○渡辺
政府委員 二重
課税防止条約につきまして簡単に御
説明申し上げることにいたします。
最初の
段階から申し上げまして非常に恐縮でありますが、まずも
つてどういう点で二重
課税の問題が起るかという点をごく簡単に申し上げます。
日本の
所得税法によりますと、御承知のように
日本に住所を持ち、一年以上居所を持つ人は、個人はその人の持
つている全部の
所得について
所得税が課せられる、こういうことであります。同時に
日本に住所または一年以上居所を持
つておりませんでも、たとえば
日本で商売をしている場合におきましては、その商売をしていることによ
つて得た
所得に対しては
日本の
所得税がかかります。ところが同じような
考え方ははかの国も持
つておりまして、問題にな
つております
アメリカの例をと
つて言いますと、
アメリカでは
アメリカの市民——シティズンであればその人の全部の
所得に税金がかかります。またたとえばたまたま品本人が
アメリカへ行
つて支店でも持
つて商売をしている、そうしますと、向うの支店の
所得に対しては
アメリカの
所得税がかかるわけであります。従いましてこういうふうな建前にな
つております上から、
日本に住所を持
つて商売をしている人が
アメリカのニューヨークに支店を持
つて商売をしている。そうすると、
日本の
所得税は全部の
所得についてかかるから、
アメリカの支店の
所得も込めまして全部
所得税がかかる。ところが
アメリカの支店における
所得に対しましては、
アメリカの
所得税がかかるわけであります。すなわちニユ一ヨークに支店を持
つて商売しておりますと、その
所得に対しましては
日本の
所得税もかかりますし、
アメリカの
所得税もかかる、こういう問題が起るわけであります。このことは法人税でも同じわけでありまして、本店が
日本にございますと、どこの国で商売をしておりましても、得た
所得の全部に
日本の法人税がかかる。ニューヨークの支店の
所得に対しましても法人税がかかる。ところがニューヨークの支店の
所得に対しましては
アメリカの
所得税もかかる。ここに二重
課税の問題が出て参ります。その
意味の二重
課税は各国ともぜひ避けるべきであるというふうな
考え方にな
つておりまして、これはある
程度国内法でも実は処置できるわけでございます。
アメリカでは古くから歳入法の百三十一条という規定がございまして、
アメリカのたとえばナシヨナル・シティがニューヨークに本店を持
つておりまして、東京に支店を持
つている。東京の支店の
所得に対しましては
日本の法人税がかかります。
アメリカの方では
日本の東京の支店の利益も込めまして全部の
所得に対して、
アメリカの
所得税を課しているのでございますが、東京の支店においてもうけた利益に対して
日本の法人税がかか
つた分は、税額でこれを差引くということにしまして、結局会社としましては
日本に納めるか
アメリカに納めるかの違いはございますが、負担する
所得税は同じだ、こういう規定がございます。
日本にはそのような規定が実は従前なか
つたのでございまして、
日本の法人がニューヨークに支店を持
つていて、ニューヨークの支店において利益があり、それに対して
アメリカの
所得税を納める。これは実は単に経費にだけしか見ておりませんでした。経費に見たということでも完全な二重
課税にはなりませんが、相当な三重
課税にな
つていたのであります。この点につきましては、実は昨年法律を改正していただきまして、
所得税法、法人税法におきまして、
ちようど
アメリカの歳入法百三十一条と同じような
意味の規定を置きまして、二重
課税防止の措置を——実はこれは
アメリカだけではありません。どこのよその国でも全部同じですが、措置をと
つたわけでございます。そういうような
意味におきまして、二重
課税ということがそこでよく起きる。同時にそれに対する
関係からしますと、二重
課税防止は国内法でも一応はできるのでございますが、ただ国内法だけでやりますと、いろいろな
意味において不十分な点が実は出て来るわけであります。と申しますのは、これはもう各囲いずれも同じようにや
つておりますが、
日本の法人がニユーヨークに支店を持
つておりますと、ニューヨークの支店の利益に対して
課税せられた
アメリカの税金は、今の国内法で控除はいたしますが、その控除する限度が実はあるわけであります。
アメリカの方の税金が安く、
日本の税金が高い場合におきましては、
アメリカにおきましての税額を全額控除いたします。
アメリカの方の税金が高くて
日本の税金が安い場合、こういう場合に
アメリカにおいて納めた税金を全額控除いたしますと、
考えようによりますが、
日本において得た利益の税金が安くなる。それに食い込むといいますか、
アメリカの方でも
つて高い税金のかか
つているところで商売して得た利益、それで税金がかか
つたのを全額控除しまして、そうして結局その全部の
所得に対しまして安い国の安い税金で納めたと同じ結果に持
つて行くということは、これは国内の利益に対する税金まで食い込む、こういう
考え方ができるのでございますから、そういうように支店の所在地の国の税金が高い場合におきましては、
ちようど全体の利益に対する支店の利益の割合、たとえば全体が一〇〇でありまして、支店の利益が二〇だ、そうしますとこれは二割分だけは負けますけれども、税率が向いために税金として
比較すると三割五分に
なつたというその五分だけは負けないというのが、これは各国いずれもが
考えておるやり方であります。そこでどうしてもできるだけ国内で得た利益と国外で得た利益を二重
課税にしないということをと
つておりますが、今のようなことになるので、たとえばナシヨナル・シティの支店がこちらにある場合、あるいは
日本の伊藤忠なら伊藤忠の支店がニューヨークにある場合におきまして、
アメリカが
日本のニューヨークの支店にかける税金、あるいは
日本がナシヨナル・シティの支店にかける税金、これをどの
程度にかけるかということについて、ある
程度やはり話合いを進めて行くことが、
両国の負担を調整するゆえんである、こういうふうに
考えられるわけでございますが、この点になりますと、どうしてもやはり
一つの
条約を結びまして、お互いの負担を一応制限のもとに赴くということが必要にな
つて来るわけでございます。それともう
一つ、納税者におきましては、たとえば今の例でいいますと、ニューヨークの支店で納めた税金は、全部
日本の本店で納める税金から差引かれますから、その
意味からしますと、お互いの税金が同じであ
つた場合におきましては負担にはかわりがないわけでございますが、
両国の
課税権の上から行きますと、どの分をどの
程度アメリカがとり、どの
程度日本がとるか。
アメリカの方でたくさんとり過ぎますと
日本の取り分がそれだけで少くなり、
アメリカの方の取り分が少ければ
日本の取り分がそれだけ多くなる。納税者としては負担は同じでありましても、
両国の
課税権の問題になりますと、本店が
アメリカにあり、支店が
日本にある場合、あるいは本店が
日本にあり、支店が
アメリカにある場合——われわれ制限納税義務者と呼んでおりますが、制限納税義務者に対する
課税をどの
程度にやるか、これは納税者にと
つては結局負担が同じであるとしましても、
課税権の問題におきましては、お互いに制約し合うということになるわけでございまして、この点もどうしても
条約におきましてお互いに
交渉し、適当なるところでそれをきめることにする必要が出て来るわけであります。それで、第二次
戦争以前におきましては、各国はそれほどたくさんこういう国際的な
租税協定を結んでおりませんでしたが、しかし第二次
戦争後におきまして、
アメリカは特に非常に熱心に各国と結んでおりまして、もう二十数箇国と結んでいるようであります。
日本におきましては、実はこういう
意味の
条約は今度初めてでございまして、二重
課税防止の
関係は、いろいろ
議論がありましたが、具体的に国際的なとりきめとしておりますのは、
船舶関係のものがただ
一つございます。それは
条約というかつこうをと
つておりませんで、
船舶に対する
課税の相互免除に関する法律という大正十三年の法律がございます。それはどういう点かと申しますと、たとえば
日本郵船が
アメリカ航路を持
つており、シャトルとかサンフランシスコとかニューヨークに支店を持
つておる。そこで利益が出る。逆に向うのプレジデントラインが横浜なら横浜に支店を持
つておる。こういう
関係のものを一々支店のものは支店に
課税をし、そこで先ほど
言つたような控除をするというのはややこしいから、お互いに負け合
つてしまおうじやないかという
考え方に基きまして、もし
相手国が同じような条件でも
つて免除するならば、
日本も免除してよろしいこういう広い、権限を与えていただいておる法律がございます。それに基きまして外務省で
交渉しまして、交換公文をとりかわしまして、それによ
つて相手国も同じ条件で
日本の
船舶所得に対して免税する場合には、
日本もその国の
船舶所得に対して免税する。同時に交換公文のとりかわしができますと勅令——その当時は勅令でございましたが、今でしたら政令で、ございますが、政令でそれをはつきりしまして、一応免除のところへ移す。従来や
つた例はそれだけでございます。今度初めて一応
租税協定を結ぼう——どうも税のことて大分ややこしいものでございますから、業者の方々におきましても、やはりこうした
関係で
両国間の
租税関係をできるだけはつきりしてほしいという
希望が多分にございまして、
両国の通商
関係におきましても、
租税のためにそれが阻止されておることがあるのは、はなはだ遺憾でございます。こういうような
協定によりましてその間の
関係が明らかになるということは、
両国の通商
関係を促進するゆえんではないかとわれわれも
考えております。
そこでこの
条約の形式でございますが、ごく簡単に御
説明いたしますと、今
言つたような
関係にな
つておりますので、まず第一に並べてございますのは第三条以下でございます。ここで先ほど言いました本店が
日本にあ
つて支店が
アメリカにある場合とい
つたような事例でございます。それはそれだけに限りませんで、たとえば
日本に住所を持
つている人がたまたま向う摘めていた場合どうなるとか、勤務
関係でも
つて向うへ行
つていた場合に一体その
課税をどうするかとか、いわゆる制限納税義務者に対する
課税関係をまず列挙しまして、その上で最後に、先ほど言いました
アメリカでいえば歳入法の百三十一条、
日本にはそれと同じような規定が
所得税法、法人税法にございますので、それの
関係を最後に締めくくることによりまして、二重
課税防止の形態をはつきりさせよう、こういうことの形で
条約ができております。全体の形としましては、できるだけ対等な立場に立
つて、双務的な
関係でものを
考えて行きたいということでずつとや
つて参りましたが、ただ何分
日本の税法と
アメリカの税法との間にはある
程度の違いがございます。この違いはどうしてもやはりやむを得ないと思うのでありますので、その違いをできるだけ双務的な立場をくずさない範囲において、どう調整するかというところに大分
議論が集中したのでありますが、一応目的が達し得たものと
考えております。
簡単に条文についてごくあらまし申しますと、一条は特に申し上げることもありませんが、結局
アメリカでは連邦
所得税、
日本では
所得税及び法人税であります。地方税の
関係は一応入りません。地方税の
関係は御承知のように
アメリカはステートの税とかいろいろございますが、
ちよつと中央
政府を
相手に
交渉する対象になりませんし、お互いの持
つている税の種類も違いますので、地方税の
関係は入りません。連邦
所得税と
所得税、法人税だけでございます。
れから第二条で一応の定義をいたしまして、第三条で、これが普通出て参ります支店、本店の
関係でございます。それでどういう場合において支店として制限納税義務者の
課税をし、どういう場合には
課税をしないか、
日本に本店のある商社がニューヨークにおいて商売をしております場合においても、どういう姿をと
つたらば
課税をし、どういう姿をと
つたら
課税しないか、たとえばたまたまセールスマンが向うへ
行つたというような場合には
アメリカは
課税しない、しかし向うに支店を持
つたとい
つた場合には
課税する、まあこうい
つたような
関係ても
つて、「恒久的施設」と呼んでいますが、これを中心にや
つております。
それから四条は特に申し上げることもないこれは技術的な問題でございます。
それで五条でも
つて航空機の
関係、これは先ほど申しました
船舶の
関係と同じでございますが、相互に免除し合おうというので、五条の二項は
船舶の
関係で、もうすでに生じているものはそのままである。
それから六条以下におきまして利子、
アメリカではこういう場合におきまして百分の十五を越えてはならないと書いてありますが、普通ならば三割の税金で
課税しております。それを百分の十五までにしよう、
日本ではこれが二十とい
つたような、税率がいろいろございますが、もつとも措置法で十五以下に負けておるものもありますが、それはそのまま
考えております。
こういうふうに六条、七条、八条、九条、十条、十一条、十二条みな同じような
考え方で二心十三条までは特定の
所得がありましたときに、制限納税義務者に対してどういう
課税をするか、こういう場合には
課税しない、こうい
つたものを列挙して、最後に十四条におきまして、今度は全然逆の立場でございますが——十三条までは
日本に本店を持
つておる会社が
アメリカで商売した場合には
アメリカではどういう
課税をするか、それと類似の事例でございます。十四条におきましては、
アメリカで
課税を受けた場合に、
日本の方ではそれを受けてどういう
課税をするか、この規定でございます。要するに先ほど言いましたように、向うで納めた税金は
日本の方で差引くということであります。十四条で
ちよつと特色のある規定はその(a)、(b)、(c)の(c)の規定であります。御承知のように、
日本で、ございますと、配当について二割、五分控除という制度がございます。これは法人税は
所得税の前取りであるというイギリス的な
考え方をと
つているところからでございます。ところが
アメリカにおきましては、法人税は個人の
所得税と全然別である、向うでは両方とも
所得税と呼んでおりますが、
従つて二割五分というようなことは全然
考えておりません。そこで
日本の法人税をどう
考えるかという点で、向うの方としましては、たとえば向うの法人が
日本に支店を持
つていて、その法人税を納めた場合に、その法人税を差引く、これは一番のみやすか
つたのですが、配当を受けた人に対しまして
日本の法人税を控除する、これは向うの方ですと、法人税と個人の
所得税と全然違いますから、向うの方としてはそれは
ちよつと
考えられないというので受付けにくか
つたようであります。しかし、この点は——他の点になりますと大体が国と国との
課税権のやりとりの問題になりますが、この点はさらに納税者の負担に響くものでございますから、これはぜひとも
日本側の主張を通したい、こういう
考え方で折衝を重ねまして、結局向うも納得してくれて二割五分控除しよう——
従つて、
日本の方でもら
つた三割の配当は、
アメリカの中でもら
つた三割の配当に比べまして、
あとで二割五分控除の恩典がくつついて参りますから、
日本でもら
つた三割の方が、税を入れると税引きでははるかに有利な配当になる、こういう結論になるわけでありまして、これは外資導入とかいろいろやかましくいわれておる時期におきましては、相当効果のある条文になり得るのじやないかと
考えております。そういうふうに
アメリカの方で
課税権をある
程度放棄してもらいますので、その代償
といつては語弊がございますが、
日本の方では法人税もとり、さらに普通の場合ですと配当
所得に対して
所得税で源泉
課税しますが、この源泉
課税の分はもう
日本はやめよう、それは
アメリカ政府の方に一応
課税権を譲渡しよう、これが(c)の一と二であります。
大体そういう
考え方に基いて全部できておりまして、
あと特に御
説明を申し上げる点はないと思います。なお
両国間の
課税当局はそれぞれの情報交換等によりまして、
脱税防止等についても大いに協力できるという規定をいただいて入
つております。
次に遺産、相続及び贈与税の
関係ですが、これは
考え方は大体前と同じでございます。ただ
ちよつと申し上げますと、向うとこちらと建前が大分違
つております。相続税におきましては、——向うは遺産税
といつていますが、被相続人の残した資産に対して
課税になる、
日本の方では御承知のように相続を受けた人が
課税になる。
従つて、一千万円なら一千万円の資産が残りました場合に、向うではその一千万円に
課税になりますが、
日本ではこれを五人なら五人の人が相続すると、二百万円ずつで税金を納めて行く、相続人が納税者になります。贈与の
関係が一番顕著に違いまして、向うの方では相続税の補完税という
考え方でございますので、贈与がありますと、贈与をした人に税金を納める義務を与えております。一時
日本でもこんなかつこうをと
つたことがございましたが贈与した人に税金を納めてもらう。こちらの方では贈与を受けた人に税金を納めてもらう建前にな
つております。大分
両国の建前は違うのでございますが、しかし
考え方としましては、
一つの相続があり、贈与があ
つた場合に、その機会において納める税金は二重
課税にならぬようにしようじやないか、相続なら相続、贈与なら贈与という
一つの事実がございますので、そこで調整できるのじやないかというので、この全体の
考え方をまとめております。
両国の建前が違うだけに法文が相当複雑な過程にならざるを得なか
つたわけです。
考え方としましては先ほど申したように制限納税義務者の
課税という問題がまず起
つて参りますが、これについて、結局相続財産の所在地がどこにあるか、この点がまず問題になるわけでございます。これは動産とか不動産とかそうした有体財産の場合においてはあまり
議論はないのでございますが、たとえば債権の所在地はどこにあるか、債務者の住所地にあるか債権者の住所地にあるか、あるいは株式の所在地はどこにあるか、こういうように、そういう一種の無体財産権的なものになりますと、各国相当税制が違いましていろいろな建前をと
つておりますが、大体最近におきましては、国内法的にも
日本の
考え方と
アメリカの
考え方とは非常に近くな
つておりまして、それほど大きく調整するところはございません。しかしなお幾つかの点ではそれぞれ歴史的な背景を持
つておりますために、調節でき得ない分もございます。そこで、まず一応
条約において債権所在地を中心に
考えまして、お互いが話合いできる限りは話合いして、一応の線をきめております。第三条がそれでございます。ただこれもまだ話合いきれないというか、両方とも譲りきれない分につきましては、
両国とも自分の国にあるとして見ることも一応認めまして、それぞれの国内法によりまして、それは
あとで別途調節する、先ほどの
所得税、法人税等の場合における十四条の規定と同じような
考え方で、五条におきまして、それを
あとで調節するというような
考え方にな
つております。
申し落しましたが、相続税の場合においても、
日本の税法で、ございますと、相続人が
日本に住所を持
つていれば、その受けたものに対して全部
課税になります。相続人が
日本におりませんでも、
日本にある財産について相続をした場合においては
課税になる、こういう建前をと
つております。
アメリカにおきましては、被相続人が
アメリカに住所を持
つている
アメリカのシテイズンであれば、その遺産について全部
課税になります。そうでなくても、
アメリカにある財産について相続が起きた場合には
課税になります。無制限納税義務者と制限納税義務者との
関係は、
ちようど
所得税、法人税の場合と同じような建前にな
つておりますので、その間の二重
課税については、まずも
つて財産がどこにあるかということに
両国が一致した見解を持つということにできるだけ努めると同時に、その、他国の方で払
つた税金についてはもう
一つの国の方ではこれを差引く、こういうことで調節をとる。
条文がかなり複雑なので御了解しにくいと思いますが、ものの
考え方を簡一単に御
説明申しまして、
あと何か御
質問がございましたら、随時お答えしたいと思います。