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1953-11-02 第17回国会 衆議院 外務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年十一月二日(月曜日)     午前十時四十一分開議  出席委員    委員長 上塚  司君    理事 富田 健治君 理事 福田 篤泰君    理事 並木 芳雄君 理事 穗積 七郎君    理事 戸叶 里子君       金光 庸夫君    中山 マサ君       増田甲子七君    須磨彌吉郎君       岡田 勢一君    勝間田清一君       神近 市子君    加藤 勘十君       北 れい吉君    川上 貫一君  出席国務大臣         外 務 大 臣 岡崎 勝男君  出席政府委員         外務事務官         (条約局長)  下田 武三君  委員外出席者         検     事 古川健次郎君         外務事務官         (条約局第三課         長)      重光  晶君         専  門  員 佐藤 敏人君         専  門  員 村瀬 忠夫君     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  日本国における国際連合軍隊に対する刑事裁  判権行使に関する議定書締結について承認  を求めるの件(条約第一号)     ―――――――――――――
  2. 上塚司

    ○上塚委員長 これより会議を開きます。  日本国における国際連合軍隊に対する刑事裁判権行使に関する議定書締結について承認を求めるの件を議題といたします。  質疑を許します。並木芳雄君。
  3. 並木芳雄

    並木委員 一昨日質問をした中で答弁の残つておるのがありますから、それをまずお尋ねいたします。それは国際連合加盟についてのその後のいきさつであります。ガットなんかの場合には仮加入という制度もありますので、何らかの形で国際連合に仮加入とか、あるいは準加盟国というような形で加盟ができるのではないか、こう思つておりますが、その後国連加盟の問題はどうなつておりますか、お尋ねいたします。
  4. 下田武三

    下田政府委員 国連加盟の問題につきましては、たびたび関係国と相談をいたしたことがございまして、現国連総会の始まりましてから以後も、米国その他と相談したことがございます。しかしながら、イタリアのごときは日本ちようど同じ立場にあるのでありますが、国連に準加盟国という一段劣つた地位において加入することが、はたしてイタリア日本のような一等国にとつて、適当な措置であるかどうかという点につきましては、これは大いに考えなければならない問題でありますので、その点は何でもいいから、どんな劣つた地位でもいいから、無理に入れてくれという問題ではないのではないかというふうに考えております。また今般のガットの仮加入、これは仮加入とは申しますが、実際は締約国と同じ地位に立ち、締約国と同じ権利義務をこの間の宣言に加入した締約国との間に持ち得るのでありますが、国連に準加盟国として入りました場合に、どういう地位に立つかということにつきましては、かいもく見当がつかないのであります。と申しますのは、これはやはり憲章規定改正しなければできないことではないか。ガットの場合には一つの仮加入のための文書ができたわけであります、国際とりきめができたわけであります。国連の場合にも日本なりイタリアなり準加盟国地位を認めるためには、やはり憲章改正を必要とするのではないか。その憲章改正を必要とするといたしますと、これはまず安保理事会がきめなければならない。それから総会安保理事会決定をもとにして決議をいたさなければならない。そうしますと、そういう措置が現在の国際情勢のもとにおいて、可能であるかどうかという点につきましても、多大の疑問があるわけでございます。従いまして第一には、準加盟国のような劣つた地位を甘受してまで、入るべきかどうかという点が、非常に問題であるという点と、もう一つは、準加盟国地位決定するための国際間のとりきめが、現実情勢のもとにおいて成立し得るかどうかという点について、多大の疑問がありますために、この問題はさしあたりのところ、これ以上推進しないというように、ただいま政府の方針がきまつております。
  5. 並木芳雄

    並木委員 そういたしますと、国連との関係においては各個撃破的に、個別的に、実質上は加盟したと同じような方法をとる、例のなしくずし加盟、こういうような方法をとる以外にないということになりますか。
  6. 下田武三

    下田政府委員 これは一部の主要国には、準加盟なんと言わなくても、国際情勢が大きく動いておる現在、正式加盟のチャンスも考えられるのではないか、そういう場合には何もあわてて劣等な地位においてもぐり込むことを、無理にやらなくてもいいではないかというような意見を持つておる主要国もございます。でございますから、なしくずし的にだんだん劣等な地位から正当な地位に回復するというようなややこしい、しかも相当年月のかかる措置に今出る必要は必ずしもないのではないか、国際情勢が大きく動いておりますので、もう少しその情勢推移を見きわめてからでもいいのではないかと考えております。
  7. 並木芳雄

    並木委員 国際情勢推移によつては、正式加盟のチヤンスもある、不可能ではないということに受取れますが、そうですが。
  8. 下田武三

    下田政府委員 これは日本政府の見解として申し上げたのでないのでありまして、国連主要国のある方面では、朝鮮休戦会議も始まつており、中共加盟というような問題もあります。そういう大きな問題がやがてはいつか処理されなければならない。そういう場合に、当然日本とかイタリア加盟の問題も、前面に押し出されて来るのではないかという意見を述べておる国がございます。従いまして日本政府としましては、現在どういう方策に出るということはコミツトする段階ではないと思いますが、そういう意見を持つている大国があるということは、十分念頭に置いて情勢を待つ方が賢明ではないか、かように考えます。
  9. 並木芳雄

    並木委員 もう一つ、この前の私の質問に関連してのきようの質問ですが、例の国際司法裁判所規程に参加する問題なのです。これに参加いたしませんと、朝鮮李承晩ラインの問題やら濠州のアラフラ海に関する訴訟やら、そういうものは取上げることができないかのどうか、それが一つであります。その場合でも大韓民国の方はあれにまだ加入しておらないと思います。日本加入しておらない。その場合と、濠州のように国際司法裁判所規程加盟しておる場合と日本との場合、どういう関係にありますか。そして政府としてはこの二つは当然司法裁判所に提訴するつもりであると思いますが、その通りであるかどうか、あわせて伺いたい。
  10. 下田武三

    下田政府委員 濠州との漁業問題と韓国との間の李承晩ラインをめぐります漁業問題につきまして、いずれも国際法基本原則に関する問題でありまして、理論的には国際司法裁判所解決し得る問題であると存じますが、実際問題といたしまして、それならば両方ともすぐ同じように提訴することが可能であるか、あるいは得策であるかという点になりますと、ただちにそうは申し上げられないと思います。まず濠州との間でございますが、濠州は仰せのように国際司法裁判所当事国となつております。ところで日本当事国でないわけでありますから、もしアラフラ海の真珠貝漁業の問題を提訴いたそうとしますと、まず濠州の同意を得なければなりません。日本と濠州の間に特別の合意を作成いたしまして、両国とも納得の上で、この問題を国際司法裁判所にかけるのだという形で裁判所に持つて行きませんと、裁判所は取上げてくれないわけであります。そこで日本は濠州側に対しまして、貴国政府合意のもとに本件を国際司法裁判所に提訴したいということを申し入れたのであります。同時に日本は、自分が困つたときだけ、都合のいいときだけに裁判所にたよろうとするものではない。日本裁判所規程に入る用意があるということもつけ加えて申したのであります。非常にまあ紳士的に出たわけでありますが、濠州側もまたこれに対しまして紳士的に出て参りまして、濠州政府日本裁判所規程に入つていないという地位を決して利用する考えはない。それで大体日本側申入れに同意する旨の内意を示して参りました。そこで現実にどういう措置に出る必要があるかと申しますと、国連憲章の第九十二条の二項に、国連加盟国でない国は、安全保障理事会勧告に基いて総会が各場合に決定する条件のもとに、国際司法裁判所規程当事国となることができる、という規定がございます。そこですでにこの規定に基きまして、日本国裁司法裁判所規程当事国となろうとする場合に、一体どういう条件でなれるかという問合せを、沢田大使を通じて国連ハマーシヨルド事務総長問合せをいたしました。従いまして、現在国連総会が開かれております。総会が開かれておりますれば、当然安全保障理事会のメンバーもそろつているわけでございますので、おそらく日本のこの申入れは早急に取上げられまして、安全保障理事会でまずこれこれの条件日本加入を認むべしという勧告をいたしまして、その勧告総会が取上げまして、おそらく現会期中に総会が最後的に日本加入条件決定してくれるだろうと思います。そうしましたら日本は、その条件のもとに国裁司法裁判所に入ることが妥当かどうかということを考えまして、国会の御承認を仰ぎました上で、加入正式手続をとりたいと存じております。  韓国との間はこれも仰せのように、これは日本韓国国際司法裁判所当事国ではございません。従いまして日韓両国の間でやはり特別の合意をいたしまして、国際司法裁判所に訴えるという手しかないわけでございます。そこで韓国にそういう合意をしようということを申し入れることの適否でございますが、御承知のような韓国の態度でありますから、ええ、よろしゆうございます、と言つてすぐ応じて参りますかどうか、この点も多大の疑問でございます。もし応じたといたしましても、これはまた相当長い期間未解決の状態が続く。その間李ラインを越える日本漁船が拿捕される、船員が抑留されるという現在の好ましからざる事態が続くようでございましたら、さしあたつて現実の問題については何らの解決にならないという関係もございまして、李承晩ラインの問題につきまして国際司法裁判所に提訴するかどうかということにつきましては、ただいま慎重に研究中ではございますが、提訴することにしようという決定はいまだございません。
  11. 並木芳雄

    並木委員 議定書の中に、刑事裁判権とともに懲戒裁判権を含むという文字が使つてありますが、懲戒裁判権というのはどういうことなんですか。
  12. 下田武三

    下田政府委員 懲戒裁判権と申しますものは、普通人でございましたならば刑事裁判権だけの対象になるわけでございますが、軍人でございますために、軍律規律違反の問題につきましても処罰され得るわけでございます。そこで日本におります国連軍軍人が、日本側の観点から申しますならば、普通人と同じ犯罪に対してのみ罰せられることが日本としては関心事なのでございますが、駐留軍の方からいたしますと、普通人に対する普通犯罪裁判のみならず、軍として当然行わなければならない軍の規律違反に対する裁判権もひとしく日本行使されるということを認めてもらわないことには、軍としての存在が成り立たないわけでございます。そこで普通の刑事裁判権のほかに、やはり軍隊としての懲戒裁判権先方行使することを認めたわけであります。
  13. 並木芳雄

    並木委員 附属書の1の(a)のところに、「派遣国軍当局は、当該派遣国軍法に服するすべての者に対し」、こう書いてあります。それから同じく2の(a)のところにも「当該派遣国軍法に服する者に対し、」とあります。この書き方は他の個所では「構成員又は軍属」というふうに書いてあるのに対して別個な書き方をされておりますけれども、この「軍法に服するすべての者」というのは、どういう範囲を示すのでありますか。
  14. 下田武三

    下田政府委員 軍法に服する者の範囲は、実はそれぞれの派遣国国内法の問題でございまして、一律には行かないのでございますので、この第一項第二項等の原則的規定の場合には「軍法に服する者」という書き方をいたしたのでありますが、しからば現実にそれではわからぬじやないかということがございますので、議事録の一番初めに「派遣国軍法に服する者の範囲派遣国政府合同会議を通じて日本国政府通知しなければならない。」として、派遣国側にその範囲通知義務を課したのであります。従いまして日本政府は、それぞれの立場から何人もどういう者が軍法に服するかということの通知を受けまして、個々の場合につきまして具体的に承知し得る地位に立つわけでございます。
  15. 並木芳雄

    並木委員 ただいま合同会議というお話が出ましたけれども、その合同会議というのは、日米合同委員会と同じような性質のものですか、どういうふうな構成でやつて行くのか、その点の説明を願います。
  16. 下田武三

    下田政府委員 原語では日米の方はジヨイント・コミテイと申しまして、合同委員会と訳しておりますが、こちらの方はジヨイント・ボードでございます。そこで日米間の委員会国連との委員会との混同を避けますために、片方合同委員会とし、片方合同会議と訳したわけなのでございますが、構成日米間と同じように、おそらく外務省及び関係省の官吏が参加いたしまして、先方統一司令部としての米国代表と、それぞれの国の代表とが混つて入る委員会になると思います。そして現在日米合同委員会でもそうでございますが、刑事裁判権問題等につきましては、それぞれまた刑事裁判権サブコミテイができておりますが、国連軍との合同委員会でもやはり法務当局の御参加を得まして、一つサブコミテイができることになると思います。
  17. 並木芳雄

    並木委員 国の安全に関する罪というのがありまして、「国の安全に関する罪は、次のものを含む。(i)当該国に対する反逆(ii妨害行為(サボタージユ)、ちよ報行為又は当該国公務上若しくは国防上の秘密に関する法令の違反」ということが書いてあるのです。「次のものを含む」ですから、このほかに国の安全に関する罪というものがあろうかと思います。この範囲ははつきりしておきませんと、あとから問題が起つて参りますから、国の安全に関する罪とはどういうものであるか、この際説明をしておいていただきたいと思います。
  18. 下田武三

    下田政府委員 この点につきましても、議事録の方で、派遣国政府日本国政府に対して第二項の(c)に揚げる安全に対するすべての罪に関する詳細な現行法規定通報しなければならないという通報義務をやはり課しております。でございますから、議定書の第二項であけました国の安全に関する罪として例示いたしましたのはきわめて大ざつぱなものでございますが、具体的にはそれぞれの国から、おれの国ではどういうものが国の安全に関する罪となつているかということを通知いたして参るわけでございます。
  19. 並木芳雄

    並木委員 それはまだ全然わかつておりませんか。先方のもの、こちらのもの、あげていただければ幸いです。
  20. 下田武三

    下田政府委員 まだこの通報には接しておりません。しかし早晩通報があるものと存じております。
  21. 並木芳雄

    並木委員 手元に調べたものはありませんか。どういうものがありますか。
  22. 下田武三

    下田政府委員 大体セキユリテイに関する罪というのは、ここに掲げましたようなものがおもでございますが、それに国内法上どういう詳細な規定があるかということをあと通報させて知るわけでございますが、大体のところ日本の場合を考えますと、内乱に関する罪、外患に関する罪、あるいは破壊活動防止法違反の罪、そういうようなものがございます。また日本では軍がございませんから、いわゆる軍事機密をそこなう罪というものはございませんが、ただいま申しました日本の安全に関する罪プラス軍隊を保有する国に当然あるでございましよう軍機保護法違反の罪というものが考えられるところだと思います。
  23. 並木芳雄

    並木委員 これは範囲を広められると、日本の方としては非常に逃げられてしまうのではないか、何でもかんでも向うから通報して来たものは、さようでございますかといつて日本政府がそれを認めてしまうと、範囲が広くなつてしまつて、実際上の問題として日本裁判権に服する場合が少くなつて来るということをおそれるのですが、そういう心配はありませんか。
  24. 下田武三

    下田政府委員 セキユリテイ・クライムの範囲が不当に拡張されるという懸念はないと思います。かりにある国が無理にこれはおれの国の安全に関係があると申しましても、日本側から見まして、いやそうでなくて普通犯罪だと見ましたような場合には、普通犯罪に対しては日本側裁判権を持つておりますから、その次の3の両方裁判権が競合する場合に該当して来るわけでございます。そこで競合した場合の処理ぶりとして、先方裁判権行使し得る場合を一項と二項に限つておりますから、そこに該当しないということで、結局日本側裁判するということになると思います。
  25. 並木芳雄

    並木委員 3ですが、「裁判権行使する権利が競合する場合には、次の規定が適用される。」と、二つ裁判権が競合した場合の規定がありますが、その中の(c)のところで「第一次の権利を有する国は、裁判権行使しないことに決定したときは、できる限りすみやかに他方の国の当局にその旨を通告しなければならない。第一次の権利を有する国の当局は、他方の国がその権利放棄を特に重要であると認めた場合において、その他方の国の当局から要請があつたときは、その要請好意的考慮を払わなければならない。」こういう条項がありますが、これを使われると、先方から権利放棄をしてくれという申出がひんぴんと出てくるのではないかと思うのです。この趣旨はどういうところから出て来たのですか。その運用においてはどういうふうにやつて行くという申合せになつておりますか。
  26. 下田武三

    下田政府委員 これもNATO協定にございます規定をそのまま取入れたものでございます。これは日本側だけが権利放棄要請されるのではなくて、日本側からも権利放棄向う要請し得を相互的の規定でございます。この最後に、「要請があつたときは、その要請好意的考慮を払わなければならない。」と規定してございますが、これはそういう要請があつたならば、諸般の事情十分くみつて、親切に好意的に考えるということでございまして、要請があつたならば必ず放棄するというわけではないのであります。要するに考慮してやればいいのでありまして、たとい要請がございましても、考慮した結果放棄しなくてもいいわけであります。要するに二つ裁判権が競合する場合でございますから、お互いに相手方の事情を一応しんしやくしてやるということが、円満なこういうとりきめの遂行上必要でございますので、一応この3の(a)で双方の第一次の裁判権の限界の線を画しましたが、この線をきちんと画しただけでほつておきましたのでは、二つ裁判権が競合する場合に、決してうまく行くものではございません。お互い都合もあることでございますから、こういう好意的考慮規定を設けて、円満な遂行をはかつておるわけでございます。
  27. 並木芳雄

    並木委員 国の当局という言葉が使われておりますけれども、この当局というのを濫用されるとやはり困るのですが、どういうふうにこれを解釈されておるのですか。
  28. 下田武三

    下田政府委員 これは裁判権の問題でございますから、申すまでもなく司法当局でございます。
  29. 並木芳雄

    並木委員 同じく裁判権行使する権利が競合する場合ですけれども、「公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪」、これは非常な問題を将来起して来るのではないかと思います。この前局長証明書先方から出させるようにするという話でありましたけれども、その証明書はあらかじめ発行させるのですか、つまり構成員軍属、そういうものに対してあらかじめ発行して持たしておくのか、あるいは事件が起つたあと発行させるのか。これはあらかじめ一人々々持たしておいて、どういうコースで、公務を執行するか、行き場所とか時間がはつきり書いてないと、結局あとから一片の紙きれで、この者は公務のために出ておつたのだという証明をされて、日本裁判管轄権からのがれて行く道が出て来るのではないか、そういうことが考えられるのですが、いかがですか。
  30. 下田武三

    下田政府委員 この公務遂行中の犯罪であるかどうかの点につきましての証明書は、具体的の事件が発生してから出せるわけでございます。この点につきましては、たとえば英国の法制によりますと、公務遂行中の証明書につきましては、プリマ・フアシアと申しますか、当然その証明書証拠力があるという建前をとつておるようであります。しかしわが方におきましては、議事録に書いございますように、刑事訴訟法の三百十八条、裁判官自由心証主義原則、つまり証拠証明力裁判官の自由な判断にまかせるという、わが刑事訴訟法自由心証主義原則を留保いたしまして、たとい証明書公務遂行中であつたということを言つて参りましても、究極の判断裁判官の自由な判断にまかせるという点を実は留保いたしております。この点イギリスなどよりもわが方としては、わが法制上の留保を十分にいたしたということが言えると思います。
  31. 並木芳雄

    並木委員 この点はとにかくあとから問題が起らないように、実際上の取扱いになるから、十分慎重に取扱つていただきたいと思います。一番困るのは現地の司法当局です。その証明書の発行の当事者は、何か限定しておりますか。かつてにもよりの部隊のだれだれということで、要するに横文字で書いて来ますから、そういうことで向うの権威が思わぬところで日本司法権に介入して来る場合があるのです。横文字で書いて来て、これは公務執行中の者だ、だからすぐ返せということで、しばしば公平な裁判が行われないおそれがありますので、お尋ねしておきたいと思います。
  32. 下田武三

    下田政府委員 その点は重大な証明書でございますので、発行し得る者を限定いたしております。議事録指揮官、または指揮官が故障がある場合には指揮官にかわるべき者しか発行できないということにいたしております。
  33. 並木芳雄

    並木委員 それから公務執行中の作為または不作為と申しますか、その場合に、たまたま向うにだけ裁判権のある事件とともにとばつちりを受けて、日本の家屋が破壊されたとか、日本人の身体、財産被害をこうむつたという場合はどうなるか。その場合には要するにそれぞれの裁判権両方にある場合の競合の規定のようにとられます。たまたま公務執行中に与えた場合には、いかなる被害というものも日本側には全然裁判管轄権がないわけですね。――そうすると、私が今聞こうと思つたのは、要するに事件が起つてそのとばつちりを受けて、日本人の方の生命、財産に損害を受けた、現実の場合に裁判権がどつちだろうという問題が起ると思うのですが、その場合を聞きたいのです。それはどうなつておりますか。
  34. 下田武三

    下田政府委員 これは公務執行中でございましたならば、被害者日本側でございましても、裁判権先方はあるわけでございます。つまりジープを運転しておつて日本人がひき殺されましても、裁判権向うにあるわけでございます。
  35. 並木芳雄

    並木委員 私が今聞こうと思つたのは、その場合以外のものなのです。ちよつと質問が悪かつたのですが、その場合以外の場合で、ごく軽微であるけれども、もつぱら向う財産、そういうものに関して起つた犯罪であるけれども、そのとばつちりを受けて日本人の方が被害をこうむつた、そういう場合に、やはり第一次の裁判権日本側にあるというふうに解釈されますかどうか。そうしなければいけないのではないかと思うのですけれども、たとえばアメリカの兵隊さん同士でけんかしているのに、ガラスを割られたとか、それでそこにおる婦女子がけがをしたとか、そんなような場合、主として向う同士の間の犯罪ではあるけれどもも、その余波を受けてこちらで被害を受けた場合、その場合をお尋ねいたします。
  36. 下田武三

    下田政府委員 先ほどの御答弁不正確でございましたから、もう一回はつきりとし申上げますが、3の(a)の(i)で、もつぱら当該国財産もしくは安全のみに対する罪、あるいはもつぱら先方軍人のからだ、ないし財産に対する罪、いわゆるこれは向う側の軍の内部の犯罪でございます。これは日本側としては関心事でないのでありますが、向う側でない場合、つまり日本側の、日本人財産あるいは身体に対する罪がございましたら、これはその次に(b)に行つて、「その他の罪については、日本国当局が、裁判権行使する第一次の権利を有する。」こつちに入つてしまいまして、これについては日本側が第一次の裁判権を持つているわけでございます。
  37. 並木芳雄

    並木委員 いかなる軽微なものでも、今の原則は当てはまりますか。
  38. 下田武三

    下田政府委員 いかなる軽徴な場合でもその通りでございます。その辺のところは(c)の運用で行くわけだろうと思います。
  39. 並木芳雄

    並木委員 それではまたあとから……。
  40. 北昤吉

    ○北委員 了解を得ましたから、ちよつと並木君の質問について関連質問をやらしていただきます。これは本題に直接関係がない問題でありますが、並木君から国際連合加入の問題について資問がありましたが下田条約局長は多少楽観的のようなお答えがあつた。私は非常に非観しておるのです。これは国内問題とも関係しております。たとえば社会党の右派の諸君は、憲法改正、再軍備ということは今日ではやらぬ、しかし日本国際連合加入したときには、共同安全保障のために相当の軍備を持たなければならぬから、そのときに憲法を改正しよう、こう言つております。ただいまのところでは、七千五百の警備隊は賛成でありましようが、保安隊は少し行き過ぎだ、こういう意見のようであります。国内問題にも関係することであるから、国連加入の問題は相当大きな問題であります。私の考えでは、日本国連加入の要望に対しては、アメリ、カナダ、オーストラリア、南米諸国が非常に好意を持つておると思う。ところが御承知のごとく共産圏はまず中共を加入させたい。ソ連はもとより英国もインドもその考えであります。のみならずソ連圏内のバルカン諸国で加入しておらないブルガニア、ルーマニア、ハンガリー等が入れば、イタリア日本ももちろん入れることをソ連は認めるだろうし、それまでは認めないと思う。ところが中共を入れることについては、英国、インドは賛成いたしておりましても、アメリカは猛烈に反対して、もし入れるという決議があるならば、自分らは国際連合を脱退するとまで圧倒的の空気を示しておる。それでありますから中共とバルカンの未加入の共産諸国と日本イタリアを一緒に入れるということになれば、問題の解決に早いと思うけれども、そこまでは国際情勢がなかなか進まないと思う。日本一国の国際連合加入の見込みありなしということを言うのは、あまり楽観的に過ぎると私は考ておる。これは非常にむずかしい問題でたとえてみれば、蒋介石政権と条約を結んでおる日本が中共政権を認めれば、蒋介石政権を認めないことになる。英国と同じ立場にならざるを得ない。これは重大な問題になるので、私は国際連合加入の問題は、ここ数年間はとても見込みがないと考えておりますが、そうすると国際司法裁判所などに訴えるような問題が起る場合に、問題の解決は非常に困難が加わると思います。私はそういう考えを持つておりますが、どうもあなたは楽観的なお考えを少し述べられておるようですから、その点について承りたい。
  41. 下田武三

    下田政府委員 まことにごもつともな御意見だと拝聴いたしますが、仰せの通りに、国連加盟ということが安保理事会の拒否権の対象になつている限りは、日本等の加入問題は非常に困難な問題であろうと存じます。そこでただいまも仰せになりましたように、結局中共の加入問題というものは、イギリスのみならず、インドその他のアジア諸国にも、同情的な見方をしておるものがございます。ところが米国のみはこれは絶対反対いたしておることは、ただいま仰せの通りでございます。そこで米国がなぜ反対しておるかと申しますと、これは一九五〇年の安保理事会の決議でも、米国の首唱で、中共は北鮮を援助する結果、国連に対する侵略行動の張本人であるという烙印を押されております。中共が侵略者である限りは絶対に国連に入れない。何とならば国連が今目的としているところの朝鮮における行動に対して、まつこうから立ち向う侵略者であるということを言つております。このアメリカの言い分も無理のないことでありますが、そういう理由であるといたしますと、中共が侵略者でなくなつた、侵略の意思がないということが明瞭になつた、それが口のみならず国際間の行為の上で、実行の上で明確に立証された場合も、アメリカがなおかつ今日の態度を固執するであろうかという点は、これは必ずしもそうではないのではないかというように、イギリス等は考えておるようであります。そこでただいまおつしやいましたのと同じようなことが、実はイギリスやインドの新聞等にも出ております。つまり東におきましては日本、中共とのバーゲン、西におきましては、イタリアとバルカン諸国とのバーゲンと申しますか、同じような重要な国々の加入問題を全般的に取上げて、大きなバーゲンをすべき時期が来るのではないかというような新聞の報道もございます。これは新聞報道のみならず、政府部内にもそういう考えを持つておるような人があるように承知いたしております。そこで日本政府として今何らのコミツトをすべき段階にないと思いますが、そういう新聞の報道が行われ、また政府当局者にもそういうことを考えておるということがある事実は、この際十分にやはり考えておくべきことだろうと存ずるのであります。もとより国際情勢推移はまつたく予測できませんので、仰せのように五年先になつてそういう事態になるかどうか、それはわかりませんが、しかし一つの可能性として、やはり十分腹の中に置いていていいのではないか、そういうように考えておる次第でございます。
  42. 北昤吉

    ○北委員 簡単にもう一つ質問いたしますが、議員団が中共に参りまして貿易のとりきめをやる。これは非公式の問題であるから別にオフイシャルの関係はないものでありますが、それに関連して日本と不可侵条約を結びたいという意向を発表したようでありますが、日本としては中共と不可侵条約を結ぶのは、非常にけつこうであると思うのであります。外務当局はそれについて積極的の動きをなさいませんか、ちよつとお伺いしておきます。
  43. 下田武三

    下田政府委員 私がお答えするには大きな問題でございますが、事務的に申し上げますと、中立条約あるいは不可侵条約の呼びかけは、やはり相当慎重に考慮をいたします要があると思うのでございます。つまりしばしば申立条約締結とか不可侵条約締結とかいうことは、その額面通りの目的でなしに、多分に宣伝と申しますか、平和攻勢の材料として使われていましたことが多い現状にかんがみまして、ただいまはその不可侵条約どころか、まだ平和条約締結、普通の国交関係の回復ということすらいまだ軌道に乗つておりませんので、不可侵条約の呼びかけも、これは現実の問題として考慮するには、まだまだその時期でないというように考えております。
  44. 北昤吉

    ○北委員 大体日本は民主国の圏内に入つているから、国防もその線に沿うて強化しなければならぬという主張であります。ロシヤはまず南鮮の戦争状態を見ても直接手を下して来ません、北鮮、中共に武器を提供しても直接やて来ない、日本についてもそれは考えられるだろうと思うのですが、直接日本の北海道を侵せば、あるいは世界戦争を予想しなければならぬ、世界戦争は原子爆弾、水素爆弾の時代でありますから、なかなか容易に起きないと思いますが、中共が不可侵条約を結んで来て、急速に講和条約を結べば、日本の外交としては相当転換を要する。ただこれは私個人の考えでありますが、日本は蒋介石政権と条約を結んだ、これを無視して中共とそういう条約を結ぶことは、これは情において忍びない、道義的の関係が蒋介石との間に生じております。御承知のごとく一番日本が侵害を与えた国は中国であります。蒋介石政権はこれらの取扱いについても、その他戦犯者の取扱いについても交戦国中一番寛大であつて、これは無視できないから、道義の国として私は蒋介石政権はあくまでも認めて行きたい。しかし中共を認めてならぬという根拠は、中共側の出方によつてはないであろう、交戦団体として両方を認める方向に進むわけには行かぬものか、歴史上にその例はあると思いますが、蒋介石政権を認めて、中共政権も向うの出方によつて認める方針で交渉する。英国では中共を認めれば蒋介石政権は認めぬという立場でございます。アメリカは蒋介石政権を認めておるから中共政権は認めぬという立場をとつておるけれども、日本は経済的の考慮からいつて、隣接の大国であるからこれは無視できません。蒋介石政権は従来の道義上の関係から無視できぬから、交戦団体として両方承認するという形に行けないものか。これはほんとうは外務大臣に聞かなければならぬ問題ですが、私、条約局長にかわつて聞くのですから、あなたもひとつ外務大臣になられたようなお考えでお答えを願いたい。
  45. 下田武三

    下田政府委員 事務当局としてお答え申し上げる範囲外だと存じますが、中国に対します根本的の考え方は、吉田書簡に明瞭に現われておりまして、日本は究極において全中国と善隣友好の平和関係に入りたいということを、まず大原則として立てております。この隣邦の全中国と正常関係に達したいというのが、終始一貫貫く根本理念であろうと思います。そこで現実の問題としまして、やはり吉田書簡が言つておりますように、自由主義諸国に対する侵略行動に出ておる中共の現状をもつてしては、これとノーマルな関係を結ぶ条約締結できない。しかし蒋介石政権の方は、これは自由主義諸国の大部分と平常関係に立つており、かつ国連においてもこれが中国を代表しておるものと認められておる。だから国民政府とは現在でも正常な関係を結ぶことができるということを言つておられます。そこで吉田書簡の真髄は、一つは隣邦全中国と善隣友好関係に立つということと、第二の点は、これはもつぱら現状において大陸の方とは関係に入られないが、国民政府の方とは今でも関係に入られるということだけを述べておられます。従いましてこの第二の方は、国際情勢推移によつて、私はどういうようにでも動くのではないかと思います。これはアメリカも蒋介石政権を認めておりますので、日本と同じ立場に立つわけでございますが、これは先ほど国連加盟の問題につきましてお話がございましたように、国際情勢の大きな動きで、第二の方は動き得るのではないか、そういうように考えております。
  46. 上塚司

    ○上塚委員長 穗積七郎君。
  47. 穗積七郎

    穗積委員 私は国連軍日本駐留そのものについて、政府の御方針を伺いたいのですが、大臣がお見えになりませんからそれはあとにいたしまして、少しく局長にお尋ねいたします。実はお示しになりました議定書の内容に入ります前に、今の北委員に対する局長のお話の中で、中共その他の国が日本との平和条約または不可侵条約の提案をしておることを、平和攻勢の一つの戦術にすぎないというふうな意味のお話がございました。そういう実は表面とは違つた悪意を持つた戦略的な意味であるということを、どういうところから実際御断定になるのか。そういう前提に立つて外交政策を進められるとすると、かつてありもしない危機を危機だと国民に訴えて事態を曲げて行つたように、アジアにおきまする情勢判断としてわれわれは非常な疑問を持たざるを得ないのであります。従つて一体どういう具体的な理由をもつて、中共その他の平和条約の提案あるいは不可侵条約の提案を、単に戦略にすぎないものであるというふうに言われたか、ちよつと今後の参考のために伺つておきたいと思います。
  48. 下田武三

    下田政府委員 私は中共の不可侵条約締結の行き方が、平和攻勢であると断定いたしたわけではございません。ただ過去の私自身の経験から申しまして、これに対しては慎重に対処しなければならないということを申し上げたわけであります。乏しい経験でございますが、戦時中モスクワに在勤いたしまして、ソ連がその前からでございますが、バルト三国――ラトヴイア、エストニア、リスアニアあるいはバルカン方面、みな不可侵条約を結んでおります。おれの国は何ら侵略する野心はないのだということを言つて、不可侵条約を呼びかけて結びまして、そうして現に安心感を与えまして、そうして彼らの内部情勢にはどんどん浸透作戦を行いまして、私がモスクワにおりましたときに、モスクワの外交官の観測は、赤軍は一たび国境を越えたならば、まつすぐベルリンに行くだろうということでありました。その観測の根拠といたしますところは、当時アイゼンハウアーの率いる連合軍が北阿からヨーロッパ大陸に進入いたしまして、あたかも赤軍と連合軍とが、ベルリンを目ざして宇治川の先陣争いをする情勢でありましたものですから、モスクワでそういう観測が行われることはもつともでございました。ところが事実は、一たび赤軍が国境を出ますと、あにはからんや南下いたしまして、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリーといつた、かつて不可侵条約を結んだ国をみな席捲いたしまして、一箇月以内にことごとく赤色政権を樹立し、現実向うの勢力圏下に入れてしまいました。そうしておもむろにベルリンで落ち合つたのであります。その前のバルト三国のごときはもう幼児の手をねじるがごとく併呑されてしまいました。フインランド戦争においては、あの小さなフインランドからリボンのようなわずかな土地を奪つております。ポーランドに対しましてはこれは蘇波国境のソ連の方の帯のような土地を奪つております。そうして不満だつたら将来ドイツとの国境調整でそれだけの部分は償えという態度でございます。こういう私が外務省に入りましてからの乏しい経験から申しましても、共産勢力の不可侵条約あるいは日ソ中立条約のてんまつを顧みましても、十分慎重に検討いたさなければならない、そう私は正直のところ思うのであります。
  49. 勝間田清一

    ○勝間田委員 関連して、それはあなたの非常に一方的な経験だろうと私は思うのでありまして、中立、不可侵条約締結された例というものは、あなたはソ連だけの例からおとりになつたが、しかし今日まで、たとえば松岡氏がソ連に行かれてこれを交渉せられたこともあろうと思います。あなたはその御経験があろうかと思います。またドイツとの間に締結せられた場合が私はあろうかと思います。同時にスイスやスウエーデンやその他の国が中立宣言を行つて、この意味における一つの中立的な立場をとられる場合もあろうかと思います。また今日アメリカがいわゆる不可侵条約締結等を考えておるというような問題や、あるいは朝鮮等に対して中立的な立場を要求するというような例もあると私は思う。そういう例を考えてみまして、あなたが一方的に不可侵条約やあるいは中立条約締結というものは、平和攻勢の手段として見られるという断定はいけないのであつて、これはそうではなくてその国の安全を見出して行こうという一つの手段である。いわゆる中立的な立場をとつて自己の安全を保障するという考え方である。そういう広い考え方をもつて対処して行くのが私は正当な判断だと思う。今ソ連の場合を考えて、中立、不可侵条約というそういう提案は、すべて平和攻勢の手段だ、今あなたが今日の社会をこう見て行くということは、一方的な考え方だと思う。言い過ぎではないでしようか。
  50. 下田武三

    下田政府委員 ほんとうに何らの不安なく、額面通りの中立を約し、そうして不可侵を約し得て、そうして不必要な軍備がつくられなくていいという事態が来ましたら、これは私も理想だと思つております。しかし現実国際問題といたしまして、私がモスクワに参りましたのも、日ソ中立条約を何とかして維持させたいという佐藤大使の使命のお手伝いに参りましたのですが、太平洋戦争の末期に日本が非常に苦境になりまして、背後から赤軍につかれることは何よりも恐ろしかつたわけで、それで松岡外相のから手形であつたところの北樺太の利権をソ連に返そうという交渉のお手伝いをいたしたのであります。そのときに佐藤大使がじようだんをおつしやいました、一体ソ連のように日本の何十倍もある国から見れば、北樺太のごときはびようなる地じやないか、この難交渉なんかやめてしまつて日本は正当な代価を仏うから、ひとつ北樺太を日本に譲つてくれないかということを佐藤大使がモロトフに言われました。モロトフは呵呵大笑をされまして、いや富めるものはますます富まんとし、大なるものはますます大ならんと欲するのだと傲然と笑つたのであります。私はそういう経験を見まして、これはここで話すと長くなりますけれども、私は帰朝を命ぜられまして、ソ満国境を越えて帰つたのでありますが、私と同じ東に向う船にはソ連のタンク、ソ連の飛行機が続々送られていて、私どもはそれを送るために待避線に待避させられてその通るのを見たのであります。その直後中立条約がございますにもかかわらず、背後からやみ討ちを食つたわけでございます。そういう経験を私はいたしておりますので、先ほど申しましたように、ほんとに安心して中立条約なり不可侵条約を結べる、それに安心しきつている時代が来るということは理想だと思いますけれども、現実国際状態がら見ますと、まことに遺憾ながら安心してはいられない、やはり慎重に考慮する必要があると存ずるのであります。
  51. 勝間田清一

    ○勝間田委員 あなたはソ連の不可侵条約の侵犯という問題で、中立問題を論ぜられておるようでありますが、私はそれは非常な間違いだと思う。たとえばソ連の参戦の問題については、あなたはおそらくお読みになつたと私は思いますが、バーンズ国務長官の当時における記録を見ても明らかな通りに、あの侵犯を要求して参つたのは、御存じの通りルーズベルトであり、バーンズである。いわゆる沖繩に来た、ときに関東軍の対策はこう、日本への上陸作戦に対する対策というものがあつたでしよう。そして結局今日の問題は、戦争という事態が起きて来た場合において、中立、不可侵があつたから、武力があつたからという問題ではない。戦争が起きた場合における措置というものについては、中立、不可侵を侵す場合もあるだろうし、武力を持つてつて解決して行けぬ問題もあるのである。そこで問題になつて来るのは、国際紛争が戦争まで発展しない段階において、いかなる手段がよいかということが、今日の外交における最大の問題である。その場合において、日本の国を守つて行かれる一つ方法としての中立的な立場なり、あるいは不可侵的な立場、解釈というものがとられて来る。そこをひとつ考えなければならぬのであります。それを中立、不可侵は平和攻勢の具だ、こういう考え方で行けば――それでは現在のスイス、スウエーデンをどう考えるか、現在の印度の中立外交はどう考えるか。そうではなくてそこをあなたが中立、不可侵は、すべてのものを守ることはできないのだからどうだという考え方から行けば、それならば武力ですべてを守れるかという形にもなる。それは戦争の段階における処置なのです。従つて今のソ連の場合における経験は、私をして言わしめれば、その当時における国際情勢、なかんずくアメリカの意図、それと結託したいろいろな関係というものが出て来るのであつてその意味では各国際間におけるほんとうの慈善事業は、あり得ないということを肯定します。でありますから、今はあらゆる外交的手段をもつて戦争を防ごうという手段の立場に立つて、中立、不可侵の問題もあればいろいろな問題があるということである。その後にはいかなる立場とつた方が、自分の国が戦争を起さないために貢献するか、いかにして第三次戦争を拒否するかという問題に、何を使つたらよいかということについてあなたは考えて行くべきであつて、私は少し条約局長としては言い過ぎではないかと思う。
  52. 下田武三

    下田政府委員 勝間田先生の理想主義者的なお説には、私も個人としては理想を持つておりますので共鳴する点は多いのでございますが、現実国際問題の処理の責任に立たせられております当局者としては、ただちに勝間田先生のお説通りにすることが、可能であるとは考えないのでございます。(勝間田委員「それは政策論だ」と呼ぶ)ただ政策の問題になりますし、また見解の相違の問題もございまして、これ以上私は申し上げません。
  53. 穗積七郎

    穗積委員 今の問題は大分重要な問題でありますから、時間をとるようでありますが、もう少しつけ加えておきたいと思うのです。条約なり戦争という方法が、自衛を確保する一つの手段方法として理解する問題については、今の論議の通りでございますが、そこで逆にお尋ねいたします。過去のああいう時代の、ああいう国際情勢の中における、ああいう当時の思想の中に立つたそういう事実をとつて、今日の国際情勢なり、今日の国際政治の思想なり政策に、ただちに当てはまる、それが唯一の根拠であるということについては、新しい時代のセンスを持つている条約局長としては、私ははなはだ驚くのであります。もししかりとすれば、アメリカの対日政策についてどうですか。かつてアメリカがフイリピンなりニユージーランドその他にとりましたあの残酷無類の帝国主義政策、これをアメリカの一貫した政策だということでもつて日本に対する、あるいはアジアに対する政策をそういうふうに理解することを、それでは局長は肯定されますか。
  54. 下田武三

    下田政府委員 どうも議題から大分はずれますが、米国の政策につきましては私また十分批判してものを言いたいことがたくさんございます。ただいま時間がありませんからお許し願います。
  55. 穗積七郎

    穗積委員 もう一つついでに申し上げておきますが、今申し上げました通り、私はそういうことで行けば、日本の今の政府がやつております再軍備方式そのものについても他国から言えると思う。と申しますのは、たとえば日本の保安隊を初めとする再軍備コースというものに対しまして、かつての帝国主義的な政策を、アジアにおいてもう一ぺん繰返すのだという疑惑が、朝鮮ばかりでなしにアジア諸地域に起きております。それに対してわれわれから言うならば誤解だと言われる。それは誤解でなくて、かつて日本は自衛の名のもとにおいて侵略戦争をやつだ事実がある、だからこそそういうことを理由にして今日の日本の、あるいは今後の日本のあらゆる善意を無視されても、それはしようがないという建前に立つ。だから私は現実外交を扱つておられる、しかもアジアに生きている日本の外交を扱つておられる政府当局が、そういうまことにかびのはえたような古い一方的な事実をもつて、この立論の基礎とされるというのは、私ははなはだ遺憾とする。その点につきましてアメリカ並びに日本の今までとりました政策が、一体それほどオーソライズされた理由として使われてもしようがないということを承認されますかどうか。  もう一点、特にわれわれが国際連合加盟の問題につきましてかかつているのは中国の問題であります。従つて問題は、中国その他の国連加盟日本国連加盟とが関連しているのであります。そこで中国の国連加盟の問題について今話が進んでおつた。そこで中国につきましては、今の中共政権というものは戦争中からずつと見まして、終戦直後からわれわれに対する態度というものを見て、そういうような態度をとりました問題、先ほど北委員は、国府が実に寛大なる政策をもつてこのわれわれに対してくれたということを言われましたが、中共またしかりでございます。特に中共の八路軍のごときは、その軍紀におきまして非常に正しいものであつて、中国の何も知らない民衆でも、かつてない軍隊であると賞揚いたしております。終戦直後日本軍は武器を放棄いたしました。数百万の日本部隊が中共から報復手段といたしまして、かつて一体集団的な虐殺行為を行われたことがありましたか。それかれ後におきます中共の国内並びに外交政策におきまして、どういう理由によつて今言うような悪意を感ぜられるのか。われわれはそういうことで日本の外交政策を取扱つて行かれる、そうして国連加盟問題に関連のあります中共の国連加盟も、こういう問題でそういう立場を取扱われることになりますと、われわれははなはだ疑問を持たざるを得ないのであります。終戦後におきます中共の現実の政策のもとにおいて、もう少しその悪意を説明していただきたい。その二点をもう一ぺん明確に御答弁いただきたいと思います。
  56. 下田武三

    下田政府委員 二つ問題があつたと思うのでございますが、実はただいまの案件と関係がございませんので、お許しを得ましたらば、また後日国際情勢の御審議を願うときにお答えさしていただきたいと思います。
  57. 上塚司

    ○上塚委員長 穗積君、よろしゆうございますか。
  58. 穗積七郎

    穗積委員 どうぞお答えいただきます。二点明確に、結論だけでけつこうです。
  59. 上塚司

    ○上塚委員長 政府委員はこの問題に関連しないから、なるべく他の機会において意見を述べさしていただきたいと言うのです。その点を御了承願います。きのう理事会でも相談したように、なるべく午前中に討論採決をいたしたいと思います。この問題に関係のないものは、他日にお願いしたいと思います。
  60. 戸叶里子

    戸叶委員 議事進行に関して。ただいまの穗積委員の御質問は、条約局長の答弁から出て来た点と見受けられますし、また中共の国連加盟の問題と関連がありますから、今の質問にだけお答えになつて、そうしてそのあと今上程されております議定書の審議に移られんことを望むものであります。
  61. 下田武三

    下田政府委員 それではお答えさしていただきますが、私の率直な考えを申し上げさしていただくために、速記をとめていただきますと幸いだと思います。
  62. 上塚司

    ○上塚委員長 速記をとめて。     〔速記中止〕
  63. 上塚司

    ○上塚委員長 速記を始めて。
  64. 穗積七郎

    穗積委員 それでは国際紛争に対しては、やはり武力の背景がなければ外交ができないということですね。
  65. 下田武三

    下田政府委員 国際紛争につきましては、憲法上に国際紛争は平和的手段によつてのみ解決すると規定しております。この新たなる問題につきまして、国際司法裁判所に提訴を始め、かつ日本は進んで国際司法裁判所当事国となろうという措置をとつておる次第でございます。
  66. 上塚司

    ○上塚委員長 神近市子君     〔穗積委員「いや、まだこれからたくさん聞くことがある」と呼ぶ〕
  67. 上塚司

    ○上塚委員長 穗積君、まだたくさんありますか。
  68. 穗積七郎

    穗積委員 たくさんあります。私は実は、そういう政治的な問題については、外務大臣にお尋ねしたいと思つてつたのでありますが、たまたま、ただいま条約局長の口からああいうような断定的な最後判断が出て参りました。続いてまた私が求める以外の韓国の問題について、再軍備をあおるような政治的発言をなされました。それはわれわれとして、実は黙つて聞きのがすわけに行かないのです。さきに私が質問いたしました第一点はこういうことでございます。かつてのソ連の歴史をもつてソ連の今日を断定せんとするなら、かつてのアメリカの帝国主義政策や何かをもつて、今日以後の日本を断定してもさしつかえないかという質問をしたのでございます。それに何ぞや、談ますますこの条約から離れまして、韓国におきまして武力が必要であるというような政治結論をお出しになつたのであります。きようは、今までの理事会の申合せに従つて、大臣の出席をいただいて次の機会に国際情勢の中でお話をしたいと思つておりますが、ここで一点申し上げおてきたいことは、もし韓国の問題について言うならば、あなたが言つたことは目の色やそのときの態度でそういうことを断定されておりますが、もししかりとするならば、われわれはもう少し広い眼をもつて見まして、アメリカの政治的意図を断定せざるを得ない。そういうことになれば、韓国が昨年以来主張しておりました李承晩ライン問題に対しまして、最近になつて特に強硬になつて参りましたのは、アメリカの政策そのものに対する関連が深くあると思うのであります。一点は、アメリカは特に今の内閣ができしまて以来、資本と武力をもつてすべてを解決して行きたいという、欧州においてもすべて反対されておるこの政策を強行しようとしておる。そのときに、アジアにおきましては韓国にかわつて日本を第一線基地としようとする方針に従つて、驚くべさ短期間に厖大なる兵力を増強しようとしておる。そして日本の兵隊をアジアの全地域で使おうとしておる。そういう政策は、韓国から見ますならば、その基本政策は別としまして、まさに韓国が第一線基地から軍事的に放棄されることを意味します。そういうアメリカの政策に対して日本はどういう態度をとつておるかと申せば、日本はアジアにおける日本の位置を忘れまして、アジアの孤児となつて、アジアの中でひとりアメリカの前にいい子になつて、そこから援助を受け、武力をつけて、もう一ぺん昔の思想と政策をもつて、アジアに武力をもつて経済侵略をやつて行こうという考え方が、今おつしやつた説明の中にもございます。これは単に推測ではなくて、明らかにそうなんです。そういうことでありますからこそ、アメリカの政策や日本の政策に反対しておりますのは、韓国だけだと思つたら大間違いでありまして、アジア全地域の十数億の民族が、ことごとくアメリカの今のアジア政策や日本の態度に反対しておる。それが大きな背景をなしておる。もう一点は、アメリカが日本の再軍側を強行せしめるためにこれを利用する。今の事件をそういうことに解釈しても何らさしつかえない。局長はさつき韓国の態度が武力を背景とした外交であるということを、目の色や態度をもつて感情的に判断されました。私はもう少し広く、アジアにおける国際情勢あるいはアメリカの武力政策から判断いたしまして、アメリカが今の韓国の問題を戦略的に利用しており、むしろそれを促進しておるという断定をしたつて、何らさしつかえない結果になると思う。従つてそういう点につきましては、国際的な十字路に立つておる外務省当局の方が、子供じみたような、農村における炉ばたで婦女子が国際情勢を知らずして一方的に判断するような再軍備論を、こういう権威あるところであまり軽々に発言されないことを、私は国のために警告を申し上げ、希望申し上げておきます。  それからもう一点でありますが、さつき言いました中国の問題でございます。中共政権はかつて日本に対して報復的な、あるいは信義に反するような態度をとつたことはございません。それに対して条約局長は、平和攻勢の具に使つておるのだというような断定をされた。そしてさつきの御答弁では修正されまして、これを新しい型の共産主義国家、東洋的な政治的モラルを持つた共産主義国家としてきめてしまうには早過ぎるというふうに言われております。そういうふうにいづれかに判断をするのには早過ぎるというなら、一体なぜさつきのように中国の不可侵条約なり平和条約の提案を、平和攻勢の具に使つておるというような断定をされたか。そのことについては条約局長自身責任を感じておられるだろうと思いますから、これ以上追究いたしません。あなたの発言というものは、執行部の立場に立つておられますので、実は議員の発言より重要な国際的影響がございますから、今後はお慎みいただくよう希望いたしまして、この問題については次に大臣の御出席をいただいて続行することにしたいと思います。  そこできよう議題になつております国連軍との刑事裁判権の問題でございますが、話を進めます前に、もう一ぺん明確にいたしておきます。国連軍が今まで日本に駐屯いたしました法律的な根拠を第一にお尋ねしたいと思います。  その次に第二点としてお尋ねいたしたいのは、今まで国連軍関係者が犯しました犯罪は、一体どういう法律的な基準によつてこれを取扱つておられたか。その二点を最初にお尋ねいたしたいのであります。
  69. 下田武三

    下田政府委員 国連軍日本に駐留いたしております法律的根拠は、例の吉田・アチソン交換公文でございまして、その交換公文の中で、日本国際連合の決議に従つて朝鮮で行動する国連加盟諸国が、日本でその朝鮮におる部隊を支持することを許し、かつ容易にするという約束をいたしております。それがその法律的根拠でございます。  第二の御質問の、今日まで国連軍の刑事犯罪はどういう処理をしておつたかという点でございます。これは条約がないのでございますから、一般の国際公法に準じまして処理して来たわけでありますが、ただ、条約ではございませんが、日本側の一方的のインテンシヨンを通知いたしましたものに吉田書簡というものがございまして、この吉田書簡は、大体日本側で見る国際公法の原則を採用しておるのであります。結局のところ、国際公法の一般的原則によつて処理される、そういうことになる次第でございます。
  70. 穗積七郎

    穗積委員 国連側ば、その日本駐留におきまする地位並びに裁判権問題につきましては、アメリカ軍並に取扱つてもらうことを強要されたわけですが、それに対しましては、今までの事実はどうでございますか。
  71. 下田武三

    下田政府委員 アメリカ軍並に取扱つてくれという主張をいたして参りましたのは事実でございます。しからば現実にアメリカ並に扱われて来たかと申しますと、御承知のように問題になりました神戸の英水兵事件とか、あるいは東京の濠州水兵事件とかで、日本は米軍には専属的裁判権を認めておりましたが、国連側に対しましては専属的裁判権というものは認めませんで、日本側裁判した事例がございます。従つて現実の取扱いは、従来は国連軍と米軍とでは違つておつたわけでございます。
  72. 穗積七郎

    穗積委員 そこで今度の協定を結ばれたわけでございますが、この協定を結ぶに至りました政府の方針は、つまりアメリカの行政協定並に取扱つて参りたい、一般的に国際公法によらずして、駐留するアメリカ軍隊と同等の取扱いをするという御意思でございましようね。
  73. 下田武三

    下田政府委員 日本は米軍に対しましても国連軍側に対しましても、NATO方式を強く主張して参つたのでございます。何となれば、NATO方式というのは日本側で見る国際公法に最も近いものであり、かつ非常に合理的な規定を含んでおりますので、これを双方に強く主張して参りまして、今般米軍との間にも国連軍との間にも、日本側の主張するNATO方式によつて解決を見たのであります。その結果といたしまして、米軍と国連軍側とが日本の希望する線で同一の地歩に立つたわけでございます。
  74. 穗積七郎

    穗積委員 そういたしますと非常に重要なことがあるのですが、一昨日いただきましたこの議定書の十一項をごらんいただきたいと思います。それから委員には御配付になりませんでしたが、日米行政協定改訂に伴います議事録の十一項でございます。これによりますと――実は政府もこれを早く通してもらいたいというので軽く取扱い、同時にこれをきめることが、日本の国民のために有利になるのだというような御説明でございますが、実は重大な意味を私はこの二つの関連した条項の中に発見せざるを得ないのでございます。つまりこの国連との議定書の十一項に「日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の行政協定第十七条の規定」のあとに「この条項の相当規定に同様の改正を行うものとする。」というふうに書いてある。そうして日米行政協定十七条改訂の議事録によりますと、この協定の第二十四条の規定が適用されておる。すなわち敵対行為が行われた場合には、この協定の裁判権の問題は御破算になるわけであります。そうするとこれがひつかかりまして、国連軍にもことごとくこれが及ぶわけでございます。そういうふうに解釈されるわけであります。そこで裁判権の問題だけを切り離して、しかもその内容たるや日本に有利なものであるから、基本的な国連軍の位置を決定する条約とは切り離して事前にこれを審議し、了承しろということでございますが、そうなりますと実はそれだけではないのであつて、行政協定全部を国連軍に有利な点については適用することになる。すなわち行政協定におきまするアメリカ軍取扱いと同等の地位を与えることになりまして、国連軍との間におきましても、ある部分につきましては、アメリカとの間における行政協定と同様なものを締結することを意味することになる。しかもこの間からの御説明によりますと、裁判権をNATO方式に切りかえるならば、財政上の諸点についてはこちらも譲歩していいというような御意向も示されまして、一昨日でありましたか、本会議におきまする岡崎外務大臣の御答弁も、そういうふうにしたいような、やおちようであるか偶然であるか知りませんが、改進党の質問に対してそういう答えをなさつておられるのであります。そうしますと、この裁判権に関する一片の議定書というものは、裁判権の問題だけを処理すべき国際協定ではございません。国連軍全体の地位を処理するために、こちらがある意味の政治的のオブリゲーシヨンを持つておる協定となるわけでございます。そうでありますならば、われわれとしてはそういう重要なものであるならこれだけ切り離さないで、そして親法――母法といいますか、親の条約が当然ここに提案されなければならぬのであります。そういうふうにわれわれは理解する。それからもう一つ重要なことは、アメリカとの行政協定十七条の改訂、これは政府の解釈によりますと、国会の承認を必要としないものだ、政府間の行政事務だというふうに解釈しておられます。しかしながら先ほど来申しましたように、この議定書はアメリカとの行政協定の内容と、あくまで政治的または法律的に、はつきり密接不可分の関係にございます。そうでありますならば、この条約について国会の審議を求められる場合におきましては、当然アメリカとの行政協定改訂の内容が、もつとはつきり説明さるべきだと思うのです。その点において、私はこの審議の手続について大きな疑問を持つておるのでございます。従つてそういう観点から、結論を申し上げますと、第一点は――第一点も大きく申しますれば条約局長は、条約の中で事後承認を求める取扱いにして来た例はいくらでもあるとおつしやいました。ところが事後承認という場合に、局長がお示しになりました例は、母法の条約というものがありまして、その中から派生的に出て来る条約の事後承認でございます。ところが今度の場合には、これを承認いたしますと母法までも承認する、より深刻な根本問題を承認する結果になる。そんな例は私はないと思う。たといあつたといたしましても、そういうこれは議会を尊重する民主政治の中におきましては、許されざることであると思うのであります。従つてこのアメリカとの関係においては安保条約の母法がございます。ところが国連軍との関係においてはない。しかしこれは単なる裁判権の問題の暫定的な事務処理の問題ではなくて、当然行政協定を肯定し、行政協定並に取扱う、その場合におきましては、さらにその母法ともなるべきところの国連軍日本駐屯の地位をも決定することが、この裁判権向う側に承諾せしめる、そのことのためにこちらは政治的なオブリゲーションとして、もうすでに持つておるということが今まで説明された。そういうような重大な関連にありますこの法律がこの国会の承認を事後に求めるような軽く取扱わるべき性質のものでないという点、それからもう一つは、今申し上げました通り、アメリカとの行政協定の改訂の内容がこれとは関連を持つておりますから、当然これにつけ加えて説明さるべきであり、この審議の資料として十分説明、納得させる必要があると思う。その審議の手続について、二点私どもは疑問と不満を持つわけでございますので、政府の態度を明確にしていただきたいと思います。
  75. 下田武三

    下田政府委員 御質問の要点の第一には、このとりきめの事後承認を求めるのはけしからぬではないかという点と、第二の点は、行政協定の方の新とりきめも、やはり審議の対象として提出すべきではないかという点にあると考えますが、第一の点につきましては、先般の委員会でも申し上げましたように、事後承認の例はあるわけでございまして、今回も国会の会期が始まります前から、二十六日に署名して日米行政協定の実施されると同じ日に実施される、すなわち同時切りかえということを前から約束されておりましたので、その通りにやりました。それが双方のために利益であつたからというかとを御説明を申し上げました。  第一の点につきましては、これは先般外務大臣が申しましたように、日米行政協定につきましては、安全保障条約で配備を規律する条件は、政府間の行政とりきめできめるという委任条項があるから、委任条項に基いて政府の責任で締結したものである。国連軍の方は、先ほど申しました吉田・アチソン交換公文で、日本国及びその近傍で軍隊を支持することを許し、かつ容易にするとは申しておりますが、配備を規律する条件政府間の行政とりきめで結んでよいということまでは言つておりません。そういうことがありましたならば、行政協定のとりきめと同じことになるわけであります。それがございませんので、これは今まで言わなかつた新しいとりきめであるから、国会に提出して御承認を求めるという次第になつたわけであります。そこで御指摘の第十一項でございますが、穗積さんは政治的意義をおつけになつておりますが、これはきわめて技術的な問題でありまして、これも一つのNATO方式なのであります。第十五条二項というのがNATO協定にありまして、これはやはり敵対行為が発生した場合には、六十日間の通告でもつて刑事裁判権規定の適用を停止するということを規定しておるのであります。そこでそれと同じことをNATO方式を採用したこの議定書に取入れたのでございますが、その取入れる技術的の方法といたしましては、NATO協定の場合には、これは各国とも同じような立場お互い軍隊を乗り入れてあるようでございます。ところが日本国連軍の間では一方的に先方軍隊だけがこつちに来ているわけでございまして、NATO協定の第十五条第二項の方式をそのまま持つて来ても当てはまりません。そこで要するに日米行政協定において、二十四条の敵対行為発生の場合には停止する、同じ事態がかりに国連軍について発生した場合どうするかという問題は、NATO方式をそのまま取入れるにいたしましても、その点を解決しなければならないわけであります。そこでこれは非常にまわりくどい言い方をいたしたのでありますが、「当該派遣国軍隊が、行政協定の前記の改正をもたらした事情と同様の事情の下にある場合に限る。」ということを限定いたしたのでありますが、それは何を意味するかと申しますと、不幸にして朝鮮事変が再び勃発いたしまして、朝鮮国連軍が武力行動に従事する場合に、おれは隣国で戦争をしておるのだから、また刑事裁判権規定は臨戦態勢に直してくれと言つてもいかぬということなのであります。「行政協定の前記の改正をもたらした事情と同様の事情の下にある場合に限る。」と申しますことは、日本区域で敵対行為が発生して、そうして米軍が外敵と戦うと同じ条件国連軍日本の中で戦うという場合に、まさにNATO協定の十五条に言うのと同じ関係になるので、その場合にはやはり米軍と同じように規律するために、同様の改正を行うものとする、そういうことをとりきめた、それが問題の実質でございまして、その実質を現わす態様として行政協定の規定を借りて来ておるわけであります。従いまして、行政協定が母法になるわけでも何でもございません。ただ条件をきめるどきの一つの形容詞としてその表現を借りて来ただけのことでございます。
  76. 穗積七郎

    穗積委員 私は行政協定二十四条の敵対行為が起きました場合のことを局限して言つているのではございません。すなわちこれは行政協定は母法ではなくて、行政協定と同様の取扱いを受ける、すなわちアメリカ軍の取扱いを受けることを承認したということになると思います。しかも私が指摘いたしましたのは、これが有利だとおつしやいますが、その裏にはこれと交換に実は不利益なことがすでに予想されておるわけです。さきに申しましたように、本来の建前から行きますならば、すでに吉田・アチソン書簡によりまして、日本がそううい義務を負つておるとするならば、数年前に朝鮮事変が起き、そして国連軍日本に駐留しておるわけです。それをなぜ早くそのときからきめなかつたか。それはなぜかといえば彼我の利害が対立したからでありましよう。ところでこちら側の利益と称するものは、この裁判権をNATO方式ではつきりきめろということだけが唯一の利益であつて向う側からの要求は、経済的または法律上の取扱いについてはわれわれにより多くの犠牲を要求しておるのです。しかもこれは、条約の文章の上では狭い意味の技術的な法律解釈から行きますならば、おつしやつた通りにそうういことでありますが、提案理由説明の中で、母法のとりきめをする条件にこれがかかつたんだと説明された。われわれもそのことをお尋ねしたいと思つたら、はからずも政府からそうういことを説明された。すなわちこうういことを利益だといつて宣伝するかわりに、この裏にはこれとひつかけて政治的に当然日本の不利益が約束されておるわけです。だからそういう重大な問題であるならば、一方的にこれは利益がある、しかも技術的なことであるというようなことで説明するには不十分であるから、母法と一括してやるべきだということを私は主張するわけなのです。この交渉はきのう、きよう始まつたものではありません。数年前から駐留しておる国連軍地位の問題、取扱いの問題については数年もかかつております。そういうことでありますならば、少くとも政府の政治的な怠慢というものはその責を免れるわけに行かないと思う。そういうことをお尋ねしておるので、今の御答弁は私の質問せんとする焦点からはずれて、今までのことを繰返しておられるにすぎない。重ねてその点について御答弁をいただきたい。
  77. 下田武三

    下田政府委員 もう少し補足して御説明いたしますと、なぜ利益かという点については、これがないとどういうことになるかと申しますと、英豪兵事件のときにまさに国連側が主張したのでありますが、おれの方は朝鮮で戦争をやつている軍隊だ、軍艦の乗組員が長い間裁判にかけられて拘禁されておつたらやり切れない、一つの大砲を四人で受持つており、そのうち一人でも欠けたら大砲の操作に困るから、早く帰せということを言つたわけであります。ですからこのまま推移いたしますと、国連軍の主張として、再び朝鮮で武力行動が発生したならば、この規定は適用を停止してくれということは、当然の帰結として要求されるわけであります。その要求をここでも取上げなかつたわけであります。朝鮮で再び敵対行為が発生しても、もう英豪兵事件の際に英豪側が言つたようなことは言えないぞということであつて、ただどういうことだけ認めたかというと、こんなことは万ないと思いますが、かりに日本で敵対行為が発生して、米軍と同じような地位日本で戦争するというような場合には、米軍と同じような取扱いをする。しかしかつて向うが主張したような言い分は、ここで認めないぞということをはつきりきめたわけであります。その点で日本が有利たということを申し上げたのであります。  もう一つ母法との関係でありますが、これは一つの表現上のテクニックとして行政協定を借りたのでありまして、だからといつて行政協定が将来かわつたときには自動的にこれもかわつて政府は知らぬ顔をするということはございません。行政協定はさらにかえることがございましよう。またその際には国会の承認はあらためて求めないでありましようが、それにつれて同様の改正をもしこれにいたしますならば、これはやはり国会の御承認を得ておるのでありますから、その際には国会の御承認を求める所存でございます。その点で御了承願いたいと思います。
  78. 穗積七郎

    穗積委員 それではついでにお尋ねしておきますが、そういう母法の提案が今度の国会で一緒にあるべきだと思うが、それがない。ありませんが、先般来の事情を伺いますと、もうすでに文章にはなつておりませんが、重要な点についての交渉が相当進んでおるし、結局こちら側の母法の重要な点に対する構想というものはできておると思うのです。それをこの際要点だけをお示しいただきたい。たとえば財政上の処置その他、それから国連駐留軍権利義務、つまり安保条約の中で取扱われておるような内容でございます。
  79. 下田武三

    下田政府委員 その点につきましては、実はまだ政府の案を決定いたしておりません。先方に出します前に大蔵当局その他関係当局と今協議しておる段階でございまして、従いまして政府の案はどうだということは、実はまだ申し上げられない段階にあるわけでございます。
  80. 穗積七郎

    穗積委員 これは、実は岡崎外務大臣が今までの交渉がこちら側の利益になる点を主張し、向う側は向う側の利益を主張しておる。そこでこちら側でもこちら側の主張が通るならば、君らの方の要求を通してもいいという話で進んでおるが、向うがこの際先に折れたので、――すなわちあなたの言葉を借りれば、向う側は外交的な武器を放棄してしまつたのだ。そこでそういうことであるから国際政治の道義上相手の要求も認めなければならないということを言われたわけであります。大臣もそういうことを本会議で答弁なさつておられます。それであるならば研究中の問題でなくて、外に向つて、国民に向つて発言をされます以上は、もうすでに研究の段階を過ぎて何らかの草案があるだろうと思う。重要な問題でございますから重ねて率直にお尋ねいたしたいと思います。
  81. 下田武三

    下田政府委員 まだ外務省の草案というものをつくつて関係当局と相談しておるという段階に立ち至つておりません。これは根本の考え方でございますから、その根本の考え方につきまして、外務大臣が申されましたような考え方で、関係省の同調を得るように今慎重に検討をしておるわけでございます。
  82. 穗積七郎

    穗積委員 あとで大臣にお聞きしたいことが多いのですが、ちよつとこまかいことで念のためにお尋ねしておきます。さつきちよつと並木委員から問題にされて途中で言い出しましたが、第一項に関しまする合同会議、これの議題とすべき内容が第一項の裁判権管轄に関することだけを議題とするわけですか、それ以外の国連軍日本との間におきまする、また国民との間における全般的な問題もこれで処理されるのか、その点を明らかにしていただきたい。
  83. 下田武三

    下田政府委員 この合同会議は、日米合同委員会とまつたく同じように、この一般協定ができましたら、一般協定に取上げられておる事項のすべてにつきまして取上げて協議する機関になります。そこで刑事裁判権につきましては、むしろ先ほど申し上げましたように、刑事裁判権に関するサブコミテイというものができまして、そこで取上げられることになると存じます。
  84. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと三項の裁判権が競合する場合でございますが、そのときも――たとえば公務執行中の作為であるかどうであるかを判定する、または裁判権の譲渡を要求する場合の交渉、判定、それは当然司法権の問題でありますから、法務省または裁判所がこれに当るべきだと思うのです。それと合同会議関係はどういうことになりますか。
  85. 下田武三

    下田政府委員 先ほど申し上げました刑事裁判権サブコミテイは、仰せの通り法務当局が――日米の場合もそうでございますが、刑事局の津田総務課長とここにおられます古川検事が日本側代表であり、先方はやはり軍法会議の方を主管しておりますトツド大佐が出ることになると思います。
  86. 穗積七郎

    穗積委員 そこでお尋ねいたしますが、公務執行中の作為であるとか、あるいは犯罪向う軍人軍属、家族の間だけで行われたものがどつちに関係のあるものか、そういうことの判定ですが、先ほどの御答弁では裁判官が判定するようにおつしやいました。しかし裁判官は起訴された者しか取扱うことができない。従つてそれ以前に起訴になるかならないかの境に、裁判権の所轄に関係する問題でございます。日本裁判にかかつたときには日本裁判官がそれを処理することができますが、それの事実認定の場合には裁判官には発言権がない。そうすると合同会議なり法務省との間における話合いでもつて日本に来るべき裁判向う側にとられる。これは事実認証の場合です。特に重要だと思いますのは、この事実認証ということかと思います。それがはつきりいたしませんと、裁判官が認証し、裁判官の独自性を確保するということは困難でありまして、法も空文になりますので、私は法律の裁判のやり方、手続または裁判そのものについては、日本裁判官が何ら制肘されないということは当然だと思いますが、問題は裁判の管轄を決定いたします事実認証についてより多くこの場合には問題が起ると思う。その事実認証の判定は一体だれがやるかということです。それが政治的に取扱われると非常な危険があつて、何ら裁判権の独立を守ることができない。その点をお尋ねするわけでございます。特にお尋ねしたいのは、三項の(i)(ii)でございます。
  87. 下田武三

    下田政府委員 証明書を出した場合に事実認証の点でなるほど裁判官自由心証主義で、自由なアプリーシエーシヨンができるけれども、その前の検事の場合はどうかといいますと、日本側の検事も検察当局も、向う側で公務執行中であるとしましても、疑いを持てばこれを反駁できるわけであります。結局合同会議で相談いたしますが、相談いたしましてもなおかつ解決がつかないという場合に、日本の検察当局はどんどん裁判手続の方を進めて参ります。そして結局日本側としては起訴する最後の判断裁判官にまかせる、そういうことになると思います。
  88. 上塚司

    ○上塚委員長 穗積君、時間も大分過ぎましたので、できるだけ簡潔に願います。
  89. 穗積七郎

    穗積委員 大いに簡潔にやります。その点は、今のお話でございますと、検事または検察当局が、その事実認定はやるというふうに解釈してよろしゆうございますか。合同会議との関係ちよつとお聞きしたい。
  90. 下田武三

    下田政府委員 合同会議は、先ほど申しましたように、双方の法務当局であります。法律家でございますから、事実認定についてもそう争いはないと私は思います。しかしかりに争いがありました場合に、これはやはり検察当局でございますから、最後的な判断はできないのであつて、どうしても意見が一致しないという場合には、検察官としては当然起訴いたしまして、裁判官の最後的の判断にまかすほかはない。そうして裁判官は、先ほど申しました自由心証主義で、まつたく自由な見地がらアプリーシエイトをする。そういう段階だと思います。
  91. 穗積七郎

    穗積委員 どうも局長は、私は質問を間違えておられるようですが、私は、裁判にかかつて後の裁判官の認証または認定というものは独立性を持つべきだし、当然持てると思う。私は問題にしておりますのは、その判罪の事実の認定なのです。これは公務執行中の証明によつて正当なものであるのか、それが偽造または司令官がかばうために、かつてあとから出したものであるか、それからまた向う関係者だけの間における生命、身体、財産に及ぶ犯罪でなくて、日本の国民の生活に及ぼす犯罪であるのか、その事実の認定の場合において、今の合同会議がこれをやるということになる。そうしますと、同じ司法官の出身だから心配なかろうということですが、そうじやない。合同会議というものはおそらく政治的になります。そうなりますと、われわれがかつて戦争中に検挙された事実を見ましても、実ば裁判官判断というものと、検事と警察官とはみな違うのです。従つて私がおそれることは、合同会議の判定によつて、警察官または検事が牽制されて、うやむやにされることをおそれるわけなのです。たからここではつきり伺つておきたいのは、その場合における合同会議が、これを公務執行上のものと認めた、またはこの第一項による日本の国民の生命、財産関係のない事件であつたと認定したとします。ところが現行犯を押え、その捜査に当りました刑事または検事の認定によると、そうではないという二つ意見が出たときに、同じ司法官でございましても、そのときに一体どちらがどうなるかということです。そのときに刑事または検事が、合同会議の決議どは別に、独自な認定をすることができるかどうかということを聞いておるのです。
  92. 下田武三

    下田政府委員 そのことでございますと、現場の警察官、司法警察官あるいは検事がある意見を立てたといたします。そしてその見解にアメリカ側が異論を持つておつた。その場合に初めて合同会議が開かれるわけでございます。でありますから、合同会議が現場よりは一つ上の段階であります。合同会議できまらなかつたら、結局裁判官が最終的にきめる、そういう関係になつております。
  93. 穗積七郎

    穗積委員 そこで両方裁判官は、その犯罪事実に対して裁判権を主張するわけですね。そうなりますと、アメリカの裁判官はアメリカの裁判としてこれを主張する。日本裁判官日本裁判としてこれを主張する。そのときには一体どこで決定いたします。合同会議を通つた事件です。
  94. 下田武三

    下田政府委員 同一案件について、両方二つ裁判が行われるということはございません。合同会議でどつちかにきまりますからどつちかになるわけであります。
  95. 穗積七郎

    穗積委員 そういたしますと、さつきの私の質問のように、司法警察官である刑事またば検事の判定を、合同会議で否定する権限を持つているということですね。
  96. 下田武三

    下田政府委員 合同会議が協議いたします場合には、もちろん現場の警察官なり検事なりの意見、あるいは証拠物件、あらゆる事情を全部取寄せて、そして判断をいたすわけでありますから、どうしても合同会議の方が、両方の言い分なり両方証拠なり情勢をにらみ合せて決定するわけでありますから、仰せの通りに合同会議の方が上の機関でございます。
  97. 穗積七郎

    穗積委員 そうなると、その場合における裁判官の判定は、もう出る余地がございませんね。
  98. 下田武三

    下田政府委員 裁判官は、これはもう自由心証主義でございますから、たとい検事があることを主張いたしましても、裁判官はそれに拘束されることなく、自由に審理できるわけであります。
  99. 穗積七郎

    穗積委員 私の申したのはこういうことです。犯罪事実が起きまして、刑事がこれを逮捕または捜査いたします。それで検事がこれを調査いたします。そして、これは明らかに日本側裁判権に属すべき犯罪だと判定をいたします。ところがアメリカ側も同様に主張する。そこで、今のお話によると合同会議にかかる。合同会議にかかつて、そこでは政治的な圧力も多少加わりましよう。そしてそのときに、合同会議の結論が、日本側の刑事または検事の判断と結論とが違つたものが出たときには、それは向う側の裁判にかかるのであつて日本裁判官は何らこれに対してタッチする権限はございません。日本裁判所裁判にかかつたときに初めて裁判官が、合同会議のいかなる認証があり、アメリカ側からのいろいろな、日本側の刑事または検事の主張を否定する材料がありましても、それは拘束されることなしに判断できますが、裁判官はこの犯罪事実に対して、ただちに発言をすることができない。捜査または調査することができない。合同会議において発言することはできません。従つて合同会議が事実認証においては、その最後を決定するものなるということです。従つて、あなたはあくまでその裁判官の自主性が確保せられるということで、日本裁判権の自主性を主張しておられますが、そうじやない。日本裁判にかかりません。合同会議向う側の主張のように、日本の刑事または検事の主張をくつがえして、そしてこれをアメリカ側の裁判にかかるべきものだということを言えば、日本裁判官は、それは間違つていると思つても、発言の機会も権利もございません。だから合同会議というものは、非常に重要なものになつて来るわけです。だから私はそれを聞いているのです。あなたが裁判官を持ち出されるのは早過ぎる。裁判官は、自分の法廷に裁判として起訴されたときにおいてのみ自由な判断ができるのであつて、その点を私は聞いているのです。一番重要な点です。
  100. 下田武三

    下田政府委員 しかしそれは普通の裁判でも同じことでございまして、普通の裁判でも、日本の検事が起訴しなければ、裁判官はいくら裁判がしたくてもできないわけであります。ちようどそれが二つ裁判権が競合いたしておりますから、中間の合同会議で、どつちかにきめるわけであります。ですからどつちかにきめて、向うにきまれば、日本裁判官は、これは裁判したくてもできない。この点は自明の理でございます。
  101. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと、合同会議というものは非常に重要なものであつて、そうなると、もうこれはすでに施行されている。数日前から施行されている。そうであるなら、この合同会議構成と権限を、ここで明瞭にしていただきたいのであります。そういたしませんと、この三項というものはまつたく空文化します。
  102. 下田武三

    下田政府委員 その点は、直接その問題を担当しております、条約局の重光第三課長から答えさせます。
  103. 重光晶

    ○重光説明員 御質問の点について、補足的に説明させていただきます。条約という面では一応合同会議は、意見の違つた場合に両方意見を持ち合いまして、そこで決定したいという考え方で解釈することも可能なのですが、しかし国内法の検事の権限とか、あるいは裁判官の権限とか、国内法的な見地に立ちますと、合同会議は決して決定機関ではございませんで、協議機関ということになります。従いまして、もし日本の検事が、これは公務外であると判定いたしまして、それから向う指揮官公務遂行中に入るのだ、こういう意見の相違ができました場合には、この協定の面からいたしますと、そういう意見の相違は合同会議で、よく事実問題その他を話し合つてきめて行きたい、こういうことでございます。しかしながら、不幸にしてその合同会議意見の一致を見ないという場合には、結局これを国内法的に見ますと、日本の検察当局が最終的な決定権を持つておるわけでございます。そうしますと日本の検察当局はこれを起訴いたしますから、結局裁判に持ち込まれます。そうするともちろん裁判官議事録にあります三(a)(ii)のラインに沿つて決定するわけでございます。しかしてこの議事録に起訴された場合を書いてありまして、すなわち裁判官の手に入つた場合だけを書いてありますが、これでおそらくいろいろ御疑問が起るのではないかと存じます。実はここに起訴された場合だけを書きましたのは、裁判官の権限については、刑訴の三百十八条の自由心証主義規定国内法としてございます。しかしながら検察官については刑訴三百十八条のような規定がないのでございます。従いまして刑訴のこの規定がございますから、裁判官自由心証主義について特に議事録を書いたのでございますが、しかし起訴前におきましても、この議事録がないといたしましても、第一次裁判権日本側にあるのでございますから、もし不幸にして合同会議で最終的な決定ができなかつたという場合には、もちろん第一次の裁判権に基いて日本の検察官が最終的な判断をいたし、起訴するものは起訴するということになるわけであります。
  104. 穗積七郎

    穗積委員 ちよつと重要な食い違いが出て参りましたから、その点はつきりしておいていただきたいと思いますが、条約局長はそれでよろしゆうございますか。さつきのお話では、合同会議決定機関であるように御説明でございましたが、今の重光課長のお話によりますと、これは何ら検察官の意思を無視して決定するものではなくて、協議機関である、こういうように御説明になりましたが、そういうように修正していただいてよろしゆうございますか。
  105. 下田武三

    下田政府委員 よろしゆうございます。
  106. 穗積七郎

    穗積委員 それでは重光課長にお尋ねいたしますが、今、合同会議できまらなかつた場合ということでございましたが、きまつた場合はどうですか。つまり日本の検察当局と全然違つた話にきまつた場合、その理由はあるいは政治的な圧力が加えられて、あるいはまた合同会議に出席しておる日本側の委員の思い違いや失敗によつて向う側に裁判権があるというふうにきめた場合、その場合においてもそれに拘束されることなしに、こちら側は第一次裁判権を主張して、そして検察当局はこれを起訴して日本裁判所に移すことができますか。
  107. 重光晶

    ○重光説明員 合同会議決定できることをもちろん予想しておるのでございますが、その決定国際条約協定の見地からいうと、両国間の意見の一致ということで、決定といつてもよろしゆうございますが、しかし国内の法制からいたしますと、あくまでも第一次裁判権を持つておる国の検察官が最終的に決定するわけでございます。その見地からいうと、合同会議決定ということはあり得ないのでございます。それからまた実際問題として考えますと、先ほどから局長が御説明申し上げておりますが、実際問題は法務省の一番関係の深い担当官がそこに出て話されるわけでございます。従いまして日本の検察官の判断とこちらの合同会議代表意見と食い違つて決定されるということは、事実問題としてもほとんどないのではないか、こういうふうに考えます。
  108. 穗積七郎

    穗積委員 私は自分自身が関係いたしました今までの経験から、同じ検察当局の者がまつたく同じ判断に立つとは限らない。検事と検事の間の判断が違います。のみならず捜査または調査に当りました検事と、そういう政治的なところへ出て行く検事とでは意見の食い違うことがいくらもある、むしろその方が多い。さらに刑事と検事との間、検事と裁判官との間で意見が食い違うことは、今までほとんどある方が事実問題として多い。そういうふうに判断する。そこで重ねて結論としてお尋ねいたします。結論だけでけつこうです。合同会議では、アメリカの裁判所に移すべきものだと話合いをした。しかしそれは法律的にいえば、協議機関であつて決定権を持つていない。そこで日本の検事は日本国内法の独自性に照してみて、当然これは日本裁判所にかけるべきものだと判断いたしました場合には、それをどんどんやることができるかどうかということを聞いておきます。それができないとしますと、協議機関であるという名前で、決定機関ではないですか。その点の食い違いを明瞭にしていただきたい。
  109. 重光晶

    ○重光説明員 私もちろん専門家でございませんから、詳しいことはわからないのでございますが、具体的な事件について法務省の方なり、検察当局の方が違つた意見を持つということは、私はおつしやる通りであろうと思います。しかしながらその合同会議で具体的なケースについてアメリカ側と話し合うのですが、そのもとは日本側でこれを取扱つている検察官がこういう考えを持つている、ところがアメリカ側がそれと反対の考えを出している、すなわち具体的な事件につきまして日本の検察官の意見とアメリカ側の意見と食い違つた場合、それを調整するために、この合同会議が開かれるわけでございます。従いまして一般のケースではいろいろ違つた判断をされる検察官もおられるとは思いますが、具体的なこの問題について検察官の意見向うと対立したという問題でございますから、実際問題としてはそういうことは私はあり得ないと思います。しかし法理的にいえば、すこぶる形式的で妙なことになりますが、合同会議決定機関ではございませんから、あくまでも最終的な決定権は検察官にある、こういうことでございます。
  110. 穗積七郎

    穗積委員 ありがとうございました。非常に明瞭になりまして、安心いたしました。ぜひひとつそういうふうにやつていただきたいと思います。  そこで次にどちらからでもけつこうでありますが、お尋ねいたします。すでにこの法律は実施されているわけでございますから、合同会議構成メンバーとなり機構あるはまたその性格というものは、この際お示しいただけるものと思いますが、お示し願えますか。
  111. 下田武三

    下田政府委員 合同会議の全般的協定がまだできておりませんので、動いておりませんが、おそらく日米の場合と同じく、伊関国際協力局長日本政府代表となるかと思います。それから問題によりまして各省の関係官の御出席を願うわけでありますが、刑事の方は、仰せのようにもう動いております。そこで先ほど申し上げました法務省の津田君、古川検事、私どもの外務省から神原という条約局の事務官を出しまして、これがすでに相談をいたしております。先方は先ほど申しました極東軍の法務担当官トツド大佐が刑事裁判の向うのチーフでございまして、それに二、三の将校を帯同しているということでございます。
  112. 穗積七郎

    穗積委員 それは正式に決定しているのですか。もうすでに案をつくつておるということですが、すでに構成決定しているわけですか。
  113. 下田武三

    下田政府委員 ただいまのところ、まだ事件が発生して協議するというような仕事はありませんが、実はこのとりきめをつくります過程から、ただいま申し上げましたメンバーが相談をしておりましたので、それがそのまま今後このとりきめの実施に当るという役を帯びるわけでございます。
  114. 穗積七郎

    穗積委員 そういうふうにいろいろなことを聞いておるのではございません。正式にできているのかおらぬのかということを聞いている。
  115. 下田武三

    下田政府委員 事実上できております。
  116. 穗積七郎

    穗積委員 非常にあいまいな答弁ですが、検察当局の方にちよつとお願いしておきます。憎まれ口をきいて恐縮ですが、伊関局長がまたこの中に入り込むというので、われわれますます不満を持つている。先ほどより言いましたように、これは非常に政治的な危険があります。伊関さんは軍事基地その他の問題につきましても、あるいは基地その他における犯罪の問題につきましても、補償問題につきましても、まつたく日本の官吏じやなくて、アメリカの外務省の事務官みたいな印象をわれわれに与えている。こういう人が入ると、この会を政治的にひん曲げるような危険を起しまして、この三項がまつたく無意味になりますから、どうぞ検察当局の御健闘を日本裁判権の自主性のためにお願いいたしまして、この問題は次に譲ります。  最後にもう一つ伺いたいのは、きのう戸叶さんから御質問があつてちよつと私聞き漏らしたか、中途半端じやなかつたかと思いますが、9の(g)項であります。これによりますと、当然なことだと思うのですが、北大西洋条約当事国とのとりきめによりますれば、裁判所規則が許すときはという字句が入つておりますけれども、これには抜けておるのであります。これは一体どういうわけか、重要な削除でございますから、その点をお尋ねしておきます。
  117. 下田武三

    下田政府委員 これは日本の憲法が八十二条で「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」という裁判公開の大原則をきめておりますので、裁判所規則が許していることは自明の理でありますから、これを削除したのであります。その削除したことの意味でございますが、これも昨日申し上げましたように、アメリカの上院でこのNATO協定の審議の際に、いよいよこれでアメリカの将兵は外国の裁判所のさばきを受けることになつた、ついては非常に心配であるというところから、アメリカの議員さんからいろいろな御意見が出まして、結局こういう希望が述べられたのであります。外国の裁判所米国の将兵が裁判される場合には、アメリカの代表者を立ち合わしれ、被告の人権が保障全きを得ないという場合には、ただちにワシントンに報告する、政府が報告をもつともだと思つた場合には、ただちにその裁判所のある国の政府に対して、外交交渉で被告の人権の保護の不完全を指摘して、それを改めるように折衝しろ、そういう希望が出されたのであります。そこでアメリカ側はその点を日本についても非常に心配いたしたのでありますが、日本は憲法からして裁判公開の大原則をうたつておりますので、この点は先方は安心し切つてつたのでありますが、結局アメリカの国会に対しまする関係上、こういうことがはつきりいたしますと、安心して日本裁判所にアメリカの子弟の裁判をまかせることになりますので、その点を明確にいたしたわけでございます。
  118. 穗積七郎

    穗積委員 日本裁判規則が公開の原則をとつていないときには、向う立場から見ますとこれを削除する必要がある。ところが日本裁判所規則が公開の原則に立つておりますならば、向うから見ましても当然この裁判所規則を削除する理由はないと思うのです。おかしいと思うのです。どういうわけでこれが削除されたのか、今は向うの希望をおつしやいましたが、そうでなしに、これを削除しなければならない理由をお尋ねしているのです。
  119. 下田武三

    下田政府委員 これは日本の場合には問題なかつたのでありますが、米国の上院のそういう希望の表明せられましたことにかんがみ、日本以外の国とはおそらく非常に困難な問題を起していると思うのであります。そこで裁判所規則の許す限りという規定がございますけれども、その規則でかつてに立会いを認めないことでは困るから、何か交換公文か、あるいは実質とりきめで、事実上アメリカの上院の心配が解除せられるような実際上の措置を講ずるために、アメリカとNATO協定諸国との間では機微な折衝が行われているのではないかと思います。日本の場合には憲法の裁判公開の原則からその必要がなかつた。よその国はやはり問題が起つておると思います。
  120. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと、裁判所の規則が許すときと入れたのは、非公開の方針をとつている国の主張を生かすために入れたわけですか。この北大西洋のとりきめにおいてそれが入つているのは、そういう意味でございますか。
  121. 下田武三

    下田政府委員 NATO協定当事国NATO協定を相談しましたときには、まさにその点からこれを入れたのだろうと思います。そこで今度のアメリカ上院の希望はその点にまつこうから反するものでありますから、もう協定ができてしまつたのだからしようがないから、これから先は実質的なとりきめで、実際上すべての場合にアメリカの代表が立ち会えるように、何らかの措置を講じているに違いないと思います。
  122. 穗積七郎

    穗積委員 そうであるならちよつときのうのむし返しになりますが、その削除されました裁判所規則云々は、今言われましたように非公開の原則をとつているとアメリカにとつて不利だ、そういう意味でこれがついておつたのだが、日本の場合は公開の原則をとつておるからこれは書く必要がないということで削除されたと理解いたします。そういうことが理由でございますならば、これは(g)項全部を削除すべきだ。この数文字だけを削除するのではなしに、日本裁判所規則におきましては公開の原則は外国人たると日本人たるとを問わず、立会人または傍聴人として現実裁判に立ち会うことができるのですから、当然のことなのです。そうであるなら日本に関する限り、(g)項はこれだけの文字を削除するのではなくし、(g)項全体を削除してさしつかえない。なぜそういうことをしなかつたかということです。
  123. 下田武三

    下田政府委員 日本法制上できることは堂々と書いてやつて安心を与えるというのが、国際関係の処理の態度としては私はいいと思うのです。
  124. 穗積七郎

    穗積委員 どうもわかりません。水かけの論になりますから何ですが、事のついでにちよつとお尋ねします。それではこの権利は秘密裁判の場合においても立ち会う権利がございますか。
  125. 下田武三

    下田政府委員 その点になりますと、議事録の方で、「裁判の公開に関する日本国憲法の規定を害するものと解釈してはならない。」という留保があるのであります。結局それは憲法第八十二条の第二項で、「裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行うことができる。」という規定があるのでありますから、ここで日本の公の秩序または善良の風俗を害すると裁判官が全員一致できめた場合には、立会いを許さないようにする権利を留保しておるわけであります。
  126. 穗積七郎

    穗積委員 それはこちらは拒否することができるわけですね。間違いありませんね。
  127. 下田武三

    下田政府委員 拒否することができるわけであります。ただ向うの軍の当局者でありますれば――先日申し上げましたように、猥褻犯罪のような場合には、一般人が立ち会うことはいけないでありましようが、軍の法務当局代表が猥褻裁判に立会いをいたしましてもさしつかえないわけであります。結局想像されますのは、日本自体の機密、これは向う政府代表であつても、聞かすことがまずいと考えます場合には拒否する。それが拒否する実際上の唯一の場合であると存じます。
  128. 穗積七郎

    穗積委員 そうなりますと、日本人と外国人とを区別するわけになる。良俗に反します場合は、今おつしやつた例で申されましたが、おそらくここで重要な点は、公序に関することだと思います。向うの兵隊、向うの軍の家族は、日本の傍聴人が拒否されても、すべての場合においてこれが許される場合がある。しかしこの重要な点――何と申しますか、専属裁判権の場合は、これはおそらくは国の安全に関する機密であるということで、日本軍隊を持とうと持つまいと、あるいは外交、防諜の点から、すべての日本人並びに今の代表者すべてを拒否することができる。憲法ではそんなことまではつきり書いてない、日本人に対しては公序良俗でもできることになつております。ところが今言つたように、良俗については、猥褻罪であつても、そんなところを見せたりあるいは聞かしても、向う代表者には何ら影響を及ぼさないから立ち合うことができる。それからさらに問題になるのは向う側の軍の機密であります。そうすると日本人は傍聴を禁止される。ところが向うはさしつかえないというので立ち会うということになります。従つて私は、さきに局長日本の公開原則で当然認められておることであつて日本人同様に取扱うことを確約する、それだけの意味であるとおつしやいましたが、この条文は今度は逆に日本人よりさらに向うを優遇する結果になつていると思う。単に日本裁判の公開原則をここにうたつただけでなしに、日本人には非公開の裁判であつても、大多数が向う側は立ち会う権利がある。すなわち輿論的に言いますならば、裁判官の心理状態からいたしましても、日本人が見ておるなら日本の利益を主張する、そういうことを主張しなければならないことになります。ところが日本人は一人もいないで、向うの権力を持ちました代表者だけが聞いておる、そんなところでは、公開の原則に反して、むしろこの条文は向う側に有利なことを確保したことになります。私はその点ではなはだしくおかしいと思うのです。単に局長は今までは日本裁判公開の原則があるから、これを書いてもかわりがないとおつしやいました。それをうたつただけにすぎないのであつて、実は向うを安心させるだけだとおつしやいましたが、私はそうではない。日本人に対しては秘密裁判なつたことが、向う代表者には実は全部立ち会う権利があるわけです。そういうことです。だから同様に扱わなければならないと思うのです。そういう意味で私はどうしても削除すべきだと思うのです。
  129. 下田武三

    下田政府委員 日本人とちつとも差はないわけであります。アメリカ人の一般人が傍聴に来ようとしたらそれはだめだといわれるのです。しかし猥褻犯罪の場合に、米国政府の役人や法務当局代表者が立ち合うなら、日本法務当局なりあるいは日本関係官吏は一向さしつかえない、つまり一般人が聞くことはならない。内外人とも一般人は排除せられるでありましよう。しかし政府代表者でありましたならば、これは関係当局がやはり立ち会うことは許されると思ます。
  130. 穗積七郎

    穗積委員 これは重要なことでございます。裁判の実際から行きますと、もしそれが必要なら特別弁護人制度というものが、日本裁判所の規則中にのあるのですから、伺うの代表者は特別弁護人なら特別弁護人を申請して、それを裁判官が必要と認めたらそれを認めたらよろしい、そういうことになると思います。きのうだかおとといの御説明では、公開の原則に従つておるから日本人の傍聴人と同じであつて裁判そのものに対して何ら発言の権利はない、インラルエンスを与える権利はないのだとおつしやつた。ところが今お話を聞きますと、それは重要な問題でございます。日本人の一般の傍聴人とは違つた立場を確保されておる。そうであるならば、日本裁判所規則によりまして特別弁護人の制度あるいはまた証人制度というものがあるのですから、裁判所の自主性を守ろうとするならば、日本人裁判官の自主的判断によりまして、向うの申請を代表者でも友人でもだれでもよろしい、特別弁護人または証人として裁判所に喚問する、こういうことでけつこうだと思うのです。これは単に日本裁判の公開原則をここで繰返したのにすぎないという条文ではありません。非常に重要な問題だと私は思います。
  131. 下田武三

    下田政府委員 裁判の公開原則を繰返したにすぎないのでありまして、ただ憲法第八十二条第一項の公開原則、次いで先ほどの留保がございますので、その憲法上の建前をくずさないために議事録で念のために書いたわけであります。実際上の取扱いにつきましては、裁判官が全員一致で公平な判定を下されるのでございましようから、日米間に不平等な決定が全員一致でなされるということは私はないと思います。
  132. 穗積七郎

    穗積委員 その点法務省の方はどういうお考えでありましようか。
  133. 古川健次郎

    ○古川説明員 ただいまの裁判の公開に対する九項(g)の問題でございますが、ただいま穗積委員のおつしやいましたように、特別弁護人制度もあるわけでございますが、向うが別に特別弁護人としての発言は求めておりませんで、日米行政協定のアメリカ合衆国の上院の批准の際に、上院が先ほど下田条約局長の御説明にありましたように、必ずすべての裁判に立ち会いたい、立ち会うようにするようにという留保条項を付して、ぜひともすべての事件に立ち会いたいという希望をいたしておつたわけでございます。一応わが国といたしましては裁判の公開が原則でございますので、本文からそれを削除いたしたのでございますが、しかしながらわが国といたしましても、すべての事件において公開にいたしておるわけではございませんで、ただいま局長の御説明にありましたように、裁判官一致の合議によつて裁判が非公開にされる場合があるのでございますが、一応その場合には拒否できるという建前のもとに、公式議事録におきまして、九項(g)の規定は、すなわち非公開にする場合の規定でありますが、憲法の裁判の公開に関する規定に牴触するものと解釈してはならない、かような合意をいたしたわけでございます。その実際の運用といたしましては、強姦のような公序良俗を害するような場合におきましては、これは裁判官の裁量によるのでありますから、必ずしもアメリカの代表者の立会いを拒む必要もないと思うのでありますが、最後の問題として、やはりただいま局長説明にありましたように、日本の国家機密に関するような事案が問題になりました際には、合意の公式議事録規定によりまして拒否できる、かように解釈いたしておるのでございます。
  134. 穗積七郎

    穗積委員 最後に一点。公序良俗の問題で猥褻犯罪、それから日本の機密ではありませんが向う軍隊の機密に関する問題、それらについては日本人は公開を拒否されますね。ところが、その場合でも向う代表者は参加できる、こういうことになると思うのです。そうしますと、これは公開の原則の取扱いにおいて、日本人に比して向う側に過当な権利を与えておる結果になる。内容を聞かせてさしつかえないということでなくて、公開の原則が示されておりますのは、裁判が国民の前において公平に行われるということなのです。最後に裁判官判断がせられるが、そういう意味において公開の原則は心理的にインフルエンスを当然含んでおると思う。ところが、その場合において、日本人は一人もいない、向う代表者だけががんばつておるということになる。その点を私はいささか不平等ではないが、むしろ向う権利を認め過ぎておるのではないか、単に公開の原則を繰返しただけではないということを私は言いたいのであります。私のお尋ねしたいのはその点なのです。
  135. 古川健次郎

    ○古川説明員 ただいまの点でございますが、なるほど穗積委員の仰せになりましたように、不平等でないかという感も抱かせられるのでありますが、この点におきましては実は三項(c)に関する公式議事録の第二項でございますが、アメリカ側が第一の裁判権を有しまする事件、すなわちその中の一つであります公務執行中の犯罪、その公務執行中の犯罪でありましても、日本国民が被害者である場合、あるいは日本国被害者である場合、この場合におきましてはわが方としては絶対に立ち会いたい、かような希望を持つておつたわけであります。従いまして、現在のアメリカの軍法会議法におきましては、必要な場合には裁判を非公開にすることができるのでありますが、しかしながらこの場合にも、ぜひとも、日本人被害者である場合には日本政府代表者が立ち会いたい。現在はこれは検事をもつて充てる予定になつておりますが、立ち会いたい、かような意味から第三項(c)に関しまする公式議事録の第二項が入つたのであります。これはNATO協定にもございませんで、これはわが国が大いに主張いたしまして入れまして、向うも、軍法会議において非公開にする場合も日本の検事を立ち会わせる、かように約束いたしましたので、われわれといたしましても、九項の(g)に関しまする今の強姦のような場合に向うを立ち会わせるということと照し合せまして、決してそう不平等じやない、かように考えまして、むしろ三項の(c)に関しまする公式議事録の第二項の規定の方が、はるかに適用が多いのじやないか、かように考えまして一応そのような合意をいたしたわけでございます。
  136. 上塚司

    ○上塚委員長 穗積君、すでに二時間近くを社会党左派に許しております。今岡崎外務大臣が見えましたので、大臣に対する質問の順序について相談したいと思いますから、理事会を開きます。ちよつと速記をやめてください。     〔速記中止〕
  137. 上塚司

    ○上塚委員長 速記を始めてください。並木芳雄君。
  138. 並木芳雄

    並木委員 ごく簡単に要点だけ質問いたしたいと思います。国連加盟の問題なのですけれども、先ほど局長にお尋ねいたしまたところ、なかなかむずかしいそうであります。しかしむずかしいからといつてほうつておくわけにも参らない問題でありますが、先日来の大臣の演説にも、また質問にもこの点は現われておりませんでしたから、この機会に、国連協力はけつこうですが、国連加盟そのものはどういうふうに今後大臣は処置されて行く御所存でありますか、この難関をいかように突破して行くつもりでありますか、その点を伺います。
  139. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは難関といいましても、安保理事会でも、これは総会でもおそらくそうなると思いますが、大多数は賛成なのであつて、ソ連の拒否権だけが問題なのであります。従いまして、難関といつたつて、ソ連の拒否権なのであります。ソ連の考え方というものはずつと一貫しておりますが、これをたとえば中共との取引に使うというようなうわさもありますけれども、まだこれはきまつておりません。われわれとしては、やはりこれは国際輿論を動かして行くよりほかしかたがないと思つております。突破するといつても、ソ連の拒否権をどうやつて突破するかという問題になるので、これはしばらく時間がかかるたろうと私は思つております。
  140. 並木芳雄

    並木委員 その国際輿論を動かす方法には、どういうことを考えておられますか。
  141. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これはちよつと妙な話ではあるかもしれませんが、国連憲章の趣旨に従つて日本が行動しておる、これを実質に現わして行く、これが一番国連協力の趣旨になりますし、また小さく言えば、その趣旨の現われでありますが、ここにあります国連協定等も、やはりこれを円満に解決することがその意味になるだろう、こう考えております。
  142. 並木芳雄

    並木委員 刑事裁判管轄権のほかの問題で、行政協定の改訂という問題がありますが、これ以外にどういうことを、今後の改訂で先方に申し入れて行く御所存でありますか、この機会にその計画を示していただきたいと思います。
  143. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これはいろいろ意見がありますが、たとえば一番問題になつているのは雇用の問題でありますけれども、これは実は協定の文面をかえてもあまり効果はないので、実質的の問題になるのであります。いろいろ言つて来るし、いろいろな意見があります。たとえば施設、区域の提供について何かかえたらいいだろうとか、いろいろ意見がありますが、これをせんじ詰めると、これはどうしても実際の取扱いの問題であつて、文面をかえてそれで解決するという問題ではないように思われます。その点を実質的に具体的に話しますと、なるほどというような意見になつてつて来ることがずいふんありますが、しかし、そういういろいろの問題がありますから研究を続けておりますが、まだ結論には至つておりません。
  144. 並木芳雄

    並木委員 この刑事裁判管轄権の今度の議定書が実施に移りましたけれども、これによつて今までの米軍並びに国際連合軍の犯罪というものは、常識的に考えて減つて行くのじやないかと私どもは思います。そういう点に対して、今後米軍並びに国連軍犯罪がどのような傾向になるであろうか、これによつてどういう変化を来すか、そういう見通しについてこの際伺つておきたいと思います。
  145. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは減るか減らないか私はここで断言はできませんが、この機会に、アメリカ側の当局及び国連側でも、二十六日に調印して二十九日に発効することにしたのは、実はその部下の将兵によくこの趣旨を徹底させたいという意味もあつたわけであります。アメリカ側も、行政協定の改訂に調印してから一月ありましたが、この問に十分日本の法令を守るように、こういうふうになるのだということを説明しておりますから、主眼はやはり日本の法令を守つて国連側として日本の国民の信頼を得るように努力すべきであるという趣旨で、かなり徹底していろいろやつているようであります。従いまして、そういう趣旨からいいまして、犯罪行為等は減るのではないだろうかとわれわれももちろん考えております。しかし、日本側裁判されるから、いやだから減るのだというようなことにはならないと思つております。それは日本側裁判につきましても、十分先方には徹底して説明してありまして、大丈夫信頼できるものである、こういうことは向う側も考えておるようでありますから、その意味ではなくて、日本の法令をよく守つて日本国連軍なりアメリカ軍なりが、この上とも友好的な空気のうちにこの協定を守つて行く、こういう趣旨からいいまして相当減るのじやないか、こう期待しております。
  146. 上塚司

    ○上塚委員長 穗積君。
  147. 穗積七郎

    穗積委員 大臣に簡潔にお尋ねいたしますが、国連軍日本駐留は吉田・アチソン書簡により、さらに事実は朝鮮戦争によつて来ていると思うのです。そこで、今後この国連軍駐留に対してどういうお見通しであるか、どういう御希望であるか、その点を最初にお尋ねいたしたいと思います。
  148. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 国連側ももちろん長く外国の領土にいたり、あるいは朝鮮でもつて戦闘をするということは、好まないことはあたりまえの話で、いずれも早く引揚げたいと思つておるようでありますが、これは政治会議の模様によることでありまして、それがどうなるか、政治会議はなかなかむずかしそうであります。従いましてわれわれとしても、国連側が早期に撤退する場合もあり得るということを想定して、いろいろ考え方を練つておりますが、政治会議の動向がはつきりしませんと、その点はやはりはつきりしない、こう言わざるを得ないと思います。
  149. 穗積七郎

    穗積委員 われわれも朝鮮戦争によるのが原因で日本の国の中に役にも立たない連合国がおることを、好ましくない状態だと思いますが、その問題は今の御答弁にとめまして、次にお尋ねいたしたいのは、ただいまこの委員会に上程されております議定書は、当然駐留する国連軍地位そのものをきめる母法になるべき協定、つまり日米間で言いますならば安保条約その他に相当するようなとりきめが想定されておるわけでございます。従つてその母法になるべきとりきめが重要なことだと思いますが、その場合に国連軍地位並びに日本国内における国連軍権利義務、これは逆を言えば日本側義務であり権利でございますが、それらのことについての御構想がおありになるものと思いますが、その点をお伺いいたしたいと思います。
  150. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 国連軍地位その他の根本的な規定としましては、これはサンフランシスコ会議のときの吉田・アチソン書簡によるものでありまして、ここにおいて日本国連協力の趣旨を明らかにし、国連軍朝鮮に出動するために来たものに対しては、日本及び日本の周辺においてこれをサポートする、フアシリテイというか便宜を供与する、こういうことになつております。そのもとに今度の協定もできたわけでありまして、実質的には今度の協定がほとんど国連軍地位決定するものであつて、もちろん財政経済問題はありましても、それ以外にはほとんどないと考えております。
  151. 穗積七郎

    穗積委員 たとえば駐留いたしますアメリカの軍隊は、日本を防衛する義務を持つておるわけでございます。ところがたまたま朝鮮事変のために出動して参りました国連軍日本に駐留いたしておりますときに、その戦況が拡大いたしまして日本に及んだ場合、そういう場合に日本の安全を保障するために、防衛するために、国連軍もまたアメリカ軍と同様に日本防衛の義務を負わしめる、そういうようなお考えはありますかどうか、伺つておきます。
  152. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 国連軍日本に置くことを承知したときから、現在におきましても、朝鮮戦線が拡大して日本を直接侵略から防衛しなければならぬというような予想はいたしておりません。従いまして国連軍に対してはそういう義務等は考えておりません。また現在のところ米駐留軍でその点は十分であると思つております。
  153. 穗積七郎

    穗積委員 事実問題といたしまして、そういう直接侵略がありましたときに、国連軍日本に駐屯しておるわけですが、そのときの国連軍の役割というものは、朝鮮作戦だけに限るのであつて日本の防衛には何ら責任を持たない。責任を持たないというか、行動をしない。そういうことになりますと、国連軍そのものの存在が日本にとつては何らの意味を持たないし、むしろじやまになるわけでございます。その点についてはどういうふうにお考えになつておられるか。
  154. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 私は国連軍の存在が日本に意味がないなどとは考えておりません。じやまになるどころじやない、非常に利益があると思つております。というのは、今あなたのお話のように日本に直接の脅威が来ないということは、国連軍朝鮮でもつてしつかり三十八度線を押えておるからであります。いわば日本の安全保障のためにも非常にこれは役に立つておる。ということは実は朝鮮動乱の当初において、釜山の近くまで北鮮軍が来たとき、山口県、福岡県その他朝鮮に近い場所の人々の動揺というものは相当ひどかつたのであります。このごろすつかりおちついておりますが、それは国連軍がしつかり三十八度線で押えておるからであります。従いましてこれは非常に日本の安全にも間接であるけれども寄与していると思つておりますし、国連協力の趣旨でもありますから、特に日本においてあらゆる便宜をはかつておるわけであります。またこれは非常に仮定の問題で、こういうことを議論するのは私の立場からいうと好ましくありませんが、御質問ですからお答えしますと、もし万一日本に脅威が発生したような場合に、国連軍がどうするかということは、今の問題ではないのでありまして、そのときに国連の決議なり、あるいは国連軍の所属している諸国があらためてその事態を考慮して、適当の措置を講ずるのであつて、今からそういうことを想定することは困難であろうと思います。
  155. 穗積七郎

    穗積委員 実はきようはこの条約の審議が先でありますから、認識のことについては触れまいと思いますが、大臣が言われましたから一言申し上げておきたいと思います。朝鮮におきましてマッカーサーの無謀なる作戦にもかかわらず、日本が戦火から免れたのは、国連軍の力ではなくて、英国の外交の力であつたと私は思います。五千や六千の国連軍がおろうとおるまいと、しかも国連軍朝鮮作戦においては大した戦意もなかつた、戦果もあげておりません。義理で出て来ただけのことでありまして、厖大な中共軍の前に国連軍日本を守つてくれたなどとは、とうてい考えられないのであります。これを事前に救つてくれたのは、まさに英国を中心とする西ヨーロツパ諸国の平和に対する外交政策がこれを救つてくれた。その点では外務大臣と私は根本的に認識を異にいたしております。従つて国連軍日本に駐留することについては、日本日本の安全と自衛を守るために大きな利益になつておる。従つてこちら側ではそれに相当するだけの義務を負わなければならぬし、協力しなければならないというような建前は、私は考えられない。  そこで続いてお尋ねいたします。われわれは基本的には賛成いたしておりませんが、賛成しておられる政府立場からいたしましても、駐留するアメリカ軍は日本の直接侵略に対して防衛の義務を持つております。だからこそ今言いましたような財政経済上の利益を向う側に与えておるわけであります。ところがただこの拙劣なアメリカの朝鮮作戦の義理合いというか、おつき合いで来ておる国連軍に対しまして、われわれがアメリカ軍と同等の経済的その他の犠牲を払うということは、これは政府立場から見ましても、アメリカ軍と国連軍との間における非常な不平等な取扱いになると思います。その点についてはどういうふうにお考えになつておられるか、まずその一点をお尋ねたいします。
  156. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 実はそういう考えも政府の一部にありまして、従つて家賃とか地代とかその他のものを国連軍の方は払うのが至当であるという議論があつて、今までまとまらなかつたのでありますが、考えてみますと、国連側では、何べんも言いますが、動機はいかにもあれ、外国の軍隊を国内に置く以上は、その取扱いは同等であるべきものであるという主張をいたしております。また朝鮮で同等に平和のために戦つておるものを、日本の国内において差別待遇をするのはひどいじやないか、この議論も私は一理あると思う。また私ばかりじやない、改進党の須磨君なども、あるいは並木君もそうだと思いますが、一思いに国連軍にも、数億の問題なら、協力の意味から、財政経済問題にていても、アメリカ側と同等の待遇をしたらいいじやないかという議論も、もちろんあるのであります。それらの点は今いろいろ研究中であります。
  157. 穗積七郎

    穗積委員 続いてお尋いたします。そこで国連軍が駐留する必要性と期間の問題ですが、それは一体だれが認定するかということですね。今おつしやつたように、この裁判権に関しまする条約は、同時に今言いました財政経済上の利益を向うに与えるということが、政治交渉では交換条件になつておる。それでこちら側の主張が通つたので、向う側には経済的、財政的な利益を与えなければならないことになつておる。そこで当然これはその母法になる、地位や性格を決定する条約が想定されておるわけでございます。そうなりますと、日本に駐留する一般的国連軍に協力するのはわかりきつたことですが、その場合に、アジアの今の情勢とそれから時期において、そのときに国連軍が駐留する必要がありやなしやという問題でございます。それの判定は一体だれがするのか。もしここでそういうような母法ができたといたしますと、まだアジアにおける危険は去らないという口実でもつて、場合によれば国連軍をいつまでも駐屯せしめておくことに使われぬとも限らぬ。そういうふうに反対に考えなければならない。すなわち暫定的な駐留であつた国連軍の駐留が、こういう母法の条約ができますと、恒久化する危険があると思うのでありますが、それについて駐留する必要と時期は、一体どういうふうにおとりきめになるおつもりか、それをお尋ねいたします。  それが一点。それから委員長が言論を抑圧さすれますから続いてお尋ねしておきますが、もう一点だけ。内容につきまして、三項の(c)項で裁判権委譲の問題がございます。こちらの第一次裁判権を、向うの希望によつて委譲する場合に、それは一体どこできめるのか。それを譲るか譲らないかの基準は、一体どういうことが基準になつておるのか、その二点をお尋ねいたしておきます。
  158. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 国連軍朝鮮に軍を出しておりますのは、みな自分の費用で、自分の犠牲で出しておるのであります。その理由は国連総会勧告によるわけであります。従つてだれも好んで軍隊を出しているわけじやない。勧告によりまして、いずれの国も国連に協力するという建前から、できるものは軍隊を出し、できぬものは病院船を出してやつておるわけであります。従つて国内的には相当の費用を使つておるわけであります。それゆえ国連総会等でもう必要なしと決定すれば、喜んで兵を撤退するであろうと考えておるのであります。従つて問題は、どういうふうに政治会議とにらみ合せてきめるかということになりますが、それによつてわれわれも態度をきめるつもりでおります。  また裁判権の問題につきましては、これはこちらに専門家がたくさんおりますから、それからお答えいたしますが、要するにこれはお互いに仲よくやつて行こうという趣旨でありますから、日米間で隔意なく協議をいたしまして、その結果によることといたしたいと考えております。
  159. 穗積七郎

    穗積委員 その点についてもう一点だけ、もう少し明確にしていただきたいと思います。たとえば今までの基地の問題にしましても、その他裁判の問題にいたしましても、すべて協力関係にはありますが、具体的な利害が対立する場合におきましては、両者の主張が違う場合が多い。法律というものはすべてそういう最悪の事態を予想してできておるのでありますから、こういうものをたてにとらないで済むことをわれわれは望むのですが、その意見が対立いたしました最悪の場合はどうするかという基準がなければならない。それはどういう基準によつて、どこできめるかということを聞いておるのです。余分のことを聞いておるのではごまいません。
  160. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 意見が対立してきまらぬ場合には、きまらないで、しようがないのであります。
  161. 穗積七郎

    穗積委員 合同会議はこの問題についてはどういうことになりますか。
  162. 下田武三

    下田政府委員 その点につきましては議事録でちやんときまつておりまして、裁判権行使する第一次の権利放棄に関する双方の手続は、合同会議決定することといたしまして、結局手続もこれから合同会議で相談してきめるわけであります。その手続がきまりますと、きめられた手続に従つて相談してきめる、そういうことになるわけであります。
  163. 穗積七郎

    穗積委員 基準はできておりますか。
  164. 下田武三

    下田政府委員 その手続の基準をこれからきめるわけであります。
  165. 上塚司

    ○上塚委員長 神近市子君。
  166. 神近市子

    ○神近委員 さつき私が関連資問で手をあげて御指名いただきましたのですけれども、穗積さんが細目のことだろうと思つて私をオミツトしておしまいになりました。私がそのとき言おうと思つたことは、日韓問題のことで局長がおつしやつたことに関連してでございましたから、ほんの一言それに触れさせていただきます。それは韓国との関係でございます。たいへん悪いのですけれども、日本の今一番大きな不幸の一つは、役人方が帝国主義日本時代の感覚で外交をなさるということ、そして平和でやつて行くということにまだおなれになつていない点じやないかと思うのです。私が御注意したいことは、昔軍備が十分にあつていばつていた時代の感覚を捨てて、これからは四等国でけつこうですから平和に……。(「四等国でけつこうだ、そんなばかなことがあるか。」と呼ぶ者あり)だつてあなた、国会なんかでもみんなそう言つていらつしやるじやありませんか、もしそれが皆さんのお勘にさわるなら取消します。けれどもさつき軍備のある大国の群をおつしやつたときにも日本は入つていませんでした。それで、いけなければ取消します。  平和日本の外交というものが、たいへんむずかしいことはよくわかります。根気と忍耐がないと、それから古い時代の感覚を捨てなくてはやつて行けない。私はその点で、久保田さんという方はたいへんりつぱな方だと思うのですけれども、忍耐が足らなかつたというふうな批評を世間でやつているのを聞いております。どうか平和に持つて行きたいということでやつていただきたい。それを言いたかつたのでございました。  それから私の質問はごく細目にわたりますので、あるいはもう前に、私が出席しなかつたときに済んでいる部分があるかもしれませんけれども、そういう場合は御容赦を願います。
  167. 上塚司

    ○上塚委員長 神近さん、ちよつとお諮りしますが、これは本日本会議に上程したいと思つて、すでに昨日から理事会でもつて話合いをきめているのです。ひとつごく簡単にお願いいたしす。
  168. 神近市子

    ○神近委員 十時のお約束でございましたから私十時に来て見ましたら、委員長も与党の方も一人も見えていなかつたのでございます。
  169. 上塚司

    ○上塚委員長 私、十時に来ておりました。
  170. 神近市子

    ○神近委員 おいでになつていましたか。お席にいらつしやらなかつたから、私はお顔を見覚えなかつたのです。
  171. 上塚司

    ○上塚委員長 それではきわめて簡単にお願いいたします。
  172. 神近市子

    ○神近委員 始めたばかりで簡単と言われると、私もとほうに暮れます。
  173. 上塚司

    ○上塚委員長 ちよつと速記をとめてください。     〔速記中止〕
  174. 上塚司

    ○上塚委員長 速記を始めてください。加藤勘十君。
  175. 加藤勘十

    ○加藤(勘)委員 きのう下田条約局長NATO協定と同じものだとおつしやいましたが、NATO協定の第九の(g)項を見ますと、ちよつと違うのです。それによりますと、「連絡する権利及び裁判所規則が許すときは」こういう文句が入つているのです。ところが日本の方はそういう言葉が入つていないのです。こういう点は、私はやはり法律的に見れば、相当重要に考なければならぬものじやないかと思いますが、局長はどのように御理解になつておるか、お聞きしたいと思います。
  176. 下田武三

    下田政府委員 その点はけさほども御説明申し上げましたが、御承知のように日本は憲法八十二条で裁判公開の原則をとつておりますので、裁判所規則はもう許していることが明らかなのでございます。そこで米国の上院がNATO協定の審議の際に、先日お話申し上げましたように、議員側から、いよいよ米国の子弟を外国の裁判所裁判させることになつたについては、いかなる際でも米国政府代表者が立ち会わなければいけない。立ち会つて、被告の人権が保護されていない場合には、これをワシントンの本国政府に報告しなければならない。本国政府がそれをもつともと認めた場合には、相手国に対して外交折衝をしなければならない。そういう趣旨の希望決議をいたしました。そこでアメリカ政府としましては、その上院の希望が表明せられたあと締結する条約には、この裁判所規則が許そうと許さないと、必ず立ち会わせるという条約を結ばなくちやならぬ立場に置かれたわけであります。日本は上院の決議後にできたとりきめでございますので、そうして日本は憲法の建前からしても裁判公開原則を採用しておりますので、アメリカ側に安心を与えるために、その条項を削除したわけであります。日本は上院の決議後でございますが、日本以外の国とは今アメリカ政府は折衝をいたしまして、協定には裁判所規則の許す限りと書いてはございますが、裏で細目とりきめで、実質上はアメリカの代表者が必ず立ち会われる、そういう何らかのとりきめを必要とするに至つたものと了解しております。
  177. 加藤勘十

    ○加藤(勘)委員 そうしますと、こういうように了解していいのですか。そういう言葉が入れられておろうと、入れられていなかろうと、きのうおつしやつたように、本質的には一般傍聴人とかわりはないのだ。ただ傍聴券等を発行する場合には優先的に入ることができる。それからたとえば風俗壊乱等の公判で公開禁止の場合があります。そういう場合にはやはり立ち会う権利があるのですかどうか、そういう点が今問題だろうと思うのです。今あなたのおつしやつた通りだとすると、そういう点やはり非公開の場合でも立ち会う権利はあるわけですね。
  178. 下田武三

    下田政府委員 第一点につきましては、お説の通りでございます。第二点につきましては、猥褻犯罪、強姦罪のような場合に、一般人には猥褻犯罪の審理を聞かせることはまずいといたしましても、政府代表者――それはやはり向う司法当局でありますが、その司法当局が傍聴いたしますことは、あたかも日本の国内関係官が傍聴いたしますと同じ意味で、傍聴させてさしつかえない、そういう考えでございます。
  179. 加藤勘十

    ○加藤(勘)委員 よろしゆうございます。
  180. 神近市子

    ○神近委員 私のお尋ねしたい第一点は、二項の(c)の(ii)のサボタージユというところでございます。今全駐労とか、あるいはこういう機関の中に働いておる人々の首切りが始まりまして、これは非常に大量の首切りでございますから、すごく動揺しておるのであります。     〔委員長退席、富田委員長代理着席〕 そういう場合に、軍の施設の中に働いている人々が、そういう心理的な動揺のためにたとえば仕事を怠るとか、きよう、あすに仕上げなくちやならない仕事が、予定通りに進まないというようなときに、これはひつかかるわけでございますが、その点非常に懸念を持つわけでございます。
  181. 下田武三

    下田政府委員 サボタージユと特に英語で断つてございますが、これはわれわれ日本人が解釈しているようなことと実は違うのでありまして、つまり何らか積極的な妨害行為があつて初めてサボタージユになるのであります。従いまして単なるストライキとか、シツト・ダウンとか、なまけることはサボタージユではないのであります。たとえば軍用列車を、線路をはずして積極的な行為でもつてひつくり返すとか、そういうような何か積極的なアクシヨンがあつて起る妨害行為がサボタージユでございます。
  182. 神近市子

    ○神近委員 それでは積極的にやらない限り、消極的で生じた場合は、これにかからないということになりますね。消極的で偶発的に結果として、たとえばきよう中にやらなくちやならなかつた仕事が終らないというような、消極的な場合にはかからないわけでございますね。
  183. 下田武三

    下田政府委員 仰せの通りでございます。単になまけるとか、労働争議でもつてストライキをやるとか、シツト・ダウンをやるとか、そういうことはサボタージユに該当いたしません。いたしますのは先ほど申しましたように、積極的な何らかの妨害行為がありまして、それで国の安寧秩序が重大な影響を受けるということになりまして初めてサボタージユになるわけであります。
  184. 神近市子

    ○神近委員 さつきのどなたかの質問に関連したことでございますけれども、ジープなどにひき殺された場合の裁判権向う側にあるということが、非常に困ることができるのではないかと思つております。御承知のように呉あたりでは、一箇月に数十人がそういう災禍にあつております。それを判定するのが向う側であるというようなことは、日本人保護の立場からいつて非常にこれは手落ちではないでしようか。
  185. 下田武三

    下田政府委員 そういうような点を改めますのがまさにこのとりきめの目的でございまして、三項の(a)の(i)に書いてありますように、もつぱら当該国財産または当該国人の身体に対する罪ですから、国連軍人がひき殺されたとかいうような場合なら、それは向うの内部犯罪でございますから、向う裁判するのでありますが、日本人がけがをしたり殺されたりする場合には、(b)項の「その他の罪」になりますから、これは日本側裁判権を持つわけでございます。
  186. 神近市子

    ○神近委員 もう一つ不作為から生ずる過失という問題でございます。日本の人が大分軍などに勤めているのです。国連軍にも同様通弁とかいう仕事をやつている。そういう人たちが過失で、たとえば偶然部屋の中で火が出たのに気がつかない。あるいは電熱器を消し忘れたというような過失が生じた場合、やはりこれは向う側で裁判をされるわけでございますか。
  187. 下田武三

    下田政府委員 これは日本人には全然適用がございません。日本人はすべて日本側裁判することは当然の事実でありまして、問題となるのはすべて国連軍軍人であります。国連軍軍人裁判を三の原則向う側が裁判し、あるいは日本側裁判する、そういう問題でございます。
  188. 神近市子

    ○神近委員 それでは軍属のようなものに日本人が雇用されている場合はどうなるのですか。
  189. 下田武三

    下田政府委員 たとえば日本人の被用者が電熱器のスイッチを切るのを忘れて帰つて、それで向うの兵舎が火事になりましたといたしましても、これは犯罪人が日本人でありますから、日本側裁判所裁判するわけでございます。ただ一つの例外は、二重国籍者であります。日英両方の国籍を持つてつて、そうして向う軍隊構成員になつて、しかも日本に来るときには英軍に連れて来られた。そういう二重国籍者は、国連軍人側と認める。そういう建前になつております。
  190. 神近市子

    ○神近委員 この五項の(c)項の中でございますが、これは今穗積さんが質問されたことに何か御答弁があつたかもしれないのでずが、私はさつきから出たり入つたりしていたものですから、ちよつと聞き漏らしたかもしれないのですけれど、(c)項に「日本国により公訴が提起されるまでの間、当該派遣国が引き続き行うものとする。」という規定がございます。この「公訴が提起されるまでの間」といえば、それに対する証拠の収集、あるいは証人の証言とかいうようなものが必要であつて、相当期間かかると思われます。そうすると、その間に拘禁している人間を、何か自国民に対する過度の考慮から、送還するというようなことができた場合はどうなるのでしようか。
  191. 下田武三

    下田政府委員 その点につきましては、議事録でまたこの場合の定めができておりまして、日本側裁判すべき者が、たまたま向うの手中にあつたからといつて、公訴の提起されるまで日本側に知せないということはできないわけでありまして、そういう場合にはたとい向うの手中に身柄がありましても、日本側に逮捕した旨の通告をいたさなければならないことになつております。その通告を受けますと、日本側が必要があれば、また身柄を日本側によこせということを言うことができますし、身柄が必要でないまでも、十分の調べはできることになつております。でございますから、日本側が知らない間に犯人がいなくなつたという事態は、絶対に起り得ないと思います。
  192. 神近市子

    ○神近委員 何だか新聞で拝見したところによると、今までにはそういうことがときどき起つておりますね。たとえばフイリピンでございましたか、強盗犯人か何かになつているのを帰してしまつたということが、しばしば国連軍側ではあつたように記憶しております。
  193. 下田武三

    下田政府委員 今まではこういう通告義務がなかつたのでありますが、御指摘のフイリピンの場合にも、ちやんと向うの軍律の裁判にかけるからという正式の申出をとりましてから処理したと考えております。全然断りなしに行つたのではないものと了解しております。
  194. 神近市子

    ○神近委員 もう一つ、私がこれを拝見してひどく気になりますことは、八項なのでございます。赦免されたときは重ねてその者を裁判してはならないということは当然だと思うのですが、日本の法律にもこの条項はあるのでございますが、これは何審で決定するということになるのでしようか。たとえば一審が済みまして、これが無罪というふうに決定されるわけでしようか。三審までやつて決定になるわけでしようか。
  195. 下田武三

    下田政府委員 これは第一審でもそのままで決定する場合があります。どちらも控訴しない、あるいは上告しないというような場合には決定してしまいますから、その場合には第一審だけでも決定しまして、一事不再理の原則で、相手方は裁判しないということになるわけです。
  196. 神近市子

    ○神近委員 検事控訴が行われるとか、あるいは被害を受けた人がこれを控訴するというときには未決定というわけでしようか。
  197. 下田武三

    下田政府委員 その場合には、上級審に移りまして、上級審の判決があるまでは確定しないわけであります。
  198. 神近市子

    ○神近委員 この条文を読んでみますと、こういう印象を受けるのです。早く放免させるためにこれが設けられたような感じが与えられまして、あとの方に迅速に裁判を受ける権利という条項はございますけれども、これだけ拝見してみまと、われわれが考えている一審、二審、三審という裁判の前例が長いから、そんな感しがするのだろうと思うんですけれど、何か十分な審理がされないで、いいかげんで片づけられるおそれがある。たとえば二審とか三審とかいうようなことが行われにくくなるのじやないかという印象を、これを読んで受けるわけでございますけれど、それはきちんと半年かかつても一年かかつてもということができるわけでございますか。
  199. 下田武三

    下田政府委員 日本側裁判権があることが明確であり、一たび日本裁判所司法権行使しました場合は、当然日本側訴訟手続によつて、必要な場合には一審、二審、最後には最高裁まで行き得るわけでございます。でございますから、そういう上級審までうやむやにして早くやるというようなことは絶対に考えられないことでございます。
  200. 神近市子

    ○神近委員 このところに二重犯罪、たとえば日本国内法当該国家の軍紀に触れるという二重規定がございます。その場合の犯罪者は両方を受ければなけならないのでしようか。それとも軍紀の方が強ければ軍紀で服罪する、それから日本の判決が重ければ日本の判決に服役するのか、その点はどういうふうにとりきめられているのでしようか。日本犯罪であり、それから国連軍自身の軍紀に触れているというような場合……。     〔富田委員長代理退席委員長着席〕
  201. 下田武三

    下田政府委員 国連軍側の軍紀の侵害に対する罪は、これはもつぱら向うの利益の侵害でございまして、日本側の関知しない先方裁判権を持つておることでありますから、御指摘のような場合は起りませんが、たとえば被害者日本人国連人と両方おつたというような場合には、それはもつぱら向うの身体に対する加害でなくて、日本人の身体に対する加害もあるわけでありますから、それは先ほど申しました「その他の罪」に該当いたしますので、日本側裁判するわけであります。いずれにいたしましても、同一の事件につきまして両方裁判所が発動するということはないのでありまして、必ずどつちかにきまつて、そうしてどつちかで判決が確定したら、もう相手方は一事不再理の原則で再び裁判しない、そういうことであります。
  202. 神近市子

    ○神近委員 私、そうばかりとも限らないと思うのです。それはたとえば、すぐ私の頭に参りますのは猥褻罪に関するようなこと、それから強姦とか暴行とかいうようなことに関することで、日本の法律にもかかると同時に、向うの軍紀に照しても決して不問に付せられないというような犯罪が、これからたくさん起りはしないかというふうに考えられる。その点を私お尋ねしているわけです。
  203. 下田武三

    下田政府委員 仰せのように、実際問題としては競合する場合が大部分でございます。これは大体各国の刑法で罰しようとする行為は同一であるからでございますが、しかし今の猥褻罪でございますとか、猥褻文書の頒布とか、そういう普通の犯罪は、日本側裁判権を持つておりますから日本側に来てしまいます。でございますからどちらかに必ず帰属する裁判所はきまつてしまいます。御懸念のような両方の競合することはありましても、その同じ案件を二つ裁判所が取上げるということは絶対にございません。
  204. 上塚司

    ○上塚委員長 神近さんありませんか。
  205. 神近市子

    ○神近委員 もう三つ四つございます。たいへんお気の毒ですが。自分だけおなかをつくつて来たからこれから持久戦ができるというわけですが、9項の(e)でございます。「自己の選択する弁護人」でございますけれど、これは当事国日本といずれの弁護人――両方の弁護人をさすのでございますか。     〔委員長退席、富田委員長代理着席〕
  206. 下田武三

    下田政府委員 これは日本裁判所でございますから、日本側の認める弁護人でなければいけないわけであります。アメリカの弁護士の資格だけで日本裁判所に来て弁護するわけに行きません。向う軍法会議に出ましたら、やはり向う軍法会議用の弁護人がおりますので、それが向うへ行くということになると思います。
  207. 神近市子

    ○神近委員 特別に「有能な」というような、ただここでは「通訳を用いる権利」という程度でいいと思うのですけれど、非常に有能な通訳ということになると、何だかたいへんこれはお金もたくさん払わなくちやならないことになるだろうというふうに感じますけれど、それはいいといたしまして、さつきからのお話を聞いておりますと、(g)項の「派遣国政府代表者と連絡する権利及び自己の裁判にその」というこの「その」というのは政府代表者でございますね、その点ちよつとはつきり……。
  208. 下田武三

    下田政府委員 仰せの通りであります。
  209. 神近市子

    ○神近委員 そうすると、裁判公開の原則というところに、われわれは何か公判を見るときには、立つて順番を待つて切符をもらわなくちやならないのが、傍聴人の今までの規則でございますけれども、相手方の国の代表というような人を、同じ条件のもとにお置きになるわけでございますか、その点お伺いいたします。
  210. 下田武三

    下田政府委員 それは政府代表者でございますから、一般傍聴人と同じように、並んで切符の配付を待てということはやはりどうかと思いますので、そういう点はこれは裁判権の問題でなくて、アドミニストレーシヨンの問題でございますから、これは国際礼譲といたしまして、優先的に傍聴させるということはいたすことになつております。
  211. 神近市子

    ○神近委員 その同項の問題のときに、きのう条約局長がアメリカがたいへん喜んだというようなことをおつしやつたのが、私はたいへんそのときには気になつておりましたけれども、今日はそれは不問にいたします。アメリカ人が国民としての人権をこんなに周到に守つてもらえる立場にいるということは、非常に私どもはうらやましいと思うのですけれども、その点でなるべく私どもの国家を代表なさる立場に、相手を喜ばせるというような立場よりは、国民を喜ばせるという立場をお選びになつていただきたい。その点がどうもきのうきようのこの質疑応答を私が委員会のしろうととして伺つていて、そこに一番大きな食い違いがあるように私は考えているものでございます。大体私のお伺いしようと思つていることは、皆さんがお出しになりましたから、この程度で打切ることにいたします。
  212. 富田健治

    ○富田委員長代理 これにて本件に関する質疑は終了いたしました。  本日はこれにて散会いたします。     午後二時二十六分散会