○蜷川参考人 本日
地方財政の現在非常に困
つている実情について御聴取いただける機会を得ましたことは、まことにありがたいことで厚くお礼を申し上げる次第であります。ただ土曜日の夕方急に御連絡あ
つたものでございますから、広く調べている余裕もなく、もつばら
京都府の事情について申し上げることになると思いますが、この点御了承をいただきたいと存ずる次第であります。
今日
地方財政が非常に窮迫いたしまして、いろいろ問題持
つておりますが、その問題は結局二つに帰するわけであります。
一つは、この二十五年の平衡交付金
制度並びに
地方税
制度を二大支柱にいたしまして、
地方財政の大転換をいたしました、これ以来各
府県に起
つておる赤字であります。これをどうや
つて解決し、解消し、そうして
地方の
財政を再建するかということが、
一つの問題に
なつておるわけであります。第一は、これは焦眉の問題でございますが、ただいま
委員長からも御指摘ございました
ように、
府県によりましては、特に
京都のごときはま
つたく職員の
給与が支払えない。七月は、わずかにその半分を七月の十六日に支給して、その金策ができたらば、あと半分を払うということで
努力している
ような実情でございます。新聞によりますと、他の県におきましても
給与の支払いが延びたり困難なところもあるやに見ておりますが、これは結局どこに
原因するのか、ただいま
委員長の御質問に率直にお答えいたしますならば、第二の焦眉の問題である
給与の支払いにも困難をしているということは、この四月から当然なさるべき各
府県におけるほとんど季節的変動とも見られる
ようなその一時借入金がとめられているということであります。各
府県いろいろ事情が違いまして、
京都の
ようなところは七大
府県の中に入
つておりますがそれの一番しりつぼにあり、しかもその他の
府県の上にあるという
ような、ち
ようど
地方財政の谷間にある
ようなところでございまして、
従つてその大きな
府県の
ようにも行きませんし、またほかの
府県の
ようにも参らない実情があるわけであります。
京都市という人口百十二万の大都市をかかえていながら、
京都市そのものは非常に古い都でありながら、近代的な工業都市でございませんので、もつぱら伝統的な産業である染織であるとか、西陣織であるとか宇治茶であるとか、その他の手工業を中心にして生きている町であります。その他はま
つたく文化、芸術その他の消費面の問題である。従いましてこういうところにおきましては、大法人もなく法人税に多く依存することはできないことは、大阪や兵庫あるいは愛知、神奈川、福岡等と非常に違う点であります。
それからもう
一つ、中小の県におきましては御
承知の
ように、いわゆる自己財源でまか
なつているというのは、みな五割以下でございまして、わずかに七大
府県が五五%以上を自己財源でまか
なつておる。その他の
府県は少くも三十九
府県近くのものは、ま
つたくこの三〇%あるいは四〇%という
ようなものを自己財源でまか
なつているという
ような実情であります。たとえば大体標準
財政規模で比較してみますと、非常に
京都府に近いのは福島県であります。ところがその二十五年、二十六年、二十七年の標準税額を見ますと
京都府が百二十億近くであるのに福島県はわずかに三十億であります。そういうふうに自己財源、特に税に依存している程度というものは、三十九
府県におきましては非常に
京都と違うわけです。また七大
府県とはま
つたく違うわけであります。
従つて現在、いわゆる一時借入金がなくて困るという場合にも、自己財源に依存する程度の低いところにおきましては、国庫支出金だの、それからまた、もし平衡交付金の前払いが早くできますなら、それだけで救われるわけでありますが、
京都の
ように平衡交付金なんぞに依存することが少く、
従つてもつぱら税をとらなければならないという
ような
府県におきましては、一時借入金がとめられるということは、これはもう全然、赤字があるなしにかかわらず、
財政はまかなえないわけであります。昨年におきましても、大体六月ごろにおいて、資金運用部の資金を九億くらい融通していただいてまか
なつてお
つたわけです。ことしはそれがわずかに資金運用部の資金が二億、簡保の資金が二億、四億しかないのであります。
従つて現在のところでは、全然
給与が払えないというわけであります。こういう点について、現在焦眉の問題として、
京都府に似た
ような事情における県が、金繰りに困
つているわけであります。そこで私
どもは、それじやそうなることは今急に六月、七月に
なつてから払えなく
なつてから大騒ぎするのはおかしいとも考えられるのでありますが、私
どもはこれは昨年から見越してお
つたわけであります。おそらくこの二十八年の秋ごろからは金融引締めを断行されるであろう。
従つてできるだけそうした面に対応する措置を講じておかなければならないと思いまして、二十八年度の
予算において、これはほとんど世間から非難されるほどのはげしい
財政の縮小を行
つたわけであります。そうしてまた、教員が約一万二千でございまして、それから府庁の職員が四千二百七十人ばかりでありますが、約一万七千の教職員、府庁員をかかえているわけであります。ところがこういう人々の中で、老齢あるいは高給の方であ
つて、隠退後別に生活に困らないという方があるならば、できるだけ後進に道を譲
つてほしいということをいたしましたのですが、実はわれわれは、
政府がなさる
ように特別退職金その他の金がやはりないわけであります。でありますから、自分たちでかき集められるだけかき集めまして、そうして
政府の方へもお願いして、教員の方もやりたいというので、お願いもしてお
つたのですが、
ようやく府の職員で非常な年寄りを五十人しりぞいてもら
つたわけであります。いよいよこれから教員の方にお願いをし
ようというときに、御
承知の
ような南山城の台風の災害が起りましたのと、また九月には十三号台風の災害がございまして、もはや人員整理その他のできない事情になりまして、今日に至
つたわけであります。従いまして、私
どもとしては、二十七年の暮れからこの用心をして参
つたのでありますが、
知事としての能力の欠けておりますために、こうした事態に至りまして、何とも申訳ない次第だと考えておる次第であります。そこで現在のところ、何にいたしましても、
府県が困
つておりますのは、そうした
財政上の季節的変動である四月から八月までにおける資金の
不足をカバーするために、どうかそうした資金運用部の資金なり、簡保の資金なりを、私
どもは今七月に二億、八月に二億合せて四億——ほんとうは六億必要なのでありますが、あらゆる
努力をいたしまして四億、おそらくその他の
府県でも三億、四億の資金が融通されますなら、この危機は切り抜けられると思うのであります。そうして九月、十月ごろから
財政は安定して来る。何となればそこから個
人事業税が入
つて参りますから、そういう点でわれわれは今お願いしているのです。これは赤字とは何ら
関係はございません。しかしながら私は二十二日以来、
方々お願いに上
つておりますと、お前のところは赤字がひどいんだから貸せない、赤字をどうするかという方策を講じて来いと言うのでありますが、職員はもう今月
給料をもらえなければ参
つてしまうのでありまして、赤字の対策——赤字を出したからこの資金の運用に困
つておるのでございませんので
一つの
財政的な季節的変動ですから、この点は御容赦を願いたいと思
つておる次第であります。
しかしながら、第一のそれではなぜ
地方は赤字を出したかという点を申し上げたいと存じます。これにつきましては二十五年に御
承知の
ように、
地方税制と平衡交付金
制度を二大支柱にいたしまして、
地方財政制度が大転換いたしました。それで
地方はこの
制度にのつと
つて、
地方の
財政を運営して行くべきであるのであります。それで私
ども知事がこの
制度をよく適用できなか
つたという点は、
知事として大いに反省しなければならない点であると存じておりますが、同時にこの
制度自体も十分検討せらるべきであるというのが、私
どもの考えであります。ではどういう点にあるかと言えば、これは当時制定せられましたときに、参議院のお招きを受けて、この平衡交付金
制度における考え方の問題と計算方法の問題と具体的な
資料の問題と、それが
地方の
財政に及ぼす影響の問題と、四点にわた
つて私はお願いをしたのでございますが、その後四年間にだんだんに改善されたとは申せ、多くの問題を含んでおるわけであります。それは二十五年という年は、非常に経済の危機の迫
つた年でありました。それで中小企業も農村も非常に弱
つているときでございましたが、幸いであ
つたか、あるいは不幸であ
つたかいずれにいたしましても二十五年の六月に朝鮮動乱が起り、この朝鮮ブームの影響というものが相当あ
つたわけであります。でありますから、大体大工業の下請工業をしている部面まではその影響がございましたから、二十五年あたりにすでにみんな各
府県は
財政的によたよたしたのでありますが、二十六年に、二十五年に起
つた朝鮮ブームの影響を受けて、かなりそこでも
つてバランスをとり得た
府県があ
つた。そしてその場合におきましては、
政府で計算いただいた基準
財政収入額を非常にオーバーする
ような収入のあ
つた府県もございまして、二十五年の赤をそれでうまく消してお
つたわけであります。しかしながら二十七年にはもうそれが続きません。でありますから、二十五年には繰上げ充用をして、ほんとうの意味の赤字を出したのは、たしか四団体ぐらいであ
つたと思いますが、それがもう二十七年には三十一団体にまで進むという状態でございました。おそらく二十八年の決算見込みで見れば、もつとふえているだろうと想像されるわけでございます。その理由は、
一つは税制におきまして、個
人事業税あるいは遊興飲食税あるいは入場税という
ようなものにおきまして、
京都では非常にこの税が困難である。大阪の
ようなところにおきましては、大工業に依存する中小企業のところでございますから、かなりそのいい時期でございましたし、それから法
人事業税の末端にまで及ばないでもかなり過せる。ところが
京都の
ように、ま
つたく伝統的な産業であり、問屋に依存する
ような零細企業でございましては、日雇い大工の外資まで差押えなければ税がとれないという
ような、二十五年あたりは実情でございました。私
どもはそういう
ような悲劇はとめさせまして、あらゆる点で合理的な税をとる
ように
努力いたしましたが、なかなか標準税額に及びません。二十五年、二十六年、二十七年の三年間の累計で見ますと、もうすでにそこで八九%ぐらいしか標準税額に対してとれておらない。お手元に差上げました
京都の
財政状態を一般に書きしるしましたものの表の中にございますが、標準税額については八九%ぐらいしかとれておりません。それで、よく世間では、
地方が貧乏するのはむだが多いからだ、濫費をしているからだという御批評があるわけでありますが、少くも
京都府のその例で見ていただけます
ように、標準
財政規模に対して一〇一%、わずかに一%オーバーしているだけでありまして、平均が七大
府県で一〇二%という状態であります。従いまして標準税額と平衡交付金と目的税その他の税とそれから企業収入と合したものを標準
財政規模に考えますならば、ほとんどその標準
財政規模に近い運営をしておる。それにかかわらず赤字を出すということは、結局基準
財政収入額が過大に見積られているということしかないのであります。特に
京都府の場合におきましては、遊興飲食税が標準税額の五二%ぐらいしかとれておりません。これはま
つたく私
どもの力足らざる点でもございますけれ
ども、
京都の古いそうした業者の経営は、新しい遊興飲食税の
ような課税対象としては非常にむずかしいのである。それから、最近におきましては飲食物が五十円以下のものは非課税になりましたけれ
ども、当時におきましては、ラムネを売る家、ぜんざいを売る家におきましても、遊興飲食税をとる。これらをぎゆうぎゆう取上げても金額においてはわずかなもので、片一方は払えるんだが、払う
ような課税対象はなく、
従つてお茶屋さんだの大きなお料理屋さんなどでは、国の方で所得税を調べると非常に大きいものですから、それから売上げが多いはずだと算定されるのでありますが、これは所得は多いのかもしれませんが、遊興飲食税の対象になる
ようなものは少い。ここが
京都の前資本主義的な経営をや
つている店の特徴ではないかと私
どもは思
つておるわけであります。こういうふうに赤字を出して来たというものは、もつぱらこの標準税額に及ばざる税収に
原因する。これは各
府県におきましていろいろ事情はございますが、何かの税にからま
つてそれがあると思うのであります。
それから第二には、基準
財政需要額を算定されまして、私
どもが一般財源を使うのと比べてみますと、たとえば教育費などにおきまして、この基準
財政需要額で計算される率が非常に低いのであります。特に義務教育などになりますと、基準
財政需要額をわれわれが一般財源でまか
なつておるものを、分母にして割
つてみますと、八〇%ぐらいであります。言いかえてみれば二〇%はどうしても
府県費を持ち出さなければならない。二分の一国庫負担になりましてよほど緩和されましたが、それにいたしましても、二十八年が三億五千万円、二十九年も予想いたしまして三億四千万円程度の純府費を持ち出さなければ、義務教育はやれないという実情であります。
京都府の特別な事情といたしまして、すでに各方面から御指摘をいただいているのは、そういうふうに教育費が高いのは結局先生の
給料が高いのであるという御批評であります。府庁員について見ますと、お手元に差上げております表でおわかりの
通り、全国平均を一〇〇といたしますと、大体一〇六%ぐらいになります。それから小学校の先生を見ますと、これも全国平均を一〇〇とすると、
京都府は一一一・六ぐらい、すなわち一一%高いという
ような点が問題であります。
従つて京都府の赤字はどこから来たかといえば、いろいろございますけれ
ども、根本は遊興飲食税における過大見積りと申しますか、あるいは私
どもの
努力が足りないで、五〇%内外しかとれなか
つたということ、そして年々三億以上の歳入
欠陥を出してお
つたということと、それから先生の
給与が一般的に高く、そのために四億、五億の府費を持ち出して行かなければならないという
ようなところにあ
つたと思うのであります。しかしながら皆様方に御指導を願わなければならない点は、
知事がいかにこの古い先生と新しい先生、高給をとられる先生と学芸大学を出たばかりの先生、それと交流さしたいと思いましても——大体古い先生一人やめていただくと、新しい先生三人が採用されるわけであります。でありますからこれをしたいと思いましても、
知事には何ら
人事権がないのであります。そこでま
つたく
知事といたしましては、教育
委員会にお願いする以外にはない。教育
委員会にそれをやる気がなければ、いつまでもやれない。戦争後におきまして、
地方行政機関としていろいろな
委員会ができました。これはみんな独立の
機関である。
知事はただそのお台所を受持つだけであ
つて、その
予算の執行も
人事もほとんどが、その各
委員会でなされるわけであります。先ほど来問題に
なつておりました
警察につきましても、これは教育
委員会と違いまして、
予算の二本建ということは、
公安委員会が
予算の提出権がございませんから起りませんけれ
ども、結局われわれは何となしにやはり教育
委員会と同じ
ような苦労をなめなければならないのではないかということを私
どもは心配しておるわけでありますが、これは
公安委員会の
委員の
方々及び
公安委員会の運営において御考慮いただければ、この心配は雲散霧消することは信じておるわけであります。こういうふうに最近におけるいろいろの
委員会制度によ
つて知事の権限ではどうにもならない、
予算の節約やあるいは
人事の
異動のできませんために、あれよあれよとい
つているうちにどんどん赤字がふえて行くというのが実情でございます。そこの点で世間の批評はたいてい二つございまして、
知事が大体
府県費を濫費しているのではないか。しかしこれは標準
財政規模、それは全国
府県が出ておりますから、それと御比較いただけば、
知事が濫費しているかどうか、これは
はつきり否定されると思います。それから
地方公務員の
給料が国家公務員より高過ぎるということがありますが、これは高過ぎるかどうかということは何を基準にして比較するかということが示されない限り、にわかに聞き得ないと思うのであります。質の違うものをただ量的に同じ
給料という貨幣額で現わされているからというので、その貨幣額を比較することによ
つて、高いか低いかということはちよつとわれわれとしては聞き得ないわけであります。しかしながら
京都府の
ような場合は、全国平均に比べて高いということは事実で、そしてこれは確かに
人事交流を行わなければならないと存じますので、私
どもは
京都市の教育
委員会にお願いいたしまして、
人事交流をはか
つていただく。同時に年と
つた方々がやめていただけるだけの条件をつくりたい。そのために約四億五千万円の退職金に充てる金がいりますので、その半分くらいもまず融資をしていただいて、そうして三年ぐらいの
期間で整理するか、あるいはもつと短かい
期間で全部処理するかということは、
政府から融資していただける状態によると思います。よく
政府側からも
地方が人員の整理も何もしないで、手をこまねいていると言われますけれ
ども、こまねいているのでなしに、退職される方に生活の安定をはかるだけの退職金を出す資金を持たないからであります。どこでもそういう点では苦労しておるのでございまして、ただいまのところ私
ども京都府におきましては、教育
委員会について聞いても、また先生方に伺
つてみても、また教員組合に聞いてみても、皆さんは、
人事の交流を六年間も
京都市はや
つておらない。これをやらなけば教育上にもさしつかえるという御
意見で、私はこの時期が来るのを待
つております。二十七年の暮れから啓蒙宣伝に努めて、二十八年の八月の半ばにこれを行おうとしたのが、台風のために今年に延びたわけでございます。でありますから、われわれとしては何も急に今あわてているわけではございませんが、短期融資のないために非常に苦労している次第でございます。
国会の方のお力によりまして、四十六都道
府県の大部分が、今その一時的な資金融通に困
つておりますので、この点御打開いただければ、われわれとしてはまことにありがたいと思う次第であります。