○横田
参考人 岩手県猿ケ石川
田瀬ダムは、農家の総戸数二百八十二戸、うち
水没移転者百十二戸、
水没水田百三十
町歩、畑地が百十九町七反、
宅地が十一町六反、民有林二百八十二町六反。
水没者の動向は、
水没者の移転先、村内が六十七戸、村外が四十五戸。残存
土地が水田二十九町九反、畑地五十一町六反、
宅地七町、民有林五百町、
国有林千四百四十四町七反。
田瀬ダムは
昭和二十七年三月に協議が成立いたしまして、九九・九%まで調印を完了しておるのであります。
水没以前の農家の経営規模は、
昭和二十六年一箇年の統計をとつたのでありますが、農村収入の米が、二千八百五十八石、農産以外、畜産、
山林、水産等の現金収入が四千百五十七万六千二百四十六円、一戸の月平均が二万二千三百八十八円とな
つておるのであります。米は全部落民をまか
なつたほかに、八十六石六斗を供出しておつた計算にな
つております。
ところが今後の農家の経営規模といたしましては、残存農家二百三十六戸、水田一戸平均一反二畝、畑地二反一畝となり、極度に零細化され、今年より米だけでも千七百二十六石の移入をしなければならなく
なつたのであります。
農産以外の現金収入も極度に減じまして、畑の喪失は葉タバコ、養蚕の収入を減じます。他の畦畔にあつた家畜用牧草は、畜産に大きな影響を与えるのみならず、肥料の供給源も失つたのであります。従来の淡水
漁業は、根底から建直さなければならなくなりました。われわれは
昭和二十六年以前の
生活水準を保つには、飯米移入資金を含め、一戸月平均三万二千七百六十円、しかしこれらの現金収入の
基盤を喪失いたしまして、自給の態勢は完全に壊滅してしまつたのであります。
一方他町村に移転した者の動向につきましては、農業以外に職業を求めて、市街地に移転して給料を得るなり、旅館等を経営した一部の人々を除き、商業を始めた者は、上ろうと商人の悲しさで、決して
生活は楽に行
つておりません。中には
補償金を消費し切
つて苦しんでおる者もあります。また農家はそのほとんどが単作
地帯に移転したために、田瀬のような多種多様な現金収入の道は断たれまして、薪炭にも事欠く始末であります。ことに経営不振による離農の
あとを引継いでその
土地を買つたような者が多いのでありまして、移転二年足らずに、すでに悲鳴をあげておる者が大半であります。せつかく移転しておりながら、移転地をむすこ、夫婦にまかせて、田瀬の親類をたよりに舞いもど
つて来ておる老人さえある始末であります。
このような
事態に至りまして、われわれ二百三十六戸の残存農家は、極度に狭められた
土地で、
水没以前の
生活水準を保
つて行くために、いろいろの研究をしているのであります。すなわち、一戸一月平均三万二千七百六十円の現金収入を得ることが、どうしてもわれわれの
生活を保つ上に重大であります。田瀬の農家は、従来は生産物を金にかえて計算することは、あまり考えておりませんでしたが、今度はすべての生産物等は、商品として金にかえるというようにかわ
つて来たのであります。そうして結論的に、この水準を保ち得る見通しは一応理論的に出しております。従来第一の収入源は林産物でありました。薪炭、木材、くり、採草、かやとか生草、乾草、次に山菜、ぜんまい、ふき、きのこ、ぶどう、これが三三・三%、次に養蚕及び葉タバコの農産収入が二三・二%、労働賃金収入の二三・四%、次いで牛、乳牛、子馬、緬羊、原毛、羊毛加工品、うさぎ、鶏、成馬飼育等の畜産収入が一九・六%、残る五%はあゆ、くきばや、かじか、うなぎ等の水産収入その他の雑収入でありましたが、今度はこういう割合の現金収入を得ることは絶対不可能でありまして、民有林五百
町歩を
計画的に高度に利用するとともに、
国有林一千四百四十七町七反の払下げを受け、部落または谷内村の管理として、田瀬の人々によ
つて計画的に造林を行い、永久に涵養しなければなりません。しかし将来は、従来の
山林収入よりは増大いたしますが、当分はこれらの資源涵養によ
つて減収を免れないのであります。農産収入は、
耕地の激減によ
つて養蚕、葉タバコも減収しますし、労働賃金収入においても、働く
事業所がなくなり、かえ
つて過剰労働力が生じて参ります。この労働力を生産労働に切りかえなければなりません。畜産収入は、従来は
農地の畦畔すべてに栄養価の高いクローバ等が自然に繁殖し、飼料はきわめて豊富でありましたが、今度は放牧地を採草
地帯に改良することは最も容易でありますから、現在の乳牛飼育頭数八十頭、搾牛頭数二十頭をさらに増加することは可能であります。緬羊はメリノー種の最も優秀な品種が岩手県第一を誇
つているくらいであります。この増殖も可能であります。その他役牛、やぎ、鶏等の小家畜も可能で、畜産収入は最も多くなる可能性があります。この畜産の増殖にあた
つても民有地及び国有地を高度に利用しなければ
計画例れに終
つてしまうのであります。
また水産収入はまつたく一変するのでありますが、従来の猿ケ石によ
つて漁獲していたものを、将来は
田瀬ダムによる養殖
漁業とする、これらの
計画には、ぜひともわれわれ
水没者に
漁業権を付与してもらわなければなりません。
田瀬ダムは、先祖伝来の墳墓の地を湖底にし、去るに忍びがたく残留したのでありますから
ダムに残つた者全体でこの
ダムを永久に保護する、自給態勢を
確立するために、
耕地の拡張をはかるため、従来の米食を他の主食
生活に切りかえるために水田造成、畑地造成に重点を置き、畜産の増殖をはかり、酪農を主体とする
山林の依存度を大きく持ち、
国有林野の払下げを受け、共同管理を行い、
計画的に生産造林を行
つて、永久に
山林資源の保護をはかるため、谷内村との協力を得るというような基本線を出したのであります。
そうしてこれがために、これの実行
方法といたしまして、湖内の
ダムに土砂の流入を防止するために、湖岸周囲の一帯
地域を帯状に
湖水保護林
地帯を設定して保護する。この保護林
地帯は伐採を制限するとともに、諸管理は団体において行う。
湖水には魚類を養殖して現金収入をはかり、諸施設を
整備して湖上の利用をはかる。このためには谷内村の協力を依頼し、田瀬湖
漁業権、湖面利用、湖岸施設は田瀬に優先的に与えるよう措置を講ずる。これらの管理等も団体において行う。附帯道路に沿
つて小部落ができたので、この部落を
中心に
耕地を造成し、
耕地に続く箇所に採草地、放牧地を造成して経営の合理化をはかり、畜産に重点を置くため一戸当り乳牛三頭以上を飼育し、総数七百頭以上を飼育する。このためには飼料の自給化をはかるため、
耕地、採草地、放牧地の造成、草種の改良をはかる、これも協同的に行う。採草地、牧草地に続く
地帯は、広葉樹林
地帯を造成する。この
地帯といえ
ども、針葉樹適地には針葉樹の造林を行う。針葉樹は二十五年伐期として、製炭を主とし、毎年一定面積を伐採し、優良樹種の更新をはかり、保護涵養を行う。広葉樹林
地帯に続く村界、部落界の尾利までを針葉樹林
地帯に造成する。これは四十年伐期として用伐を主とし、毎年一定面積を伐採するとともに造林を行う。
林野のこのような
計画伐採造林による林産収入を確保するために、谷内村の協力を依頼し、
国有林野一千四百四十七町七反の全面積の払下げを受ける。このようなことが現在われわれが
計画している
ところの星対策であります。
何とぞ御協力によりまして、この実現を見るようおとりはからいのほどを
お願いするものであります。
次に、未調印者に対する
解決であります。
田瀬ダムにおきましては、現在ただ一人の未調印者があり、去る八月四日に東北
地方建設局より、
内容証明をも
つて、九月湛水準備を控え、早急に家屋移転をするようにとの通告が来ております。この人は、
水没地点にただ一人の製材業者であり、絶えず二十人以上の労務者を雇い、製材工場二箇所を持
つております。か
つて戦争中、軍部より船舶材の供出を命ぜられ、勝ち抜くための職域奉公と、それに協力し、自己を
犠牲にする覚悟をきめ、従業員の食糧、馬車の馬糧を確保するために、いわゆるやみ食糧を求めて、船舶材の供給を遂げたのであります。このやみ食糧の購入が司直の取調べる
ところとなり、遂に留置場
生活を余儀なくされた経験を持
つております。このようなことがこの人の胸にどう響いておるか。食糧を補給しなければ、国に対する御奉公はできなかつた。御奉公するには、法を犯さなければならなかつた、国の
施策の矛盾というものを、どれだけ留置場の中で考えさせられたかと述懐しておるのであります。今度の
ダム問題につきましても、製材業者としての生命線たる木材運搬のため、第一に道路の切りかえ、動力用
電力の切りかえが先決であります。そのことの
解決の話もなく、一方的にただの二百三十万円
補償を押しつけて来ても、引上
つての工場開設は不可能である。第一番にこのような施設を施してから協議に応ずるということで、現在まで拒否して参りました。
電力はその後一箇年半を経た本年春、やつと切りかえられましたが、道路の方は切りかえられましても、まだその買収代金すら支払われておりません。しかも九月から湛水するとの通知は、われわれ
水没者をして、あまりにも玩弄するものであると遺憾にたえないものであります。この人の言う戦争中のあの矛盾と現在のこの一方的な措置とは、相通ずるものがある。現在
国家更生対策に必要な諸要求、この
解決の見通しがつかない限り協議には応じかねると言
つております。このような
事態が起きたのは、決してわれわれの責任に課せらるべきものではないと思うのであります。もつと
建設当局が誠意を示してくれたならば、ほんとうに
水没者の立場にな
つて事を処していただいたならば、このような
事態は断じて起きなかつたと思うのであります。この
内容証明の中にある
ところの強制措置とは一体どのようなことでありましようか。移転しないのに水をためるのか、それともどのような態度をと
つて来るのであるか、御見解があれば御
答弁願いたい。
次に、今後の
ダム施工に関する教訓であります。これは各
説明者からるる申し上げておるのでありますが、このような
事態にな
つて、われわれも協力はしましたが、各
説明者が言われたように、非常に一方的なやり方である。話合いが納得できないままに
工事が施行されておるということは、絶対避けなければならないことであると思うのであります。
それから強権発動の措置は絶対とらないこと、これは
土地収用法などによ
つてこれを遂行せんとしましても、
水没者はますますこれによ
つて事態を硬化して行くのみでありまして、何ら効果がないと思うのであります。
さらに特殊金融
機関を設けること、
補償金等を有効適切に利用し、更生資金を確保するために、
水没被害者を主体とする特殊金融
機関を設け、
水没被害の将来に不安なきを期すること、こういうことが最も必要じやないかと思
つておるのであります。
以上
実情を訴えまして、私の陳述を終ります。