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1954-03-22 第19回国会 衆議院 厚生委員会 第18号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月二十二日(月曜日)     午前十時五十二分開議  出席委員    委員長 小島 徹三君    理事 青柳 一郎君 理事 中川 俊忠君    理事 中川源一郎君 理事 松永 佛骨君    理事 長谷川 保君 理事 岡  良一君       助川 良平君    降旗 徳弥君       中野 四郎君    山下 春江君       滝井 義高君    萩元たけ子君       柳田 秀一君    杉山元治郎君       山口シヅエ君  出席政府委員         外務政務次官  小滝  彬君         厚生事務官         (薬務局長)  高田 正巳君         厚生事務官         (社会局長)  安田  巌君         厚生事務官         (保険局長)  久下 勝次君         厚 生 技 官         (公衆衛生局環         境衛生部長)  楠本 正康君         厚 生 技 官         (医務局長)  曽田 長宗君         農 林 技 官         (水産庁次長) 岡井 正男君  委員外出席者         議     員 島上善五郎君         議     員 松前 重義君         運 輸 技 官         (中央気象台予         報部長)    肥沼 寛一君         運 輸 技 官         (中央気象台予         報部予報課長) 伊藤  博君         参  考  人         (東京大学名誉         教授)     都築 正男君         専  門  員 川井 章知君         専  門  員 引地亮太郎君     ————————————— 三月二十日  クリーニング業法における試験制度在続に関す  る請願青柳一郎紹介)(第三六三三号)  同(石村英雄紹介)(第三六三四号)  同(萩元たけ子紹介)(第三六三五号)  同(小林信一紹介)(第三六八〇号)  社会保険費増額に関する請願武藤運十郎君紹  介)(第三六三六号)  同(田中織之進言紹介)(第三六八一号)  未帰還者留守家族等援護法による医療給付適用  期間延長に関する請願  (武藤運十郎紹介)(第三六三七号)  健康保険傷病手当金支給期間延長に関する請願  (武藤運十郎紹介)(第三六三八号)  戦没者遺族援護強化に関する請願(楯兼次郎君  紹介)(第三六三九号)  指定薬品以外の医薬品販売業者資格制度に関す  る請願有田喜一紹介)(第三六八二号)  同(小林絹治紹介)(第三七三七号)  同(佐瀬昌三紹介)(第三七三八号)  同(中井一夫紹介)(第三七三九号)  受胎調節普及に関する請願高橋禎一紹介)  (第三六八三号)  同(椎熊三郎紹介)(第三六八四号)  同(井谷正吉君外一名紹介)(第三七六一号)  戦傷病者援護強化に関する請願  (今村忠助紹介)(第三六八五号)  同(池田清志紹介)(第三六八六号)  生活保護法による保護基準率引上げ等に関する  請願天野公義紹介)(第三七三六号)  未帰還者留守家族援護強化に関する請願(小  川平二君紹介)(第三七五八号)  未帰還者留守家族等援護法による医療給付適用  期間延長等に関する請願三宅正一紹介)(  第三七五九号)  社会保障費増額等に関する請願柳田秀一君外  二名紹介)(第三七六〇号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  消費生活協同組合法の一部を改正する法律案(  内閣提出第五五号)  医薬関係審議会設置法案内閣提出第八二号)  あへん法案内閣提出第八九号)  厚生行政に関する件     —————————————
  2. 小島徹三

    小島委員長 これより会議を開きます。  まず消費生活協同組合法の一部を改正する法律案、あへん法案及び医薬関係審議会設置法案、以上三法案を一括して議題とし、質疑を続行いたします。長谷川保君。
  3. 長谷川保

    長谷川(保)委員 前回委員会で私は消費生活協同組合日本にどうして発達しなかつたか。将来の健全な社会を建設するために、この協同組合はなくてはならぬものである。そのなくてはならぬものがかくまで発達しない理由について、まず金融の面から伺つたのであります。その結果金融関係におきましては、当局提出の資料によりますと、政府からの貸付金がほとんど金融の大部分であります。あのわずか二千五百万円がその種でありまして、そのほかには労働金庫法の道が開かれておりますけれども、ほとんど言うに足りない。こういうことであつてはとうてい消費生活協同組合発達をはかることはできないことは明らかであるわけでありまして、これに対しますもつと積極的な手を打たなければならぬ。まず信用事業権がないということ、これは農協法でも水産業協組法でも、中小企業協組法でも許されておる。信用事業権がないということは、やはり根本的な問題として考えなければならぬ。この問題につきましては信用組合をつくつてもあまり役立たないような御説明があつたのでありますけれども、いずれにいたしましても、いろいろな困難な事情がありますが、やはり信用事業権をこの消費生活協同組合に与えるということは重要なことであると思うのであります。こういうことについて協組信用事業権を付与するというような考えは当局にないかお伺いいたしたい。
  4. 安田巌

    安田政府委員 お答えいたします。信用事業生活協同組合にやらせるような道を開いたらどうかというお話でございます。このことにつきましては、前回長谷川先生の御質問にお答えいたしたのでありますけれども、現在の消費生活協同組合の状況から見まして、すぐにそういう信用事業を許すことははたしてどうだろうかという若干の懸念を私どもつております。それからもう一つは、そういうものを設けましたからといつて、すぐに供給事業給付事業その他の方へ金融することができるかどうかということは疑問でございまして、中小企業協同組合の場合と同じように兼業を許さないだろうと思うのであります。そういう点から考えまして、私はもう少しそういう点を研究させていただきたいという考え方で、この点につきましては消費生活協同組合連合会の内部にも私いろいろ意見があるように聞いておりますので、まずそういうところと十分私どもは相談してみたいと思つております。
  5. 長谷川保

    長谷川(保)委員 御承知のようにたとえば農協等におきましてはこれが兼業を許されておる。もちろん今日の消費生活協同組合は非常に微力である。微力である理由は、金融等その他の、ただいまから私がいろいろお尋ねいたしますような方法が最初から道をとざされておる。そこに発達をしないという理由があるわけであります。従いまして、今日は非常に微力であつて信用事業をやりましてもただちに効果をあげないといたしましても、そういう道が開かれて参りますればまた新しい力となりまして、発展の道が出て来ると思うのであります。従いまして、一番先にお尋ねいたしました消費生活協同組合というものが、健全な社会におきましては世界的にどこでも非常に発達しておるのだ、健全な社会基礎になつておるのだということをもし認識できますならば、そしてこれが単に安く仕入れ、安く買うということではなしに、資本主義社会欠陷を是正するという大きな、ロツチデールの組合発達基礎になりました理論、あるいはライフアイゼン協同組合理論、こういう点を考えてみますならば、やはり今は微力でありましても、そういう道を開いて強力なものに育て上げて行くべきだと思うのであります。こういう金融の面が大きな未発達理由になつておるのでありますから、私はもつと積極的な態度をとらなければならぬと思います。何かそういう道を切り開いて行くのに特別な支障がおありと考えておるか。今これをやれば特別な支障があるか、その点を伺つてみたい。
  6. 安田巌

    安田政府委員 理論的にも系統金融機関を持ちたいということは、もつともだと思うのでありまして、その通り行きますことを望むわけでございますけれども消費生活協同組合の現況からみまして、信用事業をやりましてはたしてそこに金が集まるかどうか。やはり信用ということが大事でございますので、そういう実行の面におきましてもいろいろな問題がありはしないか。なお先ほど申しましたように、それをやりましてもすぐにこれが協同組合の方にまわるというわけに参りません。やはり中央の系統的な金融機関をつくりまして、金融機関としての体をなさなければなりませんから、そう一足飛びにそこへ行けるかどうかということを懸念いたしております。先般も申しましたように、農林金庫でありますとか中小企業金庫でありますとかそういうところから金を借りられるように法律改正をお願いをいたしておりますし、なおまた政府が金を出しましてそれを府県にも貸しつける、府県はその同額を出資いたしまして協同組合に貸しつけるというような法律も昨年御審議を願いまして、現在成立したわけであります。こういうところもだんだんふやして行きたい。なおまたお説のようなことは私ども十分研究をいたしまして、御期待に沿うようにいたしたいと思います。
  7. 長谷川保

    長谷川(保)委員 今回政府からこの改正案が出されました動機の有力なものの一つとして、共済事業協同組合が許されております共済事業について非常に困つた事情があるやに仄聞いたし、その点が一つの大きな動機なつたように仄聞しておるのでございますが、共済事業実情はどうでありましようか。
  8. 安田巌

    安田政府委員 現在共済事業で一番大きく問題になりますのは、火災共済でありまして、大体全国的には職域組合が主として火災共済をやつております。その大きいものが現在五つばかりございまして、これはそれぞれ相当の成果をあげておるわけでございます。私どもは今あるものを心配するというよりか、今後いろいろそれにならつて新しくどんどんできますものの方を実は心配をいたしておるわけであります。消費生活協同組合は、法律ができました当時は、そういつた大きな共済額共済事業というものを予想いたしておりません。それがこういうふうな事態になりますと、やはりそれに相応したような取締りなり監督の規定がいるということが実情でございます。そういう意味でいろいろと財務基準についての規定を今度法律に入れたわけであります。
  9. 長谷川保

    長谷川(保)委員 そうするとたとえば保全経済会のように社会にひどく迷惑をかけるようなおそれは現在のところはないでしようか。今の職域組合であるなら、私はそういう心配は大体ないと思うのでありますが、現在そういう心配はないのですか。
  10. 安田巌

    安田政府委員 現在ございますのは、名前をあげますと全国特定郵便局長消費生活協同組合全国酒販売生活協同組合全国たばこ販売生活協同組合日本塩業生活協同組合全国自転車従業者生活協同組合、こういうところでございます。これが非常に大きくやつておりまして、加入者も数が多うございます。地域的にまとまつておりませんから、たとえば先般の小売人大会等がございましても、たばこ小売人協同組合はすぐ金が払えるというようなことになつてうまくなつております。なお私こういう点についても十分監督しなければならぬと思つておりますけれども、いずれにいたしましても火災共済だけでございましたならば、これは短期保険でございますから割に問題が少いわけでございます。ところがもし、長期保険をこういう共済組合が考えるといたしますと、これは私ども非常に問題があると思う。たとえば生命保険なんというものをこの中に入れるというようなことになりますと、これはやはり長期保険でございますのでいろいろ積立金の運用とかあるいは保険数字計算等におきましてもよほど問題があるわけです。私どもそういうものを許可したくないと思つておるのであります。なお火災共済にいたしましても、職域ならまだよろしゆうございますけれども地域でそういうものをつくる傾向がだんだん出て来ております。これをどういうふうにして押えるかということで私ども苦心をいたしておりますが、いろいろ理論的に押えるような方法もございますけれども、しかしあまりそういうところを強く出しますと自繩自縛になるようなことになりますので、やはり地域的なものはなるべく避けるようにという行政指導をやつておるわけであります。
  11. 長谷川保

    長谷川(保)委員 すでに地域的なものでやつているものもございますか、あるいはまだそれはございませんか。
  12. 安田巌

    安田政府委員 さきに東京に二箇所ばかりそういうものができたのであります。ところがその地域が一府県にだけでありますと、当該府県の知事が認可権を持つておりますので、私どもといたしましてもそれをとめるわけにいかない。それをとめるということになりますと何か違法だということにしなければならないので、それが非常にむずかしいところなんです。共済の額を厚生大臣が定めることができることになつておりますが、何か問題が起きてはいけないというので、一応二十万円を切りまして、二十万円を越える場合は厚生大臣認可を要するということ、にいたしまして、二十万円で押えております。ただ今東京にあります二つは大体職域に切りかえるように指導いたしております。それから名古屋に地域のものが一つございますが、これも職域に切りかえるようにやかましく言つております。もし大火等がございまして、約束の金がうまく払えぬというようなことがあつては困りますし、大体短期保険でございますから、そう大きな問題はないと思いますけれども、しかし非常に信用を落すことになりますので、そういうことを避けるように指導いたしております。
  13. 長谷川保

    長谷川(保)委員 次に員外利用の問題でございますが、これは現行法第十二条第三項によつて禁止されております。しかし員外利用というものは、消費生活協同組合をやつてみますと、非常に大事な仕事であります。消費生活協同組合が伸びて行く最も有力な手は、やはり店舗を経営いたしまして、そこで組合員でない諸君にも利用さして行く、そうして消費生活協同組合あり方を理解してもらつて、正規の組合員になつてもらうことである。それが現行法では禁止されておりますために、そこに伸びて行くことのできない大きな理由が出て来ておるわけであります。まじめな組合はなかなか伸びて行けない。ところがそれじやどうしようもありませんから、ふまじめな組合はでたらめな、いわゆる名義貸の員外利用をやつておる、こういう傾向になつて行つていると思うのであります。名義貸ということを今回の改正案によりまして非常に強く押えようとしておる、それをやつたものはまごまごしたら解散までさせるというように考えておられるようでありますけれども、しかし員外利用消費生活協同組合発展のために果たします役割は非常に大きい。この点は、現行法律の行き方をさらに改正案において罰則をもつて強めて行くということはとうてい許さるべきではない、これは非常に逆行であると私どもは考えておるのであります。どうしてもこの問題は考え方をかえてもらわなければならぬ。中小企業協同組合にいたしましても、農協保にいたしましても水協保にいたしましても、どれも二〇%の員外利用を許されておるのに、何ゆえにこれを許さないのか、政府当局の方針を伺いたい。
  14. 安田巌

    安田政府委員 お答え申し上げます。消費生活協同組合員外利用を許さないのは、協同組合本来の精神から申しまして、お互いに協同仕事をやろう、しかしそれは安いものを手に入れるということのほかに、自分たち協同して合理的な生活に確立して行きたいということでありまして、生活面につきましても利用面につきましても、共同でものをやつて行こうという考え方であります。この精神的な要素というものは、長谷川先生が、先般おつしやつたように、非常に大事なことでありまして、消費生活協同組合がうまく行かないのは、実はそういうところに原因があると私どもは考えておるのであります。本来から言いますならば、そういう点からの当然の帰結として、員外は許すべきじやないと私どもは考えておるのであります。ただ現行法では、当該行政庁の許可を得た場合にはこの限りでないということを書いております。これはたとえば仕事性質で、託児所のようなものあるいは医療機関等を設けた場合、事柄の性質員外利用を許さなければならぬということがございますし、それから鉱山その他でやつているような場合には、その地方に商店がないということがありますので、そういうところには、当然員外利用を許さなければならない。しかし員外利用というものが、普通の市街地の協同組合で行われますと、これが一つの反産運動のきつかけになるような刺激の材料になるわけでありまして、よほど慎重にやらなければならぬ。農村等におきましては、今申しましたように、ほかに商店がないというような事情が、非常に多いのじやないかと私どもは考えております。大蔵省は、実はこの員外利用消費生活協同組合がやらないというので、税その他についてもいろいろ好意的に考えてくれている面がございまして、そういつたようなものとの兼合いでやはりものを判断しなければならぬのじやないかというふうに考えております。現在でも員外利用は、特別な場合には許せるのでありますが、それを二割まで広げて、当然できるというふうにすることがはたしていいかどうか、安く物が買えさえすればいいのだということでなくて、ほんとうに協同組合意識でもつて結ばれて行く協同組合というようなことを考えますと、やはり精神的な面にも、あるいは現実的な課税その他の面を考えましても、問題があるのではないかというふうに思つております。
  15. 長谷川保

    長谷川(保)委員 今の特別の場合ということでなくて、この消費生活協同組合発展させて行くために、先ほど申しましたように、員外利用を一応ある程度許しまして、これはもちろん無制限にしますれば、先ほど局長お話のような、当然中小自営業者から反撃を食うのはあたりまえだし、税体系から言いましても変なことになるわけであります。これは無制限に許すということは絶対に許されません。しかし農協法水産協法あるいは中小企業協同組合法その他で許されておりますような、年間売上高について、つまり利用高に対しまして二〇%なら二〇%という限度を押さえておきますれば、これは取締りもむずかしいことではないのであります。そういうことができなければ、新しい組合員を獲得し、その人人に協同組合あり方を理解してもらうということが困難である。従いまして、これは世界のほかの国でも許しておるのでありますから、こういうことが当然許されていい。それを何でもかんでも手足を縛つてしまつて、手が伸びないようにしてしまうところに、私は根本的に考え直さなければならぬ点があると思う。今日消費生活協同組合発展しませんでしたのは、それだけの理由があるのです。だからこの改正案をお出しになつたこの際に、われわれはこの消費生活協同組合法を根本的に見直して、そうして、今はすでに協同組合理論それ自体に対しての認識すら日本ではわめて低くなつて参りまして、もう消費生活協同組合はだめだという考え方の方が強いのであります。これをもう一度根本的に考え直して、完全なものにいたしまして、そして健全な社会をつくります一つの有力な基盤にいたしたい、こうわれわれは考えるわけでありまして、従いまして今局長お話のように、単に反産運動理由になるとか、あるいは税の関係かということで員外利用を禁止してしまう、こういうことは私はいけないと思う。だから、私も無制限にこれを許せというようなことを主張するものではありません。そういう考え方をするものではありません。しかし農協法水産協法中小企業協同組合法に許されておりますように、二〇%というような数字、これは当然許していいと思う。許さなければ、やはり協同組合が伸びて行くその手が切られてしまう。先ほどお話のような特殊の場合だけで、なしに、一般的にこれを許すべきだ。許さなければ発展をしない。最も有力な発展一つの手、伸ばして行く手を、ここで切られてしまつている。これを根本的に考え直す必要があると思うのであります。この点につきましては、もつと御勉強願わなければならぬのでありますが、これは大蔵省関係でも、ある程度われわれ同僚たちの努力によつて、大分認めて来ております。主管庁である厚生省が、もつと積極的になつてもらわなければならない。員外利用の道を、もつと根本的に考え直してもらわなければならぬと思うのであります。この点すみやかに研究してもらわなければならぬと思いますが、もう一度局長の御意見を伺いたい。
  16. 安田巌

    安田政府委員 その点は、私ども今後十分研究いたしてみます。ただ消費生活協同組合というものは、地域関係では大体都市が多いようでございますけれども、そういつたような場合に、組合仕事がうまく行かないのか、員外利用が許されないからだというふうに、簡単に言えるかどうか、あるいは員外利用を許したならば、すぐ組合がうまく行くかどうかということについては、私ども若干疑問を持つてあります。とにかく今の組合員というものは、出資をいたしましても、物が安く買えるとかいうような、すぐに何か反対給付のような利益が得られるということ以外には、結びついているひもがないわけでございまして、そういう点実は非常に弱いところがあるわけであります。どうしてもやはり、物を安く買うということ以外に、生活面でもつと結びつき合うような、施設なりあるいはその他の利用事業なり、あるいは生活合理化のための運動であるとか講習会であるとか、そういうものをもう少しやらないと、小売商人が非常にたくさんおつて、マージンが非常に少いような時代に、やつて行けるだろうかということを私は疑問に思つております。しかし今おつしやいましたことについては、また十分研究させていただきたいと思います。
  17. 長谷川保

    長谷川(保)委員 後にまたいろいろ伺いたいと思いますが、私は今日の協同組合発達を阻害いたしております大きな理由の中に、熟練職員の不足ということがあげられると思います。局長も先ごろの御答弁の中で、この養成等のことを言うておられたのでありまして、その点私も大いに同感であります。しかし今なかなか商品学等において十分熟練した職員を養成するということは容易なことではない。そこで協同組合小売商店を吸収するという道ができて来た。これが紙一重の違いで、しばしば名義貸しという形に堕落をして行つているわけです。しかしそういう名義貸しをして行つて小売商店を吸収して行くということには、そうなつて行かなければならない必然性と申しますか、そうなつて行かなければどうしても協同組合発達して行かないという大きな理由がある。今日やはり熟練した職員協同組合に入れるという意味から申しまして、小売商店を吸収し、そうしてその店舗も、資金も、得意も吸収して行く。これは私は範囲を逸脱しては困りますけれども、これは消費生活協同組合発達のために非常に有力な道であると思います。そこで問題は、それらの小売商店を吸収するにあたりまして、正当な出資として店舗が考えられ、また正当な職員としてこれが協同組合に雇用せられ、そして正当な月給が払われ、また仕事の成績の上げ方によりましては、これに適当なボーナスを与える。組合定款規約に従いましてそういう方法をとられれば、何らさしつかえない、当然のことだと思うのであります。単なる名義貸しではもちろん困るわけでありますが、正当なそういう手続をとりまして商店吸収が行われておれば、少しもさしつかえないと思うのであります。ところが末端に参りまして、脱税という面から、税務官吏がきわめて意地の悪い、厳格な態度をもつて臨みますと、これがしばしば名義貸しということにされているのであります。現実私の調べました名義貸しといわれております事例の中には、実はそういうふうにちやんとやつている、たとえば私が申しましたように、成規の手続はちやんとふんである、にもかかわらず、これを名義貸しだ、脱税だということで、厳重に戒告をしておるという事実も相当あるようであります。ただいま申しましたような成規の手続をふんでの商店吸収ということは、何らさしつかえないと思うのであります。この点はすでに現実に紛争が起つている面がたくさんございますから、局長の御意見をこの際明確に承つておきたいと思います。
  18. 安田巌

    安田政府委員 名義貸しと申しますのは、協同組合の組織の中に入つていなくて、実は名前だけを貸しておるというものでございまして、これは課税の上から申しましても、その他の面から申しましても、弊害が非常にあるわけであります。私どもは何もかつて小売商人であつたとか、かつて小売店の店舗であつたとか、小売店の店舗その他の付属の設備であつたというものを協同組合に入れたからといつて、それが名義貸しとは決して思つておりません。今おつしやるように、完全に吸収できれば、これは非常にけつこうなことでございます。たとえば人事権と申しますか、そういう人を雇用人の形にして、ちやんと自分のところに入れる、会計が一本になる。管理が一本でできる。そういうような店舗につきましては、ちやんと現物出資の形で行くなり、あるいは借上げ料を払う、そういう形で行くならば、これは一つ方法であるから、名義貸しだとは思つておりません。ところが実際問題といたしまして、小売商人がそういう形で入つておることは、ほとんどないくらいな珍しいことでございまして、大部分はそういう形で入るにいたしましても、さて実際に協同組合の方に人事権なり、そういう財産を入れることになりますと、また出て行くということで、そこのところは非常にあいまいな場合が多いのであります。さらに悪質なものは、単なる脱税のためにそういうことをやつておるところもあります。その辺が、なかなか今おつしやるような形で小売商人が入つて来ないのです。だからこういうふうな規定を設けようという動機があるわけでございます。これは実際問題として困つている県がございまして、やはりこういうものからはつきりさせなければ、協同組合の将来につきまして助長するとか発展策をとるということは、なかなか言えないような現状でございます。そういう意味で、私どもは決して名義貸しを無理にきゆうくつにいたしまして、長谷川先生のおつしやつたような好ましい方法があるのをとめるというつもりはないのであります。なおまた、委託店舗とか指定店がございますけれども、これは名義貸しではございませんで、計算は全然別でございますが、組合員が行けば少し安くしてくれるということであります。こういうことまで私どもは措置の対象にしようということは毛頭考えておりません。これはこれで一つの行き方であります。
  19. 長谷川保

    長谷川(保)委員 そこが非常に微妙な点なのです。デンマークの協同組合が非常に発達いたしております一つ理由は、局長御存じかどうか存じませんが、専務理事の請負制度というのがデンマークでは行われておる。つまり日本協同組合発達しない大きな理由の中に、異常に発達いたしました日本の小売制度があります。日本の小売制度は家族労働であり、勤務時間も何もありません。幾らでも働きます。これは日本社会一つの病的状況でありますが、日本の有業人口のいろいろなパーセンテージを調べてみますと、自営業者、いわゆる小売業が非常に多いのであります。世界の文明国でこんな国はありません。これは日本社会を非常に病的にしている大きな理由だと思います。日本の家族労働で、長時間労働で徹底したサービスをしております小売制度に対して、協同組合の方はどうしても近代的な雇用関係、労働関係においてサービスをするということになりますので、日本の小売制度に太刀打ちができない。それでは日本の小売制度をそのままにしておいていいか。日本社会の健全なる発達のために、決してこのままではいけないことは明らかである。そこで何とか日本社会協同組合を仕立てて参りたい。ことに大都会においては自営業者の小売業者が実に驚くほどたくさんあるとよくいわれたのでありますが、米屋さんにいたしましても、タバコ屋さんにいたしましても、小間物屋さんにいたしましても、実に驚くほどの数がある。そのような必要はないのであります。実に非能率な、そうしてへんぱな病的な社会をつくつているのでありますが、その日本の病的に発達いたしました小売制度の中で協同組合発展させて行きますためには、デンマークの専務理事、請負制度というものは十分考えられなければならない。協同組合店舗にいたします場合には、店舗ごとに請負制度を考えて、協同組合に収吸せられ、成規の手続をふんで協同組合職員に雇われて、人事権が協同組合にあり、会計も協同組合によつて十分統御されておる、そういう形の店舗にいたしまして、今まで小売商人でありました方々に請負制度でやらせる。そうすれば日本の小売制度の家族労働に匹敵しますような、それに負けない十分なサービスが行われることになり、その面から協同組合がやがて健全な発達をいたしますまでに伸びて行く一つの道ができるのじやないかと思います。従つて請負制度によつて、向う一年間、事業の目標を協同組合理事会に与えまして、その目標を突破して成績を上げた分につきましては、デンマークで行つて織るように、組合ならばその専務理事なり、店舗ならばその請負者なりの自由に処分することができるような制度を取入れますならば、小売りの病的に発達した日本の場合においても協同組合が伸びて行く、やがて健全な社会をつくるまでの困難ないばらの道を切り開いて行くたとができると思う。しかしこれは先ほど来のお話の通り非常にデリケートな問題であります。そこでただいま現行法あるいは改正法を含めまして、そういう制度を取入れることが許されるかどうか御意見を承りたい。
  20. 安田巌

    安田政府委員 私はデンマークの請負制度というものを実はよく存じないのでありますが、ちようど今生活課長の今村君が土曜日にデンマークに向つて立ちましたので、多分そういう点もよく研究して来るであろうと思いますので、帰りましたらそういう点の報告をさせたいと思います。  ところでその請負制なんですが、先ほども消費生活協同組合の中堅になる従業員の養成ということが非常に大事だと仰せになりましたが、これはその通りだと思います。昔は産業組合等でそういつたような人間の養成をする事業というものに相当重きを置いてやつておられたようでありますが、最近は予算の関係等からそれが思うようにまかせない。現在私どもは県単位で、県の職員中央に集めまして、そういう点の講習をいたしておりますが、欲を言いますならば、そういう中堅職員を直接東京に集めて、今申されたような実地の問題あるいは理論を教えるようになれば非常にいいのではないかと考えていながら、予算の関係でなかなかできなくなつております。そこでそういういい職員が来ないということは、実は人物がないということもございますけれども、なかなか消費組合でそういういい人によい待遇をするというところまで経営が行かない。今も御指摘のように、非常に小売商人が多うございまして、そういう方が家族労働で夜も実は仕事をやつておるというようなことでありますが、消費組合は夕方行つたら締めてしまうというので、非常に不便であります。なおまた御用聞きもございませんし、配達もないという点で、消費組合供給事業だけをやつてつては一なかなかうまく行かないという事情があるわけであります。これが少し大きくなると、灘の消費生活協同組合などではちやんと配達にまわるようでございますし、奥さんが外に働きに出るような場合には、ちやんときようの注文を紙に書いておいて、それを集めて夕方までに品物を届ける。そこまで行きますと消費生活協同組合でも太刀打ができるわけであります。  そこで請負制度の問題でありますけれども、請負にした場合には歩合制度になつて来ると思うのでありますが、この歩合制度というものが実は微妙なものでございまして、この歩合が正常な報酬その他を越えたようなときになりますと、税務署ではこれを独立の所得と認めて、なかなか許してくれないような状態でございます。もしそれを、今度は家族の労働を正常な賃金労働者の賃金に換算して計算いたしますと、むしろ利益が出なくなつて、赤字が出るほどでございまして、なかなか歩合とか何とか申しましても、その辺の計算ができない。実際問題としては、現在ではそういうことをやろうと思つてもなかなかできないのが実情でございますので、仰せのような場合にはひとつケースごとに私の方でよく研究をいたしまして、指示して参りたいと思つております。しかし現在までの状況では、そういうふうにうまく行つた例があまりないようであります。
  21. 長谷川保

    長谷川(保)委員 ただいま人事権を組合理事会ではつきり握つておく、また会計の根本を握つておるということができますれば、請負制にいたしましてある程度成績を上げることを請負わせ、それ以上成績を上げた場合は、いわばボーナスとして与えるという方法が許されれば、私は非常に発達する道が開けて来ると思う。ところが今日までの日本協同組合にはこういう方法がとられておりませんことが、協同組合発達しない大きな理由であると思います。  そこで先ほどお話のように非常に微妙な段階ですので、今回のこの改正法案の目的とするところでは、相当厳重な監督権と取締りと罰則、場合によつては解散という線がじきに出て来るというおそれがある。だから私が非常に心配することは、なるほど法律をつくりますとき、あるいは中央におきましては相当理解のある態度がとられるといたしましても、ただいまのような問題が、末端になりますと、いたずらに取締り監督権の強化によつて、今のような非常に微妙な段階にありますときには、その判断が非常に誤まつて来ると思う。ことに税務官吏あるいは県庁の末端の下級職員におきましては、ともするとそういう点がまつたく行き過ぎてしまう。これは今日まで幾らも実例がある。それを私は非常におそれておる。であるからこの際名義貸し名義貸しというふうに言いがちでありまして、脱税の方途だというふうに見て参りますけれども、そこにほんとうに協同組合発達して行くか発達して行かないかという微妙なわかれ道があるのです。その点を十分に考えませんで、うつかりこの改正法案をそのままうのみにするわけには行かない、こう思うのであります。これをもしこのままうつかりうのみにいたして参りますと、今までのようにちつとも発達しないということになつて来る。今日日本協同組合発達しない理由一つに短期の理事交代制があります。このことからいたしまして、ほんとうに熟練した専務理事その他の者がすぐかわつて行くというようなこともあります。こういう点も十分考えなければならぬ。この専務理事が短期に交代して行くということを防ぎまする一つ方法もやはり専務理事の請負制、こういう点が確立されますれば、専務理事が長くとどまつて組合運営に当ると思うのです。こういう点の十分な理解を持ちませんと、依然として協同組合発達しないということになると思うのであります。  次に税金の問題でありますが、先ごろ、一昨日でありましたか、当委員会から大蔵委員会の方へ租税特別措置法の一部を改正する法律案につきまして、二十八年七月二十九日の大蔵委員会におきまする附帯決議を実現してもらうように申し入れておいたのでありますが、厚生当局といたしまして、この点に対しましてどういうお考えを持つていらつしやいますか、それを承つておきたいと思います。
  22. 安田巌

    安田政府委員 積立金に剰余金を入れます場合に、それが出資額の四分の一に達しない場合は税を課さないということが現在他の協同組合等に認められておるのでありますから、消費協同組合だけがその例外であるというのはむしろおかしい、ぜひそういうふうに私どももしていただきたいに思います。  それからなお先ほどの請負制度のことを重ねて申し上げて恐縮でありますけれども、やはり協同組合の場合は出資をしておるわけでありまして、品物を売つた場合に事業分量に応じた割りもどしでありますとか、あるいは出資金に応じた割りもどしがあるわけでございます。指導をさせまして、実際にそれでは歩合金でやりますか、あるいは報償金にいたしますか、そういう計算をいたしまして、人事権はこちらにあると申しましても、実際そういうこまかい計算をいたしますれば、みなおそらくそんなものは何もできないようになつて来るのであります。そういたしますと、独立の商店がやつておる場合に、そこに組合員が買いに行つたということと、実際問題としては何ら違わない結果が出ることになるのじやないか、そういう点にいろいろ問題があるのであります。私どもこの法律を出しましたのは、たびたび申し上げおりますように、決して現在あります消費生活協同組合を監督を厳重にいたしまして、いじめてやろうというような考えは毛頭ないのでありまして、消費組合は非常にたくさんあるとか、あるいはそういうふうな一つ組合が数十の店舗を運営しているというような事実があるために、いろいろ制度的にも運営的にも他の組合がむしろ迷惑をしておるのじやないかという筋がたくさんあるのであります。そういうふうな点を直して行きまして、たびたびこの委員会で御指摘がありましたような点を逐次その上に築き上げて行くという形にいたしたいという気持でございますので、その点どうぞひとつ御了承願いたいと思います。
  23. 長谷川保

    長谷川(保)委員 どうも担当の当局協同組合に対する認識が足らない、それだからまごまごすると主管者である厚生当局がどうも大蔵当局に押されてしまう、引きずりまわされてしまう、一番発達をはからなければならぬ厚生省が、どうも協同組合取締りばかりを考えているというような傾向か、局長の答弁を承つておりましても開かれるのでありまして、その点私ども非常に心配するわけであります。  なお逐条的に伺いたい点がありますけれども、同僚からもほかの質問がなされておりますし、私もちよつと酒税局長とこの税金の問題で会うことになつておりますので、きようはここで中止いたしまして次にさしていただきます。
  24. 小島徹三

    小島委員長 山下春江君。
  25. 山下春江

    ○山下(春)委員 消費生活協同組合法改正案に対しましては、長谷川委員よりるる御質問がありましたから尽されたようでございますが、私もどうも厚生当局のほんとうの腹の底がわからないのです。この生協法ができますときは、前会にも私から申しておきましたように、この生協法が発足いたしますときに、営利事業でないから、できれば無税、もしやむを得ざるものがあつたとしても、それはもう最低限の課税対象であること、信用事業の窓口をあけてやること、あるいは員外利用を認めてやること、これらの条件が備わらないままにこれは生れ出て来たのであります。これでは発達しないのでございまして、その後この生協法が生れて出て来て六年たちますのに、今回初めて修正案が国会に提案された、ぶん投げておいたというような形でございますが、ぶん投げておいてさつぱり政府がこれを育成強化するたとをしてやらなかつたものですから、御指摘の通りこれは育つておりません。やむを得ざる事情から名義貸しその他、われわれのやや取締らなければならないというような状態にまでこれは追い込められて来ておる姿は事実でございます。しかしながらこれを一体必要と思われるのか思われないのか、今長谷川委員の御質問に対して、るる安田局長がお述べになるところを聞いてみると、理解があるかに聞える点もなきにしもあらずですけれども、どうも大した愛情もなさそうでございまして、こんな法律ができたものだから、しかたがないからめんどうなところだけは取締ろう、だんだん細つて行けばおしまいにやめてしまおう、こういう底意がどうもちらちらうかがわれてならないのでございすが、そんなに不必要ならこれはやめた方がよいのでありまして、こう行政庁の監督権の規定ばかり強化したのではとても育たないのです。これはもうどんなことをしても育たないのであります。育てる意思があるのかないのか、他の事業は農業協同組合にいたしましても、水産業協同組合にいたしましても、再建整備法などをこしらえて、いろいろ国家があたたかい手を差し伸べて、これの育成強化発達を助成して来たのでありますが、生協法に限りその整備法どころのさわぎでなく、やつと法律が出たので、やれやれと思つてながめてみると、行政庁の監督権の規定を強化したところばかりが目につきまして、ちつともどこもかわいがつてつておるところはないのでございますが、しかしながらこれは今ちようどこういう問題の壁にぶかつた点があることは、政府が砂糖の値段などをまたマル公にして、みなどうするか、こうするかなどと言つております。こういうときにこそこういうものが必要であつて、これがほんとうに正常にきようまで政府が育成強化いたしておりますというときにこそ、まごつくことがなかつた——長谷川委員からも御指摘の通り、自営業者中小企業の救済などという安易な道を開かないで、困難なこういう道を開いておくことが、こういうときに必要だつたのでございますけれども、そういう措置が非常に足りなかつたのでございます。安田局長政府は何と考えておるかというその考え方伺つてみても、根本的なことについてはちよつと御答弁の仕方がないと思いますが、それでも一応聞いてみたい。どうも局長の腹の底には育てるというよりもだんだん細らかして、しまいには消やしてしまつた方がめんどうでなくてよいというふうに聞えてならないのでございますが、そういうことはないのでございますか。
  26. 安田巌

    安田政府委員 私の腹の底がわからぬということでございますけれども、もうたびたび御質問がございまして、もうみな申し上げてしまつて何も残つておらぬのでございます。  今御指摘があつたように、せつかく消費生活協同組合法というものが終戦後できまして、今までほつておいたではないかと言われれば、そういうことかもしれません。しかしこれを改正をして、そうして国会へ出しまして、皆さん方から一応こまかい点でかわいがつていただいておるのは、これは私どもよくしようという気持があるから、実はこういう法案を出したのでありまして、ただこれを取締つてつぶしてしまえばよいなどという考え方は毛頭ございません。ただ私が自分の努力をたなに上げておいて申すわけではございませんけれども、他の協同組合ことに農業協同組合などと比べて、地域の消費協同組合というものはむづかしい点がたくさんございます。これは法律だとか、あるいは制度をどうしたということだけではうまく行かぬ、いろいろ精神的な問題もございまして、そういう点でもいろいろ努力しなければならぬ問題があると思いますけれども、決しておろそかにしたいというつもりではないのでございまして、ぜひこういう法案を御改正を認めていただきますならば、今後も一層力を注いで行きたい。例の協同組合に対する資金の問題等も、本年度からようやく予算化されたのでございまして、そういう点も若干お認めを願いたいと思います。
  27. 山下春江

    ○山下(春)委員 そういうお気持でこの法案にとつ組んでいただいておるということをあらためて認めることにいたしまして、そこでお願いやら質問やらがあるのでございますが、生協法の第一条には「国民の自発的な生活協同組織の発達を図り、」と書いてございます。そこで自発的と申しましても、きようまで実際は教育が足らなかつたので長谷川委員もお触れになりましたが、これを運営する指導階級の講習会、私はこの前にも局長に伺つたと思いますが、こういうものを厚生省が中心になつて始終お開きを願うことが、一般の人に厚生省が指導者を講習会を開いて教育しているのだということの認識を持たせるもとでございまして、何となしにぼやつとしておきますと、一般の認識も組合員の認識もなかなか高まらないのでございますから、この点はぜひ再三やつていただいて、よき人を得ていただきたいと思うことが一つ。  それから各委員から触れられました解散の点でございますが、長谷川委員が今特に力を入れて御質問しておられました名義貸しの違反に対して、解散まで突き進むこの点は政府の提案理由の説明にありますように、あらかじめ弁明の機会を与えると書いてありますから、その点は苛酷にわたらないように取扱う気持を十分に蔵しておいでになると思いますが、ただ法文から読んで行きますと、そういうことは、ともすれば解散命令の対象になるおそれがございますので、非常に微妙でございまして、中小商工業者も本年度の予算のいろいろなしわ寄せを受けまして、こういうことに自然に解消することの機会が非常に多いだろうと思いますので、これは厳重に御調査願つて、なるべく解散に持つて行かないように措置をするのお心構えがあるかないか。そういうことによつて生協というものが育つが育たたないかの一つの規範にもなると思いますので、その点局長にお心構えを伺つておきたい。
  28. 安田巌

    安田政府委員 解散を命じます場合は、今御指摘の名義貸しの場合とか、あるいは許可になりましても一年も組合を始めないとか、あるいは休止するとかいうことでございまして、それもお話のように一々弁明の機会を与えるというやり方で参りました。その前に措置命令を出すという手続をいたしますから、御心配のように本来解散を命じない方がいいのじやないかと思われるのが末端で強行されるようなことは私は万々ないと思います。そういう点につきましては、今後十分運用上気をつけて参りたいと思います。
  29. 山下春江

    ○山下(春)委員 もう一点最後にお尋ねいたします。先ほど長谷川委員から御指摘のございました税金の問題でございますが、これは再三お願いし、質問もしております通りでございまして、金額から申せばわずかでございますが、員外利用をやらせないのだから、税金の面を考慮してやると大蔵省も言つておる。これは大蔵省も聞えない話だと思う。やらせないように縛つておくのだから税金の面も何とか考えてやろうというような、そんな苛酷な意地の悪い警察官の言うようなことを言つてはいけないのでありまして、ほんとうは員外利用を全然認めないのでは育つ要素が非常に欠けて来るのでございます。私の留守中に一〇%程度という御議論も出たそうでございますが、これは他の組合と同等に二〇%まで何とか引上げることに御努力を願つて、その上に立つて税金の面も考えてもらうように、これは局長が十分自信を持つて大蔵省に当つていただかなければなりません。ただ頭をたたかれて、員外利用は認めないぞ、そのかわり税金の方は見てやると言われて、へいなどと言つて来ないように、ひとつこの点談判してもらいたい。そんな弱腰ではいけないのでありまして、員外利用は当然認めなければならないものでございます。これを認める上に立つて税も考えるということでないと困る。どうも私聞くところによりますと、大蔵省の管理課あたりに、行くと、何か厚生省はじやまものみたいにいつも小さくなつて頭をたたかれたたかれして帰つていらつしやるそうでありますけれども、厚生事業を圧迫するような政府ではだめでございまして、その点は自信を持つてかけ合つていただきたいと思います。そこで大蔵委員会の方にまわした本委員会の意思が通るお見込みでございますか、どうですか。これは見込みじやいけないのであつて、ぜひ通していただきたいのですが、局長はどういうふうにお考えになりますか。
  30. 安田巌

    安田政府委員 御趣旨はごもつともでございますので、今後ひとつそういう場合には強く当りたいと思います。何分御支援を願いたいと思います。  それから免税の件でございますが、これは議員修正でございますので、私どもが見通しがあるとかないとか言うのはへんでございますが、小島委員長がたいてい大丈夫だろうとおつしやいますので安心をいたしております。
  31. 山下春江

    ○山下(春)委員 続けて発言を許されておると考えてよろしゆうございますか。——あへん法案でちよつと一言お尋ねをいたしたいと思うのでございますが、私、実はこのあへん法案がこの委員会に提案されたことがどう考えてみても合点が行かないのでございまして、この間ちよつといろいろお話を聞きましたけれども、あの程度の御答弁では、なぜこの法案を国会にかけなければならなかつたかということが納得行かないのです。たとえばこの法案の大部分のものは新たに栽培されるということでございますね。その新たに栽培させるとは、局長お話では、栽培技術を持つておる農民が大分年をとつておるので、ぼやぼやしておるとそれがみな死んでしまつて技術が絶えるということだから、こういう法案を出してぼつぼつ施策を始めるのだ、こういうことでございましたが、その程度の理由でございましようか。
  32. 高田正巳

    ○高田政府委員 前会のときの御質問でも、山下先生のお気持としましては、取締りの方が相当問題もはらんでおるから、さようなことをしないで、また大した外貨もいらないのだから輸入にまつたらどうかという点が一番の御心配のところであつたと思うのであります。その点は確かにこの法案と関連いたしまして最も大きな問題でございます。私どももこの法案の起案をいたしますときに、その点を一番の中心にいろいろ検討したのでございます。  そこでまず輸入の問題でございますが、今回の予算でお願いをしておるのは一億くらいだからということでございますが、これはよく考えてみますと、前会にも御説明申し上げましたように、一億という額ではとても国内の消費量は足らないのであります。たまたま国内の保有量があるというというようなことから本年度は初めてのことでもありますし、予算も緊縮予算でございますから、一応一億というものを計上いたしまして、できるだけ使用の方を節約して、何とか最小限度のものだけを確保するというつもりで実は一億というものを計上したのであります。従いまして来年度からはとうていこの一億では済まない。先般も御説明いたしましたように、千分の十以下の燐酸コデインは家庭麻薬として麻薬取締法から除外されております。この方がどんどん需要が出て参つておりまして、この調子で参りますと、来年度以降はとても一億や二億では済まないのではないかというふうな気がいたしております。いずれ外貨の額としましても数億になつて参るのじやないかと想像いたします。しかし数億にいたしましても、この栽培を許しますことによつて、それで非常に弊害が出て来るということであれば、これは惜しい外貨ではないわけでございます。今日では輸入はいろいろできる建前になつておりますけれども、輸入だけにたよつておるということは一体どんなものであろうか、御承知のようにあへんというものは非常に弊害も持ちますけれども、またなくてはならないもので、これは前の戦争のときにも、ある国が非常に困りまして、弾丸や食糧よりは先にあへんを潜水艦で取寄せたということもあるわけでございます。さようなわけで、いろいろな事情で輸入が非常にむずかしくなつて来るという場合に、一体どういうことになるであろうかということも考えなければならぬ。なおまた昨年の五月でございましたが、調印をいたしましたあへんの条約におきましては、世界のうちであへんを輸出することのできる国が限定されております。さようなわけで売方もきまつておるわけでございます。そういたしますと、国際取引の間でもやはり足元を見られるということも、日本が全然生産の能力がないということであるならば、これは十分あり得ることであります。従いましてあれこれ勘案をいたしまして、とにかく日本でもやれるのだという態勢だけはどうしてもつくつておいた方が、国の将来を考えましていいことじやないか、かような決心を私どもはいたしたわけであります。しからば、取締りの方はどうかということになりますと、先般もるる御説明申し上げましたように、まず大局的に申せば、取締りのできる範囲でしか許可をしないというのが根本の建前になつて来ると思うのであります。しかも許可をする際には、今申しましたように栽培区域、栽培面積の指定をいたします。従いましてあつちへ飛んだり、こつちへ飛んだりして、栽培地がばらばらになつてとても取締りが不便であるという場合にはさような区域は許可をいたさないつもりであります。なるべく集団的な取締りの便のあるところを区域として指定する。そしてできるだけ取締りができる範囲内で許可をして行く。そうして許可をいたしましたものにつきましても、この法案にございますように綿密なる取締りをやつて参りたい。厚生大臣や栽培地の都道府県知事は、麻薬取締官あるいは麻薬取締員または薬事監視員のうちからあらかじめあへん監視員というようなものを任命いたしておりまして、十分に取締りをいたして参る。また麻薬取締官や麻薬取締員は、御承知のように司法警察権も持つてつて、ピストルなんかも携帯いたしております。さような権限も持つておるのでありますので、これを十分に活用いたして参りたい。なお取締りの面で一番問題になりますことは、前会申し上げましたように、けしの栽培をいたしましても、栽培期間中ずつと取締りが必要なわけではないので、これが芽を出しまして、ぼうずが出てあへんをとる。その期間が非常にわずかで、ぼうずが出ない間は問題がない。従つてその期間は非常に限定された期間である。それでこの限定された期間にはさような取締員を動員いたしまして、横流れ等のないようにやることは、期間が限定されておるだけに十分可能なことである、かように考えておるわけであります。それからなお法律ではその面は出ておりませんけれども行政指導といたしましては、収納いたしましたあへんを格納するには法律でも非常に厳格な設備を要求いたしております。そういうものは栽培をするお百姓が一人々々はとても経済的にもできかねることでありますが、なお取締りの面からもその方が好都合でありますから、共同的な格納設備を設けるとか、こういうようなことによりまして、取締員以外のお互いの耕作者自体の相互監視というふうな組織も十分行政指導の面では考えて参りたい一そういう考にいろいろな手をあれこれ講ずることによりまして、取締りの面につきましては遺憾なきを期して参りたい。私どもといたしましてはその点がもし破れまして、栽培したあへんが横流れをいたしましたり何かして、国民に惨禍を及ぼすというふうなことがありましては、責任上何とも申訳ございませんので、われわれは取締りの確言を持てる範囲においていろいろな方途を講じて、その範囲において栽培区域の指定をして参りたい、許可もいたして参りたい、かように考えておるわけであります。それで輸入の方と取締りの方と彼此にらみ合せまして、とにかく国内でも法律的にできるのだという態勢をとり、そうして取締りとにらみ合せて徐々にやつて行くということが、ただいまのわが国の置かれました立場から申しまして一番妥当な線ではあるまいか、かような結論に到達いたしましてこの法律案をお願い申し上げた次第でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
  33. 山下春江

    ○山下(春)委員 御説明よくわかりましたが、この間お話を聞きまして一億円くらいと言われました。それと国内需給が大体二十五トンから二十八トンくらいと確かに聞いたのでありますが、戦前非常に盛んなときは国内では三十トンもできたというようなことも聞いたと思います。ところが今局長は、来年は一億では足りない、数億いるかもしれないと言われましたが、横流れなどいろいろなものを合せて百億くらい入つているのではないかというようなことが新聞などにちらほら出ておる。何かあへんにも軍機秘密保護法みたいなものがあつて、われわれ委員がもやをかけられているのではないが。危険なものは委員会にかかつてももやをかけておけばわれわれ委員はどうするわけにも行かない。しかしわれわれはそれでは納得できない。今取締り方法を聞きました。またけしは日本で指定される地域はわれわれによくわかつております。たとえばタバコの場合でも、木一本というのでなく一枚一枚葉数査定をやつているにかかわらず、やはり何万貫という横流れが今でも行われております。けしの場合にはそういうことがもつとあるであろうことが想像されます。その点は取締りの万全を期していただくとして、今タバコをアメリカから五十六億円買つております。そんなものを五十億に減らして六億円あへんを買つてみたところで知れたものだ。私どもののみますタバコの中に米葉を入れなければ買わない、のまないというわけではないのですから、五十六億円買わなければならない理由はない。ドイツに行きましてゲルベゾルテを見ましても、全部国内産でやつて外国葉は入つておらないというところからいいましても、われわれ国民が五十六億アメリカから買つてのまなくてもいい。五十億に減らして六億だけ麻薬を買うということはいささかでもさしつかえない。だから軍機秘密保護法みたいに何か煙幕を張つてわれわれ委員にほんとうのことを明かされないならば、われわれはこの際これを返上するのであつて、こんなあぶない国民に迷惑をかけるものに賛同を与えられないということになるのですが、今のお答えで、外国が輸出するのがきまつておる、足元を見られる点もあるし、あるいはときによつて輸出をしないというようなことがあつて日本の国内としては非常に困る、そういうことも考えて国際情勢その他とにらみ合せて国内でもそういう態勢をぼつぼつ打立てておくことがあらゆる面からいいのではないか。賛成できそうな御議論でございます。しかしながら今のところ別にそうでもなさそうだ。しかもこのルートあのルートで限りなく押し寄せてくるものを合せますと、何でも百億くらいなものが国内に流れておる。それがいろいろな面に派生しておるということもどうもいなみがたい事実のようであります。厚生省といたしましては、われわれ厚生委員が信じられないで、煙幕を張つたまま通してもらいたいということなら別ですが、そうでなければ、よければ積極的に賛成しようという意図のある者に、もう少し率直に煙幕を張らないで御真意を明かしていただけば私は必ずしも反対するものではないが、煙幕を張られればお返ししなければ危険だという気になりますので、その点もう一度重ねて簡単でけつこうでありますが、お伺いしたい。
  34. 高田正巳

    ○高田政府委員 私決して煙幕を張つているつもりではないのであります。それからこの法案は、別に何もそういうややこしい秘密とかなんとかいうことは一切ないのでございます。一億円では済まないのだと申し上げましたのは、前会も御説明いたしましたように、政府の保有量があるので、それを輸入するものと一緒に足して、来年度の需要に事欠かない程度のものが一億円である、しかもこの一億円と、それから政府の保有量とを足しました約二十七トンぐらいなものは、国内の需要から行きますと非常に骨の折れる数量である、それは予算その他の問題で、まあさようにしんぼうせざるを得ないようなことになつて来たわけなんです。と申しますのは、今申し上げましたあへんから生産いたされます燐酸コデインというようなものについて非常な需要が今起つておりまして、そして今後もその需要はだんだん伸びて行く傾向にある。従つて将来といたしましては、保有量もなくなるし、また需要量が伸びて参りますれば、輸入の金額といたしましてはとても一億やそこいらでは済まなくなるであろう、こういう見通しを申し上げたのであります。数字がそれぞれ合いませんので、何か変なことのようにお考えになられたかもしれませんが、さような事情でございます。それから今新聞などに百億云云というようなお話が出ております。これは全然かようなルートのものではなくて、いわゆる密輸のヘロインであります。国内に多分このくらいの麻薬中毒者がおるであろうという推定数と、その麻薬中毒者が一日に使用する量というものをかけ合せまして、それとヘロインの国内におけるやみ価格をかけてみると、そういうふうに何十億というような数字が出るのです。従つてその分は、あへんを合法的に生産するような態勢をつくるとつくるまいと、まああまり関係のない、いろいろなルートを経まして国内に入つて来るのでございます。しかもその何十億とか百億近いといわれます金額も、今申し上げましたようなことで、仮定を置いて積算をしてみると、そのくらいのものが入つて来ておる可能性があるということでございます。しかし検挙を通じて押えましたヘロインというものは決してそのような多額なものではございません。さようなことでございますから、その数字との関連をひとつ御了承をお願いいたしたいと思います。ただいま申した推定の数字は、中毒者が三万ぐらいおると仮定いたしまして、一人一日〇・〇二グラム、三百六十五日間使用するといたしまして使用量が二百十九キロになります。これにグラム当り五千円というようなやみ価格——このヘロインのやみ価格はところによつて非常な開きがございますが、一応五千円と仮定してみますと約百億円ぐらいの金になるという、ほんとうの架空の数字でございます。その数字とただいま私が申し上げました数字との開きは御了承いただきたいと思います。
  35. 山下春江

    ○山下(春)委員 大分ほんとうの姿がわかつて来たようでございます。これは参考にちよつと伺うので、ありますが、戦前には中国人などでヘロイン中毒者が、日本に商売やその他の用件で参りまして、山王・ホテルなどにとまつておりまして、あへんが切れまして発作を起して何とも処置がないので、警視庁へ連れて行つて、外国人だから何とか打つてもらえまいかと言つたところが、そんなのは打てないと言つたことがあるのですが、そういつたような病人を連れて来られたときには、厚生省では今はどう処置をしておられるのですか。
  36. 高田正巳

    ○高田政府委員 それは打てないのでございます。麻薬吸飲者と申しますものは、苦しみますけれども、打たないでおけばなおるものですから……。
  37. 山下春江

    ○山下(春)委員 この法案はその必要性が少しずつわかつて参りましたので、私はあえて反対するものではございませんが、国内的に私どもが非常に深刻な憂慮をしなければならないいろいろな問題を頭に描かざるを得ない状態のときでございますので、十分の上にも十分な御監督を願つてあやまちを、期していただきたい、これは要望しておきます。
  38. 小島徹三

  39. 中川源一郎

    中川(源)委員 私は消費生活協同組のことで一言お尋ねいたしたいのですが、地方における消費生活協同組合には模範的な、たいへんりつぱな組合もあると私は思います。たとえて申し上げたいのでございますが、それは名前をさして言わなければならぬことになりますから言わないことにいたしますが、非常によくやつておられる消費組合がある。そういうものはひとつ政府でも目を開いて育成助長する必要があるということを私どもは痛感するのでございます。しかし私ども地方においてながめておる多くのものには、非常によくないと思われるものが往々にして見受けられるのです。これらについて取締りを今後一層厳重にしてもらう必要があると思うのです。たとえば中小企業者がわずかな商売をやつて重い税金に今まで非常に苦しんで来た。しかもそれは未亡人であるとかあるいは老人であるとか、税務署へ行きましたりあるいは府県庁の方に参りまして、事業税の交渉をして値切るというようなことをすることのできないような弱い者が商売をやつておる際に、それに重い規定の税金をかけられるので非常に苦しんでおる。こういう方面につけ込んで共産党の方々などが歴訪して、よし引受けた、お前のところはあまりにも税金が高過ぎるから五分の一に値切つてやろうと言われると、こういう者が多く甘言に乗せられて、なるほどその初年度は三分の一とか五分の一とかに値切つてもららえる。そしてそれを続けて、組合員となります。組合員になれば自分の家の商品あるいはすべてのものを組合に渡して、そこにおる家族は俸給をもらうというような手続をして、いかにも組合の者である、組合の経営のごとく見せかけておいて、実際においてはもとと何らかわらない独立の営業をやつておる。いわゆる名義貸しですが、至るところそういうものをつくり上げて、そして共産党員の方々が税金を値切る、しかも税金を値切るにもはなはだ酷な値切り方をする者がある。これで地方では非常に弱つておる。中には税務官吏をつかまえて、君はこのごろりつぱな服を着ているなあ、この間赤い顔をして歩いておつたじやないか、ずいぶん酒を飲むらしい、一体幾ら月給をもらつておるのかなどという、半ば恐喝的な、半ば暴力に訴えてやるらしい。それは実地調査に参りましたときに、すぐに連絡をとりまして共産党員の方々や組合員の人を呼び出すと、やつて参りまして、ちよつと外へ出いということで、どうもえらいけんまくでやられるものですから、税務官吏は恐ろしがつてそこに寄りつかぬというように、半ば恐喝的なことをして税を値切るというようなことで、てこずつておるような例は実はたんさんあるのです。そういうことをいたしましてその組合を組織して、その組合にはたくさんな従業員がおつて、それらの俸給を払わなければならぬ。そうしてそれらは組合員に事務費やいろいろのものでかけるのですから、実は中小商工業者の高い税金を納めている方が安くつくのです。今では非常に苦んで、何とかこれをのがれようじやないかという考えを持つている組合員がいる。しかし一旦入ればなかなかのがれられない。また抜けて出るということは許さぬので、実に困り抜いている者があります。そういうものに対しては、よろしく解散命令をする必要がある。実際とやつていることと合つているかということを、御調査になつたようなことがあるかないか、そういう苦んでいる者を、いつまでも見殺しにするというようなことじやよくない。ことにそれらの方々は唯一の選挙地盤です。
  40. 小島徹三

    小島委員長 中川君に申し上げますが、時間の関係がありますからなるべく簡単に……。
  41. 中川源一郎

    中川(源)委員 選挙に利用するということが多いのです。私は詳しく申し上げることは、委員長の御注意もありましたからやめますけれども、こういう実情を十分御調査になつているかどうか、組合員が喜んで入つているかどうか、出ることを許さないということで、縛り上げているものがあるかないかというようなことを御調査になつているかどうか、今後そういうことについては、取締りをするというお考えがあるかどうか、法律をつくりましても、取締りをやらなかつたら何もならぬわけでありますから、それをお尋ねしておきたい。
  42. 安田巌

    安田政府委員 そういうようなお話は、私ども今まで承つたことはございません。今度の改正法律が成立いたしましたならば、そういう点につきましても十分適当な処置をとつて参りたいと思つております。
  43. 小島徹三

    小島委員長 それでは本日の日程の三法案に関する審査はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたしますが、午後一時より、東大名誉教授の都築正男君より、ビキニ環礁付近における爆発実験による日本漁船の被害事件について、参考人として意見をお聞きするとともに、厚生省、外務省、水産庁等から関係者を呼んで、意見を聞く予定でございます。正午後一時より始めますから、御出席願います。  これにて休憩いたします。    午後零時二十四分休憩      ————◇—————    午後一時十五分開議
  44. 小島徹三

    小島委員長 休憩前に引続き会議を再開いたします。  この際都築博士に一言ごあいさつ申し上げます。博士には御多用中にもか変わらず、当委員会の希望を受入れられ御出席くださいましたことを厚くお礼申し上げます。  それではこれよりビキニ環礁付近における爆発実験による日本漁船の被害事件についてお話を承りたいと思います。
  45. 都築正男

    ○都築参考人 それでは御要求によりまして、先般三月一日でありましたか、南方で原子力の実験の結果発生したと思われます灰をこうむりました第五福竜丸の船員の被害状況について一言御説明を申し上げます。  その状況を漁師の方に伺つたところによりますと、朝早く三時過ぎだそうでありますが、魚をとるべく網を入れておつたところが、はるか遠方に光が見えた。それから数分たちましてから鈍い爆音を聞いたそうでありますが、それから一、二時間たちましてから、ちようどさみだれが降るようにその辺が曇つて参りまして、そうして何か灰のようなものが落つこつて来た、こういう話でございます。その当時まぐろをとつておつたわけでありますが、大部分の人は別に大して気もつかなかつたが、一部の人はひよつとしたら何か原子爆弾に関係があるのではないだろうかということ百であつた。かつ船の油も残り少くなつたという状況で、とつた魚だけを積み込んで母港の焼津港に帰つて来たちようど十四日に帰り着きましたから、その百トンばかりの船に、二十三人の人間が二週間ばかり乗つて来たわけであります。  それで帰つてつてからの問題でありますが、その人たちが灰をかぶつて二日、三日たちますと、顔とか手とか、その当時外に出ておつたところが赤くはれまして、ひりひりむずがゆいような感じがして、続いて一部には水ぶくれみたいなものができました。これはたいへんなことだと言いながら、中には船に乗つていた人で気持が悪くなつてものを吐いたという人もあります。帰つて参りますころには、赤いところがやけどというか、海水浴に行つてやけたのの少し程度の強いような程度になつておりました。それで焼津に帰つてそこの共立病院の外科のお医者さんに見てもらつたところが、どうもこれは何か原子爆弾のようなものに関係があるから、東京行つて都築医院に行つて見てもらつたらよかろう、こういうことを言われまして、そのうち顔と手が一番ひどくやられておる二人の方が東京に出て参りました。そうして私どもの大学にたずねて見えまして、それから事が始まつたことになつております。それが月曜日のことでありましたから十五日の夕方で、今からちようど一週間前であります。私は通知を受けまして翌日の火曜日の十六日にその患者を見ました。どうもこれはやはり放射能による障害でなければならぬ、同時に船の上に降つた灰を集めまして、一グラムばかり紙に包んでその漁師の方が持つておいでになりましたが、それを見ると非常に放射能が強いので、これは原子爆弾のようなものが爆発したときに、すなわち原子核の破壊という現象が起りました際に発生する原子核分裂生成物であるに違いない。それであればこれは容易ならぬことだというわけで調査を始めたわけであります。その調査は大体において二つの部門にわかれます。一つは医学部が主として担当いたしまして、医学的にその放射能を調べる。それから病人の模様をいろいろ調べること、今日まだ継続しておりますが、大体今朝までに大ざつぱながらその見当がついて参りました。第二の方面は理学部、主として化学の木村教授が主任になりまして、その船に落ちました灰を分析して、その中から成分を見つけ出すことであります。両方にわかれたものでありますから灰は〇・五グラムずつくらいになりました。その〇・五グラムずつの灰を分析いたしまして、今朝の十時まで大体その真相をつかむことができました。従つてもうどこからも知らしてもらわなくても、少くとも日本の第五福竜丸の上に落ちて来た灰の成分、並びにそれによつて起る障害の模様の筋道だけはわれわれの手によつて日本医学の手によつて一週間の間に判明することができたということを、まず最初に申し上げておきたいと思います。  これまでたびたび私新聞にも発表いたしましたが、これが月の世界からでも降つて来たものであれば、聞いてみる相手もないのでありますが、もし地球上にだれか知つている人があるならば、人道上知らしてもらうと都合がいいということを主張しておりましたが、今日以後はその主張をする必要がもうなくなつたということを、皆様のお耳に入れておきたいと思います。  順が逆になりますが、まず第一にその灰の成分、これは東大の理学部の木村教授のもとでやられました。御承知のように木村教授はこういう放射性物質の分析化学におきましては世界的の権威であります。かつ、今からもう八年前になりますが、広島、長崎でそういう方面の研究をされました。ところが学会前の非常に忙しいときでありましたので、教室員が日夜奮闘いたしまして、今日までに大体その主成分を見つけ出すことができました。それからまず申し上げておきます。  第五福竜丸に落ちました灰、これについて誤解が起るといけないと思いますので、一言あらかじめお断り申しておきますが、われわれがこれから申します成分は、第五福竜丸の上に落ちて来た灰に限り申しておるのでありまして、ほかのところに落ちた灰が、どんな成分であるかということはわれわれにはわからない。第五福竜丸に落ちました灰の主成分は、普通の化学の分析では炭酸カルシウムであります。大部分が炭酸カルシウムの化合物であります。これは想像いたしますると実験をした島がもし珊瑚礁であるとすれば、その珊瑚礁のかけらではないか、これは想像であります。この炭酸カルシウムに、さつき申しました原子核の分裂生成物が付着しておるというのであります。今までその付着しております原子核の分烈生成物で確かだとわかりましたもの、これは非常に重大問題でありますので一々申し上げますと、まず第一は放射性のジルコニウムであります。こういう放射性の原子核分烈生成物は、その放射能が時間とともに漸次減つて参ります。それはきまつております。この放射性のジルコニウムが放射能が半分になります、すなわち半減期と申しますが、半減期が六十五日であります。六十五日たちますとその放射能が半分になる、さらに六十五日たてば四分の一になるというようにだんだん減つて参りますが、永久にゼロにはならないのであります。第二には放射性の二オブ、これは半減期が三十五日のものと九十時間のものと二種類発見されております。それから放射性のテルルというものがあります。このテルルの半減期が七十七時間であります。それから放射性の沃素というものがあります。この沃素が二種類ありまして、半減期が二・四時間のものと、八日のものと二種類出ております。これで六つになります。なおそのほかにストロンチウムというものが出ております。ストロンチウムには二種類出ておりまして、これはわれわれの方から言うと非常に重要なもので、ストロンチウムの八十九番というものが一つと、ストロンチウムの九十番というものが一つと二種類出ております。ストロンチウムの八十九番と申しますのは、半減期が五十三日であります。それからストロンチウムの九十番と申しますのは半減期が二十五年であります。この二十五年にあとから非常に意味が出て参ります。その次にバリウムというのがあります。バリウムの半減期が十二・八日であります。それからもう一つランタンというものがあります。それは半減期が四十時間であります。それだけのものでありますから大体十になりますが、十の放射性物質が灰から見つけ出されておるのであります。それからこういう原子核分裂生成物として、多分そういうものもあるかもしれないという意味で調べてみましたけれども、発見されなかつたものが三つございます。これは亜鉛と銀であります。それは検出されないということになります。それからコバルト、例のコバルト爆弾とか騒いでおります、放射性のコバルトは検出されていないのであります。これはないという話であります。今日まで化学的にわかりましたものはそれであります。従つてこの成績から学問的に判断いたしますと、原子核の分裂が起つたのであろうということは、もう十分に確かに言うことができると思います。それぞれ重要でありますが、このうちで一番医学の立場から人間の被害という立場から申しまして、一番重要な問題はストロンチウムとバリウムであります。ことにストロンチウムの九十番というものは、人体の中へ入りました場合の新陳代謝が、カルシウムとまつたく同様に行われるものでありますので、好んで骨に沈着いたします。それから一旦人体の中に沈着いたしますとなかなか排出されにくいという点が、非常に特異のものであります。そのストロンチウム九十番の放射能の半減期が二十五年であるということが非常に重大な問題になります。たとい微量といえどもこういうものが人体の中に入りまして、骨の中に沈着した場合、その放射能が半分になるのに二十五年かかる。さらに二十五年たつて、五十年でやつと四分の一に減るという点、何とかしてこれを早く無害な状態にして、からだの外に取り出さなければならないというのが、われわれ被害者の治療に当つておる者に課せられた重大な問題だということになるわけであります。  ところで今申しましたような成分を持つた灰でありますが、その灰をこうむつたら一体どうなるかということであります。これはよう話がわかつておれば、そういうものが降つて来たら急いで逃げるか、あるいは不幸にして逃げるひまがなくて、着物についたり何かしたら、着物を脱ぎ捨てる、すぐ何べんもふろに入つて一生懸命洗えばいい。何様百トンという小さな船にまぐろやさめ、そのほかにたくさんの魚を積んで、ほとんど人間の住むところのないような小さな木造船、それに二十三人という人が乗つて、かつそういうものに対する知識がほとんどない。これは無理もない。それが二週間の間、航海して港に帰つて来たというのでありますから、その間非常な害を受けて帰つて参りました。その船を専門家が調べまして驚いたことは、その船の放射能たるやたいへんなものであります。その調べも大体の材料をここへ持つて参りましたけれども、たとえば甲板の上のボートの置いてあるところなんかは、放射能の単位で申しましてミリレントゲン・パー・アワー、一時間にレントゲンの千分の一、その単位ではかりまして百十、それから船員室が八十というのであります。これがどの程度恐しいものであるかと申しますと、今国際間に放射線の学問の方で、放射能の障害というものが非常に問題になつているのでありますが、その障害を受けた際に、このくらいの程度であればよろしいという許容量というものがあります。インターナシヨナル・パーミツシブル・ドウヅというものがありまして、国際的に許される量がある。それは一週間に三百レントゲンということになつております。従つてもしかりにそこに住んでおるとすれば、それを一週間の時間で割ることになりますから、一時間が一・八ミリレントゲンということになります。そういう程度までは住んでもさしつかえないということになる。ところが今申し上げましたように、船員室にしてすでに八十であります。一・八というのがどうやらよろしいというのに対して八十でありますから、もう非常な強さであります。ところがこれは二週間たつてつて来ての話で、この灰を医学部の放射能科で調べましたところが、大体現在一日に一〇%程度減つておる。ですから初めのうちはもつと早く減つたろうから、それを逆にもとして考えましても、もう初めの時期の放射能は相当に強いものであつたろうということが想像できるわけです。これは計算すれば出て来るわけですが、従つてそういう強い放射能のある狭い船の中に二十三人もの多くの船員が住まわれて、別に風呂もあるわけでもなく顔も洗われないという状態でありますから、着物に一ぱいそれが着いておる。それが狭い船員室の中にごちやごちやに住んでおる。とつたまぐろも食べたというのだから、手も汚れますし、灰もごみとして大分吸い込まれて、からだの中に入つているだろうという想像もつくわけです。これはたいへんなことだというので、東大に入院された方をいろいろ調査をいたしました。あまり詳しいことはあとで模様によつたらお話申し上げますが、初め驚いたことは、例のガイガーというごく簡単にはかるものを持つて行きますと、ガアツという音がするくらい鳴るのであります。からだの表面、頭の毛が一番強くて、それから顔、首、わきの下、それから手、陰部、足というふうな、着物を着ているところでは割合に洗いにくいところ、あかのたまりやすいところに一ぱいついておる。それで、中にも入つておるだろうというわけで、もし中に放射能が入りますと、ことに骨に入るということでありますと、骨の中にあります骨髄といいます血液をつくりますところが障害を起しまして、貧血その他が起りますので、いろいろ赤血球と白血球とかを調べてみました。初め参りましたときは、先週の月曜日から火曜日にかけて、そうひどい赤血球の減ということは認められなかつたのでありますが、これはたいへんなことだというのでさつそく治療を開始いたしました。治療方法としては、もう御承知のことと思いますが、こういうふうにできました放射能は、今の学問の治療では、酸をアルカリで中和するように、打消して毒を消すという方法は全然ないのです。ただ機械的にこれを洗い去る、あるいはからだの中に入つたのであれば、小便とか大便とか汗、呼吸の排気、そういうようなもので外へ出すよりほかに方法はない。もう一つは、ただだんだん放射能が自然に減つて行く時間を待つているよりしようがない。ところが先ほど申しましたように、短いのは二・四時間というのがありますが、そいうものであれば一日、二日たてばなくなつたように微量になりますが、六十日とか、七十日、あるいはストロンチウムの九〇のごとき二十五年で半分になるようなものは、大体五十年待つてつて四分の一になるのでありますから、時間を待つて、自然に減つて行くのを待つというようなことは、治療方法としては採用できないことになる。結局洗い去るか押し出すかするより方法はないということになる。それで頭の毛やからだの毛は全部かりとり、そりとり、そして石鹸のようなもので洗いまして、からだの外についているものを極力落すということをまず始めたのであります。たとえば一例を申しますと、一人の人の頭の毛に九・〇ミリレントゲン・パー・アワーという放射能のありましたのを散髪いたしました直後は、二・〇ミリレントゲン・パー・アワーになりました、九が二に減つたわけです。大部分は髪の毛についておるわけで、髪の毛をとりましたら二・〇に単位が下りましたので、その後三、四日一生懸命にいろんなもので洗いました後にはかりますと二・〇、あまり減つてない。つまりもう皮膚の毛穴とか汗の腺とかいうところにしみ込んでいるものは、なかなか取りにくいということがわかりました。けれども総体として、からだの外についております放射能性の物質は、そういうふうに機械的に洗うということになる。また洗うにも石鹸の種類とかいろいろな薬によつて落ち方が違いますので、それを研究いたしまして、いろいろ洗つております。非常に手数がかかるのでありますが、一生懸命にやつております。それによつて大体少いところが四分の一、多いところが十分の一ぐらいに減つております。たくさんあつたところは十分の一ぐらになり、少ししがなかつたごろも四分の一ぐらいに減つております。しかしこれを全部ゼロに取り去るということはむづかしいんじやないか。皮を全部むいてしまえばとにかく、少々のあかすりぐらいでは取れないという状態にこびりついております。今から言えば非常に残念なことでありますが、そのビキニの付近で灰をかぶつた瞬間に、そこに東京大学がありまして、そしてわれわれが一生懸命に洗つていればこんな問題にはならなかつたのでありますが、不幸にして二週間の間東京大学がそれを知らなかつたということは非常に残念なことであります。今後こういうことになつたら、すぐに東京大学へおいでになれば、洗つて差上げるということも言えるのであります。それは一例でありますが、今度はからだの中に入つたものをどうするかという問題でありまして、これは一方において医学部で動物実験を現在行つております。その第五福竜丸へ落ちました灰をねずみに食わして、それから注射してみる。そうするとその放射能性の毒物がねずみのからだのどういうところに分布してどういうぐあいになるのだろうという検査であります。これは治療上非常に必要なことであります。その見当がつきますと、そのデータの上に人間の治療を進める。それを今日までわかつたことを申しますと、ねずみに食べさせますと、食べものの大部分は胃から、腸から便になつて素通りするようであります。それはまず一安心といえますが、その一部分が吸収されます。胃あるいは腸から吸収される。そして肝臓に入る、そして腎臓に行つて一部分は尿に出ます。それから一部分は腸にまた参りまして大腸から便の中に出ます。ところが驚くべきことには、一部分吸収されたうちの大部分が骨の中に入る。骨に入つたものが今後一週間、二週間とどういう状態で骨の中に残つておるかということは、まだ一週間たつたばかりですから、時間が足りなくてまだわれわれには言い得ない。今後ずつとそれを続けて行きたい。そのためには灰が足りない。もう少しその灰がどこかにあつたらくれないかという希望も起る。で、第五福竜丸をごらんになつた方もあるかもしれぬが、もう灰はない。船にしみ込んでいる。船を削つてそれをねずみに食べさせるかということになるのですが、どこかに灰を持つている人がありましたら御提供を願いたい。ところで、注射いたしますと大部分は骨に入つてしまう、それから肝臓腎臓に入る。それから出るのは腸に出て来ます。腸の中に出て来るということは、治療の上において非常に明るい見通しの一つでありまして、腸の中に少量ずつでも出て来れば、それを便としてからだの外へ排出することが可能であるという見通しがついて参りまして、今後極力そういう方面の治療を進めたい。  一方白血球の問題でありますが、入院された当時は六千あるいは七千くらいで、ほとんど普通の人の数でありましたのが、だんだんに減つて参りまして、きのう、きようあたりは四千台を前後しており、半分くらいに減つております。   〔委員長退席、青柳委員長代理着席〕 焼津の人のうちで一人、きのう二千九百幾らという数字が出たそうでありますが、二千以下になりますと、生命の危険ということを考えなければならないことになります。  それから骨に入りますから、骨髄を障害するわけであります。人間で骨髄の検査がやられておりますが、それは骨に針をさして、骨髄の一部を吸い出しまして一いろいろな細胞の検査をするのですが、骨髄を正確に検査しましたのが、今日まで六例でありますが、六例とも骨髄の細胞が減つております。骨髄の細胞と申しますのは、一立方ミリメートルの中に骨髄細胞というものは大体二十万程度あるのが普通でありますけれども、その数が約半分に現在減つておる。骨髄細胞が減つておるということは、非常に重大な問題であります。ことに骨髄の中に巨大細胞というものがありまして、それは血小板というのをつくるんです。血液の中の血液の凝固とかいうものをつかさどつている血小板というものをつくるとされております巨大細胞というものが非常に少くなつておる。一方血液の検査で、血小板というものは、普通一立方ミリメートルの中に二十万くらいあるのでありますが、それが十万くらいに減つておる人がある。これが五万くらいにまで減つて来ると、出血症状が起つて来るのですが、まだ出血症状が起るまでに血小板は減る時期が来ていない。今ちようど被害後三週間であります。今後もう一週間後の四週間か五週間くらいのときが、非常に重大な時期じやないかと私は考えております。こういうふうに血液に相当の変化が起つて来ておりますので、この際治療上万全の手を打たなければならぬ、こういうことであります。  もう一つ誤解を防ぐために申しますが、広島、長崎の場合は、原子爆弾が爆発した瞬間に出ました非常に強い熱と爆風と放射能と、三つの作用によつて数万、数十万という人が障害を受けた。ところがその原子爆弾が爆発してできた粉は、幸いなことには広島、長崎の町には落ちて来なかつた。非常に高いところへ吹き抜けてしまつて、ほんの一部しか落ちてこなかつた。そのために特別な障害を受けたという人はなかつたけれども、今度の場合は非常に遠方でありますから、何が爆発したのだか知りませんが、爆発した瞬間に出た強い熱と爆風というものは、第五福商丸はちつとも影響を受けていないわけです。ただどういうわけでありますか、爆弾のかけらといいますか、灰が落ちて来たということで、こういう状態になつたのであります。従つてわれわれの仲間で相談いたしまして、今度の漁師たちの損害の病名は、決して原子爆弾症と言つてはいけない、急性の放射能症と言うべきであろうというふうに、ひとまず決定いたしました。  大体のところそういうことでございますが、なおそれにつきまして、ほかにも少しデータを持つておりますので、お尋ねになる点がございましたならば、後ほど御説明を申し上げたいと思います。
  46. 青柳一郎

    青柳委員長代理 次に委員から都築さんに発言を求められておりますので、これを許します。岡良一君。
  47. 岡良一

    ○岡委員 先生もお急ぎでありますので、要点だけお尋ねをいたしたいと思います。私どもアメリカの新聞で伝えられるところによりますと、最近アメリカでは、トリチウムとかリチウムが核分裂の実験段階に来ておるということを聞いておりますが、木村教室の御研究の結果としては、トリチウムやリチウムのようなものはなかつたかどうか。
  48. 都築正男

    ○都築参考人 私、化学の専門家でないのですが、木村教授に伺つたところでは、リチウムはまだ検出されていない、今検索中であるそうであります。それから重水素とか三重水素、そういうものは、うまく爆発してしまうと、そこでなくなつてしまうものですから、福竜丸の上の灰からは検出し得ないのじやないかと思います。  もう一つは、いずれ水素爆弾にしても、原子爆弾を火つけに使うのでしようから、ウラニウムかプルトニウムかということを検索中であります。まだ確かにプルトニウムをつかまえる点にもウラニウムをつかまえる点にも行つていない。ただ確かになつたことは、コバルトがないということであります。
  49. 岡良一

    ○岡委員 次に、たしかこれも先生の御著書で私ども学んでいると思いますが、広島や長崎の体験によりますと、あの放射線が人体を照射した場合に、中性子によつて体内の燐あるいはクローム、ナトリウム等がみずから活性を帯びて放射能を出すことになり、これがあるいは呼吸器その他の組織細胞の病弱なるものに対する附帯的な影響を慢性的に起して来る、こういうことが第二次の放射能症として、しかも非常に誘導的な作用をしておるということを聞いておるのでありますが、現在の患者については、そういう点は先生の見られたところではどうでしようか。
  50. 都築正男

    ○都築参考人 お答えいたしますが、それはいわゆる誘導放射能というやつですね。誘導放射能があるかないかということが非常に問題で、先ほど申しましたように、私たち初め灰の主成分が炭酸カルシウムであるということを聞きましたときに、これはたいへんなことだと実は思つた。というのは、その炭酸カルシウムが、かりにさつき想像論として申し上げましたように、島の爆発のかけらであるものとすれば、今お尋ねにありましたように、爆発のときに中性子はどうせ出ていますから、中性子が島に当つて、島のカルシウムを活性にして、誘導放射能を帯びさせて、それが灰として飛んで来た場合にはたいへんであるなと考えました。中性子は第五福竜丸の上には、そういう活性を帯びる程度には及んでいないと思いますから、それはいいとして、島は爆発点から近くて、百五十フイートでございますから、島へは中性子がうんと当つておると思う。そのカルシウムが飛んで来て、カルシウムが誘導放射能を帯びて活性になりますと、その半減期が百八十日くらい、約半年かかります。さつきのストロンチウムの二十五年に次いで恐ろしいものである。だから灰の炭酸カルシウムは活性を帯びていない。放射能を持つていないのです。それは今回の場合は、いわゆる誘導放射能、中性子による活性化、すなわちでき上つた名前としては誘導放射能による障害というものはまずないもの、大体こういう方針のもとに今やつております。
  51. 岡良一

    ○岡委員 昨日も静岡大学の鹽川博士の御意見、御研究の結果を聞きますと、福竜丸の甲板上にあるたとえば錨だとか、また錨のための鎖だとか、そういうものをレントゲンではかつてみて、いわばアイソトープ化しておらないというところから見ても、中性子による実害というものは、あの乗組員に関する限りはないのではないかというお話でありましたが、それといたしましても、しかしたとえばビキニの環礁において、現に原子爆発、核分烈の実験が行われるなれば、中性子はやはり海面に何らかの作用を及ぼすものではないかと想像できるわけでありますが、その点についてたとえば海水の中に放射能を帯びた灰なるものが浮遊した場合、これがどういう影響を与えるものでしようか。
  52. 都築正男

    ○都築参考人 これも専門外のお尋ねで、私も責任を持つては申し上げかねますが、実はこのごろ毎日大学で食堂会——食堂へ各学部の者が集まりまして、私の来るのを待つておりまして、きようも実はそれをやつてここへ参つたのでありますが、いろんな専門家が参りましてそれを聞いてみますと、今の放射性を帯びましたものが、灰かごみか知りませんが、海の中へ落ちる。そうするとたとえば黒潮のようなものでありますと、ある一定の幅と深さをもつてまわつておりますから、黒潮で洗われるところは全部放射性の灰で洗われるという可能性は十分あるだろうと思います。その分量は海のことでありますから非常に微量にはなりましようが、無影響というように断定するわけには行かないのだろうと思います。  それから私どもも魚が放射能を受けたら一体どうなるかということをまだあまり研究したのがない。少し手遅れでありますが、これから研究しなければならない。ことに日本としては重大問題であります。想像論としてはいろいろあります。たとえば、その想像論の一部を申し上げますと、近くにいる魚は爆発のために死にます。これは広島でも、たとえばあそこの淺野さんの泉亭の魚が白くなつて浮いておつた。それをほかに食うものがないから、しかたがない、食べた。あとになつてやれやれということでみんな心配したという話があります。それは死んだ魚はさしつかえない、日本まで流れ着くことはないだろう。ところでたえずそういうことが行われるということになりますと、われわれの一番心配することは、魚の繁殖力ということに何か影響しやしないかという問題であります。これはするしないかわかりません。学問的にはわからないけれども、かりに影響するとすれば、これは日本民族として非常に重大な問題であつて日本の民族の主として蛋白源としての食糧は、魚に依存している国でありますから、その魚が減つたということになりますれば、筋を引いて制限される以上に、筋なんか撤廃されても、魚がいなくなつたということになれば、一体日本はどうすべきかということが、水産方面では今後の大問題になるのではないか。これはまつたく想像論であります。できればそういう方面の研究を、今後別途の専門家によつて行わなければならぬものであるというふうに考えております。
  53. 岡良一

    ○岡委員 私も実はその点で、何と申しましても蛋白といえば魚類に依存しておるわれわれのことですから一そういういわば放射能を強く帯びた灰なるものが、水に溶けないという話でありますから、日本近海に回遊して来る浅海魚がこれをやはり持つて来る。いわば飲んで体内に持つておるというような心配も考えられるし、あるいは中性子によつて活性を帯び、従つて放射能を帯びておる海水の諸種の元素が放射能を帯びているもの、そういうものが日本の近海に流れて来るということも考えられる。こういうことが常識上十分可能なことではないかと思うのであります。その点先生のお考えはどうでしようか。
  54. 都築正男

    ○都築参考人 それはもう私どもも同様な考えでございます。
  55. 岡良一

    ○岡委員 先生の取扱つておられる患者についてでございますが、かりに中性子による第二次の誘導性放射線症というような病状は考えられない、杞憂にすぎないといたしましても、先ほどの説明のストロンチウムなどが骨に付着し、沈着いたしまして、そして骨髄細胞組織と破壊する、こういう病状が今出ておるわけであります。これがその被害を防止し得て、そのために今全力を上げておられるようでありますが、広島や長崎などの御経験から見て、一体これならば大丈夫であるという予後の明るい判定をなし得るには、なおどの程度の患者の観察を怠らずやらなければならないのか、その点承りたいと思います。   〔青柳委員長代理退席、委員長着席〕
  56. 都築正男

    ○都築参考人 お答えいたします。これは非常にむづかしい問題でございますが、むづかしいといつておつたんでは事が進歩しないのでありますから、現在のわれわれの考えではひとまず大体の見当をつけるのに必要な日数が二箇月、二箇月たつたら大体の見当がつくだろう。それからこれで大丈夫というのは数年を要するだろうと思います。それが五年でありますか、十年でありますか、二十五年であります、私は存じませんが、少くともストロンチウムの半減期の二十五年くらいまでは、観察を必要とするのではないかというふうに考えます。
  57. 岡良一

    ○岡委員 その場合やはり単なる従来の医学をもつてしては、診断についても治療についても、きわめて困難な状態もありまするし、また同時てその治療を進めて行くためにも、いろいろと検査をしなければならないところの領域が、従来の医学的方法以外に、いろいろとやはり原子物理学方面のエキスパートの諸君の知恵も借り、また直接その研究室にも依存をするというような形で、この予後の判定あるいは診療を進めて行く上においてはそういうことが必要になろうと思いますが、これについては、先生の御意見といたしましては、やはり二十三名の漁夫はどこかでそういう施設を持つて、総合的にその身体の状況の変化に即応し、またそれに先行して手当を行い得る、こういうような取扱いをいたさねばなるまいと考えられますが、その点について先生のお考えはいかがでしようか。
  58. 都築正男

    ○都築参考人 お答えいたします。今のお考えは非常にごもつともで、私が数日来考えておりましたこととまつたく同様なお考えかと思います。と申しますのは、広島、長崎の場合でも、私がかりに慢性原子爆弾症と名付けたらよかろうということを先般提唱いたしました状態がありまして、それを長く日本医学の手で、医学と申しましても、今おつしやつたように広い意味の医学であります。そういう意味で絶えず看視して必要な保護を与えなければならぬということを考えておるのでありますが、かつて広島及び長崎の事件がありましたときに、文部省の研究機関としてできました被害対策特別委員会というものは、その制度の上から三年で打切ることになりました。その後どうしてもこれは続けなければいけないというわけで、いろいろ奔走いたしましたが、永久的の施設がなかなかつくつてもらえませんので、とりあえず文部省の持つております総合研究費の一部をさいていだだきまして、二十七年度から新しく原子爆弾の後遺症の研究を主にする研究班ができております。一方厚生省所管の予防衛生研究所の中にも、同じような意味の協議会ができまして、私両方とも委員をしております。厚生省の予防衛生研究所の方のは、正確に申しますと、原子爆弾症調査研究協議会というのであります。それは二十八年度には予算を百万円いただいております。百万円で何をするのかといつて私は笑つたのでありますが、とにかく百万円いただきました。二十九年度はそれが幾らになるかは私存じません。一方文部省の総合研究費の中からわけていただきましたわれわれが奔走しておりますものの正確な名前は、原子爆弾災害調査研究班と申しますが、この原子爆弾災害調査研究班は、私の先生の鹽田廣重先生を委員長として、中泉教授と私が女房役になりまして、全国の大学から約三十名ばかりの委員に出ていただいてやつておりますが、それが二十八年度にもらいました金が百四十万、二十九年度にもらいました金が約百八十万くらいでございますが、それで細々やつておつたのであります。かねて私と中泉教授がこの問題を重要視いたしまして——ことに最近各方面で、原子力の平和的応用という問題が非常に論議されております。原子力が平和的に応用されて石炭よりも単価が安くつくから云々、すぐにも飛びつきたいようなことを、皆さん非常におつしやいます。従つてその研究をしろということをおつしやいますが、その声を聞くたびに、私たちははだえに寒けがするような恐ろしさを感じておる。原子力を発生させるためには、どうしても同時に放射能が発生いたします。従つてそれを平和的に応用するためには、安全装置、防禦装置というものを考えなければならぬ。これが非常にむづかしいことであります。たとえば米国におきましてもこの問題は非常に関心を持たれまして、できるだけ安全装置をして放射能の障害を防いで、原子力をできるなら平和的に使おう、こういうわけでありますが、ここに持つて参りました本は、このごろ私いつでもカバンの中に入れて見ておるわけでありますが、アメリカの原子力の研究所のある機関で、日にちは書いてないのですが、かつてあるアクシデントが起つた。そのために十名の人が非常に強い放射能にさらされた。そのアクシデントはどういうことであるかということは書いてございませんが、あとの記事から想像いたしますと、安全装置に手抜かりがあつた。これは人間がつくる安全装置でありますから、どこにどんな手抜かりがあるかもしれないということは考えておかなければならぬ。アメリカの中でも十人の人がやられる。これはもうビキニの漁師の場合と違いまして、二週間もほうつておかないで、その放射能の強さもわかつておりますし、性質もわかつておりますし、安全装置の不完全さもわかつておりますから、障害の程度はちやんとわかる。即刻アメリカの医学の精鋭を尽して治療したにもかかわらず、十人のうち二人の犠牲者を出しております。その写真がいろいろ出ておりますが、やけど——やけどと言つても火でない、放射能のやけどでありますが、この軽いのが今度の漁師に起つております。平和的応用ということを考えた際、そういうことが起りますので、その点だけから考えてみましても、放射能によつて生物がいかに障害を受けるかという研究をする。できれば国家的の、非常に大規模な各方面の学問の総力を集め——学問というよりもいろいろな社会的の関係の方も集まつていただいて、これは非常に熱心に即刻始めなければならぬ非常に重大問題だと思う。最近の福竜丸の事件のようなものが今後引続いて起る、あるいは先ほど御心配なされましたように、海の水がよごされてその水そのものから来る日本の害、それが今度は一旦魚に及んで魚がいろいろ障害を受けるということの害、いろいろのことを考えてみますと、日本としては原子力をつくるということも、いろいろな意味において必要でございましようが、どこでだれがつくるか知りませんから、それから人命を守る、原子力の障害、言いかえれば放射能の障害から人命を守るということが、人類という大きな立場に立つてみて、非常に必要な問題ではないか、私は毎日それをつくづく考えておるのでありまして、今の御質問とまつたく私は同意見でありまして、これはできるならば何らかの方法で、至急に日本国が全力をあげて研究しなければならない問題である。アメリカもやつております。イギリスもやつておる。ソ連もやつておる。やつていないのは日本だけであります。われわれは細々やつてはおりますけれども、そのやつておる程度たるや非常に少いものでありますので、これを非常に強力にしてぜひやられなけばならぬ。地球上で今後そういう原子力の発生というものが、戦力として用いられるのはもちろんのこと、その戦力の準備実験にさえこういう問題が起る。ことにそれが日常平和的に応用されるということになれば、必ずその際に放射能が出るのでありますから、その放射能による障害を、急性障害はもちろんのこと、ことに、慢性障害を調べてそれを予防し、不幸にして起つた場合にはいかにして治療するかということを、本腰になつて研究しなければならぬ必要が、この際われわれの身近にしみじみと迫つておるのではないかということを、日夜非常に考えておりますので、今の御質問には私は双手をあげて賛成するというふうにまで申し上げたいと思います。
  59. 岡良一

    ○岡委員 そうしますと、現在の福竜丸乗組員の被爆者については、関係学界の代表をもつて構成されたいわば総合的な診療集団のようなものができまして、これがこれらの被爆者がもはや大丈夫であるという見通しのつくまでは、あらゆる努力を傾けてその診療検索に当る、そしてまたこの総合的な診療集団、学界の代表をもつて構成された権威あるこの集団は、自己の診療ないし検索の結果については、やはり常に世界の学界にもこれを報告する。これらの必要のための一つの手段として、現在の被爆者はこれを診療の場所に一括集中させる、これらに伴う財政的な負担等については、この際政府は思い切つて政府の責任においてこれをやる、こういうような構想でこの問題の解決をするということが、当面の一つの大きなポイントではないか、このように思うのでありますが、先生のお気持はやはりそのように理解してよろのゆうございますか。
  60. 都築正男

    ○都築参考人 もうまつたくその通りであると思いますが、先ほどそのことについてあまり詳しく申し上げませんでしたが、五年、十年という長い間、そういう人を一箇所に集めてとじ込めておくということは、またその人方のいろいろのお気持を考えまして非常に何でありますが、一箇月、二箇月様子を見ました上で、大して心配ないという方は帰つていただいて、よければまたもう一ぺんまぐろ船に乗つてお魚をとりに行かれることも、一向さしつかえないと思います。ときどき絶えず健康診断をしてやる。ところがその健康診断が、私が最近広島でも申しましたのですが、広島の場合の例の先ほど申しました慢性の原子爆弾症というのでも、今の普通のならしの日本の医学の知識では——と申しますよりは、世界の医学のならしの知識であつてはと、私は申したいのですが、不十分なんです。そこでこの方面について、特にこの治療は先ほどお話しましたように、狭い意味の医学だけではどうにもなりませんから、総合的の研究機関を常置さしていただいて、そういう人が一箇月目に漁から帰つて来れば、帰つて来るごとに検査をして、今度は行つてもよろしいとか、今度はやめなさいとかいうふうなことを、始終注意してあげる相談所ができるというような意味で、先ほどおつしやいましたような精神が実現されるということに実際はなるのだろうと思いますが、簡単に言えば今後長い間絶えず観察をする必要があるという根本のお考えに対しては、私もまつたく賛成をいたします。
  61. 岡良一

    ○岡委員 先生は広島、長崎以来、世界での原子爆弾症の権威と、われわれは尊敬をしておるのでありますが、先生の目から見られて、原子兵器はつくらぬとしても、少くともわが国における原子核分裂に基く身体障害等に関する治療を中心とする科学的な態勢は、世界に十分に誇り得るものである、日本のこの方面における発展は十分に世界のレベルを越えておる。少くともこれに劣るものではない、こうお考えになつておられましようか。
  62. 都築正男

    ○都築参考人 それはちよつと私の口から申し上げにくいことでありますが、正直なところ私はそう思わない。というのは、正直なところどこの国でもゼロなんです。日本もゼロで、私はアメリカもゼロと言いたい。何だかんだ言いますけれども、結局結論はゼロです。ですから、どこもゼロなんだから、もし日本が〇・〇〇〇一だけでもプラスであれば、世界一になる。実は日本は零が幾つついた一か知りませんが、何がしか持つております。という点では数学的に比較すれば、いくらか多いかもしれませんか、私どもの力が世界一だというようなそんな慢心は決して持つておりません。世界で一番下だと思つて努力しなければならぬと思います。乏しい研究所で、日本ではそういう方面でフル・タイムで働かしている人間は一人もいない。私自身にしても、一開業医でありまして、この一週間来自分の病院はほつたらかしで、副院長にまかせつきりでかけずりまわつている。東大の教授にしても、学生に教えるのが本職であつて、そのかたわら自分の学問的興味でもつてつている。でありますから、日本にはそうたくさんの人はいりませんけれども、五十人でも百人でも三百人でもいいんですが、できれば安心してその研究に没頭し得るような学者をつくるという制度が必要であつて、そういうものができて何年かたてば、さつきの〇・〇〇〇一が〇・〇一ぐらいになるかもしれぬ、こういうふうにも思つておりますが、現在のところ日本ではこれだけの設備でこれだけやつておりますと言つて、世界に誇り得るものは何ものもないのであります。この間も日米合同のシンポジウムがありましたとき、最後に鹽田先生があいさつされたのを、私は翻訳いたしました。先生はアメリカの広島に来ている者はフルタイムで働いているが、日本は本務のほかにちよいちよいとやる調査の金を見たつて、一人にわけますと、一番多くて十万円ぐらい、少いのは年に四万円ぐらいしかありません。年間百八十万円ですから……。それでたびたび東京に出て来いというけれども、一度出て来たら研究費の半分ぐらいはなくなつてしまう。そういうことでやつているにかかわらず、合同のシンポジウムでとにかく対等にやつたんだから、日本は偉いのじやないかということを言外に含めてあいさつされました。それを私が翻訳させられたときに、日本の人はノンプロだと言つたのです。アメリカはプロフエツシヨナルだ。日本はアマチユアじやないがノンプロである。プロとノンプロが相撲をとつて、どうにかどつこいというところまで行つたことは、日本のひそんだ学力にあるプラスがあるんだろう。ゼロではなく、そこにプラスがあるんだろうということは、ひそかに考えておりますが、これは私の口からあまり大きくは申し上げられません。
  63. 岡良一

    ○岡委員 アメリカが今度また核分裂の実験をやるという。大体同じ場所でやるのじやないかと思いますが、立入り禁止区域を六倍ほどに広めました。先生は今度福童丸の漁夫については航海日誌、またからだの模様その他のことを、東大としていろいろ御研究になつたわけですが、六倍ぐらいに禁止区域を広めてみて、はたしてそれによつて今後の同様な核分裂に基く犠牲を避け得るものであろうというお見通しですか。今度やつたのは塔の上でやつたそうですが、この次はいよいよ飛行機で運んで上空でやるということをアメリカも言つているようであります。そういうこともあわせて、六倍ぐらいに立入り禁止区域を広めて被爆を防げるかどうか。伺うのが無理であるかもしれませんが、先生のお見通しはどうでしようか。
  64. 都築正男

    ○都築参考人 お問いになる方から無理な問いてあろうということでありますから、私も非常に気が楽であります。今度アメリカが何か四百五十マイル、地図で見るとウエーキ島にくつついているところまで行つているようでありますから、アメリカへおいでになるときにウエーキ島に近づくときには、ひとつ御用心なさるように。石けんと水くらいは御用意になる方がよいでしよう。もし必要ならば洗う有効な薬が出て参りましたから、差上げてもいい。これはまあじようだんですが、今度飛行機でやるというと、理論的に爆発の及ぶ範囲は計算できましようけれども、自然に風で流れて来る。あの辺は下は東京から西、上は西から東へ向つて風が吹くのが昔からのきまりでありますが、風が吹いて来るというのに対して、風はおれは知らぬぞ、こう言われたら日本ではどうするかという問題であります。それはウエーキ島まで広げようが、小笠原まで広げようが、東京まで広げようが、北海道まで広げようが、風によつてはどこまでも来るんじやないかと私は思います。それは来るかもしれぬと思つて覚悟している方がいいんじやないか。もしアメリカがどうしてもやるとすれば……。私はそう思います。従つて全部灰をかぶるかもしぬ。現に京都大学の放射能はふえます。これは公にしてはいけないことかもしれませんが、アメリカのネバダで原子核の分裂が行われまして、四日後にニユーヨークの自然放射能が四%ふえた。従つてシベリアのある地点で原子核の分裂が起れば、日本の自然放射能が一〇%程度ふえるはずだということで、今調べているある国の人があります。その成績はまだ聞きませんが、かつてジヤワの有名な火山が——名前は忘れましたが、千八百八十何年島が半分飛んでしまつたような爆発をしたとき、火山の灰が地球の成層圏を飛びまわりまして、何日かの間夕焼けが非常にきれいであつたという歴史的な記載があります。従つてこのごろ私どもよく夜になるとながめてみるのですが、あまり天気がよいので夕焼けも見ないですが、模様によつては今後夕焼けによつてしろうと的に判断できるかと思います。従つて学問を離れて私一個人としての感じから言えば、今後そういうものがあれば、アメリカがそれをいくら四百五十マイルにしようが九百マイルにしようが、風の向きによつてはどこへどんなものが飛んで来るかもわからない。従つて物理学者に頼んでおいて、ある程度の放射能が来たということになればどうするかということも、場合によつては医学的に検討してみなければならぬということは、ときどき考えもいたしますが、何さま今は二十三人の人で二十四時間ぶつ通しでかけずりまわつておりますので、将来の灰をかぶることについての方策まで考えるいとまがありません。最近ジユネーヴへ参りますから、ジユネーヴへ行けば新聞記者はあまり来ないと思いますので、ゆつくり灰をかぶることを考えたいとも考えております。これは重大な問題であつて、遠いからよかろう、立入り禁止区域を拡大すればよかろうということは、私も御同様に言えないじやないかと思つております。
  65. 小島徹三

  66. 柳田秀一

    柳田委員 都築先生にお尋ねしたいのは、放射物質の内容が明かにならなくても、アメリカの方から治療法を十分に心得たお医者さんが来るんだから、それによつて適当な治療ができることになると思う、こういう意見も今一部にあるのですが、先生の新聞発表等を読みましても、最初にはいかなる核分裂をしたか、その正体を知るのが先決問題であると言われている。ただいま承りますと、それは月の世界ではなし、地球の上のどこか知つてる人間から教えていただかなくても十分やれるというお話でありますから、われわれもやや安堵したのでありますが、それはとにかく、最初に私の申しましたようにそれに対して十分に治療ができるであろう、こういう見解に対してはどうお考えでありますか。
  67. 都築正男

    ○都築参考人 それは新聞にもちよつと出ておつたのでありますが、私をして言わしめたら、地球の上にどこにこの病体を十分に治療し得る熟練な医者がいるか。いるなら来てもらつたら非常にけつこうです。きよう一時四十分という電報をよこしましたけれども、さつき新聞社の話では今晩十時ごろになるそうでありますが、アメリカからミスター・アイゼンバツドという人が来る。これはアメリカの原子力委員会のヘルス・セイフテイ・アンド・デイヴイジヨン——健康管理並びに保護部門といいますか、それが参りまして、その原子力委員会の生物医学部門の長をしておりますバージヤという人が——私は個人的にも知つておりますので、きのう電報をよこしまして、今度は非常にお気の毒であつた、けれどもお前が一生懸命やつてくれておるので、こちらは非常に感謝している。ついては何らかのお役に立つと思つて、今アイセンバツドという人を至急飛行機でやるから、何なりとも用事があるなら言つてくれ、こういう話でありますので、アイゼンバツドはそういう方面の第一人者でありますから、来たら何か名案があるか聞いてみたいと思つております。  率直に申しまして、世界中にそういう人は一人もいないだろう、われわれもできるならそういう人間の端くれの一人になりたいと思つて、今勉強しておるところであります。
  68. 柳田秀一

    柳田委員 私は実はこの前の厚生委員会において、この問題を質問したのであります。そこで広島、長崎の災禍に次いで三たび、宿命と申しますか、日本人がこういう災禍をこうむつた、従つてこの恐るべき原子力兵器に対するところの災禍の本体、あるいはこれによつて起るところの人体がこうむる被害に対するところの病理、あるいはそれの治療法というようなものは、日本人として、私はむしろ世界中のいかなる国の人々に対しても率直にこちらから公表し、さらにまた世界中のいかなる人々の協力も得、そこには崇高なる人類愛並びに人道上の問題から、政治的な要素などあるべきではない、かように私は考えておるわけでありますが、これに対しまして都築先生はどういうふうにお考えになりますか。
  69. 都築正男

    ○都築参考人 私もその御意見にはまつたく賛成であります。さつき申しましたのは、つまり灰の成分は知らしてやらなくても、治療に堪能な医者を送つて、十分な治療をしてやればよかろう、言いかえれば受身の立場に立つてみれば、灰の成分は知らしていただけなくても、治療に堪能なお医者さんが来てくださつて十分に治療をしていただけば満足ではないかという考え方に対して、私は反対でもございませんが、異議を申し立てたい、こういうわけであります。  むろん今も申されましたように、これは世界人類のためだから、世界中の科学者が集まつて協力してやろうということは、それは当然なことで、私どもは非常に賛成であります。でありますからそれ以来——それ以来と申しますのは広島、長崎以来のことでありますが、私は放射能の問題を——実はアメリカととつくんだのは大正十五年なのです。大正十五年にデトロイトのレントゲン学会で、私はうさぎにレントゲン線を三時間続けてかけると、うさぎがこういうふうになつて死ぬぞという実験の結果を持つて行つて報告した。そうするとそのときに、そんなことを実験するのは医者でないと言つて、非常に非難をされた。そんな動物に初めからしまいまでレントゲン線をかけるということは、われわれもふだんやらぬことだから、やらぬことをやつてどうする。第二には死ぬまでレントゲン線をかけるなどということは、そんな無鉄砲なことがあるか。学問的には非常におもしろいけれども、お前の言うことは、実際には適用できないことだという非難があつた。それからアメリカととつくんでおるのです。それで二十年たつて、昭和二十年にアメリカの調査団が来ましたから、私はその研究報告を持つて来て、これが二十年前にやつたわれわれの動物実験であつて、今度お前たちは、広島、長崎でヒユーマン・エキスペリメントをやつたじやないか。そういうことから私は今日までこの問題について、悪い言葉ですが、どろ田に足をふみ込んだようなかつこうになつてしまつて、アメリカから何べんか、しかられたりなんかしましてやつたのですけれども、とにかく人類の将来のために、これは結局私が死ぬまでやらなければいけないじやないかというふうに考えますので、けんかしてしかられながらも私はこの問題をやつていることは、全人類のためであるというのでありますから、この問題はアメリカからでも、イギリスからでも、ロシヤからでも来ていただいて研究していただきたい。けれども日本医学の立場ということから申しますと、古い言葉でありますが、やはりわれわれは祖国というものを、どうしても忘れることができないものでありますから、今度の二十三人の船員たちの治療は、できるならどこまでも日本医学が指導権を持ちたいという希望は十分あります。手伝つてもらうことは非常にけつこうですけれども、全部向うにまかしてしまうということは、日本に医学がなければともかく、相当のプラスがあるとすれば、どうしても日本が主になつてやりたい。そこでこれは大きな問題でありますから、どこからでもお手伝いに来ていただけるならば喜んで手伝つていただいて、全人類のためにりつぱな調査をしとげてもし不幸にして次の事件が起つたような場合には、万全の策を講じたいというのが私の衷心の考えであります。
  70. 柳田秀一

    柳田委員 ただいままことに御謙遜な御発言がありましたが、その問題についてできるならばという一つの前置詞がありましたけれども、私はできるできぬは問わず、これは筋道としてあくまでも日本医学が主体となつて、しかもそれに対して今先生のお話のように、全世界の、全地球上のどこの学者が来られてもいい、またその結集をどこの国にも公表すべき日本人としての崇高な義務があり、また権利もあるということを、きのう私はここで表明したわけでございます。そこでおそれますのは、今MSAによりますと——先生と政治論をするつもりは絶対ございませんから、そのおつもりで。MSAを受けましてちやちな兵器弾薬等を受けましても、やれ秘密保護法とかなんとかいう法律をつくろうとしておるやさきでありますから、原子爆弾ですか、水素爆弾ですか、何かの爆弾によつて起つたところのかけらであるとか、あるいはそれによつてできたところの原子核分裂の物質の性質であるとか、そういうものまでも秘密保護法によつて、あるいは秘密保護法の条文にはそれも拡大解釈すればひつかかるようになつておりますが、そういうふうな圧迫が今後来ぬとは保証できない。むしろ来るのではなかろうかという危惧を持つておりますので、これは先生から特に私は御答弁を得ようとは思いませんが、ある程度の政治的な圧迫が日本の学者に来るだろうということが予想される。しかしながら、そういう場合に、原子禍にさらされた日本人としての崇高なる立場から、あくまでも学問の自由のために、また人類の幸福のためには、日本の学者としての自覚のもとに毅然たる態度をとおり願いたいと思うのであります。  今国民として一番関心になつておりますのは、放射能にさらされた人はもとより、さらにこの放射能を持つたところのまぐろなりさめを食べた人が、実は内心戦々きようきようとしておる。ことに新聞の伝えるところによりましても、原子力によるところの症状というものは忘れたころに出て来る、こういう点で非常に戦々きようきようとしておるように思うのであります。ことにまぐろ等は相当広範囲に、二十数県にばらまかれており、大阪においてもガイガー・カウンターにタツチされておる。金沢においてもストロンチウム九〇ですか、すでに証明されておるというようなことでありますので、これも先ほどの先生のお話のように二月ぐらいで大体の見当がつくものであるかどうか、一応お尋ねをしておきます。  放射能にさらされた人は、皮膚から、あるいは呼吸器あるいは消化器、この三つからその害を受けると思うのですが、その魚を食べた人は、おそらく消化器から入つて来るわけでありますから、そういう点の平易な医学的の解明を、この機会に国会を通じて国民にお知らせ願う意味において、御発表を願いたいと思います。
  71. 都築正男

    ○都築参考人 その点につきましては、数日来魚河岸の連中から非常に責め立てられておりまして、一昨々日でありましたか、金曜日、東大の医学部の放射線科の主任教授であります中泉教授と私といろいろ相談いたしまして、声明というほどでもありませんが意見を発表いたしました。その結論は、魚を食べたということについては心配がないということであります。と申しますのは、福竜丸に積んで参りましたさめ、ことにさめのひれ——支那料理に使いますあのふかのひれというのは大部分さめだそうでありますが、そのさめのひれは相当なものだつたらしい。あのさめのひれを毎日々々支那料理屋に行つて、たら腹お上りになりましたら、それは例外として、まぐろの刺身のことでありますから、二きれか三きれ、多くても十きれくらいまでのことだろうと思いますので、そんな心配はない。この間新聞記者に、まぐろを一日に一尾ずつ十日間食べたらいらつしやいと言つたんですが、まぐろの刺身をお上りになつたり、おすしの上に載つかつている薄い一きれや二きれをお上りになつても、それはたとい福竜丸に積んで来たまぐろであつても、今日から見ればさしつかえなかつた。ただ厚生省の食品課の方の人が全部廃棄処分にしたから、今もしそれがさしつかえないということになつたら、廃棄処分にしたのは行き過ぎであるということで、体河岸から責められて弁償しなければならぬという問題になるから、そこはあまり言つてくれるなということであります。(笑声)今度私は専門外のことを大分勉強いたしました。実はまぐろとさめの区別などよく知らなかつたのですが少し覚えたのですけれども、そんなことでそこは少しにおわせまして、福竜丸に積んで来た魚のうちのこれはあぶないと思つたものは全部処分した。少しのそう大して悪くないものは二十何軒かに流れたけれども、それも一ぺんや二へん食べてもちつとも心配ない。このあとからは福竜丸は来ないのだ、こう言つたのです。それが終つて新聞記者が帰つたところに、今度は厚生省から電話がかかつて来まして、また築地に入つた。ガイーガーを持つて行つたらブーブー言うというわけで、またたいへんだということで中泉君が行つた。そうしましたら船のデツキと船員の帽子がガーガー言うのであつて、中の魚はうんともすうとも言わない。大丈夫。ところがその船はさつきの問題にも関係しますが、三月の一日にはビキニから二千海里離れていたわけで、帰る途中にビキニから二百マイル離れた地点を三月六日に通つておる。にもかかわらず帰つて来たときに、その帽子が鳴るのですからたいへんなことだということになるんですね。けれどもその分量はミリ・レントゲンで申しますと、間違いがあるかもしれませんが〇・一以下ですから、健康障害には全然ならないで、その連中は帽子をかぶつて何日おつても、別にどうにもならぬはずです。けれどもその帽子は毒があるから捨てたらよかろうということにしたわけですが、そのような意味で魚の問題は心配ない。従つて魚を食べた人の健康については、二月という日数を待つ必要はないのです。今日ただいま、全然心配はいらない、こう私は申してもよい。そこにさつきの魚河岸と厚生省の食品課の将来の弁償問題がちよつとひつかかりますので、初めの強くよごれたものは適当に処分したからという前句をつけていただいて、その他の魚はよいといつて現在判を押しておる状況です。そのときまた新聞記者に言つたのですが、そういつて魚はどんな腐つた魚を食べてもよいのだという印象を受けられたら困る。かつ東京の魚河岸というのは、御関係の方がおありになるかもしれませんが、あれは実に不衛生きわまるところで、これも注意してもらわなければならぬのですけれども、赤痢とかチフスとかいう伝染病は、今日の議論の外にあるんだ。存外世間というのは食べてよいというと、腐つた魚でも、赤痢菌やチフス菌がついておつても、東大の放射線科が証明したからよかろうというので食べられるとまた困りますので、その点注意した方がよいんですが、これはどこかに御発表になるんでしたら、怪しい魚は全分処分したから、ただいま売り出したものはもう心配はない。それはごく神経質な物理学者がはかれば幾らか出るかもしれませんが、このくらいの程度では人間はちつともさしつかえない。それを心配しておつたら、東京の町の中のほこりは吸えないということになります。そんなに人間は弱いものではないのですから心配はないということを、しかるべき機関からはつきり言つていただいて私はさしつかえないと思います。
  72. 柳田秀一

    柳田委員 それで今度は二十三人の人々になつて行くわけでありますが、今申しましたように、皮膚から、消化器から、さらに呼吸によつて肺臓に入る、この三つの経路の中で、今後予想される原子病に対して、どこが最も警戒を要するとお考えになりますか。またその三つについて、大体皮膚から入つたものはこの程度で大体の予後が判定できる、消化器から入つたものはこれだけの年数で予後が判定できる、呼吸器から入つたものはこれだけの年数で予後が判定ができるという大体の見込みはどうですか。
  73. 都築正男

    ○都築参考人 現在までのわれわれの医学から判断いたしますと、それは皮膚から入ろうと肺臓から入ろうと胃腸から入ろうと、どこから入りましてもまつたく同様だと思います。それを別にわけて考えるということはできない。従つてその必要がない。入つてしまえば結局血液の中に入りますから同じことであります。ただ入る度合いといいますか、同じ分量を持つて行つた場合に、皮膚にすり込んだ場合と肺臓に吸い込んだ場合と飲ませた場合とは違うかもしれませんが、それはなかなか今の検査ではきめかねるのであります。もう少し灰をたくさんもらつて大仕掛な動物実験をやつてみたらわかりますが、何しろ〇・五グラムしかないのですから、うつかり使つてしまつてなくなつてしまつてはたいへんだというので、厳重に鉛の箱に入れてしまつて、少しずつ主任者が出してやつては研究いたしております。ほんとうのねずみのくそくらいの分量しかないのですから、その一かけらずつやつておるのでわからないが、大仕掛にやつたらわかると思います。現在のところはわからない。のみならずそれがわかつても学問的な興味でありまして、実際に入つてしまつたら、どこから入りましても同じだろうと思います。先ほど申しました二月くらいというのは、広島の経験からいつて、大体二月くらいたちました場合に急性の症状が終つたので、それから二月ということを言い出したのでありますが、これは間違つておりましたら、またそのときになつて訂正いたしますが、大体そういうようなことは、どこから入つて来ても同じと考えてよいのではないか。今のとこらは皮膚にくつついておるのがあるので、それを何とかして早く出すというので、それには汗をかかせのも一つ方法ですけれど、むやみに汗をかかせると新陳代謝が高まるから、腸の中なんかにうろうろしておるもの、あるいは皮膚の深ところにうろうろしておるのが、早く吸収されるというおそれもありますので、これは痛しかゆしですが、皮膚についておるものを何とかして吸収されないようにしたいというような方法も考えております。腸に入りましたものは、大体三週間たつておりますから、普通の人間だつたら大部分便として出てしまつておる。その間に吸収されたものということになると、どこから入りましても、大体同じであると、ひとまず申し上げておきます。
  74. 柳田秀一

    柳田委員 最近の報道によりますと、白血球が減つて来たり何かして来たと報じておる新聞もありまして、私はその予後についてはかなり危惧の念を持つておるのでありますが、今回の被害は、先生のお見通しでは、当の患者の予後等は重大な問題だと思いますけれども社会問題としてこれを見たときに、これは一応人によつて違いましようが一おのおの患者を比べて、その後の経過で、大体被害はある人によつては相当重くもなるし、ある人によつては思つたよりも軽い、どういうような結論になりますか。おしなべて一様に思つたよりも軽いというようなことになりますか。おしなべて一様にそう軽く見てはいけないというふうなことになりますか、その点をひとつ……。
  75. 都築正男

    ○都築参考人 これは医学的な立場からの答弁と、一般論としての答弁とで非常に違つて来るわけであります。まず最初に医学的の答弁、従つてこの内容はすぐつつ抜けに新聞なんかに出ることは私としては困ります。そういう前提のもとにお話させていただきます。  先般来この生命の問題について、あらゆる方面から聞かれるのです。私の答えはいつでも今日は生きております。明日も多分大丈夫くらいなことは言いますが、その後はわからぬ。何でもそうですが、ことに放射線の感受性というものは、毛髪でございますね、毛につきましては個人差というものが非常に少いのです。年齢差はあります、しらがは抜けにくいもので黒い毛は抜ける。黒いのは若いからだ。しらがはかろうじてくつついているだけであまり働いていない。中は働いているにしても外はあまりしらがは働いていない。従つて広島の場合もごましおは毛が抜けて白い頭になりましたね。あとで直つたらまたごましおになつた。今度はえて来たのは黒だ。でありますから毛の抜けるということは大体において個人差があまりない。大体レントゲンの単位で四百レントゲンというものを受けますと毛が抜けますけれども、内臓の障害は非常に個人差があるのです。その点で今度の二十三人の犠牲者も大体同じような障害を受けただろう。初めは外で灰をかぶつた人はひどかろう、機関室の中で灰をかぶらなかつた人は大したことはないだろうと思つておつたけれども、いろいろ話を聞いてみたり、帰つて来た船を調べてみると、先ほど申しましたような結果であります。みな二週間がちやがちやにやつて来たのでありますから、全部同じ障害を受けておると思わねばなりませんにもかかわらず、こういう場合は障害は非常にまちまちであろうと思います。すなわち生命に関する予後もまちまちであろうと思います。大体医者というものは——この中に臨床のお医者さんもおいでだろうと思いますが、病気になりましたときに何とかりくつをつけていろいろ検査をしてみますが、大体見た瞬間にこれはあぶないぞという気がする病人がよくあります。そういう感じから言いますと、どうも今度の二十三人のうちの約一〇%くらいは、少くとも犠牲者を出すのではないか。いけないのじやないかと思うのが現実の数でいえば二人か三人ということです。従つてそれを一生懸命に治療して、その犠牲者がゼロであつたということで、日本医学が凱歌をあげたい、こういうことで、実はそういう伏線を張つているわけではないのですけれども、どうも今日までの経緯からいつて、約二週間で白血球が三千以下に下つた人がすでに一人出たということは、ここ一、二週間のうちにさらにそれが悪化して、もし歯齦とか腸とかあるいは皮膚あたりに出血症状が起つて来たということになりますと、血小板が五万以下に下つたという証拠でありますので重大問題になります。ある何人かの犠牲者が出るかもしれないということで、一生懸命にならなければいけないものだというふうに実は考えております。けれども一般論としては一たびたび新聞に発表しておりますように、まあ命にはさしつかえなかろう、大部分は回復されるとあろうということを申しておりますが、その点は心の中と口とが少し食い違つておることを御了承願います。
  76. 小島徹三

    小島委員長 委員の方及び傍聴の方に申し上げます。ただいまの言葉の中に医者としては外に漏れては困るという言葉もございましたから、先ほどのお話につきましては秘密を保つていただきたいと思います。
  77. 柳田秀一

    柳田委員 実は私どもは直接当つていないし、第三者として、傍観者としての立場から多少医学に関係した者として、実はかような危惧を私は持つておつたので、その点を先生に込み入つてお尋ねしたのであります。たまたま二十二日の読売新聞を見ますと、INSの発表でビキニの水素爆弾実験を視察した後、東京を訪問してアメリカへ帰つて来たパストールという米上院議員が、「放射能による日本人漁夫の被害は当初報ぜられたよりもはるかに軽いものであると言い、次のような声明書を発表した。日本に滞在中原爆被害調査委員会の活動状況を調査したが、その際アメリカ側官憲から、第五福竜丸乗船の二十三名の日本人漁夫に関する不幸な事件について、あらゆる資料の提供を受けた。その結果残念なことだが、最初の報告は事件を誇張したものである。今度の火傷を実際よりもはるかに重いように伝えたことがわかつた。東京を去る前に両院合同原子力委員会の二人の委員とともに、原爆被害調査委員長のモートン博士と協議を行つた。」こういうように発表しております。これについては、最初に日本に滞在中の広島のABCCがそれの状況を調査したというのですが、これは悲しい事実ですが、われわれ日本人は原子力に関するところの物理的研究においても、医学的研究においても決して世界には劣つていない。むしろ世界のピークにあるのじやないかと思う。日本側の発表を示してやつておるのではありませんからこれは水かけ論になりますが、アメリカはみずから犯した過失をこういうような議員が帰つても、やはり過小評価せんとしておるきらいがこの記事にもありありと現われておるのです。これはおそらくわれわれが想像しておつたよりもはるかに深刻な被害が、時がたつに従つて出て来るのではないかという危惧の念を持つておるわけであります。これに対しては別に先生に御答弁を求めようとは思いません。  最後に一つお伺いします。これには何か特効薬があるようにいわれてあります。エチレン・ヂアミン・テトラアセチツク・アシツドですか、それからイソロイシン、そういうような薬が特効薬としてどの程度の効力のあるものですか。またそれはわが国においては現在生産されつつありますものですか、今なくても将来は簡単に化学的に合成されるとか何とかして、そういうものができますか。この点をお尋ねいたします。これで私の質問は終ります。
  78. 都築正男

    ○都築参考人 今の御質問の薬の問題でありますが、EDTAと称します。それは日本でもつくつております。これはずいぶん古くから医学的に使つておるのでありまして、使つておりますところは主として血液の凝固を防ぐ、輸血をいたしまして、特に血液銀行なんかで血液を保存しておきますときに、血液の凝固を防ぐために使つております。その薬の性質としてカルシウム、ストロンチウムとかそのほかの金属で、鉛なんかもそうですが、そういう金属と化合して水に溶けやすい物質ができるということで、それを飲ませたり注射したりしますと、骨についておりますカルシウム世びにストロンチウムなんかを溶けやすい状態にして血液の中に洗い出し、それが小便や便に出て行くということで、毒を洗うということに使えると思います。それは日本にあります。アメリカから持つて来てもらえばどつちがいいか、また比べてみるという研究もできますが、日本でももう製品として出ております。イソロイシンも現在使つております。またビキニの被害者には、さつきのEDTAは、からだの外の放射を洗うのに使つておりまして、からだの中に使うというのは今日午後あたりから使います。それからイソロイシンの方は、白血球をふやす薬でありますので、現在がんの治療に使いますいろいろな薬がありますが、ナイトロミンなどという名前で知られておりますが、こういうものを使つて副作用として白血球が減りましたときに困りますので、白血球をふやそうというときにイソロイシンを使い、それからまた第二段の薬として使えるだろうということで、現在用意して待機しておるわけであります。これは白血球が三千とか二千台になつてから使う方がいいんじやないか、という私個人の考えであります。それは内科の方の血液の専門家の判断にまかしております。問題は、ただそういう白血球をふやすという薬ならばいつでもいいんですが、そう減つていないのに、むやみに白血球をふやすということはどうかと思う。というのは放射線病の際に、私も広島のとき私の報告の結論に書いたのですが、アメリカがやつて参りまして、日本人は不十分な治療をしたからたくさん死んだのだと申します。たとえば原子爆弾症で出血なんかを起したときに、輸血を毎日やつて、ぺニシリンを浴びるほどさしたら、そう死ななかつただろうということを申します。そのときわれわれも輸血の手段も持つておりましたし、ペニシリンも日本製のものを持つておりましたけれども、何さまあの状態で、それを十分に使うわけには行かなかつた。一例だけ長崎で、水がんと申しまして、白血球が減つたために、ほつぺたが腐る病気でありますが、失の子のほつぺたが腐りまして、アメリカの病院船が入つて来てペニシリンをくれて注射したら翌日きれいになつた。それでアメリカはそらなおつたと言つて、病院船がアメリカに帰つて雑誌に、原子爆弾によつてほつぺたの腐る病気はペニシリンでなおるぞという報告をしたが、アメリカに病院船が着く前にその子供は死んでいたんです。ほつぺたはなおつたかもしれないが、病人は死んでいた。そのとき私も非常に議論したのですが、たとえば広島で十万の人がなくなつたとしますと、そのうち七万五千人は八月六日に即死です。あとの一万五千、合せて九万人は二週間で死んでいる。あの混乱状態で医療らしいものを始めたのは三週間日からなんです。従つて三週間目からの障害者を全部助けたとしても、死亡率の改善は一〇%以内にとどまるということを申し上げた。のみならず放射線の障害というものは、肺炎にペニシリンがきくように、びたつときく薬は今のところないのでありますから、結局は自然にからだの力で、一定期間まで持ちこたえて回復するということになりますから、その持つておる生活の力を少しでも障害しないように、できればそれを助長してということでありますから、むやみに減つていない白血球をふやすというふうにするのは、疲れた馬にむち打つような治療で、私としてはしてはならないと思う。動物実験は非常にやりますが、動物実験の成績をうのみにして、この二十三人の治療をするということは、私は非常な間違いを起すもとになると考えておりますので、そういういろいろな方法がありますが、現在東大ではそれを非常に慎重にやつておる。ただ輸血をいたしますとか、ぶどう糖をさしますとかいうことは、きちんとやればほとんど害はないのであります。そういうことは、ずつとやつておりますが、そういう特別の新しい薬は、必ず副作用がある。ことに学問的に想像されることは、今のカルシウムやストロンチウムというのをからだの外に出すとか、EDTAというものがもし有効にきいて、カルシウムやストーンチウムがからだの外へどんどん出てしまうということであれば、その薬は放射能を持つておるカルシウムやストロンチウムを出すほかに、というよりは、それよりもさらに強く作用して、放射能を持つていないカルシウム、すなわち人間の生活にむしろ必要なものも、からだの外に出してしまう。そうすると今度はカルシウム減少症というものになりまして、急性なものになりますと、即座に心臓がとまつて死んでしまう、けいれんを起すというふうな症状が起りますから、たいへんなことで、今日の午後から使いますEDTAも、カルシウムが減つたらどうするかという予防法を一方に講じながら使つておる。一々血液のカルシウムをはかつて、バランスを保ちながらやつて行こうというのでありますから、一人の患者に五人くらいの医者がかかつてつているんです。とうてい小ささ病院で設備の不完全なところでは、どんな大家が何人お集りになつても、できない相談です。そういうことでこれは非常にむづかしい問題であります。これはアメリカが来てもやはり同じことだろうと私は思います。そういう意味でいろいろ新しい方法が、また新薬と称するものが今東大にはむやみに集まつて来る。さつきもここへ来る前に二つほど、どうだこうだと持つて参りましたが、今衆議院に呼ばれておるから明日だといつて断わつて来ましたが、ありとあらゆるものを持つて来る。私は病院の事務の人に、持つて来られた方にはよくお礼を申して受取つておけと言つておきましたが、しかしこれを使うか使わないかということは、よほど慎重に考えなければならぬ。相手が人間なんですから、船のように焼いて棄ててしまうというわけには行かない。人間は丈夫に直そうというのでありますから、その点がむづかしい。すべて原則的に有力なる治療剤というものは、同時に有力なる害作用があるということを忘れてはならない。正宗の銘刀のごときものであるということを忘れずに、バランスをとりながら治療をするという点に非常な困難があると思うのであります。
  79. 小島徹三

    小島委員長 滝井義高君。
  80. 滝井義高

    ○滝井委員 今の都築先生の御説明で非常に裨益されるところが多かつたわけなんですが、現在現地に非常にたくさんの調査団と申しますか、そういうものが行つております。ちよつと新聞で名前を拾つてみましたが、静岡大学、東大、ABCC、国立予研、厚生省、水産大学、阪大、京大、科研、保安庁、外務省、名古屋大学、民間の医者、ラジウム団体、実にたくさんな人が焼津の港に向つて押しかけて、調査研究に当つておるようでありますが、何かこういう各大学の調査された結果について、先生の東大あたりと密接な連絡でもとられておりましようか、それとも現在何もとられていないのでしようか。
  81. 都築正男

    ○都築参考人 簡単に結論的に申しますと、てんでんばらばらにやつておるわけであります。それで私は第五福竜丸の船そのものの検査は、てんでんばらばらにやつてもいいだろうと思うんです。いざとなれば、船は削つてなくなつてしまつてもさしつかえないのですから。けれども問題は二十三人で、この二十三人をてんでんばらばらにやると、たいへんなことになるので、どこか中心がなければいかぬだろうと思う。私個人の感じから言えば、東大が中心になりたいのです。しかしそれは東大でなくても、京大でもどこでもいいが、どこかおれが引受けるというところが中心になればいい。それで厚生省では、厚生省の予防衛生研究所の中にさつき申しましたこの問題に対する協議会があつて、それにわれわれも委員にされておるわけで、そこでやろうかというのでありますが、その予防衛生研究所は、そういう方面の学者なり、研究施設を何も持つていないと言つていいくらいですから、結局ほかへ頼まなければならない。人に頼んで、ただ世話するだけというのではぐあいが悪いので、一通り設備のあるところへまかせてやる。けれどもこれは先ほど申しましたように人類の大問題でありますから、一緒にやるということは、アメリカであろうと、イギリスであろうと、ソ連であろうと、日本においてはもちろんのこと、どこの大学の方がおいでになりましても、一向さしつかえない。けれどもどこかでまとめてやつて、そうして一緒に研究して、いろいろいい知恵を貸していただくということが必要であります。けれども焼津という場所柄から考えますと、あそこの共立病院長の拓植博士はその点で非常に困つておられる。ああいうととろでありますから、たとえば京都大学とか厚生省から来れば、いやだというわけには行かないのでしようね。東大であれば、いけないと言えばそれだけのことです。何といつても東大はしにせでありますから、まあまあそう言わずにちよつと待つてください、と言つて私たちが玄関へ出て行けば、それを無理に押し通してやろうということはなさらないでしようが、焼津ではむづかしいと思いますので、私の気持としては、できれば東大の方へ集めて、適当な制度をつくつて、どこの方でも、ほんとうに学問的に熱心で、相当の資格があり腕前のある方が、人類愛のために御協力くださるというのであれば喜んで一緒にやつていただくという制度にしなければいかぬのじやないか。こう思うのですが、その点がどうもまだしつくり行つていないので、てんでんばらばらだということは私も非常に遺憾なことだと思う。実は私も、明後日ちよつとひまを見つけまして焼津まで行つて、静岡県知事ともよく御相談して来ようかと思つておるのですが、どこかにまとめてやらないと、同じ血液の検査をするのでも、朝から晩まで入れかわり立ちかわりやつて来て、針をさされたり何かをすれば、時間的というだけでなく、一度針をさせばそれだけ生体に障害を与えるのですから、一度で済むことならば一度で済ましたい。同じことを繰返して二度やるとか、ただ学問上動物を使うような意味で今度の犠牲者を使うということは、私は絶対に反対なんであります。
  82. 滝井義高

    ○滝井委員 われわれも実に同感だと思うのです。やはりこういう問題は国際性を持つておるとともに、将来の日本が第三次世界大戦にでも巻き込まれるということになれば、当然今から対策を立てておかなければならぬ重大問題だと思いますで、急速に総合的な研究をするような機関をつくるか、あるいはどこかに研究の中心を置くということが必要だと思います。なぜそういうことを言うか、もつと具体的なことは、すでに新聞で、現地の患者二十一名は、施設のよい東大へ行けば必ずなおるわけでもあるまい、日本側でもわれわれをモルモツトにする気か、こういう談話さえも出ておる状態なんです。従つてこれはこういう患者さんにとつては、悲痛な叫びですが、こういうことを二十一名の患者さんの納得の上で、現在東大におられる二人の患者さんとともに、やはり総合的に、早くなおるような対策を講じていただくことが、私は患者のためにとつてもいいし、今後の日本の原子医学のためにも非常に大事なことじやないかと思う。  その次に、今後総合的な調査をやる上においてわれわれが考えなければならないのは、その二十三名の患者さんとともに、これは船だと思います。それから今東大にある一グラムばかりの灰だと思いますが、これらの三つのものが、今後の原子医学の確立にとつては、なくてはならない貴重なものになつて来ると思います。その灰は大体先生のところにありますからいいでしようが、もと具体的に、こういうものを大体どういうぐあいにすべきかという、今後の研究の見通しの上に立たれた先生のお考えを述べていただきたいと思います。
  83. 都築正男

    ○都築参考人 灰は今大事にしまつてありますが、だんだん研究でなくなると思いますから、少しはとつておきたいと思う。次に船であります。これはこの間の広島のABCCモートンさんが来ましたときに私が言つたのです。船を見に行くのはいいが、持つて行つちやいけない、ちよつと木を削つて行くくらいならあげるが、船をアメリカへ持つて行つてはいかぬ、日本のプロパテイだ、絶対にアメリカにはやらぬのだと言いましたら、そんなことをアメリカは考えないから安心してくれとモートンさんは言う。私はアメリカ人と長年つき合つておりますが、アメリカ人は個人的には非常にいいゼントルマンでありますが、ユナイテツド・ステートになると、どうもときどき非ゼントルマンになるのでありますから、これはひとつ日本政府の手で厳重に保存すべく努力していただきたい。あるいはビキニへ返せとかいう話もありましたが、学問上その船の放射能が今後二十年、三十年の間に、どういうように減つて行くかということを知りたい。あれはあのまま焼津の港に浮かしておきますと、五年たつたら沈みます。浅瀬にのつけて厳重なコンクリートでかこいをして、それを研究所の一部にして、あの放射能というものを今後数十年にわたつて減り方を研究すべきだと思います。世界のメツカにする。それで放射能を研究したい学者は、資格をちやんと調査の上で、日本政府の許可を得て研究させることはよろしい。けれども船を持つて行くということは絶対にいけないと私は思う。  それから二十三人の方は、先ほどお話に出ましたが、何も一箇所に伝染病のごとく、あるいは刑務所のごとく、隔離して家族に会わせないとか、仕事をさせないとか、そんな残酷なことは絶対にいけないと思います。医学の上で安静の必要がある場合には、安静にしてもらう必要はございましようが、もう現在これで大体よろしい、普通の仕事をしてもよろしいということになれば、すきな職業につかせて、すきなところにおいでになるようにとりはかろうべきでないかと思う。けれども、やはり今後長い間十分に医学的の看視をして、必要な保護を与え、注意を与えるといつたような設備をつくらなければいかぬ、こういうふうに思います。どうも隔離をして、一ところに集めてしまつて、始終つかまえているというふうな考え方は、私はいけないと思う。場合によつては、一人ずつどなたか責任者にお渡ししてずつと長く見ていただいて、それはただ見るというだけでなく、その人の日常の生活についていろいろ相談役になつて保護を与えていただくといつたふうに、長く看視できるような制度をつくつたらいいじやないかということが私の気持なんです。それで私は、初めはそれがごく簡単にできるのだと思つておつたのですが、きのう焼津の共立病院長が東京においでになつて、東大の美甘院長と交渉された話で、私はまた聞きですが、現地では、われわれが簡単に考えているように行かないという話であります。それはいろいろ御事情もおありのことでありましよう。東京へ来れば家族にも会えない。会いに行くにしても、とにかく往復千円近い金がかかる別に悪い罪人でないのを、なぜそんなところに隔離するかというような考えがある。また行けば、どうせ血をとつたり小便をとつたりして、モルモツトがわりにされるだろう。それは治療のために必要なことはやりますが、そんなモルモツトがわりにするということは、一方においてねずみを使つても実験をしているのでありますから、そのかわりを人間にするというつもりはちつともないのでありますが、そういうことが現地の状況では、相当かわるだろうと思います。私は、今申されましたような患者さんを今後どういうふうに取扱つたら、一番その人たちに幸福であり、かつその副産物として日本の医学の研究を促進することができるか、ひいては世界人類のためになるかという方策を立てる資料の一部を得たいというために、明後日現地へ参りたいと思つているところであります。
  84. 滝井義高

    ○滝井委員 患者の問題は、これは現在国家において、船員保険でまかなうというようなことで、はつきりとした国の態度さえもきまつていない状態ですから、おそらくそういう問題が、私は患者の財政上から一つの隘路となつてつているのじやないかと思います。これは今後なおわれわれは当委員会等で追究して参りたいと思いますが、やはり問題は、灰はありますし、患者は、今後財政上の問題が解決すればある程度行くと思いますから、問題は船だと思います。すでにモートン博士は、船は米極東海軍が横須賀に曳航するというようなことまで言つているようなうわさもあるくらいです。しかも現在この原子力というのは、先ほども柳田委員から触れられたように、超国家秘密であります。日本は現在MSAの協定で、防衛秘密保護法までつくつて、アメリカから借りた兵器も、今後これは防衛の秘密ということで、知らせられないという状態になりつつあるわけです。そうしますと、先生方の御努力で十種ばかりの放射能の物質がわかつて来た、しかもストロンチウムというのは、半減期が二十五年もかかるのだというような、具体的な原子兵器の威力というものがだんだんわかつて来、しかもそれらのものから、最大の原子兵器の秘密が解明されて行くということにもなれば、これはやはりアメリカにとつて、現在超国家的な秘密として保たれている原子兵器にとつては、日本の研究が一つの大きな脅威になることは明らかなんです。そういう点で、学問には国境はないかもしれないけれども、やはり学者には国境があるわけです。われわれは独立国になつたのですから、先生方もこの際特に毅然たる態度で、研究の成果というものは、アメリカの制肘を受けずに、堂々と日本の医学界に発表していただきたいと思います。先日厚生大臣にも、堂堂と発表するようにここで申し上げましたところ、厚生大臣の答弁は、曖昧模糊たる状態でありましたが、最後には、できるだけそういう方向に努力いたしますという言質をとつております。学問には国境はないが、学者には国籍もあるし愛国心もあることなんですから、どうか八千万の日本国民のために、勇気をもつて研究の成果を発表し、船はこうすべきだという先生方の所信を、堂々と述べていただきたい、こう私はお願いいたしたいと思います。
  85. 小島徹三

  86. 長谷川保

    長谷川(保)委員 非常に御多忙のところを、長時間私どものためにお教えいただき、稗益するところきわめて大きかつたことは感謝にたえないのであります。今までいろいろ伺つておりますが、実は私どももこの事件が始まりますと同時に、当委員会におきましてこの問題を非常に重大視して、今日まであるいは治療の問題、あるいは研究費の出所の問題、あるいは家族の救済の問題、あるいは病者の救済の問題、廃棄物の問題等、あらゆる面からいろいろ討議をいたして参つておるのでございます。今までいろいろお教えいただきましたけれども、なおこの際私どもが何をなすべきか——私ども個人は非常に微力ではございますが、国会は一応国権の最高機関になつておりまして、われわれ二十五人の委員が結束いたしますと、相当なことができると思いますから、先生方の今取組んでおられます御事業をバツク・アツプするというような意味で、今何をなすべきか、あるいはそれ以外のことにおいても、私どもが何をなすべきであるか、こういう点についてお気づきの点を、なお教えいただきたいと思います。たとえば研究費のごときも、先ほど伺いますと、実にさんたんたる少額でございまして、何とも申訳ないことでございます。私どもはこういう点にうかつでおりましたことを、国会議員として大いに責任を感ずる次第でございます。しかし二十九年度の予算等には、たとえば原子炉のための予算三億円というような金が見積られておりますが、今これの使い道がちよつとなくて困つておることも事実あるわけでございます。衆議院に出ました予算と参議院に出ました予算と、内容が違つてしまつておるというばかげたことになつている事情でありますが、この人道的な研究は、日本の将来に平和的な原子炉の利用が行われる前提といたしまして一われわれは先ほどお話のように大きな問題として取上げなければならないのであります。従つてもし先生の方で、これとこれをしてほしい、国会の方でこれをきめてほしいということがあれば、われわれは大いに討議してあとう限りの御協力を申し上げたい、また申し上げなければならないと存ずる次第であります。さしあたつてどもは何をなすべきかを、お気づきの点をお教えいただきたいのであります。
  87. 都築正男

    ○都築参考人 何をなすべきかということになるとむずかしいのですが、どうしていただきたいかという希望はたくさんあります。何をなすべきかは、そちらでゆつくり御検討願いたいと思います。  私たちの希望としては、先ほどから大体いろいろなことを申し存ましたが、今度の事件直接のことで申しますと、何とかして二十三人の方を丈夫にして上げたい、私たちの感じでは、一番重要な問題は、その人々の生活保護の問題だろうと思います。少くとも今後二箇月の間、安心して医者の治療に協力していただく。医者の治療という場合には、医者と病人とその家族の三者が協力しなければできないということは、長谷川先生が何年か前から体験してよく知つておられる。私もしばらく長谷川さんの事業をお手伝いしたことがあります。だから三者が協力できるという点において、医者は一生懸命になり、病人も自分のことだから一生懸命になつておる。問題は家族です。あんなにピンピンしておる者を、何しに東京へ連れて来るのかということがあるので、従つて家族の生活費の問題、それを後顧の憂いのないように、十分に裏づけしていただくことができたらというのが、私たちの今の第一の希望であります。  第二の希望は医療上の問題は先ほどから何べんも申しましたように、わからない問題でありますから、どうしても研究と同時に治療を進めて行かなければならないので、健康保険のような医療制度で、研究のことは一切やらないで、ただ治療だけしろという制度の治療法では、ほんとうの治療は絶対にだめだということであります。従つて治療費は一でいいから、研究費は十出してくれ、治療費が一億なら研究費は十億……(「保険局長、よく聞いておれよ。」と呼ぶ者あり)実隊そうなんです。実隊この間厚生省に電話をかけて、十億ぐらい金をとりなさいと言つたら、そんな億なんという金はとれませんと言うから、そんな課長とは話はしないといつて、電話を切つてしまつた。翌日出て来いと言うから、厚生大臣の出る会議なら出る、厚生大臣の出ない会議なら出ないと言つたら、厚生大臣もおいでになるからどうぞ御出席くださいということで、私は行つて厚生大臣お話をした。とにかく今度の場合は、世界初めての病気で、アメリカのどんな偉い人が来てもわからない。従つてわれわれはそれと取組んでおるのでありますから、治療費も十分出していただきたいが、さらにそれに十倍する研究費を出していただきたい。それがわれわれの叫びであります。  私たちは決してぜいたくをしたいとは思わない。きようも車がないからこの委員会にお願いして、特別に車で迎えに来てもらつた。なければ電車で来なければならないが、それでは一時に間に合わない。とにかくそういうことで、研究に非常に費用がいる。そういうことが県当局にも、あるいは焼津の市の当局にもあるいは御家族なんかにもわからない。もしも実際の治療費が一であつて、研究費が十であるというようなことが公にされますと、われわれはモルモツトがわりになるのだということをすぐ言い出す。それはそういうものでないということを十分にお考えになつて、その点をひとつやつていただきたいというのが、私どもの第二のお願いであります。  これを並べ立てれば幾らでも、あしたの朝までも続きますが、その二つの点が最も重要な問題であろう、こういうふうに考える次第であります。
  88. 長谷川保

    長谷川(保)委員 実はこの点は同僚諸君も非常に心配をいたしまして、先般来厚生省にその点を追究しておるのであります。そうして一応さしあたつて第一の問題は、船員保険を適用する、そうすれば治療費の問題と家族の生活も四箇月は全部生活費が与えられる、なお続いて、少し減りますけれども、当分の間生活に対して相当の保障ができる、こういうような答弁を厚生省当局からいただいております。われわれはそんなことでは足りない、また社会保険の立場から申して研究的なものには使えないのじやないか、であるからすみやかに予備費を出せ、こういうときのための予備費じやないか、予備費をすみやかに出して治療と研究、または家族の保護その他のことに万遺憾なきを期するように、厚生当局に注意を換起いたしておるのであります。一昨日も厚生大臣から、予備費を出しますというような答弁がここであつたにのでございます。これらにつきましては、われわれといたしましてはあとう限りの御協力を申し上げまして、先生方のこの崇高な御事業に協力させていただきたいと思うのでございます。  なおここで今すぐお伺いすることは無理なことでございますので、たいへん恐縮でありますが、後ほど当委員会にあてて、書類等によりまして、これこれのことをなせということを、御関係者の方で御協議いただきまして、お教えいただきますれば、われわれはそれに対しまして——厚生省は大蔵省に対してどうも弱いものですから、厚生省を大いに激励いたしまして、協力いたしまして、国から金をとるようにいたしたいと存ずるわけであります。さしあたつてどれくらい考えたらよろしいか、先生にお腹づもりでもありますれば、予備費から支出を要求するときの参考に伺いたいのであります。これはただいまでなくても、後ほど書面でけつこうであります。
  89. 小島徹三

    小島委員長 それでは、これをもつて都築博士に対する質疑は終了いたしました。  博士にはお忙しい中をまことにありがとうございました。     —————————————
  90. 小島徹三

    小島委員長 引続き政府委員に対する質疑を続行いたします。岡良一君。
  91. 岡良一

    ○岡委員 中央気象台の予報部長にお伺いいたします。先ほど来都築教授とわれわれ委員との間にいろいろ質疑応答があつたわけでありまして、この応酬の間にも適宜お聞きを願つたと思いますが、今後また第三番目の水爆実験をやる計画がアメリカにあるようであります。そこで六月三十日まで、さらに今より六倍に立入り禁止区域を広げるという告示を、ワシントンの日本大使館に、すでに二十日ばかり前に与えております。それで、今度の被爆事件にかんがみて、こうした熱核分裂の実験はやめてもらいたいという、強い意思表示をいたそうという考えは政府にはないということを、先般の外務委員会で岡崎外務大臣がお答えになつておる。何とかこういう実験は当然人道的な立場から見ても阻止すべきものであると思いますけれども、遺憾ながら第三次水爆実験が行われようとしている。それで参考までに申し上げておきたいのでありますが、今度ビキニで実験をされた水爆の破壊力は、広島において十年前に落ちたあの爆弾のTNTの二万トンの破壊力に比べますと、それの一千倍の二千万トンである。このことはアメリカのニユーヨーク・タイムズがはつきりと公表しておる。そういうようなことでありまして、いわんや今後熱核の分裂というものはますます急速度に進歩して行くことからいたしますと、——しかも現在この実験を完了しておるのは英国とソビエトとそしてアメリカである。で、アメリカとソビエトの間にはさまれた日本といたしまして、一方はシベリヤの原野で熱核の分裂実験をやり、一方は太平洋のまん中で熱核の分裂実験をやるといううことになつた場合には、日本の上空がこれら放射線によつて非常に大きな影響を受け、ひいては国民の福祉にも重大な影響があるのではないか。現に  三日二日でありますかビキニ灰が日本を通過したということが、京都大学の工学部の応用物理学教室のガイガー計数管に出ておる。これを見るとやはりミリレントゲン・パー・アワー百二十五カウントというようなものが、三十分平均で連続的に出ておる。こうなると国際的なミリレントゲン・パー・アワーの大要一・八から見れば百倍近いような、たいへんな放射能による脅威が日本に現実にある。これがただわれわれの目に見えないだけであつて、それだけに恐るべき害毒をわれわれの身体に与えようとしておる。こういうことを私どもは非常に今心配いたすわけであります。そこで残念なことにこうした原爆の実験が繰返されるとき、一体日本の位置は気象的に見て、これが太平洋であるいはシベリヤでこういう実験が繰返されたときに、こうした放射能によつて汚染をされたところの空気なりあるいは放射能を帯びた灰なり、あるいはまたそれによつて汚染をされた海流なりというものが日本の近くに押し寄せるとか、日本の上空をおおうということを懸念いたすのでありますが、遺憾ながら私どもそういう専門的なことは十分知つておりませんので、また今いただきました資料を見ましても、私どもまだこれを理解するだけの頭を実は持つておりませんので、私どもの理解し得るように予報部長のお立場から、従来の気象観測の御体験から、この際ひとつ御見解を承つておきたいと思います。
  92. 肥沼寛一

    肥沼説明員 お答え申し上げます。最初に風というものはどんなものかということを御説明した方がいいと思うのであります。川は上流の水が下へ流れて、同じ水が流れて参りますが、風は何メートルの風が吹いているといつても、たとえばビキニの風が日本へ来たといたしましても、その空気がそのまま日本に来ることはないということ、それからこちらへ参りましたときに、風がこちらへ向いておりましても、だんだん広がつて行き、そうして周囲の空気がその中へまじつて参りまして、非常に薄められて来る、風というものはそういうものだということを先に御承知おきを願いたいのであります。それで南洋方面でああいう実験をいたしまして、そのときの空気が日本の方へ来るかということでございますが、実は昨日この委員会へ出席しろというお達しでございまして資料が十分でございませんでした。そこにお配りした資料は大体三月一日を中心といたしましたあの付近の風の資料でございます。一般的のことはあとにいたしまして、三月一日の場合について申し上げますと、二枚目に大体の位置が書いてございます。ビキニの位置、それからエニウエトツク、クエゼリン、クサイエ、ポナペ、トラツク、こういうところは、旧日本観測所のありましたところで、現在米軍によつて観測が続けられておるのであります。その実測の資料の三枚目にありますのがビキニに一番近いエニウエトツクの資料でございます。その右から三つ目下に三月一日と書いてございます。実際にあの爆発のありましたのが零時と六時の中間だつたようでございます。そこのところをごらんいただきますと、左の方にフイートで高さが書いてございます。一万フイート、二万フイート、三万フイートというふうに書いてございます。それから風の強さでありますが、そこに矢羽で書いてございますのが、一本の矢羽が十ノツトでございます。半分の矢羽が五ノツトでございます。それから方向は、左から右へ向いているのが西風、右から左へ向いているのが東風、上から下へ向くのが北風、下から上へ向くのが南風でございます。そういうように御承知おき願つて、この図を見ていただきたいと思います。三月一日の零時のところ、あるいは六時のところをごらんいただきますと、約八千フイートまでは二十ノツト前後の東風が吹いております。それから二万フイートまでのところが五ノツトないし十ノツトの西風が吹いております。二万フイートから上になりますと、二十五ノツトから三十五ノツトぐらいのずつと強い西風になつております。こういう状況でございます。その次に書いてございますのが、次のページをめくつていただきますと——これは今申しましたのは、われわれ気象台で使つておりますもので、おわかりにくいかと思いまして、次のには普通の言葉で書いた表がございます。こういうような状況でありまして、高いところでは西風が吹いていた、しかしそのさらに上の方へ行きますとまた東風あるいは南東風——南東風と申しますと、ちようど日本の方へ向いているのでありますが、そういう風が吹いておりました。  で、以上の資料をもとにしてただいまの御質問にお答えいたしますと、ちようど風は日本の方へ吹いていた。そして強さは約二十ノツトくらいであつた、かりに風がまつすぐに日本へ吹いて来たとしますと、二日ぐらいの後には日本の上へまつすぐ来るはずであります。しかし最初に申しましたように、風はそうまつすぐ吹くものではございません。さらにまた空気はだんだん混合して、元のものは薄められて参ります。その放射能の影響を受けた空気が日本の上へ来るということは、これは可能性のあることだと考えます。しかしその放射能の影響で空気が薄められるということ、それからさらに横の方へ拡がつて行くということで、どの程度の強さになるかということ、これは先ほども都築先生がおつしやいましたように、まぐろには放射能はあつたけれども、それを食べることはさしつかえないというようなお言葉があつたようでございますが、この場合にも可能性は確かにあるのでありますが、それがどれだけの影響を日本に与えるかということは、今私は申し上げるだけの知識はないのであります。おそらく大したことは——現在の大きさの爆弾は私も知らないのでありますけれども、しかし将来さらに十倍、百倍というようなものができたら、これは今ここで申し上げるわけには行かないのであります。  なおもう一つ、次のページをめくつていただきますと、これはあの付近で二十三名の漁夫の方が灰をかぶつたということでございましたので、そのときの空気の流れを御参考に書いたわけでございます。これはまん中辺の下に、三月一日零時と書いてございます。それがその当時の空気の流れだつたと思うのでありますが、そこに黒い矢で書いてありますのは、さつきの島の実際の観測でございます。点線で書いてありますのが、それを元にしてこういうような流れがあつたのだろうという推定でありまして、まん中の黒い点がビキニであります。上の方へはずつと高さが書いてございます。こういうように図で見ますと、確かに灰は東の方一流れた、たまたま最初に米軍の指定した危険地域以上に流れたのだろうということは想像されるわけであります。
  93. 岡良一

    ○岡委員 今度の京大の計数管に感応された程度では、人体には大した影響はないということを主任教授も申しておられます。先ほども申しましたように、この熱核の分裂反応の進歩というものは急速度に、十年を待たずして二万トンのTNTに相当したものが、二千万トンになつておる、こういう状況であり、しかもそれがいわゆる化学的な爆発ではなく、放射線を寸時にして発散をする、あらゆる熱線あらゆる紫外線から赤外線までの光線、そのほかにアルフアとか、デルタとか、ガンマとか一その他いろいろな放射線を出しておる、これに汚染をされ、それがしかも非常に強い濃度において汚染をされる、そういう不幸な学問が進んでおる、学問は正しく進んでおるが、こうした破壊の方法に用いようとする意図が、傍若無人に進んでおるというのが現実の不幸な世界の実情なんです。そういうことをわれわれが考えた場合に、今ただ京大の計数管に一時シヨツクを与えたということで、人体に何らの障害はないということを教授が言つたからといつて一われわれはそれで安心ができるものではなかろうと思う。そういうことで重ねてお尋ねをしますが、やはりこういう場合、今敵の戦略爆撃がいつ来るかもわからないということで、日本全土にレーダーの装置があるというような話も聞いておりますが、こうして戦争がなくても平和な段階で、太平洋のまん中で傍若無人にこうした高性能の熱核分裂の実験が行われる、これが日本の国内における計数管に異常な変動を与えておる。これはまたさらに高度な変動を与え、あるいはその結果として、日本の国民もいろいろの意味で、大きな犠牲を伴うという事態もあり得ないことではないと思う。そういうような考え方からいたしますと、たとえばこれは可能性の問題をお尋ねしたいのですが、かりに五月の一日にそういうものをやるというような場合、日本の各大学少くとも最近の国立大学ではカイガーの計数管の一つぐらいはみな持つておりますが、あるいは今度のこの実験の場合は多少時間が遅れておりますが、第三次の水爆実験をやるというならば、こういう機会にやはり気象台も各大学の物理学ないし応用物理学、化学等のガイガー計数管を持つておる学者陣営とタイアツプして、そうして風の方向とか、それに基くガイガー計数管の反応とか、こういうものをやはり組織的に把握をして行くというような努力が必要ではないかというふうなことを、私どもしろうと考えに考えているわけなんです。そういう点あなた方の方で、かつてまだそういう事態があつたことがなかつたかどうか、あるいはまた今度の事態に即して、部内にそういうふうなお答えが出ていないか、そういう点についての御見解をお漏らしを願いたい。
  94. 肥沼寛一

    肥沼説明員 お答え申し上げます。この今回のビキニの問題は、実は私ども寝耳に水で、こういうことがあつてびつくりしたわけでありますが、それであわせて気象の状況はどうだろうということを考えて、あの辺の資料なんかを集めたのでありますが、これとは別箇の問題といたしまして、私ども今気象台で一番大事だと思つておりますことは、あすの天気予報というよりは、もつと長期の一週間なり何箇月先の予想をした方が、産業方面にも非常な効果があるだろうということを考えていたわけでありますが、これも多少のことは今できる段階でございますが、今後たとえば五月一日に実験をやるというような通告がありました場合には、そういうような考え方で、それならその実験のときには一体気流がどう吹いて来て、日本の方へ影響があるといたしますれば、どの地域が一番影響があるかというようなことの予想をするのは、これは私どもにあるいは責任があるんじやないかと考える次第でございます。今お言葉のようなことで、私も研究室内の実験と、私どもとはお互いに連繋と申しましても、仕事は大分かわつているようでありますけれども、いろいろな面で連絡をとつて、今後こういう問題に備えて行きたい、これが日本に対する影響があまりに大きそうな場合には、政府同士で通告して、また日にちをかえてもらうということも、あるいは可能なんじやないかと考える次第であります。
  95. 岡良一

    ○岡委員 ないことはもちろん一番好ましいのだが、今御意見にお示しになつたように、ぜひとも今後の第三次水爆実験をあくまでやるということならば、これはあなたはその責任の方でもないから、ここであなたに要求を申し上げるわけではないが一われわれの気持の一端として申し上げておきたいのは、やはりこれは文部省の所管だからとか、そういうふうな大学だとかいろいろなセクシヨナリズム的な考え方を棄てて、やはり総合的にあなた方の気象台で察知された予報、そうしてその予報に基いてその日に、あるいはその翌日に各地のガイガー計数管に現わ九得る変動というものとを総合的にやはり研究をする、もちろんお説のように、その技術を発揮せしめ得るというようなことでありますればなおさらのことでありますが、やはりそういう方面に日本の気象台の努力なり、あるいは空中における放射能の実体を把握し得るガイガー計数管というものが組織的にタイアツプして、そういうような問題をもつと具体的に解決し得るというように、これは科学的な力で推進をされる必要があろうと思うので、いずれこれはまた別途責任のある方に要求はしたいと思いますが、そういうお気持でお進みを願いたいと思います。  なお、これはあなたにお尋ね申し上げるのもいささか的は、ずれだと思いますが、先ほどの都築教授のお話にもありました海の水が汚染をされるということも考えられるのでありますが、これも風と同様に、だんだん遠方に行けば拡散もし、薄まつても参りますけれども、それにしても日本の近海には、やはり黒潮なら黒潮というものが流れておるのであつて、こういうものと、中部太平洋における核分裂の実験があつて、ビキニないしエニウエトツクあたりにおいて、放射能によつて海水が汚染されたという事態が起つた場合、これと日本近海に流れ寄る季節的な潮流との関係、こういう点についての御見解をお示し願いたいと思います。
  96. 肥沼寛一

    肥沼説明員 お答え申し上げます。日本近海の海流と申しましても非常に複雑でありますので、ビキニで実験があつたとして、それに関連した日本の方へ来る海流という点に限つてお答えしたいと思います。北緯約五度から十五度くらいの幅をもちまして、北赤道海流というのが西へ向つて流れております。これはフイリツピンに突き当つて、一部は南、一部は北へ行きまして、これが黒潮の源流になるわけであります。台湾の東から東支那海へ入りまして、沖繩列島の西側を沿つて九州の南西に到達いたします。こので部分の日本海へ入りますのが対馬暖流でありまして、その主流は九州の南から表日本を洗つて房総沖から東へ流れて参ります。流れの早さは、北赤道海流で大体〇・五ノツトから一・五ノツト、そのくらいだと思います。台湾の付近とか潮岬とかの潮流のはげしいところで、三ノツト、四ノツトという数字も出ておりますが、そういうのを平均いたしまして、かりにビキニの近くの水が日本の方へ来るといたしますと、まず三箇月くらいの日時は要するのではないかと考えられます。水の場合は空気の場合と違いまして、空気と大体似たような拡散をいたしては参りますが、空気よりは拡散の度合いが少い。そうして海の中を川のような形で流れております。ああいう海流ですから、なおさら少いということは言われるのでありまして、時日は非常にかかるが、水は割合もとのものが日本の近くへ来はしないか、こういう心配はございます。そういう意味から申しますと、日本の近くの魚がどうかということになるのでありますが、ごく沿岸近くになりますと、非常に複雑な流れで海流の水がどうこうということは、ちよつと申し上げかねると思うのでありますが、少し沖合いの黒潮の本流では、直接の流れが来ておると思います。その影響がどうこうということは、先ほど申し上げましたように、ちよつと私の知識ではお答えできかねるのであります。
  97. 小島徹三

    小島委員長 岡君に申し上げますが、水産庁の次長が来ておりますがどうですか。
  98. 岡良一

    ○岡委員 それじや最後にもう一点だけ伺います。これも私ども専門の知識を持ち合さないでお伺いいたしますが、御存じの通り、原子爆発の報告などを読みますと、あの瞬間に爆発した火焔の雲と申しべきものは、成層圏にまで達しておると言われておるのでありますが、成層圏において、たとえば原子灰が大きく発生をしておる。こういうものはどういうふうな流れをたどつて、地球の成層圏をあるいは亜成層圏をめぐり歩くことになるものなのでありましようか。
  99. 肥沼寛一

    肥沼説明員 先ほど都築教授のお話にクラカトアの爆発のときに、灰が地球をまわつたというお話がございましたが、これは東風でございます。赤道の近くでは大体東風でございますが、それが北緯十度か十五度か、その辺と思いますが、その辺から北になりますと、ずつと西風になります。そして日本の近くでは、これは季節によつてかわりますが、非常に強い西風が、対流圏の上部それから成層圏の下部その辺に吹いております。これは地上では数年前までわれわれ想像もつかなかつたような風が吹いているということが、今の観測でわかつております。大体そういうふうに緯度によつて違いますが、そういう東西の風が吹いております。南北の空気の混合の場合は、先ほど申しました拡散の問題で、混合して行くだけで風としてはそれほど強いものは吹いておりません。但し台風などの出て参りましたときには、その場所場所で非常にかわつた方向——台風は御存じのように渦巻でございますから、かわつた風が吹いております。
  100. 岡良一

    ○岡委員 それでは水産庁の次長に二、三点お尋ねいたしたいのですが、実は昨日たまたま機会がありまして焼津の町に参りまして、漁業関係の人たちともいろいろ話合い、いろいろその意見を聞かしていただいたのでありますが、一口に申せば、まつたく火の消えたようなさびしい状態になつておるのです。彼ら自身がどうしていいかとりつく島もないという実態を率直に申しておるのでありますが、焼津におけるそういう姿というもの、またこれがさらに今度第三次水爆実験のためには、立入り禁止区も六倍強に拡大をされるということに伴う被害、そういうようなことについて、どの程度具体的な被害が今度あつたか、また来るべき第三次水爆によつて予想されるのかという点をお示しを願いたい。
  101. 岡井正男

    ○岡井政府委員 ビキニ環礁の問題に伴いまして、漁業関係の被害はどうかというお尋ねでございますが、直接あの付近で操業をいたしておつたものが、船並びにその人体にこうむつた迷惑については、先ほど来御論議になつたような点でございますが、むしろわれわれとして一番今悩んでおりますのは、禁止区域が拡大されれば勢い制約せられまして、あの周辺のまぐろ漁業が漁場を失うということ、並びに航行に非常に不便を来すために、濠洲の四方面に行くまぐろ漁船は、少くとも二日くらいはむだな航行をしなければ帰れないというようなことが、やはり計算上の損失と相なるわけでございます。なお魚につきまして、直接生産者がこうむる魚価の値下りということが、経営上に非常に迷惑を来すということ、及びこれを取扱つている小売業者、及び市場業者、これらの関係者が非常に迷惑をこうむるというので、毎日陳情に応接するのにいとまがないような状態でございます。それでわれわれといたしましても、厚生省と連絡いたしまして、さきに大臣談話を出しましたり、あるいはまた一般消費者に安心して食べてもらうための指定陸揚地を五箇所きめまして、そこで検査をして一応売つている。指定陸揚地以外の所というのは、沿岸のまぐろなどで、全然安心して食べていただいていいのでございますが、検査がないまぐろはなおあぶないだろうというようなことで、これも売れないそうでございます。それで今検査しないところは安全だということをさらにこちらの方が言いますと、おそらくその海区を通つた船がめんどうくさいから、しからば検査をしない陸揚地に揚げるというようなことがありましても困りますので、この点はなお目下研究しておるわけでございます。先ほど都築博士もおつしやつたように、一応魚は安全だという形をとつて、今せつかく業者の迷惑をなるだけ少くするように努力中でございますが、あつさりと、魚を食いさえしなければ命に別条ないのだから、当分食うまいじやないかというのが全国的な風潮のようでございまして、全然縁もゆかりもないような魚まで売れが悪いというので、一番悲鳴をあげておるのは小売業者でございます。千葉あたりでも、目の前でとれた魚でも市場の方でせりをしてくれないのだ、これを何とか水産庁の方でせりをするようにしてくれたらどうか。これは御注文する方はそうかもしれないが、われわれとしては大衆が買わないというのを、いや魚はどうしても食うたらどうだというようなことはちよつと困るということで、非常にわれわれもその点心配しておるわけです。外務政務次官もお見えになつておりますが、われわれ、としては今回の問題でまず損害があるという筋の通るような計数については、せつかく今急いで計数を出すように努力中でございます。
  102. 岡良一

    ○岡委員 私どもも厚生という立場からは、何と申しましても魚に脂肪なり蛋白を依存しておるというのが、日本の現在の栄養の実態ですし、しかも一方消費者である一般国民としては、ただ何となくいわば非科的な恐怖、これがやはり講買力を実際に下げておるということは争えないと思うのです。この問題はこの問題といたしまして、たとえば昨日の新聞を見ますと、太平洋漁業対策本部長の横山氏が保利農相、清井長官をたずねて、立入り禁止海面の拡大はわが国の遠洋漁業上重大な支障があるから、できるだけ区域及び時期を短縮してもらいたいと要望した。これについて水生庁側ではただちに外務省に対して共同で善後策を検討するよう申入れ、同夜から検討を開始した、こう書いてあるわけなんですが、一体外務省と水産庁は具体的にどういうふうな検討の作業をなされて、どういう結論を出されておられるのかということ。  いま一つはせつかく実害の調査中であるといいますけれども、何しろ私どもこの目で見て、あの焼津の方は火の消えたような姿であるので、これは一日も早く何らかの補償の道を講ずべきであろうと思いますが、これについて水産庁としては基本的な考え方として、どういうふうな補償をすべきであると思つておられるのか、この点お伺いしたい。
  103. 岡井正男

    ○岡井政府委員 実際の損害の筋を立てる計数と申しますと、区域縮減による漁業の損害とか、あるいはまた拡大すれば輸出水産物の議とかいろいろありましようが、さしあたりわれわれとして、関係漁業者が生産上非常に困つておるという点を主にいたしまして、間接的な損害も一応計算は勉強はしておりますが、どういう筋のものをどういうふうにするかということは、なお外務御当局とも相談の上できめたい、かように考えております。
  104. 岡良一

    ○岡委員 外務政務次官がお見えでございますが、この問題については二十日の衆議院外務委員会で外務大臣は次のように答えておられる。米国に第三回の水爆実験を延期するよう申し入れよという話がある。政府としては延期を申し入れるわけには行かないが、漁業にさしつかえないよう話合いをしたい。その結果延期になるということもあろうし、他の適当な処置がとられることもあろうという、きわめてひと様まかせの自主性のない御答弁がなされておるのでありまして、これはおそらく太平洋漁業に関心を持つ者としても大きな失望をいたしたことでもありましようし、また先ほど申しましたように国民の栄養としての蛋白と脂肪の給源を魚に仰いでいる日本人としても、こういう政府態度は非常に残念千万と申さねばなりませんが、一体外務省の真意はどこにあるのでしよう。この新聞の記事では十分につかみ得ないが、大使館とも話合いの結果どういうことになつておるのか、この点をこの際お漏らし願いたい。
  105. 小滝彬

    ○小滝政府委員 外務省とアメリカ側との交渉は、十六日に開始されたのでありますが、まだ十分の事実の調査が進んでおらないために、中間的な声明が便宜発せられておる。そうして正式な回答としては、関係各省からの確答があつた上、すみやかに回答するというだけのものでありまして、具体的に損害を要求するとか、今後の予防措置についてはいかにすべきかということはまだ確定しておりません。ただ政府部内では、いかなる申入れをするか、またいかなる今後の対策を立てるかということは鋭意研究いたしておりますが、対米関係については今申したような次第であります。今すぐ延期を申し入れるというようなことも、ある程度事実がはつきりして、太平洋上の魚がみな影響を受けるということになれば、これは人道上重大問題であつて、いかに米国が旧日本の南洋諸島を戦略区域として安保理事会の承認を受けておりましても、そうした実験はさしとめてもらわなければならないということを、強硬に申し入れることだろうと思います。しかし現在ではそうした調査の段階にありますので、安保理事会で承認し、戦略地域として認められておる所で、かつての福竜丸事件のようなことの起らないように、そうしてできるだけ被害を狭い範囲で食いとめ得るという措置がはつきりすれば、全然やらないようにしてくれということも、日本としては、法律的に言えば、言えないという立場もございますので、こうした意味を大臣は議会で説明申し上げたものと私は了解いたします。
  106. 岡良一

    ○岡委員 実験の是非というものは申すまでもないことで、これに対する外務省の態度についても、平行線になるからこの際申し上げませんが、それでは水産庁の方で今度のビキニの原爆の実験に伴う実害がすみやかに調査された場合、日本としては当然アメリカにこの賠償を要求さるべきものと思いますが、この点はやはり外務省の方でもそういう御方針でありましようか。
  107. 小滝彬

    ○小滝政府委員 先方に過失がありました場合、その過失によつてあるいは不法なる取扱いによつて日本側が損害を受けた場合において、日本側が賠償を要求するということは当然なことでありまして、そうした事実がはつきりいたしましたならば、賠償要求の措置をとらなければならないわけであります。またとる考えであります。
  108. 岡良一

    ○岡委員 それから最近の外電によると、アメリカでもロスアンゼルス、シアトル、サンフランシスコにガイガーの計数管を準備した特別の検査官を税関に派遣して、日本から輸入される冷凍まぐろあるいはまぐろカン詰等に厳重な検査を励行するということが発表されておるというが、このことが日本の冷凍まぐろなり、まぐろカン詰なりの輸出業界に与える影響などについての見通しが、水産庁の方ではありましようか。
  109. 岡井正男

    ○岡井政府委員 われわれも新聞情報でそういうふうなことを聞いておりますし、またまぐろ業界といたしまして、民間の方でもこれの対策を研究いたしておるのでございますが、今のところそれがまだ具体的には出ておりません。しかしさしあたつてもよりのアメリカ向けの冷凍まぐろにつきましては、一応こちらの方が検査を十分にいたしまして、内地でまぐろを売つて行く場合に検査をしたというのと同じように、厳重に検査して一応無害であるという折紙をつけて出すというふうに手配をいたしております。
  110. 岡良一

    ○岡委員 とにかく私どもの見るところでは、李ラインが引かれて、大量豊富な鮮魚がなかなか容易に入らぬ、そうかと思うと今度は日米間の漁業協定によつてとるのにも不利な立場に置かれる、今度は中部、南部太平洋でこういうことになる。水産資源に依存しておる日本人の栄養から見ても、また日本の貿易に多少貢献しているところのこうした漁業というものが、四方八方から締め上げられておるこういつた事態を、このままにしておいていいのかという問題なんだが、こういうふうに北からも南からも、また西からも日本水産業と水産資源と、結局は日本の国民の栄養源が包囲的に締め上げられて来ている事態に対して、これを一体どうしたら打開ができるかというような点に対して、水産庁あるいは外務省の方で具体的な方針なり基本的な方針なりをお持ちなのかどうか、この点をひとつ承つておきたいのであります。
  111. 岡井正男

    ○岡井政府委員 御同情のある御質問で恐れ入りますが実はその通りでありまして、われわれとしてもせつかく終戦後再建水産日本として、かつて世界で一番であつた水産の実績をとりもどしたいと努力しておるのにもかかわらず、いろいろな制約が生ずるということには非常に困つておるのでございます。しかしわれわれ事務当局といたしましても、関係省特に外務省とは緊密な連絡をとりまして、アラフラの問題にいたしましても、今国際裁判の方へ持ち出しておる。その結果がわかるまでの間、とにかく従来の実績船だけは出漁さすというので話を進めておるわけです。それから北洋につきましても前年度より若干制限を縮めまして、出漁船数も若干昨年度よりは上まわつて今度出漁さすことに考えております。韓国の問題は御承知の通り今行き詰つて、日韓交渉がいつのことやらちよつと見通しがなかない、この点は非常に困つております。しかし韓国の方の出漁漁船につきましては、新しく他の海区へ出漁するための金融措置とかいうような手は、われわれとしても現に打ちつつあるわけです。今度のアメリカの原爆問題が起りまして、漁業の非常に苦痛なる点につきましては、一応先ほどもお答え申し上げましたように、約六千万貫のまぐろのうち、あのあたりを制約されることによつて、約一%程度六十万貫程度はとれなくなるだろう、こういう推定数が今出ておりますが、しかし大勢のまぐろ、かつお業者は、さらにこの一%のマイナスは他の新漁場への進出で取返したいと言うて勢い込んでいるような次第でありまして、われわれ事務当局としてはできる限り漁業者の迷惑を軽減する方向へ努力中でございます。
  112. 岡良一

    ○岡委員 この間焼津での——これは日曜日の読売新聞に出ておりますが、外務省の古内さんの談話で、補償を完全に解決する前には、とりあえず一時金を支給することを考える、こういうことが言明されておりますが、外務省の方ではこの問題について何か御検討になつたことがありましようか。
  113. 小滝彬

    ○小滝政府委員 古内君がどういうことを申しましたか存じませんが、現実の問題として見舞金というようなもの、すなわち将来賠償を要求する場合にクレジツトしないような、弊害を来たさないような金銭的支給ということも今案としては考えられることでありますが、まだそういうものをとりあえずの策として要求するかどうかというととは決定いたしておりません。
  114. 岡良一

    ○岡委員 それからたとえば内灘の場合に相当多額な補償がされております。あのときは安全保障費の中から支出されておつたわけでありますが、何かそういうふうな財源から外務省として急速に——あなた方実際現地に行かないで東京でいろいろ話をしておられるようだけれども、まつたく火の消えたような状態なんです。内灘の場合には安全保障費から七千六百万円でしたか出ておりますが、一日も早く何らかの措置がかりに講ぜられるべきではないか。そうのんびりと構えておられるということでは、現地の人にもまことに相済まぬと思うのです。  それから保険局長がおられるのでお伺いしたいのですが、先ほど都築教授も言つておられたように、家族の者が安心をして病人を学者の手にまかせておけるように、家族の生活を保証してくれということを声を大にして言つておられる。ところが先般厚生大臣の言明によれば、これは船員保険を適用する公傷ということでありますから、傷病手当金はまるまる十割がある期間給付されるといたしましても、あとで調べてみますと標準報酬は六千円から七千円である。ところが実際問題として、まぐろ漁業の諸君の月の手取りはやはり二万から三万あると言つておる。だからこの間に非常に大きな食い違いがあることは間違いありません。その金額では、おそらく家族の者が、たまたま東京へ病人を連れ来ても汽車賃の何回かでなくなつてしまう、こういう点でこれはやはり何とか対策を講じてやらなければ、せつかく日本の学問陣が総動員して、今度の二十三名の被爆漁民については学界の名誉にかけても、この際最も適当な、責任のある診療を追究したい、こう言つておるのに対して、まつたくそれを後から足をひつぱるようなことになつてしまう。これは何とか道がないのですか。保険局長のお考えがあつたら聞かしていただきたい。
  115. 久下勝次

    ○久下政府委員 私の関係する分だけをお答え申し上げます。船員保険におきまして漁船の乗組員の標準報酬の問題は、実は私どもとしては常々非常に問題にしておつた点でございます。申し上げるまでもなく水揚げ高等によつて給与が縛られております関係上、実際に通常の勤労者のような給与の形態にありませんので、つかみにくいことも事実ではありますが、毎年々々非常な努力をいたしておるにかかわりませず、実際に給与はこれだけだということで、今お話のように最高八千円、多くのものは六千円というような低い報酬だということで届け出られておる次第でございます。しかも漁船の標準報酬を全般的に申し上げますと、大型船の乗組員は大体平均いたしまして、約半額ぐらいの程度にすぎない。船員保険の財政の上から言いましても、相当大きな問題であつたのであります。実は平素はそういうことで給付の面にも関係があることでありますからというととで、関係の業者とも極力話合いをして標準報酬の引上げの努力をいたしておるのであります。事前にはなかなかそういう事態が起らないので結果が現われません。こういう事件が起きますと、いつもそういうことが問題になるのが事例でございます。保険の立場から申しますと決して私どもしやくし定規に、ものを考えたいとは思つておりませんけれども、いろいろ検討させておりますが、焼津に約三千名の同じような漁業に従事しております被保険者たる漁師がおります。こういう人たち全部の問題にも関連をいたしますので、はたして福竜丸乗組員だけの問題を別個に取上げて標準報酬の改訂ができるかどうか、これはなお検討を要する問題であろうかと存じます。私どもとしては今後の問題は別といたしまして、さしあたりの制度上の問題といたしましては、届け出られておるものによつて保険料を徴収しておりました標準報酬を材料にして、十分給付を行う以外にはないと思つておる次第であります。
  116. 岡良一

    ○岡委員 そうすると先ほど都築教授も大きく主張しておられたように、現在船員保険でやつておるから、従つて検査手数料のごときもそれに制約されるということになると、今度の特殊な原爆の急性放射線症ですか、これに対する十全な診療ができない。一方診療に伴い、どうしてもその裏づけとして必要な家族に対する生活の保障は船員保険ではできない。結局二つともできないということになるわけなのです。そうすると問題はやはり船員保険で縛つてしまう、この問題を船員保険で処理しようということでは解決はつかない、こう結論せざるを得ないというわけになるのでありますが、この点について保険局長は率直に言つてどうお考えになつておられますか。
  117. 久下勝次

    ○久下政府委員 お尋ねの点は最初傷病手当金だけと思つて、その点だけお答え申し上げましたが、今のお尋ねは療養給付の面に触れてのお尋ねであります。この点につきましては私どもが現在考えております、また関係の省の人と打合せをいたしました結果を申し上げたいと思うのであります。今度の事故は船員保険法上の業務上の傷害として取扱う方針でございます。療養の給付に関します限りは、業務上、外を問わず同様の給付をする建前になつております。御承知の通り療養報酬につきましては担当規定があり、また点数表があるわけでありまして、それで大体のものは給付できると思いますが、先ほど都築教授も言われたように、またわれわれもそう思うのでありますが、疾病が特殊であります関係上、これの治療をいたしますのに、いろいろな研究的処置が必要であり、あるいは検査その他の特別な治療に伴う行為が必要であるということも考えておる次第でございます。この点をどう扱うかにつきましては、今後具体的な問題もさらに個々に検討いたすつもりではありますが、大体の方針といたしましては、そうした特殊な研究、あるいは特殊な治療等につきましても、現在の法令の許します限り広い解釈をいたしまして、保険給付をやるということにいたしてございます。結局そうなりますと、どうしてもどう広く解釈しても、保険の給付としては無理であるという純粋な医学上の研究に属するものが残るわけでございます。こういうものにつきましては、文部省の事務当局とも話をいたさせたのでありますが、大学の研究室でやつておるものにつきましては、当然これはそうした方面の研究費から支出されるべきものだと思います。その他の治療機関につきましては、ただいま私どもとしてはそれ以上何とも申し上げられませんが、先ほど来御質疑がありましたような関係で、保険法上できるだけの措置をいたしまして、療養の給付ができるだけ完全になるように努力をいたしますとともに、純粋に将来の医学のため、この機会に研究をしておくべきであるというような問題につきましては、保険関係とは別にあわせて別個の処置がとられ、両々相まつて患者の治療の目的と将来に対する対策とが検討さるべきであると、私はかように考えておる次第でございます。
  118. 柳田秀一

    柳田委員 私は福竜丸事件に関して、特に厚生委員会の担当する分野におけるところの外務省の見解を、今お越しになつておる政務次官から聞きたい。水産庁の方はお帰りになつてけつこうであります。最初にお尋ねしたいのは、本問題が発生いたしましてから何としても一番先にやらなければならぬことは、この二十三人の生命に関することであります。治療に関することであります。これは何よりも一番先にやらねばならぬ。その際にいかなる原子核分裂が行われたか、いかなる放射能の量と質がここに現われておるかということを究明せずんば治療の対策が立たない、こういうことになつて参るのであります。従つて十九日東京都庁で開かれた協議会においても、中泉教授からの要請に対して、極東空軍医学研究所化学研究班レーガー大尉から、灰に含まれておる放射能物資の量かつ寿命等については、十九日午後日本側の期待にこたえるだけの回答をするという発言があつたわけであります。さらに厚生省の軽部研究所課長も、十八日外務省で開かれた関係各省の打合せ会に、人道的立場から治療対策に必要な資料をできるだけ日本側に提出してほしい旨、外務省を通じて米政府に申し入れておるのであります。この結果がいかが相なりましたか、外務政務次官からお伺いいたします。
  119. 小滝彬

    ○小滝政府委員 各省の連絡、またそうした研究会で話合いのありました点は、もちろん直接に米軍側と連絡いたしておりますが、同時に外務省におきましても国務省を通じて要求しなければならないような点は外務省で取上げるということになつております。しかし今御指摘のような点は、現地へもすでに米国側の代表者も来ておりますので、かつまたアリソン大使の方もいろいろ共同調査に必要な協力をしようということを申し出ておりますので、国務省の方を通じてのそうした交渉は、これまでのところいたしておらないのであります。但し私どもの了解するところでは、米国からも専門家が来るはずでありますから、当然そうした資料も提供されるものと期待いたしております。
  120. 柳田秀一

    柳田委員 これは他の外交交渉と違つて、事刻々にかわつて来る貴重な人体生命に関することなんです。外務政務次官にはこの核分裂によるところの放射能の被害を、どの程度に御理解なさつているかどうか存じませんが、毎日毎日白血球の数を数えながら日夜深慮しておるのが、この治療に当つておる医者の立場なんです。従つてこれは一刻を争う問題なんであつて、そう荏苒日をかせぐような問題ではないのであります。いかなる量といかなる種類と、さらにその寿命がどういうような放射能の物質が作用しておるかということを解明することが、その被害を受けたところの第一、第二、第三の犠牲を受けた日本人の、さらにこの焼津の漁夫に将来の予後に関して、今ここで手を打つことが当面の急務なんです。これを従来の外務省の霞ケ関外交のような貧弱外交、おざなり外交をしておつたのでは追つつかなくなる。最初の目に早く手当をすれば命が助かるのであります。きようの都築教授の話でも悲しいかな三月一日のときに東大があの現地におつたならば、あの放射能を洗い落せた、こうまで言つておられるのであります。すでに三月四日に福竜丸が帰つて来ておる。二週間たつておるのに、いまだに交渉もしておらぬ。これは明らかに怠慢だ。少くともどのような量と種類と寿命のものが、都築教授の言を借りて言うならば、月の世界から降つて来たものならばこれはいたしかたがないが、この地球上のどこかに厳然とこの事実を知つておる者がある限りにおいては、人道上の崇高な立場に立つてこれを究明する、これが外務当局の責任じやありませんか。それに対していまだに言つておらぬとは何事ですか、もう一度お尋ねいたします。
  121. 小滝彬

    ○小滝政府委員 先ほども申しましたように基本的な話はもういたしてありまして、先方は協力しようと言つておるのであります。外務省では原子核の専門家もおりませんので、そういつたことの問題につきましては、現に広島からも専門家が上京いたしておりますし、向うからも人が来るというように、直接そうした専門家の話合いが進められておるので、それが最初は協力するといつたのが、また協力しないという態度になれば、もちろん外交的なチヤンネルを通じて交渉しなければなりませんが、しかしできるだけ交渉しようということで、双方が直接協力態勢を立てておりますので、もしその協力が不十分であるということになれば、さらに原則的な話をする必要もあろうかと存じますが、これまでのところは今申しますように、専門家でない国務省なんかを通じてやるよりも、むしろ直接的な話合いをするもとの話合いをつけて行けばよろしいという考えで、これまで進んで来たのであります。
  122. 柳田秀一

    柳田委員 この問題は昨日の毎日新聞によりますと「二十日午後三時駐留軍公衆衛生部長マグニツチ大佐とデーガー大尉は與謝野都衛生局長を訪れ、この問題については政府側の交渉にまかせたい。今後とも情報交換をお願いする」かように言つて、この間、十九日に日本側に何らか回答するということについて婉曲に断つて来ている。すでにアメリカは放射能の中の物質を日本側に通知する、そういう積極的な熱意がないことはこれによつても明らかなんです。今私は外務政務次官お話を聞いておると、事務次官の奥村氏にお尋ねしたいと思つたのですが、たまたまあなたは奥村外務次官が新聞談話を発表しておられるのと同じことを今言われました。これは事重大でありますから、最初の奥村次官談話を読んでみます。「今度の事件に関しアメリカ政府は被害者の治療、被害船の消毒などのため米本国からも専門家を派遣するなどできるだけのことをしたいといつて来ている。放射物質の内容が明らかにならないと、被害者の治療がむずかしいという科学者の声に対しては、放射物質の内容は明らかにしなくとも、今度の場合の治療法を十分に心得た医師の派遣されることによつて、適切な治療ができることになると思う」これは外務政務次官の談話であるが、今のあなたの御答弁はこれとまつたく同じである、符節を合しておるのでありますが、もとより今度の事件が起つてからアリソン大使の言明によつても、あるいはその後アメリカからの外電によつても、アメリカがこれに対して十分補償する用意がある、あるいは治療、消毒に対して援助すると言つて来ておる。アメリカとしてはみずからの過失に対しての罪の償いをする用意を示しおることは、われわれはこれを多としております。しかしながらここで問題になりますのは、外務次官にあとからまた御意見を聞きますが、私は厚生委員会として言うのでありますから、特に限定して申しますが、このたびの被害漁夫の治療、調査、研究こういうものに関しては日本が主体になるべきと思うのですが、この主体は日本側でありますか、アメリカ側がやるのでありますか、それとも協力体制においてやるのでありますか、その三つのうちのどれであるかお伺いしたい。
  123. 小滝彬

    ○小滝政府委員 先方では協力いたして調査をいたし、いろいろとりはからいをいたして、また救済に乗り出したいと申しておりますが、これは日本人に関することでありましてもちろん日本の方で特に希望して協同でやろうというふうに現場の方々が考えられるならば、それにも応ずるでありましよう。しかし何としてもこれは日本が被害者であり、日本が最も重大なる関心を持つておることでありますから、これは当然日本の希望通りにいたすべきことであると考えております。
  124. 柳田秀一

    柳田委員 治療は当然日本側が主体を確保してやる。但し人類がかつて想像したことのないほどの高度な科学の発達、この科学の発達は、岡君も言うように正しく発達をしておる。ただこの発達の使い方が、人類の目的に反しておるというだけの話でありますが、この科学の発達によつて想像もしなかつたようなこういう事態になつて来ておる。しかも原子力に関するところの被害を、かつて一度ならず二度なめた日本が、何といおうか、宿命というか、皮肉にも二たび、三たびこの災害を受けおる。従つてわれわれ日本人としては、世界現在二十億の人類に向つても将来この地球の続く限り、この地球に生存する人類に向つても、こういうような恐るべき原子力のもたらすところの人体に関するところの被害に関しては、日本が率先全世界、全世界と言わず今後全人類に向つて解明すべき尊き義務でもあり権利でもあると思う。そういう意味でもとより日本が主体をなすのでありますけれども、世界各国のどこの国の学者が来られても、それと協力することはやぶさかでない。むしろ進んで協力すべきである。また同時にその結果も世界に発表すべきである、こういうような見地から私はあくまでも主体性は日本にある。そこで先ほど都築教授に参考人として来ていただいて、聞いたのでありますが、現在まだこの原子力医学に関しては、世界にほんとうに知つておる人が一人もいないというのです。アメリカはもとより研究しておりますから当然考えておりましよう。あるいはアメリカにおきましても多少不慮の災難もあつたそうでありますから、相当の研究が進んでおりましよう。しかし日本は広島、長崎において何十万の犠牲者を出し、しかも悲しい事実でありますが、少くともこの問題に関しては、最も進歩した医学を持つておるし、また日本の原子力物理学というものも、世界の水準をはるかに抜いたるところの高度の発達をしておるのであります。今のあなたのお話によりますと、アメリカから専門医が来られるから、その専門医におまかせしておいたならば、いかなる放射能物質の量と質と寿命かわからなくてもそれでやれる、こういうふうに奥村氏は言つておられる。これはまつたくアメリカまかせではありませんか。これは刻一刻を争う問題です。このEDTAを東大ではきようから使うことになつておりますが、これは一刻を争う問題です。きようの新聞によりますと、白血球がうんと減つて来ておる。それにもかかわらず、この治療の根幹は、——治療の一番先にどこをつかまなければならぬかというその目安になるところのこの放射能物質に対して、これがわからぬことでは、尊い人命はどうして救えますか。これに対しては外務次官はどういうようにお考えになりますか。もつとすみやかにアメリカ当局に要請して、この物質の究明に当る決意が、人道的な立場からあなたにはおありになりますか、その点をお聞きします。
  125. 小滝彬

    ○小滝政府委員 あらゆる事実、資料がさらけ出されるということが、治療に効果があるということは、私どもも否定するものではございません。米国の方ももちろんそうした意味において協力するということは申しておりますが、またある特定の部分に関しましては、何分この実験が信託統治に関する協定にもありますように、戦略基地において行われたものでありますから、特定の部門についてはそうしたセキユリテイという立場から、全部を公開することはできない点があるかもしれませんが、しかし治療に関する限りは、十分そうした点も心得て治療を実施して行こうということになつておるのでありましてその雇いろいろあるいは論ぜられる向きもあるであろうと思いますが、御了承を願いたいと思います。
  126. 柳田秀一

    柳田委員 あなたのセキユリテイというのは、アメリカ政府のセキユリテイであつて日本の、人類のセキユリテイではない。しかしながら、幸いなことに、本日の午前になりまして大体十種類のいかなる原子核分裂が行われたかということは解明されております。ことに二十年たつてもなおかつ半分、五十年たつても四分の一になるというようなストロンチウム九〇というような、骨髄に入つて人間の血液を精製する臓器を冒して、不治の病を起すような物質が究明されております。その物質の種類、量等おそらくアメリカは教えはいたしますまい。教えていただかなくても大体解明すべき時期に来ておるようであります。しかしながら、あなたのお話のようにアメリカから人が来ておる、これで事終れりというような態度では残念でならぬのであります。広島のABCCからモートンという博士が来ている。広島では何と言つておるか。アメリカは原子爆弾を使つて、そしてその被害者は日本である、しかしいつの日にかアメリカも原子爆弾の被害を受けぬとも限らぬ、ところがアメリカは被害者がいないから、自分たちのつくつた罪悪の兵器に対する犠牲を、日本を、モルモツトにして使うためにABCCが来ておるということまで現地では言つておるのであります。現にこのたびでもABCCからすぐにやつて参りましたが、今ここでABCCが来る真意は調査であつて、治療でない。私が言つておるのは調査じやなくて治療です。さしあたり治療に必要な資料としてそういうものを要求しておつたのです。しかしながら、あなたはそのことはどうも御理解になつていないようであります。あるいは御理解になつておるとしても、今の国際情勢下におかれるところの吉田政府の制約下におかれての外務政務次官としての立場では、ここで公表できないのかもしれません。さように情状酌量して考えてもよろしゆうございますけれども、それで救われぬのは二十三名の被害者であります。同時に焼津につないであります福竜丸でも、これを横須賀に回航したい、こういうことすら向うは言うて来ておる。本日の都築博士の言によりますと、断じてこれはアメリカに渡さぬ、しかも海の中に置いておいたならば数年たてば腐つてしまうであろう、これを陸へ揚げて、コンクリートか何かの一つの建物の中に入れて、永久にこの原子力の解明に対する貴重な実験材料にしたい、こう言つておられる。こういうことを見ても、アメリカは何をしたいかがよくわかる。MSAのちやちな兵器にすら秘密保持の法をつくらんとする保安庁なり外務当局の御見解ですから、あなたにいくら聞いたところで、あなたからは崇高な人道的な人類愛に燃えた御答弁はおそらく得られぬと思いますけれども、われわれ日本人として考えなければならぬのは、本問題に関しては、今ここは厚生委員会ですから治療の問題に限定して言いますけれども、この被害者がどういうふうになつて行くか、それに対してはどのような手を打つか、これが今一番大事なんであります。そういう意味で先ほど来私は尋ねておるのであります。外務次官は直接厚生担当者でもありませんし、治療担当者でもありません。しかしながら、外務政務次官として、今回の二十三名の被害者の問題を、外交上解決する上に必要なことでありますから、これは当然理解をされ、また関心を持たなければならない問題であります。そこでお尋ねいたしますが、あの二十三人の被害者の被害はどの程度であるというふうに御理解されておるか、ちよつとそれをお漏らし願いたいと思います。
  127. 小滝彬

    ○小滝政府委員 私は専門家でありますので、その程度については存じません。しかしこの第五福竜丸事件というのは非常に重大なる事件でありまして、外務省としては今後いろいろ調査が進みますに従いまして、こちらの調査の結果を基礎として十二分に強力に米国側と交渉しなければならないという責任を痛感いたしておる次第であります。
  128. 柳田秀一

    柳田委員 しかしながらこの問題は連日新聞紙も報道しておるのでありますから、外務次官としてはやはりこれを交渉する場合に、思つたほどでもないのじやなかろうかとか、あるいはどうも新聞に最初でかでか書いたが、その後非常によくなつた、けつこうであるというふうに自分は理解しておるとか、どうもこれは二十三名ともむずかしいのじやないかとか、そういうふうな点ではどういうふうにお考えになつておるか、これを伺いたい。
  129. 小滝彬

    ○小滝政府委員 外交交渉におきましては、自分の感じなどで交渉すべきものではなくして、国家間の重大なる交渉であります以上、十分なる調査に基く、十分科学的な裏づけのある交渉をしなければならないのでありますから、私は自分の感じによつて交渉しようという意思は毛頭ございません。
  130. 柳田秀一

    柳田委員 本日われわれが新聞等で察知いたしますと、私は少しく医学を知つておるのでありますが、患者の白血球数が減つてつております。こういう事態から見ますと、私は患者にもこの原爆の被害というものは、忘れたころに出ると言つておるのでありますが、将来相当また慎重に考えなければならぬ問題であります。外務省が今お考えになつておるような甘い態度でアメリカと折衝されておつたのでは、被害を受けた漁民あるいは被害を受けた日本人の立場から、悔いを千載に残すことがありますから、十分腹を締めて外交折衝にお当り願いたい。これは警告いたしておきます。  なおただいま入りました資料によりますと、「三月二十日午前十時三崎の水産試験所に無線が入り、県衛生部に連絡があつた。「西宮丸が沈没し、該船の船員を三重県神威丸が乗せて二十日午後三時三〇分三崎に入港予定。その船(西宮丸か神威丸かは目下不明)は三月八日から十二日間原爆実験危険区域内に漁労に従事している。船員中に病人が発生し、悪化している(数は不明)原子病の疑がある、医師の手配依頼があり、これに対して久里浜国立病院医師及び看護婦を急行せしめた。」」これはまだ調査をしてみませんとその詳報は得られぬと思いますけれども、こういうふうにこのたびの原爆問題はかなり広範囲な被害である。しかもわれわれ日本人としては、今私が申し上げるようにこれが今後再び三たび起らぬとは限らない。またどういうような風の吹きまわしで、あるいはどういうような海流の流れぐあいによつて、あるいはこの後日本にも、原子砲弾であるか原子爆弾であるか、そういうものがまた持つて来られる場合もある。不測の事態が起らぬとは絶対に予言できませんどういうときに、外務当局がこれから起るところの犠牲者に対して、今のような軟弱な交渉ぶりでは、いかに厚生当局がさか立ちいたしましてもだめだ。さきだつものはまず外交交渉であり、そしてその結果をもつて厚生当局は交渉の面に当るのでありまして、今のような外務省の首脳部を置いた限りにおいては、とうてい万全の措置はとれないと思う。いくら申しても、今のあなたの御態度ではわれわれの期待するような答弁は得られませんから、申し上げません。ただいつも言つておりますように、いつの場合でも外務省はいわゆる腰抜け軟弱外交と言われる。外交には相手がありますから、こつちの都合ばかり言つては外交できませんけれども、この軟弱な霞関外交に、二・二六事件の発端が全部とは申しませんが一部あつた。軍閥を台頭せしめた原因があつた。また原爆問題に今のような弱腰ならば、自由党の基盤とされる農村、漁村からも大きな批判が起ります。それはそれでけつこうでありましようが、われわれ国民としては救われません。ほんとうにもつと真剣に、もつと腰を入れてやつてください。われわれ厚生委員会としては、患者の治療に、身内になつたような気持で取組んでいるのであります。あなたのようなまつたく傍観的な態度で本委員会へ来られることは、まことに残念しごくであり、はなはだしく不安の念にたえません。
  131. 小島徹三

    小島委員長 お諮りいたします。ただいま委員外の松前重義君、島上喜五郎君より本件について発言を求められておりますので、これを許すに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  132. 小島徹三

    小島委員長 それでは松前重義君。できるだけ簡単に願います。
  133. 松前重義

    ○松前重義君 私は昨日焼津の現地に調査に行つて参りました。率直にお尋ねいたしますから、簡単にお答え願います。  第五福竜丸並びに原子灰によつて被害をこうむつた船員たちに対して、アメリカ側において治療をする。あるいはまた第五福竜丸の放射能の研究のためにアメリカ側にこれを引渡せ。このような交渉があつた場合において、政府はどのような考えをとるかを伺いたい。
  134. 小滝彬

    ○小滝政府委員 被害を受けましたのは日本でありまして、しかも船員は全部日本籍のわれわれの同胞であります。アメリカも責任をとつて協力しようとしているのでありますし、これをいかにとりはからうかは、日本が自主的に決定しなければならぬことでありますから、日本で最も適当と思う措置をとるべきであり、外務省もその趣旨で交渉を継続する考えであります。
  135. 松前重義

    ○松前重義君 ただいまのお答えではどうしても満足できない。と申しますのは、第五福竜丸並びに患者をおれの方で研究し、あるいはまた治療をするから引渡してくれという交渉があるときには、引渡されるかどうかということをお尋ねしているのです。イエスかノーか。
  136. 小滝彬

    ○小滝政府委員 そういう問題は治療のために、最も都合のいいことを関係者としても考えられることであつて、みんなの意向が日本だけでやつた方が都合がいいということなれば、もちろん日本の方で治療をいたすべきものと考えます。
  137. 松前重義

    ○松前重義君 福竜丸はどうなりますか。
  138. 小滝彬

    ○小滝政府委員 福竜丸は今まで私どもの承知いたしますところでは、日本側で保存しておいた方が都合がいいということ、でありますから、それが政府の考えであるならば、外務省としては当然日本側で保存するものであります。
  139. 松前重義

    ○松前重義君 福竜丸にしても、いわゆる原子病思考の気の毒な諸君にしてもこれは当然日本側でなすべきものであるということは、日本人としての常識であると思うのです。ただいまの御答弁に対してはどうもまだ明快を欠くと思うのでありますが、現在向う側から横須賀に回航しろということ、これはすなはちアメリカの原子力に関する多少の秘密が、日本側において解けつつある——私は現地において学者と一緒に見て来た。それがこわいのかもしれぬ。こういう問題がある。もう一つはあの原子爆発をやつた場合において、あの付近を航行している船舶の模様を調べないはずはないと思う。これを知つてつてあの爆発をやつたとするならば、これは日本の船を実験台に供したように、私はどうも現地で思わざるを得なかつた。それでその様子を調べようということであるかもしれぬ。これは悪意に解釈したことかもしれませんが、一応人間の命に関係するあの大きな威力を持つたものを実験するのに、その付近に航行している航船に無線で通知をするぐらいのことはあつてしかるべきだと思う。このことは調べてみたらなかつたそうであります。こういうことでありますから、断じてアメリカ側にこれを引渡すべからず、日本よりほかに原子病をなおす医学はありません。アメリカ人はいまだかつて原子病になつた人はおらぬ。こういうことでありますから、私どもは厚生委員会の皆さん方とともに、断じてこれを引渡しちやいかぬということを一致して政府に要請したいという気持でいるわけであります。どうかひとつ引渡さぬようにしていただきにい。
  140. 柳田秀一

    柳田委員 今の松前議員のお話でも、日本側でこれを引渡さないということになれば、これが政府の見解であります。それに関連しますからちよつとお尋ねしますが、現在引揚問題で難点になつている李徳全女史の日本招待の問題でも、いろいろと各種団体、あるいは引揚特別委員会、この国会すら日本側に招待したがよろしい、こういうことになつている。その方が引揚にあたりスムースに行くと言つている。今のあなたの御答弁なら、李徳全の招聘問題も外務省が承認しなければならぬことになる。それを都合の悪いときには、いかに国会の意向がどうあろうとも、外務省は何とかかんとか言つていながら、こういう問題のときはあなたは責任を回避する。福竜丸は日本の船でありますし、安保条約から見ても、国際条約から見ても、何らアメリカに持つて行く理由はないですから、そういう見地から、アメリカに引渡すというようなことはとうてい考えられませんということを、今ここでお答えできるかできないか、お聞きしたい。
  141. 小滝彬

    ○小滝政府委員 外務省は引渡してくれなどという申入れを受けておりません。   〔「受けたらどうするか」と呼ぶ者あり〕
  142. 小滝彬

    ○小滝政府委員 受けましたら、先ほど申しますように、かりにそれが非常に都合がいいということならば……。
  143. 小島徹三

    小島委員長 発言を許しておりません。島上善五郎君。
  144. 島上善五郎

    島上善五郎君 それでは今柳田君が質問した、受けたらどうするということに対して簡明にお答えいただきたい。
  145. 小滝彬

    ○小滝政府委員 そういう申入れがありましたら、もちろん政府部内で一応話合いがあるでありましようが、当然その決定によつてこれを断ることは、外務省としてとりはからう筋合いのものであります。
  146. 島上善五郎

    島上善五郎君 まわりくどくあいまいに言わず、はつきり日本のものであるから断ります、こういう答弁を聞きたいのです。そのときには政府で相談して、その相談に基いて断るだろうというようなまわりくどく言わずに、はつきりと述べてもらいたい。
  147. 小滝彬

    ○小滝政府委員 もちろん日本のものでありますから、日本が断るのはかつてであります。何らそれに対して制約を受けておりませんから、当然これは断り得る次第であります。
  148. 島上善五郎

    島上善五郎君 断り得るという語尾にまだあいまいな言葉をつけましたが、私どもは当然断る、こういう毅然たる考えを持つているものと了解しますが、それでよろしゆうございますか。
  149. 小島徹三

    小島委員長 島上君にお諮り申し上げます。この問題は相当重要と思いますから、委員長から正式に政府に対してこの答弁を翌日行うように申します。
  150. 島上善五郎

    島上善五郎君 それでは次会に委員長から外務大臣にはつきりと責任のある答弁をしてもらうように願いたい。  それから賠償問題について伺いたい。私ども新聞その他で報ぜられているアメリカの今日までの態度は、きわめて冷談であるというふうに受取れるのです。第一あの事件が起つた直後のダレスの談話なども、ああいうことがあつたとすれば不幸なできごとであつたように思う、こういうような実に不誠意な談話を発表しておるのです。不幸なできごとであつたように思うどころではない、最大の不幸なできごとで、まことに申訳ない、こう言うのが当然なのです。まるでどこか関係のない、自分たち関係のない問題でもあるかようなものの言い方をしておる。事実はすでに、危険区域からかなり遠く離れた場所で起つた事件であるということも明らかでありますし、アメリカ側に責任があるということも、私どもはここではつきりしておると思うのです。それなのに先ほどの答弁においても、先方に過失があるものがはつきりすれば賠償を要求するというような、あいまいな答弁をまだしておるわけです。そこで私は賠償のことについて伺いたいのですが、今度の事件による直接の被害は、いうまでもない第五福竜丸であり、さらに乗組員二十三名の生命の重大な危険でございますが、この事件によつて起つた被害は、第五福竜丸だけにとどまつてはいないのです。その他南方に出漁しておる多数のまぐろ船に、すでに若干の灰をかぶつたという船もあるようでありますし、また灰をかぶつていない、魚は放射能の反能は全然ない、こういうふうに証明されております船でも、もう南方のまぐろと聞いたら、全然買手がない。さらに先ほどの水産庁の御答弁によりますれば、このごろは近海ものでも魚が売れなくて困つておる。私の聞いておるところによりましても近海ものも売れない、こういうふうですから、魚の小売屋さんは音をあげておるという状態であります。ですから間接の被害を数え立てたら、まつたくはかり知れない損害がある。私どもは賠償については、直接の被害並びに間接の被害をも計算してこれを要求すべきだ、こう考えておりますが、賠償を要求する際には外務省ではその間接の被害をも含めて要求するというお考えがあるのですか、この点を伺いたい。
  151. 小滝彬

    ○小滝政府委員 どういうものを賠償として要求するかというようなことは、まだ具体的にきまつておりません。しかし当然先方の責任に対して賠償を要求いたします場合は、そうした賠償額を計上いたしまして要求することになると考えております。
  152. 島上善五郎

    島上善五郎君 そうした賠償額というのは、今私が言つたように、間接の被害をも計上するというように解釈してよろしゆうございますか。
  153. 小滝彬

    ○小滝政府委員 これは当然、賠償として考慮の中に入れるべきものと考えております。
  154. 島上善五郎

    島上善五郎君 それでは水産庁に、委員外ですから遠慮して、あと一点だけお伺いしますが、今私が言いましたように、また先ほど水産庁の次長から御答弁がありましたように、この第五福竜丸以外の南方のまぐろ漁船並びに近海の漁業者等も非常に迷惑をこうむつておる。さらに魚の小売業者、あるいはこれに関連する業者も非常に大きな、はかり知れないような損害、迷惑を受けておる。そのことのために水産庁には毎日たくさんの陳情団が見えて応接にいとまがない、こういうふうに言われましたが、これらの陳情は、さしあたつて生活に対する陳情もありましようし、恒久対策についての陳情もありましようが、これに対して私どもは、アメリカとの間に賠償問題が片づいて、その結果そういう損害者に対して、経済上の賠償が日本政府を通じてされるのは相当時日がかかると思うのです。それまでの間に政府として、その日その日の生活にも追われておるような、あるいは税金の納期に際して税金を納めることもできないような業者に対して、具体的に直接的な対策として何か考えておることがありましたらそれを伺いたい。それが一つ。  もう一つは、なお南方に出漁しておるまぐろ船が相当たくさんあろうと思います。そうして今柳田委員が新しいニユースとして読み上げたところによりますと、現在南方に出ておる船の中でも被害を受けておるものがあるのではないかという疑いが多分にあるという状況でありますが、現在南方に出漁しておるまぐろ船がどのくらいあつて、それがどういう状況であるかということについて、十分連絡がついて掌握せられておるかどうかという点を、水産庁にお伺いしたいと思います。
  155. 岡井正男

    ○岡井政府委員 第一点の困つておる者に対する緊急処置はどうかということでございますが、なるほど魚の値下りと売れが悪いので、沿岸漁民は非常に困つておるようですが、しかしまぐろ、かつお業者は沿岸の零細漁業者と違いまして、資本的にも若干ハイ・クラスにあるわけで、さしあたりその日その日に困るというようなみじめさは一応ないわけであります。魚屋が非常に困つておるという点もありますが、これも幅をどこまで広げてどういうふうにしたらいいかということになりますと、全国的な問題であると同時に、まぐろ、かつおを主として扱われておるところの非常に影響を受けるようなところは、どこかという問題もございますので、研究課題としてわれわれは研究しておりますが、さしあたつての、今すぐ御説明申し上げるような手は打つておりません。  第二点の南方のまぐろの出漁船数が今どのくらいあるかということでございますが、これは百四、五十そう程度であります。しかしこれは沿岸を主とするまぐろ船も合せてございますので、あの問題になつた地区から外へ出ておるという船数は、おそらくその半数以内だと思います。その船に対してはありとあらゆる水産関係の無電を利用いたしまして、周知徹底は十二分にいたしております。従つて漁業者が帰港するにあたつて、あの地区を通る方が非常に便利であるという漁船は迷惑しております。しかしインド洋方面へ行つている船は、直線コースを通りましても、あの地区と関係なく帰つて来られると思いますので、主として迷惑をしておるのは、あの地区を越えて濠州の西寄りの方へ出漁しておる船団が迷惑をしておると考えております。
  156. 小島徹三

    小島委員長 他の法案に関する審査は次会に譲りまして、本日はこれにて散会いたします。  次回は追つて公報をもつてお知らせいたします。    午後四時五十七分散会