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1954-03-02 第19回国会 衆議院 法務委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月二日(火曜日)     午前十一時二十二分開議  出席委員    委員長 小林かなえ君    理事 鍛冶 良作君 理事 佐瀬 昌三君    理事 田嶋 好文君 理事 花村 四郎君    理事 古屋 貞雄君 理事 井伊 誠一君       押谷 富三君    林  信雄君       牧野 寛索君    高橋 禎一君       神近 市子君    木原津與志君       木下  郁君  出席政府委員         法務政務次官  三浦寅之助君         法務事務官         (人権擁護局         長)      戸田 正直君  委員外出席者         検     事         (刑事局参事         官)      高橋 勝好君         参  考  人         (警視庁人事局         長)      小野  裕君         参  考  人         (練馬警察署         長)      松井 吉衛君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 二月二十七日  委員黒田寿男君辞任につき、その補欠として岡  田春夫君が議長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 二月二十六日  犯罪者予防更正法の一部を改正する法律案内閣提出第六三号) 同日  広島法務局羽和泉出張所存置に関する請願高橋禎一紹介)(第二四三六号)  松山地方法務局日吉出張所存置に関する請願井谷正吉君外二名紹介)(第二四三七号)  千葉少年鑑別所施設移転反対に関する請願臼井莊一君紹介)(第二五六二号) の審査を本委員会に付託された。 同月二十七日 戦争犯罪人全面的釈放並びに抑留同胞の引揚完  了促進に関する陳情書(第一二一一号)  同(第一二一二号)  同(第一二一三号)  同(第一二一四号)  大津地方法務局下草野出張所の存続に関する陳情書(第一二一六号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  交通事件即決裁判手続法案内閣提出第二七号)(予)  犯罪者予防更生法の一部を改正する法律案内閣提出第六三号)  人権擁護に関する件     ―――――――――――――
  2. 小林錡

    小林委員長 これより会議を開きます。  まず犯罪者予防更正法の一部を改正する法律案議題となし、提案理由説明を聴取いたします。三浦政府委員
  3. 三浦寅之助

    三浦政府委員 ただいま上程に相なりました犯罪者予防更正法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。  この法律案は、平和条約第十一条による被拘禁者の赦免、刑の軽減及び仮出所等に関する審査事務をつかさどる中央更正保護審査会委員の数三人を五人に改めることによつて、これらの事務の適正かつ迅速をはかることを目的とするものであります。  中央更正保護審査会事務のうち、現下最も重要かつ多量なのは、平和条約第十一条による被拘禁者釈放に関するものであり、これが釈放は、わが国勧告裁判国同意決定とによつて行われることになつておるのでありまして、政府としては、国民の強い要望の次第もありますので、鋭意その促進に努力しておりますが、現在巣鴨に残留する七百八十余人の者は、米、英、蘭、濠の四箇国関係でありまして、これらの関係国は、政治的な全面釈放については多大の難色を示し、個別的、司法的に処理する意向を寄せておりますので、わが国においてもこれに即応する勧告手続を要するに至つておるのであります。従いまして、かかる要請に応ずるための調査及び審理をつかさどる中央更化保護審査会事務は、きわめて精微にして複雑なものとなり、現在の三人の委員によつては、処理し切れない状況にありますのと、社会各層にわたる学識経験者意見を総合して有効適切な勧告を行う必要がありますので、三人を五人に改正しようとするのであります。  この法律案におきましては、右の改正に伴い、委員のうち過半数が同一政党に属することにならないよう、その任命及び罷免に関する規定を改めるほか、審査会議決等に関する所要の改正もいたしております。  なお、附則においては、この法律を施行する日を規定するほか、この法律の施行により新たに任命される二人の委員のうち、一人についての最初の任期につき特例を設けております。  以上申し述べましたように、平和条約第十一条による被拘禁者釈放等に関する事務の完全な処理目的として、この法律案を提出いたした次第であります。何とぞ慎重御審議の上、御可決あらんことを切望する次第であります。
  4. 小林錡

    小林委員長 これにて政府説明は終りました。本案に対する質疑はいずれ後日に譲り、本日はこの説明聴取にとどめておきます。
  5. 小林錡

    小林委員長 それでは交通事件即決裁判手続法案議題となし、前会に引続き質疑を行います。質疑の通告がありますから、これを許します。林信雄君。
  6. 林信雄

    ○林(信)委員 私はこの法案についてすでに一面にわたりまして、第一回はおおむね総括的な関係につきまして、第二回にいわば逐条審議といつたような心持で、法案条文の順序についてお尋ねを始めておりました折からであります。前会たしか第四条まであらまし行つたと思います。従いまして本日は第五条より疑点とする点についてお尋ねしておきたいと思います。  まず第五条の字句であります。文字の意義は読む人によつていろいろになるかもしれませんが、私はこれをそのまま読んでおりまして、あるいは私のごとき誤解を持つ者があるかと存じますので、お尋ねをしておきます。それは「(書類等の差出)第五条 検察官は、即決裁判請求と同時に、即決裁判をするために必要があると思料する書類及び証拠物裁判所に差し出さなければならない。」というのが法案なんでありますが、これは当局説明によりますれば、即決裁判を必要とする検察官は、その事件証拠物までも同時に裁判所に出さなければならぬ、こういう趣旨が特にうたわれておるかのように言われますけれども、すらりとこれを見て参りますと、そういう事件証拠物というよりは、むしろ即決裁判をする必要があると思料するそのことについての書類証拠物裁判所に差出さなければならないように見えるようでありますが、これは私だけのひが目的見方なんでありましようか。どうもそういうように読まれますので、これは何とかもう少し当局の考えておられますようなことを表現する言葉に直さるべきではないか、こう思つておるのですが、いかがでしよう。
  7. 高橋勝好

    高橋説明員 便宜私から説明させていただきます。この第五条の規定は、御承知通り現行刑事訴訟規則の第二百八十九条の規定そのままでございまして、二百八十九条は、「検察官は、略式命令請求と同時に、略式命令をするために必要があると思料する書類及び証拠物裁判所に差し出さなければならない。」こうなつておりますが、この言葉をそのまま借りて来たものでございます。そうしてその趣旨といたしますところは、御承知のように現行刑事訴訟法におきましてはいわゆる起訴状一本主義がとられておりまして、公訴が提起された場合には裁判官予断を抱かせるような一切の書類証拠物は見せないということになつておりますのを、特にこの点ははずしまして、ここで即決裁判をするに必要なところの書類証拠物をつけて、裁判請求と同時に裁判所に差出さなければならないという趣旨でございます。ただいまお尋ねのようにあるいは読まれるおそれがあるかとも思いますが、現行ルール解釈上ほぼこれでまかなつて行けると考えましたので、そのような言葉づかいにいたしたのでございます。
  8. 林信雄

    ○林(信)委員 同様趣旨の他の規定が参照せられてそのままの文言であつたということは私もわかるのでありますが、やはりそれが適当でない字句が用いられておるということでありますれば、われわれその規定改正ということでなくても、新たなる法案関係については新たな考え方で臨んでよろしいのではないかと思う。もつとも特に証拠物という言葉に、特殊の解釈をもつて臨みますれば、これでわからないとも思わないのでありますが、どうもこう書き流しておりますと、そういう誤解を受けるおそれがないとも限らないと思うのでございます。なおこの点につきましては私ども考慮してみたいと思うのですが、ただいまお話のありました、この規定によつておのずからわかつて参ります刑事訴訟法のとつておる起訴状一本主義、御説明のように審理の開始前に予断を抱かせないための措置として、起訴事実以外の事実の書類あるいはまた証拠物関係裁判所に見てもらいたくないというその建前は、新しい立法傾向でございまして、これはまことに適当なものであると思うのであります。本法案のこの即決裁判手続簡易手続で迅速な審判を使命とする関係から、特に証拠物等も早く裁判所の目にさらすということはわかるのでありますけれども、しからばといつて、大きな刑事訴訟法根本主義と相なつております、まず起訴にあたつて起訴状一本主義というこの制度をこの際取除かなければならぬというほどのものか。もしこの起訴状一本主義を捨てぬならば、手続の非常に簡易なものが複雑になり、あるいは迅速をねらつておるものが非常に遅延するというそれほどの理由が考えられぬ。やはり同じく裁判手続の問題でありますならば、起訴状だけをまず差出しておきまして、そうしてこれに対する被告人認否を求めて、しかる後に書類を受取りましても――常に当局説明しておられますように、簡易事件であつて、およそ時間的にも数分あるいは十分ぐらいで、おそらく半日あるいは一日も継続して審理するような事件は少いだろうというような見方から参りましても、どうもそれほど取急いで、この原則的の制度をいわば破壊してまでこういう手続によらなければならないという理由が首肯しかねるのでありますが、この辺についての今までのお考え方はいかがですか。
  9. 高橋勝好

    高橋説明員 お答え申し上げます。ただいまお尋ねの点は、現行略式命令でも同じようなことが行われておるわけであります。すなわち略式命令の際にも、略式命令請求いたしますと同時に、検察官書類及び証拠物裁判所に差出しております。これは御指摘起訴状一本主義をこの面で破壊しておると申し上げてもさしつかえないと思いますが、私は、それは起訴状一本主義の例外を規定しておるものと、こういうふうに考えております。略式命令でそういう手続がとられておりますのは、御承知のように略式命令につきましては、検察官がそれに関与しないということが主たる原因でございますが、今度の即決裁判手続法案におきましても、原則といたしまして、検察官期日審理には立ち会わないという建前をとつております関係上、やはり即決裁判請求と同時に、その即決裁判をするに必要な書類証拠物というようなものは当初から裁判官に差出さなければ、裁判官といたしましては審理に大きな支障を来すということが考えられるのでございます。そういうような意味合いにおきまして、この前申し上げましたように、すべて略式命令に幾分口頭主義を加味したというような建前に立つておりますこの即決裁判手続法案におきましては、やはり検察官の手に持つております書類証拠物というようなものはすべてこれを裁判官に差出すことが必要である、まずもつて差出さなければならない、こういう趣旨に考えておるのであります。
  10. 林信雄

    ○林(信)委員 略式手続がそうであることは、これははつきりしております。略式手続は、御承知のように、書面審理なんですから、書面審理のものにわざわざ特殊の認否制度をつくり、さらに証拠物を追送するというような制度をつくることは、これは非常に不自由であり、手続上困難な問題であろうと思うのですけれども、本法案の場合には、いわゆる口頭審理なんですから、被告人意見を開くことも容易であり、それに続いて書面を出させることも容易であると思います。もし私の言うがごとく、起訴状一本主義をとつてその認否を求め、しこうして立証の段階に入つて行くということにいたしますれば、検事立会を必要といたします。これは後に関係条文がありますから述べるのでありますが、検事が立ち会わないということ自体が、問題というと語弊がありますが、私はどうかと思う。書面を出しておりましても、場合によつて書面釈明を求めたいという裁判所関係もありましようし、被告人におきましても釈明を求めたい場合がありましよう。そういう場合に至つてあたふた検察官立会を求めるというような場面も出て来ないとは限りません。前々から私が申し上げておりますように、書面審理違つた口頭審理の体系を持つ本案裁判手続は、ただ書面審理口頭審理にかわるだけだということで、裁判が開かれておると言いますならば、ざつと見れば普通の裁判手続に似たようなものになつて来ていると思うのです。あるいは建物、施設関係からしてそれほど形式ばつた法廷はつくれないにしたところで、やはり公開された裁判、普通の正式裁判手続に似たような形のものができ土つておるのに、内容は、きわめて粗略とは言えませんが、あまりにも簡易過ぎておるということになりますと、裁判制度全体から見まして、簡易というならよろしいのですが、どうも近ごろの裁判はあまりにも粗略に流れる方向に行つておるのではないかという誤解も受けると思うのです。検察官立会とともに弁護人立会のごときも、被告人権利の伸張上当然弁護人も付さなければならない。付することのできる旨を告知し、及びいかなる段階においてもこれを付し得るというのに、本法案は、付することはできるけれども、付する旨の告知もいらない。弁護人を付しても、立会は強制されない。簡易であり、異議はないのだからよろしいとは言うものの、先刻から申し上げておりまするように、まず普通裁判手続にほうふつたるような訴訟手続関係において、そこまで簡略にしてしまうことはどうであるか。弁護人を付することはできるのだから、いいじやないかというけれども、やはり訴訟が不なれな者には、その告知をしてやらなければ、この手続ではあるいは弁護人を付し得ないのではないかという誤解を受けるおそれもある。かれこれ原則的にできました刑事訴訟法の本来的な訴訟手続は、一応これを尊重しながら行くべきではないかと思う。  かような関係から、意見をむし返すようでありますけれども、この手続にそれほど障害とならないならば、一応裁判官予断を抱かしめない意味の起訴状一本より、検事立会して陳述より始めることが望ましいのではないか。略式裁判手続はあるのでありますから、むしろこれの方が簡略であつて訴訟関係人の出頭その他書類煩雑等の面においてできるだけの措置を講じますれば、不自由はありながらも、まだこれの方が適当であるかもしれない。簡易裁判手続を求めようとすれば、ここにある程度の慎重さというものを盛り込まなければ、あまりに骨抜き的な簡略手続に終り、屋上屋を架したような、いわば無用な手続視されるおそれがある。私一人の懸念であればとにかくでありますが、一応考えられますので、重ねてこの点をお伺いしたい。
  11. 高橋勝好

    高橋説明員 御意見まことにごもつともなことがあると考えますが、一応数字について申し上げますと、昨年一月から十月まで、全国の裁判所におきまして、略式命令を出しました事件が三十七万六千人ございます。そのうち交通事件関係するものが二十五万六千人、すなわち全略式事件の六八%が交通関係事件になつておるわけであります。たとえばこの二十五万六千人で、今度御審議願つておりますところの交通事件即決裁判手続法案による手続によつたといたしますると、ただいま林委員の御意見通り検察官がそれにすべて立ち会うということになりますと、これはとうてい現在の検察官の数をもつていたしましては、どうすることもできないと申し上げてさしつかえないと思うのであります。そういたしますると、即決裁判手続法によりましても、検察官がその一々の審理に立ち会うということはとうていおぼつかないのでございます。これを何かほかの方法によらなければならないということが考えられるわけでありますが、そのほかの方法によるという点につきまして、現在の略式手続があるじやないか、略式手続によればよろしい、こういう御意見がございますが、先日来申し上げておりますように、ただいま略式手続によりますというと、いろいろの障害のために一件平均その処理日数が百九日余りかかつております。そうしてそれは現在の機構、人員その他諸般事情から考えまして、これをより短かくするということがかなりむずかしい事情にあるのではないか、こう考えられまして、私たちといたしましては、何とか今後激増する見込みのありますところの交通事件につきましては、もつと簡略であつて、しかも被告人権利の尊重については十分考慮が払われるような手続はないかということを長い間検討いたしました結果、ここに交通事件即決裁判手続法案なるものを考えたわけでございます。この手続によりますれば、おそらく事件発生から即決裁判が終るまで七日ないし十日をもつて処理できる、そうしてその間におきますところの作成する書類その他が非常に簡略される、裁判官の負担は除かれまして、人手は大いに省かれる、こういうふうに考えた次第でございます。以上申し上げましたような事由から、いろいろ見方は成り立ち得ることでありますし、またこれが絶対的というふうにも考えられないのでございますが、しかし当面考えられる問題といたしましては、この即決裁判手続法によることが諸般事情から一番好ましいものではないかというふうな結論で、こういう法案を作成しまして、御審議を仰いでおる、こういう次第でございます。
  12. 林信雄

    ○林(信)委員 続いて第六条でありますが、裁判所は、即決裁判請求があつた場合、その事件即決裁判ができないもの、これは法律的にできないもの、またはこれをすることが相当でないものである思料するとき、すなわち内容的に害質的に相当でないものであると裁判所自身が考えた場合、これを通常訴訟手続に引直して審判するというこの規定関係なんであります。これにつきましても、今まで述べておりましたような根本簡易裁判手続をどの程度のものにするかという考え方で、やはりこれについての意見が、起つて来るのですが、せつかく今当局の考えておられますような簡易だ、迅速だという点に非常な重点を置くものであるとしますれば、この実質相当、いわば内容相当といつたようなものぐらいは、検察官意見を尊重するのがこれは考え方じやないかと思うのです。この場合においては、裁判所意見を尊重するという建前をとられる、これは裁判所裁判するんだから裁判所相当でないと考えることの方が重要だ、こう言つてしまえばそれつきりなんですけれども、一連の裁判手続として事件処理として考えました場合、直接にまずその事件に当り、いわば裁判所よりは時間的にもその事件に対する観察の面におきまして一日の長があるわけなんですから、それが相当であると考えましたものを、裁判所がこれは不相当だ、こう変更してしまいますことはどうかと思うのであります。結局裁判所裁判するんだから、おれが相当でないと考えればもうそれまでだといつたような面から言えば特別でありますけれども、今当局のねらわれておる線から参りますれば、すでにその手続相当であるとして考えて参りましたものをわざわざかえるということは、たとい一件でも、少くともその事件限つて簡易でなくなることはもちろんであるし、迅速の面においては迅速ではなくなるのですから、その面ぐらいは、これは検察官意見を尊重してもさしつかえないのだ、あるいは裁判所、あるいは裁判の権威にかかわる問題ではないのではないか、こういうふうに考えられるのでございますが、いかがでございますか。
  13. 高橋勝好

    高橋説明員 第六条第一項の規定は、現在の刑事訴訟法の第四百六十三条の第一項の規定によつたものでございます。ただいま御指摘通り、その事件即決裁判をすることのできないものにつきまして、これは即決裁判をしないということは問題ないと存じます。次の、「又はこれをすることが相当でないもの」、この場合は、林委員の御指摘通りの場合が出て来ると思うのでございます。しかしながら、それは即決裁判請求を受けまして、すぐ裁判官がその請求相当でないと思料いたしまして、通常手続にまわすことは理論上当然できるのでございますが、おそらくそういうことはそうあまりないのじやないかと思うのであります。この後段でねらつておりますところは、裁判官審理を開いて、被告人意見弁解を求める、その際に被告人からいろいろ今までにないような事実を述べる、検察官が調べた当時におきましては、被告人警察から送致された事実をそのままほとんど異議なく認めている、また検察官におきましても、それほどこの手続がめんどうになるというような予想もいたしませんので、即決裁判請求をした、ところが、法廷へ出て参りまして、被告人から新たな事案を持ち出す、またいろいろの弁解をする、こういうふうになつて参りますと、その事件はもはやそう簡単には済まない、すなわち即決裁判手続法によりますところの審理の対象にはそぐわないものになつて来る、こう思われる場合が出て来ると思います。そういう際に裁判官は、それは即決裁判手続法によることが相当でない、こう思料した場合には、通常手続によるもの、こういうふうな点をねらつておるのでございます。林委員の御疑問になるような点は、おそらく実際問題としてもあまり起らないのではないか、こういうふうに考えておる次第でございます。
  14. 林信雄

    ○林(信)委員 第六条の関係は、先ほど申しておりますように根本的な考え方がありますけれども、一応その程度におきまして、第七条に移ります。  短かい字句をもつてつづられている審判規定ですが、「即決裁判請求があつたときは、裁判所は、前条第一項の場合を除き、即日期日を開いて審判するものとする。」、これで見まして、やはり先刻申し上げておきました字義の点について、これをそのままに受取りますと、期日を開くことが即日であるとすることは、これはこの法案のねらつておる関係からはよろしいといたしましても、即日審判をするというこの字義にとられると思うのです。言いかえますれば、審判を当日までにしまわなければならないもののように見えるのです。しかしながら実際においては、即日審判、いわゆる審理判決までなすことが困難であつたり、あるいは不可能な場合があると思う。また一面これを見ますと、その日に開いて、その日に調べて、その日に判決するということであれば続行の余地が全然ないかのように見られますが、そうではないと思うのです。これはそうでないならば、ないような字句に書き改められなければならないのじやないか。私の考えをもつていたしますれば、即日期日を開くことはよろしいとして、審理手続に入つて続行の要がなければ即日判決をなすこともできるといつたような趣旨の、もつと親切な字句になつて来なければならないのではないかと思うのです。私が前提いたしておりますような、即日期日を開くけれども、その日に審判しなければならないものではないのであるか、従つて続行も可能であるのか、証拠調べその他審理は終つたけれども、判決はその後に譲ることもできるのか、これは先般ちよつと触れてみたのでありまするが、一切の審理を終りましても、判決くらいは後刻であるとがあるいは一日、あるいは問題によつては数日を考慮したい場合が裁判官にもあり得ると思うのです。繰返すようでありまするが、事をさばき、人をさばきますことは非常に困難であります。犯罪自体の事実を決定することは、これは与えられました証拠によつて、必要があればさらに証拠調べを職権をもつていたしまして、比較的容易になし得るかもしれませんが、その事実に対する刑の量、いわゆる量刑がどの程度のものであることが一番適当であるかということに裁判官は一番苦労なさる。それをその日にやつてしまわなければならぬ、こう法律が来るものといたしまするならば、これはまつたく弊害のある問題であろうと思うのであります。かような点も思われるのでありまするが、ただいま申し上げましたような関係において、第七条の字句その他についてどういうお考えなんでありますか。
  15. 高橋勝好

    高橋説明員 ただいま御指摘の七条の解釈は、御意見通りに即日審理は開きまするが、絶対にこれの期日続行するあるいは判決の言渡しを後刻に延ばすことを禁ずるものではございません。やはり事件によりましては続行する必要もありましようし、また裁判の言渡しも即時せずに、しばらく時間をおいてする、あるいは二両目考えた後にするということは当然許されるわけであります。ただ先日来申し上げておりますように、即決裁判手続法目的ないし使命にかんがみまして、できるだけ検察官といたしましてもすぐ裁判ができるような簡略事件を選んでこれを起訴する。それで裁判官におきましても事情の許す限りは即日審理判決までしてほしいということを一応希望するだけのものでございます。ここにただいま用語があまり簡便であつて意を尽さないじやないかというおしかりをこうむつたのでありまするが、七条に「期日を開いて審判するものとする。」こういう表現を用いておりますのは、その辺の気分を表わしたいということからであります。私のことを申し上げて恐縮ですが、私も裁判官として判決した経験がございまするが、御指摘通り、かなり簡単と思われるような事件でも、すぐその場で判決することはよほどのことがない限りはいたしておりませんでした。しばらく十分なり二十分なり考えて言い渡すということをしておりましたので、おそらくこの手続が実施されました後におきましても、相当そういうふうな考えた上判決を言い渡すということが行われることと存じます。ただ判決言渡しだけを翌日に持ち越しあるいは二、三日後に持ち越すということは、被告人の生活あるいは職業、その他諸般事情から、かえつて被告人がそれを好まない場合があろうかとも考えられるのでございます。それらを考えますと、できるだけその日に審理判決まで行く、そうしてでき得るならば仮納付までしてしまつて、今後再び裁判所に呼び出されるということがないようにすることが、むしろ現状から考えまして被告人に有利ではないか、こう考えている次第であります。
  16. 林信雄

    ○林(信)委員 そうしますと、審理のための続行期日というものはあり得るわけですか、ないのですか。
  17. 高橋勝好

    高橋説明員 あり得るわけでございます。
  18. 林信雄

    ○林(信)委員 審理のための続行期日があり、当日裁判をしなくてもいいものである。「期日を開いて審判するものとする。」こういう文句がなるべくそうしたいという心持の表現の用語だと言われる。なるほどそう考えればそう見えないこともないようですけれども、法律字句というものは、詩ではないのですから、感覚でというとなかなかこれは問題が起るのではないかと思います。こういうふうに書いておきますと、やはり法律は厳格にという趣旨で、当日審理、当日判決ということに解釈するものがむしろ多いのではないかと思う。その反面は続行期日がないではないか、続行を要するような事件は無理にもやつちまうのか、あるいは続行する場合にはどうするのか、その規定がないのではないか、当日片づかないようなものは、前の条文にありますような審理相当といつたような考え方から、もうその他の手続に移してしまうのか、どうもこの点については私は疑義が去らないのでありますが、なお検討を試みてみます。当局のお考えになつていることはわかりました。  それからこれは、この説明書の中にあります第七条の(二)の中に、日ごろ見かけない言葉があるのですが、これを後学のために教わりたいと思うのです。このぺージの終りから二行目の最後のところに「即日検断」という言葉がございます。「警察官及び検察官が同一の日に同一の場所において必要とする取調べを行い、検察官は即日検断を行つて起訴すべきものは起訴し、」という場合の検断ですが、これはどういう意味なんでございましようか。
  19. 高橋勝好

    高橋説明員 御承知のように検察官警察から事件の送致を受けますと、その書類を調べ、また被疑者に対していろいろ調べをいたします。その調べをいたしまして、検察官としてはこの事件は犯罪が成立するかどうか、成立したとした場合にこれを起訴すべきかどうか、あるいは起訴猶予にすべきかどうかということを検察官がその場で判断決定いたします。その判断決定を検断とこう申しております。
  20. 林信雄

    ○林(信)委員 まあそんなところじやないかと思いましたけれども、たいへん新しい文字に見えましたので、あるいは別の意義があるのではないかと思いましてお伺いしたわけなんです。  続いて第八条へ移ります。第八条はいわばこの裁判手続の構成ともいつたような事柄を規定していただいているようであります。これもまた字句の点でありますが、これを見まして目につきますのは、第三項に「検察官は、法廷に列席することができる。」とあるのです。その意味はわかるのでありますけれども、その列席という言葉がどうも……。
  21. 高橋勝好

    高橋説明員 それは逐条説明書の方が間違つておりまして、出席でございます。
  22. 林信雄

    ○林(信)委員 出席ですか。それではその点は取消します。実はこれには「列席」として、裁判官及び裁判所書記官と同文字が使われて、第九条によりますると、「弁護人は、期日に出頭することができる。」というので、実は検事弁護人を書きわけて字句が用いられておりますので、ひがみじやないのですけれども、裁判官及び裁判所書記官と同じ「列席」を検事に対しては使用し、弁護人については「出頭」といつて、何だか別種の取扱いみたいな字句になつておつたので、これは不相当である。悪くいうと、官尊民卑の思想から来ているのじやないか。大体平等主義をどう考えておるんだというところに及びそうだつたのですけれども、「出席する」ということになりますと、大分言葉が違つて来ます。出席と出頭ならばあまりかわらぬですが、それでもこれは同じにしておく方がいいのじやないかと思いますが、第九条との関連におきまして、同じ文字にされない特殊な意味があるのでございましようか。
  23. 高橋勝好

    高橋説明員 これは、私たちといたしましては、決してある含みをもつて書きわけたのではございません。ただ現行法そのままによつたのであります。現行法の二百八十二条には、「公判期日における取調は、公判廷でこれを行う。公判廷は、裁判官及び裁判所書記官が列席し、且つ検察官が出席してこれを開く。」こうなつておりますので、手続法案の第八条三項に、「検察官は、法廷に出席することができる。」といたしましたのは、この規定によつたわけでございます。それからなお九条に「弁護人は、期日に出頭することができる。」これも刑訴法の言葉通りでございまして、現行法は、弁護人につきましては出頭という言葉を使つておりますので、それによつてやつたわけであります。それ以外のことは、何も含んでございません。
  24. 林信雄

    ○林(信)委員 たびたびですが、各種手続にそうあるんだから、同じような趣旨目的手続だからそれを流用する、これも実際の法案をつくる上には便宜かもしれませんが、さような場合に、それでは不相当字句、あるいは不相当制度を置きかえてみるということも、これはいいのじやないかと思うのであります。第八条、九条の関係においても同様に思われるので、後にできますものは幾らか前のものよりは、長い間国民の目にさらされ、関係者もまたこれを検討して来ておるのでありますから、また時代的な流れから参りましても、時代の変遷があるのですから、そういう場合に再検討をいたしまして、用語を整える等のことは、当然考えてよろしいと思うのです。検察官が出席をする、弁護人が出席をするとしましても、決しておかしくないと思います。弁護人訴訟関係者であつて、出頭という文字がまだまだこの時代に適当であると考えますならば、やはり訴訟の原告である検察官も、やはり出頭の文字で表わせられないこともないのです。すでに法廷の構成において、一切の考え方というものが平等なんで、少くとも訴訟手続の上においては平等に考えられておりまする場合、こういう字句というものはかような際に、わざわざ従来あるものを、それも取上げて改正するというのではなくて、後につくられます法案についてはそういう変更をされまして、それが進歩として受取られまするならば、むしろ幸いでなくてはならぬと思います。ただいたずらにというと語弊がありますが、従前あつたから、それをそのまま置く方が無難だということは、どうも親切でないように思われますが、重ねて伺つておきたいと思います。
  25. 高橋勝好

    高橋説明員 御意見はまことにごもつともでございます。立案の過程におきましては、やはり御意見のように検察官も出頭にするか、あるいは弁証人の方も出席にするかということをいろいろ議論いたしたのでありますが、現行法またその他の法令にも各所で使つておりますので、それを急に書きわけると、何かそこに大きな含みが持たせられたのかどうかというような点まで、また逆に疑つて来る考えも当然出て参りますので、この際現行通り言葉を使つておくのが一応無難ではないかという理由だけでございます。この言葉につきましては、それほど深い執着を持つておらないわけであります。
  26. 林信雄

    ○林(信)委員 根本的にこの規定が大体ねらつております裁判所の構成の関係、この法案では特に第八条は開廷の規定といつたようにして、裁判所の構成とまでは考えておらないようでありますが、やはりこういう口頭審理主義をとります法廷においては、裁判所の構成ということも考えまして、検察官というものはやはり一応出るということにし、弁護人も出るということになる建前を一応とるべきではないかということが、先刻来申し上げておりますようなことと同様に思われるのですが、この第八条は裁判所の構成といつたようなところまで考えてつくられているのでありますか、それとも裁判所の構成というほどの重要な点は考えておられないのでありますか、また考える必要もないという考え方なんでしようか、その点について……。
  27. 高橋勝好

    高橋説明員 御指摘の点は即決裁判手続法根本関係することと思うのでございます。先日も申し上げましたように、即決裁判手続におきましては、原告、被告がその主張を十分たたかわせるというふうな構成はとつておりません。裁判所裁判するにあたつて必要なことを被告人に確かめるという略式手続に一歩を進めたもの、この程度に考えております関係上、この法廷は公開の法廷で行うという点と、それに列席いたします者は裁判官裁判所書記官、これだけを確保すればそれでよろしい、あと検察官並びに弁護人権利として出席できますが、しかし出席の義務はない。検察官なり弁護人法廷に出なければその法廷は開けないというふうなことは、この手続建前から考える必要はないじやないかという考え方でございます。そういたしますと、今お尋ねの点は、裁判所の構成までは考えておりますが、それに現行法にありますところの検察官弁護人の出廷というものは、この法廷を構成する上においては要件ではない、こういうふうに考えております。
  28. 林信雄

    ○林(信)委員 裁判所の構成ということを考えておられますのに、従来の大原則である裁判所の構成というものをそう軽々にかえて、やはり構成というような言葉でいえるような変更は、さしつかえないものでしようか、何だか少し事を簡単に考えておるのじやないか。裁判所の構成ということになりますと大原則であつて、そう軽々に扱われない問題じやないかと思いますがいかがなものですか。
  29. 高橋勝好

    高橋説明員 今私が裁判所の構成と申し上げましたのは、旧法時代と違いまして、裁判所の構成は、裁判官裁判所書記官をもつて裁判所が構成される。そのほかもちろん裁判官につきましても地方裁判所と高等裁判所と最高裁判所とでは、その裁判官の人数は当然違つて参りますが、それが裁判所の構成である。旧法時代は申し上げるまでもなく検察官が列席することも裁判所法廷を構成する上においては絶対要件の一つであつたわけでございますが、現行法では当事者主義の意味の構成ではございませんで、ただ裁判所を中心とした構成、こういうような意味で申し上げたのであります。
  30. 林信雄

    ○林(信)委員 次にこの条文の中の公開法廷の意味ですが、これは具体的には裁判所の中の一室を大体予定されておると思いますが、それ以外に現場における法廷というものは考えておられないのでありましようか。また絶対に考えられないものでありましようか。いわゆる裁判所法の六十九条の関係から参りますると、現場法廷というようなものは容易には開廷できないもののように思われまするけれども、この裁判手続のねらつておりまするようなところから参りますると、法廷というものは現場でありまして、現場を見ながら審理をして、また迅速の関係からその場で審判できるものは審判してしまうということがまことに適切じやないかと思うのであります。書類の上だけでもわかるものはわかりましようけれども、同じスピード違反でも、その場所によつて、道の広狭あるいは勾配の程度あるいは標識の関係にしましても、道路の関係より容易に確認ができるとかできないとかいろいろな関係で、現場を見るということは、この手続では一番重要であり、かつその審理を迅速適正にするかぎだと思うのです。それがどうしても裁判所の部屋の中でなくしてはいかぬということになりますと、大半その目的が失われる。法廷の場所を現場に移すということが法律的に措置されまするならば、この手続で十分行ける面が開けて参ります。この手続もうんと生かされて来るんじやないか。これが縛られているためにこの裁判手続が画龍点睛を欠くうらみというような気持がするのでありますが、この辺を御考慮になつたことがあるのでしようかいかがでしようか。
  31. 高橋勝好

    高橋説明員 第八条第一項の「即決裁判期日における取調べ及び裁判の宣告は、公開の法廷で行う。」という、この公開の法廷は、現在の裁判所におきまするところの公開法廷、これだけを考えておるわけでございます。御指摘通り現場であるいは他の便宜な場所で法廷を開いて審判することが、この手続には最もふさわしいのではないかという御意見は、私たちも一応その通りに考えまして種々検討をいたしたのでございます。しかしながら先ほども御指摘がありましたような裁判所法第六十九条による裁判所の指定は、最高裁判所が開設されまして以来、いまだ二件しかその実例がないのでございまして、ほとんど他の場所、現場あるいはその現場に近いところの公会堂なり警察署なりを法廷として指定していただくことが望みがないような状態であるのであります。それにつきましていろいろ私たちも検討いたしたのでございますが、ここに一つの問題があると思われるのであります。と申しますのは、この手続によりまして交通事件審判手続が非常に簡略になり、スピード・アツプされるわけでありますが、裁判をあまりに簡略化するということが、結果においてどういうことになるか。御承知のようにアメリカにおきましては、非常に交通事件がふえております。年間五百万件以上の事件が発生しておるそうでありますが、これらの事件処理は非常に簡略にされておる。特に簡略裁判所といたしましては、カフェテリア・コートというものが設置されまして、こういう違反については何ドル、あるいはこの違反には何ドルということが一定の表で定められておりまして、違反者は三ドルでも五ドルでも裁判所へ持つて行けばそれで用は済んでしまう。いわゆる地獄のさたも金次第というような傾向が非常に見られます関係上、アメリカにおきましては、今度は裁判をもつと慎重にやつて、あまり簡略にすることは考えものだという意見が強く言われておるのであります。そしてその意見の中には、むしろ裁判によつて違反者たちを教育すべきだ、単に書類で罰金幾らというのでは決して被告人が自分が悪かつた、将来気をつけなければならないというふうな反省を起すには役立たない。それよりも裁判官の面前に引出して、裁判官裁判を言い渡すと同時に、時間の許す限り一つの訓戒をして、将来ともあやまちを再びしないように気をつけさせることが裁判の使命であり、またねらいでなければならないというふうな意見が、この交通事件につきまして強く叫ばれておるのでありまして、それらを考慮いたしますと、やはり即決裁判手続も現在の裁判所におきまして、しかもそれは公開の法廷で行われることが諸般事情の上から考えて、一番好ましいのではないかというふうに考えております。
  32. 林信雄

    ○林(信)委員 アメリカのように事を扱うのに諸事画一主義でやるということは、金がふんだんにあり、物がふんだんにあるという一種の国柄あるいは人種柄から来るのでありましよう。税の面なんかでも、一々の個別のものについての税を考えないで、物品税ならば平均に三〇%とつてしまうというようなおおまかなやり方をする国においては、そういうこともあつただろうが、しかしその国柄においてさえ裁判というものは、さように簡略になつてはどうかといういわば反省時期に入つておるということのお話から私は思うのですが、やはり裁判というものは公平の裁判であるとともに、非常に適正な裁判でなくてはならない。いわゆる正確な結論を得なければならないということを訴訟関係者も国民も期待しておるわけであります。それを略式をやり、さらにこういう簡易訴訟手続をやつて行くということになると、その後には正確なものを求め得る道を開いてあるといたしましても、大体の傾向は、裁判というものは非常に簡略、粗略になつて行くのではないかという懸念も持たれるのではないかと思いますので、先日来私意見をさしはさんでおりますように簡略手続、いい言葉で言えば簡易手続、その具体案として即決的にやつて行くということであれば、それは行政罰の程度にしておいて、行政罰の中でやや裁判がかつた、正確さを持つ手続を創設し、それに不服な者はさらに裁判手続によることができる。つまり裁判所審判はやはり正確ということを主体にし、ただ便宜主義からあるいは粗略にまで思われるような手続は避くべきじやないかということが、お話を承つておりましても繰返し思われるのであります。その辺についての各国の立法例等いろいろ御参酌になつた上のこの立案ではあろうと思いますけれども、これは私も、私の同僚の皆さんも御研究になつておりますし、十分研究をしてみたいと思つておりますので、これに関して御意見があるならばこの際承つておきたいとは思います。しかし時間の関係がございますし、さきに第九条にもちよつと触れましたので、第八条……。
  33. 小林錡

    小林委員長 林君、まだ先へ進めますか。この辺で切りたいと思いますが……。
  34. 林信雄

    ○林(信)委員 そういう関係もありますのでこの程度にとどめたいと存じますが、この規定関係について一点だけ伺つておきましよう。  この八条では裁判の宣告まで公開の法廷でやるのであります。従いまして裁判の通知等が書類でなされるのではないのであります。この場合この九条との関連におきまして、被告人は必ず出頭しておりますからよろしいのでありますけれども、検察官は八条の三項によつて列席しない場合があります。その裁判の宣告はおそらく書面か何かで通知するという考え方であろうと思いますが、これは規定は何もいらないものでありましようか。第十七条によると、この法律に書いてないものは、その性質に反しない限り本則として刑事訴訟法が適用されるのでありますけれども、刑事訴訟法は原則として検察官が立ち会うのでありますから、その場合の規定は必要としなかつたわけであります。今度の場合は立ち会わなくてもよろしいのでありますから、その規定がいるのではないでしようか。どういうことかで少くとも通知はしたければならないと思いますが、裁判所と検察庁のことだから聞きに来たら教えてやる、これじやいけないので、そこをどうにかしなければいけないと思いますが、いかがでしよう。
  35. 高橋勝好

    高橋説明員 御承知通り裁判法廷で口頭によつて告知されますと、その告知は当該訴訟関係者の何人にも知らされたことになるわけであります。検察官といたしましては、即決裁判手続におきましては、出席することはもちろんできますし、また出席しないということは、自分の都合から出ないのでございまして、裁判法廷告知されれば、その裁判は当然検察官にも告知されたという効力を持つ、こういうふうな考え方でございます。もちろん実際的には、検察官としましてはかわりの者かだれかを法廷に出すなり、あるいは裁判所から何かの通知をお願いするなりいたしまして、知る機会は当然得るように努めるわけでございますが、法文上は特にこのことの規定はいらないのではないかと考えております。
  36. 小林錡

    小林委員長 本件に関する本日の質疑はこの程度にとどめておきます。     ―――――――――――――
  37. 小林錡

    小林委員長 次に人権擁護に関する件につき調査を進めます。質疑の申出がありますからこれを許します。佐瀬昌三君。
  38. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 本年二月二十六日の読売新聞の記事に、警視庁管内の練馬警察署において、被告人として勾留中の松原基之助なる者が留置場で死亡した。しかもそれは不当拘留による殺人ではないかというような疑いを持つて報道されておるのでありますが、人命の尊重、従つて人権蹂躙というような事柄が世論のきびしい批判に会つております今日、これは当法務委員会としても閑却できないできごとと考えまして、本件に関して以下法務省当局と警視総監等に対して質疑をいたしたいのであります。  第一に、かかる人権擁護の問題の主管者である人権擁護局長として、本件に対していかなる報告を受け、またいかなる調査を行われ、これに対していかなる処置を講ぜられたか、この点をまずもつてつておきたいと思います。
  39. 戸田正直

    ○戸田政府委員 お答えいたします。二月二十六日付の読売新聞によりまして情報を認知いたしたのであります。そこでさつそく調査をいたすことになりましてただいま調査中でございますが、新聞によります記事ととりあえず私の方で刑事局に照会いたしました事実と非常に食い違つておりますので、十分慎重に調査いたしたい、かように考えます。
  40. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 事件内容については、まだ具体的な調査は済んでいないわけですか。
  41. 戸田正直

    ○戸田政府委員 事件内容についてはまだ具体的に調査いたしておらないのでありますが、ただいま申し上げましたように、とりあえずどういう事件であつたかということで刑事局に照会いたしたのであります。ところが新聞によりますと、昨年の五月練馬署で外国車専門の窃盗団を検挙したが、一味が数十台に上る盗品の外車をハイヤー業者などに売りさばいた際に使用したナンバー・プレートや登録証を偽造した中心人物として松原甚之助氏が浮び上り、八月十九日心臓弁膜症で麻布共済病院に入院中の同氏を逮捕した。当時弁護人側は勾留に耐えないと医師の診断書を添えて勾留の執行停止を警察側に交渉したが、同署では証拠隠滅のおそれがあるとしてこれを拒否した。事件はさらに拡大して検挙者四十八名に及んだが、ほとんどが保釈などにより帰宅しているのに、松原氏だけは留置され、六箇月にわたる取調べを受けていた。たまたま去る五日主任弁護人の遠山丙市氏が、警察医中井繁穀氏から松原氏の死期が近いと聞き、十九日勾留判事の東京地裁緑川判事や高橋勉係検事、練馬署小林捜査主任らと交渉した結果、二十二日釈放することになつていた、ところが二十日の午後四時三十分ごろ松原氏は同署保護室で心臓発作を起し、中井氏が手当をしたが、約三十分後に死亡したものであるという新聞の報告であります。ところが刑事局に照会した事情によりますと事実が大分違つておりまして、事件の捜査の端緒となりましたのは、昨年の初夏のころで、米軍のグランド・ハイツ・モーター・プールから窃取された高級自動車を関西に販売する途次静岡で検挙されて発覚したというのが事件の端緒であります。そこでその事件の端緒から松原氏が主犯らしいというので松原氏を逮捕することになつたのでありますが、当時松原氏は目黒の共済組合病院に心臓病のため入院しておつたので、裁判所を通じて逮捕状を発付されたのでありますが、執行を見合せたのであります。ところが九月の初句ごろになつて退院したというので、共済組合病院の医師に問い合せたところ、勾留してもさしつかえないだろうという回答があつたというので、右の逮捕状を執行したのでありますが、その際も本人の任意出頭を求めて、練馬署で警察医の中井繁穀に診断させて、留置してもさしつかえない健康状態であるというので同署に留置したと言つておるのであります。その後弁護人から保釈の請求が数回なされております。第一回の保釈の請求は、第一回の起訴直後遠山弁護人からなされたのでありますが、検察官は不相当意見として裁判所はこの釈放を却下いたしたのであります。その後弁護人からさらに保釈の請求がありまして、第二回の保釈請求は今年の二月十三日ごろに遠山弁護人からなされたのでありますが、その理由には、前回も第二回目にも健康による理由というものは一つも書いておらない、健康上の理由による保釈請求でなくなされたのでありますが、検察官は不相当意見をつけたのでありますが、裁判所側ではこれは事情はわかりませんが、おそらく保釈が長くなつておつたからであろう――これは私の想像なんですが、検察官弁護人を呼びまして事情を聞いたのであります。遠山弁護人は保釈人との関係もありましたので、すぐできるかどうかということで、何か特にあれしてくれという強い意見がなかつたと言われておるのですけれども、これは私も調べておりませんからわかりませんが、さようなことで検察官証拠隠滅のおそれがあるというようなことで、この二回目の保釈も却下せられたのであります。そこで第三回の保釈請求がさらになされました。そのころ弁護人として中村又一弁護士がつきまして、二月の十六、七日ごろなされたのでありますが、これについても健康上の理由というものは述べられなかつた、ところが二月の十九日、土曜日でありますが、中村弁護人から本人の健康状態がよくないからというので、これは口頭であつたと思いますが、裁判所に申し出たのであります。裁判官は中井氏に照会しましたところ、保釈相当意見だというのでさつそく保釈することになりました。これが二十二日に保釈するということになつたのでありますが、その二日前の二十日の日に、本人の呼吸が困難になつたという事情を聞きまして、検察官は病院に手配いたしまして、裁判所側に勾留執行停止を至、急するようにということを促したのであります。それによつて裁判所は執行停止をすることになりまして、その謄本を練馬署に届けることになつたのでありますが、届けますうちに、午後四時本人が死亡したということになつております。その真相はまだ私の方で調べておりませんが、ただいま申し上げたように、刑事局の照会による事実と、新聞に報道されております事実との間には非常に大きな開きがございますので、これは十分に調査しなければならぬものだと考えておりますので、今後慎重に調査いたしたいと考えております。
  42. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 われわれは行政機構の改革の問題にあたりましても、人権擁護届をいかにすべきかということについて慎重に考慮いたしておるのであります。問題は新憲法の保障する個人の基本的人権を尊重して、いやしくも官憲において人権蹂躙の事実なからしめようというためには、大いに法務省の人権擁護局の闊達なる活躍を望むからであります。ただいま局長はたいへん遠慮されて、他の調査との食い違い等を考慮されておるようでありますが、今後人権擁護局としての独自の立場において、しかもわれわれの望むところは、かような事故の発生する以前において、人権擁護の立場から当局の非違をただすというところまでその機能を発揮してもらいたいというのがわれわれの希望であります。もちろん機構の上から見て、また権能の上から見て、調査の末端的機関を持たない擁護局としては活動の上に非常に不便であることはわれわれ十分承知しておりますけれども、でき得べくんば今申し上げましたような見地に立つて、自主的にひとつ善処していただきたいということをこの機会に申し上げておきます。  なお昨年であつたかと思いますが、刑務所内においてある思想的な被告人が変死をしたということで、当法務委員会も重要なる関心をもつてその調査をいたしたことは、各位の御承知通りであります。今回は刑務所にあらずして、警察の留置場であるというところにまた重大な特色があるのであります。ややもすると警察官が職務に熱心な余りに、あるいは検察当局が職務に熱心な余りに不当に勾留するということと、それに伴ういろいろな弊害というものが惹起するというような事態をわれわれが見て参りますときには、特に警察、検察の捜査の過程において刑事訴訟法手続通り人権擁護のための運営というものを期待してやまないのでありますが、今回はその期待が裏切られた最も顕著な一例としてここに問題とせざるを得ないのを私ははなはだ遺憾とするのであります。本人はもちろん、家族も警察の留置場で一命を失つたということは、これは痛恨きわまりないことであろうと思うのであります。私どもは人権擁護局の今後の徹底的な調査を本件についても望むと同時に、いずれ後刻警視総監が参りましたら、警察の立場に対して本件の実体をただしてみたい、こう考えますので、今まだ警視総監が見えないようでありますから、私の質疑は一応これで中止しておきます。
  43. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 ただいまの御報告によりますと、相当長い間の勾留なんですが、練馬署は代監であつたかどうか、代監として便宜あそこに収監した、それと刑務所が、あるいは警察が代監で留置いたしております間の本人の健康につきましては、時々裁判所に報告するような手配になつておるかどうか。私どもが保釈の申請をいたしまする場合に、病気である、耐えられないということを申し出ましても、特殊な警察出入りの医者に言わせると、耐えられる、こういうような場合が時々ある。私どもは今回のように生命を失つてから後に人権擁護局にいろいろの御注文をやかましく申し上げるということはやりたくないのでありまして、その前に十分なるさような手配ができておるかどうか。本件におきましては一体勾留期間がいつからいつまで行われておつたか。それからどういう犯罪に基いて起訴され、さらに公判を開かずに今日まで置いたその理由などにつきましても、相当の御調査をいただかなければならぬ筋合いかと思うのであります。相当長い期間であります。しかも警察におきまする取扱いの問題につきましては、刑務所と違いましてどうも粗雑のような感じを私どもは受けるのであります。従いまして刑務所にさような保護が足らないために便宜上代監をしておるのか、それとも取調べの結果便宜代監に入れておるのか、かような点につきましても十分御調査を願いたいと思います。ただいま局長に御質問申し上げてもおそらくさような点は明確な御答弁がないと思いますので、どうぞその点につきましては、ただいま佐瀬委員からも申し上げましたように、死んでしまつたあとから私どもがいろいろ申し上げても追いつかないことなんですから、基本人権の尊重の立場からどこまでも基本人権を尊重し得る仕組みにしていただきたい。同時に行き過ぎがしばしばありますけれども、さような場合につきましても相当な責任はとられておるでしようけれども、責任をとつただけでは生命は取返せないような重要なことでありまして、そういう点につきましても十分御調査を願いまして、もし組織の点において欠ける点があり、あるいは取扱いの人間において行き過ぎがあつたというような場合には厳重な御処置を願いたい、かように御要望申し上げます。
  44. 小林錡

    小林委員長 この際お諮りいたします。本件について警視総監の出頭を求めておきましたが、どうしてもやむを得ない事情があつて出られないというのでありまして、人事部長の小野裕氏が出頭されました。参考人として発言を願うことにいたしたいと思いますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  45. 小林錡

    小林委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。  なお警視庁練馬署長の松井吉衛君も出頭されましたから、そのつもりで御質疑を願います。佐瀬昌三君。
  46. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 人事部長では責任ある御答弁はあるいは具体的に願えないかもしれませんが、やむを得ませんのでできるだけの御答弁をお願いしたいと思います。  本年二月二十日練馬署で約半年も病人の身でありながら勾留されておつた松原甚之助なる者が死亡したという事案について、人権擁護の立場からいろいろ問題が提起されておるのでありますが、まずもつてこれに対して警視庁の調査はどういうことに相なつておるか、概況を御説明願いたいと思います。
  47. 小野裕

    ○小野参考人 お答えいたします。去る二月二十日に練馬警察署におきまして留置人が死亡いたしました直後、ただちに所轄署の方から報告を受けたのでありますが、そのときは大体事情は了承できたと思いましたのでそのままにいたしましたところ、御承知の二十六日に読売新聞紙にもまた大きく出ましたので、さつそくあらためまして所轄の第五方面本部長に特命いたしまして、さらに当時の状況をしさいに点検せしめました。その結果について御説明申し上げます。  いやしくも警察署におきまして勾留しておりました被疑者が死亡いたしましたことにつきましては、まことに申訳なく存じます。昨年八月最初に逮捕をいたしました時期におきましては、特に病気のある者であるということは十分承知しておりましたので、逮捕執行の場合にも、またその後の留置中における健康上の留意につきましても、所轄署といたしましては最善の努力をしていたものと私どもは一応考えております。何分にも事件が複雑でありました関係上捜査が長引き、また起訴せられましてからはいわゆる未決勾留になりまして、たまたま練馬警察署では捜査の便宜上いわゆる代用監獄としてその身柄をお預かりしたわけであります。お預かりしました以上は、その健康保持の上に最善を尽すべきであることもちろんでありまして、私ども見ましたところでは最善の注意をして参つたつもりでおるのでありますが、なお至らない点もあつたかと考えないではないのでありますけれども、全般の状況といたしましては、特に病房に収容いたしまして、しばしば健康診断あるいは投薬、注射等寺の措置も難じて参つておりまして、当日も、まことに遺憾なことでありましたが、死亡の約一時間前に当日の検診をいたしておつたような次第であります。その点につきましては所轄署としては一応なすべきことはなしたものと思つております。ただそれにいたしましても、なお注意をすべき道があつたかどうかということにつきましては、念には念を入れて、特にそうしたような病状の者に対しましては最善を尽すべきであるということについては一層反省をいたしますけれども、この事件につきましては、お気の毒ではございましたけれども、やむを得ない事情ではなかつたか、このように考えておる次第であります。あとまたお尋ねによりましてお答えいたします。
  48. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 新聞によると「外車不正登録の大物」としてその松原某が掲載されておりますが、一体この事件の実体はどういうものであるか、また関係者はどのくらいおるのか、捜査は検察庁がしておるのか、警察がしておられるのか、その関係練馬警察署長からでもけつこうでありますが、明確にしていただきたいと思います。
  49. 松井吉衛

    ○松井参考人 私練馬警察署長の松井吉衛でございます。  最初に申し上げておきたいことは、練馬警察署に長くおられました松原甚之助さんが不幸病死をされましたことについて、遺族の方々に心からおわびを申し上げるとともに、非常に残念に思つて哀悼の意を表する次第でございます。  本件に関しましては、すでに一部新聞紙等にも報ぜられておるのでございまするが、この松原甚之助関係の現在までに至りまする練馬警察署におきまする検挙総人員といたしましては五十二名、そのうち現在起訴になつておりまするのが二十六名ございます。  事件の概要でございますが、これは最初私の方におきまして、贓物故買の関係で検挙をいたしました被疑者から逐次捜査をして参りますると、そこに窃盗団というのが現われて参つたわけでございます。その窃盗をいたしました自動車、これは主として外人専用の自動車でございましたが、これを一般のいわゆる業者その他の者が使用いたしますためには、当然にいわゆる新規登録あるいは譲渡変更等の登録をして、そうして正規に使う、こういうことになりますると、そこにいわゆる陸運事務所に至りますところの登録の問題が起つて来ると、こういうふうに予想されまして、その線に向つて捜査を進めて行つたわけでございます。そうしますると、当然に登録関係といたしまして、ここに公文書の作成という点が出て参るわけでございますが、捜査の途中におきまして、当然にいわゆる正規の登録ではなくして公文書を偽造した、こういう状況が現われて参りました。公文書を偽造ということになりますと、これを陸運事務所に登録をする、新規登録を行うということに対しましては、その内部にも何かこの情を知つて協力をした者があるのではないかと、こういう見込に立ちまして、いろいろ捜査をいたしますると、そこに一部業者、あるいはブローカーというようなふうに思われる者がありまして、内部とあるいは共謀し、あるいは内部の者が――内部といいますか、いわゆる陸運関係事務所の者がこれに一部買収されておるのではないか、こういう疑いのもとに、そこに初めていわゆる公文書の偽造登録という関係が起つた、これに関連いたしまして、一部分の陸運事務所の職員も検挙されておる状況でございます。こうした関係で、この公文書偽造関係におきましては、捜査の結果相当松原甚之助の名前が各方面に現われておりまして、その関連が最も中心になつておると、こういうふうな捜査の段階になつて来たわけでございます。この捜査自体は、警察署が主として当つておつたわけでございまするが、途中におきまして、相当長期間にわたりますので、一部起訴され、あるいは勾留等になりましては、当然にその指揮は検察庁の係検事の方の指示により、あるいはそれに報告をいたしまして、これが捜査に当つて今日まで来たわけでございます。  なおつけ加えて申し上げておきたいことは、ただいま人事部長の方から御報告いたしたわけでございますが、補足をいたしまして述べますと、人権の尊重の問題につきましては、常に私たちといたしましても最大の努力を払いまして、特に本件松原甚之助の関係につきましては、これを検挙いたしまする当時すでに持病としての病気を持つておるというような点がわかつておりましたので、逮捕の当時に、私の方といたしましては十分に意を用いまして、そうして今日まで来たわけでございまするが、不幸この病気のためになくなられたことを私は心からおわびを申し上げ、弔意を表する次第でございます。
  50. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 病人を半年も勾留しておいたということは、事実としては疑いないようでありますが、その間被告人もしくは弁護人から保釈の申請があつたかどうか、その点を明確にしていただきたいと思います。
  51. 小野裕

    ○小野参考人 練馬警察署のこの事項を担当いたしておりました主任の警部補は小林警部補でありますが、昨年十月ころ以降におきまして、被疑者の弁護人でありました遠山弁護人に対して、大分弱つておるようだし、保釈の手続をされたらどうかということを再三申し入れたことがあるのであります。しかしながらその弁護人としては、特に保釈申請の手続はおとりにならなかつたという次第であります。さらに最近になりまして、なくなりましたのが二月の二十日でありましたが、二月の十六日ごろに、また別の弁護人の方が医者と相談をされまして、医者の診断をあらためて聞かれまして保釈手続をされたようであります。そのことは警察署としては知らなかつたのでありますが、翌日二月十七日に検察庁において関係者がいろいろ話合いをされましてそのときにまた、今保釈を申請されました方でないほかの従来からかかつておりました弁護人の方が、もうしばらく待つてくれ、もう十日くらい待つてからしようじやないか、その申請書は一応預かつておいてくれということを言われまして、それによつてそのままになつておるうちに、三日後でありますが、この不幸な結果が出て参つたというようなことでございます。今まで私どもの調べた結果によりましては、保釈申請の問題については以上のような次第でございます。
  52. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 二人の弁護人意見の調節に手間どり、つい保釈の請求が遅れる、そのために保釈にもならずに死亡するに至つたのだというような御趣旨のように聞えますが、一体、保釈以外に現在刑事訴訟法は、いわゆる責付制度等を認めて、場合によれば勾留にたえない者は職権をもつても勾留を解くことができるわけであります。先ほど承ると、警察が捜査中であつた、しかも身柄はその所轄の警察に留置してあるということであるならば、病人のことであるから十分その医療等に注意すると同時に、勾留にたえないということが認められれば、何らか積極的に釈放についての措置をとるのが人権擁護建前から当然の職責であろうと思うのでありますが、そういう点については、警視庁あるいは警察署では何ら措置がなかつたのかどうか、この点も一応伺つておきたいと思います。
  53. 小野裕

    ○小野参考人 ただいま御指摘の点でございますが、健康の状況のいかんによりまして、当然にそうした措置を講ずべきことは申すまでもないのでありまするが、それまでの間におきましては、その状況は医者からも聞いておりますし、またそのものも見ておるわけであります。あるいは係の検事の方も常時接しておつたわけでありますが、その間の考え方としては、今すぐにどうこうというようなことがあるようなことは予想をいたさなかつたのでありまするが、ただ医者の意見としても場所をかえる、環境をかえるということが必要ではないかということは、医者としては初めから言つておりました。しかしそう急にそのような大事に至るというような判断はできなかつたのであります。当日明け方にぐあいが悪いということで、どうもおかしいんじやないかということがわかりましたので、そのときにおきましてはただちに検察庁に連絡をいたしまして、執行停止の手続をしていただいたのでありまするが、何分にもそのときは手遅れでございまして、手続の指令はそのあとで参つたようなことになつておりまするが、かねてからその病気の見通しにつきましてどの程度に危険が迫つておるのかということについての判断ができなかつたということが、そうしたような強い職権による措置を講じ得なかつた事情であるというふうに考えます。御了承をいただきたいと思います。
  54. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 保釈の申請のあつた場合に、裁判所検事意見を聞いて可否を決定することになつておりますが、そういう場合に検事意見を付することについて、捜査当局警察署の捜査主任あるいは署長なりに対して検事からその意見をつけることについての相談が、実際の運営上行われておるかどうか、実務としてこれを伺つておきたいと思います。
  55. 小野裕

    ○小野参考人 二月の十七日の日には検事から担当の捜査主任が意見を聞かれたのでありまするが、しかしながらそのときに決定的にこれは保釈をしなければならないという結論を申し上げるような事情ではなかつたのであります。その点につきまして病状の判断を結果から見ますならば誤つておつたということにもなるのでありますが、検事から意見を聞かれて意見を申し上げた何はございません。
  56. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 何か死体解剖を行つたとか聞くのですが、その結果心臓麻痺ということが確定的であるのか、また他に何らか死因と思われるような痕跡があつたかどうか。解剖鑑定の結果はどうなのですか、伺つておきます。
  57. 松井吉衛

    ○松井参考人 解剖の結果について申し上げたいと思います。解剖は二月の二十一日、すなわち死亡の翌日されたのでございまするが、聞くところによりますと、心臓肥大、こういうことになつておるようでございます。但しこの問題は、検察庁に対してこの診断書を送付したりするので、直接検事の方へ診断書が出ておると思うのでありますが、ただ警察署といたしましてはその結果がどういうふうになつたかといつて参考に承りましたところ、心臓肥大、普通に言いますると、私たちしろうとではつきりわかりませんが、大体心臓麻痺と同様な病状だということを承つております。  なおその他に特に外傷あるいはその他の原因によつての死亡、こういうことはないということを承つております。
  58. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 なお本件は被告については起訴されておつたようでありますから、検察官にただすべき点は多々あると思いますが、私はここでもう一点だけ警察当局に伺つておきたい。それは先ほど昨年の八月から捜査を開始してすでに五十数名検挙し、うち二十数名が起訴されたということになつておるのでありますが、なおこの事件に対する身柄拘束者は現在何名になつておるか、また事件全体として捜査の完了する見通しはいつごろになつておるのか。従つてまた今後身柄を拘束する必要があるならば、これに対する今後の警察の代用監獄としての対策、治療その他においてかような不祥事の起らぬようにする対策はどう顧慮されているか、それについて念を押しておきたい。
  59. 松井吉衛

    ○松井参考人 現在この事件に関連いたしまして勾留中の者は六名でございます。将来捜査の結果が大体いつごろ終結するかという問題につきましては、今のところ捜査の段階によりましてはつきりいつごろだと申し上げることはできないのでございますが、現在の勾留中の被疑者の関係からいたしましては、今後におきましてもまだ幾分の検挙者を見なければならぬのではないかというふうに考えております。  なお最後の点でございますが、もし警察署が代用監獄として今後においてこうした同一のような点があるといたしますれば、私たちといたしましては最善の注意をして、こうした事故の再び起らないように十分の努力をいたしまして、決して人権問題につきまして国民の方々に御迷惑を及ぼさないように努力をいたす考えでございます。
  60. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 本件の被害者は入院中に逮捕されたとか新聞記事には報道されております。いやしくも人権尊重の建前からかような非常識な逮捕勾留ということは、絶対これは避けなければなりません。先般われわれが刑事訴訟法改正するにあたりましても、逮捕状の濫発ということが警察によつて非常に行われているのではないかというような懸念から、逮捕状の発付要求に対しては一人制限を加えたのでありますが、期するところは人権擁護の本旨を全うしたいというための改正をいたしたのであります。どうか今後も十分この刑事訴訟法改正の精神にのつとり、再びかような不祥事を起さぬように、くれぐれも警察当局においては職務に留意されて間違いなきを期していただきたいということを強く要望いたしまして、私は一応質問を終ります。
  61. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 私今小野参考人、松井参考人の御説明を承つて、非常に遺憾に思うのでございます。なすべきをなしたという御答弁がありましたが、なすべきをなしたということで考えますときに、当時の新聞によりますと、係の医者は勾留にたえないということを申し出たということが出ておりますが、そういう事実があつたかどうか。それからなお病監にお入れになつておつたのでありますが、約百五十日も病監に入つておつたということになるのです。かような長い勾留で、はたしてなすべきをなしたかどうか、これだけですでに問題になると思う。それから今松井参考人は、まだ捜査をこれから続けるのであつて、新しい検挙者が出るかもしれぬとおつしやつておりますけれども、一体そういうことは、それ自体がすでに刑事訴訟法に反しておる。公然とこの席上でさような御説明をされることに対しては、遺憾しごくである。まず第一にその点におきましての考え方が、勾留に対する警察や警視庁の考え方が、すでに根本から誤つておる。この頭を切りかえてもらわなければ、いかに人権擁護局長ががんばりましても、問題にならぬ。その点は、私ども今の御答弁は非常に納得が行かない、けしからぬ、かようにまず考えます。それから検事は、どなたが指揮しておつたか、それから今捜査されている事件はどういう事件であるか。なおさかのぼりますが、正式に勾留された日はいつであつて起訴されたのはいつであるか。この点をまず伺います。
  62. 小野裕

    ○小野参考人 捜査の実態につきましては松井参考人から申し上げますが、この事案につきまして医者がどう見ておつたかという点につきましては、これは新聞記事等もございましたので、正確なところを検討いたしました結果は、健康管理に当つておりました係の医者は、係官に対しまして、松原君の最近の病状等から見て、環境をかえるというようなことは考えたらいい、環境の転換をはかつたらいいのじやないかという意見を申し述べておつたのであります。ただ、病状が悪化しておる、危険が迫つておる。あるいはすぐに入院させろとか、あるいは釈放した方がいいとか、しなければならないというような意見は出ていなかつたのであります。このことは、二月の十五、六日ごろ保釈申請が出ましたときに、検事さんがお医者さんに聞かれましたときにも、大体同じような回答であつたのでありまして、そのためにたつて保釈しなければならないという決意が出なかつたわけだと思うのであります。それからひとつ新聞記事と関連いたしまして、先ほどのお尋ねもございましたので、一応釈明をさしていただきたいのでありますが、逮捕状の執行、身柄の逮捕につきましては、当初から非常に慎重に考えたのでございまして、決して入院中に逮捕したというようなことではございません。実は状況をよく確かめまして、病院へも行つております。逮捕状を請求いたしましたのは八月十日でございましたが、八月の十五日に病院へ行つてみたら、もう退院をしておつた。それで自宅に行つたら、そのときすでに所在がわからなくなつておつた。それをたまたま翌日十六日にある情報によつてこれを逮捕いたしたのでありまして、病院におる間に逮捕したのでもなければ、自宅で寝ておるところを逮捕したのでもないのでありまして、逮捕の時期といたしましては、私どもとしては本人がそうした行動はとれるくらいでありますから、注意はいたすにいたしましても、非常な無理をしたとは考えていなかつたのであります。その他新聞紙につきましてはここで一々申し上げるつもりもございませんけれども、大分事実と違つた記事が出ておるのでありまして、その点については残念に思つております。そのほかの点につきましては松井参考人からお答え申し上げます。
  63. 松井吉衛

    ○松井参考人 逮捕当時の状況につきましては、人事部長からお答え申し上げたのでありますが、なお補足的に申し上げたいと思います。  八月十五日に退院をしたということを私の方で探知をいたしまして、十六日の朝参りましたところ、本人はいずれへか行つておりましたので逮捕できなかつたのでありますが、その夕刻渋谷の方に現われた、こういうことが情報によつてわかりましたので、一応任意同行をいたしました。しかし従来約一箇月にわたつて目黒の共済病院に入院をしておつた、こういうことがわかつておりますので、はたして逮捕に耐え得るかどうかという点につきましては慎重に考えまして、練馬区内所在の練馬病院に一応連れて参りまして、拘束せずして自由入院という形で十六日、十七日、十八日の三日間病院で治療を続けたのでございますが、その結果十六日に一応同行いたしました当時と大した病状の変化がない、こういうことを確かめまして、同日の夕刻中井医師にさらに診断をしてもらいました結果、逮捕しても特に変化はないという言がありましたので、十九日の夕刻これを逮捕したわけでございます。なお本件の捜査の指揮は、最初地方検察庁の高橋検事でございましたが、現在はさらに地方検察庁の渡辺検事の係になつて、現在のところ高橋検事並びに渡辺検事の二人の指揮のもとに本件の捜査を続けております。  なおここでもう一言申し上げてお許しをいただきたいと思うのでございます。先ほど本件の将来の見通しにつきまして、今後においても検挙者が相当あるのではないか、こういうことを私申し上げたのでございますが、私といたしましては、この事件について今後何人も検挙はしない、こうただちに申し上げることは、これは現在の状況上どうしても関連人あるいは共犯者等がございますのでできないという私の見通しから申し上げたのでございまして、この事件を将来さらに発展をさせるというような意味で申し上げたのでは決してないのでございます。その点御了承いただきたいと存ずるわけでございます。
  64. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 そこではつきりいたしましたが、いずれにいたしましても病院に入院しておつた者である――留置場の生活をあなたもよく御存じだろうと思いますが、健康な人でも百五十日もあそこへ入れられると、大体死にそうになる。これは私ども苦い経験がある。それを病人を百五十日以上も入れておいて、なすべきをなしたということが私には納得行かない。ことに心臓病らしいのですが、肥大症でありますか弁膜症でありますか新聞に出ておりましたが、さような病人であります。普通の者でも百五十日も入れておけば病気になる。これはあなた方御自身が入つてみればわかると思う。三十日も四十日も入ればたいてい参つてしまう。百五十日も入れておく、これがかつての日本の警察政治で、その当時非常な問題がありましたために、憲法において特に基本人権の尊重をはつきりうたわれました。これが日本の戦争後における、せめてもの人間尊重の規定がはつきりと掲げられたわけであるとわれわれは考える。戦争前あるいはかつての憲法の時代とはまるきり民主的にかわられた人権尊重の気持、民主主義の気持が打出されておる。そこで、私が取扱う諸君の頭を切りかえなければならぬと申し上げたのはその点です。少くとも普通の人間が二月も三月も入れられておれば、たいがい病気になる。しかも松原さんは病院に入院しておつた。そして最初の勾留をいたしまする場合に、入院見舞までされて、非常な丁重な扱いをされてやられておる。このことは非常にけつこうだと思いますが、その後が問題になる。たとえばふろに対する問題あるいは衛生上の問題、換気の問題――大体においてあそこに百五十日も入れられれば、健康の者でもやりきれない。署長さんが毎日見まわつておられるはずだと私は思う。私が今申し上げておるのは、お医者さんがこう言つておるのだから責任がないとおつしやられておるから承知しない。私も今まで弁護士を長くやつておりましたけれども、大よそ警察のお医者というものは、あしたかあさつて死にそうになるまではけつこうですという診断書を書いておる。刑務所のお医者さんと普通の町のお医者さんを比較してごらんなさい。これは顕著な事実です。それはなぜかと言うと、警察のごやつかいになつておるお医者の気持が警察に迎合するのは、これは人情です。ですからそういう点について、ただいまのように人権を尊重したのだ、なすべきことをなしたとおつしやるならば、あなたの子供さんを百五十日もあそこに入れてごらんなさい、どんな気持がするか。そういう場合の気持でこの被告人、当時の被疑者をお扱いになつて、執行停止の要求の手続なり、検事に対するあなた方の進言なりをしていただいたならば、命をとりとめられたと私は思う。私どもに言わせますと、さようなことを聞くこと自体が非常にふしぎなので、初めからなすべきをなさなかつた、われわれのやることについてはどう考えましも多少の行き過ぎがございましたとか、不注意でしたとか言うなら私どもは納得する。そちらに人権擁護局長さんもいらつしやるのだが、おそらく局長さんも納得が行かないだろうと思う。百五十日も病人を入れていたというそのこと自体――がこれは私どもこういうことのないように、刑事訴訟法改正につきましても三日か四日の勾留を延ばそうというものでも、前国会におきましてもこの法務委員会では相当議論をしたのです。現在の勾留期間は二十日しかない。それを三日か四日延ばす、一日延ばすことについても、人権尊重に対して困る点があるというので反対していろいろやつておつたのですが、この点について、どういうむずかしい事件か知りませんけれども、病人を百五十日も入れておいて、しかも一方においては起訴された後においてさらにとめ置いて、そうしてほかの捜査のためにこれを使つておる。これ自体が、私は刑事訴訟法の精神にはつきりと違反しておると思うのです。いかがでございましようか。百五十日も置かれておつた病人に、これでもなすべきことをなしておると御答弁できるのでしようか、この点です。ひとつ御答弁をはつきり人事部長さんですか、小野参考人にお願いしたい。警視庁が将来かようなことで勾留を取扱つていただくならば、おそらくわれわれのみならず、国民は承知しないと思う。その辺の御答弁を願いたい。
  65. 小野裕

    ○小野参考人 私どもといたしまして肝に銘ずべきいろいろな御注意をいただきまして、まことに申訳ないと同時にありがたく存じます。この件につきましては、私どもとしては先ほど申し上げましたような次第でありまするが、さらに一層の反省を加えまして、人権擁護の上にいささかの失策もないように、今後一層引締めて参りたいと思うのであります。ただここで、はなはだ申しにくいことでございますけれども、ただいまの制度の上でいわゆる代用監獄になつております関係で、実は私どもとしてはいろいろと苦しい事情があるわけでございますが、いずれにいたしましても現実に身柄をお預かりしておる責任者として、今後御期待に沿うように一層引締め、努力してみたいと考えております。
  66. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 なお六人入れておられるそうでございますが、この六人が健康ではございましようけれども、これに対して松原のこういう事実にかんがみまして、指揮者である検事さんあるいは裁判所に対しての御態度は、警察ではどうお考えになるのでしようか。松原さんのようなものが第二に出て来るというようなことも、これは想像かもしれませんけれども、私どもは心配です。百五十日も入れられておりますと、あそこでは太陽に接することはできない、ふろにも十分入れない、運動もできない、おそらく運動をさせておりませんでしよう、そういうことになりますとたいていの者が病気になつてしまう。健康であるとおつしやられても、勾留を解かれて出た場合に、今度はそれが原因で病人になる場合がずいぶん多い。かつての日本の思想運動をやつた連中はほとんど肺病になつておる、あるいはいろいろな病気になる。そのときには起きなくても、あとからそういうことが原因していろいろ病気になる場合が多い。でありますからこういう場合におきましては、たとい捜査は不十分でございましても、私は人権を尊重することが先行すべきだと思う。六人の人に対するお考えは、署長さんの方はいかがでございましようか。こういう松原さんのようなけが人が出た、死人が出た、これを考慮されますというような親切な言葉が出るのかどうか。たとえばなくなられました松原君に対して弔意を心から捧げるというというようなことがありましたならば、あとの六人に対しましても、捜査を進められる上司に向つて検察官に向つて特段の措置をいたすような進言をする決意があるかどうか。この点を、できますならば承つておきたいと思います。
  67. 松井吉衛

    ○松井参考人 ただいま御質問の点につきましては、人事部長から申し上げました通り警察署長といたしましても十分に感じております。松原さんのなくなられましたことにつきましては、最初に申し上げましたように非常に同情にたえないのでございますが、現在入つておりますところの六人に対しましても、私たちはそれを参考といたしまして十分肝に銘じまして、さらに今後におきましては健康に留意いたしますとともに、少しでも健康に対しての自信か持てないというような状況がありますれば、ただちにこれを検察庁の方へ進言をいたしまして、人権の尊重に十分努力をいたして参りたい覚悟でございます。なお今お示しになりました点は、私ども捜査に携わる者といたしまして非常に感銘の深いものでございますので、今後その御趣旨に沿つて十分に努力いたしたい覚悟でございます。
  68. 古屋貞雄

    ○古屋(貞)委員 私が一言だけ申し上げたいのは、捜査をいたしまする方たちが、その事件の明確さを明らかにするための捜査の御熱心さには敬服するのでありますが、いつもそれがためにもつと大事な人権が失われ、害されるという場合がございますので、どうかその点は特に今後も御注意を願うようにお願い申し上げます。
  69. 林信雄

    ○林(信)委員 ただいま質疑の行われておるこの問題についてこれは代用監獄の関係から警察当局の問題として扱われておるのですが、これは政務次官も十分肝に銘じてお聞取りを願いたい。検察庁関係裁判所関係でございますが、勾留人の被告人が長期の勾留なかんずく病気の場合に、刑務所の医者が勾留に耐えると言つておきながら、それがつい耐えなくて、死体となつて運び出された例があつたことは、すでに政務次官御存じの通り、あるいは瀕死の状態になつて出されるという場合が間々ある。単に医者の診断間違いという場合もありましようけれども、捜査の関係からなるべく置いておきたいと考えたその意思が医者に反映したために、どうも執行に耐えないと思う方が適切ではないかというようなものも、耐えるというような回答が来ておつたのじやないか、結論から考えればそう考えられる場合がたくさんある。これは非常に気の毒な場合である。それが間々否認している被告でそれを責める気持、あるいは捜査の対策関係からこれは出すなというような気持があつたのじやないかと疑われるような事例すらある。これは非常にまずい。今古屋委員の言うように刑務所の医者はろくなものはいない。そう言い切つては気の毒ですが、医者といえども何もかも凡百の病状が全部わかるというわけに行かない。これは外部の専門の医者を入れまして、そうしてほんとうに病状を突きとめて、そうして耐えるなら耐えるという結論を下すならよろしいのですけれども、簡単に刑務所の医者がきめてしまうという傾向は、これは基本的人権の擁護の面、なかんずく生命権の問題ですから、きわめて重要な問題です。これは十分御留意願いたい。これは直接の関係者なんですから、人権擁護局は真剣にお取上げになつて、直接つつ込んで行つて問題として御研究になつていただきたい、こういうことを申し上げておきます。  もう一つお願いしたいのは、二月初めに、小倉の駐留軍部隊山田部隊の施設の外棚の付近で、駐留軍の警備員がピストルで一人の日本人を射殺した事件があつた。これら警備員は労務者として日本政府から提供されておる。しかるに駐留軍の方からピストルを渡されて、そうして施設外のものまでむやみやたらに射つわけでもありませんけれども、ある場合には射殺することもさしつかえないといつたような駐留軍の方の指令をその警備関係から受けているとこれらの警備員は考えておる。それが正当防衛だと考えられるような、不正侵害をしているような急迫している場合なら、これは駐留軍関係を除きましても考えられるのですけれども、そうでなくて、駐留軍の方が一方的につくりましたルールによつて、正当防衛の域を越えたものも射殺し得るかのような誤まつた考えを持つて執務しておる。今度起りました事件でも、その本人は一つの正当防衛行為のような弁解をしているやに聞いておるのでありますけれども、そういうことになりますと、これは駐留軍のために踊らされている警備員が、無辜の日本人をいたずらに射殺する危険があるわけであります。しかもこの事件一つだけかと思うと、類似の事件は前にも起つており、また今後にも起り得る余地がある。具体的にその事件の報告が参つておりますか、あるいは御調査になつたことがありますか、ないとすれば、御調査を願つて、きようは時間の関係もありますので、適当に書面によつて御調査の結果を私は承知いたしたい。
  70. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいま福岡の法務局において厳重調査中でございます。
  71. 小林錡

    小林委員長 明日は午前十時より理事会、十時半より委員会を開くこととし、本日はこれにて散会いたします。    午後一時四十五分散会