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1954-04-28 第19回国会 衆議院 文部委員会 第28号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年四月二十八日(水曜日)     午前十時二十九分開議  出席委員    委員長 辻  寛一君    理事 竹尾  弌君 理事 長谷川 峻君    理事 野原  覺君       伊藤 郷一君    岸田 正記君       坂田 道太君    世耕 弘一君       原田  憲君    山中 貞則君       町村 金五君    高津 正道君       辻原 弘市君    山崎 始男君       小林  進君    前田榮之助君       小林 信一君  出席政府委員         文部事務官         (大学学術局         長)      稻田 清助君  委員外出席者         議     員 福井  勇君         議     員 志村 茂治君         議     員 松平 忠久君         参  考  人         (東京大学教         授)      木村健二郎君         参  考  人         (科学研究所研         究員)     杉本 朝雄君         参  考  人         (大阪市立医科         大学助教授)  西脇  安君         参  考  人         (東京大学教         授)      美甘 義夫君         参  考  人         (東京大学教         授)      中泉 正徳君         専  門  員 石井つとむ君        専  門  員 横田重左衞門君     ――――――――――――― 四月二一七日  委員松平忠久君及び生田宏一辞任につき、そ  の補欠として戸叶里子君及び熊谷憲一君が議長  の指名委員に選任された。 同月二十八日  委員小林進君及び熊谷憲一辞任につき、その  補欠として中村高一君及び木村武雄君が議長の  指名委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  原子力問題に関する学術研究について、参考人  より意見聴取の件     ―――――――――――――
  2. 辻寛一

    辻委員長 これより会議を開きます。  開会にあたりまして、委員諸君を代表いたしまして、本日御出席参考人各位にごあいさついたします。本日は当委員会といたしまして、その所管でありまするところの学術研究に関しまして、国会国政調査権に聴き、国民各位がきわめて重大な関心を寄せております原子力問題につき、学識経験者各位の御高見を拝聴いたすことになりましたるところ、御多忙のうちを御出席いただきまして、厚くお礼を申し上げます。各位の御豊富な御意見は、ひとり国会委員会の今後の審査に資するところ大なるものがあるのみならず、国民各位学術研究に寄せられておる期待とともに、その裨益するところ大なるものがあることを痛感いたすものでございます。何とぞその立場立場より腹蔵なき御意見を御開陳せられんことをお願い申し上げます。  それではただいまより原子力問題に関する学術研究について参考人より意見聴取の件を議題といたします。まず東京大学理学部長木村健二郎博士にお願い申し上げます。
  3. 木村健二郎

    木村参考人 木村でございます。本日は原子力の問題に関する学術研究様子お話するようにということでございますが、大体これは原子力そのもの学術研究と、それから原子力利用する場合にできますいろいろな物質に関する学術研究の面と、二つ考えられると思います。私はおもにそのできます物質の方に関する学術研究がどんなふうに行われておるかということを申し上げまして、原子力問題そのものの方は御専門のほかの参考人の方から申し上げるということにしたらいいのだと思います。  原子力利用いたします場合に原子炉というものを使うわけでございますが、そのときにいろいろな放射性を持ちました物質が自然にできて来たり、あるいは人工的にその炉の中に普通の物質を入れて、そして放射性のあるものにかえるというようなことをいたしまして、いろいろなものができております。そしてそれらのものは、現在医学工学農学または純粋な理学方面で、それぞれ非常に多く利用されておるわけであります。この利用の道を、大体二つに大きくわけることができると思います。一つは、そうしてできましたものトレーサーと申しておりますが、跡をつける役目をさせましていろいろな物質の構造を探る、そういつたことに用いる場合であります。もう一つは、そういう物質放射線の源として使う場合であります。まず初めにトレーサー追跡体と訳しておりますが、その追跡体として使う場合について若干の例を申し上げたいと思います。  第一は、医学方面の例を二、三申し上げますと、いろんな診断に使われる例がございまして、たとえばヨードの一三一というものがございます。これは今度のビキニの灰の中にくつついて来ておつたもの一つでもありますが、これの入りました一種の薬をつくります。これはジョード・フルオレセインという薬でありまして、この薬は注射しますと脳のできもののところへくつつく性質がございます。そこでその薬のところに放射性のありますヨードを入れたものをこしらえまして、これを注射する。そうしますとこれが脳のできもののところへ行つてくつつきます。そうしますとこれがガンマー線を出しまして、体の外衣ガンマー線が出て参ります。今度のビキニの患者なんかでも、体の中にこのヨードが入りまして、体の外にこのヨードガンマー線が感じられるといつたような状態の人が出て来ております。そういうふうに、体の外から放射線を感ずることができるのであります。それでありますから、外から放射線の出るところを探しますと、脳のどの部分にできものができておるかということを頭を開く先に推定することができる。そういうような診断に用いられる。あるいはまたこのヨード甲状腺にくつつく性質がありますので、甲状腺のいろいろな生理を調べるということに用いられます。それからナトリウム放射性ものがありまして、これを放射性のある食塩にいたしまして注射をいたします。そうして体の外からその放射能をはかります。そうすると血管の中に注射した食塩は、すぐに体の方々にまわるのでありますが、血管にくびれがありますと、その先のところには放射能が出て参りません。ですから放射能の出ておるところと出ていないところとの境を探しまして、血管のくびれの位置を外から探すということも可能になつて参ります。またナトリウムの入りました薬を注射いたしまして、それがどんなふうに体の中にまわるかということを見ることもできます。また食塩を注射いたしまして、それが体の中でどういう部分にどういう時間に出るかということを見ることもできます。たとえば汗のようなところには、注射いたしましてもう数十秒でもつて現われて参りますけれども、歯とか骨の中にはずつとたたないと放射能が出て来ないといつたように、体の中におけるいろいろな薬のまわり方を見ることもできますし、また心臓働きを見る、やはり放射能のある食塩を注射いたしまして心臓働きを見るということも可能であります。またクリームのようなもの、これは体の中にクリームを塗りまして、それが皮膚の中に入つて行くか、入つて行かないかという場合でありますが、これもクリームの中にそういう放射性のあるものを入れましてためしてみるというようなことをいたしまして、大体皮膚の中にあまり入つて行かない、表面だけのものたろうという研究もできております。あるいはまた貧血の人に鉄を使いますけれども、その鉄がどういうふうに体の中にまわるかということを見る。これには五九という放射性の鉄を入れたものを使いまして――これは犬について実験をしたのでありますけれども、実験しました結果、鉄は貧血の人には割合に必要ですけれども、普通の丈夫な人には非常にたくさん鉄をやる必要がない、古い鉄から体の中でもつて再生されておるのだということがわかつております。これに対しまして燐のようなものでありますと、相当に早く新陳代謝が行われておる、こういうことがわかつて来たわけであります。こういうのはすべて放射性のありますものを使つてわかるわけでありまして、普通の新陳代謝ということをわれわれよく申しますけれども、植物がとりましたものがからだの中へ入つて古いものと置きかわるというようなことが行われているのかどうかというようなことは、厳密な意味ではわからなかつたわけであります。しかるに放射性のありますものを使いまして、そして放射能をたよりにしてあとを追いかけることができる、こういつたわけであります。  農学方面応用といたしましては、たとえば肥料効果をきめるというようなことが行われております。燐の三二という人工放射性アイソトープを入れました肥料植物にやります。そうして肥料からその植物がそれを吸つた様子を調べます。そうしますと、燐は土の中にもありますけれども、土の中の燐と区別いたしまして、肥料として与えたもの放射能の目じるしがありますから、肥料として与えた燐だけのあとを追いかけることか可能になつて来るわけであります。こういうふうにして燐の放射性あとを追つかけまして、そしてどういう形でもつて肥料をやつたらば植物がよく吸つてくれるか、あるいはどういう時期に肥料をやつたらば植物がよく吸つてくれるか、あるいは肥料としてやつたものが土の中にどれくら残つているかというよなことかはつきりわかりまして、肥料としての効果をきめるというようなことがわかつて来たわけであります。あるいはまたカルシウムの四五というアイソトープを使いまして、これを落花生にやつてみた実験がございます。それで片方には根の方にたけやる、それから片方には――落花生は御承知のように士の中へ花がもぐつて実を結ぶのでありますが、そつちの方にだけやつて入る。そういうようなことをいたしますと、落花生カルシウムを根の方からだけとつているのでは間に合わない。それで土の中へもぐつた実の方でもカルシウムをとつているというようなことがはつきりとわかつて来た、そういつたような例がございます。なお農学方面では東大農学部あるいは農業技術研究所などにおいて、わが国でも盛んにこういつた研究が行われております。  それから牧畜の方の関係では、いろいろな微量元素家畜に必要であるということがわかつて参りました。たとえばコバルトのようなものは、非常に微量であるが牛のような反芻動物にはどうしても必要であるということが、この研究コバルト放射性ものを使いましてわかつて来たのであります。それまでは外見非常にいい牧草があるように見えるところで、どういうわけだか牛が育たないといつたようなことがありましたのも、それはコバルトが不足しているためであるといつたようなことがわかつた、そういう牧畜の方の研究の例もございます。  それからなお工業方面にはずいぶんいろいろな研究がありまして、若干の例をあげますと、一つは摩耗の例でありまして、ピストンリングの減り方を調べる、そういつた例がございます。これはピストンリングに鉄の五九という放射性アイソトープを入れたものをつくりまして、そしてこれを働かせる。そして出て来ます潤滑油を調べまして、刻々にそちらへ移つて参ります鉄の放射能を調べまして、そしてどんなふうにそれが減つているのかということを調べる。それからあとでそのシリンダーの方にフイルムを張りましてその写真をとりまして、そういう放射性物質がくつついているところは写真フイルムに黒く感ずるわけでありますから、どういう部分ぐあいが悪くて、どういうようなところに放射性物質がたまつているかということを見た実例がございます。それからまた気体を入れましたケーブルの漏れを探すといつたような場合に、臭化エチルというものを臭素のところに放射性のあるものケーブルの中へ入れまして、そうしてその漏れて来るところを探す、そういつたような実例もあります。また電気分解をいたしますときに、いろいろな不純物がありますと電気の効率が悪くなつたりするというようなことがございます。一体そういう不純物がどういう働きをしてそういうことになるかということを見ました実験は、これはわが国でも行われておりますし、外国でも行われております。それからまた鉄をつくりますときに、御承知のように鉄の中に硫黄が入りますと非常に鉄の性質が悪くなります。そうしてその硫黄は還元に使いますコークスから来るわけでありますが、そのまた元は結局石炭硫黄から来るわけであります。その石炭の中でどういう硫黄、つまり無機性硫黄が悪いのか、有機性硫黄が悪いのかということを調べました実験がございまして、そうしてこれは結論としてどつちということはないということ、それもこういうような実験はつきりとわかつて来たというような実例がございます。  それから日本でやりました実験例といたしましては、ゲルマニウムがこのごろ問題になつておりますが、あのゲルマニウム石炭の中には非常に微量でありますがございまして、近ごろそれを使います。それから石炭からガスをとるときの廃物として出ます廃水の中からゲルマニウムをつくるという工業日本で起りかけておりますが、そのときにゲルマニウム石炭からどういうふうに動いて行くかというようなこと、やはり放射性ゲルマニウムを使いまして放射能をたよりにあとを追つかけるというようなことをいたしまして、そうしてどれくらいのゲルマニウムがその水の方と移り、また水の方へ移つたゲルマニウムのうちでどれくらいが現在の操作でもつて使えるように取出されておる、どれだけが捨てられているといつたようなことなんかも、これは日本でやりましたのですが、はつきりとわかつて来るといつたような実例がございます。  それからいろいろな産業のもととなります技術一つであります化学分析というものがございますが、この化学分析で非常に微量もの分析しなければならないといつたような場合がしばしばございます。非常に微量ものがいろいろな影響を及ぼすということがしばしば知られて来ておりまして、そういつたような微量もの分析という場合に、この放射能をたよりにして行う分析が使われておるわけであります。  ただいま申しましたのは、いわば化学的なトレーサーというような場合でありまして、仲間元素を追いかける場合であります。ところがトレーサーにはもう一つフイジカルトレーサーと見るべきものがございまして、それは必ずしも仲間元素ではない、ほかのもの放射能をたよりにして追いかける場合があるのでございます。その一つの例はたとえば工場パイプや何かでいろいろ複雑な配線をしてございます。そのときにたとえば今入れました材料がパイプの中をどういうふうに動いているか見たいといつたような場合、その放射能のあるものを少し加えてやりますと、それであとを追いかけることができる、そういつた例もあります。アメリカで行われております例で、石油の原油を精製工場に送りたいというような場合に、非常に離れているところへ石油を送るのでありますが、Aという油は第一の工場に送りたい。Bという油は第三の工場に送りたいという場合に、パイプをAから第一工場、Bから第二工場へと二本引けはいいわけでありますが、非常に離れているところでありますからパイプをたとえば一本に倹約したいといつたような場合に、Aの油を送りますときに初めにちよつとバリウムの一四〇という放射性同位元素を入れてやります。これは油とは何の関係もないものであります。これは今度のビキ二の灰の中でも検出された放射性元素一つでありますが、これを加えてやりまして受入口工場の方でカウンターを置きまして見ております。そうして放射能が現われたところでこれはAの油が来たのだからといつて第一の工場へそれを送つてやる。Aの油が終りましてBの油を送りたいというときにもう一ぺん放射性物質を入れてやりますと今度はまたカウンターにその終りのところが現われて参りますから、そこでコツクを切りかえましてBの油を第二の工場に送る、そういつたようなこともできて参ります。この放射性物質半減期が短いものでありますから、精製したり何かして需要家の手元に渡るときには放射能は害をするほどはなくなつておる、そういつたような実例もあります。  そういつたのはすべてあとを追いかけるトレーサーとしての役目をする場合でありますが、もう一つ放射性の源としての役割をする場合もあります。これは一番著しいのはコバルトの六〇をラジウムのかわりに使うという場合でございます。ラジウムは御承知のように医療方面で広く使われておるものでありますけれども、値段が非常に高い。そういう欠点がありまして、広く使われないのでありますが、それがコバルトの六〇を使いますと、非常に値いが安くて手に入りますし、またラジウムと比べまして、非常な強力なものを使うことができる。そのために非常に医療方面でたくさん使われるようになつておるのであります。  それから放射線を源として使います他の例は、いろいろな工場で溶接したものや、あるいは鋳物の中にすがありますのを見つけるのに使つております。この目的には非常に強力なエツクス線が従来使われていたのでありまして、放射線をそういうものに通しますと、そういうするあるところは放射線をよく通しますからフイルムに強く感じまして、はつきりとそのすのあり場所がわかつて来る。あるいは溶接が適当であつたか不適当であつたかを知ることができるわけであります。ところがエツクス線装置になりますと、相当大きな仕掛になつて参りますから、これを小さい入れ物の中へ入れて見るということができません。それからまた非常に辺鄙ないなかで、たとえば発電所の工事をしておるようなところでもつてそれを見たいというようなことをいたしましてもなかなか使えない。あるいはまた橋げたの上とか何とかいつたおかしな場所でもつて使いたいと思つても、エツクス線ですと、ちよつと間に合わない。これがコバルトの方でありますと、小さなもので、どこへ持つて行つてもそれをとることができる。それからまたいろいろなタンクの中に液体がどれくらいの分量まで入つておるかというのを外から知りたいという場合もありまして、これにコバルトの六〇を外から当てて見ますと、液体のあるところは吸収が大きい。液体がない部分吸収が少いというわけでありまして、放射線の来方が違いますから、その境目がわかる。そういつたやり方もありますし、いろいろな物質の厚さをはかりたい。たとえば金属の箔でありますとか、板でありますとか、紙でありますとか、あるいは織物でありますとか、このごろはやりのビニールのようなものでありますとか、ああいつたものの厚さが一定なつておりませんと、製品としてはいけないわけであります。そこでロールから引出すところの下にストロンチユウム八九、これも今度のビキニの灰の中で見つかつたアイソトープ一つありますが、そういうものを下に置いて、上の方にカウンターを置いておきます。そういたしますと厚さが一定でありますと、製品を通つて来ます放射能の強さが一定でありますから、カウンターの指針はいつも一定位置を示しておりますが、厚さがぐあいが悪くて厚くできますと、放射線の通りが悪くなりまして、カウンターの動きが少くなる。また薄くでき過ぎますと、放射線がよく通つてカウンターがよく動くようになるというようなわけで、そういう場合には、すぐにロールをかえまして、いつも一定の厚さの製品ができるようにする。いわゆる製品管理をすることができるようになる。こういつたようにいろんな方面応用ができておりまして、水位計のようなもの日本でも若干実際に使われておる。まだ応用方面はたくさんございますが、日本でも現在外国から大体一年に五万ドル程度アイソトープを買い入れまして、いろんな方面研究にも使つております。あるいはまた実際の方面にも使つておるといつた現状であります。しかしながら寿命の短かいアイソトープは輸入することができません。来る途中でなくなつてしまいますから輸入することができませんで、そういう方面は非常に不便を感じたわけであります。現在輸入される半減期の一番短かいものヨードでございまして、これが約八日という半減期であります。これより短かいものになりますと来る途中でなくなる心配がありますから、使えなかつたわけであります。ところが今度こちらにおいでの杉本参考人などが中心になりまして、科学研究所でもつてサイクロトロンを再建することができました。その結果ナトリウムでありますとか銅でありますとか、そういつたような非常に寿命の短かいアイソトープもつくることができまして、本年からはわが国におきましてもこういう寿命の短かいアイソトープ使つた研究が再開されております。再開と申しますのは、戦争前に前のサイクロトロンが動いておりましたころ、そういつたような方面わが国でも行われていたわけなのでありまして、しばらく行うことができなかつた状態でありましたが、今度からそういつたかいものも使えるようになつたのであります。大体研究現状はそんな程度でございまして、何かまたお尋ねがございましたらお答え申し上げたいと思います。
  4. 辻寛一

    辻委員長 ありがとうございました。次に科学研究所主任研究員杉本朝雄博士にお願いを申し上げます。
  5. 杉本朝雄

    杉本参考人 私ただいま御紹介を受けました科学研究所杉本でございます。原子力平和的利用としてはただいま木村先生からお話がありましたように、アメリカ、イギリス、カナダあたりから輸入しております放射性アイソトープをいろいろ研究に使つおりましたが、こういう放射性アイソトープを、先ほどお話がありましたように、もつと半減期の短かいものまで利用するとか、もつと広汎な利用をするとしますと、自分の国にそういう生産設備のあることが望ましいわけであります。原子力平和的利用原子炉というものがありますが、この原子炉をつくりますと、そういう放射性アイソトープがいろいろ自分のところでできるようになり、原子力平和的利用にはまず実験的な原子炉というものをつくつて、それが基本になりまして、将来の発電用原子炉、つまり原子力発電所とかそういうところに行くわけなのでありまして、わが国とても将来原子力平和的利用を始めようとすれば、どうしてもまず第一段階は実験用原子炉をつくらなければならないわけであります。そういうわけで、きようはあまり時間もございませんので、遠い将来の発電用原子炉のことは抜きにしまして、実験用原子炉についていろいろ問題がございますので、そのことについてお話したいと思います。  この実験用原子炉と申しますのは、大体原子炉の出力、発熱量で百キロワツトから千キロワツトくらいまでの範囲のものをそういうふうに呼ぶことに一応しております。こういうものができますと、今お話がありましたように、いろいろな放射性アイソトープができることはもちろんでありますが、それ自身から非常に強い中性子線という粒子線が出て来ますので、そういうもの利用しましていろいろ物理学上の研究もできます。それからいろいろな材量物質の検査とか、そういうこともできます。それからそういう中性子線が人体――人間、家畜に当りました場合にどういう影響を与えるかという医学上、生物学上の研究も、そういうことでできるわけであります。それからもう一つは、そういう実験用原子炉というものは、先ほども申しましたが、将来わが国原子力研究をもつと大規模にやるときの基礎的なものになるわけであります。基礎的ないろいろな研究ができる。それから原子力工学者と申しますか、そういう人を養成するというようなことができるわけであります。  もうすでに皆さんの中ではこの原子炉というものを御承知の力も多いと思いますが、順序としまして、どういうものかということからちよつと簡単に御説明いたします。この原子炉といいますものは、原子力を非常にゆつくり取出させる装置ということができます、御承知のように原子力というのは原子爆弾というような形で発生しております。これは原子力を非常に急激に出した一つの形でありますが、そういうものでは平和的に利用することができません。もつとゆつくり原子力を出させる仕組みがこの原子炉なのであります、どういうふうにするかといいますと、やはり使いますものはウラニウムでありますが、そのウラニウムを、原子爆弾のようにウラニウムの中からウラニウムの二百三十五というような原子核分裂を非常に盛んにするようなものだけを集めて来て、それをある量を集めて原子力を発生させるというようなことをしませんで、普通よくやられます一つ原子炉の形について御説明いたしますと、天然のウラニウムとそれから黒鉛――グラフアイトとか重水とか、そういうものを組合せまして原子力を発生させる。大体の構造を申しますと、黒鉛の非常に大きな立方体をお考え願いまして、一つの辺が数メートルもあるぐらいの非常に大きな黒鉛のブロツクを考えまして、それにたくさんの横穴を明けます。そのたくさんの横穴の中に天然のウラニウムを非常に純粋にしたものをアルミニウムの筒に緻密に封入しましてその横穴の中に装填するわけであります。どのぐらいの量がいるかと申しますと、その黒鉛とウラニウムを組合した原子炉の場合ですと、ウラニウムが数十トン、それから黒鉛が数百トンぐらい必要なのでありますが、要するにウラニウムを先ほど申しましたように棒の形にしましてそれを封入する。そうして、今申しましたような程度に集めましてその中に入れ、全体のウラニウムの量とか黒鉛の量をある適当の値以上にする。それからお互いの穴の間隔とか、棒の太さとかそういうものを適当にしますと、その仕組みから原子力が出て来ることになります。そうなりますと、そこで原子核の分裂という現象が盛んに起りまして、先ほどいいました中性子線というものもどんどん出ますし、発熱もすることになります。それをほうつておきますと、そういうものがどんどんふえまして、やはり原子炉がこわれてしまう。そういうことになりますので、中性子線というものがやたらにふえないように制御してやる必要があります。その制御をするのに、中性子を非常に吸収するカドミウムというものを使いまして、中性子があまりふえて来たらば、それを炉の中に深く差込んでやつて、よく中性子を吸収するようなことをしまして、やたらにふえないように調整しております。そういうように調整しながら使うわけでありますから、この原子炉原子力をゆつくりなしくずしに取出すことができるわけであります。そういうもの原子炉であります。  今黒鉛と申しましたが、この黒鉛とウラニウムとの組合せだけでなしに、黒鉛と重水との組合せでも原子ができます。  それで、最初に申しましたように実験的な段階の原子炉をつくりますにも、いろいろ問題がありますので、これからどういう研究問題があるかというようなことについて少し御説明をしたいと思います。  先ほど申しましたように、原子炉というものはああいう構成になつておるわけでありますから、それをつくるとしますと、原子炉に使う材料がまず必要であります。それの中心になります材料は、ウラニウム、重水、グラフアイト、そういうものであります。こういうものは純度の非常に高いものでないと役に立たないわけであります。それは、不純物が入つておりますと、中性子線、中性子というものを吸い取りますので、原子力の出方がにぶつてしまう。従つてひどい場合には原子炉としての機能を発揮し得ないことになりますので、ウラニウムにしましても、重水、黒鉛にしましても非常に純粋なものをつくらなければいけない。しかも先ほど申しましたようにウラニウムが黒鉛型の場合には数十トン、重水型の場合にしましても三トン程度必要でありますので、純粋なウラニウムをたくさんつくらなければならぬという問題があります。それから黒鉛にしましても数百トン、そうういようにたくさんいります。また重水にしましても七トン、八トンというようにたくさん必要になります。そういう重水などを非常に純粋なものを大量に生産するという問題があるわけであります。  それからウラニウムをそのまま裸で使うわけに行きませんので、アルミニウムの筒に入れると先ほど申しましたが、このアルミウムの筒自身も、アルミニウム自身も非常に純粋なものをつくらなければならぬ、そういう問題があります。こういうようにアルミニウムにしましても――ウラニウムを封入するもののことをカン材料といつております。こういうカン材料の研究が非常に大切であります。こういうカンに使うものはそういう純粋であることのほかに、中性子を吸わない物質であるということが、もう一つ大事な要件になつております。  それは原子炉の材料でありますが、さらにこの原子炉をつくりますためにはいろいろ原子炉の設計に必要な原子核物理的ないろいろの常数が必要でありますので、そういうものを調査測定しなければいかぬ。こういう原子核物理に関係あるいろいろな常数は、今までアメリカその他の研究で、かなりわかつたことが発表されています。でありますからあるものは――あるものと申しますか、大部分ものはそういう測定の結果を調べれは設計に役立つと思います。また新たにいろいろわからないものを調べなければならぬという問題があります。  それから原子炉働き出しますと、先ほど申しましたように熱がどんどん出ますので、それを片方で冷却しておらないとウラニウムの温度が非常こ上りまして、まずいことが起ります。でありますから、そのアルミニウムの筒の外側に気体を通すとか、液体を通すとか、いろいろなことをしまして冷却しておるわけであります。こういう原子炉の冷却法という問題も非常に大事なわけであります。普通実験用原子炉ですと、使つておるウラニウムの量とか重水の量とか、そういうものは同じでも、冷却法がいいか悪いかということによりまして、最終的に得られます出力が非常に違つて来る。フランスの例でいいますと、フランスで最初につくりました原子炉は、ほとんど冷却をしていないというような原子炉でありましたために、あまり出力が得られない。そうしますとその中で発生する中性子の数も非常に少くて、原子炉としての機能が低いわけであります。ところが最近フランスのサクレーというところでつくりました原子炉は、同じぐらいのウラニウム、重水を使つておりながら、冷却法に非常にうまいくふうをしましたために出力がたいへん上つておりまして、非常に有能な性質を示しております。そういうわけでありますから、原子炉の冷却という研究が非常に大事であります。  それから原子炉が間違いなく働くためには、先ほども申しましたが、中性子がふえて来ればそれを自動的に押える、それから中性子が減つて来たらまたふやしてやる、そういうことを自動的にやる必要があります。それをどうやつてつておるかと申しますと、先ほども申しましたが、原子炉で出ております中性子というものをはかつておりまして、その中性子がふえて来たらカドミウムの棒とか、そういうもの原子炉の中に深く入るようにしてやる。それから減つて来ればカドミウムの棒を引上げる、そういうようなことによつてその出力を調整しておるわけでありますが、そういうことが行われるためには、原子炉の中で発生する中性子の数を始終測定しておりまして、そういうことを行わねばならないわけでありますので、この中性子の密度と申しますか、中性子の数を測定する装置その他の研究が非常に大事であります。これは確実に行われないと非常に危険な事態が起りますので、原子炉の操作というものは、非常に安全、確実である、そういうことを目ざして研究しなければならないわけであります。そうして、そういう操作はすべて遠方操作で行われるわけでありますから、遠方操作の技術というようなものも非常に大事なものであります。  それで一応原子炉を働かせるに関係するいろいろな問題が出たわけでありますが、ほかに、原子炉働き始めますと、先ほどお話のいろいろな放射性同位元素ができます。これは原子炉の中にわざわざ別の元素を入れて、放射性アイソトープにしなくとも、いわゆる原子灰という形で出て来るわけでありますので、そういうものを処理しなければならない。そういう処理の問題があります。これは化学処理であります。つまりウラニウムの中にそういう原子灰がたまつて来たのをとつてつて、そうして原子炉当体がよく燃えて行くようにすること、それから分離した原子灰を安全に処理して、さらに進んではそういうもの利用研究するというようないろいろな問題があります。  それからもう一つ大切な問題は、原子炉働き始めますと、いろいろな放射線が出て参りまするので、この放射線の遮蔽をよくするとか、それから放射線がどのくらい出ているかというようなことを始終検量しておりませんと、思わぬ放射線障害を起します。つまり原子病にかかるわけであります。でありますから、そこに働きます人に対するいろいろな検量用の器具と申しますか、装置、そういうようなもの研究しなければならないわけであります。それと同時に、この放射線障害自身の研究、それの対策、治療――こういうようなことは午後また別の方々からお話があると思いますが、そういう問題が当然出て参ります。  それから原子灰を処理しますにも、どういう程度まで減つたらどういう処理の仕方をするかというような、いろいろな問題が出て参ります。  それから一番最初の原子炉材料、これを探し出すために、ウラニウムの探査というようなことが必要であります。現在は外国からウラニウムを買うことができない状態でありますので、実験用原子炉をつくるとしましても、自分の国の中で資源を探さなければならないわけであります。それを非常に能率よく探すためのいろいろな考慮が必要であります。その探査する測定器にしましても、それから探査の方法にしましても、いろいろ問題があります。それからそういう鉱石からどういうようにして選鉱し、それを製煉するかというような問題があるわけであります。以上が原子実験用原子炉関係の問題であります。  ここでちよつと申し上げておきたいことは、原子力研究と原子核研究というもの関係であります。これがよく世間では混同されるのであります。先ほどお話がありましたように、われわれのところでサイクロトロンをつくつておりますと、それがすぐにでも原子力研究であるように誤解しておる方がありますが、われわれが原子力と呼ぶのは、原子核のある反応が連鎖的に起るような現象であります。普通実験室の中で行われておりますサイクロトロンとか、そのほかの高速下速装置でやつております原子核の実験というようなものでは、いろいろな原子核の反能は起きておるのでありますが、これは決して連鎖的に起きておらないのであります、連鎖的に起るということが非常に大事なことでありまして、原子核の破片化自身ならば、たとえばラジユームを持つて来れば、ラジユームから放射線が出ているということは原子核の一つの現象でありますが、これは決して原子力ではないのであります。そういう場合は、ラジユームから放射線が出ておつても、それがほかの部分影響して全部連鎖反能を起すということはない。ところがこのウラニユームの分裂というような現象が発見されまして、初めて原子核の反能を連鎖的に行えるという方法がわかつたのであります。それが原子爆弾になり、原子炉なつ原子力でありまして、この原子核の研究から原子力研究原子力というものが出て来たのに違いないのでありまして、そういう意味では、原子核の研究がなければ原子力というものも出なかつたわけであります。そういう原子核の研究で原子核分裂というような現象がわかつて、それを応用してこの原子力研究がでぎてしまつた今日におきましては、むしろ別のものであると言つてもよいくらいの違いがあるのであります。原子力研究には、先ほどるる述べましたように、いろいろな面の研究分野が関係しております。たとえば冶金の面とか、化学工業とか、なお進んでは放射線医学、そういういろいろな部面の研究が関連しております。もちろんこの原子核物理というのも非常に深い関係を持つておりますが、それだけではないのであります。今日わが国でも原子核研究所をつくることになりましたが、これは原子核を物質構造の究明という点からするのでありまして、原子力研究をするためではないのであります。ただそういうように申しましても、原子核の研究をしておりますと、いろいろ新しい原理も発見されましようし、新しい技術も出て参ります。そういうものが先に行きましてまた原子力に寄与することはもちろんあります。それから原子核の研究をしております若い学者などが将来の原子力研究に非常に寄与するというようなこともありますが、目的としておることは明らかに違うのであります。そういうわけでありますから、原子力研究と原子核の研究は深い関連はあるが、はつきり区別して考えるべきものである、そういうふうに私は考えます。  たいへん話がまちまちになりましたが、主として実験用原子炉にどういう問題があるかというようなことをお話いたしました。何か御質問がありましたら、またお答えすることにいたします。
  6. 辻寛一

    辻委員長 ありがとうございました。藤岡教授も後刻おいでになることになつておりまするが、ただいま両先生からお話を承りましたので、両先生に対する御質問がございますれば、お許しをいたします。
  7. 辻原弘市

    ○辻原委員 まるつきりしろうとの質問でございますので、あるいはピントのはずれた点もあるかと思いますが、二、三お伺いしてみたいと思います。  御両人の先生とも、主たるお話は、放射能利用という面と原子力平和的利用という面についてのお話であつたわけでありますが、木村先生お話では、今お聞きいたしますと、今度のビキニの問題につきましても、灰を相当検討せられたように承つておるのであります。私たちはしろうと目に考えまして、今回ほど放射能ないしは原子力という問題について、関心というよりも非常な恐怖を感じたことはないのでありますが、そういつた点から考えますると、先ほどのように、いわゆる放射能利用して行くという面、これはもちろん今後の問題でありますが、当面するところの問題は、放射能が人体に与える毒性といいますか、それが一体どの程度ものであるか、新聞紙上などに最近いろいろな解説が出されておりますけれども、これはまちまちでありまして、私たちは的確につかむことができません。今回のビキニの灰の分析の結果大体二十種類くらいのもの放射能がその中に含まれておるということも聞いておるのであります。先生のお話の中には、それらの放射能一つ利用という面はありましたけれども、その毒性については触れられておりませんでした。あの福龍丸事件の直後に新聞にも出ておりましたが、ストロンチウムを中心にした相当毒性の強い放射能が今回のような、ああいう悲惨な結果をもたらしておる、こういうふうに聞いておるのでありますけれども、先生の御研究によりまして、今回のあの灰ないしは福龍丸等に現われておる放射能は、どの程度人体に影響を与えるものか。また分析されたそれぞれの放射能のうち、私の聞く範囲では、先ほど申しましたように、二十種類あるのですが、そのうちのどの程度の種類のものが的確に人体に影響を与える毒性を持つておるか。単に新聞に伝えられるストロンチウムの九〇ないし八九といつたようなものだけであるのか。それと、やはり新聞に出ておりましたが、半減期の長短がただちに毒性の強さ弱きを表わすものではないと思うのですが、そういう点がはつきりいたしませんので、この点についてお伺いをいたしたいと思います。
  8. 木村健二郎

    木村参考人 ただいまビキニの灰について御質問がありましたが、大体ああいう放射性物質は、取扱いを非常に注意してやらなければ、非常に危険であるということは、どれも大体似たようなものであります。あのうちで特にストロンチウムが取上げられておりましたのは、ストロンチウムは半減期が長い。ストロンチウム九〇でありますと、半減期が約二十年というわけでありまして、そういうものが長く人体にとどまつておりますと、非常に害を及ぼすわけでありますから、そういう意味でストロンチウムが特に問題になつて来たのだろうと思います。しかしそれぞれ放射線を出しておりますから、その放射線に当ればそれぞれ害を受けるということはあり得るわけであります。  あの放射性物質は大体どれくらいの強さを持つていたかということでありますが、われわれの手に入りましたときは、十数日、二週間以上もたつてつたのでありますが、それでもまだ相当の強さを持つておりました。このごろよくカウントということを申しますが、このカンウトもガイガーの種類によりましていろいろ違いますが、大体あの灰のほんの小さな二粒くらい、一ミリグラム以下くらいをとりましても、一分間に二万カウントも出るといつたような、大分弱くなつておりましても、まだそんな状態であります。これが降つたときはどのくらいの強さであつたかということを勘定してみますと、正確な言い表わし方ではありませんし、また正確に勘定することはできませんが、まず大ざつぱに申しますと、灰一グウムがラジウムになおして〇・九グラムから〇・五グラム程度の強さの放射能があつたということが想像されるのであります。そういたしますと、非常に強い放射能を持つていたわけであります。あの船に乗り込んでいた方たちはそういう恐しいものだということを知りませんで、それと一緒に二週間も生活していたわけでありますから、その灰が皮膚につきまして皮膚にいろいろ障害を受ける。そのほかに、呼吸のため、あるいはとつたまぐろその他の魚を食事としてとつておりますためにからだの中に入つて、それがいろいろなからたの部分に沈着して、放射線を出して害をしている、そういうことがあります。なおもう一つは、透過力の強い放射線――ガンマー線を出すものがございますから、そういうものがからだの中に入つて作用する。そういつたようなひどい作用を受けまして、そのために障害を受けた、こういうふうに考えられるのであります。ほかのアメリカの人たちも灰をかぶつたというようなことを言われておりますけれども、そういう人たちはおそらくすぐに灰を洗い落して手当したと思います。けれどもあの第五福龍丸の人たちは灰と一緒に二週間も生活しておるわけでありますから、自然ひどい障害を受けたというわけであります。ですからそのうちどれが恐しい、どれが恐しくないといつてはおかしいですけれども、多少はいいといつたようなもの、いろいろな種類のものが、初め降つたもののうちにはございましようけれども、おしなべてどれも放射能は、受けますと相当障害を受けるものでありますから、それを扱います上には慎重な注意が必要でありますし、また将来そういう保健という意味の対策あるいは研究をすることは非常に必要だと思うのであります。
  9. 辻原弘市

    ○辻原委員 杉本先生にお伺いいたしますが、先ほど原子炉の問題について触れられておるのでありますが、今度の予算で二億三千万円、原子炉の予算が修正によつて通過しておりますが、この予算が、所管が通産省になつておるようでありますが、そういたしますと、大体通産省の技術員がこの原子炉をつくつて研究をするというふうな問題になるわけでございますけれども、実際今まで、原子核ないしは原子力研究にとどまらず、科学研究について、それぞれの所管と分野があつて、どうもその間の調整がうまく行つてないような向きも私ども感じておるのです。特に原子力をめぐる問題については、先ほどからの御話のような、主としてこれを平和的に利用して行くといつたような、産業的な面ないしは医学的な活用、あるいはこれの人体に及ぼす影響といつたような医学的な方面等、非常に広い分野にわたつていると思うのですけれども、そういたしますと、ここでこういうふうに通産省の所管になつてしまつて、特に先生が今所属されております科研は、財団法人であつて、あまり政府の保護を受けていないと思うのであります。そういたしますと、先ほどからのお話にもだんだんありましたように、先生などの主たる研究が、特に原子力平和的利用という方面につつ込んで行かれておるわけですが、こういう形のまま、非常に原子力研究ないしは原子核の研究が遅れている日本の実情で、十分総合的な研究が行われるとお考えになるか、ないしはこういつた原子力研究に対する予算等の取扱いについて、何か御希望的な御意見はないか、もしありましたら参考にお聞かせを願いたいと思います。
  10. 杉本朝雄

    杉本参考人 ただいまの御質問ですが、われわれも今度の原子炉予算の取扱いについては、非常に深い関心を寄せているわけであります。それは今おつしやつたように、非常に関係する範囲が広いわけでありまして、先ほども申しましたが、原子核物理の部分だけでなしに、工科関係もの、それから金属等そのほかいろいろな問題がある。そういうものがほんとうに総合的に行われないと、実験用原子炉ですら私はできないと思います。そういうような立場から考えますと、まず実験用原子炉をつくるにしましても、これをどこかでつくらなければはならない。そういうつくるところを、どういう組織のところが受持つかという問題が確かにあると思います。それを考えます上に大事なことは、将来原子力研究というものが、非常に広い面に影響を及ぼすという立場から、それが先に伸びやすいような組織でなくてはならないということが大事であります。そういうものは、確かに今おつしやるように、この国の中の組織としては、何か新しいものを必要とするんではないかと私は思います。そういうものをやはり最初からよくつくりませんと、狭いなわ張り争いというようなことになりますと、どうしてもうまく行かない。これは原子力研究して行きます組織に対する注文であります。  それから今度の予算のことでありますが、これはやはりかなり学界側と連絡不十分の形で出て来たことは明らかなんでありまして、実験用原子炉をつくるにしましても、まだいろいろ問題があるわけであります。もう少し原子力という問題の基礎的な調査研究をまず先にやりまして、それからどういう金の配分をするというようなことになるのがいいんじやないかと思います。
  11. 辻原弘市

    ○辻原委員 今も触れられましたが、確かに私は、今度の原子炉予算につきましては、いろいろな問題をはらんでいると思うし、これは私の感じでありますが、先生も述べられたように、原子核研究者に対する予算が、私調べてみますると、一億三千万でありますが、その程度である。また実際の研究を、各方面にわたつて意見を聞いてみましても、まだまだアメリカあたりの研究、あるいはソ連等の研究に比較して、十数年遅れているということも事実であるらしい。そういたしますと、結局日本の場合には、理論物理の域を出ずに、そのまま停頓しておる。少くとも実験原子炉の問題であつても、これからアメリカに追いつくには、少くとも十数年を要するということになれば、今ただちに原子力という問題にこれを大きくクローズ・アツプして行けるだけの――はなはだこれは失礼な言い分でありますが、日本の学界がその水準にまで行つているかというと、必ずしもそうは感じられない。そうすると、ここに原子炉予算というものをわれわれが出して、ただちに原子力研究に進んでもらうということは、どう考えても時期尚早の感があるわけであります。そうした点について、何か原子力の問題が出たから、ただちにそれに迎合して行くというふうな印象がある。もう少しじつくり、それだけの何があるならば、まず基礎的な、原子核研究なら研究に対して金を使つて行くというふうな見解を学界が持つていただくことの方が、少くとも適切じやなかろうかということを考えます。そういう点について先生の御意見もあられると思いますのでお伺いいたしたいのと。いま一つは、盛んに平和的利用ということを申すわけでありますし、またわれわれも議会で、当面するこれが国際的大きな政治問題として、平和的利用の決議まで上げましたけれども、私は原子力という問題――原子核じやなくして、原子力という問題を取上げて、そうしてこの討究を進めて行くということになれは、平和的利用ということと、爆弾に使用するということは、これはうらはらの関係にある。少くとも、もし日本の学界がそこまでの水準に行つて平和的利用をやるということで、盛んに原子炉をつくつて――これは基礎的なものをやるのだと先生はおつしやいましたけれども、つくるとなれは、まず効率のいいもの、爆発力の大きいものという形に進んで行けは、これは時と次第によつては、ただちにいわゆる爆発を利用する原子爆弾に転化するということは、火を見るよりも明らかである、こういうふうに思うのです。そういう点について、ただちに原子力研究ということを強力に進めて行くということについては、題目が平和的利用であろうが何であろうが、非常に危惧の念を打つわけです。そうした点について、もちろん大きな一つの国際的問題として取上げて、処理解決できればいいけれども、そうなかなか簡単には参らぬというような場合に、ここに日本なら日本一つの科学者として、特にこういう問題についての深いお考えが、私はなければならぬと思いますし、また学術会議においても、三十九委員会ですか、小委員会で、そのことについて態度を決定されておりますけれども、そうした点について、より深い考えのもとに、この平和的利用ということをお考えいただかないと、木村先生放射能についての御研究の域にあられる場合はいいけれども、原子力という問題に至つた場合の研究ということになれば、われわれとしては、そういう点について科学の進歩をはばむものではありませんけれども、大きな懸念を持つております。これについて先生はどういうふうにお考えをなさつておられるか、二つの問題についてお伺いしたいと思います。
  12. 杉本朝雄

    杉本参考人 あとの方の、原子力が大々的に研究された場合に、それが何か爆弾ですか、そういう原子力兵器の方に転用される心配があるかどうかというお話ですが、将来日本で発電用の原子炉とか、つまり原子力発電の域まで行けば、そういう気の人間が出て来れば、転用することは私はできると思います。そういう可能性はあると思うのです。それは要するに、その時期にそういうことを考える人間がおるかどうかという問題で、原理上は、原子炉がそのくらいの能力を持つておりますと、原子爆弾材料のプルトニウムというものも相当量できるわけでありますから、もちろん爆弾にしようと思えば、できる程度にできると思います。ただ実験用原子炉というのは、もつとずつと出力の小さなものでありまして、こういうものですと、事実上そういうことはできないと思います。これは爆弾一個つくるにしましても、何年とかかるものになりますので、おそらくそういう段階では、そういうことは問題にならない。しいて考えますと、放射性原子灰ですか、こういうものをまき散らすというようなことも考えられなくはないでしようけれども、それにしてもずつと小さな規模のものです。ですから実験用原子炉の段階においては、そういうことはあまり問題にならない。ただ原子力平和的利用ということを言う反面、学者も、もちろん将来そういうものが間違つた方向に使われないという保障を非常に求めたがつておることは、御承知の学術会議の先日の総会で決議された通りでありまして、あれが要するにわれわれ学者の良心といいますか、そういうものだと思います。私自身は、とにかく実験用原子炉というものをつくつてみなければ、将来日本原子力発電とか、そういうものが実際経済的にも、技術的にも可能であるかどうかということはソリユーシヨンが得られないのじやないかというふうに考えておりますので、平和的利用をする第一歩としては、どうしても実験用原子炉というものを、とにかくつくつて入る。それが技術的な第一段階でありまして、それと並行して、能率的な面、それから経済的な面とを同時に検討せれて、そういう検討がいろいろとそろつたところで、将来の大規模ば原子力平和的利用をどうすべきかということを決めていく。そういうふうにステツプを切つてつて行くのがよろしいのではないかと私は思います。そうでないと、今からすぐいいとか悪いとか、やるべきだとかなんとか言いましても、いろいろなデータが不足である。そういうデータを得るように、ここ数年の計画として、とにかく実験原子炉をつくるくらいまでに一応区切つてやる、そういうやり方がいいのじやないか。もちろん実験用原子炉をつくることにすら、先ほど申しましたように、どこでやるかとか、主要材料をどうやつて獲得するかとか、いろいろな問題があるわけでありますが、それとは別に、先ほどおつしやつたような問題とすれば、そういうふうにして、その間に、間違つた方向に向かないような保障なり、法律なり、憲章なり、そういうものをつくつて、国民にもよく徹底さして行く、そういうことが必要じやないかと思います。  それからもう一つは、前の御質問の、現在そういう能力が日本の学者にあるかというお話でありますが、実験用原子炉の段階では、原理的にはそうむずかしい問題はない。たた一番の問題は、材料が非常に純粋なものが大量に必要なわけでありますので、それをどのくらいの期間に獲得するかとか、それに伴ういろいろな問題があるのじやないかと思います。材料が得られたとしますと、それをつくり上げて働かすことは、日本の学者でも十分できると思います。
  13. 辻原弘市

    ○辻原委員 原子炉の問題に触れましたので、もう一つ聞きたいのですが、先ほどお話にもちよつと触れられたと記憶しますが、アメリカあたりの原子炉実験ないしは原子爆弾の製造について、一つの大きな問題として聞いておるのは、灰――ダストの処理の問題だと思います。これは後刻他の方々もお触れになるだろうと思いますけれども、科学の研究いう問題よりも、環境衛生の問題について、これが一番国民の関心事であり、またわれわれの関心の的でもある。少くとも実験の域においても、この問題は最も大きな問題だと考えております。アメリカあたりでも、最近処理に因つて、地域が広いために、アリゾナあたりまで持つて行つて捨てておるというような話も聞くのですが、そうすると、ここでさしあたり一億三千万円投じて、実験用原子炉をつくる。実験の段階でも、これはおそらく人体に影響のあるものだと思います。そういつた点についてこれをどう処理するかというふうな問題について、的確な一つの構想を日本の学界の中にお持ちになつておられるのかどうか。私はアメリカあたりの場合と日本の場合とでは非常に違うと思うのです。この点については非常に問題だと思う。この点をひとつお伺いしたい思います。
  14. 杉本朝雄

    杉本参考人 それは確かにおつしやる通りで、ことに今度の原子灰事件で、日本の国民が非常に原子灰というものに神経質になつておるようであります。実験用原子炉の段階におきましても、かなりこの原子灰というものが出るわけであります。この処置は、確かにおつしやる通り、相当日本としては考えなければならない。これが順調に働いておりますときの処置というものは、向うにもいろいろお手本もあるし、日本でも、原子灰というものはある時間寝せておきますとだんだん弱くなる、最後に残つておるのは大に弱くなる、こういうものをどこか、放射線の出ないところにストツクしておきまして、それの利用法を考えるとか、そういうような方法をとれば、そう一般の人に迷惑をかけない範囲でできる方法もあると思うのでありますが、一番心配なのは日本は地震だの何だの多いわけでありますから、つくつた原子炉が破壊したときに、それからその原子灰が漏れ出て来る、そういう心配は確かにあるようであります。これは非常にむずかしい問題でありますので、かなり人里離れたところにそういう設備をつくるというようなことも、一つの方法でありましようが、ただそういうことだけでは解決しない問題です。つまり日本の中ですと、相当広い範囲に人つ子一人いないとか、家畜もいないとか、そういうところは求められない。どうしても何か別の、非常に耐震性のある家屋の中につくるとか、それからそういうものが万が一事故が起きたときにも、その原子灰の漏れ出ないようにビルデイングにいろいろなくふうをしておくとか、そういういろいろな安全装置の考慮ということを日本の場合は非常に考えなければならないと思います。どうしても日本の場合は、そうアメリカやソ連の場合みたいに離れたところにつくつて、それだけで、何か起きたならば、ほうつておけはいいというようなことはできない。それからまたその実験用原子炉の段階では、そう不便な地につくつても、先の伸びが研究上非常に悪いのでありますから、むしろそれよりも非常に安全ないろいろな施設をつくりまして、もう少しみんなに利用できるようなところにつくる。そういう考慮の方が私は必要ではないかと思います。
  15. 辻原弘市

    ○辻原委員 もう一つだけ質問して終ります。それはやはり今お話になりました科学的な基礎的な調査の問題であります。今度のビキニの灰の問題でも、そろそろ調査をやろうかというようなことで、何かきようあたりの新聞でも、水産庁の調査団が出て行くようでありますけれども、問題は、木村先生は東大で、文部省の関係でありますし、杉本先生は科研の関係というふうに、いろいろ所属が違つております。私は今回の調査なんかについては、少くともそういう所管を離れて、全部総合的な調査をおやりになるだろうというふうに考えておつたのです。ところが水産庁の方は水産庁の方で、そういう形で水産庁の藤永研究部長が指揮者になつて調査をする。それから当面福龍丸の研究調査については、これは所管についてごたごたがあつたが、この間お伺いしてみると、はつきりこれは文部省の所管においてやる。結局それに伴う予算の使用等は、主として文部省中心にしたやり方で調査をやられる。こういうことに私はなつておるのではないかと思うのですが、問題は今水産庁がやろうとしておる単に海流がどうだとかこうだとか、魚の関係がどうだとかいうことのみならず、もつと今回の原子爆弾なら原子爆弾というものの実態をつきとめる一つの調査、それから一体この灰がどの程度の地域に降つたものであるか、その影響というものはどういうものかというような総合的な調査が行われなくてはぬらぬと思うのですけれども、それらについての連絡、調整というものが、いろいろ聞いてみましても、どうも不十分なように思うし、円滑に行つてないような面もあるんじやないかと私は察知するわけですが、そういう点について、特に先生方が研究調査にあたつて御不便を感じられるような点はないかどうか。私はもつと総合的におやりになる必要があると思うのですが、この点についてどうお考えになつているか。  それと、さしあたつてもう一つは、日本独自の調査もけつこうであるけれども、われわれは少くとも原子力問題については、やはり広島、長崎の経験を持つておる。ところが当時の資料が、映画にまで撮影されながら、それがアメリカにも写されず、何ら資料がない。しかも医学的な面においても、これが費用の関係から、その後一つの調査が継続的に行われておらない、こういう問題もあり、これから乗り出すこともけつこうであるが、そういう点の基礎資料というものが、少くとも日本人はモルモツトになつたのであるから、これをもう少し学界がアメリカ、あるいは日本の政府に要請をして、何らか活用するような方法をとり得れは、基礎調査等についても非常に大きな便益をもたらすことができるんじやないかと思うのですが、そういう点についてはどうお考えになつておりますか。
  16. 杉本朝雄

    杉本参考人 まず最初の、全般的な連絡が不十分であるということは、確かにおつしやる通りであると思います。それでそういうことを補正するために、今度は学術会議で原子爆弾災害調査特別委員会というものが組織されまして、そこで各省いろいろやつておいでになるのを連絡総合する、そういうような仕組みになつておるようでありますから、それはだんだん是正されて行くんではないかと思います。  それからもう一つ、長崎、広島の資料が国民に知らせられていないというお話でありますが、これは実はそうでないのでありまして、学術振興会から長崎、広島の調査資料が、こんな部厚な文献、報告集が出ております。それは相当その当時の調査はほとんど網羅しておりまして、ことに医学方面が八〇%くらい占めた非常にりつぱな調査報告であります。これも費用や何かの点でおつしやる通り不十分であると思いますが、文部省からそういう費用をいただきまして、そういうものを出したわけでありまして、一部はかなり高いものでありますので、そうみんながみんな読むというようなわけには行きませんでしようけれども、相当の施設のところでは備えることができるりつはな報告が出ておりますので、日本自体もそういう基礎的なデーターというものはある程度つております。  それから原子爆弾が落ちてからすぐ行われました調査、あれは八月に落ちたのですが、九月の半ばごろに学術研究会議でやはり特別委員会をつくつて、総合的に大規模に調査したものも全部網羅されておりますが、それが何年か続きまして、そういう委員会というものが一応終りになつて、医学方面の遺伝的な面だけの委員会が現在も残つておるのであります。そういうところで遺伝的な方面、これはもちろん相当長期的な調査研究が必要でありますので、そういうことを続けておるのでありますが、そういう医学的な面のいろいろな問題は、午後から中泉教授がおいでになりますので、いろいろ先生にも御意見があるようであります。政府の方にどういうようにしていただきたいというような御意見があるようであります。私は別の席でそういうことを伺つたことがありますので、どうぞそちらの方からお聞き取り願いたいと思います。
  17. 辻原弘市

    ○辻原委員 藤岡さんがおいでになれば、お答えいただければ適切であつたかと思いますが、今学術会議の問題が出ました。学術会議で特別委員会をつくつて総合的にやるのだというお話ですが、私の聞いておる範囲では、三十九委員会は学術会議としてのいわゆる原子力に対する態度、どういう方向でやつて行くか、どういう問題を取上げて行くかということを検討されるというように伺つております。それからもう一つ委員会は原爆症の研究だということで、特別委員会という話は今初めて聞いたわけですが、しかし学術会議がそうあられることが私はほんとうだと思いますし、ぜひともやつていただきたいと思います。ただ問題は、学術会議は執行するような立場におありにならないのではないか、そうすると勢い、具体的に金を出して、あるいはいろいろな機関を動員してやる側は文部省であり、厚生省であり、それぞれ民間の研究所である。そうすると、それを統轄するたけの学術会議が強い働きかけ、強い働きをやつていただければまことにけつこうだが、そうでない場合には依然としてそれは話合いをするだけのことにとどまる、ないしはそれら専門的事項に関しての研究を進めるだけのことになるのじやないか。これは先生方に申し上げるより、むしろ政府にそれを申し上げる方が早いのですが、そういう点の懸念を持つておるので、われわれは政府に対してそういう要望をすると同時に、ひとつ学界におかれてもいういう点に力点を入れられて、学術会議かむしろ執行的な立場に立つくらいの強い働きかけをやつてもらつて、早く総合した調査の結果を国民の前に明らかになるように特に御努力を願いたい。今のような状態では、これは一般国民にも認識を持たす、あるいは児童、生徒にまで、いわゆる原子力放射能に対する認識を徹底さすといつたところが、与えるべき一つの論拠というか、そういうものがどうもはつきりいたしませんので、日本原子力研究の方向と同時に、そういう一つの認識を与えられるだけの科学的調査資料というものを一日も早くおつくり願いたいということを要望いたしまして、一応私の質問を終ります。
  18. 小林信一

    小林(信)委員 お二人の先生から非常な権威のあるお話を承つたのでありまするが、私たちはその必要性とか、あるいは今持つておいでになる構想というものを基礎としてお伺いいたしまして、私たちの責任としてこれらに対してどういうふうに政治的に処置しなければならぬかというような面で、いろいろお話を承りたかつたのでございますが、全般的な問題に触れていただく時間がなかつたのを非常に遺憾に思つておるわけであります。私たちのお伺いするところでは、先生方がそうした研究をなさつておるのに非常に不自由を感じておいでになる。実験等も日本ではできないために、すでに世界では相当な研究が進められておるのに、ここ十数年間日本は空白な時代を余儀なくされてしまつておる。しかしこれを一時も早く解決して、今お考えになつておるような、どうしても研究しなければならない点を御満足行くようにしなければならぬということを考えるわけでございますが、そうした詳しい実例等をお伺いしたい。そのために必要な費用等もどういうふうに御要望なさつておるか、お伺いしたかつたわけです。さらに学者としてのお考えとすれば、当然これから研究しようとするものの道を講じていただくことも、これも大事だと思いますが、これらも私たちの知るところでは、今世界がそうした原子力時代に突入しながらも、日本においてはこうしたもの研究する機会が非常に少い。これはやはり一つの教育制度として、また教育行政として考えて行かなければならぬ点でございますが、こういう点をできましたらお伺いしたかつたわけでございます。  それから今度の原爆の問題から、はからずも国民全体に恐怖と申しますか、重大な関心を持たしたわけでございますが、こういうものに対しまして、すでに研究しておる世界各国では、環境衛生という面から十分な措置が講せられておる。ところが日本においては、今こういう被害を受けながらも、何らこれに対して講ずる道がないということで、遺憾を感じておるわけでございますが、こういう点に対しましては、研究されておる先生方はどういうふうなお考えを持つておられるか、これは一般的なものでございますが、さらに先ほど辻原委員からもお話がありましたように、また先生方からもお話があつたわけでございますが、あくまでも日本の今後の研究というものは平和的な面で行つて、そして決してこれが戦争の武器として研究するようなことがあつてはならない。学者の良心としてもこれは強く強調されておるというふうなお話があつたわけでございます。こういう点もただ簡単に学者の良心としてお打ちになつておいでになつただけでは、私は非常に危険だと思うのでございます。いつでも発電用の原子炉をつくる段階になれは、切りかえられるというようなお話もありましたし、私たちの今までいろいろお聞きしたところでは、やはり科学の理想としては行くところまで行くということになれは、そういう程度に至ればいつでも切りかえようとすれば、これは爆弾をつくるようになれるのだということも聞いておりますが、そういう場合にただ学者の良心だけで、当初お考えになつておる平和的利用だけに進むことができるかどうか、今の段階においては実験用原手炉だけで、そんなことを心配する必要はないのたとおつしやつても、やはり研究の意欲というものは際限がないわけでありますから、そういう点、あらかじめ国民の輿論がこれに対して重大な関心を持つようなことについても、学者の先生方からあらゆる機会に承らなければならぬことで、常に輿論が監視することによつてそういうことは避けられるものであると思うのでございます。これもやはり先生方に責任を負わせるわけではございませんが、一応やはり御自覚願わなければならぬわけでありますから、そういう点についてもお伺いしたかつたわけでございます。さらに今回の問題につきましては、これは世界各国が受けたわけではなくして、はからずも日本が受けたものでありまして、ここに学者として御研究なさつておる先生方としましては、今原子力というものが軍事的な重大な要素として、しかもこれが一つの時代をつくつておる状況であるときに、はたしてこれをこのまま放置しておいていいかどうか。人類全体の問題として言われておるときでありますので、研究される実態というものをあくまでも追究されるだけ追究されまして、世界の輿論に反映させるということもやはり先生方にお願いしなければならぬわけでございます。こういう点につきまして、できるならば詳しくお伺いしたいのでございますが、時間がすでに十二時を過ぎておりまして、先生方に御迷惑だと思いますから、先生方のお考えになつておる程度でよろしゆうございますので――今申しましたところをもう一ぺん箇条的に申しますと、現在研究に燃えておられる先生方の御不自由なさつておる点、要望される問題、それから後輩、今後これを研究される者を養成するというふうな点からの先生方のお考え、それから環境衛生というような面で御希望なされる点、さらに学者として、この原子力問題についての良心的なお考えだけでなくて、いかにしたらほんとうに平和的な利用だけにこれを限ることができるかというお考え、さらに今回のビキニ環礁から端を発しました問題について、世界人類に対する先生方の呼びかけたいお心構えというような点について、お二方から簡単でよろしゆうございますから、御抱負をお伺いしたいと思います。
  19. 杉本朝雄

    杉本参考人 大分問題がいろいろございまして、全部適切なお答えができるかどうかわかりませんが、現在私らがいろいろとやつております研究で不便を感じておるかということですが、これはその通りでありまして、たとえば原子核研究所の予算が非常に削減された。あれは学術会議でも全会一致で出しておりまして、それが今度の緊縮予算という点から削減されたわけです。しかももう一つ悪いことは、ああいう金が出ましても、定員がない。でありますから、原子核研究所というものは今年度はできなかつたことにひとしいわけです。ただ一億何がしかという金が東大に出たというかつこうでありまして、これはわれわれ原子核研究者としては非常に遺憾な点であります。定員がなければ一体だれがやるかということになるのでありますが、そういう点で不便を感じております。われわれとしましては、とにかく原子核の実験研究というものが、理論研究に比べて、日本の場合非常に立ち遅れておりますので、これは一刻も早く追いつかなければならぬ、是正しなければならぬというわけでありますから、みな手弁当でも、そういう金を使うための設計とか、いろいろなことにできるだけはせ参じまして、協力して、できるだけ早くやる。あの計画は三年計画でありますから、今年はスタートしなくても三年後にはちやんとしたものができるように、今年からそいうつもりで始める、そういうようなかつこうであります。これは私らの関係したごく狭い範囲の原子核の問題でありますが、ほかの面でもそういうようないろいろな問題がもちろんあると思います。それはすぐは役に立たない研究が相当あるでしようが、そういう科学技術研究に相当研究費を出してもらいたいということは、学者のみな一致した希望だろうと思います。そういうことがちやんと行われなければ、もちろん今後のそういう若い人材を養成して行くことは望めないわけであります。  それから次に、原子力研究について、学者としてそれを平和的利用にどうやつて限るかというお話でありますが、原子力研究がそういう間違つた方向に行かぬようにするということは、これは学者だけの問題ではなく、国民全般の問題であります。学者ももちろんそういう覚悟でスタートするわけでありますが、これはむしろ国民の代表である皆様方の方が責任が重大であると私は思います。そういう意味で、学者と皆さんと協力して、そういう方向に行かないようにこの際何か措置を講じ、それを引続き国民の心の中に徹底させて行くということが必要である。そういうことが問題になりますのは十年、十五年先の問題でありまして、そういうときに国民がそういう気持になつておらなければ、今何とかかんとか言つたつて何もならないわけでありますので、どうしても将来のことを考えて、今から国民一般の気持の中にそういうことをたたき込んで行くことが絶対に必要たろうと私は思います。われわれとしましては――これはわれわれと申しますよりも私と申した方がよいかもしれませんが、そういう間違つた方に行かないことを、自分でははつきり言えますが、それだけでは確かに不十分なのでありまして、われわれ仲間もみなよく連携をとりましてそういう方に行かないようにしなければならぬ、その現われかこの間学術会議から出た声であろうと思つております。  それから人類将来の問題として、原子力兵器というものが直接に世界人類に非常に暗い影を投げかけているということは確かでありまして、これについては、たとい一国でありましても、今度のように国際管理というああいう呼びかけを出すということは非常にけつこうだと私は思うのであります。つまりああいう声が世界全般にみなぎるということが非常に必要なことじやないかと思います。ですから、一国だけで出しても何も効果がないというようなことに考えずに、やはりみながああいうふうな声を出せば、大国も大いに考慮するのではないか、そういうふうに考えます。要するに原子兵器というものを使えば、人類はめちやくちくやになるのであるということを十分、ことに大国か納得してくれることが必要であると考えます。  非常にむずかしい問題でありますので、あまりちやんとしたお答えができなかつたと思いますが……。
  20. 小林信一

    小林(信)委員 ありがとうございました。私の伺つたところでは、今度の原子核研究所の定員がないというお話があつたのですが、立教の田島先生にお話を聞いたら、私どもも手弁当で行つて何か講座を持つておるというようなことなんですが、まことにそういう重大なものでありながら、文部省の方が非常に遺憾な措置をしておられるわけです。今後委員の方たちと御一緒になつてこの問題を研究させていただいて、御満足の行くようにしなければならぬと思つておりますが、そのほかいろいろな点でお伺いしたいことかたくさんございまして、できるだけ文部省に善処していただこうと思つております。  それからまだ少し時間があるようですから、木村先生にお伺いいたしますが、これはやはりまとめてお伺いいたしますが、船に積つてつた灰は相当に時間が経ておるので、その性能というものは少くなつておるという先ほどお話つたのですが、第五福龍丸のおつた地点というものと、この船はつの住居と考えてよいと思いますが、そういう点から国民全体、あるいは世界の人たち全体が考えて行くことが必要だと思うのであります。そこでたまつてつた灰の持つ性能というような点が、先生方の御研究によつて、いろいろな材料になると思うのですか、三月十七日に調査したものとして発表されたものが、毎時百十ミリ・レントゲン――こういう術語も私はよく知らないのでありますが、これはやはり三月一日の問題でございますので、相当時間が経ておることから推測して、三月一日にはどのくらいの性能があつたものであるか。それから一体われわれ人体に支障のない程度ののという、学者の方たちが研究された基準点のようなものがきつとあると思いますが、そういうものはどれくらいのものであるかお聞かせを願いたいと思います。  それから今度の実験で出た灰というものは、その灰を散布するということを目的にしたものか、そういう意図ではなく、自然的に出たものであるか、こういうことも御研究なつておられたらお伺いしたいと思います。  またアメリカの方で日本の患者に対して、そう大したことはないのたと言つたというようなことが新聞等で見えたのですが、そうすると、今度の実験というものは、アメリカが予想したものよりもより以上の大きな成果があつたのか、そういうことになりますと、学者が予期しないような大きな爆発力もあるということになるわけでありますが、あらかじめ予想したものと違つてつたのかどうかというふうなことも私たちはお聞きしたい点であるのです。  それからアメリカの方では、これらすべてを的確に観測しておるのかどうか、こういう点がおわかりでしたならばお伺いしたいと思うのです。
  21. 木村健二郎

    木村参考人 お答え申し上げます。船に残つております放射能の強さにつきましては、私自身は測定に参りませんでしたから、むしろそれは午後おいでになります中泉博士から直接お聞きになつた方がよろしいかと思うのでありますが、大体お話の通り初め百ミリ・レントゲンありましたのが、三月十七日にはその八〇%くらいが減つておりましたそうで、現在はそのときの二割ぐらいになつておるということであります。それからこれは初めに放射能が非常に強くて、割合に急激に減少するような性質物質が多いのでありまして、その結果初め受けた放射能は相当強かつたろうと思うのであります。それで大体先ほども申しましたが降り始めましたときには、おそらく――一グラムについてラジウムの計算の根拠で少し違つた数が出て参りますが、ラジウムの〇・九グラムから〇・五グラムに相当するくらいの強さのものが降つて来たと考えられるのでありまして、結局これも中泉博士、それから科学研究所の山崎博士、それから東大の筧博士、そういう方たちの計算によりますと、二週間に二百ないし三百レントゲンぐらいの強さの放射能を受けた、こういうことになるわけでありまして、これは許されるエツクス線の強さというのは、一週間に三百ミリ・レントゲンということになつておりますのが、ミリではなくて三百レントゲンも二週間に受けた、こういうことになつておりますから、相当に強い放射能を浴びているというふうに考えられるのであります。  それから住居の一つと見まして、それを環境衛生の立場から観察するということは、それはたいへんおもしろい問題と思うのでありますが、一方では船をあのままであすこに長く置いておくということに対して、またいろいろお困りの点もあるように思われますし、大体ある程度観測をいたしますと、それから先は見当十もつてとれくらいたてはどれくらいになるだろうというふうな見当がつきますし、それからまた放射能をどういうふうにして落したらよいかということにつきましては、必ずしも船をそのまま、原形のまま残しておかなければならないという必要はなくて、必要な材料を持つて参りまして、それについて試験をするということで可能ではないかというふうに考えるのであります。  それからその次に、灰を散布する目的でもつて実験を行つたかどうかということについてのお答えでありますが、これはもちろん正確にこうであるという判定を下すことはできないのでありますけれども、少くとも現在の実験の結果から考えますと、おそらくそういう目的ではなかつたのではないかと思います。先ほど申し上げましたような原子核の分裂でできますところのいろいろな放射性物質は、多くは大体非常なこまかい粒子になりまして、空の上の方に飛んで行つてしまう。大体一ミクロンといつたくらいの直径のものになりまして、上の方へ飛んで行つてしまつて、そうして薄められ、わからなくなつてしまうといつたような状態である場合が今までは多かつたのが、たまたま今回はさんご礁のかけりの大きなものが一緒にこわされて、空に舞い上つてしまう。これにそういう微細な物質が飛びついてしまう。そうしましてさんご礁のかけらの方は粒の大きさが大きいのでありまして、大体〇・ニミリぐらいの直径のものが多いかと思いますが、粒の大きさが大きい。そのために空に長くとどまつていることができないで降つて来た、こういうことにおそらく偶然なつたのではないかというふうに考えます。  それから実験が予期したものよりも大きかつたかどうかということにつきましては、私どももちろん正確に考えることはできないのでありますが、しかしとにかく船は指定された危険区域のそとにいたことでありますし、そういうところにいて災害を受けたということは、まあそういう点だけから申しましても、何かの違算があつたというふうに言つてもいいのではないかというふうに考えております。以上であります。
  22. 辻寛一

    辻委員長 小林君、よろしゆうございますね。――福井議員より委員外の発言を求められておりますので、これをこの際許します。福井勇君。
  23. 福井勇

    ○福井勇君 非常に時間が遅くなりましたし、またこういう有意義な委員会に、初め発言された小林委員も時間的な十分な余裕がなかつたというような際に、委員外の発言を許してもらいますのは非常に恐縮でありますが、まだ午後の分があるのでありまするし、また藤岡先生も間もなくおいでになるというようなことでありますから、わざわざ早口に簡単な項目だけをお尋ね申し上げたいと思いますので、先生方にも非常に御苦労なことでありますので、きわめて簡単でよろしゆうございますから、お教えを願いたいと思います。  木村先生にまずお伺いいたしたいと思いますことは、先生方が今実験をなさつております際に、放射性同位元素などは現在どの手を通じて、どこから入手されておいでになりますか。
  24. 木村健二郎

    木村参考人 放射性同位元素は、現在日本放射性同位元素協会という団体がございまして、ここでもつて、これはスタツクの外郭団体と申していいのかどうかわかりませんが、そういう形の団体がございまして、そうしてここでもつて輸入に関する事務を取扱つております。その事務と申しますのは、具体的に申しますと、研究者からどういう方射性同位元素がほしいかということの申請書を集めまして、そうしてその申請書につきまして、学識経験者からなつている審査委員を協会でつくりまして、そこで審査をする。そしてこれはいろいろ危険なものでありますから、たとえば人に迷惑を及ぼすような実験をしては困るわけでありますから、そういう迷惑を及ぼすようなことはないか、あるいはまたやつても非常にむだな実験であるかどうか、そういつたようなことについて非常にこまかく審査いたしまして、それでさしつかえないと思うものだけに許可を出す。その許可が出ましたものにつきまして、放射性同位元素協会がこれをとりまとめて、それぞれ外国に注文を出す。それはまあ適当な商社を通ずることになろうかと思いますが、注文を出す。そういたしますと、アメリカあたりですとまた向うの方の原子力委員会でもつて審査がありまして、そうしてそれでさしつかえないということになりますと、それが放射性同位元素協会の手を通じて参ります。この手を通じて参り与ますとは、いろいろな事務的な主にも非常に便利でありますが、それよりもう一つ便利なことは、国内の入用なものをまとめて一つなつて来るということが便利なんであります。個々ばらばらに参りますと、その一口に対してそれぞれ手数料をとられ、運送料をとられるということになりまして、非常に高いものにつきますが、それが一口になつて参りますから、その点で非常に安く手に入ることができる。そのかわり放射性同位元素協会は、それをわけるという専門家がおりまして、それをわけるということをしなければならないわけであります。その点は手数がかかるわけであります。大体そういうようなことでありまして、一年に二回そういう申請書をとりまして、次の半年の間に入用なものを輸入をしておる。大体そういう状態であります。
  25. 福井勇

    ○福井勇君 ありがとうございました。  その次に杉本先生と木村先生両先生にまたがつて、広汎な問題でありますが、お尋ねしたいと思います。日本が広島、長崎の被害を受けました国民として、これはもう原子力の武器としての被害については一番反対しなければならぬ、また反対する声が八千万の国民全部にあるわけであります。これは当然でありまして、これを否定する人は一人もないと私は思つておりますが、今までの学術会議の第三十九委員会を傍聴いたしましても、あるいは最近のそれに関連した学術会議あるいはまた国会などにおきましても、今後日本がこの原子力研究に着手する際に、戦力に使つては絶対いかぬ、また戦力に使うようならこれは協力しないというようなことを、学術会議でも繰返し繰返し言われておりますが、これはもう当然なことであると私は思つております。そういうことを逆に私考えると、だれかそれでは戦力に使いたいというようなことを内緒で考えている人があるのか、あるいはここにおいでになつておるような学者先生のところなどには、実は日本で戦力に使いたいのだから、内緒で相談に来たというような人があるでございましようか。そういうような点について御見解を承りたいと思います。
  26. 木村健二郎

    木村参考人 私のところにはかつてそういう方がお見えになつたという例はございません。そういうようなことが行われておるというような話も承つたことがございません。
  27. 杉本朝雄

    杉本参考人 今そういうことを言つて来ている人はないです。ただ学術会議やわれわれの仲間でそういうことを問題にします理由は、もつと先に行つたときに、日本の国情なり何なりで、そういうふうに行つちやう心配がないか、そういうことなのであります。
  28. 福井勇

    ○福井勇君 杉本先生にお伺いいたしますが、最近の原子力発電等の、いわゆる平和産業に利用する一つの端緒として、いつも話題になつて来ますのは、先生もおつしやつておる通り、ウラニウムの問題と、それからカン材料の問題というようなことは、いろいろと教えていただいておりますが、最近日本において行われた国際理論物理学会議などの席上、フランスのペランなどは、非常に低品位のもので大体見通しがつく傾向が生じて来たというようなことを言つております。が日本において産出するであろうという材料で、これらの資源の解決がつくかどうかという見通しについて、簡単に御見解を承りたいと思います。
  29. 杉本朝雄

    杉本参考人 これはむしろ私よりも、木村先生の方がお答えする立場にあると思います。
  30. 木村健二郎

    木村参考人 現在の日本の国内のウランの資源の状況はどうなつておるかというお尋ねでございますが、大体ウランの資源として考えられておりますのは、現在世界共通なことは、三種類のウランの鉱石があるということてあります。一つは一番盛んに使われております資源は、カナダのものにしましても、あるいはベルギー領コンゴのものにしましても、あるいはドイツとチェコの境にあるものにしましても、いずれも世界的に有名な資源というのは、熱水鉱床というのから出ますものであります。それから第二には、ポルトガルとかその他で多少出ますようなもので、ペグマタイト系統に属するものであります。それから第三は、水成岩系統に属するもの、これは一部分アメリカなんかにもありますし、それから非常に低品位なものまで含めますと、相当広範な産額のものがある、こういう三種類あるわけであります。ところで日本の現在調べられておりますのは、ただいま第二番目に申しましたペグマタイト鉱床に属するもの、これだけが割合によく調べられております。そしてウランの鉱石の産地というのも、数だけで申しますと、相当の数あることがわかつておりますが、これらは外国の例から考えましても、あまり多量が出て来るという望みがないわけであります。それでそのほかの外国にありますような熱水鉱床の例、水成岩の例といいますのは、これは将来の探鉱の問題でありまして、それがどう発展するかわかりません。そのわからないことはおきまして、現在のペグマタイト鉱床のうちで有望なものがあるかどうかということになりますと、それは現在のところ、あるということが知れておる、標本的なものが出ておるということが知れておるというだけのものが多いのでありまして、これにつきましても、やはり探鉱しなければ的確なことはわからなわけで、あります。しかし私が見ますところでは、多少の無理をしましたなら、実験炉的なものはあるいはできやしないか、系統的なものをつくるときの材料があるいはとれはしないかと、ひそかに考えておるものはなきにしもあらず、正確にあるとお答えはできませんが、可能性はあるというふうに考えております。それよりもつと大きなウランの資源ということになりますと、現在日本ではわかつておりません。しかしフランスにおける例もありますから、これはもちろんないと断言することはできないわけであります。また探鉱の余地がある、こういうふうに考えております。
  31. 福井勇

    ○福井勇君 時間を非常に委員長も苦労されておりますので、もう二分間程度お許し願いたいと思います。両先生に率直な御意見を伺いたいのございますが、原子炉の建設あるいは原子核研究と両方通じまして、一応政府が予算を組みましたその額について、いろいろきゆうくつな制限を受けておる、つまり金額が少かつたというようなことについて制限があり、遺憾に思われている点もあるようでありますが、両先生において金が幾らでも出るというようなことを仮定されたら、日本の原子核研究原子力研究について、第一年度どのぐらい――日本の予算計上は一年々々になつておりますので、五箇年計画などを立てても、一年一年しか国会で承認して行きませんが、どのぐらいあつたら第一年度理想的に行けるというような見込みがありましようか。これだけで私のお尋ねを終りたいと思います。
  32. 杉本朝雄

    杉本参考人 原子核の研究だけにつきましては、あのままそつくり出たら、一番よかつたのじやないかと思います。それから原子力研究は、これはちよつと私にはどのくらい金があつたらいいか、よくわからないのであります。とにかく使い方は先ほど申しましたが、かなり基礎的な調査というような面に使つてもらいたい。まず調査団ぐらい派遣してよく調べて来るくらいのことから始める必要があるのじやないかと思います。つまりいろいろな大規模な工場をつくるということはまだ早いのではないか、もつとその前にいろいろしなければならぬ問題がたくさんあるのではないかというふうに思つております。
  33. 福井勇

    ○福井勇君 先ほど来の委員の質問のうちにも、またお答えの一部のうちにも、通産省の所管になつたり文部省の所管になつたりいろいろして予算の面が非常に困るというようなお尋ねがあり、またお答えの中にもそれの片鱗が現われておるように私は受取りましたが、何でも、私が承知しておりますところでは、初めそういうふうになつておつたのが、経済審議庁で内閣の万へこれがまとめられて、これが使途につきいろいろ総合的にやるようにかわつてつたようでありますので、この点は政府が必ずいい処置をとつておられると私は想像しております。  なお最後に杉本先生は、至急調査同を派遣しなければならぬというようなことについて、やはり国会においても、また学界においても、早急にやれというふうに話が出ておるのでありますが、それは最初アメリカの方へ行くべきか、あるいはヨーロッパの合同原子核研究の方へ行くべきか、どういうような方向で持つてつたらいいかということについて一言お聞きいたします。これで私の質問は終ります。
  34. 杉本朝雄

    杉本参考人 私だけの考えを申しますと、おそらくアメリカはよく見せてくれないのではないか。ノルウエーの原子炉というのは外国の学者も来て研究しておりまして、かなり公開になつております。フランスのことはよくわからないのですが、どつちかと言いますと、アメリカは二の次にしまして、ノルウエーとか、できたらフランス――フランスはとにかく平和的な利用ということに限つて原子力研究をスタートしたわけでありますから、そういうような考え方とかいろいろな点がよくわかるのじやないか。どちらかといつたそつちの方に重きを置いて行つたらいいのじやないか、私だけはそう思います。
  35. 辻寛一

    辻委員長 この場合両先生に一言ごあいさつ申し上げます。本日は貴重な時間をおさきいただきまして、長時間にわたりましていろいろと有意義なお話を承ることができまして、私ども得るところ多大でありましたことを厚くお礼を申し上げます。  暫時休憩いたしまして、午後二時から再開いたします。     午後一時三分休憩      ――――◇―――――     午後三時三十八分開議
  36. 辻寛一

    辻委員長 休憩前に引続き会議を続行いたします。  午後御出席参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。当委員会が国民の重大なる関心を寄せておりまする原子力の問題について、学術研究の立場から広く斯界の学識経験者の皆様より、本問題についてその専門のお立場より腹蔵のない御意見を承るに決しましたところ、きわめて御多忙のところ、当委員会に課せられた重要なる使命をおくみとりくださいまして御出席を賜わり、厚くお礼を申し上げます。国会国政調査権の範囲におきまして参考人として貴重な御高見を拝聴いたしますことは、今後国民の本問題に対する学術研究の振興に寄与するところ、きわめて大きいものがあることをかたく信ずる次第であります。  それではまず最初に東京大学教授中泉正徳博士にお願いを申し上げます。
  37. 中泉正徳

    ○中泉参考人 それではただいま委員長からごあいさつがありましたような趣旨に従いまして、一応の筋道のお話を申し上げまして、それから御質問にお答えするという順序で進んたらどうかと思います。  原子力の平和的応用に関する御関心によつて、こういう集まりが催されたように今拝聴いたしたのでありますが、原子力を平和的に日本応用して行くということも調査が始まつておるようでありますし、それから好むと好まざるとにかかわらず、原子力実験がほかで行われるために、放射能がどうしても外から国内に入つて来るという状態にあります。つまり私は日本がみずから原子力を平和的に応用するのに医学者としてどういう考えを持つておるかということと、それから外来の今回のような効射能が入つて来る――もう入つて来たんですから、来た場合にどうするか、今後来るようなことがあつた場合にどうしたらいいかというふうにわけて考えられると思います。それからその内容は、医学的に考えまして、人体に障害が起つた場合の臨床的の問題と、それからして人の居住する住居が放射能によつて汚染された、いわば環境衛生の問題と、まぐろ等の食品が放射能で汚染された食品衛生の問題と、こういうふうにわけて考えられると思います。もう一つつた観点からわけて考えますと、今回のビキニの問題についてのお話と、それからずつと将来を考えまして、今回ほどあわてないようにするにはどういうふうにしたらいいであろうかというような、将来性のある対策というようなことも考えていいだろう、こういうふうに感じております。  まず、御承知でございましようけれども、話の順序として初めから申し上げますと、三月一日の明け方爆発しまして三、四時間たつてから、爆心地から八十マイルの距離で第五福龍丸が灰をかぶつた。爆心地から来ました第一次のエネルギーによつては少しも影響は受けておらななかつた。三、四時間たつてから降り出した灰によつていろいろと障害が起つた。これが広島、長崎とはたいへん違う点であります。広島、長崎では、爆弾から第一次的に出た放射能、ほとんどそればかりによつて障害を受けた。広島、長崎でも、人間にはほとんど感じなかつたのでありますけれども、物理学者の調べによりますと、やはり灰が降つたには降つたのであります。それは広島の己斐というところと、長崎の西山というところに灰が少し降つております。それは人間にはわからなかつた物理学者が見つけたという程度でございます。ところが今回はそれがまつたく逆であつて、第一次の放射線、爆風なんということによつてはさらに障害が起らないで、灰によつてのみ障害か起つた。その灰は爆発後三、四時間たつて降り出しまして、五、六時間船に降つたらしいのです。御承知の通り、距離は爆心から八十マイルあつた。漁師に聞いてみますと、ちらちらちらちらみぞれのように見える程度の大きさのものが降つたそうであります。五、六時間たつてあとで甲板を歩きますと、足あとがつくくらい降つたそうであります。そこに二十三人が交代で、灰の降つているときに二、三時間ずつ甲板上で全部の船員が働いた。当時は、南の方でありますけれども、やはりちやんと着物は着て働いておつたらしいです。二十三人のうち二人が帽子なしで働いておつた。それが三月一日のことで、焼津に着いたのが三月十四日の早朝であります。その間二週間、灰と寝食を共にしまして焼津に着いたのでありますが、その間二十三人のうち二人は、非常に物ずきと申しますか、盲へびと申しますか、灰がどんな味がするかと思つてなめてみたそうであります。それで、原子爆弾でもるということを少しも気づかずに、灰をかぶつたまぐろを二週間食べ食べ焼津にたどり着いたわけでおります。船で放射能をはかつてみますと、船の寝室が相当ひどく放射能を持つておりまして、そういうひどい放射能のある寝室に二週間寝て帰つて来たわけであります。でありますから、船にある灰からして、からだの外から放射線をからだに受けてもおります。それも相当の量だと思います。それから、灰がどうしても口から入つております。そのほかに、船室の中のほこりつぽいところで呼吸をしておりますから、呼吸器を通してやはりからだの中に入つております。それから皮膚に灰がこびりついておりますので、皮膚からも吸収されて入つたことと思います。こういうふうに広島、長崎のときとはたいへん様子が違いまして、灰からのみ放射能を受けたのでありまして、その灰がからだの外から放射能を与えてもおりますし、それからからだの中へ沈着した灰から放射能が出ております。その点がたいへん広島、長崎と様子が違います。従つて患者の手当等も、その意味でたいへんに違います。どういう元素がからだの中に沈潜したかということは、沈着した、灰を取出すために非常に必要なことでありますので、三月の十六日に第一号の患者さんが東大へ入院いたしましたときに、その人から灰をもらいまして、それをすぐ、午前中に御説明があつたと思いますが、木村先生のところへお届けして分析にかかつてもらつた次第でもります。  一方三月十七日に私は船に行きまして、船の放射能を測定すると同時に灰を採集して参りまして、その灰を動物に食べさせて患者と同じような状態を動物でつくりまして、灰が動物のどういう臓器に沈着するかということを実験的に調べまして、大部分が骨に沈潜するということがわかつたわけであります。従つて骨から灰を取出すということが非常に必要だということがわかつたわけであります。折あしくその骨というのが、骨随が非常に放射線に対して弱い組織でありまして、そこで白血球ができます関係上、白血球が非常に減つてしまつておるわけであります。こういう点が広島、長崎とはたいへん違うのでありまして、この骨に沈着してしまつた灰を取出す手段というのが私どもによくわからない。まつたく寝耳に水にこういうことが起りましたので、そういうことを研究もしておりませんし、経験もございませんので、そういうことがよくわからなくて困つた。現在も困つておるわけであります。灰を食べさせました動物をたくさんつくりまして、患者と同じような状態にして、どういう手段でとり出すことができるかということを研究しつつあるわけであります。二、三方法が思い当つておりますので、それについて今実験を継続しておるわけであります。動物でこういうふうに灰がからだの中に沈着したということは、動物を殺して証明したわけでありますけれども、患者につきましても、患者の尿をガイガー・ミユーラーの計数管で測定いたしますと、確かに放射能をごく初期には明瞭に証明いたしましたし、それから患者ののどのところの甲状腺にやはり放射能を証明しておりますので、動物実験ばかりでなく、患者自体につきましても、確かに灰が体内に沈着しているということは間違いないと思つております。  こういうふうにして、灰を出すということがたいへん大事なのでありますけれども、灰は、初めからいたしますと、自然に一定半減期で弱くなりつつあります。それから内外からの放射能によつて白血球が非常に減つておりますので、それを何とかしてふやさなければならぬわけであります。これは広島、長崎の場合も同様でありまして、広島、長崎の事件以来、白血球の減少に対する対策というのは、世界中で研究をしておるのであります。ことに日本ではそれを体験したわけでありまして、非常に熱心に研究はしておりますけれども、残念ながらこの白血球をふやすということはなかなか的確な方法がないのであります。しかし一般の医学的の知識によりまして、患者に対しては、輸血とか、安静とか、抗生物質とか、今美甘博士から御説明がありましようが、治療法は手落ちなく行われておりまして、患者の状態も底をつきまして、現在では、どんどん悪くなつて行くという状態ではない、末梢血液の方は少し好転したというような状態であります。でありますけれども、骨髄の方には灰が沈着しておりますし、そうでなくとも、この病気はそんなに急にどんどんよくなるというような性質ものではないのであります。  大体患者の方はそのくらいにしておきまして、今度は船のお話を申し上げますが、船は船員に対しては一つの住宅であります。第五福龍丸のあとでいろいろな船がまだ数多く放射能をもつて入港しております。それからこの外来放射能がもつとひどくなると、いろいろな場合を想定しまして、日本の国内にもつと強い灰をかぶることもあるかもしれない。ことに現に伊良湖岬ですか、あそこに灰が降つたとか、新潟に灰を含んだ雨が降つたかいわれております。今調査中でありますが、そういうようなことも想定しまして、ああいうふうに放射能によつて汚染された住宅は、どのくらいの時間的経過で清潔になつて行くかということを今回見届けておくということは、後の参考に非常に必要だと思います。その意味におきまして、あの船は非常に環境衛生の研究上参考品であつて、手放してはならぬものであるということを確信しておるわけであります。  この住宅の放射能による汚染度がどの程度に下つて来たら居住にさしつかえないかという恕限度というものが世界的にきめられておるのでありますが、それが一週間に三百ミリレントゲンという数字であります。住宅におきましては、一週間が百六十八時間でありますから、一時間に一・八ミリレントゲンという数が基準になるのであります。それ以上あつた場合には、そこに居住してはならない、こういうわけであります。三月十七日に第五福龍丸の放射能を測定いたしますと、場所によつていろいろでありますか、一番強いところは後部の船室の中であります。船員が寝ておつたところでありますが、そこが一時間に百十ミリレントゲン、こういう数でありまして、一・八ミリレントゲンでなければならぬ場所が、百十ミリレントゲン三月十七日にあつたのであります。それをその後どういう程度にだんだん減衰して行くかということを、私はときどき焼津に行つて測定しておりますが、ごく最近は四月十六日に測定いたしました。四月十六日の測定によりますと、大体平均いたしまして五分の一ないし十分の一くらいに放射能が減つております。こういうふうに、一月ばかりの間に五分の一ないし十分の一に減つたということは、三月十七日の第一回の測定を逆に三月一日の方にさかのぼつてみますと、どんなに強かつたかということを思い浮かべるわけでありまして、爆発当時は相当強い灰が船に降つて、からだの外からもずいぶん放射能をかぶつたということが十分想定されまして、からだの外からの放射能も現在の患者さんには大いに災いをなしておる、こういうふうに考えられます。それであの船は、結局初め三月十七日には一番強いところが毎時百十ミリレントゲンというわけでありましたが、これが一・八ミリレントゲンになれば、もう船の中に住んでもさしつかえないわけであつて、そういう程度にいつごろなるであろうかということを見届けるのがたいへんに大切であろうと思います。必ずしも一・八ミリレントゲンになるまで船をどうしても確保したいというほどのこともないと思いますが、一・八ミリレントゲンにいつごろなるかということがわかる程度まではそのままにしておきたいというのが私どもの希望であります。現在までの減衰の程度を灰自体の減衰の程度と比較してみますと、つまり現在までの船の放射能の減衰の程度を、船から取出した灰自体の減衰の程度と比較してみますと、それか大体並行して行くということがわかりました。今後船の放射能の減衰も、灰の放射能の減衰と大体並行するのであろうということも想像される次第であります。  こういうようなことを資料にしまして、今後あの船をどのくらい保存すべきか、どういうふうに保存すべきかというようなことは、おのずから考えが出て来ることと存じます。これかあの船をそのままにしておいて、環境衛生学的に考えたお話でありますけれども、ああいうふうに住宅が汚染されたときに、ぼんやりそのままきれいになるのを待つていないで、人工的に何とかしてこれをきれいにすることかできはしないか、それにはどのくらいお金がかかつて、日にちがどれくらいかかるだろうかというようなことも、こういうときにちやんと見ておく必要かあると思います。船の一部分を取出しまして、そしてそれをいろいろな手段で洗滌してみまして、放射能がどういう手段によつて最も経済的に、最も手軽に早く清潔になるかということを研究しつつあります。もつともこの点は相当困難のように考えられるので、灰はあの船が木造船でありますために――鉄船でない、木造船でありまして、灰の成分が本質に相当しみ込んでおります。しみ込んでおるということはほかの測定でわかるのでありますが、それでこれを清潔にするということも相当に困難だと思われます。それで私はアイゼンバツトさんに初めて外務省で会見いたしましたときに、船を清潔にする手段等につきましても聞いてみましたけれども、アメリカ流に考えますと、そんな船を清潔にするよりも、新しい船をつくつた方がよろしい、こういうふうに言われる。費用もあの船をすぐ居住可能のように清潔にするためには新しい船をつくるのと同額の金がかかるであろう、こういうふうな返事を得た次第であります。  それから環境衛生の問題をほかに拾つてみますと、衣服の問題もやはり環境衛生でありますが、船員の着ておりました衣類を調べてみますと、繊維製品が非常に放射能が強い。ビニールの合羽とかそういうつるつるしたものは、割合に灰がよくとれておりますけれども、繊維製品は非常に放射能が強い。しかし家庭へ帰つてその繊維製品を普通の石けんで洗濯してしまいますと、相当によく早く放射能がとれております。ここいらが環境衛生の問題であります。  それから今度は食品衛生のまぐろの問題でありますが、これは非常にいろいろと社会問題もからみまして困つたことなんでありますが、今回のことは、灰をなめてみたりして盲へびになつてみておる人もあるし、それから多くの人はまぐろに対して被害妄想にかかつておるのであります。実際問題としては学問的に考えてみれば、あのまぐろの肉を合理的に処置して、そうして一日に一人前のおさしみを食べるくらいのことは、何らさしつかえないというふうに私は考えます。私が初めて築地の魚市場に行きましたのは、三月十六日でありました。ああいう原子まぐろが魚市場に水揚げされるというようなことは、厚生省としてはまつたく寝耳に水の初めてのことなので、どうにも判断がつかなかつたと見えまして、私にどうしても築地に出向いてくれということで、測定器械を持つて築地へ出て行つたわけであります。それで相談にあずかつたのですけれども、私としてもやはり厚生省と同様初めてで、少し放射線のことをやつておるという差があるだけで、まことに当惑した次第であります。  それで第一回の第五福龍丸の魚は、さめもまぐろも二メートル掘つていけてしまうということに相談をつけたのでありますが、その後そのまぐろが多少焼津から築地以外に運ばれて、漏れて魚屋におろされて食べた人があるわけであります。すると食べた人は、二メートルいけさしたものを食べちやつたというわけで、私のところに心配して来なさる人もあるし、それからどうしてそういう不合理なことをやつたかといつて諮問に来られる方もあるのであります。  この点を少しお話申し上げたいのでありますが、そのまぐろに対する、私ども恕限度と申しますが魚屋に卸していか悪いかという放射能の限度でございます。この立てかたがいろいろなんでありまして、アメリカはまぐろの一つのカン詰に少しでも放射能があると、その船を日本へ帰す、こういうふうに言うております。つまり非常に厳重で、放射能があるかないかによつてきめます。これを私はかりに被害妄想による恕限度、こういうふうに言うておるのであります。それからもう一つは、まぐろと申しましても一日に一人前おさしみを食べる、おすしを食べるくらいのものであつて、そのまぐろも第五福龍丸のは魚の表面がよごれておつただけであつて、肉はよごれておらなかつたのです。でありますから表面をよく洗つて、そうして皮をむいて肉だけ食べれは、みんな食べたつて大丈夫だ、こういうふうに私は今でも思つております。しかしあの処置もまた正しかつた思つております。というのは、ああいう戦争のような魚市場であれを一々水道できれいに洗つて、皮をむいて魚屋に卸すというようなことは、とうていできないでありましよう。それからああいうわけでまぐろが非常に安くなつてしいましたから、ふだんなら一人前しかおさしみを食べない人も、たんとおさしみを食べるかもしれない、そういうことも行政官としてはやはり責任を感ずるだろうと思います。それで今申し上げました一番厳重な被害妄想的の恕限度と、それから最も学問的に合理的な、日常生活に即した恕限度の中間のような恕限度が、行政官としては考えられてしかるべきだと思います。それからあのまぐろは塩釜、築地、三崎、清水、焼津、この五つの港に入港せよという無線が出ておるので、そこへ入つて来るわけでありますが、そこに張り込んでいる厚生省のお役人が、ガイガー・ミユラーのカウンターを持つて――これはずぶのしろうとであるので、物理学者が張り込んでいるというわけではないのであります。初めてやるのでありましよう。そういう人が処置できるような方法によつて行政処置がとられなければならぬ、こういう実際問題があります。まぐろについております放射能を、学問的に裏づけのある測定をするということに非常にむずかしいと思います。詳しくその点お聞きただしになりたい方は、西脇君にお聞きになると、物理学者ですからよくお答えになると思いますが、私にはとうていよくわかりませんでしたので、アイゼンバツドさんに聞いてみたんです。まぐろがこういうふうによごれちやつてつているが、一体食糧にする恕限度を、アメリカのようにきめるなら世話はないけれども、日本じやそういう貴重なものをむやみに拾てるわけに行かないから、最も合理的に行政処置として測定するにはどうしたらいいかということを聞いてみたんですが、アイゼンバツドさんは、自分としても経験がない、その測定方法は非常にむずかしい問題ですという返事を得まして、その後厚生省の予研にあります原子爆弾症障害研究委員会ですか、あそこの食品衛生委員会でいろいろと論議を重ねた結果、現在五つの港でとつておりますような処置がきめられたわけでありまして、私の考えといたしましても、あれで現在のところ、学問的の裏づけは正直のところないのでありますけれども――全然ないとも言えませんけれども、しかたがないんじやないか。あの点を責めるのは無理じやないかというふうに考えております。これが大体現在起つているビキニ問題に対するお話であります。  こういうふうになつて、患者の処置についても、それからまぐろの処置につきましても、非常にあわててしまつたわけで、おはずかしい次第であります。というのは、やはりそつちに対する準備がなかつたわけであります。患者の問題はもちろんのこと、環境衛生のことも、それから食品衛生のこともこれは広い意味における放射線を取扱う医事の問題であります。現在日本でも原子力を平和的に応用して行く下準備を始めるという状態なつて来たように承つておりますが、アメリカのような国でも、原子炉を運営して行く間に椿事が起りまして、そうしてそこの職員が放射能によつて障害を受けたという実例があるのであります。カナダにもあるそうであります。アメリカのようなと申しましたのは、日本と違うということを申し上げたかつたのですが、日本でありますと、アメリカほど十分な保険安全処置をとることもできませんでしようし、それからまた日本には、アメリカでは問題外である地震というやつがありますので、原子炉をつくつたときにがたがた地震で炉がゆすぶれて来たらひどいことになるだろうと思います。そういうことは西脇君によく聞いていただきたいのですが、地震というやつは防ぎようがつきませんからして、そういう場合も想定いたしまして、原子炉日本でつくるならば、やはり医学的に災害をできるだけ――未然にも防げますまいけれども、局限するような医学的の準備がどうしても必要だろう、こう考えます。そつちの方の調査も、やはり炉をつくる調査と少くとも並行して、あるいは優先して行われなければ気味が悪くてやり切れない、こういうふうに感ずる次第であります。  これは日本の国内で自分みずからが原子力を平和的に応用するという場合のことでありますが、今回のビキニの問題は、これは日本がやつたのではなくて、よその人がやつて、そうしてよその放射能日本に波及したわけであります。こういうようなことが今後も起るかもしれない。そうすれば、やはりその外来放射能に対する準備も医学の面で必要であろう、こういうふうに考えます。臨床的にも必要であるし、環境衛生の画からも必要であろうし、食品衛生の面からも必要であろうと思います。現に第五福龍丸及びその他の、船ばかりでなく、伊良湖岬に灰が降つたとか、新潟に放射能の強い雨が降つたかいうことで、その近所の人たちが被害妄想を起していろいろと心配しております。この被害妄想というやつは一つの社会現象であつて、そう一笑に付して押えつけることもできないと思います。やはり何か学問的にしつかりした裏づけを持つて説明いたしませんと、説明をよく受入れてくれないと思います。  私今伊良湖岬に降つた灰だの、それから新潟に降つた雨だの、少しも危険はない、とこういうふうに確信をしておりますけれども、それならば、どういう学問的根拠で言うかといわれると、非常に困る。放射能が飲料水だの、それから呼吸をする空気だのにどの程度含まれてもさしつかえないという研究が、日本の力で日本で行われないと、そういう返事をしつかりすることができない。実際今日本の学問体制ではさらさらそういう準備がないのであつて、そういう点につきましては、アメリカの飲料水だの、それから空気の汚染の恕限度を本で読んで、それを参考にしてやつてみると、そういう意味におきましては、残念ながらまつたアメリカの学問的植民地のような状態にある。何とかして日本でも自主的にそういう研究をいたしまして、自主的に裏づけのある判断をして行きたいというのが私の念願であります。今日お集まりの皆様は、そういう学問的の体制について御心配くださるお立場にあることと拝察いたしますのでその方面につきましても、ひとつ何とぞお骨折りにあずかりたい、こういうふうに考えております。
  38. 辻寛一

    辻委員長 ありがとうございました。  次に東京大学教授美甘義夫先生にお願いいたします。
  39. 美甘義夫

    ○美甘参考人 私は、直接患者を取扱います臨床家でありますので、今中泉博士がおつしやられましたような非常に広い範囲にわたつてお話をするということはできないのであります。また放射能に関しました専門的なことはもちろん、物理学的な問題も不向きでありまして、あと西脇博士がお話になると思いますが、ただ今度の不幸な患者を治療いたします立場になりました者として、放射能によつて現在どういう状態なつているかということをとりまとめてお話申し上げたいと思います。  今度の被災者を一応急性放射能症と呼んでおりまして、前の広島、長崎におきます病人は原子爆弾症と呼んでおつたので、名前が違うのであります。これはどういうわけかという疑問をお持ちになるかもしれませんが、原子爆弾の破裂いたしましたときの非常に強い熱の影響によりましてやけどが起り、いわゆる一時放射能が出ましてからだが一時にぱつとやけて、そういうことのために起りましたのでこれを原子爆弾症と呼んでおります。今度は、先ほどお話がありましたように、直接の影響、たとえば熱でありますとか直接の一次放射能影響は受けておりませんで、放射能を持つた灰がからだにつきましたり、あるいは多少からだに入りまして、その障害が積つて今のような症状を起しておるという状態でありますから、これを別の名前で呼んだ方が適当であろうというので放射能症という名前がつけられたわけであります。放射能症と申しましても、これは何も原子爆弾あるいは水素爆弾の爆発の特産物ではないのでありまして、ほかの放射能を取扱います人、たとえば中泉博士のようにしよつちゆうレントゲンをやつておられる方とか、そのほかのいろいろな病気の治療とか、あるいは医学的な測定に使われます同位元素を取扱つておるというような人にいつでも起り得る病態であるわけであります。  それで今度の人たちも長い間相当に強いそういう放射能を外から受けておつたことは事実でありますし、あるいは先ほどお話のように、一部に入つてつたものが中からわざをしておつたということも考えられるわけであります。大体放射能をどれくらい受けたか正確な計算はできないのでありますけれども、推定いたしますと、相当強い放射能を受けておるということが想定されるわけであります。外からこの放射能を受けますと、まず最切に現われて参りますのは火傷といいますか、火傷がひどく起つて参ります。これは大体皮膚のところに起つております。従つて今度の患者でも最初は皮膚にいろいろな水疱ができるとか、それがつぶれて潰瘍になる、それからもつとひどく放射能を受けました皮膚は、壊死といつて死んで腐つてしまうということでありまして傷害のひどい人はすつかり頭の毛がなくなつてびんずるになります。ことにひどくやられた皮膚部分は潰瘍ができましたり、潰瘍の上に黴薗がくつついてうみがたまつたりいたしますが、そういつたような外傷は今のわれわれのところで引受けております患者ではほとんどなおつております。そういう潰瘍だとか壊死といつて皮膚が腐りましたところはあとに斑痕ができてなおるわけであります。将来こういうものがあるいはコロイド症のようなものにならないという保証は今のところできないかもしれませんが、現在は大部分そういう外傷性のもの――外傷といいますか、皮膚にできておるやけど性の傷害は大体順調になおつております。  それからこのやけどのできますのも、大体帽子をかぶつてつた人は割合に頭にはできておりません。無帽で髪を伸ばしておつた人は頭がひどくて髪の毛がすつかり抜けましたが、一部の人は髪の毛がはえて来ております。帽子をかぶつておりましたところは、どういうものですかまくらがつくところあたりの髪の毛が抜けております。それから手袋をはめておつた人は手首の皮がすつかりむけております。それから多くの人がおヘそに沿つて帯状にそういつた皮膚の傷害を起しております。これは皮帯をしておりましてそこに灰がたまつたものと見えます。それからくつをはいておつた人は灰がくつに入つたと見えまして、足の力にずつと沿つてそういつた変化ができておりますが、それらはみなほとんどなおつて来ております。それで直接皮膚に現われます傷害はそういうことでありますが、今度の場合もそれほど重篤な傷害に至らずに大体順調になおつております。  いま一つ放射能症で大事な事柄は、放射能によりましてからだの中の臓器がいためつけられるということでありまして、その中でも先ほどの話もありますように、骨髄というような盛んに若い細胞をつくつて絶えず新しい組織をつくつておりますようなところは放射能に非情に弱いのであります。それは外から放射能を受けましても中から受けましても同じでありますが、われわれが当初からおそれておりましたのは、そういつた骨髄がやられはせぬかということであつたのであります。骨髄をやられるのは、放射能を受けてすぐに現われるものではなくて、大体二週間とか三週間とかいう潜伏期みたいなものがあるわけです。でありますから焼津に帰り着きましたときには、割合に白血球の数もそうひどく減つてつた人はなかつたのであります。むしろ多少ふえておる。やけどしたりしてうみが出て潰瘍ができたりしまして、その影響を受けて多少ふえておつたというような人もあつたのでありますが、東大の方に参りますころにはだんだんと減つて来ておる。しかし入当初にはそれほどひどく減つてつた人はなかつたのであります。大体三千台くらいに減つてつた人が多かつたのでありますが、その後入院中にだんだんと減つて参りまして、一時千台――それは程度はいろいろあるのでありますけれども、最も悪かつた人は千台、あるいは千を少し割つたくらいの人が多かつたのであります。それが大体四月の中旬から下旬くらいまでずつと下り坂で参りました。二時四月の上旬くらいでありましようか、一週間くらいは減つたままでずつと来ました。それから一、二週間はずつと一定の低い白血球の数で持続しておる。ようやく今週くらいになりましてからだんだんとふえて来る傾向が見えて来た。骨髄の中の細胞におきましてもやや似たような状況が見られます。しかしながら普通のほかの原因、たとえば薬の中毒なんかでも同じように骨髄がやられることもあるのでありますが、そういつた場合に中毒の原因が――この状態は新聞にもたびたび出ておりますように汎骨髄癆とか、あるいは再生不良性貧血とか言つておるのでありますけれども、今度の場合は貧血は割合に目立たないのであります。赤血球の数はそんなに減らないのでありますけれども、しかしながら骨髄の中では赤血球も非常に少なくしかつくられておらない、あるいはほとんど赤血球がつくられないであろうという状態が見られるのでありますが、輸血を盛んにやつておりますので、輸血いたしますと赤血球はほかの赤血球を入れましても非常に寿命が長いものですから、百二十日くらい生きて活動いたしますから、自分でつくられなくても外からどんどん赤血球を入れますと、そのために赤血球が減らずに済む、むしろ多少ふえるきみである。白血球の方は二、三日という非常に短かいものですから、自分のからたの中でつくられなければいくら外から血液を入れてやつても、そのために白血球がふえるということはない、それから数も非常に少いものでありますから、そういうことになりましてそんなにふえないでどんどん減つて行くということであります。従いましてわれわれは、再生不能性貧血、再生不良性貧血と言うと、赤血球がずつと減つたという状態な連想させますので、再生不能性貧血、再生不良性貧血と言うが、学問的にはかわらないのでありますけれども、それでも骨髄の機能が非常に弱くなつてしまつて、あるいはまつたなくなつてしまつたというように表現しておるわけであります。それから先ほど中泉博士のお話にも、一部分甲状腺にもその放射能がくつついて見られるということでございましたが、臨床的には甲状腺の機能がとうなるというような徴候は今のところは見られておりません。甲状腺の機能が悪くなつた、あるいは反対に刺激されて高進するというような状態は全然見られておりません。治療の立場から申しますと、多少このごろそういうふうにいろいろな治療によりまして少しずつでも骨髄の方にも細胞がふえて、末梢の方でも幾らか上りきみになつて来たということは、多少骨髄が機能を回復して来たのではないかという希望が持たれるわけであります。しかしながら、そういう病気はほかの原因で起りましたものでも、非常に時によつて波がありまして、一時よくなつたように見えても、また悪くなるということは幾多の経験から知られますので、これが少しでも増したということは希望の持てる症状の現われではありますけれども、これだけでまつたく楽観するということはできないのであります。またこの状態がもしあまりよくもならずずつと長く続くしいうことになりますと、悪急性あるいは場合によつては慢性の汎骨髄癆というとこに移行しないとも断言はできないということで、われわれは心配しておるわけでありますが、少くとも今週に入りまして多少骨髄でも末梢でも増して来たということは、われわれとしては非常に希望を持つておることであります。非常に回復の早い人は、末梢を流れておる血の中の白血球の数も、骨髄の中の細胞の数も、大体正常の人まで回復した人もあります。まだ非常に気づかわれておる人は二十三人のうちの四、五名でありますが、そのほかの患者についてはまあ心配のほどには立ち至らないのではないかと考えておりますし、それをこいねがつておるわけであります。  それで先ほどからも中についておる放射能、外から受けた放射能というお話がありましたが、現在では尿の中に出る放射能も非常に減つておるということであります。最初はある程度体内にも残つてこれが害をしておつたと考えられるのでありますが、一つはだんだんと排泄されたものもありましようし、それから排泄されなくとも、半減期の短かいものはだんだん力が衰えておるでありましようから、今治療的にはさしあたつて中にたまつておると想像されるところの放射能を持つ物質を是が非でも早く追い出さなければならぬというほど急な要しないのじやないかと考えております。中にたまつておるであろう、ことに骨なんかに沈着しておるであろう放射能を追い出す方法がいろいろ医学的に考えられており、こういう方法をやつたらよかろうという方法があるのでありますけれども、確かな動物実験でも経まして、これがほかのところに障害はないということが確かめられませんければ、これを人体に行うことはもちろんできないのであります。もしまたえてしてこういういろいろなものを使いますと、かえつてそのものが骨髄の機能を押えるように働く心配もなくもないのであります。非常にこれは慎重にやらなければならないというので、確かな実験の結果の出るのを待つておるわけでありますが、一方多少でも、ことに大部分の人がかなり回復しておるという点から見ますと、多少体内に残つてつてもそれが回復のじやまになるということははつきり言えないのではないかというふうにも考えられます。  元来こういうようは汎骨髄癆というような状態になりますと、これば特殊なこうやつたらいいという治療法は世界中今のところないというのが現状なのでございます。従つて今まで知られておる全血または血漿の輸血とか、骨髄の造血力を促すような薬、たとえばビタミンB一二、葉酸。また骨髄の造血力を促進するいろいろなアミノ酸を使つてできない限りは、一方輸血によつてつてやる。それから少しでもそういうような薬を使つて骨髄の再生力を早く復活さしてやるということに努力しております。  またこういうふうに白血球が減つて参りますと、黴菌の感染に対しまして非常に抵抗が弱りますので、ちよつと入つてもすぐうむ。それがひどくなりますと敗血症というものを越す危険もありますから、ペニシリンとかオーレオマイシンかアクロマイシンとかによつてそういう点を防いで感染をしないようにし、患者には完全な休養を与え、十分な栄養な与えて回復を待つということで行くよりしようがないのでありまして、それで現在やつておるわけであります。  なお私こういうまとまつた話をせいということであるかどうかわからなかつたのでありますから、あまり順序立つてお話ができなかつたと思いますが、何か御質問がありますならば伺つてお答えいたしたいと思います。
  40. 辻寛一

    辻委員長 ありがとうございました。  次に大阪市立医科大学生物物理学研究室主任西脇博士にお願いいたします。
  41. 西脇安

    ○西脇参考人 私も中泉先生と同じころですか、あるいは同じ日だつたかと思いますが、一番最初大阪におそらく原爆船から来たと思われるまぐろが入つたから、放射線が出ておるかどうか見てもらいたいという御依頼を受けまして、大阪の魚市場へ行つたのであります。ところがそれより以前に私の先生方あるいは私の同僚といつた人々がすでに長崎及び広島における原爆後における灰の放射能の測定に行つておられまして、その結果として原子爆弾の爆発後二週間もたてばほとんど大したものではないということを一応聞いておりましたので、三月一日に爆発しまして二週間以上もたつておる、しかもそれから運ばれて来たところのまぐろといつたものにまでおそらく放射能は残つておらないであろうと思つて、半心半疑であつたのであります。ところが一応行つてみようということになつたのでありますが、そのときにおそらくこれが原子爆弾あるいは水素爆弾の爆発によるものであるとすれば、普通の非常に透過性のいいX線とかあるいはガンマー線かいつたような測定のしやすい放射線以外に、測定にかかりにくい、吸収されやすい、透過性の少いエネルギーの低いべーター線といつたものもおそらく多量に出ておるであろう、従つて普通のX線、ガンマー線用の計器をもつてすれば測定を見のがすおそれがあるというので、応急にわれわれの方で特に低エネルギーのべーター線用計群、非常に透過性の少い放射線を測定する計器を携持して行つたのであります。そうしますと、ちようど大阪の方のX線の先生で放射線科のお医者さんの方が測定に行つておられまして、ほとんど放射線が出ておるか出ておらないかくらいである。まあ大丈夫であるというお話で帰られるところであつたのであります。そのお話によりますと、大体あるとしましても、自然計数の一分間に二十カウント程度である、そういうことを聞きましたときに、私自身といたしましても、初めからおそらく放射線は出しておらないであろうと思つておりましたから、ああそうですか、やはり放射線は出しておらべいのですわと言つたものの、ちよつと気になることは計器の問題であります。一体どういう計器を使われましたかといつて計器を見せてもらいますと、普通のエツクス線ガンマー線あるいはベーター線、――ベーター線はせいぜい非常に透過性のいい、エネルギーの高いベーター線しか測定できない計器であります。そこで私もおそらく出ておらないとは思いますけれども、せつかくこういう器械を持つて来たのですから、念のために測定しで入ましようということで、再び市場の中へ行きまして測定をしたわけであります。そうしますと、一分間に二千カウントどころか二千カウントもひつかがで出て来たわけであります。これはたいへんである、私たちが微量放射性物質を、実験室内において非常に注意して取扱う場合においても、非常にむずかしい規則がありまして、一応実検室はタイル張りかあるいはスチール張りでできておつて、万一の場合洗うようにできておらなければならない、それから万一ガスとか塵埃とか放射性物質が究気中に散つた場合に、ただちにこれを室外に除外できるように通風装置が完備しておらなければならない、またこうした物質を取扱う場合においては、必ず過去において放射性物質を取扱つたことのある経験者がついておらなければならない、それから万一放射線の傷害を生じた場介に対処するために、こういつた方面の専門のお医者さんが判をついて保証をしておらなければならない、こういつた非常にむずかしい規定のもとに放射性物質の配給を受けるわけであります。こういう配給を受けましてからあとも、アメリカあたりにおきてましては、非常に厳重な取扱い規則というものができておりまして、いやしくもこういつた放射性物質を取扱う室内には、食糧とかタバコとか化粧道具とかあるいはハンドバツクといつたようなものを持ち込んではならない、いわんや放射性物質で汚染されておるということのわかつておるようなものは、食つてはならないということは一応常識になつておるわけであります。こういうことを一応知つておるものでありますから、これはたいへんだ、とにかくこの程度放射線が出ておれば、おそらくこのまぐろ一匹についておる放射性物質の量というものは、われわれが注意して実験室内で取扱う放射性物質の量に比較いたしまして、まさるとも劣らない程度であるだろう、こういうものが全然過去において放射性物質というものを取扱つた経験のない魚屋さん、しかも放射線というものはどういうものであるかというようなことも全然知らない魚屋さんが、かつてに取扱うということは非常に危険であるというので、その旨を大阪市の衛生局の方に申し上げまして、一応引揚げたわけでありますが、とにかく大阪で運ばれて来て、おるまぐろにでも、これだけ放射性物質がついておるのだから、おそらく現地ではたいへんたことだろうと思つて、一応現地へ行つたわけであります。  焼津の駅から港の船着場まで五分ぐらいでありますが、その行く途中におきましても、われわれはこういうように精密な計器を、応急に携帯用として電池に切りかえて行くのだけれども、船についておる放射性物質の量は、これから推定をしておそらく実に英大なものであろう、そうだとすればせつかく行くのだけれども、船に入ることはもちろん、船に近寄ることもできないのじやないかと思いながら行つたのでありましたし、またそうあることを希望しておつたのであります。ところがいざ現地へ着いてみますと、何ら響戒がされておらない。船はほうりつぱなしであります。夜の間にたといどろぼうあたりが入りまして、船員の衣服とかそういうものを持ち出して売り飛ばしてしまつても、放射線というのは全然見えないわけでありますからわからない、物質が散らばつてしまうおそれがある。それで初めは非常にふしぎに思いまして、おそらくこんなことをしてほうつておくはずがない、従つてはたしてこれが原爆船かどうか非常に疑つたのでありますが、いくら人に聞いてみましても、第五福龍丸はどれですかといつて聞きますと、確かにあれだと言われるので、じやああれに違いないだろうと思つて、一応計器を働かせながら船に近寄つてつたわけであります。そうしますと大阪においてまぐろから出ておりましたのは、血として透過性の非常に少いベーター線が主体となつておるというぐあいに思われておつたのでありますけれども、現地に行きますと非常に透過性の強いガンマー線も感じられるのであります。船から約三十五メートルぐらい隔たつたところにおいてもわれわれの計器で明瞭に放射線の出ておることがわかります。船に近寄るとともにどの程度放射線が増大しておるかということを調べるために、計器を働かしたまま一応要所、要所で記録をとりながら近づいて行つたのでありますが、船から一メーター近くまで参りますと、われわれの持つて行きましたところの鋭敏な計器はすでに振り切れてしまいまして、これ以上船の中へ入つても、どこが、放射線が強いか弱いかわからない。従つてこれではいけない、この程度放射線が強い場合においては素手で入るのは危険である。しかもこういつた携帯用の計器を持つて来たところの一つの理由といたしましては、船の中へ入りまして、どの部分が、放射線が最も強いか、またどの部分が弱いかということを調べまして、最も放射線の喰い部分を持つてつて来ようという目的で行つたのでありますが、このように強ければ、もうどこが強くて、どこが弱いかということが、どこもかしこも強いのでわからない、それで一旦引揚げまして、船から来ておるところの放射線影響が比較的少い、遠く離れた地点に計器だけを置きまして、応急で薬屋へ走りましてガーゼのマスクと外科の手術用のゴムの手袋とを買いまして、再び船に引返して来たわけであります。そうして船の中でいろいろの資料を――たとえば船員の口から入つておるおそれはないかというので、船員の残飯とかごまめ類、たくあんの残り、こういつたものを採取しますとか、そこに一匹生きたくもがぶら下つておりましたので、これは貴重な資料だと思つて採取しましたり、死んだあぶら虫、船員の手袋、キヤンバスといつたものを採取して帰つて来たわけであります。それから灰が降つたといいますけれども、われわれが行つたときには一向灰らしいものが見当らない。それで一応船内のすみに残つておりましたところのほこりを集めて持つてつたわけであります。その途中におきまして――私たちは歩いてまわつたわけでありますが、一町も歩かないうちに十数人の人たちが心配そうにかけ寄つて来るのであります。そうしてわれわれが測定器を持つておる姿を見まして、先生、実はこれだけまぐろを立つてこれだけ残つておりますが、放射線が出ておるかどうか調べてください、と言つておるかと思いますと、魚屋さんらしい人がリヤカーにさめのひれを満載して走つて来たのであります。先生、このさめのひれは原爆船から来ておるのですが、放射線が出ておるかどうか調べてください、と言う。ところがいざ私たちの持つておりますところの非常に窓の薄い計器を近づけて行きますと、それから二センチないし三センチ隔たつところで私たちの計器が振り切れてしまいました。こういうように計器が振り切れてしまつたのを見ると、魚屋さんらしい人はびつくりしてどこかへ消えてしまつたのです、これは、ほんとうは放射性物質の取扱い規定から言いますと、あとをつけて行つてどういうぐあいにするか、埋めるなり、何なりそういうふうなことを言つてやらなければならないのですが、そういうひまもないぐらいであります。そうかと思つていますと、実はうちの子供が原爆灰をいたずらにいらつたのですけれども、手はよく洗つたのですが、放射能が出ておるかどうか調べてください、といつて母親らしい人が小学校の五、六年程度の子供を連れて心配そうにやつて来られた。これはいけない、これだけ放射性物質が散在しておれば、これをほつておいてはたいへんなことになるというので、一応――焼津市に水爆対策本部という看板が上つておりましたので、私自身そこへ参りましたけれども、係の方はどなたですかと聞いても一向わからない、みな出てしまつておらない。それでこれはたいへんだと思いましたので、だれか責任の方はおられましようかと聞きますと、一応助役の人がおられるというので、その力にお全いしまして、ここはいやしくもわれわれの食料である魚が入つて来る港である、こういうところにこれだけ放射性の強い物質が広がつておるということは、これはたいへんなことになる。しかもその船を警戒なしにほつておくということは、これは実に恐るべきことだ。こういつた目に見えない放射線を出して来るところの危険な物質でありますので、こういつたものがどの程度広がつておるかということをつきとめまして、一刻も早く対策々講じて、できるだけ放射性物質がこれ以上広がらないように食いとめるべきであつて、このためには一台や二台のガイガー計数器でもつては足らないから、一応厚生省にでもお願いになつて、こういつた機械と測定人員を持つておるところを応急に動員して対策を立ててもらうように述べられたらどうか、ということを言つて一応引揚げて来たわけであります。  その間いろいろなことがありますけれども、一応大阪大学へ引返して来まして、一体どの部分が最も放射線が強いかということを調べますと、ほこりが一番強い。しかもそのほこりのうちにおきましても、直径約十分の一ミリメートルあるいは〇・一ミリメートル以下と思われるような非常に小さい灰白色の微粒子が相当強い放射線を出しております。これは粒ごとによつても大分違いますけれども、一番強いのがこの粒子であります。これは直径十分の一ミリメートル以下といいましても、ちよつと皆様にはぴんと来ないと思われますが、一応黒板の上でぱんぱんと二、三回たたいてもらいますと、非常に白い小さい粉が空気中に舞い上ります。この粉の大体一粒程度思つてもらえば間違いはないと思います。従つてこういう微粒子でありますから、風が吹くと容易に空気中に舞い上ります。従つてわれわれも測定の場合に、資料採取に船に向いましたときにガーゼのマスクをかけて行つたのでありますが、ほこりなどを採取したために、ほこりが立つたせいかもしれませんけれども、われわれのマスクからも相当強い放射能が、帰つて来てから見出されたのであります。従つてこういつたところに一週間もおられるという方におきましては、相半最空気を通して入つているだろうということは容易に想像されることなのであります。  それで一応ここにも写真を持つて来ましたけれども、船から採取して来ましたところの手袋をエツクス線の乾板の上に数時間載せておいただけで、点々と感光しております。これはあとで皆様にお目にかけますが、こういつたぐあいに非常に小さい微粒子、これは手袋の横においても非常に小さい点点とした微粒子が出ておりますが、これは実際感光さした場合には、こんなに散らばつておるということは感じなかつたほど小さい微粒子であります。ここに大きく出ておりますけれども、こんな大きな粒子は見当らなかつたのでありまして、粒子は非常に小さいですけれども、自分で出しておるところの、自身の放射線でもつて感光しておるものでありますから、この放射線の粒が大きいために強く感光して、見かけ以上大きく出ておるのであります。  その後いろいろ化学的及び物理学的に出て来るところの放射線を、磁場をかけますと、ベーター線と言つて放射性物質から出て参りますところの放射線はマイナスの電気を帯びてりおます。この電気を帯びておりますものは、一般に磁場をかけますと、ぐるりと回転をさせられる。ところがこのまわり方というものは、透過性の弱いものと強いものとでは異なるのでありまして、この差を利用して、ベーター線のエネルギー、すなわち通りやすいベーター線であるかあるいは非常に通りにくいベーター線であるかということを調べる。これがベーター線スペクトルというのでありますが、このベーター線スペクトルにかけますと、こういうぐあいに、これは原子量の全体のまざつたものから出ておる放射線に磁場をかけたものであります。そうしますと上の方の軸が強さでありますから、従つてエネルギーはそちらからごらんになりますと座標軸の左側にずつと低い、透過性の強い放射線でありますが、低い放射線が圧倒的に強いということが明瞭に現われておるのであります。  これを一応荒く化学分析にかけました資料につきまして精密に分析しますと、ここにわれわれの方で検出した元素が二十一ありますが、このうら十七元素は東大においても検出せられております。でこういつた科学的な方法で検出のできないものは、これに磁場をかけましてベーター線スペクトルというものをとりまして、エネルギーを推定しますと厳密に出て来るのでありまして、これをやることによりまして、ここにありますセリウムの一四一、一四三、一四四、プラセオチウムの一四一、これだけがきれいにセリウム分面のベーター線スペクトルから検出を成功しておるわけであります。  こういうぐあいにいろいろの元素かありますが、一般にこういつた元素の種類が違いますと、元素の種類によつてはたといわれわれの体内に入りましても急速に抜けて行く元素がありますし、また一旦体内に入りますと特定の組織に沈着を起して、なかなか抜け去らないものもあります。また同じ元素によりましても、その元素がどういう化合物の中に入つておるかという、その化合物の形によりましても非常に抜けやすい場合と抜けにくい場合がある。そういつた関係かありますから、このうちの体内に入りましても非常に抜けやすい元素の場合におきましては、これはかなり強い放射線を出しておるところの元素が入りましても、急速に抜けて行く場合には比較的傷害は軽い。ところが一旦沈着するものにありましては、沈着してなかなか抜けない元素におきましては、なかなかやつかいものであるわけであります。ところがそのうちにおきましても、こういつた放射線を出しておるところの放射性物質というものは、放射線を出しながらだんだんと強さが減少して来ます。これを、もとの強さの半分の強さになるまでの時間を半減期といつて半減期で現わしておりますが、この半減期というのでよく間違われることは、たとえばこの半減期が一日たつともとの強さの半分になるわけでありますが、そう言うとしろうとの方はでは四日たつとなくなるだろうと考えられるわけでありますけれども、決してこれは四日たつてもなくなるわけではなくて、二日たつともとの強さの半分になり、もう二日たつとその半分の強さの半分になる。でありますから、四日たちましても四分の一量はまだ残つておるわけであります。ですから大体半減期の七倍程度を経過しないと一%以下に落ちないということになつておるわけであります。従つてこの半減期にいたしましても、こういつたぐあいに漸進的に減少しては来ますが、これが非常に量の程度であるというようなものになりますと、たとい沈着を起す元素におきましても、急速に減少して、放射線の強さがなくなつて行きますから問題はないということになるわけであります。従つてこういつた元素の種類というものがわからないと何とも言えない、こういうことが当然予想されるわけであります。  今回の場合さらにやつかいなことは、いまだ元素が崩壊を続けておる最中でありまして、ここに示してありますように、一番初めクセノンの一四〇という質量を持つものが出ておりますが、これの半減期が十ないし十六で、セシウムの一四〇になる。それがベーター線を出してバリウムの一四〇になり、この半減期が十二・八日で、これがベーター線、ガンマー線を出しましてランタンの一四〇になり、これがさらにベーター線とガンマー線を出して、半減期四十時間でもつて安定したセリウムの一四〇という元素になります。それでこれに似たような系列はまだ他にもあり、いまだ崩壊を続けている最中のものもあるわけであります。つまりこの中では比較的半減期の長いもののみが今なお崩壊を続けておりますので、ここに赤い丸じるしをつけたところの元素は私たちの方で安全に検出されているものであります。こういうぐあいに元素がいまだ崩壊を続けておる最中である。一つ元素から次の元素さらにまたその次の元素へとかわりながら放射線を出しておる場合におきましては、たとえばきようバリウムを分離しておいたといたしましても、これが放射線を出しながら数日のうちにはその中の一定量がランタンという別な元素になりまして、さらに放射線を出して別な元素に崩壊して行く。そうなりますと元素の種類によつてからだの中に沈着するところの組織が違つて参ります。きようは一つの組織に沈着しておつてそこで放射線を出しながら傷害を与えますと、その次は別の種類の元素なつて、これが新しい元素の沈潜する別の組織に行きまして、そこでまた放射線を出しながら傷害を与えて抜けて行くということになるわけであります。  それから、これは特に普通の放射線をやつておられるお医者さんで混同されやすいものでありますが、こういつた放射線を出す物質のわれわれのからだに対する影響を考えます場合には、次の二つの場合を明確に区別しておくことが必要なのであります。  それは一つ放射線を出す物質がわれわれのからだの外にある場合と、それからこれが一旦内部に入つた場合――このことにつきましては、先ほどから中泉先生並びに美甘先生が述べておられますが、この場合におきましていかなる場合に危険であるかということを考えますと、こういう放射線を出す物質かからだの外にある限りに関しましては、鈍感な計単でもかかるところの非常に透過しやすい、遠くまでなかなか減衰せずに通つて行くところの透過性の強いエツクス線とかあるいはガンマー線といつたものが非常に強く出ておりますと、これは人間のからだから相当離れておりましても、からだまで放射線が到達するわけでありますから、この量が多ければ非常に危険であるということになるわけであります。ところが一旦こういつた物質がからだの内部に入つた場合を考えますと、透過性か非常にいいわけでありますから、からだの外までつき抜けてどんどん放射線が出て行く。従つてからだの外から、普通の非常に鈍感な計器をもちまして測定をしても、からだの内部から放射線が出ておるということが一見して容易に検出することができる。これはからだの外からはかつて放射線がどんどん出て来おるということがわかるわけでありますから、一見非常に危険なようでありますが、実際はからだの外までつき抜けて来る放射線というものは、からだの組織細胞に作用せずに出て来た割合でありますから、その割合か多ければ多いほど相対的にからだの組織細胞に対する障害は低いのであります。極端に申しまして一〇〇%透過して放射線が出て来るというものであれは、組織に対しては何ら影響を与えないということになるわけでありますが、実際上はそういうことはありませんから、こういう場合でも多少は障害がありますし、非常に量が多い場合には障害が起るのは当然であります。  それからもう一つの場合は、透過性の非常に小さい、空気中の数センチあるいは数十センチメートルという距離におきましても放射線吸収をせられまして遠くまで届かない、そうして測定する計器もよほど精密な測定計器を持つて参りませんと――測定計器には必ず窓か壁がありまして、そこを放射線が通り抜けて中へ入らないと測定計測器にかからないようになつております。そうするとこの壁がよほど薄くないと、壁を通ることもできないのでその壁の中で弱つてしまつて吸収されてしまうといつたような放射線かあります。これは測定が非常にやつかいでありますが、こういつた吸収されやすい放射線を出す物質におきましては、これがからだの外にあります限り、数センチあるいは数十センチ隔たつておりますと、ほとんど弱つてしまつてからだまで到達しないわけでありますから、放射線か幾ら出ておりましても、数センチ離れておる以上は絶対に安全である、大したものてはないということになるわけであります。ところがこういう物質が一旦からだの内部に入つて沈着を起しますと、非常に吸収されやすい放射線でありますから、空気中で数センチあるいは数十センチの距離でありますと、密度の割合から考えましてこれはおそらく空気に比べて組織の密度が千倍程度でありますから、従つて数ミリ以下数ミクロンといつたような非常に短い距離におきましても放射線は完全に吸収をされてしまいますから、からだの外までは絶対に出て来ない。従つてからだの外からいかに精密な測出計器を持つて来て測定を行おうと思いましても、これは放射線が完全に吸収されておるので、りますから外ではわからない。いかに精密に外からはかつて放射線が出ておるということがわからないわけでありますから、これは一見非常に安全なように見えるわけでありますが、実際はその物質から出ておるところの放射線の全エネルギーが組織細胞に吸収をせられて破壊に使われておるわけであります。それからもう一つ重要なことは透過性が強い――放射線が非常に透過性が強いということは、物質の中を通り抜けます場合に物質と作用する制令が非常に低いということであります。作用する割合が低いということは、物質放射線が衝突しますと必ず電離というものか生じまして、この電離の粒が非常に有力に働くわけでありしますけれども、物質と作用する割合が少いということは、電離が一つ起りましても、次にまた電離が生ずる十でには一定の間隔が生ずる、電離がばらばらに生ずる、これを私たちの方では電離の密度が粗である、電離と電離の間隔が荒いと言つておりますけれども、これを厳密な物理的な説明を抜きにいたしましてわかりやすく毒素にたとえて申しますならば、この粒が毒になるわけでありますから、この電離の粒がばらばらに広がつておるということは、毒素の濃度が非常に低い場合に相当するのであります。これは対しまして非常に測定しにくい――精密な計器でないと測定にかからない、少し離れておつても空気中に吸収されて計器まで放射統が届かないといつたような非常に吸収されやすい放射線の場合におきましては、一旦これが組織に沈着を越しますと、数ミリメートル以下といつたような非常に短い距離において放射線が完全に吸収されてしまいます。こういうぐあいに吸収されやすいということは、放射線物質中を突き抜ける場合に頻繁に物質と作用する、そうして物置と作用するごとによつて電離ができるわけであります。この電離の間隔が非常に密になつて――これを電離密度が大であると言つておりますが、非常に密に電離が局所的に生じます。この場合におきましても、非常に厳密な言い方を抜きにいたしまして毒素にたとえますと、非常に濃度の高いところの毒素を局所的に打込んだことになるのであります。従つて、皆さんもエツキス線の写真をとつておもらいになつてよく存じだと思いますが、この場合におきましても非常に透過性の弱いところのエクツス線の部分というのは、これはからだに有害でありますから、普通はアルミニウムだとか銅だとかいつた薄い膜を通しまして、こういつた部分を除外して透耐性のいい部分だけを使つておるのであります。従つてエツクス線を使いますとからだがつつ抜けに通して見えるということは、放射線の大部分がからだを抜けてしまう、抜けてしまうということはそれだけの部分か作用しておらないわけでありますが、実際上は一部影ができますから多少の障害はあるわけでありますけれども、比較的透過性の強い放射線の場合は、先ほど申しましたように、毒素の濃度の低い場合にたとえられますから、比較的障害は少い。それからまた物理だけを専攻しておられます方は、宇宙線というものを天然においても相当受けておる。これを一生の間に受ける量は莫大なカウント数量になる、だから相当数受けても大丈夫じやないかと言われるのでありますけれども、宇宙線は透過性のいい放射線の代表的なものでありまして、これは一〇〇%透過した場合においては全然傷害はないのであります。ところが事実上は少しは吸収されますけれども、先ほど申しましたように、透過性のいい放射線の場合には、毒素の非常に薄い場合のように、電離密度が粗でありますから、私たちは宇宙線の中においても大過なく生きて行くことができておるのでありまして、今回のベーター線スペクトルにおいて現われておりますように、非常に透過性の少い、検出のやつかい放射線か主体をなしておる場合においては、よほど注意をしなければいけないということは一見して明らかなのであります。  次いでわれわれの生活に直接非常に密接なまぐろの場合に想到いたしますが、大阪においても一部まぐろを食つた人がありますけれども、この食つた人に対しましては、われわれとしては、それが危険であるか、あるいは安全であるかというようなことにつきましては、言う資格が全然ないのであります。というのは、すでに胃袋の中に入つた部分につきましては、われわれが測定しなかつた部分でありますからこれは何とも言えない。しかしながらおわれわれの方で測定をしておりますと、かなりカウント数の少い部分におきましても、よく洗いまして放射線の出ておる最が少いと思われるものにおきましても、これをよく乾燥しましてエツクス線の乾板の上に重ねて何日間ほつておきますと、あつちに三点、こつちに数点といつたぐあいに、ばらばらになりまして非常に強い放射線を出しておる粒子が、あつちに点々、こつちに点々と現われることがあるのであります。全体として放射線の量が非常に少いのでありますから、これは一応うろこの下とかそういつたところに、先ほど申しましたような直径十分の一ミリメートル以下と思われるような粒子が、おそらく食い込んでおるのではないかと考えられるのでありまして、実際にまぐろを切身に切つてみますと、たいていの切身は、放射腺が非常に低い場合でありましても、中に一きれとか二きれとかかなり放射線の強いものを出しておるものも含まれておるのであります。これはおそらく切るときにおきまして一部そういつた非常に放射線の強い微粒子が切れ目についている確率がないとは言えないのではないかと思われるのであります。しかしながら実際に現地で測定しましても、相当放射線の強さに相違がありまして、同じまぐろにおきましても、表側と裏側とでかなりの相違があります。従いまして食つた方に対しましては、必ずしも食つた部分放射線の非常に強い部分ばかりであつたということは言えないと思います。あるいは全然放射線の出ておらなかつたものであるかもしれないし、あるいはもつと強いものであつたかもしれないということになるわけであります。従つてこういう方々に対しましては、二百何名あると聞いておりますけれども、特に大阪府の衛生局の方が非常に熱心に対策を立てられまして、綿密に白血球数などを調べております。従つてその間定期的に一定期間測定して、異状が出て来ない場合には安心をしてもらうということに一応しておるのでありますけれども、実際これは私の方でやつた実験でありますが、まぐろを切りまして、切れ目に面しておる側をかわかしてエツクス線の乾板の上に置きますと、非常に小さい微粒子が非常に強力な放射線を出しておるということがわかるのであります。そうして厚生省の大阪府及び大阪市に対する通牒によりますと、乾燥して十センチ表面から離れた距離において測定して、百カウント以下ならば出してもよろしいということになつておるのでありますが、この規定に従つて私たちの方でやりますと、今乾燥しておりますところの資料は、十センチメートル離れまして一分間に五十三カウントしかないものであります。そうして一応これに水をかけて洗つて減少したと思つておりましても、これが乾燥しますと元通り放射線が返つておる場合があるのであります。これは水をかけて洗う場合における水の層によつて、非常に吸収されやすい放射線吸収せられたために見かけ上減つたためでありまして、今のように水をかけて測定しますと、一分間に二十カウントであります。ところがこれを一センチの距離ではかりますと、一分間に五百五十カウントという数字が出て来るのであります。それで大阪府市合同の御免対策委員会におきまして、厚生省からは十センチメートル離れて百カウントであると出してもよいということになつて来ておりますが、先生どうしましようかという依頼があつたのでありますけれども、われわれ専門家の計算の結果から見まして、そういうことではいけない、大阪市に関する限りは、一応少しでも放射線が認められる、怪しいというものは、絶対に市場に出さないということにしてもらいたいということを強硬に主張いたしまして、大阪市の中央市場を油して出ておるものに対しては、少しでも放射線の怪しいと思われるものは出しておらないはずであります。  その一つの理由として、体外に放射線を出す物質がある場合、たとえばエツクス線におきましては、これがエツクス線の来る方向に向つて、一分間に百カウントなら百カウントという場合、これはからだに当る場合も同じ百カウントの放射線を出します。ところがこれがからだの中に入つた場合を考えますと、一測定方向に来る放射線だけではなく、全立体角に対して放射線が来る。また空気中において弱つておる部分もありますし、うろこなどでおおわれておる場合はさらに実際上よりうんと減つておりますが、一応そういうことがないと仮定いたしまして、標準計数器の大きさを考慮に入れまして、その方向に来る部分が一分間に百カウントとしますと、これを立体角全体に関して寄せ集めてみますと、一分間に四万カウント来ておることになるのであります。さらにこれを一箇所に集中して、実際に切れ目をつけて、ぴかつと光つているような場合についてやつたのでありますが、これが大体平均して一様に表面に分希している場合を考えますと、この測定計器の範囲内にかかる放射線に対して、一分間十センチメートル離したところで百カウント程度でありますと、この部分に含まれておる総放射能は、全立体角について申しますと、実に七十二万カウントということになるわけであります。ここにまぐろの資料につきまして、われわれの方では、その上にうろこがあつたり、洗つて水の層ができたりした場合、どの程度見かけ上の放射線が増すかということを調べるために吸収曲線をとつたのであります。水は一立方センチメートル当り百ミリグラムでありますが、ここで線を引くと、大体十分の一に見かけ上の放射線の強さは減少するのであります。従つて百カウント認められておりましても、実際には四万カウントの十倍の四十万カウントであります。これに対して同じ百カウントといいましても、原子爆弾が爆発してから何日目の灰について百カウントかというようなことについて非常に問題になるのでありまして、爆発画後の灰について百カウントといいますのは、一週間か二週間たつと半分以下、三分の一程度に減つてしまうが、爆発後一箇月、二箇月経たものについて百カウントといいますと、だんだん早く減つてしまうのが抜けて、いつまでたつても減らないという半減期の長い元素だけ残つておるから、このごろにおける百カウントは、いつまでたつてもかわらない百カウントでありまして、これを計算すると、相当数の危険限度以上の放射線物質がからだの中に入る危険が大いにあるということが主張できるわけであります。これはアメリカにおいて出されておる資料でありますが、一番こわいのがストロンチウム九〇とイツトリウム九〇の混合物でありますが、いずれもこれは骨に沈着いたします。これが水一CCの中に許容されている最大のものが一千万分の八マイクロキユーリーであります。これが万一空気中にあります場合には、さらに許されておるところの限度が低くなります。これが食糧から入る場合でありますと、人間が食事をするのはせいぜい一日に三回、多くて五回くらいでありますが、呼吸は二十四時間眠つていても続くのでありまして、一分間に大体平均十八回ないし二十回呼吸するとして、一回に呼吸するところの空気の量が百CCとしても、二十時間呼吸するところの空気の総量は実に二百万リツトルを越えるのであります。従つて概算でありますが、空気中における量は、おそらくストロンチウムあたりでありますと、一分間に一カウントという程度からしても、アメリカで一九五三年、去年に出しております資料に従いますと、許容水準を越えておるということになるのであります。従つてこういつたものを実際上測定するということは非常にやつかいなことでありまして、許容水準と比較するとしましても、これはどうにもならない程度の非常にやつかい放射線量なのであります。しかしながら、これはやはりアメリカで出されておりますが、アメリカにおきましても原子爆弾の製造とか、あるいは原子エネルギーの発展の初期の段階におきましては、いろいろと予期せざる人間の身体に対する障害が出て来ましたので、その後新しい分野といたしまして、ヘルス・フイジクス、保健物理学とでも訳しますか、そういつた新しい部面が物理学生物学との境界領域として発展をして来ておるのであります。これはもちろん人体とか、そういつたものに対する危険性というようなことに対しては、医学及び生物学の知識が必要でありますし、同時に複雑な原子核から出るところの原子核放射線の綿密な測定ということになりますと、これは高度の物理学的な知識と物理学的な技術が必要なのでありまして、このために一応物理学を専攻したもの医学あるいは生物学の畑へ入りまして訓練を受けたもの。これをヘルス・フイジシスト、こういつた人たちが非常に放射線によつて特に放射線を出すところの物質放射性元素といつたようなものによつて、人類が受けるところの危害から免れる働きをしておるわけであります、このヘルス・フイジクスというアメリカの本におきましても、一応こういつた放射線を出すところの物質による影響というところに詳細に書いておるわけでありますけれども、たといこの許容線量というものがいかなる値であつても、進んでこの許容線量だけ受けて安全であると保証されるところの線量ではないのであつて放射線の人体に対する障害の少くとも一部分というものはこれだけという限界の存在しないところの統計的過程である。従つてただ放射線の線量が増大するとともに、こういつた障害が現われるところの確率が一応増大をするだけであるというふうに書いてあるわけであります。従つてたとい許容線量がありましても、できるだけこういつた線量までも受けないように、実行可能な限りにおいては受けないように、そして実行が可能でない場合においては、できる限りの範囲において、不必要な放射線にさらされることのないようにということが書いてある注意書ができておるのでありまして、そうしてもちろん自然にも一部放射線を出す物資があるじやないかといわれる方もありますが、自然にでもあるのだから、それよりもよけいに受ける必要はないということを非常に強調されておるわけであります。それから同時に、特にあちらこちらに大急ぎでいろいろな、まぐろといつたようなもの埋められておりますが、こういつた放射性物資で汚染されたものを処理する場合におきましても、いろいろ厳重な注意が必要なのでありまして、たとえばへたに埋めますと、そのうち、長い間にせつかく埋めたと思つておりましても、放射線を出すところの物質が漸次地下水とともに沈下しまして、そうして特に半減期の長い、なかなか減らないものだけが飲料水に混合するおそれがある。それから埋め方が浅い場合においては、その上に植物を栽培した場合においては、せつかく埋めたと思つておりましても、半減期の長い元素植物が吸い上げまして、植物の葉に行く。植物の葉に行きますと、人間の身体の組織というものは、デイフアレンシヤル・アブソープシヨン、選択吸収という現象がありまして、そのうちの、たとえば骨なら骨に沈着しやすい元素だけが、たとい一枚の葉に含まれておる分量がわずかでありましても、植物に危険でない程度の量でありましても、これを一枚食べますと、その元素だけが沈着します。人間は一枚食べてあとは絶対食わないというわけではなくて、次の日は次の葉を食う。毎日食つて行きますと、そのうちの危険なる、半減期の長い物質だけが沈着をして行くということになるので、よほど気をつけなければいけないということが書いてあるのでありまして、このためには、ここならば安全であるという場所を指定して処理すべきである。そしてもう一つはたとい人体に害のない程度放射性物質の量でありましても、これは現に第二次大戦のあとにおいてアメリカで弱つたらしいのですが、やたらにこういつた半減期が長いものを含んでおるおそれがあるところの放射性物質を散乱しますと、これがスクラツプ・メタル、金属のかすあたりに一緒にまぎれ込みますと、これを鋳物にしていろいろな機械をつくるところの材料に使つた場合に、あとで精密な放射線を測定しなければならないという機械をつくつたときに、そこへ向つてごく微量でありますが、放射線を出す半減期の長い物質が存在して来たときには、測定を非常にあいまいなものにしてしまうおそれがある。これは現に第三次大戦後においてアメリカにおいて困つたことがあつたから、こういうことは用心しなければならないということを書きまして、一番最後のところに、今まで述べて来た注意というものは非常に悲観的に思われるけれども、これは一九五〇年に出された本でありますが、それより以前において行われたところのビキニ及びエニウエトクにおけるところの実験結果に徴しても、以上のような注意を守らなければならないということを保証してあまりあるということが記してあるわけでありまして、特にこういつた物質による人体の影響というものは、これは確率過程である以上、確率が小さいと言いましても、国民全体というようなものを対象とする場合におきましては、だれかに現われるというその確率は非常に大きくなつて来るものでありまして、これはちようど富くじの場合と同じでありまして、一人の人が引いておつてもなかなか当らないが、日本国民全体としますとだれかに当るという確率が非常に高いのであります。
  42. 辻寛一

    辻委員長 どうもありがとうございました。それで三先生に対する御質疑があれば順次これを許します。野原覺君。
  43. 野原覺

    ○野原委員 中泉先生か美甘先生どちらでもけつこうですが、一つ二つお尋ねをいたしたいと思います。私は放射能についてはもちろんのこと、まつたく初めてお教えをいただいたという程度ものでございますので、まことにしろうとの質問で失笑を買うかもしれないのでございますが、放射能症という病気でございます。この放射能症というものは、今日世界のどこの国でも、これに対する予防対策というものはまだ完全に樹立されていないものかどうか。つまり放射能症に対する予防対策ないしは治療対策、医学上確信の持てる予防治療の対策というものは、今日のところでは全然ないものかどうかということが一つでございます。いろいろ新聞紙上で拝見しますと、なかなかないように書いておるわけでございますけれども、しかし放射能というものに対する研究は、これは現在化学の研究に伴つてかなり以前から、特にアメリカあたりではなされておるものではないかとも思われますので、この点に関してお伺いしたいわけであります。  もう一点は、ビキニの二十三名の漁師の方々を美甘先生が主として御治療くださつておるようでございますが、あの放射能症に対しまして、つまり先生の御治療に対しまして、アメリカは今日どの程度の協力をしておられるか。つまりアメリカの大使館なりあるいはアメリカの原子医学日本よりも相当進んでおるであろうと私どもはしろうと流に考えておるのでございますが、そのアメリカが、今日東大病院に入院しておる二十三名の治療に対してどの程度の協力をされておるかということをお伺いいたします。
  44. 中泉正徳

    ○中泉参考人 今のお話の初めの半分のうちの公衆衛生的の問題について申し上げますが、つまり公衆衛生的に考えて、放射能障害に対して予防施設が世界的にどういうふうにとられておるかということだろうと思います。これは今回起りました爆弾の放射能というものに対する場合と、それから日常放射線医学的にも用いますし、それから工業的にも用いるし、いろいろな産業にも用います。もうちよつと具体的に申しますと、エツクス線だのラジウムだのアイソトープ医学で診察にも治療にも用います。それから工業方面で造船所でもつてエツクス線だの、アイソトープでもつて鉄の鋳物の検査をいたします。それからアイソトープを現在ではいろいろな工業、産業に用いております。それからアイソトープを鉄道でもつて輸送する場合も起ります。そういうようないろいろな職場、場面に対する保険安全機構というもの外国ではちやんと立てられておるのであります。アメリカではAECといわれているアトミツク・エナージー・コミツシヨン、つまり原子力委員会、この中にアイゼンバツドさんが主任をしておられ、保険安全部門というのがちやんとできております。それはつまりわかりやすく言うと、原子医学というようなものであります。原子爆弾の放射能に対する予防対策は、そのアイゼンバツドさんがやつておる原子力委員会の中の保健安全部門。しかし今私が申し上げました通り、放射能といいますか、放射線といいますか、それは原子爆弾に結びついたものばかりではないのであつて、むしろ平時においてはもつとほかの面で非常に広く用いられておる。エツクス線だの、ラジウムだの、アイソトープなどが、医学はもちろん、工業にも、産業にも用いられておる。そういう面に対する保健制度というものは、私はアメリカやドイツのことをよく知つているのでありますが、やはり非常に完全に行われております。それがどういうふうに完全に行われておるかというと、こまごま申し上げましても専門的になりますのでよくおわかりにならぬと思いますが、どんなに通うかということをかいつまんでよくわかるように申し上げますと、私ども職場でどうしても放射線にかかつてしまうような立場に置かれております者は、日本中で例外なしに白血球が減つております。京都大学の末次教授などはそのために死んだのであります。日本では放射線の職場におる者は例外なしに白血球が減つておる。ところが私は去年ヨーロツパに行き、一九五〇年にヨーロツパとアメリカにも行つたのですが、それで向うの様子を聞いてみますと、われわれと同じような職場におる者のうちで、白血球の減つている者は例外的の存在である。私ども行つてみますと、お前は白血球が減つているのか、それはおもしろいというわけで、血を一滴もらいたいということを言われます。つまり私どもがアメリカやヨーロツパに行きますと、われわれは向うの標本的存在であるというわけであります。つまりちようど日本と裏返しになつております。それくらい日本放射線に対する保健安全施設が不完全であります。  もう一つ実例を申し上げますと、去年厚生省で千二百万人の肺結核の患者の実態調査というものを間接撮影でやりました。そのときにやはり保健安全施設が非常に不完全であるために、それに携わりましたエツクス線技術員が、非常に多数白血球が減りまして疲労してしまつたのであります。これは厚生省でその対策に非常に困難を感じたわけでもります。この二つの異例をごらんになれば、日本放射線に対する公衆衛生的といいますか、職場的な保健安全施設がいかに前世紀的のものであるかということがおわかりになると思うのです。私はあまりにその差がひどいので、ドイツへ行きましてどうしてそんなにうまく行くのかということを聞いてみましたのです。日本には診療用エツクス線装置取締規則という内務省令が昭和十二年の八月三日に発令になつておりますけれども、それが完全に実行されておらぬからいけない。実行するだけの能力が内務省及び厚生省にない。ドイツあたりではどうしてそういうことがうまく行くのか、定めし非常に厳重な罰則でもついているような規則があるかしらと言つて聞いてみたのであります。そうすると、そういうような国家的の規則は一つもない、こういう返事です。あるものは私どもも前から知つておりますDIN規則――ドイツ工業標準という訳でありますが、あれがあるきりであります。それは少しも強制力はないのです。それにもかかわらず非常にうまく行つておるのでありまして、それはまことに国がかわればいろいろなことがかわると思つて、私も聞いて感心してしまつたのでありますけれども、どうしてうまく行くかというと、そういう職場で働く人たちは、みな職場の労働者である。みな労働組合に入つて働いておる。そうしますとドイツの労働組合は、自分の組合員の働いておる職場がいかに衛生的であるかということをしよつちゆう検査しておるそうであります。で労働組合がDINにはずれたような不衛生な放射線の環境を発見いたしますと、労働組合はすぐ雇主と団体交渉をしまして、それが入れられないときには組合員を全部引揚げるそうです。それでありますからして、雇主はやむを得ずDINにきちつと合つたような職場的環境を実現しなければならない、こういうはめにドイツではなるんだそうです。  それから二、三年前にアメリカのニューエルというサンフランシスコの大学の先生が――放射線専門の方でありますが参られまして、そうしてわれわれの職場をまわつて歩きまして、あまりに白血球の減少がひどいので、驚かれたことがあります。そのときにいわく、君らは自分のからだを削るような職場でもつて、何だつてつて働いているのだ、どうして院長を訴訟しないか――ここに院長さんがいらつしやいますが、まだ訴訟していませんけれども(笑声)ニューエルさんが私どもにそう言われました。  こういうわけで、まことに公衆衛生的のといいますか、職場的の放射線に対する保険安全施設というものは、なつていない状態である。どういうふうにすればいいかという具体的の問題は、お話して行くと切りがないと思いますが、幸いに学術会議でもこの点非常に心配してくれました。ほんとうに学問的にみんなで構想を練つて、議論をまとめて行つて日本式に実行に移して行かなければいけない問題であります。  まぐろの恕限度につきましても、厚生省で考えておりますのと西脇さんのお考えとたいへん違うように今拝聴いたしましたけれども、あれも日本としての全国的の構想を練つてまとめ上げるという機関がないのであります。西脇さんが今お話なつたことも、物理学者としてとうとい御意見であると思いますので、そういうものもよく拝聴いたしまして、学問的に議論をまとめて、日本的の学問的の裏づけのついた仕事が実行に移されて行く態勢を整えなければいけない、こういうふうに考えます。
  45. 美甘義夫

    ○美甘参考人 ただいま中泉さんから訴えられそうになりましたが、もし訴えられましたら、文部省なりこの席に私がまた訴え出ますから、皆さんの御記憶におとめ願いたいと思います。(笑声)  アメリカ側から治療上あるいはその他について何か援助を得たかというお尋ねでございましたが、最初アイゼンバツド博士が参りましたときに、忌彈なくいろいろ教えてもらいたいと言つたのでありますけれども、アイゼンバツドさんは臨床家ではないからかもしれませんが、別に治療ということに対してはこうしたらよかろうというような答えは出ませんでした。また私どもがこういうことをしてこういうふうにやつておると言いましたら、それは十分、それでいいだろうというような返事でありました。またドクター・モルトン、これはABCCの方ですが、その方が参りましたときに、これは公の席ではありませんけれども、私的な席でいろいろ尋ねましたところ、お前の方でいるものがあれば、何でも申し出てくれ、薬ならば二十四時間か四十八時間たてば、手元にないものアメリカから取寄せるから、申し出てくれというお話がありました。従つてそのときに、私どもは二、三の薬はもらつたものがあります。その程度です。また病室に参りまして、患者のところで、治療は十分に完全に行われておるから、諸君も遠からずだんだん回復するであろうというような慰めの言葉を、患者の病室で言つておられました。こうしたらいい、ああしたらいいというような指示と申しますが、アドヴアイスと申しますか、そういうものは、ただお前の方で治療上必要とする薬があればいつでも上げるからという言質を得ているだけでありまして、ほかには別に何もありません。そのほかの医学的の援助といたしましては、尿の分析につきましては現在でもやつております。日本側とアメリカ側と同時に分析をしまして、その結果を照し合せるなり何なりするという意味で、アメリカのニユーヨークですか、そこへ毎週一回ずつ患者の尿を送つております。日本側でもいろいろ分析をやられております。それから先ほど二十三名全部が東大の付属病院に入つておるように質問なさる方がおつしやいましたけれども、われわれの方に収容しておりますのはそのうちの七名でありまして、十六名は国立第一病院であります。これは厚生省の管下にあるわけです。文部省の管下にありますわれわれの病院には七名入つておりますが、実際は始終両方で協力しまして、治療等の相談をしましたり、毎日々々の症状の動きをお互いに報告し合つて、中では非常に緊密にやつておるわけであります。  それから方々からいろんなことを言つてくださる人があります。ことに国内からおきゆうの類でありますとか、心霊術、それからいろんな家伝薬といつたようなものの申出はございますけれども、これは科学的に裏づけがありませんと、どうもわれわれとして取上げて何でもやつてみるわけには行きませんものですから、好意だけを謝して、そういうことは大体臨床小委員会というものができておりますから、そこに持出しましてお互いに議論いたしまして、こういう程度のことならやてもよかろうというようなことできめる手はずになつております。大体そのような程度でございます。
  46. 野原覺

    ○野原委員 美甘先生に簡単にもう一点お教えいただきたいのですが、今日の医学放射能症は全治するものでしようかどうでしようか。
  47. 美甘義夫

    ○美甘参考人 これは一口に言えと言われても非常に困難な問題だと思います。放射能症の程度にもよりましようが、非常に極端な障害であれば、割合に短時日に死んでしまいましようし、あらゆる場合があり得ると思います。けれどもある程度なおることが不可能だということは言い切れないと思います。これは非常にむずかしい御質問でありまして大体そういうふうにお答えするよりしかたかないのじやないかと思います。
  48. 辻寛一

    辻委員長 長谷川峻君。
  49. 長谷川峻

    ○長谷川(峻)委員 二十三名の患者が入院以来わが医学界は一生懸命やつておるようでありますが、一体何人かどういう症状かお伺いしたいと思います。ということは、入院されて間もなくでしたが、都築博士でしたか、そのうち一割か二割が非常に重態であぶないというふうな発表をされたのです。お医者さんとして、入院した者があぶないと言うことは、なかなかもつて大胆な意見の発表だと思うのですが、国民があげてそれを心配しておるのじやないかと思いますので、その点をお伺いいたします。
  50. 美甘義夫

    ○美甘参考人 お答えいたします。現在白血球の数の増し方も多少増して来たのでありますけれども、相当憂慮されると申しますが、増し方の程度が非常に少くて、徐々である、それから骨髄の細胞の増し方も非常に徐々である、しかしながら、ごくわずかには増しておるのでありますけれども、そういうものが重症として憂慮されるわけであります。そういう人たちが、東大の方に三人、一人は多少憂慮の域を脱したかとも思いますが、二人ないし三人、それから東京第一の方に二人くらいで、四人ないし五人くらいの数の人が、血液の状態の憂慮される方たちであります、但しこの方たちもいわゆる急性の死と申しますか、一、二箇月の間にぱたぱた死んでしまうという時期はもう大体脱しておるかとも思います。あと慢性と申しますか、あるいはもつとずつと長くなりますか、どんな程度にまで血液の状態か回復しますか、まだここしばらく様子を見ないとわかりませんが、そういうふうに憂慮されておる、回復が非常に困難であるか、あるいは生命に対する危険であるか、いろいろな意味において憂慮される人が四人ないし五人ということでございます。
  51. 辻寛一

    辻委員長 前田榮之助君。
  52. 前田榮之助

    ○前田(榮)委員 お三人の参考人の先生方にいろいろお話を聞かしていただいてまことにありがとうございました。私は一つの御希望と質問と二つあるのでございますが、希望といたしましては、こうして文部委員がこういう問題を聞かせてもらつても、実は専門家でないので十分腹の中でこなせておらぬ部分もあろうと思う。それで現在大学の病院にいたしましても設備の不足の点、あるいはまた今西脇先生あたりはいろいろ法規についても保健衛生の上から不十分な点もあるのじやないか、こういうこと等について、立法府におるわれわれにそのあなた方の研究、また治療についても必要な予算、法規についての希望がおありではないか、本日それをつぶさに陳述していただく時間もございませんから、それを項目的でけつこうでございますから、書類にして文部委員会の調査室の方まで出していただきますと、それをまた調査室の方からわれわれの方へ知らせていただくように処置をとつて、十分われわれの方で、それを研究いたしまて必要な方法をとりたい、この点について御希望を申し上げておきます。ただ簡単に一口で説明できるものは、ここで御説明していただいてもよろしゆうございます。  それからいま一つ。今は放射能による非常な害毒についての主としてお話があつたと思うのであります。そのほかにこれが近代治療医学の上から現在の人体に対して必要なものがあものじやないか、それが実際に使われておるものかどうか、つまり今まで水爆にしても原爆にしてもたいへん恐れられて来たわけであります。これを治療のために、たとえばがんその他に使えば、こういう文化的な効果をもたらすというようなものがおありであるかどうか、それをお聞かせ願いたいと思います。
  53. 美甘義夫

    ○美甘参考人 これは御存じのように、医学の面で同位元素といたしまして治療の面はもちろん、いろいろな面で応用されております。治療の面は中泉博士が御専門ですからあとで御説明があると思いますが、治療の面をのけましても、たとえば甲状腺のはれて来ますバセドー氏病なんというものは、治療にもある程度放射線同位元素を使つております。沃素の百三十一でしたか、これを放射しますとバセドー氏病がよくなる。あるいは白血病といいまして、白血球がはかにふえるがんに似たような病気があります。それの治療にも燐の同位元素が使われております。そういつたような治療面にも、がんはもちろんでありますが、治療面を別といたしましても、いろいろ医学的なものがからだの中に出たり入つたりすることを追跡してはかつて行くのに非常にたくさん使われております。たとえばからだの中の全血球の量がどれくらいある、それからアミノ酸あたりがどういうような臓器に行つて、どういうように出入りして、どういうふうにかわつて行くかというような、追跡子、トレーサーとしての利用が非常に広いものであります。これによつて今までわからなかつたこと、ことにからだの中の物質の出入りというようなことが非常によくわかつて来たという面もあります。  なおがんの治療の面については中泉博士から……。
  54. 中泉正徳

    ○中泉参考人 今の御質問は、結局原子力の平和的応用というのはどういうありがたみがあるかというような御質問だと思いますが、これは医学方面でも非常な利益があるのであります。おそらく原子炉をつくるといいましても、私どもの目から見ますと、半分内外の目的はアイソトープをつくるということにあると思います。それならアメリカ原子炉があるから、アメリカからアイソトープを輸入すれは日本でつくらぬでもいいじやないかという議論も出ますけれども、何分にもアメリカから輸入しますには数日間かかるのであります。ところがアイソトープの中には半減期か数秒間というような非常に寿命の短かいものもあつて、それをやはり追跡子として使つていろんな生物の新陳代謝研究をしなければならぬというような面も出て来ます。その意味からいいましても、生物学畑からもどうして原子炉が早くできて、日本で得がたいアイソトープ生物学研究、それから医学診断、治療に用いて行きたいという希望は持つております。それからこれはただに生物ばかりでなく、いろいろ工業方面にも、産業方面にも、農業方面にも、アイソトープ利用ということは非常に重要であります。アイソトープを一日も早く盛んに利用して行くということが今日本状態としては非常に大切なのであつて、スタツクでもつてそれを間違いが起らないように奨励するという手段をとつて、現在では社団法人の日本放射性同位元素協会というものができております。  ごくおわかりになりやすい例を申上げますと、ラジウムががんによくきく。ラジウムというのは東京の癌研究会ができたころのお金で一グラム二十五万円したのです。ところが現在ラジウムと同じようにがんの治療に使いますコバルト六〇というものが幾らかというと、アメリカから出て東京へ到着して、東京で受取つて、正確に言つてラジウムの一・七グラムに相当するガンマー線を出すコバルトが、今のお金でわずかに八千円であります。だからとても比較にならないくらい安いのであります。ただラジウム半減期が千五百年、ところがコバルトの方は半減期が五・六年というふうにたいへん違うのですね。それにしてもお値段がとても安過ぎるんです。そういうことで、このコバルト六〇が、今後がんの治療に、東京の癌研究会ばかりでなく、非常に広く日本中で用いられるようになることと思います。従つて非常に広く災害が起つて来ると思います。今はアイソトープに対する法規は何もない、ただ診療用エツクス線装置取組規則とかいうようなものがあるだけであります。これではというので、今スタツクでもつてアイソトープの法規をつくろうとして原案は練つております。
  55. 西脇安

    ○西脇参考人 今御質問がありまして、中泉先生及び美甘先生からお答えがあつたのでありますけれども、一言つけ加えさしていただきたいことは、特にからだの中に入れます放射性物質といたましては、日本においてはまだ規則にはなつておりませんけれども、一応万一濫用されるおそれを防ぐために、中泉先生とかそういつた方が東京においでになりまして、厳重に、日本中で申請するアイソトープは、どういう目的で、どういうふうに使われるかということを審査しておられまして、たしか私の記憶しておるところによりますと、半減期が三十日以上のものは一応人体に使つてはならないということに、これはアメリカでもなつておりますし、大体その規定に従つて日本でもなつておると思います。そうして人体に使い得る、いろいろ役立つものでありますけれども、あくまでもここにおいでになるような美甘先生とかあるいは中泉先生といつたような専門医の監督においてのみこれが有効に使い得るものでありまして、どんな元素がまざつておるかわからない、今回のような二十種類もいろいろな種類のまざつておるものを、がん治療に使われるのだから、おそらくこれを食つたら少しはきくんじやないかというようなことで、やみで流れるというようなことになつた場合の方がよほど恐しいんじやないかと思います。で、現在のところあるいは神経症状とかあるいはヒステリーとかいわれるものもありますけれども、こういつたものはなぐさめればなおりますし大したことはないのですけれども、実際この取締りが非常にルーズになりまして、あとでもつて組めるということは非常にやつかいであります。一旦こういつたものの危機が現われ出しましたら、今回の漁夫と同じように治療のやつかいものでありますので、最初に警戒をするということはぜひとも大切なものではないかと思います。
  56. 辻寛一

    辻委員長 小林信一君。
  57. 小林信一

    小林(信)委員 専門的な御高説を承りまして、実際はよくわからないのでございますが、私たちのお願いする点は、これはいろいろ午前中も申し上げたのでありますけれども、やはり御研究なされるために当然責任者であります文部省が万全の措置を請じておるかどうか、あるいは先ほど西脇先生がるる御説明になりましたように、この問題は一般人の理解というものがこの際非常に必要である、あるいは研究というものが急速に進展しなければならぬ状態にあるというふうなことからいたしまして、教育上これをどういうふうに見て行くか、今これほど問題になつておりましても、文部省の指導要領の中にはこんなものは全然見当らないというふうな点、あるいは大学の講座等におきましても、こういうものが各大学にあるかと申しますと、ないように伺つておりますので、こういうふうなものに対する先生方の御希望等も私たちはお聞きして、これに対する対策を講じなければならぬ。それから環境衛生という面から考えれば、これは教育関係からいたしましても、また責任があるわけでございます。それよりももつと大きな問題は、やはり世界道義というようなものにも、これの直接被害を受けたわれわれ国民にして初めてそういうことが強調し得るわけですから、もつと研究に携わつておられる先生方の御意向というものを十分お聞きいたしまして、これも何らか考えなければならないという点で先生方の御意見を承つておるわけでございますが、今私は別の面から二、三お伺いをいたしたいのであります。  それはこのたびのビキニの問題があつたので、いろいろと先生方の携わつておられる点からの御発表等もお聞きしたわけでございますが、どうも先生方の御意見も、御自分の御研究はもちろん、今まで御発表なさつておられますが、何かにつけてまちまちの感がしてならないのであります。たとえば、今西脇先生のお話を聞きまして、学者にしてかかることはないと私たちは思つてつたのでございますが、あるところでは同じものに対して二十カウントしか計測しなかつたけれども、先生が行つて調べたら二千カウントも出た。これは私たちの考えられない事実なんです。これらはまた私たちが別の面から聞いておりますが、発表の自由が押えられておるのでなくして、先生方が何か今の情勢というものを御心配になつて御遠慮なさつておるというようなことがあつてそういうことが生れておるのじやないかというふうにも想像するわけです。そうして西脇先生は非常に率直にお話をしてくださつたのですが、これは東京という中心に遠いからそういうことを御遠慮なくおつしやつておられるので、多分にそういう影響を受ける東京方面ではそういう点も慎重に御考慮なさつておられるのじやないかというように考えられるわけですが、この際あらゆる問題が先生方に一切かかつておるわけでございますから、それこそ率直に、お考えというものを真剣に御発表していただくことが一番大事だと思うのでございます。と申しますのは、単に国際関係だけの問題ではなくて、わが国の水産業の問題あるいは一般の公衆衛生の面とか、あるいは日本の今後の教育行政の面とかいうことに資する重大な資料を先生方がつくることであり、また世はあげて軍事的原子時代をかもし出そうとしておるわけでありますが、こういう問題に対しては私たち日本国民として最も責任を感じなければならぬ点でございまして、これは期して皆さんの御研究にあるわけでございます。私がこんなことをなぜ申し上げるかと申しますと、日本が最初に原爆の被害を受けてからすでに何年かたつておるのに、またこのビキニの新しい問題で、新しく問題を検討し直すような情勢であることを考えまして、科学をもつて誇る日本の学界が、そういう点でまことに責任をお感じになつておると思うわけです。ひいては私たちもこの点に対しまして重大な責任を感じなければならぬ、こういうふうな点からして、この際皆さんの最も率直な御研究の発表ということが、一番大事だということで私はお願いをするわけですが、まず第一番に、これは四月の二十三日の新聞、これはどの新聞かちよつとわかりませんが、たくさんにいろいろな問題が出ましたので、その中から一つだけ摘出してお伺いするわけですが、アメリカの方で補償に判断の材料が欲しいのである、補償をしたいのだけれども、その根拠となるべきものが私たちにはつかまれなかつたという、日本の大使と向うのだれだつたちよつとわかりませんが、責任者との話合いの結果、アメリカが発表したものがあるのでございますが、その中に一つの理由として、医者の職業的反感というものが大きな支障を来したということを言つておるのでございます。これは実にゆゆしい問題でございまして、あらゆる問題で先生方とアメリカのお医者んたちとの間に対立したというようなことも聞いておりますし、また今の先生方のお話の中にも二、三そういう点があつたのでございますが、こういうことは先生方としてはたして許容できることかどうか、まずお伺いをいたします。
  58. 美甘義夫

    ○美甘参考人 これは私の承知しております範囲では、アメリカの医師団から確かに患者の診察をさしてくれという申出があつたのであります。その前に、二人は自発的に東大の外科に参つてつたのであります。これは自発的に来たものでありますから、本人の承諾を得ればアメリカ側の医師団も自由に向うの満足するような診察なり、医者の方で問診といいますが、いろいろ尋ねてそれの答えをとる、そして病歴をつくるわけですが、そういうことをやつてつたのであります。ところが焼津から残りの患者を引移して参りましたときに、アメリカ側の医師は、東京に来ればまた前と同じようにこちらの注文通り見せてくれるものだと思つてつたらしいのでありますが、そしてその申出があつたのであります。その間の詳しいいきさつは私はあまり知りませんが、どういう診察をするのかと申しますと、一人を見ますのに、少くとも数時間、ごく切り詰めても三時間それはおもにいろいろなことを聞いて、いわゆる病歴をつくるのにそれくらいかかる、そして診察は二十分くらいでいい。それから血液なんかをとつていろいろ調べる、そういう申出でありましたので、今は焼津から東京に移つて来たばかりで患者も相当興奮しておるし、それから病体も、患者がそういつたような長時間の診察に耐えない状態だから、これは時期が到来するまで待つてほしいということを申し入れたのでありますが、それを断つたというふうにとられたものと思われるのであります。そのことにつきましては、私ちようど名古屋に参りまして留守だつたのでありますけれども、三月三十一日でありましたか、四月一日でありましたか、第一病院に、直接に患者を取扱つております主治医と厚生省側とそれから外務省側が参りまして、アメリカの医師団の人たちと一緒に患者の心理状態であるとか、日本の国民感情とかいうようなことをざつくばらんに申しまして、そういう長時間の診察は今患者の状態からいつても困難であるから、しばらく待つてもらいたい、それはよく了承したというふうに私聞いておるのであります。それで私どものところに、帰りがけにモルトンが見舞いに行こうじやないかというので、東大の病院に参りまして、病室に連れて行つて、前からなじみの患者に対し少し診察らしいものを――診察といつてもあまり手は触れませんでしたけれども、患者の顔を一々見てまわつたわけであります。それから別室でこういう治療をしておる、経過はこうだというようなことをよく説明しましたが、その全体の時間が一時間半くらいもありましたでしようか、そういうことで、その事柄は了承されておると思うのであります。それからまた時々の経過もときどき報告してくれということで、白血球の動きであるとかあるいは細胞の動きであるとかいものを書面で外務省を通じていろいろ渡しでおります。なお向うからこういう資料がほしいのだという要求があればいつでも差上げますと言つておるのでありますが、何もそれは申出がないということでございます。そういうことがいろいろ誤り伝えられまして、日本の医者が狭量だとかどうだとかいうのじやないかと思います。なお患者がある程度よくなつて、もう大丈夫だという時期が来れば、よく患者に話しまして患者の承諾を得れば、また、アメリカの医師団にも見てもらうという時期が来るのじやないかと考えておりますが、なかなか患者の心理が相当に複雑でございまして、そのことは反面われわれの治療を信頼してくれていることになるわけだと思いますけれども、まあこういうことがいろいろに誤り伝えられましてそういうことになつたのじやないかと思います。
  59. 西脇安

    ○西脇参考人 先ほど測定者によつて二十カウントと二千カウントの相違があつたということですが、これは大阪におきましては事実なのでありまして、これから見ましても非常に明らかなように、今回のような未知の放射線を出しておるところの物質を測定するにあたりましては、よほど精密な計器を使いませんと、計器の種類によつて非常に異なつた値いが出るのでありまして、現在厚生省から出ております十センチの距離で百カウントというものはたしか大阪に来ている限りに関しましては、計器の種類に規定されておらないのでありまして、これを規定するということは非常に重要なことであると思います。重要というよりもむしろ計器の種類を規定しないと何カウントといつても意味をなさないのじやないかと考えております。  それから先ほど中泉先生の方からアメリカの方では厳重にやつておるというお話がありましたけれども、私の方の今言いましたような実地の資料に基く計算あるいは実験の結果から見ましても、これは決してゆえなきものではないのでありまして、こちらにおきましてもできるだけ精密な計器ではかつて、一応明瞭に放射線を出しておると認められたものは、とめてもらいたいと考えるのであります。  それからたまたま紙上におきまして、これは私も非常に遺憾に思つておることではありますけれども、東京の方と対立しておるかのごとく報ぜられておるのでありますけれども、私自身の気持といたしましては、ぜひともこういう問題は一致協力すべき問題でありまして、特に今回のように国民生活の全般に重大な影響を持つというような場合におきましては、これは学校とかあるいは学閥とか個人的感情というものを離れまして、学問と真理と人間的な良心というものが中心になつて一致協力すべきものであると考えているのでありまして、今後も美甘先生並びに中泉先生の御指導、御鞭撻を仰ぎまして、ぜひとも協力して行きたいと思つております。
  60. 小林信一

    小林(信)委員 同じ切抜きの中に、美甘先生の談として「重症はわかるはず専門家ならカルテを見れば」――読売新聞でありますが、と出ているのです。同じ読売に中泉先生……。
  61. 美甘義夫

    ○美甘参考人 それは何か治療法があるかということは、カルテを見て説明するならば医者の常識としてわかるはずだといつたようなことが書いてあるのじやないですか。
  62. 小林信一

    小林(信)委員 大体そういう状態です。あとでひとつ御判断願いたいと思います。それから中泉先生は、「誠意のない米国側の診断には応じられぬ」という強い見出しで、骨にくつついている放射能灰がとれるような薬があるならばよこしてもらえばいいんだ。誠意があつたらそれを出してもらいたいというような点をあげて書いてあるのです。先ほど申しました発表というのは、井口大使とスミス次官との話合いの結果、アメリカ側が声明したものなんですが、しかしお聞きしてみれば決して日本の先生方には、さようなことを言われるような偏狭な、小さな了簡があるわけじやない。もつと大きな見地に立つておやりになつておられて、その間の何かの齟齬からそういう誤解を受けたということは、私たちも信ずるわけです。そうしたら、私は今の国民感情からすれば――先生方はそういう点は非常に冷静なんですが、やはりわれわれはそういうことは絶対ないんだ。もつと国境のない医学的な立場に立つているというようなことを言明せられることが、今後かかつて来る補償問題そのほかの国際問題にもいい影響があるのではないかと思うのですが、医師会としてこういうものに対する御意向を結集されたことはないかどうか。またなくとも、先生方としてはどういう気持を持つておられるか、お伺いしたいと思います。
  63. 美甘義夫

    ○美甘参考人 私から申しますと、そういうことは当然外務省なり厚生省なりがやつてくれるステツプだと思いまして、私どもは厚生省にも外務省にも、もし誤解があるならばこういうことであるから、そのステップをとつてもらいたいということを申し出ているのでありまして、それじやしかるべき方法でやりましようということになつているように私承知いたしております。
  64. 小林信一

    小林(信)委員 私はそういう点をよくお聞きして、ひとつ皆さんにしつかり立つていただきたい。やはりどうしても現実の問題をつかんでおられる先生方のかかつて御意思にあると思うのですが、アメリカのスポークスマンのあげている幾つかの条項の中の一つとして、日本の政治が混乱しているからということが書いてある。従つて厚生省がやつてくれるというようなことで、先生方がじつとがまんしておられると、日本医学の権威を失墜するし、これが根拠になつてとれるものもとれないということになるわけでございますので、そういう点を十分考えていただきたいと思うのでございます。  そのほかたくさんお聞きしたいことがございますが、同僚の議員の力たちが御質問されるのを待つておられるようでございますので、最後にただ一つお伺いしたい。これは午前中もお伺いしましたが、日本原子力研究というものが、今回予算も計上されて発足したのでございます。これは日本がすでに十何年間という空白を持つという非常に不幸な立場にあるわけです。そしていろいろ先生方の御意向を聞きますと、急速にこの研究は発展させなければならない状態にある。しかし学術会議においても御発表になつたように、あくまでもこれは平和的なものに進めて、決して兵器の製造というようなことに利用されないようにしたい。こういう御念願を発表されたので、私は非常にうれしく思つているのでございます。しかし先生方の学者の良心的なものだけでもつてけたしてこれができるかどうか、非常に私疑問だと思うのでございます。やはりある理想を持つてお進みになれば、非常に高度の機能を持つ設備もできて来るわけなんです。そのときにはただ一つこれをひつくり返せば原爆もでき、今秘密保護法もできたし、MSAの関係もあるというような点から考えれば、単に私たちだけの意思でもつてこれが阻止できないような場合もあるのですが、そういう場合に先生方としてはどういうことが最も強力なこれを阻止する力であるかということを、もしお考えになつておつたらお伺いしたい。  もう一つは、これはしよつちゆう言われていることなんですが、今度のような被害は、日本人に知らせるばかりでなく、できるだけ世界の人たちに知らせなければならぬと思うのですが、こういう点について先生方のお考えを十分お聞きしたいと思つたのですが、西脇先生からその点をお伺いして終りにしたいと思います。
  65. 西脇安

    ○西脇参考人 特に今回のような場合におきましては、こういつた放射線による障害は、きよう食つてあす現われるというようなものでありますと、だれでも注意をするのでありますけれども、短期間のうちに現われるというよりも、むしろ微量の場合におきましては数箇月、数年、また場合によりましては数十年を経過して現われるということがあり得るのでありまして、原則として放射線の人体に対する作用は、非常に沈着している放射線物質が少い場合でありましても、これがわずかながら放射線を出し続けておりますと、多少の例外はございますが、一応放射線の強さと時間との積で現わされるところの蓄積線量でこの程度が現わされるのでありまして、今ここに検出されておりますような、微量ではありますけれども、ストロンチウムの九〇、イツトリウムの九〇といつたようなもののまざつたものは、生物学的にも一旦骨に沈着いたしますと、半分まで抜けるのに八年ないし九年かかるということになつておりますので、従つてこういう元素は、微量でありましても、一年に何回食べるかもしれませんけれども、われわれの食料である魚に含まれている場合におきましては、これが漸次沈着するというような可能性が考えられますので、非常に注意の上にも注意をすることが肝要なのではないかと考えられております。私たちの現在直面しているこういつた憂いというものは、私の個人の考えとしては、決してわれわれ日本人だけの心配ではないのでありまして、万一不幸にして将来こういつた恐るべき人類の破壊的兵器である原子爆弾あるいは水素爆弾を無鉄砲に投げ合うといつたような戦争が始まつた場合におきましては、日本人だけではなく、すべての世界の人類が悩まなければならない事柄をわれわれ日本人が一足先になめていることになるわけなのでありまして、過去における広島、長崎といつたような二回にわたる原爆を受けている苦い経験に加えまして、今度で三たびでありますから、この経験を何とか生かしまして、人類の将来の運命を破壊から救うために、世界の良心ある人々に向つてこの実情というものを隠すことなく訴えることによつて救うということは、われわれ日本人といたしましての責任であり、義務であり、また権利であると信じておるのであります。
  66. 辻寛一

    辻委員長 世耕弘一君。
  67. 世耕弘一

    世耕委員 時間がありませんから簡単にお尋ねいたしますが、さつき小林委員からもちよつとお話があつたようでありますが、ガイガー計算器の能力の問題が二説にわかれるようにわれわれ感じたのです、中泉先生のおつしやることをそのまま受取つて解釈しますと、少しぐらいのまぐろを食つてもよいという結論が出て来る。西脇先生のお話を聞くと食つちやいかぬという、われわれ迷うわけです。どうしたらよいのですか。ところがアメリカの例から見ると、アメリカでは食つちやいかぬという先輩国からの例が出ている。それからもう一つは、アメリカでは新聞発表によりますと、ガイガー計算器がたいていの家庭に一台くらいあるということです。こういうことを言うておるわけです。そうしますと、われわれは命にかかる重大な問題が家庭まで及んで行くということでありますから、安い計算器なら一台くらい買わなくちやならぬというふうに思われますが、これは非常に妙な感じがするようでありますけれども、和歌山県に降つた、あるいは新潟へ降つた、北海道へ降つた、しかもそれが菜つぱの上に、大根葉の上に積つたというようなことがすでに報告されております。海水をのんで生活する魚の腹の中に入つていたら、これは偶然何年間の後にわれわれのお勝手に配給された場合にどうなるかということは、非常に杞憂に属したことでありますけれども、アメリカの原子爆弾の研究をしておる国ですらこれだけの用心をしているとすれば、われわれこれくらいの用心があつてしかるべきではないか、そこでお尋ねしたいのは、これは私聞いたのですから、気を悪くしないようにしていただきたいと思いますが、実は東京大学で持つているガイガー計算器は実は性能が悪い機械だということを聞いておる。たしか三十台くらいあるということを聞いておるが、その性能の悪いので調べて食つてもいいということになれば、われわれは命を縮めなくちやならぬということになる。西脇先生の性能の話をずつと伺つておりますと、東大の方は二十カウント出るのが西脇先生の方は二千カウントだということで百倍も違うのです。どつちを買つたらいいのか、値段の問題もあるわけですが、これは冗談のようでありますけれども、大事なことです。そうしてしかもそのまぐろのカン詰でも一切入荷は相ならぬということをアメリカで言うている、この言葉からみますと、どうも安全な方の西脇先生の方のお説の方に耳を傾けたくなるのです。これは非常に重大な問題で、人身にも影響することでありますから、この点をはつきりさしていただきたい。どちらの性能が大切であるかということ、もしその機械に両派の説があるならば、できることなりその機械の性能のあり方をここで御審議願えれば非常に幸いであります。  それと西脇先生なり中泉先住にお聞きしたいのですが、いわゆるガイガー計算器の値段は一台幾らくらいですか。写真で見るとあまり大きな機械じやなさそうですが、私の知つておるところによりますと、ガイガー・ミユーラー、ドイツの博士がつくつたのがそもそものこの機械の発達のように思つておりますが、この機械の選定が大切です。これが計算の上に現われて来て、食つてもいいとか悪いということになるのでありましようが、この点をひとつお聞かせ願いたい。  それから西脇先生は物理の方の専門ですから本委員会にも特に関係のある原子炉の問題であります。原子炉自体は千葉の先あるいは東京の近傍に原子炉の整地を求めておるということを新聞で発表されておりますが、アメリカ原子炉を都市からどのくらい離れた地点に置かれておるかということを私は実はお聞きしておきたい。なぜかというと、原子炉がうまく行つて研究は成功したが、偶然爆発したために、利益を受ける人がなくなつたということが考えられる。今日の物理学の状況から見て、現に水爆のごときは予想しなかつたところまで被害が及んでいるというような現象でありますから、万一ではなしに、万々が一を考えていただかなければならない。この点について物理学者としてどういうような考えを持つておられるか。同時にまぐろのごときも万一食つてもこれだけなら大丈夫だというところのポイントだけを教えていただきたい、ぜひお願いいたしたいと思います。
  68. 西脇安

    ○西脇参考人 まず最初の問題からお答えさしていただきますと、現実に大阪の方におきましては一部にまぐろを食われた方があるのでありまして、もう食われてしまつたものはこれはどうにもしかたがない、それで神経を病むだけ毒でありますから、なるべく安心をしてもらうというぐあいに、食べた方はあるいは放射能がなかつたかもしれない、従つて一応専門のお医者さんに頼つてそうして白血球なり血液状況を調べてもらつて、異常がなければ大丈夫だというように、極力安心するようには言つておるのでありますけれども、一応こういつた物質で少しでも汚染されておるということがわかつておる以上は、私はやめた方が安全である。これも程度の問題でありますが、精密に言えば非常に時間もかかつてむずかしい問題でありますけれども、少くとも現在日本で出ておりますところの携帯用の放射線測定器というのが、東京の科学研究所あるいは神戸工業といつたところからつくられておりますけれども、これで測定して放射線が少しでも出ると認められるものならば、一応これはやめてもらいたい。いろいろ私も実は実地に自分で調査に行きましてびつくりしたのでありますけれども、最初入りましたのは皮が多くて身は少い、それで一応皮をはいで中身だけはよいかもしれないという説も出ておるわけでありますけれども、実情を見ますと皮まで食つておる人がある、現在のところ厚生省から来ております規定によつても皮を食うなということは何も一般大衆に対して公の説明はない。そうしますと、私はまぐろは身だけ食つて皮は食わないものだと思つてつたのでありますけれども、皮だけ買つて行く人がある、そうしてこれを煮詰めましてだしにしておつゆにする、おつゆにするとこれはわざわざ放射性物質だけを集めておるようなもので、しかもそれはまぐろか何かわからないからよけいあぶない、警戒せずに飲み込んでしまう。しかもまた人によりましては焼いて食べる、焼きますのに皮のついたまま焼いておりまして、好きな人は特に皮と身との間の部分まで食べてしまう方がある、これは一応いけない、少しでもあぶないと思われるものはやめないと、特にこれは顕微鏡と同じことでありまして、非常に病原菌なんかを検出する専門家でありますと、微量に入つてつてもすぐに検出しますけれども、専門家で見なれておらないと見のがす場合が非常に多くある、これと同じことでありまして、放射線の測定においても、一応最近におきましては応急に訓練された人が測定しておりますので、従つてこういう人が精密に測定して少しでも出るという場合には、これはぜひとも棄てていただきたい。これが一定限度まで許すということになると、現実の問題として中央市場なんかで検査しております状態を見ますと、非常にやりにくいのでありまして、大体百カウントまでよいということになりますと、水をざぶざぶかければ見かけは減りますが、かわくとうんと出て来ると思います。そういつたような関係がありますので、非常に従来複雑なる利害関係を伴う問題でありますから、一応これははつきりと少しでも出たものはもう出さない、特に今回のような場合に、アメリカが補償すると言つておるような場合でしたら――補償のない場合でしたらこれはどうにもしかたがないのですが、補償するといつておる以上は、これははつきりとアメリカの規定に従つて補償してもらうべきでないか、もし蛋白源が非常に不足して来るというような場合には、その代償としてアメリカから放射性で汚染されておらない肉とか何とかをわけてもらいまして、これを今まで損得を受けている魚屋さんに優先的に売つてもらうとかそういつた方法でも考えてもらわないと、私は何もびくびくしながら放射線が出ておるかもしれぬという物を食う必要はないと思うのであります。  それからもう一つあと原子炉という問題でありますが、今向うにおいてこういつた原子炉に対して人間のからだを守るということにいかに注意を払つておるかというと、アメリカの詳細なデータはなかなか入手が困難でありますけれども、英国のハウエルというところに原子炉ができておりますが、それを見ましても一応こういう放射性物質で汚染されたところに入りますのに、こういう鉛製のゴムの着物を着まして、顔の表面も全部鉛製のガラスでおおわれておつてこういうかつこうをして入つております。それからこういつた実験室から一応出て来ます場合には、必ず実験着を全部脱ぎはぎましてすつ裸になりまして、そうしてふろに入りまして外部に対して完全に遮断をして、外部の市民に少しでも放射性物質の危険が及ばないように一定のしきいを設けまして、放射線の監視網を張つて、そこでもつて放射性物質で汚染されたものが流れ出ないように非常に気をつけておるのでありまして、こういう放射性物質による障害から人体を守るために物理学医学との中間領域であるところのヘルス・フイジクス――保健物理学というような学問が非常に発進をして来ておるのでありますけれども、もちろんこれは新しい分野でありますから未知のところが非常にたくさんあるわけであります。悲しいことには、日本におきましては、物理学の専門のえらい先生が視察に行かれました場合には、専門のところだけを見られまして、ちようどこの中間分野を抜かして来られるし、また医学の方の専門家が行かれますと、その専門だけを通られて、その中間領域として非常に大きくなつて来ているヘルス・フイジクスという分野を見落して、保健物理学という分野をあまり詳細に見ずに帰つて来ておられる。従つて日本においては――もちろん未知の部分は多数あるわけでありますけれども、しかしながらすでに外国においてこれまでにわかつておるところまでも日本ではわかつておらないというのが現状なのでありまして、今後原子炉とかあるいは原子核研究所とかができまして、日本においても平和的利用その他のために原子エネルギーを使われます場合には、必ず副産物として廃物であるところの放射性物質がたくさん出て来るということは明らかなことでありまして、こういつた場合に備えまして、原子炉とかあるいは原子核研究所とか、そういつたところが発展するに並行して、人体をこういつた放射性物質の危険から守るために中間分野であるところの保健物理学の発展に力を入れておかないと、これはちようど大量のラジウムを買つてこれを保護するところの容器を買い忘れておるというような結果になりますので、今回のような事件がなくとも、ぜひとも初めの出発点からこういう危険を防禦することを考えておかなければ、将来一旦危険が明らかになつた後におきましては、これは取返しのつかない重大な問題になるのではないかと思つております。
  69. 世耕弘一

    世耕委員 さつきアメリカ原子炉の所在地が都心からどういう地点にあるかということをお尋ねしたのですが……。
  70. 西脇安

    ○西脇参考人 それは都市から離すということは非常にやつかいらしいのでありまして、アメリカのごとき大きな規模になりますと相当大人数の職員が必要となります。それで、都市から離れたところへつくりましても、そのつくつたところが一つの都市になつてしまうというような形になつておりますので、従つてどこへつくりましても、厳重にこういつた放射性物質を処理する方法並びに放射性物質で外部の人が汚染されるという危険から監視網を張つて遮断をすることが非常に必要じやないかと思います。特に都市から離れるといいましても、日本のように地理的に狭い国におきましては、アメリカのように思い切つて離れたところといいますと場所がなくなつてしまいますから、必然的に都市に対する影響を先に考えに入れまして、こういつた研究所を設計しておくことが必要じやないかと思います。そうしてアメリカあたりで特に注意をしておりますことは、原子核物理学専門の研究者に自分のからだを保護する仕事をまかしては絶対にだめである。専門家というものは、自分研究に熱中するのあまり、間々危険な情勢を忘れて仕事を進めて行つてあとなつて障害が現われて来るということから、ヘルス・フイジクス――保健物理学の観点に立つて第三者が厳重に指令を発して、その指令にはいかなる学者、研究者といえども従いながら研究を進めて行くという規定が、アメリカにおいては設けられておるくらいでありますから、その点は非常に重要だと思います。
  71. 世耕弘一

    世耕委員 もう一つ伺いたいのは、アメリカではガイガー計算器を各家庭に備えつけておるというようなことが発表されておりますが、日本のような貧乏な国で各家庭に備えつけることは容易じやなかろうと思いますが、これは幾らぐらいでできるのですか。テレビを買おうか、ガイガー計算器を買おうかというくらいな気持がすでに起つておると思います。この点をひとつ聞かしていただきたい。  もう一つは、原爆の実験地から数百マイル離れたところからこの間鯨船の図南丸が帰つて来たようでありますが、数百マイル離れた地点を航海しながら、なおガイガー計算器に放射能が現われたということが新聞にちよつと発表されております。そうなると今後はあの方面へ行かれぬばかりじやなしに、濠州方面へ行くのも非常に危険だということになる。そうすると海上の安全ということが非常な危険にさらされることになつて来るわけであります。従いまして、さような関係からしますと、これは日本側としても必要だろうと思いますが、どの程度までの区域が危険であるかということを再確認する必要があるのではないかと思います。そういう建前から日米両国の調査団を組織するようにして、中泉先生のような方あるいはそういう方面の権威のある方、また物理学者も加わられて至急に調査をする必要があるのではないか。私の聞いた範囲では最近帰つて来た図南丸なんかでも相当の放射能をつけて帰つて来たということであります。この問題が起つて一週間か十日ぐらいたつてからだと思いますが、自由党の総務会でも実は問題にして騒いだのでありますが、図南丸は爆発してから一週間ほどして四百四、五十マイルも離れたところを航海して帰つたのにそういうようなことがあつたといたしますと、これは風の関係じやないかということも考えられるのですが、そこで問題になるのは――われわれはその場で笑つたのですが、福龍丸のように、白いものが降つて来た、何であろうというのでなめてみたというようなことが報告されておる。それと同じように、アメリカ側は大騒ぎしておるのに、日本では専門家の一部だけが大騒ぎをしておつて、みんなには一向にこの真相が伝えられていない。われわれは原子炉をつくろうかという進んだ頭の肯後に、依然として、白い灰が降つて来たからなめでみようかという感じを持たせるということは、非常に非文明じやないか、この点についてどういうふうにお考えか、西脇先生から御所感があれば伺いたいと思います。
  72. 西脇安

    ○西脇参考人 先ほどアメリカでは各家庭にというお話がありましたけれども、まだそこまでは行つてないと思いますが、アメリカあたりでも特にニューヨークとか、ああいうところでは非常に用心をして、万一放射線物質が降つて来た場合に備えまして、いろいろ対策を考慮しておるという話を聞いておりますけれども、まだ各家庭にまであるかどうか――日本よりは多いかもしれませんが、そこまでははつきり存じません。今中泉先生ともお話しておりましたのですが、今日本におきましては非常に簡単なものでも最低一台十万円ないし十五万円するだろうと思います。いい機械になりますと、これはもちろん限度がなくて四十万、五十万といたしますので、経済的な見地から各家庭に一台ずつということは――それに越したことはないと思いますけれども、少しむずかしい問題ではないかと考えられるわけであります。その点中泉先生はいかがですか。
  73. 中泉正徳

    ○中泉参考人 同感でございます。
  74. 西脇安

    ○西脇参考人 それから、あとの問題は、たしか図南丸でございますか、捕鯨船の問題だつたと思いますが、これは明瞭に一応最近は電報が行つておりまして、入港前に非常によく甲板を洗いましたり、甲板のペンキを塗りかえたりしてから入港している。従てつ、ペンキで上をおおつているというような場合は、非常に検出が困難でありますけれども、非常に洗いにくいようなとこる、たとえば船には鋼鉄製のロープが張つてありますが、この鉄のロープがさびないように、油が塗つてありますが、この油の塗つてあるところに、上に行くほど非常に強い放射能が見出されるのであります。これはおそらく空気中にまじつておる微粒な放射性物質が、風とともに運ばれて来て油につけられたものではないかと思います。そこでこの放射性元素の判定を、減衰曲線といつたようなものから逆算しますと、その船がその危険地区の外側を通つていた――これは危険地区の外側はもちろんでありますが、それよりもずつと外側の水産庁の要保護区域のもう一つ外側の濠州航路の往路に当るところを通つておるのであります。それでも、簡単な携帯用計器ではかつて、一分間に二千カウント出るわけであります。これを逆にはかりますと、かなりな程度放射性物質が降つてつたのではないかと考えられるのでありまして、船長の航海日誌あるいは話を伺いましても、あの辺は貿易風というのが吹いておりまして、絶えず方向がかわるのだそうでありますが、一応その当時爆発前後と思われるときには、貿易風の方向はちようど東から西の方に向つており、いわゆる東風が強く吹いておつたということでありますので、おそらくこれは風に乗つて吹いて来たものではないかということが、ほぼ明らかになるのであります。  それからそれよりも約一週間か二週間遅れまして、先週ですか靖川丸という貨物船が、やはりニュージーランドのニユーキヤツスルを出まして、濠州航路の往路とほぼひとしい航路を通つてつて来ておるのであります。これは図南丸よりも速度がおそいのであとで着いておりますが、これも図南丸とほぼ似た鉄のロープの油のついたところから明瞭に放射線が検出されておりまして、われわれの携帯用のほんとうに簡単な計器ではかつて、一分間に最低一千二百カウント程度――マストの上に行けばこれよりもおそらく多いと思いますが、検出されております。従つてこれから逆算しますと、相当程度放射能がその当時吹いて来た風の中に含まれておつたことが思われるのであります。特に空気中にこうした物質がある場合には、最大許容量の限度が非常に低いのであります。と申しますのが、先ほども御説明申し上げましたように、食べる方は一日に三回、多くても五回でありますから、食事とともに放射性物質の入る程度は、その程度でありますけれども、空気中にある場合には、二十四時間、寝ても呼吸をしておるのであります。従つて、この場合におきましては、一日二十四時間の間に吸い込む空気の量というものは非常に莫大なものでありまして、簡単に計算をしただけでも、二万リツトルの空気ということになります。従つて空気中にある割合が非常に低い場合でも、二万リツトルも集めて、その中から放射性物質を拾い出しますと、その規模はかなりな量に達するということが考えられるのでありまして、よほど注意しなければならぬと思うのであります。ちようど昨日も、私大阪を立ちます前に、大阪の海上保安庁から電話がかかつて来まして、これからニユージランドに立つ船があるのですが、次の爆発はいつですかと聞いて来たのです。次の爆発はいつかといつても、ぼくが爆発させるのじやないからいつか知らぬ、それはアメリカだからアメリカに聞いてくれと言つてつたわけですけれども、もしわかつておれば、一応その期間よりも早く急いで通り抜けるとか、あるいはこの期間に爆発するということがきまりますと、一応そのときの風向きなどを考慮してできるだけ危険性のない航路に切りかえるということができすのですけれども、東京に行かれたらぜひともこの点を強調して、何日の何時何分に爆発するということが言えない場合には、せめて何日と何日の間に爆発を行うかもしれないという程度の警報でも出してもらえないものだろうか、それも不可能な場合には、せめて爆発したらただちにその付近を航行しておる船舶に対して、今爆発したということだけでも知らせてもらえないだろうか、こういうぐあいにほつておかれることはわれわれとしても非常に不安であるし、そのあと放射性物質を洗い流す労力とか経費というものはたいへんなものだ、それに船員とか乗客の健康の問題にも関係して来るというわけだから、その点をぜひとも強調してもらいたいということを頼まれて参りましたので、この機会に強調したいと思います。しかもこういつたものに一応害がないとも言えないということは、靖川丸の船長でありますか、この人が現地のいろいろな事情を非常によく知つておられまして言つておりましたが、ニュージーランド、濠州の方から帰つて来られます直前に、小さなフイリピンの船で南太平洋の島々をめぐつている船に乗つたのだそうですけれども、最近あの辺の島の土人が原因不明で非常になくなつて行く、そこで現地の人たちはこれはおそらく天災じやないかというので一生懸命お祈りを上げておつたという話であります。この船長の話では、今回のように一千マイル余り離れたところを航行しておつても、これだけ放射性物質自分の船についておるということから見ると、おそらくこういつた放射性物質による影響ということも見のがせないのじやないかと言つて心配しておられましたので、こういつた点はぜひとももう少し明らかにしてもらいたいと思うのであります。これは人道的な問題であると思いますので、この席上を借りてぜひお願い申し上げたいと思います。
  75. 世耕弘一

    世耕委員 もう一点。うわさに聞きますと、六月以降は実験しない、それはなぜ実験しないのかと言つたところが、六月以降はアメリカの方に風が吹くからだということが説明されておるのです。しかし地球物理学関係から見たら、世間のうわさ必ずしも笑うべきものじやないのじやないか、その点はどういうふうにお考えになつておりますか。もしこういうことがあるとするならば、むしろ原爆実験は人類のために中止すべきだという主張が最も正しいのじやないか、かようになる。今西脇先生のお話になりました一千マイルも遠く離れたところがなお危険な状況に置かれておるということになりますと、台風の関係日本にどういう風の吹きまわしが来るかということも想像じやなく現実にわれわれは考えなければならぬ大きな問題であると思いますから、重ねてお願いしますが、美甘先生、中泉先生などのような日本医学界の権威者、あるいは西脇先生のような新しい物理学研究され、医学研究された方々の専門の評定によつて、現地に行かれる危険はどうか知らないけれども、とにかく危険な範囲を確認するように、ひとつ進んで何か御提案をしていただくことが国民が安心するんじやないかと思いますので、そういう点についてお考え願いたい。  なおこれで終りますが、厚生省がこの対策委員会をつくつたとか委員を持つたかいうことを聞いておりますが、専門家じやないような人が間に入つてつておるという話であります。原子力あるいは水爆関係その他については、日本にあまり専門家が少かろうと思いますし、とにかく医学物理学と両方兼ねて研究された方も少いようでありますが、厚生省が委員会をつくつて対策を立てるというならば、先生方のような権威者が進んで加わつていただくよう、われわれは特に委員として御要求いたしたい。御所感があれば最後に伺つておきます。
  76. 中泉正徳

    ○中泉参考人 南方の危険区域についてたいへんに御心配のように承りましたが、その件につきましては、あれは水産庁ですか、どこかのお役所で調査船を出すということになつておりまして、来月早々出て行くようなふうに聞いておりますので、きつと御趣旨に沿うように運べることと思つております。  それから厚生省の方に委員会がありますという点は、これは広島、長崎の原爆に対してすでに三月十三日以前にもあつたのでありますが、三月十四日からああいうことになりましたので、今度はちよつと性質が違うものでございますから、その委員会を拡張強化いたしまして、それが非常に働いております。その中には専門家でない人も入つているという御意見でありましたが、美甘博士も私もその中に入つております。それで一応専門家はそろつております。専門家でない人というのは、やはり入らなければならない関係者でありまして、たとえば前には広島及び長崎の衛生部長が入つておりましたし、今度も静岡県の衛生部長が追加して入られまして、その人選につきましては一応いいんじやないかというふうに心得ております。
  77. 辻寛一

    辻委員長 高津正道君。
  78. 高津正道

    ○高津委員 私は広島県選出の議員でありますので、この際ひとつ強い希望意見を申し上げたいのであります。広島、長崎の原爆被害患者でまだ生存しておる者が全国に散在していることは各位御存じの通りであります。中には、元はかなりの呉服店の婦人で、失業対策事業に出るニコヨン生活をしておいでですが、あまりに顔がケロイド状で醜くなつているために、常に手ぬぐいをかぶつてつて、それをとらない婦人がある。しかし国家からは何の補助金ももらつていないのであります。それで医者の方でそれらの患者の治療に当つておられる場合に、国の補助があるのでありましようかどうかということをひとつ聞くわけです。  それから広島にABCCという例のアメリカの機関がありますけれども、それはすでに数年間原爆患者を調査はすれども治療はせずという方式をとつておりますので、地元広島でも、また広く全国の識者でも、これに対し反感が高まつておるのが事実であります。そこで広島市では、昨二十八年度までのところ、厚生省が原爆患者調査費として年予算百万円くれているうちの何割かをさいて、それを広島の医師会の有志に与えて、一部少数の患者にのみ若干の治療を実施しているということになつております。それでこれは日本でやつているアメリカのABCCの研究の妨害になつてはという遠慮があつて、そうなつておるかとも察せられるのであります。私がそう察するのであります。ところが今回のビキニの死の灰で、原爆、水爆の被害があまりにも甚大であつたところから、広島、長崎の患者の治療問題まで注目されるようになり、日本政府もやつとある程度予算を組むかのような状態なつております。諸先生が政府に対し、また国会の当該委員会に対し、この予算編成について必要な注意事項といいますか、参考意見といいますか、それを勧告していただくことができるならば、広島、長崎の原爆患者にとつては大きい貢献になろうと私は存じます。できるならばそうしていただきたいということをここにお願いするわけであります。
  79. 辻寛一

    辻委員長 志村、福井両君から委員外の発言を求められておりますが、この際これを許すに御異議ありませんか、     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  80. 辻寛一

    辻委員長 御異議ないようでありますから、これを許します。志村君。
  81. 志村茂治

    ○志村茂治君 委員外の質問をお許し願つたのでありますが、二週間ばかり前に、原爆の実験は即時やめてもらいたい、どうしてもやらなければならぬ場合には、規模の小さいのを希望するために国内でやつてもらいたいということを、アメリカの大使館とソ連の代表部に私たち要請に参つたのであります。そのときにアメリカ大使館のバーガーという参事官でしたか、その人が、今後の被忠君の治療については、日本側で拒絶しておつたために、せつかくのアメリカの原子病に対する医学利用できなかつたのはまことに残念であるというようなことを言つておりましたけれども、その後で、話の最中に、太陽の照つている限りは宇宙線からも放射能が出て出ておると言つて、そのとき腕時計を持つている一人の人の腕をつかまえて、これは夜光時計であるから、ここからも放射能が出て来ておるが、放射能がそれほどからだに危険なら、あなたはとうの皆に死んでしまつているはずだということを言つて、水爆による放射能の被害は極力少いのだというような、あまり科学的でないような説明をしておりました。それらから考えまして、日本のお医者さんたちが共同治療を拒絶したということは、アメリカではあまり確証が握れないのだ、日本人が騒いでおるのは科学的でないのだというようなことを裏づけるために言つているように私受取れたのでありますから、日本のお医者さん方も、共同治療をしなかつたというふうないろいろな経過について十分御説明を願つて、腰の弱い外務省を鞭撻する資料にしていただきたいということを私は考えております。これは要粟でありますが、その際の話に、日本ではストロンチウム九〇が出ておるということを言つてつたが、アメリカでは九 ○ではなく八九だということを極力主張しておりましたけれども、ほんとうに九〇あつたかなかつたかということを聞きたい。いま一つは、今アメリカでもつて日本の共同治療に対して協力しておるのは、尿の検査だけである。この検査の設備が日本にはないからアメリカがやつておるのだということを言つておられるようなお話でありましたが、日本にそういう設備があるかないか、あるいは設備が日本の場合には不完全であるかどうか、この点をお聞きしたいと思います。
  82. 西脇安

    ○西脇参考人 ストロンチウム九〇は明瞭に検出ができております。それから先ほど夜光時計の話が出ましたけれども、夜光時計というのは、何も私たちが飲み込むものではないのであります。夜光時計を飲み込んで害になるということは、アメリカにおいても明瞭に認められておるのでありまして、夜光時計用の螢光塗料をつくる工場に雇われておつた女の子が、ラジウムを入れた螢光塗料を塗るために、筆の先がかたくなるので、これを口でかんではやわらかくしながら塗つてつたことがある。その工場の女の子は、たしか一月ぐらいですか、とにかく非常に短期間に一応障害が現われまして、そうして死んでおるという例が、私の記憶に間違いなければあります。必要であればあとで文献は明確に提示することができるのであります。この夜光時計の場合は、何も私たちがこれをのみ込むものではない、先ほど申し上げましたように、口から体内に入る危険のある場合と、入らない場合とにおいては、非常な相違があるのであります。それから天然にも多量の放射性物質がございますけれども、これもたとえばラジウムあたりを人間のからだに食わした場合には非常に危険である。これを治療に使い得るのは、ここにおられる美甘先生とか中泉先生というような専門家の方の監督のもとにおいてのみ、これを有効に使うことができるのであります。でたらめに全然放射線ということを知らない人が、何があるかわからないというものをのみ込んでかまわないということは言えないので、いやしくも放射線の生物に対する作用に関する基礎的な研究をやつておるものにとつては、常識的な事柄なのであります。それから宇宙線の話にいたしましても、私先ほどから強調して説明しておりましたように、宇宙線は透過性のいい放射線の代表的なものでありまして、この場合にはイオン密度が少い、すなわち非常に毒素の薄い場合には、何人にも大過なく過せるのでありますけれども、われわれのところで今回資料をとりましたところの、放射線のエネルギーを測定するベーター線スペクトルの解析の結果によりますと、非常に有害である、体内に吸収されやすい放射線がう主力を占めておることが明瞭に検出されておりますので、これとそれとは全然比較の判断にはならない問題だと思います。
  83. 中泉正徳

    ○中泉参考人 今度の灰の分析ということは非常にむずかしいものらしいのでありまして、医学部で済めばたいへんよかつたのでありますけれども、医学部ではとうていできなくて、きようお昼前に見えました木村教授の理学部へお願いしたようなわけであります。尿の分析となりますと、おわかりの通り、灰よりももつともつと薄まつておりまして、灰の分析よりもつとむずかしいものであります。ところが理学部では人の小水なんというものを取扱つたことがないのです。それで正直な話、アメリカに比べますと、尿の分析の設備といい、それから経験といい、確かに日本の方が劣つてつて、不完全であるという状態であります。それでアメリカに尿を送つておりますし、また日本でもむろんやつておる、こういう実情になつておるのであります。
  84. 西脇安

    ○西脇参考人 今のにちよつと追加さしてもらいますと、結局先ほどから申しておりますように、一つの分野と他の分野との協力といいますか、その中間の分野を行く学問の発展が、日本においては非常に遅れておつて、またむずかしい、いろいろ障害がある。従つてこういつた中間分野を発展させ、理学部と医学部の中間にある人を養成するということが、非常に緊急な問題じやないかと思います。
  85. 辻寛一

    辻委員長 福井勇君。
  86. 福井勇

    ○福井勇君 委員外の質問を許されましたので、ほんの三分間程度お尋ねしたいと思います。  まず冒頭において、今回参考人の権威者をお呼びするのに仲介の労をとりました私といたしましても、いずれ委員長からもお礼を申されることとは存じますが、東京の方といい、大阪の方といい、特に野原さんの御推薦になつた西脇先生などはわざわざ遠いところからおいでくださつて、私たち非常に参考になりまして、この点は私どもといたしましても厚くお礼を申し上げる次第であります。なお中泉先生から、原子炉アイソトープの面からどうしてもつくられなければならぬというようなお話を受けまして、この点も非常に参考になりました。私たち原子力の問題を政府側で取扱つておる者といたしましては、原子炉はまだ早いとか、あるいはおそいとか、いろいろな説があります際にも、非常にいい参考となりましたことを、私は申し添えておきたいと思います。  なお今回の午後の先生方は、特にお医者さんの方面の権威者としても非常にこの面で御尽瘁になつておられることをよく承知しておりますが、先般対症療法上の費用として三百万円、それからまた今回大蔵省の方で大体二千万円前後の追加を今出しておりますが、当時新聞では、もう文部省も政府の方もさらに金を出さぬので、につちもさつちも行かないというふうに伝えましたために、非常に私たち非難されたのであります。現在のところどんなふうにお受取りくださつておるのでしようか、この点をちよつと……。
  87. 美甘義夫

    ○美甘参考人 ただいまの御質問については私の承知しております範囲では、入院患者の治療費というものは、これは今回の患者は全部船員保険を持つておりますので、船員保険でまかなうという建前だと承知いたしております。二十八年度は三日分ですか、四日分ですか、若干予算もいただきましたし、今度もまた予算を要求しております、これは臨床研究費、検査をやるにつきましても、保険では一週間に一回とか十日に一回ぐらいしか認められない検査を毎日やるというような関係で、非常に費用がかかります。そういうものに使ういろいろな経費も厖大なものでございます。計器あるいは消耗品といつたようなものもございますので、臨床研究費という面で予算が請求してございます。それから一方そういうような尿を取扱いますとか、危険な材料を取扱いますのに、先ほどから西脇博士のお話になりましたように、非常に厳重な部屋が必要なわけであります。そういう施設がありませんので、ぜひ今までできておりますアイソトープ研究室に続けてそういうものをつくつて、そこで早急に研究のスタートができるように、あるいは動物試験をやるにいたしましても、そういう放射能を持つた動物を飼つてやりますので、特別な設備のある部屋で飼わなければならぬというようなことで、そういう予算の請求してあるのであります。まだ本年度の分はいただいたということは聞いておりません。まだ大蔵省かどこかで審議中というように承つております。
  88. 福井勇

    ○福井勇君 お説の通り審議中でありますので、御期待に沿うことができるかと思います。  そこで私は十ばかりお尋ねする予定でありましたが、午前も午後も先生方は非常にお疲れになつて、これ以上長くお尋ねするのはどうかと思いますので、他の機会に、こういうところでなくて、いずれお尋ねしてお教えを請いたいと思いますので、そのときには何分の便宜御供与をお願い申し上げまして私のお尋ねを終りたいと思います。
  89. 野原覺

    ○野原委員 きわめて大事な問題でありますので一点だけ西脇先生にお尋ねしたいと思います。実は私は大阪市ですけれども西脇先生とはまだ一度もお話をしたこともないわけでお尋ねするわけでございます。  今度のアメリカビキニの水爆実験というものが非常な不安に私どもを陥れたことは事実であります。だれしも否定することができないこれらの問題につきまして、先生の奥様であられますジエーン夫人がアメリカの御出身だと承つておりますが、奥様がダレスに対してこれらの日本人の気持というものを訴えられたということを承つておるのであります。そのお訴えになられた事柄に対しまして、アメリカのダレスはどのような御返答をお出しになられておられますか、お教えいただきたい。
  90. 西脇安

    ○西脇参考人 実は私の家内を喫茶室に待たせてあるのですが、直接返答してもらつてかまいませんでしようか。
  91. 辻寛一

    辻委員長 それではその点は散会後にいたしたいと思います。
  92. 中泉正徳

    ○中泉参考人 ちよつと御参考までに申し上げますが、私が原子炉アイソトープをつくるために早くつくつた方がいいということを申し上げて、たいへんに参考になつたというお言葉をいただいて恐縮しておるのですが、それは私一人ではないのでありまして、日本科学会という非常に権威のある学術団体があるのですが、そこの総会でそういうことを決議したということを聞いておりますので、その方をお確かめになれば、私の意見よりももつと大きな御参考になるかと思います。  それからもう一つ、予算のことでたいへん御心配をいただいたのでありますが、今回のビキニの件に関する予算もさることながら、こういつた実験に関連して、永久的の対策に対する予算的措置につきましても、十分御心配にあずかりたい、こういうことをお願いしておきます。
  93. 辻寛一

    辻委員長 本日御出席を願つておりました藤岡由夫君は、都合によりまして御欠席になりましたから御了水願います。  本日の会議を閉じるにあたりまして参考人としてお越しをいただきました三先生につつしんで御礼を申し上げます。たいへんお忙しい貴重な時間をおさきいただきまして、特に西脇博士には御遠路のところをお越しくださいまして、きわめて有益なるお話の数々を承ることができまして、私ども啓発させられましたことを厚く御礼申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。     午後六時十六分散会