○宮本邦彦君 第四班は、河野
委員と私と三鍋衆議院議員でありましたが、主として台風十三号による
被害状況を、十月の六日から九日まで、愛知県と静岡県の日程で視察して参りました。先ず静岡県と愛知県とは多少状況が違いますので、愛知県から御
説明を申上げたいと思います。
愛知県では、六日に私
ども名古屋の県庁に参りまして、
災害対策本部で副知事、それから県の首脳部、
農業団体の代表やその他県会議員等から、
災害全般の概況や
対策、陳情等を聞きまして、終
つて直ちに
被害地である知多半島へ県の係官或いは森参議院議員等の御案内で参りました。知多半島では上野、横須賀、八幡、半田市等を日没まで見て参りました。又その翌日は台風の通過いたしました中心地である碧海郡の依佐美、高浜、碧南、それから幡豆郡の平坂、一色、吉田、幡豆等の市町村を、それからその翌日の八日の午前中は豊橋市海岸
地帯の干拓地の
被害状況を視察して参
つたのであります。愛知県の今回の
被害というものは、これは九月二十五日の午後七時頃、丁度あの辺の真上を
通りましたところの我が国を襲
つた台風十三号の中心
地帯に起
つた災害でございまして、この台風は愛知県の知多半島の先をかすめまして、渥美湾の中央部である平坂町の真上に上陸したのであります。で、最大平均風速は二十三メートルにも及び、雨量は百九十五ミリ、それから最大の瞬間風速は四十五メートルというような強い風が吹いたのでありまして、折からの満潮時の高潮と一緒になりましたために潮位が非常に上昇いたしまして、四メートル二十八というような高い記録を出すに
至つたのであります。従いまして海岸堤塘は荒れ狂うところの波浪によ
つて全く文字
通り寸断せらまして、海水は決壊口から奔流いたしまして、耕地は勿論、もう市町村部落も瞬時に滄海となるというような惨害を惹起したのでありまして、
災害救助法の発動を見るものが四市三十三カ町村に及んだのであります。
被害を申しますというと、死者行方不明が共に九十五人、負傷者が千七百三十一人、建物の全壊、半壊、流失、これが八千八百十戸、浸水家屋が十万五千百三十二戸、農地の流失、埋没、冠水田が二万三千五百十七町歩、堤塘決壊の箇所が六百八十カ所、罹災者が四十一万七千八百五十九人に及んだのでありまして、
被害額は農水産
関係被害が七十八億九千万円、農地の
被害が二十八億円、その他建物等を総合いたしまして、総額六百七億円に達するというような大
被害であ
つたのであります。
私
どもは
災害地各市町村の現場に参りまして、市町村並びに罹災者各位にお見舞を申上げますと共に、それらの方々の陳情をつぶさに聞き、又当農林
委員会における
対策或いは九州
災害の
対策等をお伝え申上げまして、各位を激励して参
つたのであります。今回の愛知県の
災害の特徴或いは
災害地の
実情等を見ますというと、今回の愛知県で受けましたところの
災害地は、名古屋から豊橋市に至るところの海岸
地帯でありまして、この
地帯は中部
日本で最も発達した
農業地帯でありますし。例えば温室栽培が盛んに行われるとか、或いは促成
作物が栽培されておる。又水田は二毛作又は三毛作をや
つておるというような非常に進んだ
農業地帯であります。而もこの
地帯は早くから
開発されました所であ
つて、そうして平坦であります。特に古くから干拓によ
つて開発された所でありまして、おおむね平坦な所であります。この平坦な所が過般起りましたところの東海地震によ
つて地盤沈下をした。この沈下の状況は二、三十センチから多い所は一メートルにも及ぶというような地盤沈下をした所でありますから、一たび海岸堤防が決壊いたしますというと、その
被害は一層激甚になるのは、これは火を見るよりも明らかなことでございます。今回の海岸堤塘の決壊いたしましたこの惨害は、九州或いはよその
水害地帯の
災害とは趣を著しく異にいたしておるのでございまして、私
どもが視察いたしましたのは六日、七日、八日でございますが、台風が終りましてから半月になりましても、なお毎日決壊口から二回の高潮時には海水が洪水とな
つて耕地といわず、部落といずわ流入し、流出し、そうして毎日それを繰返しておるのでありまして、そのために決壊口は穿掘され、ますます口を大きく而も深くしておるのでありまして、豊橋市の神野新田の決壊口のごときは、すでに決壊箇所の水深が八メートルから九メートルに及んでおり、決壊口の幅は六十メートル、七十メートル、順に今日
拡大しつつあ
つて、私
どもが丁度参りましたときに潮が出ておる最中でございましたが、渦を巻いて、あたかも鳴門の渦を見るような感があ
つたのでございます。他の
災害地におけるところの決壊口も大
部分そのような状況をそのままにいたしておりまして、私
どもとして、この罹災民各位が本気にな
つて働きつつあるにかかわらず、冬作
地帯であるこの
地帯の冬作の
対策なんかもまだ考えるのに早いんじやないかというような感さえ受けたのでございます。又幡豆郡の一色町のごときは千数百町歩の耕地は未だに海面でありまして、八百数十戸に及ぶ部落は一日に二回床上の浸水を繰返しておるのでありまして、坂田というような部落は特に軒までその水が来ておるのであります。従
つて入る水、出る水の流速がかなり強いのでありまして、
農家の土台の脆弱な所をその水流によ
つて穿掘されまして、私
どもの拝見いたしましたその時まだ倒壊するものが次々に起
つておるというような惨状でございました。勿論部落民は、二階のある人は一軒の家の男一人留守番に残
つて、あとの家族は皆高い所の学校とか、或いは寺院等に合宿収容いたしまして、ともかく応急の作業に全村民が本気にな
つておるというような
状態でございました。又碧南市では工事の模様を聞きましたのですが、五百万出以上の応急復旧費はこれは県会の承認がなければできないのだということが県条例できま
つておるので、まだ県会が始まらないから着工できないのだという、とんでもないことを言
つておるような状況も実はあ
つたのでありまして、私
ども官庁の応急の
措置というような熱意に疑問をさえ差挟んだのでございます。丁度そこに面白い対蹠的なものを私見て参
つたのでお話申上げたいと思うのですが、豊橋市の海岸
地帯に
一つの干拓
地帯がございますが、この干拓地は実は県工事ではないのでございまして、干拓民が自力で応急復旧をやるような場所にな
つておるのであります。この場所の締切につきまして、地元民は市長を通じてアメリカ車にあの決壊口をふさぐために
一つブルトーザーを貸してくれないかと、こういうことを依頼いたしましたところが、
米軍の将校が見に来て、ここはブルトーザーではちよつとむずかしいと言
つてすげなく断わ
つたそうでございます。ところが地元では何としてもブルトーザーが利きそうだというので、農林省の直轄の豊橋
開拓事業所があそこにございますが、事業所にブルトーザーがありますので、事業所長のところへ参りまして、
一つ試みにや
つてくれないかと言
つてお願いしたところが、事業所長は、よし、それならおれが行
つてや
つてやると言
つて、その日のうちにブルトーザーを持
つて来まして、決壊口を締切
つてくれたそうであります。この応急臨機の
措置は誠に私
ども敬服するところでありまして、大害のような非常時にはこれぐらいな熱意と好意を各位に持
つてもら
つたらとうかというような感にさえ打たれたのでございます。私はここで一言附加えたいと思うことは、この技術のあり方、或いはそうい
つたごとく実際に仕事を生かして行かなければいけないのが私技術じやないかと思います。とかく官庁の規則等は、こい
つた非常時の
措置に欠くるところがあるのじやないかというような気がいたしましたわけでございます。又もう
一つ、私はその官庁の弊と申しますか、セクシヨナリズムの弊と申しますか、そういうものを同じこの神野新田の決壊口で気が付いたのでございます。私が復旧事務所に参りましたときに、復旧事務所に某という技術官がおられました。私は多少ともそういう専門の知識を持
つておりますから、実はこの大きな決壊口の締切りの順序を
現地で以て聞いてみたのであります。ところがその技官は、初めは非常に何というか愉快そうな口ぶりで以て、これは非常に大決壊口であるからなかなか容易ならん工事である、中堤を締切
つて、中堤は二万立米ぐらい、それから本堤の締切りは大体三万立米ぐらいな土砂が要るのだ、これを大体ニカ月乃至三カ月で以て締切る予定である。こういうような計画を
説明してくれたのであります。私も実はそれはちよつとどうかなと、こう思いましたので、実は詳しく段取り或いは計画というようなことを突込んで聞いてみたのであります。ところが私が尋ねますというと、ついに何と言いますか、しどろもどろになりまして、いや、今の計画はや
つてみてまずか
つたら又考えることにしておるのであります。こういう返答があ
つたのであります。おかしいなと思
つて私は再度尋ねて見ましたところが、県の担任官である課長が来て、今私が申しましたような計画でやれという命令であ
つたから、そういうことにいたすつもりでございますとい
つて、まだ実は着工もいたしておりませんでしたけれ
ども、甚だその熱意といい、技術的な経験といい、どうも私疑問を挟みましたので、なおあなたは一体そつちのほうの専門の技術官ですかと、こうい
つて私が聞いてみたところ、実は私は港湾の技師で、ここに一カ月だけという出張命令で来ておるのであ
つて、もう一カ月の期間もすぐ来るのだから帰してもらいたいというような口振りでございました。これらの大工事を控えて、私は
土木工事の中でも難事中の難事と言われておるところのこの干拓工事の締切に該当するような大工事を、そうい
つた間に合せというような技術者のかたがたにのみ任せておかれるということは甚だ私は遺憾に考えたわけでございまして、実は農林省には干拓という専門の技術部門がありまして専門の技術官がおられるのであります。こうい
つたときは、むしろ省の
関係とか、或いはそういうことを超越して、私
どもは技術の交流或いは応援というような形を相互に今後も官庁ではや
つて行かなければいけないのではないかというようなふうに実は痛感して参
つたのでございます。又今回の
災害の直接
原因を見ますというと、堤塘の決壊にあるわけでございますが、その決壊の
原因は、風を伴うところの海水とその波浪というようなもので起
つておるわけでございますけれ
ども、例外なく見ましたところ、堤塘を温流いたしております場所で決壊をいたしておるのであります。又堤塘の上に松の木がたくさん生えておりましたが、松の木の倒れたところは必ずと言
つていいくらい決潰いたしております。であそこの愛知県の海岸堤塘は県管理の堤塘にな
つておりまして、過般の東海地震のあとで大分県庁は補強をされました。けれ
ども、この殆んど港湾あたりに見られるような立派な波返しを作るコンクリート工事をやりました補強工事も、やはり溢流という場合には脆くも殆んど何の効果をも示さないと言
つていいくらい破壊されておるのでございまして、表側ばかり頑丈にいたしましても、裏側が脆弱であ
つたならば、干拓堤塘は何らの効果がないということをまざまざ見せられて帰
つたのでございます。で、
災害地のかたがたの話によりますというと、六十何年前かの
一日違いにこれと同じような実は大
災害があ
つたということを言
つておられました。干拓地の堤塘を私
ども今後考えるときに大いに反省すべきことではないかと思
つておるのであります。で、それにつけましても、
日本の国には同様な干拓地が
全国にたくさんあるわけでございまして、これらの干拓堤塘が多少の差こそあれ、今回のような潮位の高い高潮が参りますというと、恐らく又寸断されるのではないかというような恐ろしい肌寒さを感ずるような危惧を私は感ぜられたのでございまして、干拓堤塘の補強という問題は、これは破壊されてからや
つても役に立ちませんから、今回の
災害をいい警鐘といたしまして、至急この干拓堤塘の補強をいたすべきだと思うのでございます。なおそれにつけましても、干拓堤塘工法の研究というようなものは一層慎重に急速になす必要があるのではないかということをまざまざ考えさせられたわけでございます。ともかくもこれらの
災害地における復旧工事は逐次進捗することと思われますが、冬作の播き付けば何としても罹災民にと
つては最も緊要なことでございまして、長時日に亘るこの海水の排水は、同時にこれらの当地の塩分をどうするかという塩分除去、除塩作業というものも又この
災害においては特に考えられなければならないことの
一つだと思
つておるのであります。淡水の豊富なる所はよろしいのでございますけれ
ども、知多半島のように水に非常に不便を感ずるところでは、除塩を水によ
つてなすということも、そうそうできがたいのではないかというようなふうにさえ考えられました。地元民もその点について何とか中央で以て
一つ解決の途を考えて欲しいという切なる
要望があ
つたわけでございます。私
どもが今回視察いたしましたこれらの
災害地帯というのは、今申しましたように全部海水で以て今日なおたたえられておりますから、低い所の
水田地帯の
稲作は完全に全滅
状態でございます。又多少高い所の
畑作も塩水のために殆んどが枯死いたしまして、私
どもが見て参りました所では、僅か「ねぎ」の青い芽が幾らか下部のところから吹き出しており、ほかには何も青いものが見当らなんだというように塩害の
被害は大きか
つたのでございます。そうい
つた点についても今後畑地の除塩ということも又考えられなければならないし、この跡作に植えるところの
作物は、塩に強い耐塩性のある
作物というようなことも勿論考えられなければならないのじやないかと思
つております。
これらの
被害町村を廻りまして、私
どもは具体的ないろいろな
対策要望というようなものをまだ聞き得ませんでした。ということは、あまりに
災害がひどくて、今日の問題に追われてお
つて凶作地帯の
対策要望というようなところまで地元はまだ落付いておられなんだ
つた状況を拝見いたしまして、ただ
県当局或いは市町村当局は、九州
災害によりまして第十六国会で制定されましたあの救助法を最小限度急速に適用してほしいということをくれぐれも我々にお願いするということを言
つておられました。私
どもは当然なことであり、同時に本
地方において除塩という問題については、又別に立法或いは省令等で以て考えざるを得ないのじやないかということさえ
感じて参
つたのでございます。
続いて私
どもは静岡県に参りまして、静岡県では
片柳委員長も御参加頂きまして、そうして静岡
県下の十三号台風による
被害状況をつぶさに見て参
つたのでございますが、ここで続いて申上げ事すけれ
ども、浜名湖の沿岸は
程度の差こそあれ、大体におきまして干拓地の
被害が大
部分でございました。従
つて私
どもが見ましたところの伊佐見地区とか、或いは庄内又は和地村、こうい
つたところは殆んど愛知
県下の干拓
災害地と同じような状況でございます。多少浜名湖は湾である
関係と台風の中心から少しく、ずれておりましたので、
程度が軽微であ
つたという
程度でございます。それから翌日は九日でございましたが、雨の降る中を私
どもは大谷、豊田、大里というような静岡市南部の白穂の状況、志太郡相川村、静浜村吉田村等の潮風害の状況、それから川崎の塩害の状況、海岸砂防の状況等を見て参
つたのでございます。静岡県の
被害は台風十三号の
被害ではございますけれ
ども、これは今申しました浜名湖の塩害を除く他の地域は全く
凶作地帯の
被害と同様でございまして、この
被害の
原因は今回の十三号台風が雨が非常にあの
地方は少のうございまして、三十五ミリ前後、そしてそこへ持
つて参りまして塩を極度に含みましたところの風をこうむり、なお且つその直後異変現象と言われておるところの湿度が急に下り、そして熱風がその後にや
つて来たというような、そうい
つた特異
気象現象によりまして、
開花稔実の期にありましたところのこの
地方の主として晩稲が完全に白穂にな
つてしま
つたという
被害でございます。先ほ
ども御
報告にありましたように、静岡県におきましても、近年
供出その他の
関係から農民ができるだけ多
収穫品種を作る。で、晩稲が最も収量が多いのでございまして、その
関係から最近、特に本年は晩稲が多くな
つたのでございまして、この晩稲が例外なく海岸
地帯は白穂の現象を呈したのでございます。で、静岡県のこれらの
被害が百十三億と言われておるのでございまして、
被害地域は海岸から数キロ、深いところでは十五キロにも及んでおるそうでございまして、水田五万六千町歩のうち二万六千町歩というものはこの白穂によ
つて大
被害を受けておるのでございます。私
どもが参りました特に
被害のひどい町村では、この秋の村祭も中止、学校の運動会も中止というように、非常に何と言いますか、地元自身も自粛自戒、この
凶作対策に対する真剣な気構えを見せてお
つたような状況でございます。この静岡県には以前にもアイオン台風がありまして、これと同様な
被害がございましたのでありますが、今後もなおかかる台風はしばしば参ることではないかと思うのでございまして、
品種の選択とか、耕種技術或いは危険分散という経営改善の面もやはり
農家としては
相当慎重に考えなければならないし、同時に農林省としても、こうい
つた問題にもう少し真剣さを持
つて指導を行わなければならないのではないかというふうに実は痛感して参
つた次第でございます。
静岡県からのこの
対策要望は、
被害農家の
飯米確保を
一つお願いしたい、又再生産に要する
営農資金の融資を是非してくれ、又
昭和二十八年度産米
供出の
割当量は
一つ適正に考えてくれ、明年度の稲、蔬菜の
種子の
確保、購入費の
補助、それから
被害農
作物に対する病虫害防除用農薬購入費の問題を特に強調しておられました。話によりますというと、一反歩千五百円ぐらい今日なお未決済のまま残
つておる状況であるというような話を
現地で聞いて参りました。又
農業共済保険の早期
概算払の
措置をお願いしたい、
被害激甚町村に対しては全額国庫負担による救農土木事業を早急に
実施して欲しい、それから
被害地
農業協同組合の損害に対する
助成及び経営に要する
資金の低利融資を希望されておりました。冠水甘藷の早期加工処理に要する運賃その他の
経費の
助成を
要望し、又
被害農家に対する課税の減免
措置等を、特に
県当局又は
被害農業団体代表のかたがたが強調いたしておりました。
以上を以ちまして簡単でございますが、私の今回の視察
調査の御
報告を終ります。