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中村(辰)
政府委員 今日
わが国の産業構造の重化学工業化と申されることが非常に注目されているのでございますが、このうち特に重要な問題につきまして御
説明申し上げたいと存じます。
重化学工業化の一つとして、すでにアンモニア工業の合理化の点につきましては、先般硫安に関します立法によりまして、五箇年計画の推進ということをねら
つているわけでございますが、そのほか特に有機化学工業といたしまして、国際的にも非常に注目される新化学工業といたしまして、特に二つの基幹的な産業について御
説明いたしたいと思います。
一つはすでに
政府が非常に積極的に種々の施策をいたしております合成繊維工業の発展でございますが、これにつきましては、
政府はすでに五箇年計画を作成いたしまして推進していることは御
説明申し上げるまでもございません。
資料について二、三この点に触れますと、合成繊維及び醋酸繊維原料工業の育成についてという
資料がございますが、これの二枚目に合成繊維の
生産計画並びに
実績の進捗
状況を示したグラフを載せてございます。グラフの方をごらん願います。ナイロン、ビニロンの計画並びに
実績の表が左側にございますが、ナイロンにつきましてはすでに計画を上まわ
つている
状況でございます。ビニロンにつきましてはいまだ計画の線に載
つておりませんが、ナイロンにつきましては特に
技術的な
進歩、
需要面における開拓ということが非常に進捗いたしまして、昨今は
輸出に
努力をいたす
状況に相な
つております。右の表はアセテート、ビニリデン
関係の計画並びに
実績でございますが、ビニリデンの方は
実績が計画を上まわりつつあります。アセテートの方はいまだ計画に達しておらぬといと
状態であります。しかしこれらの両グラフに示されております計画に対しまして、今日われわれの
見通しといたしましては、
業界の
努力によ
つてこの計画に漸次近づいて参るという期待を持
つているのであります。もちろんナイロン等につきましては、基本的にこの計画を修正するというような問題も
考え得られるのではなかろうかと思います。
合成繊維につきましての
説明はこの
程度にいたしまして、次に従来合成繊維ほど問題にされませんでしたが、しかも
有機合成化学として非常に
進歩しておりまする合成樹脂の計画につきまして御
説明いたしたいと思います。この案文は
説明の要はございませんので、数字について申し上げたいと思います。三枚日に、合成樹脂育成対策の対象とする樹脂の
種類及びその
生産目標という別表がございます。ここに五箇年後の
生産目標という数字が示してあります。これを昭和二十八年の
実績に対しまして、どの
程度の進捗をいたしますか、グラフにいたしました。これは一番最後の表をごらん願いたいと思います。ここに二十五年以降の
生産の伸び並びに計画を織り込んで、三十三年までの
見通しをグラフにしてありますが、塩化ビニール樹脂のごときは
生産が急速に伸びつつある。同時に新しい硬質ビニールでありますとか、食糧増産用、あるいは植林増殖用に使われる、従来バンド、バツグ等に示されたような身のまわり品でない、工業用と申しますか、建築資材といいますか、あるいは農林物資の
生産増強用としての
需要が開拓せられまして、このような進捗をいたしたのであります。尿素樹脂につきましても、非常な伸びを示しております。フエノール樹脂は、従来も相当ございましたが、これの品質改善その他によりまして、順次
需要の増を見ております。その下にポリスチレン、ポリエチレンというような樹脂の名前が出ておりますが、これは今後の新合成樹脂ということに相なるのであります。
それから右の方の小さい表にもございますが、メタアクリル樹脂あるいはポリエステル樹脂、珪素樹脂、弗素樹脂、こういうものは、やはり先ほどのポリスチレン、ポリエチレン同様に、新製品として今後に期待し得る樹脂である、こういうぐあいに
考えるのであります。
そこでこれらの合成樹脂、合成繊維が発達することによりまして、
わが国産業の自給度の向上という点について次の
説明いたしたいと思います。もちろんただいま申しましたような合成繊維あるいは合成樹脂は、石炭あるいはカーバイド等の国産原料の活用という点にございまするが、これらの自給度の上に貢献する点を、二、三申し上げたいと思います。合成繊維につきまして申し上げますと、これらの五箇年計画が実現いたしますと、これによりまして外貨の節約がどの
程度に実現いたすかと申しますと、綿、羊毛、麻等の輸入の抑制という形を通じまして、一億六千万ドルの節減に相なります。合成樹脂の発達によりまして、食糧の増産によります輸入食糧の外貨の削減というような期待を
考えまして、これが約四千三百万ドル、さらに鉄鋼原料でありますとか、非鉄金属その他の輸入原料の節約ということを
考えまして、これが最終年度におきまして五千九百万ドル、合せて合成繊維、合成樹脂の外貨面に対するプラスが二億六千万ドル
程度に達するものと
考えるのであります。しかしこれは
国内の輸入外貨の節約という点に貢献するだけでありまして、先ほど一言申し上げましたナイロンの
輸出、あるいは合成樹脂製品の今後の
輸出に対する貢献は数量的に計算しにくいのでありまして、ここでは申し上げにくいのでありますが、ただいま申し上げました外貨上のプラスに、さらにそれを加え得るということを一言申し上げたいと思います。
これらの合成樹脂、合成繊維のこのような発展に対しまして、原料供給上の問題に関連して特に今日国際的に問題にな
つております石油化学、あるいはレツペ反応によりまする合成化学、オキソ法反応によりまする
有機合成化学について、問題点を二、三申し述べたいと
考えます。以上申し上げた点で特に
わが国の既存の原料、特に石炭というものについて
考えますときに、石炭につきまして特に
有機合成化学の見地から今後の問題点として、現に
わが国の
事業家において検討もし、
技術導入についても検討を加えた問題の一つとしてオキソ法がございます。オキソ法は石炭をオレフインガス化いたしまして、これに一酸化炭素と水素の添加をして合成するレツペ化学の姉妹編に属するものでございまして、これによりまして工業アルコールをつくりまして、これをもとといたしまして各種の化学製品に誘導するのでありますが、これが長い
見通しの問題として、少し表現がとつぴな表現になりますが、石炭からバターをつくるというようなところにまで化学的に発展し得る新しい化学工業でございます。これにつきましては、先般三井化学が特に
関係会社の低級炭をもとにしてこの
事業をいたしたいということで計画もし、検討も進めておるという点でございます。
次に石油化学の点に触れますが、石油化学を
日本で興す必要があるかどうかという問題でございますが、先ほど申し上げたナイロンの
生産について、これを必要とする理由について申上げておきたいと思います。ナイロンの
生産に絶対に必要でございます石炭酸の供給でございますが、この石酸の供給は、
わが国の原料としましては鉄鋼業の
生産規模、鉄鋼業の副産物としての化学製品、化学のタール製品、こういうものの量にデイペンドしておるのでございまして、今日以後のナイロンの
生産を満たす石炭酸は、実は鉄鋼業の銑鉄
生産が五百万トン
程度の
現状から行きますると、合成繊維としてのナイロンの今後の伸びには対応し得られないのでございます。アメリカにおきましては鉄鋼業の伸びが大体累率三%ぐらい、合成繊維、合成樹脂等の部門におきまする
需要増が一五%ぐらいのテンポで進んでおりまして、アメリカとしては戦時中この鉄鋼業の
生産規模ではこれらの新化学工事を育成し得ないということで、石油化学というものが特に重要に相な
つて参りまして、アメリカでは今も非常な石油化学というものの発達を見ておるのであります。有機化学工業のうちに占めます石油化学のウエートというものは、八三%に相な
つておる
状況でございます。
わが国の
実情からいたしまして、ナイロンを例にとりましても、今申しましたようなことでございまするし、同時に他の合成樹脂、特に今後
生産を増強しなければならぬと申し上げました合成樹脂の、たとえばポリエステル樹脂でありますとか、ポリスチレンといつたような
関係につきましては、石油系の原料によ
つてこれを実現することが必要でございます。この点からいたしまして、今後の
有機合成化学工業として合成樹脂、合成繊維というものを
考えますときに、石油化学工業の必要が特に緊切にな
つておることを申し上げたいのであります。
石油精製の
現状と石油化学との見合いの問題になりますが、現にアメリカ等でや
つておりますシエル等の石油化学は、副生ガスを中心にしてこれを量産しておるという
状況でございますが、この規模が日産十万バーレルあるいは二十万バーレル、こういつた大きな石油精製工業の副産物としてのガスを利用するところに、これらの化学工業の実態があるのであります。
わが国におきましては不幸にしてそういつた大きな精製工場を持
つておらないのであります。しかし
現実に石油化学工業をやります方式として
考え得られますことは、この副生ガスから参りませんで、重油とかあるいは中間の製品を抽出するとか、あるいは分解するとかいうことによりまして、適正規模の石油化学工業を興すということであります。そのような方途に従いまして、順次用途
関係によります
需要量に対応した石油化学工業を興して参りたい、こういうぐあいに
考えておるのでございます。これに要します一つの
——四千バーレル
程度の日産でございますが、現にございます石油精製工場に、分解装置を加えることによりまして、これらの、先ほど申し上げた五箇年計画の推進にさしあたり必要な石油製品を
生産することができるというぐあいに一応
考えておるのでございます。この四千バーレル
程度の
生産規模でやりました場合に、原油としての所要量は約四万トン
程度でございまして、私たちが
考えておりまする原油の現在の輸入
状況等から見ますと、きわめて微々たるものでございます。もちろんこれだけでは先ほどの五箇年計画遂行上まだ少し不足いたしますので、これを倍加する
程度の規模、すなわち年間十万トンあるいは十五万トン
程度の原油をこの石油化学工業のために使うということで、先ほど申し上げたような五箇年計画の完全なる遂行ができるのではなかろうか、こういうぐあいに
考えるのでございます。
なお石油化学のほかに、先ほどレツペ反応化学の問題について申し上げましたが、レツペ化学につきましては特に重要な四つのテーマがございます。ビニール化、エチニール化、カーボニール化及び環重合化反応、この四つのアイテイブがレツペ化学の中心でございますが、これにつきましては、すでに
わが国の化学
会社が
技術的に研究を加えておりまして、通産省としましても、これの試験研究の助成等について補助をいたしております。この四つのうちエチニール化は、合成繊維とかあるいは合成樹脂の面の
技術的な基礎をなすものでありまして、私たちとして特に重要だと
考えております。なおそれ以外カーボニール化あるいは環重合化反応というのは
目下学者が非常な
努力をして検討しておるものでありまして、特に環重合化反応としましては、最近問題を投げかけておりますニプロンの合成繊維
製造の基礎をなすものでございまして、この点について私たちとしても積極的にその実現をはかりたいと
考えているものであります。カーボニール化のうちで特に合成繊維に
関係の深いものとしてアクリル酸エステルというものの
生産とアセチレンとの化合という問題、これがやはり
わが国の新合成繊維として将来伸びるであろうと
考えます。オーロン系の合成繊維を実現したいということで、これにつきましても化学
会社が積極的にその実現をはかりつつあるということにな
つておる
状況でございまして、この
技術の向上ないし導入を積極的に推進いたしたいと
考えておる次第であります。