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参考人(原茂君) 前者のかたから言われましたので、言うつもりはなか
つたのですが、一応
貯炭がある、
貯炭があるという
理由に三点ほど挙げられておりましたので、
労働者の考えておる
貯炭の
見方について、一応参考意見を述べたいと思います。
大体先ほど
説明された
数字はともかくとして厖大な
貯炭があるという
理由の中に、特に総
需要というものはむしろ殖えておるので、減
つておるのではない、
従つてこれは
輸入炭或いは
重油への
転換による
石炭需要の縄張り侵入である、こういうことで
生産がむしろ上昇しつつある今日において、結果的に
国内炭がダブるのである、こういう言い方をしておられました。そこで我々はこういう起きたものの処理をどうするかというよりも、なぜこういうものができたかという
理由について、少くともこの
石炭産業が公共の福祉に該当する
産業であり、
基幹産業であるということを政府みずからも天下に公表し、そういう立場に立
つて今日の
スト規制法が出されておる。こういう点に立つならば、これの処理を政府がどういう計画を以て将来
石炭産業に対する経済政策というものを行なおうとしておるのか、こういう考え方については、未だ新聞の報道以外に具体的な政策の発表が全然ないわけであります。そこで起るのは、無策の中で行われたこういう自由主義経済の中で、資本家同士が
自分の資本を擁護するために他の資本を踏み倒しても
自分の資本はよくなろうとする、或いはそういう利潤の上げ方や、経営の発展を図るために、他の資本と競争してもどうしても
自分の立場を、資本を擁護するために
労働者の首を切
つたり、或いは政府に対して何らかの金を出させるという
方法によ
つて物事を処理しようとする。こういうけんかが起る事態をただ政府は漫然と黙視して、これに対する具体的な
対策が全然出されておらない。こういうところに民間
産業における
労働者と資本家という対立の激化や、そこから起るべき、
労働者の生活が奪われ、結果的には政府の無策という方針によ
つて日本全体の公共の福祉であるべき
産業の
基礎が崩れつつある。こういう点を私は特に国会の問題としてこれは取上げて頂いて、具体的に国民が消化できる方針をやさしく出して頂くことが先決ではなかろうか。こういうことがなくして、ただ単に
貯炭が多いから首を切るとか、或いはあの会社の経営
状態が悪いから潰れてもよろしい。こういうことで放置されることは甚だ
日本経済のために問題を起すのではなかろうか、特に
労働者はそういう観点に立
つて、将来の
日本の経済がお先真暗であるということを非常に心配しておる。而もそのことは結果的には明日から
自分たちがどういう生活
状態に追い込まれるであろうか、或いは明日からは職もなく路上に放り出されることになるのじやなかろうか、こういうふうに
自分の生活がどうなるかという心配と結び付けて、今日起るであろう
石炭産業における不況の問題を心配しておる実情であるにもかかわらず、国会ではその
産業に対しては経済的な政策を出されるのでなくして、政治的なものばかりが出されておる。端的に申上げますと、首を切りやすい
方法として
スト禁止法が出されたり、或いは企業合理化をするとか、
労働者の条件を引下げて、そのことが結果的に
石炭産業の発展に寄与するものである、そこが公共福祉である、こういうふうに出されておりますので、甚だ我々には納得行かない問題がたくさんある。
従つて我々が要求すべきものは、労使ともども今日行われておる
産業経済に対する、特に
石炭産業に対する政府の将来の計画というものを明らかにしてもらいたい。或いはこれに対応する
産業資本家や
労働者というものはどうあるべきかということを、当然政府みずからの計画と責任において出されるべきである。そういうことによ
つて初めて我々は一国民として、或いは公共の福祉に従事する従業員や
労働者としての働く途と生きる途が求められるべきではなかろうか、このように特にこの国会であるだけに、政府が今日まで行われました
石炭産業に対する考え方について御指摘をしたいと思うのであります。
それから次に、そういう
貯炭が過剰になるということは、これは
労働者が
輸入炭を要求しておるのではない。或いは
労働者が莫大なドルを使
つた重油の
輸入を奨励しておるのではない。これは同じ
日本の資本家が幾らかでも儲けるということが、或いは国際収支のドルの計算がどうあろうとも、結果的には
自分の
産業だけが、資本だけが利潤を上げればいいということで
輸入炭をばくばく運動をする。或いは
重油の
輸入をドルの稼ぎで分配闘争をする。こういう形で、実際はスムースな
産業全体に対する計画がないために、どうしても
産業資本の中で炭鉱資本と或いは
石炭を使われる側の資本とがけんかをしておる。こういうことで果して我々は国際収支の問題を論ずる価値があるかどうか、或いはそのことから来る
日本産業全体の発展や経済自立を論ずる資格があるかどうか、この点も甚だ疑問である。政府はどう考えておるか知らんが、現実に行われておるそういう
日本の資本同士は
日本の経済全体のものではない。
自分の資本が儲かるということによ
つて輸入であろうと、横流しであろうと、或いは
日本の経済がどうあろうと、
自分の得する物を、安い物をどこからでも引つぱり出そう、こういう形で行われておる矛盾が結果的に今日のような厖大な
貯炭という言葉で現わされる
理由があるのである。従いまして、この点が根本的に解決されない限り、一時的な手当をして見ても、その重態にある患者というものはカンフル注射して一時的に麻痺されても病気の全快ではない、こういうふうに判断しなければならない。そのカンフル注射の
方法として非常に
日本の資本家は、国民の税金によるいわゆる補給金というものや助成金というものを要望しようとしておる、或いはしつつある、行われつつある。この点は厳に我々は慎しまなければならない問題であろうと考える。国民の税金があるからと言
つて、その税金は無駄に使わなければならんという
理由はないのではないか、この税金の使い方に再検討をするような重大な時期に来ておるのではないか。従いましてその
方法についても先に述べました、計画が立てられないから、その場限り力の強い資本に融資をする、或いは選挙運動に関連する基金カンパの多いところに助成金或いは補給金を受け出す、こういうことで常に歪められた政治
状態や経済政策が打立られようとしておる。この点が解決されない限り、ただ単に
貯炭の問題や或いは
輸入、
重油の問題の羅列だけでは私は根本的に
日本の
石炭産業ばかりでなくて全体の
産業が本当に正しい意味で発展し、或いは育成され、助成されるとは考えておらない。この点を特に取上げて将来の問題として御検討願いたいと思うのであります。
それから今後企業を合理化する
理由はともあれ、誰の責任であれ、政府の無策であれ、今日はすでに企業の合理化の時期である、こういうことを主張されましたが、我々は企業合理化、
企業整備というものを分けております。企業合理化とは皆が納得してそのことが全体を正しく発展させ、健全経営をさすのである。従いまして今日行われておる、資本家が言う企業合理化とはこれは
企業整備である。それは
自分だけが犠牲になりたくない、とにかく他人の損害を通じて
自分の利潤を守る、これを企業合理化と言うから、我々はそれは
企業整備であ
つて、企業合理化ではない。企業合理化というのはいわゆる全部の責任において、而もそのことが正しく健全経営のためになるという
方法でなければならない。こういう点は非常に言葉のあやで誤り伝えられておる。今日の
日本の炭鉱の資本家がやろうとしていることは、私は
企業整備という言葉が妥当であると思う。そこでその
理由を申上げますと、先ほど言われました高炭価の問題であるとか、或いは
貯炭処理の問題であるとか言われたが、この中で行おうとしておる具体的なことは全然発表されておらない。
従つて個々の資本でやられておると推測される。そこで個々の資本が何をやろうとしておるかというと、もうすでに山というものが完全に潰されてしま
つて閉山に
なつたところがすでに
中小炭鉱においては同じ炭労という二十七万の枠内にある
中小炭鉱の数の中でも相当見受けられる。もうすでに閉山されたものはもう十数鉱に達しておる。或いは人員の整理がされて、それが目立
つて企業整備と名を打たれるものが全国もはや二十六、七鉱にならんとしておる。それから
賃金協定が九月三十日まであるにかかわらず、
賃金の引下げを出しておるのが全
中小炭鉱にあるというぐらい猛烈に出て来ておる。こういうふうにしてすでにこの企業合理化とは
労働者の首を切ることであり、或いは
賃金を下げることであるということが具体的に現われておるにもかかわらず、我々はこれを放置して、そのまま企業合理化として承認することはできないのであります。これは今まで申上げましたのは、
中小炭鉱でございまして、これが大手十六社はどのような
状態にな
つておるか、一番炭鉱資本で大きいと言われる三井においても恐らく本日発表されておると思いますが、六千に近い従業員が馘首されることになるはずであります。或いは三菱はもうすでに大体二千八百という従業員を首切るということが明らかにな
つております。或いは明治においては千五百名、同じく住友においても大体従業員の二割から一割五分、これは全大手といえども最低が一割であり、最高は二割から二割五分の
労働者の首を切るということが明らかにな
つておる。これを称して企業合理化と言われることは我々は甚だ納得が行かないのでありまして、飽くまでもこれは
企業整備として、一方的に誰かの他人の犠牲において
自分の経営の利潤を維持しようとする考え方に断乎私たちはどうしても賛成できない。こういう実情にあることを御
承知を願いたいと思う次第であります。
そこでもう
一つ掘り下げまして、高炭価の問題が論ぜられておりますが、私が仄聞するところによりますと、特に高炭価の問題は、輸出商品が外国商品との競争の激化によるこういう原料の問題から、
貯炭の
石炭の高炭価が盛んに言われておる。ところが例を挙げますと、先ず鉄鋼という重要な輸出
産業につきましても、鉄一トン当りのコ
ストの中に
石炭の占める割合は二〇%前後である。従いましてこの
石炭がゼロにな
つて、ただにな
つても四割から三割五分国際商品と価格において合わない。
日本の商品は
石炭もただにしてもそれでも国際商品の価格と競争ができるかというと、できないのではないかと、そういう事実があるのにもかかわらず、我々を高炭価という理窟を以て首を切ろうとするのは、高炭価を
理由として
労働者の首を切ろうとする
目的に使われておるのであ
つて、真の高炭価を解決するという意思のない証拠である。そこで高炭価を処理するという意思のないことを事実を以て証明しますと、大体
石炭の値段を七千円するのでこれを五千円にするから、
従つて労働条件をこうするとか、或いは政府に対してこういう
措置をしろという要求をしたことがある。高炭価は反対であるけれども、みんな
企業整備が先決である、こういうことを言われておる。前者のかたが
説明されましたように、高炭価処理の問題の方式として何を具体的に考えておるか、これは言えない。あるものは
労働者の首を切ることである。少数の雇員によ
つていわゆる厖大な能率を挙げることである。もう
一つは、政府の力を借りて税金による
企業整備の合理化をやろうとするのである。そのことが竪坑になろうと、機械が入ろうと、
目的と行動とは国民の利益にならん
方法を考えておるではないかと思う。こういう点を我々は国会で取上げて、その真相を明らかにして、その上に立
つた問題の処理を考えて頂きたいと思う次第であります。
それから現在の高炭価に関連しまして、非常に労務費が高い、或いは
労働者の数が多い、こういうことで高炭価り問題を処理しようとしておるが、
昭和二十六年以降というものは殆んど炭鉱
労働者の
賃金は上
つておらない。大体
石炭一トン当りのコ
ストの中に占める比率は二千円から二千五百円を越しておらないのである。併し
石炭価格というものは先ほどの
説明にはなか
つたが、終戦以来鰻上りに上昇し、朝鮮動乱のブームを契機として歴史的な高炭価にな
つておる事実であります。而も労務費のその占める部分というものはこれは他
産業と比較して、他
産業の
労働者と比較して非常に安い
賃金をもら
つておるという事実は、昨年の十月闘争の際に、参議院の同じ
労働委員会で
説明いたしましたように、他
産業が百の労働
賃金をもら
つておるのに対して炭鉱
労働者は七五%しか
賃金を支払われておらない。こういう事実の上に立
つて労務費による高炭価は
理由にならない。むしろそのことによ
つて厖大な利潤を
石炭業者が挙げておるという証拠を暴露したものである。こういうふうに判断することが妥当ではないか。
従つて私は現在の
石炭が二割価格が下げられたから、そのことによ
つて石炭産業経営者が不利に
なつたり、経営不振になるということは特定の
中小炭鉱以外はないと考える。
中小炭鉱といえども、長者番付という多額納税者の一から十番を占めるのが全部
石炭業者であるという事実も昨年も今年も変りはない。こういう点から行きましても、如何に
石炭業者が不当利潤の追求を今日までやり、そのことの内容が国会の問題として取上げられておらず、或いはその真相が今日まで国民に明確に暴露されておらない。こういうことを目隠しにして私は高炭価を
理由に
労働者の首を切
つたり、或いは多少利益が上らんから、
貯炭の置場がないという
理由を以て閉山をしたり、或いは一時的に休山をするというやり方は誠に納得の行かない
方法ではなかろうか。こういう事実の上に立
つて石炭産業における労働問題の処理を本
労働委員会が検討して頂くことを特に我々はお願いするわけであります。
それから
最後に、こういう
状態の中で、炭鉱
労働者は何を求めようとしておるのか、これはどうしても国会で、一番先に申上げました
石炭産業の計画経済の樹立というものが明らかにされ、少くともそのことはもうすでに
日本の民間資本家はこの公共の福祉を担当する経営
能力はない、若し経営
能力があ
つたとするならば、その経営
能力は不当な利潤と国民の税金を不当に使う悪どい経営者としか私は認められない。こういう経営者が
石炭産業を経営する限りにおいては単に
労働者が困る困らんという問題じやなくて、
日本の経済自立のために重大な妨害にな
つておる、公共の福祉の障害にな
つておるというのが
石炭産業経営者ではなかろうか。こういうことで今やこの問題は国会の問題として取上げられ、いわゆる国家管理の方向に持
つて行
つて重要
産業の問題の処理に当る経済政策というものが急務とな
つておる今日、こういう段階においてさえも不当な利潤を追求することを放棄せず、或いはその利潤を追求するために
労働者の天引き首切りを断行しようとするこの経営者に対しては、やはり断固としたる責任が追及されなければならないし、或いはそれを解決するにはやはり経営の民主化の問題として取上げなければ、
日本の国民は誠に多額納税はするし、助からんという事情がまずます露骨化するのではなかろうか、こういう点を特にお願いしたいわけであります。又そのことがすぐ明日からできないとするならば、今日取りも直さず明日からできることは、やはりこの不当な利潤を上げたり、或いは不当な首切りをしようとする個々の経営実態を
調査すべきである。従いまして、この
調査の中からやはり国会が本当に硝子張りの中で重要
産業である
石炭産業がどういう経営をしておるのかという事実を明確に把握して、その上に立
つた労働問題の処理を図らなければ、私は根本的な労働問題の処理にはならないような
状態になりつつある。而もこのことは処理に当
つては民間労使の力関係に一切任されておる。私はあえて言わざるを得ない立場にあるわけでありますが、現在の
石炭の経営者がやろうとするものは、真の経営の民主化ではない、或いは経済の健全経営ではなくて、今日まで不当に上げました利潤をそのまま維持するために
労働者の首を切るという事実である。若し首を切らないでそのまま労働条件が改善され、他
産業と同じ
賃金が支払われると、丁度普通の健全経営に帰るというのが
石炭産業の実情である。ところが、今日はその不当な利潤を維持する
方法として
企業整備というだんびらが振廻されておる今日におきましては、やはりそのことを明確に指摘して皆さんの御検討をお願いするわけであります。
大体以上
企業整備の問題として我々が特に今日皆さんに御報告しなければならん要点だけを申上げまして、私の参考意見を終りたいと思います。