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1953-07-23 第16回国会 参議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年七月二十三日(木曜日)    午前十時四十五分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     郡  祐一君    理事            加藤 武徳君            宮城タマヨ君    委員            小野 義夫君            楠見 義男君            中山 福藏君            三橋八次郎君            小林 亦治君            一松 定吉君   国務大臣    法 務 大 臣 犬養  健君   政府委員    法制局第二部長 野木 新一君    法務政務次官  三浦寅之助君    法務省刑事局長 岡原 昌男君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君    常任委員会専門    員       堀  真道君    参考人    東京大学教授  団藤 重光君    弁  護  士 島田 武夫君    弁  護  士 清瀬 一郎君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○小委員の選任の件 ○刑事訴訟法の一部を改正する法律案  (内閣送付)   —————————————
  2. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 只今より委員会を開会いたします。  先ず売春対策に関する小委員につきまして三橋八次郎君を小委員に追加選定いたしたいと思います。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 郡祐一

    委員長郡祐一君) そのように決定いたします。   —————————————
  4. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 刑事訴訟法の一部の改正案につき、只今より質疑を続行いたします。
  5. 楠見義男

    ○楠見義男君 法制局のかたに御質問申上げたいのですが、それは百九十三条の改正規定の問題であります。最初にお断りいたしておきますが、問題の所在点について一応お聞き取りを頂くわけでありますが、実は私は素人で、説明の仕方が不十分かとも思いますが、大体問題の所在点法制局においてもよく御存じのことと思いますから、不十分な点は一つ然るべく問題の所在点御存じ法制局においてみずから償つて頂いて御回答頂きたいと思います。  それは今回の百九十三条の改正において先般も大学の教授、それから検察庁のかた、それから警察側のかた等の意見陳述を承わつたのでありますが、検察庁のほうの立場のかたは、この百九十三条の改正は、実は解釈上の問題では現在の規定においても又この改正規定においても変らないのだ。変らないのだが、併し一部に疑義の点、考えを持つ人があるので、その点を明らかにしたに過ぎない、こういうような御意見がございました。それから警察側のかたは、この規定については現在も殆んど問題なく、警察側検察側とは十分によく打合せをしてやつておるので、従つてこの規定改正する必要はないのだ。若し改正することによつて平地波乱を起すような虞れがあるとすら考える、こういうようなまあ意見陳述がございました。それから小野博士は、この百九十三条は実は現在の規定における検察側権限についていささか、いささかというお言葉をお使いになりましたが、いささか権限が拡張されるのだ、こういうような意見でありました。そこで今のいささか権限が拡張されるという小野博士意見のほかは、検察側警察側もこの規定改正においては実質的には変らないような感じを私は実は受けたのであります。ところが具体的の問題になつて来ますと、捜査の問題についてはこれは当初警察側とそれから検察側との間において多少の意見食い違いもあつたようでありますが、政府委員のかたの本委員会における説明を伺つて参りますと、最近においてはその点については殆んど意見相違はないような御説明を承わつたのであります。私どもすらつと読んでみました場合に、ただ「捜査を適正にし、」という言葉がこの改正規定には特に頭のほうに出ておりますけれども、併し現在の規定においても「公訴実行するため必要な犯罪捜査の」云々と、こうありまして、この点は捜査という言葉が上のほうに出て来ようが、現行法においてあとのほうに出て来ようが、この点は私はまあすらつと読んでみますと変らないようにも思えるのであります。そこで警察側検察側との意見相違は、捜査の点においてはこの改正規定においても変らない、こういうふうにも思えるのでありますが、一方小野参考人意見では、いささか権限が拡張されておる、こういうふうなことでありますが、法制局としてこの改正規定においてそのようなふうにとれるのかどうか、この点を一つお伺いしたいのであります。で、なぜ法制局にその点をお伺いするかと言えば、これもこの委員会政府委員のかたから従来の経過についていろいろ御説明を伺つておりました際のその御説明の中に、従来いろいろ、先ほど申上げたように最近は意見相違はないようでありますが、従来いろいろの意見があつた場合に、一つ法律規定においてその解釈をどこにおいてするか、公権的にどこがきめるか、こういうようなことになつた場合に、これは公権的には法制局がおきめになるという以外には他に適当な機関はないのであります。勿論裁判関係の問題であれば、これは最終的には裁判所がきめるわけでありますが、一つ国家規定、国の施政の上における或いはこのような規定における検察側警察側意見が食い違うという場合の公権的の解釈は、これはまあ法制局がお立てになるのが一番妥当だと私も思うのでありますが、そういうふうな意味から先ず第一点としては法制局においてこの改正規定によつて検察側権限が拡張されたと理解されるのかどうか、この点がお伺いしたい第一点であります。  それから第二点は、必要な一般的指示をすることができるという、この一般的指示の問題なんであります。この点においては検察側警察側とは今日においても多少意見食い違いはあるようであります。それは具体的には、例になりましたのは、破防法違反事件についての捜査をする場合に、事前検察側承認を受けるようにという指示が下されたことがあるそうであります。その破防法違反事件という具体的な事件について検察側事前にその捜査承認を要求したところ、警察側はこれを拒否したそうであります。そこでその拒否の理由が本条では一般的指示ということになつておるので、従つて破防法離反というような具体的な犯罪についての捜査については、これは百九十三条の権限を逸脱しておるものである、こういうような解釈のようでありまして、その点は百九十二条は今回改正されましたけれども、旧来の規定とその点においては変りはないように私ども窺えるのであります。従つてその点に関する限りは、この百九十三条の改正がありましても、依然として今申上げたような問題は起ると思います。で、法制局としては今申上げるような破防法違反事件について、事前捜査承認を求めるようにということが百九十三条のこの一般的指示の中に包括されると公権的に御解釈になるのか、それはできないというふうに公権的に御解釈になるのか。これも問題が起りました場合の最終的な政府としての公権的な解釈法制局でおやりになるのが至当だと思いますので、第三点としてその点をお伺いしたいと思います。  最初申上げましたように、素人ですから、十分問題の所在を申上げるのに尽さなかつたことがあるかもわかりませんが、大体所在はおわかりだと思いますから、それに従つて答弁頂きた  いと思います。
  6. 野木新一

    政府委員野木新一君) 只今の御質問の趣旨は誠によく了解できました。先ず第一点のほうから順次お答え申上げたいと思います。なお私のこの答弁の基本的な点におきましては法制局長官意見を聞いて参つておりますから、そのつもりでお聞き取り願います。  先ず第一点の今回の百九十三条一項の改正は、検察官権限を拡張するものであるかどうかという点でございますが、結論を申しますと、これは単に現行法趣旨を明らかにしたにとどまり、別に現行法以上に検察官に新たな権限を附加え若しくはその権限を拡張したものとは解しておりません。この点は小野博士意見と反対であつて検察庁並びに警察側意見と同意見であります。ただ文字の表現は若干違いますが、趣旨におきましては只今通りに解しております。  次に、これは今度の改正の直接の問題ではなくて、むしろ現行法解釈問題に亘ると思いまするが、百九十三条第一項のいわゆる一般的指示権ではどういうことを規定し得るのかという点でございますがこの点を理解するにつきましては、先ずどうしてこのような百九十三条のような規定が置かれたかという立法趣旨をまず考えてみる必要があると思います。それは結局新らしい刑事訴訟法基本的構造とも関連するものでありまするが、要するに新らしい刑事訴訟法におきましては、旧刑事訴訟法と違いまして、警察官はじめ特別司法警察官をこめていわゆる司法警察職員につきましては、先ず犯罪捜査の第一次的責任を認める、即ちこれらのものを捜査の第一次的主体といたしまして、検察官はこれを第二次的乃至補充的責任を有する捜査機関と定めておるのであります。即ち旧刑訴におきましては、司法警察職員検察官補佐機関である、検察官捜査責任者であつたのであります。そうして検察官は常時全面的の指揮権を持つてつたのでありまするが、その点は全く変つてしまつたわけであります。併しながら基本的にはそうなりましたがなお司法警察官捜査機関であり検察官公訴権を握つておりまするので、その関係を調整する必要があるわけであります。そうしてこの検察官司法警察官との関係につきましては、警察法並び検察庁法において共にこれを規定せず、これは刑事訴訟法の定めるところに委すと、そういう形になつておるのであります。而してこの刑事訴訟法におきましてはこの関係を即ち検察官司法警察職員との関係原則としては協力関係であるとはきめておりまするが、なおこの両者関係は全く対等の関係にある二つの機関協力関係と全面的に規定したものではなくて、百九十三条に定めるように、検察官に対しては司法警察職員に対する或る限度の捜査指示権乃至捜査指揮権を認めておるわけであります。これがまあ新らしい刑事訴訟法の立て方になつておるわけであります。なぜこういうように検察官の或る程度のこういう介入を認めたかと申しますると、結局一つ司法警察職員の行う犯罪捜査を適正にして、且つ公訴実行のため適切効果的ならしめようということが一つであると共に、又御承知のように警察法の二大原則である警察地方分権化警察民主化の要請との調和を図るため、又民主主義的政治体制の下における捜査責任明確化とかいうことを図る意味で、先ほども申上げましたように司法警察官吏に対する検事の全面的捜査指揮権を否定して、その両者をそれぞれ独立捜査生体と定めました結果、而も警察機関が全国的に統一ある組織でなくて、自治体警察国家警察或いはその他の特別司法警察職員、そういうようなものがありますので、これらのところから或いは生ずることのある欠陥を補正するという趣旨で、特に検察官に認めた権限であると解せられるのであります。従つてこの百九十三条の検察官権限というものは、思想的には百九十一条の一項の規定による検察官補充的捜査権限と申しましようか、要するにそれと思想的の根底は同じような立場に立つものではないかと存ずる次第であります。このように百九十三条というものは、多元化された司法警察職員の手による犯罪捜査を、公訴官であり又見方によつては一層高い法律的素養と、より一層強い身分的保障とを与えられておる検察官によつて補正せしめ、適切にして能率的な公訴実行を期待しようというのがこの趣旨であろうかと存じます。一般的の趣旨はそうであります。併しながら百九十三条第一項におきまして、「検察官は、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。」といたしまして、個別的指示をすることができると書いてないわけでありますが、なぜかと申しますと、それは個別的指示まで認めると、折角警察捜査独立主体とした趣旨を全く没却して、検察官下部機関、その補佐機関、或いはその全面的指揮を認めた旧刑訴と同じようなことに陥るので、個別的指示は認めないで、一般的指示権のみを認めたのであろうかと存じます。そうしてこの一般的指示権でどういうことが規定し得るかということにつきましては、いろいろ議論があるかと思いますが、一番典型的なものは、例えば昔の司法警察職務規範、ああいうものの根拠として百九十三条が立案当時は考えられておつたようでありまして、従いまして犯罪捜査公正適法に遂行させる諸注意とか、或いは公訴実行するために必要な書類作成に関する事項とか、公訴実行するため必要な証拠の収集保全に関する事項とか、公訴のため必要な重要事項に関する報告などが一番典型的なものであろうかと存じます。逆にこれではつきりできないと申します事項は、全くの司法警察機関内部の運営に関する事項のようなものとか、或いは純然たる司法警察機関内部受命連絡に関する事項のようなものについてはここでは予想しておらないものだと存じます。ところで、問題といたしましては、一般的指示の形を借りればどんなことでもできるのかという点でありますが、今まで述べたところで一応はおわかりのことと存じますが、問題点といたしまして、非常に抽象的に、問題を形成いたしますと、一般的指示の形式を借りれば、個別的指示と結果が全く同じになるようなこともできるのかというような疑問が起ると存じます。この点につきましては、やはり刑事訴訟法警察機関検察機関とをそれぞれ独立捜査機関と認めながら、而も百九十三条を置き、而もそれを一般的指示権という限定した趣旨から鑑みまして、又逆に個別的指示が認められなかつたという趣旨から考えまして、成るほどこの文字だけから言えば一般的指示の形、準則のような形を借りれば何でも広くできるというように文字だけから読めば、そうもまあ読む見方も形だけから見ればあるかも知れませんが、そこはおのずから制度の趣旨により制約がありまして、一般的指示の形を借りて個別的指示をすると全く同じ結果になるというようなものは、具体的の場合については非常にニュアンスはありますので、個々の具体的の場合に一々検討しなければ一々の個々の場合については断定できませんが、多くの場合この権限濫用ということになる場合が多いのじやないかと思います。従つて一般的指示権濫用というものは権限濫用であつて、これは許されないということになろうかと思います。  それでは問題の破防法のような場合はどうであるか。これが極めてデリケートの場合になつて来るものと思います。逆に一面なぜ個別的指示が認められないかという趣旨をいま一度反省してみますと、検察官が必要に応じ随時随意に個々事件捜査について具体的事件の個性に着眼して警察捜査指示するということになりますと、先ほども言いましたように検察官に旧刑訴時代指揮権を認めるのと全く同じになりますので、司法警察機関検察官の事実上の補佐機関たる地位に制度的に陥らしめるという結果になりますから、これはいけませんのであります。  然らば破防法のこの具体的の通牒なり一般的指示はどうであるかという点でございますが、これは非常に問題の限界に近い点でありますが、結論からまず申上げますれば、これは破防法の場合は非常に特殊な場合であつて、殆んど一般的指示権限界に近くはなつておるが、併しこの場合にはそれを直ちに踏み越えた濫用に亘つておるというまで言うべきものではなかろう、そういうように法制局長官も又私も考えております。ただこの場合は具体的の場合におきまして刑訴立案趣旨とか当該指示の具体的の事情とかいうものを総合的に判断するのでありますから、限界に行くとすべての事件と同じようにむずかしいものがありまするが、破防法通牒趣旨を具体的に検討した結果によりますと、而も破防法事件特殊性その他から考えまして、あの場合は濫用というまでには亘つていないだろう、そういう結論に考えております次第であります。
  7. 楠見義男

    ○楠見義男君 折角詳細御説明頂きましたが、素人だからよく今の御説明ではわからないのですが、その問題は今の御説明の中で、御説明を伺つて問題は二つあると思うのですが、一つの問題は、一つの些細な枝葉末節の問題ですが、今御説明になりましたように、百九十三条というものは、現行法検察官側権限を拡張したものではないという前段の御説明がございました。そこで起ります疑問は、検察側警察側との間に、この本条めぐつていろいろのいざこざといいますか、問題が生じておる。この委員会でも陳情に出ておりますのは、この点が主でありますが、現行法規定と変らないものであるならば、特にこの際こういうふうに改正することによつて、例えば警察側が言つておるように、却つて平地波乱を起すというような心配のある改正規定は、一部の考え方から言えば、やめたほうがいいというのも、これは肯けることだと思うのでありますが、法制局として、この改正条文を恐らく御審議になつたと思うのでありますが、改正する必要がないとすれば、特に本条をなぜ改正しなければならなかつたか。これは政府側の、提案者側の御説明はよく伺つておりますが、今申上げたような立場から、法制局の御所見を第一の問題としてお伺いしたいのですが……。
  8. 野木新一

    政府委員野木新一君) 只今の御指摘は誠に御尤もな点だと存じます。こには先ほど申上げましたように、後段改正現行法趣旨を変えるものではないというように了解して、そのもとに審議したわけであります。立案者側もその趣旨でこれを法制局へ持つて参りました。なおその前に、それならばなぜこういうように改正する必要があるかという点につきましては、この現行法の百九十三条のままですと、検察官犯罪捜査については、殆んど一般的に指示ができないのではないかというような議論が、最近はやや薄れたと聞きましたが、当初は非常に強かつたので、その点で、先ず検察官側警察官側といざこざと申しましようか、多少意見対立があつたというように聞いておつたわけでありますが、尤も只今あたり聞きますと、警察官はもうその点は、現在は検察官側意見がその点に関する限りにおいて一致して来たやに聞きましたが、これはまあこの新刑訴ができた当時から意見対立があつたようであります。而もその点が法務省における法制審議会におきまして、やはり議論をせられまして、そういう議論があるならば、その本来の立案趣旨を明らかにしたほうがいいだろうということで、百九十三条一項後段のような答申があつたわけでありまして、その答申に基いて、法務省では法制局へ案を持ち込んだ。私どもといたしましては、全く法律的の立場から見て若し警察官側においてもう全然解釈上疑問の入る余地はない、而もこれは国家警察首脳部のみならず、自治体警察その他全部の警察を込めてそういうことならば、或いはもう改正の必要はないと言い得るかとも存じますが、必ずしもそのようではなく、前に申上げたようないきさつで法案が立てられ、持ち込まれましたので、そういう疑問が起る余地をなからしめるということは、無用な疑義を避けるというために悪いことではなかろうと思う。まあこの点は国会に送つて国会の御批判を仰いだほうがよかろう、こういうような趣旨でこの条文審議いたしたわけであります。
  9. 楠見義男

    ○楠見義男君 その問題で、甚だ余談のようなことを言うようでありますが、同じ国の機関一つ法律について、その意見が違うという場合は、これは最初に申上げたように、公権的には法制局が御決定になり、その法制局の御決定国家機関が、Aの国家機関、或いはBの国家機関というものが従うのは、これは当然だと思うのです。そこで現行法の百九十三条には、警察側最初言つてつた捜査に関しては指示権がないように言つておるのは、これは明らかに現行法百九十三条では、「その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。」但し云々とありますけれども捜査に関して一般的指示ができると、こうあるのだから、これは若し警察側がそういうような従来の間違つた解釈をしておるとすれば、これはもう明らかな誤解である。それを特に法律改正をするということになれば、こういうような事例はままあることで、私ども最近の事例は知りませんが、昔はよく各省間にそういう問題があつて、公権的に法制局へ持ち出して、法制局意見でその最終決定をして参つたという経験も私どもつておるのですが、最近はそういうような場合には、法制局は昔通り公権的な権威というものは持たないのでしようか。どうなんでしようか。
  10. 野木新一

    政府委員野木新一君) 法制局各省から意見を求められれば、長官がその法律的解釈について意見を述べる権限を持つております。併しその意見は必ずしも拘束力はありません。のみならずそれは国家機関だけでありまして、地方自治体に対しましてはそういう権限を持つておりません。この警察につきましては、すでに御承知のように、自治体警察というものが非常に大きな分野を占めておりますので、原案者考え方もそうであり、私ども審事のときにそれらの点をも斟酌配して、疑問のないようにしたほうがよいだろうと存じた次第であります。
  11. 楠見義男

    ○楠見義男君 そうしますと、現行法捜査に対して指示権があるというのに対して、その捜査についても指示権があるかないかについて疑義を抱いた。そうすると今回の改正規定で、「捜査を適正にし」ということを書いても、やはり同じようなことを言つた場合にはどうなりますか。
  12. 野木新一

    政府委員野木新一君) 御承知のように、新らしい刑事訴訟法は、占領下においてできまして、而も国会審議の際も、あの尨大法案を比較的短時日に審議が終りましたので、このような点につきましては、余りに今回のような詳細な議論は闘わされなかつたのであります。従いまして今回のような議論が闘わされまして、その立案趣旨が明らかになれば、「捜査を適正にし」という文字の点につきまして、従前と同じような、警察側に疑問が起るという点は万々ないのではないかと存ずる次第であります。
  13. 楠見義男

    ○楠見義男君 それから第二番目の問題で、先ほど答弁を頂いた後段に関する問題でありますが、破防法の場合は一般的指示権限界に近い問題だというような御説明があつたのですが、私は具体的にその案件について、事例について、いい悪いを実は申上げておるのじやなしに、これも最初に申上げましたように、現行法と、それから改正規定との間には、法文上、又その解釈上明らかに変つて来るのだという点が認められないのです。ただすらつと読むと、現行法と……。例えばこれは私の意見ですが、捜査に関しても全く現行法と同じだと思う。従つてその点は改正法においても同じ問題が起るのじやないか。その場合に具体的に破防法の場合は、これは提案者側のというか、政府委員のかたの御説明を伺いますと、破防法の場合はどうしてもそういうふうにしなければ、一般的に予防防遏が困難である、或いは検挙が困難であると言う。その具体的な事情はよく私は了承しておるのでありますが、併し問題は一般的指示に入るか入らないかという法律的の問題、解釈の問題でありますから、従つて同じような問題が法文がちつとも変つておりませんから、趣旨において変つておりませんから、同じ問題が起るのじやないか。そこで破防法の場合は限界に近いが、併し限界内である。そうすると例えば集団暴行のような、最近よくあちらこちらで起りますが、そういう集団暴行罪については、事前にその捜査については承認を受けるということも、これも一般指示権限界に近いが、限界内である、こういうふうになつて来る。結局具体的な犯罪捜査に関する検察側介入という問題が、実は立法趣旨にだんだんと反した結果を生じて来るということを、警察側も恐らく又、……、その当否は別にして、このできた法律の運用の建前から行くと、同じ問題が起つて来るのじやないかと思うのです。そこで一般的指示権に近い、或いは限界を超えておるという、その判断は、その具体的の犯罪の名を挙げても、それはものによつて限界内であり、又ものによつては具体的の犯罪を挙げることで限界を逸脱している、こういうふうなことになつて来るのでしようか。その点はどうなんでしようか。
  14. 野木新一

    政府委員野木新一君) 一般的指示と申しますのは、およそ犯罪全部についてという趣旨ではないことは勿論であります。従いまして或る種類の犯罪に限つて、こういうような百九十三条に適応するような準則を当てはめるということは勿論可能だとは存じます。
  15. 楠見義男

    ○楠見義男君 そうすると、例えば今申上げたように、集団暴行についての暴行罪については、事前捜査承認を受けろとか、或いはその強力犯については事前に受けろとか、こういうことを言つても、これはいいわけですか。
  16. 野木新一

    政府委員野木新一君) 単に文字的な一般的指示という、全くそれを形式的に解釈すれば、それもいいじやないかという議論も確かに出て来ると思います。併しながら、事柄は、この制度の置かれた実質的の趣旨から、やはり勘案しなければならないのでありまして、普通の強力犯のようなものにつきましては、自治体警察国家警察を調整する必要もないし、又警察官も普通の刑法犯に熟練しておりますので、そんなところにまで検察官がかれこれ塚を出すのは、而も捜査権限の発動を承認にかけてチェックする。水の流れを自然と或る方向に導くということでなく、その水の流それ自体をとめるというところまで行くのは権限濫用だというような意味で、この法意を逸脱することになるのじやないか。破防法の場合はそうではなくて、全く国会であれほど大きな問題になつたむつかしい法律であり、事柄の性質上、自治体警察あたりで不用意に検挙したりすると、事件の全貌をつかめなくなつたり、事件をよくまとめて公訴をし、犯罪を鎮圧する結果を十分挙げるというような公訴権の行使に支障を来たす。そういうような懸念が非常にありますので、あの場合につきましては、形式的には法の条件に合致するし、実質的趣旨から考えましても、法の趣旨から逸脱するところまで行かないという意味で、私どもは、まああれはよいのじやないかと存ずる次第であります。然らばどの程度ならいいか悪いか、とめどはないじやないかと言いますが、併しながら、例えば検察官が実質的に不当な一般的指示をすれば、すぐ例えば法務委員会あたりの問題になりまして、或いは法務大臣なり、或いはそのほうの検察官なりが大いに追及されますから、昔と違いまして批判される余地は大いにあろうとは存じまして、その点でチェックされるのじやないかと存じておる次第であります。
  17. 楠見義男

    ○楠見義男君 その問題で、なおよく私了解できないのですが、その先ほどの御説明の中にも、具体的の事件の個性に介入するというようなお言葉をお使いになつたのですが、具体的に、どこそこに起つた事件について、その具体的事件の個性に介入するということは、これはいかん。これは御説明通りだと思うのですが、そうではなしに、例えば全国的に、これは事前検察官側立場からよく承認を求めさせる必要があるということで、どこそこに具体的に起つた事件というよりも、そういう具体的事件の個性には入らないが、罪名としては、例えば刑法の条章に従つて何々に関する罪というふうな、その意味の具体的の犯罪についてのことは、今申しますように、全国的に或いは全国的でなくとも、その事件の性質から鑑みて、非常にその注目を要するものについては、犯罪の名前は具体的であつても、個々事件の個性には介入しないということであるならば、それも一般的指示に入る、こういう御解釈ですか。
  18. 野木新一

    政府委員野木新一君) 只今の御質問の趣旨通りの場合におきましては、一般的指示権の範囲に入つて来るものと存じます。
  19. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 楠見さんに申上げますが、今の点の運用の問題について、ちよつと法務大臣から答弁をして頂いたらどうかと思いますが……。
  20. 犬養健

    ○国務大臣(犬養健君) 私ほかの委員会に出ておりまして、遅れて参上いたしたのでありますが、だんだんの御質疑を伺つておりまして、私は楠見さんの御心配御尤もであろうと思いますが、結局極く率直な経過を申上げますと、国警側でも只今問題にして、おられます破防法の際の一般的指示、あれを違法だとは、少くも国警首脳部では言つておらないのであります。今日ではまあたくさん人のいることでありますから、違法だと思い込んでおる若い人もあるかも知れませんが、大体幹部の統一した見解は違法ではない、今後一般的指示検察側から出すことも、これもお話がありましたが、本条文を直さなくとも出せるわけであります。問題はどういう一般的指示を出すのか。もつと突つ込んで言うと、破防法みたいな、捜査前に一々承認を得るような形の一般的指示を出すのか、限界のぎりぎりまではいつも許されて行つて、ぎりぎりまでもいつも出すのか、これなんです、今の中心点は……。そこで私どもは衆議院の法務委員会でも、しばしば速記録に残して言明し、衆議院の委員会が終ります前にも、改めて少し四角張つたものを読み上げたいと思つております。その内容は大体こういうことでございまして、破防法における一般的指示は、真に止むを得ざる特殊事情に基く例外的措置であると、こういうことを言おうと思うのです。そして私が敷衍しまして、従つてあれは必ずしも前例としない、こういうことであります。恐らく国警側が曲者なのであつて、これで今度又例外だというようなことをやられては困るというのでありましようが、これは法律事務を扱う者から言えば絶無と言い切るのは、どうも楠見さん、非常に御経験がありますが、言い切れない。結局必ずしも前例としないで、よくよくの例外措置だという私の言明で、あとはまあ法務省検察庁の良識に任せてもらう。そして若しそれ矩を超えたら、今法制局政府委員が申されたように、国会で以て厳しくそれを糾弾して頂くというほかは、規制の方法はないのじやないかと、こういうふうに考えておるのであります。
  21. 小林亦治

    ○小林亦治君 折角大臣がお見えになつたから二、三伺いたいと思いますが、私はこの思想が古いのか、或いは頭が固いのかわかりませんが、百九十三条の改正はまぎれもない、これは検察官権限の拡張だと、まず全般にかように考えておるのであります。なぜかと申しますと、一般規定で具体的場合には当然検察官がかような措置をなし得るということになつておる。ところが準則を設けると言いますというと、部内におけるところの規則の制定権が与えられたと、こういうことになりますので、その限りにおいて検察官権限本条によつて、或る程度拡張せられた、こういうふうに思つておる。ところがその拡張されたこと自体がどうであるかと申上げますと、極めて適当だと私は思つておる。といいまするのは、何と申しましても、法律的素養或いは見識その他の方面においては、これは格段に警察官より遥かに勝るものがあるのではないか。むしろ戦時立法的な旧刑事訴訟法が、あわててかような英米法的な組立てになつて来ておるのではないか。今回の改正によつて多少でも是正せられてよくなるとさえ考えておる。さような点から言いますというと、これは公安委員ですか、連絡協議会が猛烈な反対の文句で、逆な陳情をして来ておる、警察側からかような運動が起ること自体がやはり百九十三条のような必要を余計感ぜせしめるのです。何か説明を伺つておると、非常に遠慮がましい御説明のように聞こえる。刑事訴訟法改正を全部復古的に、元の通りにしてもらいたいというのではありません。元の通りでも困るでしようが、現行のようなものは、民主主義に名を借りて、却つて捜査とか、公訴権の障害を来たしておる具体的事例は、私どもも職務経験したくさん持つておるのであります。そこを遠慮なしにもうちよつと御説明を願つたならば、或いは今質問のような心配が解消せられると思うのであります。その点を大臣からまず御答弁願いたい。
  22. 犬養健

    ○国務大臣(犬養健君) 只今の御質問になりました心持ちは、よく私諒といたすのであります。私は元の現行法の文章が舌足らずで、問題を起す危険性を内在しておる、こういうふうな考え方なんでございます。つまり今小林委員が申されたように英米法的な非常に性急な、直輸入といいますか、それが日本国民の法律的観念に咀嚼しきれない部分がある。でこのように直したのでありますが、一方国警側又は自治警側におきましては、今度は旧刑訴に戻す一段階ではないか、こういう無用な心配をしておりますので、その不必要な心配の不必要な部分は、はつきりこつちも心配のないようにしてやろうということは、決して悪いことでない。お互いの役所の間の一つの必要な事項でもあると思うのでございます。そこで原文がどうしてこのまま新刑事訴訟法決定的になつたかという経緯を聞いてみますと、只今法制局のほうからもお話がありましたように、占領治下の特殊事情でこの文章が一番いいのだというふうにきめられたというところが、現在までの相当部分になつておるようでございます。従つてそれではもつといい日本語でよりよくわかりやすくしようというということになりまして、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全からしめるというその枠内において、検察官側捜査の適正を願つておる、こういう感じを出すことにいたしたのであります。従つてこの観点からこういう今まで不明確なものを明確に再確認したような解釈規定のような意味で、当局はやつておるのであります。そのように御了承願いたいと思います。
  23. 小林亦治

    ○小林亦治君 これは刑事訴訟法全体に関連するのですが、裁判所関係において特任判事というのが出ております。これに対して私は反対の意見を持つている、同様のことは法務府関係で副検事制度であります。非常にまずい制度である。実務に相当長じたというところから、若干の選考か或いは試験のようなものはするかも知れませんが、ともかくお粗末で、非常に困るということを申上げたいのであります。いろいろな統計資料の上で、どういう具体的に不都合があるかということは、私は持合せておらないのであります。又さようなものを集めることになつても、非常に形式的なもの以外は、実際の弊害というものは現われて来ないと思うのであります。見識の非常に低いが、熟練した警察官といつたような程度の連中が副検事に登用せられ、一般の公判裁判に検察官として立会つている。この場合裁判官からは圧倒せられ、裁判官自体も当の相手を対等の相手とはみなしておらないような状態なんであります。ここに公訴権の遂行の上から言つても、まずさが非常に出ている。勿論法廷の権威といいましようか、空気といいましようか、弁護士も裁判官も同じやはり司法試験という枠を受けて参つた、更に高いレベルのところの機関で以て相対立しているのに、副検事は今申上げましたように何といいますか、便法的な任用制度で浮かび上つて来ている、そこに非常に平均しないものが出て参る。最近の実例を見ますというと、あの制度の当初は、止むを得ざる場合だけ法廷に立会う、飽くまで副検事であつて検事の補佐機関であつて、そういうところに出るのは本旨でないというような御説明があつたように記憶しているが、最近見ますというとそうではないのであります。殆んど検事はお忙がしいからでありましようが、検察庁におられて一般の事務をなすつていらつしやる。法廷に出て働いているところの検察官というものは大概副検事で以て充たされている。殊に検事のやつたことがどうかというと概して粗雑であり、見識とか素養の浅さから来るところのミスというものは、たくさん出ている。弁護人側が却つて喜ぶかも知れません。相手がそういう弱少なものだけに、弁護人側が勝利を得られる場合がまま出るのであります。でそれを司法制度として見た場合、公訴権一般から考えた場合には、やはりこういうような制度こそ元に復して、高等試験の代り、現在では司法試験と申しましようか、ああいつた程度のものを通つてつた者でなければ、法廷には参与できないというふうに直すことが、たるんだところの現行制度を引締めて、持直して行くところの一つの段階ではないかと考えますので、特任裁判官制度と相並んで、この副検事制度というものは多大の不満を持つているのであります。そういう点について、大臣が若しお気付きの点がございましたならば、御答弁願いたいと思います。
  24. 犬養健

    ○国務大臣(犬養健君) この問題はつい昨夜も座談会で私が持出した問題でもあるのでありますが、御承知のように終戦直後の特殊事情によりまして、副検事が何といいますか多少論功行賞的に採用されておつた向きもあります。又簡易裁判所等で、判事対副検事の関係というものは必ずしも、今簡明に御指摘のように円満に行つていないところがあります。軽んぜられている、同じことを言つても副検事が言つたことは何となく権威がないというような先入主を持たれやすいのでありまして、私はその前者の部分、つまり何かこう論功的な採用と明らかに思われる事案もありましたので、人事異動のときに私が指摘したこともあるようなわけでございまして、これは全く只今の御質問は同感でございます。もう一つ、別の角度から申上げますと、御承知のように、こういうふうに今度刑事訴訟法改正を幸いに御可決願いますと、なお検事というものは忙がしくなる部分が殖えるわけでございます。ところが一方内閣の方針としまして、もう各省の人員は殖やさん、むしろできるだけ減らしてくれという問題にぶつかるわけであります。そこでこのたび御審議を願つております予算でも検事の数は殖やしたい、内閣の行政整理の方針も守らなければならんということの結果、結局検事の数を殖やすために、実際問題として副検事の数を減らして参つておるのでございます。かたがたいろいろの角度からそういうふうになつておりますし、又副検事の資質向上についても、余り論功行賞的な採用というものは今後はもう少ししたいということで行きたいと思つております。さよう御承知願いたいと思います。
  25. 郡祐一

    委員長郡祐一君) ちよつと皆さんに申上げますが、衆議院の法務委員会のほうで最後の締めくくりをいたしたいので、大臣に出席して欲しいと言つてつたのでありますが、了承してよろしうございましようか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  26. 楠見義男

    ○楠見義男君 これは刑事局長でも、法制局の第二部長でも、どちらでも結構なんですが、今の百九十三条の問題ですね、小林さんからも意見がありましたが、この委員会では一松さんをはじめ、実務をよく御存じの練達堪能なかたがおられて、それらのかたがたはそれらの御経験なり、立場からいろいろ御質疑になつていると思う。そこで私はそういう立場じやなしに、それらのかたがたがそれらの立場から、今小林さんからも言われたように、まあ旧法に戻したほうがいいのではないかという御議論は御議論として、ここに現われた法文からどういうふうに理解されるかということ、現われた文字から私は実は質問を百九十三条についてはしておるわけであります。従つてもつと積極的にこれを改正したほうがいいということならば、その意見従つて改正をすべきだと思うのですが、ただ現われたところで言つて一般的指示の問題で、先ほど大臣がお述べになつたことで私は余計に又疑問が出て来たのですが、それは先ほどお述べになつた大臣の言葉に、破防法の問題は真に止むを得ざる措置であつて必ずしも前例とするものではないと、こういうことを言われたのですが、真に止むを得ざるということになりますと、如何にも一般的指示に入らないのだが、併し止むを得ない措置でこういうことをやつたのだ、こういうふうにも実はとれるのです。これは一般的指示に入つておるのだけれども、併しいろいろ疑義が生ずる危険があるから今後は先例に上ないのだ、こういうのなら首尾一貫するのですが、こういうような枕言葉が何もなしにそういうことになつて来ると、余計何だか疑問を生じて来るのですが、その点はどうなんですか。
  27. 岡原昌男

    政府委員(岡原昌男君) ちよつと大臣が簡単に真に止むを得ざると言い切つたので、御疑問は尤もですが、考え方といたしましては、先ほど野木政府委員からもお話がありました通り、この一般的指示刑事訴訟法の第百九十二条までの協力関係のその次の条文で、いわゆる最後の何と言いますか、締めくくり的な条文になるわけでございます。百九十二条までの両方の捜査権の協力関係がうまく行けば……、うまく行くと当然予想されるが、そのときには百九十三条で行く必要がないというのであれば、当然百九十二条までで問題が片が付くわけでございます。又破防法のような特に全国に亘つて、例えば自治警管内、国警管内等が錯綜して事件が起り得る。而もそれが法律的にかなり困難な問題を包蔵しておるといつたような場合に、簡単に手を付けてぽつぽつとやつたのではこれは事件の実態がわからない。結局検察官が行つて責任を負え、最後の締めくくりをしろと言つたつて、その段階になつてはどうにもしようがない。本来ならば、百九十二条までの協力関係で適当にやつて行きなさい、そのうちには何とかなりますよ、こういうことで百九十三条の法律はいらんという見解の下に議論されたのでありますが、それを止むを得ざるというような表現を使つたのだと思います。
  28. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 刑事訴訟法の一部を改正する法律案につきまして、私は少年の問題につきましてこれはこの改正案審議されますときにお考え頂いたかどうか、二、三点について伺いたいと思つております。第八十九条の権利保釈を除外する事由について第四号の「被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき。」という規定でございますが、これを少年に適用しないような特例でも設けるということは必要はございませんでしようか。と申しますのは、昨年のメーデー事件のときのような、これは一例でございますけれども、少年でございますというと、附和雷同いたしましてやつてしまつたというような者につきましても権利保釈が許されないという場合は、これは大変問題だというように考えておりますが、その点は如何でございましようか。
  29. 岡原昌男

    政府委員(岡原昌男君) 昨年のメーデー事件におきまして、宮城さんからお話しの通り、かなりの少年がいわゆる附和雷同的な行動によりまして検挙されております。その点につきまして検察庁におきましては、御承知通り一応事件の全貌を明らかにするために、何といいますか、いろいろな資料から網を拡げたと申しますか、検挙いたしましたけれども、大体におきましていわゆる純粋の附和雷同と申しますと、犯罪で申しますと附和随行的なものは全部罰金ということで身柄は拘束しなかつたわけでございます。従つて裁判所まで行つて権利保釈の問題にまで行かずに大体済んだようでございます。それからその他のもう少し程度の高い者、いわゆる附和雷同でそれが率先助勢とか、或いは指揮とかいうような少し程度が越した者につきましては、これは一応法律上は割に重い犯罪になつて参りますので、身柄を拘束したまま、これは一般家庭裁判所に行つてつて来まして、身柄を拘束したまま起訴したのも勿論ございます。ただ今回の改正を考えましたのは、そういうふうな一人々々の事情は大体第九十条の規定によりまして裁量の保釈でこれを許す。家がしつかりしておつて、親元がしつかりしておつて、家に帰しても逃げないというような者につきましては、九十条の裁量保釈をする。つまり八十九条の権利保釈から除外するのは悪いほうで、当然の権利としてどうしても放さなければならんということだけに締め括りをする、こういう考え方でやつたわけでございます。従いまして、少年とか、或いは女の人とか、或いは何か特殊な事情がありまして、これはもう当然逃亡もしない、証拠隠滅もしないということが明らかな場合には、これは当然裁判所でも権利としての保釈にはならないけれども、裁量としての保釈にはなるというふうな考え方にいたしたわけでございます。
  30. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 昨年の破防法の問題のときに、検事正の説明つたと記憶いたしておりますが、そのときに千人以上少年が拘束されたのでございます。それで結局起訴されたのは、十人内外の話でございましたが、そうしてこの間拘束されておりました期間につきまして調べましたら、今ちよつとはつきり憶えていませんけれども、随分長期のものだつたように考えているのでございます。そこで私どもは、この八十九条の権利保釈のところで、ここに特例でも設けられないと、もつともつと大変なことが起るのではないかと、私は実は心配しているのでございます。今の説明で大体納得できるようでございまするが、併しこの点如何でご、さいましようか。
  31. 岡原昌男

    政府委員(岡原昌男君) 昨年少年を起訴しましたのは、たしかお話の程度であつたかと私も思つております。と申しますのは、大体少年につきましては、保護処分に付するほうが、少くともこういう事件について、殊に初犯の者については適当であろうという刑事政策を我々も堅持いたしておりますので、そういう観点から、たとえ一応事件に参加いたしましてもそのうち特に情状の非常に重い、これはどうしてもしようがない、止むを得ないという者だけをとり上げて起訴をするわけでございまして、あとの者につきましては、原則として保護処分で行くというようなことになつております関係上、起訴の人員が少くなつたわけで、これはまあ結構なことだと私も思つております。ただその勾留期間でございますが、御承知のように、或いはメーデー公判のいわゆる統一審理にするか、分離公判に行くかというようなことでかなりもめまして、その関係で被告人側、弁護人側と、裁判所側と、審理方式について争いがありましたために、かなり私も結果的には被告人たちには気の毒なことだつたと思いますが、勾留期間が長引いております。まあ現在は全部出ておりますけれども、ただ少年等につきましては、その具体的な事情に応じまして、少年でも、例えば青年に近いような年齢で、非常に悪いのも中にはおりますので、これはまあ止むを得ないといたしまして、その他一般事情の酌量すべきものにつきましては、裁量の保釈で行きたいと、こういうふうに私どもは考えておるのでございます。
  32. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 それからその次に二百九十一条の二の簡易公判手続の規定についてでございますが、これもやはり被告人が少年でございますときには、これは保護者の同意がある場合に限りというような、かなり簡易公判手続によつて審判ができるものとするというような特例を設けなくもよろしうございましようかどうかということ……。
  33. 岡原昌男

    政府委員(岡原昌男君) まあ非常に年歯が若くて判断がうかないというような場合があるかどうかという問題になつて来るだろうと思いますが、大体二百九十一条の二の今度の新らしい簡易公判手続の予想しております公判手続は、最初冒頭に検察官の起訴状の朗読がございますが、その前に本人といたしましては最初警察以来事件をずつと調べまして、それから起訴状の謄本が参りまして、大体事件の全貌と申しますか、自分はどういうことで、今問題になつておるかということはわかつておるわけでございます。従いまして、その事件について、自分は例えば異存があると述べたほかに、実はこういう隠した事情がある。或いは起訴状に書かれた程度は本当だけれども、併しまあ例えば正当防衛の弁解があるといつたようなことが考えられるわけでございます。でそういう場合に、裁判官が最初この手続に移つていいかということを確かめる際に、被告人と検察官と弁護人の意見を聞くわけでございますが、弁護人が付いていない場合にどうするかという問題になると思う。大体弁護人が付いておりますればこの点は解決するわけだと思いますが、弁護人もなしで少年だけの場合という場合もまあ考えられないわけではございませんが、さような場合には、裁判長はそれは、特に念を入れて、いわゆる簡易公判手続の内容はこういうふうになるのだ、例えば証拠調べもわりに簡単にやるのだ、異存がないかということについて説示をすることになろうと思います。これは実は欧米のアレインメント制度の実際の運用を聞いたのでございますが、向うのほうは御存じ通り私は有罪ですと、こう答えればすぐ判決が言渡されるというような非常に簡単なものでございますが、そういうようなことでは、日本では今度の法制ではとりませんでしたが、その場合には、向うの有能な判事は、事件の核心的な中心になる部分を一つ、二つ聞く、そうして本人が本当に有罪の内容がわかつてそういうことを言つているのか、或いはわからずにただ異存がないと言つているのか、見極めをつけるそうでございます。従いまして少年等につきましては、これらの裁判官もそういう要点となるべき点を二、三聞きまして、本当にこれは間違いないかという点の御配慮が来るだろうと思います。これはまあ条文にそこまで書くかどうかということも研究いたしてみましたが、大体裁判官会同、或いは家庭裁判所の裁判官会同等でそういう問題がいずれ取上げられるだろうと思いまして、裁判所と打合をいたしております。
  34. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 先ほども御説明になりましたような、少年と申しましても同じ年の者でも、非常にいい者も悪い者もおるのでございますけれども、大体から申しますと、もう上つてしまつて、有罪であると言えば、有罪だと思いがちなところで簡単に裁判が審判されますということは、その少年に不利の場合が非常にあるだろうと思うのです。でございますから、まあそれに弁護人も付かないなんていうことになりますというと大変なことになりますし、いま一つ大変これは私言い過ぎかも知れませんけれども、担当の判事さんがたが、本当に少年法なんかの真髄がわかつていらつしやるかどうか。少年の指導とか、少年の保護とか、これを処刑する場合に、何かその本当の目的ということに対しまして如何でございましようかというような私疑点を持つている点もあるのでございます。ただ、でございますから、ここにはどうしても一つ念には念を入れる意味で、保護者の了解を得て、同意があればというようなことを、一つ考えて頂きたいというように思つたのでございますが……。  それに連関いたしますけれども、第三百五十九条のあの上訴権の放棄でございますが、これも同様にやはり子供でございますときには、保護者の同意を要するほうがいいのじやないかというように思つているのでございますが、その点について一つ……。
  35. 岡原昌男

    政府委員(岡原昌男君) 第三百五十九条以下のいわゆる上訴権の放棄の制度でございますが、実際問題といたしまして、裁判の言渡がありました後、被告人が本当に快くその執行を受ける場合と、そうじやない場合とございます。殊に少年などで、初めて実刑を受けるといつたような場合、これはかなり今お話のように、判断が付かないと申しますか、場合が、これはあるのじやないかと私も思います。そこでさような場合に、これを前の訴訟法では、いわゆる即決で執行願いますというふうなことを申しまして、即決で言渡を受けて、而もすぐ刑務所に行くということがよく行われたのでございます。その際に今お話のような、非常に急に判断するために、本意にもあらざることをそこで頭を下げちやつたということでは、これは大変な間違が起きますので、書面によるということに私どもはいたしたわけでございます。書面によるということになりますと、一応書面を書くまでの間に、いろいろ利害得失なんかも考えましようし、又実際問題としては今までどういうふうに書面が出て参るかと申しますと、言渡を受けて刑務所に帰りまして、それで担当の看守やなんかにいろいろ相談することがあるようでございます。そうしますと、いやそれは少し考みてみたらどうかとか、そんな事件で懲役三年はちよつと重いよとか、これは本当に冗談話で言うわけでございます。そんなようなことも参考にいたしまして、本人意を決するわけでございますが、そうじやなくてもう本当にそういう事件の内容を承知している者或いは前歴などのある者は、もうすぐに自分の判断がぱつとつくわけでございます。そういう場合には問題が起らなかつたわけでございます。ですから今お話のように、初犯の少年等の場合だけを私ども心配したわけでございます。そこでこの点につきまして、まあ保護者の意見を聞くというふうな考え方も、これは成立つだろうと私も存じますが、ただそれをいわゆる何といいますか、未成年者の行為無能力と申しますか、そういうふうな考え方で行くのは、これは今度の新らしい考え方として如何なものであろうか、従つて相談相手としては、大体においては先ほども考えました通り、弁護士さんがついている場合が多うございます。殊にこの実刑を受けるような事件でございますと、大体弁護士さんが付いておりますし、ですから少くとも少年が犯罪行為を犯すという、而もそれで起訴されるというのは、雪のよくよくの場合でございますので、本人についていわゆる何といいますか、判断力が非常に欠けているという場合は、割合に少ないのじやないかと思います。たくさんの事件のうち、本人がいわゆるこのわけのわからんうちに犯罪をしてしまつたと、つい思わずやつちやつたというようなものは、先ほどお話しました通り、刑事政策の大体の根本方針からいいまして、起訴もせずに、大体保護処分に付されてしまいます。起訴されて実刑を受けてということになりますと、これは実際にかなり意識が高いと申しますか、判断力の高度に発達した者だけが残つて来るのじやないか。まあそういう者につきましては、大体特に保護者の意見ということがなくても、みずからの判断でこれを決し得るのじやないか。それに書面ということにいたしましたが、書面を書いている間にいろいろ考えるという余地を与えたのでありまして、大体そういう点については、御心配の点は解消されると思います。なおそれらの点については、裁判所のほうとも十分打合せをいたしまして、言渡の際によく説示をいたします。殊に少年等につきましては、訓戒みたいなことをいたすわけでございます。その際に十分に趣意徹底することになろうかと存じます。
  36. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 午前はこの程度を以て休憩いたしまして、午後は一時半から再開いたします。    午後零時四分休憩    —————・—————    午後一時四十九分開会
  37. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 只今より委員会を開会いたします。  参考人として御出席下さいました団藤さんには前回にもおいでを願い、又本日おいで下さいまして、今日は委員の各位から先般の御意見に対して種々御質疑申上げることと思いますが、再度御出席下さいまして誠に有難うございました。厚くお礼を申上げます。  委員の皆さんから御質疑があると思いますが、私からもちよつと伺わして、頂きます。先般団藤先生の御意見の中で起訴前の勾留期間の延長に関連して起訴前の勾留についても刑事補償を適用すべきであるという工合に御意見がございました。この適用につきまして、被疑者の不起訴処分との関係をどんな工合にお考えに相成りましようか。殊に起訴猶予相当を理由とする不起訴処分をも含むものといたしますならば、現行制度の便宜起訴主義を採用しておる建前から考えて、却つて妙味を失つて、被告人に不利益の結果を生ずる心配はないだろうか。又刑事補償を適用するといたしますと、その管轄機関を如何にいたしまするか。不起訴の裁定をいたした検察庁に対する裁判所を管轄機関とするようになるかと思いますが、それを果して合理的とお考えになりましようか。それらの点について伺わして頂きたいと思います。
  38. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 委員長のお尋ねの第一点につきましては、これは非常に大事な点でございますが、私は不起訴処分の中で、やはり起訴猶予とそうでないはつきりした不起訴処分とを区別するべきではないか。同じこの不起訴処分の中で、刑訴の三品四十八条に基く不起訴処分についてはこれは例外を認める、その場合まで刑事補償を及ぼすということになりますと、委員長の御心配のような点が現われて参りますので、私もそこまで拡張する意味で申上げたのではないのでございます。併しその半面において、この起訴猶予の場合に刑事補償が妥当でないという理由で以て、嫌疑なし、或いは罪とならずといつたようなはつきりした不起訴処分についてまで刑事補償を及ぼさないということになつて参ると特に問題だと思います。私がそう申上げますのは、この起訴前の勾留期間の延長につきまして、特に関係者が多数であるというようなことが要件の一つになつておりまして、いわゆる集団犯罪などが恐らく一つの重要な場合として予想されていると思うのでございますが、これにつきましては、前に申しましたように、一方では捜査権強化の必要があることを了承すると同時に、他面において無実の者が巻き込まれる虞れが非常に心配されるのでありまして、そのような関係において、やはり刑事補償は是非必要ではないかと思うのでございます。  それからお尋ねの第二点につきましては、これはやはり裁判所に管轄させるということが別に性質上おかしくないと思うのでありまして、裁判所がその場合に若し調べるとしますと、一体その不起訴処分が二百四十八条に基くものであつたかどうかという点を確かめればよろしいので、やはり裁判所に管轄させるのが相当だろうと私は思つております。
  39. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 有難うございました。
  40. 一松定吉

    ○一松定吉君 牽連して一つ私からお伺いしますがね。その起訴した後に無罪免訴になつた場合において刑事補償を求めるという現行法は範囲が狭い。起訴前において検事が不起訴にした、ところが、御承知通りに、犯罪が成立するけれども起訴猶予したがよかろう、或いは情状酌量、微罪等によつてそういう場合がある、それから証拠十分でないのだということで不起訴にする場合、公訴が時効にかかつて、もうそれは公訴を提起すべからずというようなことで不起訴にする場合、或いは管轄違いであつて不起訴にする場合とかいろいろあることは御承知通りでありますが、そのうちの、犯罪が成立しないのだというときと、犯罪が成立するかしないか証明が十分でないのだということであるときは、そういうような事案に対して国家がこの逮捕状を執行して自由を拘束したということについて国家が賠償するというのはこれは当り前だと思うのであります。ところが、そういうようなことになると、結局できるだけ一つこれを証拠を収集して、まあ成るたけそういうことのないようにしようということで、折角自分が拘束したのだから国家の補償がないようにしようということで、非常な合法的の努力ならいいが、非合法的のことで無理にこれを拘束を継続して有罪にしようというようなことが起りはしないだろうかというような虞れがある。そこでそれはよほど重大な故意、過失とかいうような場合ならばそれでいいけれども、そうでないのに国家の刑事補償ということを全面的に認めるということについては相当の制限を加えなければならん、こういうまあ意見があることは御承知通りですが、どの程度で制限を加えて国家が刑事補償の任に任ずるか任じないかというところの区別の標準ですね、どういうところに標準を置いたらようございましようか。二百四十八条の「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」という、この規定があるのですが、この規定を見て、これで気の毒だから拘束はしたけれども起訴にしない、恩恵的な意味を以て不起訴にしたときにもどんどん国家補償を請求するというようなこともできるわけですね。どうしてもその区別の標準を明確にしてやるということが必要ではないか。
  41. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 私が先ほど申上げましたのは、今の起訴猶予の場合以外の不起訴処分は全部含めるべきではないか。言い換えますと、管轄違いという場合には他管送致になつてそちらのほうで起訴なり不起訴なりきまるのですから、それはまあ別論としまして、例えば時効にかかつているというような理由で以て不起訴にするというようなものも本来含めるべきだと思うのであります。ただ現在の刑事補償法との関連におきまして、刑事補償法の二十五条が、この免訴、公訴棄却の裁判を受けた全部ではなくして、若しそれを受けなかつたならば無罪の裁判を受けたであろうという者だけに補償することにしておりますので、これとの関連において限定を加える必要が出て来るかと思います。私はむしろこの刑事補償法の第二十五条も実は狭過ぎるのであつて、若し財政その他の見地を除けて純粋に理窟だけで考えますならば、本来免訴又は公訴棄却になるべきものを起訴したということになれば、これはその点について故意、過失があると否とを問わず国家において補償の責任に任ずるのが本来ではないかとかように思うのであります。従つて本来ならば全然限定なしに起訴猶予の場合だけを除くべきだと思うのでありますが、差当り、刑事補償法の二十五条を前提として考えますと、これとの関連において私は限定をすべきではないか、かように考えております。
  42. 一松定吉

    ○一松定吉君 つまり時効になつた者は起訴すべきでないにかかわらずこれを拘束したとか、或いは管轄権のないのにそれを拘束してやつて、それがために釈放しなければならなかつたとか、或いは証拠不十分であるがために不起訴にしなければならなかつたという場合、或いはもうこれは当然無罪であるというような場合で不起訴にするという場合において、こういうようなときに拘束しておつたがために刑事補償の責任を国家に負わせる、これは異論ない。問題は有罪であるけれども微罪で気の毒だから、或いはその他の事情によつて犯罪が成立して起訴をしなければならんのだけれども、これを起訴するということは本人のためによくないということで同情的にこれを不起訴にしたという場合にもこれを国家が補償の責に任ずるということについては、多少のさつき申上げた無罪とか証拠不十分だとか時効とかいうようなものと同じようなふうな、国家補償の範囲を同一にするということについては不公平であると私は思う。そういう点をどういうように区別し、どういうように緩和したらばよかろうか、こういうことについて御意見を伺つてみたいのですがね。微罪とかいうようなことで犯罪の成立しておるものであるからして、これは逮捕状を出すのはこれは当り前じやないか、けれども同情しなければならん、気の毒だ、だからして恩恵的にこれは一つ不起訴にしてやつておこうと言つて不起訴にした場合と、犯罪がまだ成立しない、もう時効にかかつておるんだ、証拠は十分でないんだということで不起訴にするという場合においては、その国家が同じ刑事補償をするについてもそこに区別しなければならん。どの程度にどのような区別をしたらよかろうかということを刑事補償法の権威者たるあなたの御意見を承わつて参考に供したい、こういうわけなんです。
  43. 団藤重光

    参考人団藤重光君) それはおつしやるところを十分に理解しておらないかも知れませんが、一応ははつきりさせるために二百四十八条による起訴猶予の場合はこれは問題がありますけれども一応全部除く、そうして……。
  44. 一松定吉

    ○一松定吉君 全部除く……。
  45. 団藤重光

    参考人団藤重光君) ええ、刑事補償からは除く。そうして今の嫌疑となり罪となつてこれだけを刑事補償の理由とするということは、これははつきりした考え方ですね。ただ問題は起訴猶予という名前にしながら、実は到底起訴するに足るだけの証拠がない、ただ罪となるとも言えない、罪とならないとも言えない、又全然証拠がないとも言えないので、起訴猶予の名前を借りて不起訴処分にするというような場合があり得るかと思いますので、そこらを神経質的に若し考えるとすれば起訴猶予の場合があつても、これは裁判所に刑事補償の請求をさして、そうして裁判所がその証拠関係を調べるというところまで行くこともこれは可能だと思いますが、これはまあいろいろ技術的な問題が伴つて来ると思いますので……、できれば私はそこまで主張したいと思います。
  46. 一松定吉

    ○一松定吉君 よくわかります。結局証拠不十分の場合も、それで釈放したときには国家が刑事補償の責任を負うということのほうがよかろう……。
  47. 団藤重光

    参考人団藤重光君) そういう意見でございます。
  48. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうすると証拠不十分であつたがために、そのときは不起訴にして国家が補償する、その後に新証拠が出て来て起訴しなければならんといつた場合には、やはり補償した奴を当然返還し得るとかいうような制度をやはり設けなければならんだろう、それはどうするか。証拠不十分であつたがために不起訴にした。従つてここは……。
  49. 団藤重光

    参考人団藤重光君) それはどうでしようか、私は必ずしもそう考えませんので、そのとき勾留をした、起訴前の勾留をしたということが実はそのときとしては根拠はなかつたのですね。だからそのときには若し新しく根拠が生じた場合にもう一度勾留することができるわけでございますね。恐らくこの場合の勾留は、例の二十日という制限をこれは解釈論としても受けないと思うのです。一度そこで不起訴になつて又新らしく事件が起つて来て事件として出された。こういう場合には一度この事件について二十日の勾留期間をすでに使つておるからもう全然勾留の余地はない。こういうことではなくて、新らしく手続が又なにした場合には恐らく新らしい勾留ができると解釈すべきだと思うのです。その半面において併しあとで又嫌疑が出て来たとしても、前に勾留をしたことはこれは根拠のないことであつて、これはやはり刑事補償の理由とすべきではないか……。
  50. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうすると結局捜査能力が十分でなかつたがために、有力な有罪の証拠を挙げることができなかつたので不起訴にした。それからお前はそれだけの、捜査能力が不十分であつて、人の身体を拘束した、だから国家が補償をしろ、それからあとに至つて有力な捜査能力のある人が出て来てその事件を調べた。ところが新証拠があつて今度は拘束しなければならないということになると、初め捜査能力が十分でない人間がそういうことをした、その過失について国家が責任を負うんだ、後に有力な捜査能力のある者が出て新たな証拠を挙げて逮捕したという時分には、もう前のは捜査能力が不十分であつて逮捕したのであるが故に、その責任を国家が負うんだ。あとで捜査能力が十分にある者が出て来て新たな証拠を挙げて逮捕された、而も有罪になつた。それから前のは前で、本当から言うとその能力の十分なものが新証拠を挙げた上で逮捕しなければならないのに、そこまで行かないで、そこで逮捕した。そこでこれをやつたことについて国家が責任を負うのですね。負うという理論になるのですね。
  51. 団藤重光

    参考人団藤重光君) そういうわけです。
  52. 一松定吉

    ○一松定吉君 そこで問題は結局非常にこれはいい議論ですが、国家の財政の問題と関係するね。
  53. 団藤重光

    参考人団藤重光君) ええ。
  54. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうすると今、つまり起訴されて無罪免訴になる者の数は余りそうでもないが、今度はその起訴まで行かないで検事の手の中で不起訴にすると、そうしてそれがいわゆる証拠の十分でない者、犯罪とならない、時効にかかつているというようなものを起訴した、これの拘束したものを起訴にしたという者の数は非常に多いということになつて、国家はそれだけの国費を出さなければならない。但しそれだけの国費を出しても、人権の擁護ということに重きを置いたほうが国家の見地からすれば正しいのだと、こういうようなことになる……。
  55. 団藤重光

    参考人団藤重光君) そういうわけですね。特に現行法程度ならば止むを得ないといたしまして、恐らく現行法のときにもこれがもうぎりぎりの最大限度としてできました二十日という期間であつたものですが、それを更に若干でも延ばすということになれば、これは国家の側においても相当のそれに対する手当もして置かなければならないのじやないか。現行法のままであれば止むを得ないけれども、国家のほうの側において止むを得ず、ここまではどうしても延ばして、延ばさなければやつて行けないということであれば、その半面においてその手当をして置く必要があるのではないか、これは常識論でありますが……。
  56. 一松定吉

    ○一松定吉君 よくわかりました。そういう質問をしておつたのであります。そうしたことによつて逮捕状の濫発を防ぐことができる、こういうことになるのですね。それと同時に逮捕状を慎重に執行し、人権の擁護に力を用いるという、このためにそういう制度が必要だということはよくわかりますね。そこでその反対に国家の補償ということも一つの部分としてよろしいのですが、裁判官をしてその逮捕状を要求するところの犯罪についての一通りの検討を加えて、これならば証拠も備わつておるし、時効にもかかつていないし、犯罪も成立するのだということの一応の認定をして、そうして逮捕状を発行せしむるということで、即ち逮捕状の発行について慎重な態度をとるということになれば、今のそういう弊害は幾分除去することができるわけだね。逮捕状の濫発ということを防ぐためには今言うような国家の補償制度ということを拡大強化することがよろしいということはよくわかる、と同時に逮捕状の濫発を成るたけさせないようにして、一度逮捕状が出たものはなかなか無罪免訴にならないのだというように慎重にこれをやらせるためには、逮捕状を発行することができる裁判官がその捜査の範囲について、完全に判定のできるまでの証拠を集めるなんということは、これは審査も何もしないのだからいけんけれども、一通り調べてこれならば犯罪は成立しておるのだ、これならば時効にもかからんのだというような認定をするだけのことをやればいいのに、今は逮捕状を請求すると、その逮捕係の裁判官がいい加減ことでちよこちよこ盲判を捺して出すということのために、逮捕状は出したが、法定の期間は経過したが起訴はできないでそのまま釈放しなければならないという例が非常に多いのです。その弊害を防ぐために起訴しない前の逮捕ということについての国家が刑事補償をするがよろしいという意見は非常に有力で正しい意見であるが、そういう意見と同時に今裁判官にも逮捕状を出すについて十分な検討を加えさせて誤り少からしめるようにこの刑事訴訟法改正することも必要ではないかと、こういうのです。
  57. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 私は恐らく一松委員と気持の上で全然同じだと思うのでありますが、私の言葉で申しますと、今おつしやいました刑事訴訟法の点と裁判官による抑制という点と、それらの両方が必要だろう。成るほどおつしやるように一方があれば一方はなくてもいいという点が多少あるかも知れませんが、私はそうしたものはどうもそう言つてしまいたくはないのでありまして、仮に裁判官に抑制を認めるとしても、いやしくも起訴前の抑留拘禁として二十八日も身柄を抑えておけるというのだとすれば、これに対する補償というものはあるべきじやないか。成るほど裁判官による抑制ということ、これは私は法理論としては主張するのでありますが、そういうことが通るとしまして、それによつて弊害が抑えられるとしましても、完全に抑え切れるのじや無論ないわけでありますし、私は両方が必要だろうという意見であります。
  58. 一松定吉

    ○一松定吉君 実は団藤先生、政府当局の弁解によると、判事というものは先入主が入つちやいかんのだ、判決をするのに……。だからしてそうその内容を細かに検討をすることを裁判官にやらせるということはよくないから、そこで逮捕状の請求があつたときに、一応これならばというところで出すということにしなければ、十分これをできるだけ調査してみて、そうして出したということになつて来ると、先入主が入るから、その逮捕状を出した被告人に必ず有罪の判決をしなければならないということになつたらば大変だから、今のように十分な検討を加えるという制度になつていないのだという説明を実はしたのです、政府委員が……。その点私は政府委員を攻撃するわけじやないのだけれども、その点についてあなたの御意見を伺つてみたのだが、私の意見も同意見で二本建にするのが一番いいと思つてつてみたのです。
  59. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 起訴前の裁判官に捜査に関する実質を審査させることが裁判官を公平ならしめるために妥当でないという点については、これはもう皆さんも御承知通り現行法でもその手は打つてあるわけでありますから、その点は恐らく理由にならないだろうと思いますね。
  60. 一松定吉

    ○一松定吉君 わかりました。その点についてはよろしいですが、先に進んで行つてよろしうございますか……。これは午前中大分争点となつたまうですが、この百九十三条の一項の後段を次のように改めるということについて、この改めるということと、現行刑事訴訟法の百九十二条の成るほど文句は違うけれども意味においてどこが違うのかということを午前中大変問題にして政府委員もわけがわかつたようなわからんような答弁をしたのですが、これはどうでしようか。現行法と百九十三条の改正の「この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。」ということと、現行法の「この場合における一般的指示は、公訴実行するため必要な犯罪捜査の重要な事項に関する準則を定めるものに限られる。」ということと成るほど言葉は違うようだけれども、内容はそう違わないように思うのだけれどもね。この現行法をこういうように変えることとどこに相違点があるだろうか。
  61. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 同じように解釈する余地も十分あるだろうと思いますが、併し又違つたよう解釈する余地もこれ又全然ないわけではないので、要するにこの改正案の書き方がどうも私にもよくわからないのであります。言換えますと……。
  62. 一松定吉

    ○一松定吉君 これが現行法通りにしおくと、なかなか疑問が多いのだから、その疑問を解決するためにこういうような改正をするのだという意味の提案理由の説明のようでしたが、私ども言葉は違うけれども内容は同じように思うので、先生の意見を聞いてみたわけなんです。
  63. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 現行法解釈としまして、これは私前から言つているのでありますが、「公訴実行するため必要な」というのは、相当広い範囲に及ぶものであつて公訴実行するためには、その限度において捜査が適正に行われるということも必要になつて来るのでありますから、捜査を適正にするということも現行法解釈として、その限度においては、その公訴実行するため必要なとある限度においては当然に入つて来ると思うのであります。恐らくそこいらの細かいニユアンスにおいて検察当局と警察当局との間で恐らくそのとり方の違いがあるのじやないかと思うのでありますが、私が今申上げましたようにかなり広きに亘つておりますので、そういうように見ますというと、捜査を適正にするという文句も、公訴の遂行を全うするために必要な限度であれば、現行法に入つて来るのであつて、その限度においてはこの改正案は別に現行法の範囲を拡げておらない、又これを明らかにしたものであるというふうにとれると思うのでありますが、併しながら又「捜査を適正にし、その他」という例示の使い方をしておりますが、「公訴の遂行を全うする」ということを離れて捜査を適正にするということも、そういう面も考えられないわけではないのでありまして、そうするとここに「その他」という文句が成るほど使つてありますけれども捜査を適正にするというようなことが公訴の遂行を全うするための必ずしも内容でなくて、これからはみ出て、捜査を適正にすることを、それ自体として取上げているようにも解されるのであります。例えばこういう規定ができた結果、警察に対する報告義務をこの準則によつてきめる。それによつて一般のいろいろな情報を集める、こういうようなことができるようになるかどうか問題でありますが、この公訴の遂行を全うするためということを離れて考えて見ますと、恐らくそういうことまで行き得るのじやないか。で、これが或る意味から申しますと、現在の極端に地方分権化された警察制度に対して、こういう形で以て或る程度検察官介入によつてこれをまとめて統一的な機能を持たせるということに意味がなつてはならないのでありますが、それはむしろ警察法自体の問題であつて、むしろ現在の警察改正の方向では、私どもの考えているよりはるかに一気に飛び越して、而も非常なる中央集権的なものに持つて行こうとするかのように私承わつているのでありますが、若しそうなればなお更のこと、検察官によつて司法警察職員を統制するという必要は非常に少くなつて来るのじやないかと考えます。
  64. 一松定吉

    ○一松定吉君 いやその程度で結構です。そこでその次の現行法では百九十八条の二項、「あらかじめ、供述を拒むことができる旨を告げなければならない。」とある。それを「自己に不利益な供述を強要されることがない旨」、こういうことに改めようということです。私の考えでは現行法のほうがいいと思うのです。なぜかというとお前さんはこれから尋ねることについて供述を拒むことができるぞということを告げるというと、自分で不利益と思えば供述を拒むし、或いは不利益でないと思えば供述を拒まんでやるし、その調べられる人の任意に任せられているのが現行法です。ところが今度のような「自己に不利益な供述を強要されることがない」ということになつて来ると、その調べられておる人間が、これを不利益だと思つて供述をしないような場合でも、君は不利益だと思つておるけれどもそれは君が供述することが利益だよ、君の言うことは不利益じやないのだよということについて、利益、不利益ということの判定がお互いに相違する場合強要されることがあるのです。お互いに意見相違する場合に改正されたことによつて強要されたということになると、自白は強要しない、本人の任意の自白と反対の結果となる。現行法ならばあらかじめあなたは供述を拒むことができますよと被疑者に対して……。だからして私はもう供述を拒みますと言えばどうしても供述を拒むことができる。ところが不利益なことだけの供述を拒むことができますよということになつて来ると、自分は不利益だと思うから供述を拒みますと言う、調べられる人間は……。調べるほうは不利益じやないよ、だから言えとこういうことになつて来て、自由なる供述を妨害されるというようなことになろうと思うのだが如何でしようか、その改正することによつて……。
  65. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 全く一松委員と同意見であります。
  66. 一松定吉

    ○一松定吉君 これはまあ恐らく裁判官とか検事のほうでこういうように改正せんと、事実の審理に支障を来たすとかいう意味だろうと思うけどね、併し被疑者に対しては黙秘の権利がある以上は、お前に不利益なことだからこのことだけは供述を拒んでもいいけれども、利益のことは言わなければならん。お前は言うことを拒んでいるが俺は利益だと思うから言えと、こう言つてつて来ると思うのですから、これはやつぱりどうだかと思つております。今私の考えと先生の御意見が同じであるということで私は結構です。余り私一人で聞くといかんから……。
  67. 楠見義男

    ○楠見義男君 団藤先生に二、三憲法との関係の問題についてお伺いしたいと思うのですが、憲法との関係について先般御意見を拝聴しましたのは憲法三十四条とそれから勾留の理由開示の点、それが一つと、それからもう一つは二百十九条の二でありましたか、差押緊急処分における憲法第三十五条との関係についてお伺いしたいのですが、そこで先ず最初に憲法三十四条との関係において、被拘禁人の意見陳述の機会を奪うかどうかの問題。そこで先生の御意見では少くとも勾留に関する点だけでも意見陳述さすべきじやないか、こういうような御意見を拝聴しましたが、憲法の三十四条ではこの理由の開示だけを要求しておるので、意見陳述というものは強いて憲法は要求しておるものではない、こういうような一方に意見があるわけです。そこでそういう意見がありますが、にもかかわらずそれは先生の言われるように、憲法の条章に違反する虞れがあるという点についての詳細な説明は実はお伺いする機会が時間の関係でなかつたのであります。その点について一つお伺いしたいのですが……。
  68. 団藤重光

    参考人団藤重光君) これは憲法の解釈についてどういう態度をとるかという根本問題に関連して来ると思うのであります。憲法の規定文字通りにとるか、或いは更にこれをその歴史的な、沿革的な背景の下において理解するかというこの二つの態度、どちらをとるかという点でありますが、若し英、米法における沿革的な背景を考えないといたしますならば、例えば憲法三十七条第二項の解釈においても、伝聞証拠の証拠能力を否定するということは必ずしも必要でないというような議論も起つて参るのでありましよう。そのほかいろいろの点において、若し沿革を考えないで規定をそのまま文字通りに受取るということになれば、いろんな点にこれは大きく波及して来ると思うのであります。で私はやはり憲法全体の建前から見まして、憲法の各条章は沿革を離れては理解できないのじやないかという考えを持つのであります。そこで問題の三十四条について考えてみますと、成るほど文字から申しますとただこれだけのことでありますが、これが英、米法におけるヘイビアス・コーパスの制度に由来するものであるということは恐らく反対論者といえども全然これを否定するものではないと思うのであります。ヘイビアス・コーパスの制度と申しますのは、裁判所が人身保護令状を発して拘禁者に被拘禁者を裁判所に連れて来させまして、そうしてそこで拘禁者にその理由を述べさせて、若しその理由があればそのまま拘禁を認め、理由がないことがわかれば即座に釈放する。こういう制度でありまして、これはその法廷において被拘禁者にその言い分も聞くということを当然の内容としているもと理解されるのでありますが、両方の言い分を聞いた上で、その理由の有無を確めて、なければ直ちにこれを釈放する、こういう制度であろうと思うのでありますが、かような見地からこの規定を理解いたしますと、本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で理由を示すという規定になつておりますことが十分に理解されると思うんですが、若しそうでなくして、単に理由だけを一方的に告げればよろしいというのであれば、これを特に弁護人の出席を憲法で規定して而も公開の法廷でこれを示させることにしている理由がかなり薄弱になつて来るのじやないか。ただ理由を告げるためにそれだけのことを要求しているとはどうも受取りがたいのであります。でそのようにして私は意見陳述を被拘禁者に対して許す、これは何も勾留理由開示を請求した請求者全部についてこれを当てはめるのではありませんが、被拘禁者本人について意見陳述を許すということが、かような沿革を考え、又この文字を合理的に解釈するときは、当然に出て来るところの憲法上の要請であろうと思うのであります。で意見陳述が憲法上の要請であるとすれば、これは口頭で意見陳述させなければならないということは、これ又反対論者も否定しないところだろうと思います。反対論者の根拠は、およそ意見陳述をさせる必要はないということから、それならば書面で意見を述べさしてもよろしい。こういう論理でありまして、若し意見陳述が必要だというのならば、公開の法廷でこれをさせる以上は、口頭でなければならないことは、これは反対論者も当然認めるところであろうと思いますが、で、私はこの三十四条の後段解釈として意見陳述を当然に要請している。従つてこれは口頭でなければならないというふうに考えます。
  69. 楠見義男

    ○楠見義男君 わかりました。それからその次の憲法三十五条との関係で差押緊急処分の問題なんですが、御意見を伺いましてからだんだんとあとで政府委員のかたとの間に質疑も交わしたんですが、結論としてはこの差押緊急処分は、憲法における公共の福祉の問題との関連においてこれは憲法違反ではないというような、公共の福祉に関連しての答弁でございました。ところが先生の御意見を伺つておりまして、その御意見の中に、この刑事局で作つた逐条説明では出入禁止もできることになつておるという点を特に取上げての御説明があつたんでありますが、出入禁止という点を憲法違反の重点にしておられるのか、或いは出入禁止の問題については、刑事局のほうもこれは文字としては少し強過ぎたというような釈明もせられておりましたが、出入り禁止というようなことをせずに、遠くで看守つているという程度であるならば、憲法違反の疑いはないのか、その点が一つ。それから仮にその場合でも三十五条に違反の虞れはあるが、併しこれは先ほど申上げたように、公共の福祉という観点から、本条は三十五条に要求している以外のことをきめても、そこはいいのだという場合には、公共の福祉にこれが当るかどうか。この被疑者の或いは犯罪の証拠物件のようなものを押えることが公共の福祉に関連をしているかどうか。多少のギヤツプがあるように思うのですが、御意見を伺いたい。
  70. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 公共の福祉という観念自体は、これは恐らく学問的に申しますと、非常にむずかしい観念であつて、例えば安寧、秩序、或いは公安、公けの秩序といつたような観念ではなくて、まさしくこの公けの福祉が、これが公共の福祉であろうと思うのであります。今の二百十九条の二のような規定を設けなければ、社会的な秩序の維持の上で困難を感ずるということが、公共の福祉という観念に果して当るであろうかどうか、私は非常に疑問に思います。のみならず仮にそれが公共の福祉であるといたしましても、そういう観念の中に広くひつくるめて考えられるといたしましても、憲法の解釈といたしまして、御承知通り例えば憲法第二十二条の居住でありますとか、或いは職業選択でありますとかの自由については、これは「公共の福祉に反しない限り、」ということが、特に明文で以て規定されております。若しこういう規定がない場合にも、公共の福祉で以てすべて基本的人権を制限し得るということになりますと、第一憲法の文字解釈から申しましても、非常に大きな制限になると同時に、実質的には公共の福祉に名を借りて、何でも制限し得るというような極めて危険な傾向が出て来ると思うのであります。ですから私は今の場合には、恐らく公共の福祉の問題では説明できないと思うのでありますが、仮に公共の福祉であるとしても、憲法論としては到底とることができないと考えております。併しながら私がこの前これについて違憲の疑いがあるということを特に申しましたのは、御指摘の通り刑事局の逐条説明書の御説明を根拠としたのでありまして、この場所を看守するということが、出入りを禁止するのみならず、更にその物自体が他に移動したり滅失しないように看守をし、その危険を制止することができると、こういう解釈をこの逐条説明書はとつておりますので、そうなればそれは一時的にもせよ、物の上に国家が管理を取得した、占有を取得したということになるのじやないか。それはやはり一種の差押ではないか、かように考えたのであります。併しながらこの法案規定において、物を看守するというという言葉を特に避けて、わざわざその場所を看守するという、一見あいまいでありながら或る意味では慎重な言葉を使つておりますが、私自身の解釈としてはこの刑事局のようなところまでは到底認めることができない趣旨である。せいそれその家を遠くから取巻いている趣旨であつて、その中に入つて来て例えば押入れなら押入れを看守するということならば、これは憲法に反するということになりますから、恐らくは憲法三十五条の住居の立入等に触れない限度においてその周りを取巻いてただ見ていて、出入は必ずしも禁止できない、ただ事実上或る程度の働きを持つであろうという程度であつて法律的な拘束にはならない。かような解釈をとれば私は憲法三十五条に直接触れるものだとは思いません。ただこれが非常に濫用の虞れがあるのではないか。その濫用の虞れの結果、三十五条或いはそれ以外の十三条等の一般的な規定を害する虞が多分にあるのではないか。今の解釈によれば直接に違憲の問題には私はならないと思うのですが、運用において違憲的な弊害を生じやしないかという心配があります。
  71. 楠見義男

    ○楠見義男君 そういうふうに問題が出入禁止という点に重点が置かれて、今先生のおつしやるように、遠くから看守つておるという程度のものであるならば、これは事実行為として特にこういう規定がなくても、私は詳しいことは存じませんけれども、できるのじやないかというような気がするのですが、そうすると特に本条を設ける趣旨が積極的な強い意味がなくなつて来るのじやないかというふうにも常識論的にも思うのですが……。
  72. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 例えばこれが店だつたといたしますと、その廻りを巡査が取巻いたりしておりますと、これは業務が妨害されるわけであります。そういう場合にこういうことがはつきりできるという規定がございますと、それは法律で以てはつきり認められておるのであつて、別に職権濫用にも何にもならない。そうでない場合には職権濫用の問題にも触れて参りましようし、業務妨害の問題にも関連して参りましようし、いろいろ疑問が出て参るのでありますが、こういう規定があればこういう疑点を避けると言える。それはまさにそういうふうな弊害があるということを同時に意味するわけで、私はこの規定の置かれておる意味は認めるのでありますが、同時に弊害を非常に心配するのであります。
  73. 楠見義男

    ○楠見義男君 それからもう一つはこれは御質問じやないので、一度御説明を煩わしたことをもう一度御説明を煩わすので甚だ恐縮なんですが、その理由を聞き洩らしたので、丁度こういう機会で甚だ申訳ないのですが、権利保釈の七号の場合の「氏名及び住居」とあつたのを「氏名又は住居」とする。先生の御意見は住居が不明のときだけでいいじやないか、こういうような御意見を伺つたのですが、その点の御説明を聞き洩らしたので甚だ恐縮ですがもう一度……。
  74. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 氏名及び住居の両方が不明の場合に限りますと、住居のわからない場合には当然放してしまわなければならない。そうするとこれは召喚するのに召喚状の送達もできないのであります。これは無理であります。問題の要点はこの「及び」を「又は」に改めましたのは、主としてこの住居の不明な場合にあるのではないか。住居がわかつていても而も本人が現にいるのでありますから、これは仮に氏名がわかりませんでも、そのほかの点で十分に確定され得るもので氏名の点はなくていいのじやないか。逆に申しますと、住居も何もわかつているけれども氏名だけが黙秘されていてわからない、かような場合に権利保釈の例外にすることになると、これは行過ぎではないか。「及び」そのままならよいのでありますが、「又」に直すくらいならば、或いは住居だけがわからないという場合をこれに入れますのが果たしていいのかどうか。私は実務についてはよく知りませんが、恐らく氏名を黙秘するくらいならば住居だつてどうせわかりませんでしようし、そんなに違いはないと思いますが、抽象論として、机上論で考えてみますと、氏名だけがわからない、住居はわかつていて、氏名はほかの点で確定されるという場合を権利保釈の例外にするということは理解できない、こういう意味でございます。
  75. 郡祐一

    委員長郡祐一君) なお、楠見委員の件と共通の点で一点伺いたいのでありますが、この前のご意見のときにはお触れにならなかつたと思うのでありますが、百五十三条の二の証人の一時留置の規定でございますね。改正の百五十三条の二の「勾引状の執行を受けた証人を護送する場合又は引致した場合において必要があるときは、一時最寄の警察その他の適当な場所にこれを留置することができる。」この規定が憲法三十一条の法律の手続の保証と考え合せまして、憲法に違反するような疑はございませんでしようか。如何でしようか。
  76. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 憲法三十一条の規定というのは非常にむずかしい規定でございまして、仮にこれが英米法のいわゆる法の適正な手続の条項を規定したものであるとして考えて見ます場合に、英米法自体においてこの運用は非常にむずかしいことになつておるのであります。結局はそれが内容的に合理的であるかどうか、正義に合致し、且つ合理的であるかどうかということが大体の基準になるのでありまして、どうもこれをはつきりと限界付けた判例或いは著書を私は知らないのであります。従つて今のこの問題につきましても、非常に問題がむずかしいのでありまして、私到底自信のある答えができないのでありますが、ただ実際の必要から見まして、遠くから証人をどうしても引張つて来なければならないという場合も想像されるので、そのような場合にこれを留置するそれぞれの場合において、これを警察署に限定しないで適当な場所に留置するということは、一方においてかような規定の適用を受けるのに証人が進んで召喚に応じなかつた。正当の理由なしに召喚に応じなかつた場合に限るのでありますから、それやこれやを考え合せまして、私は直ちに憲法三十一条に触れるとまでは考えておりません。但し触れないということを自信を以て申上げることもいたしかねます。
  77. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 少年法、犯罪少年対策についても先生は御造詣が深いのでございますが、私は少年に関しましてちよつとこの条文で、大体でございますが、政府に質問いたしましたけれども、ちよつと釈然としないものがございます。二百九十一条の二の簡易公判手続のところでございますね。これは被告人が少年でございますような場合にこのままでございますというと、非常に少年に不利になるような場合はございませんでしようか。そこで保護者の同意がある場合に限つて簡易公判手続によつて審判ができるというように特例を設けたらどんなものでしようか。その必要はございませんでしようか。  それからいま一つは同じ連関した問題でございますが、第三百五十九条の上訴権の放棄につきましても同じにやはり被告人が少年でございますときには、保護者の同意を要するという念を入れましたほうが如何であろうと思うのでございますが、先生の御意見如何でございましようか。
  78. 団藤重光

    参考人団藤重光君) これはむずかしい問題でございますが、少年法の根本の建前から申しますと、成るべく刑事事件に廻さないで保護処分で済ましてしまうというのが根本で、いよいよ止むを得ない場合に刑事処分に来る。それについて少年法二十条の前提が無論ありますわけで、十六才以上になりませんと刑事手続も行わないわけでありますが、十六才から二十才未満の少年につきまして、刑事訴訟法としましては三十七条で以て被告人が未成年者である場合に弁護人がないときに、裁判所が職権で弁護人を附することができるとありまして、これは必要に応じて少しでも問題がありそうであれば、これは恐らく弁護人を附けるのではないか。でそこらの裁判所の運用がどうなりますか。そこらに非常に関係して来るのでありますが、弁護人が附きましての場合であれば、恐らくこの簡易公判手続によりましても大体弁護人のほうで十分に考えてやるのじやないかと思うのでございます。これは運用の見通しの問題でありまして、恐らく少年で到底保護処分では無理だというよたな場合でありましても、事案そのものとしては極めて簡単なはつきりした、強盗殺人とか、強盗殺人などはこれには入りませんが、これに入るようなものでも非常に事案としてははつきりしているというようなものが考えられますので、少年を一概に除外してしまうということが最初の出発点としてよろしいものですか、どうですか。これも心配の点はよくわかりますが、これはまだ新らしい試みでありますから、一応これで出発して、問題になりそうな場合にこれを改正するのでも必ずしも遅くないのじやないか。裁判所が要するに見ていてやるのでありますから、まあ一応裁判所を信用してかかつていいのじやないかと思うのでございます。で、この簡易公判手続をきめますのに、必ず弁護人が要るような場合だけに限定するような考え方もあつたのでありますが、弁護人が要るような、どうしてもいなければならない事件となりますと、これは事件としてはむしろ複雑な事件になつて参りますので、一番簡単明瞭な事件だけをこれで行こうという趣旨でありますから、そういう点から必ずしも弁護人の要る事件にはこのあれを限定しないのだろうと思いますが、そんな点から見まして恐らく一時これをこのままでやつてみて、そう大した心配はないのではなかろうかと思います。  それから第二点につきましては、これは上訴の放棄が新らしく上訴の取下に附加えて入つたのでありますが、現行法の上訴の取下そのものについても問題は同じと言えば同じなんでございますね。若し法定代理人等があります場合には、法定代理人等からも上訴の取下ができるわけで、殊にその法定代理人が上訴を取下げるという場合には、これは本人の同意を必要とする。その上訴の取下に対しましても、それらの法定代理人等がこの規定では上訴の放棄もできるわけでありますが、上訴放棄をします場合にもやはり被告人の同意を必要とするわけであります。要するに法定代理人がある場合でありますと、これは法定代理人と被告人とがいつも一緒になつて考えられておりますので、法定代理人があるような場合ならば先ずこれは問題は余りないのじやないか。法定代理人がないような場合にこれをどのように考えますか。恐らくそういう場合でありますと、これ又弁護人も国選弁護人を職権で以て附けることができるわけでありますし、そういう方面で実質的に考えて行けば恐らくいいのじやないかと思うのであります。これは見通しの問題でありますから、私は自信を以ては申上げられないのでありますが、一応まあこれで通しておいて問題になりそうなときに、そこで変えればいい程度じやなかろうかと思うのであります。
  79. 宮城タマヨ

    宮城タマヨ君 どうせ保護処分になりませんような、刑事処分を必要とする少年で家庭裁判所から逆送される者でございますから、相当な者には違いありませんけれども、併し初犯者ならば罪は相当でございましても、やはり取扱い方に妙味を要するところがあるように思つております。やはり判事さんのほうで非常に御理解を持つていれば、必ず弁護人を附けてくれるようにはなると思いますが、それに外れましたような者、やはり裁判の空気になじまない、何と言いますか、十分に熟慮をする遑のないうちに何もかも手続を済ましてしまうということがございますと、この少年の前途に非常に悪影響を及ぼす結果になるし、そこはやはり保護者の同意を得るということにつきましては両方の条文につきましてありますが、保護者に責任を負わせるという意味においても私は必要じやないかという点からこういうことを今ちよつと伺つているわけであります。先生のおつしやることはよくわかりました。
  80. 一松定吉

    ○一松定吉君 ちよつと最後に先生に伺いますが、先生が特に刑事訴訟法等を御研究になつているその結果、若し現行刑事訴訟法は、こういう点を改めなければならんというようなお考えのある点が大分私はありはせんかと思いますが、そういう点がありますれば、この際その概要だけを一つお示しを賜わると、本当に刑事訴訟法改正に関して私どもとして有力な参考資料になろうと思いますが、如何でございましよう。
  81. 団藤重光

    参考人団藤重光君) これは大変難問でございます。
  82. 一松定吉

    ○一松定吉君 難問でございますけれども、あなたが今日大学で講義をなさつているところで、この点はこういうふうに改正したほうがいいなと思つていらつしやる課題が相当あるだろうと私は思つております。それを全部というのじやありませんが、この点だけはこれは急に何とかして置いたほうがよくはないかと思つているような条文がありますならば、この際お示しを賜わると……。
  83. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 今まで各方面から出ておりますものがまあ法制審議会にも資料として提出され、それらのものからだんだん問題を拾い集めてそれが固つて来たわけでございますが、その最初に拾い集められましたもの以外に、特にこの点というような点はございませんけれども、大体最初に同点でありますか、これはたくさんの論点が各方面から拾い上げられておりますが、大体その範囲内の問題でございます。
  84. 一松定吉

    ○一松定吉君 これ資料御覧になつて……、刑事法部会で採上げることを決定した問題点で、一から三十四までありますが、この題目だけ読んで下さつて結構でございますが、又この程度ならばということであれば、よくわかりますから……。
  85. 団藤重光

    参考人団藤重光君) これは承知いたしております。採上げることを決定しませんでした、留保されていたものももつとたくさんあつたように、私は記憶違いかも知れませんが、思つております。採上げられませんでしたのは、例えば訴因の問題でありますとか、或いは証拠固めの問題でありますとかいうような問題、この問題は大き過ぎて差当りすぐにこれを採上げることが妥当でない、大問題として将来に残そう、こういうふうなものがございます。或いはそれ以外に……。
  86. 一松定吉

    ○一松定吉君 それを承わりたいのですが、これはここで二、三時間でできませんから又の機会でよろしうございます。
  87. 楠見義男

    ○楠見義男君 団藤先生に一点だけお伺いしたいのですが、第百九十三条の一般的指示の問題なんですが、これは御承知のように、検察と警察側のほかにいろいろ権限の問題に関係してまあデリケートな問題があることは御承知通りだろうと思います。これは現行法にも一般的指示という言葉があり、それから改正法においても同じく一般的指示という言葉には変りはないようであります。具体的な問題として起りましたのは、破防法捜査について事前承認を求めるようにということが検察側から出された。それが一般的指示に当るかどうかということが、実はまあ非常に問題になつたのであります。それで本日も午前中にその点について政府側、又は提案者側及び法制局意見も伺つたのですが、ところが破防法違反事件のように各地に起る問題については、個々ばらばらにやられたのでは実は困るので、事前によく連絡をとつてもらつてやらなければ困るのだと、そういうようなことで、検察側の御趣旨はよく了解できるのであります。ただ現われたこの百九十三条の法文上の文言ですね。一般的指示という言葉にそれが当るかどうかということについてはだんだんと突き詰めて行つた結果、これは百九十一条、二条等の協力義務とかいろいろなことがあつて、それから引続いてこの百九十三条に来ている問題であつて結論としては具体的な破防法違反に関する事前承認の問題は必要止むを得ざるものであると同時に、一般的指示のこの限界以内、まあすれすれであるが、限界以内に属するものであると、まあこういうような御説明であるわけなんです。そこで疑問として考えますことは、そういう具体的な犯罪に関する捜査というものが一般的指示に入るのか。言葉を換えて言いますと、犯罪一般についての指示と、こういうような意味なのか、或いは破防法のように、事柄の重要、軽重度合の問題がありますが、破防法について一般的に指示したと、こういうような意味一般的指示であるのか。この文字解釈としてどのようにお考えになつておりますか。これはこの時間の関係で十分御説明頂けなかつたのですが……。
  88. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 一般的指示という言葉だから、恐らくその点ははつきりした結論は出ないと思うのでございますが、むしろこの準則という言葉からその点のけじめを付けなければならんと思うのでありますが、準則ということになりますと、具体的な或る事件について準則をきめるということはおかしいので、或る種の事件ということになればこれは可能であろうと思います。従つて破防法事件一般についての準則ということであれば、これはその点だけに一般的ということに入るかどうかという点だけを述べますと、これは入るのじやないだろうかと思います。
  89. 楠見義男

    ○楠見義男君 そうすると、例えば多衆の暴力犯といいますか、そういうものについて一般的な準則というものは可能だと……。
  90. 団藤重光

    参考人団藤重光君) 可能だろうと思います。
  91. 郡祐一

    委員長郡祐一君) それでは団藤参考人に大分長い時間御質疑いたしましたのでこの程度で……。いろいろ有益なお話を承わりましてどうも有難うございました。  それでは次に島田参考人にお願いいたします。大体三十分程度御意見の御開陳を願いまして、その後三十分程度御質疑申上げたいと思います。本日はどうも御多忙のところ時間をおさき頂きまして誠に有難うございました。厚くお礼を申上げます。
  92. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) 私は先日衆議院のほうで意見を申上げましたので、大体趣旨は同じことを申上げることになりますのですが、その点は悪しからず御了承をお願いいたします。  このたび刑事訴訟法改正案が提案されておりますが、その中にはいろいろのものが含まれておりまして、改正の方針を一口で言い切ることは到底できないのでございます。その中には占領行政中の行き過ぎ是正の意味のものもあるように見受けますし、又旧刑訴への逆行を偲ばせるものもあるようであります。又新らしい制度をとり入れたように見える点もありますし、単に手続の簡捷を図つたというようなものもあるようで、内容はいろいろであります。これを大別しますと、私の見るところでは改善する案と改悪の案とが、二つがあるように思うのであります。  改善案として第一に挙げたいのは、現行法の百九十三、百九十九条の改正であります。この改正は、警察権限を制限して、検察の権限を拡大するものであるように誤解され、新聞紙上で見ましても意見対立しておるように見受けますが、これは各機関権限の拡大や縮小を意味するものではなくして、現行法意味を明確にするに過ぎないものではないかと私は考えておるものであります。言うまでもなく憲法は過去の中央集権的な官僚的独裁政治形態を排斥して、地方分権的な民主的責任政治を建前としておる次第であります。従つて基本的人権を侵すことのできない永久の権利に持ち上げて、これと同時に国民はこれを濫用してはならない、常に公共の福祉のために利用する責任を負わされておる次第であります。この憲法の精神は刑事訴訟法の第一条に殆んどそのまま受け入れられておりますし、警察法の第一条にもやはり警察立場からこの憲法の精神がそのまま受け入れられておるように思うのであります。そのほかあらゆる法令の面には公共の福祉と個人の人権との調和ということが生命となつて流れているように思うのであります。ところが憲法が布かれて五年を経過する間に、いつの間にかこの調和が破れんとしている憾みがないでもないのであります。憲法の保障する人権がややもすれば警察権によつて蹂躙される危険を感ずるようになつたように思うのです。これは単に時代の流れとして傍観すべきものではないと私は考えます。私は警察関係の諸公が火炎びんやピストル弾の中を潜つて個人の人権や公安の維持に当られる犠牲的精神と勇敢なる行動に対しましては心から感謝を捧げるものであり、又その労を多とするものであります。併し他面において職務に忠実の余りといいますか、又は多数警察員中の少数者といいますか、警察の責務に反する行動に出る者もないとは言えないのでありまして、この点は誠に遺憾とするものであります。この風潮を放任するにおきましては、過去の警察国家に逆転する危険が多分にあると考える者であります。この意味から刑事訴訟法の百九十三条一項後段、百九十九条三項、四項の改正には私は賛成いたす者であります。  百九十三条の一項後段は、前段の一般的指示権を受けまして、「この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。」かように改正案ではなつております。この捜査を適正にすることは公訴の遂行を全うするために行われるのであつて両者別個のものではないと考えます。捜査権は公訴権の一部である、捜査に触れないで公訴の遂行を全うするということは、これは不可能なことである。従つてこの改正によつて警察職員の捜査第一線主義が変更されるものとは解せられないと思います。この改正は、一般的準則の範囲を明確にしたものに過ぎないのであつて、実質的内容の改正とは考えておりません。なお現行法の百九十三条二項によりますれば、検察官司法警察職員に対して捜査の協力を求めるために必要な一般的指揮をすることができ、第三項によれば検察官みずから犯罪捜査をする場合には警察員を指揮して捜査の補助をさせることができることになつております。この一連の規定を見ますと、司法警察員は検察官から独立して捜査をするのではなく、検察官一般的指示又は個別的な指揮を受けて捜査を行うのであります。捜査という困難な仕事は警察職員だけで行えるものでもなく、又検察官だけで単独で行えるものでもないのであつて両者協力一致して初めて完遂されるものと考える次第であります。  百九十九条の三項、四項の改正検察官警察職員に対する一般的指示並びに個別的な指揮権を明らかにしただけで実質的な改正とは受取れないと思うのであります。百九十九条の第一項は逮捕状に関する規定であつて検察官警察員は裁判官の発する逮捕状によつて被疑者を逮捕することができることになつております。第二項には逮捕状は検察官警察員の請求によつて裁判官が発することを規定しております。これによりますと、検察官警察職員もおのおの独立して逮捕状の請求ができるのでありまして、この規定だけを見ると、警察員は検察官から独立して捜査ができ、独立して逮捕状の請求ができる。併し今申しますように、検察官警察員に対して捜査に関する一般的指示権並びに個別的指揮権があるのでありますから、この指示権を行使して逮捕状の請求についても警察員に指示を与えることができねばならんと思うのであります。これは検察官指示権を有する当然の結果であると思うのであります。尤も現行法には検察官警察員に対して一般的指示権規定しているだけで、みずから捜査をする場合のほかは個別的な指揮権を認めてはいません。併し検察官はその管轄区域で一般的指示権を有するだけで、個別的な指示権を有しないとする立場は到底了解できないところであります。検察官捜査権の主体であることは、これは言うまでもないのでありまして、検察官がこの捜査権に基きまして、例えば微罪は捜査しないように一般的指示を行なつたのにかかわらず、警察職員が微罪の捜査をした場合に、検察官はこれを如何ともなし得ないでありましようか。又強窃盗罪は厳重に捜査せよと一般的指示をしたのにかかわらず、警察員がその捜査をしないような場合が仮にあつたとすれば、この場合に検察官は何もしないで傍観するに過ぎなかつたならば、治安は紊れてしまうと思うのであります。一般的指示ができるという以上は、個別的な指示も当然できなければならない。反対に個別的指示ができるのであれば一般的指示もできねばならんのであります。そうでなかつた検察官一般的指示権は骨抜きになつてしまうと思うのであります。例えば人類を愛せよと命令されたから人類は愛するが、個々の人間は愛しないというのでは、この命令は無価値な命令になります。であるから一般は個別を含んでおると思うのであります。一粒々々の米を除いて米一升というものはあり得ないのである。従つて検察官一般的指示権がある以上は、個別的な指示権は当然認められねばならんのであります。ところがこの現行法の百九十九条二項は、「逮捕状は、検察官又は司法警察員の請求により、これを発する。」と規定して、この警察員と検察官両者の間には連絡がなく、おのおの独立して逮捕状の発行を請求し得るように規定したために、逮捕状の発出請求については検察官指示権を有しないかのように解せられるのは、これは誤りであると私は思うのであります。これはかように解することは大変な誤解で、現行法の百九十三条は、明らかに検察官警察員に対する捜査一般的指示権を認めているのでありますから、捜査のために行うところの個別的な逮捕状の請求についても指示権を行使してよいわけである。改正案の百九十九条に、「司法警察員は、第一項の逮捕状を請求するには、検察官の同意を得なければならない。」というのは、検察官指示を受けなければならないというのと同じ意味であつて指示と言つても、同意と言つても、その内容に違うところはないと思うのであります。一般のかたがたは、逮捕状を示すのは裁判官であるから、裁判官のほうで逮捕状の発出について十分な吟味をすればこれで足りるではないか、裁判官のほうで果して逮捕状を出す必要があるかどうかを調査して出せばよいではないかという意見もあるようであります。併し裁判官は捜査権がありませんから、逮捕状を出すことの適否を自分で捜査する手がないわけであります。結局請求者の言い分を聞いて、これを信用するほかにはないわけであります。尤も先ほど団藤教授に御質問がありましたように、これが法律上罪となるかならんか、或いは時効にかかつておるかどうかというようなことは、こういうことはまあ万が一にもないので、殆んど具体的な事実の問題であります。例えば、某選挙運動者は誰々候補者から選挙運動の報酬として金員の供与を受けた嫌疑事実と、こういうふうに書いて出されるのでありますが、その法律問題については何ら疑問はないのであつて、ただそういう嫌疑が果してどの程度あるか、かように嫌疑をかけることが適切妥当であるかということが問題である場合、かような場合が専ら多いのであります。こういうことにつきましては、やはり捜査権のある検察官が判断するのが最も適切であつて、裁判官のほうでは、そういうことについては請求者のほうで言つて来るのを信用して令状を発出するよりほかはないというのが現状であります。アメリカでは、警察員は捜査を専ら行い、検事はその結果に基いて裁判所に対して公訴権を行使するということになつておるのでありますが、日本では未だ警察員が独立して捜査権を行使するほどに発達していないと思うのであります。尤も警察員を養成されるかたがたは、非常に熱心に十分な教養を与えておられるとは考えますが、何分にもその修習期間というものは短く、又教育の程度も低い人が多いために、一般に見てこの重要な捜査権を警察員が独立して行うということにはまだ相当期間を要することと考えるのであります。警察員が捜査をするには検察官の指揮を必要とするということが現状であつて、これは刑事訴訟法にこれを明らかにしておる次第であります。刑事訴訟法改正されたからといつて改正前の警察員や検察官がそのまま居座つている現状においては、法律改正されたから人間の素質も直ちに変つたということは到底言われないのであります。これはやはり悪い風もあり、良い風もありましようが、警察にも、又検察の方面にも、いい傾向と悪い傾向はあるのでありまして、これは前の人から順次引継がれておると考えられるのであります。司法警察員の捜査、特に逮捕状が往々にして濫用せられるということは、我々のしばしば耳にするところであります。衆議院のほうでも一、二の実例を申上げたのでありますが、同じことを繰返して御披露申上げて甚だ済まんのでありますが、昭和二十五年の十一月十八日に被疑者は任意出頭の形で静岡県三島署に警察員に連行せられたのでありますが、翌十九日に逮捕状が執行されました。これは横領罪の告訴をされた事件であります。その逮捕状を執行された被疑者は、警察の調室で、告訴人のおるところで調べられた。それで告訴人は、お前の横領した金を返せ返せと弁済を強要するわけであります。いわば刑事とそれから告訴人の二人が二人がかりで金を返すことを強要したという事実があつたそうであります。これは告訴状に書いてあることだけで以て逮捕して、そうして民事の関係にまで警察員が関係したと、これに類似する事件は多数あつて、弁護士連合会に来ておる報告にも、福岡県にもありますし、群馬県にもありますし、殆んど挙げるに遑がない状態であります。それから次に兵庫県の某警察署でありますが、これは十六歳と十四歳の少年がキャッチ・ボールをしておつた際に、ボールがえんどう畑に入つたが、畑の所有者である某女がそのボールを拾つて返さなかつたために、その子供たちがその人を強く引つ張つた。その際に畑に尻餅をついて傷ができた。これをバットで毆つたというふうに警察に訴え出たのであります。その日が五月四日であつたのに、診断書は五月十八日附の診断書が添付されておつた。その点も非常に疑問であり、疑惑を持たれるのでありますが、それにもまして、警察員は親権者に何ら通知をせず、白昼公然学校へ行つて授業中のこの両少年を逮捕したということであります。こういうようなことも、教育の面から見ましても、家庭の平和という点から見ましても、余りにどうも常識はずれのやり方であると思われるのであります。それから大阪府の某署長、これは国鉄のパスをもらつて、日通の職員であると偽つて国鉄のパスをもらつて、東京から日光の方面に旅行した。それが詐欺であるという容疑で同じ署員の巡査部長に逮捕された。こういうようなことがあつたわけであります。こういうようなことも甚だどうも警察の名誉の上において遺憾なことだと思うのであります。それからこれは私が直接知つておる、関係したことでありますが、昭和二十六年の五月頃の東京都での出来事でありますが、不良少年の或る家庭でありますが、その少年が窃盗をしたという嫌疑で某警察署員が逮捕にやつて来た。丁度夕食中でありましたので、玄関で待つでもらつてつた。それで食事が済んでから、警察へ連れて行かれるのに身仕度するために、その少年が二階へ上がつて、なかなか降りて来ないので、母親が二階に上つてみるといない。少年は屋根伝いに逃亡したということが想像されるけれども、そのことを玄関で待つている警察員と巡査の二人に申上げて謝つたところが、二人はかんかんに怒りつけて、犯人を隠蔽したというのでひどく怒つて畳を叩いて怒号した。丁度そこに運悪く進駐軍の煙草の空箱があつたのを見付けて、お前の家は進駐軍物資を持つているというので、二人で上り込んで、二階から下から押入れからふとんから道具類から皆引出して家探しをして捜査をした。それで家中のものが泣いているという状態でありました。これは逮捕状ではない、捜索令状を持たないで勝手に家探しをした。それから又近県の某代議士のかたでありますが、この人は昨年の選挙のときに突然警察員が乗り込んで来て家宅捜索をやる。選挙最中に……。それで弁護士を頼んですぐ検事正に面会を求めで事情を聞いたところがさつぱり知らん。次席に尋ねたところが自分も知らない。警察員が勝手に捜索令状を持つて家宅捜索をやつた。これも逮捕状ではありませんが、同じ令状の執行についてかような場合がある。そのほか警察における取調の方法が往々にして無理があるということは頻々と聞くことであります。昨晩も聞いたのでありますが、北九州の或る地方で食管法違反の女が逮捕された。申上げにくい言葉ではありますが、陰部を調べた。これはどうも穏当でないというと、或る警察員はそれは現在婦人警官がいるのだからいいのだ、こういうことを言つたそうです。ところが実際は婦人警官というものはそこにいないのです。そういうようなことで、まだ申上げれば幾らでもある。例えば選挙で誰々の家へ出入りした者はことごとく逮捕する。そうして一週間乃至十数日勾留して釈放するとかいつたようなことはもう至るところにある。これは余りにそういう例は多いのでありますから、一々私は申上げませんが、こういうようなわけで逮捕状の請求について検察官の同意を得なければならないことにして、警察の行き過ぎを是正することが望ましい。かようにすることによつて人権が或る程度擁護されるということは憲法の精神にも或る程度合致するゆえんであると思う。併し私は警察員と検察官権限の争いをすることを好ましくは思いません。両者いずれも国民の生命、身体、財産の保護に任ずるものでありますから、お互いに協力してその目的の達成されることを望む者であります。将来警察員の素質が向上して独立してその職務を行い得るよう、捜査の職務を行い得るようになることを祈つてやまんものでありますけれども、現状におきましては検察官指示を受けるのは止むを得ないことであると思います。これを今直ちにアメリカの警察と同じような扱いをするということは、これは時期尚早であると考えるのであります。  それから次に刑訴の三百八十二条の二、三百九十三条の改正でありますが、これも改善案として私は賛成いたすものであります。これの改正は控訴審の事後審制度の一部を改正して覆審制の一部を加味したものでありますが、現在の第一審裁判所は予想したような完全な構成ではない。御承知のように昔の区裁判所と同じように、単独判事が原則になつて会議制の第一審というものは誠に少いので、大部分の刑事事件というものは単独判事が裁かれている。従つて証拠調その他被告人の権利の擁護ということにつきましては遺憾な点も甚だ多いのです。それから又一つは国民が新刑訴にまだ馴れないということと相待つて第一審の審判が欠陥を持つということは、これは一般の認めているところであります。従つて第二審におきまして覆審の一部を取入れるということはこれは誠に結構なことである。かように考えるのであります。  それから次には改悪の点でありますが、刑訴の八十九条の改正、この改正中の「氏名及び住居」を「氏名又は住居」と改める以外は改悪であると考えるのであります。「無期の懲役」を「無期若しくは短期一年以上の懲役」に改めると、保釈の許される範囲が狭くなります。更に第四号として「被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき。」を加えるときには、二人以上の共犯はすべて保釈は許さなくてもいいことになる。例えば選挙離反のごときは殆んど保釈は許さなくてもいいことになるので、金銭の供与ということは、供与をする人と供与を受ける人とありますから、殆んど大部分のものは「多衆共同して罪を犯したもの」に該当するのでありますが、そのほか単独犯というよりか数人共同で行う場合が事案としては非常に多いのでありますが、これが保釈を許さなくてもいい部類の事件になりますと、人権の自由を制限し過ぎると思うのであります。従つてこの改正には反対であります。  このように改正案の八十九条の二は保釈の許される範囲を狭ばめておりますが、更に改正案の二百八条によりますと、起訴前勾留期間を延長しているのであります。これによつてますます身体の自由は抑制される結果になつております。これも私は改悪であると考えるのであります。で、現行法の二百八条によりますと、起訴前の被疑者の勾留は十日間ということに原則はきめられており、止むを得ない事由があるときに限つてこれを更に通計十日間まで延長することができることになつております。これで勾留前の拘束期間の三日間を加えますと、二十三日間拘束することができることになつております。この期間に起訴しないときには当然被疑者の身柄は釈放されるのであります。この二十三日という期間は相当長い期間で、このくらいの期間があれば、どんな事件でも捜査に支障はないと私は思う。現在どんなふうに捜査が行われて、その起訴前の勾留期間が十分に利用されておるかどうかと言いますと、この二十三日という期間は必ず被疑者を拘束せねばならない期間ではありませんから、嫌疑が晴れたら直ちに釈放すべきである。然るに実際には一松さんもよく御存じだと思いますが、この期間の終るまでは法律上被疑者を拘束し得るという考え方から、捜査が終つて嫌疑が晴れても釈放しないで置く場合が相当あるのです。出て来た人に聞いてみると、出る前の数日、或いはその前の数日何にも調べなかつたというような例はもう殆んど例外なくあるのです。又捜査の途中で数日間放任しているように思われる場合がある。検察官はほかの事件もあるから、その人たちだけに付いておるわけには行かなかつたと、こう言いますが、それならそんなに早く逮捕、勾留する必要はなかつたわけであります。改正案にも書いてあるように、証拠物が多数で二十日の期間に取調が完了しないというような事件については、あらかじめ証拠物を取調べてすぐ身柄を引取つて調べができるようにして、そうして逮捕状を執行し、勾留をするということが望ましいのであります。被疑者が多数で二十日間で取調ができないというような場合があると検察庁では吉つておりますが、これは捜査の方針が確立しないためにかように長い期間取調が完了しないという結果が起るのであります。むしろ捜査が拙劣だと言いたいのであります。例えば内乱罪とか或いは騒擾罪というような事件については首魁とか率先助勢者、選挙離反であれば事実上の主宰者或いは会計の担当者のようなものを拘束して速かに事件の全貌をとらえて時を移さずこれを拡大して他の者に及ぼして行くならば、捜査は短時間で終ると思うのです。現行法の被疑者拘束期間の二十三日は現在のところ未だフルにこれが利用されていないと思う。これだけの期間があればどんな捜査でもできないことはないと思うのです。取調べの終つた者から順次に起訴して行けば、関係者が多数あつても取調べが付くと思います。これ以上延長する必要を認めないのであります。然るに改正案ではこれを更に五日間延長しようとする。これは布野法曹挙つての反対の声であります。改正案最初十日の期間延長を規定していたのでありますが、厳しい反対にあつて七日に短縮し、更に五日に短縮したものであります。我々はたとえ一日に短縮せられてしまつてもその必要なしと考えるのであります。若しこれを是認するときには、五日を七日にし、更に七日を十日にする危険があるのであります。この一角が崩れると、人権擁護は危殆に瀕すると思うのであります。改正案では五日の延長にはいろいろの制限があるから濫用されることはないと、かように検察庁では言つております。即ち五日間の延長には、第一に犯罪の証明に欠くことのできない共犯その他の関係人又は証拠物が多数ある場合である、こういう限られた場合であると言つておりますが、法律上多数というのは二以上のことを指すのであつて、どんな事件でも関係者が一人もいないという場合はないのであります。又証拠物が一つしかないということも稀であります。それから第二に、二十日間では関係人や証拠物の取調べが終了しない場合があると申しますけれども、二十日間の長い期間をフルに利用していたかどうかということは取調べる人以外に証明者がいない。果して二十日間を無意味に過さなかつたかどうかということは局外者には判定ができません。第三に、被疑者の身柄を釈放したのでは、関係人又は証拠物を取調べることが甚だしく困難になるということを挙げておりますが、果して困難であるかどうかは、取調べておる人以外に誰も知る人はない。従つて検察官の考え一つで勝手に勾留期間が延長されるという結果に相成ります。第四に、死刑、無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮に当る罪の事件に限られることを挙げておりますが、併し刑罰法の規定によりますと、殆んど大多数の犯罪が三年以上の懲役若しくは禁錮に当る罪であります。長期三年以上とこの改正案で言つておりますが、刑罰法規には三年以下と書いてある場合が多いので、この三年以上といううちには三年以下の懲役若しくは禁錮が含まれるのは言うまでもないのであります。例えば選挙法違反の罪は形式犯以外は殆んど三年以下の懲役若しくは禁錮というのは軽いほうで四年、五年というのがあります。政治資金規正法の罪は形式犯のほかは三年以下の禁錮、そのほか刑罰法でも賄賂罪、名誉毀損罪、傷害罪、偽証罪、常習賭博罪等は殆んど三年以上であります。改正案説明書では本案は特殊の事件について五日の範囲で勾留期間を延長すると言つておりますけれども改正案条文の文句から見れば、むしろ一般犯罪についての起訴前の勾留期間を延長ずるということになつておるようであります。私の経験では二十日の勾留期間で証明ができなかつたという適切な実例を見たことがありませんし、又当局からさような実例について説明されたこともないのであります。これは私のところに検察庁のかたが多勢見えていろいろ議論したのでありますが、その適切な例をお聞かせ願えなかつたのであります。二十日の期間が十分に利用されていることの確証が挙らないうちは、更にこれを延長することは賛成しかねるのであります。  それから次に、第二百十九条の二、差押令状に記載された場所以外の場所を看守することができる改正案になつておりますが、これは濫用される慮れがありますし、憲法の三十五条に抵触する虞れがあると考えるのであります。従つてこの改正案にも反対であります。  次に二百八十六条の二は欠席裁判の規定でありますが、これは暴に報いるに暴を以てするかの感を抱かせる改正案であります。被告人か公判出廷を拒否し、監獄官吏による引致を著しく困難にしたことに対する反撥として欠席審理をやろうというのではないかと思われるのでありますが、これは刑事訴訟法の汚点ではないかと思うのであります。出廷を拒否するには何か理由があることであり、その理由が正当であるか否かを勝手に判断して正当な理由がないというので、欠席裁判をやるのは困ることであります。先ほど一松委員から団藤教授にこの改正安以外に改正する点があるかどうかをお尋ねになつておりましたが、私は刑事訴訟法で最も重要な改正点としては、第一に上告制度の改正ということを挙げたいのであります。これはこの改正案に載つておらん点であります。第二には、この集団犯罪の公判手続の規定刑事訴訟法に設けることを挙げたいのであります。この二つの大きな改正点に比べれば、今回国会に提案になつておる刑事訴訟法改正案は、むしろこれは小さい問題であると思うのであります。現在の日本の司法は、上告制度が満足に行つていないということと、集団犯罪に対する公判手続きがないということで、むしろ半身不随といいますか、血液の循環が満足に行われていないという現状であります。集団犯罪につきましては、これは各地で神戸、平、東京その他殆んど刑事訴訟法は麻痺状態に陥つているのであります。これが完全に改正されないうちは、日本の刑事訴訟というものは甚だ不健全な状態に置かれていると言わねばならん。それでこの欠席審判の改正でありますが、この改正をしても、現在のように法廷で騒擾している悪弊は除かれることはないと私は思うのでございます。もう一つつて集団犯罪に対する公判手続を規定して、その上でこの規定が初めて生きて来るのであつて、運用されるのであつて、この末端を取上げて改正するのでは、これは満足な改正にはならない。むしろこういうふうな規定は、日本の法律にこういう規定があるということは、むしろ恥とすべきものではないかと思うのであります。  それから改正案の二百九十一条の二、三、三百七条の二、三百十五条の二……、二百九十一条の二に規定する簡易公判手続の制度でありますか、これも私は時期尚早であると思うのであります。この制度は改正説明書に言つているように、公判審理手続を簡素化し、審理の促進を図るために認められようとしているものであります。ところが日本人は英米人のように民主化されておらず、法律的、打算的な判断にうといために、起訴状に対する認否の判断にみずからの運命を賭するというような勇気に乏しいのであります。かような国民にアレイメントの制度を布くことは危険であると思うのであります。被告人が法廷で有罪の陳述をしても、なお証拠の取調べをするのでは、公判手続の簡素化、審理の促進にはならないのであります。このアレイメントの制度をとらなくても、被告人が公訴事実を肯定し、検察官の提出した証拠に同意したときには、証拠調べは簡単に事実済んでいるのであつて現行法通りでもう結構で、これを今改正する必要はない。殊に私の現在やつておる事件で、これは放火の現金詐欺の事件でありますが、非常に大仕掛けな放火をやつたのでありますが、この被告人二人、親子三人でありますが、この親子は第一回の公判廷で公訴事実を認めて、被告席の床の上に土下座をして、どうか寛大な御処分を願いたいと、こういつて哀訴歎願したのであります。弁護人のほうから犯罪の情状に対する証拠調べを願つて情状に関する証拠調べを順次進めて行つたのでありますが、第五回の公判になつて被告人は突如前言を翻して自分は放火したことはない、あれはみんな嘘だ。それで前に起訴状の事実を認めたがこれは撤回します、又検察官が提出された証拠も全部否認しますというので、第五回の公判で前出自を翻したのでありますが、裁判所は勿論そんなことを取り入れないで、その申出を却下して審理を進めたのであります。併しまあ被告人から申出た証拠は一々調べてはもらつたのであります。そういう例があるのです。それから又東京で起つたことなんですが、贈賄者が数口贈賄しているのですが、その一部を認めて他の部分を否認した。ところが収賄者は自分はもらつたことはない、こう言うのです。それで贈賄者、収賄者の意見が相反することになつた。証拠調べをしているというと、どうもやつたことはないというふうな、その点は授受したことはないような証人が出て来た。そうすると自分は前に認めましたがあれはやめます。自分はやつたことはありません。こういうようなことを言い出した人があります。そうでなくても田舎の人はもう警察とか裁判所とかいうところは、もう特殊な世界のように思つて、何でも言われることを肯定する癖があるので、何でもさようでございますさようでございますという返事をするのが多いのであります。そういうところで起訴状にある内容を自分ではつきり認識し、吟味してイエス、ノーを明答するというようなことを求めることは、これは日本の一般の人を標準にすると時期が早い。又その手続を改めて見ても、簡素化される部分というものは殆んどない。現在やつているので十分間に合う、かように考えます。  大体只今申上げたので尽きますが、なお細かい条文改正もありますが、御質疑がありましたらその点についてお答えさして頂きたいと思います。
  93. 郡祐一

    委員長郡祐一君) どうぞ御質疑のあるかた……。
  94. 一松定吉

    ○一松定吉君 ちよつと島田さんに伺うのですが、つまりあなたがたのお出でを願つた趣旨は、刑事事件を専門にお取扱いになる我が国における刑事事件の権威者であるという意味からお出でを願つたわけなんですが、今お話になつた以外に、この現行刑事訴訟法でこういう点も改正しなければいかんのだという点がほかにありはせんだろうか。あるならそれを一つ話して頂けば非常に参考になるのですが、先刻団藤君に聞いたことと同じですね。
  95. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) それはあなたがちよつと席にいられないときに申上げたのですが、重ねて申上げますが、私は現在の刑事訴訟法で一番重要な改正しなければならん点は、第一は上告制度の改正、これがまあ現在正確な数字はわかりませんが、大体常時七千件が最高裁判所に停滞しているというのは顕著なんです。それで裁判が三年四年と遅れる。事件が遅れるのは弁護士のせいだということをよく今まで役所の人は言つていましたが、弁護士は事件を早くすることを望んでおるのに、裁判所のせいでこういうことになつている。これはどうしても事件の審理を早くするように制度に改めなければいかん。私はこれを痛切に感じておる。  それからもう一つは、これも先に申上げましたが、欠席裁判の改正案がありますが、これに関連してこの欠席裁判の改正案では、法廷の騒擾ということはますますこの規定を設けたら激しくなる。これは決して収まりやせんのです。何故かというのは、メーデー事件にしても、平事件にしても、みんなこれは裁判を拒否する正当な理由を持つているのです。何故かというと騒擾罪というのは被害法益が一つなんだから、一つの法益に対する侵害であるから、犯罪も一個であるという考えを持つている。だから一個の犯罪だから多数を統一審理で一遍に調べてくれ。こういう要求は合理的な要求である。それからそういう事件を別個に切離して裁判した例というのは、神兵隊事件でも何でも、まだ日本の裁判所にないのです。みんな統一審理をしておる。それだから一緒にしてくれと言う。ところが実際は今の設備がない。千人以上入る法廷がないし、それから裁判官の能力においても三十人以上の被告を統一審理するということは不可能なことだ、能力に限度がある。そういうことで事実上できないのです。だからそこには強味があるから、この点をそういう群集犯罪者の公判手統に関する規定国会で設けて、これを合理化しなければどうしてもああいう多勢になると、至るところでそういう事件が起る。法廷でもみ抜いて、新聞でも御存じでしようが、私は新聞で見るだけですが、素つ裸で赤鉢巻で法廷に入る。そうして罵声怒号を極める。法廷の神聖も何もあつたものではない、こういうことが公然と行われている。鉄兜で数百人の警官が取巻いて行くというようなことは、私はこの立憲国の醜態ですよ。これを合理化するということは、国家最高の機関である国会の最も重大なる任務ではないか、それを……。最高裁判所の是正改革、それから今の集団犯罪の公判手続、これは是非お考えにならなければならん点だと私は考えておる。
  96. 一松定吉

    ○一松定吉君 大変いいことを承わつたのですが、上告制度の是正ということは勿論であるが、集団裁判に対する欠席裁判をするということは、恐らくこれは提案者の考えではそういういわゆる法廷の騒擾というようなことを防禦するためだという意味ではないかと思うのだが、今法律的に言えば一個の犯罪であるというのを、そういうことをやるのがすでに間違いだから合理的に方法を講ずるがいいというのは御尤もだが、その合理的な方法については何かお考えがあるか。
  97. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) 研究中です。これは立法例はナチの法律にそういうのがあつたのであつて、これはナチのをそのまま持つて来るわけには勿論いかんでしようが、立法例も研究し、これをどうしても合理的に解決しなければいかんものだ。これは以前から私はそれを痛切に感じているのです。
  98. 一松定吉

    ○一松定吉君 それからいま一つは、いわゆる被告、被疑者が黙秘権を行使する、黙秘権を行使して住所も氏名も言わないというようなことが、今では現行法ではできるようなことになつているが、それはどういうふうにしたらこれを合理的に処理することができるという何か御研究でもありますか。弁護士会でそういう研究をしてどうしたらよかろうというようなことはありますか。
  99. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) それは弁護士会でもまとまつた意見が出ないのです。氏名に対してまで、人定尋問にまで、名前を言うことまで拒むことができるかどうか……。
  100. 一松定吉

    ○一松定吉君 そこで或る裁判所が、それではお前は弁護人を選任する権能がない。名前もわからん、住所もわからんもので、弁護をするのにAとかBとかいう符号をつけてやるということは合法的じやないのだからというようなことで、彼らを是正せしむべく政策的にやつているところがあつたようだが、何とかしなければ、黙秘権を行使することを認められておつて、住所氏名を俺は言わない。裁判もできず、裁判の結果その本籍、住所を報告もできない。前科調べもできない。何もできないということになると、法の秩序は維持できんことになる。これを何とか合理的にするということについての手段、方法、それはまだ研究ができてない……。
  101. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) そこは名前は言うべきだ。それで本文へ入ると黙秘できるというようにするという人もあるのですよ。併しそれではやはり名前を告げると不利をこうむるという意見があつて、それはまとまらないのですよ。私もこれはどうしていいものか判断に苦しむ……。
  102. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 一つ伺いたいと思いますが、二百八十六条の二の被告人の公判出頭拒否の場合の措置ですが、これは全部についてこういうような規定がいけないとお考えでしようか。仮に冒頭陳述なり、判決の言渡しは当然出頭しなければいけない。それ以外の証拠調や公判審理の過程においては二百八十六条の二のような規定があつてもよろしいというような工合にお考えでしようか、どうでしよう。もう一度申上げますと、この二百八十六条の二において冒頭陳述なり、判決の言渡しまでも含むものかどうかということなのです。政府側に聞きましたときには、一切含むのだ、こう言つておるのですね。何かその間に公判審理の進行を円滑にするためにやや妥協的な考え方でありますけれども、この程度はよろしいのだという限界がございましようか。
  103. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) これだと、改正案だと、全部出て来なくてもいいわけになるのですね。
  104. 郡祐一

    委員長郡祐一君) そうのようでございますね。
  105. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) 裁判所へ全然……。
  106. 郡祐一

    委員長郡祐一君) はあ。
  107. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) 私はもうこれは、今申上げたようにもう一つ規定がなければこの規定を置いても駄目だ、こんな規定置けばますますこれはもう何でしよう、法廷は荒れて来るんだと、私はこう思うのですが、だからこんな規定はないほうがいい、そう思うのです。ですから全面的に私は反対なんです。そういうのがあればこれは生きて来るのですよ、この規定が。その前提がなければこれは無意味ですよ。
  108. 一松定吉

    ○一松定吉君 それから今一つ島田さんに伺いますがね、団藤さんのさつきの話では、例の公判に起訴して、それが無罪免訴になつたときに刑事補償の制度があることが現行法です。それより起訴しない前に、逮捕状によつて留置して、そうしてこれを起訴しない、釈放する、そのときにいわゆる無罪、それから証拠不十分、時効というような者を逮捕して勾留して調べて、そうして起訴しなかつたときに、国が刑事補償の責任を持つことはわかつておる、そういう制度を設けたら如何かという意見があるが、これはどうでしよう弁護団としての意見は。
  109. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) それはいいと思うのですよ。五日の反対給付ということではなしに、それと離れて考えたいのですよ。それは法律上無罪とか時効が完成しておつたという場合は補償していいと思うのですよ。但し証拠不十分というのは捜査して見ないとわからないから、それに取つ付いてまで国家に責任を持たせるということはどうかと思います。併しそれを五日間延長するから、その反対給付としてそれをやるということには反対です。
  110. 一松定吉

    ○一松定吉君 そこで犯罪が成立しておるけれども気の毒だ、だからしてこれを不起訴にしようというような場合は、やはりそれを刑事補償にかけては……。
  111. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) それは入らんじやないか。
  112. 一松定吉

    ○一松定吉君 そういうところをやはり厳格に規制して……。
  113. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) だから法律上罪とならずという場合は補償していいのです。
  114. 一松定吉

    ○一松定吉君 法律犯罪は成立しているのだけれど、かあいそうだからこれをもう不起訴にしようというようなときには、勾留されておつてもこれはもう起訴しなければならんということと勾留ということの相殺で、刑事補償の責任はないということにするほうがいいじやないかということは考えられるね。
  115. 郡祐一

    委員長郡祐一君) ほかにはよろしうございますか、それではどうも……。
  116. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) それからもう一つお考えおき願いたいと思うのは、私が特に申上げなければならないのは、それは勾留理由開示の問題ですね。これも私は迷うているわけです。
  117. 一松定吉

    ○一松定吉君 書面を出すやつだね。
  118. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) ええ、団藤さんの言われたのも一理あることで、相当いいお考えだと思いますけれども、このあれが憲法の三十四条ですね、ここには刑事訴訟法に書けとは書いてないですね。何の法律でやつてもいいのですね、これで見ると。それから勾留理由ということが抑留、拘禁された理由、抑留、拘禁された理由というのは、人間をつかまえてくくるとか何とかして実力を加えることが抑留或いは拘禁であつて、その理由を公開の法廷で示さなければならないとしてあつて、ところが事実現在行われているのは抑留、拘禁の理由ではなくて、抑留、拘禁、この勾留状を発した理由を開示しておる。これは当らんですね。三十四条には当らんことをやつておるわけでしよう。だから例えば帝銀事件の被疑者を北海道から何とかいう人が東京へ連れて来ましたね。この場合に函館まで来たときに海が荒れて船が出ない、二、三日滞在した。こういう場合に今の刑事訴訟法規定から言えば、東京へ連れて来て、そうして勾留状を発した理由を公開の法廷で明らかにしなければならない、こういうことになる。そうじやないので、へービアス・コーパスの制度というのは、拘禁しておるとその者に、なぜ拘禁したかということを聞いて、裁判所がそれで理由がなかつたら直ぐ釈放するわけでしよう。だから函館の裁判所ですぐそれをやらなければならない、東京へ来るのに何日かかるか、あすこへ三日も泊つたとすると、こつちまで来るのに四口も五日もかかるでしよう。その間の期間というものはどうなるのだ、これは一時間でも拘禁はしてはいかんという規定なんです。だからまるで見当外れなことで、だから二百八条というのは憲法と相対した規定じやないようになつておる。それをどういうわけでそういうふうにこれが憲法に違反するとか津反しないという問題が起るのか、それが私にはわからないのです。
  119. 一松定吉

    ○一松定吉君 そこでいわゆる勾留理由開示についての書面云々ということは、あれは御承知通り勾留理由開示を求めて、言いたいほうだいのことを言うて法廷をいわゆる撹乱する、そういうことを防ぐために書面を提出し云云ということをやつたのだろうと思いまするが、これは何も書面を提出するということじやなくて、勾留理由開示のことで意見を述べることについて、例えば時間を制限するとかして、騒擾することの余地を与えないような制限を加えて述べさせるということをするのだけれども……。
  120. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) それができないのです。今でも十分になつておるのですが、十分になつておるのを十分経つてやめろと、言うてもやめない、二十分になつても三十分になつてもやめない、そうしたらそういう時分に……。
  121. 一松定吉

    ○一松定吉君 そういう点警察権を以て何かそういうようにするなり、文書でのみ意見を述べさして口頭陳述を禁ずるというようなことをしなくてもいい、そこの点をどういう程度に緩和するかね。
  122. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) 折角こういう権利を与えられておるのだから、弁護士のほうがこれをなくしろということは立場上いかん、こういう説が多いのです。それからもう一つ今日私は聞いたのですけれども、これが初めてあつた例なのですが、数日前に初めて勾留理由開示を求めてそれが実効を奏したのです。これがこの刑事訴訟法始まつて以来唯一のことなんです。
  123. 一松定吉

    ○一松定吉君 どういうことをやつた……。
  124. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) これは長くなるので……。
  125. 一松定吉

    ○一松定吉君 あとで聞こう。
  126. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) これは意見を述べなきやいかんと言うのです。だがこれは意見を述べることにしたらいかん……。やはり千に一つつてもいいのだ。こういうわけです。
  127. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 誠に貴重な御意見有難うございました。  大変お待たせいたしました。清瀬参考人にお願いいたします。御多忙中どうもわざわざ有難うございました。大体三十分御意見の御陳述を願いまして、三十分ほど御質疑を……。
  128. 清瀬一郎

    参考人(清瀬一郎君) 情勢に鑑みて簡単に申上げます。皆さんのすでにおつしやつておられることを重複して申上げる必要もないと思いますが、私のほうの角度から見て違つたことだけを一つ申上げまして、結論は、この案はこの警察、検事に関することを扱つておりまするが、裁判官には非常に遠慮しておるのですけれども、私は裁判官に向つても批判しなきやならん点が非常に多いと思います。  第一今の逮捕状ですね、勾留状、これは裁判官が発するのでしよう。裁判官のクラントなんです。裁判官の名前によつてくくられて行くのですが、それは盲判です。何故に裁判所の判をもらいますか、これが私はもう病いの一つだと思います。併しそれは人数が足らんからと言うのでしよう。時間がないからと言うだろうと思います。それなれば人数を備え、時間を与えたらいいのです。警察から持つて来るものに盲判で、検事から持つて来るものに盲判で捺すのですから、この問題が起るのです。甚だしきはこの刑事訴訟法の本の中に、裁判官は内容は調査してはならんと書いてある本まであるのです。形式調査だけでいいと言う。だから時効にかかつてやせんかというくらいのことで本当に逮捕する必要があるかないかというような調査はできんと書いてある本まであるのです。本は別として本当に調査しておりませんよ。勾留でも勾引でも……。そこで、私どもはこの案を若しも活かして使うならば、この警察でも検事でも逮捕状を求める際には理由を疎明すべしということを入れたらよかろうと思うのです。百九十九条でも勾留状の六十条でも、それから保釈除外をする場合の八十九条でもその理由は疎明すべし、それは今から罪にするのですからね、完全な証明はありませんけれども、どうも犯したらしい、而してこれは証拠隠滅しそうだといつたようなことを思わしめる疎明をして、そうして裁判官が納得する、こういうことであつたらばこの弊害が一つ減ると思うのです。  それからもう一つ裁判官の問題は、自白が強制に基くことが非常に明瞭であつても、自白調書の排除はようしなくなつているのです。実は逮捕状が悪いのじやないのです。逮捕状で逮捕して警察へ連れて行く、一松君あたり実際弁護しておられるかたは御存じでしようが、この頃は弁護士の面会はさせぬようになつている。それは刑事訴訟法に立会なくして面会をなすことを得、とあるのですが、検事に裁判官を妨害するのです。それは検察官の同意を得て下さいと言うのです。検察官は居留守を使つておらんと言うのです。そこで二日も三日もやる、そうすると警察にいる間は検察官の同意なんか得られはしません。撲つても傷がつかぬ程度に撲つているということになるのです。そういうことが行われた証明は、比較的容易にできるのです。私は或る事件で弁護士を証人に喚んだ、君は面会はできたか、できましたが二分という制限だというのです。誰が制限したかと言つたら、警察で以て制限しました。警察のほうを喚んだところが、二分に制限しておりますというのです。これは富山県です。そんなことをして弁護権なんか行使できるはずはない。果せるかなその間踏んだり蹴つたりしているのです。それを裁判官は知つてつても、その自白調書が無効だとは一遍も言わないのです。これは裁判官の怠慢です。或いは前時代の慣習から来ているかもわかりませんが、そういうことが証明されて自白調書が排除になつたことがありますか。今警察を通つた事件は、ことごとくこれはもう拷問の結果だといつていいのです。ことごとくと言うと、少し誇張ですが、百中の八十くらいは、何か西洋の言葉で言えば強制です。誘導をする、早く言うてしまえば、そうすれば軽くなる、こういうことでやつているのですが、それを排除することはできないでしよう。  もう一つ刑事訴訟法の三百二十二条でございますが、被告の検察官警察官に言うたことで、任意でない疑いがあつたら証拠にできないという規則があるのです。これを適用しておらんのです。それから第三者の供述調書です。これは刑事訴訟法の三百二十一条の第二項にあるのです。これは非常に大切なことです。第三者というのは即ち証人ですね、証人が法廷で宣誓して言う。ところが同じ証人が検察官にも調べられているのです。密室で誰の立会もなしに、検察官が勝手に調書を作る、又法廷で宣誓した上に供述書ができた、さてどつちを信ずるかです。この規則では、この人が死んでしまつているとか、遠いところにいるとか、そういうことで調べられんという場合は、検察官の調書、あいまいのほうの調書、即ち検事のほうが信用があるという特別の情況があつたら、検事のほうをとれという規則ですね、三百二十一条の二項と三項をちよつと御覧下さい。ところが日本中の裁判官はどうです、法廷の証言と検事の調書と違つた場合に、どつちを信用しますか、裁判官はことごとく検事のほうをとりますよ。何のために法廷に一体人を喚ぶのです、何のために偽証の法律を明示するのです。即ち裁判官がもう一つ徹底しないで、宣誓した裁判官の前での証言をちつともとらないで、拷問の恐れのある検事の調書、警察官の調書を丸呑みにするのです。こういうことが私は日本の裁判のゆがんでおる一つのように思います。  それから控訴は、今度は証拠調をする規則を作つているのは賛成です。その部分は、今までの控訴では証拠調べをしませんから、みな控訴棄却です。  それから第三審、最高裁判所です。今島田さんは事件がたくさん停滞しておるということに着眼された。それも一つですけれども、それよりも法律的に見て、今の最高裁判所は法律の違反は裁判しないのです。事実の誤認は無論裁判しないでしよう、法律の違反も裁判しない。何を裁判するかといえば、憲法の違反と判例の違反だけなんです。四百五条を見て下さい。それと新たなる法律は裁判しませんから、これから新たなる判例はできやしませんから、昔大審院時代の判例の違反か、憲法の違反で、諸君が今日お作りになつた法律の違反は一切最高裁判所には行かないのです。憲法に違反したという事件は非常に稀ですからおよそ我が国の刑事訴訟法ぐらい妙な法律はありません。四百五条を見るというと、憲法の違反があるとき、その次が最高裁判所が判例に違反があるとき、その判例がないときには旧大審院の判例に違反するとき、これだけであつて法律に違反したものについての上告ができないのです。でありますから、被告人の権利はちよつとも擁護されておりませんです。昨日あつた事件は非常にむずかしい事件です。あれは憲法に違反した事件です。進駐軍目的になんて言つて、それに違反した者は処罰される、占領が解けてからこの国会で過去にしたやつも処罰をしてもいいという法律を作つた。これは諸君、参議院がこれは負けたわけです。そんなものに法律つたのは間違つている。あれなんかは千に一つもあることじやないのですから、今の何千件という事件の、恐らくあの中において、破棄になるのは二、三十だと思う。何しろ法律違反が上告審をいたしておるのでありますから、無理がありません。こういうことが私は今日の刑事訴訟の病であろうと思います。でありますから、新たに昭和二十四年初めて訴訟法を作つたときに、夢に画いておつた日本の刑事手続をやるべきだつたら、裁判陣をもう少し強化しなければならないのじやないか。本当にいい人といつても、人間のよしあしは基準はできませんけれども、練達堪能な裁判官を而も多数に使いまして、そうしてこの刑事事件の裁判をしなければならないと、私はかように思つております。最高裁判所でもどうも人数が第一足らんですね。昔の大審院の四分の一くらいになつておりますが、それから手続は非常に煩雑になつておりまするので、事件も非常に多くなつておるのに、最高裁判所も人が足りんのですね。下級審をその通りであつて、もう少し裁判官の方面に立法機関のほうで御着眼を賜わりたいと思つております。  今回の提案について私がよかろうと思うことと悪かろうと思うことを言つて見ますれば、控訴審理の拡張は、僅かばかりの拡張ではありまするが、これは賛成であります。  それからして死刑になつた者の上訴放棄、これを禁ずる規定はこれも賛成であります。いやしくも人間が死刑になるのに、軽率に上訴の放棄などを認めるべきものではありません。或いは無期にもこれを拡大していいかと思います。  併しながら軽率に四年半の経験で直ちに改めるということが軽率であるということは、今おつしやつた勾留理由を書面で開示する、いやしくも開示を許すならば書面の開示は私はよくなかろうと思います。  権利保釈をこれを短期一年以上の者は権利保釈にならんとか、或いは多衆共同のものは権利保釈せんとか、お礼廻りをしそうな者は権利保釈せんとかということもよくなかろうと思います。併し最後のお礼廻りをしそうだ、しそうでないということは、先刻申しました疎明でもされて、本当にそういうことをしそうだということを裁判官の鑑識で見分けて排除するなら、これは別であります。  先日以来、最後にこの両院で問題になつておりまする百九十三条ですか、これは私はちよつと前の諸君と意見が違うのです。現行の百九十三条と、今回の御提案の百九十三条の第一項との違うところは、私はこう把握しておるのです。よろしいですか。この但書に「犯罪捜査の重要な事項」というのが現行法です。「重要な」というこの三字です。改正案はこれに対して「必要な事項」ということに変つておるのです。そのほかは文法の違いで用語は同じです。「準則」という文字も同じことです。「一般的指示」も同じこと、片一方は「公訴実行する」、片一方は「公訴を遂行する」、同じことですが、これは但書に書くと、文法は違いますけれども現行法改正法の唯一の違いは、「重要な事項」について現行法は準則を許しておる、改正案は「必要な事項」について準則を許しておる、こういうことなんです。それでこの現行法の建前は警察には一つ警察団体の組織があつて、上にピラミッドがある。警察全体に亘る準則、捜査心得、これはすべてを包含します。これは警察でやるべきものだ、けれども横におる検事も重要なことだけは準則を作つているという建前なんです。これはアメリカ式です。私は我が国もたつた四年半に完成はしなかつたけれども捜査団体たる一つのピラミツドを持つた全体に亘る準則を作り得る警察団体というものは着々構成されつつあるし、今からすべきものと思います。公安委員会の制度も取入れ、それから今度の恐らくこの国会にはよう出さんか知りませんが、警察法改正というものがあるのです。自由党案もありまするし、我が改進党案も持つております。これが自治警、国警が一つに融和して、そうして一つの日本の警察組織ができるのでありますから、そのピラミツドが必要な事項、即ち全体の事項をやつて、そうして主として丁度弁護士に対応するのが検察官です。公訴を提起する人はその中で必要なことだけをこうしてくれ、重要なことだけこうしろ、側面的にやるなら現行法の組織は理由があることですからして、軽々にこれは変える必要はないと思つております。警察ピラミツドで必要な事項、即ち全体の警察準則で構成を作つたらいい。併しだんだん世の中が進歩して、この間通つた破防法とか何とかいうことでできることもありますから、私あの先例がいいと思うわけではありませんけれども、ああいうことが起るから、側におる警察も重要な事項だけを飛び入りできるというので、現行法のほうがいいので、私はこの改正は必要なかろうと思います。  それから百九十九条のほうです。前に申しましたように私のほうのアイデア、私自身のアイデアは裁判官を強化する。逮捕状の理由或いは勾留の理由は請求人に疎明をさして裁判官がきめる。そこで一つのピラミツドのあるところの大きな警察団体というものができれば、そこで内部的にどの階級の者が逮捕状の請求をするということはきめそうなものですから、警察官だと言つて巡査部長がやつていけんというのではないのでありまするから、そこで責任を持つて裁判官にそれを持つて行く。裁判官がその疎明を見てきめればいい、検察官の同意が要るということは、これは行き過ぎであると思います。ただ裁判官がそれに接した時分に検察官意見を聞く。疎明の一つの方法として、今警察官から、こういう逮捕状請求が来たことは、私はちよつとおかしいと思うが、検察側意見はどうかと言つて、裁判官の肚で逮捕状を出していいか悪いかをきめる。疎明方法の一つとして参考に検察官に聞くけれども、これはみんな聞く必要はないのです。中で明瞭なものは裁判官の度胸で出したらいいので、どうもこれは検察官のほうで異常がないと思われるものは、裁判官に大抵異常はないということで、電話でこういうものが来ているがということでいいのじやないかと、こう私は考えておるのであります。  簡単にこれだけを先刻傍聴しておつて、ほかの人のおつしやることと少し意見が違うかしらと思うことだけを申上げておきます。ほかは団藤先生、島田君のおつしやる通りです。
  129. 郡祐一

    委員長郡祐一君) 有難うございました。どうぞ御質疑のおありのかたは……。
  130. 一松定吉

    ○一松定吉君 今清瀬さんの御説明一々御尤もに思うのでありますが、特に私は一つ御考慮を願いたいのは、三百二十一条の、今お示しになりました一、二、三のこの実際の取扱いについては、専門家の我々の間でも随分非難がある。これはどうしたらば公正な方法においてこれを合理化することができるだろうか、それを一つ何か清瀬さん考えておられるのなら、一つ発表願いたい。
  131. 清瀬一郎

    参考人(清瀬一郎君) 裁判官が一つ自発的にこれを改めん以上は、やはり立法でやるよりほか仕方がないでしよう。一つの証拠法というものを作つて……。
  132. 一松定吉

    ○一松定吉君 どういうふうに立法すればいいかね。
  133. 清瀬一郎

    参考人(清瀬一郎君) 宣誓して裁判官の前で言つたことは排斥される、そうして一方は宣誓をせんのみならず、密室でやつておることなのだから、どんな脅迫があるかわからん、そういうものを先に証拠として採るということは、これは不法だ、これのみならずほかのことも入れて一種の証拠法でも作らなきやならんのじやないかと思うのです。が証拠法なんというのは作るのじやなく、裁判の判例でおのずからできるほうが面白いのですけれども、これはいつまで経つてもできませんから……。インドあたりはインド証拠法というのがありますが、あれはイギリスの判例を集めて、インド証拠法というものを作つたのです。我が国も刑事証拠法というものを作つたらいいのじやないか。私は市ヶ谷で国際裁判に出ていた時分に、我が国の弁護士から照会してもらつたので、向うの証拠法で必要なものを二十一カ条ほど抜いてみたことがあるのです。これを三十カ条にするというと大抵間に合うのですね、そういう証拠法でもいつかお作りになつたら……。今度の機会はもう時間がありませんけれども、こういうことは一つ継続審議でもやられて、両院のエキスパートによつてお作りになればいいと思います。こういうふうに思つております。
  134. 一松定吉

    ○一松定吉君 いや、よくわかりました。そこで今この三号の問題等についてここに列挙的に「供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ」、云々と、こういうように列挙してあるにかかわらず、或る者は黙秘権を行使したというような場合に、これに準じて証拠調をするとかせんとかというようなことを実際やつて、そうして多くこれが上訴の理由になりつつあることは、現在今まで最高裁判所の判例まで行かんのだが、そういうようなこともやはり今お話のように、この証拠方法についてもう少し具体的の単独立法でも作つて、証拠の採用について裁判官の一つ処置を規制するようなことでもせんと、やはり今非難されたようなことが到るところこれは行われておるのだが、これはやはり私は清瀬さんの言うように本当に実務家は考えなきやならん、立法の地位におる人も考えて、これは何とかせんと非常にいかんです。裁判官が被告の言うようなことよりも、今言うように誘導、強迫、不任意な陳述等をさした、そうして而もその八だけ言うたのを十言うたように書くのだ、小雨が降つておるのを大雨が降つたように書くのだ、それがいつも証拠になつて被告に不利なものになる、清瀬さんの言うような証拠の採用の方法だから……。それはやはり一つ証拠方法に対する単行法でも考えて作つてやらなければならんと思つておる。それについて清瀬さん専門家であるのだから、こういう点について一つ案でも練つて頂いて、そういう案でもあつた一つ参考のためにいつか御提出して頂いたら非常に結構だと思います。
  135. 清瀬一郎

    参考人(清瀬一郎君) それから一松さん、先刻から刑事訴訟法で新たにやるべきものがあるのではないかとおつしやつたが、今申しました順序は大層逆になりますけれども、日本の最高裁判所には法律違反だけは全部受理されるようにしてもらいたい、法律違反だけは法律審でありますから……。そうでなければ新法というものは永久に最高裁判所に行かんことになります。  それからもう一つ卑近なことですけれども、こういうことがあるのです。一審で保釈になつておりますでしよう、そこで体刑の言渡を受けてその瞬間にひつくくつてしまうのです。控訴をしてもう一遍審理を受けようというつもりであつても、もう一遍保釈の申請をし直して保証金を積んで決定をされるまでは二日間は一遍入れておいて又保釈するのです。あれはその法廷で更に上訴をして保釈を請求する意思を被告が表示したならば、やはり帰してやるようなふうに途を開いてもらいたいのです。東京ではこの頃見て見ぬ振りをしてすぐくくらんように弁護士と検事正との間で妥協したのです。けれどもこの間水戸へ行つて驚いたのです。水戸では言渡があつたから、さあお入りなさいと言つて引つくくつておるのです。それで保釈せんかというと裁判官に言つたらそれではやりましようと言つて、そうして日本銀行に保証金を積んで翌日は出すのです。これは僅かなことだけれども実務家においては非常に重要なことですから、それも一つこの際にお考え願いたいのです。  それから前にちよつと言いましたが、この頃は面会を阻止するのですが、東京にもう一つ事実があるから申上げます。東京の巣鴨刑務所に未決が入つております。あすこの面会室へ行きますと、ずつと十人ぐらい面会できるようになつておるのです。ここに金網がありまして、そうして被告がここに、ここまで来るのですが、この被告とこの被告とそれからこの弁護士とこの弁護士との間はガラス張りになつておるのです、透明な。そうして一番こちらに看守が二人ほどおつて十人ほどを黙つて見ておるのです。そうして私の持つてつた鞄をこう置いてあつたところが、鞄を横にしてくれというのです。それで横にしておつた。何も入つておるわけじやないが、鞄が立つておるというと、こつちからこつちへの被告が全部見えんのです。で刑事訴訟法には立会なくして面接するというのです。あなたは行つたことありますか。東京ではガラス張りにしてあるのです。そうしてどういうものを授受するか、どういう話をするかということをこつちからずつと見ておるのです。それで何も我々は悪い話をしようとは思わんけれども、非常に都合の悪いことです。あれは法務省などは一体どういうふうな考えでああいう構造をしておるか、ガラス張りの中の話が……、そういうことがあるのです。即ち被告と弁護士との立会なくしての面接という規則ですね、あれが励行されておりません。私さつき申しました検事の許可を受けて来るというのに、検事が居留守を使うというようなのと相待つて、過去四年の間初めて新刑事訴訟法を施行したときは自由に面会してよかつたけれども、最近非常に悪く変化しつつあります。
  136. 一松定吉

    ○一松定吉君 これは三分間とかいうあれがありますが、これは東京に例がありまして、私どものところで弁護士をやつたところが五分間面会というのであります。それから私その五分間では刑事訴訟法の防禦の方法を講ずることについての制限をしてはならんという但書の項ははつきりせんじやないか、そういうことまでなぜするのかというのでその主任検事に異議を言えというて僕のうちの弁護士に行かせて大分激論をしている、承知せん。それから僕が行つて次席に一体弁護人が防禦の方法を講ずるのに被告と面接して一体五分間で何ができるか、それでは全く弁護権の制限で甚だ不都合千万だとやかましく主任検事に言うたらそれは御尤もだ、御随意になさいといつて三十分ほどやつたことがあるが、この間犬養君にこの席か何かで聞いたところ、犬養氏はそれはやはりよくないことで……、いや岡原君がよくないことで全国の警察のほうにそういうことのないようにということを訓示をするようになつたということを言つてつたが、そういうようなことが東京でもあるし地方に往々にしてある。それから面会所、特に今あなたは巣鴨のことだけ……、どつかの裁判所……大阪だ、一ところに三組くらい入れると、立会人なくして面会することができると言つても、成るほど立会人はいないが、併しこちらとこちらでこうやつているからほかのものが立会つているのと同じことになるので、本当に刑事訴訟法の立会人なくして面会することができるという立法の精神を無視したような形になる……。
  137. 清瀬一郎

    参考人(清瀬一郎君) 今あなたのおつしやる二分間面会のことで、これも裁判官が悪いのです。二分間でやつたのは弁護権を行使しておらんと言えばいいのです。僕はそれを上告した。ところがこういう裁判なんです。委員長……。それは刑事訴訟法の四百三十条という規定がある。四百三十条によつて検察官や或いは第二項は司法警察官なんです。それなどは、面会の制限なんぞをすればこういう異議の申立ができるのだ、異議の申立をしない以上は、たとえ二分間でもこれは有効なんだ、こういう裁判を最高裁判所はしたのです。だけれどもこの異議の申立をすれば三日や四日の間にこれは片付きますか。
  138. 一松定吉

    ○一松定吉君 そんなことまでして面会できやしない。
  139. 清瀬一郎

    参考人(清瀬一郎君) そういうことを言つて最高裁判所自身が人権蹂躙を擁護しておる。人権を擁護しないで人権蹂躙を擁護しておる。だから裁判官のほうがよほど反省しなければいかんと思います。というのは遠慮をしまして、戦前から裁判官は神聖だという言葉があるものだから、皆弁護士も世論も裁判官に遠慮しておる。けれどもあの二分間面会が行われておるのは最高裁判所が悪いのです……。どうも失礼いたしました。
  140. 郡祐一

    委員長郡祐一君) どうもいろいろ貴重な御意見有難うございました。  本日はこれを以て散会いたします。    午後四時五十三分散会