた、そこでこれを威嚇するために発砲をした、この程度の事実だけだといたしますと、かような威嚇のために発砲をいたしますことは、職務行為の範囲に入らないと思いますので、これは行き過ぎの行為であるというふうに考えております。
  18. 林信雄

    ○林(信)委員 それは特に日本政府と米軍との間に協定か何かありまして、その協定事項に違反しておるからといつたような御調査の結果なんでしようか。それとも単に柵に近づいておるという状況からして、これを威嚇することが不穏当であるといつたようなところから来る御意見なんでしようか。私はそれが規定されているかいないかを、これは調達庁関係に確かめてからにしようと思うのですが、その辺も御存じのようですから、御存じの範囲について、その辺の協定等の関係を御説明願いたいと思います。
  19. 戸田正直

    戸田政府委員 私の考えといたしましては、特別警備員も一般の労務者と同じ資格であるというふうに承知いたしておるのであります。そこでただいまの日米行政協定であるとか合同委員会等の詳細を私はわかりませんので、それらの法的と申しますか根拠等につきましてはお答えいたしかねるのでございますけれども、私たちの考えとして、そうした警備員威嚇のために発砲するというようなことは、人権擁護上不穏当であるというような考え方から、先ほどお答えいたしたようなわけであります。
  20. 林信雄

    ○林(信)委員 あなたもこの警備員の持つていた銃が米軍から支給されたものであることは御調査の結果御存じだろうと思うのですが、そうしますとそういうものは何らか必要があるからこれは支給されておるので、場合によつたらただちに射殺し得るというような指令もあり得るかもしれぬ、これが日本政府との間にどういう規定になつておるかはまだつまびらかではありませんが、だからそういう射殺をするといつたようなものから比較いたしますれば、今度の場合は本人の意識するところはまだ威嚇程度ですから、程度において低いと考えられます。その程度のことは、これはもう銃を支給せられますこと自体を考えてもある程度予想されておるところなんです。言いかえますれば、これは起つた場合にそれを不穏当というよりは、そういう制度があるということをむしろ第一に問題にしておらなければならない。実は問題が起つて、初めてであるから知りませんでした、と言えばそれつきりかもわかりませんが、そういう事態があることを御存じであつたかどうか。私、悪くは申しませんが、実はそういう意味において事が起つて初めて知りましたと言われては、これはうそになります。というのはこれも正直なところ、どこに、いつ、どんなことがあつたとははつきり私は記憶いたしませんが、同様な出来事が過去においても、非常に多い数じやないけれども、何度かあつたことをうろ覚えに覚えておる。そうしますとこれらのことが、当局も初めての事態ではないことになる。その根拠は別にいたしましても、繰返されることをすでに予想されておつたということになると思うのです。この辺について従来どういうふうにお考えになつておられたのでありましようか。ちよつと問いが錯雑して参りましたが、要は駐留軍よりそういう凶器――あちらでは凶器とは言わないでしようが、われわれは具体的に育つてカービン銃が支給されて、それが職務上必要なものとして携行されて、日本政府の提供する労務者がそれを使用しておつたということについて、これは人権擁護の面より当然留意し、何らか特別の調査研究もされなければならなかつたのではないかと思いますが、その点について承りたいと思います。
  21. 戸田正直

    戸田政府委員 たいへん不注意と申しますか、それらの点につきまして日米とのとりきめ等についても、私どもは調べておりませんので申し上げることはできませんが、ただ昨年の十一月に八王子におきましてやはり今回と同様な事件があつたようであります。その節米軍側に、警備員の武器使用について、発砲は刑法三十六条、三十七条に定められた、すなわち正当防衛緊急避難に限る。それから武器の使用については十分な訓練をするというようなことの申入れをしたように承つております。従つて今回の場合におきましても、やはり武器の使用については正当防衛緊急避難、これらの範囲に限られるのではなかろうか。かような意味で先ほど申し上げたようにお答えをいたしておるのであります。今後これらの点につきましても十分留意をいたしまして、いろいろ内容等につきまして調査いたしたいと考えております。
  22. 林信雄

    ○林(信)委員 お話のことは繰返して申し上げますように、調達庁でなければ徹底しないと思いますが、お答えのように刑法の正当防衛に相当するような場合は、いわば規定をまたないのかもしれません。駐留軍の態度としては当然そうあらねばならぬ、これを要求したからといつて大したことではない。その後につけ加えておられました、特に訓練その他において注意するということの方が大事ではないですか。もつともそれも日本政府より要求しておるような範囲で訓練されただけでは足りないと思いますが、いやしくも威嚇発砲するときにすべつてころんで人に当るような、そういうまずい執務をやらないような訓練をしてもらうという方が重要ではないかと思うのです。そういう意味におきまして平素よりこの危険な武器を持つて日常の職務といたしております者の訓練なり、執務態様というものは、労務者を提供するばかりが日本政府の務めだといつてしまうことでなくて、日本政府でいま少しく突き進んだ指導も監督もでき得るのではないか。これも調達庁でなければならぬと思うのですが、かような状態ですから、これはやはり人権擁護の面から従来においてもはや今日以上の十分な調査がなされておつてしかるべきだ。決してそれがよ過ぎるわけではなかつたと思うのです。さような点について必ずしもつつ込んだ御調査があつておらないかのように思われるのはいささか遺憾です。しかしすでにかように例を重ねて参つたのでありますから、これはひとつこの機会に私の疑問にしておりますようなところを当局もともに疑問にしていただきまして、人権擁護の面より、ひいては日本政府労務者提供の制度それ自体、その場合の当局の注意しなければならない点まで推し及んで考えて、連絡をとつてもらいますれば、これは結局ひいて貴重な人命擁護のことになつて来ると思うのであります。広い意味の人権擁護の重要な事柄であろうと思うのでありますから、これらの御調査をともに願い得るものであるかいなかをお伺いしておくというような程度にとどめたいと思います。御意見がありましたら……。
  23. 戸田正直

    戸田政府委員 今回の事件に関しまして再びかようなことのないように合同委員会にかけまして、さらに武器使用について注意をいたしますよう人権保護上遺憾のないように申入れをいたしたい、かように考えております。
  24. 林信雄

    ○林(信)委員 先刻来質疑でしばしば申し上げておりますように、私のこの結論を出すために聞きたい重要な部分は、調達庁関係でその答えあるいは説明のできる者が参りましたら、そのときに聞きたいと思いますから、人権擁護関係については一応これで打切ります。
  25. 木下郁

    ○木下委員 今の林委員からの質疑の問題で、林委員はいささかお調べなんかが手ぬるいように感ずるということなんですが、聞いておると人権擁護の方の人の調査はいささかどころではなくて、非常に手ぬるい感じ、物足らず思われるわけであります。この事件が起つたのは二月の五日、もう一箇月以上もたつているのであります。問題は人権擁護というのは、ただ人身売買とか――そういうことも重大なことでありますけれども、日本人がアメリカの方と関係がある、それも通訳をしておればそれを何か非常に特権のように思つて来ておるというような姿が過去八年間も続いて来ておる、アメリカ側の方においても占領政策というようなものはほとんど筋が通らぬことばかりを繰返して来ておる、一々私は例をあげませんけれども、日本の法規が保てぬようになつている今日の姿についても、アメリカのまつたく筋の通らぬやり方というものがたくさんあることが、やはりその因をなしておる点もたくさんあると思う。今のような点こそ常識的に新聞記事を見ただけでも本人に非常な過失がある。それは想像のつかぬようなこと、柵内に入りかかつたなら別ですが、柵の外にいる人間を駐留軍におつて鉄砲を持つているからというので威嚇的に誰何した。逃げようとしたらすぐ鉄砲を撃つ、これは常識はずれです。本人に責任のあることは大体筋が通りますけれども、それを使用しておるアメリカの駐留軍が一体刑事的にも民事的にもどの点まで責任のあるものかどうか。それから死んだ遺族に対しては、人権擁護の面で本人に対しては民事的にはこういう追究権もあるぞ、刑事的な追究もこういうふうにすべきものである。またそれが一つには法律的にはアメリカの使つている側の方にも、請求権があるのだ、あるかないかは裁判しなければわからぬが、それを請求しようとするならばこういう形でやるべきものだというところまで親切に事案をお調べになつて、また知らせてやるというくらいのところまで積極的にやつていただきたいと思います。きようのお話ではほとんど新聞記事以上にお調べはできておらぬ、もう一箇月もたつているのですから、そういうふうな意味でこういう問題ことにアメリカの基地の関係なり、こういうものは正しいことは一歩も譲らず、事案を明瞭にしていただきたいということをお願い申し上げておきます。
  26. 小林錡

    小林委員長 それでは本案に対する質疑は午前中はこの程度にとどめ、午後一時から再開することとしてしばらく休憩いたします。    午前十一時五十五分休憩      ――――◇―――――    午後一時五十二分開議
  27. 小林錡

    小林委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  人権擁護に関する件について調査を進めます。発言の通告がありますから、これを許します。林信雄君。
  28. 林信雄

    ○林(信)委員 午前中に引続く問題ですが、調達庁の山内総務部長にお伺いしますが、具体的な問題といたしましては、本年二月五日の夜、小倉市の通称山田部隊、これは芦屋航空部隊の弾薬庫のある場所の部隊でありますが、この部隊の特別警備員池田豊、二十七才が、同夜さく外にある二人の男を誰何したところ、相手の男が逃げ出したので、携帯いたしまするカービン銃威嚇的に発砲し、その際その一発が、今日被害者となりました吉田保夫、二十四才に命中して、これに基いて死亡するに至つたという事実に関係して来るのでありますが、まず前提といたしまして承りたいと存じますることは、この特別警備員は、日本政府より駐留軍に提供してある労務者であり、われわれの乏しい経験で知り得ているところでは、この労務者関係は、警備の分担は別といたしまして、その人選等は日本政府において責任をもつて提供しておるやに承つておるのでありますが、それらの労務者はどういう種類のものがあつて、実際取扱い上どういうふうにお取扱いになつておりますか。またその基本的な法規、言葉が適当かどうか知りませんが、準拠法といつたようなものは何であるか。いわば駐留軍に対しまする労務提供の法的また実際的な問題を一応御説明願いたいと思うのであります。
  29. 山内隆一

    ○山内説明員 お答えいたします。発砲した駐留軍警備員は、調達庁を通じて米軍に提供してある労務者であることは間違いありません。それは、御承知通り、行政協定に基きまして、米軍の要求に基いて提供することになつておりまして、その職場々々に向く適当な人を選定して、雇用契約の上米軍に提供するということになつております。この労務者に対しては、もちろん提供した以上は軍に実質的な管理権がありますから、軍の方で十分各職場職場に応じた指導もし、訓練もし、注意もしていることはもちろんでありますが、日本側としてももちろん雇用主としての管理の責任がありますから、こういう方面については十分注意し訓練もいたしておつたはずでございますが、今度のような問題を起したことはまことに残念にたえないところであります。なお、今の御質問は直接の問題ではありませんが、今度の事件は、被害を受けた方もやはり駐留軍労務者であることがあとになつてから明らかになつたのであります。普通のよくありますところの、駐留軍関係の軍の構成員とかあるいは使用者によつて第三者に加えられた被害とはちよつと事情が違つて、どちらも正式に日本政府から提供してある労務者であつたということが他の事件と多少かわつていると思います。
  30. 林信雄

    ○林(信)委員 今のお答えによると、具体的な事例があなたの方では大分詳しくおわかりになつているようですが、そのお答えになつておりまする事件の事実の全貌について一度明らかにしていただきたい。
  31. 山内隆一

    ○山内説明員 お答えいたします。実は、私どもの方におきましても、この事件の正確な内容というものはまだつかんでおりませんが、ただ概略の報告によりますれば、事件の起きたのは昭和二十九年二月五日の午後七時三十分加害者は池田豊という人でありまして、二十七才、これは特殊警備員としての正式な任務を持つて、公務執行中に属しておるものであります。被害者の方は吉田保夫と申しまして二十四才、これは電気技術者であり、これも先ほど申しました通り駐留軍労務者であつたわけで、これはその当時夕方でありますから、もちろん相手が自分たちのような同じ駐留軍労務者であるということは承知していなかつたものと想像されます。それで加害者の池田豊が立哨中、二人連れの者がその区域の周辺、私どもの聞いたところによれば、その今の立哨中の人から五メートルくらい離れている場所の草原にたたずんでおつた。そこでこの警備員は怪しいと思つて三回誰何したが全然返事がない。それでおどかしの意味で上の方に向けて二回威嚇射撃を行つた。ところがそのうち一名は逃げましたけれども、他の一名は逃げようといたしません。それで加害者は三回目の威嚇射撃をしようとしたところが、足元がすべつたと本人が言つているそうであります。ただそれがはたしてその通りであるかどうかということは、また確信を持つて申し上げるまで資料がありませんが、すべつたために今度は不幸にして被害者に当つた。腹部の第十肋骨から肝臓を通貫して即死した、こういうふうに聞いておるのであります。しかしこれは一応の本人の言い分等によるごく簡単な速報程度でありまして、問題が問題でありますので、目下場所が区域の外であつたために小倉の市警で今調査中に属しておりまして、そんな関係でまだ十八条の不法行衣に基く損害賠償としての手続の進行には入つておりません。いろいろ原因なり実情なりが十分明らかにならなければ、申請をいたしましても、なかなか米軍との折衝がつきません。そんな関係でまだ進行しておりません。できるだけ早く実情を明らかにして、この問題を解決いたしたいと考えております。
  32. 林信雄

    ○林(信)委員 そうしますと、先刻あなたの言われた、被害者も労務者であつたと言われるのは、事実労務者ではあつたわけなのだが、実際問題としてだれであるかわからなかつたということになると、たまたま労務者であつたことは、この事態ではさまで重要なことではないということになるのでしようか。
  33. 山内隆一

    ○山内説明員 ごもつともなお尋ねだと思いますが、先ほど申しましたのはまた私の想像でありまして、時間の関係やそういう誰何をするということから見て、相手が駐留軍労務者、自分たちと同じ身分のものであろうとは思つていなかつたと私は想像いたしたわけでありますが、結果において駐留軍労務者であることがわかつた。そこで駐留軍労務者であれば、私どもの役所の所管としてのこの事件は十八条の損害賠償という問題を進める上においてさしつかえがあるかないかということになりますと、被害者の方は、これは今の報告程度で見ましても、公務執行中とは思われません、身分は駐留軍労務者でありましても、公務執行中でないのでありますから、これは他の第三者に加えた被害と同じような扱いをすることができると思つております。
  34. 林信雄

    ○林(信)委員 被害者の関係はそれでわかると思うのですが、加害者の関係はこれは明らかに公務執行中なんでありますか。
  35. 山内隆一

    ○山内説明員 加害者は部隊の入口でありますか、立哨中というふうに聞いておりますので、当然これは公務執行中であると考えていいかと思つております。
  36. 林信雄

    ○林(信)委員 御説明のように、労務者日本政府で雇用契約がなされる、そうして雇用主として相当な指導監督もなしてよろしいし、なすべき義務があるという一面があるのであるが、提供した以上軍もまたこれに管理権を持つということになりますと、この種こういう被害をこうむつた者はその賠償を求め、その他責任を問わんとする場合は、いずれもの責任者が想像せられるのでありますけれども、これは行政協定の十八条によれば日本政府のみが責任を持つことになるのでありますか、それをお伺いしたい。
  37. 山内隆一

    ○山内説明員 お尋ねの点は最も核心に触れて参つておりますので、今のお尋ねのお言葉だけに対するお答えでなくて、少しくこの問題の解決に触れて申し上げたいと思います。これは公務執行中でありますれば、もとより米軍の方に管理の責任もありますし、個人の責任じやなくて、米軍の責任ということになるわけであります。日本政府としては、これも使用者の責任と申しますか、行政協定の実施のための約定でその場合の補償金の分担率がきめられてございますが、アメリカ側が補償金の総額の七五%を負担し、日本政府が二五%を負担いたしております。そういう意味におきまして両方に責任があるといつてもさしつかえないと思いますが、実質的には米軍の使用人に加えた被害でありますから、米軍に責任がありとこう俗に申し上げていいのじやないかと思います。ただこの問題は今申し上げるように、公務執行中であつて、相手がはつきりそこで射殺されたという事実に間違いがなければ、当然死亡者に対する損害賠償になるのだという問題になりますと、まだ実は警察の調べも十分完結いたしておりません上、従つてそういうしつかりとした責任のある当局からの書類も出て参つておりませんので、確実な結論はどうなるということは申し上げかねますが、問題が多少ありまして、今の発砲した警備員が第三回目に足がすべつた。これはほんとうに足がすべつて、普通ならば空に向つて撃つはずのものが、すべつたために倒れて、不幸にしてたまが当つたということになれば、これは故意ではなくて、過失というふうに見なければならぬ。ところがすべつたというのは、これは多少すべつたかもわからぬけれども、それほど極端に違うはずがないから、やはり撃つつもりでねらいを定めてやつたのだ、こう見れば故意の殺人ということになるわけであります。その間に多少の問題がある。それから相手方によく過失相殺というようなもので、最後の補償額の算定にあたつて考慮する場合がありますが、相手が駐留軍労務者ということはわかつておりますけれども、公務執行中でない。しからばそこに何のために来て、どういうことをしておつたか。あるいは何を考えておつて、何をせんとしておつたか、そういう相手方の被害者の考え方といいますか、あるいは行動もよく調べてみなければ、完全に一方にだけ責任があつて、他の方には何も責任がないということも申し上げかねると思います。相手の方にも非常に悪い点でもありますれば、その辺に多少また額の算定にあたつて考慮しなければならぬ場合も起るかと思います。要は十八条の損害賠償をきめる場合には、事実が明らかになつて来るということと、それに対して米軍との交渉によりまして、公務執行中にやつて、自分の方に責任があるのだということを認めてもらう手続が、それぞれ陸軍、海軍、空軍と、別の責任者がおりまして、中央に移つて交渉しなければならぬ。私どもこの仕事の進行に一番むずかしい問題は、米軍に公務執行中であつて、先方に故意なり過失があるのだということを認めてもらうことが非常に大きな仕事になつております。そんな関係でこの事件の最後の解決に至るまでには、警察の調べ、その他現地をよく知つておる者の言い分によつて、実情が明らかになるということと、それに対して米軍が認めてくれるということ、この二つがきまつて、初めて補償という問題になる。それさえきまりますれば、その年輩なり、技倆なり、収入なりによつて、補償額の算定はかなり機械的に出て来ることになつております。
  38. 林信雄

    ○林(信)委員 補償関係は実態がもう少し明瞭にならなければということもわかるのでありますが、もう少し私はその初めというか根本みたいなことでなおお聞きしておきたい。あなたの御説明にもありましたような、労務者の提供にあたつて駐留軍からの要求による、この要求とは単なる数字ではなくて、その労務の態様を明示して来るのだろうと思います。単なる筋肉労働の場合もありまするし、本件の関係者と相なりました池田豊のごとき特殊の警備に当る労務者の場合もある。従いましてそれに対応した労務の提供をなさる、そうしますと事前にこれらの諸君にどういう仕事をさせるかということがあらかじめ予定されておる、及び今日になりますると、沿革的にすでに同様のことが繰返されて参つておりますから、およそどの類型のものはどのような執務をしておるということはおわかりだろうと思うのですが、いかがなものでしようか。
  39. 山内隆一

    ○山内説明員 お言葉の通り駐留軍労務者については、初め要求されるときに大体どういうような職種のもの、また、どれくらいの程度の人とか、なるベく適材適所の人選なり配置ができるような、わかる程度の要求がありまして、それに基いてそれにできるだけ応ずるような人を選んで、契約をして提供するということが建前になつております。しかしながらそれは建前であり理想であつて、大勢の場合には必ずしもその通りに行くとは限つていないと思いますが、大体そういうことを理想として供給いたしております。米軍においては、それに基いて供給を受ければそれぞれその最も向くポストに配置するというわけでありますが、しかし日本側では、あるベースならベースの中の労務者の配置状況は大体わかつておりますけれども、絶えず詳細にその動きがわかつてはいないと思います。従つて米軍としてはその人の能力なり経験なりに合うような位置に置いて訓練をして能率を上げるようにしておりますが、日本側としては大体わかつておるけれども、そう動きのたびに配置関係報告があるとは限りませんから、日本側の方にいつでも各人の担当する仕事が何かということがそう詳細にわかつておるとは申しかねます。しかし賃金の支払いにあたつて、賃金のきめ方は、大体職種別に賃金がきまつておりますから、その意味においては、どういう人がどういう仕事に携わつておるということは当然言い得るわけであります。大体そんなようなことであります。
  40. 林信雄

    ○林(信)委員 お話のようにその労務者の日々の行列あるいはその後の配置、そういつたことまでわかる必要はないでしようし、おわかりにならぬというのもこれまたわかるのですが、お話の職種を通じての職務の態様というものはおわかりだろうと思います。そこで職種というのはどのくらい種類があるものですか、たとえば通訳、あるいはかなり複雑なものもあろうし、あるいはこういつたような警備守衛的なもの、あるいは純然たる労務の提供をする労務者といつたようなものがわれわれの常識では想像されておるのですが、どんな程度のものでどういう職種のものがあげ参られておりますか。
  41. 山内隆一

    ○山内説明員 職種は非常にたくさんの種類にわたつておりますので、賃金支払いにおけるその人の職種は何かということは、いかにたくさんであつても全部わかります。現場においてどういう場所に何のだれがしが働いておるかということは絶対にわからぬということは申しかねますけれども、絶えず各人の配置がどうかということまでは日本側にはそうすぐにはわかりかねると思います。ただ今問題になつております特殊警備というようなものは、これはきわめて特殊の職種でありまして、こういうもののおる場所というものはおのずから――これは弾薬所でありますが、ほかのキヤンプにしても、ベースにしても、警備員というのは多くはどういうところにおるものかということは、これは常識できまつておりますから、自然こういう種類のものについては、まずまずはつきりしておると申し上げてさしつかえないと思いますが、それ以外のあらゆる職種にわたつて、各人がどういうところに働いておるかということは、調べればわかりますけれども、絶えずその変化に応じて右から左にはつきりするようなわけには参らないと思います。
  42. 林信雄

    ○林(信)委員 その程度しかわからないということであれば、もう少し端的に入つて行きますが、特殊警備員はその職務の執心行に当つては常にカービン銃を携帯して、主として米軍、あるいは連合軍の場合も同様であろうと存じますが、外国軍隊の警備する施設の周辺においてその施設を警備しておる、こういう仕事といえますか。それを伺いたい。
  43. 山内隆一

    ○山内説明員 お答えいたします。警備員の任務は大体大きくわけて二つになると思います。一つは人の関係、これはその部隊の性質によつて、秘密の程度あるいはその重要度の違いといいますか、多少の違いがありますが、出入りする人を無断で入ることをとめております。従つてその出入りの者に対する監視、あるいは制限をするといいますか、中に連絡をするか、要するに警備員のおるところを無断で通ることはできない、そこである程度押える、こういうような任務が――これは警備員全部ではありませんが、特にそういう出入口あたりにおる警備員は、そういう任務が一つあると思います。いま一つは、警備員全体を通じてその施設全体を警備するという――至つて抽象的の表現で恐縮ですが、人に対する場合と、それから設備施設に対する警備の任務と、三つを持つておるわけであります。
  44. 林信雄

    ○林(信)委員 おおむね施設には外柵等がめぐらしてあるのですが、お話の警備に当るというその警備区域というものは、外柵等があればその外柵内だけなんですか、それともその柵外まで執務内容区域に入るのでありますか。
  45. 山内隆一

    ○山内説明員 警備員の任務は今物的の場合を申しましても、施設区域警備ですから、施設、区域外にはその任務、権限もないと申し上げざるを得ないと思います。ただその施設を完全に警備するためには、その施設の周辺ということも、おのずから施設警備の延長といいますか、施設警備のために周辺はやはり見まわらなければならぬというようなことになるんじやないかと思います。
  46. 林信雄

    ○林(信)委員 一応そういうことも考えられますが、少くともやはり疑問は起つて来るのですが、その辺について特に労務提供の上において、執務区域という面からでも特別の協定でもなされておるのかどうか。明瞭にしておかないと、さつそく執務する者がその去就に迷うのじやないかと思うのですが、ただお話のような、そういう説明のできるといつたような、漠然というと語弊がありまするが、抽象的に、場合によればそういうこともあり得るといつたようなことで今まで来たものなんでしようか。何か具体的なとりきめでもあるものなんでしようか。
  47. 山内隆一

    ○山内説明員 その施設の柵なら柵の外どのくらいならば、警備の任務でありあるいは権限であるというようなはつきりとしたとりきめはないと思つております。これはその施設区域警備するためには結局周囲をまわらなければならぬ。従つてその周辺に怪しい者でもおれば誰何するというようなことは、これはやはりその施設区域警備の任務――常識的にそんなふうの程度はその人の任務なりと考えざるを得ないのではないかと思います。
  48. 林信雄

    ○林(信)委員 先刻お尋ねしました中に、特殊警備員と称する者がカービン銃を携帯しておる、これは日本政府においては御存じなんでしようか。人間をただ警備するために適当なものというので、あるいはもつと具体的な条項をあげられて、それに従うものとして出されたかもしれませんが、執務の実際において警備という言葉だけで、その具体的な職務内容、ことに凶器を必要とする、こういうようなところまで御承知の上で、これは提供されておるのでありましようか。そこまでは知らないが、あちらだけでそういうふうにさしておる場合におきましても、すでに古くより知つておる場合もあるし、実は全然知らなくて、かような事件が起つて初めて知り得たという場合等もあろうかと思うのでありますが、この銃器携帯の関係について御説明願います。
  49. 山内隆一

    ○山内説明員 お答えいたします。特殊警備員が武器を携帯しておるということにつきまして、日本政府は知つておるかというお尋ねでありますが、日本政府としてはそのことは承知いたしております。それがはたしていいのかどうかという問題は、これは当然いろいろ論議の対象にはなると思いますが、現在のところ、実はこういう問題については、調達庁としては責任のあるお答えをすることはできません。私どもとしては行政協定第三条に基いて、施設区域内でいろいろの権能を米軍が持つておるから、米軍の使用人として必要な範囲において、これは正当に携帯しておるものと、そういう前提のもとに、この問題を処理をいたして行くつもりでありまして、そういう武器を携帯しておることがどうかという問題には、私どもとしては触れずに、その発砲が一体任務の遂行として必要であつたかどうか、あるいは程度を越していやせぬかどうか、こういうことは大いに検討しますけれども、持つておること自体にさかのぼつて、いいか悪いかということまでは、調達庁としては関与いたさないことになつております。
  50. 林信雄

    ○林(信)委員 具体的な事件に当つて、その発砲が過失であつたかあるいは故意じやないかというような問題はもとより重要です。そのことにも触れてみたいと思うのですが、私はそれよりも、事が起りましたもつと根本的なものが、さかのぼつてつたのではないかということと、その根本的なものは、われわれとしていろいろな意味において考えさせられるものがありはしないか。その根本について私は疑問を持ち、今御説明を願つて研究しておるわけなのです。たとえば、日本人としてはさような危険なる銃器等を持つことは禁じられておる。銃砲等所持禁止令によつて処罰を受けなければならない行為のです。それを、たまたま日本政府によつて雇われて、その働いておる先が駐留軍であるがゆえに、ただちにこれが正当行為になるかどうかということは、私はまだ問題が簡単でないと思います。もちろんそれが占領政治の時代、占領軍によつて要求せられた時代なら、格別でありましようけれども、事態が変化しておりまする現在においては、従来の事態をそのまま踏襲しては説明のつかないものがある。といつて日本政府より提供された者が米軍の兵隊まがいのかつこうをしたところで、これはアメリカの兵隊になつてしまうわけでもないわけなのです。どこに説明のできるところがあるかは知りませんが、私はまだこれは説明し切れないものがあると思う。また実際問題としましても、あなたも説明されまするように、柵内のみが警備区域ではなくて、状況によれば構外をも警戒しなければならぬということになりますると、それもその距離等が明示せられるわけではなく、まず社会通念から、この区域警備区域であろうといつたようなことで警備しておるといたしますると、存外駐留軍警備区域でない範囲においてそれらの銃器等が使用されないと限らない。具体的な本件の場合におきましても、五メートルと言われますが、五メートルであつたのか、八メートルであつたのかわかりませんが、かりに五メートルといたしましても、これは現地につかなければ明瞭には言えませんけれども、もはや駐留軍警備区域とは思われない場所であつたかもしれない。しかるに過失とはいいながら、こういう重大な事実が現われて、いろいろとさかのぼつて参りますると、日本人であり、しかも日本政府によつて提供せられたる者が日本人を傷つけるということの起つた結局の原因は、そういうものを持つておつたからだということに帰結するのであります。そういうものを持たせないということは、日本政府では言えないのでありますか。またどうしても柵内においてそういうものを携行せしめるならば、厳にその区域内であることを要求し、確定し得ないものであるか。どうもその辺に緩漫なあるいは寛大なものがありまするために、この種のことが起きたのではないか。何といいましても、日本政府が提供しておる労務者ですから、国民の関心というものは、責任関係においてはどこまでも日本政府を思う。縁遠い駐留軍とは思わないのであります。思つたところで、そのあらかじめの手配、今後の処置は、日本政府を相手にする以外に方法はない。これは当局がもつと真剣に考えて来なければならなかつた問題である、こう思うのです。これが一つと、すでにこのことは、この事件だけではなくて、同種のことが前例として数回あるのではないかと思うのですが、具体的にいつごろどこでどういうことがあつたのでありましようか。これを第二の問いとしてお伺いしたい。
  51. 山内隆一

    ○山内説明員 今の前段の御意見はまことにごもつともに存じますが、ただ先ほど申し上げました通り、問題は非常に大きなことでありまして、しかも調達庁の仕事として申し上げることははばかる点もあります。ただ私どもは、その根本の銃器、武器を持つておるということ自体は一応正当なものとして、そのあとの処理を迅速にやつて行きたい、かように考えておりますが、最後の、さような事件がほかにもあるのではないか、わかつておるだけ場所を知らせよということでありますが、確かにお言葉の通り、ほかにもこういう警備員の発砲事件があることは事実でありますが、私今ここでどういう場所にいつ起つたという具体的な資料を持つておりませんので、いずれあとで調べて文書で差上げたいと思います。
  52. 林信雄

    ○林(信)委員 ただいまおわかりのない事項は、文書もとよりけつこうでありまして、お示しを願いたいと思う。何といいましても、この武器携行ということは、こういう事態を引起す根本の問題なんですから、あなたの方でもただちに説明し得ないものがあると言われますが、少くとも労務提供の当局者として、これは御研究になるべき問題だと思います。私も研究したいと思います。その関係においてあなたは御存じになつておるのじやないかと思うのですが、あるいは道聴塗説にすぎないかもしれませんけれども、一たび労務者として提供されましたあと、これら特殊警備員といつたようなものには、米軍より、あるいは連合軍の場合も同じでありましようが、あるいは違うかもしれませんが、少くとも米軍関係においてはカービン銃、あるいは拳銃の場合もありましようが、支給されて、その使用をする場合はおよそ指示されておる。本件に関係のある事柄と言われておりますのは、施設を区画した外柵のある一定距離においては、これを誰何して、その誰何に応じない場合は射殺することを得、こういうところまで行つておる。こういうことになりますと、われわれの概念といたしましては、正当防衛の観念から参りましても、容易にこれらの兵器が使えるのだつたら、新たな間違いが繰返される。そんなことがはたして指示されておるとしまするならば、それを是正せしめる――ある区域、ある場所においてはやむを得ないかもしれませんが、本件のような柵外の場合において、その状態におきましても、ただうずくまつてひそひそ話をしておるというようなものを誰何して、本件の場合においては逃げ出したというので、さらに威嚇発砲を続けたという程度であるかのようですが、どうも従来の指示事項によつて射殺までなし得るという命令、いわば権限を得ておるものであれば、ややともすると射殺しかねない。本件の場合も、誤つて射殺、少くとも射撃したように検察庁において事件処理されたというのでありますが、おそらく威嚇発砲でありましたならば、相手から遠い方に向つて撃つならこれはわかる。右であるか左であるか、または空に向つてというならわかるのです。なるほど偶然というものは、存外あとで説明のできないような事態の発生することもあり得るのではありますけれども、元来の下地として射殺することも得るという指示があるといたしますると、どうも今度のような場合も、やはり誰何に続いて、それに答えずに、その行動勅を明瞭に示さずに逃走した、もつてその射殺の状況に達したとして射殺したものではないかという疑いを、真相を知らざる者は多分に持つと思うのです。しかも真相をうがつて考えております者は、実はこれは射殺したんだ、しかもその本人は米軍の命令によつて射殺したのだから、いわゆる刑法にいう正当業務だ、違法を阻却するんだ、罪になるべきものではないという主張をしたのだ、しかしそれをそのまま受入れられるかどうかは、検察当局は問題であるし、検察当局よりは、その前において捜査をいたしました警察の場合においても、これは捜査をしているのですから、真相を究明すればよろしいようなものの、また政治性を加味して考えるものも、これは人間としてあり得たのではないかというようなところから、故意に射殺したものではなくて、すべつてころんでたまが向うへ当つたんだ、すなわち過失に持つてつてしまつた、こういう見方をしている者もあるのです。一概にしりぞけられない気持がするのです。そこで根本は、軍においてこの種の警備員を使用する場合、このカービン銃を携帯せしめる場合、ピストルを携帯せしめる場合、非常事態に処して、どういう措置をとらせることに規定し、あるいは指導し訓練しておるのか。これは日本政府として、知らなければならぬことであります。それをしも、調達庁の私の方の関係でないからと言い、それが正しければこれはあなたにそれ以上お聞きしてもしかたのない問題なんですが、これらのことに関してあなたの御意見、及びさしつかえない程度の具体的な御説明を願いたいと思います。
  53. 山内隆一

    ○山内説明員 お答えいたします。非常に重大な問題でありまして、特に質問者も私の意見でもと申されますが、私の個人的な意見も多分に入るきらいがありますけれども、率直に申し上げます。この問題は、先ほどはいろいろ疑問の点があるという疑問点を申し上げておきましたが、ただ一応の報告を聞いただけでも、今度の場合の射殺事件は、どうも警備行為としては逸脱していると私ども考えたいのです。ことに今の、威嚇的に撃つつもりなのが、すべつたために不幸にして当つたというのは、どうもあまりにへりくつのような感じもいたします。この点は重大な問題として、十分調査して明らかにしなければならぬと思いますが、全体としてみてこの事件警備員としての行動としては少し逸脱している、かように思つております。もちろんこれは刑事事件として重要な問題でありましようが、私どもの十八条の補償問題を解決する上においても、やはりその事実は、非常に大きな影響があります。そういう意味において十分調査して適切な処置をとりたいと思います。  なお兵器を持つことのいかんという問題でありますが、先ほど調達庁としての責任あるお答えは差控えたいというようなことを申し上げましたが、その気持は今でも持つておりますけれども、私ども多少意見を交えて申し上げるならば、今の通り区域外に勤務している場合には、もちろんそういうものは必要ではないじやないか、そうしてまたできることならば、そういう兵器等は持たないで警備に当るべきが望ましいのではないかというような感じもいたします。過去においても多少そういう意味で話し合つたこともあるやに聞いておりますが、現状においては遺憾ながら最少限の範囲において携帯させるということになつておりますので、それを前提として私どもとしてはこの問題の処理に当りたい、かように申し上げたわけであります。
  54. 林信雄

    ○林(信)委員 先刻この問題について戸田人権擁護局長の御意見を聞いてみたのですが、その際にも考えたことであるし、ただいまあなたのお答えを聞いていても感じたことがあるのですが、何といいますか、役所の執務関係のセクシヨナリズムとでも申しますか、どうもこういう形はどこの所轄でやらしているんだから、その事態をそのまま看過して――事件が起つてみると、これは意見もあれば批評もしてみたいというようなことを、その以前においては、極端にいえば今日においても、これは私の方の所管ではありませんからと、それまでです。人権擁護の面から見ましても、そういう危険な事態の起りますことは、あらかじめ調査もし知り得て、所管であるところに自分の持つ意見だけは持ち込んで、そうして同じような責任を感じて事態を常に処理して行く。危険なものを家の部屋中にほつぽり出しておいて、家人なかんずくいたいけな子供なんかがけがをしてしまつた。それはおれが置いたんじやないというだけでは、一家の管理をします者の説明にもならなければ責任のかれにもならないと思う。やはり関連いたしまして気づきました点はともに研究をして、当るべき方面については当るべき者がこれを当つて処理してもらう、これが必要じやないかと思う。外交折衝を必要といたしますならば、外交折衝をするべく慫慂することが、ひとしく関連いたしますることに当る者の態度でなくてはならないのじやないか、これを私は痛感しておるのです。ぜひそういうふうにお考え願いたいと思います。いやそんなことはもつてのほかだと言われるならば、これは私も考えてみるのですが、どういうふうにお考えになつておりますか。同様なことをこの際最後に戸田局長にもお伺いいたしまして、私の質問はこれで終ることにいたします。
  55. 山内隆一

    ○山内説明員 ただいまのお言葉、私どももとよりごもつともと存じますので、お言葉に従いまして、十分この問題を検討いたしまして、将来かような問題が起らないように最善を尽したいと思つております。なおこの機会に、実はちよつと先ほど申し上げたのでございますが、調達庁としても、これを自分の本来の所管でないからほつておいたわけではなくて、実は先ほど自分の個人の意見のような意味で申し上げた気持は、調達庁としては持つておりまして、軍と話し会員つた事実はあるのであります。今までのところ、やはり最小限の必要であるとして、向うの通知を受けておりますので、そこで先ほどのようなぐあいに申し上げたのですが、過去においてもその意味で話し合つたことはあります。今後ともなお十分検討しまして、かようなあやまちの再び起らないような方法で問題を解決するように、努力いたしたいと思つております。
  56. 戸田正直

    戸田政府委員 先ほどもお答えいたしましたが、昨年の十一月に八王子に類似の事件が発生いたしましたときに、米軍側に申し入れまして、武器の使用については刑法の三十六条、三十七条に限定する、なお武器の使用については訓練を十分にするという、かたい申入れをいたしたのであります。そこで一応そういう注意が出ておりますので、それだけで私ども安心したとか、それだけで十分だ、かように考えたわけではございませんが、その後私の方としては、これという措置をいたさなかつたことは、林委員のお話のようにたいへん不十分だと思いますので、今後そういうことのないように十分注意いたしたいと思います。なお先ほど申し上げましたが、今回の事件につきましても、再びこういう事件の起きないように、日米合同委員会を通じまして、人権擁護上遺憾なく処せられるより申入れをいたしたい、かように考えておる次第であります。
  57. 林信雄

    ○林(信)委員 あらためての問いじやありませんが、御説明によつて調達庁としては従来ほつておいたわけじやない、折衝もしたと言われるのですから、武器携帯等のことについてー応の知識を持たれて、その処理に当つておられた。そのときにこういう事態がまた起つた。まことにいいチャンスだ。にもかかわらず、その後の処理が適切なものに改つて来ないといたしますならば、怠慢のそしりをお受けになることになると思う。どうぞひとつ怠慢のそしりを受けないように、この際一層の御尽力を希望申し上げます。     ―――――――――――――
  58. 小林錡

    小林委員長 次に交通事件即決裁判手続法案を議題となし、質疑を行います。古屋貞雄君。
  59. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 ただいま議題になりました交通事件即決裁判手続法案に関しましては、事人権に関する重大な問題でありまして、軽々には決せられない問題と信じますので、あるいは重複いたすかもしれませんけれども、以下二、三点御質問申し上げたいと思います。  それは本制度をつくらなければならない理由、必要、言いかえますならば、略式手続にまさる点がなければならないのでありますから、その点を明確に御説明願いたい。さらに交通に関する刑事事件だけに限定されておる理由はどこにあるのか、この御説明を伺いたいと思います。
  60. 下牧武

    ○下牧説明員 この法律をつくりました趣旨は、法案の第一条にも書いてございます通り、迅速処理と適正処理という二つのねらいがあるわけでございます。それで迅速処理の点につきましては、御承知のように、この交通に関する刑事事件と申しますのは、一つの型にはまつた事件でございまして、その違反の内容が一般の刑事事件におけるがごとく、いろいろ込み入つた事情があるということは非常に少い。言いかえれば、型にはまつた事件ということになつておるわけであります。ところが何分その件数が非常に多うございまして、その処理上非常な手数がかかつておるわけでございます。しかもこの種の事件は、もちろんこれは行政措置と取締りというものは並行して行かなければならぬものでございますが、その取締りの面においてもだらだらやつておりますと、やはりその行政目的に合わない結果になつて参りますので、早くやる必要がある事件なのでございます。ところがお手元に差出しておりまする統計をごらんになつていただいてもわかりますように、概略でございますが、この事件が起きてから刑の執行を終えるまで三箇月余り、百九日という数字が出ておるわけでございます。それでこれではどうも少しだらだらし過ぎておる。そこでこれを早くするにはどうしたらよかろうかという点を考えてみたわけでございます。そういたしますと、そのネツクになつておる点は、まず第一点といたしましては、違反者がなかなか出頭して参らないことが第一点でございます。第二点といたしましては、手続上、非常にいろいろな書類をつくりまして、その書類を送達いたさなければなりません。その関係の手間が相当かかつておる。しかも書類の送達については、日にちも相当かかつておるということになつております。それから裁判の執行の面におきましては、これもその後、処理の日にちがかかつておりますために、所在が転々いたしたりなどいたしまして、そのあとを探して歩くというようなことで、非常な手数と日数がかかつておるわけでございます。そこでこの三点を何とか簡便にやる方法がないかということで考えましたのが、附則に書いてございます通り、一応現行犯でございますから、その現場で免許証を預かつて、それに保管証を出しておいて、自動車の運転にはさしつかえないようにいたしておきながら、一週間なら一週間というような有効期間を限りまして、そしてその三日目とか四日目に呼び出して、来たときに返してやるということにいたしますれば、出頭の確保の点がそれでまかなえて来るわけです。それから第二点といたしましては、最初に申し上げましたように、非常に定型化した事件でございますから、事件のポイントというものがきまつているわけであります。でありますからそれについていろいろな書類をつくるという手数、それを送達する手数を省きますために、書類の作成は原則として最小限度にとどめて行きたい。ただそのかわり事件の実態調査というものが不十分になりますと、これはたいへんなことになるから、従来以上にその点を慎重にやる方法を講じようというので、裁判を宣告いたします前に必ず裁判官が本人に当つて本人の弁解を聞いて確かめた上で出すということにいたしますれば、事件の実態の内容調査は丁重になる半面、形式的な手続の方は非常に簡略になつてスムーズに行くのじやなかろうか。それから裁判の執行の面におきましては、仮納付という制度が現在刑事訴訟法にございますが、その制度を緩和いたしまして、すぐ罰金を納められて行くようなものなら、すぐその場で裁判で言い渡された金額を納めて行くという制度をとりますれば、執行の面におきましてもスムーズに行くのじやないか。その結果といたしまして、被告人にとりましては、今まで被疑者被告人を通じて何回も呼出しを受けるという手数が省けて一回で済み、そうして大体持合せの金を納めて行けばそれで刑の執行まで済んでしまう。ただ全体といたしまして、そういう簡単な手続でございますから、本人の意思に反するようなことでこの手続を押しつけるようなことがあつてはならないということで、被疑者に対して手続の説明をし、それから異議がある場合にはこの手続ができないというふうにいたしまして人権の侵害にならないように考えたつもりでございます。
  61. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 そのねらいの御趣旨はよくわかりますが、それがために拙速を重んじてあとで国民から不平が起き、その結果裁判に対する信頼感が失われるというようなことを私どもおそれるのでございます。ただいまのような御説明はよくわかるのでございますが、結局略式命令と比較してまさつておる、こういう御趣旨だと承りますが、いずれにいたしましても、あとで条文の御質問をしたいと思うのでありますが、その日の事故をその日に調べ、その日に裁判を済ませるというようなことになりますから、ついこれを取扱います第一線の警察官の行き過ぎの弊が非常に大きいものになつて来はしないかということが一つと、それから十分に被疑者に弁明をさせる機会がどうしても少くなるために、憲法三十三条その他に保障されている基本的人権の尊重に対する弊害が起きて来はしないか、こういう点について特に考慮されたような事実があるかどうか、この点を承りたいと思います。
  62. 下牧武

    ○下牧説明員 名前を即決裁判手続といたしましたが、この即決裁判という言葉は必ずしも最善なものであるとはわれわれは考えておりませんが、その即決という意味は、事故が起きたその日にすぐ本人を出頭させてすぐ調べるというのじやございませんで、事故が起きますと、そのときの現場の巡査が、大体自動車の違反が大部分でございますから、それでその違反した運転手に対しましていつ幾日警察なら警察、検察庁なら検察庁に出て来るようにというふうに申して、免許証と引きかえに保管証を渡すわけなのであります。その場合には、大体運用といたしましては、いつお前さん都合がいいというふうなことを聞きまして、そうしてタクシーの運転手でございますれば非番の日がございますから、そういう日に出て来る。   〔委員長退席、佐瀬委員長代理着席〕 それを三日目か四日目に指定して、そうしてその日に出て来ますれば、そこに警察官も検察官も裁判所も近くにおつて、ずつと流れ作業式に手続を済まそう、こういう趣旨でございます。それで、その場で起きたものをそのまま裁判所にひつぱつて行くという趣旨にはなつておりませんし、またそういうことも考えておりません。と申しますのは、この法案の附則において、保管証の有効期間というようなものを命令で定めることにいたしておるのでございます。その有効期間は大体七日ぐらいに考えておりますが、その趣旨は、大体七日ぐらいの期間を見ておいて、しかもその間で都合のよい日、大体三日目か四日目に都合を聞いて呼び出すように運用して参りたい、こういう気持があるわけであります。  それから次に、被疑者または被告の弁明の機会でございますが、これは私どもといたしましては十分考えたつもりでおるのでございます。法律上の担保といたしましては、検察官が簡易公判手続、起訴いたします場合に即決裁判手続でやるか、あるいは正式の通常の手続に乗せるか、あるいは略式命令で処罰するか、その内容説明いたしまして、そうしてどれを希望するかということを聞くわけでございます。それで本人が即決裁判手続でやることについて異議がないときに限つてこの手続で起訴をすることになるわけであります。と申しますのは、この法律の第三条第二項の「即決裁判は、即決裁判手続によることについて、被告人に異議があるときは、することができない。」この根本的な精神を受けて、第四条の二項によりまして、その異議がないかどうかを検察官が確かめるというふうにいたしておるところから来るわけでございます。しかもこの法案の第二条第二項の「被告人に異議があるときは」、というのは、最初に異議があるときに限りません。手続のいかなる段階におけるを問わず、本人がこれでは困るということになりますれば、いつでも裁判官に対して異議を申し述べることができることになるわけであります。そういうことでございますから、裁判官としますれば、本人を調べておりましてあとから異議を申し立てるようなことがあつても困りますから、運用といたしましては、最初に検察官が確かめた上に、裁判官といたしましても、この手続によることについて異議がないかどうかということは当然聞くことになつて参る、そういう面で担保されて来ておるわけでございます。それから略式命令ということになつて参りますと、これは略式手続によることになつてしまえばそれまでで本人に裁判書きが送達されて来るわけでございますが、この手続では、本人が呼出しを受けるまでに、たとえば弁護士に相談して、それじや一緒に行こうということになれば弁護人をつけることも自由でありますし、本人が法廷において意見を開陳することも自由になる、そういうことで略式命令よりは実体的には非常に被告人保護ということを考えておるわけてあります。それから裁判官が即決裁判の宣告をいたします場合には、これは正式裁判の申立てができるということを告知いたす。これは略式命令と同様でございます。そうして正式裁判の請求権の放棄ということも認めておらないようなわけで、本人に無理がかからないようにしてやるという点は、あくまで私どもこの法律をつくる上で考えた点でございます。  それから運用の面でございますが、運用の面といたしましては、これは最高裁判所事務局とも話し合つておるのでございますが、こういう手続をいたしました以上、従来の法廷におけるがごとく格式ばつた取調べというような、ああいう形式ではこの手続に沿わないので、あくまで砕けた、といつても、何も妥協するという意味ではなくして、やわらかい態度でもつてお互いに言いたいことを言い合うというような、ちようど壇に上つてしやべりますのと、円いテーブルを囲んで話し合うというのとの差で、非常に砕けたやり方というものを考えておるわけでございます。そこで被告人といたしましても、言いたいことがあれば十分言える仕組みで運用する大体の予定でございます。それから検察官に対しましては、裁判官の面前でもめるような事件はこの手続に乗せないように、私どもこれは厳密に守らせたい、かように考えているわけでありまして、法律上の担保、それから運用上、それやこれやをかみ合せて参りますと、この手続をいたしましたがために従来以上に人権が尊重されぬということにはなりませんで、むしろ私どもとしては事件の実体を調べる上においては慎重に相なる、かように考えておるわけでございます。
  63. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 そこで私はこの案を拝見いたしまして、実際にこれが行われるかどうか、立法者の趣旨がそのまま現実に行われるかどうか、これは私非常に懸念するわけなのですが、まず第一に現在のような日本における封建的な気持を持つておりまする方たち、特に自動車に関係を持つております方たちは、比較的良識の低い方たちでございまして、交通巡査につかまる、検事に調べられるというような場合に、実際自分の思つたような気持がそのまま意思表示ができるかできないかということを懸念するわけでございます。ただいま御説明のように、被疑者なり被告が、自分が選択をいたすことによつてこの制度を否認し、あるいは正式裁判を求めるという意思表示ができるじやないか、こういう仰せでございますけれども、実際面にあたりますと、自動車の運転手の方たちはかような法律そのものもわからなければ、また警察官と自分との関係についてもよく認識もされていないのが現在の社会の事情でございまして、やはり私はこれがために憲法で保障された正式の審理を受ける意思表示をすることが困難であろう。従つて何も知らない間に進められ、そうして拙速的に確定され、これが前科者になることを私はおそれることが一つと、もう一つは交通取締りの法律によりまして、ただいま改正される附則によりますと、免許証を取上げられてしまう。従つてきめられた日に出て行かなければならないということで、自分の自由が非常に束縛されて来るということが一つ、この問題を進めて参りますると、被告なり被疑者がその定められた日に出頭しないというような場合には、結局裁判所の呼出しに応じないので勾留状が発せられるという危険があると私ども思うのであります。そういうことも考慮されてこの立案をされたのかどうか、この点も承りたいと思います。と申しますのは、その日に出かけて行かなければお前勾留されるのだというような予感を与えやしないか、従つて自分の自由意思の表示ができない、早く裁判をして片づけようということのみ考慮されて、山でしかを追う猟師のような行き過ぎのあることを私ども非常におそれるのでありますが、そういう点についても考慮されておるかどうか。  それからもう一つは、いかなる過程においても本人が弁護人を頼めるということの御説明でありますが、弁護人そのものが頼めますならば、おそらく正式裁判ということになつてしまつて、むしろただいまのような非常に考慮されてつくられた本件の制度というものが片つぱしから無になつてしまつて、初めから正式起訴、正式手続で行われた方がよかつたのだという結果と似たような傾向に陥ることに対して考慮されたかどうか、その点も御説明願いたい。
  64. 下牧武

    ○下牧説明員 本人が自由な意思を表明できないという点でございますが、これは一面ごもつともな点もあるかと存じます。私どもはその点を非常におそれまして、とにかく規定の上におきましては、検察官に進んで説明をさせる、それから裁判所へ行けば、これは刑事事件の告知ということはただちにそれには当りませんけれども、とにかく自由にしやべれる――言わなくてもよいのです、自由にしやべれるということを一応裁判所の方として告げ、またその審議のやり方におきまして格式ばつたやり方をやらずに、砕けた調子で自然に本人から自由に発言ができるようにするというふうに持つて行くように考えておるわけであります。この点につきましては、先日参議院の法務委員会地方行政の連合委員会におきまして、業者の代表と組合の代表を呼んで公述人の意見の陳述がございました。そのときもあまり高飛車にこれできゆつきゆつやられて困るという意見が出まして、ただ業者の方の意見としましては、ぜひこういう手続で早く済むことはわれわれ自身としても希望するところであるからやつてもらいたい、そのかわり本人が言いたいことを言えるということについては自分の方で内部的に十分徹底するようにして、本人の権利の主張ということに卑怯にならないように積極的な手を打ちたいという希望がございまして、この法案に賛成というより、むしろぜひこういうものを設けてもらいたいという強い希望があつたくらいでございます。  それから組合の方の意見といたしましては、この法案で早くやるのも一つだけれども、違反者の方も考えてやるぞというようなおためごかしのような形をとつておる。これは逐条説明にちよつとそんなことが書いてございましたので、そういう点だと思います。その点ははなはだ気に入らないが、ただこの法の運用が民主的に行われるということになればしいて反対しないというような意見でございました。それやこれや考えて行きますと、そういう面を総合いたしまして、比較的スムーズにこの手続が行われるのじやなかろうか、こういうふうに私どもは考えております。  それから次に、身柄の拘束がこれによつてかえつて増すようなことがないかという点でございます。実際問題としてこういうような軽微な事件で勾留いたしたことはございません。ただ従来出頭に応じない被疑者に対して逮捕状によつて逮捕の手続をとるということは、ごく少数ではございますが、そういう事例もあつたわけでございます。それで私どもといたしましては、逮捕とかそういう手荒いようなことをするほどのそういう内容事件ではございませんので、そういうことをせずに、何とかして出頭を確保する方法がなかろうかというので、この免許証を預かるという手を考えてみたわけでございまして、その点は、従来よりもむしろ身柄の拘束ということは緩和されるのじやないか、かように考えております。  それから第三点の、弁護人をつけるというようなことになれば、かえつて、正式裁判の申立ての割合が多くたつて、それではむだになるのじやないかというお尋ねでございますが、私どもといたしましては、法律的な判断に乏しい違反者でございますから、おかしいなと思いながら弁護士に相談いたしますと、弁護士としては、これはとにかくどういうふうな点をどういうふうに調べ上げているのか、それを一応見て来なければわからぬ、それじやお前が行くならおれも一緒に行つてやろうということで、一緒に出て行つて、その際本人を弁護するというようなことも十分考えていい、またむしろそういうような動きがあればそれに越したことはないのでございまして、その意味において、弁護人をつけるということにいたしたわけであります。私どもは、この手続に乗せるについてあくまで無理をかけてはいけないというので、手続のどういう段階でも、異議があれば、それで正式にまわすというふうにいたしてございますから、そういう場合に、弁護人がついて行つたがために、正式にまわる率が多くなれば、それで十分じやないかというふうに私どもは考えておるわけでございます。
  65. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 実は私ども実際に遭遇しておるわけなんですが、交通事故の取締り違反については、結局のところ取締りをしておる警察官と運転手の水かけ論が大分多い。その水かけ論が、ただいまのようなことにして、拙速に行われますと、これは相当いざこざが起きて来るんじやないか。従つて結論になりますと、現場の検証であるとかいうような複雑な問題になつて来るので、さような関係を考慮いたしますると、やつぱり本制度は略式手続にまさつておらないものだということを考えておるわけです。この点につきましては、軍人な問題でありまするから、努めて関係者の公聴会でも開いていただいて、実際面からも十分議論をいただいてから、判断したいと考えておるのでありますが、その点はあとに譲りまして、時間がございませんから、条文について二点だけ、これは林委員から詳しく御質問がありましたので、承りたいと思うのであります。  今具体的に承りたいのは、第七条の問題であります。この七条によりますると、「即日期日を開いて審判するものとする。」かようなことになつておりますので、この点について、私が先刻お尋ねいたしましたような行き過ぎが行われるのではないだろうか。いわゆる呼び出されてお調べを受けまする場合においては、努めて自分の考えておりますことを弁明させ、納得をさせて裁判をして行かなければならない、かように考えるのでありますが、この「即日期日を開いて審判する」かようなことに制約されて参りますると、結局ここに無理が行われるのではないか、かように考えておるわけです。この点について、もう少しこの条文の趣旨、精神を御説明願いたいと思います。
  66. 下牧武

    ○下牧説明員 ここに「即日期日を開いて審判するものとする。」こういう表現を使いましたのは、原則論をここに表わす気持でございます。でございますから、法律的には翌日に延ばすことも可能でございますが、建前として、即決裁判の請求があれば、その日に調べて裁判の宣告までするというのが建前だぞというふうにいたしたわけでございます。  そのわけは、先ほども申し上げましたように、違反者が警察に呼び出され、検察庁に呼び出され、それから裁判所に呼び出されるということは、略式の場合はございませんけれども、その後また裁判の執行のために出頭しなければならぬようなことが、手続が長引く一つの原因になつておりますので、そういうことをなくするために、まず警察も検察庁も裁判所も一箇所に集まりまして、そのおのおのの手続を済ませれば一番早く行くのではないか、しかもそれが本人には一番都合のいいことになるのではないかということで、本来流れ作業式にこの手続を進めて行くのを原則といたしたいという気持から、この条文を設けたわけでございます。でございますから、つかまえたその日にやるという趣旨ではないので、二、三日あるいは三、四日の余裕を置いて本人が出て参りますので、そのときに、自分がどうもこれはおかしいなというふうな気持がありますならば、その間に専門家に相談するなり弁護士に相談するなり、いろいろ手も打てるわけであります。そういうふうなことで余裕を持つて出て来て、そこで先ほど申し上げましたように、本人がフリーな気持でしやべれるように手当いたしまして、その気持を聞いた上で、異議がなければ、この手続に乗せる。しかも事件内容と申しますれば、しごく簡単なものだけでございます。たとえて申しますれば、信号無視の事件といたしますれば、その自動車を走らせるときに信号が赤になつておつたか、あるいは注意信号になつておつたかというような判断がポイントになるわけであります。しかも事件内容現行犯でございますから、大体現場において違反は確認されておるということになります。それから駐車違反にしましても、その車をとめておつた場所が、駐車禁止区域であるかどうかという点が問題になる。またスピード違反にいたしましても、何キロで走つておつたか、これはもちろんいろいろな機械ではかる方法がございますが、そういう点が問題になるだけでございまして、その事件内容はしごく簡単でございます。本人に身に覚えがあれば、それですらすらと進んで行くべき性質事件なのでありますから、この手続に乗せたからといいまして、問題は起きない、かように考えるわけでございます。  それからもしもめるようなことになりますると、これはこの手続に乗せることが不相当な場合でございますので、裁判所としては当然これを正式の手続に乗せて行くということに相なつて参ります。御心配の点は万々ないと私どもは考えておるわけでございます。
  67. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 ただいまの七条と九条の関係なのでございまして、九条には、被告人が出頭しなければ開廷することができないということになつておりますので、裁判長自身は、呼出しがあり、定められた期日に出なかつた場合においては、逮捕状も出せるということになるので、先刻私が承りましたような人身の保護に対して欠ける点が出て来やしないかということをお尋ねしたのですが、これが必要条件になつておるわけでありますから、この七条と九条との関係の緩和条件はどういうふうになるのでしようか。出なかつた場合の取扱いは……。
  68. 下牧武

    ○下牧説明員 これは略式手続におけるがごとく、非常にいろいろな書類をつくることを省略いたしまして、しかも本人に弁解の機会も与えなくしてそういうことをやる点について、先ほど来お説の通りのような人権侵害のおそれがございますので、そのおそれがないよう担保いたしますために、どうしても一応本人に当らなければこの裁判というものは行えないのだということで、被告人の出頭ということを要件といたしたわけでございます。それで出て来ない場合にはもちろん七条の原則には違反いたしまするけれども、決して例外を認めないわけではないのでございまして、そういう場合には裁判所が普通に呼出しをいたします。その場合に電話でやろうがあるいは葉書でやろうが、召喚の手続にのせて召喚いたしましようともこれは裁判所の自由ということに相なろうかと存じます。
  69. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 それから十条の関係でございますが、十条によりますと、刑事訴訟法の二百九十一条によつて定められておる黙秘権の告知、特に捜査手続に適用されておりまするものをここにこう当てはめて来ておる、これはむしろ審理でございますから、この黙秘権の問題は刑事訴訟法の二百九十一条をこちらへ持つて参りまして、これと同じ告知、いわゆる黙秘権に対する告知を申すべきであると私は思うのでありますが、これは精神は同じでございましようか、それともやはり違つておるのでしようか。承りまする被告人につきましては、刑事訴訟法の百九十八条と二百九十一条の趣旨は非常に違つて来ると私は思うのですが、一方は捜査過程における関係であり、一方は審理の過程における関係でありまするから、やはり本人の納得の行く十分なる了解を得さして、自由を尊重するということになりますると、二百九十一条がここへ持つて来られなければならないように考えまするが、特にここに捜査過程におけると同じような趣旨が盛られておるのはどういう理由でございましようか。
  70. 下牧武

    ○下牧説明員 実際問題といたしましては、私どもは法第三百九十一条の黙秘権の場合と、それから法第百九十八条の供述拒否権の場合と、そう内容はかわるものじやないと考えております。ただ形の上におきまして、いかにも二百九十一条の黙秘権の告知というのが丁寧になつておる、その関係でこの手続の性質からいたしまして、そこまで言わなくても、いわゆる捜査官憲が告げる程度の供述拒否権程度のことを告知すれば十分じやなかろうかというのが第一点と、それと合せまして被告人の期日における出頭というのも、被告人を取調べるという考え方を捨てておりまして、あくまで弁解の機会を与えるというのを主眼にいたしておるわけでございます。これが第二項に現われております。   〔佐瀬委員長代理退席、委員長着席〕 それから第三項で、裁判所が何か聞きたいことがあれば、本人に問うてその陳述を聞く、こういうふうな法文の仕組みにしてございますので、これらを総合いたしますると、この黙秘権と供述拒否権、言葉をわけて申しますれば内容は違いますけれども、この全体の考え方と合せて考えますれば、結局において同じ気持が出るのじやないか、同じことの結果になるのじやなかろうかということで、ことさら複雑にすることを避けた、それだけでございます。
  71. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 実はこの黙秘権の告知については、当委員会でも、刑事訴訟法改正でずいぶん問題になつたのですが、やはり私どもはこういうようなところのこの片鱗を見ますると、今回のこの制度というものが、早く事務的に物を片づけるための目的に使われて、最もわれわれが尊重しなければならない人権尊重の点に欠ける点がある、こういうことを痛切に感ずるのでございますが、ただいまの御説明でこの趣旨はよくわかりましたが、どうも私どもには納得いかない。この点、問題は、要は、基本人権の尊重を一方においてはどこまでも守らなければならないということと、事務的に処理しなければならないということの関係の調和をどこに持つて行くかという問題になると考えるのでございますけれども、やはりこの点は、刑事訴訟法の二百九十一条の二項の規定がここに当てはまらなければならない事項だ。これは裁判は裁判でございまして、確定いたしますると、確定判決としての執行を受けなければならぬ、かようなことを考えるのでございまして、この点も御考慮願いたいと思うのです。ただ私時間がありませんから、最後に申し上げたいことは、かようにいたしまして、事務的な処理のために、基本人権の取扱いが粗漏になつて来る、従つてわが日本の国におきまして今最も国民から信頼を受けておる司法権の独立と、裁判の権威というものにつきましての観念が国民から失われ行くというようなおそれがありまするならば、私はむしろ略式命令で、相当の期間がかかりましても、やはり被告人の納得と了解のもとに行われる裁判が必要だとかように考えておりまして、裁判に対する国民の信用というものが、かように簡単に物を片つけられて行くことによつて、前科数犯ということになつて参りますると、私は国民の裁判に対する考え方が相当かわつて来るのじやないかということを、実はおそれるわけなんです。この点について相当御考慮をなされたこととは存じまするけれども、私どもはつとめてたとい小さい事件でございましても、他の労力、予算は省きましても、基本人権に対する関係におきましても、まことにでき得るだけ親切丁寧と慎重を期さなければならぬということを考えておるわけなんです。この点につきましては相当お考えあそばされたと思いますけれども、私どもこの法案に対する私どもの決意を定めまする場合におきましては、重要な関係を持つと思いますので、裁判に対する国民の信頼を失うようなおそれはないかどうか、この点について十分御考慮をされたかどうか、この点を承りたいと思います。
  72. 下牧武

    ○下牧説明員 この手続によつて、従来よりも事件審理の実体が粗略になるのじやないかという御懸念でございますが、前々から申し上げております通り、私どもはむしろこれで実体的には丁寧にいたしたつもりでございます。と申しますのは、この手続を第一審の公判手続と同じようにお考えになりますると、これは非常に簡略になつております。しかしながら決してこの手続は公判手続を簡略化いたしたものではないのでございまして、従来行われております略式手続、これが被告人の弁解も聞かずに、検察庁で調べて、検察官が請求したら、そのままで出されている略式命令について、今度はその命令をする前に裁判官が本人に当つた上で事実関係を確かめて、それでこの裁判を言い渡そう、こういう考え方でございます。あくまで考え方といたしましては、従来の略式を口頭化したというような形で考えておるわけでございます。今までやみでやつておつたものを、今度は本人を目の前に置いて、そうして事実関係を確かめた上で裁判を出すという点におきましては、これはむしろ非常に丁寧になつているように私どもは考えておるわけでございます。  それからこの裁判の権威の点でございますが、従来の略式手続におきまして、略式命令があつて本人が正式裁判の申立てをした数と、それから裁判所において略式命令相当ならずということで正式裁判にまわした数、これを合計いたしまして、その割合は〇・一%、千人に一人ということになつておるわけであります。これは交通事件だけについての問題でございます。そういうふうに大体の事件というものはスムーズに、少くとも統計上は本人に異議なく行われておる、それをもう一つ簡易化して、手続の面において、形式の面において簡易化して、実体の面ではもう少し丁寧にしようということで調節をはかつたのでございまして、このために誤判が非常に多くなつて裁判の権威を落すということは、従来以上に権威が落ちて来るというふうには考えませんで、むしろその逆になるのじやないかと私どもは考えております。  それからいま一点、裁判の権威の点につきまして、こういう簡単なやり方で裁判を言い渡されるということは、これはたとい公判前の手続にしてもあまり軽々しくて、俗な言葉で申しますれば安直になり過ぎるじやないか、そういう意味で裁判というものが非常に軽く見られるおそれがありはしないかという点、この点はやはり一つの問題でございます。問題ではございますが、裁判というものが、そもそもかみしもを着て高いところに裁判官がすわつてつて、そうして上から見おろしながらやるというのが、必ずしも裁判の権威を維持するわけではございません。ただこれがもう普通の手数料を納めるような観念になつて、刑罰を言い渡されるというような観念がなくなつて参りますと、これは問題でございますが、その点につきましてあくまで裁判をいたします場所は、これは法廷ということに限りまして、簡単に警察の庁舎を借りてやるとか、そういうことはできないようにいたしておるわけでございます。法廷と申します以上は御存じのように裁判所の構内、あるいは最高裁判所が特別な事情があつて指定した場所でなければ法廷ということにはなりません。手続はあくまでも法廷においてやる、そのやり方は砕けたやり方で、むしろ民衆と裁判所が近づくようなやり方においてこの手続を行いたいというふうに私どもは考えておるわけであります。その意味におきましては、簡便なやり方にはなつておりますが、そのゆえに裁判が非常に軽く見られるということにも相なるまいというふうに考えております。
  73. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 事は相当重要なことでございまして、いろいろ御説明を承りましたが、問題は、ただいま申し上げましたように基本人権の尊重と事務の円滑をどこに持つて来るかということだと思うのでありますが、私ども考えまして、御説明をしていただいたようなお考え通りに実際にこれが円滑に行われるかどうか、この点も非常に懸念をいたすような次第でございまして、この点も実際にやつてみなければわからぬと思うのでありますけれども、その点が事志と一致するかどうか、私どもまことに懸念するのでございますが、いずれにいたしましても、この点について、どこにめどを置くかということになつて来ると思うのでありますが、この点はあらためてまたお尋ねしたいと思います。  そこで委員長に対しまして私お願いしたいことは、かような人権に関する重要な新しい制度になりますので、どうか業者並びに関係者、学識経験者をお呼びになりまして、公聴会を開いていただいて、その意見も聞いていただきたい、かように希望いたします。
  74. 小林錡

    小林委員長 ただいまの御要望に対しましては、また委員会にかけまして善処したいと思います。  それでは本日はこの程度にとどめておきます。明日は午前十時三十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後三時四十六分散会