○
政府委員(
岡原昌男君)
只今委員長からお尋ねの点でございますが、まだ正式に
修正案として
衆議院の
法務委会に出ておりませんので、一応現在まで
考えられております線を
中心にいたしましてお語いたしたいと思います。大体併し、話は事実上は固ま
つておりますので、この線で出るものと私
どもは予想いたしております。
修正案のほうは技術的に細かくなりますので、その要綱を
中心にいたしましてお話いたしますと、第一はいわゆる
勾留理由開示の
手続の際に、改府の
原案は
書面でやると、
書面で
意見の
陳述をするということが
原則にな
つておるのでございますが、これをひつくり返しまして、
修正案では
現行法のままと一応
手続はしておいて
但書を付ける。その
但書は、「
裁判長は相当と認めるときは、
意見の
陳述は
書面をも
つてなすべきことを命ずることができる。」というふうな
趣旨でございます。その
運用の実際になりますと、例えば非常に
法廷を混乱させるような場合の、
裁判長といたしましてとる態度は、まあその点はそれじやいずれ
書面で出しなさいということを言
つて切り上げることができるということで、
現行法の
建前よりは大分有利にな
つております。
政府原案はそれを逆に
書面でやることを
原則といたしたのでございます。そういたしますと、かなり実際問題として行き過ぎがあるのじやないかという各
委員からの御疑問の提示がございました。
運用上は実際上の
勾留理由開示手続を本当に使うという人には無理はかけないつもりだという弁明はいたしましたけれ
ども、それが
心配だということでございましたので、
原則と例外とを丁度取り違えるような案に
なつたわけでございます。さようなことであとは
裁判長のその場の
法廷の
指揮と申しますか、
法廷指揮権を活用いたしまして適当に
運用ができるのではないかと私
どもは
思つております。
次は、いわゆる
権利保釈の
除外事由の点でございます。八十九条の第四号について
削除意見が出て参りました。これに伴いまして、これは
法文の上からでございますが、
勾留期間延長の六十条の
規定も当然動いて来るわけでございますが、この八十九条の四号を削るという
趣旨は、いわゆる「多衆共同して罪を犯したものであるとき」。というあの点を除こうとするものでございます。この点はたびたび御
説明いたしました
通り、
政府原案といたしましては現在の
証拠隠滅の虞れがあるという点で
権利保釈から除外することができない場合で、而も実際上は多
衆犯罪であ
つて、
証拠隠滅の蓋然性がかなり高い場合、かような場合を予想してお
つたのでございますが、これ又全般的に多衆共同してや
つたからとい
つて、
個々のものについて実際に
証拠隠滅の虞れがない場合がなしとしない。さような場合に包括的にこれに
権利保釈の
除外事由になるのはどうかという御疑問が提出されまして、その点についてはまあ九十条の
裁量保釈で行くというふうな
政府の答弁をいたしたのでございますが、一応
心配だというふうな御
意見も一部御尤もの点がございますので、これは止むを得ないと私
ども考えました。
第三点は、いわゆる
供述拒否権の百九十八条の第二項の
改正でございますが、これは
不利益な
供述を強要されることがない旨と、その
不利益なりや否やの
判断を誰がするのか。これは勿論
供述者自体が
判断するわけでございますが、実際問題としてそれがどの点が本人に本当に
不利益であるか或いは利益であるかという
判断のつかない場合があるのではないか。これは率直に申してそのような場合でなしとしないということは勿論でございますので、さような場合にはこの今度の
改正案は少し困る面が出て来る
可能性があるわけでございす。そういうことで、まあ一応現在の何でもかんでも
供述を拒むことができると、そのできるということを逆に
権利として主張する、いわゆる
供述拒否権として主張する向きも出て参りました
関係上、いわばその
濫用の面が非常に注目されるに至りましたので、今回の
修正案は「
自己の
意思に反して
供述する必要がない」というふうな
意味合いに告知の内容を変えて参
つたわけでございます。つまり「
自己の
意思に反して」というのは、まあ強要されないというのと似たような感じでございますが、「
供述する必要がない」というのは、
権利としてそういうあれが拒むことができるということではなくて、ただ必要がないとい
つたような
程度の弱めたものにいたしたわけでございまして、我々の
考えとこういう点においては一致する点があるわけでございます。そこでこれもまあこの
程度でよかろうではないかというふうな
意見でございます。
次は、百九十九条第二項の、いわゆる
逮捕状の
請求の際に、その濫発を如何なる点でチエツクするかという点の
改正でございます。
政府原案の
考え方は、
法制審議会の
考えました線で
検察官がそれに
同意を与えるということで
濫用を防止するというふうに
考えたのでございますが、根本的に
逮捕状の
発付の際に
裁判官がその
妥当性を
判断することができるというふうな取扱いの転換を
図つて、そうして
裁判所で或る
程度責任を以てその点の審査をする、明白に
発付する必要がないというようなものは、これを
裁判所がチエツクするというような
考え方がとられて参
つたわけでございます。そこでこの点につきましては、一方において
逮捕状の
請求する
権限者を制限しようということが
考えられまして、その二つの面からチエツクをしようということに
修正案が
なつたわけでございます。この点
ちよつと
条文を読んで見ますと、「百九十九条第二項を次のように改める。」「
裁判官は
被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な
理由があると認めるときは、
検察官又は
司法警察員(
警察吏員たる
司法警察員については、
国家公安委員会、
都道府県公安委員会、
市町村公安委員会又は特別区
公安委員会が指定する
警部以上のものに限る。以下本条において同じ)」この
警部以上のものに限るということにいたしたわけでございます。「の
請求により前項の
逮捕状を発する。但し、」……先ほど申しましたように「但し明らかに
逮捕の必要がないと認めるときはこの限りでない。」という
但書を付けた次第でございます。この点につきまして、
考え方として
検事の
同意を得てから
請求するということになりますと、
濫用防止の面では非常に強く働き得ることは事実でございます。
政府原案もその点を
弁護士会の御要望にも副い、
検事の手許でそれを事実上チエツクする。殊に
捜査の点について詳しい
検事に
判断をさせるというふうなことで、
検事も
責任を負うという
建前に
考えられて来たのでございますが、今度の
修正案はそれを
判事の
責任に移しまして、
検事は
判事からの
意見を求める
書面が廻
つて来ましたときに、これに
意見を付して
裁判所のその
判断の資料とするということに
建前を変えたわけでございます。この点につきましてはその
裁判所から
検察官に対する
意見を求めるということが
条文には出ておりませんけれ
ども、これは
裁判所の
規則に当然入
つて来る
事項でございます。ですから
裁判所がこの
逮捕状の
請求の書類を
警察から受取りまして、どうもこれはおかしいぞ、
ちよつと
検事の
意見を聞いてみようという場合には、
裁判所から
検事のほうへ、どうもこういうのが廻
つて来たけれ
どもよくわからんから、
一つよく見てや
つてくれという
意見を求めて来る。そこで
検事がそれを十分
判断いたしまして、これはこの
段階では早いだろうとか、或いはこの
程度ならよかろうという
意見を付けて
裁判所に返す。そこで
裁判所が
意思決定をしてどちらかの
判断をする。まあかような
建前にしたわけでございます。この点につきましては
建前をがらつと今度変えますので、その変えることに伴う若干の、暫くの間の
運用の、何と申しますか、慣れない面から来るいろいろな不便なことは予想されますが、これも
一つの
考え方であろうかと存じます。ただ私
ども心配しておりますのは、
手続の面で
裁判所がその
判断を相当突き進んで内面的にやり得るかどうか。事実上その々の
裁判官の能力の問題じやなくて、
裁判所の機構全体としてそういうことまでできるかということについては若干疑問を持
つております。併しこれは一応や
つて見ると、やらして見るということで出発いたしまして、まあ今後の成果に待とうということでございます。
それから次は、起訴前の
勾留期間の
延長の二百八条の二の
関係でございます。この点つきましては御
承知の
通り多人数の
事件或いは
証拠物が多数であ
つて、なかなか調べが付かない。例えば
騒擾事件であるとか或いは
暴力為の大きな
事件であるとか、或いは御
説明申上げました
通り、
詐欺の大掛りの
事件である、或いは小切手、
通貨等の
偽造の
事件であるとか、こういうものはなかなか二十日の期限で全部をまとめることができない場合がございます。それらの点を
考えつつ
原案を作
つたわけでございますが、
長期三年以上の
法定刑の
事件ということで
原案が書いてあります
関係上、多数のものが一緒にや
つた選挙違反まで入るのではないかという疑問が
最後に起されまして、それは
法文上は引張
つて来るが、実際上はそういうことはしないつもりだとまあ大臣がたびたび答弁したのでございますが、どうも
心配だというので、この三年を七年くらいに上げたらどうかという
意見もございました。ただ七年となりますと、これは本当の重い
犯罪、
長期七年といいますと、かなり重い
犯罪でございますし、まあ我々としては五年くらいかなとも思
つたんでございますが、これは
最後に実際の動きで一番必要なのはやはり
メーデー事件のような
騒擾事件のようなものではないか。これは事実これが一番問題の点なのでございまして、それでは
騒擾、内乱、外患、国交とい
つたような、ああいう特殊なものだけに限
つたらどうかという
修正案が出て参
つたわけでございます。実は私
ども法文の
立法形式といたしましては或る種の罪だけを
限つてそれに特別に
措置を講ずるのは、
刑事訴訟法の全体としてそういう
建前をと
つておりませんので、若干体裁という
意味から言いますとまずいかというような気もいたしますけれ
ども、併し実際にほかの不要な面も入れまして
濫用を危惧されるよりは、まあ
一つのそれも行き方ではないだろうかというふうなことでさようなことに
考えたわけでございます。まあ我々としては
暴力行為とか或いは
通貨偽造とか、大掛りな
詐欺というふうなことまで実は入れたか
つたのでございますが、まあ大掛りな
詐欺ともなかなか書けませんので、取りあえずはこの
修正案のような
考え方でまあや
つて見ようかと、で、若し著しく不便ができましたら、その際又国会の御
審議を仰こうかというふうな気もしておるわけでございます。
次は、二百十九条の二のいわゆる
押収捜索の際の、甲の
場所に臨んでそのものがないので、乙の
場所にあることがはつきりしたときには、一時看守することができるという
規定でございます。この点につきましては、特に社会党のほうからさような
規定が
運用の面において非常に
濫用の危険があるので、
警察官の第一線のものが現場に臨んで、ともすると不当に他人の
居住権、
住居権を侵害することがあり得るのではないかということを危惧されました。で、現在でも或る
程度こういうことをや
つているのじやないかということのお話もございました。私
どもは現在或る
程度や
つていることも実は知
つておりまして、それが何らの
権限なくしてや
つておる点に若干不安を持つ。これを合法の線に乗つけてやりたいという
趣旨でございまして、別にそう深い
意味はなか
つたのでございますが、
濫用の面を強調されるという御
心配も御尤もと思いますので、今後の
運用についてはこの
規定が削除されたからとい
つて修正通り濫用を是認するという
趣旨ではございませんけれ
ども、まあ取りあえずそう
条文上は変化させずともどうやらや
つて行こう。こういう
考えでございます。
次に、
簡易公判手続の……、二百九十一条の二の
簡易公判手続に移る際に「
検察官及び
被告人又は
弁護人の
意見を聴き」という点を「
検察官、
被告人及び
弁護人」に改める。これは字句の
修正でございまして、これはこのほうがいいと私
ども考えますので、結構でございます。
それから三百六十条の二の
上訴権の
放棄についての、
書面によ
つて上訴権の
放棄をす際に、
死刑の
判決の場合はこの限りでないというふうにいたしましたのは、
死刑又は
無期の懲役又は禁錮に処する
判決というふうに改めまして、
無期の場合においても大事をとらせるというふうに直す点は、これ又私
どもとしては
異存がないわけでございます。
最後に、百九十三条の例の御
心配頂きました
警察との
関係のいわゆる
一般的指示の点につきましては、
改正条文はそのままといたしまして、ただ
運用の面といたして、何か
附帯決議なり声明なりを付けようかという話がございます。それは、その
一つの点は一般的示を行う場合に、
警察と
検察とがあらかじめ十分に緊密に連絡するように、相互に協力するような
建前で行きなさいという
趣旨の点が第一点、それからもう
一つの点はこの
一般的指示に名を藉りて、
個々の
事件を
指揮するようなことがないように留意せられたいこと、つまり具体的な
事件を目の前にして、
一般的指示を出してこれはこうしろということのないように、これはもう当然の話でございますが、そういう二点の
附帯決議か何かを付けたいというふうな話があるようでございます。
大体現在までの
段階では以上のような状況にな
つておるわけでございます。