○戸叶里子君 私は、ただいま上程されました日米
友好通商航海条約の批准について承認を求めるの件について、
日本社会党を代表して
反対するものであります。(
拍手)以下、その
理由を述べるものであります。
政府の言うところによれば、この条約は、
日本とアメリカとが対等の地位において通商航海を促進するために、広汎な内国民待遇及び最恵国待遇を
規定していると言われ、これこそ
日本にと
つて最も望ましい条約であることを、幾たびか
委員会において述べております。なるほど、この条約そのものを読むならば、一、二の欠陥はあ
つても、全般として見て、条約上技術的に一応納得の行くようにはできております。しかし、私どもがここに注意しなくてはならないことは、条約そのものをと
つて見るだけでなく、今日の国際情勢とにらみ合せ、かつ
日本の現在の立場をよく見詰めた上で、なおかつこの条約が真に
日本にと
つて将来に悔いなきものであるかどうかを十分検討してみなくてはなりません。(
拍手)すなわち、形式にのみとらわれず、実質的な面から見て、はたして
日本経済に寄与し得るものであるかどうかを確かめる必要があります。(
拍手)
この観点に立
つて考えてみたときに、この条約ば、アメリカの自由企業、自由経済の政策を推し進めんとする意図が含まれていることは看過できないことであります。
従つて、
政府の言うように、この条約が戦後
日本において最初の通商航海条約であり、この
内容をモデルとして、今後他の諸国とも一日も早く通商航海条約を締結したいとの意図を述べられても、他の国々との間に、日米間の今回の条約と同じ
内容を持つたものが締結されるということは、とうてい望めないことであります。(
拍手)すなわち、米国の経済と
日本の経済を同じ考えで律することは、
原則論だけでは律し得られないことは御承知の
通りであります。この巨大資本を持つ米国に対すると同じ
内容を持つた条約を、
日本が東南アジア諸国と結ぶことができるというように考え得る
政府の安易な考え方に対して、一体正気のさたであろうかと驚きの眼をみはるのは、私ばかりではないでありましよう。(
拍手)私どもは、むしろ、
日本に最も関係の深い、そしてまた国内事情も米国より似通
つている東南アジアとの通商航海条約の締結を優先的にやらない
政府の怠慢を遺憾とするものであります。(
拍手)
さて、この条約の中で問題となる点のおもなものをあげてみるならば、まだ安定していない弱体
日本経済に最も
影響のある外資導入の問題であります。私どもは決して外資の導入そのものに
反対するものではありません。しかし、これを受入れるにあた
つての態勢を整えることが大切でありまして、外資導入によ
つて一部の人々の利益のみ擁護せられるようなことなく、あくまでも国民大衆のよりよき
生活を意図したものでなくてはなりません。(
拍手)ところが、今回の条約によ
つて、外資導入により
日本の企業が多分にアメリカによ
つて将来掌握されることなしと、確信をも
つて断言できるところが見られない点であります。すなわち、ガス、電気及び水道等の公益事業、通信事業、運送事業等の公共企業に属するものには、当該企業を営むことができる限度を定める権利を留保するとな
つておりますが、これをはつきり規制するような国内法がまだできてないという手抜かりがあり、また、このような制限企業外の企業の中にも、当然制限企業の中に加えられるべきと思われるような鉄鋼業、武器製造業、石油業、鉱山業が自由企業にな
つているという危険が残されているのであります。(
拍手)しかも、これらの自由企業に投資した場合に、その株券の取得にあた
つては、旧株さえも三年後には自由になるというのであ
つて、この三年と
規定したところにいかなる根拠があるか、了解に苦しむものであります。(
拍手)仄聞するところによると、この点に関して、大蔵省と外務省との間に容易に
意見の一致を見ることができなかつたと伝えられているもの、無理からぬことだと思うのであります。
政府は、一体、この三年間に
日本経済も十分に安定し、資産の再評価もできるという確固たる信念を持たれておるのであるかどうか、まことに疑わしいものがあると思うのであります。(
拍手)もちろん、問題の起きた場合には、二十四条によ
つて、各締約国は「好意的考慮を払い、且つ、その申入れに関する協議のため適当な機会を与えなければならない。」と書いてありますが、今のようなアメリカに対して軟弱な
日本政府のもとに、どうして
日本の主張を十分に述べられるものを期待できるでありましようか。(
拍手)
次に、問題になるのは、御承知のように、アメリカには幾多の州がわかれており、各州がそれぞれの異
なつた
法律を持
つております。ところが、
日本は、
日本国全体としての
法律であります。いかに平等互恵条約としても、この点で平等ならざることが生ずるのでありまして、先ごろ、米議会上院で、この日米通商航海条約に、留保条項として、一部米国の州法にのつと
つて自由職業従事の禁止をきめたようでありますが、これによると、米国の州によ
つては、
日本人が弁護士、医師、教師などの職業に従事できないことにな
つておるのであります。もちろん、
日本としては、これに対応して同
趣旨の留保条項を付すよう考えておるようでありますが、このような問題はこれからまだ起らないとは、だれも保証できないのであ
つて、もつとよく右のような食い違いのないよう準備した上で、あとからあとから留保条項を出すような醜態を演じないように、十分な検討を
行つてからでよいにもかかわらず、急いでおる
政府並びに自由党の態度に対して、何という無計画なやり方であろうと非難せざるを得ないのであります。(
拍手)
さらに、銀行業についてでありますが、当然制限業種であるべき領金及び信託業務が、既得権の尊重という建前から、在日米四銀行、ナシヨナル・シテイ、チエーズ・ナシヨナル、ハンク・オブ・アメリカ、アメリカン・エキス・フレスに許しておることであります。このようにアメリカの銀行の在日支店に許しておりながら、
日本の場合においては、加州に、二十八年の二月から三月にかけて、東京銀行及び住友銀行の二支店が設立されておりますが、これは現地法人として、すなわちアメリカの法人としての銀行にな
つておるのでありまして、アメリカ占領中より持
つている既得権の尊重という名のもとに、その立場は決して平等ではありません。(
拍手)
また、貿易を振興させるためには、関税の障壁が取除かれなくてはなりません。最近、西欧諸国が、援助より貿易へとい
つて、アメリカの関税障壁を非難しておりますが、これは、
わが国においても、まぐろのカン詰等で問題に
なつた点でありますし、アメリカが、自国保護のために、他国に対してのみ関税障壁を取除かせようとするのは、あまりにも利己的と言わざるを得ないのでありまして、(
拍手)むしろ、円満なる貿易を望むならば、率先して自国の関税障壁を取除くよう、このような条約を通じてその誠意を示すべきであるにもかかわらず、(
拍手)条文の中にその誠実を示されていない
理由は、
日本政府がこの点を主張する勇気を持たれなかつたのか、あるいはまたアメリカ側の望まなかつたところであるか、いずれにしても、この条約を通して円滑なる通商を望む
わが国にと
つては、この面から見ても有年とは言えないのであります。(
拍手)
以上のような点を考えてみても、相互平等とは言うものの、はたして実質的に平等であるかどうかということは、再考慮を必要とする画が多々あるのであります。しかるに、
委員会において、ただ早く通すことにのみ狂奔する自由党の人たちが、この条約を不平等と考えるのはみずから自立経済達成のための民族の誇りを持たないからだと言
つているのは、それこそ強国に追従する事大主義者と言わざるを得ません。(
拍手)また、それのみならず、私たちは、
日本に起きている重大な問題と関連して、この条約を総合的に考えてみなくてはなりません。すなわち、相互安全保障法によ
つて、
日本にどんな形かでアメリカより援助が与えられようとしております。まだその
内容がはつきりしないという
政府の言をそのまま信じるといたしましても、想像できることは、完成された武器と、
日本へ軍需資材が与えられ、
日本に軍需産業の発展をはからんとする意図は多分に見られるのであります。これによ
つて、東南アジア地域におけるか
つてのポイント・フオア、今ではMSAに包含された未開発地開発を名とする原料入手、経済技術協力が促進されるでありましよう。このとき、日米通商航海条約等によ
つてアメリカの資本が
日本に流れ込んで、
日本の重要基礎的平和産業までも、そのゆたかな資本力によ
つてコントロールされる
危険性が多分にあると考えるのであります。(
拍手)こう考えて来ますと、この条約が早ま
つて批准されたため、かえ
つてMSAに連なる武器として利用されそうになることをおそれるものであると述べられた参考人の一人、国際法学者の安井郁氏の
意見は、まつたく傾聴に値するものであります。(
拍手)以上のごとく、私は、この条約をもつと
審議し、将来悔いのないような、りつぱな条約をつくるためには、会期末のわずかな時間をも
つてこれを強引に押し通そうとする
政府並びに自由党の態度に反省を促すものであります。(
拍手)
この条約締結に至るまでに、
政府は
昭和二十六年十二月より予備交渉を始め、講和発効と同時に正式交渉に入り、本年四月一日、しかも
選挙管理
内閣で調印するという——アメリカとは長期にわた
つて交渉しながら、調印にあた
つては、どさくさのうちになし、しかも
国会では十分な
審議を尽さず、不明な点がそのまま残されております。なるほど、アメリカにいる一部の
日本の商社の人々にと
つては、この条約の一日も批准の早いことが望ましいことを私どもは知
つております。しかし、今までもアメリカの好意で滞在できたとするならば、マツカラン法によ
つて日本人の滞在がやかましく
なつたとい
つて戦々きようきようとする前に、
政府は、在日米人に何ら制限を加えないごとく、いましばらくの間米国にいる
日本の条約商人に対して大目で見てくれるような外交折衝、個別的なとりきめがなぜ行われないのでありましようか。(
拍手)いかに好意的に解釈しようとしても、私は、
日本政府のアメリカに対して勇気のない卑屈外交を、ここにも認めざるを得ないのであります。(
拍手)
私は、この際、
政府並びに自由党の皆さんが、この重大な、しかも今後
日本と値の国との通商航海条約の基礎ともなるべき日米
友好通商航海条約を、あらゆる角度から
審議し、十分に納得の行くよう再考慮されることを希望して
反対するものであります。(
拍手)