○酒井
参考人 私は
日本民間放送連盟事務局におりますが、連盟としての
意見をまとめるひまもございませんでしたので、私の申し上げる
意見は個人的なものであるということを、あらかじめ御了承願いたいと思います。
結論から先に申しますと、今回の
受信料の値上げを含む
予算と、
受信料の値上げというものに、頭から反対だというものではないのでありますが、しかし今度の値上げがはたして必要であるかどうか、
NHKの
経営が
国民全体の
立場から合理的に行われているかどうか、そういうことが納得できればわれわれ必ずしも反対しないのでありますけれども、それについて
NHKの現在の
経営委員会というようなもの、これがほんとうに
国民の
立場からそういう機能を十分に果しているかどうか、これはわれわれ疑問を持
つておところであります。先ほど石垣さんが、
聴取者は
スポンサーである、
スポンサーの
立場から
放送内容に対して、
国民の意思というか、それを
発言するのでなければならないと言われましたが、
受信料を支払うから、
聴取者は会社でいえばいわば株主であるということも言えるのだと思います。そうすれば
NHKは
聴取者に対して、経理
内容をもつとはつきり公開すべきではないか、そういう点が、私ははたして値上げが妥当であるかどうかという判断をする場合に、十分になされていないと思われます。わずかに十七円の値上げであるから、大したことではないということが言われますけれども、率にすると三四%という大幅な値上げでありますし、月額にすれば一億九千万円以上、年額にして二十三億の増収になるわけでございます。総額は九十二億三千万円という
相当な巨額になるわけでありますから、この使い方については
国民として無関心ではおられないわけであります。先ほどほかの物価に比較して安いじやないかというようなことが言われましたけれども、すでに論議の中に出ておりますように、ほかの物価と同じような性質と
考えられるかどうか、またほかのものは、たとえば
新聞代が高いと思えば、三種と
つておるところを二種にすることもできる、買わないでいることもできる。そういうものとは性質が違うのであります。そういう点からも
受信料を検討する必要があると思います。
そういう経理
内容がはつきりして、それが納得されるということと、もう
一つは、
NHKの
使命といいますか、役割がまだほんとうにはつきりしない。このことがやはり
一つ大きな問題であろうと思います。
民間放送は幸いに順調に進みまして、
全国的に発展し、能力におきまして対等の姿とな
つて参りました。この間から
新聞紙上に
NHKの
受信料について、いろいろの
意見が
聴取者その他からあげられております。どうも両者の
放送番組の
内容にあまり差異がないじやないか。ところが
民間放送は
ただで聞かせている。従
つてNHKを聞いていない者でも
受信料をとるのはおかしいじやないかというような
議論があるわけでございます。従
つてNHKの
あり方をこのままにしておいて、
聴取料をとる現在の
聴取料制度は何とい
つても不合理である、そういう不合理をそのままにしておいて、その値上げを含んだ
予算あるいはその値上げというものを
承認することは、不合理をさらに拡大することではないか、そういうことになるのかどうか、これをよく検討する必要があるのじやないかと思うわけであります。
放送法は
民間放送が今日のような発展を予想されないで立法されたもので、
聴取料の
制度もまた今日のように
民間放送が
全国的になるという状態を予見せずしてきめられたわけです。そのために
放送法の改正問題が皆さんの間でも今問題にな
つておるわけですが、その核心をなすものは
聴取料の問題が
一つあると思います。そこでこういう改正の問題を切り離して、
聴取料の値上げを行うのが妥当であるかどうか。私は
NHKの
使命というものが全
聴取者にほんとうに了解され、そして経理
内容が明らかにされて納得される場合には、
NHKが
聴取料をとるということ、また場合によ
つては
聴取料を値上げするということを否定するものではありません。しかしいずれにしても、そういうような値上げの問題をきめる場合には、
NHKの
あり方、
使命というものを明確にする。それに基いて
放送法を改正するということがそこになければ、私は妥当ではないのではないかと思います。大体の結論的なことをそういうところにおきまして、ここにあります
放送法第三十七条第二項の
規定に基き、
国会の
承認をを求めるの件、この三十五ページから以下に郵政大臣が
意見書を出しております。私はこの
意見書についてごく簡単に
意見を述べて、私の
考えを述べてみたいと思います。
最初の
事業計画でございますが、この二十九年度の
事業計画の主眼とするものをここに幾つかあげられております。いずれももつともなことだと思いますが、この
事業計画そのものについても、
NHKの
あり方、
使命というものがどうであるか、
民間放送と一緒に長短相補
つて行く場合にはどうあるべきかということによ
つて、この
事業計画の重点も違
つて来るのではないか。たとえば
地域別放送の
充実であるとか、地方
放送局の建設というようなことがありますが、この
一つをと
つてみますれば、ローカル
放送というようなものは
民間放送にまかせるがよろしいという結論がもし出るならば、こういう点はまた違
つて来るわけであります。
第二の
収支予算、この
内容について私どもはむしろ
聴取者としてもいろいろ聞きたい点もありますが、それは省きまして、三十八ページの増加額のおもなる
内容を検討すれば次の通りであるというようなことで、第一に諸物価の値上りまたは業務量の増による増額、この二つがあげてございます。
聴取料というものは物価が値上りすれば上げるものであるかどうか、ここに
一つの問題があると思うのでございます。同じくここに各種公定
料金対戦前倍率という資料が出ておりまして、
昭和八年を基準として二十八年十二月現在の倍率調査、日銀の統計局の調べというのがありますが、これで見ますと、電灯
料金は百十六倍にな
つております。
ガス料金は二百四十七倍、その他ずつとあげておりまして、
新聞料金が二百八十四倍、
ラジオの
料金は六十七倍だ、こういうように、ほかのものに比較して非常に少いというようなことが上
つております。しかしさかのぼ
つて昭和八年を見ますと、
昭和八年に
聴取者の数が百七十一万四千二百二十三人であつたというふうに記録にございます。二十八年の十二月になりますと、これが千百四十五万二千二百九十九人、つまり
聴取者の受信戸数といいますか、その数を見ますと七倍というようにな
つておるわけです。金額にしますと莫大な数字でありまして、四百五十倍になります。しかも
民間放送が二十八年の十二月には
相当出ておりますので、かりにこれが半分とすれば、さらにそれが倍になるというようなことでありまして、こういうような数字の上だけでは、これが非常に弱いのだ、伸びていないのだということは言えないのじやないか。それからまた過去の
NHKの例を見ましても、大正十四年には
聴取料が二円でありました。十五年にはそれを半額にして一円にしております。それから
昭和七年には七十五銭に下げる。十年には五十銭に下げるというようなことで、
聴取者がふえればふえるほど下
つていいという例があるのであります。それからここに
新聞購読料の例もございますが、
新聞紙と
ラジオというようなものも、これも
相当の違いがある。ここにあります
昭和二十六年四月と
昭和二十八年三月、
新聞の方では七十五円から二百八十円というふうにな
つておりますが、この間に
NHKの方では
聴取者は九百七十一万から千百四十五万にな
つておる。月額にして片方は四億八千五百万、片方は五億七千五百万というようなことで、月額九千万円増加しておる。そういうような点でありますので、単にこの表だけで判断するということは、われわれとしてはできないのではないか。各国の比較では、最後にありますイギリスが八十四円、
日本が五十円で三十四円安いというわけには行かない。イギリスの個人の生活、
日本人のわれわれの生活というもの全体を見なければ、簡単に三十四円安いということは言えないのじやないか。
それから次に
給与の問題が出ております。
給与の増額及び定員というところに、この
給与によりまして四億五千五百万円以上ふえる。このべース・アツプについて私どもは決して反対するものではありません。
ただ民間放送のべースが非常に高い、
NHKはそれに比較して低いのだというようなことが言われているのは、これは必ずしも当
つていないと思うのであります。前
国会でありましたかべースの問題が出ましたときに、
日本放送協会の組合では二万二千円を
目標にしておる、そして暫定的には一万八千円ベースを要求するというような
お話があつたことを御
承知だと思いますが、そのときに
民間放送の方の労組の連合会でも、ほぼ同時期に大都市は二万二千円ベース、地方都市は一万八千円ベースというふうに、ほとんど
NHKと同じような要求をいたしているのであります。このことは当時
民間放送の方は二万二千円だというような
お話もございましたけれども、そうでないということをはつきりと現わしていることであ
つて、
民間放送のベースが
NHKより必ずしも高くないのだということを示しておると思います。なお
NHKの方は、これは北から南まで地方の全体すべてを含んだベースだと思いますが、
民間放送の地方の局というものは、まだ生れたばかりでありますし、非常に大都市の
民間放送の局員に比べますと
給与のベースは低いわけです。しかも
NHKさんの方は福利厚生
施設、住宅、医療
施設等、その他いろいろな点で問題にならないほど整
つていると思うのです。もちろん
民間放送としてもできるだけ早い機会に、いろいろの
施設の
充実をして行かなければならないわけですが、そして
民間放送ももちろん職員の待遇を能力に応じ、会社の実績に応じてどんどん講ずべきであると思いますけれども、
NHKが今申しましたように、
民間放送に比較して非常に低いというようなことで言われておるのは、必ずしも私たちの方はそれを妥当といたしません。むしろこの点も
協会の今定めておられる職種でありますとか、階級によりまして、また男女別によりまして、どういう人がどういうふうなものをと
つているかというようなものを、明らかにしてい
ただきたというふうに
考えます。
それから先ほどちよつと問題になりました出演
謝金の増額、これが四億円近いわけですが、これは
NHKの
使命とも関連しまして、すでに娯楽
放送の問題が出ました。
NHKは
文化の高揚を
目的とする高度の教養的
放送の
充実、そこに主眼を置くということは非常にけつこうであります。
NHKは娯楽
放送を全然廃止すべきであるとは必ずしも私たちは
考えませんけれども、同じ場面で争うということは、
電波の効率から
考えました場合に、できるだけ避けるべきである。むしろある
程度娯楽
放送というようなものも少くすれば、
謝金も高くできる、また値上げというものもまた別の面が出て来るのではないかと思います。
民間放送が高いといわれるのは、東京でかりにテープ録音いたしますと、これをあるものは地方へ持
つて行くのであります。そうしますと
NHKの場合は東京でやつたものが
全国中継されるわけでありますけれども、かりに
ラジオ東京でやつたものを大阪に持
つて行く、九州に持
つて行く、そういう場合の割増し
料金というものを
出演者が要求するのであります。それで、これは会社によりましてはほかの方にまわすということで謝礼を払つたものを、まわせないというようなことが起りまして損失をする場合もあるわけですが、しかしそういう割増しを含んでおりますために、高いという事情もあるわけでございます。これは先ほど夏川さんがおいでになられましたが、夏川さん自身が
民間放送には一ぺんも出たことがないと言われておる。これは
民間放送の実情などもよくおわかりの芸能人の方であれば、また違つた観点も出て来るのではないかと思います。もちろん
放送謝金というものは、
日本の芸術の
向上、その他の面からい
つてこれを不当に抑制するとか、そういうことは
考えるべきではないと思いますけれども、むしろ著作権
使用料とか、そういうものについては、現在は
NHKと
民間放送との間には非常に差別待遇があると
言つてもいいのであります。
それは余事なことになりますから抜かしまして、その五のところに
地域別放送、これに一億幾らの金がございます。これは先ほどもちよつと申し上げましたが、ローカル
放送というものは
民間放送にまかせる、
民間放送というものは、人といい、資本といい、その土地に密着した要素が強いものでありますから、その地域々々に即応した
放送が
NHKよりもよけいにできるわけでございます。これはすべての
聴取者の要求というものを、
NHKが全部満たすということはできない。また
民間放送がすべてを満たすということもできない。両者が長短相補い、両方で全体の要求を満たして行くというように、非常な協力
関係にあるべきだろうと思うわけでありまして、ローカル
放送はかりに
民間放送にまかせる、それからまたそのような維持
施設というようなものもそういう点で
考えるということになりますと、また違つた
予算の面も出て来る。もちろん全中においてローカル色を盛るということはできるわけでありまして、北海道のことを九州に伝えるというようなことはもちろんできる。そういう
意味で地方色というものは、全中において
NHKは大いに取上げたらいいだろう。このこともできないことではないだろう。
ただここにありますように、今まで三時間のものを三時間三十分にする、そういうような行き方がいいのか悪いのか、これはやはり
NHKの
使命とか役割とかをきめる場合に、問題になる
一つの点ではないかと思います。
それから先ほどちよつと落しましたが、定員は
NHKが八千三百四十五名、二十九年度が八千三百十二十名というふうにな
つております。これは私どもの方から
考えて冗員が多いかどうかという点が、まだ納得がいかないといいますか、たとえば
NHKの仙台中央
放送局、
民間放送の仙台にある東北
放送というようなものの従業員の数を比較しますと、
NHKは二百三十名、
民間放送は百一名であります。
NHKは、御
承知の通り地方局の
放送番組は、大部分は中央からの中継
番組であります。
民間放送の方は大部分が自社の編成の
番組であります。それにもかかわらず二百三十名と百一名というような点は、さらに合理化する点ができるのではないか。おそらく加入事務とか、そういうようなものがあるのだろうと思いますので、この内訳などにもよりましようけれども、その定員に冗員があるかないかというような点は、さらに検討さるべきではないか。
結局結論になりますが、先ほど申しました通り、そういうような状態を見ますると、
経営を合理化することによ
つて必ずしも値上げを必要としないのではないか、そういう点があるのかないのか、これをはつきりさせるために、もう少し
経営委員会ないしは
国民の前、あるいはこの
国民の代表である
国会の電通
委員会に対して、もつとはつきり明示する必要があるのじやないか。また
NHKの
使命をもつと明確にする必要があるのじやないか。そうして
NHKの
使命がほんとうに了解され、経理
内容が明らかにされ、納得し得るならば、われわれはこの値上げに反対ではない、そういうことを一応結論として申し上げます。