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1954-10-02 第19回国会 衆議院 厚生委員会 第61号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年十月二日(土曜日)     午前十一時二十六分開議  出席委員    委員長代理 理事 松永 佛骨君    理事 越智  茂君 理事 古屋 菊男君    理事 長谷川 保君 理事 岡  良一君       有田 二郎君    助川 良平君       降旗 徳弥君    亘  四郎君       並木 芳雄君    滝井 義高君       萩元たけ子君    福田 昌子君       柳田 秀一君    山口シヅエ君       山下 春江君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 草葉 隆圓君         国 務 大 臣 安藤 正純君  委員外出席者         厚 生 技 官         (公衆衛生局環         境衛生部長)  楠本 正康君         専  門  員 川井 章知君         専  門  員 引地亮太郎君         専  門  員 山本 正世君     ————————————— 十月二日  委員佐藤芳男君及び福田昌子辞任につき、そ  の補欠として並木芳雄君及び萩元たけ子君が議  長の指名委員に選任された。 同日  委員萩たけ子辞任につき、その補欠として  福田昌子君が議長の指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  参考人招致に関する件  ビキニ環礁附近における爆発実験による被害補  償に関する件     —————————————
  2. 松永佛骨

    松永(佛)委員長代理 これより会議を開きます。都合により委員長が不在でありますので、私が委員長の職を行います。
  3. 有田二郎

    有田(二)委員 議事進行厚生大臣にお願いいたします。きようは十時から理事会がありまして十時半から委員会が開会されることは御存じの通りであります。またここへ医務局長も来ていないし、薬務局長も来ていない、だれも来ていない。大臣も約五十五分遅れて、十一時二十五分に来られた。われわれは無為に黙つてしんぼうしておつた。事後そういうことのないように御注意願いたい。
  4. 松永佛骨

    松永(佛)委員長代理 昨日より調査を進めております新医療費体系に関する件につきましては、その重要性にかんがみまして外部からの意見を聴取する必要があろうと存じますが、理事会において協議いたしました結果、来る七日、八日の両日、東大大河内教授、日経連の湯浅佑一君、労組から吉田秀夫君、社会保障制度審議会大内兵衛君、その他医師会歯科医師会薬剤師会病院協会健康保険国民健康保険関係から、医薬制度審議会審議委員以外の方を代表として御出席願うこととし、正式の選定は委員長に一任いたしたいと存じますが、そのように決するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 松永佛骨

    松永(佛)委員長代理 御異議なしと認めそのように決します。     —————————————
  6. 松永佛骨

    松永(佛)委員長代理 次にビキニ環礁付近における爆発実験による被害補償の問題について発言を求められておりますので、これを許可いたします。柳田秀一君。
  7. 柳田秀一

    柳田委員 ちようどお彼岸の中日の午後六時五十五分、第五福竜丸無線長久保口愛吉さんが遂に逝去されました。この一報はひとしく八千五百万のわれわれ国民が、真に哀悼の痛恨やるかたなき感慨に打たれたのであります。私はこの問題に関しましてごく簡潔に政府にただしてみたいと思います。もとよりかような最悪事態はだれしも希望するものではありませんが、草葉厚生大臣はこのような事態に陥るのではなかろうかと思つておられましたかどうか、その点をお伺いいたします。
  8. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 今回のビキニ環礁水爆実験によりますわが漁船並びにその乗組員方々災害につきましては、まことにお気の毒であると存じております。その後御承知のようにこれらの乗組員災害者二十三名を東大並び東京国立第一病院に収容しまして、誠心その治療に当つて参つてつたのでありますが、八月下旬になりましてから、そのうちの一人の方が急激に症状悪化いたしまして、一時は重態に陷つたのであります。従つて関係医療担当人たち誠心誠意これが治療に当りました結果、まことに良好な状態に転換をいたして参りましたので、この分であると私どももまずよくなるのではないかと愁眉を開いておつた次第でありますが、九月二十日中ごろから症状がさらに悪化をいたしまして、遂に二十三日の午後六時五十六分におなくなりになつた次第であります。従いまして、私ども最初水爆状態等から憂慮いたして参つておりましたが、治療の万全の結果、これがだんだんとよくなつて、途中さらに悪化し、さらによくなつて最後にあのような状態になりまして、——最初は心配しておりましたのも、その後この分であると全治可能ではないかとすら思つたほどでございますが、まことに残念に存じておる次第であります。
  9. 柳田秀一

    柳田委員 大臣出席も遅れまして時間も余すところありませんし、同僚岡委員があとから御質問の予定でありますから、大臣も簡潔に要点だけをお答え願いたい。  私が尋ねましたのはそういう意味ではございません。第五福竜丸が帰つて参りまして、二十三名の患者が収容されて、政府当局、特に最も関係の深い草葉厚生大臣としては、だれしも希望はいたしますまいが、あるいは万一の場合にはこういうような不幸なことになるのではなかろうかというふうにお考えになつてつたかどうか、ということを聞いておるのであります。
  10. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 当時の模様から見ますと、私としては万一不幸な状態にならないようにということを念じながら治療関係者の御報告を承つて、これを督励いたして参つてつたのであります。従つて最初のときにはなかなか予想がつきませんので、ことに放射能による経過というのは、わが国はもちろん、ほかの国におきましてもあまり治療上の体験等もないようでございますから、その動きがなかなかつかみにくい状態であつたように承つておりますが、それがこういうふうになつたのでありまして、私ども最初治療の万全を期して行つたら何とかこれらの放射能の体内からの余灰、並びにそれによる機能の障害を食いとめ得るのではなかろうか、またそういう方法最大限度にいたしたいという熱望をいたしておりましたので、必ずしも悲観をいたした治療ではなかつたのでありますけれども、ただいま申しましたように、放射能による傷害の治療におそらく経験の度が少い点もありますし、——しかし現在ありますあらゆる科学最高度行つた日本治療をなされたので、この点については、諸外国に対しましても、決してかれこれのそしりを受けることのない万全の措置をいたしたと考えております。お尋ねの件に対しましては、最初どういう予想をしておつたかという点につきましては、ただいま申し上げたような程度でありまして、見込みがないとか、あるいは軽いとかいうことはにわかには判定し得ないと存じております。
  11. 柳田秀一

    柳田委員 その点が実に大事なのでありまして、第五福竜丸事件発生以来国民のひとしく憤激いたしますのは、政府が対米折衝において、主張すべき点も主張しない、国民の言うべき点も代弁しておらぬ、非常に軟弱であつたという点に非常な憤激を覚えておるのであります。そこで日本医療陣最善を尽した、これはもう当然であります。これに対しては国民ひとしく感謝しております。ただわれわれは政府のそういう考え方が甘かつたのじやないかということを指摘したい。特に対米折衝等において、その補償額等においても、新聞の伝えるところによりますと、このように死亡という事実が出て参つにならば、さらに今後の対米折衝等においても考え直さなければならないというような言辞を弄されておる。あるいは久保山逝去の後の、これは安藤国務大臣の談話であつたかと思いますが、こういう事態になるとはまさか思わなかつた、そういうような甘い観測のもとに対米折衝をせられて来た。この点に非常な憤激を覚えておる。今大臣の御説明でも、もつと事態を深刻にお考えになつて、もつと強く訴うべき点はアメリカにも訴うるという考え方がくみとれないのであります。  そこでお尋ねしますが、福竜丸が帰つて参りまして、三月の十七日から厚生委員会はこの問題を取上げておりますが、三月の二十二日に都築博士をこの委員会にお呼びしまして私が質問しましたところ、都築博士は、患者のうちの一〇%ぐらいは、あるいは不幸の転帰をとるかもしれないという重大発言をしておられます。それから後の日本医療陣の奮闘というものは涙ぐましいものがありましたが、少くともわが国最高権威の言を政府はどのように解釈し、その解釈のもとにどのように対米折衝をしたか。その都築教授の言を厚生大臣としてはどのように御解釈なさつたか承りたいのであります。
  12. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 御指摘のように、三月の中旬から下旬にかけまして、初めて東京へ移して治療いたしまするその前後の状態は、白血球にいたしましても千台に下つておる状態であつて、まことに憂慮すべき状態であつたのであります。その後だんだんとこれらの点も徐々にではありますが、快方と申し上げる言葉はあるいは妥当ではないかもしれませんが、増加をして来て、少しずつよくなつて来ております。そこで対米折衝等におきましても、私どもこの病気は相当長引くのであり、また今後どういう変化を来さぬとも限らないというのを一応の中心といたしまして、学者の中には今御指摘になりましたような御意見等もありますので、これらも十分考慮の中に入れながら検討をして参つて来たのであります。ただしかし病気全体といたしましては、今申し上げましたように当初からだんだんと、どちらかと申しますと順調の道をたどつて参つておりました。それにいたしましても最も難病であると申しますか、治療の困難な病気であるという前提のもとに取扱つて参つたのであります。今回の久保山君の御死去によりまして、従つてこの死去そのものは新しい事態として考える転機に相なつて参つた次第でございます。
  13. 柳田秀一

    柳田委員 それでは都築教授が、この厚生委員会最悪の場合には一〇%くらいの犠牲者が出るんじやなかろうか、こういうような重大発言をしておられますが、担当厚生大臣としてはこういう事実のあつたことを閣議において報告されておりますかどうか、これは結果的にごく簡潔にお答え願います。
  14. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 ビキニ関係につきましては、閣議にもそれぞれ御誓いたして参つております。
  15. 柳田秀一

    柳田委員 しからば対米折衝等においても、万が一都築教授の言われるごとく、そういう不幸な事態にはいかなる補償をせよ、こういうような、やはりこれは想定のもとでありますけれども、当然これは対米折衝においてはなされなければならぬものと思いますが、そういうような折衝はして来られましたか。
  16. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 対米折衝におきましては、先ほど申し上げましたように、その後順調に進んで参つております。順調と申し上げることは、言葉があるいは不十分かもしれませんが、大体良好な状態に進んで参つておりますから、従つてその点を、しかもそれはそういう状態ではあるが、最も重要視した状態においての折衝をして来たのでございます。
  17. 柳田秀一

    柳田委員 その対米折衝のことは、主として安藤国務大臣並びに外務大臣所管で、あなたにお尋ねするのもどうかと思いますが、問題はそういうような最悪事態を一応は予想して折衝しなければならぬ。新聞談によりますと、こういう事態になればまたあらためて考えなければならぬ。直接、間接を入れますならば、一千万ドルからの補償になりますが、アメリカから内示して参りましたのは八十万ドル、最近それは九十万ドルぐらいに少しせり上つたらしい。しかもこういう新しい事態が発生したならば、それによつてまたあらためて考えなければならぬ。これでは政府としてはほんとうに本腰を入れて、しかもこの事態を深刻に認識しておつたのかどうかさえ疑わしいのでありますが、学者は決してさようにはこの事態を楽観視してはおらぬのであります。そこで問題はさらに今後の問題になつて参りますが、残された二十二名の患者の中において第三、第三の久保山さんの発生することをわれわれ国民は極度におそれておりますし、そういうような事態のないことを祈つております。しかしながら、恐ろしい放射能被害というものはわれわれの希望を裏切るかもしれません。それに対して政府は残された二十二名の患者被害者病状、そういうものをどういうふうに把握され、どういうふうに理解されておりますか、大臣所見を伺いたい。
  18. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 現在二十二名の被爆を受けられた乗組員の諸君が東大東京国立第一病院でそれぞれ治療を受けております。その中には数名の黄疽症状の方もございます。あるいはその黄疸の症状がだんだんと快方に向つて参ります状態の方もありますし、中には波を打つておるような状態の方もあるようでございます。報告によりますとそういう症状が続いておるようでございます。従いましてこれらのその他の患者に対しましても、今医療陣治療最善努力をいたしておるのであります。現在の状態ではこれらの症状悪化をしつつあるということは見受けられないのでございますが、といつてそれで全部が完全に善良になつて安心だということはへ必ずしもこの放射能症状久保山さんに現われた点から考えましても、言い切ることはできないと存じております。しかし幸いに医療陣におきまして、これらに対する最善努力をいたしておりますから、その努力に私ども期待をいたしておる次第でございます。
  19. 柳田秀一

    柳田委員 厚生大臣は残された三十二名の方の病状に対しては、現在のところにおいては最悪事態までというようには学界権威等からも聞いていない、かようにおつし・やつたように思いますが、さよう解釈してよろしゆうございますか。
  20. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 昨今の症状は、そういうふうなことだと存じております。
  21. 柳田秀一

    柳田委員 私がある学界の方から聞いたところによりますと、なお二名ばかしは非常にめんどうな症状を呈しておる、やはり憂慮すべき状態であるというふうに聞いておるのでありますが、大臣はさような点に関しては学界から何らかの報告を受けておられますか。また大臣としても絶えず念頭にある事柄でありましようと思いますから、絶えず学界権威意向はお聞きとりになつておると思いますがいかがでありますか。
  22. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 治療担当の方から随時御報告を伺つております。私が先に黄疽患者が数名あると申し上げた中にも多分ただいま御指摘の点も含まれておるのではないかと思います。六月ころからの症状異動等から考えますと、もちろん安心した状態にはないと考えます。といつてただちにこれが最も憂慮すべき状態であるとは、現在の症状ではにわかには言い切れぬのでは  ないか。しかしこの症状がいろいろと動くことが予想されますので、その変動に対しましての最大医療処置が今なされておる状態でありますから、私は現在のこれらの患者方々に対しましても、決して失望をせずに、そのよくなることを医学陣に大いに期待をしておる次第であります。
  23. 柳田秀一

    柳田委員 もとより私も、現在放射能で、世界のどの国の学者といえども、これに対して十分な自信を持てる学者はあり得ないことは知つております。むしろ日本学界こそが現在の世界のレベルにおいては進んでおるとさえ言いたいのであります。信じたいのであります。同時に日本学者陣の献身的な努力もよく知つております。また国民として第二の久保山さんが出ないことを心から念願しておることもわかりますが、しかしながら久保山さんの問題にいたしましても、政府としてはどうも最初都築教授が言われたのを、もつと率直に受取られ、もつとこの事態を重要視せられて、真剣に考えられる人があつたのではないかということを痛感しますがゆえに、今後の問題に関しましても、そういう事態にならぬことを委員として希望いたしますが、私はさらに政府を鞭撻して——やはり最悪事態を当然お考えになつて国民の意思を対米折衝の上にも反映していただきたい。この程度にして、人間の生命の問題でありまして、デリケートになりますから、私はこれ以上申し上げません。  そこでこの第二福竜丸患者が発生して以来、大臣ともよく問答いたしましたが、いまだに大臣はこの患者船員保険の経済のわく内でまかなうつもりでおられますか。もうそろそろお考えがかわつたのではなかろうかと思いますが、その後承つておりませんので、現在の大臣のお考え方を承りたい。
  24. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 当時も私はそう申し上げたつもりでございますが、実はこれらの乗組員方々は、船員保険法該当者、被保険者であります。従いまして、船員保険法に定めた処置をとることは当然であります。またそういう御要求がありますと、いつ何時でもこれに対する求めに応ずべきであります。ただ実際上の問題といたしまして、今回の場合はちよつと違つておると考えます。従つて船員保険法によつて、現在医療はとりあえずその全額を支出いたします。しかし船員保険法によりますと、御承知のように治療を受ける間、四箇月間は俸給全額を支払うことになつている。その後は、治療中、最大三年までであつたと思いますが、その半額を支払うことになつている。しかしこれにいたしましても、基準俸給がまことに僅少でありますので、むしろそれでは生活を維持するのに困難である、このケースは普通の場合と違つたケースでありますから、この問題については、いわゆる水産組合からの立てかえ金によつてやられるが、当然アメリカからの補償等の問題が出て来る、またこれによつて解決すべきものであるから、それによつて、もつと手厚くいたすべきであるというので、最初からその方法をとつて参つてつた次第であります。従いまして、現在におきましても、おなくなりになりますと、船員保険に定めたそれぞれの処置がございますが、今回これに出されました弔慰方法等を、これらとあわせて処置をいたして参つた次第であります。
  25. 松永佛骨

    松永(佛)委員長代理 安藤国務大臣出席いたされましたから、通告順により質問を許します。岡良一君。
  26. 岡良一

    岡委員 久保山愛吉さんの不幸なる御逝去については、私ども国民とともに深く哀悼の意を表したいと思うのであります。そこで質問順序といたしましては、実は厚生大臣の方から御所見を伺いたいと思つておりましたが、安藤国務大臣がお見えになりましたので、順序をかえてお伺いいたしたいと思います。  まず私は、不幸な久保山愛吉君の死、これを通じて安藤国務大臣も先般の外務委員会においては、もし不幸な事態があれば、さらにあらためて各般の問題について考え直さなければならないということを言つておられるのでありますが、そこで何をどう考えるかという問題であります。私はこの事態にかんがみてまずお願いしたいことは、残された二十二人の方々については、これまでも十二分な御努力を傾けておられますが、さらに今回の不幸な経験にかんがみて、一層治療についての万全を期していただきたい。同時にまた、今日までこうして百四十数日の間、アメリカとの間におけるこの被爆に関する補償の問題が一向に解決がついておらぬ。少くとも国民の納得の行く線が出ておらぬ。これもこの際はつきりと政府としては解決への思い切つた手を打つていただかなければならぬ。同時にまた、この死を通じて、久保山愛吉君の経過並びに解剖の所見というような点は、実に歴史的な文献であろうと思います。歴史的な文献であるという意味は、日本最高医学陣が全力をあげても、水爆破壊力というこれまた人類最高の叡知の前には無力であつたということを示すと同時に、将来原子力が平和利用される際、あるいは原子炉等に発生する原子灰が、不幸にして平和利用の際においても人類に悪い影響を来すことも十分考えられるので、そういう障害を除くためにも、きわめて貴重な文献であろうと思うが、こういう文献の取扱いをどうされるかということ。われわれの希望から言えば、これは全世界科学者に強く政府責任において発表していただきたいという希望を持つておるのでありますが、一応はそれくらいなことは政府としてやつていただきたい。  そこで安藤国務大臣お尋ねするわけですが、一体政府は、ビキニ被爆問題に関する賠償の問題については、どういうふうな基本的な態度に立つておられるかということをまずお伺いしたい。三月二十五日にこの委員会において岡崎外務大臣出席を求めましたが、この補償問題についての委員質問に対して岡崎外務大臣はこう答えておられる。ビキニの問題については、アメリカ日本との関係は、日米安全保障条約等もあつて、きわめて親密な間柄にあるのであるからして、賠償というような肩ひじ張つた話合いはしないで、なるべくお互いにひとつ話合いできめて行く方針であるが、はつきりした方針はきまつておらないので、いずれ政府部内で協議の上きめたい、こう言つておられるが、その後アメリカ意向として伝えられるところによれば、アメリカ側では賠償責任任ずるというような意向はない、いわゆる補償というような形で折合いをつけて行きたいということが新聞では数次にわたつて伝えられておる。安藤国務大臣は先般中央公論の九月号の中で、米国はその責任を感じて賠償方針を定めておると言つておられる。するとまたこの間の九月十六日の外務委員会においては、穗積委員損害賠償請求権を発動して要求されるつもりであるのかという質問に対して、安藤国務大臣は何らお答えがない。一体久保山愛吉氏の死を迎えて、今日の国民感情にかんがみますときに、話合いアメリカ好意期待をするという態度で行かれるのであるか。それとも国際法上の当然なる権利として、賠償請求権の上に立つて政府アメリカ側に対して正当な補償を求められるのであるか。賠償であるのか、向う側の好意である補償期待するのであるか、この点のけじめが今日までのところ非常にあいまいに感ぜられます。あるいは私ども考えが、まだ十分政府側事態の真相をつかんでおらぬのかもしれませんが、この際国際法上の賠償請求権に基くわが方の当然の権利として、アメリカ政府に対して、補償要求されるのであるか、あるいはアメリカ側のいわゆる好意ある補償期待するという消極的な態度で行かれるのであるか、これでは私はなくなつた久保山愛吉氏の霊にこたえることはできないと思うが、その点についての政府のはつきりした今後の態度をひとつ承りたいと思います。
  27. 安藤正純

    安藤国務大臣 いろいろお尋ねでありましたが、患者の問題のことを初めお尋ねですが、これはアメリカに対する賠償要求の中に入つているのであります。しこうして、それは必ずアメリカが承諾をして、賠償要求には応ずると思う確信があります。従つてその賠償が参りますれば、それぞれのことを患者にいたすのでありますが、アメリカとの交渉が、まだ今最後になつておりませんから、患者に対して待つておられないで、政府国内措置として五十万円ずつ、まず賠償のうちからの内払いという形で、国内措置をとつたのであります。でありますから、最近のことでありますが、あの二十三人の患者には五十万円ずつの金を渡してあるわけであります。しかし久保山君は犠牲になつてしまつて、まことに気の毒にたえないのであります。これに対しましては、できるだけのことを誠意をもつてやらなければならないと存じまして、これもまたいろいろな角度から検討をした結果、その最も高度のやり方をとりまして、五百五十万円の弔慰金をこの間差上げた次第であります。でありますから、なお患者治療等につきましては、ここに厚生大臣もおられまして、むろん現在も、今日までも十二分にやつておりますが、今後といえども遺憾なく治療手当はやるつもりであります。  それからアメリカに対する態度でありますが、これは要するに外務大臣所管で、外務大臣交渉の局にずつと当つておるのであります。しかし政府といたしましては、ただ向うの好意に一任して、好意的に金を出させる、出してもらうといつたような態度ではございません。根拠としては、アメリカの過失から起つたことでありますから、それを根拠として賠償要求しているのであります。但しその外交折衝としては、いたずらに事端を繁くし、けんか腰と言つては語弊があるが、そういう態度で行かないで、話が日米の間でありますから、円満に進むように、しこうして、いい結果を収めるようにやつておる次第であります。ただそういうことになりますと、その根拠に基いて賠償要求しているのですから、そこでアメリカの方では、その賠償は直接損害の賠償には応ずる、間接損害には応ぜられない、こういうのがアメリカ態度であります。これにつきましても、直接間接ということがむずかしいことなんであります。そして今まではこういつたような非常事態もないものですから、そのへん非常に困難を感じるのですが、日本といたしましては、少しでも多く、直接は言うまでもなく、直接に準ずるような間接被害でも、なるべくこれに応ぜさせたいという態度を持つておるのであります。実はそれがために、今日までこの交渉最後の結果が得られないというわけであります。現在なお、そういう態度をもつてかかつております。ことにお話のように、久保山君がなくなられたので、一層私はアメリカが認識を深くし、認識を新たにしてやつてもらわなければ困る、こういうわけで交渉を強く進めたいと思つております。それでありますから、現に五百五十万円を久保山君に出したことも、これはアメリカから賠償を見込んで実はやつておるのです。しこうしてアメリカに対しては、久保山君が死んでときの五百五十万円というようなことは、要求してはないのです。それは一律に二十三人の患者に対して、生活保護費といいますか、慰藉料と申しますか、そういう金を要求しておるのであります。けれどもども考えでは、それだけじや間に合わない。久保山君にもうあれだけ払つたのだから、それはあらためて今後交渉するつもりです。  それから久保山君ばかりじやない。あとにそういうような人が出るかもしれない。これはそういうことを予想したくはないのです。なおつてもらいたいのです。けれども考え方としては、万一久保山君と同じような人が出た場合にも同じようなことをしなければなりません。これらに対してはアメリカに重ねて今要求中であります。まだその結論は得られない、こういつたわけであります。
  28. 岡良一

    岡委員 大臣に長時間を煩わすことも恐縮でありますから、簡潔にお答えをいただいてけつこうでございます。  そこで重ねてお尋ねをいたしますが、そういたしますと、政府としてはビキニ被爆事件に関する直接間接の損害をも含めての賠償請求権という国際法上の権利に基いて、アメリカ側要求をするという立場に立つておられるのであるかどうかという点。いま一つは久保山君の死という不幸な事態が起りまして、かつはまた将来起り得ないという保証も立ち得ない、従つてこれが賠償の請求権に基いて直接間接の損害に対しての賠償要求しておられた政府は、さらにこのような不幸な事態にかんがみての追加請求をされる御意思があるかというかということ。第三点は、こうして世界人類がこの問題に大きな注目をしておるときに、百四十数日の間まだ賠償の問題が解決しておらない、政府はこのように荏苒日を過すところなく、納得の行く解決が得られないならば、当然政府は、賠償請求権の上に立つて賠償をしておられるのであるから、当事国政府との間に話合いがつかないならば、国際司法裁判所に提訴するというくらいな熱意を持つてこの問題に臨んでおられるのであるか、この三点を簡潔にお心のみを承りたい。
  29. 安藤正純

    安藤国務大臣 久保山君及び久保山君と同じような事態が不幸にして生ずる場合、むろん追加要求をいたします。  それからただいま申し上げましたように、賠償要求している根拠は先ほど申しました通りで賠償要求をいたしておるのであります。しかしながらその外交折衝外務大臣の方で、日米親善ということを頭に置きつつ円満に最善の結果を得ようというやり方でやつております。しかしなぜこんなに長引いているのか、久保山君のようなことが起つてもなぜぐずぐずしているのか、これはまつたくそういうふうに考えられる。私が政府の人間でなければむろんあなた方と同じように考えます。政府者としても私はそういうふうに考えておるのですが、しかしこれにはこういうこともあるのです。これは早くきまりをつけてしまうと、どつちかというと不利な結果になる。少しでもいい結果をもたらすためにはそれでは手は打てない、こういう態度をとつておるのです。それでありますから、あなた方から考えると、ただ申訳のように考えられるかしらねが、事実そうなんであります。私はこういうふうに考えておる。これはむしろ簡単に手を打つてはいけないのではないか、もつと請求すべきことは請求して、追究することは追究して行く方が、少しでもいい結果の方に行くのじやないかと思うのであります。しかしどうしてもいけなければ、お話のように国際司法裁判所へ提訴するという機会があるいは来るかもしれないということを申し上げておきます。しかし今それを予定しているのではありません。なるべくアメリカ日本との関係の上ですから、円満にこの賠償の問題を決定したいのであります。けれども、どうしてもいかぬ場合は、そういう悪い場合も考えられないことはないと思う次第であります。  ただこの際申し上げておきたいのは、どうもアメリカの認識が浅いようなんです。この間久保山君が死んだことに対しましても、どうも初めのうちはこつちへピンと来なかつたが、しかしそのうちにやはりだんだんわかつたらしいので、認識も少し深めて来たようでありますから、そこで今その方針に従いましてなるべく追加要求することは追加要求し、そしてなるべく早く結末をつけるように関係閣僚で相談して努力をいたしたいと思います。
  30. 岡良一

    岡委員 そこで次にお伺いをいたしますが、安藤国務大臣がこの被爆対策の関係機関の責任者として日夜御奔命をいただいておることにはわれわれも大いにその御努力を多といたしております。そこでなお私はこの問題について政府部内の意思の統一が欠けておるやに感じまして遺憾に思つておるのでありますので、お尋ねいたしまする点は、この三月二十五日に、やはりこの厚生委員会岡崎外務大臣の御出席を求めましてわれわれは水爆の実験を禁止するということを広く世論に訴うべきではないかということを強く要求いたしたのであります。そのときの外務大臣の御答弁では、速記録においてはつきりこうおつしやつておられる。これに対する外務大臣の御答弁の一つは、「われわれはできるだけアメリカのそういう実験等には協力をいたしたいと考えております。」こう言つておられる。さらに第二段に、その態度について遺憾の意を表明しながら強い決意を要望いたしましたところが、外務大臣はこう言つておられる。「アメリカ側のかかる実験を阻止する手段は、自由主義諸国の一国としてとるべきではない。」「ただいまのところは、私はこのアメリカの実験等をむしろ助けるべきであろうと考えております。」こう答弁をしておられる。安藤国務大臣が、たとえば九月号の中央公論においても、あるいは先般の外務委員会の速記録においても、これとはまさしくきわめて違つた、われわれの非常に同感を表したいお気持を表明しておられる。一体外務大臣の、実験に協力をしよう、助けるべきである、こういうのが政府態度なのか、あるいは安藤国務大臣の御所見政府態度であるのか、この点、すでに新聞の輿論等も相当批判をしておりますので、この機会に、一体どういう態度なのか、外務大臣のこの態度政府態度なのであるかという点、これを安藤国務大臣から御答弁を煩わしたいと思います。
  31. 安藤正純

    安藤国務大臣 ちよつとむずかしい困難な質問なんですが——質問が困難なのじやない、答弁するのに困難を感ずるのです。それは岡崎君はそういうふうに考えているかもしれませんが、その考え方は国際的の立場に立つて考えているのだと思います。だから、協力ということは、何もこつちがはだを脱いでアメリカにもつてやれやれという積極的な協力という意味じやないんじやないか。アメリカがどうしても今日やるというならば——アメリカの立場というものは、せんじ詰めれば、今原子力兵器というもののバランスで平和が維持されているのですから、そういう立場で来るとすれば、同じ民主国として、ことに日米の立場においてむげに排斥することはできない、こういう消極的協力論じやないかと思います。私は先般の外務委員会かどつかでもお話したが、それを追究されたからやむを得ずお答えしたのですが、私個人としては実験反対論者であります。であるからやめてもらいたいというのであります。しかしこれは私個人の意見でありまして、政府としてはそう言い切ることはできないのであります。そこで政府の間で、つまり関係閣僚の間でそういうことを話し合つたこともありますが、政府としてそこにきめてしまつたということはないのであります。だが、結局は非常にむずかしい問題で、今さしあたりの問題はアメリカの実験なんですが、ことしは実験しないでしよう。来年になつたらどうもやるかもしれないといつた場合に、日本としての立場から言えば——日本だけが免れればいいというわけじやないので、これは世界全体どこでも困るのだが、しかしさしあたり日本の立場として考えれば、日本に危険の及ばない区域でやつてもらいたい、つまりアメリカの方へ持つてつてもらいたいというようなことを外務大臣から折衝してもらうつもりです。少しはそのことも言つております。だが、もつと本式にやつてもらわなければならぬと思つております。これが第一です。第二に、そういつた場合に、どうしてもほかにいいところがない、あれだけ広くて、しかも人間の少いああいつたようなところはほかにないから、あそこでやるというようなことにアメリカがなつた場合には、日本は厳重なる安全保障を求めなければならない。つまり危険区域を厳重に設定し、さらにその外にもう一応の安全区域といいますか、これから外は安全区域といつたような二重の区域でも設けるということが必要だ。それは科学者が寄つてやれば、われわれはしろうとでわからぬが、そういうようなこともできるのじやないかと考えるので、それを要求するつもりです。それが第二点。けれどもそういうことまでやつてもなおかつどうしても被害が生じた場合には、今度のようなめんどうなことにならないで、解釈が一、二にならないように、受けた損害は全部支払つてもらうということをあらかじめ交渉するつもりでおります。これは外務大臣やわれわれ関係閣僚の間で大体きまつておる方針であります。  最後にちよつと申しておきますが、よけいなことかもしれないが、結局この実験の問題は協力がどうだとか、実験反対だと私は言うのだが、そういつたようなこともせんじ詰めるとむずかしい問題になつてしまうので、まあ一番いいことは、国際連合で国際管理をするということなんです。その国際管理が御承知のように主としてアメリカとソビエトの考え方が違うために今までできずにいる。ところがだんだん最近になつて少し近寄つて来たようです。現に昨日の電報等にもあつたように、ソビエトの提案が、原子力兵器の国際管理ということにソビエトは少しアメリカやイギリスの言い分に歩み寄つて来たようなんです。そこでアメリカやイギリスでもやや好感を持つて来たらしい。こういうようなことができますと、国際管理ということがすぐはできないにしても、だんだんできて来るとなると、おのずからこの実験問題なども、そういう上から大局的に解決がつくのじやないかと思つて、私どもはそれを非常に考えておる次第であります。
  32. 岡良一

    岡委員 第一点は、外務大臣は、安藤国務大臣の表現をかりるならば、消極的協力だという。これは外交の責任の衝に立つ人の態度が消極的協力——ところがビキニ被爆に対して政府が公式に設けられた対策協議会の責任者は安藤国務大臣でおられる。この対策といえども、ひつきようはやはり広い意味において、将来における水爆実験に対する政府態度にも当然かかつて来なければならぬ。この担当責任者である安藤国務大臣態度は、個人的には反対である。こういうふうに水爆の実験に対する政府態度というものはまことに一貫性がないというようなことが、やはり今日国民感情に対してもまことに遺憾な影響を与えておる。こういう点は政府の間でもつとはつきりとした態度を打出さなければならぬのじやないかと思います。今その点について政府としてはつきりとした態度を打出されるかどうかお伺いをいたしたい。  それから今お話の点でありまするが、いろいろ日本側の態度について、原爆の実験といつてアメリカだけではないので云々というふうなお話がありまするが、しかしながら皆さん、大臣も御存じの通り、これはおそらくもう現在のところ被害の圏外にある英国の国会でも、老宰相も国会もあげて原爆、水爆の実験は禁止しろという決議をしている。インドでもやつておる。セイロンで行われたあのコロンボ首相会議でも、会議に参加したビルマやインドネシヤやパキスタンやセイロンやインドがこの決議をしておる。しかも大臣はしばしば、日本が二度ならず三度ならず大きな犠牲者である、われわれこそ当然選民としてこの問題に対して毅然たる態度を表明する権利があるのだと言つておられる。外国の輿論が、外国の国会が、外国の指導者が、水爆の実験はやめろと言つておる。そのときに、その選民といわれる日本民族を代表する政府が、そういうように意見の不統一があり、一方では消極的な協力だというようなことでは、水爆の問題というものは国民の納得の行く解決に進むいわば力が政府にはないとさえも私は言いたい。なぜ水爆の実験を禁止しない、禁止せよということを政府は当然この際言わるべきじやないか。今、後段におつしやいました、なるほど国連総会でも今度は原子力の平和利用は成規な議題として満場一致で抹択されておる。ヴイシンスキー代表も、今日の新聞を見れば、軍縮の第二段階としてはこの問題を取上げる、原子力の平和利用と原子兵器の廃絶に関する議題を取上げようというところに大きく譲つて来ておる。しかし問題は、原子兵器をやめるとかやめないとか原子力の平和利用云々ということはわれわれの終局の目的ではあるけれども、国連に加盟もしない日本としては、なかなか言うべくしてその実現を期待することはできない。しかし水爆の実験を続けることによつて、ウラニウム、プルトニウム、三重水素と、こうして原子力のその発展の度合いにおけるあらゆる被害を受けておる日本人が、あるいは日本政府が、さしあたり水爆の実験だけはやめろ、これがなぜ言えないのかという点にわれわれは非常にいらだたしい気持を持つておる。ここであらためてお伺いをしたいのであるが、そんな安全保障会議を設けて日本だけは難を免れようということでは、大臣の言われる選民たる日本人が、日本人だけの犠牲を免れて事が済むというものではない、身にしみてこの大きな破壊力犠牲というものをわれわれが体験をしておるのであるから、全人類がこの実験に基くところの犠牲から免れよう、こういう大きなアツピールを全世界に声をあげなければならぬ。これはもう政府の当然な仕事じやないかと私は思う。あえて宗教家でもありまた人道主義者としての安藤国務大臣の御所見をお伺いしたい。
  33. 安藤正純

    安藤国務大臣 ごもつともの御意見なんですが、政府としてはまだ最後態度はきめるわけに行かない、しかしこれは非常に重大問題ですから、今まででもそうですが、さらに今後におきまして、検討も重ねて適当な処置をとらなければならないと思つておるのであります。今度吉田総理が外遊をされまして、あちらへ行く。この間閣議でも私はそのことを主張いたしておきましたが、さらにまた立たれる前日に個人的に会見しましてお話をしておきましたが、向うへ行つてあなたからもそういう話をやつてくれ、総理も、やりましよう、どういう形をとるかしらぬが、やりましようと、こういう話でありました。岡崎外務大臣は、最近南米に行きまして、帰りにアメリカに寄るわけであります。この機会にその実験の問題その他につきましても、向うでも直接交渉をしてもらうように話を進めておる次第であります。ただ右左に、政府がはつきりそこまで態度を打出すことはすぐはできなかろう。しかし努力して何とかやりたいと私は考えております。
  34. 岡良一

    岡委員 せつかく安藤国務大臣にこの委員会に出ていただきましたか、正直のところ私は大臣の御答弁にはことごとく不満足を感ぜざるを得ないのです。吉田総理大臣が外遊されるならば、そこまで意気込みがあるならば、あの署名簿をみなひつさげて持つてつて、アイゼンハウアー大統領にでも、国連の事務当局にでも見せて、話をするくらいの熱意がなければならぬ。それくらいのことは国民がみな希望しておるのです。それをまだ政府態度が一定しない、補償も商人の取引のようなことで、少しの多寡を争つて何とか長く引延ばしてもいいのだというような考え方は、私たちはどうも納得できない。しかしこれはこれでおきましよう。  そこで厚生大臣にお伺いいたしたいのですが、これは楠本部長でもけつこうです。久保山愛吉君の容態またその後の他の患者の諸君の容態については、先ほど柳田君からもいろいろ御心配があつたようであります。そこで解剖された所見と、特に肝臓において、これは灰とした中にもガイガーによつてやはりある程度のカウントが発見されたということがきようの新聞に出ております。そうなりますと、すでに被爆当時においておそらくはストロンチウム九〇などのような減衰期の割合に長いものが肝臓の中にもうすでに入つてつたということになる。このことは残された患者の諸君の予後にも非常に大きな影響があることだと思う。同時にまたアメリカ側では、日本のお医者があまり輸血をし過ぎたために、血清に基くところの肝炎を起したのが黄胆のもとだなどということを言つておるとも聞いておる。こういうようなことかアメリカ学者からアメリカの国内に流布されるということは、賠償問題の将来にとつても非常に悪い影響がある。同時にまた先ほども申しましたように、残された二十二人の漁夫の諸君のみならず、将来原子力が平和利用されたときにもやはり発生する原子灰、それに基くいろいろの障害等に対する治療上の重要な決定的なポイントの一つに私はなろうと思うのであるが、一体久保山愛吉君の死亡の原因であつたところの肝炎と申しますか、肝萎縮と申しますか、この一次的な直接の原因は、肝臓の中に被爆当初すでに放射能を有する元素が入つてつたことに基いたものであるか、それとも日本人医師が不当に輸血を頻繁にいたしたためになつたものであるか、あるいはその両者が原因として考えられるのであるかということについて、すでに解剖の所見等も、私は第一国立病院におとといも行つて参りましたが、大体整理されておるようであります。そこで厚生省としてはいかなる報告を受けておられるか、お伺いしたい。
  35. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 私からお答え申し上げておきたいと思いますが、久保山君の解剖の所見は、当初肉眼的な所見はただちに発表され、さらに解剖学的な科学的な立場から、これは研究なり、あるいはいろいろな問題があります。これらについては最も貴重なる資料であり、また治療経過等が含まれて来る問題でございまするから、まとまりまするとこれを発表してもらいたいと存じております。従いまして、それによつて十分久保山愛吉君の放射能関係が判明して来るだろうと存じます。私どもは現在まで総合して承知をいたしました点では、久保山君の死は直接放射能の影響による死だと存じております。
  36. 岡良一

    岡委員 この記録は久保山愛吉君の経過録、日本医学陣が加えた診療の経過並びにその死体剖検における総合的な所見、これは私が繰返し申しまするように、実に貴重な文献だと思うのです。これは科学的に貴重な文献であるだけではない、人類の進歩的な良心の成長のためにも、これは非常に貴重な経験だと思う。そこで今大臣はこれを公表すると言つておられまするが、私とすれば、当然こういう貴重な、おそらくまたとない貴重な文献というものは、当然これはユネスコ等を通じて全世界科学者にこの事実は公表する、このことは直接水爆の実験をやめてもらいたいなどと言わなくても、国境を越えた科学者の良心と自由の名前において、これが公表されるように政府としては積極的にこれをとりなされる、それくらいなお心構えがあつてしかるべきと思うが、大臣の御所見を承りたい。
  37. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 私どもも御所見のように考えております。
  38. 松永佛骨

  39. 福田昌子

    福田(昌)委員 少し具体的な点につきまして一、二お尋ねさせていただきたいと思います。安藤国務大臣はこのビキニ環礁実験に関しまして被爆いたしました第五福竜丸の二十三名の被害者に対しまして、ことにその補償について非常に御関心と御努力をいただいておりますことを、私たち感謝いたしておりますが、先ほど外務委員会の席上においての安藤国務大臣の御答弁によりますと、目下アメリカ側要求しておる賠償額は、二十五億という御答弁がございました。これは久保山愛吉氏が目下重態であるが、彼が不幸にして死亡いたした場合には、その賠償額はさらにまた追加要求するつもりであるということを御言明になりましたが、不幸にして久保山氏がなくなりましたが、この賠償額に対しまして、さらにいかほどの追加をなさるのであるか、この点を承りたいと思います。
  40. 安藤正純

    安藤国務大臣 これは先ほども申し上げました通り、そういう事態にもなつたものですから、それは追加要求をすでにいたしつつあります。この金額についてはちよつとここで申し上げかねますから、その点は御了解を願いたいと思います。
  41. 福田昌子

    福田(昌)委員 大体アメリカ側から、損害の賠償として支払おうという金額は、どのくらいのお申入れがあつたのでありますか。ただいまの段階において額面をお知らせ願いたいと思います。
  42. 安藤正純

    安藤国務大臣 アメリカがどれだけのものを払おう、こういう今の段階はどうかという……。
  43. 福田昌子

    福田(昌)委員 そうで、ございます。
  44. 安藤正純

    安藤国務大臣 最後的のところまで行つておりませんが、アメリカは最近まで八十万ドルの賠償を出すと言つております。そういうことでは追つつかないというので、さらに九十万ドル、あるいは百万ドルというようなところなのであります。現在の段階はそういうことであります。
  45. 福田昌子

    福田(昌)委員 そういたしますと日本は、安藤国務大臣のお言葉によりますと、さらに追加するつもりであるということでありますから、当然中間賠償の問題が起ると思うのでありますが、その二十五億からすると、八十万ドルといたします。と、まさに十分の一、百万ドルといたしましてもそれに近い、十分の一をあまり出ないわずかな額面にすぎないのでありますが、こういうことでは、私どもアメリカ誠意を金額の多寡によつて判断するわけではありませんが、非常に遺憾に思うのであります。安藤国務大臣自身も、アメリカは原爆のこの実験によつて被害を受けた日本人の漁夫に対する認識が足りない、非常に認識不足のような感じがするということを御言明になりましたが、このアメリカ側の認識不足というものは、どういうところに原因があると安藤国務大臣はお考えになりますか。
  46. 安藤正純

    安藤国務大臣 一々突きとめたわけではないが、たとえば原子力の委員長から議会に出した中間報告書を見ましても、楽観的になつております。われわれの考えているところとそこが違うといつたようなこともあります。ですが日本としては、直接アメリカが出す直接賠償は、これは当然なことであり、間接賠償ということになるとなかなかめんどうな立場に向うがなると思います。でありますが、日本としては間接賠償の範囲とか限界とか性格とかをきめるのに非常に困難であるが、しかしながら間接賠償でも性格が直接の方に近いところは賠償してもらわなければ困る、こういうような態度をとつているのであります。
  47. 福田昌子

    福田(昌)委員 私が御質問申し上げましたのは、アメリカの実験に対する認識不足の原因についてどのようにお考えになるかということをお尋ね申し上げたのでありましたが、お答えいただきました点は多少ずれておりまして、それに対する御答弁がなかつたように存じます。私どもが想像いたしますに、アメリカ側の実験に対する認識不足は、これは安藤国務大臣が御答弁なさいましたことと同様に、私どももきわめてアメリカ側は認識不足であると考えます。なぜアメリカ側の認識不足が起つているかということの点でございますが、これにつきましてはいろいろな角度から原因が見出されるでありましよう。もちろん一つにはアメリカの国際的な立場をアメリカ側にとつて有利に導くために故意に認識不足を装つている点もあるかもしれません。しかしそのことはまた別の機会にお尋ねさしていただくといたしまして、一つはやはり日本の国内側にもアメリカ側を認識不足にさせている大きな原因があるということを考えていただきたいと思うのであります。私どもはこの事件に対しまして、閣僚の中では安藤国務大臣が最も御熱心であり、担当大臣である御責任もありましようが、それよりもなお安藤国務大臣のお人柄においてこの事件に非常に御熱心であるということに対しまして非常に敬意を表しておりますが、その閣僚随一の安藤国務大臣におかれましても、このビキニ被害者第五福竜丸の漁夫二十三名の放射能症に対しまする御見識と申しますか、そういう点においていささか私ども残念な点を感ずるのでございます。久保山愛吉氏が死んだなら補償の点もさらに追加要求するであろうというような御言明があつたのでありますが、こういうことははなはだ失礼でございますが、原爆症に対しまする医学的立場においての安藤国務大臣のいささか御認識において足らない点があるか、あるいはまた軽く見ておられたというそのお気持が災いしているのではないかということを感じます。こういう立場でございますれば、そのお気持というものがやはり被害者に対しまする病状を軽く外国に向つても御報告なさるというようなことにもなつて参りましようし、これを受取るアメリカ側も軽く評価するというようなことにもなつて参ると思うのであります。私ども安藤国務大臣におかれてもそういうように軽く見ておられるということを、はなはだ失礼でございますが、多少遺憾に存じておりますが、さらに不幸にして第二、第三の久保山氏が出て参らないとも限らないのでありますが、これに対しまして、安藤国務大臣がそういう第二、第三の犠牲者が出られた場合に、また賠償問題に対してどういう態度をおとりになるのか、またアメリカ側にこういう第二、第三の犠牲者が出るかもしれないという報告をすでにしておられるのかどうかという点もあわせて承つておきたいと思います。風聞いたしますところによりますと、今なお白血球の数が三千以下、すなわち久保山氏の症状に類する重態の患者が数名あるそうでございます。こういう人たちが不幸にしてまた次の犠牲者を出すということでございましたならば、これはまたさらに重大な問題となると思うのでありますが、これに対してアメリカ側にそういう説明をしておられるのかどうかという点を重ねて伺います。それともう一つやはり同僚の中におかれましても、岡崎国務大臣のごとく、こういう病者が出たにもかかわらず、そういう苦悶いたしております病者の頭を越えてアメリカ向けに二へんも三べんも原爆実験には協力するというような放送をなさる、こういう閣僚があるということは、やはりアメリカ側がこの問題に大いに認識不足になる当然の理由になると思うのであります。この点よく閣僚各位の中におかれまして安藤国務大臣は、私どもから見ますと、まことに良識のある適切な胸のすくような御発言をときどきなすつておられますが、その意気をもちまして閣議におきまして——英国の議会でさえも原水爆実験に対する反対の決議をいたしたわけでありますから、日本閣議でもこれくらいの反対を要望するくらいの決定をいたしてしかるべきと思うのでありますが、そういう御決心があるかどうか、この点を重ねて承つておきたいと思うのであります。こういうように全般的に日本の閣僚の方々日本の指導的立場にある時の政府担当者それ自身が、原爆症に対しましてやすく低く軽く評価している。日本人の生命というものを非常に軽く評価しているというところに、アメリカの大きな認識不足があるということを私どもはいささか考えざるを得ません。従いまして私たちが期待いたしておりまする安藤国務大臣の今後のそのお心構え、御健闘というものをお願いしたいわけでありますが、一、二御要望申し上げました点について御答弁願いたいと思います。
  48. 安藤正純

    安藤国務大臣 今あなたのおつしやるように、私医学のことは全然無知識で、全然知らないのですよ。知らないのは自慢じやないが、いまさら研究してもとてもおつつかないからこれはもうしようがありませんが、ただしかし患者の取扱いについては十分な処置をいたしております。それから久保山氏にしろ、二十三人の患者に対しましても、あとの生活保護ということについては十分認識を政府は持つておりまして、その点を賠償要求をしているのでありますけれども、さらにここに久保山君が死にましたから一層その点を強めましてこの間のようなことをやつたのであります。であるから今後第二、第三のああいう人たちが出た場合にはやはり同じ取扱いをすることは間違いありません。  それから今後のことでありますが、むろん私はその決心で骨折つておりますが、私の考えが通ることばかりありません。通ることを希望するのだが、その通りには行きません。それは今後の政府の間の検討をまつて最善努力を払いたいと思います。
  49. 福田昌子

    福田(昌)委員 先ほど御質問申し上げました点について御答弁を伺えませんでしたので重ねてお伺いさせていただきたいと思いますが、久保山氏は不幸にしてなくなられましたが、あとにまだ必ずしも絶対ああいう不幸な犠牲者が出ないわけではありません。その病状につきましてアメリカ側に十分御報告なさつておられるかどうか、この点につきまして重ねて御答弁承りたいと思います。そういうように原爆症に対して非常に重症患者が続出しているのだという点について御報告なさつておられるかどうか、この点であります。  それからこれはまた新らしい質問になるかとも思いますが、この実験に対しましてさすが親米派の岡崎外務大臣ビキニ環礁のこの実験はもう少し場所をかえて実験してもらいたいということをアメリカに申し入れるつもりだということを、新聞にその談話が出ておつたように記憶いたしますが、これは岡崎外務大臣のことでございますから、安藤国務大臣においても人さまのことで御答弁しにくいかと存じますが、岡崎外務大臣がこういう申入れをアメリカ側にさつそくなすつたかどうか。この点を重ねて承りたいと思います。
  50. 安藤正純

    安藤国務大臣 今の点すでが、それはもうすでに再三関係閣僚と相談してありまして、すでに岡崎外務大臣からはそのことを申し入れてあるはずであります。それから患者のことについては私はもうまるでしろうとでわからないから、答弁の資格がありませんので、厚生大臣及び厚生省の方の説明員からお答えを願いたいと思います。
  51. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 よく連絡いたしております。ことに今度の久保山愛吉氏の解剖等につきましては、アメリカ側も立ち合つて解剖いたしました。
  52. 福田昌子

    福田(昌)委員 久保山氏の解剖所見というものがあからさまになりまして、肝臓にさえ放射能が見出されたということでございますが、こういう当然原因が明らかである死亡にもかかわらず、アメリカ側日本の医学のあやまちであつたとか、輸血のやり過ぎじやなかつたかというようなことを言つております。このアメリカの間違つた批判に対しまして、十分説明を与える意味におきましても、この解剖所見の発表というものは、国際的にやつていただきたいと思います。先ほど岡委員から同様な御要望がございましたが、これに対する草葉厚生大臣の御答弁はまことに抽象的で、ひようたんなまずでつかみどころがございません。私どもはそういうことでははなはだ心細いのでございますが、これに対して、どの範囲に、どういう形でこの解剖所見世界学界に訴える意思があるのか、ないのか、訴えるとすれば、どういう形でなさろうとするお考えであるかという点を、具体的にお答え願いたいと存じます。
  53. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 これは、解剖所見科学的な結論が出ますると発表いたしたいと存じておりますということは、先ほど岡委員の御質問にはつきりお答え申し上げました。また国際的な関係におきましても、これはいろいろ検討して参らなければならぬと思います。英文なりあるいはその他の言葉なり、なるべく国際的にも発表いたしたいと存じます。
  54. 松永佛骨

    松永(佛)委員長代理 福田君、簡単に願います。
  55. 福田昌子

    福田(昌)委員 ただいま検討いたしまして国際的にも発表したいという御答弁でございました。はなはだ消極的な御答弁で、私どうもいささか不満を覚えますが、どうか安藤国務大臣のその御意気をもちまして、これは非常に人道的に重大な問題であるという御観点から、また純医学的な立場から、世界学界世界の人道主義に訴える意味におきまして、大きく世界の輿論をわき起す意味において、学界に御発表願いたいと思います。このことを要望いたしまして、私の質問を終ります。
  56. 松永佛骨

  57. 有田二郎

    有田(二)委員 私は安藤国務大臣お尋ねしたいのでありますが、水爆、原爆の実験に対する保障については、私も同感であります。アメリカ側に対して、政府としても十分はかつておられますが、将来もそういう要求を十分やつていただきたい、こういうことを希望します。と同時に、最近山形あるいは新潟に何万カウントという放射能の雨が降つて参りました。特に新潟ではビニールの雨具に十三万カウントも検出された。しかもこれがソ連の原爆実験ではないかというように新聞に伝えられております。社会党の方は、アメリカのことについては、非常にやかましいことを言われます。われわれもアメリカに対しては、いけないことはいけない、こういうように考え政府を鞭撻しておりますが、ソ連に対しても、やはり社会党の諸君も真剣に考えていただきたいと思います。私はソ連の原爆実験だと言われておるこの放射能の雨についても、政府に十分関心を持つていただいて警告を発していただきたい。これについての今までの政府の情報なり、どういうようなソ連の実験がなされておつたか、わかつておる範囲内において御説明を承りたいと思います。
  58. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 実は新潟の方は資料を持つて参りませんでしたが、仙台を中心にいたしました東北大学、山形を中心にしました山形県気象部、これらの詳しい資料は今持つております。環境衛生部長から御答弁申し上げます。
  59. 楠本正康

    ○楠本説明員 お答え申し上げます。山形におきましては九月十七日以後二十五日まで調査いたしてございますが、これら山形市内の各所について調査いたしました結果は、新聞の報道とちよつと違つておりますが、十八日が約二百カウント、二十一日が二万六千カウント、二十二日が六万三千カウント、二十二日に時間を違えまして十二万カウント、二十四日の雨が一万カウント、二十五日が七千カウント、かようになつております。その後まだ正式に通報を受けておりませんが、その後大分減りましたが、やはり依然として継続いたしておるということでございます。なお仙台につきましても九月二十一日から二十五日まで調べてございますが、二十一日につきましては二千五百、二十二日が三万七千、二十四日が一万六百、二十五日が午前が四千、午後になりますと大分減りまして二千七百、これもその後調べておりますが、全部なくなつたという状況になつておらぬように報告を受けております。なお新潟県におきましても大同小異でございまして、最高は新潟におきまして四万二千程度と記憶いたしております。
  60. 有田二郎

    有田(二)委員 それがどこから来たものか、政府としてはまだわかりませんか。それはソ連の原爆の実験によるものか、あるいはそうでなく他の方面のものでそうなつたのか。その原因はまだおわかりにならないか、承りたいと思います。
  61. 楠本正康

    ○楠本説明員 これは御承知の通りいまだ根拠をつかめないのでありますが、中央気象台等と気流の関係その他を相談いたしております。想像を許されるならばこれは北方圏から来たものであろうということのようであります。しかしこれらのものにつきましては、目下元素分析をいたしております。従いまして元素分析の結果によりましては、おそらくアメリカ式の原爆でないものという結果が出るかもしれませんが、この点は今後の調査にまたなければならない次第であります。
  62. 有田二郎

    有田(二)委員 ぜひ十分御調査願いまして、かりに北方ということであつてソ連ということであるならば、アメリカに対してなされておると同じように、やはり原水爆の実験に対しては、十分われわれに被害のないように政府として御努力願いたい。この点について安藤国務大臣の御答弁を伺いたいと思います。
  63. 安藤正純

    安藤国務大臣 これは将来にわたる重大問題でありますから、むろん研究の方も進めて今後最善の道をとりたいと思います。
  64. 松永佛骨

    松永(佛)委員長代理 滝井君。
  65. 滝井義高

    ○滝井委員 さいぜん厚生大臣の答弁の中で、久保山さんの解剖にはアメリカの方も立ち会つたというお話があつたのですが、そういうようにアメリカ自身が日本の二十三人の漁夫の被爆について関心を持つておるとするならば、おそらく厚生省にもわかつておるのじやないかと思うのですが、マーシヤル群島の原住民が水素爆弾の実験によつて二百三十名か三百三十名か犠牲になつておるわけです。従つて当然アメリカ医学陣もこれらのものについて相当調査をやりあるいは治療に当つておると思う。アメリカ日本の二十三人の漁夫の解剖に立ち会うなら、アメリカの原住民に対する治療なりあるいはその予後、経過等についての資料というものも厚生省はいただいておるのじやないかと思いますが、この原住民の経過というものはどういうぐあいになつておるか。実は久保山さんがなくなつたときも、米国の原子力委員会等はマーシヤル群島の原住民が健康を回復しておるのだ。従つて日本の二十三人の漁夫は心配ないというぐあいに、原住民が健康を回復した状態を基礎にして発言をした。そういうことからアメリカ日本の二十三人の漁夫の犠牲者を過小評価するという結論にもなつてつたのじやないかとさえ考えられるのです。従つてマーシヤル群島の原住民の経過というものを、厚生省はアメリカに聞いていなければ当然聞いてもらわなければならぬと思うのですが、そういう点どういうぐあいになつておりますか御答弁をお願いいたします。
  66. 楠本正康

    ○楠本説明員 私どもの仄聞いたしております範囲では原住民にもかなりの被害者が出て、ある特別な島に収容されておるかに聞いております。しかしながら私どもといたしましては、外務省を通じましてその状況を聞きたいとも考えまして、またできれば現地の実情等も見たいということを外務省を通じて連絡をいたしましたが、これらの点に関しましてはいまだ返事を受けておらぬ次第でございます。
  67. 滝井義高

    ○滝井委員 マーシャル群島の原住民が被害を受けて一つの島に集められておるということを仄聞いたしておるということでございますが、こういう点なんです。アメリカはどうもABCC等のあの研究機関を通じても日本人をモルモットのように考えておるということが広島あたりでは言われているわけです。こういう点、お互いが自由主義の陣営に属してソビエトと対決して行こうというために、アメリカの原子兵器の実験われわれは協力しなければならぬというのが自由党政府の見解なんです。そうしますとお互いが自由諸国として協力をして行くならば、その自由諸国に所属するところの国民被害を受けて苦しんでおるときには、その参考として原住民の状態がどうなつておるのか、どういう治療をやつたならば原住民が回復したのか、こういうことは当然の権利として堂々と政府は主張していいわけです。ところが向うはそういう貴重な、何百という原住民の治療の体験を現実にやつておりながら、それを日本政府には何ら教えない。そうして日本の二十三人の尊い犠牲者の一人の久保山さんの死体の解剖にはのこのこと来て立ち会つて、それをのめのめと許しておる、こういう屈辱的な行き方、こういう自己を主張することのできない行き方が許されるかどうかということなんです。現実にアメリカではそういう原子核の研究や、あるいは原子兵器の製造所においてはアクシデントが起つておる。そうしてそれに対してどういう防衛措置を講じて行くかということは、これは具体的の現実問題として研究せられ、あるいはその対策も講ぜられた結果、水素爆弾あるいは原子爆弾というものができておるわけです。従つてある程度そういうものの治療法等についても相当の経験を持つておる。われわれは、現実においては広島、長崎の経験から持つておる。しかしこれはお互いに自由諸国であれば、少くとも人間を救うという面においては交流をし、日本の医学者を、そのマーシャル群島のどこかに隔離されておる原住民の中にも行かしてくれることもまた当然の要求でもあるし、向うもまたそれを受入れなければならぬことである。それを外交的にいつてもまだ何らの返事もないということでわれわれが黙つておられるかどうかということです。これはひとつ安藤国務大臣も、厚生大臣も、岡崎外務大臣がおりませんが、やはり要請をして、そういうところに日本の医学者もぜひ行かしていただかなければならぬと私は思う。そうでなければ日本の一人の患者アメリカで見ることを断らなければならぬと思うのです。問題はやはり対等の形で処理をしなければならぬと思います。何もわれわれが自由諸国の国に所属しておるからといつてアメリカの隷属国ではない、独立国なんです。そういう点もつと政府ははつきりとこの問題についてアメリカ要求をする意思があるかないのか、これをひとつ両大臣から明確にお答えをいただきたいと思います。
  68. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 従来の放射能障害に対しまするアメリカの発表の資料等は、御承知のようにそれぞれ学者の方にも届いております。私どももこれを承知いたしております。ただこれらによる治療がどのくらい進歩し、それが今回の第五福竜丸の二十三名の患者の上に強い一つの医学的な放射能に対する根本的な資料になつておるかどうかという点は、私どもの今まで承知しております限りにおきましては、むしろあまり期待し得るものはないように承知しております。従つて従来、日本の医学において放射能に対する処置がむしろ進んでおるような点すらあるのであります。従つてあるいはそれ以上のものがあるかも存じませんが、しかしこれらの点はおそらく期待し得るほどのものはないのではないか。今日本の医学界においては、大体そういう見当をもつてこれらの処置をしておると称しておる。従つてむしろ今回の日本処置が、先ほど来の御意見にもありましたが、世界的にも最も進歩し、また今後一つの放射能に対する処置としては、最も資料になるものではないかとすら考えておるのでありまして、そういう点は先ほど環境衛生部長からお答えを申し上げましたが、それ以上の点は、従来とも問題が初めて起りましたときにも、先方からあるいは医薬品と申しますか、治療等についての所見等も一応伺いましたが、今私ども医学陣におきましては、さほど重大にはいたしておらない状態でございます。
  69. 滝井義高

    ○滝井委員 日本の原子病学がアメリカよりははるかに進んでおるということは私たちも想像はいたしております。しかし現実に同じ水素爆弾の実験の被害を受けた日本久保山さんは死に、そして現地の何人かはつきりはわかりませんが、二、三百の原住民というものは健康を回復しておる。こういつておるわけです。従つてその健康の回復の状態等についても、これはわれわれ医学者としても見せてもらうことはちつともさしつかえないのじやないか。何も原子爆弾、水素爆弾の秘密を教えてくれというわけじやないのですから、従つてそのくらいの外交的な折衝によつて日本の医学者が原住民の収容されておるところに行つて見せてもらうくらい、あるいはその症状がどういうぐあいに展開されておるかということくらい、現実にこの目で見せてもらい、そしてそれを診断させてもらうくらいのことは、アメリカ人にも自由にわれわれが見せておるわけですから、見せてもらつていいのじやないか。そういう要求ができないかどうかということです。さいぜんそういう要求をしたら、何か向うはなしのつぶてで何もない、こういうことではけしからぬじやないかということです。こつちが実験にも協力をしましよう、こう言つておるのですから、少くとも実験による被害を受けた国民を救うためには、原住民の被害状態を見せてもらうのは最小限度の要求です。その最小限度の要求ができるかどうか、それの実験に向つて努力することができるかできないかということを、厚生大臣並びに安藤国務大臣お尋ねしておるわけです。これをひとつ努力してもらいたい、こういうことですが、どうでしようか。
  70. 草葉隆圓

    草葉国務大臣 先ほど申し上げましたように資料があり、あるいはこれに対する実験等の状態があつたら見せてもらいたい、資料としてもらうということは、最初から要求をいたしたのでございます。しかしその結果は、今までのところではまだその返事は今の環境衛生部長がお答え申し上げた通りでありますが、その他の資料あるいは医薬品等につきましても、日本学界の満足するような状態ではないということを申し上げたのであります。しかし今後参考になるものがありましたならば、あるいは必要がありますならば、御所見のように私どももいたしたいと思います。
  71. 並木芳雄

    並木委員 先ほどの有田委員質問に関連して一言だけお尋ねしたいのですが、北方から来た灰らしいということを言われたのですけれども、これに対して政府は今後どういうふうにして確かめますか。ほつておくのですか、何らかの形でお調べになるのですか。
  72. 安藤正純

    安藤国務大臣 私急ぎますから簡単にお答えして、あと厚生大臣にお願いすることにいたしますが、それはむろん日本の調査機関でも調査をしますし、また十一月ごろになりますと、アメリカからも日本学界から招聘して数人の科学者が来るわけです。そうしてつまり共同調査をするのですが、そういう場合にもやはりおのずからそれが研究の題目になろうと思います。日本の方の科学者陣においてはむろんそれをやりまして、——今根底がつかめないのですから、根底をつかんだ上で対策を講ずる次第と存じます。
  73. 並木芳雄

    並木委員 それから十万カウント、十二万カウントというカウントがあるのですが、その危険の程度はどうなんですか。このごろどうも放射能に対して私どもやや慢性になつた感もあるのですが、うつかりしているとあとからたいへんな被害が出て来るおそれもあるので、その危険の程度をこの際はつきりと示してもらいたいと思います。
  74. 楠本正康

    ○楠本説明員 ただいまお答え申し上げました程度の雨が単に皮膚にかかる、一時的にからだに受けるというような程度なら別に危険はございません。そこで私どもは同時に井水あるいは水道水等につきまして調べておりますが、これらはほとんど雨の放射能が井水あるいは水道水等に移行した傾向は今のところ見られません。従いましてこれらの飲料水に関する限りは今のところ危険はないものと考えております。なお同時に各種の植物等について調べてみましたが、これらも特に危険な程度にまで野外の植物がよごされたという形跡は出ておりません。
  75. 柳田秀一

    柳田委員 先ほどの岡君の質問に関連しますが、先般久保山愛吉氏がなくなられまして、すぐに死体解剖を行われ、肉眼的な所見等を新聞に発表されましたが、その後特に肝臓その他骨髄等の臓器の病理解剖学的な研究が進められておると思います。しかもこれに対しては厚生大臣はあまねく発表したい、こうおつしやつておられますので、これは学者陣の研究進捗状況等ともにらみ合せなければなりませんが、われわれ厚生委員会はまず今のところ新医療費体系の問題で時間がないと思いますけれども、この問題が片づきましたならば、やはり久保山愛吉氏の解剖によるところの所見を国会を通じて発表されることが望ましいのじやないか。その意味でしかるべき参考人をお呼びするような機会を持つていただきたい。いずれこれらは理事会にお諮り願いたい。  同時に、今お話の、最近の放射能を持つておる雨等に関して、伝うるところによりますと、新潟等におきましては、本年産米のお米の粒の中に放射能が検出された、その程度においては被害がないという報道も伝わつておりますが、今後さらに各地の産米等の結果を調べるならば、現在においてはそれほどの含有量ではないにしても、あるいは中には相当危険なものが出るかもしれない。国民としてはこれまた半面においてはかなりの不安があると思います。従つてそういう環境衛生的な点についても、どなたか権威の方をお呼びして承る機会を持つならばたいへんけつこうかと思いますから、委員長において後刻理事会等においてもしかるべき御処理のほどをお願いしておきます。
  76. 松永佛骨

    松永(佛)委員長代理 ただいまの柳田委員の御意見ごもつともでございまして、来る四日午前十時より理事会の予定がございますので、そのとき小島委員長も御出席と思いますから、当日私から発言してお諮りすることにいたします。  他に本問題についての御発言はありませんか。——なければこの程度にいたします。  なお先刻新医療費体系につき参考人の意見を聴取することを決定いたしましたが、東京大学の大河内教授は、現在アメリカに行つておられるように承つておりますので、これを取消し、理事の諸君と打合せの後、かわりの方を選びたいと存じますから御了承を願います。  本日はこれにて散会いたします。    午後一時十六分散会