○岡崎国務
大臣 この間の御決議の趣旨は
政府に善処を
要望されたものと考えております。
そこで、われわれとしても、まだ残
つておる同胞の引揚げということについては人一倍関心を持
つておるつもりであります。ただ、これは、前にやりましたような集団的の引揚げでなくして、個々の人間の
希望に基いて帰還を認めるという趣旨のように聞いておるのであります。そこで、従来から中共側では、政策的に、日本との間にいろいろの交通を盛んにしまして、これによ
つて何らかの政治的な目的を達するように
努力しておるようなことが推測されがちなのでありまして、われわれといたしましては、国内の状況等にも顧みて、できるだけそういうことのないように努めて来ておりまして、自然中共との間の交通については強い制限をいたしておるのであります。これは、共産主義国におきましては、とかく経済は経済、文化は文化、人道問題は人道問題というふうに截然と区別をされておらないのは、たとえばソ連におきてましても、文化の問題についてもスターリンの指示が必要であり、医学の問題にしても、あるいは芸術の問題にしてすべてスターリンの指示に基いてや
つてお
つて、共産主義的でない経済理論等は
たちまち排斥されるような実情にあるのであ
つて、われわれの方で単に人道問題として
取扱おうとし、あるいは純粋な経済問題として
取扱おうとしてみても、先方におきましてほこれがとかくほかの政治的意図と混同される傾きが多いことを
心配しております。従いまして、今度の問題につきてましては、われわれは非常に苦しい立場に追い込まれておる。一方においては、まだ帰還せざる人々の家族からは、一日も早く帰還させてもらうようにしたいという強い
要望がある。われわれは、前からこの中共との貿易に対する議員団の派遣につきましても、交換的に先方の代表を日本に呼ぶということについては賛成できないので、こちらからだけ行くというなら、それについてはある程度の便宜をはかりましよう、こういうことをはつきり言
つております。また赤十字社等三団体が行きましたときには、そういうことは言いませんでしたけれ
ども、先方の人を招待するというような話は全然なか
つたのであります。向うへ行
つてからこれは突如として起
つた問題でありまして、それがだんだん、先方の紅十字を呼ばなければ、あたかも日本の個別的の今度の引揚げができないかのように言われまして、私としてはその間に何ら関連がないと思うのでありますが、そういうふうに言われております。元来これは人道的の問題であり、また戦争も終りまして八年もた
つた現在とな
つては、日本に帰りたいという
希望がある者を帰さぬという法はないはずでありまして、これは、いずれの国においても、田が基本的な主権を持
つておると同時に、個人の基本的な人権というのは尊敬されるべきものでありまして、これを、紅十字の代表を招待すれば帰れる、しなければ帰れないというようなことは、私はりくつに合わないと思うのでありますが、しかし、そういうことを非常に言われますると、家族
たちのいちずな気持からはそうかと思いがちであり、またいかにも
政府が冷酷であるように思われて、はなはだ心芳しいのであります。しかしながら、引揚げももちろん大事でありまするけれ
ども、同時に、日本の国の将来ということも非常に大事でありまして、この間に国内においてもいろいろの政治的意味を持
つた運動も行われておるようであります。ただいまでは、赤十字が純粋にこの代表を呼ぶという問題から、だんだん左翼系が一緒にな
つて政府に迫るというような実情にな
つておりますので、われわれとしては、そういう雑物がみな除かれて、純粋な問題として
取扱われるのでなければ、日本の国のあり方として、これを考慮することはなかなか困難でということでずつと応待して来ておりますが、今もその気持はかわらないのでありまして、いつこの雑物が除去されるか、純粋な引揚げ問題として考慮せられるということが第一の要件であります。
また、第二点としては、初めは、赤十字の言い方では、中国紅十字が日本の引揚げに対して非常に
努力してくれたから、このお礼の意味で招待したいということを私にはつきり申してお
つたのであります。それで、そういう外交
関係のない国の人々を、か
つてに赤十字社が招待するというようなことを言うことは
間違つておりますが、しかし、そういうようなことを言
つたとするならば、言
つたことを取消すわけには行かないのでありますが、もしお礼の意味であるならば、われわれは、何も紅十字の代表を日本に呼ぶということだけがお礼の
方法で、ほかに
方法がないというわけじやない。りつぱな品物を贈
つて感謝の意を表する
方法もありましようし、あるいは家族
たちの誠意のこも
つた手紙等を集めて、日本の国民がいかに喜んでおるかということを向うに知らせる
方法もありましようし、
方法はいろいろあろうと思う。そこで、そういうことを赤十字村に申したのでありますが、今度はかわ
つて、いや、この紅十字代表を呼ぶということが今後の引揚げ促進に役立つのだというふうに論法がかわ
つて来たのであります。そういう点についても、これはいかにして役に立つのか。なるほど、常識的に見れば、呼ばないよりは呼んだ方が役に立つ、こういうことも言えるかもしれません。しかしながら、中国の今までのやり方、今の政治のやり方を見ますと、中国紅十字の代表が日本に来たいから呼んでくれれば喜んで来るという個人的の意向だけで日本にや
つて来られものかどうか、中共
政府の指示があ
つて、日本に行
つて来いということがなくして、か
つてにや
つて来られるものかどうか、そういうことを考えますると、また中国
政府の方針がどうであるかということによ
つて引揚げ問題はきまるのであ
つて、単に紅十字の代表が日本に特に好意を持つことによ
つて引揚げ問題が左右されるとは私は考えないのであります。
取扱いに多少の便宜はあるかもわからないけれ
ども、これが引揚げ問題の解決の唯一のかぎであるとも私は実ははつきり納得はできないのであります。
従いまして、この
委員会の決議等がありまして、その決議等の意味はよく了承いたしましたが、ただいまのところは、諸般の状況を考慮しつつ、いかに
取扱うべきかということを研究中でありまして、まだ結論を申し上げる段階に至
つておりません。