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吉田参考人 吉田秀夫でございます。お呼出しを受けました新
医療費体系の
本文を読みましたのは月曜日でございまして、詳しい
関係資料を入手しましたのは大体五日の夜、それで実は連絡が非常に悪くて六日に御
案内を受けたということで、あわただしい中で私の
意見をまとめざるを得なか
つたのであります。ざつくばらんに申し上げますと、今度の新
医療費体系はよほどの
専門家でない限りはこの
体系の理解は非常にむずかしいということを感じました。そのことはか
つて私が苦労しました
社会保障制度審議会の
委員としての第一次
社会保険制度の勧告や、それから占領中の総
司令部の
サムス准将の
強制によ
つてできました
臨時医療報酬調査会あるいは
医薬制度調査会、これらの機構の
経験から見ましても今回の新
医療費体系の
内容は非常に了解しがたい点がたくさんあるわけであります。そういうわけで私の
意見はこのような
経験から来た若干の
専門的な知識と、それから
労働者あるいは被
保険者、
国民大衆の立場に立
つて申し上げたいと思
つております。
まず冒頭に
昭和二十七年の百五十五の
病院と二百十七の
診療所、百四の
歯科診療所のいわゆる
医療費、
施設の
実態調査の全貌を
当局が
勇気を持
つて公表したという英断に対しましては
敬意を表したいと思うわけであります。さらに
医師会系統の協力が全然なくても
医療費、
施設の
原価計算のいろいろな
調査の一部を公表したというその
勇気にも若干の
敬意を表したいと思うわけです。これはなぜかといいますと、二十七年の
実態調査は少くともこれは
政府の恒例の
仕事でありまして、二十七年の三月の
医療費、
施設の
実態調査の結果によりまして、一体
病院、
診療所は
経営のバランスがこの
調査によ
つてとれておるのかとれていないのか、そういうありがままの姿を明るみに出すのが私は
実態調査の目的であると思うのです。このことによりまして御
案内のように、ことしの六月以降非常にはげしくなりました、たとえば
医師会あるいは
保険医関係の運動、これは前代未聞のすわり込みやあるいは本日休診という戦術やあるいはバス、スクーターなどによ
つて全国各地においていろいろな形で
大会等が持たれておりますが、こういう
保険医や公私の
医療機関の
診療費は非常に安い、あるいは
単価を上げろという
要求が、
厚生省の非常に権威ある
調査によ
つてはたして正しいものかどうかという、その判断する材料に私はこの
実態調査がなると思うわけです。もう一つは私は参加して非常に苦労したわけでありますが、二十五年八月から二十六年二月まで約七箇月かかりました新
医療費体系の
方式の算定の
基礎であります。この
医療費体系を生み出すいろいろな算術の
方式は、
医師その他の
医療技術者の
技術料をいかに
評価して、それを中心にしましてあるいは
医療費の
体系を具体的にどういうふうに
実施するかということを、最も権威ある
政府自身が作成する点に非常に重大なる関心を持
つて参りました。
大体本来はこういう
実態調査と
原価計算方式を入れました新しい
医療費体系というようなものは別個に公表されるものでなければならないと存じます。特に
実態調査は少くとも二十七年三月の
調査でございますから、一年遅れました二十八年春かあるいは去年の秋ごろ公表さるべきものと存じてお
つたのでありますが、これはなぜ二年半も経過してようやく今日なされたかということ、さらにその
調査に対しましても新
医療費体系のいろいろな今後あるべき姿と結びつけまして、それと不可分の
関係の
もとで出されたということは非常におかしいと私は思うのです。
もともと今のままの当然あるがままの姿、これは
医療施設の問題が新
医療費体系という当然あるべき姿で、ゾルレンとして出されたというところに実は問題があると私は存じます。御
案内のようにせつぱ詰
まつた来年一月から
実施するといういわゆる
強制医薬分業の問題、そのための新
医療費体系という積極的な要請がすでに目睫に迫
つているということがもしなかつたならば、私は、
昭和二十七年の三月の
医療費、
施設の
実態調査も当分の
間日の目を見なか
つたのではないかとさえ邪推する次第であります。なぜならば二十七年の三月の大
病院、
診療所を合せまして約四百七十七箇所の
医療施設のほとんど全部が、
政府の非常に正しいと思われます
実態調査の結果によ
つては全部が
赤字経営であります。それは一番
厖大な表をずつと繰
つて行きまして、
診療行為別の
回数並びに
点数、受領すべき
報酬額及び
患者数というのを見ますと、大体一目瞭然でございます。それをたとえば一の表の4aの
病院の約百五十五の
施設の三月の
統計表を見ますと、実際にかかった
経費が二億二百四十七万円、それから実際に受領すべき金額が一億七千六百四十九万円、
差引赤字が二千五百九十八万円ということになっております。この
赤字は一四%に該当いたします。これが
病院の
内容であります。
精神病院やあるいは
結核療養所、あるいは
伝染病院その他の
病院全部を含めてこういう
赤字があるという点でございます。
さらに
関係の深い
一般の
診療所二百十七
施設を考えてみますと、これは約七%の
赤字ということになっております。これは二十七年度の三月において、すでに公、私の
医療機関は
経営がや
つて行けないということを示していると私は考えます。大体この
調査が、
減価償却等をどういうふうに見たかという点はさておきまして、これは
公務員並あるいはそれ以下の
医師、
看護婦の非常に低い
賃金と、
労働強化を大体そのままにしてなされたものだと考えます。その後
人件費あるいは
物件費あるいはガス、
水道料あるいは
光熱費米代等はみな上昇しております。昨年十二月に
入院料と
往診料を若干上げましたが、上げたにしましても、この
赤字は相当大きなものになっていると思う次第でございます。こう見ますと、大体
医療機関への
医療報酬が実際に非常に低いし、
単価も引上げない限りは、もはやその
経営は維持ができないということは、この
調査で示しているのではないかと思います。大体こういう事情のために、この
調査は今まで公表されなか
つたのではないかと私は考えます。
さらに新しい
医療費の
体系を考えた場合に、その
基礎と
なつたこういう
実態調査が、この
赤字のままで、
赤字をさらにカバーしないで出すということ
自体に問題がありますし、もしそういうことになりますと、ますます
医療機関を危機に追い込んで、
国民の
医療を破壊するものになる。今まで
医療機関関係でカバーして来ましたのは、やはり
医師と
医療従業員の非常な低
賃金と、その
労働強化と、あるいは若干の
診療内容の低下ということでカバーして来たかもしれませんが、これにも限界があるわけです。
さらに新
医療費体系で一番問題になる点は、まず二十七年十月に
実施されました
施設の
精密検査、このためには
原価計算方式が相当取入れられてあると思うのでありますが、そういう問題と、さらに
政府の
考え方が根本的に間違
つていやしないかと思います。そのことは私が参加した、たとえば、
臨時診療報酬調査会にしましても、あるいは二十六年の
国会におきましても、少くとも
医師の適正な
医療技術に対する
評価を
もとにするということ、それを
もとにして新しい
医療費体系をつくれという御
要求がありまして、そういうことにして
分業を
実施した
あとに、
国民の
医療費にどう響くかということであつたと思うのであります。ところが率直に言いますと、今回のこの新
医療費体系のやり方、あるいは
考え方は、そのような方法からその
体系を出して、
医療費が一体上るか下るかということを検討したものではなくして、初めから二十七年度の
調査の分析から
国民の
医療費をきめて、そのわくの中で操作をするという驚嘆すべきくふうをこらしております。これは初めから上るも上らないも問題はないわけであります。大体こういう
考え方、
態度あるいは
作業自体が私は問題だと思います。
さらに
調査会の
答申によりますと、これは御
案内のように
診療報酬を二つにわけまして、
医者の
診療報酬と
薬剤師の
診療報酬とにいたします。
医者の
診療報酬は御
案内のように(1+α)という
技術指数がございます。その
技術指数に掛算しまして
医者の
平均賃金、たとえば一分間に何円という
平均賃金でありますgと、その
診療行為にかかりました所要時間t、それと
人件費Nと
物件費Mとを全部
原価計算で出すというのが
医者の
診療報酬の
内容でございます。
薬剤師の方の
診療報酬は、
薬剤師の
技術料は調剤の手数料でして、それに
人件費と
物件費と
薬代というものを足し算したのが
薬剤師の
診療報酬です。こういう
方程式で、実は一切の数千、数百という
診療行為ごとに全部
計算するのが
建前でございました。ところが
本文を見ますと、さしあた
つて医療分業の
実施を控えまして、それに必要な
診察料、
薬治料、
注射料の三点にしぼ
つて出すように
なつております。これが大体おかしい第一の点であります。
従つて他の数十、数百、数千の
診療行為の
報酬は全部
あとまわしということに
なつております。おそらく
厚生省でありますから、数百、数千の
診療行為ごとにあるいは
点数はきま
つておるかもしれませんが、全然出ておりません。
さらに第二の不合理な点は、最も重要な
医師の
技術料評価の問題であります。
本文を読みますと
難易度、すなわち前のあれからいいますと(1+α)という
技術の
指数が考えられ、あるいは実行されたかどうかという問題であります。おそらく何ぼいろいろな
調査会の
意見をたな上げする
厚生省でも、少くとも
医者の技官がたくさんいる
厚生省でありますから、
最初は私はこの
技術指数を、(1+α)をお考えに
なつたと思うのであります。ところがこれがどこかに消えてなく
なつてしま
つております。もしあれば
はつきりと出していただきたいと思うわけです。もし(1+α)という
技術指数が全然ないならば、結局は
医者の一分間当りの
平均報酬とその
診療行為にかかつた時間の掛算のみが
技術料として残るわけであります。これは
肉体労働者あるいは
ニコヨンあたりの
労働者並の、
単純生産の労賃である
といつてもいいと思います。しかし
ニコヨンの場合、
日雇い労働者の場合は、大体スコップや物を運んだりする
道具等は全部貸与されますが、
医者の場合はそういろいろな手段は
自分持ちということになりますと、
ニコヨン以下ということになりかねません。さらに時間が多くかかればかかるほどそれだけ
報酬が多くなるということになれば、これはたとえば
脊髄の
注射というようなことは、あまり時間がかからないと思うのですが、
脊髄の
注射等は非常にむずかしいと言われております。それとたとえば私たちでもできます
浣腸というような、非常に簡単な
処置の場合に、
浣腸の方がもし時間がよけいかかつた場合は、この方が
報酬が高いのだというようなことは、どうしても私は
しろうととしても考えられません。これは
医者としての頭脳的な
複雑労働を否定しまして、ひいては
医者の拡大再
生産を全部否定するということになりまして、少くともこの
本文の随所に見られておりますように、物と
技術とわけたものだ、
技術料だというような、高級な、お上品な
名前をつけるには値しない問題だと思
つております。
さらに
調査会の
答申は、
人件費や、あるいは
物件費やあるいは
薬代、それぞれ
原価計算をしまして、足し算をして出す
方程式をと
つております。ところが
本文によりますと、
薬治料や
注射料、
技術料はほとんど諸
経費に含むという、そういう文句に相
なつております。これから考えますと、当然
人件費と
物件費を含み(1+α)gtもNもMも全部一本に
なつているということになると思うのであります。これは
歯科の補綴の問題も同様だと考えております。これでは
技術をわけたのかわけないのか全然わからない。実際には何もわけていないのではないかということさえ思います。しかも
政府の出しました
本文の物の対価と切り離して
技術云々ということには全然ならないのではないかと思うのであります。
さらにこの新
医療費体系が、
本文と、その
本文の
参考になりました
基礎的な
資料の間に数字の点で至るところにいろいろな
食い違いがある点であります。これは
一体間違つているのか、あるいは私は非常に頭が悪いのかわかりませんが、とにかく非常にこれがたくさんの
食い違いがございます。たとえば
本文の方には
病院の場合の
投薬回数が六十八万五千
回数に
なつておりますが、この大きな表の第二表では六十八万三千、
注射は
本文では二十九万四千、ところが大きな表では二十九万二千、
処置が
本文では二十九万九千で、大きな表では二十八万一千、手術が二万九千、大きな表では二万七千ということに
なつておりまして、こういう
回数の点だけを例にとりますと、こういう間違いがございます。これは千単位というようなことで区切
つておりますから、千以下のいろいろな
回数なりあるいは
点数を四捨五入したかあるいは消えてし
まつたか、そういう点につきまして、そういうものを累計しますと、非常にひずみが拡大して
統計学上おかしいのではないかと思います。
さらにそれから最も重大な点であります、たとえば
本文の
病院、
一般診療所、
歯科診療所のabcの表のうち、たとえば
診療行為の
名前、実際かかつた
回数の問題、
現行点数の問題、三番目に
費用から換算した
点数(B)というのかございす。ところがそのいろいろな
現行点数(A)と、今言いました
費用の点から換算した
点数(B)というのは、この一番下の
帳じりが合
つているわけです。
病院からいいますと、大体千六百三十九万六千点という
帳じりが
現行点数と
費用から換算したいわゆる新
医療費体系の一番大事な
体系によりましても、全部合せておいて、新
医療費体系のBの項が逆に上に、比例按分したというのでありますが、一体比例按分した
データはどこにあるのか、どんなに探してもいただいた
資料にはないのであります。これは一体お
医者やあるいは
中小企業が
税金を払う場合、
青色申告というのがございますが、この
青色申告は作文でございます。なるべく
税金をのがれようとする体裁にしてつくられておるのが大多数であります。その場合に必ず税務署の役人が来て、やれ
預金通帳を出せ、あるいは実際家計に何ぼかかつたかということをつつ込まれますと、
青色申告というものはくずれます。それと同じように、どうも隠しておるものが、出されていない
資料がたくさんあるのではないかと思うのです。たとえば
昭和二十六年当時のわれわれ
調査会の
答申によりますと、少くとも
厚生省の
医務局は
病院、
診療所の
原価計算の
要綱案というものを出しているはずです。それから
診療行為別の
等価係数という
厖大なパンフレットも出しているわけです。そういう
原価計算方式やあるいは
等価係数をどこへどういうようにお出しに
なつたかという元の原簿が全然
資料として出ておりません。もしこういう調子でやられるならば、私は権威ある
国会の
審議に対して、非常にけしからぬ
態度で臨んでいるとさえ思う次第であります。
さらに
往診料を入れていないという点はどういうものであろうか。これは昨年の十二月に
入院料とともに若干値上りしました。これは明らかに
厚生省は重要な
保険給付として
往診料を認めていることだと思うのであります。たとえばいただきましたこの
資料の中に、一
般診料所の場合には、
初診料が九万四千七百六十二点、それから
往診料は八万五千六百七十八点とあります。まるで
初診料と
往診料は対々くらいの
点数に
なつております。これはそれだけ
保険経済にウエイトがあるということです。それをたとえば
往診料の問題を
初診料と再診料にわけましても、
往診でももちろん
診察はするのですから、それにぶち込んだとしましても、実際に
点数として出ております
往診料の
費用を、一体どこでどういうふうにしたのかという点は、いただきました
資料には全然ございません。
さらにこの新
医療費体系の
基礎調査と
なつた点で、
統計学上
信憑性が薄いということは、今までも若干申し上げました。ところがもつと詳しく言いますと、二十七年の十月の
精密調査は、全体の
医療施設の——これも
政府からいただきました
資料の中から出したのでありますが、この全体の
医療施設の八三・六%を占める
個人立の
一般診療所があるわけです。これが換算しまして七万二千七百五十あります。その七万の
診療所のうちわずか十三箇所を実は
精密調査の対象にしておる。これは三月の
調査の百十四のうち十分の一に該当します。このわずか十三の中でベッドのない
診療所が九つもあるということであります。私のような
しろうとが考えましてもいろいろ
専門の科は十くらい大きな科があると思う。だからそれを全部按分しますと、この一
診療所の典型的な姿が、こういう
統計学的な非常に荒い
データで出るか出ないかということであります。これはおそらく
学者等が見ましたら、全然問題にならぬのではないかと思います。
さらに三月の
調査によりましても、一日の
患者、たとえば零人から二十人までという
施設が、いただきました
資料では五六・五%もございます。そして
平均値を出すと言
つておりますから、結局二十人前後あたりが
平均値ではないかと思
つておるのでありますが、もし二十人前後で
統計の
基準にしたということになりますと、それ以下の約五割、半分を占める大多数の
施設の問題はどうなるのだということになります。
さらに
病院は非常に
経費がかか
つて、
診療所は安上りだという
建前で
経費の安い
診療所を
基準にしていろいろの
点数を割出して、一番安い
経費でやるということになりますと、非常に
経費のかかる
病院はますます、この
体系によりますと、
赤字が増大するということになります。大体米の値段をきめる場合でも、いろいろの農民の
階層別を
基準にしまして出しておりますが、
病院の場合、あるいは
診療所の場合は、その
施設の
内容は大小さまざま、実にてんでんばらばらです。それをごつちやにして、どこに
基準を引くかという点が非常に大事な点であります。その
基準の
引き方にも私は問題があるのではないかと思うわけであります。
それから新
医療費体系の構想からいいますと、
病院や
診療所は
注射や薬を非常にもうけ過ぎている。
病院の場合には
入院料も非常にもうけ過ぎている。大体
病院の
入院の
収入の
比重は、全体の
収入の約半分近い
比重に
なつております。それらの三つをそれぞれ新
医療費体系によりますと、大体三分の一くらいずつ
点数を減らして、これを
診療費に全部ぶち込んで行くというのが、私はよくわかりませんが、率直な
体系の正体ではないかと思うのです。そうしますと、
診療所の場合には、いただきました
資料によりますと、全体の
収入の約一割強が
診察料だ
つたのです。それを三倍なり四倍近くに上げて、そうして
診療所施設の
経営の重要な柱にするということであります。大体私は
医者の
技術料は診断こそ最も重要な
医者の
技術料であると思
つております。
従つてその
診察料を上げて行くということに対しましては
賛成であります。しかし御承知のように、現在の
社会保険、
健康保険制度からいいますと、初
診療は
本人まるまる
負担、
家族は半額
負担、
もともとかかる一部
負担の出し方は、
昭和二十二、三年ごろ
濫診濫療を押えるために例外としてなされたもので、これは原則ではございません。
診察料というものをこれほどまで高く
評価しようという
厚生省当局でございますから、
診察科目あるいは
診察行為を重要な
医療行為と見、また重要な
社会保険の
医療給付であると見ていることはおそらく間違いないと思うのであります。そうしますと、これほどまで尊重する
診察料でありますならば、これは当然
給付内容にすべきであります。それを
給付外にしておくこと
自体が矛盾であります。もしあくまでも
給付外にするならば、大体
診察は
医療行為ではない、
医療行為の名に値いしないということを
はつきり
厚生省は断定すべきだと思いますが、この点が一体どういうふうになるのか、全然示されておりません。従いまして
現行通りでこの
医療費体系の
実施をするということになりますと、まるで
せつかくの非常に尊重すべき
医者の
技術料の
実施が、被
保険者千二百万人とそれからまた二千万人近い
家族の直接の
負担で、その
犠牲で実は
診察料尊重という光栄ある
仕事を
実施しようということになりますので、これは趣旨は
賛成でございますが、われわれ被
保険者大衆は絶対反対せざるを得ないわけであります。
私の非常に素朴な
計算によりましても、たとえば被
保険者が現在千二百万人ほどおりますが、それが年に三回
病気になるということになりますと、今度
厚生省が示しております
初診料六点、これを七十円と仮定しても、年に三回千二百万人の
労働者が
病気になりますれば、二十五億二千万円
初診料がかかります。
家族は大体この一・四倍といたしますと、三十五億二千八百万円かかりますから、合せますと六十億四千八百万円という
診察料がかかるわけです。今まで大体
本人負担と
家族負担がございましたから、このうち三分の一増加することになりますと、これは
国民の
医療費は、あるいは直接の
労働者あるいは
家族の
犠牲は約二十億に該当するという非常に素朴な
計算になります。
最後に、このような不合理な、実はでたらめに近い新
医療費体系が、こういうことが条件になりまして、そうして
強制分業が一月の一日から
あと二箇月余りで
実施されるということでは、
国民八千万あるいは全
医療機関はた
まつたものではないとさえ考えます。これは大体正確な
資料は出せないとは私は言えないと思うのです。それをいろいろな重要な
資料が伏せてございますから、その伏せてある
資料も当然お出しに
なつて、それでもなおかつどうも新
医療費体系のいろいろの
資料では非常に不十分だというならば、何箇月、何年かか
つてでも、何回でも納得できるまで私は出し直したらいいと思うのです。
あと一番心配しておりますのは、
分業実施に
関係なく一月からこの
体系を
実施しようというような、そういう強固な決心が厚生大臣にあつたということであります。これはその後の厚生
委員会の質疑応答で
医薬分業と不可分だということで直つたそうでありますが、もしそういう気持がありますと、私は
分業に
関係なくても、この新
医療費体系だけでも、一切の
医療費が
計算され、一切の
社会保険診療報酬が
計算され、それが
実施されることによりまして、非常に心配する、憂慮すべき混乱とまた破壊が起るのではないかと思うのであります。と申しますのは、
本文でもちよいよいと
厚生省側は言
つております。約七〇%を占める全国の内科、小児科の
医者、特に結核
関係の
医療施設は官公立、私立を問わず、私は非常に崩壊の度を促進するであろうということを心配するのであります。
これも私流の
しろうとの非常に素朴な
計算でありますが、たとえば今一人の結核
患者がいると仮定いたしますと、月にパスが一日十グラムで、これは三十日で三百グラムかかるわけです。これが
現行点数では百八十四点、この原価が六百三十四円であります。ところがマイシンという
注射は大体月に八本ということになりますと、これが
現行点数では百三十五点、原価が千四十円、合計いたしますと
点数では三百十九点、これが甲地の
計算で行きますと、三千九百八十七円五十銭ということになります。それから原価でありますが、パス、マイシンの原価千六百七十円を引きますと、二千三百十七円五十銭が実は結核
患者一人についての
医者の
収入ということに
なつております。それを新
体系で考えますと、大体パス、マイシンというような薬、あるいは
注射薬を使いましても、そのためには原価で全然もうけになりませんから、これは全然除外しまして、パスがたとえば一日の調剤料を〇・五点としますと、三十日ございますから十五点になる。ストマイが一日二点、これは皮下
注射で、二点としますと、これは八回ございますから十六点になるわけです。それから再診料を週に二回というふうに
計算しますと、これが一回四点にしますと三十二点、合計いたしますと六十三点で七百八十七円五十銭というのが今度の新
医療費体系による
医者の手取りということになります。そうしますと今までの現行の制度から言いますと、差引一人の結核
患者につきまして千五百三十円の
収入減になるということであります。これでは一体内科系統あるいは結核
専門の
病院、療養所あるいは
診療所はとうていや
つて行けないのではないかと思うのです。それでなくとも
病院あたりはやりくり算段がつかなくて、アパートなんかに
なつておりますが、そういう傾向が出て来るのではないかと思います。
こういう
医療機関の崩壊は結局
国民大衆が非常に不仕合せということになるのであります。
医者にかかりたくてもかかれなくなるということになると思うのであります。そうしますと、
せつかく政府が
昭和三十年度には大幅に結核対策をやるのだということになりましても、病人もなおせないような形でどうして結核対策をやるのか、五百数十万人の結核
患者はどこへ行けばよいのかということにもなりかねないのであります。しかもそういう点から言いましても、こういう
医療機関を徹底的に崩壊に導くというような気持は、少くとも
厚生省の事務局の技官の人たちはさらさらなかつた思うのであります。しかしこういうことになりますと、
医療制度も、ひいては医育制度も、大学のいろいろな
医者の養成制度も破壊される。そうして小児科、内科あるいは結核
専門の
医者になり手がなくなるのではないかと思います。ひいてはこのことが
社会保険制度に深刻な影響を与えまして混乱は必至であります。
もともと国民総
医療費のこの限られたわくの中で
医者の
技術料をまともに出すということはほとんどできないのだということが一番わか
つているのは、
厚生省の技官の連中ではないかと思うのであります。そういうことを考えますと、そのためにはどうしても、
技術料を出すためにも国庫貞担が必要になる。ところが一番大事なことはこういうことではなくて、大体二十七年当時のすでに崩壊あるいは非常に
赤字経営で悩んでおります公私の
医療機関の今の現状をどうするかということなんです。これは去年の十一月の
入院料や
往診料程度ではとてもカバーできません。これから神崎先生等からお話があると思いますが、さらにその後の七月の
点数引下げというようなこと、またその上にデフレ経済の中での物価のいろいろな変動によ
つて少くとも二十七年当時から最近までは非常に大きな経済の不安定な時期にございます。その不安定な社会——正常な状態ならばまだいいのでありますが、その不安定な時期を大体条件にしまして、二十七年当時のいろいろな
調査が
現行点数だというような表現であつたり、あるいは現在の
医療報酬というようなあの主文にあります表現であつたりして、そうして実際に割出されているところに問題があるのであります。
従つてこれはどうしてもそういう
医療機関、あるいは多数の
医者、
保険医が
赤字で、
施設々々の
医師、あるいは
医療従業員が徹底的に
労働強化と低
賃金で困
つているというようなことを放任しておいたのでは、さしあたりの日本の
医療機関の危機は全然打開されません。
従つてこういう当面の公私
医療機関の問題や、あるいは全
医療従業員のこういういろいろ困つた状態をいかにして打開するかということこそ、当面の一番大きな問題ではないかと思います。具体的に言いますと、これは大幅な
単価引上げによる
負担以外に解決の道がないのではないかと思います。
たいへん長くなりましたが、以上で私の公述を終ります。