○八木幸吉君 私は改進党を代表いたしまして、
吉田内閣総理大臣の一般
施政方針
演説について
政府の所信を質さんとするものであります。
先ず第一に官紀粛正の観点から、
国務大臣の民間営利会社の役員兼任の問題について
お尋ねをいたしたいのであります。第五次
吉田内閣が成立ののち、その閣僚の顔触れを拝見いたしますと、
小笠原大蔵大臣を初め、民間営利会社の会長、社長を兼ねておられるかたが六名ございます。(
拍手)官吏の営利会社に
関係することは、在来の官吏服務規律、現在の
国家公務員法の禁ずるところでありまして、違反者は一年以下の懲役であります。(
拍手)尤も現閣僚の各位は特別職であり、ぞれぞれ成規の手続によ
つて内閣
総理大臣の特別の承認を得ておられるでありましようけれども、併しこれは些々たる法律規定の問題ではなくて、精神上の問題、
政治道徳上の問題、名誉の問題であると思うのであります。上に立つ
国務大臣の民間営利会社の役員たることの不可なるは一点疑いを容れないところであると思うのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)現に
アメリカにおきまして、ウィルソン氏が国防長官に就任するため上院の同意を求めましたとき、こうごうたる非難の声が起り、遂に同氏はその所有株を全部売放しましたことは、
諸君御承知の
通りであります。現在海運造始等に対する補助
政策の叫ばれておる折柄、
経済閣僚が海運会社の社長重役であるがごとさは最も慎しまなければならんと思うのであります。私は官紀粛正の観点より、御本人の適否を申すのではない、制度として
国務大臣の民間会社役員兼務を非とするものでありまして、これに対する
総理大臣の御
意見を承わりたいのであります。更に又
関係者
大臣が私の
意見に若し反対であれば、この席でその趣旨を御弁明を求めたいと思うものであります。(
拍手)
第二に私がお伺いいたしたいのは、行政改革の問題であります。
吉田総理は一昨日の御
演説において、行政の簡素
合理化に努め、真に国力、国情に適合した行政制度を確立すると仰せられました。私は、
吉田総理か行政整理について平素極めて熱心である、そのことに関しては敬意を表するものでありますが、今回は如何なる
構想の下にその実際的効果を挙げんとしておられるのであるか、先ずそれをお伺いいたしたいのであります。申すまでもなく、我が
国民の租税負担は年年重くなる一方であります。大蔵省の発表によれば、満州事変直前の
昭和六年の
国民一人当りの租税負担額は二十三円、
昭和二十七
年度は実に一万二千九百四十四円でありまして、五百五十倍に増加いたしておるのであります。如何に物価の騰貴率が高いとは申せ、著しく権衡を失しておると申さなければなりません。
昭和六年我が国中央行政官庁の官吏の数は三十六万、議会、裁判所、会計検査院、その他国費を以て支介する各県知事や国鉄、専売局を合せまして六十八万でありました。然るに本年の三月にはこれが百五十二万九千六百人に増加いたしております。更に又地方公務員におきましてはこの増加の趨勢が一層甚だしいのであります。
昭和八
年度における都道府県市町村の一般職の吏員並びに警察、消防、学校等の職員の数は七十四万であ
つたが、
昭和二十七
年度には百三十五万でありまして、中央地方を通じてこの二十年間に官吏の致は百四十二万から二百八十八万に増加いたしておるのであります。なおこのほかに地方には、公選による
議員、各種委員、顧問等が百敷万あるのであります。又中央各府省にはこのほかになお五十二万人に上るいわゆる非常勤職員があるのであります。これらの
国家と地方の
公務員諸君が厖大にして複雑極まる機構によ
つて行政の
運営に当
つておられるのであります。更に、機構の面から申しまするならば、
昭和七年四百十二であ
つた局部課が一千百五十に増加し、中央より地方への出先機関は実に三万七千十一に上
つております。附属機関の数は一千百八十七であります。如何に戦時中
経済統制の事務が繁雑化し、又占領中連合軍司令部から命令指示があ
つたと申しましても、この複雑にして厖大なる機構は何としても一大改革をいたしまして、
国民負担の軽減を期するの時期に到達したと申さなければならんと思うのであります。(
拍手)
私はこの
目的を
達成するために二つの方法があると思う。その
一つは、先ず国会においてこの問題を討議する機関を持つことであります。我が改進党はこの特別国会の劈頭、本院に行政改革に関する特別委員会の設置を提案いたしました。
吉田総理大臣はこの特別委員会の設置に関して如何なるお
考えであるか承わりたいと存ずるのであります。第二の方法は、国会の勧告に
従つて米国のフーバー委員会のごとき強力にして
計画性に富む権威ある委員会を設置することであります。御承知の
通り、フーバー委員会は、フーバーを
委員長としアチソンを副
委員長として、三百名の専門家を動員して、一年数カ月に亘り、百九十万ドルの
経費を以て、年間三十億ドルの行政費節約案を立てたのであります。敗戦国たる我が国におきましても、歴代の内閣はいろいろの
構想を持
つた行政調査会を作
つておられます。一昨年の政令諮問委員会のごときも、担当者にその人を得たがために
相当綿密なる案を得ましたなれども、国会との連絡が緊密でなか
つたがために遂に予期の成果を挙げ得なか
つたのであります。
従つて私は、国会の勧告によ
つて超党派的に有力なる
一つの委員会芸組織し、
委員長には民間実業家を以て十分なる費用と人を動員して、合理的にして簡素且つ能率的な成案を得たいと思うのでありますが、この
構想に対する
吉田総理のお
考えを承わりたいと思うのであります。
第三に行政改革に
関係なく直ちに実行し得る国費節約の方法として私の申上げたいのは、欠員補充の停止、新規採用の見合せ並びに非常勤職員の問題であります。本年三月一日現在の行政機関の一般職の欠員は約一万名であります。
政府はこの五割まで補充を認めておられるとのことでありまするが、今後これを一切認めないことといたしたいのであります。又毎年の新規採用は恐らく各省を通じて五万人と推定されまするが、これも一時中止をいたしたいりであります。更に非常勤職員五十二万名の約一割くらいの節約は大して困難ではないと存じます。退職者には十分なる待遇をなすを条件として
総理の一大勇断を希望するものであります。これに対する
総理のお
考えを聞きたいと思います。
第三点として私のお伺い申上げたいのは軍人恩給に関する問題であります。
御承知の
通り、連合国軍最高司令官の命令によ
つて、
昭和二十一年勅令第六十八号により、軍人軍属及びその遺族の恩給は少数の例外を除き支給されないことに
なつたのでありまするが、我が国の
独立と共に、
政府は旧軍人等に対する恩給支給に必要なる
経費を
予算に計上をされました。この金の意味は恩給権の復活として支給されるのであるか、又は戦争犠牲者に対する
国家補償の見地より、
社会保障費の一環として支給されるのであるか、その根本的理念について先ずお伺いを申したいのであります。
第二は軍人恩給と文官恩給との取扱上の差異について伺いたいのでありますが、軍人は申すまでもなく、その大多数は召集せられ
国家の権力によ
つて戦争に従事いたした者であります。
従つて文官よりはむしろ手厚く待遇すべきものであ
つて、軍閥が横暴なるが故に一般軍人を冷遇するの理由は認められないのであります。然るに
昭和二十八
年度予算を検討いたしてみますると、基礎恩給年額、在職年限算出の方法、一時恩給の所要最低在職年数等の取扱につきましては、文官と軍人の間に差等があるのであります。これは一体如何なる理由に基くのであるか、将来
政府は文官軍人ともに同一の待遇を与うるの方針を以てお進みになるお
考えであるかどうか、これを承わりたいのであります。
第四点として私の伺いたいのは大学教授の待遇改善の問題であります。
新聞紙の報ずると二ろによれば、
日本学術会議が大学教授の
生活状態を調宜したところ、その年収平均の最高は一十四万五千円、最低は十九万二千六日円であ
つて、実に
生活苦にあえいでおるとのことであります。
科学技術の基本的学問が我が国再建に必要なるは申すまでもございません。道義、思想り指導的
立場にあるこれらの人々をして長く
生活苦に置くことは、学生に及はす影響の上から
考えてみましても、伏して等閑に付すべからざる問題であると思うのであります。せめて、給料り形で支給することが非常に困難であれば、補給する方法はたとえ研究費の各目においてもあるであろうと思うのでありますが、
文部大臣の御所見を承わりたいのであります。
第五点として私の伺いたいのは住宅以策に関する問題であります。
政府は本
年度の
予算において、百二十五億円の公営住宅の建設費、百八十億円の住宅
金融公庫への融資並びに勤労者厚生住宅費として二十五億円を、文官庁営繕費として三十億円を計上されおるのであります。私は
国家の今日の
財政状態におきまして、これ以上の官庁り新築増築はこれを見合せたいと存ずるのであります。公共の建物が如何に美麗でありましても、
国民生活が不安定であれば、決して健全なる
国家とは申されません。今や住宅の不足が如何に都会の
生活を陰惨なるものたらしめ、又社会悪の根源とな
つておるかは各位の御承知の
通りであります。私は住宅建築費の増額を
要求すると共に、一面、民間事業会社工場等において、事務所が立派にして、而も従業員の住宅は完備せられないものがたくさんございます。事業会社の一般勤労者住宅の建築
資金の一部を
国家が補助をして、これを奨励するがごときも、又一方法であろうと
考えまするが故に、所管
大臣に御所見を承わりたいと思うのであります。
最後に、私は自衛軍創設の問題に関してお伺いいたします。
従来
吉田内閣は、表面、
軍備に対しては、自衛軍といえども憲法によ
つて禁ぜられているとの見解を発表いたしました。
相当の装備と訓練を有する保安隊、海上警備隊すらも、警察力の範囲を出でずと強弁して、いわゆる
自衛力漸増の表現を以てその実体を糊塗して参
つたのであります。最近に至
つて擢大なる警備年次
計画なるものを発表し、遂に
軍備の
計画を暗々裡に進めていることをみずから暴露いたしたのであります。実に
吉田内閣のやり方というものは、先ず内密のうちに既成の事実を作り上げて、然る後に
国民をして止むを得ずこれを事後承認せしめるという、誠に独善にして且つ卑怯なるやり方であります。(
拍手、「その
通り」と呼ぶ者あり)何故に
政府は、自衛戦力の保持は現憲法下差支えなしとの
立場に立
つて、この問題を飽くまで正々堂々と公明に処理をいたさないのであるか。現在の我が国の憲法は、戦争放棄の条章により、恒久平和の崇高なる理想を掲げたのではありまするが、併しながら国際
情勢の現実は、無防備の状態を以てしては、到底我が民族の完全なる
独立を全うすることの不可能なるを思わしめるに至
つたのであります。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)この段階において、一日も速やかに国力相応の自衛軍を創設し、駐留米軍の漸進的撤退を求むることが、我が
国民の自尊心の上からしても、又一面、各地に頻発する軍事基地に関する紛擾の根本的解決策といたしましても、最も緊要のことであると信ずるのであります。我が党は、現下の緊迫せる現状に鑑み、自衛戦力と憲法の
関係、
長期防衛
計画、軍事基地、
MSA援助、防衛
産業と
国民経済との調整等の致項の重大問題を、最も民主的にして且つ超党派的に審議するため、国会内に防衛に関する常任委員会の設置を提唱いたしておるのであります。(「だから改進党は選挙に負けたのじやないか、又負けるよ」と呼ぶ者あり)これに対する
吉田総理の率直なる御
意見を承わりたいのであります。而して我が党の
主張する防衛常任委員会は、一部に伝えられるがごときセクシヨナリズムの保安庁に対する保安委員会とは、その性質を根本的に異にするものであることを附加えておきます。
国家のため、切に御賛成を希望するものであります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕