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島上委員 学生、
生徒、
保安官、
警備官の
住所の
認定の問題について
調査のため、当
委員会の
決議によ
つて、第二班としての私は、
関東地方水戸、
東海地方名古屋、
北陸地方金沢市の各
地方選管委の
実情を
調査して参りました。この
調査の経過並びに結果の概略の御
報告を申し上げます。
御
承知のように、六月十八日の
自治庁通達は
全国各地の
選管に対しまして
相当の衝撃を与えたもののようであります。と申しますのは、当
委員会の経過で御
承知のことと思いますが、これは、
学生、
生徒の
選挙権についての
昭和二十一年当時の内務省の
地方局長の
通達を数年ぶりに突然ひつくり返した、まつたく逆の解釈を下した
通達でありまして、これがため、
選挙人基本
名簿を作成する面にいまだ経験のないような混乱の事態が起つたのであります。
選挙制度に関心を持つ者にとりましては、等閑に付することのできない大きな問題ではないかと思うのであります。
調査の結果を客観的に
報告する際ですから、ここに
自治庁通達の是非を申し上げるのではないのでありますが、
地方を視察して参りまして、聞くところによりますれば、
自治庁としましては、庁議に諮り、熟考のこととはいえ、かつまた仙台の高裁の判決のいきさつ等のこともあるとは申せ、いま一段の御考慮を払われてしかるべきではないかとの御
意見を
方々で聞いたのであります。
通達の出されたいきさつももちろん一定の根拠の上に立たれたのではありましようが、各
地方の
選管の
事務にあまりにも大きな混乱を来したことは事実でありまして、
通達の
趣旨が端的なものでありまして、その解釈上種々の疑義を生じかつ判断に迷つたという事例にも接しました。これが行きました各地の実際のありさまであります。
まず、茨城県の模様について御説明を申し上げます。
御
承知のように、水戸市、その近郊にありますところの水戸の大学寮では、六月十八日の
自治庁通達に対しまして、
学生が全面的に
反対をいたしました。県の
選管に対しまして、
自治庁通達を拒否してほしいとの抗議が提出されたのであります。この
学生運動を起したことは、新聞紙上等において皆様御
承知のことと思いますが、大略を申し上げますと、茨城大学におきまして、抗議文を提出するとともに、
自治庁通達を拒否してほしいとの
通達を
選管は受けたのであります。
選管といたしましては、かような権能はありませんし、
自治庁通達の方針は
事務遂行上の基本でもありますから、何ら方針の変更はできないとして、
調査票の作製その他
事務を行わんとしたのでありますが、一部の寮においてはまつたく拒否されまして、困難をきわめたのであります。当県
選管の
認定問題の
中心点は、申すまでもなく
自治庁通達に忠実で、厳にその主旨を守ろうとしたのであります。第二、第三の
通達もありましたが、問題の起きました
学生寮のあります村においては、第一
通達の主旨がそのまま踏襲されてあまり変化のなかつたことが、県と
学生との摩擦の最大の原因ではないかと思うのであります。
調査委員の行きました当日におきましても、未だ氷解されないものを見かけましたのは、このことの多くを語
つておると思います。こまかいことを申し上げましてもいかがかと存じますが、前段申し上げました
学生運動、陳情運動の一番問題を起しましたのは、同県東茨城郡渡里村の茨城大学の教養学部、文理学部の
寮生であります。
学生の言い分を聞きますと、この渡里村の
選管の行いました
調査は、
自治庁の第一
通達に強く影響されて、厳格に行われたとのことであります。厳格に
認定の
調査をすることは、事と次第によ
つて何ら疑義はないのでありますが、この渡里村より二百メートル離れたところに同大学の別の寮があるのであります。この寮は水戸市中にあるわけであります。この寮の
学生につきましては、
調査票を用いず、随意に
学生と面接して、
学生の自主的な
意見によりまして、全員
修学地に登載するよう処理されたというのであります。この簡易なる手続きが渡里村の
学生に対して大いに刺激を与えたとのことでありました。このようにして、渡里村の
学生寮の有権者は
調査票の提出を拒否しまして、
住所認定ができず、今回の基本
選挙人名簿には全員
登録ができなかつたのであります。当日
学生八十九名より
選管に対し
異議申立書が提出されている
状態でありました。
同県の他の例を申し上げますと、東茨城郡鯉淵村の鯉淵学院におきまして、寄宿生約百五十名が全部
郷里に
住所があると
認定されたような場合、あるいは多賀郡多賀町の茨城大学工学部寄宿生約百名が全部
修学地に登載されたという
反対の場合、いろいろな環境の事情もありましようし、また客観的なものもありましようが、
調査する側の人の主観に基いてこの重大なる
選挙権行使の
住所の
認定がなされ、厳しく
なつたりあるいは安易に
なつたり、ために同一県下においてすら不統一のはなはだしいものを見かけたのであります。このように異種の国家行政活動が行われることは、決して
選挙の結果にも好影響を及ぼすものと思われませんし、大いに反省すべきものがあると痛感した次第であります。
なお、未登載の者の救済策としては、補充
選挙人名簿の
調製のときに第二段の策もあることではありますが、これにもまして考えるべきは、二重登載が
相当あるのではないかとのことであります。種々この問題については
郷里との通信
連絡でしらみつぶしのような
事務をやらねばならぬが、
事務担当者の人員の問題、また
費用の問題等もからみ、不可能に近いほど困難なことだと思います。基本
選挙人名簿の完璧な
調製は、
選挙権行使の最大な
基礎であり、かつ国民の参政権の重大な使命をにな
つているものであります。今後の大きな問題としてわれわれに課せられた研究課題でもあると痛感した次第であります。
次に、愛知県の実際につきまして、その
調査の次第を申し上げます。当県、なかんずく名古屋市におきましては、大学、短期大学、各種学校百余のものがあり、
自治庁通達の線に沿いまして、学校の
責任者と
連絡をとりまして
協力方を求めたのであります。当市においては、
学生の団体活動、抗議その他
学生運動等はあまり活発ではなかつたのでありますが、
一般の空気としましては、
自治庁通達は
学生を圧迫するものだとの印象を与えたもののようでありまして、従前
通りにしてほしいとの陳情あるいは疑義の釈明要求などで、一日五人ないし十人くらいずつ連日にわたり
選管に来まして、延人員にしておよそ八百ないし千人に及んだというこであります。このために
事務の渋滞を来し、
事務遂行上多大の支障を生じたとの説明がありました。市中において
反対の
署名運動等も見かけたとのことでありましたが、
学生の行動は平穏裡に行われたとのことであります。これは、十月の、五、六日に
大阪において開かれました五大都市
選挙委の連合協議会の次の
決議によりまして、
学生の要求がおおむね取り入れられた結果かとも思われます。すなわち、その
決議と申しまするのは、
自治庁の九月二十九日の
通達に従い、
学生、
生徒も
一般人と同様に
調査し、
生活の
本拠をも
つて住所と
認定するというもので、この
決議の線に沿
つて行つたので、
学生も納得が
行つた模様であります。この
決議の根本精神を申せば、
学生の特別
調査は行わないのだ、ごく簡単に申しますと、元のまま白紙に返つたということで、このことは地元の新聞報道機関でも大いに取上げたとのことであります。
次に、石川県について申し上げます。金沢市における大学寮の大部分は九月中に
調査表の提出があり、一部金沢大学
学生代表が
自治庁通達に
反対の抗議があつたようでありますが、
市選管では、
学生、
生徒が学費の大半を
郷里から仕送りを受けているか、またはその
居住地でおもに自分の収入で
生計を立てているかなどということについては、特に資料の提出を求めたりしないで、
学生の良心的な申し立てをま
つて選挙権の所在をきめる考えであるとの意志表示をしましたので、
学生は
了解して、何ら摩擦なく、大学側にも
了解を求め、あるいは学校当局に出かけて
協力を求めて、
事務の遂行に支障を来さなかつたとのことでありました。
以上、各地の
選管の事例を見まして、
自治庁通達が各地で不統一に解釈され、ばらばらに行われていることは、何としても解せない問題であると考えた次第であります。またこのような結果からしまして、
修学地の
選管と
郷里の
選管の
連絡はまつたく不十分で、一、二の事例あるのみで、その他はほとんど
連絡がされていないというような状況です。従
つて、先ほどの
報告にもありましたが、二重
登録の場合と、またどちらにも
登録されていない、つまり
選挙人名簿から脱落している数が
相当数に上るのではないかということが想像されるのであります。
最後に、本問題に対する
調査いたしました各地の
選管の意向を総合いたしますと、今回発せられました
自治庁通達のようなあいまいなものは排して、
学生、
生徒、
保安官、
警備官の
住所の
認定については、一刻も早く、一点の疑義の生じないよう制度的、立法的に
措置してほしいとの
要望であります。
また、この際つけ加えておきますが、
住所の
認定問題、基本
選挙人名簿作製については多額の
費用を
地方で負担しているのでありますが、政府においてはこの点について何らかの特別の考慮を願いたいという強い
要望が、このたびの
自治庁通達で痛感したところでありますが、
名簿の完璧なる
調製もさることながら、これを十全に活用するところの
選挙、すなわち
選挙啓発運動こそ民主日本再建の原動力であるから、政府は
選挙の実態を把握されて、その根本精神を喚起することに思いをいたしてほしいとのことも
要望されましたので、ここに申し添えておきます。以上簡単ながら御
報告申し上げます。