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1953-07-09 第16回国会 衆議院 労働委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十八年七月九日(木曜日)     午前十一時二十一分開議  出席委員    委員長 赤松  勇君    理事 倉石 忠雄君 理事 丹羽喬四郎君    理事 持永 義夫君 理事 高橋 禎一君    理事 山花 秀雄君 理事 矢尾喜三郎君    理事 山村新治郎君       荒舩清十郎君    池田  清君       鈴木 正文君    田中伊三次君       田渕 光一君    野田 卯一君       三和 精一君    山中 貞則君       町村 金五君    黒澤 幸一君       多賀谷真稔君    井堀 繁雄君       熊本 虎三君    中澤 茂一君       中原 健次君  出席国務大臣         法 務 大 臣 犬養  健君         労 働 大 臣 小坂善太郎君  出席政府委員         通商産業事務官         (鉱山保安局         長)      吉岡千代三君         通商産業事務官         (公益事業局         長)      中島 征帆君         労働事務官         (労政局長)  中西  実君  委員外出席者         労働事務次官  齋藤 邦吉君         専  門  員 浜口金一郎君     ————————————— 七月七日  失業対策事業就労労務者待遇改善に関する請  願(中川俊思君紹介)(第二九七四号)  同外一件(門司亮紹介)(第二九七五号)  東京地方附添婦組合労働者供給事業許可の請  願(島上善五郎紹介)(第二九七六号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  小委員補欠選任  電気事業及び石炭鉱業における争議  行為方法規制に関する法律案内閣提出第  二一号)     —————————————
  2. 赤松勇

    赤松委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りいたしますが、けい肺病対策小委員中澤茂一君が去る三日一旦委員を辞任されておりますので、ただいま小委員の数が一名欠員となつております。この際小委員補欠選任を行わなければなりませんが、これは先例によりまして、委員長より指名をいたしたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 赤松勇

    赤松委員長 異議なしと認めます。よつて中澤茂一君を再びけい肺病対策小委員に指名いたします。     —————————————
  4. 赤松勇

    赤松委員長 それでは電気事業及び石炭鉱業における争議行為方法規制に関する法律案を議題といたします。  去る七日の本委員会におきまして、倉石忠雄君より提出せられました本案についての質疑を終局し、討論採決を行うべしとの動議は、理事会において協議の上、倉石君より撤回の申出がありましたから御了承を願います。  それでは本案について質疑を許します。井堀繁雄君。
  5. 井堀繁雄

    井堀委員 前々回の委員会であつたと思いますが、倉石委員質問に対しまして、中西政府委員から答弁がありまして、問題の中心がある程度明らかになつておりまするので、その問題についてさらに明確にしたいと思います。  中西政府委員答弁を記録の上について見ますと、倉石委員は「公共福祉を擁護するため」という文字と、争議行為規制について質問をいたしておりますが、政府委員は「公共福祉は、もちろん事業の性格によりまするが、結局争議権公共福祉との調和というふうに考えております。そこで争議行為がどの程度許されるか、つまり争議行為正当性——これは結局抽象的な表現になりますけれども、もろもろ一般的基本的人権と、それと争議権との調和ということになるのじやないかと思うのでありまして、このことは、憲法の十二条、十三条との関連で、当然憲法の期待しておるところではないかというふうに考えております。」こういうふうに答弁されております。ある程度わかるのでありますが、この答弁の中で明らかにしなければなりませんことは、争議権規制が、憲法十二条と十三条の関連において制約を加えることだけが許されるのであつて、他の場合においては、憲法二十八条の規定は厳然として侵すことのできないものであるというふうにお考えになつておるかどうか、この点をお伺いしておきたい。
  6. 中西実

    中西政府委員 ただいまの点につきましては、憲法の二十八条の労働者権利は、憲法十二条、十三条との調和において許される。但し、たとえば二十九条の財産権につきましても、やはり憲法に保障されたもろもろ権利の一つでございます。従つて憲法に保障された各条の権利調和ということが、結局十二条、十三条との調和というふうに考えております。
  7. 井堀繁雄

    井堀委員 それでは重ねてお尋ねをいたしますが、憲法の十二条ないし十三条に対する解釈上の問題について、明らかにいたしたいと思います。憲法十二条にはこの宣言をいたしております。「この憲法国民に保障する自由及び権利は、国民不断努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」こういう文章でありますが、これは明らかに憲法——専門的な知識はございませんけれども、常識的に判断いたしましても、きわめて明確なように、あらゆる基本権というものは公益福祉に名をかりて侵すことを十分警戒しての文章である。すなわち国民不断努力をもつてかかる事態を事前に自制し、もしくはさような発生を阻止しなければならぬというふうに、われわれは今回の場合はとるべきではないかと思います。この点について明解な答弁を求めます。
  8. 中西実

    中西政府委員 仰せのごとく憲法に保障されましたもろもろ権利、特に十二条にございますように「国民に保障する自由及び権利は、国民不断努力によつて、これを保持しなければならない。」とあります。極力それぞれの権利は相互に調和は必要でございますけれども、なるべくこれを侵害しないように、制限最小限度にするようにということは同感でございます。
  9. 井堀繁雄

    井堀委員 はつきりお答えをいただきましたので、次にお尋ねをしなければなりませんことは、二十八条であります。すなわち労働者団結権及び団体行動に関する権利というものが、民主主義の原理の上に立つ新しい憲法によつて認められていることは、他の場合にも各委員政府からそれぞれ明らかにされておりますから、確認は要しないと思います。そこで労働者団結権なり罷業権というものは憲法によつて保障されなければならない、その根本というものは明らかに国民の基本的な生存権、すなわち労働者生活して行くためには、今日の制度のもとにあつては、団体行動によつてのみ労使の間に対等地位が築かれるということについては、たびたび明らかにされておるのであります。これを侵すようなことは、第十二条の但書にありますように、国民のすべての立場からあらゆる努力が払われて、なおかつその努力が及ばない場合に制約が加えられて来るというふうに考えられなければならぬと思うのであります。ところが、この立法は、労使対等立場における基本的な労働者団結権に対して、たとい理由いかようであろうとこの憲法にこたえられる理由がなければならぬ。今までの答弁なり、政府提案理由の説明の中には、それとうなずける何ものもありません。このことは労働行政責任地位にあります労働大臣としては、きわめて重大な事柄であると思います。この点については、たびたび私はほかの角度において質問をいたしましたけれども、答弁をいただけないことを非常に遺憾に思つております。この点だけは、どうしても明らかにしなければならぬ。われわれ立法府の関係者としての責任もありますから、もしこの答弁が明らかでない限りにおいては、われわれはかような冒険に取組むことをおそれるのでありますので、明確な、しかも何人も理解できるような御答弁をお願いしておきます。
  10. 中西実

    中西政府委員 仰せのごとく憲法に保障されましたそれぞれの権利は、国民不断努力で極力これは維持するということが、われわれの使命だと存じますけれども、ここに提案されました電気並びに石炭事業におきますスト方法につきましては、その内容は、まさに従来からも違法と考えられ、あるいは昨年の経験上、社会通念からいたしまして非とされる方法を、この際明らかに違法なものと確認しようというのが趣旨でございます。従つて公共福祉との調和におきまして、当然かかる制限規制は許されるものと考えるのでありまして、最後になりますれば、それが公共福祉との調和においてどうかということは、各人というか、それぞれの立場認識相違解釈相違ということになるのじやないかというふうに感じられますが、われわれとしては今回の法案内容は、当然公共福祉との調和においてなさなければならないものであるというふうに考えるものであります。
  11. 井堀繁雄

    井堀委員 今の答弁の中で、きわめてはつきりさせなければならぬ事態が明らかになつて来た。争議行為について、確かに好ましくない行為であるという点については、私もそう格別認識相違するものではない。ただ、かかる争議行為によらなければ、労働者基本権である生活を維持することができるかできないかが問題になつて来る。その行為をとらえて基本権を左右するということは、恐るベき解決である。少くとも、労働争議憲法第二十八条の規定によつて許されていることは、間違いのないことである。そのいわば部分的なものが、たまたま提案者が言うように、公共福祉との調和あるいははなはだしきに至つて社会通念などと言つているが、こういう問題をさような抽象的な言葉をもつて解釈すべきでない。もし公益福祉関係するものなら、団結権それ自身に問題を求めなければならぬ。団体行動が許され、たまたまその行動の中において、これこれのことがよくないということは、少くともそれは労使関係の調整に属することであります。もし労働省の考え方が、労働者争議行為の部分的な現象をとらえて、基本権にさかのぼつて制限を加えるということであれば、それは憲法第二十八条の精神を侵すものであることは、以上の議論において明らかである。もしそうでないというならば、その労働争議発生する理由を否認されなければなりません。もし炭労・電産のストライキそれ自身が違法であるとするならば、この議論は成り立つが、部分的な行為については、刑法その他において当然禁止され、処分を受けるべきものであつて、あなた方は争議行為の一部を制限すると言うが、これは私は一種の誤つた見解であると思う。争議行為というものは、あらかじめ規定することはできません。もしあるとするならば、抽象的には労働力を売り惜しみする行為であるから、その労働力を売り惜しみする方法行為というものは相手によつて違う、時によつて異なります。でありますから、私は冒頭にこの法案を出す前提条件になつている昨年の電産・炭労ストライキを取上げておりましたから、そのストライキ原因を究明しようとして質問したけれども、故意かどうかは知らないが、答弁を避けられた。こういうふまじめな答弁は、今のお答えとはまつたく背馳する態度であると思うのでありますが、労働大臣は、その点に対して態度を明らかにして、それから議事を進行する上についても、私の質問に正確な答弁が願えるか願えないかにかかつているわけですから、ひとつ明確な考え方を聞かしてもらいたい。
  12. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 遺憾ながら私の考えは、あなたと見解を異にしております。私は憲法第二十八条というものは、十二条並びに十三条の規定にありますごとくに、公共福祉のために基本的人権というものは用いられねばならぬ、あるいはまた公共福祉を侵してはならぬということで、権利というものは無限に存在するものではない、やはり公共福祉との調和において権利は存在するものと思う。そこで憲法第二十八条というものは、当然これらのことを予想して労働基本権というものを定めたものと解釈しているのであります。従いまして、今いろいろお話がございましたが、昨年の電産並びに炭労の二大ストの苦い経験にかんがみまして、こういうことだけはひとつ御遠慮願わなければならぬ、これはひとつ行き過ぎの争議行為であるということを明示する、これは社会通念の成熟によつてここに非とせられるに至つた、こういう判断をいたしているのであります。その点につきまして、私は井堀委員との見解を異にすることは残念でございます。私はさように考えております。
  13. 井堀繁雄

    井堀委員 憲法解釈に対する見解を異にするということでありますから、これはやむを得ぬでありましよう。そこでお尋ねをいたしますが、労働大臣立場で、今問題になつている電産・炭労ストライキというものは、どうしても避けられないものであつたかどうか。続いてそのストライキ原因については、前回もお尋ねしたけれども、きようは御用意があると思うので、お答え願えると思います。そこで電産・炭労の両方のストライキとも、その争議の直接の原因は、明らかに労働者生活権のために出発していることは疑う余地がない。これらの労使間にその妥結ができなかつたために、ストライキに入つているのでありますから、そのストライキに入らないで済む方法があつた考えるか、やむを得なかつたとお考えであるか。やむを得なかつたというのであれば、一体どういうような労働者憲法で保障されているところの争議行為というものが考えられるか。この点がお答えがなければ、私は前提になつている労働争議批判は許されぬと思いますので、見解がかわつていてもけつこうでありますから、明らかにしていただきたい。
  14. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この争議原因については、先般もお答えを申し上げたのでありますが、経済上の主張において労使双方が著しくその見解を異にしていたということが、原因であろうと思います。その他にもいろいろありますが、これは先般申し上げました。ただ、私はこれにお答えにかえて、あまり同じことを何度もお話するのは恐縮でありますから、中労委の委員長中山伊知郎氏がこのほどILO総会において述べている言葉を引用したいと思います。これはその一節でありますが「最近電気及び石炭のような重要産業における労働争議の場合、関係当事者労働委員会のあつせんまたは調停という方法を用いないで実力に訴えて解決する傾向がある。労働問題が経済事情の反映であるからにはこの傾向もまた日本経済の困難な事情を反映するものかもしれない。同時に、現在の日本経済重要産業のこうむる損失を負担し得ないであろう。しかしこの状況が改善されないならばある措置を講じ、それによつて一般公衆の正当な利益争議の両当事者によつて尊重されることが必要となるかもしれない。」こう言つております。私もまさにこの見解同感でありまして、一般公衆利益を守るためにある程度の措置を必要とするのではないか、かように考えているのであります。
  15. 井堀繁雄

    井堀委員 そこでお答えを願いたいと思いますのは、労使両者に、その文章ではその責任を問うているわけですが、この法案は、労働者の方にのみ規制を加えるという措置であります。しかも、基本的なものについて強い制約があります。それでは労使両者に、かかる事態発生を防ぐために、使用者側すなわち業者側に対して、どのような措置をおとりになるという具体的なものがあるか、明らかにされたい。
  16. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私の見解は、しばしば申し上げておりますように、この法案自体をお読みくださると、労使双方のことが書いてあるわけです。しかし実態的には、この労働者に対する規制があろうというふうなお考えが一部にあることは、あなたのお話にもある通りでありますが、私としましては、これは新たに設ける規制ではない。従来違法であり、法律上許されざることであり、また社会通念上非であるということを、ここに明確に確認する規定である、かように思つておるのであります。もちろん経営それ自体について、これは私として社会的な規制があるというふうに考えております。ただ、私の所管ではございません、これは通産その他において考えることだと思いますけれども、私の見解を申し上げますれば、それ相応に、野放しに社会的規制がなくて、何ら社会的批判がなくて生活できる人間はないのでありますから、企業それ自体においても、さような規制はあろう、こう考えております。
  17. 井堀繁雄

    井堀委員 伺つておりますと、何だか道徳規定のようなふうに受取れるのであります。道徳規定なら、私は賛成であります。しかし、いやしくもこの法律が成立いたしますと、労働者罷業権は、この点は保護を失うのであります。争議行為として正常なものでないという規定になる以上は、それは憲法の二十八条の保障からはずされるわけであります。この点について、もしそうでないという明らかな御答弁が願えるなら伺つておきたい。
  18. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先日ここで学者の意見を聞いたのでありましたが、その中にだれでありましたか、藤林教授であつたかと思いますけれども、大体炭鉱争議の場合に、保安要員引揚げなどというようなことは、本来これは争議の常識ではないのだ、だからこういうものをあらためて規制する必要はないではないかという趣旨の、この法案に対する批判があつたのでありますが、批判において、そういうことが述べられたと私は記憶しております。とすれば、私は逆解釈いたしまして、本来やるべきでない、争議といつても価値のないようなものは、ここでこれはやつちやいかぬということは、新たなる規制、新たなる制約を加えることにならぬ、こういうように解釈いたしたわけでございます。
  19. 井堀繁雄

    井堀委員 答弁といたしましては、私から伺つておることと、かなりかけ離れた立場議論されておるようで残念であります。そういう争議行為というものは好ましくないという考え方については、私はそれは同意ができる。しかし、それはあくまでも労使の良識に訴えて、そうしてこれは調整して行くべきだ。あるいは輿論の非難を避けながら、労働組合がやはりその権利を行使できるということは、労働組合の健全なる成長のために必要なる行為であつて第三者が干渉すべき事柄ではないのである。この点について、もし労働大臣が、今後の日本労働運動、ことに罷業行為等について、一々労働行政の中においてさしずをなされる必要があると、もしお考えであるならば——いな、それがなければ、かような法律は出て来ないと考えるので、伺うのであります。これは次に私の伺おうとする問題に触れて来るわけでありますが、労働組合というものを、労働大臣はどういうふうにお考えになつておるかということを、どうしても質問しなければならぬ。はなはだ幼稚な質問で恐縮でありますが、私は労働組合というものは、憲法の条章にも明らかになつておりますように、労働者組織それ自身人格として認めておるわけでありますから、労働者の個人の人格を尊重されることはもちろん、一方労働者基本権を尊重しようとすれば、どうしてもその組織を認めなければならぬ。そこで、その組織自身が良識ある正しい成長を遂げるかどうかということは、労働者自身労働組合自身にとつても重要であるが、社会的にも大きな関係を持つことは申すまでもありません。その限界において起つて来る問題であると私は思う。そうすると、労働組合の健全なる育成は憲法十二条にありますように、労働組合自身はもちろん、労働者自身ももちろんでありますが、これと対照的な関係にある、切り離すことのできない——ことに労働争議発生原因というものは、一方的に起るものではありません。何か今までのお話を伺つておりますと、これこれの行為は世間が擯斥する、あるいは社会通念の上から見てこの行為はよくない。この現象について、きびしい批判ときびしいおきてを押しつけようとしておるようであります。何回も言つておりますように幼稚な質問でありますが、労働大臣の最も重要な所管事項であります労働者基本権である、民主的な基礎をなす労働者組織については、あらゆる労働行政基礎をなして来なければならぬと思うのであります。この点についても倉石委員質問に対するお答えが、ここにあります。あとでお尋ねいたそうと思いますが、そういうように、労働者自身組織を持つということが根本的な問題である。その組織は何のために持つかということは、雇い主との間における対等地位をつくるためである。さらに進んでいえば、その生活を守り、労働条件社会的な経済的な地位引上げようとすれば、その力にたよらざるを得ないのであります。これは申すまでもないのであります。そこで雇い主労働者との間が調和がうまくとれれば、平和的に問題が処理できるのであります。その調和が崩れたときに、労働争議発生するわけでありまして、争議自身については、何人もいいものだとは考えておりません。そこでよくない市議行為の中の最もよくないものだけを取上げる、こういうだけの話である。だから、よくないからということで言うのであれば、あなたの議論は拡大解釈して来れば、結局争議行為それ自身制約しなければならなくなる。公益にはなはだしい影響を来すものであると言う。はなはだしいとか著しいという言葉をもし抜くならば、争議行為というものは、生産手段が停止されるのでありますから、人類文化の上に決して文明的な行為ではない。しかし、そういうことによらなければ、労使関係の力のバランスがとれない。すなわち資本主義経済自由主義経済のもとにあつては、どうしても労使関係においては、この方法によらなければならぬ。ストライキ社会に疾患があるということは、議論余地がないと私は思う。これをぼかして——あるいは御承知がないはずがない。何か答弁を聞いておりますと、それは別のものであるかのごとき口吻で、あなたの人格を疑いたくなつて来るのであります。そういう子供だましの答弁を、私は非常に遺憾に思う。私もあなたの人格を尊重し、労働大臣地位を認めてお尋ねをいたしておるのでありますから、どうぞそういう点をそらさないでお答えをいただきたいと思います。そうすれば、答えはすなおに出て来ると思います。先ほど来だんだん伺つておりますと、私はあなたの言葉に非常な侮辱を感ずるのであります。  以上はなはだ幼稚なことを前置きいたしましたが、こういうわかり切つた労働者団体行動における制限というものは、第三者がやるべきじやない。あなたが言つているように、そこで答えはつきり出て来るわけです。あなたが労働組合を信用しない、労働者敵方に追いやる立場議論されるなら、私は質問をしないつもりでおつた憲法解釈においては、多少そういう点が出て来たようでありまして、さてはという感じがいたしておりますから、具体的に伺うのであります。性根をすえて返答されなければならぬ問題だと思います。とうぞ。
  20. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私はもう衷心から健全な民主的な労働組合が発達して行くことをこいねがつておる。政府立場といたしましても、その一々の労働紛争の中に介入して行くということを考えておらないことは、屡次申し上げておる通りであります。こいねがわくは自主的に、こいねがわくは健全に、みずからの思慮とみずからの分別と判断において発展されんことを希望しておるのであります。しかし、今申し上げておるように、昨年以来の非常な苦い経験があつて、そうしてこの間に規制を要するという社会通念の成熟というものが認められ、そこにおいて三箇年の期限を区切つて、この間にこれだけは御遠慮願いたいという土俵を一つ確定せざるを得ぬ。そこでこの間において、井堀さんの言われるような、また私の希望するような、そうした健全な労働組合というものが発展し、日本国経済をゆたかならしめ、お互いの国民生活をさらに向上せしむることに相ともに携えて行くことになるであろうということを期待しておる次第でございまして、決して敵方に見るとか、そういうことは毛頭考えておらぬ次第でございます。  なお労働組合とはいかんという御質問がございました。私も試験を受けるような気持でおるのでございますが、そういうことをまつ正面からお答えいたすよりは、ちようどここに最高裁の大法廷の判決文がございますから——昭和二十四年五月十八日でございますが、これをひとつ読み上げておきたいと思います。「勤労者の労働条件を適正に維持しこれを改善することは、勤労者自身に対して一層健康で文化的な生活への道を開くばかりでなく、その勤労意欲を高め、一国産業の興隆に寄与するゆえんである。しかるに勤労者がその労働条件を適正に維持改善しようとしても、個別的にその使用者である企業者に対立していたのでは、一般に企業者の有する経済的実力に圧倒せられ、対等立場においてその利益を主張し、これを貫徹することは困難なのである。されば勤労者は、公共福祉に反しない限度において多数団結して労働組合を結成し、その団結の威力を利用し必要な団体交渉をなすことによつて、適正な労働条件の維持改善をはからなければならない必要があるのである。憲法第二十八条は、この趣旨において企業者対勤労者、すなわち使用者対被使用者というような関係に立つものの間において、経済上の弱者である勤労者のために団結権ないし団体交渉権を保障したものにほかならない。」というのであります。用語自体においては、私は多少ニュアンスにおいて欠けるところがあるであろうと考えますが、筋はこういうものであろうと考えます。
  21. 井堀繁雄

    井堀委員 そうすると、もう明らかになつて来たのでありますが、そうするとお答えが違つて来るわけであります。その主張から行きますと、明らかに労使の問題については、労使の間の力関係を調整することによつて一つは解決をされる、一つには労働争議原因になるべきものを、たとえば政治的に処理する、あるいは経済的な立場を改善する、社会全体の共同の責任においてなさなければならぬことも言つておるわけでありますから、そこで二つの地位があなたにあるわけです。当面の労働行政立場に立つて、すなわち労働者権利の正当をいかにして保持して行くかという労働行政立場から労働者に立ち向わなければならぬ立場があるわけです。この点からいえば、労働者の一方的な責任をきびしく規定するようなこういうものを出すときには、他方には、それ以上に相手方の力をやはり牽制するものを持つていなければならぬ。これはさつきお尋ねしたけれども、不得要領な御答弁でありましたので、もし気に食わぬならば、もつとはつきり言つていただければいいのですが、これだけのストライキをやつてはいかぬというだけで、労働者の力はなくなり、経営者はそれだけ有利になることは当然であります。そして目的は、賃金の値上げとか、労働協約の改善とかいうことになりますが、このアンバランスを労働省はどういうふうに見られておるのか、ひとつ具体的に答えていただきたい。私はおそらくないと思う。
  22. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほど読み上げました中山中労委会長の説に私は同感であるのですが、従来あつせん調停、あるいは仲裁というところまで行かなければ非常にいいと考えますが、そういう制度があるのでありまして、できればあつせん、調停を両者が非常に尊重するという気分をつくらせたいと私は思つておるのであります。これによりまして、従来不法であるというものをやつちやいかぬということによつて、あなたのおつしやるように機械的にこれだけの場が狭くなつたということは起きないのではないか、また起さないようにしなければならぬと私は思つております。経営者それ自身に対する制裁は何かとおつしやいますが、こうした公益事業において労働争議が起きますれば、やはりあつせん調停する際において、ある程度の圧力を加えることができると思うのであります。私は一つの行き方として、労働問題協議会というものを提唱しておるのでありますが、今はいかにも労使間の風通しが悪いのです。やはりお互いに絶対に話し合わぬというような気分になり切つて、かんかんになつてしまつておる。結局国会に持つて来て、政治闘争の場においてやらせるということでは、これは企業の本来の姿ではないと私は思うのです。そういうものの場をあらためてつくる。これは非常に誠意を傾けて、また皆様方の御協力を得ながらそういう場をつくつてそれを解決して行きたい、そういうふうに考えております。
  23. 井堀繁雄

    井堀委員 あなたのおつしやるように、こういう職場における労使関係は、あつせん調停が望ましいのです。しかしそこで問題になるのは、最後のけじめというものはやはり力関係ですから、一方がなんぼりくつを言つて筋を通しましても、私が他の場合に例示いたし場ましたようにイソツプ物語に出て来るおおかみと小羊の争いと同じことなんです。何とか横車を押されれば、力のある方が通ります。それを阻止するための憲法規定であると思つております。そこで、あなたが今ここで考えられておるこの法案というものは、労働者側に対して、力の制約になることは明らかであります。ならぬという御説があるなら伺いたい。明らかにこれこれのことについては制約を加えておるのです。しかも、それはその労働者労働組合が主張しております通り私は評価していいと思うのでありますが、致命的な力を制約されるのであります。決定的な、命にメスを刺すのであります。そしてその上に立つて労使調整をあなたがおやりになるというのならば、あなたはどういう調整をおやりになるのか。中労委あるいはそのあつせんに出て来るあつせん委員の方々がししとうさぎの平和協定をどうしてつくり上げるのでありますか。そんなことは、いかにも子供だましのようなお答えではないかと思うのです。私もあなたと同じように、かかる争議が起らないで労働者の主張も通り、経営者の目的もある程度達せられるということがいいことにきまつておりますが、それがためには、あらゆるものが努力をしなければならぬ。ことに労働省がその問題に対して主力を注がなければならぬということこそあれ、労働者の手足だけを縛りつけておいて、そうして調停をやるのだ、あつせんをやるのだということでは、労働大臣お答えとしては受取れません。あなたは労働者の敵ではありませんよ。今でも政治組織の中で、一方においては業者のためにサービスする幾多の行政官庁があるのです。そういう点をのらりくらりいたしておりますと、われわれはこういうものに対して審議する勇気を失うだけであつて、何回も繰返しておりますように、一体こういうものにお供していいものかどうかとすら考えるのであります。あなたから何か私の答えにやや具体的なことが出て来たのは、労使の調整をはかるための労働組合の懇談会でございますか、労働組合の代表者と経営者を集めてやるのか、あるいは労働組合の代表者だけを集めて労働者の知恵をかりたり、何かいいことを教えてあげるのかもしれませんが、どうもそういういい知恵はないのじやないかと考えます。もし労働者と労働省が話合いをして何かいい知恵を与えて、奪い取つたものに近いもの、あるいはそれ以上のものを与えるものならいいのですが、これを伺つておきませんと、私はそういうことは信じられません。何かそういうことで、私があなたのお答えを承認したようなことになつちや迷惑であります。
  24. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私の答えがなかなか承認されがたいことは、どうも違う党の立場で御質問になるので、これは強制はできないと思う。しかしできるだけ聞いていただきたいと思うのであります。私は、何もししとうさぎのけんかと考えておりませんので、せいぜい鶏とあひるぐらいの対等立場で、ちよつと形の違うものと思つております。そういう立場のものを調整するということは、またそこに持つて来る環境によつてどうにでもできるのではないかと思う。その環境とは、私の申します労働問題協議会でございます。これは何も労働組合だけでなく、あるいは経営者だけでなく、労使双方と、それからやはり国民立場で自由にものの言える人にそこに多く入つてもらつて、そうしてその間に知恵を出し合い、誠意を尽し合い、語り合う機会を持つたらどうかと思つておるのであります。私は繰返して申しますが、決して労働者を弾圧しようなんという気持は毛頭ないのでございます。これは一つの例になるかどうか、私は例になると思いますが、御承認願えるかどうか疑問でございますが、例の緊急調整を労調法の改正でいたしました。これは徹底的な労働関係調整法の改悪であるといつて非難をこうむりました。しかしこの前の学者の公述人の意見を聞きますと、実は炭労を分裂から救つたのは緊急調整の制度であつて、これがなければ困つただろうという話をされた。これは私が言うのではなくて、そういう話があつた。そこでそういうふうなことでありまして、何も今から出るものが必ずしも権利の剥奪というふうにお考えになりませんで、正当なる労使関係をつくる場をできるだけ、この重要な際でございますからそういうものを築くような努力をいたし、そうしてその間においてお互いにその社会的な規制というものを労使双方において十分身に感じながら話し合いをしていただきたい、かような考えを持つておることを申し上げます。一
  25. 井堀繁雄

    井堀委員 もう私の方で根負けいたしました。何回も言いますが、労使対等立場というものは力関係の上にあるということは、あなたはよもや否定されぬと思います。これができることによつて労働者側の力をごうも弱めるものではないということをあなたが保証づけられるなら、今のような御説明でいいのです。その根本的な力関係のバランスを破つておいて、いかに労使関係を合理化しよう、あるいは労働者の肩を持とうと言つてみても、これは及ぶものではありませんよ。だから、大事なことは、この法規が労働者の力をごうもそこなうものではないということになるか、あるいはそこなうとするならば、それと正比例してこれの相手方である経営者に対する制約がこれこれであるということを説明する義務が、私は当然あると思うのです。そのことを伺つておる。いや、そういうものはないならない、労働者だけの手足を縛つておいて、労働者を縛りつけておいて、産業平和を守るのだ、こう正直にお答えになるなら、これは勇ましい。また一つの考え方だと思う。そうじやありません、ありませんと言つて、事実はそういうことをやろうとするのは、これはいけません。従つて、こういうところでぬらりくらりは、私は禁物だと思う。やはり日本の現状は、労働者権利は気の毒だけれども、当分の間三箇年縛つておく。縛つておいて平和を守つて行くのだ。往年の産報がやつたような、あるいはそういうこともあるかもしれない。その場合には、われわれは別に考えなければならないが、そうかと言えば、そうじやないと言う。これは政治家として明らかにする義務があります。これは何回続けても、はつきりお答えを願えぬのであります。ほんとうにあなたがもし労使対等立場を傷つけないというなら、その説明をしなければならないが、一向せられておりません。今すぐできないなら、あとでするという約束でもけつこうですから、待ちます。どちらでもけつこうです。何べんそのことばかりやつてつても、質問をする方としてもひつ込みがつきませんよ。
  26. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私もあなたの御質問になる御意図はよくわかるのでありますけれども、あなたの御説に同感共鳴いたしますることは私としてはできませんので、どうも同感すればひつ込むとおつしやるけれども、同感しない以上、ことごとく御満足の行く御答弁はいたしかねるのではないかということを遺憾に思うのであります。これは繰返して申し上げますように、私どもといたしましては、これは新たな規制ではないのであります。本来不当である、あるいは社会通念上非であるというものは、これはひとつ御遠慮を願いたいのだ、こういうことを申しておるのでありまして、それも三箇年であります。三箇年の間には、こういう法律がなくてもこれはしないということで、良識ある慣行が成熟せられるであろうということを期待しておるのでございまして、電気をぱちぱち消すことが非常な威力であつたのだ、それを消しちやいかぬというと、非常に争議がやりにくい、こうおつしやいますけれども、私は社会というものは、そうした簡単なものじやないと思う。電気が消されて困るからといつて非常に条件がよくなるということよりも、むしろ社会全般の非難というものの方が大事である。昔の話は存じませんが、最近の社会の常識、社会の通念というものは、さように解釈するであろうと思う。そうしてここにこういう法律を通した後におきましても、やはり中労委その他において、科学的に、しかも企業経理の内容というようなものについても、できるだけ分析した正確な資料に基いてりつぱなあつせん調停をされるであろう、あるいは必要があれば仲裁をされるであろうということを期待しておるのでございまして、何も電気を消して公衆に非常な不便を与え、中小企業を塗炭の苦しみに追い込んで最後のぎりぎりの場を争うというような、そうしたせつぱ詰つた争議をしなくても解決し得る社会をつくり得ると、私は確信しておるのでございます。
  27. 井堀繁雄

    井堀委員 思つたよりずるい答弁をすることを遺憾に思います。その点では、あなたの言うことと私の意見とに相違があろうはずはないということを言つておる。労使対等の力関係をこわしてはならぬということを否認されますか。このような否認はできぬはずですが、これに力関係をこわすような法規なんですよ。そうでないというなら、あなたの今答えていることは、私の質問答えておるのではありません。すなわち、これこれの争議行為社会に悪影響を与えるということを唱えたが、それは労働争議それ自身が悪いということを承認しておる。労働争議それ自身は好ましい行為ではないでしよう、労働者つて多くの出血がある。でありますから、労働争議にならないで、いかにすれば労使関係の調整が行われるかということは、あなたの所管としては最も大きな任務なんです。だから、それを遂行するために、百歩譲つて、私が先ほど言つたように、労働者の手足を縛つておいて力関係において一方を征服して調整するという方法もあるが、まさかそんな乱暴なことをお考えになつてはいないと思うからお尋ねしておるのであります。くどいようでありますが、こういう法律を出すときには、一方の力を縛るのでありますからバランスがとれなくなるでしよう。経営者はどうするのですか。経営者の方をほつたらかしておいて、労働者ばかりをやるということになつたら、最初から労働者は力関係の上で圧迫を受けることは事実であります。そこでもう一ぺんあなたの現象的な説明に触れましよう。あの争議を何か労働者だけの責任のようにあなたは言つております。なるほど、スイッチを切つたのは労働者かもしれませんが、スイッチを切らなければならぬような事態なつたのは、一体労働者だけの責任でしようか。その責任はどちらにウエートがあるかということは、労働争議原因によります。あなたが言うように、その遠い原因に科学的に検討を加えて、なるほどこれは労働者が全面的に責任をとるべきだという答えが出たときに、初めてあなたの主張が行われるわけであります。ところがあなたは、私の質問に対して、今中労委の見解を述べられておりましたが、中労委は明らかに労使双方責任を問うている。調停あつせんという中労委の行為をしりぞけた労働組合も経営者も、対等に扱つておるのであります。ここを私が聞いておるのですから、あなたとしては、今間に合わぬけれどもこれこれの準備をしおるとか、こういうことはどうであろうかということなら、まだ話になるけれども、白を黒に言いくるめられたのでは引下るわけには行きません。これはその言いまわしだけで片づくものではありません。あなたと私の立場相違はありますが、何もそういう行為をやりなさいと賛成するわけではない。ああいうことをやらないで済むようにするということを、われわれも労働組合考えておるわけであります。そのことだけをひつぱつて来て私の質問答えないようなことは、議事を進行する意味においてやめていただきたい。はつきり言うが、私の聞いている力関係は、労働者の手足を縛るようなことになると思うが、あなたはならぬというなら、どうしてならぬかという答弁をしなければならぬ。それは全部縛らなくても、少しだつて、かげんの程度の相違はあるが、少しなら縛つていい、たくさんなら縛つてはいかぬというりくつがあれば、それも教えていただきたい。とにかく労働者団結権、団体交渉権、罷業権というものは、よほどの理由がなければ押えてはいけない。押える場合には、労使対等地位をこわさぬように押えなければならぬ。何も説明を要しないと思いますから、そこを聞いておる。簡単ですよ。労働者の方の力に制約を加えるのは、公共福祉のためにやむを得ぬとあなたは言われる。それもよろしかろうが、公共福祉のために雇い主の方も制限しなければならぬ。この用意があるか。この用意については親切に答弁しなければいけません。
  28. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほども御論議の中にありました結局憲法解釈の問題に触れるものと思います。憲法二十八条の問題に関連するのですよ、これは。私どもは労働基本権というものの中に、やはり公共福祉による制限があると考えております。そこでその福祉との調和をはからねばならぬということから、この法案に書きましてただいま御審議を願つております趣旨のものは、本来不当であるし、社会通念上非とせられているということなのでございまして、そういうことをやつてはいかぬと言うと、あなたの御説によりますと、手を縛つたとおつしやいますが、実は手は二本あるのであります。もう一本よけいな手が出て来るのはいかぬ、こういうことなのでありまして、それによつて懲罰をするとかあるいは対等立場をそこなうとか、そういう気持はないのでございます。そこで、どうかひとつそういう趣旨でございまして、懲罰的な意味はこの規定には何もございません。一般の公衆がたまらぬ、たまらぬからひとつそういうことはおやめ願いたい、御遠慮願いたい、こういうのであります。  そこで、何かそれでは経営者の方が野放図にのさばるではないかという御質疑です。私どもそれにつきましては十分な関心を持つております。重大な関心を持つております。そこでそれにつきましてはただいま申し上げておりますし、また井堀委員も御指摘のように、争議行為というものは好ましいことではないし、またやる方にしてみてもつらいものなのです。そういうつらいことをあえてされなくてもいいということが私の趣旨なんです。それを御理解願いまして、押し問答しましてもあなたと私とはどうも違うし、社会党と自由党でございます。自由党の大臣にあなたが賛成だとおつしやるわけにも行きますまいし、あなたのお考えに私もことごとく賛成というわけにも行かぬのでございます。非常に遺憾でございますが、御了承を賜わりたい。
  29. 井堀繁雄

    井堀委員 明らかにしておきたいと思いますのは、何も立場相違とかなんとかいうことではありませんよ。何か憲法解釈にさかのぼろうとしておりますが、その問題は、さつきも言つているように、見解の違いはあつてもそれはいい。だから、それとこれとをくつつけてはいけません。今言つていることは、きわめて平凡なことなんです。なお三本手があるというようなことを言うが、お化けは三本手があるかもしれませんが、今の場合はお化けは対象にしておりませんから、正常なる人民を対象にしなければいけません。だから、たまたまほかの方法があれば、ほかの方法でやらなければいけません。だから、一番大事なことは、労使関係対等地位をくずすということはいけません。あなたはくずさぬと言うなら、くずさぬという理由を説かなければいけません。それから労働争議原因というものは、労働者にばかりその原因を求めることは許されないと、あなた自身もほかのところで認めている。だから、一方を縛るときには他方をどうするかということが、当然起つて来る。あなたはそれに触れかけたんだけれども、実はいい案がない、いい知恵がないから困つたものだというのなら、それもまた一つの答弁です。都合の悪いことは隠して——自由党であろうが社会党であろうが、そういうことは何も政党政派の政策の相違から来ることでもございません、革新だろうが保守だろうが、力関係相違というものは物理的問題だ。片つ方だけ答える必要はない。そういう古い答弁をしてはいけません、もつとすなおに……。そうせぬと時間がたまりません。関連質問が出て来ます。せつかく私の与えられた貴重な時間が、こんなことで空費されるのは遺憾です。もつと聞きたいことがたくさんありますから、それははつきりしましよう。だから、あなたが、もし力関係をこわさないと言うなら、これこれでこわさないということを記録に残しておきたいのです。力関係を少しこわすと言うのか、著しくこわすと言うのか。このくらいは労働者責任を持つてもらわなければ困ると言うかもしれない。それだつたら経営者の方はどうするか。労働者の方だけが責任を持つて経営者の方に責任を持たせぬと言うのなら、私はまたあなたに対して質問します。
  30. 赤松勇

    赤松委員長 政府の方に希望します。実は時間を割当てたので、こういうことで空費されるということは、非常に質問者も迷惑だと思いますので、スト規制になるのかならないのか。質問者の方はなる、あなたの方、政府の方はならないとおつしやる。ならないなら法的根拠を示せ。あるいは調停、あつせん等の方法があると労働大臣は言うけれども、それを使用者側が拒否されたり何かした場合に、労働者側は何によつて保護されるか。こういう御質問ですから、非常に重要な点だと思いますので、ぜひ政府の方からはつきりその点御答弁願いたいと思います。
  31. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 関連してそれと同じことを私の方から御質問を加えるわけですが、私の質問は勤労者の団体行動権を制限することが、憲法上許されるかどうかという問題でもないのです。ただ憲法が勤労者の団体行動権を認めておりますのは、先ほど来井堀委員から質問がありましたように労使双方の力の均衡を保たせて、契約自由の原則を実質的に守るためだ、こういうわけです。そこで憲法上かりにこれが許されても、本法案に掲げてあるような規制をすることが——これが創設的のものであろうが、確認的のものであろうが、これは問題でないが、こういう規制をすることが労使双方の力の均衡を失わすことになるのではないか、こういうことなんです。この制限を加えるとによつて労使双方の均衡を失するということであれば——これだけ制限を加えても労使双方の均衡は失しないのだというのであれば問題でないが、失するか失しないかをまずはつきりさせて、もし力の均衡を失するということであれば、これは憲法上許されることであつても、あるいはまた従来不正の行為だと見られておつたとしても、また今度新しく創設的に不正だとするにしても、そのまま放置しておいたのでは、憲法の理想とし精神としているところの労使双方に力の均衡を保たせて、契約自由の原則を守ろうということができないのではないか。そうすれば、一方を規制することによつてその均衡が保てぬということであれば、他方のいわゆる使用者、企業家の方の力を押えることによつて均衡を保たたければならぬのでないか。こういういろいろな問題がここにあるわけであります。それについて、政府はこの規制をしたことによつて労使双方の均衡を維持できるという見解である。もしも労働者側の力が少くなつて、その均衡が保てぬというのであれば、企業家の方に対してどういう措置を講ずるのであるか。ただ単に労働争議を起させないようにすると言つただけでは、私は答弁にならないと思いますから、そこのところは自由党とか社会党とか対立的に考えるべきでなく、私の方として公平に考えても、この点を非常に心配されるわけでありますから、明確な御答弁を願いたいと思うのであります。
  32. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 そういうことを御答弁しているつもりであつたのでありますが、言葉が多かつたためにあいまいだつたとすれば、あらためて申し上げます。私どもは、これは創設的な規定でもありませんし、労使間の力関係の均衡はこれによつて失われるものではないというふうに考えております。炭労におきましては、採炭ストを初めとして幾多の方法がございます。あるいはまた、この法律にございますのは、保安要員引揚げはひとつ御遠慮願いたい、こういうことであります。電気産業につきましては、検針スト、株主総会の事務拒否、その他事務スト、上部遮断あるいは集金ストというものがございます。
  33. 井堀繁雄

    井堀委員 高橋委員には、力のバランスはこれによつて何らの影響がない、こう答えられた。私が聞いているときは、やむを得ぬというようなことを言つておられた。どうもそこからメモを出しておるところを見ると、そこに疑点あるのではないかと思います。何なら政府委員から答弁していただいてもけつこうですか、力関係がこわれないというのならば、こわれないという証拠をあげなければいけません。だれが考えても、争議権をそれだけやつちやいかぬというのは、それだけ力が減るのだと考えるのはあたりまえですよ。子供だましのようなことを言つてはいけません。そういうものは、まつたく議員の知識を無視した答弁です。そんなことはだれでも判断できます。電産の場合、電源ストをやつちやいけないということになると、それだけ力がそがれることは、きまつているじやないですか。そうしたら、やはりそれに見合うように、経営者側にどういう手を打たれるか。今のところ、それのかつこうのものがないならば、この法案は出し方が早過ぎるし、それはあるけれども発表ができぬというのなら、これは発表させなければならぬ。その点をはつきりさせなければ、これは進みませんよ。
  34. 中西実

    中西政府委員 先ほど来大臣が御答弁されておるところで、私どもははつきりいたしておると思うのでありますが、言葉をかえて私から申し上げたいと思います。争議行為が、仰せのごとく力関係でありますがゆえに、ときに憲法十二条、十三条にもあります公共福祉との調和におきまして、規制の必要も出て来るわけでございます。問題は、特に電気産業についておつしやつておるのだろうと思うのでありますが、終戦以来、電気産業におきましては、二十一年五分間の停電スト以来、盛んにストが行われて来たのであります。当時におきましても、われわれは電気の消えるような争議について経験がございませんでして、これは容易ならざる世の中になつたというような感じがいたしたのでありますが、その後場占領下司令部が、大争議には、程度の差はありますが常に干渉して……。
  35. 赤松勇

    赤松委員長 ちよつと政府側に。理事会の申合せもございまして、政府側の御答弁が長引けば、それだけ井堀君の質問時間に食い込みますので、今の、御質問スト規制になるのかならないのか。ならないと政府がおつしやるならば、その法的根拠を示していただきたい。ただこれだけでございますから、その点についてだけ御答弁ください。占領下における歴史的な事情は、またゆつくり述べていただいたらいいと思います。
  36. 中西実

    中西政府委員 ただいま申し上げようとしましたのは、先ほど大臣が、手が二本、そこにもう一つ余計なものがある。それをとるだけのことで、決してそれによつてバランスが破れるのではないと言われたことの御説明がしたがつたのであります。委員長の御注意もございましたので、大体言わんとすることはおわかりいただいたと思うのでございます。  そこで公益性の強い事業におきましては、やはり業者に対しましても、それ相当の監督がなされております。通産省におきましても、御承知のごとく公益事業局が、ほとんど一局あげて電気事業の監督に当つておるのでございます。さらに旧公共事業令によりまして、経営者にそれぞれ厳重な監督規制がある。その業務の停廃については、罰則をもつて臨んでおるのであります。こういつた事業でありますがゆえに、労働者側の争議権におきましても、やはり当然そこに規制がなければならない。過去の実績を見ておりましても、電気をとめるストに対しまして、経営者はもちろん困りますけれども、それよりは世間一般が非常に困るのでありまして、その世間一般の非難を受けるので会社が困つたストそのものについて困るよりも、困り方はかえつてその方が大きいというような事情もあるわけでありまして、この際公益事業についてこの程度の規制は、今の社会通念から行きましても当然ではなかろうか。そして解決方法としましては、力と力とぶつかれば、終局がございません。その際は、先ほど大臣も仰せられましたごとく、結局公益事業におきましては、公正な第三者の判定に待つということで、十分労使間のバランスは保たれ、妥当な結果が円満裡にもたらされる、こういうふうに確信をいたしております。
  37. 赤松勇

    赤松委員長 力のバランスはこわれるのですか、こわれないのですか。
  38. 中西実

    中西政府委員 こわれないのです。
  39. 井堀繁雄

    井堀委員 労政局長答弁としては、私は非常に遺憾に思います。今も、さつきから繰返しておることを同じように繰返しておられる。問題は、スト規制をやる限りにおいては、そこだけ制限を受けるわけです。今まで力を与え過ぎておつたから、とるのだというのなら、その説明をしなければならない。そうでないことは明らかです。公益福祉をそこなうからこれをやるのだというのなら、労働行政をあずかる労働省としては、当然その労働者に対する保護の道が講ぜられなければならぬのじやないかということを聞いておるのです。公務員法の場合でも、そうしたじやありませんか。公務員でさえ、ちやんと人事院という一つのものを設けて、その労働条件の保護の道を講じたのですよ。しかも相手は営利会社ですよ。その仕事は公益でありましても、営利社団じやありませんか。一方に不当な利益を受けるようなことが行われ、他方に、他の理由があつたからといつて制限を加えておいて、そういう横着な答弁をしてはいけませんよ。通産省か何かの局長ならいざ知らず、あなたは労政局長じやありませんか。あなたは、労働者権利がそこなわれたときには、一生懸命かばわなければいけませんのに、それを一緒にたつて労働者をけ飛ばすようなことをやつちやいけませんよ。りくつを言つておるのではありません、事実を言つておるのです。事実を否認されるならば、その理由を言わなければなりません。こういう労働者の力をそがなければならぬという、そんなべらぼうなことはありませんよ。これは説明の中にあるじやないですか。ストライキ規制することは好ましくないのだ、残念なことではあるが、公益福祉のために、——残念だと言つておるじやないですか。残念だと言つておる以上、責任をとらねばいかぬわけですよ。その責任をどうしてとるのだということを聞いているのです、いいかげんなことを言つちやいけませんよ。
  40. 中西実

    中西政府委員 争議行為といいますものは、労使の主張の不一致、それを貫徹するためにやるのでありまして、お互いの力によつて相手方に打撃を与えて、そして目的を貫徹しよう、こういうのでございます。これは釈迦に説法のようなことで恐縮でございますが、そこで電気産業の電気をとめるストというものは、その被害のほとんどが、関係のない第三者にぶつかる、この点におきまして、やはり公益的な見地から当然の規制を受けるのでありまして、今まではそれなら争議権の与え過ぎかというお言葉でございますが、与え過ぎという言葉は誤弊があるかと存じますけれども、この三年間、労使間の正常な慣行ができますまで、やはり今の現実の必要性から規制する必要がある。ただこれだけでありまして、従つて争議行為における場合の労使間のバランスというものは、一応保たれるのではないかというように考えます。
  41. 井堀繁雄

    井堀委員 これはまことに遺憾にたえません。これは何べん言うても、答えるつもりでない者に答えさせるということは、無理かもしれません。しかし言つておきますが、これはあなた方提案理由の中に明らかに、争議行為規制する、そのことは遺憾千万であるということを述べている。望ましいことは労使の良識と健全な慣行を期待しておるけれども、一方に緊急な事態が起つているという見方で、これを阻止するためのやむを得ない行為だということを繰返して述べているじやありませんか。そこで、やむを得ないと一歩譲つて、それではそれから来るところの労使関係のアンバランスをどうするかということは、当然こういうものを出すときに考えておかなければならぬ。しかし何ぼ聞いても、ないものは答えられぬということでありますから、時間を空費することをおそれますので、一応これを預けて次の問題に進みます。
  42. 赤松勇

    赤松委員長 井堀君、どうでしよう。預けるということは、なお一応政府の方でその答弁についていろいろ準備していただいて、あとでまた質問を続けるのですか。
  43. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 準備ということになると、ちよつと申し上げておきたい。
  44. 赤松勇

    赤松委員長 ちよつと待つてください、発言中ですから。井堀君、よろしゆうございますか、労働大臣が発言を求めておりますが、よろしゆうございますか。
  45. 井堀繁雄

    井堀委員 それじや、これは大事なことですから——むずかしい議論をしているのではありませんから、もつとすなおにひとつ聞いていただけませんか。私どもにとつては、これは電産や炭労に限られた問題でないのです。その理由については、あとで議論する余地があるのですが、あなた方は公共福祉ということを、鬼の首でもとつたように——公共福祉関係のあるものなら争議行為を禁止していいという考え方なら、別ですけれども、公共福祉というものは、これは何も学者の意見を聞くまでもありません、多くの労働者を含んでの公共福祉なんです。労働者日本人でないような議論をしてもらつては困る。日本の勤労階級、少くとも労働報酬によつて生活している勤労階級は、だんだんふえていると思う。その多くの勤労階級の生活が安定して来なければ、そこには生産意欲も高い能率も起つて来ない。そういう労働者が、生活の不安にさらされるような状態ではいけないから、これをやはり保障しようということが公共福祉の一つなんです、いな、重要な要素なんです。それをそぐようなことが起つて来ると、それをそがないような方法を講ずるのが政府じやないか。ただ一方の利害のために、一方はぶちこわしていいということは成り立たぬ。だから、それが適当であるかどうかということは、いろいろな見解や意見があつてもしかたがないが、全然持たないということはないはずだと思う。だから、そういう点が、今答えられぬのなら、よく相談して——特に労働大臣だけの答弁ができぬというのであるならば、閣議にでもお諮りになつて、こういうことについてはあらためて答弁する義務が国務大臣としてあるのではないか。労働大臣としてはこうでなければならぬと思うけれども、自由党吉田政府の方針としては、しばらくというなら、労働大臣としては、一応そこを相談して、準備して答える必要があると思うので、預けると言つているわけです、かなり親切なやり方だと思うのです。そういう意味で、時間がありませんから、ひとつよく——労働大臣だけでは行きますまい、一方の都合があるでしようから。一方の都合を押えるためには、片方を何とかしなければならぬので、その点についてひとつ相談して、政府の方針をきめて御答弁願いたい。そうでなければ、総理大臣に出ていただいて、総理大臣に伺います。
  46. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほどからお答えいたしておりますように、私どもは、これは新たなる規制ではないのだ、今までも不当であるものの確認である、こういうことを言つているわけです。しかも御指摘の、ストというものは経営者側に打撃を与えて主張を貫徹するもので、それを規制するという、その部分は行つてはいかぬということになれば、これは非常に力を弱められるものじやないかということでありますけれども、私どもはそうじやないということを明確にお答えしている。ことに第三者に対する被害が、電産の場合は大きくて、当事者労使双方というものは、争議によつて受けるところの打撃は非常に軽微なものである。これは新たなる制限を課するのでないから、特にここにうたつている以外のことは考えていないということを、はつきり申し上げておきます。しかも炭労の場合は、これは争議行為自体として、保安要員引揚げというようなものは、これはおかしいんだということなんで、これも新たなる制限じやないということは、逐一申し上げている通りなんです。新たなる制限を課するということで、そこに何か出さなければならぬということに頭からきめつけて、それが出て来るまでこの審議は保留するというような話になるならば、これは絶対に審議は進まないのであります。私どもは私どもの見解をすでに明らかにしておるのでございますから、この点御了承願いたいと思います。
  47. 井堀繁雄

    井堀委員 小坂労働大臣は、何か相談をせいということを、非常に悪意にとられておりますが、決して私は他意ありません。労働大臣お答えができぬと思つたから、そう言つただけで、お答えができるのならやつてください、これから議論を進めますから。そこであなたは、何か意見を修正されて来たようです。私はこれはずつと記録を読んであなたにお尋ねしている。だから、前の記録をお取消しになるなら別です。あなたは、この法律提案の趣旨弁明にあたつても、高橋委員や、あるいは倉石委員質問に対する答弁の中でも、公共福祉のために労働者にはまことに気の毒だけれども——気の毒という言葉は使つていませんけれども、争議行為の一部を規制するのだと言つているのだから、とにかく規制された部分だけは労働者の力が弱まることは事実。それは弱まりませんというような言い方は、詭弁というものです。だから弱まる。しかし、その弱まるものを公共福祉のための規制だからがまんせい、こうあなたは言うておるのですよ。だから労働者にがまんせいということは、これはいいか悪いかは別の議論といたしまして、そうといたしましても、結局相手方の経営者というものは政府じやありませんよ、営利会社なんです。利潤を追求する株式会社なんです。その営利会社がそのために恩恵をこうむるようなことは、これはよもや見のがしはしますまい。そういうものに対しては、どうされるかということを聞いている。そこまで考えてなかつたようだから、そうだとすれば、これは一応やはり閣議に持ち帰るなり、あるいはその責任者である総理大臣がここに見えられて答弁をする事項であると私は考えたので、実はそこだけを留保して次に進もう、こう言つたわけです。もし、あなたはそうでない、答弁ができるというなら、してください。どうしますか、経営者のちようちんを持ちますか。
  48. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 経営者のちようちんは持ちません。なおここに井堀さん、よく御承知のことですが、昨年中労委で出した調停の前文に、こういうことを書いてある。「公益事業委員会の料金決定が年間を通じて収支の均衡する建前のもとになされていることから、この料金のわくの中で経理的に増額賃金の支払い余力を生み出すことは、少くとも理論的には困難であることを認めざるを得ない。」これは中労委がそう言つている。これのよしあしは別といたしまして、電気事業というものは、公益性がきわめて強いもので、先ほども労政局長が御答弁申し上げました通り政府の監督下にある事業なんです。でございますから、これは規制というものは、当然に政府の監督のもとに規制をされている、こういう事実があることを申し上げたいと思うのであります。しかも、私どもの基本的な考えといたしましては——炭労の場合は先ほど申し上げましたから省略いたしますが、基本的の考え方といたしましては、電気事業といふような、こうした公益性の強いものの賃金が、大きなストライキを伴つてのみ解決されるという過去の経験は、このあたりで強く反省せねばならぬということを言つている中労委の考え方——これは何も中労委のちようちんを持つわけでありませんが、私どもとしては、できれば大争議が伴つて初めて賃金が決定される、その場合に電気を消す消さないということが、非常な重要な問題だ、そういうような争議行為というものはなくなるようにしたい、こういうことを申し上げておるのであります。
  49. 井堀繁雄

    井堀委員 争議行為が与える影響を、私は聞いているんじやないのです。そのことについては、配慮する分があるならば——だから例を引いたじやありませんか。たとえば公務員のように、ああいう立場労働者基本権制約するかわりにおいて、その労働条件を、あるいはその生活福祉のためには別な保護を加えるという手当が行われている。この場合だけ奪いつぱなしという手はないじやないですかと言つておるのです。それをあなたは、争議行為公益にどんな損害があるかというようなことを言われておる。そういうことで逃げまわらないで、もつと真摯な態度で、日本政府としてどうしても考えなければならぬ問題だと思う。議員がそういう要求をした場合には、一応大臣は、自分の所管外のことについては、他の主管大臣なりその主宰者に意向をただして答弁するということが正しい態度じやないか。大体答えられもしないことを、ああでもないこうでもない——あなたはだませると思つているかもしれませんけれども、そう子供扱いされては困ります。委員長、適当にそこら辺で答弁できぬようでしたら、私は労働大臣の御答弁をお断りして、総理大臣の出席を求めて、この問題に対する質問をやめたいと思います。
  50. 赤松勇

    赤松委員長 熊本委員から関連質問が求められております。これを許します。熊本虎三君。
  51. 熊本虎三

    ○熊本委員 どうもうなぎ漫才的な逃げ方は、割当てられた時間なので、はなはだ迷惑千万だ。大体理をわけての質問に対して、あなた方は言を左右にしておる。提案説明の理由が、うそならうそだと言いなさい。そうしてできるだけ両者の良識により、あるいは成熟された慣行によつて治まることを望むということを——それがうそならばうそだと言つていただきたい。そうでないならば、井堀君の質問に対して、あなた方はまじめに答えなければならない。だから、それを言を左右にして時間を空費するということは、あなた方は議員の審議権を蹂躪して、時間をつぶしさえすればよろしいということになる、はなはだ失敬千万だと思う。もう一回答弁していただいて、時間もないようですから、もしここで明答ができなければ休憩でもしてもらつて、あらためてやり直してもらいたい。
  52. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お答えを申し上げます。私もまじめに誠実を傾けてお答え申し上げておるつもりでございます。ただいま御指摘の点でございますが、私は提案理由の説明におきましてただいま申し上げておるようなことを言つております。労使関係の事項につきましては、法をもつてこれを抑制規律することよりも、労使の良識と健全な慣行の成熟に待つことが望ましいことは言うまでもないことでありまするが、政府としても基本原則のみを固執して、いたずらに手をこまねいて、当面の緊急問題に対して対策を怠ることは許されない。そこでこういう見地からいたしまして、この議題になつておりまする電気並びに石炭鉱業の特殊性及び重要性、並びに労使関係の現状にかんがみで、争議権公益との調和をはかるということを言つておる次第でございます。  なお、先ほど井堀議員の御質問の中に、国家公務員の問題がございましたが、これは争議権がないのでございますが、この場合は、争議権は先ほど申し上げたようにあるのでございますから、その点は私は明確に区分され得ると考えております。
  53. 熊本虎三

    ○熊本委員 それならば、提案理由の説明に間違いがないならば、スト規制するということだけには、これはあなた方は間違いなく承認しなければならぬ。そうしておいて、先ほどの答弁では、規制するのではない、バランスはとれておるというようなべらぼうな答弁をされる。それであつたのでは、どこまで行つても一貫性がない。  それからもう一つは、争議規制するとするならば、それはその原因に向つて探求をしなければならない。起つている現象のみを規制をするなどということは、労働行政の本質を誤つている。労働争議の重大なる動機、原因については、何ら言うことができない。こういうべらぼうな規制法じやないはずだ。たとえていえば公益々々というけれども、しからば現在の電気会社は何をしておるか、争議のみじやない、あれだけの停電をやつておいて、そうして定額料金に対して、びた一銭もまけたためしがあるか、あつたらここで説明しなさい。それから緊急の場合に、電燈一つふやしたとか、あるいはまた大きなたまにしたとかいうことだけでも、一方的に推定して何千円とか何万円とかいうような官庁の命令的な形において需用者を圧迫しておる。さらに争議行為はある。この前の十五国会での議論の中に、あるいは料金の集金ストもあるというようなことを言われた。現行法によつてすれば、集金を怠つた場合、これを払わないでもいいという法律にはなつておらない。思う存分停電をやつて、そうして一銭もまけない、そうしてそれを彼らが一方的にきめた期日に払わなければ、かつてに一割増しの延滞金をとつている。どこにこういう規制があるのか。こんなべらぼうな営利本意の会社の一方的なちようちんを持つて、そうして現象として現われたその争議行為を押えるというにあたつては、もう少し真剣な答弁をして、われわれに納得させるのがあたりまえである。何たる答弁であるか、まことに話はなつておらない。だから、そうであつたのでは、この審議が進まないのであるから、お昼の休みでもして頭を冷やして、そうして昼から整理された答弁をしてもらいたい。
  54. 赤松勇

    赤松委員長 それでは休憩いたします。     午後零時四十七分休憩      ————◇—————     午後二時三十五分開議
  55. 赤松勇

    赤松委員長 休憩前に引続いて会議を開きます。  通商産業大臣は、本日は他の委員会に出席するために出席不可能とのことですから、明日の委員会には必ず出席するようにと通達いたすことといたします。なお法務大臣は、本日午後三時には出席するとのことですから、御了承を願います。  なお本委員会あて次のような電報が来ております。これを御報告申し上げます。「被災者の救済と復旧工事に挺身している、貴委員会の調査団の派遣を頼む——久留米官公労」「水害地の救済、復旧まことに困難、労働不安、生活不安、至急復旧を要す、貴委員会の現地調査ぜひ頼む——筑後水害対策委員会」「筑後地方の水害により、労働不安、生活不安は今や危機に瀕した、貴委員会の調査団の派遣を切望する——全電通久留米電話局支部」以上の電報が来ておりますが、これは理事会におきまして御相談を申し上げたいと思います。  それでは休憩前に引続いて質疑を継続いたします。井堀委員
  56. 井堀繁雄

    井堀委員 たいへん長時間にわたつておりまして、他の質問者の御迷惑にもなろうと思いますが、事柄がきわめて重要な基本的なことでありまして、たびたび正確な回答を求めたのでありますが、明確な回答をいただけないので、この問題は一時保留いたしまして、他の問題についてお尋ねをいたそうと思います。重ねて一言いたしておきたいのは、これは明らかに争議行為の一部を規制すると言つておりますけれども、程度の問題を省きますと、労使の力関係を根本的にゆり動かすところの争議規制であることは、今までの討議において明らかになつております。そうすれば争議行為規制することによつて労働者の力と経営者側との間にアンバランスを生じて来るということが一方に起る以上は、当然労働行政としてこれに対するしかるべき対策がなければ、こういうものは私は労働立法として取扱うことは許されないと思つて質問を繰返したのでありますが、これにも明確な回答を得られなかつたので、はなはだ遺憾に思いまするが、いずれ次の機会を得て明らかにいたすつもりでおります。  そこで、これもきわめて基本的なもので重要であるのですが、ごくわずかの時間に明らかにいたすことができると思いますので、お尋ねしておきます。それは去る六月二十七日の労働委員会で、倉石委員質問に対して小坂労働大臣答弁されております事柄を引例いたしまして、お尋ねをするつもりであります。それは民主主義労働行政という点について、きわめて重要な発言が行われておりますので、この点について一言触れておきたいと思います。こういう質問をし、こういう回答が行われております。倉石委員は「政府はその基本的観念において、あくまでもわれわれと同様に民主主義は守るんだという建前で労働行政をおやりになるのであるかどうかということを承つておきたいと存じます。」こういう質問をしておる。これは非常に重要なことであります。これに対して小坂国務大臣は「まことに同感でございます。われわれといたしまして、政府といたしましても、あくまでも民主主義の線はわれわれ日本国発展の基本的な原理と考えて行きたいと思います。ストライキが起きるということにつきまして、これはもちろん私どもとして労組側を責めるに急であつて、資本家の怠慢を責めないというようなことはいたしません。」こういうふうに労働行政の基本方針と同時に、労働県議の規制に対する考え方を並べて御回答になつた。そこで私は先ほど質問したことにお答えができると思うので、しつこく食い下つたのでありますが、これは、私は他の理由に基いて答弁をされないものと一応断定いたしまして保留することにしたのです。そこで労働行政の基本があくまで民主主義の理想の上にあるということがたびたび——このほかの場合においても同一の意味のことが述べられたのでありますから、これは確認を要しないことと思うのであります。  そこで労働行政民主主義についてでありますが、私は学問的なことを討論しようとは思いません。常識的に、ことに労働行政の最も大切なことは、多数の比較的学問的知識に恵まれない労働大衆の納得と理解の上に労働行政というものが進められなければならぬことは、他の行政に比較いたしまして最も重要な点であろうと思います。でありますからこそ、労働省が労働教育に多大の力と多大の国費を費して努力をされておることと思うのであります。そこで、この基本的な民主主義についてでありますが、先ほど憲法をめぐりまして具体的なお答えを伺つたのであります。この憲法の基本的精神を貫くものは民主主義でありますことは、申すまでもありません。新しい意味での民主主義は平和主義を伴つておるということは、これは国際的な一つの基礎理念になつておる。労働者が団結し団体行動を起すということは、一つにおいては労働者生活防衛である。労働者生活の向上のための足がかりにすることは当然であります。しかし今、日本国憲法が要求し、日本の民主化が要求しておりますものの中に、日本の平和を確立するところの新しき意味における民主主義の推進のために、健全な労働組合の育成が要請されておるのであります。この考え方にまさか異論はないと思うのでありますが、もし私の解釈に対して誤りがあるならば、また別な見解がありますならば、明らかにしていただきたいと思うのであります。それから具体的にお尋ねをいたそうと思います。
  57. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私は、民主主義日本の今後の基本的な原理であるということを申し上げました。民主主義的な労組の発展こそ、産業の平和の確立と深い関連を持つ、こう考えておる次第であります。
  58. 井堀繁雄

    井堀委員 平和主義に対しては、どうですか。
  59. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 もとより日本国憲法を貫くものが民主主義であり、徹底せる平和主義であるということについては、何らの意見の相違はないと思います。
  60. 井堀繁雄

    井堀委員 この問題については、まつたく意見が一致しました。そこでわれわれは、この基本的な精神の上に立つて労働行政を進めることは、たといそれが保守的な立場をとろうと、革新的な立場にあろうと、その点においては相違がないと思うのでございます。そこで、このスト規制法の中において、いつも大きな解釈上の相違を来して来ます公益福祉に対する考え方であります。公益福祉もしくは社会通念というものは、この基本的な立場を離れてはあり得ないと思うのであります。そこで労働者行為が、この規制法であげられておりますように、世間から非難を受ける行為であると仮定いたしましても、これは民主的な労働行政の形において是正して行くということは、おのずから私は方法制約を受けるものと思うのであります。すなわち労働者の団体をつくること、団体行動民主主義の基本的精神に沿つて成長を遂げて行かなければならぬのであります。もちろん、これは労働行政社会一般の要請があるとなしとにかかわらず、労働組合がそうなつて行かなければならぬことは、日本労働運動の民主化が強く要請されているところで明らかであります。このように、一方においては労働組合は、民主主義の基本理念の上に公の立場をできるだけ具体的に、日本の産業復興のために、日本の平和のために、日本文化向上のために労働運動努力をしていることは、よもや否定されないと思うのであります。世間は労働組合の健全化と言い、民主化と言つております。こういうことは労働行政にとりましては重要なことでありますが、一方に強い基本的な要請に沿うて日本労働運動というものが盛り上りつつあるという事実であります。この運動、傾向を、この規制法を制定することによつてはばむようなおそれを、私は感ずるのでありますが、労働大臣はそういうものに対してマイナスにならないというお考えであるかどうか。マイナスになるというお考えであるならば、それをどういう方法でカバーされるという労働行政をお持ちになつておるか、この際お尋ねをいたしておきたいと思います。
  61. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 結論から申しますと、それは労働運動の健全な発達には、マイナスにならぬという考え方を持つております。この法律案の意図しますところは、先ほども繰返し申し上げましたように、本来不当である、あるいは社会通念上非であるということを明確化したのでありまして、たとえて申しますならば、拳闘で申しますれば、グローヴをはめずに打つてはいかぬ、あるいは腹から下を打つてはいかぬというようなルールをきめたにすぎないのでありまして、ことに先ほども触れたのでありますが、この争議によつて労使双方当事者は打撃を受けるところは少いのでありまして、その反面第三者である国民に非常に大きな迷惑をかけるのでありますから、ここに規制という字を使つておりますが、その範囲を明確化することによりまして、何ら双方に対して特別の利益、不利益をもたらすものでないと考えております。
  62. 井堀繁雄

    井堀委員 これは前の問題と同じようになりそうなけはいが出て来ました。速記録にあまりはつきりしないものを残すことはよくないと思いますので、多くを申し上げませんが、このスト規制法を今後運営する上においても、非常に大切な関連を持つことになるわけであります。私どもは、三つのことについて、この法律をどうしても否定しなければならない理由を発見して来たのであります。第一は、このスト規制法のつくられた動機ともいうベき争議行為に対する認識が誤つておる、事実に対する検討が不十分である、労働争議の実態を正確に把握していないではないか、こういう問題についてただしたのでありますが、これについても十分なる回答をいただくことができませんでした。遺憾ながら納得のできない答弁で終始されました。それから第二の、今留保いたしておりますところの問題と、最後にお尋ねをいたしております問題は、前段二つの問題は、この法規を否認するか、是認するかということでありますが、第三の問題は、百歩譲つてこの法律を是認するということになつた場合、将来、角をためて牛を殺すようなことになつては、お互いに国家の損失でありますから、この点を明らかにいたす意味で私はお尋ねをしているのであります。もちろん政略や力関係で、こういうものがむりやりに生み出されることはなやと私は信じたい。もし、少しでもそういう傾向が感ぜられる場合には、今私が取上げている基本的問題について、お互いに真摯な態度に立つて討議したい。私のお伺いしているものを具体的に申しますならば、従来争議行為というものは、何回となく政府が指摘しているように、どこの国においても、社会に非常に大きな影響を与えるようなゼネストに近いものも起つている。たとえばイギリスの三角同盟スト、その後に起つた総同盟の罷業のごときも、これはイギリスというよりは、世界的に大きな影響を与えた争議であつて争議それ自身がいかに大きな社会的反響を呼んだかは、ここで議論するまでもない。そこで、そういう争議行為を起さないで済むような事態労働行政の中に求めて行くことが、私は一番大切なことではないかと思いますので、このようなことをお尋ねしているのであります。そこで、ストライキは必ずしも権力や法律をもつて縛ることはできないという点ですが、これこれのことはやつてはよくないと知りつつ、多くの労働者争議によつて犠牲を払つているという事実であります。だから、これを除去するにはどうすればよいかについては、世界的なよき慣例が生れつつあるのであります。それは労働者責任感、労働組織を合理的民主的な組織に育て上げるということが、労使調整の一つの原則になつていることは言うまでもない。それとこの法案とがはなはだしく摩擦を生じて来る、マイナスのものになると私は考えますから、お尋ねをいたしているのであります。そうでないという確信をお持ちであれば、この機会に明らかにしていただこうと思つてお尋ねをいたしている。  そこで、一つ一つについてお答えをいただけばいいのでありますが、今この法規のねらつているこれこれという具体的な争議を、これで押えることが政府はできるとお考えになるか。この争議は同じケースのもの、この通りのものが出るわけではございますまいが、類似の争議行為を余儀なくするような事態が、今後向う三年間に発生しない、起らぬという確信がおありかどうか、見通せるかどうか。それから、これをつくらなかつたことによつて、むしろそういう事態を是正し得る労働行政の道が一方にあると私は考えるが、そういうものはないと否定されるか、その点を明らかにしていただきたい。
  63. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 要点についてお答えいたします。第一は、この法案のねらいは、この種の争議の起らぬことを規制するにあると思うが、それについて類似のものの発生が三年間ないと断言できるかというお話であります。ただいまのお話にもありました例の三角同盟ストが一九二六年イギリスにおいて発生いたしましたが、これが終つたその翌年に、こうしたゼネストのごときものは禁止するという法律が出たのであります。その後いろいろ変遷を経まして、四七年にこれが廃止になつたのでありますが、その間にそういう法律規制が一方にありましても、イギリスの労働組合は非常に大きな幾多の苦心をして、民主的なよき慣行を積み上げて行つたと私は考えて滞ります。そうしたようなよき慣行をはかるという意味で、この法案規制でないのでございます。特に争議権を奪うのではないので、本来の社会通念上許されざるものについてここに規制しているのでありますから、その間の事情をよく了解せられて、そのよき慣行を積み上げることに、民主的労組において御努力をいただけるものと確信いたしております。  第二点は、これをつくらぬでも、他に方法があるのではないかということでございましたが、私どもは、昨年の電産、炭労争議の苦い経験にかんがみまして、かつ現実の必要があると考えましてこの法律案を提案している次第でありまして、他にできる限りこの労働問題を民主的に広い角度からながめる機関をつくりたいということで、労働問題協議会を考えているわけでありまして、この法案はぜひとも必要であろう、こう考えている次第でございます。
  64. 井堀繁雄

    井堀委員 最後に、今のイギリスの例をお引きになつておりますが、私の承知しているところでは、イギリスの一九二六年に起つたストライキは、当時の保守政党であつたボールドウイン氏のあつせんによりまして、石炭労働者に対しては、その争議行為を一時中止してもらうという行政的立場から、労働組合の代表機関である組合総評議会に会見を申し込んで、しかもただ単に抽象的に協力を求めるというのではなくして、具体的に政府責任において、たとえばその一つは、一年ないしは一定の調査をする期間だけ争議を中止してもらう、そのかわりその期間中に労働組合が要求しております賃下げ、もしくは待遇切下げ等の実害を国の負担において弁償する、補償をするという具体的な条件を提示して、争議行為を一時思いとどまつてもらうというやり方をしている。でありますから、同じ例を持つて来ましても、ただあなたのように握りこぶしで相談をかけておりません。だから、協議会をお持ちになつても、握りこぶしではいけない。そういう点について、御用意があるなら聞かせていただくし、ないなら御用意していただくことが大事であろうと思います。よくイギリスのことをお調べのようでありますから、その辺をはつきりひとつ希望いたしておきます。質問は何回やつてもあまりいい結論が得られませんので、また機会を見て質問をいたすことにして、これをもつて一応打切ることにいたします。
  65. 赤松勇

  66. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 立法の根本的な問題については、いずれ法務大臣が見えてから聞きたいと思います。そこでこまかい点から、まず条文の解釈についてお聞きいたしたい。  第三条の「鉱物資源の滅失若しくは重大な損壊」とありますが、この「滅失」と「損壊」とどう違うのか。この点をひとつお聞かせ願いたい。
  67. 中西実

    中西政府委員 辞引によりますと、滅失といいますのは、物がそのものとしての物理的存在を失うこと、というふうに出ております。それから損壊というのは、有形物に対してこれをこわし、その効用を害することであり、必ずしも物理的に損傷を与える行為に限らず、外形上事実上、物の効用を害する一切のことを含んでいる、こう一応ございますが、ここで「滅失若しくは重大な損壊」とございますのは、もとより先ほど申しましたような意味合いと違わないのでありますが、具体的に申せば、たとえば自然発火して石炭が全部灰になつたというのは、これまさに滅失でございます。滅失に至らない程度の損壊、これが重大な損壊、結局は程度問題で、どこからが重大な損壊かどうかということは、個々の場合によつて判断するよりしようがないというように考えております。
  68. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 この前の委員会でも、ちよつとお聞きいたしましたので、辞書まで引いてのお答えで恐れ入りますが「資源の滅失」という「資源」は、経済効用であると考えられるが、経済効用が滅失するわけであります。「損壊」というのは、施設の損壊というなら話もわかるわけでありますが、資源の損壊ということは、どうも日本語ではピンと来ないわけです。私は言葉じりをとるわけではございませんけれども、鉱物資源は滅失で十分ではないか。この損壊というのはどこから出たかということを、私も研究してみたわけでありますが、鉱山保安法の中に「資源若しくは施設を損じ」という言葉があつたようであります。それでこれは両方にかかるからということで、おそらく損壊という言葉が出たのではなかろうか。これは私が臆測するわけであります。明らかに損壊というようなことはあり得ないのであります。経済効用がなくなれば、これは資源の滅失でありますので、私はあえてもう一度お尋ねいたしたいと思います。
  69. 中西実

    中西政府委員 損壊と申しますのも、もちろん形のあるものがこわれることを言うのでありますけれども、しかしながら、やはり経済上物の効用を害することも、辞引の上では入るようになつております。従つて、これは言葉のとりようでございますけれども、われわれとしましては、鉱物資源の損壊ということは、やはりあり得るというように見ております。
  70. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 議論をしてもあまり価値がありませんので、次をお尋ねいたしたいと思います。  「鉱害を生ずるものをしてはならない。」——この「鉱害」とは一体何でありますか。
  71. 中西実

    中西政府委員 専門家の多賀谷さんでありますが、石炭の場合の鉱害はきわめて事例が少いのでありますが、たとえば地下を掘りますことによる土地の沈下、あるいはまたボタ山の崩壊等による一般民間施設等の損壊を来すような場合、あるいはまた廃水、坑水の処理をしませんで、それが流れの下の方に害を及ぼす、こういうようなことは、石炭山におきましてもあり得ることであると思つております。
  72. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 今まで鉱害では、保安要員を出したことは全然ないと思う。経営者の方も、鉱害については要求しないのであります。従来炭鉱の保安というのは、鉱害の観念はなかつたわけで、石炭爆発取締規則でも、あるいは鉱業警察規則でも、鉱害の観念はなかつたのであります。ただ近年になつて社会問題として鉱害が大きく取上げられて、どこにも入れる場所がないので、これが保安法に入つて来たわけであります。従来の炭鉱の保安というのとは、全然観念が違うわけであります。それは、なるほど第三者に及ぼす影響でございますので、緊急なる鉱害を何とかしなければならぬ事態が起つて来ると思うが、これは基本権を侵害するものとして争議行為として認めてはならぬという観念とは、全然別個である。たとえば土木の人夫は、争議行為は当然できるのですけれども、緊急なる災害のときには、してはならぬ、これは常識です。そういうことを書くならば、あらゆる争議行為は弾圧されなければならぬ。こういう不測の事態、緊急なる事態に処すべきものを、いやしくも基本的な人権を制約する争議行為規制の中に入れるのは、根本的にあやまちであると私は考えるわけであります。従来一人も出ていないのであります。しかも「鉱害を生ずるものをしてはならならない」という言葉を、あえて解釈するならば、掘れば鉱害が起るのですから、炭を掘るなということです。ポンプで排水すれば鉱害が起るのですから、なるべく排水をしないことです。でありますから、この法案が出て来ます前に労働省が公聴会を開かれました際には、鉱害の文字はなかつた。そういうことで、たまたま保安法の中にあるからということで、とにかくこれを入れろということは、いやしくも基本的な人権を制限する場合、非常に軽率ではないかと私は考える。
  73. 中西実

    中西政府委員 先ほども言いましたように、石炭山における鉱害は、きわめて例が少いのであります。しかし、鉱害の起るようなことは、労働争議といえどもやつてはならないというその内容については、あるなしは別としまして御承認いただけると思うのであります。そこで、若干列挙しました中において、性格は違いますけれども、しかし保安業務という中には、この鉱害が入つておりまして、ここまで列挙いたしまして鉱害だけ抜きますと、逆に鉱害を及ぼすようなことはやつてもいいのじやないかという解釈も生れないでもありませんので、念のためここに列挙したいというふうにお考えいただきたいと思います。
  74. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そういう態度が、私はきわめて不謹慎だと思う。これは基本的な人権を制限した創設規定ではないということが言われておる。これはいわば宣言的な規定である。従来でも悪い鉄鋼とか全鉱の同じ場合はともかくとして、石炭電気だけをこういうふうに規制したのは、これは昨年の争議行為にかんがみてである、こう言われておる。終戦後ずつと争議をやつて来ましたけれども、鉱害について保安要員を出すということは、経営者も申し込みませんし、労働者の方でも出すというようなことはあり得ない。今まで事例が全然ないというようなものに対して、これを入れなければならぬというような、そういうばかげたことはないと思いますが、それについてもう一度お尋ねいたしたい。
  75. 吉岡千代三

    ○吉岡政府委員 ただいま労働省の方からお答えになりましたように、金属鉱山に比べまして、鉱害の問題の事例の少いことは事実でございます。ただしかし、争議中の鉱害についての保安要員を出しておらなかつたではないかというお話でございますが、これは鉱害防止のために、捨て石の堆積場、いわゆるボタ山などの巡回をいたしまして、もし危険のある場合には、これらの応急措置をとるということも保安業務の一部になつております。それで先般の炭労争議におきましても、ボタ山の巡回は各社とも現実に実施いたしております。また坑廃水の処理につきましては、これも一般的には、金属鉱山のように酸性が多いというふうなところは少いのでございますか、たとえて申しますと、三池炭鉱の坑水のごときは若干酸性を帯びておりますので、これはやはり化学的に中和をいたしまして処理をいたしておるわけであります。その他地表沈下の箇所につきまして、排水のためにポンプの運転をやつておるような事例も、三池、住友の忠隈等にあるわけでありまして、要するに巡回等によりまして鉱害そのものを起らないように常時注意をしておく。それから現実に起りました場合に、それに対して応急処置をとるということは、やはり炭鉱におきましては、事例は少いわけでございますが、現実にあるということを御了解願いたいと思います。
  76. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 しからばお尋ねしますが、最初案を出されて公聴会を開かれた場合に、なぜ鉱害を除かれたか、これについてお尋ねいたします。
  77. 中西実

    中西政府委員 初めは、そもそも昨年の経験から出まして、保安要員引揚げということを中心にしての点を員ておりました。従つて当初は、鉱山における人に対する危害、鉱物資源の滅失もしくは重大な損壊、鉱山の重要な施設の荒廃その他これに類する不当な行為というふうに考えておつたわけでございますが、その他不当な行為というのは、きわめて漠然としておるという公聴会等の意見もございました。そこではつきりした保安業務として保安法に四つ並べてありますが、この四つをここにはつきり列挙した、こういういきさつでございます。
  78. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 あまり時間をとつてもいけませんので、先を急ぎますが、今ボタ山を巡視すると言われますけれども、一目見ればわかる。何も保安要員を出さなくても、所長が朝起きてこうして見れば、ボタ山がどういう状態になつておるかぐらいはわかるのでありまして、まるつきりお話にならないと思うのであります。こういう点を単に保安法に書いてあるからということで列挙され、しかも基本的人権制限する場合に列挙される、そういう態度が私は非常に不当であると考えるわけであります。しかし時間がございませんから、もう申し上げませんが、要するに、かように今まで全然保安要員を出していないものにも規定してある、こういうことだけを付言しておくことにいたします。  次に私は、争議中における保安の責任はだれであるかということをお尋ねしておきます。
  79. 中西実

    中西政府委員 保安の業務は、鉱山保安法によりまして、それぞれきめてあるわけでありますが、争議中といえども、鉱山の保安の責任者は、鉱山保安法に規定してあります保安管理者にあるというふうに考えております。
  80. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ここにも大きな問題があるわけであります。判定する機関は、しからばだれがやるのか、もう一度お伺いしたい。これに違反しているかどうかという判定は、だれがやるのか。
  81. 中西実

    中西政府委員 お尋ねはこの三条に違反するかどうかということと思いますが、三条に違反するかどうかは、最後には裁判所で判定するというふうに考えております。
  82. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 裁判所で判定をされるならば、その間経営者の方で、これをやつたということをもつて、不当な取扱いをする、その場合に二つあると思うのです。それは裁判所の判定、あるいは判決または決定をまつてする場合と、それからこれをやつたというので、独断で不当な解雇その他をする場合と二つあると思うのですが、裁判所で判定をするということになりますと、これによつてただちに行うことは、不当労働行為考えますが、そう解していいでしようか。
  83. 中西実

    中西政府委員 保安の業務がどの程度行わるべきかということにつきましては、それぞれの山によつて非常に事情が違うことは言うまでもないのであります。そこで本来この範囲というものは、一応客観的にきまるわけであります。日ごろ保安業務をやつておりますので、争議なつたからといつて、急にそれが広がつたり縮まつたりするものでもなかろうと思うのであります。その間この決定について、しかくめんどうは起らぬのじやないかというふうに考えております。
  84. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労政局長は御存じないと見えて、あまりめんどうなことは起らない、こういうようなお話でしたが、この保安要員をどの範囲にするかということは、非常にめんどうなことです。現地では、常にこの問題について協議し、いろいろ問題があるわけであります。労使双方なかなか譲らない。おそらくこの法律ができて、労使双方が話合いがつけば、それは問題はない。話合いがつかないところに、非常に問題があると思う。そういたしました場合に、私は少くとも保安要員の認定は、一時的には労働組合がやつて、そうして検察庁が取上げる場合には、現在労調法にもございます労働委員会の請求あるいは鉱山保安監督部の請求をまつてこれは告訴する、こういうことがいいのじやなかろうかと思うのですが、その点に対する御所見を承りたい。
  85. 中西実

    中西政府委員 保安要員の範囲をきめますことはもとより、労使間でそれぞれ主張の異なるときがあることは承知いたしております。ただしかし、従来からも争議行為経験はございますし、保安委員会その他におきまして、双方の話合いで、大体においてその間はきまつて行くのじやなかろうかと思うのであります。ただいまのお話関係につきましては、先ほども言いましたように、保安の責任者は一応保安管理者である。この保安管理者の指示に従つてつておりますれば、この三条の責任は一応免れるというふうに考えられます。しかしながら、組合の方で保安管理者の言うところが不当だということで、独自の見解でやられますれば、それは組合の責任によつてなされるわけであります。その場合、はたしてそれが三条違反になるかどうかということになりますれば、これは裁判所に行つて客観的な条件その他からの判断によつて判定される、こういう関係になると思います。
  86. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 裁判所に行く前の段階で、会社が不当な解雇その他差別的な取扱いをした場合に、それは不当な行為であるかどうか、それをお尋ねいたしたいと思います。
  87. 中西実

    中西政府委員 この点は、一応やはり結果を見なければ、いずれともわからないというふうに解釈しております。
  88. 赤松勇

    赤松委員長 政府側から補足説明があるそうであります。
  89. 齋藤邦吉

    ○齋藤説明員 私から補足してはつきり申し上げますと、保安業務の具体的範囲は、多賀谷先生御承知のように、鉱山保安法に基いて管理者の指示に従つて定まるわけでございます。保安管理者は、御承知のように、鉱業権者が選任するものでありますけれども、選任ざれた以上は、鉱山保安法に基く責任を遂行する義務があるわけでございます。従いまして、その者が事業主の利益を代弁するような立場に立つて、保安業務の範囲を広くするということはあり得ないわけでございまして、客観的に見て、利益代弁的な行為をいたしますならば、それは範囲を逸脱しておるものである、かように私どもは考えておるわけでございます。その間におきまして、労働者側から異議がありまして紛議が生ずるという場合におきましては、いわゆる最終的には裁判所できまるということを申し上げたのでありまして、行政的な立場におきましては、まず鉱山保安法に基く保安管理者の指示によつて定まる。その指示というものは、あくまで鉱山保安法のわく内において縛られるものである、かように私どもは了解いたしております。しかしながら、この問題につきましては、御承知のように、従来ともそうでありますが、労使それぞれ具体的に山元において適切なる範囲をおきめいただくことが一番望ましい、かように私ども存じておるわけでございます。
  90. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 船員法第百二十二条には、船員の争議の場合の責任が船長にある場合に、船長が権限を濫用した場合には取締ることになつておるわけであります。ところが、鉱山保安法の関係で、管理者が不当に範囲を拡大した、こういう場合において、はたして罰則の規定があるかどうか、お尋ねをいたしたい。
  91. 中西実

    中西政府委員 鉱山保安法の十七条で、管理者の指示に従わなければならないということはございます。しかしながら、これに従わなかつたからといいまして、別に罰則があるわけでもございません。そしてそれに従わなかつたということで、ただちにこの三条の適用を受けるという関係にもならないのであります。ただ、先ほどから申し上げておりますのは、一応保安の責任者が管理者でございますので、この保安管理者の指示に従つておれば、裁判所の挙証責任も免れる、つまり三条に該当しないということが一応立証されるということを申しておるのであります。
  92. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労政局長ともあろうものが裁判所々々々では、だめであります。実際裁判所は、二年も三年も経なければ救済できないということは、重重御存じの通りであろうと思う。裁判所で、たとい労働者が救済できても、もとに復職できません。これは現実であります。悲しいかな現実の状態である。今船員法のお話をいたしましたが、ピントはずれの答弁がございました。船員法は、要するに保安の問題について一時的に船長が判定をする権限がある。しかし、船長が権限を濫用した場合には、船長は罰則を受けるのだという規定がある。そこで私は、管理者が権限を濫用して範囲を拡大した場合に、罰則を受ける規定があるかどうかということをお尋ねしておるわけです。
  93. 吉岡千代三

    ○吉岡政府委員 私ども保安の関係を担当しております者の立場から申しますと、なるべく争議中におきましても、保安業務はできる限り確保していただきたいという気持でございます。従つて、これは性質から申しまして、事故の発生を防止するための安全の措置でありますので、そのぎりぎりの見解を求めるということは、非常に困難かと思います。従いまして、大事をとれば安全率を十二分に見込むということもあり得ると思います。その場合に、労働者側がそれに従つて保安要員として勤務してもらえば、もちろんそれでよろしいわけでありまして、ただ最低限度どの程度でなければ違法になるかということをきめているのが、この法案ではないかと思います。従いまして、最低限の必要以上に保安要員を要求すること自体は、ただちに使用者側の違法なり、不当の行為であるというふうには申せないと思うのでありますが、現実の問題といたしましては、先般の炭労争議におきましても、御承知のように各炭鉱を通じまして、大体在籍鉱員の約二割程度の方が保安要員として出ておられるわけであります。これは各山におきまして、保安委員会等によつて毎週あるいは毎十日ごとというふうに、労使双方で話合いの結果出ておられたわけでありまして、この人数の多い少いにつきまして紛争を生じたということは、私どもは聞いておりませんので、現実の問題といたしましては、円満に解決されて行くのであろうということを確信しておるのであります。
  94. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 昨年の例を引かれましたが、昨年御存じのように十一月十五日から保安要員制限しております。この戦術につきましては、十一月十二日の通産委員会で私は質問をいたしまして、現在炭労でやつておる戦術は、政府としてはどういうように考えておるかということをお尋ねいたしました。吉岡政府委員は、その際に、現在のあの戦術の状態は合法妥当であると考える、こういう御答弁があつた。ここに速記録がございます。ところが、経営者はどういうことを言つたかといいますと、あの十一月十五日以降の戦術も不当である、もしもこれを行うならば解雇をするということを経営者は声明をしたのであります。それほど現実の問題としては差があるわけであります。そこで、私が最も心配をいたしますのは、もし万一この法案が不幸にして通つた場合に、一番おそれますことは、裁判所の判定あるいは判決のある前に、経営者はこの行為を行つたというので解雇をする、こういうことであります。今労働次官は、保安管理者というのは、経営者であつても、一応選任されたらば中立的な第三者としてこれを行うのだ、こういうことを確信するとおつしやいましたけれども、保安管理者が経営者の側に立つて、同じ人間ですから常に要員をいろいろ拡大する。坑外においてはむしろしぼる、坑内においては拡大をする、こういう態度に出て来ておるのであります。私は筑豊の炭鉱、ことに中小炭鉱においてはこういう事例が多く出て来るだろうと思うのです。不当労働行為が、常に中小炭鉱において、一週間に一件ぐらいずつ起つて来ておるのであります。地労委に提訴いたしましても、証人が出て来ぬというような哀れな状態。組合側が申請した証人が、地労委の会議に出て来ますと、経営者側に立つて発言をして、そういう事情ではなかつたがと、労働者側をあわてさせるような事例は幾多ございます。また、たとい救済されましても、職場には帰れません。こういう事情にあるわけであります。そこで、この法案が通過するならば、解雇はもちろん、次のような事態が起つて来ることを私は予想し得るのであります。それは御存じのように、炭鉱は非常に不況に陥つている。ことに夏場は不況である。現在も春から夏にかけて、労使双方なれ合いで休山をするわけです。保安要員を残して休山をする。失業保険をとつて、秋が来ると再開をする、こういう炭鉱は珍しくない。こういう炭鉱においては、そういうことを労働者が聞かなかつた場合には首切り、賃金値下げを断行するでしよう。組合が争議をする、これは待つてましたとばかりに保安要員を除いてはロック・アウトを食わすにきまつている。そうすると、賃金をやらないで山が維持できる、こういう状態が私は現実に起つて来ると考える。これに対して労働省はいかに考えられているか、いかなる救済の方法があるか、お尋ねいたしたいと思います。
  95. 中西実

    中西政府委員 まず最初に、先ほど不当労働行為の問題でありますが、抽象的にいえば、保安要員というものは客観的にきまるものなので、もしその範囲を越えて保安管理者が要求し、それに従わなかつたからといつてこれを使用者の方が解雇したという場合には、不当労働行為の成立が考えられるわけであります。  なお、今の山が特に休んだ、待つてましたとばかりにストに対して首を切るようなことがあるがどうかというようなお話でしたが、この問題は、結局労使のその事情々々に従つて、力関係といいますか、たとえば石炭争議におきましても、貯炭のうんと多い場合には非常に争議が不利でございます。それと同じような事情は、各山ごとにもいろいろとあるわけでございます。そこは双方やはり自分の方の陣容の実情を考えて対抗するという以外にしかたないのではないかと考えます。
  96. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 あとの方の問題ですが、私の申しましたのが言葉足らずで、十分御理解できなかつたのかと思うのです。また労政局長自身がこういうことを想像されていなかつたので、わからなかつたかと思うのですが、ちよつとピントはずれな答弁であります。私は解雇のことを言つているのじやなくして、向うが賃金値下げというような状態を呈して、それに対して組合の方が争議をすると、待つてましたとばかりに、保安要員を除いて、あとは作業場閉鎖をする。選択的な部分的なロック・アウトを食らわす。そうすれば、ロック・アウトですから賃金を払わなくてもいい。こういう合法的なことができるわけですが、それに対していかなる救済の道があるか、これをお尋ねしているわけです。
  97. 中西実

    中西政府委員 もちろんそういう場合は、単に炭鉱に限つたことはございません、ほかの産業におきましても、事情によつてはそういうことがあり得るのでありますが、その場合には、結局これはやはり一つの争議でありまして、双方の話合いで話のつかないときには、第三者の判定をまつというようなことで調整するより、いたし方ないのじやないかというように考えます。
  98. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 これはむしろ選択的なロック・アウトを有効に認めた規定である、かように私は解しておる。かようなことができると解しておる。さつき炭鉱だけでなくて、ほかの産業にもと言われましたけれども、ほかは制限的なこの規定はないのであります。少くともこの炭鉱について、行われるこういう可能性が非常に多いと考えるわけです。これに対して私は、今後の運営に重夫なる影響がありますので、もう一度重ねてお尋ねいたしたいと思います。
  99. 中西実

    中西政府委員 この三条は、もう提案の当初から幾度も繰返し申しておりますように、従来からも違法なものを明確に規定したのでありまして、こういつた保安業務は、従来からも、いかなる場合でもやはり維持されなければならなかつたのであり、ここに新たなる制限を課したというふうには考えておりませんので、この法案が出たからといいまして、新たなるそういつた御心配はいらないのじやないかというふうに考えております。
  100. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 では、そういう心配はいらない、そういうことは起らない、その場合には労働省が何とかしてやると、かように解していいわけですか。
  101. 中西実

    中西政府委員 ちよつとそれはおとり方が違うので、私の申しておりますのは、従来からも常にこの保安業務というものは行われておつたので、これは争議行為である場合も、やはり業務の停廃はされなかつたのでありまして、従つて従来ともかわりはないという意味で申し上げたのであります。
  102. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 かように思想とか、あるいは行動権、交渉権、団結権というものを制限するというような項は、立法者の意思に反して生きて行くものであります。これはすでに日本では、われわれが苦い悲しい経験を持つておるわけです。国家総動員法でも、日華事変には適用しないと言いながら、日華事変から適用した。先ほど井堀さんからも話がありましたが、暴力行為処罰法でも、小作争議、労働法には適用しないと言いながらほとんどこれに適用した。警察犯処罰令でもそうです。治安維持法でも、まさか共産党員を治療した医者が告訴されるということは、立法者は考えていなかつたと思う。しかしながら、われわれはそういう悲しい経験を持つておりますので、あえてあなたがここでいかに言われましても、残念ながら適用されて行つたという歴史を持つている。われわれは経験を持つておる。その経験から、われわれはお尋ねしておるわけです。再度お答え願いたいと思う。
  103. 中西実

    中西政府委員 明治憲法下と新憲法下では、国民全体の心構えも違つて来ておりまして、この法案の運用につきましても、そういうかつてのようなことはないというふうに確信いたしているわけであります。
  104. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 時間がございませんので、次に質問いたします。  保安要員には報酬をくれますか。
  105. 中西実

    中西政府委員 当然勤労しますれば、それに対する報酬はいたします。
  106. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私はなぜ質問をするかといいますと、現在すでに資本攻勢が行われている。現在海員組合と船主協会との間に、この問題が訴訟になつているので、それで私は聞いているのです。すなわち船主協会の方では、この船舶の争議について、争議中の保安要員には、法律規定しているから出さなくていいのだ。組合が争議するのだから、法律規定しているから出さなくてもいいのだという確認の訴訟を今訴訟中である。それで今私は、当然であると考えますけれども、あえて聞いたわけであります。決して時間を延ばすために聞いたわけではないのであります。再度お答えを願います。
  107. 中西実

    中西政府委員 保安要員として労務の提供がございますれば、もちろんその対価としての給与は支払えると思います。
  108. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 次には、私は、こういう基本的な人権を制限する場合には、やはり補充の原則というものが必要ではなかろうかと考えられるべきであると思います。保安要員引揚げという事態、これは現在の法律では、むしろ緊急調整をすれば、炭労全体がやる場合には救われると私は思う。また一つの山がそういう事態が起るならば、これは保安要員を雇つて来ればいいのです、幾らでもほかの山におるのですから。ましてや、経営者は鉱業連盟というものをつくつて来ておるのでありますから、雇つて来ればいいのであります。なお、炭鉱には職員組合というものもあるわけですから、職員をそれにつかせれば当然問題はない。また職員だけでなくて、非組合員もおるのであります。大きな炭鉱でも、保安要員というものはそう出ていない。今お話がありましたけれども、それは割合に坑外に出ている。坑外のふろをたくとか、あるいは購買会とか、そういうところに出ておるのでありまして、実際の坑内の保安要員は、非組合員でも、あるいはよそから雇つて来ても知れておるのであります。それを一段においてもこういう規定を設けられ、しかも緊急調整でも当然救済をされるべき問題を、新たなる立法をやることは必要はないと思いますが、その点に対する政府の、ことに労働大臣の御所見を伺いたい。
  109. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 緊急調整は、私から申し上げるまでもなく、現実の必要が起きて、そのために非常に資源の滅失があつたり、あるいはまた、法律にも書いてございますが、国民の日常生活を著しく危うくするおそれがあると認める事件について、そのおそれが現実に存するときに発動されるわけであります。この法案趣旨とするところは、先ほど来申し上げているように、本来これは妥当でない、あるいは社会通念上必要であるというところのものを定めたのでありまして、趣旨が異なるものであると御了解を願いたい。
  110. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 もう一度お聞きします。保安要員引揚げというのは、やはり明白にして現実なる問題である。要するにクリア・アンド・プレゼント・デンジヤーであります。それですから、政府もこの前に緊急調整をやられましたし、またそれによつて救済もできるが、保安要員引揚げというのは抜打ち的にできる問題ではない。これは明らかに何日からやるという問題でありますから、労働大臣がそういうお答えであるならば、緊急調整で十分であるということを、みずからお答えなつたことであろうと私は思いますが、その点どうですか。
  111. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 申し上げましたように、緊急調整というものは、そうした現実のおそれが結果として出た場合にやるわけであります。たとえば保安要員引揚げをやると、そのために炭鉱が非常な事態になる。さらにそういうことだけでなくて、非常に争議が悪質になる。その結果といたしまして、たとえばガスがとまる、鉄道が終戦直後の状態になるとか、そうしたような国民生活に非常に危険を感ぜしむる現実の事態発生すると認められたときに、緊急調整はその結果をふせぐ。この法律のいうところのものは、本来すべきでないものであるということを明確にするのでありますから、法律趣旨相違しておるということを申し上げておきたいと思います。
  112. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は先ほどから補充の原則ということを言つておるのですが、基本的な人権を制限する場合には、やむを得ない、他の方法がない場合にやるべきである。しかし方法があるじやありませんか。性質が違うとかなんとかでなくて、そういう方法がある。業者がやろうと思えばできる、政府がやろうと思えば救済できる。でありますから、私は新たな立法をつくる必要はないと思いますが、その点どうですか。
  113. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 緊急調整は、御承知のように五十日間争議ができない、こういうことなのであります。この問題は、本来すべきでないということをうたつた趣旨なのであります。なお、基本権制約というお話がありましたが、私どもは、憲法二十八条は、労働基本権というものを無条件に、無制限にしておるものではない。それは十二条、十三条の制約がありまして、公共福祉のためにこうしたものは用いられなければならぬし、あるいは公共福祉を阻害することがあつてはならぬという前提を当然に予想されて書かれた憲法第二十八条である、こういうふうに解釈しているわけであります。
  114. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私も原則としては、二十八条あるいは二十九条、二十二条の規定は、私は異なると考える。しかし一歩譲つてできると仮定しましても、これは伝家の宝刀ではない、何でもできるという意味ではありません。最小限度やむを得ない場合にできるということであります。でありますから、できると仮定しても、そういう法理論を認めても、他に方法がある場合に新たな立法をする必要はない、かように考えますが、もう一度お尋ねいたします。
  115. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私どもこれは新たなる立法と考えておらない。従来いかぬということ、社会通念上非であるということを明確にする意味なんです。そうした意味の確認的なものである、こう思つておるのであります。緊急調整の場合は、今申したように、現実のおそれがあるときに、五十日間争議を停止することによつてその危険を避けようとするわけで、これは趣旨が違うのであります。
  116. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私が先ほど例を引きました、他の山から保安要員を雇つて来る、あるいは自分のところの職員、非組合員を使う、こういう場合には、私はピケを張つて防ぐという問題については、問題があろうと思います。しかし、現実にストライキをしても、保安要員が十分充足ができる立場においてそれを禁止するというのは、これこそ基本的な人権を阻害する、意味のない法律であると思う。その点どうでしよう。
  117. 中西実

    中西政府委員 事実上、結果において保安業務が維持されておればいいじやないかというお話になるかと思いますが、しかしながら、これは各山それぞれ事情も違いまして、必ずしもそういうふうにうまく行くかどうかわかりませんし、それから普通の場合あるいは抜打ち的にやられるというようなこともありますし、すベてやはり保安業務の正常な運営を停廃するということは、これは争議行為としても、法益均衡の観点から、あるいはまたもろもろ基本権との調和から考えましても、やるべきじやない、こういう観点から、たとい時に代替人によりまして運営が行われるかもしれませんけれども、それもやはり禁止すべきものである、やるべきものじやないというふうに考えております。
  118. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 時間がございませんから次に進みますが、私はどうも承服できない。何も立法をつくらなくてもできる、十分救済の道はある、かようにあくまで考えるものであります。次いで、この刑罰法規がないわけですが、当然個人罰になると思います。ところが労調法その他の問題で罰則を食う場合には、組合の団体罰になつておるわけですが、個人罰になるということになりますと、実際は中央執行委員会その他できめるわけですが、そういう場合に個人罰になるというのは、団体法理論から違反してはいないか、この点に対する御所見を承りたい。
  119. 中西実

    中西政府委員 たびたび繰返し申すことになりますが、この法案争議行為方法につきまして、その範囲を明確化したものでございます。従つて新たな規制を加えるというふうには考えておりません。そこでその観点からそれぞれ元の法律に帰りまして、元の法律に罰則がありますれば、それによつて処罰されるという関係になると思うのでありまして、この例は、すでに法制上からも、現行の労調法三十六条等におきましても例があるのでありまして、新たな慣行ではないというふうに考えております。
  120. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 例はなるほど労調法三十六条にはございますが、私は理論的におかしくはないか、労働省の皆さん方も、どうも納得ができないのじやないかと思う。これは団体意思で決定して、そのうちに個人が罰を受ける。こういうばかなことはないと思うのですが、これに対して再度お答えを願いたい。
  121. 中西実

    中西政府委員 先ほど申しました法益の均衡とか、あるいは公共福祉との調和において、なすべからざる行為、これは団体の行動であろうが何の行動であろうが、個人の責任においてなすべきか、なすべからざるかを判定すべきものだと思うのでありまして、われわれとしましても、いかに上司の命令がありましても、刑罰法規に触れるような命令がある場合には、われわれの判断でなすべきか、なすべきでないかを考えるべきです。それと同じ関係で、やるべからざる行為は、やはり個人の責任においてなされなければならないというふうに考えております。もちろん刑罰法規の適用にあたつて、裁判所においてそれぞれ情状酌量によつて、その間の事情をしんしやくするということは、あり得ると思います。
  122. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 では、お尋ねいたしたいのですが、緊急調整制度の場合は、組合が話し合つて、そうして緊急調整が行われても争議行為を続けるのだ、こういうようにきめた場合は団体罰である。今度の法案では、停電ストの場合に、組合が同じような形式できめた場合は個人罰である。そういうあなたの御意見ならば、団体罰をやめればいいのである。それを一方は団体罰を残しておきながら、一方は個人罰を設けておる。どこに相違があるか、お尋ねしたい。
  123. 中西実

    中西政府委員 緊急調整は、御承知のように正当な争議行為がずつと長期にわたりまして、あるいは長期にわたらなくても、三十五条の二第一項に該当するような現実のおそれがかもしますときに、発動されるわけであります。これはやはり団体、つまり組合活動として行われて来るものであります。この違反は、やはり団体としての違反ということで取扱われると思います。今出しております法案の各条のものは、これはその行為自体が違法なものである。従つて、違法なことは個人の判断によつて責任を負う、こういうように考えております。
  124. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 停電ストの場合も、やはり団体が決定するわけであります。それは当然団体罰であつてしかるべきであろうと思う。しかるに、この場合は個人だというのは、どうも納得が行かないのです。あるいは全部が個人罰だというなら、私はそれは法制としては不備だけれども、日本の法体系としてはやむを得ないのだ、一貫しておると考えるわけです。一方は団体罰で、一方は個人罰、こういつた矛盾は、どういうようにお考えになりますか、再度お答え願いたい。
  125. 中西実

    中西政府委員 労組法の一条二項によりまして、すでに現在におきましても、正当なものだけが免責になる。免責にならないものにつきましては、これはそれぞれの条項によりまして個人が罰せられるということになるのであります。今回のものは、まさに労組法第一条二項の「正当な」の範囲に関するものでありまして、従つて、その結果はこの原則にもどりまして個人罰になる。あるいはその元の法律が団体罰になつておりますれば、もちろん団体罰のこともございましようけれども、今の場合は、すべて原則にもどりまして個人罰ということになつております。
  126. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 どうも納得できないのです。ただ既成の法律を適用する、こういう意味で、既成の法律は個人罰になつておるから——こういうことではどうも納得できない。それで正当なとか不当なとか言われますけれども、やはり緊急調整が出ても、あえて断固やるのだということは、あなたの方から見れば不当な争議とお考えになる。ですから、当然罰を食うわけです。正当なとか不当なとかいうことでは、罰則が団体罰であるということと個人罰であるということとの差別にはならない、かように考えますが、もうこれで聞きませんから、もう一度明確にお答え願いたい。     〔田渕委員発言を求む〕
  127. 赤松勇

    赤松委員長 田渕君、ちよつと存つてください。実は持ち時間をきめまして、左派社会党は二時間で、今初めて質問をしておるのですから、ひとつよろしく御協力願います。今多賀谷君は非常に大事な点、たとえば刑罰の均衡を失しておるじやないか、こういう点で、国家公務員法その他労調法みんな刑罰が違うのです、その点をついておるのですから、どうぞよろしく。
  128. 中西実

    中西政府委員 先ほどから申しておりますように、今度の法律案は、労組法一条の二項の正当なものかどうかということの範囲を、この際きめようという趣旨でございまして、しかして今度の法案で、この二条、三条にあります行為は正当なものではない、すなわち争議行為で行いましても、違法性を阻却しないということを明らかにするものであります。そういたしますと、あとはそれぞれの元の規定によりまして処罰を受ける、こういうわけであります。そこで緊急調整につきましては、元の規定が団体罰であり、この法案の二条、三条はそれぞれ元の規定が個人罰、さらに事業主につきましては、事業主と行為者、両方の罰ということになつております。
  129. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 どうも納得できないのです。非常に安易に法律をつくられておる、こういうことしか理解できないのであります。それをいじると、全部法体系をいろいろ改正しなければならぬので、この際鉱山保安法その他電気ガス臨時措置法、こういうのに譲つておこうという安易な考え方のようにしか理由を見出すことができません。  では、次に移ることにいたしますが、この法案で、先ほど申しましたように、立法者の意思と反して、この法案が生きて行くかもしれません。そういう場合の運用については、労働問題協議会でやると言われておりますけれども、これは私はナンセンスであろうと思うのであります。それで、実際に多くの問題を起しますし、また労働問題協議会というのは、法的な権限を持ちません。現在労働基準審議会、あるいはその他の委員会とか法制的な委員会ができましても、それぞれ運用についてはうまく行かないので、ましてや何ら拘束力を持たない労働問題協議会が、うまく運用をされるとは考えられないのであります。私は、検察庁その他がこういう問題を取扱う場合に、労働委員会というものを利用して、その請求をまつて行う、こういうものにしたらいいと思うのですが、運用面についてどういうようにお考えでありますか、労働大臣お尋ねいたしたい。
  130. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この場合に限らず、立法いたしましても、その運用が的確であるかどうかということが、非常に大きな問題であるということは申すまでもありませんが、私は先ほど来申しておるように、労働問題協議会というものには、非常に大きな期待を持つておるのです。これは官制上どうなるかということも、今後の問題でありますが、私は特に官制上の問題にしない考えております。なぜしないかというと、むしろこういう方が権威があるものになるんじやないか、いわゆる良識によつて物事を判断する場合に、あまり規則ずくめな官制に縛られた動きよりも、もつと大きな良識と立場において判断をすることの方が、実効をあげ得るのではないか、こういうふうに考えております。その際に、取上げます問題として、ただいまあなたの御提案になつたようなことも、いろいろ研究して行きたいと考えております。
  131. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 再度お尋ねいたしますが、労働委員会の請求をまつて行うというのは、すでに労調法四十二条にあるわけですが、こういう制度の運用のお考えではないか、お尋ねいたしたい。
  132. 中西実

    中西政府委員 争議の調整に関する関係で問題がある場合には、労働委員会の意見を聞くというような取扱いにするのも、一つの方法かと思います。しかし、明らかに違法なもの、つまり問題がただちに検察当局あるいは裁判所の関係になるもの、これにつきまして労働委員会が意見を述べるというのは、若干筋が違うのじやないかというように考えます。この法案のねらいは、違法なものを明確にしたということでございますので、やはりただちにこれの違反については検察関係で処理するというのが、適当と存じます。
  133. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労働行政担当の任に当る労政局長がそういう話をされるとは、非常に奇怪に考えるわけであります。地方におきましては、労働委員会、裁判所あるいは検察庁が相談をいたしまして、検察庁が取上げる場合には必ず労働委員会にそういういろいろな問題、——何も労働委員会の請求を待つてという法律上の問題だけではありませんで、いろいろな問題について労働委員会に話してくれ、こういうように実際運用されておる。それで私は、政府としていろいろ労働問題について事件が起る、こういう場合に、単に検察庁にまかすことなく、労働委員会にもタッチさせて、労働委員会のいろいろな意見を聞いて、検察庁で取上げる、こういうような運営をしたらいいではないかということを言つておるのであります。ことに今後この法案がどういうふうに生きて行くか、悪用されるかもしれないということを、われわれは憂うる意味において、そういうことを希望しておるわけであります。それに対する御意見を承りたいと思います。
  134. 中西実

    中西政府委員 労働委員会が活用されますことは、これはそれによつて事が円満に進みますれば、望ましいと存じております。ただいまのお話は、事前に労働委員会の意見を聞いてということでございましたが、それについては、事の性質上適当でなかろうと思います。ただしかし、先ほども問題になりましたように、不当労働行為の問題が起りがちでございます。これは当然労働委員会において処理されてしかるべきものと考えます。
  135. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 実は法務大臣が見えるというので、根本的な問題については触れてなかつたのでありますが、もう時間がだんだん迫つて来ますので、一応根本的な問題について触れてみたいと思うのであります。  まず政府は、ことに休電ストに対しましては、従来とも違法であつた、こういうことをおつしやつておるわけでありますが、私は少くとも電産ストが昨年行われた当時においては、政府はこれは不当である、あるいは違法なものであるという観念がなかつたように私は考えるのでありますが、その点に対する労政局長答弁をお願いいたします。
  136. 中西実

    中西政府委員 われわれとしましては、従来から労働争議行為としまして適当でないものというふうに考えておつたのでありまして、また社会もそう考えておつたと思うのでありますが、昨年の経験によりまして、まさにこれは正当ならざるものとすべきだというふうに、社会通念が成熟したというふうに考えております。
  137. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ではお尋ねいたしますが、昨年の停電スト自体で、違法であるとして起訴された事実がございますか。
  138. 中西実

    中西政府委員 先ほど少し言葉が足りませんでしたが、スイッチ・オフと電源ストと両方ありますが、スイッチ・オフにつきましては、われわればかりではなしに、検察当局も違法として、従来からも起訴いたしております。なお昨年の争議におきまして、電気関係では九件、二十六人の起訴された者が出たということを聞いております。
  139. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私も、起訴された事件については承知しておるわけです。それは停電ストそのものでなくて、それの附帯的ないろいろな行為、これが起訴の対象になつておるように考えられる。停電ストそのものは、どうも起訴されたというような事件を私は知らないわけでありますが、その点どうなつておるか、お尋ねいたします。
  140. 中西実

    中西政府委員 これはたしか前の前あたりの委員会で、法務省の刑事局長から申し上げたと存じますが、たまたまあの当時旧公共事業令がありませんで、いわば法の空白状態がありまして、そのために起訴するにも根拠がなかつたというように聞いております。
  141. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そういたしますと、私は次のことをお尋ねいたしたいのであります。昨年の電産争議の際に、御存じの電気及びガスに関する臨時措置に関する法律案が提案されました。その際に自由党及び改進党から、次のような質問が出ておるわけであります。それは、今旧公益事業令がなくなつておるから、電産ストが取締れないじやないか、こういうお尋ねがあつた。要するに、取締りを期待するお尋ねがあつたわけであります。それは旧公益事業令の失効によつて、現在取締りができない状態にあるのではなかろうか、それに対する政府責任を追究するというような質問が出ており、その際政府は次のように答えております。石原政府委員答えておりますが、「正当の労働行為であれば、当然これの適用外に当るのであります。不当な労働行為が行われた場合に、初めて八十五条が問題になるということでございますが、今回の争議の中に不当労働行為がもるかないかによつてこの規定の適用があるかないかということになるわけであります。そこでお尋ねの停電ストは、違法な労働行為であるかどうかという点がいろいろ問題になるわけでありますが、従来昭和二十五年の当時におきましては、政府としては停電ストは違法の行為であるという解釈をいたしておりまして、それに基いてさような事件が起きた場合に告発をいたしております。しかしながらそれらの事件につきましては、刑事事件になりましたものについては、ほとんど無罪の判決がございましたので、現在におきましても停電行為が違法な労働行為と認むベきやいなやについては、実は政府部内でも現在のところはつきりいたしておりません。従いまして今のお尋ねについてはつきりしたお答えを申し上げかねるのではなはだ恐縮でありますが、不当労働行為であるということになりますれば、八十五条違反になります」こういう答弁をしておる。要するに、政府としては現在意見が対立して、意見が決定していないのだということを言つておるのであります。続いて小平政府委員は、次のように答えております。「また公益事業令と電産スト関係につきましても、特に問題になりますのは、先ほどもお話のありました第八十五条でありますが、その関係だと思うのでありますが、これにいたしましても、直接スト自体を目当にしてつくられたものではないと存じます。かようなわけでございますので、本法令が無効になつてつたということと、電産ストとは直接の関係はございません。」こういうことを言つております。それだけではないのでありまして、池田通産大臣は、参議院の本会議において、これは正当なる争議であると言つておる。すなわち質問者は改進党の岩木哲夫氏でありますが、次のように質問をしておるわけであります。「一体この電産争議によつてこうむりましたる損害はだれが負うのか。経営者が負うのか、労組側が負うのか、はたまた政府が負うのか。その責任の所在を明らかにしてもらいたい。」こういう質問に対しまして、池田通産大臣は次のように答えております。「ストによりまするその被害はだれが負担するかという、こういう問題でございますが、正当な争議行為によりまする被害は、労働組合法の八条によりまして、使用者にもあるいは組合側にもその責任はないということになつておるのであります。しかしてストをした組合側が第三者に対する責任いかんということになりますると、組合側と第三者とは関係はございませんから、そこに損害賠償その他の権利義務関係は起らぬと思います。」——要するにストライキは合法であり、正当である。であるから、損害賠償も何も起らない。こういうことを答弁をしておるわけでありますが、先ほどの中西政府委員の発言、また労働大臣が常に言われている発言を考えますと、政府は違法であると考えておつたということになりますれば、池田通産大臣あるいは石原政府委員並びに小平政府委員の発言は、誤りであるということになるわけであります。その点に対する食い違いについて、お尋ねいたしたいと思います。
  142. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ただいまお話の八十五条というのは、正当ならざる行為によつて電気の正常なる供給阻害は罰するということであります。正当であるかどうかということが、その判断の規範であると考えます。この正当なる争議行為の中には、もちろん言うまでもなく労組法第一条二項の正当なる争議行為というのは含まれております。このただいま問題になつております争議行為が正当であるかどうかということについては、私どもは昨年の電産スト国民経済国民生活に与えた苦い経験にかんがみ、これは不当であるという社会通念が成熟したものである、こう考えております。
  143. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 政府は逃げを打たれたようであります。成熟という言葉を使われたようですが、政府は従来違法なストライキであつたということを考えておつたという話であります。ところが池田通産大臣は、いやこれは正当だから損害賠償の対象にならない、こう答えております。いやしくも刑事上不当であるならば……。     〔「部分的なことを取上げてはだめだ」「昨年の争議を合法的だなんてだれが言つておるか」と呼び、その他発言する者あり〕
  144. 赤松勇

    赤松委員長 長静粛に願います。質問を続けてください。
  145. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 部分的ではない、一貫して流れております。そこで、停電ストが違法であれば、これは当然民事上にも損害賠償の請求権があると思いますが、再度この点についてお答え願いたいと思います。
  146. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ただいまの速記録をあげてのお話でございますが、正当なる争議行為であれば、違法性が阻却されるのであります。しかし、不当であれば違法となるが、正当であるか不当であるかどうかということは、今申し上げたような昨年の経験にかんがみて、社会通念が不当であるということに成熟した、こういうことなんであります。ただあの争議の際には、公共事業令というものが停止されておつた。そういう法の空間があつたということのために、その間の解釈上に多少差違があるということは、これまたやむを得ないことと考えております。
  147. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 しからばお尋ねいたします。もし旧公共事業令がないということになりますと、この争議は正当ということになりますか。
  148. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 正当とはいえないと思いますが、これを罰すべき規範がその当時存在しない、そういうことになるのであります。
  149. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そういたしますと、当時は要するに旧公益事業令が失効しておつたから、何ともいたし方がなかつた、そういうふうに解釈してよいわけですか。
  150. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 解釈は御自由でございますが、いずれにいたしましても、これを罰せんとしても罰すべき法令が存在していないために、これを適用する規範がない、こういうことであつたのであります。
  151. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 しからば旧公益事業令を審議する、すなわち電気及びガスに関する臨時措置に関する法律案を審議する際に、改進党その他の野党は、旧公益事業令が失効しておる、こういう政治的な空間がある、そこで停電ストは現在取締りができない、であるからこの責任政府にあるということを言つております。ところが政府は、旧公益事業令があるとないとにかかわらず、これは取締りと関係がないものであると言つておるのであります。この点に対する労働大臣の御所見を承りたい。
  152. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 関係があるかないか、その当時の速記録を見ませんと、私もはつきり申し上げられません。
  153. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 では明日私は若干時間を残して、再度質問をいたしたいと思います。この点について速記録は十一月八日の池田通産大臣の言葉であります。また通産常任委員会における政府及び野党側の質問応答の中に、十分ありますので、それを見て答えていただきたい。
  154. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 日はいつですか。
  155. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 十一月二十七日か、その付近でございます。
  156. 赤松勇

    赤松委員長 衆議院ですか、参議院ですか。
  157. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 衆議院です。
  158. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 日を承つて明確にたつたと思いますが、あの争議を通じて得た国民の非常に苦い体験の結果、不当であるという社会通念が成熟したのである、こう考えます。
  159. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は、明日正確なお答えを願いたいと思うので、再度質問いたすことにいたします。  続いて質問いたしますが法務大臣がお見えでありますので、御質問いたしたいと思いますが、昨年の電産争議において、停電ストを起訴された事実があるかどうか。
  160. 犬養健

    犬養国務大臣 昨年来の停電ストに伴う暴力行為を伴つた違法性の争議行為に対しては摘発し、起訴したことがございます。
  161. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 暴力行為を伴つたということは、停電スト自体の場合は起訴したことはない、こういうことになりますか。
  162. 犬養健

    犬養国務大臣 広い概念における停電ストを、直接目的として起訴したことはございません。
  163. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労働大臣お尋ねいたしますが、電気の場合のロック・アウトは、政府としてどういうふうにお考えになりますか。
  164. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この法案の場合と同様であります。
  165. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 十二月十八日にロック・アウトが戸畑の発電所において行われておるわけであります。これにつきましては、参議院におきましても質問があつたと思いますが、答えがなかつたので、再度この席で承りたいのであります。それは、九州におきましては、十七日から炭鉱が争議行為をやめまして作業にかかつたわけです。それで従来よりも発電量は非常に多くいることになつたわけであります。そこで組合としましては十二月の十八日に、十三時四十分に開場指令を出しました。そうして会社に対上十四時十八分に操業をいたしたいということを申し入れたわけであります。ところが会社の方では、一応社長に聞くからというわけで、暫時社長に連絡しておる。そうして社長からは就労を拒否するということを言つて来たわけであります。そこで就労拒否になりまして、五時間の間ロック・アウトが行われて、そのために初夜と申しまして非常に電力が必要な時に電力がなかつたわけであります。こういう五時間にわたるロック・アウトに対して政府はいかなる見解を持つていかに対処されたか、お尋ねいたしたい。
  166. 中西実

    中西政府委員 政府が直接こういつた問題に関与すべきものではないと思うのでありますが、この事件は御承知と存じますが、職場放棄をしておりましたので、会社側でかわつて運転をしていた。それが争議解除になりまして、会社側の交代要員と争議解除による組合側の要員との引継ぎの問題で、若干時間ごたごたしたという問題でございます。そこでそのごたごたした間は、会社におきましては、もうストは解除されたという解釈の上に立ちまして賃金も払つておるということであります。今の数時間ごたごたしたということは承知しておりますけれども、円満に解決したというふうに聞いております。
  167. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ごたごたしたことは、労使双方の問題でないと私は思うのです。資本家さえがまんすれば——法の正当あるいは不当が消えるかという問題ではないと思う。五時間にわたつてロツク・アウトをされたということになりますと、違法性は阻却できないと思います。この点をお尋ねいたします。
  168. 中西実

    中西政府委員 事務の引継ぎを円滑にするために、若干ごたくしたのでありまして、われわれの聞いております報告では、ロック・アウトというものではないと解釈しております。
  169. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 就労を拒否するのはロツク・アウトでしよう。
  170. 中西実

    中西政府委員 今まで引続き正常に働いておつたのを追い出すのならば、これはロック・アウトになりますけれども、争議で就労してなかつたので、やむを得ず会社側で別個な要員で編成して交代で運転しておつた。そこで争議が解除になりましたので、これと円滑に引継ぎをするという際に、若干本社等との打合せのために時間が延びたというだけでありまして、ロック・アウトという観念には入らぬと考えております。
  171. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 事件を十分御存じないようですが、本社と連絡の結果、拒否すると言つている。現在これは福岡の地労委に提訴を見ているのであります。最初検察庁は不起訴にいたしましたが、検察庁としては再起訴したいということを、一週間ほど前に組合に申し入れております。こういう事件でありまして、何も解決をしておりませんし、また連絡だけではなくて、拒否するということを連絡の上はつきりしております。しかもこれがために五時間かまがたけなくて、二十時になつてやつと点火をした、二十四時になつて発電を見たという状態でございます。これに対して御回答を願いたいと思います。
  172. 中西実

    中西政府委員 私どもの聞いておりますのでは、本社に問い合せましたときに、まだ本社におきましては、争議を中止したという本部からの指令がなかつた従つて、かえつて争議を末端において混乱せしむるおそれがあるということで、しばらく様子を見てということで、若干時間が延びたということを聞いております。
  173. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 この問題も、実は客観的な事実の上に立つて質問でありますので、事実が食い違うと、どうも質問がうまく行きませんので、明日若干お答え願いたいと思います。  次に、もし停電ストが違法であるとするならば、何も公益事業にする必要はないと思うのでございます。吉武さんの本にも、労調法の詳解に、やはり公益事業として停電ストの場合が書いてございます。これは労調法ができました最初の本でありまして、われわれは詳しく読んだわけでありますが、やはり冷却期間が必要であるということが強調されております。そういうことになりますと、停電ストがないということになると、これは商社のストと同じであります。その場合には、何も公益事業に指定する必要はない。ですから、労調法が公益事業に指定したというのは、やはり日常生活に影響がある。日常生活に影響があるというのは、電気がとまるからであります。そこで、私は、法律公益事業に指定したというこのときには、はつきりと当然停電ストを含んでおつた、かように現在の法律から解釈し得るわけでありますが、その点違法であると言われる法律上の根拠をお尋ねいたしたい。
  174. 中西実

    中西政府委員 公益事業というふうに申しますれば、電気、ガス、水道、運輸というふうに、これは対言葉になつております。当時停電ストその他を予想したかどうかということは、その際もはつきりしていなかつたのでありますけれども、この法律は、何度も申しますように、ストそのもの、つまり争議権そのものを禁止したものでありません。そのうちの正常な電気の供給に直接障害を及ぼすような行為だけを、してはならないというふうにいたしておるのでありまして、従つてやはり、あるいは間接的なものでも、長期にわたれば、国民生活に影響も及んで参りますので、公益事業として存続させる意義もある、必要もあるというふうに考えております。
  175. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 しからば、停電ストその他を除いて、日常生活に水道、ガスその他と同じように必要性があると言われますが、はたしてどういう必要性があるのですか。事態はどういうふうになるのでしようか。
  176. 中西実

    中西政府委員 この法律案にありますように、正常な供給に直接障害を生ぜしめるものを禁止しておるのであります。従つて、間接なストが長期に及びますれば、これが全体の機能に障害を及ぼして来る。それはひいて国民生活に影響を及ぼすことは当然でありまして、おそらく事態は緊急調整の必要のあるような場合ではなかろうか、かように考えております。
  177. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 どうも労政局長は十分にわかつてつてお困りの答弁のようでございます。そういうことを言われますと、われわれは社会生活を営んでおりますので、何でも関係がある、こういう状態になつて来るのであります。われわれは社会生活を営むためにいろいろな事業をしおるのでありますから、これが長期に及ぶ、そういうことになれば、若干不便が起るのは当然でございます。しかし、公益事業としてわざわざ冷却期間あるいは予告期間を置くほどの不便を感ずるものではない、かように思いますが、その点について再度御質問いたしたいと思います。  続いて、私は時間がございませんので質問を続けたいと思いますが、しからば、社会通念ということを盛んに言われておりますが、そこで私は、労働法学者あるいは裁判所の判例で、スイツチ・オフあるいは電源ストが違法であると解釈しておる人が、だれがあるかということをお尋ねいたしたいと思うのであります。社会通念と申しますのは、こういうような市民法系の中に労働法が浸蝕して行きながら成熟して行く発展過程におきましては、社会通念ということで律するというのは、きわめて危険な問題があると思うのであります。それで前国会においてこの法案が提出された当時、電産、炭労ストについて迷惑をこうむられた公衆の心の中には、嫌悪の情がくすぶつてつたということは、否定できないと思うのであります。第三者というのは、当事者に比べて公平冷静な判断を下す立場には確かにありますけれども、一方冷酷で無責任批判者にもなりかねないと思うのであります。ことに労働者は、現在自分ではストライキをしておりますけれども、ほかのストライキは、やはり非常に困つたというように、労働者自体が不平を言つておる現在の状態で、認容の精神が足りないような状態において、こういう言葉によつてただちに規制するというのは、非常な危険性があると思うのであります。法意識におきましても、今申しましたように、市民法系に非常にならされて来ております日本国民といたしまして、必ずしもそういう労働法系の観念は成熟していないと思うのであります。いまだストライキをもつて罪悪視し、革命の手段のごとく考えておる人も実は少くないということも、やはり私は否定できないと思うのであります。労働法系は、市民法系の中に割込んで、逐次修正しながら発展して来た動的な法律であります。かかる状態において、私は社会通念という言葉を用いられて、やたら規制されるということは、きわめて危険であると考えるのでありますが、まず第一にそういう判例並びに学者があるかどうか、さらに社会通念に対してお尋ねいたしたいと思います。
  178. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 社会通念とは何ぞやということでありますが、これを一言にして言い表わすことは、なかなかむずかしい点もありますけれども、裁判所の判例等にも見られますように、民法でいいます条理とか、あるいは信義誠実の原則とか、そうしたものに近いと思うのであります。もつとそれより砕けて、社会の日常生活における良識、あるいは一般国民の持つ法意識というものであろうかと思います。争議行為方法として、いかなることをしてもいいということではなくて、先ほども申しましたように、その正当性については、法益均衡とか、あるいは暴力行為は正当ではないとか、そういうことをいわれますけれども、そればかりでなく、今申したような健全な社会通念として、労働法系において把握せらるべきものがあろうと思います。ですから、国民感情上から許されないというもので、一般国民の持つ法意識というか、健全な社会的良識というものであろうかと思うのであります。さらにその法律学者があるかどうかということは、専門家から……。
  179. 中西実

    中西政府委員 労働法学者におきましては、その点について明確に申しているのは少いのであります。ただわれわれの立場から忌憚なく言わせてもらえば、やはりこういつた労働法学者は、国民立場といいますか、社会全体の立場からの判断ということについては、どうしてもやはり第二義的になるのではなかろうかという感じがいたしております。
  180. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 裁判所の判例は……。
  181. 中西実

    中西政府委員 それは公共福祉のことですか。
  182. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 停電ストを違法といつておる判例がどこにあるか……。
  183. 中西実

    中西政府委員 残念ながら、まだ最高裁の最後的な判決がございません。従つてスイツチ・オフにつきましては、常に検察当局が違法として起訴いたしております。それから、そのほかのストにつきましては、未だ判例的にもはつきりいたしておりませんが、これはわれわれ昨年の経験によりまして、まさに不当とすべきものだというふうに、常識が成熟したというように考えております。
  184. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は寡聞にして、労働法学者または下級裁判所においても、停電ストは違法であるという判例を知らないのであります。そこで社会通念というものは、やはりそういう非常にむずかしい問題につきましては、学者あるいは判例の集積が、やはり社会通念になるのではなかろうか、かように考えます。政府自体が、二十五年までは違法であると訴えておつたけれども、どうも刑事事件において無罪の判決が出ているので、政府は、内部において意見がまとまらないということを言つておられることは、やはり社会通念というのが非常にわれわれの考え方を支配するのじやなかろうかということを立証しておるのであります。私はこの法律を今から白紙で、今まではつきりしなかつたけれども、今度は違法と考えて出すのだということであれば、われわれとしては反対ではありますけれども、まだ立法趣旨を理解する。しかしながら、現在はすでに違法である。現在違法なんだけれども、明確化するためにまた出すのだ、こういうことについては、どうもそこにごまかしがあるのではなかろうかと思うのであります。     〔発言する者あり〕
  185. 赤松勇

    赤松委員長 静粛に願います。
  186. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そうしますと、もし最高裁の判決において無罪であつたということになりますと、提案の理由、根本的な現在社会通念として違法であるという前提がくずれると思う。そうすると、無罪であるという判決が下つた場合、この前も高橋委員から質問がありましたが、一体政府提案理由の説明をかえて、どういうように政治的に責任をおとりになりますか、この点についてお尋ねいたしたいと思います。
  187. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お答えいたします。昨年の争議の際に、公益事業令が停止されておつたということは、先ほど申し上げた通りでありまして、その際に起きた争議の苦い経験にかんがみて、社会通念が成熟したということなのであります。判例その他は今後において出て来る問題だと思います。なお、労働法学者云々のお話もございましたが、労働法規そのものを解釈する見解と、もつと大きな立場から社会通念としてこれをいかに把握するかという立場見解が異なるのはまたやむを得ないと私は考える。  なお、最高裁の判例において、こういう社会通念を否定したようなことが出た場合にどうするかということでありますが、これは仮定の問題でございますから、これはそのときに考えます。
  188. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 最後にお尋ねいたしますが、電産あるいは炭労の今度のストライキが起らない前の状態においては、社会通念としては違法でなかつた、かようにお考えですか。
  189. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 昭和二十一年以来しばしばの停電でございまして、その間に、これははなはだ困つたことであるという通念は常にあつたと思います。しかし、それが完全に成熟いたしまして、これは困る、これは不当であるということが成熟いたしましたのは、昨年の争議の苦い経験にかんがみてである、こう考えます。
  190. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 それは困るというくらいでは、起訴される理由はない。いやしくも停電ストは、昨年の電産のストライキの場合には起訴されておりませんけれども、その以前は起訴されておつた。それは困る、何とかしなければならぬ、はつきりしないが困るということでは、政府として、いやしくも検察庁がこれを違法である、これは罪になる、懲役に行く、そうういような起訴をされる理由は私はないと思います。政府としてはどういうお考えであつたか、お尋ねいたしたい。ことに法務大臣にお尋ねいたします。
  191. 犬養健

    犬養国務大臣 このスト規制法を今度御審議願つております根本の考え方は、法務省としては、従来違法性のわくがはつきりしていない。われわれが考えておる違法性のわくというものはありますけれども、しかし一部の学者などには——学者にもいろいろ顔の違うように考えの違う人もありまして、一部に疑義のある向きがあるので、この違法性のわくを今度はつきりしよう、こういうのが法務省の立場として、スト規制法に同意しておる根本原因であります。     〔発言する者あり〕
  192. 赤松勇

    赤松委員長 御静粛に願います。
  193. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 一部の学者と言われましたけれども、一部の学者ではなくて、大部分の学者、いな労働法学者、少くとも大学で労働法の講座を受持つておる全国の学者は、私は正当であると考えておると確信しております。そこでこの問題についても、あまりやつておりますと時間がないので、次に進まざるを得ないのですが……。  では続いて私は御質問いたしたいと思います。それは今度のスト制限法が、非常に安易に考えられておる、かように先ほども申しましたが、私は次のことを指摘したいと思います。それは提案理由にも書いてありますが、停電ストというのは、労使双方にあまり犠牲を負わさないで、第三者に非常に迷惑を与える、こういうことを書いておられます。そこで手段と法益均衡を失するということでありますが、私は第三者でも、いわゆる定額燈のような場合に、当然請求権を与えるべきである、かように考えますが、政府はどういうようなお考えでしようか。
  194. 中西実

    中西政府委員 ただいまの点は、一応規定で、そういうときにも差引かないようなことになつておるようであります。これはそれぞれの事業の特質からの必要があつてのことであると思うのでありまして、その間の事情は、ちよつとわれわれの方ではわかりかねるのであります。
  195. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 この問題について労政局長がよく知らないということは、非常な不見識である。この問題は、終戦後ずつと民間でも社会問題として起つておる。しかもこういうような基本的人権制限する場合には、当然いろいろな方法を考慮されなければならないと思います。現在なるほど電気料金の供給規程にこれは払わなくてもいいように書いてあります。しかし、もしもこの特約がないとするならば、これは民法の第五百三十六条によつて、特定物の設定事件ではありません。たまたま独占でありますけれども、電力は四国から送つても九州から送つてもいいのである。これは不特定物でありますので、電力供給の債権者である一般大衆消費者は、当然反対給付を請求することはできないのであります。要するに、民法で行けば、金を渡さなくてもいいことになるわけであります。それをたまたま特約をして、そうして料金の支払いをしなくてもいいように特約をしておるから問題が起つておる。この特約をどこがきめたかというと、それは政府電気会社がなれ合いできめておる——なれ合いという言葉が悪ければ訂正いたしますが、通産大臣の認可が必要である。でありますから、通産大臣は旧公共事業令によつて当然認可をしておるわけであります。ですから、認可をする場合に、その特約を削れば、当然定額燈をつけておりますような一般大衆には、料金の払いもどしができるわけでありますが、政府はこれに対してどういうようにお考えでありますか、お尋ねいたしたいと思います。
  196. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私から申し上げるまでもなく、御承知のことでありますが、電気エネルギーというものは、雨その他天然現象によつて与えられる水なんであります、あるいはまた石炭であります。これは限られておるものである。そうして、ことに水の場合は、瞬時にして滅失し去るものである。電気を生産する場合には、すなわち消費なのであります。これをストライキによつて、ただ天然の貴重なるエネルギー代替性のないエネルギーを流してしまうということに問題がある。そこで、こうした問題については、これをひとつ対等な相撲場の外に置いてもらおう、この無限の土俵でとられることによつて第三者が非常に迷惑をするから、その範囲を確定しておこう、こういうのであります。従いまして、今の争議中の料金をどうするかという問題は、労働省の関知する権限外のことでございますけれども、そうした観点からいたしまして、これは通産省の今とつておる方針以外にないのではないか、こういうふうに心得ております。
  197. 中島征帆

    ○中島政府委員 定額燈の割引の問題でありますが、現在政府の認可いたしております供給規程によりますと、一日について百分の二だけ割引くことになつております。その割合が少な過ぎるとか多過ぎるとかいう問題はあると思いますけれども、その規程の範囲内においては、料金の割引を現在でもいたしております。
  198. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 この百分の二というのは、私はそういう規定をする必要はない、純然たる民法の規定にゆだねればいいじやないか、こう考えるわけであります。そこで現在の民法において、なるほど代替性はありません。しかし、これは一応いろいろ議論はありますけれども、不可抗力と考えて、不可抗力の場合は債権者、債務者の責めに帰すべからざる事由でありますが、その場合には債務者が持てということになつておるのです。日本の法制はそういうようになつている。ですから、私はそういう一般原則に立つて債務者に持たして、いわゆる料金はもらわない、こういうことをすべきでなかろうか。こういうような考慮があつてしかるべきであろうと考えるのですが、さらに通産省の政府委員お尋ねいたしたい。
  199. 中島征帆

    ○中島政府委員 ちよつとお尋ね趣旨があまりはつきりしませんで、はなはだ恐縮ですが、もう一度お願いいたします。
  200. 赤松勇

    赤松委員長 政府委員に注意しておきますが、質問の時間はちやんと割つてつてあるのですから、まじめに聞いてもらわなくちやならぬ。     〔「まじめに聞いているんだぞ」と呼ぶ者あり〕
  201. 赤松勇

    赤松委員長 静粛に願います。
  202. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 どうもわからないと言われるのですが、私は条文を引用して話をしておるのであります。それで私が申します条文は民法の五百三十六条の一であるということをはつきり申して話をしておる。その規定が非常にむずかしくておわかりにならないというなら、また別ですけれども、私は役所の、ことに政府委員の方がわからないとは考えられません。五百三十六条の方で、当然反対給付の請求権を債務者は有しないと書いてある。でありますから、私は料金を払わなくてもいいという民法の基本原則に立つべきである。しかるに特約によつてそれを制限しておるのは不当ではないか、こういうことに対して再度お答え願いたい。
  203. 赤松勇

    赤松委員長 多賀谷君どうでしよう、明日通産大臣が十一時からここに出席するのでけれども、そのときに通産大臣に対する質問に譲りますか。
  204. 中島征帆

    ○中島政府委員 民法の問題と、それから公益事業令の問題との両方の関係の問題だと思うのでありますが、民法の場合の請求権と、それからストによる損害に対する請求権と、これはやはり場合が違うのではないかというふうに考えられるのであります。
  205. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 民法による損害賠償の場合と、ストによる場合は違うのではなかろうかということですが、それは研究が足らないので、違わない。私は一応ストライキも不可抗力であるという前提お話をしておる。労使双方の責めでない、こういう前提に立つてお話をしておる。私はストライキが使用者の責めである、こういう話をしておるなら、おわかりにならないかもしれない、意見が違うかもしれない。しかし私は一応通説にのつとつてストライキというものは一応不可抗力と考えても、こういうふうになるんじやないか、こういうお話をしておるのでありますから、当然債権、債務の関係は、民法で律する以外に方法はない。ですから、私はお尋ねしておるのですが、わからなければ、明日お答えを願いたいと思います。しかしこの問題は今起きたような問題でなくて、当然通産省としても、また労働省としても考えなければならない問題である。常に大衆から非常な不満の声が出ておる問題ですから、私はこの問題に対して答弁ができないというのは、非常に不勉強であると考えます。明日私は答弁を求めます。
  206. 赤松勇

    赤松委員長 中島政府委員に希望しておきます。明日通産大臣と打合せの上、通産大臣からお答えを願いたい。多賀谷君質問を続行しますか。
  207. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 では、私は次に質問をいたしますが、この前改進党から、実は本法案に対して附帯決議がなされました。その附帯決議について政府はどういうように考えるか。ことにこの附帯決議のうち、仲裁制度を設けるべきであるという附帯決議が改進党からなされたわけであります。それに対しまして社会党の菊川委員から、労働大臣は一体この問題に対してはどういうように考えるか、こういう質問がありました。ところが労働大臣は十分研究の余地があるものであると考える、こういう答弁があつたわけですが、その後いかに研究されたか、その成果をお尋ねいたしたいと思います。
  208. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 前の労働大臣が、そう答えたかもしれませんが、私もこの問題については、そういう答えがあるといなとにかかわらず研究すべきものと思いまして、研究いたしてみましたが、この仲裁制度は現にあるのであります。ただ、先ほども引用いたしましたが、中山中労委会長は、昨年の際には、この仲裁機関というものを労使双方において拒否する態度をとつてつたということは遺憾であるということを申しておるわけであります。あなたの御質問は、おそらく強制仲裁というふうな意味でございましようか——その問題は私もいろいろ関心を持つて考えてみたのでありますが、強制的な介入をするということは、本来この労働関係というものは労使双方の合意によつてその良識にまつべきものだと考えますので、強制仲裁というのは、そういう意味からできるだけ避くべきであろう、こう考えております。
  209. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 今、中山中労委会長の言葉を引用されました。先はど井堀委員からの質問に対して、ある措置を講じなければならない、こういう中山さんの言葉を引用された。そのある措置とは、当然停電ストあたりを禁止しなければならぬとおとりになつておるようですが、私が中山さんと電産あるいは炭労ストを通じまして接しましたこのある措置というのは、次のような問題であろうと思います。それは現在いろいろ言われておるけれども、労働委員会の権限ではもういたし方ないのだ、これは権限を強化して何とかしなければならないのだという意味であつたと私は考えます。そこで、ある措置とは、当然仲裁制度のようなものを考えて、それによつて拘束を受ける、こういうような慣行をつくらなければだめだ、こういうように私は承知しておるのであります。そこで私は、なるほど現在でも仲裁制度はございますが、これは任意仲裁制度でありまして、当然一方が拒否すればだめである。しかして今度の停電その他の電源ストあるいは職場放棄のストライキがなくなりました電気労働組合では、非常に力の上にアンバランスが来ておると思うのであります。私は、いかに政府が弁明されましても、非常にアンバランスになつておると思います。そのアンバランスを解決するためには、やはり何らかの強制仲裁制度を政府は当然考えるべきではなかつたかと私は考えますが、政府はいかに考えられておるか、再度お尋ねいたします。
  210. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 中山さんは今不在で、いない人のことをいろいろ言うのはどうかと思いますけれども、私も中山さんが立たれる前に話をいたしたのでありますが、今多賀谷委員がお述べになりましたような意見は、中山さんは当時吐いておられなかつたのであります。その当時言われたかどうか、私も聞いていたわけではございませんが、私が中山さんと会つて話したときには、どうも今のような、言葉は悪いがめちやくちやな争議が行われる現状においては、これは何かやはりその間に良識を期待する機関を認め、こういうような措置をあなたがとられることを、私は何も言わずに、これは実は自分の立場としてはいいも悪いも言いにくいが、見ております、こういうことでありました。何も強制仲裁制度をしなければならぬというような話は、一つもございませんでした。
  211. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私はことに停電ストその他の給電ストが奪われました電気労働者、ことに技術者につきましては、全然争議権が剥奪されたと考えておるのです。もしも将来電気技術者のみが組合をつくるという段階になりますと、政府は、これは単なる方法規制であると考えられるかどうか。私は争議権の剥奪と考えますが、政府はどういうようにお考えですか、それに対する仲裁の方法をお述べください。
  212. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私は屡次申し上げておるように、これは争議権を奪うものではない、本来不当なものである、あるいは社会通念上非とせらるるものの確認である、こう考えております。従つて労使対等立場はそのまま保持されておると考えますので、仲裁制度を考える場合におきましても、強制仲裁ということは考えるべきでない、こういうふうに思つております。
  213. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私の質問時間があまりないのでありますし、明日も当然やらなければなりませんので、これをもちまして一応質疑を打切ります。
  214. 赤松勇

    赤松委員長 多賀谷君、あとは明日に保留ですか。
  215. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そうです。
  216. 赤松勇

    赤松委員長 高橋禎一君。
  217. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 私は明日にしていただきたいと思います。と申しますのは、私の方の都合がありますので……。
  218. 赤松勇

    赤松委員長 ちよつと速記をとめてください。     〔速記中止〕
  219. 赤松勇

    赤松委員長 速記を始めてください。  それでは質疑を続行いたします。中原健次君。
  220. 中原健次

    ○中原委員 小坂労働大臣に伺いますが、まず最初に、一昨日労働大臣が総評の幹部と会談せられたようであります。この総評幹部との会談の内容につきましては、新聞紙がこれを報道しておりますが、大体新聞紙の報道のように理解いたしてよろしゆうございますか。
  221. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 その通りでございます。
  222. 中原健次

    ○中原委員 そうだとしますれば、まずここに私が持つておりますのは朝日新聞でありますが、朝日新聞の記事によりますと、労働大臣談話の一部にストライキ憲法第二十八条に保障される団体行動権の範囲を逸脱した行為であつて、このようなストは労働法上の不当労働行為、刑事、民事上の免責などに関する保護は受けられないといわざるを得ない。」こういうふうに書かれてあります。思うに、これは総評がスト規制法に対する反対の意味をも含めたストライキ闘争の決行を決意したことに関する労働大臣のこれを否定せんとするための談話であつたかと思うのであります。そうであるならば、そのような形におけるストライキに対して、この新聞の記事で理解するような解釈が成り立つものかどうか。成り立つとすれば、どういう根拠に基いて成り立つのであるか、一応承つておきたいと思います。
  223. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私が総評の幹部に伝えました談話の趣旨は、国会において目下審議中である、ただいま本委員会において御審議を願つております法律案に反対するためのストライキを行うということを決定したように伺つているけれども、国会における立法に反対するストライキは、ただいまお話のように、憲法二十八条に保障される団体行動権の範囲を逸脱した行為である、こういう当然のことを申したのであります。その根拠は、憲法二十八条で保障いたします団体行動権というのは、労働関係についての保障である、ここに政治的な問題は含まれていない、こういう根拠に立つてでございます。
  224. 中原健次

    ○中原委員 それではさらにお尋ねいたしますが、労働関係についての行動は、かりにそれがストライキという形をとろうとも、これは認められるわけですか。
  225. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 その通りでございます。正当なる争議行為は、当然認められるわけであります。
  226. 中原健次

    ○中原委員 そうでありますと、まず正当な行為とは、労働組合法の規定するところをもとより言われるのだろうと考えますが、労働組合法の第二条四号のくだりに規定されておりますこの条文に対する御理解はどの程度でございますか、その点をお伺いしたい。労働組合法の第二条の四号です、これはどういうふうに御理解になつていますか。
  227. 中西実

    中西政府委員 これは旧労組法からある規定でございまして、主として政治運動または社会運動を目的とするものは労働組合ではない、この逆は、従としてならばさしつかえない、こういう意味でございます。
  228. 中原健次

    ○中原委員 労働組合運動というのは、全体として理解されなければならぬと思うのです。そうでありますれば、労働組合が日常闘つておるのは、もとよりその経済地位の向上なんです。その日常闘つておる過程に、たまたま政治的な問題が、労働者経済権益を侵害するような場合に、従つて経済の権益を侵害するような立法措置がなされるということも含めて、そういう場合に、主としては経済目標に対して闘つておるのでありますが、従としてたまたまそれが政治的な立法措置に対しても闘わなければならぬという関係が起つて来るわけであります。これは、主としてではなくて、むしろ従としてその問題が起つて来たわけなんです。そうであつてみれば、労働組合法が保障する範囲内における当然の正当行為、こういうふうに私どもは考えるのであります。その点はどうでしようか、大臣の御見解を承りたい。
  229. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私は、国会の立法に反対する目的をもつてストライキを行うということは、これが主たる目的である、こういうふうに考えております。
  230. 中原健次

    ○中原委員 ここで、さらに問題を拡張して考えなければなりませんが、本来労働組合運動は、あらゆる形で運動を続けながら、法律的なあらゆる保障を獲得して参つたわけでございます。そうであつてみれば、その獲得して来た法律的な保護を、あるいは権益を、法律をもつて否定して行く、こういう措置が行われる場合に、ただ手を組んでそれを見ておるというわけには参らぬのであります。直後的には、やはり労働者生存権を脅かすことになるからであります。もし万一そのような状況の場合に、これに抵抗するストライキが否定されるといたしますれば、労働者は一体どこによつて自分の生存権を守ることができるか、こういう問題になるのであります。従つて、この御解釈というのは、はなはだ一方的な解釈のようにわれわれには考えられる。重ねて御答弁を願います。
  231. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私はそう考えておりません。これは一方的な解釈でないと考えております。法律というのは、私が申し上げるまでもなく、人民の利益のために破るべからざると認識される意思の強要的規律であります。その人民の利益はどうして守るか。民主主義社会のもとにおきましては、国民が自分の意思を投票によつて表わすことによつて、その代表者を国会に送つておるのであります。従つて、国会において審議されるというのは、一部の人の利益を代表するものではなくて、国民全般の信託を受けた形において、国会において法律の審議がなされておるわけでございまして、そうした問題については、国会というものを通して、その審議の過程において判断されるべきものである、こう思つております。
  232. 中原健次

    ○中原委員 政府はしばしば、きわめて一方的にものを判断されるようでありますが、先ほど多賀谷君の質問に対しましても、たとえば電源ストの場合に、これは違法行為であるか違法行為でないかということについて、いろいろ論議がありましたときに、しかも労働法学者のほとんどといつていいほどのすべてが、これに対して合法性を認めておる場合に、政府立場ではどうもそうではない、こういうふうに反対の結論を出されたようであります。そうなつてみますと、政府判断がいつの場合にも妥当性である、そしてそれが合法性であり、合憲性である、こういうふうにわれわれは受取らざるを得ない。そういうふうな一方的な解釈で、すべてのことが進められておるのが、偽らざる現状であります。従つて、そういうような観点から、ただいまのスト規制法のごときも作案されたものと考えるわけでありますが、このような一方的な解釈によつて強行されようとする立法措置に対して、直接その被害者である労働者自身は、黙してこれを待つわけにはいかぬのが当然であります。そういうような状況をつくり上げて行くということは、すなわち善政でない、悪政をここに行わんとするから、起つて来る問題なのであります。従つて、これらの問題をかれこれ勘案してみますと、政府考え方には、一つの固定したものがあります。きわめて一方に偏したものがありはすまいか、こういうふうにわれわれは考えるものであります。この点はどうでしようか。
  233. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 政府がそういう見解をもちまして、それを行政命令によつてしようというのではないのでございまして、国会にこれの御審議を仰いでおるわけでございます。国会において、それぞれの御見解によつて、これを可決していただきたいと私どもは思つておりますが、可決せられましたならば、これは国民の意思である。従つて、これを妥当なりと国民が認めたものである、こう考えておるのであります。それを一部、特に自分らに不利益であると即断せられておるのでありますが、やがてはこの趣旨は御理解を願えるものと確信をいたしております。
  234. 中原健次

    ○中原委員 ただいまの労働大臣の御答弁は、その答弁の限りにおいて妥当なんです。国会が決定すればその決定に従う、いわゆる立法府の立法措置従つて行政を行われることになります。そうなりますと、不幸にして当該大臣がおりませんが、さきの本会議の席上で、緒方国務大臣はどう答えたか。この法律案ではありませんが、公共企業体労働関係法の一部改正に関する法律、これに対して政府見解はどうかという質問を、たしか分自党のどなたでしたか、せられたと思うのです。あるいは質問者が違つたかもしれません。漠然としておりますが、とにかくそういう質問があつた。それに対して緒方国務大臣は、政府としては反対であります、こういう御答弁をされておる。そうすると、この御答弁に内在する意思というものは、一体何か。頭から自分の方の御都合によつて可否をきめてかかつて、立法府の立法措置を待たないで、自分で右左をきめてかかつている。こういうことに私は通ずると思うのです。不幸にして、ここに緒方国務大臣がおりませんので、問題にならぬかもしれませんが、こういうところに、政府の閣内における意見の統一もないような気がする。これはどうなんでしようか、御見解を承つておきます。     〔赤松委員長退席、山花委員長代理着席〕
  235. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 政府見解を求められたのであるから、政府見解を表明したにすぎないと考えます。
  236. 中原健次

    ○中原委員 そこなんです。そういう場合に、政府見解はすでにそのようになつている。つまり政府見解というものは、労働者の当然の基本権をなるべく擁護し、これを伸ばさしめるというところに観念がまとまつておらない。むしろ逆に、労働者の権益はだんだんこれを削つて行く、この方向に観念が統一しているから、なるほどそういう見解を当然述べなければならぬようになつたであろうと考える。従つて、そうであればこそ、そのような政府考え方というものは、労働階級のすなおな考え方に対して、まつたく敵対的な立場に立つている、こういうことが結論として出て来るわけであります。従つて政府のそういう考え方というものは、労働階級にとつては明らかに味方ではない、労働省自身の持つている本来の使命をさえ全うし得ざる政府である、こういうことに私はなつて来ると思う。それでもよろしゆうございますか、お尋ねいたします。
  237. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 それは私は御見解が違うと思います。政府といたしましては、これは議題外でございますが、先般議員提出として出されました法律案につきまして、種々検討いたしてみたのでございますが、これは政府として同調するわけに行かぬという各省の見解がまとまつたので、政府の意見を間われれば、そうだ、こういうことを言つたのでありまして、別に政府が、そう言つたからそうきまつたというものでなくして、国会において御審議願うことでありますから、そのときに種々御見解をさらにつつ込んで明らかにせられたらいいと思います。政府見解も、そのときに質疑の形を通じて、だんだんに明らかになると思いますが、決して労働者権利を剥奪しようとか弾圧しようとかいうことを毛頭考えていないことを申し上げておきます。
  238. 中原健次

    ○中原委員 もはや今日の段階は、言葉で上手に言い負かすというときではないようです。そうでなしに、問題はきわめて現実的で具体的であるわけでありまして、思うてみれば、終戦の後にようやく労働者基本権が認められて参りました。もちろんきわめて不十分ではありましたが、かなり認められて来たわけであります。いわゆる労働組合法に、さらには新しい憲法によつて、あるいは基準法によつて、不十分ながらも認められて来たのでありましたが、ところがその後、くびすを返すように、これはまたあとへ引きもとして行く、こういう操作がどんどん出て参りました。すなわち国家公務員法にしかり、あるいはまた労働関係調整法にしかり、あるいはまた公共企業体労働関係法にしかり、そうしてまたここにスト規制法というような、とんでもないものが出て来たのであります。このコースというものは、労働者に当然与えなければならないはずの基本的な権利を、あるいは日本国民に与えなければならない基本的な権利をも含めて、だんだんこれを狭めて行く、こういう具体的な動きが、しかも容赦なくここに及んでいるわけであります。従つて緒方国務大臣の、たまたまのその答弁は、私はそれを如実に語つていると解します。労働大臣が、ただいまもいろいろに御答弁ができましたが、その御答弁の全体を通しましても、やはり何とかして、だんだん労働者の権益を削つて行くこのコースを急速に成功させたければ役割が勤まらない、そういう印象を受ける御言動があるわけであります。従つて労働者といたしましては、そのような政府の方針に対して、従順に従つてつたのでは、遂に息の根をとめられてしまうのであります。だからこそ総評がこのスト規制法の提出にあたりまして、今日まで危うく守り続けて参りました権益を奪い取られまいとして、これに抵抗する動きをしようとするわけであります。さてこのことはむしろそういう動きをすることを誘うておるということに、私はつながると思うのです。政府が妥当な政策を行うのであれば、もちろんそういう問題は起ろうはずがありません。言いかえますならば、労働者労働者自身が持つているその力をもつて労働者の権益を守る以外に方法がない、こういうような結果が現状であります。従つて、総評の幹部諸君を呼ばれて、そのような達示をせられたということは、私どもにとりましては、まことに労働省自身がみずからのほんとうの姿をそこに暴露したものだ、こういうふうに見るのほかはありません。従つて、この法律案を審議するにあたりましても、そのようなことがまず先行するのです。そういうことが先行するからこそ、このスト規製法に対しまして、われわれは相当厳重な審議の時間を必要としたわけでありましたが、これは不幸にいたしまして、こういう運営の方式になつたのでありまして、遂に私どもは、遺憾ながらその状況の中における当然の責務を行うことができないかつこうに追い込まれて参りましたが、何にいたしましても、そういう状況でありますがゆえに、労働大臣としてあのような達示をなされたということそれ自身は、明らかに労働者に与えた基本的な権利に対する理解の欠如だと私は思う。ことにこのスト規制法そのものが、どのような説明をもつてされましようとも、実質的には労働者ストライキ権を剥奪するものに違いありません。単に違法行為だから規制するのであるというような御弁解が、しきりになされますけれども、これは単なる言い訳的な弁解にしか過ぎません。明らかに当然に行使すべきストライキ権が、このスト規制法をもつて否定されて参るわけであります。このような見解から、私はこのスト規制法そのものがここに提出されました説明の中にありますような、すなわち過去の苦い経験を通してこの不当な行為規制するのである、しかもその規制の対象になる、たとえば電源に従事する労働者の数が云々、その他これに関連する労働者の数はきわめて少数であるから、労働組合に対して、大して大きな影響のないものである、こういうような言い訳をもつて、これを簡単に扱うておいでになりますか、本来ストライキというものは、その一番急所のつぼがはずされた場合に、ストライキの効果はありません。非常に大きな迷惑が起るとか、あるいはたまたまそのことが多数に迷惑を及ぼすであろうということになつて来る。そのことが、私はストライキの実は意義だと思うのです。ストライキが、何らの影響を与えない、痛痒を感じないということであつたのでは、ストライキの価値はありません。だから、この電源の問題について、少数の者がなるほどその作業に従事しておるのではありましようけれども、しかし、その少数の者が従事しておるということは、ただその少数の者だけのストライキ権の行使ではございません。これはやはり電気産業に従事して、そのストライキに参加しておるすべての労働者に共通するものである。それであつてみれば、おのずから電気商業に従事し、このストに参加している労働者全体にストライキ権を与えないということに、これはつながるわけでありまして、この点につきましての御見解は、いかがでありましようか。
  239. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 いわゆる政治ストはひとつ御遠慮願いたいと申しましたのは、この憲法解釈上も明らかであります。この問題については、ルールにのつとつていただきたい。私は心から健全な、民主的な労働組合の発達をこいねがつておる立場から、どうかそういうアウト・ルールという行き方は、お互いに考え直してもらいたいということを申し上げたのでありまして、ここに議題になつております法律は、御承知のように何ら争議権を剥奪せんとする意図ではなくて、本来不当であり、社会通念上非であると認められるものの確認、明確化でありますので、ただいま御指摘のようなことはないと思つておるのであります。ただ、私どもとして考えておりますことは、できるだけ合理的な基礎の上に立つて、今後の労働問題というものの処理を、国民全体が興味を持ち、関心を持ち、そうして合理的に解決をして行きたい。ただ単に力と力をもつて打ち合えばそれでいいのだ、こうしたような考え方でない考え方をひとつ打ち出したらいいのじやないか、こういう気持を持つておることを申し上げます。
  240. 中原健次

    ○中原委員 憲法解釈については、もちろんいろいろあると思いますが、先般開かれました公聴会の席上で、公述人の諸君の統一した見解は、やはりこのスト規制法は、労働者基本権を侵すということを結論いたしております。労働者基本権を侵すということになれば、どのような解釈がありましようとも、憲法を侵すことになると思います。従つて憲法を侵すことになるような立法措置を要求して来られるということは、とりもなおさず、政府自身が一つの違法的な考慮の上に立つておるということになると私は思うのです。政府自身が、みずから憲法を蹂躙しておるということにつながると私は思うのです。この点につきましては、政府の先ほどからの御答弁に現われておりますように、労働法学者が、ほとんど一致して反対しておろうとも、政府は、そうじやない、こういう独断的な解釈によつて事をなされるのであれば、実を言うと、これは議論にならないわけです。一体、常識とはどこから出て来るか。常識というのは、特定者の独断によつて常識というものがあるのじやないと思います。だから、良識ということを品にいわれるといたしますならば、やはり少くともその筋の権威ある学者の声に相当耳を傾け、さらには国民全体の声に耳を傾けて、冷静な観点から判断をなさるということにならなければ、すべてが間違いだらけになつてしまう、私どもはかように考えます。従つて、このスト規制法を提出されましたその提出の理由説明の中に現われておりまするような言葉は、残念ながらこれは政府の独断である、こういうことにならざるを得ないのであります。かりに、これを一歩譲りまして、それならば、たとえば電気並びに炭鉱の両ストライキが多数者に迷惑を及ぼしたということを認めるならば、その迷惑を及ぼした他の責任は一体いずれにあるか、経営者側には責任がないのか。経営者側に対しては、どのような措置をとられるのか。ストライキが長引くということのためには、当然そこに原因があるわけでありまして、原因のないところにストライキの長引く根拠はありません。従つて、その原因、根拠は一体どこにあるか。これについて政府は、経営者側の方には責任がないとお考えになるのかどうか、その点についての御見解を承つておきたいと思います。
  241. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お答えいたします。私どもは、憲法を無視する気持は毛頭ないのみならず、最もこれに忠実たらんとしておる次第でございます。さらに、先ほど公聴人として公述されました学者の意見について言われましたが、おいでになりました方々の御意見は、すでにここに来られて話をされる前から、わかつておるのでございます。ただ、そういう反対の方がここでお述べになつたものと考えております。なお、これについて倉石委員からも質問がございましたが、それについてのお答え等には、私ども幾多の考えさせらるべきものがあつた考えております。なお今度のこの法律案を出すことによつて、私どもは、政府といたしまして労使間に介入するという意思は毛頭ございません。この法律が罰則的な、あるいは懲罰的な意味を持つものとも考えておりません。ただ、本来不当であり、あるいは社会通念上非であるというものを明確にする規定である、こう考えておる次第であります。
  242. 中原健次

    ○中原委員 問題はそこにあるわけです。介入する考えは毛頭ないと言われながら、実は介入しておるわけなんです。労働者が当然ストライキという一つの手段を通して、労働者の要求を実現せしめようとするこの行為ができなくなるということ自体が、すでに介入しておるわけです。法律をもつてこれを縛ろうとしておるわけなんです。そうであるならば、ただいまも申しましたように、この両争議がそのような大きな衝動を与え、この両争議から一つの大きな刺激を得られてこういう規制法を提出されたとすれば、その争議の場合、さき申しますような一方の責任、むしろ原因をつくつたはずのこの経営者に対してはどうなる。この経営者側に対するいささかの規制も加えない、その意味において、なるほど介入をしないということは成り立つでありましようけれども、労働者側に対しては、介入どころか大きな制約を加えて、いや大きな圧迫を加えて、そしてストライキをしようにもできない立場に追い込もうとしておるといえるのであります。それをしも、そのような答弁をもつて足れりとなさるということになつて来れば、一体労働者立場から、今日の政府をどうながめたらよいか、このようになるのであります。従つて私は、労働大臣がこの両争議にそれほど大きなシヨツクを受けられたとするならば、当然この両争議原因を究明されなければなりません。なぜそういう争議にならざるを得なかつたか、これを私、繰返して申し上げます。この点についての政府当局の御認識を承つておきたい。
  243. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 昨年の争議の際の——これは電産の場合でございますが、調停案が中労委から出されましたときの前文の一部を引用したいと思います。それは「公益事業中の公益事業ともいうべき電気事業労働条件が不定期に、しかも頻繁な賃金改訂要求によつて、不安定にされることは、日本産業全体の立場から考えて不幸なる事態であると考えられる。現在の経済情勢の下においては、原則として民間賃金の水準を基礎として電産労働者の持つ公正な格差を考え事情の変動による修正は年一回の程度におさめることが適当であろう」云々と書いてある。この争義の原因がいずれにあるかということは、政府としては特に批評することを避けますが、こうした考えもあるということを申し上げたいと思うのです。それで、繰返して申すように、私はその責任がどうであるかというようなことによつてこの法案ができているとは、考えておりません。ただ、この苦い経験にはつて受けたところの国民大衆の非常な苦痛の表現というものが、この争議社会通念上非であるという認識となり、社会通念の成熟となつてこの法案の生みの親となつた、こういうふうにお考え願いたいと思うのであります。
  244. 中原健次

    ○中原委員 政府の出されたこの両争議の経過は、私も読んでみましたが、読んでみましても、やはり労働組合側の正当な団体交渉の要求に対しまして、経営者側がすなおに応じておりません。むしろ、その要求を拒否するの態度に出ておる。どういうふうに拒否したかといえば、各経営別に交渉するというので、統一交渉に対します拒否の態度をもつてまず臨んでおる。しかもその後いろいろな経過を通しまして、経営側はその交渉の推移から見まして、しばしば逃げまわつている。そしてむしろ時間を遷延せしめながら、組合の内部の崩壊を期待して、組合内部の脱落、分裂、そういうものを企図しながら、それに期待をして正常な交渉に応じておらない、こういう事実があるわけであります。これはとりもなおさず、組合の分裂を策する不当労働行為である、私はこういうふうに考えます。そういう不当労働行為があえて行われておるにもかかわらず、この争議が遷延した責任が、労働者側にのみあるとしてこの措置がなされたということは、はなはだ片手落ちである。なるほど責任をついて立法したものではないという言い訳にはなつておりますけれども、ただ一方的に労働者側だけの犠牲だけをしいて臨んだということは、とりもなおさずそのことを立証しておる。どのような言葉をもつて弁解されましようとも、現われている事実そのものがそのことを立証しておる。従つて、こういうような立法の措置をあえてなさりながら、経営者側に対して何らの措置を講じようとしておらないということは、一体どういうことでありますか。
  245. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 繰返して申し上げるようでございますが、この法案は、労働者側の争議権規制をしたのではないのでありまして、本来不当であり、社会通念上非であるということの確認でございます。そういう考えに立つておるのでございますが、先ほども学者の公述の話が出たのでありますけれども、学者の意見におきましても、いろいろ技術上の問題もありますけれども、あの争議それ自身を肯定した意見は一つもなかつたと思うのでございます。なお、こういう法律改正が出ました場合、組合関係法律でありますと、すべて改悪であるということで反対を受けるのであります。ここに吉武前労相もおいでになりますが、緊急調整の規定をつくりますときも、非常な改悪と騒がれた。しかし、あの学者の批判の中にも、例の緊急調整の規定があつて、それが出たために、組合の分裂が半分は救われたということを陳述された学者もあつた次第でございまして、何も頭からこういう問題を否定なさらないで、そのよつて来る、そして背後にある社会情勢、また日本の置かれている労働条件なり国民経済立場、そういうものを御認識願いますように、ひとつ労組側にもお伝えをいただければ、私もはなはだありがたいと思う次第でございます。
  246. 中原健次

    ○中原委員 労働大臣理由説明書によりましても、このように言われておる。たとえば第三条の石炭鉱業に関する場合ですが、石炭鉱業に関する場合に「保安業務の正常な運営を停廃する争議行為のうち、溢水、落盤」云々というように、具体的に指摘されておりますが、これは実際の状況から考えて、一体どういう問題ですか。このことは、そういうような状況を招来するといたしましても、これは労働者が作業に従事しておる場合には責任がありますが、労働者争議行為としてその仕事を拒否した場合に、その後に起る損害等については、労働者責任があるとは考えません。この保安法のいわゆる責任の所在というのは、担当者として責任を持つべきものというのは、これは経営者側にある、労働者側にあるものではありません。従つて労働者がこれを争議手段として選ぶということは、決して違法でもなんでもない。それを違法だときめてかかるところに、ものの考え方が一方的に偏しておるということをいわざるを得ない。大体鉱山保安法の責任というものは、だれが負うのでありますか、私はそのことを承つておきたい。
  247. 中西実

    中西政府委員 鉱山保安法によりまして、鉱山の保安の義務は、第四条によりまして鉱山業者ということになつております。さらに五条におきまして、鉱山労働者も必要な事項は守らなければならないというふうになつております。しかして、これを受けまして、石炭鉱山保安規則の四十七条三項によりまして、労働者が守らなければならない条項を規定しております。従つてその条項を守りませんければ、また鉱山保安法にもどりまして、それぞれの罰則を受けるというふうになつておりまして、確かに保安の業務遂行の責任は鉱業権者にございますけれども、それを受けて、鉱山労働者もやはりその業務をやらなければならないという義務が課せられておるわけであります。
  248. 中原健次

    ○中原委員 それはどうも妙なことを伺います。この場合は、争議行為の最中なんです。争議行為行為している最中の話です。争議行為行為している最中の問題として、平常の場合における労働者の守らなければならない義務は放棄しているのです。従つて、それを今その規則や細則や条文を持つて来られて説明されても、これは当てはまらぬのです。
  249. 中西実

    中西政府委員 ここに書いてありますもろもろ行為は、争議行為としても、やつてはいけない、こういうことをここにはつきりしたわけであります。従来とも労調法の三十六条あたりは、やはり争議行為としてはやつてはならないということを書いてあります。その点は同じだと思います。
  250. 中原健次

    ○中原委員 だから、争議行為としてそれをしてはいけないときめるわけでありますけれども、そうであつてみれば、ただいまのその条文を引用されたのでは、争議をしておるということについても、争議中に対する法の解釈としては、これは間違つている。従つて、それをさらに法をもつて縛るということになるから、争議行為をやはり奪うことになつて来るのであります。そのままであれば、争議行為はそこでなされるわけであります。その争議行局をせしめないようにするために、この法律措置がなされるということになつて来れば、当然労働者の有利な闘いの手として取上げなければならないその争議手段を、奪うことになる。従つて、その争議行為を奪うということは、労働者の権益を奪い去ることになるわけであります。これはどういうふうに御解釈になりますか。
  251. 中西実

    中西政府委員 法律関係に、少し誤解がおありじやないかと思います。本来は、鉱山保安法によつて当然保安業務をやらなければならない。しかし、ときに争議行為なるがゆえにやらない場合、違法性が阻却されるという場合があり得るわけでありまして、この鉱山保安関係につきましては、従来ともやつてはいけない、また労組法の一条の二項で、正当ならざるものというふうに解釈をしておつたのでありますが、今回はつきりと、争議行為としても違法性を阻却しないというふうにきめたわけでございます。
  252. 中原健次

    ○中原委員 こんな議論は、何ぼしても尽きぬのかもしれないが、いずれにしても、きわめて片手落ちの御解釈のようです。たとえば、労働関係調整法の場合でも、政府の方ではいろいろ御説明があるかと考えますが、たとえば労調法の三十六条で、安全保持の施設の正常な維持または運行の停止、またはこれを妨げる行為は、争議行為としてでも、してはならない、こういうふうに規定しておるのでありますが、この三十六条のねらつております施設の正常な維持または運行の停止あるいはそれを妨げる行為をすることは、争議行為としてでもしてはならないということにつきましては、その施設内に人の命に危害が伴うという状況が存在する場合、いわゆる人命の危機がその施設等々の中に内在する場合に、このことがいわれるわけです。すなわち、基本的人権公共福祉との解釈関係から考えまして、一番基調になるものは、何としても人命なんです。そういう場合には、もちろんこのことをしてはならない、こういうことになるわけです。そういう人命の危機がそこに内在しない場合における行為としては、これは当然なされなければならない一つの争議手段であります。それを否定する根拠はないのであります。これはやはり憲法解釈から考えても、基本的人権公共福祉との関係から考えましても、当然そのような解釈になると考えるのであります。この点につきましては、政府はどうお考えになつておりますか。
  253. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 労調法第三十六条の規定は、人命の安全保持に関する規定であります。なお労政局長から申し上げたように、労組法第一条第二項の規定によりまして、勤労者に帰るべき職場を失わしめるような争議行為というものは正当ではないと思います。今あなたの御指摘の場合は、炭鉱に溢水の危険、あるいはガスの充満等の危険があつて、人命に非常な害がある、こういう場合を規定しておるのだから、これはいけないことはわかるが、それでは他の重大な、器物の破損等によるところの損害まで禁止することはどうなのかという御趣旨解釈いたしますが、その場合でも、労組法第一条第二項の帰るべき職場を失わしめるような争議行為というものは、本来労使関係は、争議中といえども継続しておるのでありますから、争議が解決した場合に、帰る職場を失わしめるような争議行為は正当とはいえない、それは違法性阻却のものではないということであります。
  254. 中原健次

    ○中原委員 たとえば坑内溢水の場合の人命の危険の問題ですが、人命の危険の場合はもちろんそうなんです。争議行為をやります場合に、保安要員引揚げますときの状況は、その坑内に人がいないということを確認しなければ、もちろんやれない行為です。争議をやるということは、決して職場に帰ることを拒んで争議をやるのじやありません。だからこそ、自分の争議場に対してはいろいろピケ・ラインの措置等もするのであつて、もちろん職場に復帰することを願わない争議はありません。それは当然のことです。けれども、それから先は、すなわち保安要員引揚げた後の責任というものは、当然経営者側が負うべきであり、そのために起つた損害等については、経営者自身責任を負うべきであつて、その損害まで労働者が補償しなければならない責任は一向ございません。もしそういうことがはなはだ困るのでありますならば、その争議折衝に際して、誠意をもつて争議解決をはかるように経営者側が答えを出すべきであると思う。その答えを出さないでおいて、争議をそういう条件に追い込んでおいて、しかも最後にはその責任の問題について、ただいま政府がるる説明されるようなそういう論理をつくり上、げて、そうしてスト規制法のような労働者の当然の基本権を奪い去るような法的措置をとるということになつて来たのでは、この法そのものが国民全体の立場に立つておらないことを物語ると私は思います。これはとりもなおさず、経団連や日経連の方では、確かにそういうふうに期待しておられるだろうと思いますが、これはきわめて一方的な、これら経営者側の立場に立つて判断から来たところのそういう経営者的常識が、こういう結果をもたらしたものといわなければならぬのであります。私はもうこれ以上政府答弁を聞こうと思いませんが、はつきりと最後に申し上げておきたいことはこれなんです。経団連や日経連の労働対策をそのまま代行しておるのが、今日の政府であるということを結論にしなければならぬことを、はなはだ遺憾に思います。もしそれが違うならば、この法律案の撤回を要求します。
  255. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 そのようなことは、毛頭考えておりません。
  256. 山花秀雄

    ○山花委員長代理 次会は明十日午前十一時より開会いたすこととし、本日はこれにて散会いたします。     午後五時四十八分散会