○宮崎参考人 御質問にお答えを申し上げます。
八幹部の捜査に至ります前に、
警察の能力のことについていろいろ
お話がありましたが、私
政府の方で言
つておられるのに同惑のところも一部あるのであります。非常に小さな
警察で、能力としても考えなければならぬというようなものがなくはないと思うのであります。しかしそれをいいことにして、
自治体警察全般を非能率だというように言われることには、私全自警を代表して遺憾の意を表したいと思うのであります。自警の中にもなるほど非能率なのがあるかもしれません。しかしながら私は国警の中にもう一層非能率なのがあるということをいろいろ知
つておるのであります。これはあとで問題が別にな
つて出て来ると思いますから、そのとき詳しくお答えを申し上げることにいたします。連絡協調の点におきましても、私必ずしも万全だとは申しません。しかしながらある
程度の
規模の
自治体警察は、十分の連絡と協講をと
つてや
つておるはずであります。国警長官は過ぐる日自由党の総務会等で、治安情勢を詳しく御
説明に
なつたようでありますが、そういう情勢の最も激烈なるところ、大事なところ、大部分こういうものは、実は
自治体警察が差上げておるところと確信をいたしております。
従つて連絡が悪く、協調が行われていなかつたならば、あれほどの御報告ができるはずはないのであります。
従つて連絡協調を基調にして自警と国警が、今日まで国家治安のために異常の努力をしておる結果、初めてああいうりつぱな御報告ができたのであろうと思
つて、長官の御報告があるごとに、実は自警の者としても非常に喜んでおるのであります。お互いにやつたかいがあつた、少くとも齋藤長官が大きな顔をしてやられてよかつたと、かように思
つておるのであります。齋藤長官が情報をとられて報告をしておられるのではなくて、事実共産党の活動の中心地は大体六大都市その他自治警の部分であります。それがうまく国警に連絡せられておるからこそ、長官が全国をまとめて
いかにも国警本部がや
つておるようにおつしやることができるのであります。これは連絡協調が
いかにうまく行
つておるかということを証明して
余りあるものだと、かように私は考えております。ほんとうに国警長官が自分の手でとつたものだけをお出しになるならば、私の方でもひとつそれでや
つてみよう、そう考えております。私はそういう重要な事件については、自警と国警との間にいささかのみぞもない、警視庁と国警、六大都市と国警、あるいはその他の大都市と国警の間に重要な問題に関する連絡協調については、決してみぞがないということを申し上げたいと思うのであります。
従つて長官が国警の努力によ
つてとつたがごとく報告せられておるものは、大部分あるいは主要な部分において、
自治体警察が貢献しておるということを申し上げたいと思うのであります。
八幹部の捜査でありますが、八幹部の捜査をしなければならなかつた当時というのは、必ずしも現在と
状況が合
つておらぬのであります。まだ非常にこんとんとした事態から、ようやく抜け切ろうというときであつたのでありますが、あの潜行が始まりましてから私の受持
つております名古屋市内だけにも、八幹部のあるいは紺野与次郎あるいは長谷川浩、こういうような人たちが潜行したという情報を得たことは数回あるのであります。その都度特別な捜査をいたしまして周密な捜査をした結果、大体名古屋にいないことは確実だろうということがわかつた際に、初めて捜査の手を抜いたのであります。たまたま九月の下旬、大阪から連絡がありまして、紺野与次郎が名古屋市にどうも潜入して、もぐ
つておるらしいという情報を得たのであります。今まで数回そういうことを繰返して、その都度特別捜査をしたのであります。特別捜査をしたいろいろな苦心談なり方法については、これは今後もまた行わなければならぬときがあると考えますので、こういう席で一々申し上げるのは
いかがかと思いますから、その点は省略させていただきます。しかし大体皆様方がお考えにな
つてもお考えつきにならぬであろうと思われるような方法をいろいろ講じて、とにかく大体これならば名古屋におらぬという自信を持
つておつたのでありますが、最後に情報を得ました九月下旬の場合には、また捜査をいたしております場合に手ごたえがあつたようであります。手ごたえがあつたところが、どうも人物が違いそうだということがわかつたのであります。大体これは紺野与次郎ではない、人相が違うということから、これは春日正一のようだということがわかつたのであります。春日正一だということになりますと、いつどこにどういうふうに動くかということを見なければならぬのであります。その
方面の手配をやつたのであります。非常に周密な
計画を立てて
相当の人を動かしたのでありますが、幸いなことには、その年の十月の二十五日ごろでございましたか――春日をつかまえたのは十月七日でありますが、十月の二十五日ごろ両陛下が名古屋に行幸啓になられまして国体が行われることになりました、
従つて、幹部が集合していろいろ相談をいたしておりましても、行幸啓の相談をしておるということで、ごまかしをして、行幸啓のことに装
つてや
つておつた部分もあります。それは最後の二、三日のところであります。大事な打合せは私らも庁内でほとんどや
つておらぬのであります。私も公安部長も警備課長も、すべて日常の業務をや
つておるような顔をして、必要な連絡は大体別の所で――共産党がや
つておると思われる方法によ
つて、こちらもやつたのであります。
従つて、新聞社の諸君は非常に目も鼻も耳も鋭いのでありますが、その諸君も実は全然気がつかないでおつたのであります。大体人を確認することができました。それは確かに間違いはない。それじやおるときに入り込まねば
いかぬし、逃げられてはたいへんだ。ところがどうも出歩いている節があるので、あき巣をねらつたらたいへんなことになるというので、今度はおる日を確認をしなければならぬ。その手をまた使つたのであります。ようやくきようは確かにおるというので、夕方から出られないように、逃げられないように要所々々に見張りをつけて、人に目立たないように、向うがそういう人を立てておつたらたいへんでありますから。そういうこともや
つて手をつけたのは真夜中の十二時過ぎでありますが、結局うまくつかんだのであります。上手に行つたと思いますのは、町の一角をまず包んでしま
つて、それが完成して今度は家を包む、家を包んで初めて中に入
つて行くという式でやつたのでありますが、春日本人は非常に自信を持
つておりまして、絶対に否認ができると思
つておつたようであります。にせの通行証というか、乗車券、定期券、こういうものも持
つておりますし、
ちよつと見にはこまかされるところであつたのでありますが、私の方に非常に気のきいた鑑識課員がおりまして、もし本人が逃げるようなら、ひとつその場で手相を見てやろうということで、最も指紋に明るい鑑識員を二人連れて行
つておつたのであります。その諸君は右手の指紋番号と左手の指紋番号を覚えておりまして――私の方の幹部が行
つて起してやつたところが、全然人違いのようだというので、実は捜査の主任はこれはやりそこ
なつたかなと思
つてどきりとしたそうであります。ところが幸いに連れて行
つておつた指紋係に、これは人間は間違いないと思うのだが一ぺん見ろと言
つて、手を出せと言
つて出させたところが、そこで初めてぶるぶるふるえ出したそうであります。それまではもう泰然として絶対に逃げられるつもりでおつたようでありますが、手を出せと言
つて現場で指紋を見出したところが、どうも間違いがない、それでこうや
つて主任をつつついた、指紋がぴつたり合
つているというので頭を下げたのであります。すぐに私はそのことを大阪の総監と東京の総監に直接電話をいたしまして、名前を告げたら悪いというので、名前を告げないで指紋の番号で右手どういう番号、左手どういう番号、そういう者を今つかんだということを知らしたのであります。その晩はある所に隠しておきまして、あくる日すぐに横浜の方に送つたわけであります。送りましても新聞社はまだ気がつかないでおつた。朝私らが出ましても、普通の時間にみんな出て普通の
通りにや
つておるから気がつかない。ところがあるよそのところから漏れて参りまして、春日をつかまえておつたじやな
いかということで大分責められたことがあります。決して私
自治体だからつかまらぬというようには思わぬのであります。非常に彼らももぐり方がうまいので、必ず百発百中というわけには行かぬかとも思いますが、一本にしてお
つてもこれはつかまるとは保証できない。結局みなが努力する、その努力が報いられるかどうかの問題であ
つて、一本にすればつかまるなんというような簡単な問題ではないと思うのであります。もう一つは、戦争前と戦争後と比べまして、非常に
警察の能率が落ちたように言われる節がありますが、実際は、犯罪の捜査につきましても現在の捜査上の手続は、非常に民主的にな
つておりまして、
いかに人権を尊重するかあるいは無辜をなくするかという
方面に至らざるなき法条が設けてあります。戦争前には
警察の側で悪用することのできる執行法がありまして、非常にそれを悪用した例があります。
従つて、同じ人間がや
つておりましても、捜査上の能率を上げるということについては、法律の
建前からなかなかそう簡単に行かぬと思うのであります。そういう
意味で、戦前の能率と現在の能率と比べて、あれほどやかましい人権尊重の規定があるのに現在ほど効果を上げておれば、日本の
警察は著しく進歩をしておるものとかように私は考えております。特に
自治体についてはさように考えるのであります。せんだ
つて東京の最高検察庁に参りまして、検事総長と
次長検事さんにお会いしていろいろ
お話を聞いたのであります。大都市の犯罪捜査については
いかがでございますかということを聞いてみましたところが、戦後
独立した当初は必ずしもよくなかつた、しかしもうこの二、三年は非常によくな
つて戦前にも劣
つていない。大都市の
仕事は非常にうまく行
つている。もししかるべきところから大都市の成績は
いかんというようなことを聞いて来られたならば、いつでも回答をいたすつもりでおるというようなことを言
つておられました。小さな
自治体警察で、市長さんも議会もやめたいというところもなくはないのであります。そういうところに当てはまるあまり能率が上らない、あるいは一本でなければできぬというようなことを非常に言
つておられますが、そういうことは実は
根本的のことではないのじやな
いかと思うのであります。今度の
改正が非常に
根本に触れておるにかかわらず、あげられておる理由はすべて枝葉末節とは申しませんがきわめて技術的な問題であります。こういうことは、何も
根本をいらわなくても、国警でいろいろ考えておられる方法、自治警でいろいろ経験によ
つて知り得た方法で、十分打合せをして打開をすることができるかと思うのであります。私は今度言われておることかうまく当
つておるというようには必ずしも見ておりません。