○八木一男君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題と相なりました
政府提出の
日雇労働者健康保険法案に
反対の
討論を行わんとするものでございます。現在、一部の特権階級を除く国民の九五%以上を占める勤労大衆の生活がま
つたくその日暮しのものであり、一たび疾病、死亡あるいは失業等の事故が起りました場合、たちまち窮乏のどん底に陥
つておりますことは、いまさら申し上げるまでもないことでございます。現に、そのために一家離散、一家心中のような悲惨事が毎日各所で起
つておりますることは、同僚
議員各位の御承知の通りでございます。かかる状態を反映いたしまして、社会保障
制度確立を
要望する声が全国にほうはいとして起
つておりますことは申すまでもございません。にもかかわらず、引続く吉田
内閣の社会保障
制度軽視の政策のために、国民の待望するものとははるかにかけ離れた現状にございますことは、まことに遺憾のきわみであります。(
拍手)この間、現行
制度のもとで比較的よくその任務を果していると考えられますものは健康保険
制度でございます。全国数百万の労働者は、低賃金にあえぎつつも、本
制度がございますために、最小
限度の安心感を持
つて毎日を過している状態でありますが、この健康保険法は常雇い労働者のみに
適用せられるものでありまして、いわゆる不特定の事業所に不定期に働く日雇い労働者は健康保険の恩恵を受けておらないのであります。ところが、これらの労働者は、たとえば安定所に働く自由労働者または何々組等に働く土建労働者、あるいは派出婦、看護婦等々の
人々でありまして、働こうとしても仕事があることはきわめて少く、また就労し得た日もはなはだしく低賃金でありまして、飢え死一歩手前の生活をしている
人々が大部分でございます。
従つて、傷病、死亡、出産等の場合の困窮などは
想像に絶するものがあり、一般労働者よりも健康保険
制度を必要とする度合いははるかに多いのでございます。(
拍手)
われわれは、かかる状態にかんがみまして、独立した日雇労働者健康保険法の制定の必要を痛感し、
日本社会党両派共同のもとに、今国会に
日雇労働者健康保険法案を
提出いたしたのであります。一方、
政府側においても同名の
法案が
提出せられたわけでありますが、再軍備に狂奔し、民生安定を無視する吉田
内閣は、この
法案に不可欠の要素である保険給付の
国庫負担を全然考えておらないため、その
内容は極度に貧弱なものでありまして、社会党案とはま
つたく似て非なるものであり、健康保険という名を冠するのもおこがましいと考えられるものを出して参
つたのであります。(
拍手)
われわれは、厚生
委員会の委員
各位の良識を信じ、社会党案の
委員会通過を期待してお
つたのでありまするが、先ほどの
委員長報告にありました通り、日雇労働者健康保険法の名前に真に値する社会党案が葬り去られ、欺瞞的な
内容を有する
政府案が可決を見ましたことは、心から遺憾とするところでございます。
私は、全国百万の日雇い労働者とともに、憤りと悲しみを込めて、
政府案の致命的な欠点を、しかもこの
法案の柱であるべき保険給付、
国庫負担、給付要件、
適用範囲のすべてにまたがる致命的欠点を述べて、われわれの
反対の
理由を明らかにいたしたいと存ずるものでございます。(
拍手)
その第一は給付
内容であります。
政府案は、わずかに療養の給付、療養費の支給、家族療養費の支給を三箇月に限
つて行うのみであり、一般の健康保険や社会党案にあります傷病手当金、埋葬料、分娩費、出産手当金、保育手当金、家族埋葬料、配偶者分娩費、配偶者保育手当金等を全部削除しておるのでありまして、その
内容の空虚なることに実に唖然とせざるを得ないのでございます。特に注視しなければならないことは、傷病手当金のないことでございます。常雇い労働者と異なりまして、日雇い労働者の場合は、病臥いたしました場合はたちまち生活ができなくなるのでありまして、この傷病手当金がない場合、おそらく本人は、幼い子供たちを食べさせるために、医師の指示にも従わず、命がけではげしい労働をする場合が
想像されるのでありまして、これこそ仏つく
つて魂入れずという結果に陥るでございましよう。さらに、分娩費、出産手当金等のない
政府案は、女子労働者の特別な要素を全然顧慮しておらないものでありまして、はなはだしく片手落ちであると言わざるを得ないのでございます。しかも、わずかに残
つている療養
関係の給付も三箇月で打切られ、結核その他の重病にはほとんど役に立たないことになるのでありまして、ま
つたく社会保険と言い得ないものであると言
つてもあえて過言ではないのであります。その証拠には、本
政府案についての社会保障
制度審議会の
意見書には、その給付
内容が貧弱であるのは遺憾と言うほかはない、極言すれば、今日かかる
制度を実施することは、将来社会保障
制度を確立するにあた
つて、かえ
つてその妨げとなるやの懸念さえないでもないと言
つておるのであります。
第二の点は
国庫負担であります。これが第一点と密接不可分なものでありますることはもちろんであり、この点において
政府案の根本的な欠点が露呈されておるのであります。この保険の被保険者の経済状態より見て、一日八円以上の保険料納入が困難でありますることは、
政府も認めておるところであります。それゆえに、給付に対する
国庫負担を認めない場合、保険給付の
内容が第一に申し上げましたような
内容に相なるのは保険経済上当然でございまして、この意味におきまして、社会党案のごとく、保険給付の二分の一の
国庫負担が絶対に必要に相なるわけであります。このことは、社会保障
制度審議会の
意見書において強力に明白に裏づけされているのでありまして、給付に対する
国庫負担を全然考えておらない
政府案のごときは、事の本質をま
つたく無視したやり方と言わなければならないのでございます。(
拍手)
第三の点は、保険給付を受ける要件であります。
政府案は、二箇月に二十八日以上の保険料納入を要件といたしておるのでありまするが、この要件は、日雇い労働者失業保険においてすでに失敗済みでありまして、この事実に目をおお
つて、同じ方法をとろうとする
政府の態度に対しては、われわれは断じて
賛成することはできないのであります。(
拍手)まじめな勤労意欲を持ち、日雇い保険
適用を希望している人たちが、一時的な偶然な就労日不足から
適用を受け得ないような気の毒なことが起らないように、二箇月二十四日以上、あるいは六箇月六十日以上のいずれか一つの要件を満たせばよいとする社会党の考え方が最も適切であると信ずるものであります。この考え方に対し、要件の緩和は保険料
収入の低下を意味するという山縣厚生大臣の答弁のごときは、社会党案並びに
本案が強制保険であり、逆選択の危険性がま
つたくないことを忘却しているのであ
つて、その研究不足と無理解の態度はまさに糾弾さるべきであると考えるものでございます。(
拍手)
第四の点は、
適用範囲の問題であります。
政府案によりますと、
適用事業所の規模と職種におきまして多くの制限があるのであります。百万を優に越えると推定される日雇い労働者の半数に満たない数しかその対象にな
つておらないのでありまして、付添婦、看護婦、山林労働者等のごとき
人々は
適用されることができないのであります。われわれ社会党案においては、
適用事業所の規模と職種を最大限に拡張し、さらに労働組合員が認可を受けて被保険者となり得る道を開き、も
つて、法律の欠陥のために健康保険の恩恵を受け得ない人が一人でも少くなるよう配慮いたしておるのでありますが、それに反して、その問題の解決をはかろうとする
努力を怠り、いたずらに他の法律のまねをして、も
つて事足れりとなし、この法律施行後も健康保険
制度の恩恵に浴し得ない数十万の
人々を見捨てて顧みようとしない
政府の態度は、断じて許さるべきものでないと信ずるのでございます。
以上の通り、この
政府案の四本の柱には、すべて致命的な欠陥を包蔵しておるのでありまして、すなわち、第一の柱、給付
内容は、はなはだしく寸足らずの柱であります。第二の柱、
国庫負担は、ま
つたく中がからつぽの、空洞の柱でございます。第三の柱、給付要件は、倒れかか
つた隣の家から持
つて来た、使い道のない古材木であります。第四の柱、
適用範囲は、他の法律のまねをし、さるまねをした、陳腐な腐れ材木でございます。われわれは、このような案を出す
政府も
政府なら、それに
賛成する与党も与党だと言いたいのでございます。この
法律案については、十五特別国会においてすでに論議せられ、社会党案の長所と
政府案の短所は
自由党の諸君も明らかに認めておられたところでございます。与党たる
自由党の諸君は、何ゆえ
政府案の
内容を
修正して
提出せしめることができなか
つたか。二百名の多数の代議士を擁する政党のこの無気力は、民主主義政治のためにまことに慨嘆せざるを得ないのでございます。(
拍手)
さらに申し上げたいことは、社会党案並びに
政府案の
審議が
委員会において終結に近づいたとき、予算
関係との調整をはかりつつ社会党案の長所を生かした
修正案を出そうとする
努力が、野党である日本
自由党を中心として続けられたことでございます。われわれは、野党である日本
自由党の
人々のこのまじめな御
努力に対し大いに敬意を表するものでありますが、反面、改進党においては、一部の理解の深い方々の熱心な御
努力にもかかわりまぜず、党としては
修正案提出を拒絶せられたのは、はなはだ遺憾でありまして、社会保障
制度拡充を唱え、是々非々主義を主張せられる政党としては、はなはだ筋道の通らない態度であると断ぜざるを得ないのでございます。(
拍手)ともあれ、与党たる
自由党並びに改進党の諸君は、一応芽を出すのだという立場を主張せられて
政府案に
賛成せられたわけでありまするから、その芽を早く成長さす責任を負われたおけであります。われわれは、その政治的責任を果されるやいなやを常に厳重に注目していることを、この際はつきりと申し上げておきたいと存じます。
われわれ社会党は、先ほど申し上げました通り、この致命的な欠陥を四つも持
つております
政府案には断じて
賛成するわけには参りません。その上、
政府案の施行期日は、社会党案の十月一日と異な
つて、ま
つたくあきれ返
つたことに、明年の一月十五日であります。給付開始は三月十五日でございます。われわれは、このような発芽のおそい、腐
つた芽を育てるよりも、来るべき次の国会において、完全と信ずるわれわれの案を、三百万の日雇い労働者並びに家族の名において、同じく働く
人々の生活の安定をこいねがう全勤労大衆の名において、三たび
提出する決心を披瀝いたしまして、
政府案に断固として
反対し、
討論を終るものでございます。(
拍手)