○国務大臣(内田信也君) 大変我がままを申上げて申訳ございません。衆議院の本
会議において何せ私に対する質問がまだ建
つておりますので御無理申上げて相済みません。今後におきまする農林水産行政の
基本施策について、その
方針の概略を御
説明いたしたいと存じます。
我が国がその独立と安定の基礎を培うためには先ず経済の自立を達成することが喫緊の要務であることは、ここに改めて申上げるまでもございません。然るに最近の国際情勢は物価の低落と輸出競争の激化の方向を示しておりまして、独立後日なお浅く、臨時的な外貨収入の依存から完全に脱却しておりません。我が国経済の前途は誠に厳しいものがあると感ぜられるのであります。かかる事態に対処しまして、我々は農林水産行政の諸力を集めまして、
生産力の高度化を図り、総合的な食糧自給度の強化並びに農林漁業経営の安定と向上のために、従前にも増して一層強力な施策を推進しなければならないと
考えるのでございます。
次に、具体的施策の大要について申上げますると、第一は総合的な食糧の国内自給の促進であります。主要食糧の輸入のため、現在においても年々巨額に達する外貨を必要としていることは御承知の
通りでありますが、この食糧の不足は、人口増加による消費の増大と農地の潰廃、農業水利
施設の老朽化等に伴う
生産の減少によりまして、将来ますます増大の一途を辿ることとなり、今にしてこれが
対策を確立しなければ、我が国の経済基盤は根本的に崩壊せざるを得ないのであります。これがため
農林省においては、食糧増産の計画を策定いたし、今後十年後においておおむね自給を達成するという目標を堅持しつつ、食糧増産の計画とその実施について一層の効率化、総合化に特に意を用いまして、自給促進
対策の強力且つ着実な推進を図る所存であります。
先ず、増産の基盤である土地条件の整備を図らなければなりませんが、そのための農地の拡張及び改良事業につきましては、河川、電源開発等との総合性を特に留意いたしますことは勿論、事業を効率的に実施し、その効果を明らかにする確実な手段を講じたいと思うのであります。
次に、耕種の改善に関しましては、特に農業技術の試験研究を拡充し、而してその成果を
農家に普及滲透させるため、これを営農技術として確立することが増産に多大の寄与をなすゆえんであるのに鑑みまして、特に意を払いたいと
考える次第であります。
なお、湿田地帯、寒冷地帯等の後進地域については、その地域の特性に対応し、右の施策を推進すると共に、併せて共同利用
施設等による営農改善施策をも強化実施いたしまして、以て当該地方の農村振興に万遺憾なきを期したいと存じます。
更に畜産の振興につきましては、ただに地方の培養、経営の改善を通じて主要食糧の増産に貢献するのみならず、又脂肪及び動物性蛋白の補給源といたしまして、食生活改善の見地から見ましても、総合食糧の自給達成上重要な
意味を有するのでありまして、
従つて乳牛に重点を置いての有畜
農家創設につきましては、集約酪農
地区の設定、自給飼料増産等の施策を講じ、主要食糧の増産と共に、その強化を図
つて参らねばなりません。
第二に、農業経営の安定向上について申上げます。
生産の基盤たる土地制度につきましては、すでに恒久法として確定されました農地法の諸原則を堅持して参りますことは、改めて申すまでもないことであります。
農産物の
生産が殆んどすべて戦前の
生産水準に達しました今日、農業経営の安定向上のため、とるべき問題といたしまして、重要
農産物の流通面に関する価格安定の問題がございます。これにつきましては、
農業協同組合の系統組織によります共販体制を一段と整備強化いたしますと共に、
政府買上についても努力いたしたいと存ずるのであります。これと関連いたしますのは農業
生産上の重要資材に関する施策でありますが、肥料
対策につきましては、その国内価格の安定、内外需給の調整及び輸出の振興について根本的な
対策を確立する必要があり、先般来肥料
対策委員会において検討中であり、近くその成案を得るに至るものと思われますので、これに基いて具体的施策を明確にいたしたいと思います。なお、畜産の振興に伴う購入飼料の需給安定につきましては、先に成立しました制度の適切なる運用に万全を期したいと存ずるのであります。
次に、農林漁業
金融の拡充及び円滑化に関しましては、すでに発足いたしました農林漁業
金融公庫の十全の活用に努め、その融資の拡大を図ると共に、自作農の創設維持、開拓者の営農に対する
資金の融通についても、それぞれに適切な
措置を講じて行きたいと存じます。而してかかる
金融上の諸施策は、又他面総合食糧の自給度強化に十分の役割を果し得るものと信ずるものであります。更に、農業
災害補償制度に関しましては、
農作物共済の
農家負担の軽減、家畜
共済制度の改善等、農業
生産の確保並びに農業経営の安定のための本制度の重要性に鑑みまして、その機能の改善に努力いたす
考えであります。
次に、蚕糸業振興につきましては、特に蚕糸業振興計画達成のために、桑園
生産力の向上、技術指導の強化等の
措置を講じて参りますと共に、生糸輸出の増進についても格別の施策を確立いたしたいと存ずる次第であります。
最後に、以上と関連しまして、
農家の経済的及び社会的地位の向上のために重要なのは農業団体に関する施策でありますが、本施策については、御承知のごとき次の三つの原則、即ち第一は、農業技術の
生産指導について、現行の農業改良普及制度を整備強化いたしますと共に、市町村農業
委員会に技術員を設置して改良普及員の普及事業と
農業協同組合の
生産指導事業に協力させるものとすることでございます。第二は、農業及び
農民の利益代表機関として都道
府県農業
委員会を改組すると共に、その全国的な組織として全国農業
委員会議所を設けるものとすること、第三は、
農業協同組合の事業の刷新強化を図るため、全国及び都道
府県に
農業協同組合の総合指導組織として
農業協同組合中央会を設けることがあるのでありまして、この
方針に基きまして、予算並びに立法
措置を講ずることといたしました。なお、農林漁業組合連合会の整備については、現行の再建整備法に基く
措置のほか、更にその促進を図るため立法化及び予算化を講ずることといたしたのであります。
次に、治山治水
対策でありますが、林業の振興と農業
生産の基盤の整備に資するため、治山治水
対策を計画的に実施し、森林資源の維持培養を図らねばならないことは言を待たないところでありまして、このため官公民有林を通じまして、造林事業を推進いたしますと共に、荒廃地を復旧し、山地の荒廃を防止し、水源林、
災害防止林等の造成を図り、又奥地林道の開発を総合的且つ計画的に施行して、治山治水に万全を期したいと
考える次第であります。
最後に、水産行政の施策といたしましては、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと、外洋への発展の基本
方針の下に、漁業経営の安定合理化と
生産力の増強を図り、水産資源の維持開発と漁場秩序の確立に今後とも努めて参りたいと思います。海洋漁業につきましては、昨年来多大の発展を見たのでありますが、国際的漁場において操業いたします関係上、今後ともその指導、監督及び
調査に万全の
措置を講じて参りますことは勿論、関係各国との協定、紛争の解決には今後とも一段の努力を重ね、海洋漁業の健全な発展に資したい所存であります。他方、漁業者の大
部分を占めております中小漁業者の漁業経営の安定合理化のために、農林漁業
資金の確保について格段の努力をいたしますほか、中小漁業信用基金制度の機能の発揚に努力いたしまして、水産
金融に遺憾なきを期しますと共に、漁船損害補償制度の拡充によりまして、漁船の適期における更新を容易にいたしたいと存ずる次第であります。なおこのほか、近海の資源の
調査開発といたしまして、対馬暖流流域の資源の総合開発の
調査を本格的に実施すべく努力中であります。
以上、農林水産行政施策の大要を御
説明申上げた次第であります。