○国務大臣(
岡野清豪君) 先の
国会におきまして昭和二十九
年度予算の編成等に関する意見の御
説明をいたしますようにお申出がありましたが、
予算編成につきましては
経済審議会の結論も出ましたのでここに御
説明申上げます。
昭和二十九
年度予算編成につきましては、最近の我が国
経済の
現状から、
国際収支の逆調の
状況、引続く災害などによる国費の巨額の
負担、国際
物価に対する
国内物価の割高、
消費物資中心の
価格の高騰などの
物価の不健全様相等、極めて重大な時期にあることに鑑みまして、通貨価値の安定と
輸出の振興とを図り、
経済の定安と自立とを期するため、特に財政の健全性を強く貫くことが期せられねばならないことと考えるのでございます。
即ち中央地方を通ずる財政におきまして、安易な財源調達を排し、経費の総花使用を厳に戒め、効果的、重点的使用に徹し、健全財政、均衡財政の確立に邁進すべきものであると存じます。これがため二十九
年度予算においては税制の改正とも相待ち、特に歳出の膨脹が予想せられ、且つその
支出効果の点におきまして問題の多い公共事業費、災害対策費、地方平衡交付金、各種補助金、
食糧増産対策費などの費目については特にその総花
支出を抑制し、査定を厳にし、経費使用の合理化重点化を図るようにいたしたいと存じます。又
経済自立化のための財政投融資については、必要最小限度のものを重点的に、優先的に確保するようにいたしたいと存じます。この財政投資の方針としては、電力については二十九
年度は電源開発、新組着工は原則として取止め、継続事業に中心を置き、
食糧増産については増産余力の大きい地域について既着工事業の速かな完成を図ることを重点とし、海運についてはその現況と船舶会社の
現状とから見て、海運自立四カ年
計画の一部後
年度への繰延べを考慮し、又石炭については竪坑開発、必要な新坑開発に限定し、
鉄鋼についてもいわゆる第一次合理化
計画分の補完
関係のみにとどめ硫安、合成
繊維についても融資対象を厳選し、やはり重点的施設投資を行うことといたしたいと考えます。その他の開銀融資は
経済自立に必要な分野に限り財政資金に余力ある範囲で考慮いたすことといたしたいと思います。更に中央、地方を通じ行政機構を簡素化し、特に地方財政については徹底的縮減を図りたいと思います。なお租税制度の改善に当りましては、
経済自立の見地から
輸出の振興、資本の蓄積、奢侈的内需の抑制などにつき強力な措置を図りたいと存ずるのであります。
次に我が国
経済の自立
構想に関する基本的な考え方について御
説明申上げます。この試案は立案当時における内外の
経済情勢を基礎にいたし、昭和二十八
年度分からおおむね五カ年間に正常
輸出の増大と
国内自給度の向上により、できる限り
特需等の臨時
収入に頼ることなく、
経済自立の体制を確立することを目標とし、そのために必要な諸
施策とその実施による約五カ年後の
日本経済の構図を示して見たものであります。
その性質は
計画と呼ばれるものでも、又単なる
見通しといつたものでもなく、いわば或る
程度理想を加味した
見通しと考えていいと思います。
以下この試案を作成いたしますに当
つて留意した点、又問題と考えられる点について述べて見ることにいたします。
約五カ年後の
経済の構図を描くに当
つて、先ず出発点となるのは、比較的確定的と見られる人口
増加の推移であります。これは
生活水準を維持するため、どれほどの物資を供給する必要があるかを算定する基礎になります。
次に
輸出の伸びの推移であります。これは過去の推移、現在及び将来の動向を検討するのでありますが、特に地域別、品目別の
輸出可能限度を検討いたしたのであります。併しながら如何に
輸出の
増加に
努力いたしましても、現在の
輸出規模から見まして、その
輸入資金をすべて
輸出代金でカバーすることは困難であります。このため一方におきまして
国内自給度の向上を取上げざるを得ないのであります。ただこれにも資金面、技術面よりして、おのずから限度がありますので、この点どの
程度に見込むかに苦心した次第であります。このようにして
国内自給度の限度が算定せられまするならば、
輸入必要量もきま
つて来ることに相成ると同時に、
生産規模、
国民所得も算定せられるのであります。併しながら、これらはいずれも仮定なり推定なりが入
つて組立てられておるのでありまして、特に次のような諸点に問題があろうかと存じます。
一、先ず
輸出の推定でございますが、これは
輸出商品の
価格、品質に左右せられるところが大きく、これに対する対策を講ずべきことは言うまでもありませんが、一方
世界経済の
動向等によ
つても著しく変化しますので、正確に
輸出可能限度を測定することは困難と言わねばなりません。
二、自給度の向上については、資金調達の問題があるばかりでなく、これによ
つて輸入を削る場合、その反作用として
輸出増加を阻害する面がないとは言えないのであります。
三、これに関連して最近問題にな
つておる
輸入節約の点でありますが、不安不急物資は別といたしましても、その他の必需物資の
輸入を削減することはインフレ、乃至
物価高を招来する危険もあり、なかなか困難なことであろうと思うのであります。
以上
経済の自立を考えるに当
つての考え方なり、問題点なりを述べたのでありますが、この試案の作成当時と比較して、その後の二十八
年度の推移を見ますと、農林水産業部門を除き、
産業活動は大幅に
上昇し、又
国民の
消費水準も
上昇し、このため当初考えました基礎となる初
年度の
経済水準が大きく変化して参
つたのであります。殊に
輸入の
増加が著しいことは注目すべきことと考えられるのであります。又他面
国際収支の面におきまして、二十七
年度は若干ではありますが黒字を示しておりましたのが、本
年度は
主食の緊急臨時
輸入の
関係を除きましても、約五、六千万ドルの
赤字になりそうでありまして、むしろ自立とは遠ざかる懸念があるのであります。勿論当面の現象のみを以て一概に将来を律することは、極めて危険でありますし、私ども必ずしも
現状を悲観的に見ておるわけではありませんが、長期の
見通しの下に、如何にして
経済自立の目標を達成するかにつきまして、更に検討すると共に、これがための
施策の推進に努めて参りたい考えであります。
なお、ここで申上げました
経済自立方策試案につきまして先に
経済審議会より意見の具申のありました「
経済自立のための三目標、四原則」との関連であります。
「三目標」というのは、
輸出の振興、自給度の向上、資本蓄積を柱とするものでありまして、これは先ほど申上げました
経済自立のための基本
政策をスローガン化したものと言うことができるのでありますが、次の「四原則」と申しますのは、この三目標を達成するために当面何が最も必要とされるかを謳つたものであります。面してその中心とな
つている考え方は、
経済の安定を第一の条件とするということであります。
即ち
輸出の振興にいたしましても、資本の蓄積にいたしましても、又自給度の向上にいたしましても、一方においてインフレーシヨンが進み、通貨価値が下落して行
つたのでは、到底これらの目標を達成することは望み得ないのであります。そして
現状におきましては、本
年度の第二次
補正予算案、来
年度の予算案の編成に当り、厖大な予算要求が予想され、これを如何にして健全財政たらしめ、延いて
経済の安定を確保するかが当面の大きな課題とな
つているのであります。私どもといたしまして、我が国
経済の自立達成の基盤を培うために、今後特に来
年度における財政
経済政策の方向如何が極めて重大な意義を持つものと存じておる次第であります。
三、
貿易の現況とその問題点について。次に
貿易の振興、特に
輸出の増大が
経済自立
構想の中心をなすことは前にも述べた
通りであります。ところで、本
年度の
外貨収入について見ると、一月乃至十月において、一億三千五百万ドルの支払超過であり、二十八
年度としては異常の米の不作による緊急臨時の
主食輸入が一億三千六百万ドル
増加するため、先ず差当り
輸出の急速な増大は望まれない
状況にあるのでありますが、この
原因といたしましては、当面各国の
輸入制限、我が国
物価の割高等が指摘されるのでありますが、これに関しましては特にポンド
収入の改善とも関連して英国との直接交渉により、制限の緩和及びその効果の確保を期待すると共に、
国内物価の抑制、
輸出価格の引下げにつきましては、思惑による
物価の高騰を防止しつつ、合理化の促進等総合
施策を推進して参る考えであります。先頃の下期
外貨予算の編成に当り、
主食原材料の確保を図りましたのもその一環にほかならぬのであります。
貿易の振興を図るためには、近隣諸国との
貿易の拡大を期することが必要であります。
東南アジア地域との
貿易につきましては、賠償問題の解決、正常外交の回復、政治的の問題が中心となりますので、これらを考慮しつつ、これら諸国との技術提携、資本財の
輸出等を通じて
貿易の拡大を図
つて参りたいと存じます。
中共
貿易につきましては必ずしも多くは期待し得ないと思われますが、漸進的に
施策を講ずることといたしたい考えであります。
国際
貿易の現況は各国における収支均衡の回復によ
つて正常
貿易への動きが看取され、ポンドの自由交換、為替管理の緩和などが議論されつつある模様でありますが、これらの
情勢に対処するためにも我が国
経済の安定、国際競争の激化に対応し得る
経済基調の速かな確立が要請せられるのであります。このためには最近成立を見たガツトヘの仮加入など対外的な
貿易条件の改善を期することは勿論でありますが、
国内的にも前に述べました三目標、四原則の線に沿い、総合的な自立
政策の推進を図ることが肝要と存ずるのであります。
四、電源開発につきまして。
最後に、電源開発について簡単に申述べることといたします。
電源開発の進捗
状況は、極めて順調で、本
年度は約百二十五万キロワツトの新規設備が完成する予定にな
つており、前例のない盛況を示しているのでありますが、問題は、来
年度以降引続いてこの開発が円滑に行われるか否かにあるのであります。
即ち、昭和二十八
年度以降の長期
計画につきましては、去る十月、第十一回電源開発調整審議会の議を経て昭和三十二
年度までに出力約五百十万キロワツトの開発を完成することを目標にすることに決定いたしましたが、これによりますと、二十九
年度乃至三十
年度において約七十万キロワツトの新規着工を行うこととな
つておるのであります。
然るに、最近の電力需要の趨勢を見まするに、その
増加傾向は予想以上に著しく、右の
計画につきましても、に再検討を加えたいと存じております。いずれにしましても、電力需給のバランスを図
つて行くためには、来
年度においても、継続工事に重点を置き開発を進めて参る考えであります。
以上を以て一応御
説明を終りますが、なおお
手許に
資料をお配りしてありますので御覧願うと共に、詳細につきましては御質問に応じ
政府委員をして御答弁させることにいたしたいと存じます。