○
政府委員(
高橋誠二郎君)
只今相馬さんからの御
質問にお答えいたします。
文化財保護行政の概況につきましてはお手許に差上げてございまする
文化財要覧に大体記されておりまするので、これによりまして御覧を願いたいと存じます。私からは
只今問題にな
つておりまする点を数カ所御
説明申上げておきたいと存じます。
只今お話のございました
アメリカ古
美術展覧会は滞りなく運んでおりまして、すでにワシントン、ニューヨークを終りまして
只今シャトルにおきまして開催中でございます。なお二カ所を残しております。最も私
どもの心配いたしました点は湿度の問題でございます。あちらに参
つております
人たちがいろいろ
研究いたし、苦慮いたしました結果といたしまして、大体において何らの
支障なく進んでおるように
報告されております。懸念すべきものが多々あ
つたのでございまするが、先ず特に申上げるほどのこともなく無事に進んでおります。又多数の観衆を集めまして非常な
成功裡に行われておると
報告せられております。
それから
薬師寺の
月光菩薩でございまするが、これに関しましてはすでに御
承知のことかと存じまするが、この
修理の段階に入りまして、
国庫補助金といたしまして
昭和二十七年度に二百二十二万八千円を
予備費から支出せられました。又
昭和二十八年度には三百五十七万三千円の
予定のうち、
暫定予算といたしまして八十五万六千円の
補助を交付しておりまするので、一日も早く元
通りの姿に戻したいと存じておる次第でございまするが、併し何分にも貴重な
国宝でありまするので、
施工も非常な慎重を要しまするので、
ために
薬師寺におきましては
芸術大学学長上野直照氏を
委員長といたしまして、
国宝月光菩薩の
修理委員会を設立いたしました。
香取秀真氏以下
斯界の
権威を集めまして
熔接接着に関しまする
近代化学陣から
京都大学の
西村教授、大阪大学の
大西教授などを
臨時委員に嘱託いたしまして、昨年の暮以来数次の
会議を催しまして
研究いたして参
つたのであります。一方におきまして我々の
文化財保護委員会といたしましても、
美術工芸課におきまして
研究を重ねまして、両者において到達いたしました案を再度に亙り
文化財専門審議会に諮問いたしました。その結果といたしまして離れましたお首は
西村、
大西両
教授の指導、指揮の下に
内枠固定法を主といたしまして、
内枠で固める
方法を主といたしまして、最新の
金属接着剤でありまする
アラルダイトを併用をいたしまして接合することにな
つたのであります。これは
熔接と接合とがいずれが可であるかという問題が熱心に討議されたのでありまするが、
委員の多数の意向によりますというと、
熔接によりましてこの色が変わる虞れがありやしないか、これはむしろお首が離れておるということ以上にこの尊い
美術品につきまして憂うべきことでありまするので、むしろ内を固めまして、ただ
接着するということのほうがいいのではないかという
意見が多数あ
つたのでありまして、結局かような結果とな
つたのであります。それから大事な
破損、
欠損部でございますが、これにつきましてもいろいろ
意見がございました。
欠損しております
部分はそのままにしておこうと、むしろそのほうがいいのではないか。全然新たにしてしまいまして、
破損した
部分は別にこれを保存するがいいのではないかというような
意見も出たのでありまするが、やはり
修理は成るべく現在残
つているものを元にして行うべきものではないかという
意見に基きまして、
芸術大学の
丸山教授が直接担任いたしまして、
軸木によ
つて補修することを決定いたしたのであります。この
修理の第一階段といたしまして
薬師寺修理委員会と
文化財当局との協力によりまして、像内の土の取除き作業を行いました。その後
只今までに
修理に関しまする材料の調達を殆んど終りまして、又今月中に
現地に
修理工場を建設する
予定に相成
つております。
修理はその後本格的に
施工せられまして、二十八年度内に竣工の見込であります。
工事が遅れているという印象をお受けになりまするかも知れませんが、本格的な
施工の以前に個々の
事柄につきまして論議を尽し、財政上の
方法によりまして
修理の完璧を期している次第でございまするので、どうぞこの点御了承願いたいと存じます。
それから次に申上げたいと存じますることは毎日新聞の
地方版、
京都版に出ておりまするいわゆる子島
曼陀羅と称しまするものの一
部分が切れましたことでございます。これは長い
間博物館がお預りしてお
つたものであります。
奈良県の
子島寺の
曼陀羅でございます。胎臓界、
金剛界の
双幅から成るものでありまするが、その中の一幅が上のほうの
標木のところで約四寸五分切れてお
つたということが発見されたのであります。これはまだ
帝室博物館時代、即ち
昭和十六年と存じまするが、に
只今の
東京国立博物館が預か
つたのでございます。まあこれは或いは
命令出陳にな
つており、又その後になりまして
寄託出陳とか、
勧告陳とかいろいろに変
つておりまするが、とにかく非常に長い間お預りしてお
つたのであります。その以前におきましては、これは年数を
ちよつと正確に申上げることは
只今できませんが、
奈良の
博物館がやはりお預りしておりました。で、
昭和十一年でございますかに
修理が行われました。これは以前は平木と申しまするか、平たい木に巻いたのであります。非常に大きなものでありまして、縦、
横双幅両方幾分の相違はございまするが、まあ大体におきまして縦、横とも二丈以上のものであります。目方が又非常に嵩んでおります。十貫目以上もあるかといわれておりまするが、この大きなものを平たい木に巻いておきましたが
ために、横に、何と申しまするか、折目が深く入
つてお
つたのであります。これを
修理いたしまする際に太い丸い木に改めまして、これに巻くことにいたしたのであります。ところがこの
軸木が重過ぎたということが或いはあ
つたのではないだろうか、その
ためにこの重量が一層かかりまして、上のほうが切れたという遺憾な結果を見たものではないか、こんなような
意見が行われておるのでありまするが、どうして切れたのであるかということはまだはつきりわかりません。それで、
博物館としましては非常にその預
つておりますものはすべて鄭重な
取扱いをしておるはずでございまするが、特にこの
曼陀羅につきましては鄭重な
取扱いをいたしまして、戦争中、疎開の際などには非常な苦心を
払つたと聞いておるのであります。ところがこれが
只今申しましたように四寸五分ほど切れたということは、無論
博物館のほうでもわか
つておりまして、やがて
修理を行うべきものである、無論この
修理に関しましても非常に慎重な注意を要することでありまするので、軽軽に手を触れることができないと考えてお
つたのであります。ところが今年この
所蔵者でありまする
子島寺で
法養を営む、それが
ために是非この
曼荼羅が必要であるから返してもらいたい、こういう要求がございました。
法養の期日も迫
つておりまするので急いで僕らなければならん、こう考えまして、
博物館のほうでは
修理を施しませんでそのままお返しいたしたのであります。それが
ために
子島寺の
住職は甚だ平らかならざるものがあ
つたと聞いております。これはその以前に
博物館の
総務部長が
子島寺へ参りまして
事情を
お話し、了解を求めるはずであ
つたのでありまするが、
総務部長の出張がやや遅れましたので、まあともかく
総務部長が
奈良へ参りまして
住職に会いまして、いろいろ
事情をいたしたのであります。これによりまして先方も了承をされたと聞いております。ただどうもやはり
月光菩薩の問題などでもそうでありまするが、信仰の対象とな
つておりまするものと、古
美術としてこれを
取扱いまする場合との間に
幾分矛盾などが生じまするので、この前返してもらいましたときには、これはまあ余ほど昔のことと存じまするが、前以て通知があ
つたので、
住職初め三十何人の僧侶が停車場に迎えてこれを寺まで運ぶというようなことをして、
仏教流布の上においても又効果を上げることができたのであるが、今回のようにただ荷物として送り届けられたということだけでは、さような手続を尽すこともできず、甚だ遺憾であ
つたということなどを申しておられたと聞いております。この点は
薬師寺の問題な
どもあり、我々常に考えておりまして、係りの
人たちにもよく申してお
つたのでありまするが、まあ重ねてかようなことになりましたことは誠に遺憾に堪えないところであります。で、
修理は先ほ
ども申上げましたように、十分慎重を期してこれを行いたいと存じております。
それからその次に申上げたいことは、御
承知と存じまするが、この
鉱業法の一部
改正についてでございます。この度の
国会におきまして
鉱業法の一部
改正が行われました、その際に
鉱業法第三十五条及び五十三条にこうい
つた文句が挿入されることになりました。即ち「
文化財、公園若しくは
温泉資源の
保護に
支障を生じ、」云々という文字が入ることにな
つたのであります。で、これは
鉱業権の設定に当りまして
文化財保護の
必要性を認めまして
文化財保護に抵触する
鉱業権の
規定を制限したものでありまして、これによりまして三十五条につきましては
通商産業局長は、
鉱業出願地における
鉱物の掘採、掘り
採りが
文化財の
保護に
支障を生ずると認めるときは、その
出願を許可してはならないことになり、又
鉱物の掘採が許可され、行われておりまする途上におきまして、その
鉱物の掘採が、掘り
採りが
文化財の
保護に
支障を生ずるように
なつたと認めまするときには、
鉱区のその
部分につきましては
減少の
処分をなし、又は
鉱業権を取消さなければならないことになりまするので、
文化財保護に一進歩を見たものと考えるのであります。併し同法の
改正には更にもう
一つの
改正がございます。それは新たに設けられました第五十三条の二におきまして、十三条によりまする
鉱区の
減少の
処分、又は
鉱業権の
取消しの
処分をいたしましたときには、これによりまして生じた
損失を
当該鉱業権者に対しまして
補償すべきこと、又その
鉱区の
減少の
処分、又は
鉱業権の
取消しによりまして著しく
利益を受けるものがありまするときには、その
利益を受ける限度におきましてそのものに
補償金の額の全部又は一部を負担させることができる旨を
規定いたしたのであります。で、この新らしい
補償に関しまする
規定によりまして
文化財保護の実施上
補償の問題が生じて来る
可能性があるわけであります。で、これらの
改正に当りまして
参議院通商産業委員会は別項のような
附帯決議をいたしたのであります。即ちそれは
文化財保護と
鉱業開発の
調整に遺憾のないよう運営上留意するばかりでなく、
文化財保護委員会及びその
下部機関の運営が他の
利益との
調整を成し得るようにその構成につきまして考慮すること。それから
文化財の
指定によりまして他の
利益に
損失を与えまするときは所要の
補償をいたすこと。
文化財の
指定その他の
保護処分が独占的にならないようにこれに対しまして
不服申立の途を開くことなど、制度上の改善に考慮を払うべきであるというのであります。で、
文化財保護法は施行以来三年を
経過いたしまして、その間の経験に鑑みまして
改正すべき点が考えられておるのであります。
鉱業権その他の
利益との
調整も又この
一つでありますので、これらの場合を含みまして考慮すべきものであると考えるのであります。
只今申しましたこの
中小産業委員会の
附帯決議の趣旨につきましては一応了解できるのであります。ただ
文化財保護の仕事を進めます上におきましていろいろ考えるべき
事柄があり、
法律改正等につきましても
研究しておるところでありまするので、この際にこの
鉱業権との
調整も加えて
研究いたしたいと
委員会では考えております。
史蹟名勝天然記念物などの
保護に当りましては、事務的に
鉱業権との
調整を図りまするように通商
産業省などと十分打合せいたしまするようにしたほうがいいのではないかと考えておりまするが、更に進んで
調整方法を組織化することも必要ではないかと考えるものでありますので、十分に
研究いたしたいと存じております。単に
鉱業権に関してのみならず、他の
産業、又は公益との
調整という問題もありまするので、一般的問題として
研究いたしたいと考えております。なおこの問題に関しましては福岡県の平尾台の問題が
委員会において出て参りましたので、これを例にとりまして
只今文化財保護委員会ではどういう
態度をと
つているか、というような
説明を
参議院の
通産委員会でいたして参りましたのであります。
それからその次に、この度の
西日本の水書でございますが、相当大きな被害を受けておるのであります。
文化財関係におきまして相当大きな
損害を受けておるのでありまするが、併しながら
京都、
奈良辺りとは違いまして、
文化財の存在がさほど密集しておりませんのでありますが、先ず最も大きな
損害を受けたと考えられまするものは
熊本城の城壁その他でございます。
それから王塚と申しまするところにこれなどまるで泥水に埋
つてしま
つたというようなことがございまして、
復旧には相当な困難を要するのではないかと存じます。
復旧の
予算の大体のものにつきましては御
質問ございますれば
次長から詳しく申上げることにいたしたいと存じます。
それからなお
税法の
改正でございまするが、今日の
文化財保護法は、
文化財の
所有者に対しまして
義務を課することが如何にも大であり、何らの特権も与えられておらん。殊に租税の
関係におきまして
減免などが行なわれておらんということは誠に遺憾である。その
ために或いは隠匿というようなことが起り、
所有者がこれを
国宝若しくは
重要文化財に
指定することを嫌いまして、隠匿するとか或いは悪い場合でありますると海外に流出するというようなことに相成りまするので、
諸税法に関しましてこういう点を考慮して頂きたい。
減免の
規定を設けてもらいたいものであると、こう考えまして、
文化財保護委員会におきましても
研究を重ねておるのでのであります。承わるところによりますると、最初この草案ができました際には税の
減免に関しまする
規定が若干入
つておりましたそうでありまするが、これが削られまして、今日では殆んどなくな
つておるのでありまするので、こういう点を十分
研究いたして参りたいと思います。現に又
研究を進めておるのでございます。
これで大体
只今問題とな
つておりまする点を申上げたと存じまするが、更に又御
質問ご
ざいまするならばお答えを申上げたいと存じます。