○大瀧
公述人 私ただいま
委員長から御紹介いただきましたラシヤ商組合の大瀧であります。当
委員会が私
ども業者をお招きくださいまして、この
繊維品の
課税についての
公聴会を開かれたことにつきまして、厚く御礼申し上げます。
今
入場税に関しまして
藤原さんがいろいろお話にな
つておりましたが、
藤原さんはこういう席はおなれにならないまでも、何千人という人の前へお立ちになるということはなれているだろうと、私も非常にうらやましく
感じました。私は単なる毛織物、ラシヤ、すなわち洋服生地でございますが、これの小売
業者でありまして、こういう席は生れて初めての経験でございますので、申し上げることもお聞き取りにくい点があると
思いますが、ただ私の
業者としての二十一年の経験から、この法案に対する考えを申し述べさせていただきたいと
思います。
この
法律案を私
どもが拝見いたしました場合に、理由といたしましては、奢侈的
消費の抑制と国際収支の改善ということがうた
つてございますが、内容を拝見いたしました場合に、
奢侈繊維品といたしまして、広幅織物、おそらくこれはほとんど毛織物でございましようが、これの奢侈としての限界を一ヤール四千五百円と規定してございます。それで私
どもが考えますと、ただいまの春とか夏とかはすぐどうということは少いと
思いますけれ
ども、今年の冬ということを考えます場合に、実際に
消費者が洋服として着て長持ちをする、実用的であるというようなセビロ服地ないしオーバー地が、これによ
つて相当
課税されるという結果になると考えるのでございます。安い品物ですぐだめにな
つてしまう毛織物を使うことが望ましい、奨励したいということであれは、もちろん論外でございますけれ
ども、国民に丈夫な、実用的洋服をより以上着せたいという
意味から言いますと、この四千五百円ということに対しては、相当無理があると私は考えるのでございます。安物買いの銭失いということが昔からいわれておりますけれ
ども、結果は安物買いの銭失いを奨励することになるのではないかと私は心配するわけでございまして、何が
奢侈品であるかということは、その必要の
価格ということよりも、それから割出されるところの実際の使用価値という点を考えなければならないのではないかと考えるわけでございます。それで四千五百円という点によりまして
奢侈品の
課税を万一いたすということになりました場合には、結局源泉所得税によりまして、毎月月給からはつきりと
税金を差引かれております大部分のサラリーマン、洋服階級がこの高い洋服を着るということになりまして、いわゆる大衆
課税と申しますか、ほんとの金持ちがこの
奢侈品に対して
税金を払うということでなく、大部分の洋服階級がこの
税金を
負担しなければならないという結果になると私は考えるわけであります。それから毛織物と申しますと、冬は大体必需品であることは、皆様御存じだろうと考えるのでございますけれ
ども、
価格によ
つて奢侈品をきめたということになりますと、おそらく夏物というような毛織物には奢侈税がかからないことになるわけでございまして、毛織物の最も実用的であり、実際に必要であるという冬季の冬物の場合にこれがかかるということは、同じ国において夏の毛織物には奢侈税がかからぬ、冬物の実際に必要な時期に至
つて奢侈税がかかるというような、だれが考えても不合理なことが起きると考えるわけでございます。
それからこの提案理由の第二番目にうた
つてございます国際収支の改善ということでございますが、この一面をわれわれしろうととして考えましても、輸出の振興がこの大きな面を
負担するのではないかと思うのでありますけれ
ども、その場合に、一定
価格によ
つての
奢侈品ということをきめますと、おそらく
日本の生産はこの奢侈税がかからないような低品位の悪いものに結局集中されるという結局になることは、これはたれが考えても当然ということになると存ずるのでございます。それで毛織物は美術工芸品というようなものと異なりまして、工場生産でありますから、いま一歩品質の改良、技術の向上ということができれば、なお今後今日以上の輸出が見込まれる際に、こういう芽をつむようなことをいたしますと、せつかくの輸出振興ということが不可能になるというようなことを心配するわけでございます。そこで先ほど申し上げましたように、毛織物は工場生産でございますから、工場の全機能が絶えずよいものに対する生産に努めておりませんと、女工の一人に至るまで優秀なる製品に対する関心を持
つておりませんと、急によいものをつくれとい
つてもできるわけではございません。そういう
意味におきましても、国際収支の改善という点には、これらがはなはだプラスになる点が少いと考えるわけでございます。
それから次に私が考えますことは、毛織物は金属什器等とかわりまして、非常に節がある商品でございまして、なお相場の変動もはなはだしいということは、皆様も御存知のことだと存ずるわけでございます。これを品質によらずしてて、単に一定の
価格によ
つて奢侈品の限界をきめますと、きよう四千八百円なりまた五千円なりで売買できておりますものが、十日なり二週間なり後には、気候の変化と季節ということによりまして、五百円くらい安く売られる。つまり限界
価格の四千五百円以下に売られるということは絶えずあることでございまして、こういう場合に、実際の税務署という面になりますと、おそらく税務署の末端の仕事をなさる方は、われわれ商人からそういう申告がございましても、これを信ずることはできない。迷いまして、結局承認はいたさない。その結局は、われわれ商人との間に大きな摩擦が起きまして、戦争中、また最近におきまして統制中におきまして、いろいろと官庁、税務署の
方々との間に非常にトラブルが多く、そのために
一つの例といたしましては、先般の取引高税の場合も同じでございますけれ
ども、法人税を正式に税務署が承認いたしましても、取引高税の面になると、これを承認しないで、更正決定をする、こういうことが
現実にあ
つたわけでございまして、今度の法案を拝見いたしましても、この
税金に対しては更正決定ができるように私
どもは考えるのでございまして、こういうことが起きますと、必ず官民離反と申しますか、その間のトラブルが非常に多くなりまして、結局われわれとしては、また暗黒時代というような暗い
感じを非常に持つわけでございます。この
税金の問題が起きましてから、われわれ
全国の
業者が、厳密に申しますと一月二十一日と存じますが、それ以来、一等弱い何の組織もない、最も保守的であるというわれわれ中小工業の
繊維業者が一丸となりまして、
全国はもとよりのこと、東京におきましても、御存じとは存じますが、共立講堂で四回も数千人の者が集
つて反対の運動をした。それから
国会に向
つて、
日本初まて以来こういう
業者のデモが行われた、この強い
反対運動は、税務署との折衝に不安な面を持ちたくない、不愉快な生活をしたくないということから生じているわけでございまして、この点は特に国民の生活を気持よくさせるという
意味において御考慮いただきたいと考えております。
それから次に申し上げたいことは、現在の経済界と申しますか、これは戦争中、戦後とかわりまして、ま
つたく自由の
状態でございまして、業態のはつきりいたしておりますものは、紡績、糸を引くことと、織ること、織布でございます。この二つは判然とだれが何をしているかということはわか
つておるわけでございます。ところがそれ以下の段階になりますと、自由経済の上におきましては非常にまちまちでございまして、中間段階におきましては、卸を行う
人間が小売をし、またときに加工するというような兼営が非常に多く行われているわけでございます。このはつきりしないところに
税金をかけるということにおいて、非常に矛盾があると存ずるわけでございまして、もしもこういうことが必ず必要であるとするならば、糸をつくるところとか、ないしはものを織るところという、はつきりしたところにどうして
税金をおかけにならないのかということが、われわれの最も不審に思うところでございまして、この中間にかけるということは、非常に無理があると考えるわけでございます。なお法案を拝見いたしますと、第六条におきましては、卸ないし小売の兼
業者というものは、その主体とするところの業態の一方にきめるということが書いてございます。これにつきまして、われわれが実際の実務上から考えました場合に矛盾がございますので、それに対してお手元に差上げてございますガリ版刷りの表がございますが、これによ
つてちよつと御説明いたしたいと
思います。
これは問屋と申しますか、卸商の仕入れ原価が四千円というものでございまして、これは
課税の
価格ではございませんそれがその次の段階で、卸を六分なり七分なりや
つておる
業者と、小売を六分なり七分なりや
つておる
業者と、二つの
業者に行
つた場合の例でございますが、卸を六分なり七分なりや
つております者が、この法案によりますと、卸売
業者ということになるわけでございます。なお小売がおもな者は、小売
業者ということに一方的に片寄るわけでございまして、この二つが全然別個に性格づけられる結果といたしまして、一等下の欄をごらん願えばわかるわけでございますけれ
ども、上の問屋の段階から、卸売を主体とするところ、つまり左側でございますが、左側のルートを通
つて参りますと、直摘
消費者に渡る場合は六千三百十三円
——このマージンの考え方というものは、そのきによ
つていろいろございますけれ
ども、これは一定のマージンということで全部
計算してございます。なおその卸屋の性格として、また中間の小売屋に売りまして、それから
消費者の手に渡る場合は、六千五百二十六円という数字が出ております。なお卸屋さんが小売を主体としておる者に販売した場合のことを右側で考えますと、その人が直接
消費者に販売いたすという場合には、五千六百五十五円になりまして、その人が卸の面で途中の小売
業者にもう一度販売して、それが
消費者に渡る場合には五千七百四十二円ということになるわけであります。その差がどこから生ずるかということを申し上げますと、限界
価格よりも安いものを小売屋さんに売
つた場合は、結局小売屋さんというものは、それによ
つて販売する場合に
税金がかからないということになるわけでございますが、なお上の段階が卸を主体としておる者に販売いたしますと、結局途中で
税金がかかるということによ
つて、約千円に近い
価格の差が出るわけでございます。これはどなたが御
計算なさ
つても同じでございまして、こういうことは、結局一部の
業者が利益を得、一部の
業者が非常に不利益を得るということでございますと同時に、
消費者がどれがほんとうかと非常に迷うというようなこともございます。こういう
意味から行きまして、せつかく戦後の混乱期が終りまして、配給機構が相当秩序立
つた今日、またこの配給機構の混乱を生じますと同時に、ものによりましては、各
業者間において抱合せの販売が行われるというようなことも、当然考えられるわけでございます。たとえば四千八百円のものを四千四百円で売れば、四百円安く売るわけでございますけれ
ども、もう
一つ二千円のものを二千五百円で売るというような帳合いをいたした場合には、公定
価格がないというような
意味におきまして、だれもこの不正を指摘することは非常にむずかしい問題と
思います。なお毛織物の場合におきましては、御存じのように非常に相場の変動がはげらいという
意味におきまして、それくらいの販売
価格の差は絶えず起きるわけでありまして、この場合におきましても、先ほど申しました税務官吏の末端と
業者との間のトラブルというものは、非常に大きな数のものが起きるというふうに私
ども考えております。重ねて申し上げますけれ
ども、毛織物は絹織物と違いまして、紡績の数も、また製織
業者の数も非常に少いわけでございます。そういう
意味から、毛織物の場合におきましては、上の段階でかけるということにつきましては、それほどむずかしいことではないということになりますから、その点もひ
とつわれわれの
反対意見を十分に御検討いただきたいと
思います。
それから次に申し上げたいことは、
税金の立てかえの問題でございますけれ
ども、われわれ業界の習慣といたしまして、現金取引ということは非常に少いわけでございます。実際に毛織物の現在取引されておりますサイトと申しますか、われわれのサイトの場合におきましては、九十日、百二十日をも
つて通例といたしております。それを
税法では六十日の猶予期間しかないということは、たださえ金融的に苦しんでおる
業者をより以上に苦しめることになると考えるわけでございまして、小売
業者は、ことに洋服商の場合におきましては、
税金をすでに払
つたものを仕入れて売るわけでございますが、御存じのように、洋服は月賦等によりまして、実際に洋服屋さんの手に代金が回収されるまでには相当の日にちがかかります。この間は、洋服屋さんはこの代金を立てかえておかなければならない。これは最も小さい
業者で、極端な表現を申しますれば、ここで零細
業者である洋服屋さんに金融的の
負担をさせるということは、洋服屋さんの死活問題でございまして、われわれ業界は、御存じのように毛織物全般とすれば、現在倒産者も出ておるというような
現状からいいまして、この法案の施行が万一行われる場合は、より以上混乱が生ずるということをかたく信じております。
なお最後に申し上げたいことは、こういうことになりますと、現在は自由経済ということにおきまして、
業者の登録がございません。その
関係上、実際面におきましては、第三国人でありますとか、ないしはもぐりの
業者というものが
全国に相当あるわけでございます。毛の生産地は、大体愛知県が多いのは御存じの
通りでありますが、中央線を伝わりまして、長野、新潟、山形、秋田、北海道という
方面、ないしは中国、九州という
方面にもぐりの
業者、陰の
業者が相当かつぎ屋同然の商売をしておる。もちろん税務署の
方々は十分これを捕捉するとはおつしやると考えるのでありますけれ
ども、実際面として、また従来の経験から行
つて、捕捉ができないということをわれわれは考えるわけでございます。こういう正統なる
業者に対して非常に不利であり、また怪しげなる
業者に対してはより以上に有利のアドヴアンテージを与えるというような法案に対しては、私
どもは絶対に
反対をしたいと考えております。
なお
委員長の方からなるべく早くというお話でございますので、最後の結論に入りますけれ
ども、この
税金のことにつきましては、私
ども繊維税という
意味で、昨年の夏からいろいろと伺
つておるのでございますが、第一回は織物にかかり、次は原糸にかかり、最後に小売にかけるということに
なつたと伺
つてお
つたところが、またその強い
反対にあいまして、今度は卸段階にかかるということに
なつたわけであります。どなたかもおつしや
つておりましたけれ
ども、実際にどこまでほんとうにこの
税金に対してお考えを持
つておるかということは、私
ども立法府の皆様方に対して非常に不審を感ずるところでございまして、こういう迷
つたような
税金はぜひともやめていただきまして、十分研究の時間を持
つて、またわれわれとしても、より以上時間を与えていただければ、実際のことをよくお話して、すつきりした線においての御相談をあらためていたしたい、こう考えるわけでありまして、今回は絶対この法案はやめていただきたいと考えております。
以上簡単でございますが、毛織
業者としての
反対を申し上げた次第であります。