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石井参考人 東京大学の教授の
石井照久であります。今回の
全逓の
調停案につきまして、
調停委員の一人といたしまして、若干御説明を申し上げたいと思います。ただ
調停案のこまかい
内容につきましては、すでにいろいろの資料も出ておりますことでありますし、また
調停案においてもある
程度の説明をいたしておりますので、これはむしろ一般的な考え方について、私の考えておる点を申し上げたいと思うわけであります。われわれが
調停案を作成いたします場合の基本的な態度というふうなものを、最初に申し上げてみたいと思います。
三
公社及び五
現業とい
つたような、いわゆる官公業の
労働者につきましては、申し上げるまでもなく争議権がない
労働者であります。従
つて争議権のない
労働者につきまして、
賃金などを
調停委員会として
決定します場合には、非常な責任を感ずるわけでありまして、十分慎重に検討いたしまして、納得の行くようなものを出したいということを、まじめに考えざるを得ないわけであります。同時にこういう
労働者の
賃金関係につきましては、多かれ少かれ
予算との関連を持つということも十分考慮いたしておるわけでありまして、それだけにわれわれといたしましては、十分に慎重な検討をいたしまして、あらゆる方面から、これならばもつともであるという線を打出したいものとして、苦心をいたしておるわけであります。そういう意味におきまして、今回の
全逓の
調停案につきましても、結局
組合からは若干の不満があるとはいえ、承諾の
回答を得ましたし、
郵政当局からも正式な
回答は得られないのでありますが、大体
調停案は適当であるということで、この線で実現したいというふうな御意思を伺
つておるわけであります。こうした事情は、
調停案が大体
合理的な線を打出し得たということを裏書きするものではないかとわれわれ考えておるわけでありまして、
郵政当局といたしましても、その担当する労務管理の責任者として、このくらいならば責任を持てるというふうにお考えにな
つたものと確信するわけであります。
この制度につきまして、従来
調停と仲裁とを非常に区別するという誤
つた傾向がありますので、この際一言申し述べさせていただきたいと思います。仲裁にな
つたならば考慮する、しかしまだ
調停であるから考慮に値しないというふうなこと、あるいは
調停は非常に水割りが多いとい
つたようなことをか
つていわれたことがありますが、公労法改正後の
調停においては、少くともそういうことは
調停委員会としてはない。今申し上げたような基本的な方針で、
調停をして来ておるわけであります。ことに大事なことは、仲裁というのは結局法律の力によりまして、当事者が納得しようとしまいと強制する制度であります。
調停の方は、ともかく
調停案を、多少不満ではあるけれ
ども、両当事者が納得してのんで、これで行こうというのでありますから、労使
関係を安定するという点から考えましたならば、まさに
調停というものを尊重することが、公労法の精神であると私
どもは確信しておるのであります。その点従来のところ、
政府その他におきまして
調停を十分に尊重するだけの心構えがないということは、遺憾に存ずるわけであります。せつかく公労法によりまして、法律上の制度として
調停、仲裁を認めながら、この制度を生かして行こうという
政府の積極的な心構え、これがないならば何にもならないことになるわけでありまして、せつかく
政府が遵法精神を説きます以上、
政府みずからが法律上の制度は、
合理的である限り尊重するという遵法精神を示していただきたいと考えるわけであります。
次に今回の
全逓の
調停にあたりましては、従来の
郵政関係労働者の置かれた不当な
状態を、この際緊急に
是正する必要がある限りにおいて、最小限度必要なものを直すという方針をと
つたわけでありまして、不当な頭打ちというふうな問題につきまして、十分
実態調査な
どもいたしまして、現在これだけは少くともしなければならないというぎりぎりなところを、われわれは
調停案としてしましたものと考えているわけであります。
と同時に
調停案の作成にあたりましては、
調停案にもうたいましたように、他の一般
公務員関係に波及するとか、他の
公社に波及するというふうな問題でないことを十分明らかにしているつもりであります。たとえば現実には
電電公社の
職員と
郵政職員が、同じ屋根の下で働きながら
給与のバランスがとれていないということは、まことに遺憾なことで、それを直すということが
一つの意味を持
つたことは否定いたしませんけれ
ども、そうい
つたような形を表面にとらえまして、お互いに
給与の違いを追つかけ合いするというようなことでは、いつまでも一方がよくなれば一方が追つかけて来る、そういうふうな形をとることは思わしくないという考え方を
調停委員会はとりましたので、あくまでも
郵政職員の労務の特殊性ということをつかまえて、この
郵政職員の労務の特殊性に応じて
給与体系を
是正する、
合理化するという考え方をと
つたのであります。しかもその
合理化するという点につきましても、
公務員体系の中に一般的に置かれましたそのことによる
不合理を、最小限直そうという努力をしたにすぎないのであります。従
つて特殊勤務手当につきましても、当局及び
組合がともに納得されまして、これは
郵政に特殊なものであると両当事者が承認されたもののみをつかまえまして、その頭打ち
是正の原資を打出すとい
つたような方針をと
つたわけでございます。従
つて一般
公務員についても、共通に問題となるような事項について本格的な改革をするとか、
解決をするということは、意識的に避けたわけでありまして、その意味におきまして他の
関係に簡単に波及するというふうに考えることはできないと私
どもは思
つておるわけであります。
なお現実に
調停案実施のためには、すでに数字に示されておりますような原資がいりますが、
一般会計からの繰入れといたしましては七億、しかも税金のはねつ返りを考えますと、三、四億くらいのもので済むのではないかと思います。そこで考えなければなりませんことは、
郵政関係の
事業は非常に公共性を帯びておりますから、料金その他におきましても、そうむやみに上げることができないことは当然だと思いますし、またその余裕資金におきましても、
大蔵省預金部その他において公共的な運用をされておるわけであります。これは
事業の公共性からやむを得ないことでありますが、しかしその公共性のために
従業員の
賃金その他が不当に押えられていいということにはならないわけでありまして、
一般会計からの繰入れということが極端に押えられますならば、
事業の公共性についての犠牲は、ただ
労働者だけが負担するということになりまして、この点はまことに不当なことではないかと思うのであります。そういう点から考えまして、
予算にも
影響を及ぼすことから、慎重な考慮をいたしましたが、そういう点も考えまして、この
程度ならば
合理的であり、最小限
郵政職員の
給与の
不合理を直すに必要なものとわれわれは信じて、これを出したわけであります。
なお、何ゆえにこのような
調停案の
実施に対して困難が示されるかという点は、私などの想像にすぎないので、一々その反対の
理由に対していろいろ申し上げることは差控えたいと思います。しかし俗に、この
調停を
実施しますと、いわば、一波万波を呼んで、他の方に波及するということが言われておるやに伺うのでありますが、それは先ほど申し上げましたように、あくまでも
郵政職員の特殊性を考えて、
公務員体系の中に置かれたことのゆえに存在した
不合理を、最小限直すということしか考えてないということを申し上げたいのであります。そしてそのことを直すことは、まさに
現業職員を公労法の適用範囲に持
つて来たことの精神であるということでありまして、これを直すことが何ゆえにいけないかということについては、私
どもは理解し得ないところでありまして、公労法の適用
関係に持
つてきた以上、われわれはそれを適正化する任務を持
つておるというふうに確信するわけでありまして、そのことのゆえに一般に波及するというふうなことで、これを問題として取上げることは適当でないし、また公労法の精神を生かす道でもないというふうに考えておるわけでございます。
こまかい数字にわたる説明は省略いたしますが、両当事者がある
程度合理的な線であると考えておる事実、われわれが
調停にあた
つてと
つております基本的な態度、公労法の精神というふうなことを勘案しまして、この
調停案が無事に実現を見ることを、心から希望してやまないわけであります。公労法の改正というふうなことも問題として取上げられておりますが、私は法律をつくりかえるということよりもつと大事なことは、
政府が法律上予定している制度を誠意を持
つて生かして行こうとする心構えを持つかどうか、
政府の遵法精神にあると考えております。この意味におきまして、
政府当局の
方々が十分この点について協力されることを心から希望いたしまして、私の説明を終りたいと思います。