○森崎隆君 私は
日本社会党第四控室を
代表いたしまして、去る三月フィリピンに拿捕されました第三海洋丸事件につきまして、
政府当局、特に
外務大臣にお尋ねを申上げたいと思います。こういう問題は、本来ならば
政府御当局に全面的に信頼を申上げまして、こういう場所を借りましてわざわざ御
質問を申上げる必要もないのでございまするが、遺憾ながら現段階における私たちといたしましては、過去の実績に徴しまして、現
政府、特に岡崎外交に対する我々の信頼感は、どうしても正式の場においてこういう問題を取上げて、
はつきりとした御
答弁を頂いていかなければならない程度のものでありますることを、遺憾ながら申上げておきたいと思います。(
拍手)
先ず、一応私が聞き知
つておりまする範囲におきまして事件の概要を申上げたいと思います。第三海洋丸という船は約百五十トンの「かつを」漁船でございまして、鹿児島の北元水産工業株式会社に所属いたしております。去る三月の四日、本船は五十七名の乗組員を乗せまして鹿児島港を出帆、一路南下をいたしまして、同月十日午後二時、北緯二十度二十五分、東経百二十一度三十五分、即ちフイリピンの、バタン島の二百六十度、二十浬の
海上にて操漁航行中でございました。その折、フイリピンの警備艇C二十七号が接近して参りまして、威嚇発砲を受けました。領海侵犯の理由を以ちまして、バタン島のバスコに連行されて取調べを受け、更に、マニラとの連絡不可能の故を以て、三月十五日ルソン島の北端にあるサンビセンテに回航を命ぜられました。そのとき岸壁碇船を命ぜられましたが、御
承知の
通りに、「かつを」を釣るための餌が水が濁ると死にますので、その理由を申上げまして、漸く沖合を回航して参りたいという申入れに対しまして、衛兵が
許可いたしましたので、回航いたしておりましたところ、フイリピンの大発から発砲を受けまして船体に損傷を受けましたが、幸いに人命に
損害がなく、直ちに回航を中止いたしまして、その岸壁に着きますと、甲板に乗組員殆んど全員を一列に並べまして、ここでおのおの銃の床尾板を以て殴打をされました。更に若干の者は拳を以て周囲より打撲を受けまして、更に天測時計、釣具等を持
つて行かれたのであります。引続きまして同船の無線機及びエンジンの
部分品を陸上の倉庫に上げろという命令を受けまして、その
通りいたしました。これによ
つて日本内地との通信が杜絶えました。翌十六日には、打撲のために腰、肋骨等に重傷害を受けました者、即ち働けない者だけを残しまして全員上陸を命ぜられまして、フイリピンの軍隊のドラム罐の運搬役に使われました。二十一日に至りまして、やつとマニラから通訳の方々が到着されまして、それより約二十五日間取調を受けまして、四月二十一日釈放、同月二十六日に鹿児島県の枕崎に帰港したのであります。この事件につきまして、以下二、三
質問を申上げまするが、これに対して
お答えを願いたいと思います。
第一は、拿捕の理由でございまするが、フイリピンのほうでは領海侵犯としております。その根拠といたしましては、一八九八年十二月十日パリにて調印されました米西条約、即ちスペインという国が、フイリピン諸島として知られている群島を、その上に住んでおる
住民もろとも
アメリカ合衆国へ二千万ドルの価格で以て売却をいたしました。いわゆる米西平和条約、その第三条に、同諸島の包含されておる範囲を明示するために引きました緯度並びに経度を以てフイリピン国の領海と公海との境界線であると主張いたしておることに対しまして、国際法によ
つてフイリピン沿岸より三浬以外にいる場合はこれを公海水域であるとみなして操漁しておりました第三海洋丸とは、異
なつた意見の対立を見ておるわけであります。これにつきましては、取調中にも、この領海に関する問答では、フィリピンの係官は実にあいまいな言辞を弄せられておるように
報告を承わ
つておりします。又このサンビセンテにおりました他の警備船の方々の
お話でも、我々ならば傘捕はしないというような言明もせられておるよ、りに聞いております。これは私たちの
考えとしましては、明らかに不法幸浦であり、不法行為並びに暴行事犯であると私は信じます。
船舶の拿捕事件はほかにも少くはないのでございまするが、問題は、平和条約調印を終えまして、在外事務所もすでに
設置をされておりまして、事実上国交が回復されたものとしているそういう国との間に、かかる事件が惹起されたところに問題があるのでありまして、特に沿岸並びに近海の資源が枯渇いたしまして、どうしても将来海洋漁業に唯一の希望を置かざるを得ない
日本漁業の現在から
考えまして、公海水域のこの問題は実に重大な利害を我々に与えるものでございます。
更に取調べの空気より
考えまして、フィリピンでは、未だ平和条約に、例えば批准を与えていないといつたようなことから、
日本とは戦争状態にあるということを、まあそういう空気があるようでございます。又賠償問題も未解決だ、だから、こういろ方面に悪い
影響を与えないようにといつたような空気も何かあつたように聞いておりますが、そういうようなことは別にいたしましても、
日本漁業の発展のために、今まで
政府がとられました、いわゆる民間で申しております、私は言いたくございませんが、民間で申しておりますいわゆるその都度外交では、そういう外交でよい加減にこの問題を収められては堪らないのであります。外務御当局の御見解と、今後折衝されることではございましようが、その折衝上の基本的な
態度を、
はつきりと、この際お聞かせを頂きたいのであります。
第二は、抑留
期間が約三十人日間でございましたが、この間、偶然に比島におります
日本の商人が聞きつけて、見舞にわざわざ来られまして、写真撮影等をいたしまして、これを船主に送
つて来られ、非常に親切なかたもおりましたが、ところがこの長
期間中に、マニラの在外事務所より唯一人一回も訪問がありません。又何の連絡もこれには与えられていないのであります。フィリピンのほうからはマニラよりすでに四名の調査団がサンビセンテに出張して取調べをいたしております。その調査官が、実ば面白いことに、四月二十一日サンビセンテにおきまして調べが済んであと、この船の乗組員全体に対して、抑留中に与えた食糧費、その伝票に署名をさせながら、こう言
つておる。これまで
日本側は何の連絡もないので、我々は非常に困
つておる、仕方がないから君たちに食わせた食糧費については飛行機で東京へその代金を取りに行くのだ、こういうことを係官が言
つておる。
一体、在外事務所は何のために
設置されておるのか。こういうことでは私たちは非常に大きな疑問が出て来るわけであります。こういう事件に対しまして出先機関の持
つておられる権限の範囲又責任の限界等につきまして、私は
外務大臣よりも
はつきりと明確に
お話を承わりたいと思います。又マニラ事務所と本省との間におきまして、この事件に関するこれまでの連絡状況、打合せ等につきまして、詳細に御
報告を頂きたい。こういう問題につきましては、水産庁の長官からもでき得るならば総括的な
お話を伺いたいと思います。
お尋ねいたしたい第三は、損雲賠償の請求についてでございます。第一は、乗組員五十七名中に、銃床又は鉄拳を以て殴打されました者、そのために相当の負傷をした者が三十名おります。重傷者は六名、現在まだ病院で加療中が二名ございます。これは明らかに暴行事件でございます。盗難品は大したものではございませんが、さつき申しました天測時計とか釣具等若干のものに過ぎません。第三には、鹿児島市大黒町七十二番地北元水産工業株式会社取締役社長北元巌の名義を以ちまして、この拿捕事件について受けた
損害、即ち出漁資金といたしまして、燃料その他餌代あらゆるものを入れまして百二十九万八千百二十三円、第二は不稼働による
損害八百五十万円、拿捕抑留中による諸経費が通信その他につきまして五十万七千四百九十五円、船体損傷費二十万円、船員及び船主尉謝料が百六十四万円、合計いたしまして千二百十四万五千六百十八円という
損害賠償の請求がなされております。これにつきましては
政府当局は勿論十分の責任を以て善処されることでございましようが、この問題につきまして、比国と交渉上につきましてどういう御決意を以て現在なされておるか、又今後もこの問題の解決に努力されまするか、この点もお聞かせ頂きたいと思います。
最後に、時間がかか
つて恐れ入りますが、
日本国と国交の回復した諸国及び実際上国交回復したものと
考えられている外国との間に、友好親善のうちにお互いの福祉の向上、文化の交流進めて行きますことは、平和憲法を信じ抜く我々としては当然の責務であると信じております。かかる不幸な事件が引き起されたことは誠に遺憾とするところでありまするが、国の責任者といたしましては、曾ての軍国時代のごとく武力による威嚇外交や銃剣に守られた侵略的行動というようなものではなくて、平和のうちに、良識と
理解と正義に立脚して解決を図らなければならないものと思います。而してこの平和的な解決に当りましては、飽くまでも、不法は不法とし、正当は正当として主張してもらいたいのであります。これこそ道義
日本を確立するものでありまするし、諸国の信頼をもかち得るゆえんでもあると私たちは
考えております。若し事の真実に立脚せずして、徒らに両国将来の親善の美名にのみ隠れまして、又未解決の賠償問題の掛引の具に供せられまして、
本件が闇のうちに取扱われるようなことになりましては、実に我々といたしましては遺憾千万だと存ずる次第でございます。これは
日本漁業将来の発展のためにも非常に憂慮すべき問題であると私は
考えます。本事件の機会を借りまして、
政府が再び曾ての水兵事件のような失態を犯さないためにも、あらかじめ我々の善意をここに披瀝いたしまして、
政府の責任ある御所見をお伺い申上げる次第でございます。
御親切な
答弁を期待いたしまして降壇いたします。(
拍手)
〔
国務大臣岡崎勝男君
登壇、
拍手〕