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1953-11-27 第17回国会 参議院 通商産業委員会 閉会後第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年十一月二十七日(金曜 日)    午前十時五十二分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     中川 以良君    理事            松平 勇雄君            海野 三朗君    委員            黒川 武雄君            西川彌平治君            松本  昇君            岸  良一君            西田 隆男君            藤田  進君            三輪 貞治君   国務大臣    通商産業大臣  岡野 清豪君   事務局側    常任委員会専門    員       林  誠一君    常任委員会専門    員       山本友太郎君    常任委員会専門    員       小田橋貞寿君   説明員    通商産業省軽工    業局長     中村辰五郎君    労働政務次官  安井  謙君   参考人    一橋大学学長  中山伊知郎君    協和醗酵工業株    式会社常務取締    役       桑田  猛君    王子製紙労働組    合中央執行副委    員長      池之谷吉春君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○公共企業体等労働関係法第十六条第  二項の規定に基き、国会議決を求  めるの件(アルコール専売事業)  (内閣送付)   —————————————
  2. 中川以良

    委員長中川以良君) それでは只今より委員会を開きます。  本日は昨日に引続きまして、公労法第十六条第二項の規定に基き、国会議決を求めるの件を議題といたします。  昨日は当事軒といたしまして労働組合通産省当局並びに仲裁委員会意見を聞いたのでございますが、本日は当事者以外の御意見参考として承わりたいと存じます。参考人といたしまして本日御出席をお願いいたしましたのは中労委会長として労働問題に御造詣の深い一橋大学中山学長、それから民間アルコール業者として本件に関心をお持ちになつておられまするところの協和醗酵株式会社桑田常務、更に民間アルコール業王子醗酵株式会社から出ておられますところの王子製紙労働組合池之谷委員長のお三方でございます。本日はこれらのお三方から本件に関する御意見を承わりまして、後質疑に移りたいと存じます。  お三方は御多忙のところを特に本日本委員会のために御出席を賜わりまして、誠に有難うございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申上げます。そして順序でございますが、中山学長は午後に御所用がございまするようでございますので、先ず最初中山学長の御意見を承わつて、これに対する質疑をいたしたいと存じます。中山学長からはアルコール専売のみに限ることなく、裁定の持ちまするところの意義と今回の裁定一般賃金との関係並びに日本経済の現状からいたしまして裁定を如何に見るべきか等につきまして忌憚のない御意見を承わることができますれば誠に幸甚と存じておるわけでございます。それでは中山学長お願いいたします。
  3. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) 一橋大学中山でございます。今度のアルコール専売仲裁裁定につきましては、私恐らく参考人としての資格がないのではないかと存じます。と申しますのは、アルコール事業につきましてこの御依頼を受けましてから急遽私勉強いたしましたような次第で、十分に研究が行届いておりませんので、そのこと自体につきましては私の発言力は甚だ弱いということを御承知願いたいと存じます。ただこのたびの現業としてのアルコール裁定自体につきましては、私どもすでに仲裁裁定がございました以上は、国会において十六条二項の規定に基づいての御審議を得ましたらば、これは当然に採用さるべきものであると存じます。これ以外の途が開かれていないというのが今我々の持つております公労法の命ずるところでございまして、公労法にすでにあのような規定があります以上、これを遡つて、例えば公労法の決定の仕方がどうであるとか、或いはその内容がどうであるとかいうことを遡つて技術的に追究するということができないような仕組になつておるのじやないかと私は考えるのでございます。つまり公労法規定の第十六条第二項のあの定めは、これは財政支出の上から、又資金の画から国家の負担に堪えないということが証明された場合には、必ずしもその仲裁に、或いはそれに基く協約に拘束されることがないという消極的な規定でございまして、従つて物価に関する関係とか、国民経済上の影響とか、そういう大きな問題は無論国会の重大な審議事項ではございますけれども、併し遡つて仲裁裁定根本からこれを考え直して行くという余地がないようにできておるのではないか、法律の建前として私はこのように考えるのでございます。そうなりますと一体今度の国会でこのように議題を重要に取扱われており、一般の社会におきましても公務員給与水準と併せて今回の問題を慎重に考えておりますゆえんは、このような裁定の実施が、或いはそれに伴うところの公務員並びに現業員給与水準上昇というものが国民経済に及ぼす一般的な影響、これを非常に重要に考えておるのでございますから、そういう点から申しますと一体公労法のこのような定めが果して今日のような形で適当であろうかという、そのような問題に問題が転化するのではないかと存じます。これにつきましては私どもがここでこれをこのように改正するのがよかろうというようなことを申上げる場合ではないと存じますけれども、併し若しもそのような改正というようなことが問題になりますならば、私は少くとも現業の、現業と申しますのは、今回の官公労組の要求の中で公務員を除きました他の部分につきましては、これは一つは常時に賃金委員会というようなものを持ちまして、そうして仲裁取扱方が今日のように限定された形で行われないようにして行くことが一つ必要ではなかろうかと存じます。若しもそのような賃金委員会というようなものの構成や権限が非常に面倒であるということでありますならば、せめてこの仲裁委員会構成について、もう少し政府と最後の場合に衝突をしないでいいような機構を作ることも必要ではなかろうか、このように考えております。これは公労法規根本の問題になりますのでこれ以上の発言をここでは差控えたいと存じます。  それからもう一つ結論的に申しますというと、アルコール専売という事業自体につきましては、私の甚だ浅薄な研究の結果でございますけれども従業員は全国を通じて千五百名程度、それからここで以て取扱つておりますアルコールの数量は年間一千九百万リツター、そのうちの半分ぐらいがこの事業に属しておりまして、あとの半分は民間からの買上げによつていると、こういう事情であるのでございます。若しこのような事態が間違いのないことでありますといたしますと、果してこれを国営事業といような形で持つていることがいいか悪いかという問題も一つ考えなければならないのではなかろうか。これは決して今回のような問題が単に一般公務員人事院勧告に基くあの問題とからんでいて、労働問題として面倒になるというような技術的な問題だけではなしに、およそ今日の状態の下で国営事業、或いは専売事業というようなものが如何にあるべきかという問題として再考を要すのではないかと存じます。勿論国策の上から申しますと、規模が大きいとか小さいとか、従業員の数が多いとか少いとかいうことだけでこの問題を決定すべきではありますまい。けれどもアルコール専売の場合におきましては、これが技術的に、或いは国の財政的な面から見て、或いは国民生活という点から見まして、果して専売にするだけの重要性を持つているかということは、これはやはり再考余地があるのではないかと存じます。  さてそのようなアルコールの場合の仲裁裁定につきましての直接の論議をいささか離れまして、只今委員長からお話のございました一般国民経済の上から今度の仲裁裁定をめぐる給与水準引上げをどう考えるべきかという問題についていささか私見を申げたいと存じます。  この問題は、しばしば賃金物価悪循環というような形で問題にされて参りました。悪循環という言葉は、恐らく貸金の値上げを或る時に抑えるために使われた言葉ではないかと存じます。若し賃金を上げるならば、当然それは物価にはね返つて、そしてその行き着くところを知らないだろうと、そういうようなインフレ傾向を抑えるためには先ず賃金の安定を図るべきだと、このような意味合悪循環という言葉は使われたのではないかと私どもは考えております。けれども悪循環であろうと善循環であろうと、賃金物価との間に極めて密接な連絡関係があることは、これは明瞭なんでありまして、逆に物価上昇というものが今度は賃金上昇を呼起すという事態も十分に考慮に入れなければなりません。例えばこのたびのアルコール専売に関する調停なり、或いは仲裁なりの経過を見ましても、それは常に民間給与水準及びそのほかに一般物価騰貴、特に生計費騰貴というのを勘定に入れております。生計費騰貴というのは申すまでもなく一般物価騰貴の一部分、或いはその一面でございまして、従つてそのような面から賃金裁定が行われることになりますというと、ここにも明白に物価からの賃金への影響というものも考えられていると存じます。そこで一体経済の安定を図つて行くためにどちらに重点を置くべきか。賃金重点を置くべきか、それとも一般物価重点を置くべきかということが問題になると存じます。これは時期によつて違うのでございます。若しも丁度私どもが終戦の直後におりましたように、生活自体が困難なような賃金水準であります場合にはこれは何と申しましても先ず以て食えるだけの賃金というものを保障しなければ、これは問題が初めから始まりません。これはどのような理由を以て申しましても食えない賃金で働けということは誰にも言えないことでございまして、その場合には賃金の少くとも生活の最低を保障するまでの引上げとその安定とが第一になると存じます。けれどもそれ以後丁度日本経済経過がそれを現わしておりますように、一般生産上昇し、そうして経済状態が成る程度回復いたしました場合には、今度は物価のほうを重点に考えて、そのために賃金騰貴を或る程度抑制するということがむしろ合理的と考えられる時期もあるのであります。これは単に理窟を申上げているよりも、恐らく実例を申し上げたほうがいいのかと思いますけれども、丁度イタリアが今から二年前に、生産一般ヨーロツパ諸国並みに非常に急速に回復した。その回復した時期を狙つてイタリア政府のとりました方針は、先ず以て物価を安定する、そうしてその上で徐々に一般国民所得の増加を図り、その反映として実質賃金が上つて行くように図ろうという方針であつたのであります。この方針がその当時相当労働組合その他の批判を受けたのでございますけれども、併し今日から振返つて見ますというと、そのような政策とつたということが、少くとも今日のイタリアの総体的な安定と、そうして経済基盤確固化とを保障しているように思われます。同様のことが両ドイツでもとられているのでございまして、御承知のように、西ドイツ経済改革は、あの大きなマルクの通貨改革というものを基盤にいたしまして、その上に何よりも先ず物価の安定ということを中心に問題を進めて参りました。その結果は明らかに統計の示しておりますように、生産力向上テンポよりも、賃金上昇テンポのほうが小さいのであります。そのことは勿論労働組合にとつては不平の種になるのでありまして、これが西ドイツの大きな賃金問題の基礎になつていることはこれは申上げるまでございません。けれどもそのような経過を辿つたことが最近伝えられております。生産戦前の五割を突破して上昇し、一五五%、それから貿易が、これは一九五二年、昨年だけでございますけれども、輸出四十億ドル、それは輸入の、而も非常に大きな食糧輸入を含む輸入ドイツ食糧は御承知のように必要の半分を輸入に仰ぐような状態にございますが、そのような大きな輸入をカバーしてなお商品貿易のみをプラスになつたというような状況を招来しているのであります。そのような点から申しますというと、私は日本の現在の生産状況、これは戦前に比較いたしますというと、基準のとり方は幾らか問題がございますけれども、若し一九三七年という一般国際水準をとつて考えますならば、漸く一二、三〇%というところでございましよう。この時期を狙つて、そうして今は物価の安定というものを企図すべき時期ではなかろうか考えるのであります。この考え方に対して最も重大な、恐らく一般労働組合、或いは勤労者階級からの非難と申しますのは、それは日本の現在の給与水準がなお戦前に対して低いということ、或いはもう一つ大きく申しますというと、世界の水準比べて日本国民所得水準が低く、従つて個々の、一人当りの国民所得も低いということであろうと存じます。この点は日本イタリア西ドイツと同じような政策をとることの非常な大きな障害になると存じますけれども日本給与水準の低いということはそれは国内的に見ましても一般的な事実なんでありまして、特に現在の雇用労働者水準だけが低いということではない。それから国際的な絶対水準において低いということは、これも又歴史的な日本生産力全体の問題でございまして、これを例えば官公労組或いはその他の大組合賃上げ闘争によつて解決するということではこれは問題の解決ができない性質のものなのであります。殊に今日我々が考えなければならないことは、すでに国民分配所得の面から見まして、単なる賃上げ鬪争によつて賃金を増額して行くという運動には一定の限界が来ている。これは詳しい統計数字はすでに経済白書で明白になつておりますので、私がここで特に申上げる必要はないかと思いますけれども、今日の国民分配所得昭和二十七年度について見ますというと、勤労所得特に賃金所得に割かれております国民分配所得分は全体の約四五%、そうしていわゆる業種所得、これは農民も含んでおります。中小企業も含んでおります。そういう業種所得に割かれておりますその比率が約四六、もう殆んどとんとんの比率を占めておるのであります。この比率から見ましてこれは直ちに算術的に明白なことでございますけれども、現在の国民所得の大きさをそのままにしておきましてそしていわゆる勤労所得だけを倍加するということは不可能なんであります。若しそのようなことが行われますならば、それは国民の非常に重要な部分、即ち何と申しますか農民層それから中小企業層に食えない状態がなければ、食えない状態が招来されなければできない事実なんであります。それでは賃金は全然上げることはできないかと言えば、それはそうではございません。これは国民所得の大きさ、全体が大きくなれば勿論大きくなりますし、それから比率の問題でも、日本と欧米と比べますというとなお若干の較差がありますから、その点については私は賃上げの余裕がないとは申しません。けれども私の申しました例は非常に極端な例でございますけれども、若し日本勤労所得水準が現在のままで倍加いたしまするとしますと、それは九〇%以上をそこで占めることになる。そのことは不可能を意味するものなんであります。ですから結局においてこの賃金水準を、勤労者生活水準引上げて行く源泉は、これは生産力自体向上に待つて行かなければならない。分配闘争が全然意思味がないというのではございませんけれども、決して分配闘争だけでは解決されない問題に直面している。これが物価の安定を主軸にしてそうしていわば将来的な賃金上昇を狙うという政策が西欧の若干の国々において実験的にとられており、それが今日成功したと言われているゆえんなのであります。で賃金水準向上、これは勿論一般国民生活向上という面から見ますれば経済の大理想でありまして、誰でも反対のあるところではございません。けれども、これには二つの途がある、或いは二つ考え方がある。つまり目前に現在的に問題を考えまして短期的な賃上げの形をとつて問題を解決しようという場合と、いささか長期的にそうして計画的に問題を見まして、そうして生産力を充実することにより将来の実質所得を増加して行こうという方向と、二つございます。不幸にして現在までの賃上げ闘争の様相というのはこの将来的な長期的な題というものに対する考え方が少いのではなかろうか。この問題は使用者の側においてもそういう点を十分に説明する資料を持つていなかつたし、労働組合のほうにおいてもこれは単に官公労組のみならず一般労働組合においてもそのようなところまで考えを及ぼすだけの余力を持たなかつた。若い、そして伸びているところの労働組合にとつてそのようなことを要求するのは恐らく現在までは無理であつたでございましよう。けれども、今日において日本経済状態あり方全体を考えますというと、これはこのあたり一つ大きな考え方相違をもたらさなければならないのではなかろうか、このように考えるのであります。そのような意味におきまして私は物価とそして賃金水準との交流関係、或いは循環関係というのはこれは当然の事実として認めなければならない。その上で日本の若し物価安定ということがこれが現在の経済を進めて行く場合の重要な基底でありますならば、その点からそういう立場から賃金水準その他をも一緒に考えて行かなければならない。そうなりますというと、現在のような民間水準上昇率を見てそうしてこれを公企業体或いは公務員給与水準にして行く。今度は公務員給与水準公企業体賃金水準上昇を見て逆に民間がそれに鞘寄せして行く。これはおかしな話で、そういう水準に完全に合わしただけでは鞘寄せするという問題は起らないじやないか。こういうように言われますけれども一般に現に行われていること、これは平均的に行われているのですね。おのおの事業がそれぞれの採算性やそれぞれの歴史性やそれぞれの理由によつて一定賃金水準が出ている。それを平均してとるということは一つの新らしい踏み出しなんであります。その踏み出しは当然に或る反響を今度は民間一般賃金水準に及ぼして行くに相違ない。殊に若し公企業体のそのような賃上げが、これはアルコールの場合と少し離れて恐縮ですが、国鉄の運賃の値上げであるとか郵便料金値上げであるとかいうことにはね返つて参りまするならば、その技術的に計算した影響力がどんなに小さくても一般的にはこれが賃金上昇の刺戟になることは明白であります。そのような点から考えますというと、我々はこのあたりで以て一つそのような循環的な賃金きまり方、きめ方といいますか、むしろきまり方、これは止むを得なかつたきまり方なんでありますが、そのようなきまり方に対してこれは労働組合のみならず使用者の側もそうして中立と言われておるような側も一緒になつて問題を考えて行くべき時期が来ているのではないかと、このように考えるのであります。甚だ不十分でございますが、一応これで公述を終ります。
  4. 中川以良

    委員長中川以良君) 有難うございました。大変尊い御意見を承わりまして誠に感銘を深ういたした次第であります。  ちよつと皆様にお諮りいたしまするが、植竹議員から本日委員外発言を求められておりますので、委員長はこれを許可いたしたいと存じますが、御異議ございませんでしようか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 中川以良

    委員長中川以良君) ちよつと速記をとめて。    〔速記中止
  6. 中川以良

    委員長中川以良君) 速記を始めて。  それでは御質疑を願います。
  7. 藤田進

    藤田進君 若干遅れて参りましたので、先生の御意見一部はお聞きとりできなかつたわけでありますが、先ず現在の制度自体、その仕組についての御意見と、それから日本の現在の経済事情の下における賃金経営の本質的な面についての御意見があつたと思うのであります。先生中労委会長を担任せられ、経済学者として非常に造詣の深い方でありますので、特に私は今むしろ賃金あり方の基本問題と言われる部分についてお教え願いたいと思うのでありますが、現在御承知のように問題が提起されておりますのは、三公社五現業について仲裁裁定を実施するについて予算上の措置国会においてなされなければ実施できない、一部については資金的な問題もある、こういう問題に逢着しております。只今の御意見を具体的な問題に当てはめますと、むしろ現在の賃金水準をキープして、一方物価の安定への方向に施策さるべきでであるというふうに印象を受けたのでございますが、本委員会にかかつておりまするアルコール専売につきましては、昨日来いろいろ調査も進めましたが、先ず当局側意見を総合いたしましても、又労働組合側資料を徴しましても、この仲裁裁定を完全に実施するに足るいわば資源もありまするし、又一方民間水準、或いは同種産業賃金水準等から見ましても、これらの権衡から見ましても決してこの仲裁裁定が高いものではなく、むしろ私どもから見れば将来物価上昇も容易に予想し得るときの状態としては低きに失するのではないかという憾みさえある内容でございます。こういう具体的な問題について今の御意見からいたしますと、さていずれにすべきか、予算上の措置をして仲裁を実施させるというこの制度をやはり権威あらしめたいと同時に生活改善をしてやりたいという面をとるべきか、或いは物価安定というものがさように簡単になかなか行かないと思いますけれども、むしろこの際具体的の問題に当面して且つ仲裁裁定についてはこれを履行をむしろしないでもそういつた基本問題に入るべきかということについて、少し具体的な御意見をお伺いいたしたいと思います。
  8. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) 只今の御質問でございますが、これは私最初に申上げましたように、仲裁の具体的な案、つまりアルコール現業について一万四千二百円でございますか、この金額、それからその裁定のその他の条項、これはすでに仲裁裁定がございました以上は受ける以外に政府としても途はないのではなかろうかということをすでに申上げたのであります。つまりこの点については現在の公労法規定から申しましてあれだけの手続を経て、仲裁、その前に調停、こういう非常に慎重な手続を重ねてこれが決定されている。これについては当事者の双方は受諾しなければならない義務を負うている。その義務に対するいわば一つの歯止めと申しますか、修正的な一項だけが十六条の二項に規定されている。そうなりますというと、若しその点で只今藤田委員がおつしやいましたように、別に問題はないということが確認されているということになりますれば、これを拒否する理由は何にもない。即ちその場合には具体的な仲裁裁定の問題としては、そして現在起つている問題としては私は当然これを受諾すべきである。こういう意見最初に申上げたのであります。ただその場合に一般的な経済問題としていたしますというと、先ほどから申上げましたようにいつか、これはいろいろ事情の判定に問題がございますから、或る人は今日ではすでにその時期だと申しましよう。私はその意見でございます。それから或る人はもう少しまだ足りない、もう少し先にならないというとこの物価上昇の勢いというものも予定されなければならないような状態にあるので、今物価安定というものを、直ちにしてあらゆるものを抑えて行く、特に賃金を抑えて行くというようなやり方はこれは現実的でもないし、むしろ不可能ではないかというような考え方もございます。その点については時期の認定、その下にありますところの状態の認識、これはいろいろ意見がございましようけれども、いつかはこれをやらなければ日本経済が建直らないということは、これはむしろ経済的な立場から申しますというと常識であろうと存じます。そのような時期をいつにきめるにいたしましても、その場合には何かここで全般的な立場から賃金物価との関係を調整し、或いはいずれに重点を置いて他を従として考えるかというような態度を決定しなければならない。その場合を考えますというと、私は一面においてそのような時期においては或いは公労法の現在の規定がこれが不備なのではなかろうか、このような形だけでは、そして現在のような構成だけではその問題を取扱つて行くのには不便ではなかろうかということを考えます。その意味におきまして最初に、公労法規定が若しも改正というようなことになりますならば、そういう時期、或いは問題を提起される時期が参りますならば、一つには賃金委員会というような常時的な機関でこれを検討するようなことが望ましいし、或いは現在の機構自体について内容的な変更をすることが望ましいのではないかということを申上げたわけであります。
  9. 藤田進

    藤田進君 よくわかりました。私聞き漏らしていましたので、その点重複したように思います。今度の仲裁裁定内容を見ますると、従来もよく民間産業にとられたように、毎勤などを一つの基礎としまして、統計の非常に技術的に遅れて間に合わない部分については一定の計算方式によつてその物価上昇などの延長を求めて、よく先生などおやりになる似たような方式で一万四千二百円でありましたか、出してあります。これが、九月現在を一応の基準に抑え、少くとも将来いつまでかの賃金ということになつているのであります。この賃金計算の事情から申しますと、勧告の趣旨というものは、昨日今井仲裁委員長からもお伺いいたしたのでありますが、やはり実権期日が八月ということになつているのはすべて一つのいわゆるワン・セツトとなつてこの仲裁裁定というものがなされておりますので、世上伝えられておりまするようにこれが一月とか或いは又新年度の四月とか、こういうふうにかなりの期間ずれて参りますると、物価の変動延いては生活への影響という、これは統計的には毎勤に現われて来るという、こういつたものも横ばいでない限り無論ございますが、と同時にこの専売アルコールの千数百名の構成しておりまする人的な面、例えば年齢的に退職する人といつたような面なり、その他現実には今日米の値段がどうであるとか運賃とかいろいろなものが言われておりまして、細かなものを挙げれば相当な部分異動もあり、従つて仲裁裁定が一月ということになりますと、時期がそれだけ遅れていわば時期だけ違つた仲裁裁定を呑んだんだと、こういうふうには言えないで、若し一月だとすれば一月に相当するやはり計算ということがなされなきやならんではないかと、まあこういうことについて、今井仲裁委員長は簡単に言えばその通りだと、こういうことでございました。従来私ども調停なり仲裁を見ますると、昨日も今井仲裁委員長も経験談を若干言われておりましたけれども、とにもかくにも面当事者が歩み寄つての解決という熱意が非常に少いし、仲裁者、調停者として非常に因る、又そのために非常に独自な自主的な立場から断を下さなければならないというような点も言われております。これを考えて見ますと、取りも直さず調停或いは仲裁過程におきまして、いずれかの一方が解決への熱意を進め過ぎて譲歩をいたしますと、自然譲歩しただけ却つて損をするというような悪い習慣はまあいわば寄せて二になる式のものも、やはりこの仲裁委員会、公企労法による調停委員会においてもあつたのではないか。又それに更に加えて、一旦出された調停案は、これは民間の場合も若干はあるやに見受けるのですが、殊に公企労法、今回の現業関係一般を通じて出された調停案は、もう両当事者ともこれを拒否する。その代り次には仲裁が待つているので仲裁にかける、政府のほうでは仲裁に出ても国会へという形で国会へ逃げ込む。国会は御承知のように政党政治でございますので、時の政府と多数派は一体をなしておりますから、呑むまいと思えば呑まないような講釈は容易にできるわけで、いわばそういうふうにだんだんと調停から仲裁へと不成立のままで行く過程に、相当か時期がやはりかかつてしまいますので、自然やはり七月の要求で調停案は四月実施ということになれば八月になるし、八月の仲裁案は国会召集その他にひまどつて、つい一月とか四月とかいう形で、もう過去例外なくこういう形で来た。これを要するに、仲裁或いは調停の見地から見れば、極めて権威のない仲裁案になつてしまう。これは労使間のいわゆる私法上の労働協約の面からも、労働協約上仲裁定めをしておるところもあるわけですが、こういつた場合には、無論完全にこれに服するという線が強いにかかわらず、却つて政府とこの公企体、或いは公務員の間における労使関係というものは、民間よりももつと仲裁というものがふしだらになつてしまつて、権威のないものになつてしまう。こういう点が逆に悪循環して、労使の自主的な解決というものがやはり促進されない。まあこういうふうに非常に長く申上げましたけれども、私ども非常に強い印象を昨日来受けております。従いましてこの仲裁案について考えますと、源資的には問題がない。事務的にバツク・ペイというものが、相当なやはり手数を要するという面はこれはわかりますけれども、すでに仲裁裁定がなされた九月二十九日自身が、八月以降実施となつてバツク・ペイを勧告しておるという点からいたしましても、五十歩百歩であるから、やはり仲裁裁定を実施するということは、完全に時期的にもやはり八月から実施すべきだ、重大な支障も経理的にないのでありますから、このように考えられる面と、逆にやはり過去バツク・ペイというものはその例が余りない。いわば異例に属するものであつて従つてこの際可能な速かなる時期、いわば一月とかいうような議論と対立している点が第一の点であります。  それから第二の点といたしましては、公労法の建前から申しまして、各企業体別に、やはり仲裁或いは調停委員会がそれぞれ持たれて法律的な独立したものになつております。これを民間産業に例えて見ても、或いは日通、私鉄或いは電産とか、その他公益事業以外の大きな産業、それぞれ調停をなさる場合に成るほど横に若干の睨みはきかせて或る程度の権衡ということはこれは否定いたしませんし、又組合側においても仮に電産が幾らだから日通もそれくらいにしてもらいたいという要求もしばしばあると思いますし、これは両者間に横の社会水準と言いますか、権衡というものが言われております、主張もされておりますけれども、ただこれが余りにも非常に強く主張されるがために、今回の場合にこの八つの仲裁に対して、或るところは、例えばアルコール専売のごとき、容易に解決し得るものでも、これを解決すると他に影響があるということで、徒らに延ばされてしまつている。予算上資金上問題がないにかかわらず、仲裁が呑まれていない。これは国鉄、専売その他電気通信に影響があるということが非常なウエイトになつております。従つてこの権衡論について、先生はこの具体的な問題を解決するために、六社については源資的予算的に、ただ予算総則の枠を拡げればいいという事務的な措置をむしろやつて、資金的には問題がない。あと一社について若干資金的な問題があるのではなかろうか。こう言われておるのでありまして、若しそうだとするならば、この二社が実施が比較的困難だということによつて、他の六社の解決というものができないというふうに、非常に権衡論が強く今日出ております。ところが仲裁裁定というものは御承知のような内容でありますので、極めて不当な、高かつたり或いは低かつたりというよりも、比較的第三者の月から見れば、妥当なものだとするならば、この際何といつても可能なものから逐次仲裁によつて、解決がなされるのが至当ではなかろうかと思うのが、私どもの見解でございます。この第二の権衡論、これらについて、一つ先生のお考えをお願いしたいと思うのであります。
  10. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) お答えいたします。第一の問題は実施の時期が具体的に申しますと、仲裁裁定がございましてから政府が実施を内定しておると伝えられておる時期に比較いたしますと、五カ月の距離がある。その五カ月の距離を埋めることが完全実施ではないかという御意見でございます。この点につきましては私ども調停なり或いは仲裁なりの経過を拝見いたしますというと、確かにそこに使つてあります方法はこれは藤田委員も十分御承知のようにまあ最小自乗法によるところの直線の当てはめであるとか、或いはその他の方法をとりまして現在までの物価なり賃金なり生計費なりの騰貴の趨勢を当てはめて出した金額でございますから、その方法を根底といたします限り、八月にきまつたものは、それは一月のものではない、こういうことは明白でございます。併しまさにその点に問題があるのでございまして、若しそれを更に先の騰貴を常に織込んで行かなければならないという情勢になりますというと、第二段で私が申上げましたような物価の安定と賃金との関係というものについて、依然として賃金を先にして物価を後にするという考え方にならざるを得ない。そうなりまするというと、恐らくこの情勢というものはずつと長く続いて行くのではなかろうか。常にとめどもなく続いて行くということができればいいのでありますけれども、それには一定国民分配所得という面から見ての限界がある。若しも更に附加えますれば、私は大企業と、或いは全国的な企業とそうして非常に小さい中小企業との較差の問題もあると存じますが、それはいささか問題が別になりますから、ここでは繰返しません。そこでそのような考え方で一口に出しますというと、五カ月のこの時の遅れというものは私は完全実施という言葉に当らないということを認めますけれども、併しながら具体的な問題としてはこれを呑んで解決してもそんなに悪い結果ではなかろうという意見を持つております。根本理由はそれは今度の公務員の給与ベースにいたしましても、三公社五現業のこの仲裁案にいたしましても、出ましたものは成るほど全国で現在行われておりますところのいろいろな企業の賃金統計的な集計であり平均であり、それを勘案した結果でありまするから、現状を反映しただけと言えるようでありまするけれども、これは一つの新らしい貸金水準である。それは決して単に全体のものを反映したに過ぎないというようなものではない。やはり日本賃金水準物価に対しては新らしい起点として考えられるべきその意味において新らしい一つ水準であるということを考えますというと、この新らしい水準を打立てて行くために五カ月のその時期の遅れがどう考えられるべきかという点に問題が帰着すると存じます。そういたしますと、私は計算の方法から見て当然と考えられる一月と八月との相違というものを、特にこの新らしい賃金ベースという点から考えますというと、重要視する必要はないのではないかというのが私の見解でございます。従いましてこの点について完全実施を要求して、そうして遵法闘争というようなことをやられておる状態は、私は国民の一人としては非常に遺憾な状態であると、このように考えるわけでございます。  それから第二の問題、均衡論でございますが、均衡という点から申しますと、それに引つかけてそして全体の裁定実施を遅らせるということは悪い、これはその通りでございます。確かに支払能力の違うところもある。明白に完全なる仲裁裁定の実施のできるところもある。そういうところをなぜ遅らすかということは、これは問題になると存じます。で若しもそれをばらばらに取扱うことができれば私はそれも一つの方法だろうと存じますが、これも私の今申しました新らしい賃金水準の設定という点に鑑みますというと、これはやはり切離せない問題じやなかろうか、恐らく切離せない問題があるために、この官公労の共同闘争という中にも、別にアルコールが特殊の地位を占めているのではない。やはり他の現業或いは公社と同じような運動方針に従い、同じような共同闘争、これを展開しているということになりまするので、そういう一般的な情勢を見まするというと、やはり共通の一つの新らしい水準ができ上るという意味においてはばらばらの実施が資金的に可能であります場合においても、これはやはり共通に取扱うのが本当じやなかろうか。それから均衡論とか何とかいうことではなくて、むしろ今度の賃金裁定のいわば基本的な性格、或いはいつもこのように国会で問題になります公務員給与というような一般的な水準を薪らしく設定するという場合の共通の問題としては、そのような均衡論とは別に一本に取扱うというふうに考えるのが至当ではないか、このように考えます。
  11. 藤田進

    藤田進君 その点は若干御意見を承わりたいのでありますが、実際問題として独立採算制というシステムで五現業三公社などが扱われて、その中の人件費等、予算総則の中で扱われているというだけに過ぎないと思うのであります。従つて現在のように、いわば自由主義経済、現在の内閣が多年とり来つた政策の下におきましては、やはり先ほど基本的な問題として先生が触れられた物価安定へのコース、これもなかなかこの経済政策根本に触れないで、今の政策そのままで且つ物価安定への方向ということは、非常に日本の場合は困難なのではないだろうか。こういう点を考え併せますると、今言われた均衡論或いは権衡論、いろいろな同一趣旨といたしまして申しておりまするのは、確かに時を一にして仲裁裁定が今日出て来た、そうしてこれがいわばいわゆる民間産業とは趣きを異にした企業であるという点で、多少のニユアンスは違うと思いますけれども、その本質というものはやはり民間の私鉄だ、日通だ、或いは電産だという公益事業その他民間産業のそれぞれと同じように、いわば自由主義経済の中にやはり逃げ込ませて今日あるというこの機構をそのまま認めて参りますると、六社が実施できるにもかかわらず、に社が困難だと言つて、遂には極端に言えば実施ができないで現行ベースをそのまま置くというような仮にことがあるとするならば、これもどうも経済政策という面と、賃金そのものに対する処置というものが大きな矛盾があるのではないだろうか。こういうふうに考えて来ますと、やつぱりそれぞれについて速かに仲裁裁定というものを完全に実施するというのが妥当ではないだろうか、こう思うわけであります。従つて現在の経済政策、自由主義経済と言いますか、そういつたやり方の中において、民間のこれに演繹いたしますと、結局企業の内容ということが非常な重点にやはりなる、公共企業体の場合もそういつたことが考えられるのではないだろうか。若し企業の採算の問題があるとするならば、政府が処置すべきものは運賃とか、或いはそういつた企業、企業における収入面を再検討する、これが悪循環のきつかけになるとおつしやるかも知れませんが、そういう処置がやはりなされるべきではないだろうかというふうに考えるのでありますが、その点についてなお一つ具体的に政策面との関係をお伺いしたいのが第一点と、それから先ほどの八月、一月実施、これは数学的に五カ月でありましても、将来或いは六カ月、八カ月ということもあり得ると思います。過去におきましても時期が相当ずれております。従つて先生が当初言われました仲裁裁定を実施すべきだというこの御見解は、やはり仲裁裁定ワン・セツトそれを実施するというふうにも伺つていたので、変つた形で御質問申上げたのですが、一月でもいいのではないかというふうにも聞えるので、仲裁が何だかよそのほうに行つてしまうようなので、一つそこいらを明白にして頂きたいと思います。
  12. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) お答えいたします。第一の点は私は結果において違つたものが同時に行われてもちつとも差支えないと思います。内容が違つて、結果において違つたものならば実施がこれはもう全部が同じように完全実施ということは恐らく実際問題としてできないのじやないかと私は考えますので、そのような意味において個々の企業が同じ仲裁裁定を実施すると言いながら、結果において具体的に違つた状態になるということは私は止むを得ないことであろうし、同時に差支えないことではないかと思うのであります。ただ現在の状態一つ一つ切離して、これは落す、これは残すというようなことが果して現実問題としてできるかと言いますと、それは非常に困難な状態のように思われます。その理由はやはり先ほど申しましたように、今度の仲裁裁定に現われた一つ水準というものが、これが現実に存在していた水準には違いないのでありまするけれども、改めて公務員なり、或いは三公社五現業賃金水準として採用されるという事態はやはり新らしい賃金水準の設定と見なければならない。この意味において新らしい賃金水準の設定をする場合に、一つ二つ或いは三つ四つのものがこれが先ず先にとわれて、そうしてあとは全然行われないというようなことは実際問題としてできないのではなかろうか、これが私の見解でございます。勿論その場合に先ほど指摘されましたような、そういうことを口実にして全体が行われないということは私は予想しておりません。それは非常にけしからんことでありまして、そういうような口実で以て全体の実施が遅れるということは、私はこれを希望するわけでもないし、恐らくは行われないだろうということを強く希望したいのでございます。  それから第二の点は、五カ月時期を遅らせるということは、あたかも最初に述べた、当然これを受ける以外に仕方法はないのじやないかという言明と矛盾するじやないかというお叱りでございますけれども、実はこれも先ほど申上げました新らしい賃金め設定という見地から見まするというと、決してそのような逃げ口上を作つておるものではない。五カ月遅れましてもあの仲裁裁定の金額を新らしい賃金水準として採用するということがございますれば、やはりそれは仲裁裁定の実施という非常に広い概念の中には入り得るのではなかろうか、このように考えております。ただその場合に時期が幾ら延びてもいいか、すでに調停からは殆んど何カ月になりますか、八カ月でございますか、それから仲裁の決定からはすでに五カ月たつておる。これがまだ六カ月になるかも知れません。八カ月になるかも知れません。その場合にも同じ議論をお前は言うか、そのように言われますと、これは無理でございまして、そのようなことを申上げておるわけではございません。例えば一昨年の人事院の勧告案を今年行なつてもやつぱり実施じやないか、そういうことは決して申上げておりませんので、これは事実の認定の問題でございます。繰返して申しますというと、私はこの場合、現在の具体的な問題について五カ月員のズレというものは、これは完全実施という……、これは完全という言葉は使えないでありましようが、実施ということを、これを具体的に、基本的に妨げるものではない、従つてこの点だけを捉えて、そして遵法闘争という名前で反対運動をされるよりは、むしろこの点に問題がありますならば、政府とそういうような闘争以外の方法で談合されればいいのじやなかろうか、このように考えるわけであります。
  13. 藤田進

    藤田進君 あとのほうの点ですが、今先生の御発言、非常に日本に大きな影響を与えますのでまあ明確にして……。みんな勝手にあとで解釈されると、やはり有利に皆見たがるものでして、明確にしておきたいのですが、まあ均衡論について、それは成るほど今言われた通りだと思うのですが、ただ、今のような政策の下におきましては、仮に民間で、じやそういうことが言えるかと言えば、成るほど言うことは言えるのであるけれども、その実施というものは大変なむずかしい、今非常なアンバランスの状態で、これを平均すれば、一般の工業水準の平均は何がしだと言つているだけのことであるが、これを実質の所得から申しますと、お盆手当だとか、或いは期末手当だとか、或いは越年資金だというものを通算して、これを十二カ月で割つた収入というものを考えて見ますと、先生も御承知ですが、あのように非常に……、仮に越年資金だつて十万円ぐらい、五千円、或いはもつと少いというふうにかけ離れておりまして、そういう多くの越年資金が支給される所に限つて実質賃金も大きい。いわば民間産業自身が非常にその経営の力に応じて賃金というものはきめられつつありますから、間接統制という面もなきにしもあらずですが、これも大したことはないので、こういう政策の下において、且つ、単に均衡論だけでこれを措置するということは、一体できるのだろうか、殊に先生の言われた基本問題との関連で、今の自由主義経済と称するこの状態で、物価の安定というものが賃金の両でそれほど大きなウエイトがあるだろうかというような、もつと政策の面にむしろあるのではなかろうかといつたような点については、もう少し何といいますか、後日どちらにも解釈されないように……、懸念いたしますのは、賃金はもうここでそろそろというか、即日というか、もうストツプしてしまつて、そうして物価安定の悪循環から脱却しなければいかん、だからもう賃金というものはおよそ上げるなといいますか、物価が上ろうともということになりますが、やはり実質賃金は下ろうとも、各日賃金そのものは維持するというふうに、どうしても聞えてならないのでありますけれども、但し仲裁というものは法律上あるのだから、これはもう仕方がないから延ばしておこう、こういうふうに聞えるので、あたかも民間産業が先生の所にたくさん行つているときでありますから、一つここのところを明確にしておいて頂きたいと思います。
  14. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) 只今の問題は、実は若し私のほうで言わして頂ければ、今藤田委員のおつしやいましたような支払能力の相違、独立採算としての各企業の特殊性というものがございますならば、むしろそれは丁度調停案や仲裁自体に出て来るのではなかろうか。それを御覧になればおわかりになりますように、大体同一の水準をとつている。多少違いますけれども、大体同一の水準をとつておるということは、たびたび私が申しましたようにこれが一つの新らしい賃金水準としての意味を持つているということだと思うのであります。従つてその意味の均衡論と言われますけれども、単なる均衡論ではないので、新らしい賃金水準を実施するという建前に立つて考えますというと、分離的にこれを措置することができないのじやないか、このように考えますので、その意味以上は私はございません。  それから第二のどうも賃金をこの辺でもう上げるようにはしないで、物価安定のほうに重点を置いて一切賃上げをしないようにして行きたいということを私が表明しているのは、これは事実であります。事実でございますが、併し実際問題として物価が上り、生計費が上つている現実で直ちにそのようなことを私どもが頭の中に考えましても、すぐに行われるとは思つておりません。それはそれだけの理由があるのであります。けれども若し今までのような状態の下で循環をそのまま認めて行きますならば、これは歯止めがない。そこでこのような幾らかでも生産が上り、そうして相対的な通貨価値の安定のある時期には、政策のそのような基本的な意味における転換が策されなければならないのじやないか。そうなりますというと、具体的に申しますと、今官公労全体の賃金水準という日本にとつて新らしい一つ水準を全国的に設ける場合には、それだけの考慮が必要なのではなかろうか、その考慮は現在の規定の下において若しこれを行うとしますならば、僅かに時期を遅らせる以外にない。そうしてその五カ月の時期というのは極端な時期ではなくて、その意味を現わす場合においては丁度いい工合の時期ではなかろうかというのが甚だざつくばらんな話でありますが、私の心情でございます。
  15. 海野三朗

    ○海野三朗君 中山学長にお伺いいたしますが、賃金値上げを要求しなければならないということはどこから起つて来ておる問題なんでありましようか。
  16. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) 非常に根本的な問題を簡単な言葉で表現されましたので、私の答えが当りますか当りませんか存じませんが、できるだけ御質問に副うようにお答えしたいと思います。  第一の問題は何と言いましても、日本賃金水準が世界的なレベルから見て低いということ、例えばドイツ賃金水準日本賃金水準とを現在の為替相場で換算して考えますというと、大体向うのほうが三倍であります。これは必ずしもドイツの労働貨金が三倍であるからそれだけ生活程度がこちらの三倍であるということを意味しておりませんけれども、そのような意味での生活水準という具体的な、内容的な問題についても、日本が世界的なレベルにおいて低いということはこれは事実でごさいましよう。国民所得の頭割りから申しましても、それは証明される事実だと存じます。このことから見まして、当然世界的な、つまり人間としての生活をやつて行き、そうして労働者らしい生産力を発揮して行く基準を作つて行くために、賃上げの要求というのが起つて来るのは、これは一つ一般的な趨勢としては当然のことではなかろうかと存じます。これが第一。  第二はやはり賃金のそのような一般的な向上というものを誰が担当するかということになりますというと、具体的には労働組合経済闘争によつてそれが推進される。その場合に特に日本の場合におきましては大企業の労働組合というのが一番の力があるのであります。或いは電産でありますとか、或いは炭労でありますとか、或いは官公労、これは一つの統一的な組合でございませんけれども、今日の情勢で見ればやはり一つの大きな組合連合と見ていいのではなかろうかと存じますが、そのような非常に多数の組合員を擁し、従つて発言権の多い組合がこれを主張して行くのが最も有効であり、常にどこの国においても労働運動史上とられて来ておる方法なのであります。そのような意味におきまして丁度官公労とかいうようなのが、これがこのような時期に賃上げの要求をして行く。その意味においてつまりみずから率先して全体の賃金水準向上させて行く。先頭に立つというような形において賃上げ要求が出て来る。そうなりますというと、仮にそのうちの成るものは官公労の場合じやございませんが、大きな組合連合の或るものがすでに戦前日本の国内だけで申しますというと、戦前賃金水準を突破しておりまして、それ自体としては要求すべき理由は少くとも戦前に回復するとか、少くともそのような状態だけは確保するというような理由では、もう理由がなくてもなお且つ賃上げの要求を出す理由はそこに存在して来る。そのような二つ理由、これが私は現在の賃上げの基本的な問題であろうと存じます。
  17. 海野三朗

    ○海野三朗君 何故にこの賃金水準日本は低いのでありましようか。以前は金一匁五円で手に入つたものが、今は二千数百円を出さなければ金一匁手に入らない。何故にこの日本経済がこういうふうに、いわゆる賃金水準が低くなつて来たのでありましようか、それをお伺いいたしたいと思うのでございます。
  18. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) これは非常に解釈の分れるところでございますが、一つは私は根本的な問題としては日本経済発達の明治以降の状態賃金の低いレベルの上で発展したという事実、この事実がこの大きな問題に対する裏付けになつておるのじやないかと存じます。第一即ち明治の初年に日本は農業国からこの先進の工業国に転化した。その場合に必要なものは資本なのであります。これは申すまでもなく資本なのでございますが、その資本の供給源は何といつて国民所得以外にはない。若しも外国から資本が入りますれば別でございますけれども、幸か不幸か日本の場合には外国資本が入つて開発が行われたということは非常に少いのでございます。従つて国民所得から非常にたくさんの資本を割いて、そしてこれを生産の近代化に使つて行きます場合には、どうしても生活の面にこれを割いて行くことがむずかしくなる、これは当然のことでございます。そしてあらゆるいわば新興国或いは日本の場合によく言われますように、後進国と言われる国が辿つた経路なのでございます。その場合にたまたま日本では生活の様式が東洋的でそして生産の様式は西洋的であるというようなギヤツプがございましたために、生活様式が東洋的な伝統的な形であるということは言い換えれば生活水準が西洋流の計算方法によりますというと非常に低かつた。その低いことが、低く保ち得たことが逆に大きな資本蓄積を日本で行なつて、近代国家として立つて行くことを可能ならしめた原因であつた。従つて日本が近代工業国になつたということと、そして生活水準が低く、従つて賃金水準が低かつたということが丁度裏腹になつている事実でございます。これが第一の理由。第二の理由はそれと結び付いておるのでございますけれども、やはり人口の増加というのでしようが、これが雇用の問題を通じて賃金を圧迫している。その問題は現在でも非常に大きな問題でございますが、日本の長い経済状態を通じても言えるのでございます。人口というものは結局は生産力に応じて殖える、これは事実でございますけれども、併し殖えた人口を、又それから出て来る労働力を処置して行くためにはどうしてもその全体を考えての賃金、資金というようなものが、これが存在しなければならない。これが若し非常に早く工業化している国でありますならば、賃金のそういう資金に当る部分と、そして工業化というものとは並行して伸びて行けるのでございますけれども、不幸にして日本の場合には人口の伸び方は非常に急速であり、近代化の要求は非常に強く、従つてその圧迫は全体としての賃金水準或いは生活水準が負わなければならなかつた。ただ若し幸いにしてということができますならば、日本の自然的なそのような生活条件の東洋的な存在ということが、これがその間の矛盾を大きく感じさせないで過ごすことができたという事実があると思うのであります。この二つ理由一般的に、国際的に見て日本賃金水準の低い大きな理由であると存じます。
  19. 海野三朗

    ○海野三朗君 初めに御説明下さつた、皆の働く労力を割いてこの工業の設備とかそういう方面に使つたからである、それが一つの原因であると言われましたけれども、然らばそれだけの皆の労働賃金を実質的に割いて工業の設備そういうことに向けたならば明治の初年以来もうすでにそれがはね返つて来て、一般大衆の生活が楽になつて来るべきはずであるのに、そのお金が他方面に使われておるという現実の姿ではありませんか。私はそこに今の御説明について一つの大きな疑問を抱くものであります。これが一点とそれから人間が増加して行つたからと言われますけれども、今日ほど皆子供らに至るまで働いておるのです。皆殆んど若い者たちでも遊んでおるものはない。何かかにかの仕事をしておる。働いておるのに、働けど働けどこの賃金水準が低くなつて行くという、この現実の姿は如何ようにお考えになつておるのでありましようか。その辺どうも私は一つのベールを被つたような御説明のように、こう頭に感ずるのでありまするが、もう少し御説明を願つて私の蒙を啓いて頂きたいと存じます。
  20. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) 只今の御質問非常にお答えのしにくい問題でございますが、第一の点は極端に申しますれば、日本の曾つての軍国主義というようなものがそれを害しておつたと存じます。それは非常に極端な表現でございますが、軍国主義、つまりそれは経済的に申しますというと、軍事に必要な生産力を拡充するということ自体が、これが本来ならば生活水準向上に向けらるべきものを奪い取つておつたという事実は、これはすべての時期を通じてではございませんけれども、相当な期間について指摘し得る事実ではなかろうかと存じます。併しそれにもかかわらず、生活水準が上つていなかつたのではないのでありまして、基だ統計が不備ではございますけれども、明治八年からそのような統計がございますので、我々の手許で今それを推算中でございますけれども、暫定的な結論を申しますというと、明治八年から終戦までの時期における日本の実質的な国民所得は十倍になつております。十倍に国民所得は増加しております。そうして国民生活水準は二倍或いは二倍半になつております。これは一人当りの国民所得を計算したのでございますから、本当の生活的な体験としての水準がそれだけ上つていないと言われるか、それ以上上つておると言えるかそれは評価の仕方によつて違いますけれども国民生活水準は下つておるのではございません。ただ戦争中の昭和十八年とか十九年とかの生活状態、これはもう明治の初年に逆戻り或いはそれ以下になつたと存じますが、これは特殊な事情でございまして、そういう時期をも通じて平均的に申しますというと、戦前生活水準におきましても我々の生活水準が明治初年に比べて二倍乃至二倍半になつてさるという統計的な推計ができるのでございます。そのような意味におきまして、成るほど生産力の増進程度、これは十倍、そういう程度まで生活が伸びていなかつたことは事実でございますが、その一部はこれはやはり資本蓄積が追われに追われて次々必要である、今日でもなお必要であるという事実が見られるし、他面においては人口がその間に増加して頭割をそれだけ減らしておるというやはり明白な事実に基くものだろうと思います。  次に現在の状態に論及されまして、皆が働いている、働いているのにこんなに生活状態が貧弱である、従つて賃金水準も低いのか、こういう御質問でございますが、これは経済学的な立場から答えますと、むしろ当然なことなんでございます。つまりよく働くということと、そうして富裕であるということとが一緒に結び付けられて考えられるのでございますけれども、富裕な状態というのは働く程度が少ないという状態なのであります。これは非常に極端な表現で或いは誤解があると存じますけれども、つまり労働の生産力が伸びて行く基本的な条件の一つは資本の蓄積、そうして資本と労働との協同によつて初めて生産力が伸びて行くというのがこれが最も近代的な生産の実体であります。そこで若し資本の蓄積が極端に少いという状態を考えますと、人間はその日の生活に金力を挙げて尽しながら漸く手から口への生活をして行くことになる。現に未開の国々と言われている国、例えば近東の国々或いはアジアの若干の国々というところの人が働いていないかといいますと、それこそ真黒になつて朝から晩まで働いている。そうしてそれらの生活は非常に西欧の国々や或いは工業化した国々に比して低い。この事実はそのまま経済的な論理を示しておるのでありまして、資本の蓄積の少いところでは、これは人間は働いても貧乏になる。むしろ貧乏であるから働かなければならない。こういう事実に帰着するのでありまして、日本状態は大げさに申しますというと、そのような論理を正面から表わしているものと私どもは考えております。
  21. 海野三朗

    ○海野三朗君 それでは結局、この賃上げの要求が常に起つておるということは、率直に申しますならば、生産のほうに向けられないで、労働力が或る方面に大なるスポイルが行われておる結果であるというふうに考えて差支えないのでございましようか。これを現実に申上げまするならば、現在の保安隊の増強であるとか、防衛費のほうに莫大なる金がとられておるから、この賃上げの問題が従つてつて来るものである、つまり生産のほうに向けていないのだ、そういうふうに考えてよろしうございますか。
  22. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) お答えいたします。私の申上げましたのは、非常に一般的な基本的な事情でございまして今の保安隊の問題とは直接の関係はございません。
  23. 海野三朗

    ○海野三朗君 私が今お伺いいたしますのは、経済学者として中山先生に大いに敬意を表して、つまり蒙を啓いて頂きたいと思うところからお伺いいたしたのであります。この経済力、みんなが働いて得るところの実質賃金がほかに、不生産的なことにスポイルされておる結果、常に賃上げが行われて行くことになるのであろうと存じます。明治以来の日本の軍備に厖大なる費用を使つたから、それで自然とそういうふうになつたというお話がございましたが、従つてその論法から考えますると、今日もなおこの賃上げの要求が常に行われて行くということはそこに不生産的な方面に莫大なる国費がみんなのところから持去られておるということがその主なる原因ではございませんでしようか。それを中山先生にお伺いいたしたいと思うのであります。
  24. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) お答えをいたします。只今の御質問は、賃金水準が低いということの理由がどこにあるかという点についての御質問と存じます。一般的に申しまして賃金水準が低いのは、日本の国が全体として貧乏である。貧乏であるということは労働力に比較して資本蓄積がなお足りないという状態であるということを先ほど申上げました。そうしますと、現在なおそのような形で賃上げの要求が出て来るのは、一つには現在の国民所得の一部が不生産的な方面に使われる部分が多いというのは事実でございましよう。もう一つは、そうしてそのほうが私は根本的な事実であると思いますけれども、やはり日本の労働の生産力が資本不足のために、設備不足のために十分に発揮されていないという点にあるのではないか。この二つの事実が重なつて、そして世界の一般的な水準というものとの比較から、先ほど申しましたように賃上げの、いわば底流と申しますか、常に存在している賃上げの要求が起つて来る。もう一つ近い理由を加えまするならば、物価騰貴ということ、これが少くとも最近までにおいて物価が低落していたという時期は極く、僅かでありまして、これはドツジ・プランが行われました若干の時期についてにだけでありまして、他の時期をとつて見れば、徐々ではありますけれども物価騰貴している、即ち生計費騰貴している、そういう理由から固定的な賃金生活者にとつて賃上げ要求ということが殆んど定期的に繰返されて起る現実の必要になつて来るということであろうと存じます。
  25. 海野三朗

    ○海野三朗君 この賃上げの要求が出て来るということは、労働力が無形のうちにスポイルされておるという結果であろうと私は思うのでありますが、他国におきましては、ドイツとか或いはイギリス、フランス、アメリカあたりにおきましても常に賃上げの問題が起つておるのでございましようか。特に我が日本だけがこういうふうになつておるのでありましようか。それと、何故にこの賃上げの要求をしなければならないか。私はその根本に遡つて考え、その根本を是正することを考えなければならないのじやないか。こういうふうに思つておるのでありまするが、その点について一つ御教示をお願いしたいと思うのです。
  26. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) 世界の他の国においてやはり賃上げの要求はこんなに起つているかという第一の御質問でございますが、それは確かに起つております。どの田におきましても賃上げの要求をしない労働組合というのはないと存じます。但しその賃上げ要求のやり方でございますが、このやり方は非常に違つておりまして、日本のように春季攻勢、秋季攻勢、年末闘争というような定期的な形で賃上げの闘争が行われておる国は恐らくないと存じます。無論時期がございますから、或る一定の時期に賃上げの闘争が起るのはこれはどの国でもそうでございますけれども日本のように定期的に、そうして或る意味においては慣習的にこれが行われている国はないと存じます。もう一つ賃上げ闘争はございますけれども、その賃上げの要求が必ずしも現在的なものに限られてないというような面が、他の国の賃上げ闘争にはしばしば見られるのでございます。例えば設備のために金が要るならば我々の賃上げもこの程度に抑えて、そうして将来の賃金の実質的な向上を期そうというような形での、いわば自制的な意味における賃上げ闘争というのが、少くとも西ドイツ或いはイギリスの労働組合の態度としては見られるのでございますが、不幸にして日本の現在までの労働組合賃上げ闘争の中には、そういうような要求が十分明白に考慮されているとは考えられないようなふしがある。それはだんだんに訂正されると思いますけれども、そのような意味において、同じ賃上げ闘争と申しましても、よほど様相の違う点があるということもお考えを願いたいと存じます。  それからそのような場合になぜ一般的に賃上げ闘争が起るかということでございますが、一つは分配の立場といたしまして、労働の分配分を多くしようという動き、これはもう当然の動きなのでございますから、そのようなものを基底といたします賃上げ闘争というのは機会あるごとに起る、そうしてその機会が或る経済変動の大きいとき或いは社会的な変革の大きいときには、特に強く現われるということが一つ。もう一つ特に戦後の各国について見ますというと、物価は安定していると申しますものの、今市での経過では大体終戦直後はどの国もインフレーシヨンであつた。アメリカにおいてさえも若干のインフレーシヨンが、程度は非常に違いますけれども、議論された。そういうようなインフレーシヨン的な、つまり通貨価値が下落し、生計費騰貴するような状態の下においては、固定的にきめられている賃金の実質を守るために各目的な賃金騰貴を要求するのはむしろ当然の動きではないか、このような理由が、これがどの国の労働組合におきましても、運動としての中心が賃金闘争に集まるという理由であろうと存じます。
  27. 海野三朗

    ○海野三朗君 働く人たちから考えますると、実質賃金がつまりだんだん低下しつつある結果であると私は思うのであります。実質賃金が低下しておる、それでその金高は上つてもますます生活が苦しくなるからというのでありまして、その貨幣価値の下落と申しましようか、そういうふうなことが、皆が知らないでおる間に無形のうちに或る方面に流れて行つておる結果ではないのでありましようか、そこをはつきりお示しを願いたいと思うのであります。実質賃金が減つておるのではないのでありましようか。
  28. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) 物価が非常に騰貴する場合には名目賃金上昇というのは大体において遅れがちなんでありまして、つまりこれをまあ経済学の言葉で申しますと賃金の固着性と申しますが、固着する傾向がございますので、そういう無味におきましては一般的に景気変動がありますというと実質賃金の上り方が遅い、即ち実質賃金が成る時期において低下の傾向を持つことは事実でございます。併し一般的に見て例えばこの一世紀の間労働者の実質賃金が下つているかと申しますというと、世界の統計の示すところこれは絶対的に上つております。日本の場合においても上つておりますし、これは戦後の混乱期は別ですが、日本の場合においても上つておりますし、アメリカにおいても、ドイツにおいても、イギリスにおいても実質賃金は着実に上つております。ただ上つております或る時期に例えばインフレ的な傾向というものがございますというと、それはその時期に関する限り前の実質賃金より下つているということが言えましよう。これはトレンドとサイクルというものを分けて考えなければなりませんが、トレンド即ち長期の傾向としては実質賃金上昇を続けております。そうしてサイクルにおいては、つまり循環的には実質賃金は下る時期がある、そうしてそういう下る時期を助長するものは戦後の混乱期のインフレーシヨンである、このように考えていいのではないかと思います
  29. 海野三朗

    ○海野三朗君 有難うございました。もう一つ、アメリカの労働賃金に比較いたしまして日本の労働賃金は何分の一くらいに当つておるのでありましようか。
  30. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) これは先ほどもちよつと触れましたように、貨幣的な、つまり為替相場三百六十円というものを基準にしたたけでは換算できない問題でございますが、併し若し暫らくそれによつて考えますというと、現在のアメリカの二工業労働者の平均賃金は月にいたしまして二百八十ドル乃至三百ドル見当でございます。これは少し動きますけれども、大体その見当でございます。これを三百六十円で換算いたしますというと、およそ十万円。十万円になりますというと、日本の現在の賃金水準というのは大体大きいところで一万五千円、全体を平均しますというと一万三千円、工業労働者で毎勤の平均、私は今正確に覚えておりませんが、大体一万三千円になるのじやないかと思います。そうしますというと、その土にこれを比較いたしますためには、絶対額だけでなしに、少くとも税金というものは考えなければならない。税金で引かれる分を考えますというと、恐らく十倍くらいの相違になると存じます。ただその十倍の相違というのが先ほども申しましたように、アメリカの労働者は日本の労働者の十倍の実質的な生活の満足を得ているかということになりますというと、これは計算ができません。というのは、生活習慣も違います、従つて習慣が違えば必要の費用というものの必要の程度も違います。例えば日本においてはワイシヤツが白いことが必ずしも必要条件でないといたしまして、アメリカにおいてはこれはもう社会の礼儀として、無論労働階級でも同じでございますけれども、ワイシヤツは白くなくちやならない。そうしますと、洗濯代というものの必要性というものは日本とアメリカと大変違う。こちらでは弾力的に或る場合にはそれをたくさん使い、或る場合にはそれを節約することができる。いわば弾力的な経費になつておりますけれども、向うでは殆んどそれが弾力性のない必要経費になる。こういう例は日本の地域差についても言えると思うのであります。そういう点を考えますというと、正確な生活程度としての賃金水準の比較はできません。けれども、貨幣価値的に申しますというと、およそ十倍と考えていいのじやないか。このように考えております。
  31. 海野三朗

    ○海野三朗君 有難うございました。
  32. 中川以良

    委員長中川以良君) ほかに……。
  33. 三輪貞治

    ○三輪貞治君 これは裁定の問題とはちよつと直接に関係ございませんが、今海野委員から基本的な問題について御質問があつておりまするから、私も非常にいい機会でありまするからお教えを頂きたいと思うのであります。海野委員が一体なぜ日本の労働運動の賃上げの問題が起るかということについての質問に対しまして、歴史的には根本的には日本の後進資本主義国として発展をして来た歴史的な過程にその原因を求められました。そうしてその過程において当然出て来る利潤が軍国土主義的なものに吸収されたということも非常に大きな原因である、こういう歴史的な問題に触れられました。なお現実の問題としては非常に大きな労働組合号等が賃上げの先頭に立つて行かなければならないので、その個々の問題においては必要のない部面においてもこれが行われる傾向がある、こういうふうにおつしやいましたが、私もその現実的な歴史的な原因というものについてこれをば全くその通りだと、こういうふうに考えるわけであります。特に日本の後進資本主義的な発展の歴史を振り返つて見ますと、明治初年においてとにかく今まで家内工業的な姿であつたものが西洋並みの一つの資本主義的な生産過程に入る場合においてその貧弱な資本の中から如何にして蓄積して行つたかということについてのお話もございましたが、特にその場合に私は私の知る限りにおいては、ほかに資本の蓄積を求むるところがないのでありまするから、殆んど大部分がいわゆる農村の地租に求められたように思つております。その数字を今日詳しく持つておりませんけれども、大体私の記憶するところでは、およそ八割ぐらいを地租に求められて、その結果一般大衆の窮乏は勿論でありましたが、殆んど大部分農民の非常な窮乏の上に日本の後進資本主義国的な生産の発展がなされたと、こういうふうに考えておるわけであります。ところがそれは原因であつて、一体今日はどうかということに問題はなるわけでありまするが、そうなるとやはり私はその形というものが今日そう大きな形で是正されていないのではないか、これは非常に大きな原因になるのではなかろうか、こういうふうに考えておりますが、特にここに例えば一町の経営をしておる農家がおるといたします。これは日本の平均耕作別よりも多少上廻つておりまするから、その平均よりも上になるのでありまするけれども、私が住んでおる田舎の状態から考えますると、これは約一町になります、平均が。その一町の経営をしておる場合に一体どれくらいの収益を農村で挙げておるか。そういたしますると、米をそのうちの七反くらいを作り、或いは甘藷を五反くらい作り、麦を五反作る、まあその他たくさんいろいろありまするけれども、そういう場合において、五人家族くらいで二十万円にならないような生産を実は基礎として農村の生活が成立つておる。これは併し自分で土地を持つて耕しておるまだいい部類であつて、それ以下が実は六割もある。こういうような非常な農村の窮乏が底辺になつておる。だからこそ一万円に満たない給料であつてもなお且つ忍んで働かなきやならんという国民生活の現状が非常な低賃金をもたらしておるのではないか。といたしまするならば、今日においても日本の資本主義発展の歴史的な姿というものは一向改善されていないということの中に私ども賃金の基本的な姿が求められていいのではないか。ここに私は会日の賃金要求の基本的な問題が含んでおるというふうに解釈いたしておるのでありまするが、この考え方は誤つておりまするかどうか。  それから又歴史的に日本の資本主義的な発展の過程におけるその利潤というものが軍国主義的な性格の中に吸収されて行つたという形は今日においてすでに再燃しかけておるのではないか。先ほど先生は保安隊の問題については触れていないということをおつしやつたけれども実質的には実際的にはそれがもう現に現われつつある。而もこの裁定その他の問題についても容易にこれはそういつたような費用を節減をすれば出すべきものが今日それらについては少しも手を加えられないで、而も予算が不足しているというふうに理由付けられておる。やはり同じような状態ではないか。そういたしますると、日本のそういう低賃金の出発をした歴史的な事情というものは今日も改められておらない。こういうふうに一体考えていいかどうか。  それから先ほど日本経済の安定、物価賃金悪循環を断切るために、もうここら辺でというお話がございましたが、これはそういうような状態をもたらしておる日本の資本主義的な経済、自由主義的な経済というものを前提としてであるかどうか。一方、でなしにこの前提を覆えせばまだ改善の余地があるのかどうか。この点について非常にいい機会でありますから、非常に迂遠なようでありますけれども、基本的な問題として私の考え方についての御見解を求め、又先生の御見解をお開きしたいと存じます。
  34. 中山伊知郎

    参考人中山伊知郎君) お答えをいたします。第一の根本的問題についての御見解は私は地租の問題には触れませんでしたけれども、まさにおつしやる通りでありまして、あのときの日本生産力の基礎は、申上げるまでもなく主として農業資本主義の時代でございますから農村にあつた、その農村から出て来る収益を一地租として取上げて、これを近代工業化に使つたのであります。その理由によりまして、日本の農村並びに、今お触れになりませんでしたけれども、同じような地位において日本の中小工業が、言葉が過ぎるかも知れませんが、発展の犠牲になつた。そのような意味におきますというと、日本の中小工業が長い間相当の苦労な状態を続けて来なというのは、実は日本経済の発展の動向自体から来ることなのでありまして、その点については、農村に対しても、又中小企業に対しても、恐らく日本政策がこれを救うようなことができなかつた、一つにおいては余裕がなかつた、一つはしなかつたということにあるのじやないか。ただ問題は、農業の場合には我々の基本的な食糧生産しているのでございますから、その意味においては或る程度のことは行われた。むしろ一番因つておる状態は、中小企業にあつたのじやないかと、このように私は考えております。これは只今の三輪委員のお話に対して私は全面的に同意見であることを申上げると同時に、若干の附加を申上げたのでございます。  それから第二のもつと根本的な問題として、戦後の今日その状態が改まつていないのではないかという御議論、これも私は戦後の今日が長い歴史を経て来た明治以来の経済の延長であるという意味においてはその通りであると存じます。農村も苦しんでおる。中小企業も困つている。そしてやはり依然として日本がこの戦争によつて遅れた状態を取返して、世界市場に競争して行くという以上はどうしても設備の近代化と、そして資本の蓄積をやつて行かなければならない。その必要が一方にあります限り、他方において農村及び中小企業における生活程度の改善どういうことについては、非常に苦しい問題があるだろうということは想定されるのでありまして、戦後になつて民主主義になつたから一躍経済状態が変つたという事態は私はないのじやなかろうかと思つております。ただその場合に保安隊の問題が出ましたが、日本の保安隊以降の将来を考えると、又軍国主義の昔に返つてそして生活程度を圧迫して、軍事力だけが伸びて行くような経済になるのではないかという御心配でございますが、私は現在の保安隊の動向自体について、詳細なことは存じませんし、又そのために先ほどもお答えを遠慮した次第でございますが、併しそれをそのような状態で、元のようにさせるかさせないかは、これは甚だ僣越でございますけれども、まさに国会の御任務ではなかろうかと、私は推定するのでございます。そうして最後に一体このような行詰つて売る状態は、自由主義の前提に立つて、行詰つておるので、若し社会制度を社会主義的なものに変えると、そうはおつしやいませんでしたけれども、或る他の体系に変えれば救い得るのじやないかという御議論でありました。これは社会主義体制の将来というのは非常に未知数をたくさん含んでおりますから、そういう可能性があるともないとも私はここで申上げられません。ただ若し一つの例、例えばソ連の例をとつて考えますれば、この長い間国民生活程度を相当押下げた形において問題は解決しておる。ソ連の、社会主義になりましてから三十年、四十年になりましたか、四十年の歴史を、歴史を持つておるのでありますが、この長い歴史の間、国民生活向上というものに意を用いて実際に生活水準が上つたというのは極く最近なのでございます。相当長い期間の間は国民生活は引下げはしないでありましようが、そのままにしておいて余力の全体は強制力を借りてこれを生産の拡充に充てたという事態にあるのではなかろうか、そういう例から見ますと、今一躍或る体制の変化が起りましても、我々の立つておる現在の事態がそのまま直ちに解決されるというような、そういう生やさしいものではなかろうと、このように私は考えておるのであります。甚だ不備でございますが、お答えを申上げます。
  35. 中川以良

    委員長中川以良君) それでは中山学長は御所用がございますから御退席を願いたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  36. 中川以良

    委員長中川以良君) 誠に長時間に亙りまして尊い御意見を頂き有難うございました。  お昼になつたのでございまするが、協和醗酵の桑田常務は午後から御所用がございますので、午前中に公述をなさりたいという申出がございましたが。
  37. 海野三朗

    ○海野三朗君 続けてお願いしたいと思います。
  38. 中川以良

    委員長中川以良君) それでは協和醗酵の桑田常務にどうぞよろしく願います。
  39. 桑田猛

    参考人桑田猛君) 私として説明をしますのに何が一番中心であるかということを言つて頂ければいいのでありますが。
  40. 中川以良

    委員長中川以良君) アルコール関係の企業をされております経学者のお立場よりして今回の裁定に対しますところのいろいろ御所見があると思いますので、主といたしまして、今回の裁定を中心にいたしましてのアルコール業におけるところの賃金状態、労務者の関係等につきましてお述べを頂きたいと思います。
  41. 桑田猛

    参考人桑田猛君) 私、協和醗酵の桑田でございます。先ほど中山先生が一番初めにお述べになりましたように、この専売法とか或いは専売法に基くアルコールを製造するための国営工場が存在するということについていろいろ議論の余地があると思うのでございますが、これは本日の問題の中心から外しまして、私ども立場といたしまして今度の仲裁裁定につきましての着手の所見を申述べたいと思うのであります  先ず第一に申上げたいのは、真正面から比較するということはどうも当を得ていないと思うのでございます。と申しますのは、今の専売法並びに専売アルコール関係事業、そういう法令に基いておりますアルコールの製造というものは、約半ばが政府の九工場におきまして行われておりまして、残りの半分を民間の十一工場におきまして製造いたしまして、それを政府に収納するようになつておるのでございます。それで大体その割合は半々でございますが、民間の会社全体について申しますと大体昨年度は全アルコール類の生産のうちの二六%でありまして、他の七四%はこれは他のアルコール即ち酒精飲料その他のものでございます。更にその会社はそのほかに本業であるパルプの製造であるとか、製紙業或いは化学工業等をやつておる会社もございまして、実質的にその会社の仕事のパーセントということになりますと一〇%以下であろうと私は想像するのであります。従つて専売法に基くアルコールだけを造つておられる政府の工場は、これ以外にする仕事が別になく、これ単一の仕事でありまして、他の会社はいろいろ多角経営をして会社を経営しておるのでございます。そうでございますから、従つてその賃金を出しますにつきまして根本的にその基礎を一定の上に置くというわけには行かないのであります。その上にまあ我々としても不幸と思うことは戦時中は十二、三万キロリツターもこういうアルコール一が需要されておつたのでありますが、現在は大体二万五千から三万キロリツターの大体需要でありまして、最近化学工業或いはいろいろの方面に若干殖える傾向にはありますが、それとてもまだ三万キロリツターに過ぎないのでございます。そうしてその半分を政府が造つておるのであります。ところが民間の会社はここ数年の間どんどんと事業が膨脹して参りまして、そうして資本金等にいたしましても数倍或いは十数倍になつておるのでありまして、そこにおのずからこの賃金を律する上におきましても同一の根底に基くことができないのであります。それが一つの不当性でありまして、私本日ここで公述を申上げるのにいささか当を得ていないのでありますが、率直に申上げますれば以上の通りでございます。  次に次の点について述べますと、民間のベースは確かに現在の今度裁定されました賃金よりも若干でございます。ところがこれをもう少し深く検討いたして見ますと、民間のべースというのはいわゆる組合員でないかなり年齢の行つた社歴の古い高級な課長を含んでおるので、あります。このアルコール専売のほうも若干そういう管理部門の人を含めておいでになると思うのでありますが、少しくそのベースのとり方が違うのであります。実質的に大体一万六千円から七千円の間に民間アルコールを主体として造つております会社の平均ベースはそういう観点から見ますと、或いは一千円くらい低く弾くのが妥当ではないかというふうに考えます。  それから次にその他多少民間と官と違うところは、例えば恩給とか或いは共済会の組織だとか、それから身分保障にいたしましても民間会社よりは明確なものがあるように存ずるのであります。そういう点から考えますと官営工場の給与一本じやなしに、それにプラス・アルフアーがあるような気がいたすのであります。それから又実労働時間にいたしましても、民間では一週間に大体四十八時間、そういうふうになつております。それから休憩時間の問題にいたしましても又年次休暇にいたしましても、若干今日の民間の会社のほうが労働条件が悪いと申しますか、つまり休暇は少く、年次休暇も少い、休憩も少い、それから実労働時間が少し多いのであります。こういう点も加味いたしまして考えますと、大体この一万四千二百円という数字はほぼ妥当なるところではなかろうかと、こういうふうに私は存ずる次第でございます。なおその支出の方法につきましては、私官のいろいろの組織とかそういうことについて不慣れでございますので、これについては遺憾ながら意見を述べることができないのでございます。
  42. 中川以良

    委員長中川以良君) 有難うございました。  それでは引続き王子製紙労働組合中央執行副委員長池之谷君の御意見を承わりまして、その後質疑をして頂きたいと思います。
  43. 池之谷吉春

    参考人池之谷吉春君) 私は今御紹介にあずかりました王子製紙労働組合の副委員長池之谷でございます。今回本委員会参考人としてここに呼ばれましたが、実は私の組合は製紙が主でありまして、苫小牧工場においても殆んど四人近い人が製紙になつております。王子醗酵の従業員のかたは曾つて王子におりましたので、現在私の組合に入つているような状態で、私も又製紙の出身でありますので、本日述べます参考意見が全くの参考意見になるかも知れませんが、本案件について意見を述べたいと思います。  先ず最初に先ほど中山先生も、それから又数回に亙りまして国会その他の会議の中でいろいろ問題が出されておりまして、私たち民間人として一応公労法の解釈についてもどういうように労働組合のかた或いは政府のかた、そういうかたが言つておるかということにつきまして、私の意見も一応述べたいと思うのであります。労働組合としては公労法は争議権を奪つた、だから仲裁を設けて仲裁を実施しないことは、政府みずからが法の精神を踏みにじつておる、そう言つております。それから政府のほうでは、予算上、資金上無理な場合国会の承認がなければ駄目だというようなお話です。又仲裁委員長のお話を伺いますと、労使双方の紛争を解決するために、いはば仲裁裁定というものは判決のようなものであるから、労使双方を拘束する、両者において当然そこに債権債務というような問題も出て来るというようなお話がされております。これに対しまして政府は更に予算関係する以上、国会審議を経なければ債権債務の関係は生じないというようなことを言つておりますが、こういう中で私たちは外から見ておりましてどういうふうに感じているかと言いますと、やはり一番常識的であり、そうして又一番今切実な問題として労働者のかたがたが賃上げ要求をしておる、そういうようなところへ追詰められている人々の御意見が一番ぴんと来るような状態です。又これは私が組合幹部であるからそう感ずるのかも知れませんが、率直に申してそう感するような次第です。で私たちの狭いそれから小さな経験から見ましても、賃金の理論の合理性とか或いはその他労使双方を満足させるような主張というものは殆んどないのではないか、こう申しますと、実力一点ばりで合理性だとか或いは科学性の追究だとかを放棄したように聞えますが、そういう意味で言つているわけではありません。ただ労働者として争議権の裏付けの中に資本家の実力を正しく評価して行く、そうして又私たちも労働組合の主体性の力を冷静に判断して行く、そういう中で或いは紛争も起り或いは妥協して行つておる、こういうような形の中で労使の関係というものが自主的に解決を行い得るものではないか、こう考えております。こうした経験から見てみますと、公労法によつて争議権を奪われた組合とか或いは組合幹部のかたは現在非常に苦しい立場に立たされているのではないかと考えております。これはまあ法律的なことはよく私も知りませんが、成るほど争議権と或いは又仲裁制度というものが直接の関連があるとは考えておりませんが、併し労働者の立場として今の値の中の仕組に対してはやはりそういう考え方をするのが非常に鋭い批判となつているのではないかと考えます。それで私たち素人から考えて見ましても、公労法の十六条というのは三十五条の例外規定で、原則は飽くまで仲裁裁定に労使が従つて行く、そうして労使間というものが自主的に問題を解決して行く、そうして国営企業であり、公企業である企業の能率をよくして行くと、こういうことが根本の精神ではないかと思います。この点から政府のかたがたが言つておられますことがやはり公企業である企業に対して非常に干渉し過ぎるのではないかというような考えを持つております。  第二には源資の問題ですが、やはり公労法の精神である労使の自主的な解決ということが解決しなければこの財源の問題に関してもいろいろ話しても無駄なことのように思うのであります。私たち民間企業においては、特に大企業においては金はあるけれども出せない、なぜ出せないのかというと、世間との振合いだと言いますし、今最近の団体交渉の席上では会社側のかたはどういうことを言いますかといいますと、将来の恐慌に備えるのだというわけです。では具体的に一体企業というものがどうなつて行くのかというような質問に対しましては、経営者のかたも具体的な明示がなくてあいまいに終つてしまうように考えられます。併し公企業と民間産業との経営者の或いは資本家のかたの考えることが違う点は、やはり自主的に解決しようという点において大きな食い違いがあるのではないかと思うのです。でこの点については本案件に対する当局のかたがたは、自主的な解決がないというよりも、或いは自主的に解決しようとしてもこういう官僚制度といいますか、行政制度の中においては非常に困難な状態にあることはよくわかりますし、やはり自主的に解決しようとすることが見受けられないのではないかというように考えるのです。これはどうしてかといいますと、裁定理由書の第三項の中にも当局側は久しく事業の面から見て現行賃金が妥当であると主張し続けて来たのですが、最終段階に至つて民間同種産業賃金を考慮して事業経営者としては調停案の額の程度を妥当と認めるというように書かれておりまして、企業体としては支払い可能であることを表明しているわけです。それから又組合から出されております仲裁裁定実施に伴う源資という資料を、見ましても、組合の要求案を完全に支払つても四千六百万あればいいと、それも予備費の四千五百万と、或いは国債整理基金特別会計繰入の三千五百万の操作によつて相当の余裕を以て実施できるというようなことを申しておりますし、又仲裁裁定の実施によつても二千四百万円あれば妥当だと、これは当然予備費の流用からも充当できるというようなことを申しております。で当局側としてはどう申しておりますかというと、予備費の取りあえずの使途は想定できないが、最も恐れておるのは原料費が値上るからであるというようなことを言つております。併し当委員会から頂きました資料別紙十号のアルコール専売事業概況要綱によりますと、こういうように書かれておるわけです。合理化は強力に推進されておる。官営工場においても製造技術の改良、或いは熱管理の実施とか、安価な原料の購入とか、或いは原料の転換、労働者一人当りの生産量、年産集中の実施、諸種の合理的方策によつてその結果原単位は改善されておる。年産原価の低下となつて現われておる。というように書かれておりますところを見れば、当局は予備費の使途について原料費の値上りを心配されておるようでありますが、これは却つて組合が主張しておるように原料は却つて割安になるのではないかと言われておりますその主張のほうが私ども外から見て正しいのではないかというように考えられます。又最近新聞によりますと、アルコールの価格が一〇%値下りをしておるというような状態から我々考えて見ると、やはり組合の主張のほうが正しいようにも考えるわけであります。  それから振合いの問題ですが、アルコール現業におきましても企業内で裁定による賃金を当局も支払い得ると述べておる。にもかかわらず政府は給与総額が決定してから国会の承認を要するというようなことを言つておりますところを見ると、公労法の自主性といいますか、そういうものを非常に無視しておるように私たちとしては感ずる次第ですが、それから更に仲裁裁定仲裁裁定通りに実施するならば国家公務員とか或いは地方公務員との給与の振合いもあり、これは財政難の折柄一般民間企業給与にも非常に影響してインフレになるというような話がしばしばいろいろの所で聞き私たちが読んでおるわけですが、併し民間産業においても非常に給与のアンバランスがあることはすでに皆様御承知の通りであります。特に公労法を適用した専売事業といたしましては、国家公務員と申してもやはり民間に非常に近い労働者ではないかと思うのであり市して、それほどきつく国家公務員とかその他一般職のかたがたとの振合いを考えなくてもいのではないかというようにも考えられます。  それから又インフレになるというような話でありましたが、現在インフレになつて行こうとしておるのは、これは労働組合だけでなしに、国民の常識になつておるように、やはり先ほど論議されましたように厖大な再軍備予算があるというように私は理解しております。  それから、併しそれは別としまして、政府は二十一日に閣議で裁定通りには行えないが、来年一月より実施すると聞いておりますが、同時に労働者の人員整理だとか、或いは米の値段だとか、その他運賃、郵便料を値上げしようというようなことを言明しておりまして、このことは労働者の賃上げに応じたためにこういうことになつて行くのだというように言われますが、私たちとしてはそういうふうに考えておりません。これはやはり再軍備予算ということによつて生ずるインフレを隠し、そうして又維持して一般国民にこういう負担をかけておるというように考えられまして、このことは政府自体が非常に自主性のないものではないかというようにも考えられます。このことはやはり左手で政府は国家公務員や或いは民間産業との間の振合いを言つて公共企業体の労働者の賃金を抑えて行く右手では国民に迷惑になるような諸物価値上げして行く。これは丁度私どもの企業においても行われ、或いはその他大きな企業の中においても行われる方法でもあり、民間産業ではこの方法をどういう形でとつて、おるかと言いますと、非常に一方では合理化をやつて労働強化の方向に進めております。それから同時に他方では再軍備予算によつて大きな企業が更に大きな資本の蓄積をやつて行こうという二つの面があつて、これは民間大企業と今政府がやろうとしておることと同じように考えられるわけです。このことは三公社五現業のかたがた、勿論アルコール専売事業を含めて公労法の枠を越えようという気持になるのは私どもとしては理解できるわけであります。このことは民間産業に賃金が上つたから影響するというようなことではなしに、もつと重要な影響民間産業の労使間に与えるのではないかというように考えております。  それから次に民間同種産業賃金との比較でありますが、このことについては先ほどもいろいろな話があり、又今協和発酵のかたからいろいろ話がありましたので申上げるまでもないし、又調停委員会或いは仲裁委員会において十分討議されたことでありまして、私自身先ほども最初に申上げましたように、詳しい資料も持つておりませんし、ただ私たちの企業から比べれば非常に低いものだということが言えると思うのです。これは王子醗酵の賃金水準ですが、これはほんの参考までに申上げますが、人員二十六名で年齢平均二十七歳、勤続年数が十四・二年、扶養家族が三・四人で二万三千円ベースです。これはべースというのは非常に比較しにくいものでありまして、非常に又意味のないものだと思いますし、これは又アルコール専売事業労働組合賃金の個別比較をしておりませんので、二、三うちの例だけを挙げておきますと、女子年齢二十歳、勤続三カ月の人が基準内が八千九百五十二円になつております。それから男子年齢二十四歳、勤続六年で一万四千八百二十円になつております。それから男子で年齢四十二歳、勤続二十八年で三万四千九百八十三円になつておりまして、アルコール専売の設例につきましてはこれに併せて比較して頂ければ明瞭に出て来るだろうと思いますし、恐らくアルコール専売の労働者のかたがたは王子醗酵よりも遙かに低い線にとどまつておられるのではないかというように考えております。  まあ以上で私の意見を述べまして結論的に申しますと、やはり政府公務員の精神を尊重してもらいたいということと、それから当局は支払いが可能であるのだからもつと公企業をうまく運営して自主的に問題を、労使間の問題を解決して行く方向に歩んでもらいたいということと、政府は再軍備予算を維持するために労働者の賃上げを事として諸物価を上げるようなことをやつて国民に迷惑がかかるようなことをしてもらいたくない。以上の点から政府は速かに仲裁裁定の完全なる実施をしてもらいたいということを最終意見として私の陳述を終りたいと思います。
  44. 中川以良

    委員長中川以良君) 有難うございました。
  45. 海野三朗

    ○海野三朗君 桑田さんにお伺いしますが、仲裁裁定政府が全面的に呑むべきものである、さお考えでございましようか。事情によつてはそれは延ばすのが妥当であるとお考えでございましようか。御所見を承わりたい。
  46. 桑田猛

    参考人桑田猛君) 私は予備費の内容について詳しく知らないのです。それで恐らく予備費というのは原料的な問題とか或いは年末のいろいろな何か給与等の問題があると思うのでありますが、恐らくそういう問題の数字がかなりもうそろそろ明確になる時期ではないかと思うのでありますが、ところが御承知のように、いもというのは大体生いもを使うのが今年一ぱいから来年の一月の中頃でございまして、それからあとに使いますいもと申しますのは、切干甘藷を使う。そうしますと、切干甘藷を乾燥するために一キロリツター当りの生いもの換算よりも少し高くなるわけなんです。それをどういうふうにまあ政府が、当局が踏まれるかということが一番大きな問題だろうと思いますが、最近少し生いもが上つて参りました。それから切干甘藷も大体九十五円ぐらいではもう工場へ、なかなか民間会社に入りにくくなつたが、それが官営の工場だと割合にいも畑の中心にありますから、我々よりは入りやすいと思いますが、どういう値段で入るかということについてはまあ今年の終り頃から恐らく入荷されると思いますが、そういうものがわかればほほアルコール専売関係だけでは、ほぼ予備費の支出というものにつきましては、年末のそういう問題を過ぎますとほぼ恰好がつくのじやないかと思います。そうなりますとかなり明確な数字が出て来ると思うのでありますが、今のところそういうことについては若干の危惧を持つておられるのじやないかと、こういうふうに私は想定しておるのであります。問題は予備費をどう使われるかということにかかつておるのであります。  それからもう一つ専売益金というのが専売にありまして、これはかなりの専売益金が、私昨日書類を頂きましたが、かなりの専売益金が記載されておるわけでありますが、これは大蔵省官との関係でどうなるのか知りませんが、そういう問題なんかも見合せて、今当局としては考慮中なのじやないかとこういうふうに、まあできれば私どもとしても大体結着がつけばまあ数字が出れば他の三公社五現業とやはり多少関連性があると思いますが、早くそれを一つにまとめられるほうがいいと、こういうふうに思つております。
  47. 海野三朗

    ○海野三朗君 この今お伺いいたしましたのは、率直にお伺いしたわけでありますが、仲裁裁定は呑むべきものであるとお考えでありますか。状況によつては呑まなくてもいいとお考えでありましようか。その辺のところを如何ようにお考えになつていらつしやいますか、あなた御自身それを……。
  48. 桑田猛

    参考人桑田猛君) 私自身の意見……私の会社では賃金の低いというのを自慢にしておらないのでありまして、私の会社自身に関しては、こういう賃金なら呑むのじやないかと、こういうふうに思いますが、私のほうの経営者が若しこういう立場に立つたら、やはり早く呑むようにするのが妥当じやないか。非常に純粋に考えればそうですが、但し政府のような大きな企業体、一つの団体になりますと、しかく簡単に行きにくい面があるのじやないかと思いますが、そういう問題を全部表しにいたしますと、明確にわかつたものは明確に解決したほうがいいのじやないかと、かように考えております。
  49. 中川以良

    委員長中川以良君) ほかに御意見ございませんか。……それでは本日は午前中はこの程度にいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  50. 中川以良

    委員長中川以良君) 参考人のお二人には御多用中のところ誠に有難うございました。
  51. 西川彌平治

    ○西川彌平治君 どうでしよう、これは、直ちにまだ結論的な問題まで入るのには早いと思うのでありますが、臨時国会も三十日には開会されますし、国会開会中において委員会を開いて御決定を願うことにして、我々今日の陳述は非常に参考なつたのでありますから、おのおの一つお聞きいたしました陳述等によりまして、やはり考えを練る必要があると思いますが、今日は一つ午後の会議を一つないことにし、又明日も一つ見送つて頂いたらどうかと思いますが、如何でございましようか。
  52. 中川以良

    委員長中川以良君) 実は昨日お話がございまして、まあ大臣が来なければなかなか明確に政府側の意向が判明しないというので、本日午後から大臣を呼ぶことにしておりますので、本日午後通産大臣が実は出席することになつております。そこで藤田委員その他も御質問がありますようですから、本日午後その御質問をやりまして、今の西川委員の御意見はよくわかるので、もうすぐ国会が始まるので、明日は土曜日だから休んだらどうかという御意向のようでありますが。そういう御意向は私もよくわかつておりますが、それは今日の午後の質疑が終つたあとで御協議を願つて、明日やるかやらないかをおきめになつたら如何でございましようか。
  53. 西川彌平治

    ○西川彌平治君 それで結構でございます。
  54. 海野三朗

    ○海野三朗君 本日通産大臣ばかりでなくて、大蔵大臣の御出席を要求したのでありますが、大蔵大臣は今日御出席ないのでございましようか。
  55. 中川以良

    委員長中川以良君) 実は予算関係で今日内閣と党との間で重要会談をやつておるようでございまして、大蔵大臣、労働大臣、官房長官は本日は出席ができないという旨の回答がございました。通産大臣は出席をいたします。
  56. 海野三朗

    ○海野三朗君 この委員会に大蔵大臣が出られないというのは、私はどうもおかしいと思うのでありますが、如何なものであまりしようか。党との関係があるから出られないという、そういうふうなことは……。
  57. 中川以良

    委員長中川以良君) 私今誤りましたが、本日只今予算関係の内閣における懇談会がございますのと、引続き衆議院の大蔵委員会に、これは前から約束があつて出席しなければならんということだそうでございます。今のを取消します。併し私のほうは、もうできるだけ出席するように昨日来、只今も誠意を持つて申込んだのでございますが、そういうわけでございます。通産大臣は出席をいたします。
  58. 海野三朗

    ○海野三朗君 委員長は本当に熱心に閣僚に要求しておられますことに対しましては、深甚の敬意を表しておるものでございまするが、各大臣は私は甚だこの通産委員会というものを軽視しておると私は思うのであります。実にその点については私はけしからないことだと思つて非常に憤慨しておるのでございます。通産委員会というものをないがしろにしておる。非常に重大なる委員会であるのにもかかわらず、そういうふうな感じを私は抱かされるのでありますし、又委員諸君も甚だ以て私はけしからんと思うのであります。私は社会党なるが故に言うのではありません。参議院の性格というものは、そういうような党にこだわつてはいけないのであつて、慎重に審議をするところに衆議院と異なつた性格を持つておるのが参議院の特色であると思います。それで各委員の人たちも甚だ以てけしからないと思うのであつて、これは何とか委員長のほらから各党に呼びかけて、若し出られないということであつたら、別の人に出て頂くようにでもして頂きたいと思います。
  59. 中川以良

    委員長中川以良君) 承知いたしました。今の大臣の点はなお今後一層委員長としても努めます。通産委員会を全く無視しておるというようなことはないと思います。ただ衆議院のほうではこういうふうに通産委員会は開いておらないので、衆議院のほうでは、速記録を御覧になつたらわかりますが、誠に委員会を開くことに対する不熱心さに対して委員自体が不満を、持つて委員長がお叱りを受けております。併し参議院に関しましてはそういうことはありませんので、勿論委員長としても各大臣の出席を鞭撻しておるのでありますが、なお皆さんの御要望に副うように一層の努力をいたしたいと思います。なお委員の皆さんに関しましては、私は全く同感でございますので、皆さんにお伝えいたしまして、各会派に申入れます。  それでは午前中暫らくこれにて休憩いたします。午後二時二十分から再開をいたします。    午後一時十四分休憩    —————・—————    午後三時二十七分開会
  60. 中川以良

    委員長中川以良君) それでは休憩前に引続き只今より委員会を再開いたします。  最初に通産大臣に御出席を頂きましたので、昨日来審議をいたしておりまする案件につきまして通産大臣に対する質疑を先ず行います。
  61. 海野三朗

    ○海野三朗君 通産大臣にお伺いいたしますが、仲裁裁定の実施は当然呑まるべきものであると考えまするが、それを一月から呑もうと、尊重して一月から呑もうというようなお話でありまするが、それはスト権を奪つた今日、この仲裁裁定のほうに従うのが常道であり、正しいあり方であると私は考えるのでありますが、予算の都合上他に影響するところがあるからとか何とかいう理由の下にこれを丸呑みすることを逡巡しておられるようでありますがが、その点についてこれを呑むことが正しいと私どもは考えるのでありまするが、通産大臣は如何ようにこれをお考えになつておりまするか、その御所見をお伺いいたしたいと存じます。
  62. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。法制的見地から見ますれば、もうお説至極御尤もでございます。ただ国家財政のいろいろな立場から見、又日本経済自立の立場から見まして非常に慎重に審議しました次第でございまして、結局来年の一月一日から実施しよう、こういうことになつたわけであります。
  63. 海野三朗

    ○海野三朗君 只今のお話では仲裁裁定のあれにお応じにならないということになれば、どこにその欠点があるかと申しますと、予算上やほかにこれを行うことができない理由があるというそういう見地にお立ちになつているのでございましようが、その誤りはどこにあるのでございましようか。私はこれを、仲裁裁定のほうが四月からというのに八月からということになつて来たわけで、ところがそれをも又政府は踏みにじつて一月からとされるところに……、一体どこにその根本の誤りがあるのでございましようか。私はこれを、直ちに仲裁裁定を呑むのが常道であり正しきあり方であると考えるのでありまするが、これができないということはどこにその欠陥があるのでございましようか。若しありとすれば、その欠陥を是正するのが政治のあり方ではないかと私は思うのでありまするが、その点についてもう一言御説明をお願いいたしたいと思います。
  64. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) これは海野さんのお説の通りに、仲裁裁定が出ますれば、こういうような労組にはスト権が禁止されておりますために、それがためにああいうふうな裁定が出たのでございますから、これは実施すべきが当然だということはもう異論がないわけでございますが、ただ国家財政を考えましたり、又物価賃金との悪循環が出て来るというような虞れもありまして、政府がいろいろ慎重に考慮いたしました結果、先般閣議で決定いたしましたような方針で進むことに相成つた次第でございます。
  65. 海野三朗

    ○海野三朗君 国家財政ということをおつしやるのでありまするけれども、いろいろこの方面に対して支払うところの金、そういうものが予算の上で都合ができないのだというお話であるといたしますれば、その政治のあり方はいけないのである、政治の貧困であるということになるのじやございませんでしようか。私は仲裁裁定委員長と昨日いろいろ問答をいたしましたが、この裁定を直ちに呑むべきものである、それを呑まれないとすればそこに政治の貧困がある、予算が都合できないなら、その都合できないのを都合するのが政治家のあり方でないかと私は考えるのでありまするが、通産大臣は如何にお考えになるのでありましようか。そこを伺いたい。
  66. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。政治の貧困ということで我々御批評をこうむりますことは、これも或いはいたし方ないかとも存じますが、只今日本の国情と申しまするのはなかなか並一通りでやつて行ける事情じやございませんので、日本の国家を自立経済に持つて行くためには、恐らく歴史上曾つてないような苦難な情勢があるのでございまして、これを打開して行くのには非常な努力をしましてもまだ足れりとしないほどの政治力が要るわけでございますから、現段階といたしましては、政治の貧困と申すことも或いは一面真理かも知れませんが、併し国家が非常な苦しい立場にあるということも一つ併せてお考えを願いたいと存じます。
  67. 海野三朗

    ○海野三朗君 今日のこの毎日新聞でありまするが、九州の水害についてたくさんなる国費を出しておる、その国費が二重取りになつておるという証拠写真のことも載つております。又過日の新聞によりますると、ぶち壊れた美容師の学校という名ばかりのものが災害肥りで立派な学校が建設せられつつあるということ、こういうことに対しましては、通産大臣の立場から如何ようにこの風水害に対する予備金の支出……俗に水増しと申しましようか、災害肥りがやかましい今日こういうふうなのをどういうふうにお考えになつておるのでございましようか。その点をお伺いしたいと思います。
  68. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。私新聞に出ておることは今日忙しうございまして見ておりません。よく言われることでございまして、水増しで予算を余計もらうとか、又国庫の資金の融通を、嘘でもございますまいが大きく打出して、そして出て行つたというようなこともないとも限りません。これが即ち今日国家の非常な窮乏しておるという証拠だろうと思います。と申しますことは誰でも自分で嘘をついたり、又は大げさに国家の金を使いたいという人は日本の国には一人もないと思います。然るにもかかわらずそうしなければやつて行けないような中央地方を通じて財政並びに金融に窮屈な思いをさせておる、こういうような国情がそういうようになつて来ているのだろうと思います。その点におきまして我々としましては、成るべく納税者に過重の負担をさせないように十分な査定はして行きたいと思つておりますけれども、なかなかそう思うように参りませんので、こういう点を政治の貧困以上に国情の如何に貧困であるかということを先ず我々としては考えておかなければならんことじやないかと、こう考えております。
  69. 海野三朗

    ○海野三朗君 この多い水増し、それから二重取りをやつておるのであります。建設省からもお金をもらい、それから又通産省のほうからも中小企業のほうでも金をもらう、こういうふうな二重取りがたくさん行われておるのに、一方では生活に窮して本当に食えないからと言つておる切実なる労働者の叫び声に対しましては、通産大臣は如何なる御決心を持つておられるのでありましようか。先ずその点を私はお伺いしたいと思います。
  70. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。先ほども申上げましたように、二重取りとか、水増しとかいうことが、仮にありといたしますれば、それほど地方においても、皆困つておるということの半面の真理を物語つておるもと思います。これはやはり日本経済というものを早く安定させて、そうしてそんなことをしなくても、普通に政治も行われ、暮しもできて行くということにするのが政治の目標でございます。そういう方面について、各方面から我々としても施策を講じておる次第でございます。一面又勤労者立場から申しますれば、物価もじりじり高くなつておりまして、その生活の苦労ということも重々察しておりますけれども、やはり足りない乏しき中から互いに公平に分け合つて、そうしてお互いに早く貞観の治とか、昔からよく言いますが、落ちたるを拾わずというような、満も足りた生活内容にして行くというような目標に向つて、我々はいろいろな施策で苦心惨憺しておる次第でございます。
  71. 海野三朗

    ○海野三朗君 この風水害に対する、つまり災害肥り、それに対しましては、通産大臣といたしまして、この中小企業金融公庫法案もこの前通つたわけでありますが、そういうことに対しての、如何なる監督の手をお打ちになつておるのでございましようか。それは全部任せきりででおやりになつておるのではないと思いますが、如何ように注意を払つていらつしやるのでありましようか。その点を私はお伺いいたしたいと思います。
  72. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。中小企業金融公庫も又一種の金融機関でございます。金融機関が加何に、善意を持つて、そうして事務に当らなければならないかということは、これはもう当然なことでありまして今更我々はそれに対してわかり切つた指示をするということはございません。当然その事務に従事しておる人間が十分なる覚悟と、又十分なる責任を持つてつておることでございます。併し一言申上げますならば、市中銀行が多数の預金者の預金を持つて、預金者に対して責任を持つて、そうしていろいろ金融しておるわけでございます。中小企業金融公庫なんかは、これは国家の資金、即ち言葉を換えて申しますれば一般納税者の資金によつてつておる次第でございますから、一般納税者、即ち国民全体に対して強い責任を感じて、その投資されたところの資金が納税した人に、成るほど使つてくれてよかつたというふうな貸出し方になつて行くべきものだという信念を持つてやらせておる次第でございます。
  73. 海野三朗

    ○海野三朗君 そのことは承わつておきます。もう一度仲裁裁定につきましてでありまするが、時間のズレということに対しますると、仲裁裁定を一月から実施するということになりますれば、ここに時間の非常なズレがある。その間におけるこの金銭、つまり銀行券の価値が下落しておるという、そういうことを考えまするときに、この労働組合から出たところのものは当を得てない。仲裁裁定も又当を得てないという御見解の下におやりになつたものであるという結論に到着すると思います。結果から見まして。で、今の政府賃金要求は少し過分である、半年、九カ月も延ばしてからでこれは差支えないのであるという結果になつておりまするが、そういうふうにお考えになつておる政治であると了解せざるを得ないと思うのでありまするが、さように了解いたしてよろしいでありましようか。その点をもう一度お伺いいたしたい。
  74. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。銀行券の価値が下つておるというようなちよつとお言葉がありましたが、私はそう感じませんで、銀行券の価値は移動をしておらんと、こう私は見ておる次第であります。それから、時間のズレがございましたのは先ほども申上げましたような国家財政の立場、又インフレ懸念の面から、いろいろ慎重に考慮して、そしていよいよ実施ということになりますのにつきましては、来年の一月一日からということになつた次第でございます。
  75. 海野三朗

    ○海野三朗君 銀行券の価値の下落と私が申しましたのは、以前はもう五円で以て金一匁買えたのでありますが、今は二千数百円積まなければ、金一匁買えない。こういうことはつまり銀行券の実質が下つておる結果であると私は了解しておるのでありますが、如何なものでありましようか。
  76. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) 戦前と比較しまして、金の価値が下つておることは事実です。これは一ドル一円でございますものが、三百六十円に変つたのが如実にその事実を示している次第であります。併し私の先ほど申上げましたのは、八月実施を一月に延ばしたから、銀行券の価値が下つてつて、何か勤労者が非常にそのために価値の点において不利益をこうむつたのじやないかというような思召しじやないかと思つて申上げた次第でございまして、日本の円価値というものは、戦前に比べまして、只今申上げましたように、二円から三百六十円まで下つておることは事実であります。
  77. 海野三朗

    ○海野三朗君 大体そのことについては私は今質問を打切つて、最後に通産大臣にお伺いいたしたいことは日本の鉄鋼業についてでありますが、日本の鉄鋼業の現在のあり方に対しましては如何ようにお考えになつておりますか。このままでよろしいのか、現在のあり方に対しましては生産費が高い。ところが生産費ばかりでなしに、原料か高い。この点については如何ようにお考えになつておるのでございましようか。私はこの国の産業の基礎でありまするから、あらゆる産業の基であるからしてこの製鉄業というものはゆるがせにできないものである。その点から考えますると、今日の鉄鋼政策あり方に対しましては甚だ遺憾の点が多々あると考えられるのでありまするが、通産大臣はこれに対して如何ようにお考えになつておるのでございましようか、その御高見を承わりたいと存じま
  78. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。鉄鋼業のことについて御心配を願つておりますが、これはお説至極御尤もでございまして、鉄鋼業のあり方只今のままで自立経済の安定、又国際競争力が発揮されて行くかということは、これはもうむずかしい問題でございまして鉄鋼業につきましては是非これを合理化しまして、コストの引下げ、即ち鉄の値段が下りませんというと、これによつて作られるいろいろな商品が皆コスト高になるわけでございますから、先ず基幹産業として鉄鋼業の合理化をしまして、そうして生産費を下げて行かなければならん、こういう方針に向つております。これはもうお説その通りでございます。そこで我々といたしましては過去三年以来ストツク・ミルとかいうものを新らしく備え付けまして、少しでも設備を近代化しまして、そうして生産費を下げるという方向に進んでおります。又第二次の鉄鋼合理化計画というものも先般各業者から出させまして、いろいろ検討したのでございますが、これは又非常な厖大なる国家資金並びに市中資金が必要でございますが、只今インフレ懸念が非常に多いときでございますので、それほどの資金を果して鉄鋼だけに投じ得るかどうかということには疑問を持つております。併し折角只今検討中でございます。一面におきましては合理化政策を徹底的に実行して鉄の値段を下げ、これによつてできるところのいろいろな品物の国際競争力を増して行かなければならん、こう考えております。これには通産省といたしましていろいろ苦心いたして計画を立てておる次第でございます。
  79. 海野三朗

    ○海野三朗君 今日のあり方では本当に株式会社になつたわけでありまして、民間事業に譲つたわけではありませんが、やはり政府といたしましてこれが鉄鋼業に対しては如何ようにお考えになつておるのでありますか。単なる営利会社として存在せしめて行こう、政府はこれに対して余り干渉をしない、もう商売人としてやらせて行こうというお考えでありますか。鉄だけでは立つて行かないから、政府が何とかこれに力を入れて、或る形の変つた国策業者にしなければならん、こういうふうにお考えになつておるものでありましようか。その辺のところの御所見を承わりたいと思います。
  80. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。非常な大事な基幹産業でございますので、海野さんの或いはお考えになつていらつしやる御政策かとも思いますが、これを国営にしたらどうかというような議論もあちらこちらで出なくもないのでございます。併し只今政府といたしましてとつております措置は、やはり自由式主義経済の下に鉄鋼業は運行して行く。併しこれが基幹産業であり、同時に先ほど仰せの通り、これが安くならなければいろいろな製品の対外競争力もつかないという立場におりますので、政府資金というものをこれに投下しまして、そうして合理化さしておる次第でございますが、只今までのところでは統制という言葉で現わすほどのことはいたしておりませんけれども政府資金を投じて合理化をさしております以上は我々といたしましてもいろいろ忠告、勧告その他の行政指導によりまして、これがただ政府から金さえ借りればいい、もらえればいい、あとは自分のほうで勝手に行くというような自由放任の立場にはないと私は考えております。
  81. 海野三朗

    ○海野三朗君 私は時間がないものですから次のかたに質問を譲りまして、私は保留をいたしておきます。
  82. 藤田進

    藤田進君 アルコール専売裁定については先ほどの御答弁によりますと、国家財政と他のいわば均衡上の問題等が理由で一月から実施するようにというふうにきまつておるやに承わつたのでありますが、昨日来本事案の調査をいたしますと、アルコール専売に関しましては、新らしい勧告によつて所要源資というものは約二千何百万円か必要とするし、一方アルコール専売の財政状態を見ますると、予備金の四千五百万円ばかりが全然手付かずでおりますし、又この将来の使途についても、目下見るべき予想はない、こういう状態が明確になりました。一方公労法の建前から申しますと、それぞれの現業或いは公社によつて解決せらるべきものであるが故に、それぞれ自主的な解決、団体交渉をし、そして或いは調停、更に仲裁、こういう場合で、ただ異例の場合としては予算上或いは資金上の措置国会議決を要するときだけになつておるやに思うのであります。こういうところから考えますると、単に八社についてどうも困難なものがあるからということで、このようにアルコール専売だけを我々はここで審議いたして見ますると、或いは何か前後矛盾したような感じを受けるのであります。当該企業の状態、資金的に、又予算的に問題がないならば当然これは政府として仲裁裁定はその通り実施されるのが至当であろう。いずれの点からこれを調査して見てもそのような結論があるのでありますが、今の予備金四千五百万円との関連において大臣としては先ほどの御答弁よりもつと具体的になぜアルコール専売について呑めないか、その理由を明らかにして頂きたいと思うのです。
  83. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。裁定が二千三十一万二千円になつておりますが、その半面予備金としてお説の通り四千五百万円でございます。ただ予備金は御承知の通りの予備金でございまして、必要があればこそやはり予備金として除けておるものでございます。併しながらこれを給与改訂に使おうと思えば無論使い得るのでございますけれども、予備金の性質上これは要らん金だ、こういう考えは私は持つておりません。やはり予備金は必要の場合に備えた予備金、こう認めて頂きたいと思います。  それからお説の中にございました各八社が個々別々に独立採算制をとつておるのであるから、金のあるところが出したらいいじやないか、これも一応御尤もの線でございますが、ただ私どもといたしましては、政府全体から考えて見ますというと、やはり一般職員とか、又ほかの現業員なんかと余り釣合いのとれないことをするということは、私はこれはよくないことじやないかと思いまして、できるだけ一視同仁に普遍的に勤労者が均霑して行くということになることがよいことと考えまして、アルコールは仮に予備金を食つてもよいという前提におきましてもやはりほかの釣合いも一応考えて、そうして裁定を実施すべきものじやないか、こう考えて先般のような閣議決定をいたした次第であります。
  84. 藤田進

    藤田進君 運営に当つていろいろそういう若干の考慮を払う場合にはこれはあり得ると思います。非常にかけ離れたアンバランスのある給与というものが必ずしも私ども妥当と申上げているわけではないのでありますが、ただ八月が一月にという五カ月のズレ、こういうものがどこか一カ所乃至ニカ所困難なところがあるために、当然その処理が可能であるものまでが非常に不利益をこうむるという状態、又困難であるものは無論私ども立場とすれば、これを克服して予算上資金上の措置をなさるべきだと思うのですが、その議論は一応別としても、本事案はアルコール専売について本委員会でやつておりまするのでこれを見ますると、全体の均衡というものはこれは睨み合すことも必要でありましようけれども、併し現在の公企労法の建前からすれば、これは今のお説からしますというと、やはり全体を一つにまとめてすべて賃金を策定しなければならんという、むしろ法律自体にすでに問題が、そう御解釈になりますと、出て来る。たまたまアルコール専売だけの仲裁裁定が今日出ているものだとすれば、将来地の現業、公社について仲裁裁定の出ることが、たとえそれが半年先に予想される場合においても、なおアルコール専売のこの労働者の賃金というものはきまらない。勧告が出てもきまつて来ない。こういうことがやはり出て来ると思われる。こういう点からすると、法律解釈の面、それぞれの調停委員会仲裁委員会、こういうもの、延いてはそれぞれの団体交渉、こういつたものを全く否定してしまう結果になりはしないか。この考え方民間産業についても同様なやはり考え方に当然ならざるを得ないのじやないか。独立採算制と称して論議を成る場合にはなし、或る場合には全体の賃金水準というものを論じ、そうしていずれか都合のいいときに強く問題を国定的に出して来る。全体を論ずるために独立採算制とかそういつたものは全然忘れた恰好になつて来る。これも御承知のように今回の勧告が非常に大きなアンバランスのものであれば別といたしましても、勧告を内容的に見て当面の一般社会水準、国際水準は無論のことでありますが、極めて低位にある内容すら持つている勧告でありますから、従つて予算上資金上何ら差支えないこの種問題については、これは勧告をそのまま呑まれるのが至当じやないか。法律解釈の両からも、又実態から見てもそのように思われるのであります。それらの点について今も予備金のお答えがありましたが、これは本年度の予算審議に関連して給与問題が出て、予備金についても給与の変動にやはり即応する、見返りとなるべき性質のことは明らかにされているようであります。でありまするから、この際予備金は出せないという性質のものではないし、又予備金について将来、あと僅かな本会計年度ですが、およそ見通し得る範囲においては四千数百万円という予備金について是非必要だろうという見通しは何らない。あるのは給与問題が今日出て来ている、こういうふうに考えますと、予備金を使わないということの理由が非常に不明確であるので、結局は仲裁裁定そのものについてこれを実施しない。ただ何といいますか、大きな概念としてはこれを呑んだというふうに御解釈になるかも知れませんが、時期がずれているだけだ、こうお思いになるかも知れませんが、併し個々の労働者にとつて年末を控え、それぞれの受給者にとつて考えて見ますと大変なやはりこれは問題でありますし、それであるが故にいろいろ情勢も憂慮すべき事態であるようにも考えられるので、この点この真相を十分調べれば調べるほど、いわゆる一月実施が、仲裁案を呑んだと言いながら実質上完全に呑んではいない。ただ輿論的には政府も一月から呑んでいるという、つまり労働者にとつて非常に不利な情勢をかもしているけれども、実際問題としては調べて見ると八月から実施できるのだということに当面するわけでありまして、若しそういつたような事情の中で一月から実施されようとすえるお考えのようですが、その場合にはどういう画からアルコール専売については源資を捻出されるのか、或いは予備金からこれを充当されるのかどうか、かなり具体的に検討された上で一月実施になつていると思うのですが、どういうところからこれを引当てられようとするのか、お尋ねしたいと思います。
  85. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。先ほど予備金は予備金としての使命があるからと申上げましたけれども、これを閣議で我々決定しますときにはやはり予備金を潰してこれに当てようという考えからやつておる次第であります。  それから法的から独立採算制の恪守というお話がございましたが、これはもう私至極御尤もでございまして、この点に対しては私異論ございません。ただ問題は政治的に見まして同じ政府機関である各八社というものが片方はアルコールのごとく余裕金があるものだからこれはすぐ実施する、併し国鉄とか何とかいう方面は金がないからこれはやらんのだと、若し法律的に考えて資金上できんものはできんとしてしまつて果していいものかと思いますと、これは又政治的に見ますと私はよくないことだと思います。そこで私どもといたしましては我々のようなアルコールのごとく予備金にしろこれをカバーしてとにかく何とか実行できるという方面をするならば、ほかの方面は料金を少々値上げしてでもやはりやつて上げなければならんというのが私の主張でありまして、そうして逆にないほうから見ましたら恐らく私の考え方を受けると思います。と申しますことはあなたの法的根拠によつてお説の通りにあるところだけやればいいじやないか、独立採算制じやないか、併しないものは資金上予算上できないからやらんでもいいとは仰せにならんとは思いますけれども、やつて欲しいけれどもなかなかむずかしいという場合がありますというと、これはやはり政府全体としまして面白くないことでございますから、できるならばやはり歩調を一にして一般職或いは又ほかの公企業のほうも一様に均霑して行くのがこれがいいことじやないかと、こう考えまして今回の処置をとつたわけでございます。従つてこのアルコールはお説のように予備金を潰してやることになることでございましようが、同時に資金上どうしても無い袖は振れんと言われるような工場におられる国鉄の労働者のようなかたについても、やはり何とかして差上げなければならんというので、まあ料金を上げるということは私は経審長官としては甚だ反対でございますけれども、併し一般の職員が生活にも困るということではこれは又幾らインフレを抑えると言いましてもこれは元も子もなくなる次第でございますから、私は料金引上げに甚だこれこそ大蔵大臣の言うことじやないけれども涙を呑んで料金引上げを或る程度容認して、そうして国鉄なんかもやはり均霑してもらうということにしたらいいじやないかと、こういうことに決定したわけでございます。
  86. 藤田進

    藤田進君 いや、私は国鉄などの場合には大臣の見解を支持するだろうと思う。そういうことについて若干誤解があるようですが、私が申上げているのは、こういう実施し得るところが数が多いのですれ、聞くところによると六社は大丈夫だと言つているので、あと二社について困難性がある、物価改訂を伴うというような運賃その他ですね、そういうことが言われているので、やはり今のように予備金を使うのだと、予備金はこれは他の不慮の出費にと言われているけれども、これは一月実施である以上これを使うと只今おつしやつているわけですから、それならば四千五百万円でしたかあるのですからして五十歩百歩ではないか。要はやはり仲裁裁定の権威をやはり維持して、できれば仲裁まで行かないで将来は調停或いは自主的交渉の中で問題を解決するということが、これがやはり最高の労使間の目標としなければならんのではないか、であればこそああいつた制度も設けられているので、今日では機械的に団体交渉、調停、仲裁、そうしてこれを政府はなかなか国会も開かないで延ばして行つて、結局実施時期を何カ月かずらして行く。これがもうすでに慣行に機械的に今日なつてしまつている。こういうことが民間産業にもいい影響を与えない。中労委その他労働委員会の調停斡旋についても同様な影響を及ぼしている。こういう点から考えて見ても予備金を出すならば仲裁裁定通り実施したらいいではないか。一面も他の五社についても可能ですから合計六社については可能であるというのであるから、均衡論を出す、又或る程度均衡は必要であろうが、それはあとの一社についてこれに揃えるように努力されれば、法の建前も貫けるし、仲裁勧告は完全にこれが呑める、こういう意味合のことを申上げているのであります。ですから国鉄等については仕方がないということは申上げておりません。なぜならばいわゆる自由主義経済と称するかなりの部分が経営者に任されているという状態では今の公社現業についではないのでありますから、唯一の収入が運賃であり、或いは郵便であればその料金であるという状態で、殆んど死命はそのときの政府が握つている以上当然政府措置するということはこれはもう明白なことでありますから、従つて他の独立採算制とは事情が異なる。だから全体の均衡を保つなればやはり勧告を完全に実施するということに政府が努力され、その努力にもかかわらず国会がこれを否定する、否決するなり、議決しないなり、こういうことであるならば、これ又止むを得ないとも言えるかもわかりません。けれども現在の政府とされては勧告を呑んで何とかしてやるという親心のように示しながらも、実際は勧告と違つているし、而も一番何といいますか、困難度のあるところに他を規制する、これに揃えると、こういう点が非常に問題ではないか。更にインフレ等の問題ですが、これは五カ月ずらしたことによつてインフレがとまるとか、そういつた非常に大幅な賃金革命でも何でもない、むしろ実質賃金を維持するために、追付くために、この裁定の根拠から見て毎月勤労統計というようなものを採用しているわけですから、実質賃金が下つているものをこれを補充しようという金額、こういうものでありますから、当面そのアルコール専売は無論のこと、他の産業、国家財政に及ぼす影響というものは非常に微々たるものではないか、むしろ生産なり業務の運営というものがスムーズに行くことによつて事態を好転するのではないかという私は見解を持つております。自由主義経済というものが、要するにこういつた非常に局部的には予期せざる被害を与えるという点も我々は指摘したいのでありますが、これはやはりその基本政策を異にしているのでありますから、これは暫らくおくといたしましても、いずれにしてもこのような通産大臣の所管である専売アルコール、この現業に対するものについてはやはり所管大臣としてもつと御努力を願いたいものだ、予備金の操作によつて一月からというなればせめて五カ月勧告通り遡つてやはり是非とも御努力を願いたい、こう考えておりますので、善処を煩わしたいと思います。
  87. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) アルコールは実は私の所管でございまして、同時にお説のように予備金がございまして、出せば出せない立場でもない、こういうふうなことですが、私自身としましてはほかの省は省としましても自分のかわいい子の賃上げに対しては同じ気分を持つておる一人で、それをあなたさんからそう言つて頂くことは私は非常に感謝する次第でございますが、併し均衡ということを今お認め下さつたのと同じように、若し釣合上均衡をやるのに対してまあ異論がなさそうなお言葉でありますならば、二社は金がないから差別待遇してよろしい、併しあとのほうは六社は金があるのだから完全実施をしたらいいじやないか、こういうようなお説にもとれますが、併しそれは、やはり均衡を破ることでございまして、六社でも一社でもあるところだけやつたらいいじやないかという一番最初の議論にあと戻りするように考えられます。私はどこまでも政府全体といたしまして各省間の状況を見まして、そうしてできることはできるだけのことをしてやる、それについては無理までして二社がやつておるという場合に、やはり全般的に見てこれも大きな均衡からすればアルコールは八月からやつてもできるだけの金があるんだからやつたらいいんじやないかというのもちよつと均衡の理論に反すると思います。これは要しまするのに結局問題は、政府全体といたしまして同じような、まあ仕事は違いますけれども政府の機関として働いていらつしやる勤労者の諸君に公平にやつて差上げるということが政治として一番いいんじやないか、通産大臣といたしましてはお説の通り、而も私のかわいい子に対しての同情のお言葉を賜わりましたことは通産大臣としては感謝しますけれども、国務大臣として全般を見る場合にはいささか涙を振つて均衡論を徹底させなければならん立場におつたわけであります。
  88. 藤田進

    藤田進君 最後に法律的な面ですが、そういうことで貫かれるといたしますれば、今後の個々の企業、現業について交渉いたしましても、その段階ではすでに解決ができない、なぜならば常に閣議で論議もされ、全体の問題として取上げられなきやならんので、いわば一省の大臣を以てしては団体交渉の相手方にはもうなり得ないという実態があるように思われるわけです。そのことが調停裁定の段階でも同様であつて、一体このそれぞれの企業において調停委員会仲裁委員会を持つこと自体がナンセンスになる、こう思われるわけで、これらの点について如何ようにお考えであるか。その問題になるというと、それは個々の独立採算制であるから、仮に勤務時間その他労働条件にいたしましてもアルコール専売はそうであろうけれども、おれのほうはそうはいかんということで、団体交渉の段階で来るとおのおのその企業の中における自主性を唱えられて今まで来たと思うんです。非常に大きなここに欺瞞があるのではないかという気がするのでありますが、法律的な見地からすればこれを通したいし、又財政面から言えば一本化して均衡論で行くという点に私どもとしては何か一貫性のないその場限りのどうも御議論のような気がいたしますので、何かこれについて一貫した一つ方針があるならばお伺いしておきたいと思います。
  89. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。その法律論から仰せになればもう藤田さんのおつしやる通りでございますが、併し私は先ほど申しましたように、通商産業大臣としては自分の省だけ守つておればいいのならばこれは誠に幸福な立場である、併し恐らく運輸省のほうからお考えになれば、私は或る程度の仏心になつたはずでございます。と申しますことは、我々が均衡論を唱えてそうして均衡のために国鉄の勤労者もやはり予算上資金上措置ができなくても、予算上資金上無理をしてでも差上げるということになつたわけでありますから、この点におきましては、これは法律論を離れて政治的に私はそう考えるのが至当ではないかと考えて今回の措置をしたわけであります。
  90. 藤田進

    藤田進君 そういたしますと、非常に一月からということでこれは国会がどう議決するかは別といたしまして大臣としてはかなり固い御決意のようですが、およそ民間におけるこの種問題の解決を見ますと、万一調停その他仲裁などの実施がその後うまく行かない、若干の時期のズレ、一月が仮に三月になるという事態においては、その間はいわゆる賃金形態としての考えではなくして、いわば臨時的な給与といいますか、当面は丁度年末なりそういつたものを控えておりますけれども、こういうものについて若干のアルフアーなり或いはべース・アツプされたものと現行賃金の差額を出して、その何カ月分かずれた期間だけプラスするなりといつたような処理が通常行われております。若し一月ということで五カ月ずれるとするならば、当面年末も控えていて御承知のように、年末の処置の問題も関連して出ておるわけでありますが、これらのものについての御考慮を如何になされようとしておられるか、お答え願いたい。
  91. 中村辰五郎

    説明員中村辰五郎君) 年末手当の問題でございますが、これは一般公務員現業関係との間に〇・五と〇・二五との差があるというようなことのように承わりますが、これは現業関係一般公務員との過去におきます経緯その他から見ましてできましたもので、形式的に見ますと不均衡というようなことが考えられますが、これをただ形式の点でなしに、いろいろ各現業事情等から見ますると、形式的な不均衡というようなことを言い得ないのじやないかという工合に考えております。
  92. 藤田進

    藤田進君 そうすると、具体的にはどうなるわけですか。
  93. 中村辰五郎

    説明員中村辰五郎君) それは閣議決定の内容に、アルコールについて申上げますと、いわゆる不合理是正と言われているものでございますが、これにつきましては八月から実施したい、こういう工合に考えて、一般公務員のほうはこういつた過去の経緯がございません。そういつた事情もございますので、年末手当というものにつきましては只今申しましたような〇・五と〇・二五というような相違も出ても止むを得ないのじやないか、こういう意味合におきまして実質的均衡ということを考えて決定せられたものでございます。
  94. 藤田進

    藤田進君 八月から不合理の是正をやりたいと言われるのはどういう面の合理化になりますか、私にちよつとぴんと来ないのでございますが。
  95. 中村辰五郎

    説明員中村辰五郎君) これは多少賃金の給与のきめ方に過去のいろいろ複雑した経緯がございますが、大体不合理是正の問題としまして考えておりますことは、一つは頭打ちを是正するということでございます。従来の給与体系から行きますと、例えば五級職の者は途中でとめるというようなこともございましたし、そういうものをこの際一つ是正したい。それから大分前に遡りますが、実は日給制の職員を月給制に改めるというようなときに、家族の員数等で相当多い者がございましたが、それは或る一定限度に切りまして、本俸をきめたというようなことがございまして、まあアンバランスの是正をするということで検討をいたしまして、これは調停委員会におきましても問題になりまして、私どものほうでも勿論これを何らかの機会に是正して見たい、こういう希望を持つておりましたが、調停委員会の場合にもこの問題が取上げられまして、私のほうの実態を調査いたしまして不合理是正につきましては、できるだけ早急にやりたいということで、今回も特にこの点につきましては、八月から実施するということに考えておるわけでございます。
  96. 藤田進

    藤田進君 今のは仲裁裁定がなくとも通常行われている事柄なので、是正された上で仲裁裁定の金額を一月から実施しようという、こういうことになるだろうと思うのですね。私が質問いたしましたのは、そういうその種のものではなくして、通常一般産業においてもなされている措置ですね。仮に八月が一月だとこうなりますと、五カ月というものがずれて来る。成るほどベース改訂としては一月からになるけれども、その間の五カ月に相当するいわば勧告の金額に見返るべきものを一〇〇%か或いは何%は別として、そういつたものの処置が当然あるべきではないだろうか。たまたま年末になつているので、それらの含みの中にそういつたものを融け込ませて大きな意味の解決をするというような腹が無論あるべきではないだろうか。これについては閣議決定を待つたことだから、どういうお考えなのかということを聞いておるわけなんです。
  97. 中村辰五郎

    説明員中村辰五郎君) 只今の御質問のお気持でございますが、今度の閣議決定の二つのベース・アツプの問題と、期末手当の問題でございますが、その遅れて実施せられるものについて或る考慮を払われたらどうかという趣旨にもとられるのでありますが、これはアルコールだけの見地からも、或いは全体の立場からもそういつた特別の考慮を考えておりません。
  98. 藤田進

    藤田進君 そういたしますと、大臣にお伺いしますが、世上政府仲裁裁定を呑んだんだということが伝わつておりますが、結局只今の御答弁のように一月から実施をしたい、その間の五カ月のズレがあるけれどもそれは我慢をしてくれということになつて仲裁裁定は実施されていない、金額についてただ一月から実施するということであつて仲裁裁定内容とは違つたのだと、政府の案はこういうことが明確に言えると思うのですが、その通りでございましよう。
  99. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) 政府といたしましては、時期のズレはございますけれども仲裁裁定を尊重してできるだけそれに副うような予算措置にした、こういうことでございます。
  100. 藤田進

    藤田進君 ですから仲裁裁定は八月からということで、時期と金額ですね、これはもう不可分の問題として出されているというのです。今井仲裁委員長の御答弁を聞きますと……。ですから仲裁裁定というのは、非常に今何だかわかりにくく御答弁になつたわけですが、尊重して時期がちよつと違うだけで実施するんだと言われておるけれども、いわば仲裁裁定とは違つたものが、政府案というものがここに出て来る。こういうふうに解釈する。何故ならば一月の賃金であるならば、今井さんのお話を昨日聞きますと、これはやはり金額自身が違つているかも知れないと言うのです。なぜならば九月を基準に諸般の統計資料を調べて、そしてあの一万四千二百円ですか、これが出たのであるから、一月実施という勧告になつたとするならば、その後の物価変動なり、推定した数字というものに異動があるから、それは金額は大小やつて見なければわからないけれども、違うはずだと、こういうことはこの数理的に言えるというのです。ですから厳密に言うならば、仲裁裁定が実施されているとは言えない。たまたま八月実施すべきものを九月に政府案として実施するんだと、法的にやる案だと、こういう解釈に仲裁委員長の話から総合しますとなるわけです。その点はそのように解釈しているかどうかという点をお尋ねしているわけです。
  101. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) 只今のお説は厳密に仰せになれば私はその通りだと思います。時期というものがこれを動かすべからざる一つの要素であると同時に、金額というものが動かすべからざる要素ということで勧告されて、それをそのまま完全実施するということが即ち実施と思召すならば、只今政府の考えておりますことは、時期はずれたという点だけは確かにずれておるわけでございます。仲裁裁定を完全に呑んでしまつたということの言葉は当らんかと思います。
  102. 藤田進

    藤田進君 内容についてこれ以上お伺いしましてもなかなか問題も多くて無駄であるかと思いますので、ただアルコール専売事情は非常に詳しく御承知だと思いますけれども生産なり或いは最近のコストの値下げなりといつた諸般の事情から見てもやはり所管大臣としてはいろいろ御努力になつたでしようけれども、この問題決定に至るまでやはり与党その他を通じていわゆる勧告がそのまま実施されるように、一つ国務大臣としての立場もありましようが、通産大臣でもございますので、御努力が願いたい。このことを申し加えてきたいと思います。
  103. 海野三朗

    ○海野三朗君 この賃上げの問題が始終起つて来ますことは私どもが考えますると、国力以上の不生産的な方面に金が使われておるからであるということに帰すると思うのでありますが、閣僚の一人として通産大臣は如何ようにお考えになつておりますか。この賃上げ、ベース・アツプということは絶えずこれは起つておる問題でありまして、これは国力以外の、国力にふさわしくないお金が不生産的な方面にたくさん使われておるからである。こういうように私どもは考えられるのでありますが、閣僚の一人としまして通産大臣は如何ようにお考えになつておるのでございましようか。
  104. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) 恐らく私は保安隊なんかの費用というものが国力以上に使われておるということを示唆されての御発言と思いますが、併し私はそうは考えておりません。要するに治安を維持して行くというような意味においてはやはり直接生産的とは申しませんけれども、併し治安の乱れるということは生産を阻害する非常に重大なる原因があるのですから、治安を維持して行くということは生産を増強して行くということに通うものでございますから、それが不生産的であるとは考えておらん次第であります。
  105. 海野三朗

    ○海野三朗君 過日軍略家として有名な前陸軍中将に会つて親しく私は質問をしたのでありまするが、如何に今日本が軍備しようとも絶体にこの我が日本の国土は守れないということを専門家としまして申しておるのであります。昔と違いまして、朝鮮、満州までずつと行つておるときとは違つて、今本土だけなんであります。本土に数千機の飛行機があろうが何しようが、絶対にこの本土は守れないということを申しておるのでありますが、今保安隊を作つて治安の維持をすることは勿論必要でございます。これは私はさらに異論ございません。警察力も増強しなければいけないのでしよう。火焔びんを振り廻すような馬鹿者もおりましようから、これは取締らなければなりませんが、保安隊それにはおのずから程度というものが私はあると思うのであります。先ず大体の計算から申しますと、保安隊員一人を作ると年間二百四十万円の金を使う。金がかかる。それでどの程度これを増強して行くのかと申しますと、新聞などの報するところによれば、何万という保安隊員を増加しようという計画である。これは取りも直さず着々軍備に邁進しておる結果であると私は思う。それはどこまで行つて果して日本が守れるかということになりますというと、絶体に守れない。昔とは違つて原子爆弾、水素爆弾のある今日でありまするから、それも国力が十分充実して来た暁においては又別問題でありまするが、現在国民が本当に人間らしい暮しができないという現在におきましては、そういう方面は極力狭めてでも先ず人間らしい生活をして行く方向へ持つて行くべきものではないか。こう私は考えるのでありまするが、その不生産的な保安隊の増強、その方面に莫大なるお金を流しておきながらこの仲裁裁定の鼻くそほどの金を働く者のために支出できないというようなことは、私は本当に党というものを離れて考えておるのである。私は何も社会党であるからこういうことを申すのじやないのです。本当に私は先ず食うほうが先だ。人間らしい生活をさせるほうが先である。この軍備に使うところの金は減らしてでもやらなければならないのじやないかと私は考えるのでありまするが、閣僚のお一人としまして通産大臣はこの点については如何ようにお考えになつておるのでありましようか。御所見をお伺いいたしたいと存じます。
  106. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。御高見は一つの御卓見として私は謹聴いたします。併しこれは所管外のことでございますからその辺のところは一つそういうような方面を担当しておる大臣から責任のある御答弁をさしたいと存じます。
  107. 海野三朗

    ○海野三朗君 最後に私はもう一言申上げて御決意を伺いたいと思うのであります。私は何も閣議に列して見たことがないからわかりませんけれども、一体通産大臣というものは非常に小さく取扱つておるのが現政府あり方であつて、私はもう少し通商産業の方面に力を入れなければならない。非常に通産大臣は非常に人格の立派なかたでありますからほかの大臣からそれぞれ圧迫をされておるかのごとく私は感じられるので、この点については通産委員といたしまして非常に僕は憤りを感じておるものでございます。例えば保安隊のほうの増強ということで、それで以てぎりぎり押されておるし、又小笠原大蔵大臣のほうからでも均衡財政と言つて押付けられておる。誠に私は情けないと思うのでありまするが、この点については通産大臣は如何ようなお考えを持つていらつしやるのでありましようか。少しも押付けられてはいないというふうにお考えになつていらつしやるのでありましようか。この辺の御自信のあるところのお考えをお漏らし願いたいと思います。
  108. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) 大変御鞭撻をこうむりまして有難うございます。結局私の微力を御鞭撻下さつて、もう少し働けという御注意であつて謹聴いたします。ただ問題はお説のように今後自立経済をして参りますのに通産省が重大な役割を持つておることは事実であります。驚馬に鞭打つてできるだけその方向に強力に邁進したいと存じますからどうか今後とも一つ通産委員会において私を一つ推進し又御鞭撻を願うことを切にお願いいたします。
  109. 海野三朗

    ○海野三朗君 私は金を殖やすのはつまり国力を養つて行くにはこの通商産業が最も大事なんであつて、それを不生産的な方面から圧迫されるということは、私はとんでもないこれは誤りであるというように考える。  それから今度のこの仲裁裁定におきましても生産事業に従事しておるこの方面の僅かのお金を削られて、そうしていや、ほかの均衡がとれないからとか何とかいろいろまあ御説明もありましようけれども、これを一言にして言えば結局大蔵大臣のほうから予算が伴わないからと言つてはねつけられたという結果になる。これは如何に今通産大臣が御説明になりましても、予算が許さないからと言つて大蔵大臣から追詰められた結果であると私は考えるのであります。私はそういうことではこの日本の建設に向つては駄目だ、不生産的なものが大きくなつちや駄目だ、私はそういうふうに考えるのでありまして、この仲裁裁定を飽くまでも政府が呑むべきものである。これは態度を私は言つておるのです。枝葉の細かいことを言つておるのじやない。予算があるとかないとかいうことを言つておるのじやなくて、仲裁裁定がかくのごとく判断したことを政府が実行することが本当に政治の常道なんだ、それを予算が許さないとか均衡がとれないとか、それは詭弁であると利は考える。飽くまでもこの点につきましては通商産業大協としては仲裁裁定を全然呑むという方向に御努力あらんことを閣僚の一人として私は切に希望いたす次第でございます。これを以て私は本日の質問を終ります。
  110. 西川彌平治

    ○西川彌平治君 一つだけ御質問申上げます。アルコール工業に対しましては先般民間に工場を払下げておるのでございます。民間にもアルコール工場はたくさんございますが、従業員も二千人に足りない従業員であるということを聞いておるのでありますが、このアルコール工業は基本的に官業でずつとお通しになるお考えでございましようか、或いは曾つて払下をいたしましたように今後やはり払下等をやる御気持があるかどうかということを一つだけ伺つておきたいと思います。
  111. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。私の就任以前には漸次民間企業に移して行きたいという方針であつたように伺つておりました。それで本年度も二社を払下げる予定で予算もとつておりませんでした。併しいろいろ就任直後で余り事情もよくわかりませんでございましたので、これを民間企業に移して果してアルコール工業というものが、又アルコール工業そのものがいろいろな産業に対して寄与しておる点から考えましてやはり政府の機関としてやつて行くのがいいのじやないかという考えをその当時起しまして、そして大変むずかしかつたのでございますが、大蔵大臣に話合いまして二工場の払下というものを阻止しまして、新らしくその二工場を来年の三月までということで、本年の予算になかつたものを予算を増して頂きましてそして続けて来ておる次第でございます。私の考えといたしましては大体いろいろ事情を承わりましてアルコール工業というものは政府の機関で置くのがいいじやないか、こういう今考えを持つております。将来いろいろのことがございましようけれども只今私の持つておる考えはそうでございます。そこで私が皆様にお願いしたいことはアルコール裁定についてやはり私どもがやかましく言いますと、そんなものはうつもやつてしまえという飛躍的の議論が出て来ないとも限りませんから、実は苦慮しておる次第でございますので、どうぞその辺のところをお酌み取り願いたいと思います。
  112. 中川以良

    委員長中川以良君) 最後に私ちよつとお伺いしたいのでありますが、このたびの仲裁裁定の実施につきましては、まあ先刻来のお話を承わりますると、諸般の事情によつて来年の一月から実施をされるというふうに政府ではきめられておられるのでありますが、この問題はこれから当委員会を通じて国会が決定をすべき問題だと存じます。いずれ国会において決定をいたすことと存じますが、併し通産大臣とされまして御所管のアルコール専売事業に対して国会の承認を求めないで、今日これの労働施策の改善に対して御実施になるべきものがたくさんあると思うのです。例えば福利施設の改善等につきましては、この機会に一層一つ御努力を願いたいと思うのであります。  それから更に組合の要求書を拝見をいたしますると、特殊事情というものが十四ほど挙げられておりますが、或いは衛生上悪いもの、或いは暑さ寒さの問題、その他困難な事情がありますので、これを一律に五十円、甚だしいのは三十円の特別手当を出しているに過ぎないのであります。こういう問題に対しましては、これらの施設改善、合理化ということに対しまして、なお通産当局といたして御努力をされる余地が十分あるのじやないか、こういう面につきましても、今後この機会に一層一つ福利施設の増進、作業施設の改善、合理化等に対する御熱意を払つて頂きたいと私はお願いを申上げておきたいと思うのであります。これらのことについて大臣の御所見をお伺いしたいと思います。
  113. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) 福利施設につきましても個々別々にいろいろ施策をしておるはずでございます。  それから特別勤務手当のことも大蔵省と折衝中でありまして、多分成果を挙げる見込が立つておりますから、何とかなると、こういうような考えを以て仕事に当つております。
  114. 中川以良

    委員長中川以良君) 大臣は予算関係の会議がございますようで、本日は御退席を願いたいと思いますが、よろしうございますか。    〔「異議なしと」呼ぶ者あり〕
  115. 中川以良

    委員長中川以良君) それでは引続き通産省は中村局長が残つておられますのと、労働大臣は本日御出席になりませんが、安井政務次官と労働省の石黒労政局労働法規課長が見えております。質疑を続行いたします。
  116. 海野三朗

    ○海野三朗君 やはり今の仲裁裁定関係しておることになるのでありまするが、この遵法闘争がもう着々始まつておるのでありますが、これに対してはどういうふうにお考えになつておりましようか。
  117. 安井謙

    説明員(安井謙君) まあ文字通り遵法闘争でございます限り、これをとやかく言う筋のものじやないと思いますが、これに伴いましていろいろ派生的な問題が起きますとこれについては深甚の考慮をいたさなければいかんのじやないかと思つておる次第でございます。
  118. 海野三朗

    ○海野三朗君 結局つまり仲裁裁定を呑まないということが大きな原因になつておると思うのでありますが、その結果を見ますというと、結局トータルにおいて損をしておるのじやないかと、そういうように私は考えるのでありますが、政府当局においては仲裁裁定を二月から実施しようとしておる、とにかくそれで相当値切つて儲けたつもりでおりましようが、遵法闘争の結果はマイナスになる、国家全体としては。その辺については如何ようにお考えになつておりましようか。
  119. 安井謙

    説明員(安井謙君) いろいろ見方によりましてむずかしい問題もあろうかと存ずるのでございますが、先ほど通産大臣の御答弁にもありましたように、先ず財政全般の問題から政府といたしましては、まあこれがぎりぎりの措置であるという方針を決定いたしておる次第でございます。労働省としましても裁定の精神はでき得る限りに生かしたいということで今日まで参つておる次第であります。全体のそういつた関係からそういう取極になつておる点を御了承頂きたいと存ずる次第でございます。
  120. 海野三朗

    ○海野三朗君 私はそれを全体としてこう見ておるのであります。ここに遵法闘争、そういうものが行われて来ますというと、全体としては国家として損なんであります。そういうことが起きないように政治のあり方を持つて行かなければならないのじやないか。甚だまずいやり方であると思う。予算が許さないからと言つておりますけれども、これはやはり黒星の一つじやないかと私は考えるのでありますが、このり一月から仲裁裁定を実施する、それで呑んだんだと言つてごまかしておられますが、結果はマイナスの結果になつておるのではないかと、こういうことを私はお伺いしておるのです。全体としては損をしておるのじやないか。これは如何ようにお考えになつておりますか。
  121. 安井謙

    説明員(安井謙君) これはむずかしい問題でございまして、見方によつてそういつた御観察もあり得るかと存じますが、政府としましては、財政の許す限度でできる限りの努力をいたしました結果でございますので、公務員の諸君、或いは公企業体、公社の諸君も現業の諸君もこの事情を御了承頂きたいという以外にどうもちよつと申上げようがないと存じます。
  122. 藤田進

    藤田進君 具体的には又本審査に関連して後日承わりたいと思うのですが、当面院の外におきましていろいろ或いは遵法闘争と名付けるスト、或いは賜暇戦術が伝えられておりまするが、要はやはり仲裁裁定の完全実施、強いて言えば要するに政府をして公労法定め従つて勧告を呑んでもらいたいという素朴な要求、これは非常に現象としては不可思議なもので、仲裁裁定は守られなければならないし、又守られる以上そういつた社会現象はない。これは何人も否定できないと思うのです。併しいずれにしても現実にはそういう院外における非常に憂慮すべき事態が出て来ておるわけですが、私ども最近は特に院内に重点を置いていろいろ調査を進めております関係上、院外のことについてさほど詳しくもないので、率直に申上げてそうでございますが、従いまして労働政務次官としていろいろ現在の事態を把握されておることについて、特に仲裁裁定が先ほど来の御答弁にもあつたように一月ということになると真正面から仲裁裁定の完全実施とぶつかるわけであります。この事態に処して如何なる見通しをお持ちになつておるかという点を御説明願いたいと思います。我々本委員会におきましてもこの審査を進めるについては全然こういつたいわば労働団体の動きを無視してこれを棚上げをして事を論じ、合理的な解決ということはあり得ないと思いますので、若し一月実施というような場合でも十分なる労働大臣なり労働政務次官としてこれら団体についても納得せしめるような何かいい見通しなり要素があるとするならばお聞かせ願いたい。労働情勢全般の中で特に仲裁裁定に関連する見通しをお伺いしたいと思います。
  123. 安井謙

    説明員(安井謙君) 仲裁裁定の精神から申しまして、これを極力尊重しなければいかんことはここで申すまでもないのでございますが、同時に資金上、予算上の不可能な支出の場合に、政府としましてはこれは議会の御審議によつて決定をして頂くという建前になつておる次第でございます。これは十分御存じであろうと思います。かれこれ勘案いたしまして一月から仲裁裁定並びにベース・アツプの内容を実施するというふうに財政的に方針をきめた次第でございます。この間いろいろないきさつ或いは細かい規定の解釈等につきましては、十分労働省としましても現在の従業員の諸君とも十分なお話合いをする機会を持ち、御了解頂きたい。法一本によつてこれをむちやくちやに押切るようなこともないようにいたしたいと考えて努力中でございます。併しこれ騎虎の勢い非常に法の則を越すというような問題になりますと、これにつきましては又それぞれの立場で考慮を要するような事態もあるのじやなかろうかと考えております。
  124. 藤田進

    藤田進君 そうしますと、今のお答えは労働情勢について法の則を越えるようなことがあれば、これに処する必要があるというようなことで、どうも何だかわかりませんが、私のお尋ねしているのは労働省の立場としてはやはり労使間の問題、これは民間労使間の問題のみならず、所管大臣、所管省としては合理的安定点を求めて速かなる解決をし、日本の産業情勢一般にいい影響を与えるという政府としても大きな任務を持つた省だと思うので、法の則を越えると言えば、政府も法の則を越えているようにも思われるので、そこらはどちらか知りませんが、私の考え、予想を申上げると、なかなか騎虎の勢いと言われたが、そんな勢いにつられるのではなくして、現実生活というものと、それからいれゆる権利意識という……、最近特に政府自身も国家権力、いわゆる権力を云々する。法の則を越えればこれに対処するということは権利意識の現われなんです。このことは労働団体について折角仲裁裁定が出て、要求よりはずれる、調停案よりもずれる、そうして仲裁裁定は八月からだ。こういうふうに出て来たにもかかわらず、又政府措置で以て一月から……、これは又今日の政治社会においてはできない。与野党を通じて政府との関連を考えて見れば明白に政府の意向を酌んで与党も動かされるでしようし、いわば政府の腹が非常に大きな一〇〇%と言つていい結果を示すわけなんです。こういういわば仲裁裁定を尊重すると言いながら実際には尊重されない。これがもうたびたび、重なつて来た、従来……。こういうことになりますと、ここでこの悪弊を打破しなければならんという素朴な権利意識というものは当然出るのではなかろうか。これに対しては何というか、弾圧と言つてはひどいのですが、何かで臨むというのでなしに、何とか労働省として事態の解決についてありそうなものではないだろうか。一月ということがきまつて言われておりますけれども、これは国会でもつと審議され、国会の決定を待つというふうに、まだゆとりがあるわけですから……。従つて国会議決という形においての御努力もあるだろうし、或いは又一方どうしても一月でなければならんということになれば、数字的ないろいろな次第についておのおのの団体についても説明がされ、納得をしてもらうという方向ならば、その方向も具体化されなければならんことだし、手放しでとにかくおれは一月からだという恰好で行くというのじや、日本の労働行政としての味がないのじやないかと思うので、非常に無理な御注文か知れませんが、この際なければないで仕方ありませんけれども、あればお伺い願つておきたい。具体的には更に将来劈頭申上げたようにお伺いしたいと思いますので、一般的でよろしうございます。
  125. 安井謙

    説明員(安井謙君) たびたび申上げますように、この裁定につきましては、極力これは尊重精神から言つてしなければいかんことは十分承知いたしておりますので、過去の裁定十件の中でも六件までは、これは完全に実施をいたしておるという実績も持つております。今まででも政府としてちつともやらないというわけじやないのです。今度の場合は特に災害、冷害といつたような非常に政府の資金も多額に要している場合、いろいろ彼此勘案いたしまして、必要限度の予算一つでき得る限り組もうという努力をいたしておる結果でございまして、この結果についていろいろ御不満もございましようが、その点につきましては極力……、無論法の一点張りなり、ない袖は振れんという一点張りではなくて、よく組合の幹部のかたともお話合いし、できるだけ事情の了承に努めるという努力を今後とも続けて行きたい決心でございます。
  126. 海野三朗

    ○海野三朗君 先ほど私が朝日新聞に出た事実を引いて通産大臣に詰め寄つたのでありますが、この二重取りをして災害肥りをやつているというようなものが大分あるのです。そういうふうなことを見逃しておいて、そうして政府がやり切れないということは、私は当らんと思うのであります。それから昔からの諺にも泣く子に乳、それから今ワンワン泣いている子供がある、これにお菓子をくれて早く学校に行くのだという方面に政府が努めるべきものであつて、今お菓子をくれないで、何とかしてこれをごまかそうというような考えでは、本当の善政とは言えないじやないか、とにかく今泣いている子供にお菓子をやつて、そうして偏して学校にやるのだ、そういうふうな立場に立つてこの仲裁裁定を全部丸呑みにするのが私は本当であると思う。それが、予算が許さないからと言つたつて、それだけこの災害に使うところのお金が実に杜撰な切り方をしておるに至つては、私ども納得が行かない数々があるのでありますが、それは政務次官として如何ように御覧になつておりますか、御所見を承わりたい。
  127. 安井謙

    説明員(安井謙君) まあ水害、災害予算の使い方で濫費があるのじやないかといつたような、間々世間の風評或いは新聞紙上等のお説があるといたしますれば、これは誠に遺憾千万なことで、これは政府といたしましては絶対にないように今後の実地面で取締つて行くと申しますか、十分留意してやつて行かなければならないことであろうと思うのであります。今まるまる仲裁裁定を実施すれば、これは理想的でございますが、これは先ほどからいろいろ御答弁もありましたように、財政全般の見地から、どうしてもこれが実施できない、まあその点につきましては公労法の第三十五条にもございますように、まあ議会の御審議の結果によつて、これは最後の決は下されるという形になつておりますので、政府事情を、財政的に呑み得る事情を提出いたしまして、これは国会でいろいろ御判断を頂きたい、こう考えておる次第であります。
  128. 西川彌平治

    ○西川彌平治君 本日はこの程度で一つ打切つて頂いて、明日はおやりになる予定でありますけれども一つやめて頂きまして、そうして臨時国会開会中におやり願いたいと思いますが、如何でしようか。
  129. 中川以良

    委員長中川以良君) ちよつと速記をとめて。    〔速記中止
  130. 中川以良

    委員長中川以良君) 速記を始めて。  それでは本日はこの程度で打切りたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  131. 中川以良

    委員長中川以良君) 御異議ないものと認めます。  次回は十二月一日午後一時より理事会を開き、一時半より委員会を開くことにいたします。  それでは本日はこれにて散会いたします。    午後五時四分散会