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参考人(戒能
通孝君) 戒能であります。根本の問題は要するに基地、つまり
施設及び区域というものがアメリカの租界であるかどうかということにかか
つて来るのじやないかと思
つております。ところが今までの
説明によりますというと、そして又今まで取交された文書によりますと、
施設及び区域というものはアメリカの租界ではないという立場をと
つていると思うのであります。飽くまでもこれは
日本の領地であるという立場をと
つているわけだと信ずるのです。そうしますというと、
日本の強行法規であるところの
労働法規というものがやはりこの区域及び
施設の中においても
適用されるべきが当然であると信じております。併しながら今までの事例によりますというと、お示しのような各種の
事件が起
つておるのは、これは主として外務省が労働問題に対しまして非常に不親切であるといいますか、それとも同情がないと用いいますか、或いは又十分に努力をして呑み込んでもらえないといいますか、その辺のところに問題があるんじやないかと思えるわけであります。
日本の国家は飽くまでも国民を護る
義務がございます。国民の
権利を擁護する
義務があると思われるのであります。
従つて国民の
権利というものをアメリカ
政府に対しても十分に護
つてもらわなくてはならないという立場にな
つていると思うのであります。而も
日本の国民の
権利の一部がこの
労働法という形にな
つて現われている以上は、その
労働法をアメリカ
政府によ
つて遵守してもらうという努力が絶対的に必要なんだと思うのであります。而もこれに関しましては、
行政協定第十二条の第五項におきましてすでにアメリカ側も遵守することを承諾しておるわけでありますので、これを具体化してしまえば結局お尋ねのような問題なしに済むのではないかと思うのであります。
そこで
一つ第一項から私の
意見の結論だけを申上げますと、先ず第一に
行政協定第二条、第三条によるところの
米軍施設内において行使される
米国の
権利、
権能というものは、これは
米国主権の行使を含まないのが
原則であると信じております。但しこれにつきましては
行政協定によ
つて定められた各種の権限というものはこれはアリメカ側にあるだろう。言い換えれば
施設の設置、維持、
管理というものに関する限り権限はアメリカ側にあるだろう。又アメリカ側にあるが故に
日本政府はそれに協力する
義務があるわけでありまして、その結果として刑事特別法というものができておるのだと思うのであります。併し刑事特別法ができておることは、これは単にアメリカ側にのみあるのでなく、
日本側にも
管理権を持
つておるのだ。言い換えれば
日本側はそれに協力しておるのだ、それに協力して
日本みずからの立場においてそれに援助しておるのだということを意味しておると思います。
従つてここに
適用せられるのは
原則としては
日本法であると信じております。アメリカ法はアメリカ人に関して
適用されるのでありまして、この点につきましてはこの
行政協定の第十七条におきましてもその点は明示されておるわけであろうと思います。
従つてこの第一の第二番目の問題であるところの
日本の
主権は
米軍施設内にも及ぶと
解釈するのが正しいと思うのであります。殊にこの
労働法の問題につきましては、これははつきり及ぶと見なければこの
行政協定の第十二条というようなものの意味は理解できなくな
つて来るだろうと思うのであります。
それから第二点でございますが、
米軍施設内の
工場、機械を
日本会社に貸付け、これと
契約を結んでおる場合におきましては、
日本の
会社が
日本の
労働者を
使用する限りにおきましては
日本の
法律によらなければならないということにな
つておると思います。というのは
雇用契約自身は飽くまでも
日本の
会社と
日本の
労務者との間に締結されるべきものでありますから、
従つてそれに対しましては当然強行法として
労働三法というものが
適用されると見なければならないと思うのであります。
「
右契約につき紛議の生じた際、
日本裁判所は
裁判権があるか。」という問題でありますが、この
裁判権があるかという問題につきましては
二つの問題があろうと思うのであります。
一つはアメリカ軍側とそれから
日本の
工場経営者側との
関係だと思うのであります。この点につきましては
行政協定の第十八条の第三項におきまして、
契約による請求というものは、これた
裁判権が
日本の
裁判所にあることを前提としておると思うであります。又第十八条の七項によりますと、「合衆国軍隊による、又はそのための物資、需品、備品、役務及び
労務の調達に関する
契約から生ずる紛争でその
契約の当事者によ
つて解決されないものは、合同
委員会に調停のために付託することができる。但し、7の
規定は、
契約の当時者が有することのある民事の訴を提起する
権利を害するものではない。」というふうにございます。で、
従つて訴訟を起す
権利はありますが、併し訴訟によ
つては解決の見込が乏しいという場合、若しくは訴訟によ
つて解決することが困難の場合におきましては、合同
委員会においてそれを処理するということになるべきであると信じておるのであります。併し
行政協定第十八条第七項におきましても暗示されているように、訴権そのものを否認しているわけではないということは当然であると思うのであります。
第二の問題になることは、
事業主と個々の
労務者との
関係でございますが、これは飽くまでも
日本法の問題でありまして、
従つてこれにつきましては
裁判権及び強制執行権があることは当然であると思うのであります。なお、先ほど申残しましたが、
米軍当局者とそれから
事業主との
契約につきましても強制執行権は理論的にはあり得ると思うのであります。併し具体的に
日本の執行吏が現地に行きまして執行をするということが不可能である、或いは
日本の警察がそれについて行きましても、実力の相違から申しまして執行ができないという事実に当面するだろうと思うのであります。
従つてその執行の問題につきましては、主として第七項によ
つて解決さるべきであるというふうに
解釈していいのではないかと思うのであります。
第二問の
人事条項に関する問題でありますが、この
人事条項に関する事項というのは、これは債権的には成るほど
米軍当局者とそれから
事業主との間に何らかの
効果があるかも知れないと思うのであります。
従つてその
人事条項を遵守しないと
米軍側では注文を出さないというふうな問題も起るかも知れないと思うのであります。それは丁度
日本で、先ほど沼田さんがおつしやつたように銀行からお金を借りる場合、これこれのことをしなければ金を貸せない、若しくは弁済期限を早くするというのと同じことになるのではないかと思うのであります。併しこれは飽くまでも債権的
効力でありまして、物権的
効力でない。
従つて労働法の問題は飽くまでも
労働法の問題として処理されなければならないと見るのが正しいと思うのであります。言い換えれば
労働者は
日本の
法律によ
つて保護されるところの各種の労働権というものは、
人事条項があるからとい
つて失うものではないということになろうかと思うのであります。
従つて国はそういう
人事条項があることを
理由にいたしまして、
会社の免責を認めることができないということであると思うのであります。若しこれを
理由にいたしまして
会社の免責を認めるということになりますと、
会社は銀行から借金をしたということ、又取引をしたということ、その他を
理由にいたしましてどんどん
人事条項を任意に挿入することができるのであります。外部との
関係から、第三者と取引をする都合上君を
解雇するのだというような、そういうことによりまして
人事条項をどんどん入れることがありますから、このようなことはやはり認めらるべきではない、やはり
労働基準法その他の
規定はこの場合においてもこれで
適用さるべきではないかと思うのであります。
第二点の第二間のBの問題におきましても同じことであります。
如何に
行政協定第三条が基地、つまり
施設及び区域の
管理権を持
つているからといいましても、それは
労働法の問題に対しては
関係しないという立場をとるべきであります。
会社は
行政協定第三条を
理由に
自分の責任を免がれることができないと見なければならないと思うのであります。
次に第三点の問題でありますが、第三点は結局
行政協定第十二条第五項の問題でございますけれ
ども、これはやはり
行政協定第三条をそのまま反映しておるのだと思うのであります。この
規定と
行政協定第三条との間には矛盾がないと見なければならないと思うのであります。というのは
行政協定第三条は、現在
施設をアメリカ側の租借地にしておるものはありませんので、
従つてアメリカ側としては
日本の法規を尊重するということは当然である、又
日本の法規によるというのが当然であると見なければならないと思うのであります。
行政協定第十二条第五項の英文「ジーズ・リレイテイング・ウェイジス……シャール・ビー・ゾーズ・レイド・ダウン・バイ・ザ・レジスレーシヨンズ・オブ・ジヤパン」という文句がございますが、これは要するに
日本法によるということを意味しておると思うのであります。現に
日本文の翻訳におきましても「
日本国の
法令で定めるところによらなければならない」ということを意味しておるのでありまして、これは新規に
法律を作るという意味ではなく、いわば現にある、或いは将来あるべき
日本の立法によるべきであるということを意味しておるのだと
解釈するのが当然ではないかと思うのであります。
従つて日本の現行法の下におきましては、いわゆる
人事条項のようなものはこれは認められるようにな
つておるのが多いと思いますので、むしろ
軍令馘首といもうのは、殊に
理由のそぐわない馘首というものは、十二条五項に違反する行為である、だから違反である以上は、それは飽くまでも合同
委員会において処理しなければならない、合同
委員会においてそれを処理せしめなければならないということになるのだと思うのであります。つまりこれに対する
矯正措置は飽くまでも合同
委員会の
義務である、こういうことになると思うのであります。勿論
労働者側としましては、労働
協約を締結する際、その他
協約の中に
矯正措置をとることにできるだけ努力することは当然であろうと思うのであります。
その次の第四点でありますが、これは先ほど
野村教授から詳細な御
説明がありましたし、私もそれに同意いたしますので、この点につきまして引続いて申上げることも一応省略さして頂こてかと思います。
それから第五点でありますけれ
ども、第五点の事項は、これは非常に
使用者としても困る虞れが出て来ると思うのであります。というのは
使用者自身が
スパイ行為等の
情報提供義務を負わされましても、それを探索するところの警察的
施設はございません。又警察的権限もございません。而もなお且つ探索しようということになりますと、
個人的
秘密若しくは
個人的名誉ということをひどく侵害しなければならないという結論になるだろうと思うのであります。こうなりますと
使用者自身が
労務者から名誉毀損その他の告訴をされる。そうして処罰されなければならないという形になる虞れが十分あると思うのであります。
従つて使用者自身の立場から申しましても、みずからなし得ないような警察的
情報提供義務というものを求められることは、これは飽くまでも排除しなければならないと思うのであります。又排除しないでスパイ行為の
情報提供義務を承諾いたしますと、この不履行を
理由といたしまして何時解除されるかわからないということになるわけであります。何時いかなる
契約を解除されるかもわからないということは、
会社の地位が恐ろしく不安定にな
つてしまう、
契約上の地位が不安定にな
つてしまうということが当然の結論だと思うのであります。更に
労務者に対しましては名誉毀損等によるところの告訴権、
損害賠償権の取得ということになると思うのでありますから、このような条項というものはどんなふうにしても承諾することを拒否して頂かなければ、恐らく
使用者の方が非常にお困りになると思うのであります。勿論
労働者の立場から申しますというと、これは
自分の身柄の監視を始終されることになるのでありますから、
従つて自分の自由権の放棄ということにな
つて参ります。憲法上の自由の
権利の放棄ということにな
つてしまいますので、これもやはり
労務者としては恐らく受入れがたい条項になると思うのであります。併しながらこういう条項というものが現に
要望されておるとするならば、これは飽くまでも合同
委員会においてこの条項というものは撤去してもらうように努力すべきだと感ずるのであります。若し撤去してもらうことができないといたしますると、
日本の
契約者の地位が恐ろしく不安定にな
つてしまう。君のほうはスパイ
活動の
調査が不完全だつたから
契約を解除するというような、そういう簡単な
理由によりまして、而も立証されない
理由によりまして、仕掛品を全部無駄にしてしまわなければならないという結論にならないとも限らないと思うのでありまして、この点は
使用者の利益を保護するという意味から申しましても飽くまでも合同
委員会においてこのような条項を入れないようにして頂きたいと、こう思うのであります。